(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061961
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】軟骨細胞系統細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20230425BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230425BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20230425BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230425BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230425BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20230425BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230425BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20230425BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20230425BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230425BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20230425BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/10
C12N5/02
C12N5/071
C12Q1/02
A61K35/32
A61P19/02
A61P19/08
A61P19/10
A61P43/00 107
A61L27/36 120
A61L27/36 312
A61L27/38 112
A61L27/38 300
A61L27/38
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023010084
(22)【出願日】2023-01-26
(62)【分割の表示】P 2021040964の分割
【原出願日】2014-04-02
(31)【優先権主張番号】61/809,050
(32)【優先日】2013-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507148294
【氏名又は名称】ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケラー、ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】クラフト、エイプリル エム.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】軟骨細胞及び軟骨、特に、関節軟骨細胞及び関節軟骨様組織並びにヒト多能性幹細胞由来の組織に類似する肥大軟骨細胞及び成長板軟骨を製造するための方法及び組成物を提供する。
【解決手段】(a)原始線条様中胚葉細胞集団をFGFアゴニストと、BMP阻害剤、を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップと、(b)細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団から軟骨細胞前駆体集団を作製するステップとを含み、(c)高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニスト又はBMP4アゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨細胞及び/又は軟骨、任意選択で、関節様非肥大軟骨細胞及び/若しくは軟骨様組織及び/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織を作製するための方法であって、
a.原始線条様中胚葉細胞集団、任意選択で、CD56+及びPDGFRα+原始線条様中胚葉集団を、
i.FGFアゴニストと、
ii.BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、そして
iii.任意選択で、1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431542;及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939と
を含む、沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を特定化するステップと、
b.i.CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を、任意選択で、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
ii.高細胞密度CD73+、CD105+及び/又はPDGFRβ+沿軸中胚葉集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと
を含む軟骨細胞前駆体集団を作製するステップと、そして
c.i.高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップか、又は
ii.高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップのいずれか
を含む、上記方法。
【請求項2】
ステップc)が、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間、任意選択で、3週間超培養して、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)が、高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための請求項1に記載の方法。
【請求項4】
沿軸中胚葉集団が、胚様体、単層培養及び/又はそれらの組合せ中に含まれる、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
a.多能性幹細胞の出発集団を、原始線条誘導カクテルとともに培養して、CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉集団を誘導するステップと、
b.原始線条様中胚葉細胞集団を
i.FGFアゴニストと、
ii.BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、
iii.1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を特定化するステップと、
c.i.CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を、任意選択で、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
ii.高細胞密度CD73+、CD105+及びPDGFRβ+沿軸中胚葉集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと
を含む、軟骨細胞前駆体集団を作製するステップと、
d.高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップと
を含む、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
a.多能性幹細胞の出発集団を、原始線条誘導カクテルとともに培養して、CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉集団を誘導するステップと、
b.原始線条様中胚葉細胞集団を
i.FGFアゴニストと、
ii.BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、
iii.任意選択で、1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524;及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を特定化するステップと、
c.i.CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を、任意選択で、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
ii.高細胞密度CD73+、CD105+及びPDGFRβ+沿軸中胚葉集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと
を含む、軟骨細胞前駆体集団を作製するステップと、そして
d.高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BPM4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップと
を含む、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
a.多能性幹細胞の出発集団を、原始線条誘導カクテルとともに培養して、CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉集団を誘導するステップと、
b.原始線条様中胚葉細胞集団を
i.FGFアゴニストと、
ii.BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、
iii.1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を特定化するステップと、
c.i.細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を、任意選択で、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
ii.高細胞密度CD73+、CD105+及びPDGFRβ+沿軸中胚葉集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと
を含む、軟骨細胞前駆体集団を作製するステップと、
d.i.高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップか、又は
ii.高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップのいずれかと
を含む、軟骨細胞を作製するための、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
出発集団が、ヒト胚幹細胞集団(hESC)又は人工多能性幹細胞集団(iPSC)、任意選択で、初代hESC及び/又はiPSCである、請求項5から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
hESC集団が、HES2 H1、H9又は任意のヒトiPS細胞系統から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
出発集団が、胚様体に凝集される、請求項5から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
出発集団が、原始線条誘導カクテルと、約1~約5日間接触される、請求項5から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
原始線条誘導カクテルが、アクチビンアゴニスト、任意選択で、アクチビンA又はnodal、BMP4アゴニスト、任意選択で、BMP4、BMP2、BMP6、BMP7及び/又はBMP10及びFGFアゴニスト、任意選択で、bFGF、FGF2、FGF4、FGF9及び/又は任意選択で、FGF19、21、3、5、6、8a、16~18、20及び/又は23を含む、請求項5から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
原始線条誘導カクテルが、任意選択で、Wnt3a及びCHIR-99021(Stemolecule(商標)CHIR99021 Stemgent)、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)(Cayman Chemical(カタログ:13123))又はStemgent製のStemolecule(商標)BIO(カタログ:04003)などのGSK3b阻害剤から選択されるwntアゴニストをさらに含む、請求項5から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
沿軸中胚葉が、単層培養で特定化される、請求項1から13までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
BMP阻害剤が、任意選択で、ドルソモルフィン(DM)、ノギン、コーディン、LDN-193189、可溶性BMPR1a、可溶性BMPR1bから選択される、1型BMP受容体阻害剤、BMPリガンド及び/又は可溶性BMP受容体である、請求項1から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
原始線条様中胚葉集団が、心筋細胞特定化を阻害するために、BMP阻害剤と、約1、2、3又は4日接触される、請求項1から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
原始線条様中胚葉集団及び/又は沿軸中胚葉集団を特定化するためのFGFアゴニストが、FGF2、bFGF、FGF4及びFGF9から選択される、請求項1から16までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
原始線条様中胚葉集団が、FGFアゴニストと、少なくとも5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日又はそれ以上の間、接触され、CD73及び/又はCD105を発現する細胞の割合を、FGFアゴニスト未処理細胞と比較して、少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%又は65%増大させる、請求項1から17までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
沿軸中胚葉集団がまた、転写因子Meox1及びNkx3.2も発現し、Nkx2.5について陰性である、請求項1から18までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
沿軸中胚葉集団が、マイクロマス培養、ペレット培養又はフィルター培養で、又は任意の高細胞密度形式でプレーティングされる、請求項1から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
沿軸中胚葉集団が、マイクロマス培養で、1000万個細胞/mlから5000万個細胞/mlの間、任意選択で、少なくとも1mlあたり1000万個細胞、2000万個細胞/ml、3000万個細胞/ml、4000万個細胞/ml又は5000万個細胞/mlの細胞密度で、又は膜フィルター培養で、約500,000及び200万個の間、任意選択で、約500,000個、約750,000個、約100万個、約125万個、約150万個、約175万個、約200万個がプレーティングされる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
集団が、インスリン、トランスフェリン及び任意選択で、セレンを含む血清不含基礎培地(ITS)中で培養される、請求項1から21までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
基礎培地が、インスリン、トランスフェリン、セレンサプリメント、プロリン及びデキサメタゾンとともにDMEMを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
沿軸中胚葉集団が、TGFβ3アゴニストの添加の前に、高細胞密度で、約0~約4日間、任意選択で、0、1、2、3又は4日間培養される、請求項1から23までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
CD73+、CD105+及び/又はPDGFRβ+沿軸中胚葉集団が、血清不含培地中でTGFβ3アゴニストとともに少なくとも3日間又は約3日~約14日間、任意選択で、少なくとも1週間培養されて、Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造する、請求項1から24までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団が、TGFβアゴニストとともに培養される長期間は、関節軟骨様組織を製造するためには、少なくとも4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間又はそれ以上である、請求項1、2、4から24までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
軟骨細胞前駆体集団が、ラブリシン及び/又は軟骨中間体層タンパク質2(CILP2)が発現されるまでTGFbアゴニストとともに培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
沿軸中胚葉集団及び/又はSox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団が、TGFb3、TGFb2及び/又はTGFb1から選択されるTGFbアゴニストとともに培養される、請求項1から27までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
G肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織が、BMP4アゴニストとともに培養されて、コラーゲン10+及び/又はRunx2+肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造する、請求項1、3から27までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団がBMP4アゴニストとともに培養される長期間が、コラーゲン2を発現する軟骨組織又はコラーゲン10を発現する肥大軟骨細胞集団を作製するには、少なくとも2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間又はそれ以上である、請求項1、3から27及び29までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
CD73+CD105+細胞及び/又はCD73+PDGFR-β+細胞が、高細胞密度培養に先立って、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団から任意選択でフローサイトメトリーによって単離される、請求項1から30までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
軟骨細胞前駆体が、軟骨組織形成のためにTGFβアゴニスト又はBMP4アゴニスト中で培養される、請求項1から31までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
a.軟骨細胞前駆体細胞を、任意選択で、血清不含又は血清含有培地において高細胞密度で培養するステップと、
b.高細胞密度軟骨細胞前駆体細胞を、血清不含培地中でTGFβ3アゴニストとともに培養するステップと、そして
c.i.軟骨細胞前駆体細胞を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節軟骨様軟骨細胞集団を製造するステップか、又は
ii.軟骨細胞前駆体細胞を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞集団及び/若しくは軟骨様組織を製造するステップのいずれかと
を含む、軟骨細胞様細胞を作製するための、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
軟骨細胞前駆体細胞が、初代胎児軟骨細胞又は継代された胎児軟骨細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
軟骨細胞前駆体細胞が、軟骨又は骨状態又は疾患を有する対象から得られた初代細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
ステップが、in vitroで実施される、請求項1から35までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
作製された細胞及び/又は組織が、対象に投与される、請求項1から36までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
請求項1から37までのいずれか一項に記載の方法に従って作製された、関節様非肥大軟骨細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織の単離された集団。
【請求項39】
関節様非肥大軟骨細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織の集団と、任意選択で、希釈剤又は担体、任意選択で、PEG、ヒドロゲル、骨足場、骨代用品足場又はマトリゲルを含む組成物。
【請求項40】
組成物が、細胞スラリーである、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
請求項38に記載の単離された細胞集団又は内皮細胞若しくは線維芽細胞をさらに含む、請求項39又は40に記載の組成物。
【請求項42】
