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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006207
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】食材混練機
(51)【国際特許分類】
   B02C 7/13 20060101AFI20230111BHJP
   A23G 1/04 20060101ALI20230111BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20230111BHJP
   A23L 11/45 20210101ALN20230111BHJP
   A23L 25/10 20160101ALN20230111BHJP
【FI】
B02C7/13
A23G1/04
A23L11/00 A
A23L11/45 Z
A23L25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108685
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】南里 直人
(72)【発明者】
【氏名】治下 貴弘
【テーマコード(参考)】
4B014
4B020
4B036
4D063
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG06
4B014GT01
4B020LB02
4B020LB18
4B020LC04
4B020LG05
4B020LP15
4B020LQ03
4B020LR01
4B036LC01
4B036LE02
4B036LH28
4B036LT01
4D063DD02
4D063DD05
4D063DD14
4D063GA04
4D063GA10
4D063GC05
4D063GC14
4D063GC23
4D063GC25
4D063GC31
4D063GD04
4D063GD13
4D063GD17
4D063GD22
(57)【要約】
【課題】コンパクトな構成でありながら、摩砕処理の効率を向上することが可能な食材混練機を提供する。
【解決手段】食材混練機の挽臼構造が、臼2と回転子6とによって構成される。回転子6は、臼2を貫通して配置される動力シャフト28に対して取り付けられ、臼2内に相対回転可能に収容される。臼2の内底2aに形成された摩砕部4と回転子6の下方に設けられた対向する摩砕部8との間で摩砕領域が形成される。臼2の内底2aは、回転半径方向の外側から中央側へ向けて下方に傾斜している。回転子6の中央側には、中央に向かって流れてきた混練中の食材を上方へ送るための還流孔8cが設けられている。この還流孔8cの上端から外側にかけて下方に傾斜する還流路8dが形成されている。混練される食材は、摩砕領域、還流孔8c、還流路8dを循環する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臼と回転子による挽臼構造を有する食材混練機であって、
前記臼の内底に設けられて、前記回転子の回転半径方向の外側から中央側にわたって混練中の食材を送る複数本の送り溝が形成された摩砕部と、
前記回転子のうち前記摩砕部に対向する位置に設けられ、混練中の前記食材を上方の食材投入領域へ還流させる還流孔が前記中央側に形成された対向摩砕部と
を備えたことを特徴とする食材混練機。
【請求項2】
前記対向摩砕部には、前記中央側から前記外側へ向けて回転前方へ延びるように複数本の凸条が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の食材混練機。
【請求項3】
隣接する前記凸条の間に凹状に形成されて前記食材に圧力を加える加圧部と、隣接する前記送り溝の間に形成されて前記加圧部の圧力を受ける受圧部との間の寸法は、前記外側から前記中央側へ向けて次第に小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の食材混練機。
【請求項4】
前記摩砕部は、前記中央側へ向けて下方に傾斜していることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の食材混練機。
【請求項5】
前記還流孔の内側には、上端から下端にわたって回転前方へ傾斜する還流リブが形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の食材混練機。
【請求項6】
前記回転子の上方には、前記還流孔から前記外側へ向けて下方に傾斜する還流路が形成されていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の食材混練機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材をペースト状に加工するための家庭用の食材混練機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造工程において混練が必要なものに、チョコレート、ごま豆腐、ピーナッツバター、豆乳などが挙げられる。
