(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061915
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230425BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230425BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230425BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L71/02
C08K5/521
C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167293
(22)【出願日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2021171554
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】池内 拓人
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002BG041
4J002CH051
4J002CK041
4J002CP051
4J002DE077
4J002DE087
4J002DE097
4J002DE147
4J002DE187
4J002DE237
4J002DJ006
4J002EW048
4J002EW058
4J002FD136
4J002FD137
4J002FD138
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD200
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 本発明は、被塗工体、特に電子材料に容易に適用することができ、被塗工体に難燃性を付与し又は被塗工体の難燃性を向上させることができる硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂と、長石類と、非鉄金属水酸化物と、リン酸エステルとを含むので、粘度が低く抑えられ、優れた塗工性を有しており、被塗工体の所望箇所に被塗工体の機能を損なうことなく正確に且つ容易に塗工することができ、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂と、長石類と、非鉄金属水酸化物と、リン酸エステルとを含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
硬化性樹脂組成物は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドを含むことを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
非鉄金属水酸化物は、水酸化アルミニウムを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量とリン酸エステルの含有量との質量比(長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量/リン酸エステルの含有量)が2.0以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から火災時における延焼を抑制するために、自動車部材、家電、電子材料、スポーツ用品、建材、可燃性の液体を収納する収容容器などにおいて難燃化が進められている。
【0003】
近年、エレクトロニクス分野の進歩がめざましく、特に電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進み、プリント配線板、発光ダイオード(LED)をはじめとする電子材料は、薄型化、多層化、高精細化がますます要求されるようになっている。このような電子材料にも難燃化が要望されている。
【0004】
又、可燃性の液体を収納する収容容器にも安全性の向上を目的として難燃性の向上が求められている。
【0005】
特許文献1には、(A)高分子化合物、(B)ポリリン酸アンモニウム、(C)水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウム、(D)多価アルコール、(E)メラミン骨格を有する化合物、及び、(F)中空セラミックビーズ及び/又は膨張黒鉛を含有する難燃性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の難燃性樹脂組成物は、この難燃性樹脂組成物から得られた皮膜の難燃性が不十分であるという問題点を有している。更に、特許文献1の難燃性樹脂組成物は、粘度が高く、電子材料への適用も難しいという問題点を有している。
【0008】
本発明は、優れた塗工性を有し、被塗工体、特に電子材料に容易に適用することができ、被塗工体に難燃性を付与し又は被塗工体の難燃性を向上させることができる硬化性樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂と、長石類と、非鉄金属水酸化物と、リン酸エステルとを含む。
【0010】
[硬化性樹脂]
硬化性樹脂は、1液型硬化性樹脂及び2液型硬化性樹脂を含む。1液型硬化性樹脂は、水分、光照射又は熱によって架橋構造が導入されて硬化する樹脂が含まれる。2液型硬化性樹脂は、主剤と硬化剤とを混合することによって架橋構造が導入されて硬化する樹脂が含まれる。
【0011】
[1液型硬化性樹脂]
1液型硬化性樹脂としては、加水分解性シリル基を有する重合体、加水分解性イソシアネート基を有する重合体、光架橋性重合体などが挙げられ、加水分解性シリル基を有する重合体を含むことが好ましい。
【0012】
加水分解性シリル基を含有する重合体は、水の存在下にて、加水分解性シリル基の加水分解性基が加水分解してシラノール基(≡SiOH)を生成する。そして、シラノール基同士が脱水縮合して架橋構造が形成される。加水分解性イソシアネート基を有する重合体は、加水分解性イソシアネート基が水の存在下にて、二酸化炭素を生成しながら尿素結合(-NHCONH-)を生成して架橋構造を形成する。
【0013】
加水分解性シリル基とは、珪素原子に1~3個の加水分解性基が結合してなる基である。加水分解性シリル基の加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基、オキシム基などが挙げられる。
【0014】
なかでも、加水分解性シリル基としては、加水分解反応が穏やかであることから、アルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、及びトリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;プロピルジメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、及びメチルジエトキシシリル基などのジアルコキシシリル基;並びに、ジメチルメトキシシリル基、及びジメチルエトキシシリル基などのモノアルコキシシリル基が挙げられる。
【0015】
加水分解性イソシアネート基とは、加水分解によって尿素結合(-NHCONH-)を形成し得るイソシアネート基をいう。
【0016】
[加水分解性シリル基を有する重合体]
加水分解性シリル基を有する重合体としては、特に限定されず、例えば、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド、加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体、加水分解性シリル基を有するシリコーン樹脂、加水分解性シリル基を有するウレタン樹脂、加水分解性シリル基を有するポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。加水分解性シリル基を有する重合体としては、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドを含有していることが好ましい。なお、加水分解性シリル基を有する重合体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0017】
[加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド]
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドにおいて、加水分解性シリル基は、アルコキシシリル基が好ましく、ジアルコキシシリル基がより好ましく、ジメトキシシリル基がより好ましく、プロピルジメトキシシリル基がより好ましい。