細胞又は請求項1から41までのいずれか一項に記載の組成物と、足場を含む、軟骨又は骨組織製品。
【請求項43】
足場が、骨代用品である、請求項42に記載の骨組織製品。
【請求項44】
症状を寛解する及び/又はそれを必要とする対象を治療するための方法であって、請求項38から41までのいずれか一項に記載の細胞の集団及び/又は組織を投与するステップ及び/又は請求項42又は43に記載の製品を挿入するステップを含む、上記方法。
【請求項45】
症状を寛解する及び/又はそれを必要とする対象を治療するための、請求項38から41までのいずれか一項に記載の細胞の集団及び/又は組織又は組成物及び/又は請求項42又は43に記載の製品の使用。
【請求項46】
細胞の集団が、自己細胞から誘導される、請求項44又は45に記載の方法又は使用。
【請求項47】
細胞の集団が、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織について濃縮される、請求項44から46までのいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項48】
対象が、変形性関節症、離断性骨軟骨炎、多発性軟骨炎及びその他の軟骨疾患又は軟骨に影響を及ぼす関節傷害などの関節状態を有する、請求項44から47までのいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項49】
細胞の集団が、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織について濃縮される、請求項44又は45に記載の方法又は使用。
【請求項50】
濃縮された肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織は、足場に接着される、請求項49に記載の方法又は使用。
【請求項51】
対象が、骨の骨折、骨の破損などの骨状態を有するか、又は例えば、悪性腫瘍若しくは外傷によって骨置換を必要とする、又は軟骨無形成症、骨形成不全、骨粗鬆症又はその他のオステオパシーを有する、請求項44から46まで及び50のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項52】
沿軸中胚葉細胞の集団を作製する方法であって、
a.多能性幹細胞の出発集団を、原始線条誘導カクテルとともに培養して、CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉集団を誘導するステップと、
b.原始線条様中胚葉集団を、
i.FGFアゴニストと
ii.BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、そして
iii.1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を特定化するステップと
を含む、上記方法。
【請求項53】
CD73、CD105及び/又はPDGFRβを発現する細胞を濃縮するステップをさらに含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
沿軸軟骨形成中胚葉細胞の集団を単離する方法であって、
a.沿軸軟骨形成中胚葉を含む細胞の集団を、CD73特異的結合剤、CD105特異的結合剤及びPDGFRβ特異的結合剤を含むカクテルと接触させるステップと、
b.CD73+、CD105+及びPDGFRbeta+細胞について濃縮するステップと
を含む、上記方法。
【請求項55】
細胞が、フローサイトメトリーを使用して濃縮される、請求項53又は54に記載の方法。
【請求項56】
請求項52から55までのいずれか一項に記載の方法に従って調製された、単離された沿軸軟骨形成中胚葉細胞の集団。
【請求項57】
候補軟骨形成調節物質を試験する方法であって、
a.試験物質を、軟骨細胞前駆体系統細胞集団と接触させるステップであって、試験物質は、軟骨細胞前駆体系統細胞集団と、請求項1から37、52又は53のいずれか一項に記載の方法において任意のステップで接触されるステップと、
b.試験物質の不在下で作製された対照集団と比較した、軟骨細胞増殖、維持及び/又は分化に対する試験物質の効果を評価するステップと、そして
c.試験物質が、対照と比較して、増殖を増大又は減少させるか、及び/又は軟骨細胞維持若しくは分化に影響を及ぼす場合に、試験物質を候補軟骨形成調節物質と同定するステップと
を含む、上記方法。
【請求項58】
候補軟骨形成調節物質が、罹患軟骨又は骨を有する対象から単離された因子である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
因子が、関節炎及び/若しくは肥満を有する対象の関節、任意選択で、膝関節中の脂肪パッドから、又は対照として健常な対象から単離される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
試験物質が、BMP4アゴニストとともに添加され、試験物質が、試験物質の不在下で処理された対象と比較して、肥大を阻害するその能力について評価される、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
肥大が、フローサイトメトリーを使用して、任意選択で、前方及び側方散乱を評価することによって評価される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
関節軟骨細胞を単離する方法であって、
a.軟骨細胞を含む細胞の混合集団を、抗体:CD73細胞複合体の形成を可能にする条件下で、CD73と結合する抗体と接触させるステップと
b.抗体:CD73細胞複合体を単離するステップと
を含む、上記方法。
【請求項63】
細胞の混合集団が、非軟骨細胞様細胞、非関節軟骨細胞様細胞及び肥大軟骨細胞様細胞を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
抗体が、セファロースビーズ又は磁性ビーズのようなビーズなどのタグに連結される、請求項62又は63に記載の方法。
【請求項65】
候補関節軟骨細胞増殖インデューサーを評価する方法であって、
a.請求項1、2、4から37までのいずれか一項に記載の方法に従って作製された関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を得るステップと、
b.関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を、試験物質とともに培養するステップと、
c.関節様非肥大軟骨細胞様細胞増殖を測定するステップと、そして
d.試験物質の不在下で培養された関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織と比較した、増殖の増大を検出し、試験物質が、候補関節軟骨細胞増殖インデューサーであることを示すステップと
を含む、上記方法。
【請求項66】
候補肥大軟骨細胞増殖インデューサーを評価する方法であって、
a.請求項1、3から37までのいずれか一項に記載の方法に従って作製された肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を得るステップと、
b.肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を、試験物質とともに培養するステップと、
c.肥大軟骨細胞増殖を測定するステップと、そして
d.試験物質の不在下で培養された肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織と比較した、増殖の増大を検出し、試験物質が、候補肥大軟骨細胞増殖インデューサーであることを示すステップと
を含む、上記方法。
【請求項67】
任意選択で、フローサイトメトリーによって単離される、試験物質とともの培養に先立って、CD73関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織が単離される、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
関節様非肥大軟骨細胞及び/又は肥大軟骨細胞様細胞、細胞が、関節軟骨細胞特異的プロモーター、任意選択で、ラブリシンプロモーターエレメントと機能的に連結されたリポーター遺伝子(すなわち、関節軟骨細胞リポーター系)及び/又は肥大軟骨細胞特異的プロモーター、任意選択で、コラーゲン10プロモーターエレメントと機能的に連結されたリポーター遺伝子(すなわち、肥大軟骨細胞リポーター系)を含み、関節軟骨細胞分化を誘導する化合物が、関節軟骨細胞リポーター系活性を測定することによって同定され、肥大軟骨細胞分化を誘導する化合物が、肥大軟骨細胞リポーター系活性を測定することによって同定される、請求項65から67までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
増殖の増大が、以下の方法:3Hチミジン取り込みアッセイ、5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)取り込みアッセイ及びプロピジウムヨウ素アッセイのうち1種又は複数を使用して測定される、請求項65から68までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
試験化合物のAC細胞及び/又はGPC細胞保護活性及び/又は毒性を評価する方法であって、
a.請求項1から37までのいずれか一項に記載の方法に従って、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織及び/又はGPC様細胞及び/又は成長板軟骨を作製するステップと、
b.関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織及び/又はGPC細胞及び/又は軟骨様組織を、試験物質とともに培養するステップと、
c.試験物質の細胞/組織毒性又は軟骨細胞保護活性を測定するステップと、そして
d.試験物質の不在下で培養された、関節様非肥大軟骨細胞及び/又はGPC細胞及び/又は組織と比較した、細胞毒性の増大を検出し、試験物質が、関節軟骨細胞及び/又はGPC細胞に対して毒性であることを示すステップか、又は試験物質の不在下で培養された、関節様非肥大軟骨細胞及び/又はGPC細胞及び/又は組織と比較した、保護活性の増大(例えば、細胞毒性の減少)を検出し、試験物質が保護的であることを示すステップと
を含む、上記方法。
【請求項71】
細胞毒性が、以下のアッセイ:トリパンブルー色素アッセイ、ルシフェラーゼアッセイ、MTTアッセイ及びWST-1アッセイなどのテトラゾリウム(tetrazolim)塩変換アッセイのうち1種を使用して測定される、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
増殖、細胞毒性及び/又は保護活性が、以下の解析又はアッセイ:組織学的解析、グリコサミノグリカン及びプロテオグリカンの製造を定量するものなどの生化学的アッセイ、遺伝子発現解析、顕微鏡又はフローサイトメトリーによるラブリシン又はコラーゲン10などの蛍光リポーターの獲得/喪失、CD73細胞表面受容体発現の獲得又は喪失、細胞死についてのアッセイ及び軟骨細胞肥大を示し得る細胞の大きさについてのフローサイトメトリーのうち1種又は複数を使用して評価される、請求項65から70までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
AC様軟骨細胞及び/若しくは軟骨様組織又は肥大様軟骨細胞及び/又は軟骨様組織が、疾患メディエーターと、任意選択で、試験物質とともの培養に先立って接触される、請求項65から72までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
疾患メディエーターが、サイトカイン、任意選択で、IL-1β又は関節脂肪パッド成分である、請求項73に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、2013年4月5日に出願された米国仮特許出願第61/809,050号の優先権に基づいて、米国特許法第119条の利益を主張する特許協力条約出願である。
【0002】
本開示は、軟骨細胞及び軟骨、特に、関節軟骨細胞及び関節軟骨様組織並びにヒト多能性幹細胞由来の組織に類似する肥大軟骨細胞及び成長板軟骨を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
in vitroで多能性幹細胞から分化した細胞型を効率的に、再現可能に作製する能力により、広い範囲の変性疾患及び衰弱性疾患の治療のための細胞ベースの治療法の開発への扉が開けられた。変形性関節症(OA)は、成人10人中少なくとも1人に影響を及ぼし(Lawrence、Felsonら2008年)、関節の動きと関連する疼痛のために患者の生活の質を乏しいままにするので、このような治療法の候補である。OAの病原となる特徴として、基礎をなす軟骨下骨の肥厚及び骨増殖体(骨棘)の形成とともに関節を覆う関節軟骨の細胞外マトリックス(ECM)の分解が挙げられる。関節軟骨は、発生の初期に特定化され、成人期を通じて持続する関節軟骨細胞(AC)として知られる軟骨細胞の別個の亜集団によって作製される。ACは、通常の状況下で、関節軟骨の完全性を維持するよう機能するが、傷害又は疾患によって損傷を受けた軟骨を修復する能力はほとんど示さない。結果として、疾患が進行するにつれ、軟骨への損傷が、極めて広範囲なものとなり、患者の生活の質を改善するために関節置換などの外科的介入が必要になることが多い。ACは、その主要な機能が軟骨内骨化のプロセスを通して骨を形成することである成長板軟骨細胞(GPC)とは異なる(Colnot、2005年)。興味深いことに、OAの発症に伴って、ACは、この疾患の発病の一因となり得る肥大を含めたGPCの一部の特徴を獲得すると思われる。
【0004】
軟骨細胞及び軟骨置換は、いくつかの点で機械的装置の必要性を著しく低減し得る、OAの潜在的な新規治療法に相当する。しかし、この種の治療法は、適当な組織への接近及び十分な数の高度に濃縮されたACに依存している。成人間葉系幹細胞(MSC)がin vitroで軟骨細胞に分化できることは十分に確立されているが、ACを生じさせ得るかどうかは、それらから生じた軟骨様組織が早熟性の肥大を受けるので(Pelttari、Winterら2006年、Steinert、Ghivizzaniら2007年、Pelttari、Steckら2008年)不明確である。代替的に、ACが患者から直接採取され、それらの増殖する能力は限定的ではあるが、ex vivoでの組織作製のために使用されてきた。継代された軟骨細胞によって作製された組織は、線維軟骨の特徴を示し、これは、患者の生活の質を短期間改善し得るが、十分な体重を支える能力を欠くので最終的には分解を受ける(Tins、McCallら2005年、LaPrade、Burschら2008年)。胚性及び人工多能性幹細胞(ESC、iPSC)などの多能性幹細胞(PSC)は、これらの細胞がin vitroで適当な条件下で広範囲の細胞型を作製できるので、治療適用のための新規の、潜在的に制限のない軟骨細胞及び組織の供給源に相当し得る。
【0005】
軟骨細胞は、造血及び心血管系統を生じるよう運命づけられた側板中胚葉(LPM)の生成後に、順序付けられた時間的パターンで、初期胚において誘導され沿軸中胚葉から発生する(Lawson、Menesesら1991年、Kinder、Tsangら1999年)。誘導後、沿軸中胚葉のストリップは、体節に分割される(Tam及びTan1992年、Kulesa及びFraser 2002年)。体節発生は、一部は、転写因子パラキシス(TCF15)及びその発現が沿軸中胚葉の誘導と一致するTBX18によって調節される(Burgess、Rawlsら1996年、Bussen、Petryら2004年、Singh、Petryら2005年)。個々の体節は、次いで、軟骨及び脊柱を含めた中軸骨格を形成する腹側硬節と、背中の骨格筋及び真皮に発生する背側皮筋板にパターン形成される(Hirsinger、Jouveら2000年)。硬節の特定化は、2種の転写因子Meox1(Mankoo、Skuntzら2003年)及びNkx3.2(Bapx1)の発現を特徴とする。軟骨形成の可能性を有するコラーゲン2(Col2a1)陽性間葉系細胞の集団は、マウス発生のE12.5で硬節由来細胞から発生する(Akiyama、Chaboissierら2002年、Dao、Jonasonら2012年)。
【0006】
前駆体細胞を軟骨形成系統に分化させるための方法は確立されているが、ACを特定化し、最終的に、非肥大軟骨細胞を含有する軟骨組織を安定化する能力は、不十分にしか理解されていないままである。ACは、Wnt9a/14の並びに増殖及び分化因子5(GDF5/BMP14)、TGFβスーパーファミリーのメンバーの上方制御を特徴とする、将来の滑膜関節の部位に生じる細胞の線維性集団である、インターゾーン細胞に由来する(Archer、Dowthwaiteら2003年、Pacifici、Koyamaら2006年)。系統追跡研究から、GDF5発現インターゾーン細胞は、ACを含めたいくつかの関節組織を生じさせるが、GPC集団には寄与しないことが示された(Koyama、Shibukawaら2008年)。対照的に、GPCは、濃縮軟骨形成間充織から発生し、BMP2、4及び7並びにコラーゲン10を含めた肥大関連遺伝子を発現する。二次的骨化中心が生じ始める出生直後の7~8日目ほどの早期に、AC及びGPCの別個の領域が観察される(Murakami、Balmesら2004年、Blumer、Longatoら2007年)。これらの知見は、AC及びGPCが、発生の間に別々の前駆体集団から生じ、それ自体、別個の系統に相当し得るということを示唆している。
【0007】
いくつかの研究によって、in vitroでマウス(m)及びヒトESC及びiPSCから軟骨細胞を誘導することが可能であるということが実証されている。しかし、ほとんどが、分化の初期段階を支持するために血清ベースの培地を使用していた結果、混合性系統の最終段階培養物が生じた(Kramer、Hegertら2000年、zur Nieden、Kempkaら2005年、Hwang、Kimら2006年、Hwang、Vargheseら2008年、Jukes、Bothら2008年、Yamashita、Krawetzら2008年)。最近の研究は、分化へと向かわせる特定の経路のアゴニスト及びアンタゴニストを含む規定の培養培地の使用を報告した(Nakayama、Duryeaら2003年、Darabi、Gehlbachら2008年、Tanaka、Jokubaitisら2009年)。mESCでは、Tanakaら(2009年)が、Wntシグナル伝達にBMP阻害を組み合わせることにより、PDGFRαの発現及びFlk-1の発現の欠如によって同定される、軟骨形成能を有する沿軸中胚葉の生成がもたらされることを示した。この中胚葉はまた、いくつか心臓潜在性(cardiac potential)を示したが、造血細胞を生成する能力は示さず、BMPシグナル伝達に対する依存度が種々の種類の中胚葉を区別していることを示している。
【0008】
Oldershawら(Oldershaw、Baxterら2010年)は、血清不含プロトコールを使用した。Oldershawの方法を使用して、in vitro又はin vivoで組織は観察されなかった。
【0009】
Umedaら(Umeda、Zhaoら2012年)は、Runx2発現細胞を含む小結節をもたらすPDGF刺激を使用する方法を使用した。
【0010】
変形性関節症は、主に、関節の関節を覆う関節軟骨に影響を及ぼす変性性疾患である。関節軟骨は、傷害の際に自身を再生する極めて限定された能力しか有さず、したがって、細胞及び組織置換戦略は、この組織を効率的に置換する唯一の手段である。創薬及び変形性関節症などの関節疾患を有する患者における軟骨置換戦略のために、このような組織が大いに必要とされているにもかかわらず、現在、多能性幹細胞からヒト軟骨を製造する方法を欠いている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の一態様は、軟骨細胞系統細胞及び/又は軟骨様組織、任意選択で、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織及び/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための方法を提供し、方法は、
(a)原始線条様中胚葉細胞集団(例えば、ステージ2)、任意選択で、CD56+、PDGFRα+原始線条様中胚葉細胞集団を、
(i)FGFアゴニストと、
(ii)BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189及び/又はドルソモルフィンと、
(iii)任意選択で、1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431542及びWnt阻害剤、任意選択で、IWP2(N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド;Sigma)、Dickkopf関連タンパク質1(DKK1;R&D Systems)及び/又はXAV939(3,5,7,8-テトラヒドロ-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-チオピラノ[4,3-d]ピリミジン-4-オン;Sigma)と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップと、
(b)細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団から軟骨細胞前駆体集団を作製するステップとを含み、前記の軟骨細胞前駆体集団を作製するステップが、
(i)細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
(ii)高細胞密度CD73+、CD105+及び/又はPDGFRβ+沿軸中胚葉細胞集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニスト、任意選択で、TGFB1、TGFB2及び/又はTGFB3とともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団(例えば、ステージ3)を製造するステップと
を含み、
