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特開2023-6200インバータ駆動制御装置およびインバータ駆動制御方法
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  • 特開-インバータ駆動制御装置およびインバータ駆動制御方法 図1
  • 特開-インバータ駆動制御装置およびインバータ駆動制御方法 図2
  • 特開-インバータ駆動制御装置およびインバータ駆動制御方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006200
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】インバータ駆動制御装置およびインバータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20230111BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230111BHJP
   H02P 21/26 20160101ALI20230111BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 F
H02P21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108675
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】漆原 堂樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 義隆
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 徹
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA19
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE50
5H505EE55
5H505HB01
5H505JJ04
5H505JJ25
5H505LL14
5H505LL21
5H770BA03
5H770DA03
5H770DA31
5H770EA02
5H770HA02Z
(57)【要約】
【課題】インバータのPWM駆動制御において、非同期変調モード中にキャリア周波数を高く設定する場合に速度推定中の精度低下を防止する技術を提供する。
【解決手段】インバータ駆動制御装置として、直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給するインバータと、インバータをPWM制御により駆動する制御部とを備え、制御部は、交流電動機を初期速度で駆動する期間では、PWM制御のためのキャリア周波数を初期速度以降の加速時に用いるキャリア周波数より低い周波数にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給するインバータと、
前記インバータをPWM制御により駆動する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記交流電動機を初期速度で駆動する期間では、前記PWM制御のためのキャリア周波数を前記初期速度以降の加速時に用いる前記キャリア周波数より低い周波数にする
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記PWM制御における変調率が低い領域では、前記キャリア周波数を前記インバータの出力周波数に対し任意に設定する非同期変調モードで前記PWM制御を行う
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記PWM制御によって前記インバータを構成する上下アームをオンオフする際に、当該上下アームの両方が共にオフとなるデッドタイムを設けて当該上下アームの同時オンを防止する
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記交流電動機を初期速度で駆動する期間で当該交流電動機のロータ周波数を推定するに当たって、推定する前記ロータ周波数が前記デッドタイムによって前記交流電動機の電流が歪むことによる影響を受けない範囲まで前記キャリア周波数を低下させる
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記PWM制御を用いて前記交流電動機に対してセンサレスベクトル制御を行う
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記交流電動機のロータ周波数の推定値と実際の値との誤差によって生じるトルク電流指令と実際のトルク電流との偏差を利用して前記初期速度の推定を行う
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記誤差が大きい場合に前記ロータ周波数の推定値を一定加速度で収束させる
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のインバータ駆動制御装置であって、
前記制御部は、前記交流電動機のロータ周波数の推定値が所定値以下になった場合に、前記交流電動機に対する励磁電流指令を増加させる
ことを特徴とするインバータ駆動制御装置。
【請求項9】
インバータをPWM制御して直流電力から変換した交流電力を交流電動機に供給するインバータ駆動制御方法であって、
前記交流電動機を初期速度で駆動する期間は、前記PWM制御のためのキャリア周波数を前記初期速度以降の加速時に用いる前記キャリア周波数より低い周波数にする
ことを特徴とするインバータ駆動制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載のインバータ駆動制御方法であって、
前記PWM制御における変調率が低い領域では、前記キャリア周波数を前記インバータの出力周波数に対し任意に設定する非同期変調モードで前記PWM制御を行う
ことを特徴とするインバータ駆動制御方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のインバータ駆動制御方法であって、