【0018】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドは、1分子中に平均して、1~4個の加水分解性シリル基を有していることが好ましい。加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドにおける加水分解性シリル基の数が上記範囲内にあると、硬化性樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上する。加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドは、その主鎖の両末端のうち少なくとも一方に加水分解性シリル基を有していることが好ましい。
【0019】
なお、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド中における、1分子当たりの加水分解性シリル基の平均個数は、1H-NMRにより求められるポリアルキレンオキサイド中の加水分解性シリル基の濃度、及びGPC法により求められるポリアルキレンオキサイドの数平均分子量に基づいて算出することができる。
【0020】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドを構成しているポリアルキレンオキサイドとしては、主鎖が、一般式:-(R-O)m-(式中、Rは炭素数が1~14のアルキレン基を表し、mは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましく挙げられる。ポリアルキレンオキサイドの主鎖骨格は一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0021】
本発明において、アルキレン基とは、脂肪族飽和炭化水素中の異なる2個の炭素原子に結合する2個の水素原子を除いて生じる2価の原子団であり、直鎖状及び分岐状の双方の原子団を含む。
【0022】
アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基[-CH(CH3)-CH2-]、トリメチレン基[-CH2-CH2-CH2-]、ブチレン基、アミレン基[-(CH2)5-]、ヘキシレン基などが挙げられる。
【0023】
ポリアルキレンオキサイドの主鎖骨格としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、及びポリプロピレンオキサイド-ポリブチレンオキサイド共重合体などが挙げられる。なかでも、ポリプロピレンオキサイドが好ましい。ポリプロピレンオキサイドによれば、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0024】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドの数平均分子量は、3000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドの数平均分子量は、50000以下が好ましく、40000以下がより好ましく、30000以下がより好ましい。ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量が3000以上であると、ポリアルキレンオキサイドは容易に低分子量体に熱分解しないので、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有している。ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量が50000以下であると、硬化性樹脂組成物の塗工性が向上し、被塗工体の所望箇所に精度良く塗工することができる。
【0025】
なお、本発明において、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドの数平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値を意味する。
【0026】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドの数平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o-DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500~8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0027】
加水分解性シリル基を有しているポリアルキレンオキサイドは、市販されているものを用いることができる。例えば、加水分解性シリル基を有しているポリアルキレンオキサイドとしては、カネカ社製 商品名「MSポリマー S-203」、「MSポリマー S-303」、「MSポリマー S-303H」、「サイリルポリマー SAT-200」、「サイリルポリマー SAT-350」及び「サイリルポリマー SAT-400」などが挙げられる。加水分解性シリル基を有しているポリアルキレンオキサイドとしては、旭硝子社製 商品名「エクセスター ESS-3620」、「エクセスター ESS-2420」、「エクセスター ESS2410」及び「エクセスター ESS3430」などが挙げられる。
【0028】
主鎖がポリプロピレンオキサイドで且つポリプロピレンオキサイドの末端に(メトキシメチル)ジメトキシシリル基を有しているポリアルキレンオキサイドは、カネカ社から商品名「HS-2」にて市販されている。
【0029】
主鎖がポリプロピレンオキサイドで且つポリプロピレンオキサイドの末端にイソプロピルジメトキシメチルシリル基を有しているポリアルキレンオキサイドは、カネカ社から商品名「SAX720」にて市販されている。
【0030】
[加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体]
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体に含有されている加水分解性シリル基としては、加水分解反応が穏やかであることから、アルコキシシリル基が好ましく、トリアルコキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。
【0031】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体において、1分子中の加水分解性シリル基の平均個数は、1個以上が好ましく、2個以上がより好ましい。加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体において、1分子中の加水分解性シリル基の平均個数は、4個以下が好ましく、2.5個以下がより好ましい。加水分解性シリル基の数が1個以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上する。加水分解性シリル基の数が4個以下であると、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができると共に、硬化性樹脂組成物を塗工箇所に塗工した時に、硬化性樹脂組成物が塗工箇所において円滑に流動し、優れたレベリング性を有する。加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体は、その主鎖の両末端のうち少なくとも一方に加水分解性シリル基を有していることが好ましい。
【0032】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体は、加水分解性シリル基を有さないアクリル系重合体と併用して使用してもよい。この場合、両者全体での1分子あたりの加水分解性シリル基の数は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。加水分解性シリル基の数が0.3以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化性が向上する。一方、両者全体での1分子あたりの加水分解性シリル基の数は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。加水分解性シリル基の数が2.0以下であると、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができると共に、硬化性樹脂組成物を塗工箇所に塗工した時に、硬化性樹脂組成物が塗工箇所において円滑に流動し、優れたレベリング性を有する。
【0033】
アクリル系重合体への加水分解性シリル基の導入方法としては、特に限定されず、例えば、主鎖骨格を構成する単量体の共重合体に不飽和基を導入した後、加水分解性シリル基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化する方法などが挙げられる。
【0034】
