(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061874
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】遮音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/172 20060101AFI20230425BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20230425BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20230425BHJP
E04C 2/34 20060101ALI20230425BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/162
E04B1/86 T
E04C2/34 C
E04B1/82 N
E04B1/86 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042355
(22)【出願日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021171638
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】久米田 健太
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
【テーマコード(参考)】
2E001
2E162
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001DF06
2E001GA12
2E001GA42
2E001HB02
2E001HE01
2E162BA10
2E162CB08
2E162GB01
5D061AA04
5D061AA07
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】二重壁構造で、軽量で取り扱いと製造が容易で、広範囲の音に高い遮音性を有する遮音構造体を提供する。
【解決手段】間隔を置いて重なり合う1対の板状の基材2と、1対の基材2の間の支柱部4と支柱部4より高さが低い共振部3を有する。支柱部4は、25℃で周波数1Hzの貯蔵弾性率が1.0×10
5Pa~1.0×10
7Paで損失正接が0.01~0.50で、一端が一方の基材2に固定され他端が他方の基材2に固定されている。共振部3は、貯蔵弾性率と損失正接が支柱部4と同じ共振部基部3aと、共振部基部3aより質量が大きい共振部錘部3bとからなり、共振部基部3aの一端が一方の基材2に固定され他端が共振部錘部3bの一端に接合され、共振部錘部3bの他端は基材2に固定されない。基材2の面積1000cm
2あたり5~800個の支柱部4と10~1000個の共振部3が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を置いて重なり合うように配置されている1対の板状の基材と、1対の前記基材の間に配置されている複数の支柱部と、1対の前記基材の間に配置されており前記支柱部よりも高さが低い柱状の複数の共振部と、を有し、
前記支柱部は、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下で、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下であり、一端が一方の前記基材の内側面に固定されて他端が他方の前記基材の内側面に固定されており、
前記共振部は、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下で、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下である共振部基部と、前記共振部基部よりも質量が大きい共振部錘部とからなり、前記共振部基部の一端が一方の前記基材の内側面に固定されて他端が前記共振部錘部の一端に接合され、前記共振部錘部の他端は1対の前記基材の間に位置して前記基材に固定されておらず、
前記基材の面積1000cm2あたり5個以上800個以下の前記支柱部と、前記基材の面積1000cm2あたり10個以上1000個以下の前記共振部とが設けられていることを特徴とする、遮音構造体。
【請求項2】
全ての前記共振部の前記共振部基部の、一方の前記基材の前記内側面に固定されている部分の面積の合計は、一方の前記基材の前記内側面の面積の1%以上50%以下である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項3】
前記共振部の数は前記支柱部の数よりも多い、請求項1または2に記載の遮音構造体。
【請求項4】
前記支柱部の数は前記共振部の数の1%以上80%以下である、請求項3に記載の遮音構造体。
【請求項5】
前記支柱部は複数の前記共振部に囲まれた位置に設けられている、請求項1から4のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項6】
前記支柱部と前記共振部基部はゴム弾性を有するエラストマー材料からなり、前記共振部錘部は金属からなる、請求項1から5のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項7】
前記共振部基部と前記共振部錘部とは平面形状および高さが一致している、請求項1から6のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項8】