【0003】
このうち、例えばチョコレートについては、人間の舌が滑らかだと感じることのできるカカオ粒子の大きさは、およそ20μmであると言われている。これは、舌にある味蕾の大きさに関係している。200μm以上のカカオ粒子を20μm程度にまで細かくしていくと、滑らかなチョコレートができる。よって、20μm程度の粒子の割合が多いほど、チョコレートは良質であるといえる。
【0004】
一般に売られているチョコレートは、工場で3日程度の混練をしているものから、乳化剤などで舌触りを良くしたものまで様々である。
【0005】
従来のチョコレート等製造装置については特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実全平02-000989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、家庭用の装置では上述のように混練に3日も要するものは実用的ではない。しかし、カカオニブを8時間以上の時間を掛けた混練により、ようやく美味しいと言うことができるチョコレートが出来上がることから、家庭で使用する食材混練機であっても、従来は最低8時間の混練が必要となっていた。
【0008】
また、チョコレートに限らず、従来の食材混練機では、ごま豆腐等のその他の食材についても、十分に滑らかな状態にまで混練するには、同様にかなりの時間を要していた。
【0009】
そこで、本発明では、コンパクトな構成でありながら、摩砕処理の効率を向上することが可能な食材混練機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の食材混練機は、臼と回転子による挽臼構造を有する食材混練機であって、前記臼の内底に設けられて、前記回転子の回転半径方向の外側から中央側にわたって混練中の食材を送る複数本の送り溝が形成された摩砕部と、前記回転子のうち前記摩砕部に対向する位置に設けられ、混練中の前記食材を上方の食材投入領域へ還流させる還流孔が前記中央側に形成された対向摩砕部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によると、臼の内底に設けられた摩砕部には、外側から中央側へ複数本の送り溝が形成されるので、混練中の食材を中央側へ集めることができる。これに加えて、回転子の中央側に形成された還流孔によって、摩砕部と対向摩砕部との間の摩砕領域内にある混練中の食材を、上方の食材投入領域へ還流させることができる。これにより、食材を一方
向へ循環させながら混練を効率良く行うことが可能となる。
【0012】
上記構成において、前記対向摩砕部には、前記中央側から前記外側へ向けて回転前方へ延びるように複数本の凸条が形成されていることを特徴とする。
【0013】
本構成によれば、対向摩砕部に形成されている凸条は、中央側から外側へ向けて回転前方へ延びるように形成されているので、外側から流れ込んで凸条に掻き集められた混練中の食材は、回転後方の中央側へ向かって流れる。これにより、凸条による摩砕を行うと同時に、摩砕後の食材を中央側へ送り込むことができるので、シンプルな構造でありながら効率良く循環させることが可能となる。
【0014】
上記構成において、隣接する前記凸条の間に凹状に形成されて前記食材に圧力を加える加圧部と、隣接する前記送り溝の間に形成されて前記加圧部の圧力を受ける受圧部との間の寸法は、前記外側から前記中央側へ向けて次第に小さくなるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、対向摩砕部の凹状の加圧部と摩砕部の受圧部との間の寸法が、中央側へ向けて次第に小さくなるように形成されているので、外側から順に粒度が小さくなるように食材が並ぶ。これにより、粒度の異なる食材を同時に摩砕できるので、処理時間の大幅な短縮が可能となる。
【0016】
上記構成において、前記摩砕部は、前記中央側へ向けて下方に傾斜していることを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、臼の摩砕部が中央側へ向けて下方に傾斜しているので、循環方向である中央側への食材の送り込みがスムーズに行われる。
【0018】
上記構成において、前記還流孔の内側には、上端から下端にわたって回転前方へ傾斜する還流リブが形成されていることを特徴とする。
【0019】
本構成によれば、還流孔の内側に形成された還流リブは、上端から下端にわたって回転前方へ傾斜しているので、中央側に集められた混練中の食材は、回転子の回転によって相対的に還流リブの斜面に沿って持ち上げられる。そして、還流孔の上端まで持ち上げられた食材は、遠心力によって外側へ流れる。これにより、摩砕のための回転が食材の循環を促進するので、処理効率が向上する。