(c)(i)高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニスト(任意選択で、TGFβ1、TGFβ2及び/又はTGFβ3)とともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップか、又は
(ii)高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織(例えば、ステージ4)を製造するステップのいずれか
を含む。
【0012】
別の態様は、軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織、任意選択で、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織及び/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するための方法を含み、方法は、
(a)多能性幹細胞の出発集団を、
CD56及び/又はPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉細胞集団(例えば、ステージ1)を誘導するための原始線条誘導カクテルとともに培養するステップと、
(b)CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉細胞集団を、
(i)FGFアゴニストと、
(ii)BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189及び/又はドルソモルフィンと、
(iii)1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2及び/又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップと
(c)細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団から、軟骨細胞前駆体集団を作製するステップとを含み、前記の軟骨細胞前駆体集団を作製するステップが、
(i)CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
(ii)高細胞密度CD73+、CD105+及びPDGFRβ+沿軸中胚葉細胞集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと、
(d)(i)高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップか、又は
(ii)高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップと
を含む。
【0013】
一実施形態では、方法は、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するためのものである。別の実施形態では、方法は、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するためのものである。
【0014】
一実施形態では、高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団が、TGFβアゴニストとともに培養される長期間は、例えば、ラブリシン及びCILP2を発現する、非肥大軟骨細胞様及び/又は軟骨様組織を作製するためには、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも11週間、少なくとも12週間又はそれ以上である。
【0015】
一実施形態では、高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団が、BMP4アゴニストとともに培養される長期間は、コラーゲン2を発現する軟骨様組織又はコラーゲン10を発現する肥大軟骨細胞を作製するためには、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも11週間、少なくとも12週間又はそれ以上である。
【0016】
軟骨細胞様細胞を作製する方法であって、
(a)軟骨細胞前駆体細胞を、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
(b)高細胞密度軟骨細胞前駆体細胞を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養するステップと、
(c)(i)軟骨細胞前駆体細胞を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節軟骨様軟骨細胞を製造するステップか、又は
(ii)軟骨細胞前駆体細胞を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞系統細胞及び/若しくは軟骨様組織を製造するステップのいずれかと
を含む方法。
【0017】
一実施形態では、軟骨細胞前駆体細胞は、初代胎児軟骨細胞又は継代された胎児軟骨細胞である。
【0018】
一実施形態では、作製された細胞及び/又は組織が、対象に投与される。
【0019】
また、別の実施形態では、本明細書に記載される方法に従って作製された、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織及び/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織の単離された集団が提供される。
【0020】
さらなる態様は、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織及び/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織の集団と、担体、任意選択で、PEG、ヒドロゲル、骨足場、骨代用品足場及び/又はマトリゲルとを含む組成物を含む。一実施形態では、担体は、医薬品等級である。
【0021】
一実施形態では、単離された集団は、希釈剤又は担体、任意選択で、製薬用希釈剤を含む組成物に含まれる。一実施形態では、希釈剤は、任意選択で、グリセロール及び/又はDMSOのような凍結保存剤、血清及び、ヒト血清アルブミンのようなアルブミンを含む培養培地である。
【0022】
さらなる態様は、本明細書に記載される細胞又は組成物を含む軟骨及び/又は骨組織製品及び足場を含む。
【0023】
別の態様は、本明細書に記載された方法を使用して作製された細胞及び/若しくは組織を投与するステップ並びに/又は本明細書に記載される軟骨及び/若しくは骨組織製品を移植するステップを含む、症状を寛解させる及び/又はそれを必要とする対象を治療するための方法を含む。
【0024】
また、別の態様では、症状を寛解する及び/又はそれを必要とする対象を治療するための、本明細書に記載される方法を使用して作製された細胞及び/若しくは組織並びに/又は前記細胞及び/若しくは組織を含む軟骨及び/若しくは骨組織製品の使用が提供される。
【0025】
さらなる態様は、沿軸中胚葉細胞集団を作製する方法であって、
(a)多能性幹細胞の出発集団を、原始線条誘導カクテルとともに培養して、CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉細胞集団(例えば、ステージ0)を誘導するステップと、
(b)CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉細胞集団を
(i)FGFアゴニストと、
(ii)BMP阻害剤、任意選択で、ノギン(Noggin)、LDN-193189、ドルソモルフィン(Dorsomorphin)と、そして
(iii)1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524;及びWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2、及び/又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップと
を含む方法を含む。
【0026】
細胞を単離する方法及びスクリーニングアッセイも提供される。
【0027】
本開示のその他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなる。しかし、当業者には、この詳細な説明から本開示の趣旨及び範囲内で種々の変法及び改変が明らかとなるので、詳細な説明及び特定の例は、本開示の好ましい実施形態を示すが、単に例示として与えられると理解されなければならない。
【0028】
本開示の一実施形態を、ここで、図面との関連で説明する:
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】ヒト多能性幹細胞(hPSC)からの沿軸中胚葉、軟骨細胞前駆体及び軟骨組織の血清不含分化を示す図である。(A)hPSCは、胚様体としての分化の1~4日目にアクチビンA、BMP4及び塩基性(b)FGFを使用する原始線条様中胚葉集団(ステージ1)の誘導を含む4ステージで分化される。4日目(T4)に、中胚葉集団は、フローサイトメトリーによる細胞表面でのCD56及びPDGFRaの発現によってモニタリングされる。(B)4日目、中胚葉細胞は、4~6日目のドルソモルフィン、BMP阻害剤、TGFβ阻害剤SB431542及びbFGF並びに4~15日目のbFGFの処理によって単層培養で沿軸中胚葉の運命に特定化される(ステージ2)。15日目、沿軸中胚葉細胞は、TGFB3の存在下で、およそ10日間、マイクロマスと呼ばれる高密度「スポット」でプレーティングすることによってか、又はコラーゲンコーティングされた膜フィルター上にプレーティングすることによって(示されていない)軟骨細胞前駆体を作製し得る(ステージ3)。軟骨細胞前駆体は、TGFB3(関節)又はBMP3(成長板様)を用いる長期刺激、例えば、12週間によって、分化のステージ4の間に軟骨組織形式で、関節軟骨細胞又は成長板様軟骨細胞に特定化され得る。組織は、少なくとも7カ月間培養物で維持された。hESC(C)及びhIPSC(D,E)からの原始線条様集団の効率的な誘導は、分化の3日目にフローサイトメトリーによってCD56及びPDGFRαの発現によって確認された。hESCは、以下のサイトカインを用いて原始線条集団を作製するよう誘導された:アクチビンA(2ng/ml)、BMP4(3ng/ml)及び塩基性(b)FGF(5ng/ml)。hiPSCは、胚様体としての分化の1~3日目に、Wnt経路アゴニストCHIR99061(1μM)の存在下(C)又は不在下(D)、アクチビンA(3ng/ml)、BMP4(1ng/ml)、bFGF(5ng/ml)を使用して原始線条様中胚葉集団(ステージ1)を作製するよう誘導された。
【0030】
【
図2】hPSC由来の沿軸中胚葉の特性決定を示す図である。(A)さらなる因子なし(0DM、FGFなし)、FGF、4μM DM又は4μM DM+FGFを用いて処理された5日目中胚葉のフローサイトメトリー解析。5日目プロファイルは、KDR及びPDGFRa発現を表し、二重陽性集団(ゲーティングした)は、心臓潜在性(20)を有する中胚葉を示す。FGFを用いる処理は、5日目に少ないPDGFRa発現をもたらす。(B)分化の15日目の中胚葉集団での細胞表面マーカー、CD73、CD105及びPDGFR-βの発現を示す図である。(C)Wnt阻害はまた、CD73及びCD105発現の効率を改善し得る。4日目~6日目の間の実験的細胞処理は、wnt経路阻害剤IWP2の存在下又は不在下でのドルソモルフィン、bFGF、TGFβ阻害剤(SB431542)の組合せを含む。示されるように導かれた15日目中胚葉集団のCD73及びCD105のフローサイトメトリー解析。(D)示された因子で導かれた15日目中胚葉集団の遺伝子発現解析。Nkx2.5は、心臓転写因子であり、Meox1及びNkx3.2は、沿軸中胚葉及び体節転写因子である。(E)示されるように15日目中胚葉集団から導いた1日齢マイクロマス及び1週間齢マイクロマスを表す顕微鏡写真。(F)示されるように15日目中胚葉から導かれた1週齢マイクロマスにおける心臓トロポニンT(cTnT)発現のフローサイトメトリー解析。(G)DM+FGF処理沿軸中胚葉から導かれた4週齢マイクロマスは、軟骨組織を作製するが、FGF単独を用いて特定化された中胚葉は、軟骨様組織を作製しない(非接着性凝集体を参照のこと)。
【0031】
【
図3】CD73+CD105+PBeta+細胞は、軟骨細胞潜在力及びin-vitroで軟骨様組織を作製する潜在力を含有する。(A)12日目及び15日目のDM+FGF処理沿軸中胚葉のフローサイトメトリー解析。二重陽性(CD73+CD105+及びCD73+PBeta+)集団が、細胞選別によって二重陰性集団から単離され、マイクロマス培養でプレーティングされた。(B)培養10日後のマイクロマス培養物。(C)培養2週間後のマイクロマス培養物。(D)培養5週間後の選別された集団に由来する軟骨組織の写真。
【0032】
【
図4】TGFB3及びBMP4は、軟骨細胞並びに関節軟骨及び成長板軟骨表現型を有する軟骨様組織を特定化する。(A)TGFB3又はBMP4を用いて導かれた5週間齢マイクロマスの顕微鏡写真、20x倍率。(B)TGFB3又はBMP4を用いて導かれた13週間軟骨組織の組織学(トルイジンブルーを用いて染色された)。トルイジンブルーは、軟骨組織を異染性に染色し、これらの組織切片は、ピンク色/紫色であり、これは、軟骨組織が存在することを示す。(C)3週及び5週齢マイクロマスの前方及び側方細胞散乱パラメータのフローサイトメトリー解析。側方散乱は、細胞粒度を示し、前方細胞散乱は、細胞の大きさを示す。(D)hPSC由来マイクロマス組織の、胎児初代軟骨細胞由来のマイクロマス組織及び発生中のヒト胎児大腿骨軟骨に対する比較。関節軟骨領域は、拡大した(肥大)と思われる細胞を含有する成長板様領域と比較して、より小さい細胞の大きさを有すると思われる。マイクロマス中並びに胎児大腿骨中の軟骨組織は、トルイジンブルー染色を用いて均一に染まる(像は、ピンク色/紫色であり、軟骨タンパク質の存在を示す)。BMP4処理マイクロマス組織は、多数の拡大した細胞を含有し、これは、成長板軟骨に相当する胎児軟骨の下のパネルと同様である。TGFB3処理マイクロマス培養物は、あったとしても、わずかな拡大した軟骨細胞しか含有せず、関節軟骨の部位である胎児軟骨の上のパネルと同様と思われる。(E)肥大軟骨細胞を作製するためにBMP4の代わりにGDF5を使用した顕微鏡写真。(F)12週間後にトルイジンブルーを用いて染色されたhiPSC由来の軟骨組織の組織学的解析。(G,H)II型コラーゲン(G、8週組織)及びラブリシン(H、12週組織)の、hESC由来軟骨組織の免疫組織化学的染色。
【0033】
【
図5】それぞれ、分化のステージ3及び4の間のTGFB3又はBMP4の存在下での軟骨細胞特定化の遺伝子発現解析。一般的な軟骨細胞遺伝子Sox9(A)及びコラーゲン2(B)、肥大遺伝子コラーゲン10(C)、Runx2(D)、オステリックス(E)及びアルカリホスファターゼ(F)、関節軟骨関連遺伝子ラブリシン(G)及び軟骨中間体層タンパク質2(CILP2)(H)、インターゾーン関連(関節前駆体)遺伝子GDF5(I)、ERG(J)及びWnt9a(K)。発現は、TBPに関連したコピー数(n=3~8生物学的複製物)であり、初代胎児軟骨細胞(16~19週間齢、n=4)、初代健常成人関節軟骨細胞(n=2)及び成人の腸骨稜から単離された成長板様軟骨細胞(n=1)に対して比較される。T15中胚葉は、15日目hESC由来沿軸中胚葉(DM+FGF処理)を示す。エラーバーは、s.e.m.を示す。
【0034】
【
図6】CD73は、関節軟骨細胞によって発現される。TGFB3又はBMP4の存在下での、9~10週間のマイクロマス培養後の、初代軟骨細胞(A)健常成人関節軟骨細胞及び腸骨稜GPC様軟骨細胞(B)初代胎児軟骨細胞、初代(C)又は継代された(継代(P)2、D)胎児軟骨細胞並びに(E,F)TGFB3又はBMP4の存在下で導かれた11週間後のhPSC由来軟骨細胞のフローサイトメトリー解析。(G)3日、10日及び2週間後の、TGFB3を用いて処理された、T12及びT15沿軸中胚葉集団並びにマイクロマス培養物でのCD73及びPDGFR-β細胞表面発現の経時的推移。(H)3日、7日、10日及び2~5週間後の、TGFB3処理マイクロマスでのCD73発現の経時的推移。
【0035】
【
図7】hPSC由来軟骨細胞は、in vivoでそれぞれの関節又は肥大軟骨細胞表現型を維持する。TGFβ3又はBMP4を用いて処理されたマイクロマス組織(8~12週齢)が、コラゲナーゼ処理によって解離され、軟骨細胞が、12週間、免疫不全マウス中に皮下注入された。12週間後に移植片を回収し、組織学的に解析した。切片は、プロテオグリカンの存在を示すためにトルイジンブルー(A、C)を用いて、石灰化の面積を同定するためにフォンコッサ(B)を用いて染色された。II型(D)及びX型コラーゲン(E)が免疫組織化学的に検出された。in vivoで12週間後、TGFβ3処理軟骨細胞由来移植片は、II型コラーゲン(D)について染まり、トルイジンブルー(A、C)を用いて異染性に染まり、フォンコッサ(B)又はX型コラーゲンの陽性の領域(E)は見られなかった。12週間後に、BMP4処理軟骨細胞由来の移植片において、石灰化(B)、フォンコッサ陽性、黒色の領域が同定されたが、これらの領域は、プロテオグリカンをほとんど(A、C)含有しておらず、II型(D)及びX型コラーゲン(E)について陽性に染まり、これは、石灰化した軟骨の発生を示す。
【0036】
【
図8】TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3は、hPSC由来沿軸中胚葉から関節軟骨細胞を作製した。示されるようなTGFβアゴニストの存在下(10ng/ml)でマイクロマス培養の12週間後のCOL2A1、ラブリシン及びCILP2遺伝子発現。値は、TBPに関連したコピー数mRNAに相当する。エラーバーは、s.e.m.を示す。
【0037】
【
図9】hPSC由来関節様軟骨は、炎症性分子IL1βに適宜反応する。(A)実験計画が表されている。関節軟骨組織は、TGFβ3の存在下で10週間、hPSCから導かれた。軟骨組織(マイクロマス)は、示されるようにTGFβ3又はIL1β(10ng/ml)を用いて2週間(10~12週)処理された。軟骨組織は、組織学的に解析され、遺伝子発現解析のために解離された。hPSC由来関節軟骨細胞は、外因性IL1βに応じて、MMP13(B)、MMP2(C)、ADAMTS4(D)及びADAMTS5(E)の発現を有意に上方制御した。(F、G)細胞外マトリックス成分、COL2A1及びACANをコードする遺伝子は、IL1βに応じて有意に下方制御される。(H、I)表層軟骨細胞遺伝子PRG4(ラブリシン)及びCILP2の発現は、IL1βの存在下で下方制御された。(J)VEGFは、IL1βの存在下で上方制御された。値は、TBPに関連したコピー数mRNAに相当する(n=7)。エラーバーは、s.e.m.を示す。(K)示されるように処理した後12週の組織の組織学的解析。異染性トルイジンブルー染色は、プロテオグリカンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
1.定義
【0039】
用語「原始線条様中胚葉細胞集団」とは、本明細書において、ブラキュリ及び細胞表面マーカーCD56及びPDGFRαを発現する中胚葉細胞の集団を意味する。例えば、原始線条様中胚葉細胞集団は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は約90%のCD56を発現する細胞を含み得、例えば、50% CD56/PDGFRα+細胞を使用する開示された方法を用いて、PDGFRα軟骨分化が得られた。
【0040】
用語「細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団」とは、本明細書において、CD73、CD105及び/又はPDGFR-β及び沿軸中胚葉転写因子Meox1を発現する中胚葉細胞を意味する。例えば、沿軸中胚葉細胞集団は、
図2Dに示されるようにMeox1、CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する少なくとも70%の細胞を含む。Meox1発現は、非FGF及びドルソモルフィン処理細胞と比較して、FGF及びドルソモルフィン処理細胞において増大される。
【0041】
本明細書において、用語「発現する」とは、細胞におけるポリヌクレオチドの転写又はポリペプチドの翻訳を指し、その結果、分子を発現する細胞において、その分子を発現しない細胞中にあるよりも分子のレベルが高く測定される。分子の発現を測定する方法は、当業者に周知であり、制限されるものではないが、ノーザンブロッティング、RT-PCR、in situハイブリダイゼーション、ウエスタンブロッティング及びFACSなどの免疫染色が挙げられる。
【0042】
「+」とも表される用語「発現している」とは、本明細書において、細胞タンパク質レベルに関して、例えば、FACS解析によって測定されるような、タンパク質を発現していない細胞と比較して検出可能なタンパク質発現を意味する。FACS解析を使用して、細胞は、シグナルの平均蛍光が、抗体で染色されなかった細胞(非染色対照)又は抗体を用いて染色されたが細胞表面にタンパク質を発現しない細胞より明るい場合に、細胞表面にタンパク質を陽性に発現していると考えられる。細胞集団に関して、「発現している」とは、本明細書において、その細胞集団中の細胞の少なくとも50%がマーカーを発現することを意味する。一実施形態では、細胞のうち、例えば70%、80、90%又はそれ以上が陽性であり、マーカーを発現するような、発現している細胞、例えば、CD73又はその他のマーカーを発現している細胞が選別される。
【0043】
「-」とも表される用語「発現を欠いている」とは、本明細書において、細胞タンパク質レベルに関して、例えば、FACS解析によって測定されるような、タンパク質を発現している細胞と比較して検出不能なタンパク質発現を意味する。細胞集団に関して、「発現を欠いている」とは、本明細書において、細胞集団中の細胞の25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満又は1%未満が、マーカーを発現することを意味する。
【0044】
