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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062087
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】細胞への分子の取り込みを測定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230425BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230425BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230425BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230425BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20230425BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/50 P
G01N33/48 M
C12N5/071
C12Q1/04
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023011
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2019548829の分割
【原出願日】2018-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017203994
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕生
(72)【発明者】
【氏名】南部 健
(72)【発明者】
【氏名】尾関 和久
(72)【発明者】
【氏名】大湊 紀明
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊人
(72)【発明者】
【氏名】直井 壯太朗
(57)【要約】      (修正有)
【課題】in vivoで起こる免疫複合体の消失を模しており、FcγRIIBの発現ならびに抗体または抗原の結合および取り込みを定量可能な、細胞系を用いたin vitro評価系が必要である。
【解決手段】分子の細胞への取り込み量を測定する方法であって、(i)臓器由来の細胞集団に、前記分子を添加してインキュベートする工程、(ii)CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、(iii)工程(i)および(ii)の後に上記(ii)で選別された細胞集団への前記分子の取り込み量を測定する工程、を含み、前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記方法が提供される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の細胞への取り込み量を測定する方法であって、
(i) 臓器由来の細胞集団に、前記分子を添加してインキュベートする工程、
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への前記分子の取り込み量を測定する工程、
を含み、
前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれ、かつ
臓器由来の細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、次の図
【化1】
のP2で示される細胞集団を選別するか、または
臓器由来の細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、次の図
【化2】
のP2で示される細胞集団を選別する、
前記方法。
【請求項2】
工程(i)の後に工程(ii)を含み、前記分子を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(i)の前に工程(ii)を含み、CD31およびCD45の発現量に基づいて選別した臓器由来の細胞集団に、前記分子を添加してインキュベートする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分子が、免疫複合体または抗体であり、受容体が、Fc受容体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分子が、抗IL-6R抗体であり、受容体が、IL-6Rである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分子が、核酸であり、受容体が、Stabilinである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分子の取り込みアッセイ用の組成物であって、CD31およびCD45を発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含み、前記分子は細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれ、
アッセイが、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で行われる、
前記組成物。
【請求項8】
細胞集団が、粗精製された細胞集団である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の組成物を製造する方法であって、
(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、
を含む、前記方法。
【請求項10】
分子のin vivoにおける消失クリアランスを予測する方法であって、
(i) 前記分子について、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(ii) 上記 (i) で測定した取り込み量から、前記分子を生体に投与した場合のin vivoにおける前記分子の消失クリアランスを予測する工程、
を含み、
前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記方法。
【請求項11】
分子のスクリーニング方法であって、
(i) 同一の受容体に結合する異なる2以上の前記分子を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した分子それぞれについて、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した分子の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い分子を選択する工程、
を含み、
前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原―抗体複合体(免疫複合体)、抗体、核酸などの、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の細胞への取り込みをin vitroで測定する方法、当該分子の取り込みアッセイ用の組成物、などに関する。
【背景技術】
【0002】
抗体および抗原から成る複合体は免疫複合体(Immune complex)と呼ばれ、生体内に存在する異物に抗体が結合したものである。免疫複合体は細網内皮系により体内から排出され、それにより体内から異物が除去される(非特許文献1)。抗体にはFab領域とFc領域があり、Fc領域は細胞表面上に存在するFc受容体に認識される(非特許文献15)。Fc受容体のうち、Fc gamma受容体(FcγR)は、IgG抗体のFc領域を認識する受容体である。FcγRにはFcγRI、II、III、およびIVという4つのサブタイプがあり、FcγRIIの一つであるFcγRIIB(「γ」は「g」と表記されることがあり、「II」は「2」と表記されることがあり、「B」は「b」と表記されることがある。)は免疫に対して抑制的に作用する受容体であることが報告されている(非特許文献2、非特許文献3)。FcγRIIBは、免疫複合体の血液中からの消失に深く関わる受容体としても知られている(非特許文献4~7)。近年、医薬品として抗体についての研究開発が盛んになされている。例えば、免疫複合体の形成のしやすさやFcγRへの結合のしやすさなどの観点からアミノ酸配列を改変した抗体を作製し、これを動物へ投与することで血漿中の可溶性タンパク質を除去する試みがなされている(非特許文献8、非特許文献9、特許文献1~4)。
【0003】
FcγRIIBは、主に肝臓の類洞内皮細胞(Liver sinusoidal endotherial cell;LSEC)に発現していることが報告されている。マウスでは、FcγRIIBの3/4は肝臓に強く発現し、その90%がLSECに発現していることが報告されている(非特許文献10)。また、マウスで免疫複合体投与後の肝臓、肺、脾臓、腎臓、血液への移行率を評価した結果、単量体や二量体に比べて多量体を形成した免疫複合体を投与した場合に、肝臓への移行率が高いことが報告されている(非特許文献5)。さらに、FcγRIIBをノックアウトしたマウスに免疫複合体を投与した結果、ワイルドタイプマウスに比べて、免疫複合体の消失速度が大きく低下したことが明らかにされている(非特許文献10)。さらには、ヒトFcγRIIBを発現したトランスジェニックマウスから採取した肝臓非実質細胞を用いてIgEとそれに対する抗体とから成る免疫複合体の取り込みを評価した結果、CD146+CD45low LSECへの取り込みを確認できたことが報告されている(特許文献3)。これらの結果から、マウスにおいて免疫複合体はFcγRIIBを介してLSECに取り込まれて消失することが示唆されている。
【0004】
ラットにおいても、LSECのFcγRIIBを介して免疫複合体が消失することが報告されている(非特許文献7および11)。
【0005】
サルにおいては、放射性標識抗体の投与後24時間の免疫複合体の体内分布をガンマ線イメージングで評価したところ、免疫複合体を形成しないコントロール抗体投与では心臓など血流の多い部分でシグナルが検出されたのに対し、免疫複合体を形成する抗体の投与では肝臓に高濃度のシグナルが観察されることが報告されている(非特許文献12)。さらに免疫染色により、免疫複合体が血管内皮やクッパー細胞に集積することも示唆されている(非特許文献12)。また、抗体のFcγRIIBに対するアフィニティを増強することで、血液中の可溶性抗原濃度をより低下させることができる抗体が得られることが報告されている(特許文献4および5)。
【0006】
その一方で、サルにおけるFcγRIIBの発現部位や免疫複合体の消失に主として影響している細胞の同定はなされておらず、免疫複合体の取り込みメカニズムや取り込み速度などについてもわかっていない。
【0007】
ヒトにおいては、LSECに発現しているマーカーが同定されており、またFcγRIIBがLSECに発現していることが明らかにされているが(非特許文献13および14)、免疫複合体の消失メカニズムや速度論についてin vitroやヒトにおける検証は実施されていない。
【0008】
免疫複合体の取り込みに関し、細胞を用いた評価系としては、抗体受容体を強制発現させた培養細胞を用いる方法および臓器より採取したプライマリー細胞を用いる方法が知られている。前者の方法に関しては、例えばマクロファージのCell line J774などの細胞における抗体の取り込み評価や(非特許文献21)、MDCK細胞を用いた免疫複合体の取り込み評価が報告されている(特許文献5)。また、ヒトFcγRIIBを発現したトランスジェニックマウスから採取したLSECを含む肝臓非実質細胞を用いたICの取り込み評価が報告されている(特許文献3)。しかし、これらの評価方法では、特定のタンパク質を過剰に発現させているため、生体内の環境とは大きく異なり、in vivoの免疫複合体消失と相関しない可能性が考えられる。一方、後者のプライマリー細胞を用いる方法に関しては、継時的に細胞の活性が変化することが報告されており(非特許文献22)、in vivoの免疫複合体取り込みを正しく反映しないことが考えられる。
【0009】
以上のように、マウス、ラット、およびサルにおけるin vivoでの免疫複合体の薬物動態評価がおこなわれている一方で、LSECなどの免疫複合体の消失に関わる細胞を用いたin vitro評価系は確立されておらず、FcγRIIBの発現や免疫複合体の細胞内への取り込みをサルまたはヒトの細胞を用いて定量的に評価した報告はない。
【0010】
核酸医薬についても、免疫複合体と同様、主に肝臓の非実質細胞で消失することが示唆されている。ラットに3H標識した核酸を静脈投与したところ、40.5%が肝臓に集積し、そのうちの60.4%が非実質細胞に集積したと報告されている(非特許文献26)。別の報告でも、マウスおよびラットにおいて、実質細胞に対し非実質細胞では2倍の集積が確認されている(非特許文献27)。さらには、in vitroでFITC標識した核酸がマウスLSECに取り込まれたことが報告されており(非特許文献25)、近年、Stabilin-1およびStabilin-2という受容体によって取り込まれることが明らかになっている(非特許文献24)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO 2012/132067 A1
【特許文献2】WO 2013/081143 A1
【特許文献3】WO 2014/113510 A1
【特許文献4】WO 2016/117346 A1
【特許文献5】WO 2016/098357 A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Benacerraf, B., M. Sebestyen, and N.S. Cooper, The clearance of antigen antibody complexes from the blood by the reticuloendothelial system. J Immunol, 1959. 82(2): p. 131-7.
【非特許文献2】Takai, T., Roles of Fc receptors in autoimmunity. Nat Rev Immunol, 2002. 2(8): p. 580-92.
【非特許文献3】Schwab, I. and F. Nimmerjahn, Intravenous immunoglobulin therapy: how does IgG modulate the immune system? Nat Rev Immunol, 2013. 13(3): p. 176-89.
【非特許文献4】Arend, W.P. and J.C. Sturge, Composition and biologic properties of soluble IgG-anti-IgG immune complexes: effects of variations in the specificity of rabbit antibodies to different structural components of human IgG. J Immunol, 1979. 123(1): p. 447-54.
【非特許文献5】Finbloom, D.S. and P.H. Plotz, Studies of reticuloendothelial function in the mouse with model immune complexes. I. Serum clearance and tissue uptake in normal C3H mice. J Immunol, 1979. 123(4): p. 1594-9.
【非特許文献6】Kurlander, R.J., D.M. Ellison, and J. Hall, The blockade of Fc receptor-mediated clearance of immune complexes in vivo by a monoclonal antibody (2.4G2) directed against Fc receptors on murine leukocytes. J Immunol, 1984. 133(2): p. 855-62.
【非特許文献7】Mousavi, S.A., et al., Receptor-mediated endocytosis of immune complexes in rat liver sinusoidal endothelial cells is mediated by FcgammaRIIb2. Hepatology, 2007. 46(3): p. 871-84.
【非特許文献8】Iwayanagi, Y., et al., Inhibitory FcgammaRIIb-Mediated Soluble Antigen Clearance from Plasma by a pH-Dependent Antigen-Binding Antibody and Its Enhancement by Fc Engineering. J Immunol, 2015. 195(7): p. 3198-205.
【非特許文献9】Igawa, T., K. Haraya, and K. Hattori, Sweeping antibody as a novel therapeutic antibody modality capable of eliminating soluble antigens from circulation. Immunol Rev, 2016. 270(1): p. 132-51.
【非特許文献10】Ganesan, L.P., et al., FcgammaRIIb on liver sinusoidal endothelium clears small immune complexes. J Immunol, 2012. 189(10): p. 4981-8.
【非特許文献11】Lovdal, T., et al., Fc receptor mediated endocytosis of small soluble immunoglobulin G immune complexes in Kupffer and endothelial cells from rat liver. J Cell Sci, 2000. 113 ( Pt 18): p. 3255-66.
【非特許文献12】Rojas, J.R., et al., Formation, distribution, and elimination of infliximab and anti-infliximab immune complexes in cynomolgus monkeys. J Pharmacol Exp Ther, 2005. 313(2): p. 578-85.
【非特許文献13】March, S., et al., Microenvironmental regulation of the sinusoidal endothelial cell phenotype in vitro. Hepatology, 2009. 50(3): p. 920-8.
【非特許文献14】Filali, E.E., et al., Human liver endothelial cells, but not macrovascular or microvascular endothelial cells, engraft in the mouse liver. Cell Transplant, 2013. 22(10): p. 1801-11.
【非特許文献15】Bruhns, P., et al., Specificity and affinity of human Fcgamma receptors and their polymorphic variants for human IgG subclasses. Blood, 2009. 113(16): p. 3716-25.
【非特許文献16】Qiao, S.W., et al., Dependence of antibody-mediated presentation of antigen on FcRn. Proc Natl Acad Sci U S A, 2008. 105(27): p. 9337-42.
【非特許文献17】Weflen, A.W., et al., Multivalent immune complexes divert FcRn to lysosomes by exclusion from recycling sorting tubules. Mol Biol Cell, 2013. 24(15): p. 2398-405.