前記交流電動機に対してセンサレスベクトル制御を行う
ことを特徴とするインバータ駆動制御方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載のインバータ駆動制御方法であって、
前記交流電動機のロータ周波数の推定値と実際の値との誤差によって生じるトルク電流指令と実際のトルク電流との偏差を求め、
前記偏差を利用して前記初期速度を推定する
ことを特徴とするインバータ駆動制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載のインバータ駆動制御方法であって、
前記誤差が大きい場合に、前記ロータ周波数の推定値を一定加速度で収束させる
ことを特徴とするインバータ駆動制御方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項に記載のインバータ駆動制御方法であって、
前記交流電動機のロータ周波数の推定値が所定値以下になった場合に、前記交流電動機に対する励磁電流指令を増加させる
ことを特徴とするインバータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ駆動制御装置およびインバータ駆動制御方法に関し、特に鉄道車両用として好適である。
【背景技術】
【0002】
センサレスベクトル制御によって鉄道車両用誘導電動機を駆動する際に、誘導電動機に流れる誘導電動機電流を用いてロータ回転周波数を推定する手法が採用されている。ただし、誘導電動機電流にリプルが含まれていると、ロータ回転周波数推定値にもこのリプル成分が含まれるため、その対策が必要である。
【0003】
例えば、その対策として、特許文献1には、「誘導電動機電流にリプルが含まれているとロータ回転周波数推定値に誘導電動機電流のリプル成分が含まれて精度のよい速度推定を行うのが困難となる。そこで、誘導電動機電流のリプル成分の影響を少なくするために、搬送波のキャリア周波数を高くしている。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-18898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インバータ装置は、直流を交流に変換する際、各相の上下アームをPWM制御により交互にオンオフしている。このインバータ装置のPWM制御により誘導電動機を駆動する際に、PWM制御に用いるキャリア周波数を高くすることで、上下アームのスイッチング周期が短くなり、より正弦波に近い誘導電動機電流が得られる。
【0006】
特許文献1に記載の技術では、誘導電動機電流に含まれているリプル成分をフィルタで除去することで、搬送波のキャリア周波数を高く設定する必要性がなくなるため、電気車制御装置の冷却性能の低下および冷却器の大型化を防止していた。
【0007】
しかし、素子性能や付随する冷却器の制約がない場合、誘導電動機損失を低減させるという観点で誘導電動機電流をより正弦波に近づけるために、キャリア周波数を高く設定することがある。
【0008】
また、キャリア周波数を高くすることでスイッチング周期を短くできる一方で、上下アームが同時オンし短絡することを防止するために、上下アームともオフとなるデッドタイムが素子に対して設けられている。
【0009】
ここで、デッドタイムは、製品ごとに固定値として定められているが、キャリア周波数を高く設定する場合には、スイッチング回数が増加し、デッドタイムの発生回数も増加するため、誘導電動機の相電圧出力に歪みを発生させる。このため、特にセンサレスベクトル制御における初期速度時の推定中には、推定精度の低下を招く恐れがある。
【0010】
そこで、本発明では、鉄道車両用のPWM駆動制御において、非同期変調モード中にキャリア周波数を高く設定する場合に速度推定中の精度低下を防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明のインバータ駆動制御装置の一つは、直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給するインバータと、インバータをPWM制御により駆動する制御部とを備え、制御部は、交流電動機を初期速度で駆動する期間では、PWM制御のためのキャリア周波数を初期速度以降の加速時に用いるキャリア周波数より低い周波数にするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、初期速度の推定中にのみキャリア周波数を低下させることで、デッドタイムの発生回数が少なくなるため、速度推定の精度を向上させることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係るインバータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施例に係るインバータ駆動制御装置による制御方法をフローチャートで示す図である。
図3】実施例に係る、加速時において変調率を0%から上昇する際のキャリア周波数の設定について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として実施例について説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示す。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例に係るインバータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すインバータ駆動制御装置では、インバータが駆動制御する交流電動機として、鉄道車両用の誘導電動機11を対象として構成したものである。
【0016】
主な構成要素は、インバータ10、誘導電動機電流用座標変換部13、電圧ベクトル演算部3、ACR5、速度推定部7およびPWM制御部9、である。
ここで、誘導電動機11を駆動するインバータ10に関しては、2レベル構成または3レベル構成を有するものである。
【0017】
また、インバータにより駆動制御される誘導電動機は、鉄道車両用に限定されるものではなく、更に、誘導電動機を、PMSMといった同期電動機を含む交流電動機としてもよい。