なお、加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体中における、1分子当たりの加水分解性シリル基の平均個数は、1H-NMRにより求められる加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体中の加水分解性シリル基の濃度、及びGPC法により求められる加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体の数平均分子量に基づいて算出する。
【0035】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体の主鎖骨格は、メチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートを含む単量体の共重合体が好ましく、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートを含む単量体の共重合体がより好ましく、メチルメタクリレート及びn-ブチルアクリレートを含む単量体の共重合体がより好ましい。主鎖骨格が上記共重合体である、加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体によれば、硬化性樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上する。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート及び/又はアクリレートを意味する。
【0036】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体において、メチル(メタ)アクリレート成分の含有量は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体において、メチル(メタ)アクリレート成分の含有量は、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。メチル(メタ)アクリレート成分の含有量が3質量%以上であることによって、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができると共に、硬化性樹脂組成物を塗工箇所に塗工した時に、硬化性樹脂組成物が塗工箇所において円滑に流動し、優れたレベリング性を有する。メチル(メタ)アクリレート成分の含有量が70質量%以下であることによって、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0037】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体において、ブチル(メタ)アクリレート成分の含有量は、30~97質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。ブチル(メタ)アクリレート成分の含有量が30質量%以上であることによって、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0038】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体において、主鎖骨格を構成している重合体に用いられる単量体は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、及びブチルメタクリレートの他に、さらに他のモノマーを含んでいてもよい。他のモノマーとしては、例えば、スチレン、インデン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、安息香酸ビニル、珪皮酸ビニルなどのビニルエステル基を持つ化合物、無水マレイン酸、N-ビニルピロリドン、N-ビニルモルフォリン、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、tert-アミルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル、安息香酸(4-ビニロキシ)ブチル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタン-1,4-ジオール-ジビニルエーテル、ヘキサン-1,6-ジオール-ジビニルエーテル、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール-ジビニルエーテル、イソフタル酸ジ(4-ビニロキシ)ブチル、グルタル酸ジ(4-ビニロキシ)ブチル、コハク酸ジ(4-ビニロキシ)ブチルトリメチロールプロパントリビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、3-アミノプロピルビニルエーテル、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、ウレタンビニルエーテル、ポリエステルビニルエーテルなどのビニロキシ基を持つ化合物などを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0039】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体の重合方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、フリーラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、UVラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、リビングラジカル重合法などの各種重合法などが挙げられる。
【0040】
加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体の重量平均分子量は、1000~50000が好ましく、2000~30000がより好ましく、3000~15000が特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲内である加水分解性シリル基を有するアクリル系重合体によれば、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができると共に、硬化性樹脂組成物を塗工箇所に塗工した時に、硬化性樹脂組成物が塗工箇所において円滑に流動し、優れたレベリング性を有する。
【0041】
[加水分解性シリル基を有するシリコーン樹脂]
シリコーン樹脂は、シロキサン結合(-Si-O-)が繰り返して形成されてなる主鎖を有する重合体をいう。加水分解性シリル基を有するシリコーン樹脂は、シリコーン樹脂の主鎖に複数個の加水分解性シリル基を有している。加水分解性シリル基を有するシリコーン樹脂は、シリコーン樹脂の主鎖の両末端に加水分解性シリル基を有することが好ましい。加水分解性シリル基を有するシリコーン樹脂に含有されている加水分解性シリル基としては、オキシムシリル基が好ましく、ケトオキシムシリル基がより好ましい。
【0042】
[加水分解性シリル基を有するウレタン樹脂]
ウレタン樹脂は、ウレタン結合(-NHCOO-)が繰り返して形成されてなる主鎖を有する重合体をいう。加水分解性シリル基を有するウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の主鎖に複数個の加水分解性シリル基を有している。加水分解性シリル基を有するウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の主鎖の両末端に加水分解性シリル基を有することが好ましい。
【0043】
[加水分解性シリル基を有するポリオレフィン系樹脂]
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。加水分解性シリル基を有するポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂の主鎖に複数個の加水分解性シリル基を有している。加水分解性シリル基を有するポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂の主鎖の両末端に加水分解性シリル基を有することが好ましい。
【0044】
[加水分解性イソシアネート基を有する重合体]
加水分解性イソシアネート基を有する重合体としては、例えば、加水分解性イソシアネート基を有するウレタン樹脂などが挙げられる。ウレタン樹脂は、ウレタン結合(-NHCOO-)が繰り返して形成されてなる主鎖を有する重合体をいう。加水分解性イソシアネート基を有するウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の主鎖に複数個の加水分解性イソシアネート基を有している。加水分解性イソシアネート基を有するウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の主鎖の両末端に加水分解性イソシアネート基を有することが好ましい。ウレタン樹脂は、ポリエーテルポリオールを原料とするポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステルポリオールを原料とするポリエステル系ウレタン樹脂を含むが、これらの何れであってもよい。