前記基材は金属からなる、請求項1から7のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項9】
1対の前記基板の間であって、前記共振部および前記支柱部が設けられた位置以外の部分は、開放された空間である、請求項1から8のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビル、ホテル等の建物の室内においては、建物の外部の自動車、鉄道、航空機、船舶等からの屋外騒音や、建物内のその室の外部で発生する設備騒音や人声を遮断して、その室の用途に適した静謐性が要求される。また、自動車、鉄道、航空機、船舶等の乗り物の内部においては、風切り音やエンジン音を遮断して、乗員に静粛で快適な空間を提供するために騒音を低減する必要がある。そのため、建物や乗り物の外部から内部への騒音や振動の伝搬、また建物や乗り物の内部における室外から室内への騒音や振動の伝搬を遮断する手段、すなわち、遮音性の高い部材が求められている。近年では、建物においては高層化等に伴い軽量の遮音部材が求められており、また、乗り物においてもエネルギー効率向上のため軽量の遮音部材が求められている。
【0003】
乗り物や建物における防音壁等を形成する遮音構造体として、特許文献1には、ゴム弾性を有するシートと、シートの一方の面に設けられる複数の円柱状の共振器および複数のリブ状突起部と、を有する遮音シート部材が開示されている。リブ状突起部は、シートの幅方向の縁部においてシートの長手方向に延在する板状の部材、またはシートの幅方向の縁部においてシートの長手方向に沿ってそれぞれ列をなすように離間配置された円柱状の部材である。また、特許文献2には、1対の板状の基材(内壁と外壁)の間に、減衰材が充填されるとともに、減衰材の保持部である凹状リブが設けられた二重壁構造が開示されている。特許文献3には、1対の板材の間に、少なくとも1対の柱と間柱とが設けられ、さらに多孔質材が充填された防音性の二重壁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6610684号公報
【特許文献2】特開2001-242873号公報
【特許文献3】特開2002-4467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように突起状の共振器を有する構成では、共振器がシートの振動を抑制することにより特定の低周波数の音に対する遮音性が高くなっているが、その周波数よりも高い周波数域の音に対する遮音性が低い。すなわち、この構成では、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対する遮音性は十分ではなく、さらに、複数の突起状の共振器およびリブ状突起部のために取り扱いや取り付けが煩雑であり、また意匠性に乏しい。
【0006】
一方、特許文献2,3のように二重壁を有する構成では、減衰材や多孔質材を挟んで1対の基材が設けられているため、取り扱いや取り付けが容易である。しかし、この構成では、高周波数の音に対する遮音性が高いが、低周波数の音に対しては、共鳴透過により遮音性が低い。また、減衰材や多孔質材を充填するために製造が繁雑でコストが上昇するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡易な構造の二重壁構造であって、一般的な遮音部材(例えば鉄板)と比較して軽量で、取り扱いおよび製造が容易であり、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して高い遮音性を有する遮音構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の遮音構造体は、間隔を置いて重なり合うように配置されている1対の板状の基材と、1対の前記基材の間に配置されている複数の支柱部と、1対の前記基材の間に配置されており前記支柱部よりも高さが低い柱状の複数の共振部と、を有し、前記支柱部は、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下で、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下であり、一端が一方の前記基材の内側面に固定されて他端が他方の前記基材の内側面に固定されており、前記共振部は、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下で、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下である共振部基部と、前記共振部基部よりも質量が大きい共振部錘部とからなり、前記共振部基部の一端が一方の前記基材の内側面に固定されて他端が前記共振部錘部の一端に接合され、前記共振部錘部の他端は1対の前記基材の間に位置して前記基材に固定されておらず、前記基材の面積1000cm2あたり5個以上800個以下の前記支柱部と、前記基材の面積1000cm2あたり10個以上1000個以下の前記共振部とが設けられていることを特徴とする。
【0009】
全ての前記共振部の前記共振部基部の、一方の前記基材の前記内側面に固定されている部分の面積の合計は、一方の前記基材の前記内側面の面積の1%以上50%以下であってよい。
前記共振部の数は前記支柱部の数よりも多くてよい。
前記支柱部の数は前記共振部の数の1%以上80%以下であってもよい。
前記支柱部は複数の前記共振部に囲まれた位置に設けられていてよい。