【非特許文献18】Oitate, M., et al., Prediction of human pharmacokinetics of therapeutic monoclonal antibodies from simple allometry of monkey data. Drug Metab Pharmacokinet, 2011. 26(4): p. 423-30.
【非特許文献19】Singh, A.P., et al., Quantitative prediction of human pharmacokinetics for mAbs exhibiting target-mediated disposition. Aaps j, 2015. 17(2): p. 389-99.
【非特許文献20】Luu, K.T., et al., A model-based approach to predicting the human pharmacokinetics of a monoclonal antibody exhibiting target-mediated drug disposition. J Pharmacol Exp Ther, 2012. 341(3): p. 702-8.
【非特許文献21】Mellman, I., H. Plutner, and P. Ukkonen, Internalization and rapid recycling of macrophage Fc receptors tagged with monovalent antireceptor antibody: possible role of a prelysosomal compartment. J Cell Biol, 1984. 98(4): p. 1163-9.
【非特許文献22】Pfeiffer, E., et al., Featured Article: Isolation, characterization, and cultivation of human hepatocytes and non-parenchymal liver cells. Exp Biol Med (Maywood), 2015. 240(5): p. 645-56.
【非特許文献23】David Male, Jonathan Brostoff, David B Roth, Ivan Roitt(著), 高津聖志, 清野宏, 三宅健介(監訳), 免疫学イラストレイテッド 原書第7版, 南江堂, 2009年
【非特許文献24】Miller CM., et al., Stabilin-1 and Stabilin-2 are specific receptors for the cellular internalization of phosphorothioate-modified antisense oligonucleotides (ASOs) in the liver. Nucleic Acids Res., 2016. 44(6): p. 2782-94.
【非特許文献25】Martin-Armas M., et al., Toll-like receptor 9 (TLR9) is present in murine liver sinusoidal endothelial cells (LSECs) and mediates the effect of CpG-oligonucleotides. J Hepatol., 2006. 44(5):939-46.
【非特許文献26】Nucleic Acids Res. 1997 Aug 15;25(16):3290-6
【非特許文献27】Biochem Pharmacol. 2001 Aug 1;62(3):297-306
【非特許文献28】Deleve, L.D., J Clin Invest. 2013 123(5):1861-6
【非特許文献29】J Hepatol. 2017 Jan;66(1):212-227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の通り、生体環境を模した定量的なin vitro細胞評価系は存在しないが、このような評価系は動物実験とは異なり、より詳細なメカニズムの解析、細胞取り込みなどの速度論の評価、大量の候補物質のスクリーニングなどが実施できるという利点があり、免疫複合体の細胞取り込み解析のみならず、生命科学研究や創薬研究にとって有用なツールになると考えられる。
【0014】
FcγRIIBに関しては、Biacore(GE Healthcare)などを用いて、そのリコンビナントタンパク質と抗体Fcのアフィニティ測定が行われている(非特許文献15)。これは、免疫複合体の細胞への結合および取り込みがFcγRIIBを介してなされることから、FcγRIIBに対するアフィニティが血漿中からの免疫複合体の消失に重要だと考えられるためである。しかしながら、非特異的な吸着性や大きな電荷をもつ抗体などでは上述のようなBiacoreなどを用いたアフィニティの測定は困難である。また、リコンビナントタンパク質を用いた緩衝液中における測定では、in vivoの血漿中におけるアフィニティを正確に反映しない可能性がある。また免疫複合体の取り込みには、FcγRIIBとの結合だけではなく、他の受容体との結合が関与することが示唆されている。例えば、免疫複合体の消失にはNeonatal Fc receptor (FcRn)も関与することが報告されている(非特許文献16および17)。
【0015】
薬物の生体内での動きを数学的なモデルを用いて記述する薬物動態解析は、実験動物削減および臨床試験の効率化の観点から有用である。数学的なモデルを用いて非ヒト動物で得られたパラメータを経験則によりヒトにスケーリングすることで、非臨床の薬物濃度推移から臨床の薬物濃度推移を予測することが可能である(例えば非特許文献18)。受容体を介した薬物の消失を記述するメカニズムに基づく数学的なモデルとして、例えばTarget-mediated drug disposition modelを用いた方法がある(例えば非特許文献19および20)。これらのモデルでは、受容体と薬物の結合や受容体の細胞内への取り込みを記述している。FcγRIIBにはアミノ酸配列の種差が知られており、さらに前述のように免疫複合体の取り込みには、FcγRIIB以外の受容体との結合が関与することが示唆されている。したがって、免疫複合体を形成するような薬物のヒトでの薬物動態を定量的に予測する場合には、非ヒト動物から得られた薬物濃度推移から経験則によってヒトにスケーリングするだけでは不十分であり、それぞれの動物種について適切なパラメータを算出する必要がある。そのためには細胞系を用いた定量的な速度論および受容体発現量評価が必要である。
【0016】
さらに、動物実験だけでは、大量の薬物候補物質をスクリーニングすることは、多大な労力がかかるとともに、サルなど多くの実験動物を要するという問題がある。また動物実験では、LSECなどの細胞におけるFcγRIIBの発現、ならびに免疫複合体の結合および取り込みを定量することは不可能である。
【0017】
また上述のとおり、細胞を用いた評価系として知られている、抗体受容体を強制発現させた培養細胞を用いる方法および臓器より採取したプライマリー細胞を用いる方法は、in vivoの免疫複合体取り込みを正しく反映しないことが考えられる。
【0018】
これらの理由から、in vivoで起こる免疫複合体の消失を模しており、FcγRIIBの発現ならびに抗体または抗原の結合および取り込みを定量可能な、細胞系を用いたin vitro評価系が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ヒトFcγRIIBを発現したトランスジェニックマウスから採取した肝臓非実質細胞を用いて、CD146+ CD45low LSECへの免疫複合体の取り込みを調べた報告がある(特許文献3)。しかしながら、上述のとおり、免疫複合体の取り込みに関与する分子はFcγRIIBのみではないため、マウス細胞を用いてヒトまたはサルにおける生体現象を反映したin vitro評価系を構築することは極めて困難である。またFcγRIIBを強制的に発現させた評価系で免疫複合体の取り込みを見ることができても、非トランスジェニック細胞においても同様に免疫複合体の取り込みを評価できるとは限らない。
【0020】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ヒトおよびサルの肝臓非実質細胞を、細胞表面マーカーであるCD31およびCD45の発現量を指標として複数のCD31+ CD45+ 細胞集団に分離することができ、そのうちの一つがFcγRIIBを発現する細胞集団であることを見出した。CD31およびCD45は、ヒトにおいてLSECのマーカーとして知られているが(非特許文献28および29)、CD31+ CD45+ 細胞集団の一部にFcγRIIBが特異的に発現していることは全く知られていない。またサルにおいては、CD31およびCD45はLSECのマーカーとしては知られていない。本発明者らは、このFcγRIIBを発現する細胞集団における免疫複合体の取り込み量を測定する評価系を構築することに成功した。さらに、当該細胞集団における核酸の取り込み量を測定する評価系、当該細胞集団におけるFcγRIIBを介した抗体単独の取り込み量を測定する評価系、当該細胞集団に発現している膜型受容体に結合する抗体の取り込み量を測定する評価系を構築することにも成功した。本発明者らは、さらに研究を重ねることにより、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
[1]分子の細胞への取り込み量を測定する方法であって、
(i) 臓器由来の細胞集団に、前記分子を添加してインキュベートする工程、
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への前記分子の取り込み量を測定する工程、
を含み、
前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記方法。
[2]工程(i)の後に工程(ii)を含み、前記分子を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する、[1]に記載の方法。
[3]工程(i)の前に工程(ii)を含み、CD31およびCD45の発現量に基づいて選別した臓器由来の細胞集団に、前記分子を添加してインキュベートする、[1]に記載の方法。
[4]前記分子が、免疫複合体または抗体であり、受容体が、Fc受容体である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記分子が、抗IL-6R抗体であり、受容体が、IL-6Rである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[6]前記分子が、核酸であり、受容体が、Stabilinである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[7]臓器由来の細胞集団が、肝臓非実質細胞集団である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]肝臓非実質細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31high CD45low細胞集団を選別する、[7]に記載の方法。
[9]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される2つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより高い細胞集団である、[8]に記載の方法。
[10]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が400~7000であり、CD45の蛍光強度が100~4000である細胞集団である、[8]に記載の方法。
[11]肝臓非実質細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団を選別する、[7]に記載の方法。
[12]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される3つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が2番目に高い細胞集団である、[11]に記載の方法。
[13]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が500~3000であり、CD45の蛍光強度が4000~20000である細胞集団である、[11]に記載の方法。
[14]分子の取り込みアッセイ用の組成物であって、CD31およびCD45を発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含み、前記分子は細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記組成物。
[15]アッセイが、[1]~[13]のいずれかに記載の方法で行われる、[14]に記載の組成物。
[16]細胞集団が、粗精製された細胞集団である、[14]または[15]に記載の組成物。
[17][14]~[16]のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、
(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、
を含む、前記方法。
[18]分子のin vivoにおける消失クリアランスを予測する方法であって、
(i) 前記分子について、[1]~[13]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(ii) 上記 (i) で測定した取り込み量から、前記分子を生体に投与した場合のin vivoにおける前記分子の消失クリアランスを予測する工程、
を含み、
前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記方法。
[19]分子のスクリーニング方法であって、
(i) 同一の受容体に結合する異なる2以上の前記分子を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した分子それぞれについて、[1]~[13]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した分子の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い分子を選択する工程、
を含み、
前記分子は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる、前記方法。
[20]臓器由来の細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP2で示される細胞集団を選別する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[21]臓器由来の細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP2で示される細胞集団を選別する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[22]臓器由来の細胞集団が、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP2で示される細胞集団からなる、[14]~[16]のいずれかに記載の組成物。
[23]臓器由来の細胞集団が、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP2で示される細胞集団からなる、[14]~[16]のいずれかに記載の組成物。
【0022】
本発明はまた、以下の態様の発明を包含する。
[a1]免疫複合体の細胞への取り込み量を測定する方法であって、
(i) 臓器由来の細胞集団に、免疫複合体を添加してインキュベートする工程、
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への免疫複合体の取り込み量を測定する工程、
を含む、前記方法。
[a2]工程(i)の後に工程(ii)を含み、免疫複合体を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する、[a1]に記載の方法。
[a3]工程(i)の前に工程(ii)を含み、CD31およびCD45の発現量に基づいて選別した臓器由来の細胞集団に、免疫複合体を添加してインキュベートする、[a1]に記載の方法。
[a4]免疫複合体が、FcγRIIBを介して細胞に取り込まれる、[a1]~[a3]のいずれかに記載の方法。
[a5]臓器由来の細胞集団が、肝臓非実質細胞集団である、[a1]~[a4]のいずれかに記載の方法。
[a6]肝臓非実質細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31high CD45low細胞集団を選別する、[a5]に記載の方法。
[a7]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される2つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより高い細胞集団である、[a6]に記載の方法。
[a8]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が400~7000であり、CD45の蛍光強度が100~4000である細胞集団である、[a6]に記載の方法。
[a9]肝臓非実質細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団を選別する、[a5]に記載の方法。
[a10]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される3つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が2番目に高い細胞集団である、[a9]に記載の方法。