【0045】
[光架橋性重合体]
光架橋性重合体は、分子中に光架橋性基を有しており、紫外線などの光を照射することによって分子間に化学結合を形成して架橋構造を形成して硬化する。
【0046】
光架橋性基としては、光照射によって化学結合を形成すればよい。光架橋性基としては、特に限定されず、例えば、チオール基、グリシジル基、オキセタニル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、ベンゾフェノン基、ベンゾイン基、チオキサントン基などが挙げられ、ベンゾフェノン基、ベンゾイン基及びチオキサントン基が好ましく、ベンゾフェノン基がより好ましい。なお、(メタ)アクリロイルは、メタクリロイル又はアクリロイルを意味する。
【0047】
光架橋性重合体の主鎖構造は、特に限定されず、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シアノアクリレート系樹脂などが挙げられる。主鎖に光架橋性基を導入する方法としては、例えば、光架橋性基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させる方法などが挙げられる。
【0048】
光架橋性基含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エトキシ]ベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-ブロモベンゾフェノンなどが挙げられ、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エトキシ]ベンゾフェノンが好ましい。紫外線架橋性基含有モノマー(D)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なお、(メタ)アクリロイルオキシは、メタクリロイルオキシ又はアクリロイルオキシを意味する。
【0049】
[2液硬化性樹脂]
2液硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート系重合体、グリシジル系重合体などが挙げられる。
【0050】
イソシアネート系重合体は、ポリイソシアネートを含有する主剤と、ポリオールを含有する硬化剤とからなる2液型の硬化性樹脂である。主剤と硬化剤とを混合してポリイソシアネートとポリオールとを反応させることによってウレタン結合を形成して架橋し、硬化する。
【0051】
ポリイソシアネートとしては、例えば、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン、ω,ω′-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、両末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーなどが挙げられる。
【0052】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチル-ペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0053】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0054】
ポリオールとしては、例えば、ポリウレタンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油系ポリオールなどが挙げられる。
【0055】
グリシジル系重合体は、エポキシ樹脂を含有する主剤と、硬化剤とからなる2液型の硬化性樹脂である。エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとを反応させて得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとを反応させて得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、及び、これらの水添物、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートなどの含窒素エポキシ樹脂、ポリブタジエン又はNBRを含有するゴム変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0056】
硬化剤としては、特に限定されず、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリメルカプラン系硬化剤などが挙げられる。
【0057】
アミン系硬化剤としては、例えば、ポリオキシプロピレントリアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
【0058】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ヘット酸、ドデセニル無水コハク酸などが挙げられる。ポリアミド系硬化剤としては、例えば、ダイマー酸などが挙げられる。
【0059】
[長石類]
硬化性樹脂組成物は、長石類を含有している。硬化性樹脂組成物が長石類を含有していることによって、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有している。長石類は、長石及び準長石を含有しており、準長石が好ましい。なお、長石類は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0060】
長石としては、例えば、正長石、サニディン、微斜長石、アノーソクレースなどのアルカリ長石;曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石、灰長石などの斜長石などが挙げられる。
【0061】
準長石としては、例えば、カリ霞石(カルシライト)、灰霞石(カンクリナイト)などの霞石(ネフェリン)、霞石閃長石(ネフェリンサイアナイト)、白榴石(リューサイト)、方ソーダ石(ソーダライト)、藍方石(アウイン)、青金石(ラズライト)、黝方石(ノゼアン)、黄長石(メリライト)などが挙げられ、霞石閃長石(ネフェリンサイアナイト)が好ましい。なお、霞石閃長石は、閃長石と記載されることもある。
【0062】
長石類の平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がより好ましい。長石類の平均粒子径は、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、15μm以下がより好ましい。長石類の平均粒子径が0.1μm以上であると、硬化前の硬化性樹脂組成物の凝集力が向上し、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。長石類の平均粒子径が50μm以下であると、硬化性樹脂組成物中に均一に分散させ、硬化性樹脂組成物の硬化物に優れた機械的強度を付与することができ、被塗工体に長期間に亘って安定的に優れた難燃性を付与することができる。なお、長石類の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による画像解析によって測定された値をいう。具体的には、長石類を透過型電子顕微鏡を用いて倍率100倍の拡大写真を撮影し、任意の50個の長石類を抽出し、各長石類の直径を測定し、各長石類の直径の相加平均値を長石類の平均粒子径とする。なお、長石類の直径は、長石類を包囲し得る最小径の真円の直径をいう。
【0063】
硬化性樹脂組成物中における長石類の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がより好ましく、80質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中における長石類の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して800質量部以下が好ましく、600質量部以下が好ましく、450質量部以下がより好ましく、300質量部以下がより好ましく、200質量部以下がより好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましく、80質量部以下がより好ましい。長石類の含有量が上記範囲内であると、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有していると共に、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0064】