前記支柱部と前記共振部基部はゴム弾性を有するエラストマー材料からなり、前記共振部錘部は金属からなるものであってよい。
前記共振部基部と前記共振部錘部とは平面形状および高さが一致していてよい。
前記基材は金属からなるものであってよい。
1対の前記基板の間であって、前記共振部および前記支柱部が設けられた位置以外の部分は、開放された空間であってよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な構造の二重壁構造であって、一般的な遮音部材(例えば鉄板)と比較して軽量で、取り扱いおよび製造が容易であり、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して高い遮音性を有する遮音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の遮音構造体の分解斜視図である。
【
図2】(a)は
図1に示す遮音構造体の斜視図であり、(b)はその正面図である。
【
図3】(a)~(d)は本発明の実施例1~5と比較例1~2の遮音構造体の、周波数に対する透過損失を示すグラフである。
【
図7】(a)~(c)は本発明の実施例1と比較例1,3~6の遮音構造体の、周波数に対する透過損失を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態の遮音構造体1の分解斜視図である。
図2(a)はこの遮音構造体1の斜視図であり、
図2(b)はその正面図である。遮音構造体1において、1対の板状の基材2が、間隔を置いて重なり合うように実質的に平行に配置されている。基材2は、特に材料は限定されないが、非通気性で剛性の高い板材であることが好ましい。1対の基材2の間に複数の共振部3と複数の支柱部4とが配置されている。1対の基材2の間であって、共振部3および支柱部4が設けられた位置以外の部分は、減衰材や多孔質材が充填されることはなく、開放された空間である。支柱部4は、一端が一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)の内側面に固定されて、他端が他方の基材2(
図1,2の上方の基材2)の内側面に固定され、両基材2を支持している。共振部3は、共振部基部3aと共振部錘部3bとからなり、支柱部4よりも高さが低い柱状である。共振部基部3aの一端が一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)の内側面に固定されて他端が共振部錘部3bの一端に接合されており、共振部錘部3bの他端は1対の基材2の間に位置しており1対の基材2のいずれにも固定されていない。支柱部4は、基材2の面積1000cm
2あたり5個以上800個以下の個数だけ設けられている。共振部3は、基材2の面積1000cm
2あたり10個以上1000個以下の個数だけ設けられている。
【0013】
本実施形態では、支柱部4と共振部基部3aの材料が、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下で、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下である。25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性(G’)および損失正接(tanδ)は、動的粘弾性試験機(例えば、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社(TA Instruments Japan Inc.)製ARES-G2(装置名)を用い、変形モード:せん断、歪み:0.5%で求めることができる。支柱部4および共振部基部3aは、特に材料は限定されないが、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性(G’)および損失正接(tanδ)を本発明の範囲にする観点から、エラストマーであってもよく、シリコーンゴムまたはエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を用いた架橋ゴムであってもよい。共振部錘部3bは、特に材料は限定されないが、共振部基部3aよりも大きい質量を有している。共振部基部3aと共振部錘部3bとは、平面形状および高さが一致している。例えば共振部基部3aと共振部錘部3bの長手方向(高さ方向)に直交する断面は円形状であり、それらの直径は1mm以上50mm以下であって一例としては6mmである。この時、各共振部基部3aと共振部錘部3bの断面積は0.0078cm2以上19.6cm2以下であって一例としては0.28cm2である。
【0014】
支柱部4および共振部基部3aの材料の一例であるゴム弾性を有するエラストマーとしては、例えば、架橋(加硫)ゴムや各種の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0015】
架橋(加硫)ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)およびエチレン-ブテン-ジエンゴム(EBDM)等のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)、エチレン-酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、多硫化ゴム(T)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)およびフッ化シリコーンゴム(FVMQ)などのシリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム(FKM)等の各種ゴム材料を架橋(加硫)させたものが挙げられる。これらの架橋(加硫)ゴムは、単独で用いることもでき、または2種類以上の組み合わせで用いることもできる。なお、架橋(加硫)方式としては、例えば、架橋剤(加硫剤)として、有機過酸化物、フェノール樹脂、オキシム化合物、イオウ、イオウ系化合物、ポリアミン化合物を用いて、加熱により架橋(加硫)させる方法や、電子線を照射して架橋させる方法が挙げられる。