[a11]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が500~3000であり、CD45の蛍光強度が4000~20000である細胞集団である、[a9]に記載の方法。
[a12]免疫複合体取り込みアッセイ用の組成物であって、CD31およびCD45を発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含む、前記組成物。
[a13]アッセイが、[a1]~[a11]のいずれかに記載の方法で行われる、[a12]に記載の組成物。
[a14]細胞集団が、粗精製された細胞集団である、[a12]または[a13]に記載の組成物。
[a15][a12]~[a14]のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、
(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、
を含む、前記方法。
[a16]抗体の投与によるin vivoにおける血中抗原減少率を予測する方法であって、
(i) 抗原および抗体から免疫複合体を形成する工程、
(ii) 上記 (i) の免疫複合体について、[a1]~[a11]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した取り込み量から、前記抗体を生体に投与した場合の前記抗原のin vivoにおける血中減少率を予測する工程、
を含む、前記方法。
[a17]抗原除去作用を有する抗体のスクリーニング方法であって、
(i) 同一の抗原に結合する異なる2以上の抗体を準備する工程、
(ii) 上記(i)で準備した2以上の抗体それぞれについて、前記抗原との免疫複合体を準備する工程、
(iii) 上記 (ii) で準備した免疫複合体それぞれについて、[a1]~[a11]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iv) 上記 (iii) で測定した免疫複合体の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い免疫複合体を選択する工程、
を含む、前記方法。
[a18]臓器由来の細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP2で示される細胞集団を選別する、[a1]~[a5]のいずれかに記載の方法。
[a19]臓器由来の細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP2で示される細胞集団を選別する、[a1]~[a5]のいずれかに記載の方法。
[a20]臓器由来の細胞集団が、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP2で示される細胞集団からなる、[a12]に記載の組成物。
[a21]臓器由来の細胞集団が、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP2で示される細胞集団からなる、[a12]に記載の組成物。
【0023】
本発明はまた、以下の態様の発明を包含する。
[b1]抗体の細胞への取り込み量を測定する方法であって、
(i) 臓器由来の細胞集団に、前記抗体を添加してインキュベートする工程、
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への前記抗体の取り込み量を測定する工程、
を含み、
前記抗体は、可溶性抗原に結合する、前記方法。
[b2]工程(i)の後に工程(ii)を含み、前記抗体を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する、[b1]に記載の方法。
[b3]工程(i)の前に工程(ii)を含み、CD31およびCD45の発現量に基づいて選別した臓器由来の細胞集団に、前記抗体を添加してインキュベートする、[b1]に記載の方法。
[b4]前記抗体が、Fc受容体を介して細胞に取り込まれる、[b1]~[b3]のいずれかに記載の方法。
[b5]臓器由来の細胞集団が、肝臓非実質細胞集団である、[b1]~[b4]のいずれかに記載の方法。
[b6]肝臓非実質細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31high CD45low細胞集団を選別する、[b5]に記載の方法。
[b7]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される2つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより高い細胞集団である、[b6]に記載の方法。
[b8]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が400~7000であり、CD45の蛍光強度が100~4000である細胞集団である、[b6]に記載の方法。
[b9]肝臓非実質細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団を選別する、[b5]に記載の方法。
[b10]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される3つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が2番目に高い細胞集団である、[b9]に記載の方法。
[b11]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が500~3000であり、CD45の蛍光強度が4000~20000である細胞集団である、[b9]に記載の方法。
[b12]抗体の取り込みアッセイ用の組成物であって、CD31およびCD45を発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含み、前記抗体は、可溶性抗原に結合する、前記組成物。
[b13]アッセイが、[b1]~[b11]のいずれかに記載の方法で行われる、[b12]に記載の組成物。
[b14]細胞集団が、粗精製された細胞集団である、[b12]または[b13]に記載の組成物。
[b15][b12]~[b14]のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、
(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、
を含む、前記方法。
[b16]in vivoにおける抗体の消失クリアランスを予測する方法であって、
(i) 対象とする抗体について、[b1]~[b11]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(ii) 上記 (i) で測定した取り込み量から、前記抗体を生体に投与した場合のin vivoにおける前記抗体の消失クリアランスを予測する工程、
を含み、
前記抗体は、可溶性抗原に結合する、前記方法。
[b17]抗体のスクリーニング方法であって、
(i) 同一の可溶性抗原に結合する異なる2以上の抗体を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した抗体それぞれについて、[b1]~[b11]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した抗体の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い抗体を選択する工程、
を含む、前記方法。
[b18]臓器由来の細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP2で示される細胞集団を選別する、[b1]~[b5]のいずれかに記載の方法。
[b19]臓器由来の細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP2で示される細胞集団を選別する、[b1]~[b5]のいずれかに記載の方法。
[b20]臓器由来の細胞集団が、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP2で示される細胞集団からなる、[b12]に記載の組成物。
[b21]臓器由来の細胞集団が、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP2で示される細胞集団からなる、[b12]に記載の組成物。
【0024】
本発明はまた、以下の態様の発明を包含する。
[c1]抗体の細胞への取り込み量を測定する方法であって、
(i) 臓器由来の細胞集団に、前記抗体を添加してインキュベートする工程、
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への前記抗体の取り込み量を測定する工程、
を含み、
前記抗体は、膜型受容体に結合する、前記方法。
[c2]工程(i)の後に工程(ii)を含み、前記抗体を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する、[c1]に記載の方法。
[c3]工程(i)の前に工程(ii)を含み、CD31およびCD45の発現量に基づいて選別した臓器由来の細胞集団に、前記抗体を添加してインキュベートする、[c1]に記載の方法。
[c4]前記抗体が、前記膜型受容体を介して細胞に取り込まれる、[c1]~[c3]のいずれかに記載の方法。
[c5]前記抗体が抗IL-6R抗体であり、膜型受容体がIL-6Rである、[c1]~[c4]のいずれかに記載の方法。
[c6]臓器由来の細胞集団が、肝臓非実質細胞集団である、[c1]~[c5]のいずれかに記載の方法。
[c7]肝臓非実質細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31high CD45low細胞集団を選別する、[c6]に記載の方法。
[c8]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される2つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより高い細胞集団である、[c7]に記載の方法。
[c9]CD31high CD45low細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が400~7000であり、CD45の蛍光強度が100~4000である細胞集団である、[c7]に記載の方法。
[c10]肝臓非実質細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団を選別する、[c6]に記載の方法。
[c11]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出してCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットした展開図において、細胞密度に基づいて互いに区別される3つのCD31+ CD45+細胞集団のうち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が2番目に高い細胞集団である、[c10]に記載の方法。
[c12]CD31intermediate CD45intermediate細胞集団が、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、CD31の蛍光強度が500~3000であり、CD45の蛍光強度が4000~20000である細胞集団である、[c10]に記載の方法。
[c13]抗体の取り込みアッセイ用の組成物であって、CD31およびCD45を発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含み、前記抗体は膜型受容体に結合する、前記組成物。
[c14]アッセイが、[c1]~[c12]のいずれかに記載の方法で行われる、[c13]に記載の組成物。
[c15]細胞集団が、粗精製された細胞集団である、[c13]または[c14]に記載の組成物。
[c16][c13]~[c15]のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、
(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、
を含む、前記方法。
[c17]in vivoにおける抗体の消失クリアランスを予測する方法であって、
(i)前記抗体について、[c1]~[c12]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(ii) 上記 (i) で測定した取り込み量から、前記抗体を生体に投与した場合in vivoにおける抗体の消失クリアランスを予測する工程、
を含み、
前記抗体は、膜型受容体に結合する、前記方法。
[c18]抗体のスクリーニング方法であって、
(i) 同一の抗原に結合する異なる2以上の抗体を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した抗体それぞれについて、[c1]~[c12]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した抗体の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い抗体を選択する工程、
を含み、
前記抗体は、膜型受容体に結合する、前記方法。
[c19]臓器由来の細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP2で示される細胞集団を選別する、[c1]~[c6]のいずれかに記載の方法。
[c20]臓器由来の細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP2で示される細胞集団を選別する、[c1]~[c6]のいずれかに記載の方法。
[c21]臓器由来の細胞集団が、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP2で示される細胞集団からなる、[c13]に記載の組成物。
[c22]臓器由来の細胞集団が、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP2で示される細胞集団からなる、[c13]に記載の組成物。
【0025】
本発明はまた、核酸の取り込みに関するin vitro評価系に係る態様の発明を包含する。細胞への核酸の取り込みのin vitro評価系としては、免疫複合体の取り込み評価系と同様、受容体を強制発現させた培養細胞を用いる方法および臓器より採取したプライマリー細胞を用いる方法が知られている。前者としては、例えばHEK-293細胞に、核酸受容体として知られるStabilin-1およびStabilin-2を強制発現させた細胞による、核酸取り込みの評価系が知られている(非特許文献24)。しかしながらこのような方法は、特定のタンパク質を過剰に発現させるため、生体内の環境とは大きく異なり、in vivoの核酸取り込みと相関しない可能性がある。また後者の臓器より採取したプライマリー細胞を用いる方法としては、ラット(非特許文献25)およびマウス(非特許文献24)のLSECを単離して評価する方法が知られているが、継時的に細胞の活性が変化するという問題がある。
【0026】
また、ラットおよびマウスの細胞を用いた系では、サルやヒトなどでの核酸の取り込みを反映しているかどうか、不明である。
【0027】
これらの問題に対して、本発明者らは、鋭意研究し、上述の免疫複合体の取り込みを定量的に測定する評価系と同様に、臓器由来の細胞を用いて評価系を構築することで、in vivoの核酸取り込みを評価できる系を構築することに成功した。
【0028】
すなわち、本発明は、以下の態様の発明を包含する。
[A1]核酸の細胞への取り込み量を測定する方法であって、
(i) 臓器由来の細胞集団に、核酸を添加してインキュベートする工程、
(ii) Stabilin(核酸取込受容体)を発現する臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii)工程(i)および(ii)の後に細胞集団への核酸の取り込み量を測定する工程、
を含む、前記方法。
[A2]工程(i)の後に工程(ii)を含み、核酸を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、Stabilinを発現する細胞集団を選別する、[A1]に記載の方法。
[A3]工程(i)の前に工程(ii)を含み、選別したStabilinを発現する臓器由来の細胞集団に、核酸を添加してインキュベートする、[A1]に記載の方法。
[A4]前記(ii)で選別された細胞集団が、CD31およびCD45を発現することを特徴とする、[A1]~[A3]のいずれかに記載の方法。
[A5]臓器由来の細胞集団が、肝臓非実質細胞集団である、[A1]~[A4]のいずれかに記載の方法。
[A6]核酸取り込みアッセイ用の組成物であって、Stabilinを発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含む、前記組成物。
[A7]アッセイが、[A1]~[A5]のいずれかに記載の方法で行われる、[A6]に記載の組成物。
[A8]細胞集団が、粗精製された細胞集団である、[A6]または[A7]に記載の組成物。
[A9][A6]~[A8]のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、
(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および
(ii)Stabilinを発現する臓器由来の細胞集団を選別する工程、
を含む、前記方法。
[A10]核酸をスクリーニングする方法であって、
(i) 同一のヌクレオチド配列を有し、互いに異なる化学修飾を有する2以上の核酸を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した2以上の核酸それぞれについて、[A1]~[A5]のいずれかに記載の方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記(ii) で測定した核酸の細胞への取り込み量を相互に比較し、所望の取り込み量を示した核酸を選択する工程、