用語「培養すること」とは、本明細書において、接着、懸濁液又は3D培養物で細胞をインキュベートすること及び/又は継代すること。本明細書において、用語「接着培養」とは、細胞が固体表面上で培養される細胞培養系を指し、固体表面は、順に、不溶性基板でコーティングされていてもよく、これは、順に、以下に列挙されるもの又は任意の、細胞が培養物中で増殖するか、若しくは安定化されるのを可能にするその他の化学的若しくは生物学的物質などの別の基板の表面コートでコーティングされてもよい。細胞は、固体表面とか、又は基板と堅固に接着している場合もしていない場合もある。接着培養の基板は、組織培養処理プラスチック、ポリオルニチン、ラミニン、ポリ-リシン、精製コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、テネイシン、ビトロネクチン、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、ポリグリコール酸(poly glycolytic acid)(PGA)、ポリ乳酸(PLA)及びポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)のうち任意の1種又は組合せを含み得る。一実施形態では、細胞は、マトリゲル(登録商標)コーティングされたプレート上にプレーティングされる。別の実施形態では、細胞は、フィブロネクチンコーティングされたプレート上にプレーティングされる。細胞は、フィルター培養及びマイクロマス培養で培養され得る。一実施形態では、細胞は、膜フィルター、任意選択で、トランスウェルシステム(Millipore、alvatexが2ブランドである)の一部として組織培養ディッシュ中に入れられたものの上にプレーティングされる。基板はまた、CPP(ポリリン酸カルシウム)などの骨足場代用品又はその他の利用可能な医薬上利用可能な足場であり得る。マイクロマス培養は、細胞の高密度懸濁液からなり、基板の小さい領域に接着することが許される(例えば、200,000~500,000個細胞が、基板の0.2~1cm径の円形領域に接着する)。例えば、3Dプリンティングによって、任意の形状又は大きさの基板が使用、調製され得る。細胞培養の関連で使用されるような、用語「懸濁液」は、その技術分野におけるように使用される。すなわち、細胞培養懸濁液は、細胞が表面と接着しない細胞培養環境である。当業者ならば、それだけには限らないが、フローフード、インキュベーターなどの設備及び/又は細胞を常に移動しているよう維持するために使用される設備、必要に応じて、例えば、回転板プラットフォーム、シェーカーなどの使用を含めた懸濁培養技術には精通しているであろう。
【0045】
用語「接触している」又は「~とともに培養している」は、成分(単数又は複数)及び細胞/組織を、in vitroで一緒にインキュベートすること(例えば、化合物を培養中の細胞に添加すること)を含むものとし、「接触している」又は「~とともに培養している」のステップは、任意の適した方法で実施され得る。例えば、細胞は、接着培養で、又は懸濁培養で、又は3D培養で処理され得、成分は、時間的に実質的に同時に(例えば、カクテル中で一緒に)又は逐次(例えば、第1の成分の添加から1時間、1日又はそれ以上内に)添加され得る。細胞はまた、増殖因子などの別の物質又は細胞を安定化させるための、若しくは細胞をさらに分化させるためのその他の分化物質若しくは環境と接触され得、当技術分野で公知の条件下で細胞を培養することを含む。ステージ1は、例えば、通常、懸濁培養で実施される。ステージ2は、一実施形態では、懸濁液で実施される。例えば、細胞が、マイクロマス又はフィルター形式の代わりにペレット形式で凝集される場合には、ステージ3及び/又は4は、例えば、懸濁培養で実施され得る。ペレット培養物は、試験管中の懸濁液中で浮遊し得る高密度の細胞のクラスターである。一実施形態では、ステージの一部は、懸濁液又は混合懸濁液及び接着、任意選択で、3D培養で実施される。例えば、一部の組織は、経時的に非接着性になり、したがって、ステージ4の培養期間の一部について懸濁液中にある。
【0046】
用語「高細胞密度」とは、本明細書において、約0.2cm~約2cm径表面積(2D)あたり約200,000個細胞~約1,000,000個細胞を意味するか、又はマイクロマスに関しては、細胞が、マイクロマス「スポット」のために許可される小さい表面積に接着するのを可能にするには、約20マイクロリットルの培地あたり少なくとも約100,000個細胞又は約20マイクロリットルの培地あたり、例えば、最大約2,000,000個細胞である。膜フィルターについては、面積は、購入される市販の膜に応じて変わり、細胞が接着することを可能にするよう、例えば、およそ400,000個細胞~約2,000,000個細胞が、例えば、約1cm~約2cmのシリンダー型膜フィルター含有インサート中に、約200マイクロリットル~約500マイクロリットルの培地でプレーティングされ得る。マイクロマス及び膜フィルター培養の両方において、細胞は、約1~5細胞層で接着し、組織は、接着後に「より厚く」増殖することが許される。同様の細胞密度は、CPPなどの骨代用品足場上に播種するために使用され得る。
【0047】
本明細書において、「血清不含」とは、所与の細胞集団を培養するために使用される溶液、例えば、培地中の血清の不在を指す。例えば、血清不含培地又は環境は、4、3、2又は1%未満の血清を含有し得る。好ましい実施形態では、血清不含組成物は、血清を含有しないか、又は既定の培地に添加される成分の単離から微量の血清のみを含有する(例えば、0%の添加された血清を含有する)。
【0048】
用語「BMP阻害剤」とは、本明細書において、BMPシグナル伝達の任意の阻害剤を意味し、例えば、任意選択で、ドルソモルフィン(DM)、ノギン、コーディン、LDN-193189、可溶性BMPR1a及び/又は可溶性BMPR1bから選択される、1型BMP受容体阻害剤、BMPリガンド及び/又は可溶性BMP受容体を含む。
【0049】
用語「FGFアゴニスト」とは、本明細書において、例えば、FGF又はFGFシグナル伝達経路を活性化する、例えば、FGF受容体と結合し、活性化する小分子を含めた、サイトカインなどの分子を意味する。
【0050】
用語「FGF」とは、本明細書において、任意選択で、天然に存在する活性コンジュゲート及び断片を含めた、その活性コンジュゲート及び断片を含めた、線維芽細胞増殖因子及び任意選択で、bFGF、FGF2、FGF4、FGF9及び/又は任意選択で、FGF19、21、3、5、6、8a、16~18、20及び/又は23、例えば、ヒトFGF1(遺伝子番号:2246)、FGF2(bFGFとしても知られる;遺伝子番号:2247)、FGF3(遺伝子番号:2248)、FGF4(遺伝子番号:2249)、FGF5(遺伝子番号:2250)、FGF6(遺伝子番号:2251)、FGF7(遺伝子番号:2252)、FGF8(遺伝子番号:2253)、FGF9(遺伝子番号:2254)及びFGF10(遺伝子番号:2255)を指す。特定の実施形態では、FGFは、bFGF、FGF2、FGF4及び/又はFGF9である。本明細書において、「FGFの活性コンジュゲート及び断片」は、FGF受容体と結合し、活性化する、任意選択で、FGFシグナル伝達を活性化する、線維芽細胞増殖因子のコンジュゲート及び断片を含む。
【0051】
用語「TGFβアゴニスト」又はTGFbアゴニストとは、本明細書において、TGFβシグナル伝達を促進する任意の分子、例えば、TGFb1、TGFb2及び/又はTGFb3を含む。
【0052】
用語「TGFβ阻害剤」とは、本明細書において、受容体ALK4及びALK7及び/又はTGF-3RIを阻害する任意の分子、例えば、SB431542(Sigma Aldrich)A83-01(Tocris、2929)、D4476、GW788388、LY364947、RepSox、SB505124、SB525334(Sigma Aldrich)及びSD208を意味する。
【0053】
用語「BMP4アゴニスト」とは、本明細書において、例えば、GDF5、GDF6、GDF7、BMP4、BMP2、BMP6、BMP7及び/又はBMP10を含めた、BMP4の受容体を活性化する任意の分子、任意選択で、任意のBMP又はGDF意味する。
【0054】
用語「BMP4」(例えば、遺伝子番号:652)は、本明細書において、骨形成タンパク質4、例えば、ヒトBMP4、並びに、任意選択で、例えば、BMP4受容体シグナル伝達を活性化し得る、天然に存在する活性コンジュゲート及び断片を含めたその活性コンジュゲート及び断片を指す。
【0055】
用語「nodalアゴニスト」とは、本明細書において、肝細胞系統細胞において「nodal」(例えば、遺伝子番号:4338などのヒトnodal)又は「アクチビン」などのnodalシグナル変換を活性化する任意の分子を意味する。
【0056】
用語「アクチビン」又は「ActA」は、本明細書において、「アクチビンA」(例えば、遺伝子番号:3624)、例えば、ヒトアクチビン、並びに、例えば、nodalシグナル変換を活性化し得る、任意選択で、天然に存在する活性コンジュゲート及び断片を含めたその活性コンジュゲート及び断片、並びに、天然に存在する活性コンジュゲート及び断片を含めた、その活性コンジュゲート及び断片を指す。
【0057】
用語「wntアゴニスト」とは、本明細書において、軟骨細胞系統細胞においてwnt/β-カテニン受容体シグナル伝達を活性化する任意の分子を意味し、例えば、Wnt3a並びにCHIR99021(Stemolecule(商標)CHIR99021 Stemgent)、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)(Cayman Chemical(カタログ:13123))又はStemgent製のStemolecule(商標)BIO(カタログ:04003)などのGSK3選択的阻害剤を含む。CHIR99021は、GSK3の選択的阻害剤である。考慮されるGSK3選択的阻害剤は、例えば、Wntシグナル伝達経路におけるGSK-3α/βの選択的阻害剤である。
【0058】
用語「Wnt3a」は、本明細書において、ウイングレス型MMTV組込み部位ファミリー、メンバー3A因子(例えば、遺伝子番号:89780)、例えば、ヒトWnt3a、並びに、天然に存在する活性コンジュゲート及び断片を含めた、その活性コンジュゲート及び断片を指す。
【0059】
用語「Wntアンタゴニスト」又は「wnt阻害剤」とは、本明細書において、例えば、IWP2(N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド;Sigma)、Dickkopf関連タンパク質1(DKK1;R&D Systems)及び/又はXAV939(3,5,7,8-テトラヒドロ-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-チオピラノ[4,3-d]ピリミジン-4-オン;Sigma)を含めた、軟骨細胞系統細胞においてwnt/βカンテニン(cantenin)受容体シグナル伝達を阻害する任意の分子を意味する。
【0060】
用語「アゴニスト」とは、本明細書において、例えば、経路又はシグナル伝達分子のアクチベーターを意味する。分子のアゴニストは、分子(例えば、nodal)の生物活性の実質的に同一のもの又はその一部を保持し得る。例えば、nodalアゴニストとは、nodalシグナル伝達を選択的に活性化する分子を意味する。
【0061】
用語「阻害剤」とは、本明細書において、例えば、経路又はシグナル伝達分子の選択的阻害剤を意味する。分子(例えば、BMP4阻害剤)の阻害剤又はアンタゴニストは、分子の天然に存在する形態の1種又は複数の活性を阻害し得る。例えば、BMP4阻害剤は、BMP4シグナル伝達を選択的に阻害する分子である。
【0062】
用語「選択的阻害剤」とは、本明細書において、阻害剤が、選択的実体又は経路を、関連分子よりも少なくとも1.5×、2×、3×、4×又は10×より効率的に阻害することを意味する。
【0063】
用語「特定化する」とは、本明細書において、細胞を特定の細胞の運命に向けて委ねるプロセスを意味し、その前には、細胞型はまだ決定されておらず、細胞が特定の運命に向けて有するあらゆる傾向も、別の運命に逆転又は変換され得る。特定化は、細胞の運命が通常の条件下では変更され得ない状態を誘導する。特定化は、分化の第1のステップである。
【0064】
用語「幹細胞」は、本明細書において、増殖、自己再生可能であり、多数の、順に、分化した嬢細胞又は分化可能な娘細胞を生じさせることができる母細胞を作製する能力を有する前駆体又は前駆体細胞をより多く生じさせることができる未分化細胞を指す。娘細胞は、例えば、親の発生能力を有する1種又は複数の細胞を保持しながら、増殖し、続いて、1種又は複数の成熟した細胞型に分化する後代細胞を製造するよう誘導され得る。用語「幹細胞」は、胚幹細胞及び多能性幹細胞を含む。
【0065】
用語「胚幹細胞」は、胚由来胚盤胞(embryonic blastcyst)の内部細胞塊の多能性幹細胞を指すよう使用される(例えば、米国特許第5,843,780号、同6,200,806号を参照のこと)。このような細胞はまた、体細胞核移植に由来する胚盤胞の内部細胞塊から得ることができる(例えば、米国特許第5,945,577号、同5,994,619号、同6,235,970号を参照のこと)。
【0066】
用語「多能性幹細胞」は、本明細書において、異なる条件下で、2種以上の分化した細胞型に分化する能力、例えば、3種の生殖細胞層に特徴的な細胞型に分化する能力を有する細胞を指す。多能性細胞は、例えば、ヌードマウス奇形腫形成アッセイを使用して、2種以上の細胞型に分化するその能力によって特性決定される。多能性はまた、胚幹(ES)細胞マーカーの発現によって証明される。多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)及び胚幹細胞を含む。一実施形態では、多能性幹細胞は、体細胞に由来する。一実施形態では、多能性幹細胞は、ヒト体細胞に由来する。
【0067】
本明細書において、用語「iPSC」及び「人工多能性幹細胞」は、同義的に使用され、例えば、POU4F1/OCT4(遺伝子番号;5460)を、それに制限されないが、SOX2(遺伝子番号;6657)、KLF4(遺伝子番号;9314)、cMYC(遺伝子番号;4609)、NANOG(遺伝子番号;79923)、LIN28/LIN28A(遺伝子番号;79727))と組み合わせて含む1種又は複数の遺伝子の発現を誘導することによって、非多能性細胞、通常、成体体細胞から人工的に導かれた(例えば、誘導された又は完全な逆転によって)多能性幹細胞を指す。発現は、例えば、強制的な遺伝子発現によってか、又は小分子、小さいRNA、非組込み遺伝子発現ベクター若しくはタンパク質を使用して誘導され得る。
【0068】
用語「軟骨細胞様細胞」とは、本明細書において、軟骨細胞及び細胞化学的に同様であり、例えば、Sox9及びコラーゲン2を含めた軟骨細胞マーカーを発現し、軟骨細胞として挙動する細胞を意味する。軟骨細胞は、関節軟骨様軟骨細胞若しくは前駆体又は肥大可能である軟骨細胞(任意選択で、GPC様細胞とも呼ばれる)若しくはその前駆体であり得る。
【0069】
用語「軟骨様組織」とは、本明細書において、軟骨組織並びに組織学的に同様であり、軟骨マーカー、例えば、コラーゲン2及びアグリカンを発現し、関節軟骨組織及び/又は成長板軟骨様組織を含めた軟骨として挙動する組織を意味する。
【0070】
用語「関節軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨組織」とは、本明細書において、例えば、関節軟骨細胞様細胞を含む軟骨様組織を含めた、関節軟骨細胞及び/又は関節軟骨細胞様細胞を含む、任意選択で、濃縮されたか、又は混合した集団を意味する。
【0071】
用語「肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨組織」又は「GPC様細胞及び/又は軟骨組織」とは、本明細書において、例えば、肥大軟骨細胞様細胞を含む軟骨様組織を含めた、肥大軟骨細胞及び/又は肥大軟骨細胞様細胞(例えば、腸骨稜軟骨細胞)を含む、任意選択で、濃縮されたか、又は混合した集団を意味する。
【0072】
用語「関節軟骨様組織」又は「軟骨含有非肥大軟骨細胞様細胞」は、組織学的に同様であり、ラブリシン及び/又はCILP2などの関節軟骨マーカーを発現し、関節軟骨として挙動する。例えば、関節軟骨は、in vivoで安定な軟骨として維持される。
【0073】
用語「成長板軟骨様組織」とは、本明細書において、組織学的に同様であり、コラーゲンX、RUNX2、SP7及び/又はアルカリホスファターゼ(alkaline phosphates)を含めた、成長板軟骨組織において見出される軟骨マーカーを発現し、成長板軟骨として挙動する軟骨組織を意味する。例えば、成長板軟骨は、in vivoで、新規骨が生じる足場を提供するよう機能する。
【0074】
細胞の単離された集団に関して、用語「単離された集団」は、本明細書において、細胞の混合集団又は不均一な集団から回収され、分離された細胞の集団を指す。いくつかの実施形態では、単離された集団は、細胞が単離されるか、又は濃縮された不均一な集団と比較して、実質的に純粋な細胞の集団である。
【0075】
特定の細胞集団に関して、用語「実質的に純粋な」は、総細胞集団を構成する細胞に関して、少なくとも約65%、好ましくは、少なくとも約75%、少なくとも約85%、より好ましくは、少なくとも約90%及び最も好ましくは、少なくとも約95%純粋である細胞の集団を指す。
【0076】
用語「濃縮すること」又は「濃縮された」は、本明細書において同義的に使用され、1種の細胞の収率(割合)が、出発培養物又は調製物中のその種類の細胞の割合を上回って、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%又は少なくとも約60%増大されることを意味する。濃縮すること及び部分的に精製することは、同義的に使用され得る。
【0077】
細胞の集団は、細胞表面マーカーなどのマーカーをベースとする方法(例えば、FACS選別など)などの種々の方法を使用して濃縮され得る。
【0078】
用語「対象」は、本明細書において、ヒト、サル又は類人猿などの霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ヒツジ又はラット若しくはマウスなどのげっ歯類などの、及びそれらを含めた哺乳動物を含めた動物界のすべてのメンバーを含み、適宜、ヒトを指す。
【0079】
単離された細胞に適用されるような、用語「処理する」、「処理すること」、「処理」などは、細胞を任意の種類のプロセス若しくは条件に付すこと又は細胞に対して任意の種類の操作若しくは手順を実施することを含む。対象に適用されるように、この用語は、対象に医学的又は外科的配慮、ケア又は管理を提供することを指す。
【0080】
対象に適用されるような、用語「処理」は、本明細書において、臨床的結果を含めた有益な又は所望の結果を得ることを目的としたアプローチを指し、例えば、医薬的介入、手術、放射線療法及び自然療法的介入を含めた医学的手順及び適用並びに関節/骨障害を治療するための試験的治療を含む。有益な又は所望の臨床結果は、それだけには限らないが、検出可能か又は検出不能であるかにかかわらず、1種又は複数の症状又は状態の軽減又は寛解、疾患の程度の減少、疾患の安定化した(すなわち、悪化していない)状態、疾患の蔓延を妨げること、疾患進行の遅延又は減速、疾状の寛解又は緩和及び緩解(部分的又は完全かどうかにかかわらず)を含み得る。
【0081】
本明細書において、用語「投与すること」、「埋め込むこと」及び「移植すること」は、所望の部位での導入される細胞の少なくとも部分的局在性をもたらす方法又は経路によって、本明細書に記載される細胞組織及び/又は製品を対象中に送達することに関連して同義的に使用される。細胞は、関節に直接的に埋め込まれるか、或いは、埋め込まれる細胞又は細胞の成分の少なくとも一部が生存したままである対象中の所望の位置への送達をもたらす任意の適当な経路によって投与され得る。
【0082】
本開示の範囲を理解するうえで、用語「含む(comprising)」及びその派生語は、本明細書において、述べられた特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を特定するが、その他の述べられていない特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を排除しない制約がない用語であると意図される。前述のことは、用語「含む(including)」、「有する(having)」及びその派生語などの同様の意味を有する語句にも当てはまる。最後に、「実質的に」、「約」及び「およそ」などの程度の用語は、本明細書において、最終結果が大幅に変更されないような修飾された用語の合理的な量の逸脱を意味する。これらの程度の用語は、この逸脱が修飾する語句の意味を無効にしない場合には、修飾された用語の少なくとも±5%の逸脱を含むと考えられなければならない。
【0083】
本開示の範囲を理解するうえで、用語「からなる」及びその派生語は、本明細書において、述べられた特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を特定し、その他の述べられていない特徴、要素、成分、群、整数及び/又はステップの存在を排除する制約のある用語であると意図される。
【0084】
本明細書における終点による数的範囲の列挙は、その範囲内に包含されるすべての数及び分数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4及び5を含む)。すべての数及びその分数は、用語「約」によって修飾されていると推定されることも理解されるべきである。さらに、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、内容が別のことを明確に示さない限り、複数の言及を含むということも理解されるべきである。用語「約」は、言及がなされている数字の、プラス又はマイナス0.1~50%、5~50%又は10~40%、好ましくは、10~20%、より好ましくは、10%又は15%を意味する。
【0085】
さらに、特定の節において記載される定義及び実施形態は、当業者によって理解されるように適している本明細書において記載されるその他の実施形態に適用可能であるものとする。例えば、以下の節では、本発明の種々の態様がより詳細に定義される。そのように定義される各態様は、反対に明確に示されない限り、その他の態様(単数又は複数)と組み合わされ得る。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴は、好ましい又は有利であると示される任意のその他の特徴(単数又は複数)と組み合わされ得る。