【0016】
なお、架橋(加硫)ゴムには、一般にゴム配合剤として使用される各種公知の配合剤(カーボンブラック、シリカ等の補強剤、炭酸カルシウムなどの充填剤、パラフィンオイル、可塑剤等の軟化剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、防カビ剤、受酸剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等)が配合されていてよい。
【0017】
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、エチレン-酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0018】
このような構成の遮音構造体1によると、共振部3の作用により、特に低周波数の音に対する遮音性の向上に寄与する。また、1対の基材2からなる中空の二重壁構造によって、特に高周波数の音に対する遮音性が向上する。しかも、共振部3が板状の基材2に接している部分(共振部基部3a)は、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下であり、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下であって、弾性を有する部材(例えば合成ゴムなどの原料ゴムの架橋体などのゴム弾性を有するエラストマー)であるため、固体伝搬音の伝達を小さく抑えられる。すなわち、この遮音構造体1は、共振部3による防音効果と中空の二重壁構造による防音効果とを有しており、それに加えて、共振部3の基材2に接している部分(共振部基部3a)が弾性を有する部材であることにより固体伝搬音の伝達を小さく抑えられるという優れた効果をさらに有している。そして、共振部3の基材2に接している部分(共振部基部3a)が弾性を有する部材であることが、共振部3による防音効果と中空の二重壁構造による防音効果とに悪影響を及ぼすことはない。二重壁構造における共鳴透過による低周波数の音に対する遮音性の悪化の問題も生じない。また、支柱部4が1対の基材2を支持することにより、板状の基材2の振動が抑制され、中周波数域および高周波域(2kHz以上)の音に対する遮音性が向上する。結果として、高周波数域の音に対しても低周波数域の音に対しても良好な遮音性を発揮することができる。この遮音構造体1の両面には板状の基材2が位置しているため、1枚の板材と同様に取り扱いおよび取り付けを行うことができ、高い意匠性を実現することができる。また、1対の基材2の間の空間を減衰材や多孔質材で充填しないため、軽量であって取り扱いや製造が容易で、コストを低く抑えられる。
【0019】
前述したように、本実施形態の遮音構造体1では、基材2の面積1000cm
2あたり10個以上1000個以下の共振部3が設けられている。仮に、共振部3が少な過ぎると、共振器としての効果が乏しく、低周波数の音に対する遮音性が低くなる。一方、共振部3が多過ぎると、共振部3に伝わる振動が分散され、共振器として十分な効果が発揮できず、特に低周波数の音に対する遮音性が低くなるおそれがある。また、共振部3が多いと遮音構造体1全体の重量が大きくなる。これらの理由から、本実施形態では、共振部3の数を前述したように設定している。また、同様の理由から、好ましくは、全ての共振部3の共振部基部3aの、一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)の内側面に固定されている部分の面積の合計は、一方の基材2の内側面の面積の1%以上50%以下であり、より好ましくは1%以上25%以下であり、さらに好ましくは1%以上10%以下である。
【0020】
また、本実施形態の遮音構造体1では、共振部3の基材2に接する部分である共振部基部3aが弾性を有する部材であることによって、基材の振動を小さく抑えている。そのために、本実施形態の共振部基部3aは、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下であり、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下である。仮に、共振部基部3aの、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Paより小さいと、共振器としての十分な効果が得られず、低周波数の音に対する遮音性が低い。共振部基部3aの、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×107Paより大きいと、低周波数の音に対する遮音性が低い。そして、仮に、共振部基部3aの、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01未満であると、対象とする周波数帯以外での遮音性が悪化する恐れがある。一方、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.50より大きいと、対称とする周波数帯の遮音性が悪化する恐れがあり、共振部基部3aの形状保持性も悪化する。