を含む、前記方法。
[A11]臓器由来の細胞集団がヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP1またはP2で示される細胞集団を選別する、[A1]~[A5]のいずれかに記載の方法。
[A12]臓器由来の細胞集団がサル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP1、P2、およびP3のいずれかで示される細胞集団を選別する、[A1]~[A5]のいずれかに記載の方法。
[A13]臓器由来の細胞集団が、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP2で示される細胞集団からなる、[A6]に記載の組成物。
[A14]臓器由来の細胞集団が、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP1、P2、およびP3のいずれかで示される細胞集団からなる、[A6]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0029】
本発明の細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の細胞への取り込み量を測定する方法は、従来の測定方法と比較して、in vivoにおける細胞への当該分子の取り込みをより正確に反映しており、in vivoにおける当該分子の動態のより精度の高い予測が可能となる。
【0030】
また本発明の免疫複合体の細胞への取り込み量を測定する方法は、従来の測定方法と比較して、in vivoにおける細胞への免疫複合体の取り込みをより正確に反映しており、本発明によって得られる結果は、in vivoの血漿中の抗原の減少率と高い相関を示す。したがって本発明によれば、in vivoでの効率的な免疫複合体の消失を実現可能な抗体の選抜を効率よく行うことが可能となり、またサルなどを使用する動物実験の削減に貢献することもできる。さらに本発明の測定方法によって得られるデータは、in vivoにおける抗体および抗原の濃度推移を予測し得る薬物動態モデルの構築に寄与する。
【0031】
また本発明の核酸の細胞への取り込み量を測定する方法によれば、核酸医薬品を研究開発する際に、細胞内への取り込みが改良された核酸医薬品を効率よくスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は実施例3に示されるような、サル肝臓非実質細胞をフローサイトメーターに流した際に検出される前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)により細胞の分布を展開した散布図である。FACS Canto IIで測定する際、デブリを除いた20000個の細胞データを取得しプロットした。
図2】Pacific Blue標識抗CD31抗体およびAPC標識抗CD45抗体でサル肝臓非実質細胞を染色したのち、FACSでそれぞれの蛍光強度を測定し、図1で示した散布図に示す全ての細胞を、Pacific Blueの蛍光強度とAPCの発現強度により展開した散布図である。CD31Low CD45High、CD31Intermediate CD45Intermediate、およびCD31High CD45Lowの3つの細胞集団(それぞれP1、P2、P3とする)のシグナルが確認される。それ以外の領域には、これらの細胞マーカーが発現していない細胞や、ノイズ・自家蛍光と考えられるシグナルが確認でき、これらは非染色の細胞でも確認される。
図3】Pacific Blue標識抗CD31抗体、APC標識抗CD45抗体、およびAlexa488標識抗サルFcγRIIB抗体でサル肝臓非実質細胞を染色したのち、FACSでそれぞれの蛍光強度を測定し、図2における細胞集団P1からP3それぞれについて、Alexa488の蛍光強度をヒストグラムで示した。黒色破線はAlexa488標識ネガティブコントロール抗体、黒色実線はAlexa488標識抗サルFcγRIIB抗体で染色したときの蛍光シグナルを示す。
図4】実施例4に示す抗体およびAlexa488標識サルミオスタチンを混合して抗体抗原複合体とし、細胞溶液に添加し取り込ませたのち、Pacific Blue標識抗CD31抗体およびAPC標識抗CD45抗体で染色した細胞について、図1および図2のような展開図から細胞集団P2を特定し、P2におけるAlexa488標識サルミオスタチンの蛍光強度をヒストグラムで示している。黒色網掛けは抗体非添加(Alexa488標識サルミオスタチンのみ添加)の条件、黒色短破線はSG1、黒色長破線はSG145、黒色実線はSG141、黒色太線はSG143とAlexa488標識潜在型サルミオスタチンを混合し添加したときのヒストグラムである。各抗体は0.5(A)、2.5(B)、10(C)、40(D)μg/mLの濃度でそれぞれ添加した。
図5図4に示したヒストグラムから得られた細胞取り込み量を各抗体の各添加量について示した。黒色丸印はSG1、黒色三角印はSG141、白色丸印はSG143、黒色四角はSG145を示す。
図6】各検体について、in vivoサルにおけるサルミオスタチンの減少率、およびサル肝臓非実質細胞のミオスタチンの細胞取り込み量をプロットし、両者の相関を示した。サル血漿中におけるミオスタチン減少率は、サルにSG1(黒色丸)、SG141(黒色四角)、SG143(黒色三角)、SG145(白色丸)を投与してから14日後に血漿中の潜在型サルミオスタチンの濃度を測定し、SG1投与時の血漿中からのミオスタチン減少率を1として各検体のミオスタチン減少率を示した。また、サル肝臓非実質細胞における細胞取り込みクリアランスについては、抗体を10μg/mLで添加した際のAlexa488標識ミオスタチンの蛍光強度より求めた細胞取り込み量を用いて取り込みクリアランスを算出した。
図7図7は、ヒト肝臓非実質細胞をフローサイトメーターに流した際に検出される前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)により細胞の分布を展開した散布図である。四角形で囲んだ領域を評価の対象とした。
図8】FITC標識抗CD31抗体およびVioBlue標識抗CD45抗体でヒト肝臓非実質細胞を染色したのち、FACSでそれぞれの蛍光強度を測定し、図7で示した散布図において四角形で囲んだ領域の細胞を、FITCの発現強度とVioBlueの発現強度により展開した散布図である。CD31Low CD45High、および、CD31High CD45Lowの2つの細胞集団(それぞれP1、P2とする)が確認される。それ以外の領域には、これらの細胞マーカーが発現していない細胞や、ノイズ・自家蛍光と考えられるシグナルが確認でき、これらは非染色の細胞でも確認される。
図9】FITC標識抗CD31抗体、VioBlue標識抗CD45抗体、および、抗ヒトFcγRIIBヒトIgG抗体とAlexa647標識抗ヒト抗体でヒト肝臓非実質細胞を染色したのち、FACSでそれぞれの蛍光強度を測定し、図8における細胞集団P1とP2それぞれについて、Alexa647の蛍光強度をヒストグラムで示した。黒色破線はネガティブコントロール抗体、黒色実線は抗ヒトFcγRIIB抗体で染色したときの蛍光シグナルを示す。(A) P1、(B) P2。
図10】実施例9に示すTT91抗体およびAlexa488標識ヒトミオスタチンを混合して抗体抗原複合体とし、細胞溶液に添加し取り込ませたのち、VioBlue標識抗CD31抗体およびAPC標識抗CD45抗体で染色した細胞について、図7および図8のような展開図から細胞集団P2を特定し、P2におけるAlexa488標識ヒトミオスタチンの蛍光強度をヒストグラムで示している。黒色網掛けは抗体非添加(Alexa488標識ヒトミオスタチンのみ添加)の条件、黒色長破線は抗体0.1μg/mL、黒色実線は抗体1μg/mL、黒色短実線は抗体10μg/mL、黒色太線は抗体100μg/mLとなるように、Alexa488標識ヒトミオスタチンを混合し添加したときのヒストグラムである。
図11図10に示したヒストグラムから得られた細胞取り込み量を各抗体添加量について示した。
図12】Pacific Blue標識抗CD31抗体、APC標識抗CD45抗体、およびAlexa488標識抗Stabilin1抗体もしくは抗Stabilin2抗体でサル肝臓非実質細胞を染色したのち、FACSでそれぞれの蛍光強度を測定し、図2における細胞集団P1からP3それぞれについて、Alexa488の蛍光強度をヒストグラムで示した。黒色破線はAlexa488標識ネガティブコントロール抗体、黒色細実線はAlexa488標識Stabilin1抗体、黒色太実線はAlexa488標識Stabilin2抗体で染色したときの蛍光シグナルを示す。
図13】FITC標識核酸を細胞溶液に添加し取り込ませたのち、Pacific Blue標識抗CD31抗体およびAPC標識抗CD45抗体で染色した細胞について、図1および図2のような展開図から細胞集団P1、P2、P3を特定し、各細胞集団におけるFITC標識核酸の蛍光強度を細胞集団P1~P3ごとにヒストグラムで示している。黒色網掛けは核酸非添加の条件、黒色短破線は0.5μg/mL、黒色実線は2.5μg/mL、黒色太線は10μg/mL、黒色長波線は40μg/mLの核酸を添加したときのヒストグラムである。
図14図13に示したヒストグラムから得られた細胞取り込みの平均蛍光強度を細胞集団抗体の各添加量について示した。
図15】実施例XXXに示すAlexa488標識した抗体を細胞溶液に添加し取り込ませたのち、Pacific Blue標識抗CD31抗体およびAPC標識抗CD45抗体で染色した細胞について、図1および図2のような展開図から細胞集団P2を特定し、P2におけるAlexa488標識抗体の蛍光強度をヒストグラムで示している。黒色短破線はSG1、黒色長破線はSG1081、黒色実線はSG141、黒色太線はSG143を添加したときに得られるAlexa488のヒストグラムである。各抗体は10(A)、30(B)、100(C)、200(D)μg/mLの濃度でそれぞれ添加した。
図16図15に示したヒストグラムから得られた細胞取り込み量を各抗体の添加量ごとに示した。黒色丸印はSG1、黒色三角印はSG141、白色丸印はSG143、黒色四角はSG1081を示す。
図17】in vivoサルにおける抗体の血漿からの消失クリアランス、およびin vitroにおけるAlexa488標識した抗体の細胞取り込み量をプロットし、両者の相関を示した。サル血漿中における抗体のクリアランス(血漿クリアランス)は、サルにSG1(黒色丸)、SG141(黒色四角)、SG143(黒色三角)、SG1081(白色丸)を投与してから56日後まで血漿中抗体濃度を測定し、ノンコンパートメントモデル解析により算出した。また、サル肝臓非実質細胞における細胞取り込み量については、抗体を200μg/mLで添加した際のAlexa488標識抗体の蛍光強度より求めた細胞取り込み量をプロットに用いた。
図18】Pacific Blue標識抗CD31抗体、APC標識抗CD45抗体、およびAlexa488標識tocilizumabでサル肝臓非実質細胞を染色したのち、FACSでそれぞれの蛍光強度を測定し、図2と同様の展開図から特定したP1からP3に位置する細胞集団について、Alexa488の蛍光強度のヒストグラムを、(A)から(C)にそれぞれ示した。黒色破線はAlexa488標識ネガティブコントロール抗体、黒色実線はAlexa488標識tocilizumab、灰色シャドーはAlexa488標識tocilizumabに過剰量の非標識tocilizumabを加えた溶液、でそれぞれ反応させた結果を示した。
図19】(A)Alexa488標識tocilizumabを3μg/mLで、細胞溶液に添加し、37℃で2、5、10、15、または30分間取り込ませたのち、Pacific Blue標識抗CD31抗体およびAPC標識抗CD45抗体で染色した細胞について、図2と同様の展開図から細胞集団P2を特定し、P2におけるAlexa488標識tocilizumabの蛍光強度をヒストグラムで示した。(B)3μg/mLのAlexa488標識tocilizumabに、過剰量である1mg/mLの非標識tocilizumabを加えて、(A)と同様に処理した結果である。うすい灰色から黒色まで、濃さの異なるヒストグラムがそれぞれ2~30分間の取り込みの結果を示す。(C)(A)および(B)に示したヒストグラムから得られた取り込み量をY軸に、取り込み時間をX軸にとり、各時点の値をプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0033】
I.細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の細胞への取り込み
I-1.細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の細胞への取り込み量を測定する方法
本発明の第一の態様は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の細胞への取り込み量を測定する方法に関する(以下、本発明の測定方法Iとも称する)。
【0034】
本発明において、「細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子」は、後述の臓器由来の細胞集団に含まれる細胞の表面にその受容体が存在し、当該受容体に結合して細胞内に取り込まれる分子である。細胞内に取り込まれる分子は、1分子であっても、2分子以上からなる複合体であってもよい。「細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子」は、多数の分子からなる構造体または物質であってもよい。当該分子としては、例えば、実施例に記載された分子である抗体-抗原複合体(免疫複合体)、核酸、可溶性抗原に結合する抗体、および膜型受容体に結合する抗体のほか、ペプチド化合物、トキシン、ウイルス、ナノ粒子・マイクロ粒子などのDDS製剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明の測定方法によれば、これらの分子について本願実施例と同様に細胞内への取込み量を評価することができ、in vivoでのその動態を予測することができる。
【0036】
本発明において「免疫複合体」とは、少なくとも一つの抗体が少なくとも一つの抗原に結合することによって形成される、抗体および抗原を含む複合体である。一態様において、免疫複合体は抗体および抗原からなり、この場合、抗原抗体結合物と言い換えることができる。
【0037】
本明細書中、「抗体」とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプ(すなわちIgG、IgA、IgD、IgE、およびIgM)およびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のサブクラスが知られている。好ましい態様において、本発明の測定方法Iにおける免疫複合体を構成する抗体は、IgGである。
【0038】
抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよい。また本発明においては、異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体などを使用することができる。また抗体は、二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)であってもよい。
【0039】
抗体は、「抗原結合ドメイン」および「Fc受容体結合ドメイン」を含む限り、抗体の断片であってもよい。抗体における「抗原結合ドメイン」は、目的とする抗原に結合するドメインであればよく、例えば、抗体の重鎖または軽鎖の可変領域である。抗体の「Fc受容体結合ドメイン」は、Fc受容体に結合するドメインであればよく、例えば、抗体の定常(Fc)領域である。ここでFc受容体としては、例えばFcγRおよびFcRnが挙げられる。FcγRは、好ましくはFcγRIIであり、より好ましくはFcγRIIBである。
【0040】
これらの抗体を作製する方法は当業者において公知である(例えば、WO 2013/081143など)。
【0041】
本明細書において「抗原」は抗原結合ドメインが結合するエピトープを含む限りその構造は特定の構造に限定されない。別の意味では、抗原は無機物でもあり得るし有機物でもあり得る。抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ-V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス-Y抗原、ルイス-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF-ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1Pならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
【0042】
二重特異性抗体等のように抗体が抗原分子中の複数のエピトープに結合する場合、当該抗体と複合体を形成することが可能な抗原は上記に例示される抗原のいずれか、またはその組合せ、換言すれば単量体またはヘテロ多量体であり得る。ヘテロ多量体の非限定な例として、IL-12p40およびIL-12p35を含むIL-12、IL-12p40および(IL-30Bとも呼ばれる)IL-23p19を含むIL-23、もしくはEBI-3およびIL27p28を含むIL-23、もしくはIL-12p35およびEBI-3を含むIL-35等のヘテロ二量体、が挙げられる。
【0043】
上記の抗原の例示には受容体も記載されるが、これらの受容体が血漿中等の生体液中に可溶型で存在する場合、抗体と複合体を形成することが可能であるため、上記に挙げた受容体が可溶型で血漿中等の生体液中に存在する限り、抗体が結合して免疫複合体を形成し得る抗原として使用され得る。そのような可溶型受容体の非限定な一態様として、例えば、Mullbergら(J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような可溶型IL-6Rが例示される(例えば、WO 2013/081143に記載の配列番号:1で表されるIL-6Rポリペプチド配列のうち、1から357番目のアミノ酸からなるタンパク質)。