【0086】
2.方法及び製品
ヒト多能性幹細胞(PSC)から沿軸/軟骨形成中胚葉細胞を製造する方法、in-vitroで、関節軟骨マーカーラブリシンを発現し、例えば、膝関節のヒト軟骨組織と組織学的に区別され得ない関節軟骨様組織を作製する方法並びにヒトにおいて見られる第2の種類の軟骨であり、肥大を受け、コラーゲン10を発現する性質のために長骨の成長に関与している軟骨である成長板様特性を有する軟骨様組織を作製する方法が、本明細書において記載される。本明細書に記載される方法を使用して調製された軟骨細胞は、安定であり、移植後にその関節軟骨様又は成長板軟骨様特性を維持するとさらに実証される。さらに、CD73細胞表面マーカーは、関節軟骨細胞によって発現されるとわかった。
【0087】
CD73は、初代成人及び胎児健常軟骨細胞並びにhESC由来関節様軟骨細胞によって発現されるが、hESCに由来する成長板様軟骨細胞では発現されないことが、本明細書において実証される。
【0088】
記載される方法は、一実施形態では、沿軸/軟骨形成中胚葉(CD73+CD105+PDGFRβ+)並びに例えば、膝のヒト軟骨に似ている組織化された軟骨様組織を作製するために、血清不含方法を使用する。本明細書に開示される血清不含方法は、細胞及び組織ベースのエンジニアリング戦略にとって有用であり、例えば、関節軟骨置換のために使用され得る。これらの細胞はまた、変形性関節症の患者における軟骨の分解に関与している可能性がある分子を同定すること、自己軟骨細胞移植手術への可能性ある適用のためにin-vitroでこれらの軟骨細胞の拡大を可能にし得る分子を同定する創薬適用又は変形性関節症を減弱し(attentuate)得る薬物にとって有用である。さらに、多能性幹細胞由来関節及び成長板様軟骨組織両方への接近によって、変形性関節症並びにその他の関節及び骨障害の治療のための細胞及び組織ベースの治療法の開発が可能となる。
【0089】
例えば、軟骨細胞特定化は、短期間(例えば、10日間)のTGFb3、TGFb2又はTGFb1を含有する血清不含培地中での沿軸中胚葉集団の高密度培養において達成され得るということが本明細書において実証される。継続されたか又は長期のTGFbアゴニスト刺激は関節軟骨特徴(組織学及び遺伝子発現)を有する軟骨組織を作製するが、BMP4を用いる刺激は肥大軟骨細胞を含有する成長板様軟骨組織を誘導する。
【0090】
長期の培養は、例えば、12週間にわたって、又はより長く、任意選択で、14週間実施され、その間に、ラブリシン+又はコラーゲン10+軟骨組織への組織の成熟が実証された。
【0091】
本明細書に記載される方法を使用して、その他の細胞との同時培養は、必要ではなく、条件付培地又は足場も必要ではないが、これらは、いくつかの実施形態では使用され得る。
【0092】
CD73発現、細胞表面マーカーは、健常な初代成人及び胎児関節軟骨細胞を示すが、腸骨稜の成人成長板軟骨細胞では発現されないと実証される。初代健常関節軟骨細胞と同様に、hESC由来関節様軟骨細胞(TGFB3処理)は、CD73を発現する。逆に、hESC由来成長板様軟骨細胞(BMP4処理)は、大幅に少ないCD73しか発現しない。このマーカーは、これら2種の軟骨細胞亜集団を区別するために使用され得、ここでは、CD73が初代及びhESC由来関節軟骨細胞の両方によって発現されるが、成長板様軟骨細胞では(実質的に)発現されない。
【0093】
したがって、開示される態様は、軟骨細胞及び/又は軟骨、任意選択で、関節様非肥大軟骨細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織を作成する方法を含み、方法は、
(a)原始線条様中胚葉細胞集団、任意選択で、CD56+及び/又はPDGFRα+原始線条様中胚葉細胞集団を、
(i)FGFアゴニストと、
(ii)BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、
(iii)任意選択で、1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431542;及びWnt阻害剤と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップと、
(b)(i)CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
(ii)高細胞密度CD73+、CD105+及び/又はPDGFRβ+沿軸中胚葉集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと
を含む、軟骨細胞前駆体集団を作製するステップと、
(c)(i)高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップか、又は
(ii)高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップのいずれか
を含む。
【0094】
一実施形態では、TGFβアゴニストは、TGFb1、TGFb2、TGFb3及び/又はそれらの組合せから選択される。一実施形態では、TGFβアゴニストは、TGFb1である。
【0095】
本明細書に記載される方法では、アゴニスト、阻害剤又は成分は、特定の期間の期間の1日目に添加され得るか、又は例えば、培地交換を用いて期間の間に反復して添加され得る。例えば、FGFは、例えば、4日目に必要であり、15日目まで培養培地置換を用いて添加される。
【0096】
一実施形態では、1つ又は複数の又はすべてのステップにおいて使用される培地は、血清不含である。wntアンタゴニスト(例えば、wnt経路阻害剤)は、人工PSC由来の原始線条中胚葉集団を誘導する場合にCD73及びCD105発現を増大し得ることが実証される。
【0097】
一実施形態では、方法は、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するためのものであり、ステップc)は、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む。
【0098】
別の実施形態では、BMP4アゴニストは、BMP4である。
【0099】
別の実施形態では、方法は、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するためのものであり、ステップc)は、高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む。
【0100】
一実施形態では、TGFβ阻害剤は、SB431542 A 83-01、D4476、GW788388、LY364947、RepSox、SB431542、SB505124、SB525334、SD208(例えば、受容体ALK4及びALK7及び/又はTGF-3RIの任意の阻害剤)から選択される。
【0101】
中胚葉特定化カクテルと接触される原始線条様中胚葉は、例えば、CD56+及びPDGFRα+であるが、心筋細胞特異的前駆体分化マーカーを発現しない。
【0102】
中胚葉特定化カクテルの一実施形態では、TGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524を含む。
【0103】
一実施形態では、原始線条様中胚葉細胞集団は、TGFβ阻害剤とともに少なくとも2日間(任意選択で、T3~5)、3日間又は4日間培養される。
【0104】
一実施形態では、中胚葉特定化カクテルは、Wnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939をさらに含む。一実施形態では、Wnt阻害剤は、例えば、CD73及びCD105又はPDGFRβを発現する細胞のパーセンテージが、70%未満、60%未満、50%、40%未満、30%未満又は20%未満である場合に添加される。
【0105】
CD73及びCD105又はPDGFRβを発現する細胞のパーセンテージは、Wntアンタゴニストが分化のステージ2に間に約2日間使用される場合に増大し得る。一実施形態では、中胚葉特定化カクテルは、wnt阻害剤、任意選択で、2日、3日又は4日間含む。
【0106】
一実施形態では、出発原始線条様中胚葉集団は、約4日目までに誘導され(例えば、KDR+/PDGFRα+細胞は、例えば、5日目に現れる)、例えば、CD73、CD105及びPDGFR-βマーカーが、沿軸中胚葉特定化相の間に、BMP阻害及びFGFに応じて上方制御されるよう誘導する。
【0107】
一実施形態では、沿軸中胚葉集団は、胚様体、単層培養及び/又はそれらの組合せ中に含まれる。
【0108】
沿軸中胚葉集団は、例えば、CD73及びCD105及び/又はPDGFR-βを含めた細胞表面マーカーの発現をベースとする細胞選別方法を使用して、非効率的な分化からのものを含めた任意の培養物から単離され得る。例えば、CD73、CD105及びPDGFRβ細胞について濃縮することによって。沿軸中胚葉集団はまた、対象から得られた人工多能性幹細胞(iPSC)から製造され得る。
【0109】
したがって、さらなる態様は、軟骨細胞及び/又は軟骨、任意選択で、関節様非肥大軟骨細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織を作製するための方法を含み、方法は、
(a)多能性幹細胞の出発集団を、
CD56及び/又はPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉細胞集団を誘導するための原始線条誘導カクテルとともに培養するステップと、
(b)原始線条様中胚葉細胞集団を、
; (i)FGFアゴニストと、
(ii)BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189、ドルソモルフィンと、
(iii)任意選択で、1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524;及びWnt阻害剤と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を特定化するステップと
(c)(i)細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉細胞集団を、任意選択で、血清不含又は血清含有培地中、高細胞密度で培養するステップと、
(ii)高細胞密度CD73+、CD105+及びPDGFRβ+沿軸中胚葉細胞集団を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養して、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造するステップと
を含む、軟骨細胞前駆体集団を作製するステップと、
(d)(i)高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップか、又は
(ii)高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップのいずれか
を含む。
【0110】
一実施形態では、方法は、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するためのものであって、ステップd)は、高細胞密度Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、TGFβアゴニスト、任意選択で、TGFβ1、2及び/又は3とともに長期間培養して、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む。異なるステップにおいて使用されるTGFβアゴニストは、同一であっても異なっていてもよい。一実施形態では、軟骨細胞前駆体集団を作製するために使用されるTGFβアゴニストは、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するために長期間使用される、同一のTGFβアゴニストである。別の実施形態では、軟骨細胞前駆体集団を作製するために使用されるTGFβアゴニストは、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を製造するために長期間使用されるものとは異なるTGFβアゴニストである。
【0111】
別の実施形態では、方法は、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を作製するためのものであって、高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造するステップを含む。
【0112】
一実施形態では、原始線条誘導カクテルは、アクチビンAなどのnodalアゴニスト、BMP4アゴニスト、FGFアゴニスト及びwntアゴニストを含む。
【0113】
本明細書に開示される方法に従って、通常、出発集団のステージに応じて、軟骨細胞及び/又は関節様軟骨及び肥大軟骨を作製するための最大4「ステージ」があり、1.原始線条誘導、2.沿軸中胚葉特定化、3.軟骨細胞様細胞の作製及び4.軟骨様組織の作製を含む。出発集団に応じて、方法はまた、体細胞からの人工多能性幹細胞の作製、自己再生培養培地の存在下又は不在下での、培養中のhPSCから胚様体を作製するステップによってか、又は培養中のhPSCから単細胞懸濁液を作製するステップのいずれかによるPSCの凝集の作製を含むステージ0を含み得る。
【0114】
本明細書に記載される方法は、一実施形態では、ヒトESC及び組織から軟骨細胞(chondrodcytes)及び軟骨組織を作製するためのものである。これらのステージを含む一実施形態を、以下にさらに詳細に記載する。
【0115】
ステージ1-原始線条誘導
ヒト原始線条中胚葉は、例えば、分化の1及び4日目に、及び/又は分化の1及び4日目の間に、多能性細胞を、原始線条誘導カクテルと、例えば、アクチビン、BMP4及び塩基性FGFと接触させるステップによって誘導される。いくつかの実施形態では、例えば、CD56+/PDGFRa+集団がより早く作製される場合には、接触させるステップは、1~3日目の間である。内因性Wntシグナル伝達が存在しないか、低い細胞系統及び出発集団では、Wntアゴニストを添加するステップが、PSCからの原始線条形成の効率を改善し得、アンタゴニストを用いてWntシグナル伝達を遮断するステップが、原始線条形成を阻害する。内因性Wntシグナル伝達は、例えば、実施例に記載される細胞系統(例えば、HES2)では十分である。iPSC株を使用して、Wntアゴニストは、1日目~3日目に添加される場合に、CD56+PDGFRa+原始線条様集団の発生を改善することがわかった。
【0116】
一実施形態では、wntアゴニストは、Wnt3a又はCHIR-99021(Stemolecule(商標)CHIR99021 Stemgent)、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)(Cayman Chemical(カタログ:13123))又はStemgent製のStemolecule(商標)BIO(カタログ:04003)などのGSK-3選択的阻害剤である。
【0117】
ブラキュリ発現はまた、およそ2~3日目に遺伝子発現並びに4日目までの細胞表面マーカーPDGFRa及びCD56の発現によってモニタリングされるように、この時間の間に誘導される。ヒトPSCでは、PS様中胚葉誘導は、アクチビン及びwntシグナル伝達に依存し(例えば、19 20を参照のこと)、ブラキュリ及びPDGFRa発現によってモニタリングされる。CD56は、例えば、例えば、ヒト原始線条細胞形成をモニタリングするために使用され得る。
【0118】
ステージ2-沿軸中胚葉
次のステージは、転写因子Meox1及びNkx3.2の発現を特徴とする沿軸中胚葉の作製である。原始線条(PS)様細胞が、例えば、単層培養で沿軸運命に特定化され得、このステージの間(例えば、4~6日目)に、BMPシグナル伝達は、ドルソモルフィンなどの小分子を使用して阻害され得、TGFbシグナル伝達は、SB431542などの小分子を使用して阻害され得る。ヒト沿軸中胚葉は、FGF(bFGFなど)の添加を必要とし、例えば、単層培養の4~15日目の間に、培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、wntアンタゴニストもまた、添加される。ヒト沿軸中胚葉の出現は、CD73、CD105及びPDGFRβを含めた細胞表面マーカーの発現によって示される。
【0119】
ヒト沿軸中胚葉は、例えば、分化の4から15日目の間の単層培養の間にBMP阻害剤ドルソモルフィン(例えば、4~6日目)及びbFGFを用いて特定化され得る。15日目ヒト沿軸中胚葉は、細胞表面マーカーCD73、CD105、PDGFRβの発現並びに15日目でのMeox1及びNkx3.2遺伝子発現を特徴とする。これらのマーカーの発現は、例えば、12日目に始まり、例えば、15日目あたりで最大である。
【0120】
ステージ3-軟骨細胞の作製及びステージ4-組織の作製
例えば、15日目から得られた沿軸中胚葉は、マイクロマス又はフィルター培養などの高細胞密度軟骨組織形成アッセイ中に直接プレーティングされ得る。軟骨形成は、一実施形態では、TGFbアゴニストを用いて、例えば、TGFb3とともに約10日~約2週間培養するステップによって誘導され、Sox9及びコラーゲン2の発現を特徴とする。BMP4などのBMP4アゴニスト又はGDFを含有する培地への切り替えが、肥大軟骨細胞表現型を誘導する。任意選択で、TGFb1又はTGFb3を用いるhESC由来軟骨細胞及び軟骨組織において、長期のTGFbアゴニスト処理が、関節軟骨細胞様表現型を誘導し、GDF5もまた、肥大表現型を誘導する。
【0121】
ヒト沿軸中胚葉からの軟骨細胞は、15日目CD73+/CD105+又はCD73+/PDGFRβ+細胞を高細胞密度で、TGFb1又はTGFb3などのTGFアゴニストを含有する血清不含培地中のマイクロマス又はフィルター培養中に直接プレーティングするステップによって作製される。軟骨組織は、TGFbアゴニスト又はBMP4アゴニストを用いる長期の処理によってこの高細胞密度培養相の間に作製される。
【0122】
任意のヒト胚幹細胞集団は、人工多能性幹細胞集団を含む出発集団として使用され得る。一実施形態では、出発集団は、ヒト胚幹細胞集団(hESC)又は人工多能性幹細胞集団(iPSC)、任意選択で、初代hESC及び/又は初代iPSCである。多数のヒトESC株が市販されており、例えば、NIH HESC登録簿に列挙されている。一実施形態では、ヒトESC集団は、任意選択で、HES2、H1、H9若しくは任意のNIH ESC登録簿で利用可能なhESC細胞系統から選択される細胞系統又は例えば、System Biosciencesから利用可能であるような、任意の市販のiPS細胞系統など任意のヒトiPS細胞系統である。
【0123】
一実施形態では、出発集団は、胚様体に凝集される。別の実施形態では、出発集団は、単層で培養される。
【0124】
一実施形態では、出発集団は、原始線条誘導カクテルと、約1~約5日間接触されその後、心筋細胞特定化される。一実施形態では、原始線条誘導カクテルは、アクチビンアゴニスト、任意選択で、アクチビンA又はnodal、BMP4アゴニスト、任意選択で、BMP4、BMP2、BMP6、BMP7及び/又はBMP10並びにFGFアゴニスト、任意選択で、bFGF、FGF2、FGF4、FGF9及び/又は任意選択でFGF19、21、3、5、6、8a、16~18、20及び/又は23を含む。一実施形態では、原始線条誘導カクテルは、任意選択で、Wnt3a及びCHIR-99021(Stemolecule(商標)CHIR99021 Stemgent)、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)(Cayman Chemical(カタログ:13123))及び/又はStemgent製のStemolecule(商標)BIO(カタログ:04003)などのGSK3b阻害剤から選択されるwntアゴニストをさらに含む。
【0125】
原始線条様中胚葉集団は、例えば、フローサイトメトリーによって測定されるように(
図1B)、CD56及びPDGFRαの両方を発現する。いくつかの細胞系統では、誘導は、T1(1日目)~T4かかり(実施例において使用されるHES2 hESC株の場合におけるように)。例えば、iPSCなどのその他の細胞系統では、この誘導は、2日のみを必要とし得る(T1~T3)。CD56及びPDGFRαなどの細胞表面マーカーの出現は、ステージ1が完了し、ステージ2が始まり得ることを示す。
【0126】
hiPSCは、以下の、
図1Aに示されるプロトコールの改変を用いて分化し、Wnt経路アゴニストCHIR99061(1マイクロモル)がステージ1培養物に添加され、ステージ1は、3から2日に短縮された。沿軸中胚葉の運命は、単層培養で、3日目~5日目のドルソモルフィン(DM)及びSB431542並びに3日目~14日目のFGFを用いる処理によって特定化された(ステージ2)。
【0127】
一実施形態では、iPSCは、3日の誘導を受け、別の実施形態では、iPSC集団は、2日の誘導を受ける。一実施形態では、hESC集団は、2日の誘導を受け、別の実施形態では、hESC集団は、3日の誘導を受ける。
【0128】
ステージ2は、CD73、CD105及び/又はPDGFR-βの発現を特徴とする集団の作製をもたらす2ステップが考慮され得る。細胞は、BMP阻害剤(例えば、ドルソモルフィンなど)及び塩基性FGFなどのFGFアゴニストの存在下で単層培養でプレーティングされ得る。ドルソモルフィンは、例えば、4日目~6日目(T4~T6)の時間帯の間の心筋細胞特定化の阻害において有効であり、ドルソモルフィンを用いる処理は、この2日の期間に限定され得る。FGFアゴニスト、任意選択で、塩基性FGFは、例えば中胚葉集団を沿軸中胚葉の運命に特定化するために、単層培養の期間の間、必要である。
【0129】
したがって、一実施形態では、沿軸中胚葉は、単層培養で特定化される。
【0130】
別の実施形態では、BMP阻害剤は、任意選択で、ドルソモルフィン(DM)、ノギン(Noggin)、コーディン(Chordin)、LDN-193189、可溶性BMPR1a及び/又は可溶性BMPR1bから選択される、1型BMP受容体阻害剤及び/又は可溶性BMP受容体である。
【0131】
別の実施形態では、原始線条様中胚葉集団は、心筋細胞特定化を阻害するために、BMP阻害剤と約1、2、3又は4日間接触される。
【0132】
一実施形態では、原始線条様中胚葉集団及び/又は沿軸中胚葉集団を特定化するためのFGFアゴニストは、FGF2、bFGF、FGF4及び/又はFGF9から選択される。