[非鉄金属水酸化物]
硬化性樹脂組成物は、非鉄金属水酸化物を含有している。硬化性樹脂組成物が非鉄金属水酸化物を含有していることによって、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有している。なお、非鉄金属水酸化物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0065】
非鉄金属水酸化物としては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸化カルシウム、2水和石こう、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化ニッケル、水酸化銅(II)、水酸化クロム(III)などが挙げられ、非鉄金属水酸化物が熱分解時に奏する吸熱作用により、硬化性樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上するので、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0066】
非鉄金属水酸化物の平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.8μm以上がより好ましい。非鉄金属水酸化物の平均粒子径は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下がより好ましい。なお、非鉄金属水酸化物の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定された体積基準の粒度分布においての粒子径の小さい側からの頻度の累積が50質量%となる粒子径D50をいう。
【0067】
硬化性樹脂組成物中における非鉄金属水酸化物の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中における非鉄金属水酸化物の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して250質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、150質量部以下がより好ましい。非鉄金属水酸化物の含有量が上記範囲内であると、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有していると共に、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0068】
[リン酸エステル]
硬化性樹脂組成物は、リン酸エステルを含有している。硬化性樹脂組成物は、リン酸エステルを含有していることによって、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有している。なお、リン酸エステルは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0069】
リン酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、モノリン酸エステル、縮合リン酸エステルなどが挙げられる。
【0070】
モノリン酸エステルとは、分子中にリン原子を1個有するリン酸エステルである。モノリン酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェートなどのトリアルキルホスフェート、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェートなどのハロゲン含有リン酸エステル、トリブトキシエチルホスフェートなどのトリアルコキシホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェートなどの芳香環含有リン酸エステル、モノイソデシルホスフェート、ジイソデシルホスフェートなどの酸性リン酸エステルなどが挙げられる。モノリン酸エステルとしては、芳香環含有リン酸エステルが好ましく、トリクレジルホスフェートが好ましい。
【0071】
縮合リン酸エステルとは、分子中にリン原子を複数個有するリン酸エステルである。縮合リン酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、トリアルキルポリホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ビスフェノールAポリフェニルホスフェートなどの芳香族縮合リン酸エステルなどが挙げられる。
【0072】
リン酸エステルは、硬化性樹脂との相溶性に優れ、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができるので、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート[式(V)]が好ましく、トリグレジルホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート[式(II)]、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート[式(III)]、トリス(クロロプロピル)ホスフェート[式(IV)]、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート[式(V)]がより好ましい。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
リン酸エステルは、20℃及び1気圧(0.101MPa)下において液状であることが好ましい。なお、液状とは、一定の形をもたず、流動性があり、略一定の体積を有する状態をいう。
【0078】
リン酸エステルが液状である場合、リン酸エステルの粘度は、1mPa・s以上が好ましく50mPa・s以上がより好ましく、500mPa・s以上がより好ましい。リン酸エステルの粘度は、30000mPa・s以下が好ましく、10000mPa・s以下がより好ましく、5000mPa・s以下がより好ましい。なお、リン酸エステルの粘度は、JIS K7117に規定されるブルックフィールド形粘度計B型粘度計を用いて測定された値をいう。
【0079】
硬化性樹脂組成物中におけるリン酸エステルの含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上がより好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるリン酸エステルの含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がより好ましい。リン酸エステルの含有量が1質量部以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有していると共に、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。リン酸エステルの含有量が300質量部以下であると、硬化性樹脂組成物の硬化性が向上する。
【0080】
硬化性樹脂組成物中において、長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量とリン酸エステルの含有量との質量比[(長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量)/(リン酸エステルの含有量)]は、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中において、長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量とリン酸エステルの含有量との質量比[(長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量)/(リン酸エステルの含有量)]は、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、12以下がより好ましく、10以下がより好ましく、8以下がより好ましく、6以下がより好ましく、4以下がより好ましく、3。5以下がより好ましい。硬化性樹脂組成物中において、長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量とリン酸エステルの含有量との質量比[(長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量)/(リン酸エステルの含有量)]が2.0以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化物の皮膜強度が向上する。硬化性樹脂組成物中において、長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量とリン酸エステルの含有量との質量比[(長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量)/(リン酸エステルの含有量)]が20以下であると、硬化性樹脂組成物の硬化物の皮膜強度が向上する。