【0044】
上記の抗原の例示には可溶性抗原も記載されるが、当該抗原が存在する溶液に限定はなく生体液、すなわち生体内の脈管又は組織・細胞の間を満たす全ての液体に本可溶性抗原は存在し得る。非限定な一態様では、抗体が結合する抗原は、細胞外液に存在することができる。細胞外液とは、脊椎動物では血漿、組織間液、リンパ液、密な結合組織、脳脊髄液、髄液、穿刺液、または関節液等の骨および軟骨中の成分、肺胞液(気管支肺胞洗浄液)、腹水、胸水、心嚢水、嚢胞液、または眼房水(房水)等の細胞透過液(細胞の能動輸送・分泌活動の結果生じた各種腺腔内の液、および消化管腔その他の体腔内液)の総称をいう。
【0045】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が免疫複合体または抗体である場合、好ましくは、抗体はIgGであり、受容体はFc受容体であり得る。Fc受容体は、好ましくはFcγRまたはFcRnである。FcγRは、より好ましくはFcγRIIであり、さらに好ましくはFcγRIIBである。
【0046】
本発明において「核酸」とは、DNA、RNA、それらの類縁体をいい、天然の核酸であっても合成された核酸であってもよい。類縁体としては、PNA、LNA等の人工核酸が挙げられる。核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。また核酸は、修飾体であってもよい。修飾体としては、ヌクレオシド間結合、塩基および/または糖において化学的に修飾されたもの、5'末端および/または3'末端に修飾基を有するものなどが挙げられる。ヌクレオシド間結合の修飾としては、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、メチルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合、非リン酸結合、およびメチルホスホノチオエート結合のいずれか、またはそれらの組み合わせへの変更が挙げられる。塩基の修飾としては、5-プロピニルウラシル、2-アミノアデニンなどへの変更が挙げられる。糖の修飾としては、2'-フルオロリボース、2'-O-メチルリボースへなどへの変更が挙げられる。
【0047】
核酸は、その機能または用途に応じて、siRNA、アンチセンスRNA、miRNA、shRNA、リボザイム、またはアプタマーと呼ばれることもある。本発明において用いられる核酸には、Toll 様受容体9(TLR9)に作用して自然免疫を活性化させるCpGオリゴヌクレオチドも含まれる。
【0048】
核酸の塩基長は、Stabilinを介して細胞内に取り込まれ得る長さであればよく、例えば4~100塩基長、10~50塩基長、10~40塩基長、または10~30塩基長の範囲である。
【0049】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が核酸である場合、好ましくは、受容体はStabilinである。
【0050】
本発明において、Stabilinとは、核酸受容体として知られる膜貫通タンパク質のファミリーに属するタンパク質をいう。哺乳動物においては、Stabilin-1およびStabilin-2の2種類の相同体が知られており、本発明のStabilinはそれらのいずれであってもよい。ヒトにおいては、Stabilin-1(NCBI accession number: NP#055951.2)およびStabilin-2(NCBI accession number: NP#060034.9)が知られており、LSEC、脾臓、副腎皮質、リンパ節、および類洞マクロファージにおいて発現していることが報告されている(特許文献24)。
【0051】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が可溶性抗原に結合する抗体である場合、好ましくは、抗体はIgGであり、受容体はFc受容体であり得る。Fc受容体は、好ましくはFcγRまたはFcRnである。FcγRは、より好ましくはFcγRIIであり、さらに好ましくはFcγRIIBである。
【0052】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が膜型受容体に結合する抗体である場合、受容体としては、IL-6R、IL-4R、IL-5R、IL-17R、EGFR、HER2、RANKL、PD-1、PD-L1などが挙げられ、好ましくはIL-6Rである。RANKLおよびPD-L1は膜型リガンドともいわれるが、これらに対する抗体も、膜型受容体に結合する抗体と同様の体内動態をすることが知られている。よって、膜型リガンドに分類される分子も本明細書では「膜型受容体」に含まれる。好ましい態様において、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子は抗IL-6R抗体であり、受容体はIL-6Rである。抗IL-6R抗体は、より好ましくはヒト化抗IL-6R抗体であり、さらに好ましくはtocilizumabである。
【0053】
ペプチド化合物とは、アミノ酸あるいはアミノ酸類縁体がアミド結合あるいはエステル結合して形成される化合物である。ペプチド化合物の分子形は直鎖状、環状、あるいは直鎖部を有する環状のものが挙げられる。
【0054】
アミド結合あるいはエステル結合の数(アミノ酸又はアミノ酸類縁体の数・長さ)を特に限定しないが、直鎖部を有する場合、環状部と直鎖部を併せて30残基以内が好ましい。環化部位と直鎖部位を併せた総アミノ酸数は13残基以下であることがより好ましい。高い代謝安定性を獲得するためには、総アミノ酸数が9以上であることがより好ましい。上記に加えて環状部を構成するアミノ酸及びアミノ酸類縁体の数は5~12であることが好ましい。さらに、上の記載に加えて環状部を構成するアミノ酸及びアミノ酸類縁体の数はより好ましくは5~11、さらに7~11残基が好ましい。特に9~11残基が好ましい。直鎖部のアミノ酸及びアミノ酸類縁体の数(ユニットの数)は0~8であることが好ましい。さらに、0~3が好ましい。尚、本願では特に限定しない限り、アミノ酸にはアミノ酸類縁体も含まれる場合があるものとする。
【0055】
なお、本明細書において、ペプチド化合物を構成する「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」を、それぞれ、「アミノ酸残基」、「アミノ酸類縁体残基」ということがある。
【0056】
アミノ酸とはα、βおよびγアミノ酸であり、天然型アミノ酸(本願では天然型アミノ酸とはタンパク質に含まれる20種類のアミノ酸を指す。具体的にはGly、Ala、Ser、Thr、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、His、Glu、Asp、Gln、Asn、Cys、Met、Lys、Arg、Proを指す。)に限定されず、非天然型アミノ酸であってもよい。α-アミノ酸の場合、L型アミノ酸でもD型アミノ酸でもよく、α,α-ジアルキルアミノ酸でもよい。アミノ酸側鎖の選択は特に制限を設けないが、水素原子の他にも例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基から自由に選択される。それぞれには置換基が付与されていてもよく、それら置換基も例えば、N原子、O原子、S原子、B原子、Si原子、P原子を含む任意の官能基の中から自由に選択される(すなわち、置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基など)。
【0057】
ペプチド化合物を構成する「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」にはそれぞれに対応する全ての同位体を含む。「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」の同位体は、少なくとも1つの原子が、原子番号(陽子数)が同じで,質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる原子で置換されたものである。本発明ペプチド化合物を構成する「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」に含まれる同位体の例としては、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、フッ素原子、塩素原子などがあり、それぞれ、2H、3H、13C、14C、15N、17O、18O、31P、32P、35S、18F、36Cl等が含まれる。
【0058】
ペプチド化合物を検出するために蛍光標識キットAlexa FluorR 488 Protein Labeling Kit(invitrogen)を用いる場合には、アミノ基を有するアミノ酸を有することが望ましい。そのようなアミノ酸としてLys(リシン)が挙げられる。他に、チオール基を有するアミノ酸もチオール反応性蛍光色素により標識できる。このようなアミノ酸としてCys(システイン)が挙げられる。
【0059】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子がペプチド化合物である場合、好ましくは、受容体はPEPT1またはPEPT2である。
【0060】
ナノ粒子・マイクロ粒子は薬物送達(薬物送達システム、Drug Delivery System、通称DDS)を目的とする製剤に用いられることが知られている。例としてはリポソーム、ミセル、デンドリマー、ナノエマルション、鉄ナノ粒子、金ナノ粒子、PLGA粒子が挙げられる(Organ Biology VOL.24 NO.1 2017、54-60)がこれに限定されるものではない。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明の測定方法Iにおける細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子には、特定の細胞集団に特異的に結合する分子を結合させたナノ粒子・マイクロ粒子が含まれる。例えば、当該細胞集団の表面抗原に対する抗原結合分子をこれら粒子に結合させることができる。また例えば、Fc受容体に結合する抗原結合分子をこれら粒子に結合させることができる。一実施形態において、本発明の測定方法Iにおける細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子は、当該受容体に結合する抗体を結合させたナノ粒子・マイクロ粒子であり、受容体は、Fc受容体または上記膜型受容体であり得る。
【0062】
また、LSECには、ヒアルロン酸受容体(CD44、LYVE)が発現しており、ラットに投与されたヒアルロン酸はLSECに集積することが知られている(Cell Tissue Res. 1985;242(3):505-10;J Hepatol. 2017 Jan;66(1):212-227;J Biomater Sci Polym Ed. 2009;20(1):83-97)。ヒアルロン酸をリポソームに結合させて外来遺伝子をLSECへ送達させることもマウスを用いた実験で示されている(J Pharm Sci. 2013 Sep; 102(9):3119-27)。したがって、一実施形態において、本発明の測定方法Iにおける細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子は、ヒアルロン酸を結合させたナノ粒子・マイクロ粒子であり、受容体はヒアルロン酸受容体であり得る。
【0063】
また、LSECには、マンノース受容体が発現しており、リソソーム酵素はLSECにリクルートされることが知られている(Hepatology. 2008 Dec;48(6):2007-15)。したがって、一実施形態において、本発明の測定方法Iにおける細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子は、マンノース受容体に結合する分子(例えばリソソーム酵素などの糖タンパク質)を結合させたナノ粒子・マイクロ粒子であり、受容体はマンノース受容体であり得る。
【0064】
本発明において「トキシン」は、細胞傷害剤、毒素、または放射性同位元素を特定の細胞集団に特異的に送達し、傷害することができるものであれば特に限定されない。例えば、当該細胞集団に特異的に結合する分子(例えば当該細胞集団の細胞表面抗原に対する抗原結合分子)に、細胞傷害剤、毒素、または放射性同位元素を結合させた分子を作製することができる。「細胞集団に特異的に結合する分子」としては、上記の抗体、核酸、ペプチド化合物などが挙げられる。このような分子を用いることで、当該細胞集団に対し、効率よく細胞傷害剤、毒素、または放射性同位元素を送達することができる。その結果、当該細胞集団を特異的に傷害することができる。
【0065】
細胞傷害剤の例として、メイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、第5,416,064号、および欧州特許第0,425,235号B1参照);例えばモノメチルオーリスタチン薬剤部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF)(米国特許第5,635,483号および第5,780,588号および第7,498,298号参照)などのオーリスタチン;ドラスタチン;カリケアマイシンまたはその誘導体(米国特許第5,712,374号、第5,714,586号、第5,739,116号、第5,767,285号、第5,770,701号、第5,770,710号、第5,773,001号、および第5,877,296号;Hinman et al., Cancer Res. 53:3336-3342 (1993);ならびにLode et al., Cancer Res. 58:2925-2928 (1998) 参照);ダウノマイシンまたはドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratz et al., Current Med. Chem. 13:477-523 (2006);Jeffrey et al., Bioorganic & Med. Chem. Letters 16:358-362 (2006);Torgov et al., Bioconj. Chem. 16:717-721 (2005);Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:829-834 (2000);Dubowchik et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12:1529-1532 (2002);King et al., J. Med. Chem. 45:4336-4343 (2002);および米国特許第6,630,579号参照);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、およびオルタタキセルなどのタキサン;トリコテセン;ならびにCC1065が挙げられる。
【0066】
毒素の例としては、これらに限定されるものではないが以下を含む酵素的に活性な毒素またはその断片が挙げられる:ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa) 由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ (Aleurites fordii) タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ (Phytolacca americana) タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ツルレイシ (momordica charantia) 阻害剤、クルシン (curcin)、クロチン、サボンソウ (saponaria officinalis) 阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン (mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、ならびにトリコテセン。
【0067】
放射性同位元素の例としては、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体が挙げられる。
【0068】
特定の細胞集団を傷害するために、ウイルスを用いることもできる。本発明の測定方法Iによれば、例えば、以下に示すウイルスまたはウイルスタンパク質もしくはその一部の細胞への取り込みを測定することができる。
【0069】
遺伝子治療は、外来遺伝子を宿主細胞に導入することで治療効果を示す。遺伝子治療に用いられるウイルスとして、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン・バーウイルスなどが知られている(Adv Biomed Res. (2012) 1: 27. doi:10.4103/2277-9175.98152)。これらウイルスに細胞傷害活性を有する遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを作製し、当該組換えウイルスを上記細胞集団に送達することで、上記細胞集団を傷害することができる。
【0070】
また、ウイルスに直接薬物を封入し、drug deliveryに用いる例も報告されている(Methods Mol Biol. 2011;726:207-221)。この報告では、Red clover necrotic mosaic virus (RCNMV)に核酸(RNAおよびDNA)を封入し、薬物送達用ウイルスを作製している。
【0071】
また、ウイルスを構成するタンパクの一部をdrug deliveryに用いることもできる。ここでは、ウイルスが細胞にエントリーする際に用いるタンパクの一部を他の分子に結合させる例が挙げられる(Nanotheranostics. 2017; 1(4): 415-429.)