【0133】
記載されるように、この沿軸中胚葉の出現は、細胞表面でのCD73、CD105及び/又はPDGFR-βの発現を検出することによってモニタリングされ得る(例えば、
図2B、3Aに示されるように、フローサイトメトリーによって観察される)。これら3種のマーカーを発現する中胚葉の集団が出現する時点で(15日目/T15まで)、このステージは終了する。
図3Aは、T12からT15の間のこれらのマーカーの上方制御を示す。これらのマーカーは、T4からT10の間の細胞のかなりの部分では発現されない。単層分化の過程にわたって(例えば、T4~T15)、沿軸中胚葉及び体節において発現される2種の転写因子Meox1及びNkx3.2の上方制御が検出される。例えば、15日目までの培養物におけるこれらのマーカーの発現は、沿軸中胚葉が作製されたことを示す。
【0134】
一実施形態では、原始線条様中胚葉集団は、FGFアゴニストとともに、少なくとも5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日又はそれ以上の間(例えば、T3~T14)接触され、CD73及び/又はCD105を発現する細胞の割合を、例えば、FGFアゴニスト未処理細胞と比較して、少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%又は65%増大させる。
【0135】
一実施形態では、沿軸中胚葉集団はまた、転写因子Meox1及びNkx3.2を発現し、Nkx2.5について陰性である。
【0136】
沿軸中胚葉集団は、例えば、マイクロマス培養、ペレット培養又はフィルター培養を含む、任意の高細胞密度形式でプレーティングされ得る。例えば、マイクロマス組織を作製するために、通常、組織形成を開始するために、1つの20マイクロリットル「スポット」に約200,000~約500,000個細胞がプレーティングされる。それ以上の細胞とそれらは、スポット/組織培養プラスチック領域中に利用可能な領域がないために接着せず、少ない細胞と「スポット」は、細胞でコンフルエントではない。別の例として、膜フィルター培養では、12mm径フィルターあたり、最小プレーティングは、約500,000個細胞であり、最大は、約200万個細胞である。
【0137】
一実施形態では、沿軸中胚葉集団は、例えば、マイクロマス培養において、1000万個細胞/mlから5000万個細胞/mlの間、任意選択で、少なくとも1mlあたり1000万個細胞、2000万個細胞/ml、3000万個細胞/ml、4000万個細胞/ml又は5000万個細胞/mlの細胞密度でプレーティングされる。一実施形態では、約500,000及び200万個細胞の間、任意選択で、約500,000個、約750,000個、約100万個、約125万個、約150万個、約175万個、約200万個細胞が12mm径膜フィルター培養でプレーティングされる。
【0138】
特定の実施形態では、血清不含方法は、例えば、bFGF及びBMP阻害を使用して、例えば、原始線条様中胚葉集団からCD73+CD105+PDGFRβ+沿軸中胚葉を作製するために使用される。
【0139】
一実施形態では、任意選択で、ステージ3及び/又は4の間、培地は、血清不含であり、基礎培地、任意選択で、高グルコースDMEM+デキサメタゾン、アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及びプロリンを含む。基礎培地の例は、例えば、参照18に提供される。
【0140】
本明細書において、基礎培地は、細胞に、正常な細胞代謝に必要な水及び特定の大量の無機イオンを提供し、細胞内及び細胞外浸透圧の平衡を維持し、エネルギー供給源として炭水化物を提供し、生理学的pH範囲内に培地を維持するための緩衝システムを提供する塩の混合物を指す。基礎培地の例として、それだけには限らないが、「ダルベッコ改変イーグル培地」(DMEM)、最小必須培地(MEM)、基礎培地イーグル(BME)、RPM1 1640、HamのF-10、HamのF-12、α-最小必須培地(aMEM)、Glasgowの最小必須培地(O-MEM)及びIscoveの改変ダルベッコ培地(IMDM)、Stem Pro及びそれらの混合物が挙げられる。特定の一実施形態では、基礎塩栄養分溶液は、DMEMとHamのF12のおよそ50:50混合物である。一実施形態では、基礎培地は、高グルコースDMEMである。
【0141】
別の実施形態では、培地は、インスリン、トランスフェリン及び任意選択で、セレンを、DMEM、Stem Pro(登録商標)、Mesofate(Stemgent)、RMPI1640又はIMDMと組み合わせて含む基礎培地を含む。
【0142】
培地及び/又は組成物が微量元素をさらに含み得ることが考慮される。微量元素は、例えば、Mediatechから商業的に購入され得る。微量元素の限定されない例として、それだけには限らないが、アルミニウム、塩素、硫酸塩、鉄、カドミウム、コバルト、クロム、ゲルマニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン酸及びマグネシウムを含む化合物が挙げられる。微量元素を含有する化合物の特定の例として、それだけには限らないが、AlCl3、AgNO3、Ba(C2H3O2)2、CdCl2、CdSO4、CoCl2、CrCl3、Cr2(SO4)3、CuSO4、クエン酸第二鉄、GeO2、Kl、KBr、LI、モリブデン酸、MnSO4、MnCl2、NaF、Na2SiO3、NaVO3、NH4VO3、(NH4)6Mo7O24、NiSO4、RbCl、セレン、Na2SeO3、H2SeO3、亜セレン酸Na、セレノメチオノン(selenomethionone)、SnCl2、ZnSO4、ZrOCl2及びそれらの混合物及び塩が挙げられる。
【0143】
アミノ酸は、規定の培地に添加され得ることが考慮される。このようなアミノ酸の限定されない例として、グリシン、L-アラニン、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン/Glutamax、L-アルギニンヒドロクロリド、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシンヒドロクロリド、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン及びL-バリンがある。特定の実施形態では、アミノ酸は、L-イソロイシン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-バリン及びそれらの混合物である。
【0144】
基礎培地は、アスコルビン酸を含み得ることも考慮される。
【0145】
さらに、組成物及び方法はまた、アルブミン、トランスフェリン、L-グルタミン、脂質、抗生物質、βメルカプトエタノール、ビタミン、ミネラル、ATPなどのその他の成分を含み得、同様の成分が存在してもよい。別の特定の実施形態では、組成物及び方法は、ビタミンD3及びATPを含む。
【0146】
一実施形態では、高細胞密度スポットは、約0~4日間維持され、例えば、沿軸中胚葉集団は、高細胞密度で、TGFβ3アゴニストの添加の前に、約0~約4日間、任意選択で、0、1、2、3又は4日培養される。
【0147】
一実施形態では、CD73+、CD105+及び/又はPDGFRβ+沿軸中胚葉集団は、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに少なくとも3日間又は約3日~約14日間、任意選択で、少なくとも1週間培養されて、Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団を製造する。
【0148】
本明細書において実証されるように、長期のTGFβシグナル伝達は、関節様軟骨組織の作製をもたらし得る。一実施形態では、Sox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団が、TGFβアゴニストとともに培養される長期間は、関節軟骨様組織を製造するためには、少なくとも4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間又はそれ以上である。一実施形態では、軟骨細胞前駆体集団は、ラブリシン及び/又は軟骨中間体層タンパク質2(CILP2)が発現されるまでTGFbアゴニストとともに培養される。一実施形態では、沿軸中胚葉集団及び/又はSox9+、コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団は、TGFb3、TGFb2及び/又はTGFb1から選択されるTGFbアゴニストとともに培養される。
【0149】
培養をTGFbアゴニストからBMPアゴニストを含ませることに切り替えることは、成長板様である肥大軟骨細胞集団を誘導する。一実施形態では、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織は、BMP4アゴニストとともに培養されて、コラーゲン10+及び/又はRunx2+肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を製造する。一実施形態では、高細胞密度Sox9+コラーゲン2+軟骨細胞前駆体集団がBMP4アゴニスト、任意選択で、BMP4又はGDF5とともに培養される長期間は、コラーゲン2を発現する軟骨組織及び/又はコラーゲン10を発現する肥大軟骨細胞集団を作製するには、少なくとも2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間又はそれ以上である。
【0150】
例えば、ステージ3は、2%血清含有培地又は血清不含で行われ得る2~3日の「スポッティング」相を含み得る。これは、高細胞密度の細胞が、例えば、組織培養ディッシュ又は膜フィルターの小さい領域と接着することを可能にする。任意選択で、3日(+3日)のこのステージの最後に、マイクロマス中の大部分及び/又は実質的にすべての細胞が、CD73、CD105及びPDGFRβを発現する。一実施形態では、このステップに、任意選択で、最小で約1週間(例えば、+10日での、培養は、25日目である)である期間の血清不含培地でのTGFBアゴニスト処理が続けられる。約2週間までに(約10~約14日)、Sox9及びコラーゲン2などの早期軟骨細胞遺伝子が発現される。培養物は、関節軟骨(AC)様組織(例えば、ステージ4)を作製するために、TGFb3などのTGFbアゴニスト中、例えば、数週間~数カ月の期間にわたって維持され得る。AC遺伝子ラブリシンの上方制御は、例えば、約5~10週間のマイクロマス培養後に検出される。
【0151】
この長期間にわたる組織学的解析は、培養が長いほど、例えば、6週間と比較して12週間後に、高い品質の組織の作製を示す。
【0152】
肥大成長板様軟骨組織の作製は、TGFbアゴニスト含有培地を代わりにBMP4アゴニストを含有する培地に切り替えるステップによって達成される。BMP4アゴニスト切り替えは、通常、細胞がTGFb3などのTGFbアゴニストを用いて少なくとも1週間刺激された後、約25日目に起こる。この切り替えは、マイクロマス細胞が、成長板分化と関連する遺伝子(例えば、コラーゲン10及びRunx2)を発現する拡大した細胞である(例えば、
図4Cを参照のこと)肥大軟骨細胞表現型に変換することを引き起こす。
【0153】
約3日のマイクロマス(TGFb3アゴニストが普通添加される時点)でのBMP4を用いる即時刺激の結果、マイクロマスが球状化し(balling up)、非接着性になる、及び/又は、生存しない、及び/又は、組織を作製することがわかった。例えば、ステージ3培養の約10日から6週間の間のBMP4への切り替えは、いつも、TGFbアゴニスト処理マイクロマスにおいてこの肥大反応を誘導できる。一実施形態では、BMP4アゴニスト、任意選択で、BMP4への切り替えは、成長板様軟骨を作製するには、約25日目である。
【0154】
成長板肥大軟骨細胞を示すコラーゲン10発現は、例えば、数週間後に(例えば、例1における細胞系統において9~12週間後に)発現され、TGFbアゴニスト処理マイクロマスにおけるラブリシンに関しても同様のタイミングである。したがって、長期のBMP4アゴニスト処理は、hPSCからコラーゲン10発現成長板様軟骨組織の作製をもたらす。
【0155】
したがって、一実施形態では、軟骨細胞前駆体は、軟骨組織形成のためにTGFβアゴニスト又はBMP4アゴニストで培養される。
【0156】
1つ又は複数のステージで所望の集団が濃縮され得る。例えば、CD73+CD105+細胞及び/又はCD73+PDGFR-β+が、高細胞密度培養に先立って、細胞表面CD73、CD105及び/又はPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団から任意選択でフローサイトメトリーによって単離され得る。
【0157】
記載される方法はまた、例えば、その他の方法を使用して作製された、及び/又は対象から単離される軟骨細胞前駆体細胞で使用され得る。
【0158】
したがって、別の態様では、本開示は、
(a)軟骨細胞前駆体細胞を、血清不含又は血清含有培地において高細胞密度で培養するステップと、
(b)高細胞密度軟骨細胞前駆体細胞を、血清不含培地中でTGFβアゴニストとともに培養するステップと、
(c)(i)軟骨細胞前駆体細胞を、TGFβアゴニストとともに長期間培養して、関節軟骨様軟骨細胞集団を製造するステップか、又は
(ii)軟骨細胞前駆体細胞を、BMP4アゴニストとともに長期間培養して、肥大軟骨細胞集団及び/若しくは軟骨様組織を製造するステップのいずれかと
を含む、軟骨細胞様細胞を作製する方法を含む。
【0159】
一実施形態では、軟骨細胞前駆体細胞は、初代胎児軟骨細胞又は継代された胎児軟骨細胞である。別の実施形態では、軟骨細胞前駆体細胞は、軟骨又は骨状態又は疾患を有する対象から得られた初代細胞である。対象から得られた細胞は、高細胞密度培養に先立って多能性を誘導するための方法に付され得る。例えば、初代軟骨細胞は、患者から単離され、マイクロマス方法を使用して直接的に試験され得るか、又は患者から任意の体細胞が、患者に特異的なIPS細胞を作製するために使用され得、これは、次いで、軟骨組織を作製するために本明細書に記載される4ステージの方法を使用して分化される。対象から、例えば、疾患部位から得られた細胞は、寛解薬物について試験するために使用され、及び/又は、例えば、対象が変形性関節症を有する場合、1種又は複数の症状を増やす、及び/又は寛解する成分を同定しようとするために滑液成分又はその他の試験物質とともに培養され得る。細胞又は流体成分はまた、対象から、例えば、非疾患部位から得られ、自己軟骨細胞移植のための、細胞及び/又は組織を作製するために使用され得、例えば、これでは、作製された細胞及び/又は組織が、対象に投与される。一実施形態では、細胞は、同種移植のために使用される。
【0160】
ステップは、in vitroで実施され得る。或いは、細胞又は組織を含む細胞及び/又は組成物は、例えば、完全軟骨様組織形成及びin vivoでの軟骨形成のモニタリングに先立って、対象に投与され得る。例えば、本明細書に記載された方法を使用して調製され、任意選択で、投与に先立って解離される細胞。
【0161】
方法は、沿軸中胚葉細胞集団を作製するために使用され得る。一実施形態では、方法は、
(a)多能性幹細胞の出発集団を、原始線条誘導カクテルとともに培養して、CD56及びPDGFR-αを発現する原始線条様中胚葉集団を誘導するステップと、
(b)原始線条様中胚葉集団を
(i)FGFアゴニストと、
(ii)BMP阻害剤、任意選択で、ノギン、LDN-193189又はドルソモルフィンと、
(iii)任意選択で1種又は複数のTGFβ阻害剤、任意選択で、SB431524及び/又はWnt阻害剤、任意選択で、DKK1、IWP2又はXAV939と
を含む沿軸中胚葉特定化カクテルとともに培養して、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団を特定化するステップと
を含む。
【0162】
一実施形態では、方法は、CD73、CD105及び/又はPDGFRβを発現する細胞を濃縮するステップをさらに含む。
【0163】
一実施形態では、使用される成分(例えば、アゴニスト、阻害剤など)の濃度は、有効な、例えば、所望の細胞型を示すマーカーの発現を誘導するのに有効な量である。
【0164】
一実施形態では、FGFアゴニストは、FGFである。
【0165】
一実施形態では、FGFの濃度は、約2ng/ml~約100ng/mlの間の任意の濃度、任意選択で、約20ng/mlである。
【0166】
一実施形態では、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン(DM)である。
【0167】
一実施形態では、DMの濃度は、約0.5μMから約5μMの間の任意の濃度、任意選択で、約4μM(例えば、マイクロモル)である。
【0168】
一実施形態では、TGFbアゴニストは、TGFb1、2及び/又は3である。
【0169】
一実施形態では、TGFb1、2及び/又は3の濃度は、約1ng/mlから約50ng/mlの間の任意の濃度、任意選択で、約10ng/mlである。
【0170】
特定の範囲の間の任意の数は、例えば、0.1単位毎又は0.5単位毎の増分を含む。
【0171】
一実施形態では、TGFβ3の濃度は、約1ng/mlから約50ng/mlの間の任意の濃度、任意選択で、約10ng/mlである。
【0172】
一実施形態では、BMP4アゴニストは、BMP4である。
【0173】
一実施形態では、BMP4の濃度は、約10ng/mlから約100ng/mlの間の任意の濃度、任意選択で、約50ng/mlである。
【0174】
方法はまた、例えば、フォンコッサ染色による、プロテオグリカン製造及び/又はカルシウム沈着及び/又は石灰化についての、任意選択で、in vitro又はin vivoでのモニタリングのステップを含み得る。例えば、フォンコッサ染色は、石灰化を確認するために使用され得、成長板様軟骨の発生を示す。
【0175】
本開示のさらなる態様は、任意選択で、本明細書に記載される有用性のために使用するための、本明細書に記載された方法を使用して作製された細胞の集団又は組織を含む。
【0176】
したがって、軟骨細胞様細胞、任意選択で、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織の単離された集団又は本明細書に記載される方法に従って作製された前駆体集団が提供される。
【0177】
一実施形態では、単離された集団は、細胞表面CD73、CD105及びPDGFR-βを発現する沿軸中胚葉集団である。
【0178】
一実施形態では、軟骨細胞様細胞の単離された集団は、1種又は複数の軟骨細胞マーカー及び/又は遺伝子、例えば、関節インターゾーン細胞と同様の、GDF5、WNT9A及び/若しくはERG、関節軟骨細胞と同様のラブリシンMeox1及び/若しくはCIP2又は肥大軟骨細胞と同様のRUNX2、SP7、アルカリホスファターゼ(ALP/ALPL)及び/若しくはCOL10A1を発現する細胞を含む。
【0179】
さらなる態様は、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は肥大軟骨細胞様細胞及び/若しくは軟骨様組織並びに/又は本明細書に記載される方法に従って作製された前駆体細胞の集団と、担体を含む組成物である。使用に応じて、担体は、任意選択で、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロゲル、骨足場、骨代用品足場及び/又はマトリゲルであり得る。その他の担体として、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸及びその誘導体、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、アルギン酸塩、緩衝PBS、デキストラン及びポリマーからなる群のうち1種又は複数を含む担体が挙げられる。例えば、担体は、移植適用において使用するのに適している担体、例えば、医薬品等級担体であり得る。担体はまた、輸送及び/又は貯蔵のために細胞を安定化するために適したものであり得る。細胞は、例えば、クライオ凍結され得、及び/又は組織は、室温及び/又は室温から約4℃の間の任意で輸送され得る。
【0180】
組成物は、例えば、対象への投与のために解離された細胞を含む、例えば、スラリーであり得る。一実施形態では、組成物は、例えば、成長板細胞/軟骨移植のために、その他の細胞、例えば、内皮細胞及び/又は線維芽細胞を含み得る。
【0181】
さらなる態様は、本明細書に記載される細胞及び/又は組織を含む、軟骨又は骨組織製品並びに足場又は膜を含む。例えば、移植適用の際に、軟骨細胞は、損傷を受けた領域に膜(例えば、脛骨骨膜又は生体膜)と組み合わせて投与され得るか、又は足場マトリックス中に予め播種され得る。一実施形態では、足場は、骨代用品である。
【0182】
本明細書に開示される方法に従って作製された細胞及び組織は、例えば、関節又は骨障害に苦しむ対象において症状を寛解するために使用され得る。
【0183】
したがって、別の態様は、本明細書に記載される細胞の集団及び/又は組織を投与するステップ及び/又は前記細胞を含む製品を挿入する/埋め込むステップを含む、症状を寛解する及び/又はそれを必要とする対象を治療するための方法を含む。
【0184】
別の態様において、細胞、組織及び製品の使用もまた提供される。一実施形態では、本開示は、症状を寛解する及び/又はそれを必要とする対象を治療するための、本明細書に記載される細胞の集団及び/又は組織又は組成物又は製品の使用を提供する。
【0185】
一実施形態では、例えば、対象に投与されるべき、本明細書に記載される使用又は方法のための細胞の集団は、自己細胞から誘導される。
【0186】
一実施形態では、細胞の集団は、関節様非肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織について濃縮される。
【0187】
一実施形態では、対象は、変形性関節症、離断性骨軟骨炎、多発性軟骨炎及びその他の軟骨疾患又は軟骨に影響を及ぼす関節傷害などの関節状態を有する。
【0188】
さらなる実施形態では、細胞の集団は、肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織について濃縮される。
【0189】