【0020】
上記構成において、前記回転子の上方には、前記還流孔から前記外側へ向けて下方に傾斜する還流路が形成されていることを特徴とする。
【0021】
本構成によれば、回転子の上方において還流孔から外側へ向けて還流路が形成されているので、遠心力に加えて斜面を流れ落ちることによって、よりスムーズに混練中の食材を外側へ戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る食材混練機の分解状態を示す斜視図である。
図2図1の食材混練機の臼の下部構造を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
図3図1の食材混練機の回転子を示し、(a)は斜視図、(b)は底面図である。
図4図1の食材混練機の臼及び回転子の縦断面図である。
図5】回転子及び臼の摩砕領域の拡大断面を示し、(a)は臼の送り溝と回転子の加圧部とが重なった図、(b)は臼の受圧部と回転子の凸条とが重なった図である。
図6】臼の送り溝と回転子の凸条との重なり状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一例である実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の食材混練機1の分解斜視図を示している。ここでは食材混練機1の挽臼構造を中心に説明を行うために、臼2及び回転子6と周辺構造のみを示している。
【0025】
底部の中央に貫通孔が形成された有底筒状の臼2を下方から貫通するように動力シャフト28が配置される。臼2と共に挽臼構造を構成する回転子6は、動力シャフト28に取り付けられ、臼2の内側に相対回転可能に収容される。また、回転子6は、上方から連結ジョイント24を介してバネ20及びバネ押さえ22と連結される。このバネ20は、動力シャフト28に対して回転子6を下方へ押し下げる付勢手段である。バネ20の付勢により、摩砕される食材に対して回転子6の自重に加えて下方へ一定の圧力を加えることができる。動力シャフト28はテンパリングの際の加熱機構を備えたIHコイル台26に固定されている。
【0026】
臼2の内底2a側には摩砕部4が形成されている(後に図2を参照して説明する)。そして、回転子6の下側には、摩砕部4と対向する領域に摩砕部(対向摩砕部)8が設けられている。
【0027】
図2は、臼2の下部構造を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図である。本実施の形態に係る構成では、臼2は複数のパーツで構成されている。図2では、内底2aの構造を理解しやすいように、複数のパーツのうち底の部分を含む下部構造のみを示している。図2(a)に見て取れるように、内底2aの中央側には、貫通配置される動力シャフト28(図1参照)を囲む筒状の中央円筒壁2cが形成されている。
【0028】
また、内底2aには、回転子6(図1参照)の回転半径方向の外側から中央側まで延びるように放射状に複数本の送り溝4aが形成されている。本実施の形態に係る食材混練機1は様々な食材に対応できるが、チョコレートを作る際には、この送り溝4aは約600μmの深さが適している。送り溝4aの底の断面形状は幅方向の中央領域が最も深くなるように緩やかに湾曲している。この送り溝4aを通じて、混練中の食材を半径方向に送ることができる。後に縦断面図を用いて詳しく述べるが、臼2の内底2aは、中央側が低くなるように形成されている。このように、本実施の形態に係る臼2では、混練中の食材が半径方向の外側から中央側へ送られるように構成されている。
【0029】
隣接する送り溝4aの間には、扇型の受圧部4bが形成されている。この受圧部4b上で回転子6との間で食材が摩砕される。本実施の形態に係る構成では、受圧部4bは、送り溝4aの上端と同じ高さに形成されている。
【0030】
図3は、回転子6を示しており、(a)は斜視図、(b)は底面図である。
【0031】
回転子6の摩砕部8は、半径方向の外縁から底面にかけて形成されている。この摩砕部8のうち、外縁に形成された部分は、投入直後の比較的大きい食材を粗粉砕するために設けられており、混練中には循環してくる食材を取り込む取込部10としても機能する。図3(a)に表れている取込部10は、半径方向外側に向けて下方に傾斜した取込斜面10a、取込斜面10aの下端の粉砕エッジ10b及び、取込部10を区画する取込側壁10cとから構成されている。この取込部10の作用については、後に詳しく述べる。
【0032】