【0072】
例えば、HIV-1のtatタンパクの部分ペプチドは、細胞膜透過性ペプチドとして用いられる。ヒトパピローマウイルスのL2ペプチドは、酸性条件下で細胞膜を不安定化する活性を有する。HBVのエンベロープLタンパクは、HBV受容体と高い親和性で相互作用する。このLタンパクの部分ペプチドを合成ナノキャリアに結合すると、当該ナノキャリアはヒト肝臓細胞特異的に送達される。
【0073】
また、アデノウイルスやB型肝炎ウイルスは、LSECでクリアランスを受けることが実験動物を用いて示されている(PLoS Pathog 2011; 7(9): e1002281、Hepatology. 2001;34(4 Pt 1):803-8.)。
【0074】
本発明の測定方法Iは、以下の工程(i)~(iii)を含む。
(i) 臓器由来の細胞集団に、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子を添加してインキュベートする工程、
(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への前記分子の取り込み量を測定する工程。
【0075】
なお、後述のように、工程(i)および(ii)は、いずれを先に行ってもよく、工程(iii)は、工程(i)および(ii)の後に行う。
【0076】
本発明の測定方法Iは、哺乳動物を対象とする。一態様において、哺乳動物は、霊長類であり、例えばヒト、サル(カニクイザル、マーモセット、アカゲザルなど)、チンパンジーなどが挙げられ、好ましくはヒトまたはサルである。
【0077】
工程(i)における「臓器」としては、細胞集団を含む生体内の器官が挙げられ、血液および骨髄も含まれる。一態様において、臓器は、肝臓、腸間膜リンパ、血液、骨髄、胃、肺、または脾臓であり、好ましくは肝臓である。
【0078】
臓器由来の細胞集団は、当該分野において一般的に用いられる方法で調製することができる。また臓器由来の細胞集団として、市販品を用いることもでき、例えば、ヒト肝臓非実質細胞はSekisui Xenotech社などから、サル肝臓非実質細胞であればイナリサーチ社などから、それぞれ入手することができる。細胞集団は、適当な培地(例えば、OptiThaw Kupffer Cell Thaw/Culture Media (Sekisui XenoTech)、HCM(LONZA)など)、緩衝液などに懸濁させた状態であってよい。
【0079】
一態様において、本発明の測定方法Iに供される細胞集団は、粗精製された細胞集団である。ここで粗精製された細胞集団とは、臓器から採取された組織から遊離された細胞からなるが、目的とする特徴を有する細胞集団に純化する処理が施されていない細胞集団をいう。過度の精製を施さないことにより、細胞を新鮮な状態に維持することができ、細胞の性質が変化することを避けることができる。例えば、固形の臓器の場合、臓器から採取した組織を酵素処理することによって細胞を遊離させた後、ガーゼ等で不純物を除去し、必要に応じて遠心分離等の方法で不必要な細胞集団を除去することにより、粗精製された細胞集団を得ることができる。粗精製された細胞集団の一例として、肝臓から調製された非実質細胞集団が挙げられる。肝臓非実質細胞集団は、肝臓から組織を切除し、これをコラーゲンにより酵素処理することで細胞を遊離させ、ガーゼで不純物をろ過し、得られた細胞集団を遠心分離して、沈殿した細胞集団を肝実質細胞として除去し、上清に含まれる細胞を回収することにより調製することができる(Organ Biology Vol.16 No.3 2009, 361-370)。
【0080】
工程(i)において、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が免疫複合体である場合、あらかじめ抗体および抗原を混合することにより免疫複合体を調製し、これを細胞集団に添加してもよいし、抗体および抗原それぞれを細胞集団に添加し、インキュベーション中に免疫複合体を形成させてもよい。
【0081】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子を添加した臓器由来の細胞集団は、当該細胞集団の生理的温度で10秒~24時間、例えば1~60分間、インキュベーションされる。インキュベーション時間は、各分子、生物種に応じて、その増加に応じて取り込み量が直線的に増加する範囲で、当業者が適宜設定することができる。生理的温度は、生物種に応じて変わり得るが、例えばヒトであれば35~38℃、例えば36~37℃であり、サルであれば35~38℃、例えば36~37℃である。好ましい態様において、ヒトであれば37℃で60分間、サルであれば37℃で15分間、インキュベーションされる。
【0082】
工程(ii)では、CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別する。
【0083】
工程(ii)において、CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別するとは、CD31およびCD45を発現する臓器由来の細胞集団をより小さい細胞集団に分け、所定の範囲のCD31およびCD45の発現量を有する細胞集団を選ぶことである。選別された細胞集団は、元の細胞集団から単離されてもされなくてもよい。
【0084】
細胞集団を単離する場合、用いる手法は特に限定されないが、例えば、フローサイトメーターにより細胞を分取する方法が挙げられる。また、細胞表面マーカーに結合する抗体でコートしたプレートの上に細胞集団を置くことにより細胞分離する手法として知られている「パニング法」、細胞表面マーカーに対する抗体をビーズに固相化した「免疫磁気ビーズ」を用いた「免疫マグネット法)」などを用いることもできる(非特許文献15)。
【0085】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の細胞への取り込みを測定するためには、当該受容体を発現している細胞集団が用いられる。そのような細胞集団を当該受容体の発現量を指標として選別すると、当該分子の取り込みを正確に測定することができない場合がある。例えば、当該受容体に結合する標識した抗体を用いて細胞を染色し、そのまま当該分子を添加すると、当該抗体が当該分子と競合し、当該分子の取り込みに影響が生じる可能性がある。これに対して本発明では、CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別し、当該受容体を発現している細胞集団を特定できるので、当該分子の取り込みに影響を与えることなく測定を行うことができる。
【0086】
一態様において、本発明の測定方法Iは、工程(i)の後に工程(ii)を含み、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する。
【0087】
また別の態様において、本発明の測定方法Iは、工程(i)の前に工程(ii)を含み、CD31およびCD45の発現量に基づいて選別した臓器由来の細胞集団に、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子を添加してインキュベートする。この場合、通常は工程(ii)において選別された細胞集団は、元の細胞集団から単離される。
【0088】
本明細書中、「CD31」とは、CD(cluster of differentiation, cluster of designation又は classification determinant)分類として、白血球を表面抗原によって分類する手法(Histopathology. 1988 May;12(5):461-80.)により、その31番目の分子として特定される分子をいう。CD31は、Platelet Endothelial Cell Adhesion Molecule-1(PECAM-1)とも呼ばれる、免疫グロブリン・スーパーファミリーに属する分子量140kDaの単鎖膜糖タンパクである(Woodfin A., et al. PECAM-1: a multi-functional molecule in inflammation and vascular biology. Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2007. 27 (12): 2514-23)。ヒトCD31のアミノ酸配列としては、例えばNCBI Reference Sequence: NP#000433.4に記載の配列が挙げられる。またサルCD31のアミノ酸配列としては、例えばGenBank: AFH32784.1に記載されている配列が挙げられる。骨髄系の造血前駆細胞と、血小板、内皮細胞ジャンクションに発現が認められる。CD31は、内皮細胞マーカーとして知られているが、正常なLSECにおいては細胞表面よりはむしろ細胞質に発現していることが報告されている(Deleve, L.D., J Clin Invest. 2013 123(5):1861-6.)
【0089】
本明細書中、「CD45」とは、上記CD分類の45番目の分子として特定される分子をいう(Penninger JM., Et al. CD45: new jobs for an old acquaintance. Nat Immunol, 2001. 2 (5): 389-96.)。CD45分子は単鎖膜貫通タンパクで、分子量180~235kDaの範囲で少なくとも5つのアイソフォームがある。これらのアイソフォームは遺伝子配列上の3つのエクソン(A、B、およびC)の選択的スプライシングによる組み合わせから形成される。すべてのCD45アイソフォーム構造に共通の、膜近傍の細胞外領域アミノ酸配列が非限定CD45抗原である白血球共通抗原(Leucocyte common antigen: LCA)である。CD45クラスターに属するすべてのモノクローナル抗体は、この共通部分に反応し、すべてのCD45アイソフォームを認識できる。CD45は、造血細胞マーカーとして知られているが、LSECにおいても発現していることが報告されている。CD45は、門脈周囲性(periportal)LSECにおいて発現が高く、小葉中間性(midlobular)LSECにおいてはそれより発現が低く、小葉中心性(centrilobular)LSECにおいては発現が見られないことが報告されている(Deleve, L.D., J Clin Invest. 2013 123(5):1861-6.)。ヒトCD45のアミノ酸配列としては、例えば、NCBI Reference Sequence: NP#002829.3に記載の配列が挙げられる。また、サルCD45のアミノ酸配列としては、例えば、NCBI Reference Sequence: XP#021532837.1、XP#021532838.1あるいはXP#021532839.1に記載されている配列が挙げられる。
【0090】
細胞集団に発現する細胞表面マーカーを検出するためには、(i) 細胞表面マーカーのタンパク質をコードする遺伝子のmRNA(Messenger Ribonucleic acid)を検出する方法と、(ii) 細胞表面マーカーのタンパク質を検出する方法に大別される。
【0091】
mRNAを検出する方法としては、例えば、Northern hybridization法、RT-PCR(Reverse transcriptase polymerase chain reaction)法、DNA chip解析などがあげられる。これらの方法の詳細は成書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989、あるいはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., 2003)などに記載されている。
【0092】
タンパク質を検出する方法としては、例えば、Western blotting法、免疫組織染色、フローサイトメトリー、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、表面プラズモン共鳴分析法、タンパク質アレイなどがあげられる。
【0093】
工程(ii)では、上記のいずれの方法を用いてCD31およびCD45の発現量を測定してもよい。好ましい態様において、細胞表面マーカーCD31およびCD45を発現する細胞集団はフローサイトメトリーで分析されるが、その他の手法を用いてもよい。特定の細胞表面マーカーを発現する細胞集団を分離・分析する手法の例としては、細胞表面マーカーに結合する抗体でコートしたプレートの上に細胞集団を置くことにより細胞分離する手法として、「パニング法」が知られている。また、細胞表面マーカーに対する抗体をビーズに固相化した、「免疫磁気ビーズ」を用いた細胞分離(免疫マグネット法)の方法も知られている。これらの方法によっても、特定の細胞表面マーカーを発現する細胞集団を分離・分析することができる(非特許文献15)。
【0094】
CD31およびCD45の発現量の測定に抗体を用いる場合、標識された抗体を用いることができる。抗体を標識する方法は、細胞集団の選別に用いる2種の抗体をそれぞれ区別することができる限り、特定の方法に限定さず、当該分野において一般的に用いられている方法を採用することができる。抗体を標識する方法としては、蛍光標識する方法、抗体のビオチン標識、ペプチド性のタグによる標識(His tag、FLAG tag、HA tagなど)、金コロイドによる標識、磁気ビーズによる標識、RI(Radio Isotope; 放射性同位元素)標識、酵素標識(HRP(Horse Radish Peroxydase)やAP(Alkaline Phosphatase)など、が挙げられる。一般的に用いられる蛍光標識としては、Rhodamin、VioBlue、DyLight 405、DY-405、Alexa Fluor 405、AMCA、AMCA-X、Pacific Blue、DY-415、Royal Blue、ATTO 425、Cy2、ATTO 465、DY-475XL、NorthernLights 493、DY-490、DyLight 488、Alexa Fluor 488、5-FITC、5-FAM、DY-495-X5、DY-495、Fluorescein、FITC、ATTO 488、HiLyte Flour 488、MFP488、ATTO 495、Oyster 500などが挙げられる。励起された標識が、異なる蛍光スペクトラムを有する限り、任意の組み合わせを用いることができる。
【0095】
特定のマーカーについて、細胞が「陽性」または「陰性」と呼ぶのは当技術分野では一般的であるが、実際の発現レベルは定量的な形質である。細胞表面の分子数に数桁の差があっても、やはり「陽性」として特徴づけられる。また、陰性の細胞、すなわち対照との差が検出できないような細胞も、少量のマーカーを発現しうるのは、当技術分野で周知である。発現レベルを解析することで、細胞集団の間の細かい選別が可能になる。
【0096】
好ましい態様において、CD31およびCD45の発現量は蛍光標識された抗体を用いて測定される。
【0097】
蛍光試薬を用いる場合、細胞の染色強度(すなわちCD31およびCD45の発現量)は、レーザーが蛍光色素の定量的なレベル(例えば抗体のような特定の試薬が結合した細胞表面マーカーの量に比例する)を検出するフローサイトメトリーによってモニターできる。フローサイトメトリーすなわちFACSは、特定の試薬への結合強度、ならびに細胞のサイズおよび光散乱のような他のパラメータに基づいた細胞集団の分離にも使用できる。染色の絶対レベルは特定の蛍光色素および試薬の調製によって異なる可能性はあるが、データは対照に対して標準化できる。
【0098】
対照に対して分布を標準化するためには、各細胞を特定の強度の染色を持つデータポイントとして記録する。これらのデータポイントは、測定ユニットは任意の染色強度で、対数目盛を用いて表示できる。1つの例では、試料中の最も明るく染色される細胞は、陰性細胞と比較して3桁強い。このように表示すると、染色強度が最も高い桁にある細胞は明るく、最も低い強度の細胞は陰性であるのが明らかである。「低い」陽性に染色される細胞は、同一アイソタイプの対照の明るさを超える染色レベルを持つが、細胞集団で通常に見られる最も明るく染色される細胞ほどは強く染色されない。低い陽性の細胞は、試料中の陰性および明るく染色される陽性の細胞とは異なる独特の性質を持つ可能性がある。
【0099】
なお、本明細書中、「1桁」の違いは、概ね同程度~10倍の違いを表し、「2桁」の違いは、概ね10~100倍の違いを表し、「3桁」の違いは、概ね100~1000倍の違いを表し、「4桁」の違いは、概ね1000~10000倍の違いを表す。
【0100】