【0021】
本実施形態の遮音構造体1の共振部3では、共振部錘部3bが共振部基部3aよりも大きい質量を有している。共振部錘部3bがマス(質量体)、共振部基部3aがバネとして機能することによって共振部3は共振器として働く。仮に、共振部錘部3bの質量が共振部基部3aの質量よりも小さいと、共振器として機能せず、特に低周波数の音に対する遮音性が低い。そのため、共振部錘部3bが共振部基部3aよりも大きい質量を有している必要がある。
【0022】
本実施形態の遮音構造体1では、基材2の面積1000cm2あたり5個以上800個以下の支柱部4が設けられている。この遮音構造体1は支柱部4が1対の板状の基材2を支持する構成であるため、支柱部4が少な過ぎると、基材2の支持が不十分になって遮音構造体1が構造体として不安定になる。ただし、固定のために1対の基材2を支柱部4で繋ぐことにより、固体伝搬音の伝搬が大きくなり、遮音性が低下する可能性があるため、支柱部4の数が多過ぎることは好ましくない。そのため、本実施形態では、支柱部4の数を前述したように設定している。このように主に基材2の支持のために用いられる支柱部4の数は、基材2を支持可能な範囲で少なくて構わない。前述したように、支柱部4の数は基材2の面積1000cm2あたり5個以上800個以下であり、好ましくは5個以上500個以下であり、より好ましくは5個以上100個以下であり、さらに好ましくは5個以上50個以下である。また、支柱部4の数は、共振器として働いて遮音性を発揮する共振部3の数よりも少なくて構わない。好ましくは、支柱部4の数は共振部3の数の1%以上80%以下であり、より好ましくは1%以上50%以下、さらに好ましくは1%以上10%以下である。そして、比較的大面積の基材2を良好に支持するために、支柱部4は複数の共振部3に囲まれた適切な位置にそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0023】
なお、支柱部4は、共振部基部3aと同様に弾性を有する(25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が1.0×105Pa以上1.0×107Pa以下で、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が0.01以上0.50以下である)部材であるため、固体伝搬音の伝達を小さく抑えられる。
【実施例0024】
[実施例1]
前述した本発明の遮音構造体1の具体的な実施例について説明する。本発明の実施例1では、1対の基材2として、厚さ0.5mmのアルミニウム板材(ヤング率:69GPa)を用いた。本実施例の共振部基部3aとして、A硬度(JIS K6253-3、タイプAデュロメータ)が40~60程度(例えば50)のシリコーンゴム(シリコーンゴムからなる架橋ゴム)からなり、直径が6mmで高さが3mmの円柱状の部材を用いた。この共振部基部3aの、25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)は約1.0×10
6Paであり、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)は0.02~0.2程度であった。この共振部基部3aの25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)および損失正接(tanδ)は、共振部基部3aと同じ材料の厚さ2mmのシートを用いて、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社(TA Instruments Japan Inc.)製粘弾性測定装置ARES-G2(商品名)を用い、せん断モード、歪み:0.5%で測定して得られた結果である。共振部錘部3bとして、ステンレス(SUS304)からなる、直径が6mmで高さが3mmの円柱状の部材を用いた。一方、支柱部4として、共振部基部3aと同じ特性を有する同じ材料(シリコーンゴムからなる架橋ゴム)からなり、直径が6mmで高さが9mmの円柱状の部材を用いた。そして、平面形状が26cm×26cmの正方形である1対の基材2のうちの一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)の、中央部の20cm×20cm(面積400cm
2)の正方形の領域に、49個の共振部3を等間隔に設置した。さらに、この正方形の領域内に4個の支柱部4を等間隔に配置した。各支柱部4は、複数の共振部3に囲まれる位置にそれぞれ配置した。本実施例の遮音構造体1の面密度は3.72kg/m
2であった。従って、本実施例では、共振部3が、基材の面積1000cm
2あたり約130個設けられており、全ての共振部3の共振部基部3aの、一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)の内側面に固定されている部分の面積の合計は、一方の基材2の内側面の面積の約3.5%である。そして、支柱部4は基材2の面積1000cm
2あたり10個設けられており、支柱部4の数は共振部3の数の約8.2%である。
【0025】
このような構成の本実施例の遮音構造体1に対して、JIS A1441-1に準じた方法で、音源室が残響室であり、受音室が半無響室である試験設備を用い、一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)側からの音に対する遮音性として、インテンシティ音響透過損失を求めた。こうして求めた1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を