図3(b)に示すように、底面側には、湾曲した凸条8aが、回転半径方向の外側と中央側との間に渡すように複数本形成されている。この回転子6の回転方向は、図3(a)の斜視図において時計回り、図3(b)の底面図においては反時計周りの向きである。凸条8aは、回転前方側が凹むように湾曲している。そして、凸条8aの線幅は外側から中央側にかけて略一定であり、回転後方は膨らむように湾曲している。また、図3(b)に見て取れるように、凸条8aの外側と中央側の位置は、中央側よりも外側の方が、回転子6の回転方向において回転前方に位置している。よって、凸条8aの外側が先行するように回転する。
【0033】
隣接する凸条8a同士の間には、高さ方向に凹状となるように加圧部8bが形成されている。この加圧部8bの深さは中央側から、加圧区画8ba、8bb、8bc、8bdの順に深くなるように形成されている。すなわち、使用時において対向配置される臼2の受圧部4b(図2参照)との間の寸法は、外側から中央側へ向けて次第に小さくなるように形成されている。このように形成されているので、回転子6の外縁側の取込部10から取り込まれた食材は最初に外側の加圧区画8bdで摩砕され、粒度が小さくなったものから順に中央側へ移動しながら摩砕されていく。
【0034】
回転子6の中央には、上下方向に貫通する還流孔8cが形成されている。この還流孔8cは、臼2の摩砕部4と回転子6の摩砕部8との間の摩砕領域において混練中された食材を、回転子6の上方側へ還流させるために形成されている。これにより、回転子6の上方と下方の摩砕領域との間で混練中の食材が循環する。
【0035】
図3(a)の斜視図に表れているように、還流孔8cの内側には、内壁に沿って螺旋状に延びるように還流リブ8eが形成されている。本実施の形態では、この還流リブ8eは、図3(b)に示すように4本設けられており、何れも上方から下方に向けて回転前方側へ下方傾斜している。これにより、回転子6が回転すると、上述したように送り溝4aを通して中央側に集められた食材は、還流リブ8eの傾斜に沿って相対的に回転子6の上方へ送られる。回転子6の上面側には、還流孔8cを通して持ち上げられた食材を外側へ送るための還流路8dが90度置きに4方向に形成されている。
【0036】
これら還流路8dは、本実施の形態に係る構成ではそれぞれ扇型に形成されている。また、還流路8dは、還流孔8cから外側へ向けて下方に傾斜している。よって、還流孔8cから溢れ出た食材は、還流路8dの傾斜面に沿って半径方向の外側へ向けて流れる。
【0037】
さらに、運転中は回転子6が回転することにより遠心力が作用するので、速やかに扇型に広がりながら、略均等に回転子6の外縁の取込部10に流れ込む。
【0038】
ここで、構成の概要を上述した取込部10の作用について述べる。
【0039】
取込部10を構成する取込斜面10aの回転方向の側方に形成された取込側壁10cは、何れも上端側が下端側よりも回転前方側へ迫り出するように傾斜している。これにより、食材混練機1(図1参照)の運転始動時に、比較的粒度の大きい食材が取込部10に投入されたとき、取込斜面10aの両端の取込側壁10cのうち回転後方側は、下方へ押し込むように食材を誘導する。このようにして下方に押し込まれた食材は、取込斜面10aに沿って降下し、粉砕エッジ10bの位置に達する。
【0040】
粉砕エッジ10bは、図3(a)に見て取れるように、直線状に形成されている。臼2の円筒状に湾曲した内側壁2b(図2(a)参照)に対して直線状の粉砕エッジ10bが旋回するので、内側壁2bに沿ったある特定位置に着目すると、粉砕エッジ10bが通過する際、内側壁2bと粉砕エッジ10bとの間の距離が変化する。この内側壁2bと粉砕
エッジ10bとの間で距離が変化する空間に入り込んだ食材は、回転半径方向へ相対的に押し出される粉砕エッジ10bの圧力によって粉砕される。このようにして、初期の比較的粒度の大きい食材が取込部10によって粗粉砕される。例えば、食材がチョコレートの場合は、最初に投入されたカカオニブが取込部10で粗粉砕される。
【0041】
図4は、臼2と回転子6の中央縦断面図を示している。上にも述べたが、臼2の中心を貫通して配置される動力シャフト28が、臼2に対して相対回転可能に回転子6を支えている。なお、上述の回転子6の摩砕部8(の加圧部8b)と臼2の摩砕部4(の受圧部4b)との間の寸法については、全体の大きさに対して非常に小さい値となっているので、摩砕領域を拡大して示した図5を用いて後に別途説明を行う。ここでは、混練中の食材の大まかな流れを説明する。
【0042】
回転子6の上方の臼2内に一点鎖線で囲んだ空間が食材投入領域R1である。チョコレートの混練であれば、この食材投入領域R1にカカオニブが投入される。投入された食材は、回転子6の外縁と臼2の内側壁2bとの間の取込部10から取り込まれる。
【0043】
図4には、混練中の食材の循環する様子を、塗り潰しの矢印を連ねて表している。臼2の摩砕部4において、中央側に向けて下方に傾斜しているのは、上述した通りである。
【0044】