【0081】
[ガラスフリット]
硬化性樹脂組成物は、ガラスフリットを含有していることが好ましい。ガラスフリットは、硬化性樹脂組成物の硬化物の燃焼残渣において、燃焼残渣中において、硬化性樹脂の燃焼残渣及び長石類を結合させるためのバインダーとして作用し、燃焼残渣は優れた強度を有する。従って、硬化性樹脂組成物の燃焼残差は、被塗工体の塗工箇所に安定的に存在し、被塗工体に優れた難燃性を付与することができる。
【0082】
ガラスフリットを構成しているガラスとしては、たとえば、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、酸化ビスマス系ガラス、珪酸系ガラス、酸化ナトリウム系ガラスなどが挙げられ、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラスが好ましく、リン酸系ガラスがより好ましい。これらのガラスフリットは、B2O3、P2O5、ZnO、SiO2、Bi2O3、Al2O3、BaO、CaO、MgO、MnO2、ZrO2、TiO2、CeO2、SrO、V2O5、SnO2、Li2O、Na2O、K2O、CuO、Fe2O3などを所定の成分割合で調整して得ることができる。
【0083】
硬化性樹脂組成物中におけるガラスフリットの含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して5質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、40質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるガラスフリットの含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して200質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、80質量部以下がより好ましい。ガラスフリットの含有量が5質量部以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化物の燃焼残渣は、優れた強度を有し、被塗工体の塗工箇所に安定的に存在し、被塗工体に優れた難燃性を付与することができる。ガラスフリットの含有量が200質量部以下であると、硬化性樹脂組成物の粘度を低減させて塗工性を向上させ、硬化性樹脂組成物を狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0084】
[シラノール縮合触媒]
硬化性樹脂組成物は、シラノール縮合触媒を含有していてもよい。シラノール縮合触媒とは、硬化性樹脂が加水分解性シリル基を有している場合、硬化性樹脂が含有する加水分解性シリル基が加水分解することにより形成されたシラノール基同士の脱水縮合反応を促進させるための触媒である。
【0085】
シラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサン、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、及びジブチル錫オキシビスエトキシシリケートなどの有機錫系化合物;テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物などが挙げられ、有機錫系化合物が好ましい。これらのシラノール縮合触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0086】
シラノール縮合触媒としては、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンが好ましい。このようなシラノール縮合触媒によれば、硬化性樹脂組成物の硬化速度を容易に調整することができる。
【0087】
硬化性樹脂組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下がより好ましく、5質量部以下がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量が0.1質量部以上であると、硬化性樹脂組成物の硬化速度を速くして、硬化性樹脂組成物の硬化に要する時間の短縮化を図ることができる。硬化性樹脂組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量が10質量部以下であると、硬化性樹脂組成物が適度な硬化速度を有し、硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性及び取扱性を向上させることができる。
【0088】
[脱水剤]
硬化性樹脂組成物は、脱水剤をさらに含んでいるのが好ましい。脱水剤によれば、硬化性樹脂組成物を保存している際に、空気中などに含まれている水分によって硬化性樹脂組成物が硬化することを抑制することができる。
【0089】
脱水剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物;並びにオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、及びオルト酢酸エチル等のエステル化合物などを挙げることができる。これらの脱水剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0090】
硬化性樹脂組成物中における脱水剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中における脱水剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。硬化性樹脂組成物中における脱水剤の含有量が0.5質量部以上であると、脱水剤により得られる効果が十分に得られる。また、硬化性樹脂組成物中における脱水剤の含有量が20質量部以下であると、硬化性樹脂組成物が優れた硬化性を有する。
【0091】
[他の添加剤]
硬化性樹脂組成物は、その物性を損なわない範囲内において、チキソ性付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、沈降防止剤、アミノシランカップリング剤、揺変剤、可塑剤及び溶剤など他の添加剤を含んでいてもよい。なかでも、チキソ性付与剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤が好ましく挙げられる。
【0092】
硬化性樹脂組成物は、アミノシランカップリング剤を含有していることが好ましい。アミノシランカップリング剤を用いることにより、硬化性樹脂組成物の硬化物のゴム弾性や接着性を向上させることができる。なお、アミノシランカップリング剤とは、一分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、窒素原子を含有する官能基とを含有している化合物を意味する。
【0093】
アミノシランカップリング剤として、具体的には、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’-ビス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(メチルジメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス-〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。これらのアミノシランカップリング剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0094】
なかでも、アミノシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく挙げられ、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましく挙げられる。
【0095】
硬化性樹脂組成物中におけるアミノシランカップリング剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。アミノシランカップリング剤の含有量が上記範囲内であると、硬化性樹脂組成物の硬化物のゴム弾性や接着性を向上させることができる。
【0096】
チキソ性付与剤は、硬化性樹脂組成物にチキソトロピー性を発現せることができるものであればよい。チキソ性付与剤としては、水添ひまし油、脂肪酸ビスアマイド、ヒュームドシリカなどが好ましく挙げられる。