図3(a)~
図3(d)、
図7(a)~
図7(c)に示している。
図3(a)~
図3(d)、
図7(a)~
図7(c)に示すように、本実施例の遮音構造体1は、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して良好な遮音性を発揮することがわかった。また、本実施例の遮音構造体1によると、小さい重量(面密度)で良好な遮音性(透過損失)が得られた。
【0026】
[実施例2]
図示しないが、本発明の実施例2の遮音構造体は、実施例1と同様な1対の基材2と共振部3および支柱部4を有するものであった。ただし、本実施例では、平面形状が26cm×26cmの正方形である1対の基材2の、中央部の20cm×20cmの正方形の領域に、16個の支柱部4を等間隔に設置した。各支柱部4は、複数の共振部3に囲まれる位置にそれぞれ配置した。本実施例の遮音構造体の面密度は3.81kg/m
2であった。本実施例では、支柱部4は基材2の面積1000cm
2あたり40個設けられており、支柱部4の数は共振部3の数の32.7%である。本実施例の遮音構造体の、一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)側からの音に対する遮音性として、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図3(a)に示している。本実施例の遮音構造体でも、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して良好な遮音性を発揮することができ、小さい重量(面密度)で良好な遮音性(透過損失)が得られた。
【0027】
[実施例3]
図示しないが、本発明の実施例3の遮音構造体は、実施例1と同様な1対の基材2と共振部3および支柱部4を有するものであった。ただし、本実施例では、平面形状が26cm×26cmの正方形である1対の基材2の、中央部の20cm×20cmの正方形の領域に、36個の支柱部4を等間隔に設置した。各支柱部4は、複数の共振部3に囲まれる位置にそれぞれ配置した。本実施例の遮音構造体の面密度は33.96kg/m
2であった。本実施例では、支柱部4は基材2の面積1000cm
2あたり90個設けられており、支柱部4の数は共振部3の数の73.5%である。本実施例の遮音構造体の、一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)側からの音に対する遮音性として、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図3(a)に示している。本実施例の遮音構造体でも、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して良好な遮音性を発揮することができ、小さい重量(面密度)で良好な遮音性(透過損失)が得られた。
【0028】
[実施例4]
本発明の実施例4の遮音構造体は、実施例1と同じ構成であるが、遮音構造体1の、他方の基材2(
図1,2の上方の基材2)側からの音を遮音することを目的として用いられるものである。従って、この遮音構造体1の、他方の基材2(
図1,2の上方の基材2)側からの音に対する遮音性として、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1に準じた方法で求めて、
図3(b)に示している。本実施例の遮音構造体でも、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して良好な遮音性を発揮することができ、小さい重量(面密度)で良好な遮音性(透過損失)が得られた。
【0029】
[実施例5]
図示しないが、本発明の実施例5の遮音構造体は、実施例1と同様な1対の基材2と共振部3および支柱部4を有するものであった。ただし、本実施例では、支柱部4を、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)によって形成した。具体的には、EPDM(25℃で周波数1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)が約4.3×10
6Pa、25℃で周波数1Hzにおける損失正接(tanδ)が約0.16)からなる直径が6mmで高さが3mmの円柱状の部材を3つ連結し、実施例1の支柱部4と同様に高さ9mmの円柱状の支柱部4を形成した。本実施例の遮音構造体の面密度は3.72kg/m
2であった。本実施例の遮音構造体の、一方の基材2(
図1,2の下方の基材2)側からの音に対する遮音性として、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図3(c)に示している。本実施例の遮音構造体でも、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して良好な遮音性を発揮することができ、小さい重量(面密度)で良好な遮音性(透過損失)が得られた。
【0030】
[比較例1]
前述した本発明の実施例の遮音構造体1と対比するための比較例について説明する。
図4に示す比較例1の遮音構造体5は、間隔をおいて重なり合うように実質的に平行に配置されている1対の板状の基材2のみからなる中空の二重壁状の部材であった。1対の基材2は図示しない保持部材によって保持されているが、1対の基材2の間の間隔には何の部材も介在していなかった。本発明の実施例1~5と同様に、各基材2は厚さ0.5mmのアルミニウム板材であり、1対の基材2の間の間隔は9mmであった。本比較例の遮音構造体5の面密度は2.70kg/m