【0018】
電圧ベクトル演算部3は、励磁・トルク電流指令値1と速度推定部7が出力するロータ周波数推定値2とにより、電圧ベクトルの演算を行う。初期速度の推定開始時には、ロータ周波数推定値2の値としてFslvが与えられる。
【0019】
誘導電動機電流用座標変換部13は、検出した誘導電動機電流12の座標変換を行い、励磁電流およびトルク電流検出値4を出力する。
【0020】
ACR部5は、励磁電流およびトルク電流指令値1と励磁電流およびトルク電流検出値4とにより、電圧操作量6を算出する。算出される電圧操作量6には、推定誤差が含まれる。
【0021】
速度推定部7は、ACR部5が出力する電圧操作量6に基づいてロータ周波数推定値2を算出する。
【0022】
ここで、初期速度を推定する方式としては、ロータ周波数推定値と実際のロータ周波数との誤差によって生じるトルク電流指令と実際のトルク電流との偏差を利用する方式、ロータ周波数推定値と実際のロータ周波数との差が大きい場合に一定加速度でロータ周波数推定値を収束させる方式およびロータ周波数推定値が所定値以下になったときに励磁電流指令を増加させることでモータ内の磁束を増加させる方式、を適宜に組み合わせて実施する。
【0023】
PWM制御部9は、電圧ベクトル演算部3より算出された電圧と電圧操作量6とを加算した電圧指令8を基に、インバータ10に対してPWM制御を行う。これにより、インバータ10が直流を交流に変換するためのスイッチング周波数を制御する。
【0024】
図2は、本実施例に係る車両用駆動制御装置による制御方法をフローチャートで示す図である。スタート(START)してステップ14からステップ18を経てエンド(END)に至る処理で構成される。
【0025】
ステップ14で、速度推定部7は、ノッチ指令がオンされたか否かを判断し、ノッチ指令がオンされた場合(YES)には、ステップ15に進み、ノッチ指令がオンされなかった場合(NO)には、再度ステップ14に戻り、以後定期的にノッチ指令オンの判断がなされる。
【0026】
ステップ15で、速度推定部7は、初期速度の推定を開始し、ステップ16に進む。
【0027】
ステップ16で、PWM制御部9は、スイッチング時間を生成する際のキャリア周波数を低下させる。すなわち、PWM制御部9は、スイッチング時間を生成する際に用いるキャリア周波数の値を、非同期変調モードの通常加速時のもの(図3に示す、キャリア周波数Fcn25)から初期速度推定時用の値(図3に示す、初期速度推定時用キャリア周波数Fcslv24)へと切り替える。
【0028】
ステップ17で、PWM制御部9は、ステップ14のノッチ指令オンから初期速度推定時間Tslv(図3に示す、初期速度推定時間Tslv23)の経過を待つ。この推定時間Tslvの経過後、ステップ18に進む。
【0029】
ステップ18で、PWM制御部9は、キャリア周波数を復帰させる。すなわち、PWM制御部9は、スイッチング時間を生成する際に用いるキャリア周波数の値を、初期速度推定時用の値(図3に示す、初期速度推定時用キャリア周波数Fcslv24)から非同期変調モードの通常加速時のもの(図3に示す、キャリア周波数Fcn25)へと切り替える(復帰させる)。
【0030】
図3は、本実施例に係る、加速時において変調率を0%から上昇する際のキャリア周波数19の設定について説明する図である。横軸は時間軸であり、縦軸は、左側がパーセンテージ、右側が周波数、を示す。
【0031】
誘導電動機をPWM制御する時の変調モードは、非同期変調モード20および同期変調モード21から構成され、変調率22(図3に示す点線)に応じて切り替わる。起動(立ち上げ)から加速する際に変調率を増加させ所定の速度に達するまでは、非同期変調モード20で運転され、所定の速度に達した後の定速走行時などでは、同期変調モード21で運転される。
【0032】
図3に示す実線部19は、PWM制御におけるキャリア周波数fcの変化を示す。非同期変調モード20の期間では、キャリア周波数fcは、誘導障害や素子の温度上昇等を考慮した値に設定される。
【0033】
本実施例の場合、初期速度の推定において、非同期変調モード20の期間中で、初期速度推定時間Tslv23では、キャリア周波数fcは、初期速度推定時用キャリア周波数Fcslv24に設定される。その後、初期速度推定時間Tslv23の経過後に、非同期変調モードの通常加速時のキャリア周波数Fcn25に切り替える。
【0034】
また、前述のとおり、デッドタイムとしては、製品固有の値が設けられる。本実施例の場合は、例えば10μsに設定されている。このデッドタイムにより、誘導電動機へ出力する電圧に誤差が生じるため、誘導電動機電流に歪みが発生する。従って、初期速度推定時間中では、ロータ周波数推定値がこの電流歪みの影響を受けない範囲までキャリア周波数を低下させることが望ましい。
【0035】
本実施例のように、図3に示すキャリア周波数の切り替えを実施し、初期速度推定中にキャリア周波数fcを低下させる。これにより、1秒間におけるスイッチング回数が、Fcn回からFcslv回に減少し(図3では半滅)、スイッチング毎に発生するデッドタイムの発生頻度も減少することになる(図3の場合は半滅)。
【0036】
上述したように、デッドタイムの発生頻度を減少させることで、誘導電動機への出力電流の波形がより正弦波に近づき、電流の歪みが少なくなる。さらに、ロータ周波数の検出誤差が低減されることとなり、速度推定中の精度を向上させることができる。
【0037】
以上、本発明に係る実施例について説明したが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…励磁電流およびトルク電流指令値、2…ロータ周波数推定値、
3…電圧ベクトル演算部、4…励磁電流およびトルク電流検出値、5…ACR、
6…電圧操作量、7…速度推定部、8…電圧指令、9…PWM制御部、
10…インバータ、11…誘導電動機、12…誘導電動機電流、
13…誘導電動機電流用座標変換部、19…キャリア周波数fc、
20…非同期変調モード、21…同期変調モード、22…変調率、
23…初期速度推定時間Tslv、24…初期速度推定時用キャリア周波数Fcslv、
25…非同期変調モードの通常加速時のキャリア周波数Fcn
図1
図2
図3