本発明の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31high CD45low細胞集団を選別する。
【0101】
この態様において、CD31high CD45low細胞集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「high」であり、CD45の発現量が「low」である細胞集団を意味する。ここで、CD31について、染色強度が「high」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して3桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して2桁~3桁強いことをいう。また染色強度が「low」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して1桁以上、2桁未満強いことをいう。
【0102】
また、CD45について、染色強度が「high」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して3桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して2桁~3桁強いことをいう。また染色強度が「low」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して1桁以上、2桁未満強いことをいう。
【0103】
ここで、陰性細胞とは、最も低い蛍光強度を示す細胞集団であり、例えば図8においては左下側に現れる細胞集団である。
【0104】
ヒト肝臓非実質細胞集団について、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出しCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットすると、これら分子が発現していない細胞、自家蛍光、およびデブリによる非特異的な蛍光と考えられるシグナル以外に、細胞密度の濃い2つの互いに区別される細胞集団(領域)が現れる。これら2つの領域は、細胞密度に基づく等高線表示においては、他の領域とはつながらない等高線によって囲まれた領域として示すことができる。上記CD31high CD45low細胞集団は、それらのうちの一方、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより高い細胞集団であり、またCD45の発現量がより低い細胞集団である。
【0105】
上記CD31high CD45low細胞集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を7程度、CD45の平均蛍光強度を70程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を7000程度、CD45の蛍光強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が400~7000であり、CD45の蛍光強度が100~4000である細胞集団である。
【0106】
本発明の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP2で示される細胞集団を選別する。
【0107】
本発明の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団を選別する。
【0108】
この態様において、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「intermediate」であり、CD45の発現量が「intermediate」である細胞集団を意味する。ここで、CD31について染色強度が「intermediate」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して3桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して同程度~1桁強いことをいう。またCD45について染色強度が「intermediate」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して2桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して1桁~2桁強いことをいう。
【0109】
ここで、陰性細胞とは、最も低い蛍光強度を示す細胞集団であり、例えば図2においては左下側に現れる細胞集団である。
【0110】
サル肝臓非実質細胞集団について、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出しCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットすると、これら分子が発現していない細胞、自家蛍光、およびデブリによる非特異的な蛍光と考えられるシグナル以外に、細胞密度の濃い3つの互いに区別される細胞集団(領域)が現れる。これら3つの領域は、細胞密度に基づく等高線表示においては、他の領域とはつながらない等高線によって囲まれた領域として示すことができる。上記CD31intermediate CD45intermediate細胞集団は、それらのうちの1つ、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が2番目に高い細胞集団であり、またCD45の発現量が2番目に高い細胞集団である。
【0111】
上記CD31intermediate CD45intermediate細胞集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を200程度、CD45の平均蛍光強度を200程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を150000程度、CD45の染色強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が500~3000であり、CD45の蛍光強度が4000~20000である細胞集団である。
【0112】
なお、基準とする陰性細胞の平均蛍光強度が変われば、上記CD31intermediate CD45intermediate細胞集団の蛍光強度の範囲も変わり得る。例えば、上記CD31intermediate CD45intermediate細胞集団は、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を100程度、CD45の平均蛍光強度を20程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を150000程度、CD45の染色強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が200~900であり、CD45の蛍光強度が1500~8000である細胞集団であり得る。
【0113】
本発明の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP2で示される細胞集団を選別する。
【0114】
工程(iii)では、工程(i)および(ii)を経た細胞集団について、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の取り込み量を測定する。
【0115】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の取り込み量は、当該分子を標識し、当該標識のシグナル強度を検出することにより定量することができる。タンパク質のための標識としては、上記の抗体の標識に用いられるものが挙げられる。標識方法については、当該技術分野で一般的な方法を用いることができる。
【0116】
各々の分子に対する標識方法は当業者により適宜選択されるが、化合物一般を標識する方法としては、安定同位元素よる方法が挙げられる。この方法は医薬品候補化合物の体内動態解析に用いられる標識方法として一般的に知られている(薬物動態 vol.8, No.3,1993, 99-109)。
【0117】
また市販のキットを用いて標識を行ってもよい。タンパク質の蛍光標識には、例えばAlexa Fluor(登録商標) 488 Protein Labeling Kitなどの市販のキットを用いることができる。
【0118】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の標識は、CD31およびCD45を標識するために用いた標識とは、区別することのできるものが用いられる。
【0119】
好ましい態様において細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の取り込み量は、蛍光標識により当該分子を標識し、フローサイトメーターにより測定される。
【0120】
I-2.細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の取り込みアッセイ用の組成物
本発明の第二の態様は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の取り込みアッセイ用の組成物に関する(以下、本発明の組成物Iとも称する)。細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子の取り込みアッセイとは、細胞への当該分子の取り込みを評価するための試験であり、好ましい態様において、当該アッセイは、本発明の測定方法Iによって行われる。
【0121】
本発明の組成物Iは、CD31およびCD45を発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含む。本発明において、単離されたとは、臓器から分離された状態をいう。一態様において、細胞集団は、粗精製された細胞集団である。
【0122】
本発明における「臓器」としては、細胞集団を含む生体内の器官が挙げられ、血液および骨髄も含まれる。一態様において、臓器は、肝臓、腸間膜リンパ、血液、骨髄、胃、肺、または脾臓であり、好ましくは肝臓である。
【0123】
細胞集団は、当該分野において一般的に用いられる方法(例えば上記I-1に記載した細胞表面マーカーを検出する方法)でCD31およびCD45の発現が検出されればよい。
【0124】
好ましい態様において、本発明の組成物Iに含まれる臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、CD31high CD45low細胞集団である。この態様において、本発明の組成物IはCD31low CD45high細胞集団を含まない。
【0125】
より好ましい態様において、本発明の組成物Iに含まれる臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP2で示される細胞集団からなる。この態様において、本発明の組成物Iは図8のP1で示される細胞集団を含まない。
【0126】
また別の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団である。この態様において、本発明の組成物IはCD31low CD45high細胞集団および/またはCD31high CD45low細胞集団を含まない。
【0127】
より好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP2で示される細胞集団からなる。この態様において、本発明の組成物Iは図2のP1およびP3で示される細胞集団を含まない。
【0128】
これらの細胞集団は、FcγRIIBを発現しており、免疫複合体または抗体の取り込みを評価するために好適である。
【0129】
またこれらの細胞集団は、IL-6Rを発現しており、抗IL-6R抗体の取り込みを評価するために好適である。
【0130】
本発明の組成物Iには、細胞集団の他に、培地を含んでもよい。培地は、臓器の種類および動物種に応じて適宜選択することができる。例えば、ヒトの肝臓由来の細胞集団の場合の培地としては、OptiThaw Kupffer Cell Thaw/Culture Media (Sekisui XenoTech)などが挙げられる。またサルの肝臓由来の細胞集団の場合の培地としては、HCM(LONZA)などが挙げられる。
【0131】
また本発明の組成物Iは、(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および(ii) CD31およびCD45の発現量に基づいて細胞集団を選別する工程、を含む方法により製造することができる。
【0132】
工程(i)および(ii)は、上記I-1の記載に従って行うことができる。
【0133】
I-3.細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子のin vivoにおける消失クリアランスを予測する方法
本発明の第三の態様は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子のin vivoにおける消失クリアランスを予測する方法に関する(以下、本発明の予測方法Iとも称する)。
【0134】
本発明の予測方法Iは、以下の工程を含む。
(i) 細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子について、本発明の測定方法を用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(ii) 上記 (i) で測定した取り込み量から、前記分子を生体に投与した場合のin vivoにおける前記分子の消失クリアランスを予測する工程。
【0135】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が免疫複合体である場合、工程(i)の前に抗原および抗体から免疫複合体を形成する工程を含んでもよく、当該工程は、抗原および抗体を混合することによって行うことができる。また工程(i)において、抗体および抗原を細胞集団に添加し、インキュベーション中に免疫複合体が形成されてもよい。
【0136】
工程(i)は、上記I-1の記載に従って行うことができる。
【0137】
工程(ii)では、工程(i)で測定した取り込み量から、あらかじめ算出しておいた「in vitroでの当該分子の取り込み量」と「in vivoにおける当該分子の消失クリアランス」との相関関係に基づき、in vivoにおける消失クリアランスを予測する。相関関係は、以下に示すサルを用いた場合の具体例と同様にして、各分子、生物種に応じて算出される。
【0138】
In vitroでの試験対象分子の取り込み量は、以下の方法で測定・算出される。
【0139】
サル肝臓非実質細胞は、市販品として例えば、イナリサーチから入手可能である。
【0140】
検出のためにAlexa488で蛍光標識した試験対象分子をサル肝臓非実質細胞に添加し37℃で15分間反応させた後、細胞表面マーカーであるCD31およびCD45に対する抗体をそれぞれ異なる蛍光標識で標識したものを添加し、フローサイトメトリーでCD31およびCD45陽性の細胞群を特定し、受容体陽性の細胞群における、試験対象分子の取り込み量を測定する。フローサイトメトリーで検出される蛍光強度を質量に換算する。蛍光強度と質量を標準化するためのキットQuantumTM MESF(Bangs Laboratories)などを用いてもよい。
【0141】
in vivoでの試験対象分子の消失クリアランス(血漿クリアランス)は、サル(例えば、カニクイザル)へ、試験対象分子を投与し、投与後56日後まで血漿中抗体濃度を測定し、ノンコンパートメントモデル解析により算出する。
【0142】
「in vitroにおける試験対象分子の取り込み量」の値と、「in vivoにおける試験対象分子の消失クリアランス」とを各分子についてプロットする。このようにして、in vivoにおける試験対象分子の消失クリアランスとin vitroにおける試験対象分子の取り込み量との間の相関関係を算出することができる。
【0143】
Biacoreなどを用いた結合活性評価では、試験対象分子の受容体に対するアフィニティを調べることはできるが、in vivoにおける試験対象分子の動態を予測することはできない。それに対して本発明の予測方法Iによれば、in vitroの試験結果から、試験対象分子のin vivoの挙動を推定することができる。また本発明の予測方法Iはヒトに適用することもでき、非ヒト動物を用いた試験に基づく従来の予測方法と比較して、ヒトにおける薬物動態予測の精度を高めることができる。