さらに別の実施形態では、濃縮された肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織は、足場又は膜に接着される。
【0190】
別の実施形態では、対象は、骨の骨折、骨の破損などの骨状態を有するか、又は例えば、悪性腫瘍又は外傷、軟骨無形成症、骨形成不全、骨粗鬆症又はその他のオステオパシーのために骨置換を必要とする。
【0191】
作製された細胞は、例えば、候補物質を、促進、阻害、維持するその能力についてか、又は関節軟骨細胞若しくは肥大軟骨細胞において活性である候補物質を試験するために使用され得るモデル細胞を提供するために、例えば、ラブリシンプロモーターなどの関節軟骨細胞様細胞において通常発現される、及び/又はコラーゲン10プロモーター(例えば、リポーター系)などの肥大軟骨細胞において通常発現される遺伝子のプロモーターと作動可能に連結しているリポーター遺伝子を安定的に発現するよう、任意選択で、不死化及び/又は修飾され得る。例えば、GFP、RFP、dsRedなど、ルシフェラーゼなどの蛍光タンパク質を含めた多数のリポーター遺伝子が、当技術分野で公知である。リポーター遺伝子アッセイは、多用途のものであり、感度の高い方法であり、多数の候補物質をハイスループット薬物スクリーニングプログラムでアッセイするために使用され得る。
【0192】
また、本明細書に記載される方法に従って作製された細胞又は組織のうち1種又は複数、作製された細胞又は組織を含む製品又は組成物を含み、任意選択で、本明細書に記載される方法に従って、リポーター系又はその他の修飾、アゴニスト、阻害剤、培地、装置又は本明細書に記載される方法において使用され得るその他の成分及び使用のための使用説明書、例えば、細胞の作製し、アッセイを実施するか、又は細胞、組織、組成物若しくは製品を投与する方法に関する使用説明書並びにこれらの前記の細胞、組織、組成物、製品、アゴニスト、阻害剤、培地などを収容するためのバイアル又はその他の容器から選択される少なくとも2種の組合せを含むキットが、本明細書において提供される。
【0193】
本明細書に記載される方法に従って作製された細胞及び組織は、種々の適用のために使用され得る。例えば、細胞及び組織は、予測薬物毒性学及び創薬のために使用され得る。例えば、濃縮されたhPSC由来軟骨細胞の集団、関節又は成長板様が、予測薬物毒性学スクリーニングにおいて、並びに軟骨細胞生物学及び生理学に影響を及ぼす新規化合物を同定することを目的としたスクリーニングのために使用され得る。過去に患者から得た初代関節軟骨細胞の拡大が、軟骨細胞の間葉系様表現型への脱分化につながり、理想的とはいえない軟骨置換をもたらすので、任意選択で、1種又は複数の疾患メディエーターの存在下で、関節軟骨細胞の増殖だけでなく維持も促進する薬物は、興味深いものとなる。
【0194】
したがって、実施形態は、候補軟骨形成調節物質を試験する方法を含み、方法は、
(a)試験物質を、軟骨細胞前駆体系統細胞集団と接触させるステップであって、試験物質は、軟骨細胞前駆体系統細胞集団と、本明細書に記載される方法において任意のステップで接触されるステップと、
(b)試験物質の不在下で作製された対照集団と比較した、軟骨細胞増殖、維持及び/又は分化に対する試験物質の効果を評価するステップと、
(c)試験物質が、対照と比較して、増殖を増大又は減少させるか、及び/又は軟骨細胞維持若しくは分化に影響を及ぼす場合に、試験物質を候補軟骨形成調節物質と同定するステップと
を含む。
【0195】
調節物質は、例えば、疾患メディエーター又は保護活性を有する成分であり得る。疾患メディエーターはまた、疾患メディエーターの疾患誘導効果を阻害及び/又は減少させる薬剤についてスクリーニングするために試験物質の存在下又は不在下で使用され得る。
【0196】
細胞及び組織は、任意選択で、細胞移植プロトコールを評価するために使用され、細胞移植のために使用され得る。例えば、これらの方法によって、例えば、a)自己軟骨細胞移植又は成人間葉系幹細胞由来軟骨細胞又は軟骨組織に対する、関節又は成長板様hPSC由来軟骨細胞又は軟骨組織を移植する効果及び効率、b)変動するレベルの、変形性関節症を含めた関節疾患を有する動物モデル又は患者において種々の関節軟骨欠陥を治療するための、関節様軟骨組織及び/又は軟骨細胞スラリーを移植する効果、c)hESC由来成長板様軟骨細胞又は軟骨様組織が骨再生(軟骨鋳型中間体を介した)のために使用される能力の比較が可能となる。
【0197】
細胞及び組織は、例えば、組織エンジニアリング適用において使用され得る。例えば、hPSC培養物から得られた軟骨細胞の濃縮された集団が作製され、例えば、規定の割合の軟骨細胞及びその他の細胞型を有するエンジニアリングされた構築物又は足場において使用され得る。hPSC由来軟骨細胞は、例えば、骨代用品上に播種され得、例えば、in vitro又はin vivoでの軟骨/骨インターフェースを可能にし得る。このような製品は、骨-軟骨接合物に損傷を有する患者又は動物に移植され得る。
【0198】
方法は、患者特異的疾患モデルを確立するために使用され得る(例えば、遺伝子成分を含む疾患のために患者からiPS細胞系統を作製することによって)。軟骨細胞様細胞及び組織集団は、本明細書に記載される方法を使用してヒト患者から確立され得る。これらの罹患細胞の分化並びに表現型を解析するために、本開示に記載されるプロトコールを使用して、沿軸中胚葉集団が作製され得、それらの細胞が、軟骨細胞の運命に、最終的に関節又は成長板様軟骨組織に特定化され得る。
【0199】
本明細書に記載される方法はまた、変形性関節症と関連するものを含めた軟骨疾患(例えば、肥大)の一般的なモデルを確立するために使用され得る。理論に縛られることを望まないが、BMP4は、関節様軟骨細胞及び軟骨組織において肥大の運命を誘導している可能性があり、これは、変形性関節症の発症時に関節軟骨において上方制御されることが多い経路である。別の例として、変形性関節症患者から単離された因子の、本明細書に記載される培養物への添加は、代謝的に活性な化合物(OA患者の膝の脂肪パッドにおいて見られるものなど)が、in vitroで組織の質に影響を及ぼし得るかどうかを決定するために使用され得る
【0200】
また、CD73が関節軟骨細胞様細胞を同定するとわかっているので、フローサイトメトリーによるCD73の使用及びフローサイトメトリーによる肥大を示す細胞の大きさの定量的尺度並びにマーカーベースの評価方法による組織自体の組織学は、関節又は成長板様運命を促進し得る因子のハイスループットスクリーニングを促進し得る。肥大は、例えば、マウスモデルにおいて変形性関節症と関連しており、患者において同様に原因となると考えられる。これらの適用は、例えば、肥大のモジュレーターを同定するために使用され得る。
【0201】
一実施形態では、候補軟骨形成調節物質は、罹患軟骨又は骨を有する対象から単離された因子である。一実施形態では、因子は、関節炎及び/若しくは肥満を有する対象の関節、任意選択で、膝関節中の脂肪パッドから、又は対照として健常な対象から単離される。別の実施形態では、試験物質は、BMP4アゴニストとともに添加され、試験物質は、試験物質の不在下で処理された対照と比較して、肥大を阻害するその能力について評価される。さらに別の実施形態では、肥大は、フローサイトメトリーを使用して、任意選択で、前方及び側方散乱を評価することによって評価される。
【0202】
別の実施形態では、方法は、
(a)本明細書に記載される方法に従って作製された関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を得るステップと、
(b)関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織を、試験物質とともに培養するステップと、
(c)関節様非肥大軟骨細胞様細胞増殖を測定するステップと、
(d)試験物質の不在下で培養された関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織と比較した、増殖の増大を検出し、試験物質が、候補関節軟骨細胞増殖インデューサーであることを示すステップと
を含む、候補関節軟骨細胞増殖インデューサーを評価する方法を含む。
【0203】
さらなる実施形態は、
(a)本明細書に記載される方法に従って作製された肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を得るステップと、
(b)肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織を、試験物質とともに培養するステップと、
(c)肥大軟骨細胞、細胞増殖を測定するステップと、
(d)試験物質の不在下で培養された肥大軟骨細胞様細胞及び/又は軟骨様組織と比較した、増殖の増大を検出し、試験物質が、候補肥大軟骨細胞増殖インデューサーであることを示すステップと
を含む、候補肥大軟骨細胞増殖インデューサーを評価する方法を含む。
【0204】
一実施形態では、任意選択で、フローサイトメトリーによって単離される、試験物質とともの培養に先立って、CD73関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織が単離される。
【0205】
別の実施形態では、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は肥大軟骨細胞様細胞は、関節軟骨細胞特異的プロモーター、任意選択で、ラブリシンプロモーターエレメントと機能的に連結されたリポーター遺伝子(すなわち、関節軟骨細胞リポーター系)及び/又は肥大軟骨細胞特異的プロモーター、任意選択で、コラーゲン10プロモーターエレメントと機能的に連結されたリポーター遺伝子(すなわち、肥大軟骨細胞リポーター系)並びに関節軟骨細胞分化を誘導する化合物(関節軟骨細胞リポーター系活性を測定することによって同定される)及び/又は肥大軟骨細胞分化を誘導する化合物(例えば、肥大軟骨細胞リポーター系活性を測定することによって同定される)を含む。
【0206】
一実施形態では、増殖の増大は、以下の方法:3Hチミジン取り込みアッセイ;5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)取り込みアッセイ及びプロピジウムヨウ素アッセイのうち1種又は複数を使用して測定される。
【0207】
さらなる実施形態は、
(a)本明細書に記載される方法に従って、関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織及び/又はGPC様細胞及び/又は成長板軟骨を作製するステップと
(b)関節様非肥大軟骨細胞及び/又は軟骨様組織及び/又はGPC細胞を、試験物質とともに培養するステップと、
(c)試験物質の細胞毒性及び/又は細胞保護活性を測定するステップと、
(d)試験物質の不在下で培養された、関節様非肥大軟骨細胞及び/又はGPC細胞及び/又は組織と比較した、細胞毒性の増大を検出し、試験物質が、関節軟骨細胞及び/又はGPC細胞に対して毒性であることを示すステップか、又は試験物質の不在下で培養された、関節様非肥大軟骨細胞及び/又はGPC細胞及び/又は組織と比較した、保護活性の増大(例えば、細胞毒性の減少)を検出し、試験物質が保護的であることを示すステップと
を含む、試験化合物のAC細胞及び/又はGPC細胞毒性又は保護活性を評価する方法を含む。
【0208】
一実施形態では、細胞毒性は、以下のアッセイ:トリパンブルー色素アッセイ、ルシフェラーゼアッセイ、MTTアッセイ及びWST-1アッセイなどのテトラゾリウム(tetrazolim)塩変換アッセイのうち1種を使用して測定される。
【0209】
本明細書において実証されるように、IL-1βは、軟骨細胞集団において変形性関節症様変化を誘導し得る。Il-1b及びその他のメディエーター、例えば、その他のサイトカイン及び膝脂肪パッド成分(例えば、疾患メディエーター)並びに機械的破壊が、本明細書において記載されるスクリーニング方法において使用され得る。例えば、本明細書に記載される方法を使用して製造される細胞は、試験物質の疾患メディエーター機能を阻害する又は逆転させる能力を評価するために、試験物質の存在下又は不在下でこのような疾患メディエーター又は機械的破壊と接触され得る(例えば、疾患メディエーターの添加若しくは機械的破壊に先立って添加されるか、又は細胞が接触された及び/若しくは機械的に破壊された後のいずれか)。
【0210】
一実施形態では、AC様軟骨細胞及び/又は軟骨様組織又は肥大様軟骨細胞及び/又は軟骨様組織は、疾患メディエーターと、任意選択で、試験物質とともの培養に先立って接触される。
【0211】
一実施形態では、疾患メディエーターは、サイトカイン、任意選択で、IL-βである。別の実施形態では、疾患メディエーターは、関節脂肪パッド成分、任意選択で、膝の脂肪パッド成分である。
【0212】
一実施形態では、スクリーニングアッセイは、以下の解析又はアッセイ:組織学的解析、グリコサミノグリカン及びプロテオグリカンの製造を定量するものなどの生化学的アッセイ、遺伝子発現解析、顕微鏡又はフローサイトメトリーによるラブリシン又はコラーゲン10などの蛍光リポーターの獲得/喪失、CD73細胞表面受容体発現の獲得又は喪失、細胞死についてのアッセイ及び軟骨細胞肥大を示し得る細胞の大きさについてのフローサイトメトリーのうち1種又は複数を含む。
【0213】
CD73は、関節様軟骨細胞について濃縮するための、細胞選別実験の陽性選択マーカーとして使用され得る。これらのマーカーは、現在使用中の同種間又は自己軟骨修復戦略とともに使用されるべき、組織の一次供給源からの関節軟骨細胞の単離を促進し得る。
【0214】
したがって、さらなる態様は、軟骨細胞を含む細胞の混合集団を、抗体(又はその他の結合分子):CD73細胞複合体の形成を可能にする条件下でCD73と結合する抗体(又はその他の結合分子)と接触させるステップ及び抗体CD73細胞複合体を単離するステップとを含む、関節軟骨細胞を単離する方法を含む。これは、細胞選別ベースの方法を含めた当技術分野で公知のいくつかの既知免疫学的方法によって行われ得る。
【0215】
一実施形態では、細胞の混合集団は、非軟骨細胞、非関節軟骨細胞様細胞及び/又は肥大軟骨細胞様細胞を含む。
【0216】
一実施形態では、抗体は、例えば、単離を促進するセファロースビーズ又は磁性ビーズのようなビーズなどのタグに連結される。
【0217】
CD73、CD105及びPDGFR-βの組合せは、その他の系統又はその他の系統の前駆体から沿軸/軟骨形成中胚葉を単離するための陽性選択マーカーとして使用され得る。心臓系統などのその他の系統は、沿軸中胚葉を作製するために使用されるものと同様のプロトコールを使用して誘導されることが多いので、これらの細胞表面マーカーを使用する細胞選別による沿軸中胚葉の単離は、この集団について濃縮するための手段を提供する。例えば、細胞は、フローサイトメトリーを使用して濃縮される。
【0218】
したがって、一実施形態は、沿軸軟骨形成中胚葉細胞を含む細胞の集団を、CD73特異的結合剤、CD105特異的結合剤及びPDGFRβ特異的結合剤を含むカクテルと接触させるステップ並びにCD73+、CD105+及びPDGFRβ+細胞について濃縮するステップとを含む、沿軸軟骨形成中胚葉細胞の集団を単離する方法を含む。一実施形態では、結合剤は、抗体である。別の実施形態では、細胞は、フローサイトメトリーを使用して濃縮される。また、本明細書に記載された方法に従って調製された単離された沿軸軟骨形成中胚葉細胞の集団も提供され、これは、本明細書に記載されるような組成物中又は製品中に含まれ得る。これらの細胞はまた、本明細書に記載されるスクリーニングアッセイにおいて使用され得る。沿軸中胚葉集団は、例えば、その他の細胞型を作製するために、例えば、骨格筋前駆体、脂肪細胞前駆体(脂肪細胞)及び可能性ある骨前駆体(骨芽細胞)を作製するために使用され得る。
【0219】
さらに、特定のセクションにおいて記載される定義及び実施形態は、当業者によって理解されるようにそれらが適している本明細書に記載されるその他の実施形態に適用可能であるものとする。種々のアゴニスト、阻害剤及び/又は例えば、定義において列挙されるアゴニスト、阻害剤などを含めたその他の成分の選択及び組合せも考慮される。例えば、以下のセクションでは、本発明の種々の態様は、より詳細に定義される。そのように定義される各態様は、反対に明確に示されない限り、任意のその他の態様(単数又は複数)と組み合わされ得る。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴は、好ましい又は有利であると示される任意のその他の特徴(単数又は複数)と組み合わされ得る。
【0220】
上記の開示は、本願を全般的に記載する。より完全な理解は、以下の特定の実施例を参照することによって得られ得る。これらの実施例は、単に例示目的で記載されるのであって、本願の範囲を制限しようとするのではない。状況が示唆し得るか、好都合にする場合には、等価物の形態の変化及び置き換えが考慮される。本明細書において特定の用語が使用されてきたが、このような用語は、記述的意味で意図され、制限を目的としない。
【0221】
以下の限定されない例は、本開示の例示である。
【実施例0222】
(例1)
結果
in vitroでの軟骨細胞形成は、胚様体(ステージ1)、単層培養での沿軸中胚葉の特定化(ステージ2)、高細胞密度マイクロマス培養での、又はコラーゲンコーティングされた膜フィルター上での軟骨細胞前駆体の作製(ステージ3)及びマイクロマス又はフィルター培養での関節及び成長板軟骨細胞及び軟骨組織の特定化(ステージ4)としての原始線条様(PS)集団の誘導を含む(
図1A)。
【0223】
多能性幹細胞(PSC)状態からの分化における第1のステップは、胚では、3種の胚様(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)が形成される原腸陥入の際に起こるPS集団の形成である。PS集団及び内胚葉及び中胚葉サブセットは、アクチビンA(アクチビン、Nodalの代用品)、Wnt及びBMPシグナル伝達分子(Nostra、Chengら2008年、Kattman、Wittyら2011年、Craft、Ahmedら2013年)の組合せを使用してPSCから誘導され得る。アクチビン、BMP4及びbFGFを用いて誘導されたPS集団は、細胞表面マーカーCD56及びPDGF受容体α(PDGFRa)の発現によって観察され得る(
図1B)。
【0224】
hESC由来原始線条(PS)中胚葉は、
図1Cに示されるように、CD56、PDGFRα及びKDRを発現する。hIPSCは、誘導の1日目及び3日目の間に、アクチビンA(3ng/ml)、BMP4(1ng/ml)、塩基性FGF(5ng/ml)及びCHIR99061(1マイクロモル)、小分子Wntアゴニストを使用してPS中胚葉集団に誘導された。hIPSCは、HES2 hES細胞系統の場合には3日間(1日目~4日目)の代わりに2日間(1日目~3日目)誘導された(
図1C)。hIPSC由来PS中胚葉もまた、CD56、PDGFRα及びKDRを発現する(
図1D)が、これらの細胞表面マーカーは、hiPSCが、CHIR99061の不在下で誘導される場合には発現されない(
図1E)。
【0225】
さらなる因子が培養の4日目を超えない場合、この集団内に含有される前駆体は、T5での細胞表面マーカーKDR及びPDGFRaの同時発現(
図2A、0DM、0FGF)及び15日目(T15)での心臓転写因子Nkx2.5のその後の発現(Kattman、Wittyら2011年)、
図2C)によって観察されるように、心原性の運命に特定化され得る。
【0226】
軟骨細胞を作製するために、このPS集団を、沿軸中胚葉の運命にまず特定化することが必要である。これまでの研究は、間葉系幹細胞で見られることが多い細胞表面マーカー、CD73及びCD105を発現する中胚葉集団が、軟骨形成能を有することを示した(Hwang、Kimら2006年)。沿軸中胚葉集団の出現をモニタリングするために、Nkx2.5の発現の欠如と組み合わされた、これら2種の細胞表面マーカーの発現並びに転写因子Meox1及びNkx3.2の発現が使用された。マウスESCモデル系におけるこれまでの実験は、心臓中胚葉の出現を妨げ、沿軸中胚葉の発生を促進するための、FGFシグナル伝達の関連でBMPシグナル伝達経路を阻害することの重要性を示した(Craft、Ahmedら2013年)。2日間T4~T6(分化の4~6日目)のI型BMP受容体ドルソモルフィン(DM)の阻害剤の添加は、細胞が、未処理中胚葉よりも少ないPDGFRaを発現したように、早ければT5までにPDGFRa及びKDRの発現パターンを変更した(
図2A)。bFGFの添加は、PDGFRa/KDR集団を徹底的には変更しなかった。未処理中胚葉状態では、極めて少ない細胞が、CD73及びCD105を発現した(7.46%、
図2B)。DMを用いる処理は、この集団をわずかにのみ増大したが、4日目から15日目のFGFを用いる処理は、CD73及びCD105を発現する細胞の割合を著しく増大させた(52%、
図2B)。これらの表面マーカーの発現の変化は、沿軸遺伝子Meox1及びNkx3.2の上方制御を伴っていた(
図2C)。T4~T6のDM及びT4~T15のbFGFの両方を用いる処理は、より頑強なCD73/CD105集団(67%)及びさらにはMeox1及びNkx3.2のより高い発現(
図2C)もたらし、これは、BMP阻害及びFGF処理の両方が、PS集団からの沿軸中胚葉特定化のために必要であることを示唆する。CD73/CD105発現に加えて、FGF-由来のCD73陽性細胞又はDM+FGF処理された単層も、PDGF受容体β(PDGFR-β、PBeta)を発現し、これは、沿軸中胚葉もこの細胞表面マーカーを発現することを示唆する(
図2B)。
【0227】
単層培養での沿軸中胚葉特定化の際に、Wnt経路阻害(PS中胚葉誘導(hESCについては4~6日目、hIPSCについては5~7日目)後の2日間の間)が、分化の15日目での細胞表面マーカーCD73及びCD105を発現する細胞のパーセンテージの増大をもたらしたということが観察された(
図2C)。したがって、いくつかの細胞系統では、沿軸中胚葉特定化の効率は、PS中胚葉誘導相の直後にWnt経路アンタゴニストの存在下で改善され得る。
【0228】