【0097】
硬化性樹脂組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量が0.1質量部以上であると、硬化性樹脂組成物にチキソトロピー性を効果的に付与することができる。また、硬化性樹脂組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量が200質量部以下であると、硬化性樹脂組成物が適度な粘度を有し、硬化性樹脂組成物の取扱性が向上する。
【0098】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。硬化性樹脂組成物中における紫外線吸収剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましい。硬化性樹脂組成物中における紫外線吸収剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0099】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、及びポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられる。硬化性樹脂組成物中における酸化防止剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中における酸化防止剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0100】
[光安定剤]
硬化性樹脂組成物は、ヒンダードアミン系光安定剤を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に優れたゴム弾性をより長期間に亘って維持することができる硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0101】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールとの重縮合物などが挙げられる。
【0102】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく挙げられる。NOR型ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に経時的なゴム弾性の低下が抑制されている硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0103】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤は、ピペリジン環骨格に含まれている窒素原子(N)に酸素原子(O)を介してアルキル基(R)が結合しているNOR構造を有している。NOR構造におけるアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~18がより好ましく、18が特に好ましい。アルキル基としては、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、及び、環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)が挙げられる。
【0104】
直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどが挙げられる。環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。また、アルキル基を構成している水素原子が、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)又はヒドロキシル基などで置換されていてもよい。
【0105】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤としては、下記式(I)で示されるヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0106】
【0107】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤を用いる場合、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤又はトリアジン系紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、硬化後に経時的なゴム弾性の低下がより高く抑制されている硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0108】
硬化性樹脂組成物中におけるヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物中におけるヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、硬化性樹脂100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0109】
[硬化性樹脂組成物]
硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂、長石類、非鉄金属水酸化物及びリン酸エステルと、必要に応じて添加される添加剤とを混合することによって製造することができる。なお、硬化性樹脂組成物は、水系溶媒に懸濁又は乳化させて懸濁液又は乳化液の形態であってもよい。硬化性樹脂組成物は、溶媒に溶解させた溶解液の形態であってもよい。なお、水溶媒としては、例えば、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、水などが挙げられる。溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、アセトンなどが挙げられる。
【0110】
硬化性樹脂組成物は、長石類、非鉄金属水酸化物及びリン酸エステルを併用することによって、硬化性樹脂組成物の硬化物は優れた難燃性を有する。更に、硬化性樹脂組成物は、粘度が低く抑えられていることから、優れた塗工性を有し、被塗工体の所望箇所に精度良く塗工することができる。特に、小型化が進む電子材料の所定の狭い塗工箇所に精度良く塗工することができる。
【0111】
従って、硬化性樹脂組成物は、被塗工体、特に電子材料の性能に影響を与えることなく、被塗工体の所定箇所に精度良く塗工できる。硬化性樹脂組成物は、被塗工体、特に、電子材料及び/又は電子材料を含む電子機器に優れた難燃性を付与し又は難燃性を向上させることができる。
【0112】
又、硬化性樹脂組成物は、長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量とリン酸エステルの含有量との質量比(長石類及び非鉄金属水酸化物の総含有量/リン酸エステルの含有量)を所定範囲とすることによって、硬化性樹脂組成物の硬化物は、優れた皮膜強度(耐衝撃性)を有する。硬化性樹脂組成物を耐衝撃性が必要な被塗工体に塗工し、被塗工体の表面に、耐衝撃性に優れた硬化性樹脂組成物の硬化物を形成することができる。被塗工体に衝撃力が加わった場合にあっても、硬化性樹脂組成物の硬化物は亀裂などの損傷を生じることはなく、被塗工体に付与した優れた難燃性を安定的に維持することができる。
【0113】
被塗工体としては、特に限定されず、例えば、電子機器、電子材料、収納容器(合成樹脂製容器、金属製容器など)などが挙げられる。
【0114】
電子機器としては、特に限定されず、例えば、カーナビゲーション、携帯電話、スマートフォン、ゲーム機、デジタルカメラ、テレビ、DVDプレイヤー、電子辞書、電卓、ハードディスクレコーダー、パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、プリンター、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ラジオ、電子楽器などが挙げられる。
【0115】
電子機器は、小型化及び軽量化が進められており、電子機器を構成している電子材料も小型化が進められている。このような電子材料としては、特に限定されず、例えば、プリント配線板、発光ダイオード(LED)、発光ダイオード配設板、フレキシブル銅張積層板、ボンディングシート、タッチパネル、センサ用基板などが挙げられる。
【0116】
収容容器としては、特に限定されないが、可燃性を有する液体(例えば、有機溶媒、有機化合物、ガソリン、軽油、灯油など)の収容容器などが挙げられる。
【0117】
硬化性樹脂組成物を被塗工体の所定の塗工箇所に塗工する要領としては、特に限定されず、例えば、刷毛を用いた塗工方法、公知の塗工器具を用いた塗工方法などが挙げられる。
【0118】