2であった。本比較例の遮音構造体5の1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図3(a)~
図3(d)、
図7(a)~
図7(c)に示している。
【0031】
[比較例2]
図5に示す比較例2の遮音構造体6は、実施例1の遮音構造体1から支柱部4を省略したものである。1対の基材2の間の間隔は9mmであり、他方の基材2(
図5の上方の基材2)は図示しない保持部材によって保持されている。本比較例の遮音構造体6の面密度は3.69kg/m
2であった。本比較例の遮音構造体6の1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図3(d)に示している。
【0032】
[比較例3]
図6に示す比較例3の遮音構造体7は、1枚の板状の基材2のみからなるものであった。基材2は厚さ0.5mmのアルミニウム板材であった。本比較例の遮音構造体7の面密度は1.35kg/m
2であった。本比較例の遮音構造体7の、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図7(a)に示している。
【0033】
[比較例4]
図8に示す比較例4の遮音構造体8は、1枚の板状の基材2の一方の面に複数の共振部3が設けられたものであった。基材2は、本発明の実施例1~5の基材2と同様な、厚さ0.5mmのアルミニウム板材であった。各共振部3は、本発明の実施例1~5と同様に、シリコーンゴムからなる直径が6mmで高さが3mmの円柱状の共振部基部3aと、ステンレスからなる直径が6mmで高さが3mmの円柱状の共振部錘部3bとからなる。本比較例の遮音構造体8の面密度は2.34kg/m
2であった。本比較例の遮音構造体8の、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図7(a)に示している。
【0034】
[比較例5]
図9に示す比較例5の遮音構造体9は、実施例1と同様に1対の板状の基材2と49個の共振部3と4個の支柱部10とからなるものであるが、支柱部10が、実施例1の共振部錘部3bと同様なステンレスからなる、直径が6mmで高さが7.3mmの円柱状であった。その他の構成は実施例1と同様であった。本比較例の遮音構造体9の面密度は3.85kg/m
2であった。本比較例の遮音構造体9の、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図7(b)に示している。
【0035】
[比較例6]
図10に示す比較例6の遮音構造体11は、実施例1と同様に1対の板状の基材2と49個の共振部12と4個の支柱部4とからなるものであるが、共振部12が、実施例1の共振部基部3aと同様なシリコーンゴムからなる、直径が6mmで高さが6mmの円柱状であった。その他の構成は実施例1と同様であった。本比較例の遮音構造体11の面密度は2.98kg/m
2であった。本比較例の遮音構造体11の、1/3オクターブ中心周波数[Hz]に対する透過損失[dB]を実施例1と同様な方法で求めて、
図7(c)に示している。
【0036】
[結果]
図3(a)~3(c)によると、実施例1~5の遮音構造体1は、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して遮音性が良好である。実施例1~5を比較例1と比較すると、本発明の共振部3および支柱部4を有することにより優れた遮音効果が得られることが明らかである。そして、本発明で規定した範囲内であれば、支柱部4の数が増減しても、また、支柱部4の材料を変更しても良好な遮音性が得られる。また、1対の基材2のいずれの方向から入射する音に対しても、良好な遮音性が得られる。
【0037】
図3(d)を参照して、比較例2と比較すると、本発明の支柱部4が存在することにより、特に一部の周波数において優れた遮音効果が得られることがわかる。具体的には、実施例1~5によると、約2kHz以上の高周波数の音に対しては、支柱部4が基材2を支持することによる基材2の振動の抑制により遮音性が向上すると考えられる。
【0038】
図7(a)を参照して、比較例3,4と比較すると、本発明が1対の基材2と支柱部4とを有することにより優れた遮音効果が得られることがわかる。具体的には、実施例1~5によると、低周波数の音に対しては共振部3による振動抑制により遮音性が向上し、高周波数の音に対しては、中空の二重壁構造と、支柱部4による基材2の支持および基材2の振動抑制とにより遮音性が向上すると考えられる。
【0039】
図7(b)を参照して、比較例5と比較すると、本発明の支柱部4が弾性を有することにより、優れた遮音効果が得られることがわかる。支柱部が金属製であると振動が伝達しやすいのに対し、支柱部がゴム弾性を有するものであると振動が伝達しにくく遮音効果が生じると考えられる。
【0040】
図7(c)を参照して、比較例6と比較すると、本発明の共振部3が、共振部基部3aよりも質量が大きい、例えばステンレスからなる共振部錘部3bを有することにより、優れた遮音効果が得られることがわかる。特に、800Hz~1kHzの低周波数の音に対して、質量が大きい共振部錘部3bを有する共振部3が共振器として良好な作用を発揮するため、優れた遮音効果が得られると考えられる。
【0041】
このように、本発明の実施例1~5の遮音構造体1では、比較的小さい重量(面密度)であるにもかかわらず、比較例1~6の遮音構造体と比べて、低周波数域から高周波数域に至るまで広範囲の音に対して遮音性が良好である。