これまでの研究は、TGFβ/BMPシグナル伝達が、沿軸中胚葉から軟骨細胞前駆体を作製するために必要であるということを示した。BMP4含有培地へのこの中胚葉の直接プレーティングが、軟骨組織を形成しなかった非接着細胞凝集体の発生をもたらしたので、ステージ3(例えば、15日目で出発する)のために、TGFB3(並びに、TGFβ1又はTGFβ2)刺激が必要であることがわかった。TGFb3処理の10日後に(合計で25日目)、培養物は、BMP4を含有する培地に切り替えられ、又は軟骨細胞(関節/非肥大又は成長板/肥大)のサブセットを特定化するためにTGFb3(ステージ4)で維持され得る。15日目中胚葉集団の軟骨細胞の潜在力を決定するために、細胞を、20マイクロリットルの容量で高細胞密度で組織培養処理されたペトリディッシュ上に1時間(マイクロマス)プレーティングし、次いで、「スポット」を培地で浸し/覆った。本発明者らの最初の研究では、細胞を、2%ウシ胎児血清を含有する培地中で「スポット」した。しかし、この短い血清曝露は、後のステージでの軟骨形成に対する効果を伴わずに省かれることもあり、これは、このプロトコールを、任意選択で、血清不含にする。2~3日後、軟骨細胞前駆体を作製するために、TGFb3を含有する血清不含培地が培養物に添加される。4種の異なる中胚葉(0DM+/-FGF;4μM DM+/-FGF)に由来する集団を、このマイクロマスアッセイにおいて試験した。1日の培養内に4種の中胚葉集団のすべてがディッシュと接着したが(
図2D)、1週間後に異なる表現型が観察された。フローサイトメトリーによって心臓トロポニンT(cTnT)の発現によって定量化される、収縮する(拍動する)心筋細胞(
図2E)が、未処理中胚葉(0DM、0FGF)由来のマイクロマスで観察された。DM単独で処理された中胚葉は、軟骨細胞を形成するのに接着したままではなく、代わりに、培地交換で洗い流される長いストランドに凝集した。FGF処理された、並びに、DM+FGF処理された細胞は、マイクロマス培養の最初の1週間を細胞の接着層として生き残り、心筋細胞は全く作製しなかった。4週間のマイクロマス培養後、DM+FGFを用いて単層相で処理された細胞は、肉眼で観察され得る軟骨様組織(およそ1cmの直径)を作製した。FGF単独を用いる単層相において処理された細胞は、軟骨組織表現型を維持せず、培養ディッシュから剥離した(
図2F)。FGF処理及びDM+FGF処理単層培養物の両方が、同様のレベルのCD73/CD105/PDGFR-βを発現したが、15日目の沿軸遺伝子発現並びに軟骨組織の全体的な生存は、in-vitroで軟骨様組織を形成する能力を有する沿軸中胚葉の運命を特定化するためには、BMP阻害(ここでは、DM処理の形での)及びFGF刺激の両方が必要であることを示唆する。
【0229】
CD73、CD105及びPBetaが、hESC分化培養物中の軟骨細胞の潜在力を有する集団で発現されるかどうかを決定するために、15日目にDM+FGF処理単層からCD73+CD105+及びCD73-CD105-及びCD73+PBeta+及びCD73-PBeta-画分を単離し、マイクロマス培養でアッセイした(
図3A)。マイクロマスで10日後、CD73+CD105+細胞及びCD73+PBeta+細胞が接着し、生き延びた。両実験における二重陰性細胞は、これらの条件下で生き延びることができなかった(
図3B)。2週間後、CD73+CD105+及びCD73+PBeta+選別細胞に由来する培養物(TGFB3で維持されるか、又はBMP4含有培地に切り替えられたのいずれか)において軟骨組織が発生した。対照的に、両場合における二重陰性細胞は、軟骨組織を全く形成できなかった(
図3C)。軟骨組織を作製する潜在力の相違が、
図3Dに示されている。これらのデータは、CD73+CD105+PBeta+細胞が、軟骨細胞及び軟骨様組織を作製するための潜在力を有するが、一方で、これらのマーカーの発現を欠く細胞はそうではないことを実証する。
【0230】
ステージ2の最後に導かれた適当な沿軸中胚葉集団への接近及びステージ3の最後での軟骨細胞前駆体の作製は、関節軟骨細胞(AC)及び成長板軟骨細胞(GPC)の2つの軟骨細胞サブタイプの発生を研究する機会を提供した。沿軸中胚葉細胞がTGFb3を用いて約10日間刺激された後、これらの軟骨細胞/軟骨培養物は、数カ月間、TGFb3含有培地で維持されるか、又はBMP4含有培地に切り替えられ得る(ステージ4)。TGFb3又はBMP4処理された培養物は、12週間の過程にわたって軟骨様組織を形成し、これは、軟骨特異的細胞外マトリックスの存在を示す染色(トルイジンブルー)を使用して、また関節軟骨又は成長板軟骨のいずれかと関連している遺伝子の発現によって組織学的に解析され得る。形態学的に、TGFb3処理軟骨組織に見られる軟骨細胞は、小さい線維芽細胞様表現型を有するが、BMP4処理軟骨細胞は、敷石のような外観を有する円形である(
図4A)。トルイジンブルーを用いて均一に染まるTGFb3処理軟骨は、組織中に等しく分散された小さい細胞(軟骨細胞)を含有する(13週齢組織、
図4B)。対照的に、BMP4処理組織は、拡大した肥大軟骨細胞を含有する。BMP4処理軟骨組織における軟骨細胞の大きさの顕著な増大は、GPC分化と関連する正常なプロセスである軟骨細胞肥大を示し得る。in-vivoでは成長板中の肥大軟骨細胞は、コラーゲン10発現を特徴とする。成長板分化プログラムは、最終的に、細胞死につながり、上に新規骨が形成され得る石灰化したマトリックスを残す。肥大はまた、生細胞の前方及び側方散乱プロットを使用するフローサイトメトリー解析によってBMP4処理軟骨組織においても観察された(
図4C)。TGFb3処理軟骨細胞は、より小さい、あまり粒状ではない細胞の堅固な集団を形成するのに対し、BMP4処理細胞は、評価されたすべての時点で、より大きな細胞の大きさを表すより大きな前方散乱(FSC)を示し、並びにより高い細胞粒度を表すより大きな側方散乱(SSC)を示す(3週及び5週マイクロマスが示されている)。
【0231】
組織学的に、TGFb3処理軟骨組織は、19週齢の胎児大腿骨の関節軟骨の将来の部位の多数の同一の特徴を有すると思われる(上のパネル、
図4D)が、一方で、BMP4処理軟骨において見られる肥大軟骨細胞は、胎児大腿骨の軟骨下骨領域付近に見られる成長板軟骨細胞の外観と似ている(下のパネル)。これらの表現型は、ヒトPSCから、軟骨の2種の独特のサブタイプの特徴を有する軟骨組織がin-vitroで作製されたことを示唆する。膝関節から単離された初代胎児軟骨細胞も、15日目hPSC由来沿軸中胚葉に使用したプロトコールと同一のマイクロマスアッセイにおいて培養し、in-vitroで同様に軟骨組織を作製した。組織学的に、TGFB3処理及びBMP4処理胎児軟骨細胞由来軟骨組織はまた、hPSC由来の軟骨組織と極めて類似して見える。
図4Eは、BMP-4をGDF5と置換することが、
図4Aにおけるものと同様の肥大軟骨細胞を作製することを示す。
【0232】
hiPSCからTGFβ3及びBMP4で作製された12週齢軟骨組織において細胞の大きさ及び形態学における同様の相違が観察された。組織は、トルイジンブルーを用いて異染性に染まり、これは、プロテオグリカンの存在を示す(
図4F)。予測されたように、両条件下で作製されたhPSC由来組織中にII型コラーゲンタンパク質が存在する(
図4G)。X型コラーゲンは、この時点ではいずれの組織においても検出されなかった。TGFβ3処理マイクロマス中に、ラブリシンタンパク質は存在していたが、BMP4処理マイクロマス組織中には存在しておらず(
図4H)、組織構造の頂部を並ぶ平板化された細胞において優先的に見出された。総合すると、これらの知見は、持続したTGFβ3シグナル伝達は、関節軟骨様組織を作製し得る関節軟骨細胞の発生を促進するのに対し、BMP4シグナル伝達は、成長板特徴を有する軟骨を形成する肥大(拡大した)軟骨細胞の分化を誘導するという解釈に対して強力な支持を提供する。
【0233】
2種の条件下で作製された組織を、次いで、qRT-PCRによって遺伝子発現パターンについて(
図5)、及び免疫組織化学及び免疫染色によって軟骨発生と関連する特定のタンパク質の存在について(
図4)解析した。関節及び肥大軟骨細胞の両方によって発現される遺伝子SOX9及びCOL2A1の発現は、TGFβ3及びBMP4処理組織の両方において2週間の培養まで上方制御された(
図5A~B)。発現のレベルは、初代ヒト胎児AC、健常成人AC及び腸骨稜(肥大)軟骨細胞において見られるものと同様であった。RUNX2、SP7、アルカリホスファターゼ(ALP/ALPL)及びCOL10A1を含めた、肥大軟骨細胞と関連している遺伝子の発現は、TGFb3で維持された組織においてよりも、8~12週齢BMP4処理組織において有意に高かった(
図5C~F)。ラブリシン(PRG4)及び軟骨中間体層タンパク質2(CILP2)を含めた、表層関節軟骨細胞によって発現されるとわかっている遺伝子について(
図5G-H)、並びに、GDF5、WNT9A及びERGなどの、関節インターゾーン細胞、ACの前駆体集団において発現されるものについて(
図1~K)は逆転パターンが観察された。
【0234】
総合すると、TGFB3処理細胞及びBMP4処理細胞由来のhPSC由来軟骨の組織学及び遺伝子発現解析は、2種の独特の軟骨細胞集団及び軟骨様組織が、in-vitroで作製されたことを示唆する。TGFB3処理軟骨組織の長期間(最大12週間)の成熟は、ラブリシン及びCILP2などの成熟したAC遺伝子の発現を可能にする。TGFB3培養物のBMP4を用いる処理は、肥大反応を誘導し、これは、組織学によって及び成長板中に見られる肥大軟骨細胞と関連する遺伝子、コラーゲン10及びRunx2の上方制御によって容易に観察される。したがって、TGFB3処理に由来するhPSC由来軟骨組織は、関節様軟骨に相当し、一方で、BMP4処理軟骨組織は、成長板様肥大軟骨に相当する。
【0235】
hPSC分化培養物から、又は自己軟骨細胞移植の目的のために患者から単離された軟骨組織のいずれかからのACの濃縮のために利用され得る細胞表面マーカーを同定する試みでは、本発明者らは、350種の抗体を含むフローサイトメトリーベースの抗体スクリーニングを実施した。同種異系の移植に使用されたヒト健常成人関節軟骨の少なくとも2種のサンプル、16~19週齢の年齢の少なくとも4種のヒト胎児軟骨細胞を含めた膝関節から得た初代軟骨細胞のいくつかの供給源並びに成長板特徴を有する、臀部領域中の腸骨稜から単離されたヒト成人軟骨細胞の1種のサンプルをスクリーニングした。本発明者らは、これらのスクリーニングから、CD73を関節軟骨細胞のマーカーとして同定した(
図6)。CD73は、膝から単離された健常成人関節軟骨細胞の実質的にすべて(>96%)によって発現されるが、腸骨稜GPC様軟骨細胞の約22%のみによって発現される(
図6A)。CD73は、胎児軟骨細胞のおよそ半分によって発現され(
図6B)、これは、青年期の間に起こる、二次的骨化中心がまだ骨化していない場合には成長板軟骨細胞からこれらの細胞だけを単離することが困難であるので、関節軟骨細胞の純粋でない集団を表す。
【0236】
初代(P0)及び継代された(P2)胎児軟骨細胞もまた、hPSC由来の軟骨組織が形成された方法と同様に、TGFB3又はBMP4とともにマイクロマスで培養され得る。TGFB3処理胎児P0由来又は胎児P2由来軟骨組織は、93%超のCD73陽性細胞を含有し、一方で、BMP4処理は、CD73+細胞のパーセンテージを、それぞれ、70%及び61%に低下させる(
図6C、D)。CD73発現はまた、TGFB3処理に由来するhPSC由来軟骨組織の98%超によって発現される(
図6E)。CD73+細胞のパーセンテージは、BMP4処理後に細胞のわずか約57%に低下される。したがって、CD73は、初代健常成人AC、健常胎児軟骨細胞の集団、胎児軟骨細胞又はTGFB3中マイクロマスとして培養された継代された胎児軟骨細胞及びヒトPSC由来のTGFB3処理関節軟骨細胞様細胞を示す。
【0237】
CD73などの間葉系細胞表面マーカーが、分化の初期のhPSC由来沿軸中胚葉並びにその中胚葉に由来する末期の関節様軟骨細胞を示すことは興味深い。12日目(T12)及び15日目(T15)の沿軸中胚葉は、CD73及びPDGFR-βの両方を発現し、「スポッティング」相の3日後(合計で18日目)、すべての細胞は、CD73+PDGFR-β+である(
図6F)。興味深いことに、これらの細胞表面受容体の両方が、10日~2週間のマイクロマス培養後に下方制御される。4~5週間後、CD73は、TGFB3処理マイクロマス培養物において再度発現されるようになり(
図6G)、これは、CD73が、軟骨細胞前駆体が関節軟骨細胞の運命に向けて分化しているときに発現されるようになる可能性があることを示唆する。
【0238】
2種の種類の軟骨細胞の潜在力をさらに特性決定するために、解離された8~12週齢の組織から得た細胞を、NSG免疫不全マウスに皮下注射した。両集団が、移植後4週間まで石灰化の証拠がない、II型コラーゲンを発現するプロテオグリカンの豊富な軟骨組織を作製した。移植の12週間後に、移植片に別個の相違が観察された。BMP4処理軟骨細胞由来の組織は、プロテオグリカンをほとんど保持しておらず(
図7A、C)、それぞれ、陽性フォンコッサ(
図7B)及びX型コラーゲン染色(
図7E)によって示されるように、カルシウム沈着/石灰化及び肥大の領域を含有していた。興味深いことに、TGFβ3処理軟骨細胞から得られた移植片は、プロテオグリカンの豊富な(
図7A、C)及びII型コラーゲンの豊富なECM(
図7D)を維持しており、カルシウム沈着/石灰化又は肥大の証拠はなかった(
図7B、E)。これらの移植研究から得られたこれらの知見は、2種の軟骨細胞集団が機能的に別個であることを実証し、TGFβ3処理細胞は、それらが安定な軟骨を作製し、in vivoで12週間にわたって維持するので関節軟骨細胞に相当するというさらなる証拠を提供する。対照的に、BMP4の存在下で発生した軟骨細胞は、それらがin vivoで軟骨内骨化を開始する組織を生じさせるので、成長板において見られるものの特徴を示す。
【0239】
TGFβ1及びTGFβ2を用いて12週間処理されたマイクロマス組織において、COL2A1、PRG4(ラブリシン)及びCILP2もまた上方制御され(
図8)、これは、hPSC由来沿軸中胚葉反応からの関節軟骨細胞の作製が、リガンド特異的ではなかったことを示す。
【0240】
hPSC由来関節様軟骨の制限されない供給への接近は、変形性関節症(OA)の初期ステージにおいて役割を果たすと知られている、インターロイキン-1α(IL1β)などの炎症性サイトカインを解析するためのプラットフォームを確立する機会を提供する。TGFb3の不在下での、2週間の10週齢のhPSC由来ACの、IL1βを用いる処理(
図9A)は、マトリックスメタロペプチダーゼ13(MMP13)(
図9B)及びMMP2(
図9C)並びにADAMTS4&S5(
図9D,E)を含めた異化酵素の発現の上方制御をもたらした。これらの酵素は、コラーゲン及びアグリカンなどの、軟骨細胞外マトリックス(ECM)中に見られるタンパク質を切断し、これは、軟骨組織の分解につながる。MMP13及びADAMTS4の有意な上方制御は、TGFβ3の不在下でのみ観察された。ADAMTS5は、TGFβ3の存在下又は不在下で誘導された。ラブリシン(PRG4)及びCILP2の発現も、IL1βがTGFβ3の不在下(
図9H~I)又は存在下で組織に添加された場合に、下方制御された。IL1βの添加はまた、COL2A1及びACAN発現の減少(
図9F~G)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)発現の増大(
図9J)、及び組織におけるプロテオグリカンの注目すべき喪失(
図9K)につながった。総合すると、これらの知見は、IL1βシグナル伝達は、早期のOAが発病する期間に生来の軟骨中で観察されるものと同様に、hPSC由来ACにおいて同化環境から異化状態への移行を開始し得るということを示唆する。
【0241】
(例2)
CD73+細胞は、関節非肥大軟骨細胞に相当し、CD73陽性の欠如は、成長板様肥大軟骨細胞を同定し得る。
【0242】
軟骨細胞及び軟骨様組織は、本明細書に記載される方法、例のために、例1に記載される方法を使用して作製され得る。関節軟骨細胞は、CD73細胞マーカーを使用して前駆体又は成長板様軟骨細胞から単離及び/又は分離され得る。本明細書において記載されるように、AC様細胞は、BMP4を用いて刺激される時に、肥大になり、その細胞表面でのCD73の発現を失う。使用され得るCD73細胞表面マーカーの発現をモニタリングする方法は、蛍光活性化細胞選別(FACS)解析である。
【0243】
(例3)
薬物毒性学スクリーニングのためのhESC由来軟骨細胞又は軟骨の使用
本明細書に、例えば、例1に記載された方法を使用して得られたHESC由来軟骨細胞は、予測薬物毒性学スクリーニング並びに創薬のために使用され得る。例えば、軟骨組織及び/又は成長板様軟骨組織系統並びにその前駆体に特有の肥大軟骨細胞は、試験物質と接触され得、細胞死などの1種又は複数の生物学的エンドポイントが測定される。例えば、細胞死は、例えば、トリパンブルーアッセイなどの生存細胞色素排除アッセイを使用して測定され得る。例えば、試験物質(薬物)に曝露されるAC様軟骨細胞は、トリパンブルー色素に対して透過性である細胞をカウントすることによって、所望の時点後に細胞毒性についてモニタリングされ得る。その他のアッセイとして、テトラゾリウム(tetrazolim)塩変換アッセイが挙げられる。このようなアッセイの例として、MTTアッセイ並びにWST-1アッセイが挙げられる。アッセイは、ハイスループットスクリーニングのために自動化され得る。
【0244】
(例4)
試験物質によって誘導されるような細胞増殖の試験におけるhESC由来軟骨細胞又は軟骨の使用
hESC由来軟骨細胞の使用の別の例は、細胞分化又は増殖に対して効果を有する薬物の試験である。特に対象とするものは、AC様の運命を示すCD73マーカーの使用によってモニタリングされるような、初代関節軟骨細胞の関節軟骨組織への増殖に影響を及ぼし得る薬物の試験であろう。種々の細胞増殖アッセイが、利用可能であり、対象の試験物質に対する反応をモニタリングできる。例えば、3Hチミジン取り込みアッセイは、試験物質又は増殖因子を用いる処理後の細胞の増殖をモニタリングする。このような処理の後、細胞を3H-チミジンとともに16~24時間インキュベートする。代替アッセイとして、5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)取り込みアッセイがある。さらに別の代替法として、プロピジウムヨウ素試験の使用の使用がある。蛍光は、サンプル中のDNA含量に対して直接比例する。細胞増殖をモニタリングするこの方法は、単層で増殖される細胞を用いて使用され得るので、hESC由来軟骨細胞との関連で特に有用であり得る。
【0245】
(例5)
細胞系統を区別する方法としての軟骨細胞の大きさ及び粒度の使用
本開示は、異なる系統の軟骨細胞、より詳しくは、AC様軟骨細胞、同様に成長板様軟骨細胞を作製する方法を記載する。これらの系統は、例えば、大きさに基づいて区別され得る。例えば、hESC由来軟骨細胞の前方散乱(FSC-A)及び側方散乱(SSC-A)を使用して、生細胞のフローサイトメトリー解析の際に観察される抗体ベースの染色の不在下で使用され得る。TGFB3処理AC様細胞集団は、全般的に均一な大きさ及び粒度を有する堅固な細胞の集団として示し、一方で、BMP4処理肥大軟骨細胞は、全般的により大きいFSC-A及びSSC-A特性を有する不均一な細胞集団を示す。したがって、生細胞のFSC-A及びSSC-A特性は、軟骨細胞肥大を誘導又は阻害する因子が試験されている実験における有用な読み出し情報であり得る。
【0246】
(例6)
リポーター遺伝子アッセイを使用する細胞発生及び細胞系統のモニタリング
ラブリシン又はコラーゲン10などの成熟した軟骨遺伝子を含めた軟骨細胞特異的遺伝子の発現を維持又は変更する因子及び物質を同定するために、リポーター遺伝子アッセイが本明細書に記載される方法とともに使用され得る。例えば、ラブリシンプロモーター-RFP(赤色蛍光タンパク質)によって標的とされるhESC株が、ラブリシンプロモーター活性を誘導する試験物質のスクリーニング及び蛍光顕微鏡によって検出可能なRFPの発現のために使用され得る。ラブリシンプロモーターRFP+発現、蛍光の増大又はラブリシンプロモーターRFP+を発現する細胞のパーセンテージの増大が、非肥大関節様軟骨細胞特徴を示した細胞のパーセンテージの増大を示す。対照的に、ラブリシンプロモーターRFP+の喪失は、これらの細胞及び/又は関節軟骨細胞様特徴の喪失を示し得る。
【0247】
同様に、コラーゲン10リポーター(コラーゲン10プロモーター-緑色蛍光タンパク質-GFPなど)は、軟骨細胞又は組織におけるコラーゲン10発現のレベルの増大又は減少の検出において有用であろう。コラーゲン10-GFP+発現、蛍光の増大又はコラーゲン10-GFPを発現する細胞のパーセンテージの増大が、肥大軟骨細胞特徴を示した細胞のパーセンテージの増大を示す。対照的に、コラーゲン10-GFPの喪失は、肥大の喪失を示し得る。
【0248】
リポーター株はまた、フローサイトメトリーベースのスクリーニングにおいて使用され得る。
【0249】
或いは、非肥大軟骨細胞及び/又は肥大軟骨細胞は、リポーター遺伝子が、関節軟骨細胞特異的プロモーター、任意選択で、ラブリシンプロモーターエレメントと機能的に連結されているリポーター遺伝子系(すなわち、関節軟骨細胞リポーター系)及び/又は肥大軟骨細胞特異的プロモーター、任意選択で、コラーゲン10プロモーターエレメントと機能的に連結されているリポーター遺伝子(すなわち、肥大軟骨細胞リポーター系)を用いて一時的に又は安定的にトランスフェクトされ得る。細胞は、選択され、次いで、試験物質と接触され得る。関節軟骨細胞分化を誘導する試験物質は、関節軟骨細胞リポーター系活性(例えば、対照に対して相対的な)を測定することによって同定され得、肥大軟骨細胞分化を誘導する試験物質は、肥大軟骨細胞リポーター系活性(例えば、対照に対して相対的な)を測定することによって同定され得る。
【0250】
本願を、好ましい例であると現在考えられるものを参照して記載したが、本願は開示される例に制限されないと理解されるべきである。対照的に、本願は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる、種々の改変及び同等の配置を対象とするものとする。
【0251】
すべての刊行物、特許及び特許出願が、参照によりその全文は、各個々の刊行物、特許又は特許出願が、参照によってその全文が組み込まれるよう、具体的に、個別に示されるかのような同程度に、本明細書に組み込まれる。具体的には、表又は別の場所に提供される、例えば、受託番号及び/又はバイオマーカー配列(例えば、タンパク質及び/又は核酸)を含めた、本明細書において提供された各受託番号と関連している配列が、参照によりその全文が組み込まれる。
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