硬化性樹脂組成物の粘度は、500mPa・s以上が好ましく、1000mPa・s以上がより好ましく、3000mPa・s以上がより好ましい。硬化性樹脂組成物の粘度は、200000mPa・s以下が好ましく、100000mPa・s以下がより好ましく、50000mPa・s以下がより好ましい。なお、硬化性樹脂組成物の粘度は、23℃、10rpm、ローターNo.5の条件下にてBH型粘度計を用いて測定された値をいう。
【0119】
被塗工体に塗工された硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂を硬化させることによって硬化物を精製する。なお、硬化性樹脂の硬化は、硬化性樹脂の種類に応じて公知の要領(例えば、水分の供給、紫外線などの光の照射、加熱など)で行われればよい。
【0120】
そして、硬化性樹脂組成物の硬化物は、火災時の熱による燃焼によって強固な燃焼残渣を生成し、この燃焼残渣は、火災時においても塗工箇所において安定的に配設された状態を維持し、優れた難燃性を発揮する。
【発明の効果】
【0121】
本発明の硬化性樹脂組成物は、粘度が低く抑えられていることから優れた塗工性を有しており、被塗工体、特に、電子材料の所望箇所に被塗工体の機能を損なうことなく正確に且つ容易に塗工することができる。
【0122】
そして、硬化性樹脂組成物を硬化させて生成される硬化物は、優れた難燃性を有しており、被塗工体、特に、電子材料及び/又は電子材料から構成された電子機器に優れた難燃性を付与し又は難燃性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0123】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例0124】
実施例及び比較例の硬化性樹脂組成物の製造において下記の原料を使用した。
【0125】
[硬化性樹脂]
・加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド(主鎖骨格がポリプロピレンオキサイドからなり且つ主鎖の末端にジメトキシシリル基を有するポリアルキレンオキサイド、数平均分子量:38000、カネカ社製 商品名「エクセスターS303H」)
【0126】
[長石類]
・長石類 (ネフェリンサイアナイト、平均粒子径:5μm、白石カルシウム社製 商品名「ネスパー」)
【0127】
[非鉄金属水酸化物]
・水酸化アルミニウム(日本軽金属社製 商品名「BF013」、平均粒子径:1μm)
・水酸化マグネシウム(神島化学社製 商品名「マグシーズS」、平均粒子径:1μm)
【0128】
[リン酸エステル]
・トリクレジルホスフェート(モノリン酸エステル、大八化学社製 商品名「TCP」、粘度:58mPa・s)
・クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート(モノリン酸エステル、大八化学社製 商品名「PX-110」、粘度:1200mPa・s)
・トリス(クロロプロピル)ホスフェート(モノリン酸エステル、大八化学社製 商品名「TMCPP」、粘度:69mPa・s)
・レゾルシノールポリフェニルホスフェート(縮合リン酸エステル、大八化学社製 商品名「CR-733S」、粘度:800mPa・s)
・ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート(縮合リン酸エステル、大八化学社製、商品名「CR-741」、粘度:2300mPa・s)
【0129】
[ガラスフリット]
・ガラスフリット(リン酸系ガラス、日本フリット社製 「VY0144」、主成分:P2O5、AI2O3及びR2O、Rはアルカリ金属原子、軟化点:404℃)
【0130】
[その他の添加剤]
・ポリプロピレングリコール(可塑剤、AGC社製 商品名「エクセノール3020」)
・シラノール縮合触媒(ジブチル錫ジアセチルアセトナート、日東化成社製 商品名「U220H」)
・脱水剤(ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製 商品名「KBM1003」)
・アミノシランカップリング剤(N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製 商品名 KBM-603」)
【0131】
(実施例1~11、比較例1~3)
硬化性樹脂、長石類、非鉄金属水酸化物、リン酸エステル、ガラスフリット、ポリプロピレングリコール、シラノール縮合触媒、脱水剤及びアミノシランカップリング剤を表1に示した配合量となるようにして、プラネタリーミキサーを用いて真空雰囲気下にて60分間に亘って均一になるまで混合することによって硬化性樹脂組成物を得た。
【0132】
得られた硬化性樹脂組成物について、下記の要領で、難燃性、燃焼後硬度、塗工性及び粘度を測定し、その結果を表1に示した。
【0133】
得られた硬化性樹脂組成物について、皮膜強度を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0134】
(難燃性)
硬化性樹脂組成物を用いて厚みが1.5mmの試験シートを作製し、23℃にて7日間養生した。試験シートを縦15mm×横130mm×厚み1.5mmの平面長方形状に切断して試験片を5個作製した。
【0135】
UL94V-0規格に基づき試験を行った。具体的には、試験片の横方向の一端部をクランプを用いて保持して試験片を垂直に吊るした。次に、垂直に吊るした試験片の横方向の他端部(下端部)にバーナーを用いて3秒間炎をあて、バーナーを試験片から一旦炎から離した後、更に、試験片の横方向の他端部にバーナーを用いて3秒間炎をあてて、難燃性を測定した。下記基準に基づいて評価した。
A・・・各試験片について、2回の接炎後の残炎時間が何れも10秒以内であり、且つ、5個の試験片の残炎時間の合計が50秒以内であった。更に、2回目の接炎の後、30秒以上赤熱(グローイング)を続けた試験片がなかった。
B・・・各試験片について、2回の接炎後の残炎時間が何れも10秒以内であり、且つ、5個の試験片の残炎時間の合計が50秒を上回った。更に、2回目の接炎の後、30秒以上赤熱(グローイング)を続けた試験片がなかった。
C・・・各試験片について、2回の接炎後の残炎時間が何れも10秒以内であり、且つ、5個の試験片の残炎時間の合計が50秒を上回った。更に、2回目の接炎の後、30秒以上赤熱(グローイング)を続ける試験片が存在した。
D・・・全ての試験片がクランプまで燃え尽きた場合など、A~Cの何れにも該当しなかった。
【0136】
(燃焼後硬度)
硬化性樹脂組成物を23℃及び相対湿度50%の雰囲気下にて1週間養生して硬化させて硬化物を作製した。硬化性組成物の硬化物100gを試験片として用意した。試験片を燃焼炉内に供給した。試験片を燃焼炉にて600℃で30分間に亘って燃焼させた。試験片を燃焼させて得られた燃焼残渣を燃焼終了後、直ちに23℃の雰囲気下に1時間放置した。次に、燃焼残渣について、ShoreAによるゴム弾性をJIS K6253に準拠して測定温度23℃にてA型デュロメータを用いて測定した。下記基準に基づいて評価した。
A・・・ゴム硬度が30以上であった。
B・・・ゴム硬度が20以上30未満であった。
C・・・ゴム硬度が10以上20未満であった。
D・・・ゴム硬度が10未満であった又はA型デュロメータで測定できないほど脆かった。
【0137】
(塗工性)
硬化性樹脂組成物を容量シリンジに充填し、エアー式ディスペンサー(ノードソン社製、Performus X100)に装着し、塗工性を測定した。溝幅が0.5mm、1.0mm、2.0mmの塗工溝が形成された基板を用意した。なお、溝幅が0.5mm、1.0mm、2.0mmの塗工溝を順に「塗工溝1~3」と称した。
【0138】
23℃、エアー圧0.6MPaの条件下にてエアー式ディスペンサーを作動させて、硬化性樹脂組成物を溝幅が0.5mm、1.0mm、2.0mmの塗工溝のそれぞれに塗工した。下記基準に基づいて評価した。
A・・・塗工溝1~3の何れの塗工溝にもきれいに塗工できた
B・・・塗工溝2及び3の塗工溝にきれいに塗工できたが、塗工溝1にはきれいに塗工できなかった。
C・・・塗工溝3にはきれいに塗工できたが、塗工溝1及び2にはきれいに塗工できなかった。
D・・・塗工溝1~3の何れの塗工溝にもきれいに塗工できなかった。
【0139】
(粘度)
硬化性樹脂組成物の粘度を、23℃、10rpm、ローターNo.5の条件下にてBH型粘度計を用いて測定した。
【0140】
(皮膜強度)
離型処理された基板の離型処理面に硬化性樹脂組成物を厚みが3mmとなるように塗工した後、硬化性組成物を23℃及び相対湿度50%の環境下にて1カ月間養生した。基板から硬化性樹脂組成物の硬化物を剥離した。
【0141】
硬化性組成物の硬化物をJIS K6251に準拠した3号ダンベルに切り出して試験片とした。得られた試験片を用いて200mm/minの引張速度で引張試験を行った。引張試験において、試験片が破断した時点での強度を測定し、その強度を被膜強度とした。
【0142】