回転子6の上面に形成された還流路8dは、点線で示されているように、中央側から外側へ向けて下方に傾斜している。還流孔8cの還流リブ8eによって持ち上げられる食材は、還流孔8cの上端から出た時点で還流路8dの傾斜によって下方に流れるとともに、遠心力によって外側へ引っ張られる。これにより、食材は速やかに還流路8dを通過し、回転子6の外縁と臼2の内側壁2bとの間に形成された取込部10から再び取り込まれる。循環のスピードは、還流孔8c内の還流リブ8eの傾斜角度、還流リブ8eの数、還流路8dの傾斜角度、還流路8dの幅等に加えて、回転子6の回転数を適宜選択することで設計段階における調節が可能である。
【0045】
連結ジョイント24を介して動力シャフト28に取り付けられている回転子6は、動力シャフト28に対して相対的に上下動可能に設けられている。そして、連結ジョイント24を介して下方に向けて付勢されている。これにより、比較的粒度の大きい食材が回転子6と臼2との間に噛み込んだ場合、回転子6はバネ20の付勢に抗して上方へ退避可能である。
【0046】
図5は、回転子6及び臼2の摩砕領域R2の拡大断面を示し、(a)は臼2の送り溝4aと回転子6の加圧部8bとが重なった図、(b)は臼2の受圧部4bと回転子6の凸条8aとが重なった図である。ここでは、説明の便宜のため、臼2と回転子6との間隔を強調して模式的に表わしている。図5(a)において一点鎖線で囲んだ領域が、臼2側の摩砕部4と回転子6側の摩砕部8との間に形成される摩砕領域R2である。
【0047】
図5(a)を参照して、回転子6の下方の斜線が掛かっていない、白く表れている部分が凸条8aである。本実施の形態に係る構成では、加圧部8bは、4つの加圧区画8ba、8bb、8bc及び8bdに分けられていることは上に述べた。
【0048】
一方、臼2側の摩砕部4の上方で斜線が掛かっていない、白く表れている部分は送り溝4aである。この送り溝4aを通じて、混練の様々な段階の粒度の食材が集められて中央側の還流孔8cに送られる。
【0049】
図5(a)には、取込斜面10aと粉砕エッジ10bとが表れている。この取込斜面10aと臼2の内側壁2bとの間に形成される空間は、チョコレートの混練の場合、カカオ
ニブを収容できる程度の広さに形成されている。
【0050】
上述のように、取込部10の回転前方へ傾斜した取込側壁10cによって下方へ押し込むようにして粉砕エッジ10b側へ送られたカカオニブは、粉砕エッジ10bによって臼2の内側壁2bに押し付けられて砕かれる。ここで、ある程度粉砕されて粒度が小さくなったものは、加圧部8bと受圧部4bとの間に滑り込むことができる。加圧部8bと受圧部4bとの間に滑り込む食材は、最初に最も間隔の大きい100μmの領域である加圧区画8bdに入る。
【0051】
そして、この加圧区画8bdで粒度がさらに小さくなった食材は、次の80μmの間隔の加圧区画8bcへ進む。このようにして順次、60μmの領域である加圧区画8bb、40μmの領域である加圧区画8baへと進む。
【0052】
図5(b)には、受圧部4bと凸条8aとが重なった状態が示されている。食材が圧縮されて摩砕されるのは、主に、加圧部8bと受圧部4bとが対向する領域である。図5(b)のように、受圧部4b上を凸条8aが通過する際に、食材は回転方向へ掃き出される。そして、送り溝4aを横切って回転してきた次の凹状の加圧部8b内に収容されている食材へと摩砕の対象が入れ替わる。このようにして、送り溝4aと受圧部4bとを交互に移動しながら、食材は加圧部8bによって摩砕されていく。ここで、図6を合わせて参照する。
【0053】
図6は、臼2の送り溝4aと回転子6の凸条8aとの重なり状態を示す平面図である。図6では、臼2に対する回転子6の相対位置が理解しやすいように、便宜的に回転子6側を点線で表わしている。
【0054】
上に述べたように、凸条8aは外側の端部が中央側の端部に対して回転前方へ先行するように延びているのが図6に見て取れる。よって、凸条8aは、各送り溝4aに対して、外側から交差を開始する。すなわち、凸条8aが送り溝4a上を通過する際、外側から中央側へ向けて交差位置が移動する。これにより、送り溝4aに沿って凸条8aで掻き集めるようにして混練中の食材を中央側へ送ることができる。このように、混練中の食材には、回転半径外側から中央側へ向けて圧力が加わるので、還流孔8cを通して上方へ食材を押し上げる力が生じる。これに加えて、還流孔8cには還流リブ8eが形成されているので、還流リブ8eによる上方への誘導作用によってスムーズに回転子6の上方(食材投入領域R1側)へ混練中の食材を還流させることが可能となる。
【0055】
ところで、本実施の形態に係る食材混練機1によれば、加圧部8bと受圧部4bとの間における摩砕作用だけでなく、同時に剪断作用も生じる。図6に見て取れるように、送り溝4a上を通過する凸条8aは、送り溝4aの回転前方のエッジに対してハサミのように交差する。これにより、送り溝4aから巻き上げられた比較的粒度の大きい食材を、凸条8aと送り溝4aとの間の剪断によって砕くことができる。
【0056】
食材の粒度が大きいほど、送り溝4aを通過する凸条8aに引っ掛けられる確率が高くなるので、比較的粒度の小さい食材に比べて大きい粒度の食材が摩砕領域R2に滞留する時間は長くなる。
【0057】
よって、比較的粒度の小さい食材は、加圧部8bと受圧部4bとの間で摩砕を繰り返しながら外側から中央側へ向かって速やかに流れるので、循環の頻度が向上する。
【0058】
すなわち、粗粉砕と微粉砕とが互いに妨げ合うことなく、同時に進行するので、混練時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0059】
以上に述べてきたような構成は本発明の一例であり、さらに以下のような変形例も含まれる。
【0060】
(1)上記の実施の形態では、回転子6の摩砕部8の凸条8aは、湾曲して形成された構成を例として示したが、少なくとも外側が中央側よりも回転前方に傾いていれば、直線状に形成されていても構わない。しかし、本実施の形態に係る構成のように、回転前方側が凹むように湾曲させて形成されていると、送り溝4aと交差する際の角度は、外側の方が中央側よりも大きくなる。この交差角度が大きいと、剪断による力が狭い範囲に集中することにより増力するので、粉砕が容易になる。大きな粒度の食材の割合が比較的多い初期段階においては、回転半径方向の外側で送り溝4aと凸条8aとの間の剪断による粉砕が促進されることが混練時間の短縮に繋がる。よって、少なくとも外側だけでも回転前方が凹むように凸条8aが湾曲形成されていることが望ましい。
【0061】
(2)上記の実施の形態では、凸条8aが中央側から外側にかけて略同じ幅で形成されている構成を例として示した。しかし、中央側から外側に延びる各所で幅は異なっていても構わない。凸条8aの回転後方側の形状については、送り溝4aとの間の剪断作用には影響しない。しかし、回転後方に膨らむように湾曲形成されていると、回転半径方向の外側の食材取込口が大きく開かれるので、循環効率が向上する。
【0062】
(3)上記の実施の形態では、粉砕エッジ10bは直線状に形成されている構成を例として示した。しかし、臼2の内側壁2bとの間で粉砕エッジ10bとの間の距離に変化が生じる形状であれば、粉砕エッジ10bは直線形状に限らない。例えば、内側壁2bと曲率の異なる曲線状に形成されていてもよい。また、波形状であっても構わない。
【0063】
(4)上記の実施の形態では、回転子6は、還流路8dが設けられている上側と摩砕部8が設けられている下側とが別部材で組み合わされた結合体としての構成を例として示した。しかし、還流路と摩砕部とが一体に成形された構成であっても構わない。
【0064】
(5)上記の実施の形態では、臼2の内底2aには摩砕部4が直接形成されている構成を例として示した。しかし、別体の摩砕部を臼2の内底2aに組み合わせた結合体として構成しても構わない。
【0065】
(6)上記の実施の形態では、取込部10のように、回転子6の側方域にまで摩砕構造が設けられている構成を例として示した。しかし、取込部10は必須の構成ではなく、単に臼2の内壁との間に食材を取り込むことができるスペースを設けた構成であっても構わない。
【0066】
(7)上記の実施の形態では、臼2側の摩砕部4の送り溝4aは、回転中心を通る半径方向に延びるように形成されている構成を例として示した。しかし、回転中心に向けて形成されていなくても構わない。例えば、回転半径方向において中央側が外側よりも回転前方へ先行するように傾斜して形成されていると、回転する回転子6の摩擦により中央側への食材の流れが促進されるので、より循環効率は上昇する。
【0067】
(8)上記の実施の形態では、回転子6側の加圧部8bは、臼2の受圧部4bとの間の寸法が、外側から中央側へ段階的に小さくなるように形成されている構成を例として示した。しかし、外側から中央側へ無段階で滑らかな曲面によって距離を縮めるように形成されていても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の食材混練機は、製造工程において混練処理を要する食材に広く利用することが可能であり、ごま豆腐、ピーナッツバター、豆乳などの食材に対しても有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 食材混練機
2 臼
2a 内底
2b 内側壁
2c 中央円筒壁
4 摩砕部
4a 送り溝
4b 受圧部
6 回転子
8 摩砕部(対向摩砕部)
8a 凸条
8b 加圧部
8ba 加圧区画(40μm)
8bb 加圧区画(60μm)
8bc 加圧区画(80μm)
8bd 加圧区画(100μm)
8c 還流孔
8d 還流路
8e 還流リブ
10 取込部
10a 取込斜面
10b 粉砕エッジ
10c 取込側壁
20 バネ
22 バネ押さえ
24 連結ジョイント
26 IHコイル台
28 動力シャフト
R1 食材投入領域
R2 摩砕領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6