【0144】
I-4.抗体の投与によるin vivoにおける血中抗原減少率を予測する方法
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が免疫複合体である場合、本発明の第四の態様は、抗体の投与によるin vivoにおける血中抗原減少率を予測する方法に関する(以下、本発明の予測方法Iaとも称する)。
【0145】
本発明の予測方法Iaは、以下の工程を含む。
(i) 抗原および抗体から免疫複合体を形成する工程、
(ii) 上記 (i) の免疫複合体について、本発明の測定方法Iを用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した取り込み量から、前記抗体を生体に投与した場合の前記抗原のin vivoにおける血中減少率を予測する工程。
【0146】
工程(i)は、抗原および抗体を混合することによって行うことができる。また工程(ii)において、抗体および抗原を細胞集団に添加し、インキュベーション中に免疫複合体が形成されてもよい。
【0147】
工程(ii)は、上記I-1の記載に従って行うことができる。
【0148】
工程(iii)では、工程(ii)で測定した取り込み量から、免疫複合体の取り込み効率(クリアランス)を算出し、あらかじめ算出しておいた「in vitroでの免疫複合体取り込み効率(クリアランス)」と「in vivoにおける血中抗原減少率」との相関関係に基づき、in vivoにおける血中抗原減少率を予測する。相関関係は、以下に示すサルを用いた場合の具体例と同様にして、各抗原、生物種に応じて算出される。
【0149】
In vitroでの免疫複合体取り込み効率(クリアランス)は、以下の方法で測定・算出される。
【0150】
サル肝臓非実質細胞は、市販品として例えば、イナリサーチから入手可能である。
【0151】
検出のためにAlexa488で蛍光標識したサルミオスタチンと、改変を加えていない抗サルミオスタチン抗体(SG1)または改変を加えた各種の抗サルミオスタチン抗体とをサル肝臓非実質細胞に添加し37℃で15分間反応させた後、細胞表面マーカーであるCD31およびCD45に対する抗体をそれぞれ異なる蛍光標識で標識したものを添加し、フローサイトメトリーでCD31およびCD45陽性の細胞群を特定し、FcγRIIB陽性の細胞群における、サルミオスタチンの取り込み量を測定する。フローサイトメトリーで検出される蛍光強度を質量に換算する。蛍光強度と質量を標準化するためのキットQuantumTM MESF(Bangs Laboratories)などを用いてもよい。算出された結果から、以下の式により、in vitro取り込みクリアランスを算出する。
in vitro取り込みクリアランス(mL/day/2x105cells)=[取り込み量(pg/2x105cells)]/[反応時間(min)×反応濃度(pg/mL)]×60×24
式中、反応濃度は、抗原であるサルミオスタチンのサル肝臓非実質細胞との反応時の濃度である。
【0152】
in vivoでの抗原減少率は、サル(例えば、カニクイザル)へ、改変を加えた各種の抗サルミオスタチン抗体を投与し、投与後14日目のサルミオスタチン濃度を測定する(方法は例えば、WO2016/098357のExample 21に記載されている)。
【0153】
改変を加えていない抗サルミオスタチン抗体SG1を投与した時の、ミオスタチン血漿中濃度を1として、各抗体投与時のミオスタチン血漿中濃度から、in vivoにおけるサルミオスタチン減少率を以下の計算式から算出できる。
in vivoにおける血漿中からのサルミオスタチン減少率=(SG1投与時のミオスタチン血漿中濃度)/(各抗体投与時のミオスタチン血漿中濃度)
式中、血漿中濃度は、抗体投与後14日における血漿中濃度である。
【0154】
「in vitroにおけるサルミオスタチンの細胞取り込み量」に基づいて算出した「in vitro取り込みクリアランス」の値と、「in vivoにおける血漿中からのサルミオスタチン減少率」とを各抗体についてプロットする(図6)。このようにして、in vivoにおけるSG1に対する各検体の血漿中サルミオスタチンの減少率とin vitroサル肝臓非実質細胞のサルミオスタチン取り込み量との間の相関関係を算出することができる。
【0155】
I-5.細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子のスクリーニング方法
本発明の第五の態様は、細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子のスクリーニング方法に関する(以下、本発明のスクリーニング方法Iとも称する)。
【0156】
本発明のスクリーニング方法Iは、以下の工程を含む。
(i) 同一の受容体に結合する異なる2以上の細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した分子それぞれについて、本発明の測定方法Iを用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記 (ii) で測定した分子の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い分子を選択する工程。
【0157】
工程(i)における2以上の分子は、同一の受容体に対して結合活性を有し、かつ互いに異なる分子である。細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子については、上記I-1に記載されたとおりである。
【0158】
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が免疫複合体である場合、工程(i)は、抗原および抗体を混合することによって行うことができる。また工程(ii)において、抗体および抗原を細胞集団に添加し、インキュベーション中に免疫複合体が形成されてもよい。
【0159】
工程(ii)は、2以上の分子それぞれについて、上記I-1の記載に従って行うことができる。
【0160】
工程(iii)で、細胞への取り込み量が最も多い分子を選択する。
【0161】
選択された各分子は、その特徴に応じた用途に用いることができる。例えば、選択された分子が免疫複合体である場合には、当該免疫複合体に含まれる抗体を最も高い抗原除去作用を有する抗体として用いることができる(下記I-6参照)。
【0162】
また選択された分子がトキシン、ウイルス、またはナノ粒子・マイクロ粒子などのDDS製剤である場合には、本発明のスクリーニング方法に用いた細胞集団に対応する生体内の細胞を直接傷害することで薬効を発揮させるために当該分子を使用することができる。例えば、細胞傷害能を有する化合物をDDS製剤によって生体内の細胞集団に送達し、当該細胞集団を傷害することができる。
【0163】
I-6.抗原除去作用を有する抗体のスクリーニング方法
細胞表面に存在する受容体を介して細胞内に取り込まれる分子が免疫複合体である場合、本発明の第六の態様は、抗原除去作用を有する抗体のスクリーニング方法に関する(以下、本発明のスクリーニング方法Iaとも称する)。
【0164】
本発明のスクリーニング方法Iaは、以下の工程を含む。
(i) 同一の抗原に結合する異なる2以上の抗体を準備する工程、
(ii) 上記(i)で準備した2以上の抗体それぞれについて、前記抗原との免疫複合体を準備する工程、
(iii) 上記 (ii) で準備した免疫複合体それぞれについて、本発明の測定方法Iを用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iv) 上記 (iii) で測定した免疫複合体の細胞への取り込み量を相互に比較し、取り込み量が最も多い免疫複合体を選択する工程。
【0165】
工程(i)における2以上の抗体は、同一の抗原に対して結合活性を有し、かつ互いにアミノ酸配列の異なる抗体である。抗体および抗原については、上記I-1に記載されたとおりである。
【0166】
工程(ii)は、抗原および抗体を混合することによって行うことができる。また工程(iii)において、抗体および抗原を細胞集団に添加し、インキュベーション中に免疫複合体が形成されてもよい。
【0167】
工程(ii)および(iii)は、2以上の抗体それぞれについて、上記I-1の記載に従って行うことができる。
【0168】
工程(iv)で、細胞への取り込み量が最も多い免疫複合体を選択することにより、当該免疫複合体に含まれる抗体を最も高い抗原除去作用を有する抗体として選択することができる。
【0169】
II.核酸の細胞への取り込み
II-1.核酸の細胞への取り込み量を測定する方法
本発明の第一の態様は、核酸の細胞への取り込み量を測定する方法に関する(以下、本発明の測定方法IIとも称する)。
【0170】
「核酸」については、上記Iに記載したとおりである。
【0171】
本発明の測定方法IIは、以下の工程(i)~(iii)を含む。
(i) 臓器由来の細胞集団に、核酸を添加してインキュベートする工程、
(ii) Stabilinを発現する臓器由来の細胞集団を選別する工程、および、
(iii) 工程(i)および(ii)の後に細胞集団への核酸の取り込み量を測定する工程。
【0172】
なお、後述のように、工程(i)および(ii)は、いずれを先に行ってもよく、工程(iii)は、工程(i)および(ii)の後に行う。
【0173】
本発明の測定方法IIは、哺乳動物を対象とする。一態様において、哺乳動物は、霊長類であり、例えばヒト、サル(カニクイザル、マーモセット、アカゲザルなど)、チンパンジーなどが挙げられ、好ましくはヒトまたはサルである。
【0174】
工程(i)における「臓器」としては、細胞集団を含む生体内の器官が挙げられ、血液および骨髄も含まれる。一態様において、臓器は、肝臓、腸間膜リンパ、血液、骨髄、胃、肺、または脾臓であり、好ましくは肝臓である。
【0175】
臓器由来の細胞集団は、当該分野において一般的に用いられる方法で調製することができる。また臓器由来の細胞集団として、市販品を用いることもでき、例えば、ヒト肝臓非実質細胞はSekisui Xenotech社などから、サル肝臓非実質細胞であればイナリサーチ社などから、それぞれ入手することができる。細胞集団は、適当な培地(例えば、OptiThaw Kupffer Cell Thaw/Culture Media (Sekisui XenoTech)、HCM(LONZA)など)、緩衝液などに懸濁させた状態であってよい。
【0176】
一態様において、本発明の測定方法IIに供される細胞集団は、粗精製された細胞集団である。ここで粗精製された細胞集団とは、臓器から採取された組織から遊離された細胞からなるが、目的とする特徴を有する細胞集団に純化する処理が施されていない細胞集団をいう。過度の精製を施さないことにより、細胞を新鮮な状態に維持することができ、細胞の性質が変化することを避けることができる。例えば、固形の臓器の場合、臓器から採取した組織を酵素処理することによって細胞を遊離させた後、ガーゼ等で不純物を除去し、必要に応じて遠心分離等の方法で不必要な細胞集団を除去することにより、粗精製された細胞集団を得ることができる。粗精製された細胞集団の一例として、肝臓から調製された非実質細胞集団が挙げられる。肝臓非実質細胞集団は、肝臓から組織を切除し、これをコラーゲンにより酵素処理することで細胞を遊離させ、ガーゼで不純物をろ過し、得られた細胞集団を遠心分離して、沈殿した細胞集団を肝実質細胞として除去し、上清に含まれる細胞を回収することにより調製することができる(Organ Biology Vol.16 No.3 2009, 361-370)。
【0177】
工程(i)において核酸を添加した臓器由来の細胞集団は、当該細胞集団の生理的温度で10秒~24時間、例えば1~60分間、インキュベーションされる。生理的温度は、例えばヒトであれば35~38℃、例えば36~37℃であり、サルであれば35~38℃、例えば36~37℃である。好ましい態様において、ヒトであれば37℃で60分間、サルであれば37℃で15分間、インキュベーションされる。
【0178】
工程(ii)では、Stabilinを発現する臓器由来の細胞集団を選別する。
【0179】
Stabilinについては、上記Iに記載したとおりである。
【0180】
工程(ii)において選別された細胞集団は、元の細胞集団から単離されてもされなくてもよい。
【0181】
細胞集団を単離する場合、用いる手法は特に限定されないが、例えば、フローサイトメーターにより細胞を分取する方法が挙げられる。また、細胞表面マーカーに結合する抗体でコートしたプレートの上に細胞集団を置くことにより細胞分離する手法として知られている「パニング法」、細胞表面マーカーに対する抗体をビーズに固相化した「免疫磁気ビーズ」を用いた「免疫マグネット法)」などを用いることもできる(非特許文献15)。
【0182】
一態様において、本発明の測定方法IIは、工程(i)の後に工程(ii)を含み、核酸を添加してインキュベートした臓器由来の細胞集団について、Stabilinを発現する細胞集団を選別する。
【0183】
また別の態様において、本発明の測定方法IIは、工程(i)の前に工程(ii)を含み、選別したStabilinを発現する臓器由来の細胞集団に、核酸を添加してインキュベートする。この場合、通常は工程(ii)において選別された細胞集団は、元の細胞集団から単離される。
【0184】
工程(ii)において、Stabilinを発現する臓器由来の細胞集団の選別には、当該分野において一般的な方法を用いることができる。例えば、Stabilinをコードする遺伝子のmRNAを検出する方法、およびStabilinタンパク質を検出する方法を用いて、Stabilinの発現を検出することができる。
【0185】
mRNAを検出する方法としては、例えば、Northern hybridization法、RT-PCR(Reverse transcriptase polymerase chain reaction)法、DNA chip解析などが挙げられる。これらの方法の詳細は成書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989、あるいはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., 2003)などに記載されている。
【0186】
タンパク質を検出する方法としては、例えば、Western blotting法、免疫組織染色、フローサイトメトリー、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、表面プラズモン共鳴分析法、タンパク質アレイなどが挙げられる。
【0187】
工程(ii)では、上記のいずれの方法を用いてStabilinの発現量を測定してもよい。好ましい態様において、Stabilinを発現する細胞集団はフローサイトメトリーで分析されるが、その他の手法を用いてもよい。特定のタンパク質を発現する細胞集団を分離・分析する手法の例としては、当該タンパク質に結合する抗体でコートしたプレートの上に細胞集団を置くことにより細胞分離する手法として、「パニング法」が知られている。また、当該タンパク質に対する抗体をビーズに固相化した、「免疫磁気ビーズ」を用いた細胞分離(免疫マグネット法)の方法も知られている。これらの方法によっても、特定のタンパク質を発現する細胞集団を分離・分析することができる(非特許文献15)。
【0188】
本発明においてStabilinを発現している細胞集団をStabilinの発現量を指標として選別すると、核酸の取り込みを正確に測定することができない場合がある。例えば、標識した抗Stabilin抗体を用いて細胞を染色し、そのまま核酸を添加すると、当該抗体が核酸と競合し、核酸の取り込みに影響が生じる可能性がある。
【0189】
したがって、本発明の好ましい態様においては、Stabilinの発現量を指標とせずに、Stabilinを発現する細胞集団を選別する。例えば、CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別することにより、Stabilinを発現する細胞集団を特定することができる。この態様においては、工程(ii)で選別された細胞集団は、CD31およびCD45を発現する細胞集団である。
【0190】
また上記の好ましい態様において、工程(ii)においてCD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別するとは、CD31およびCD45を発現する臓器由来の細胞集団をより小さい細胞集団に分け、所定の範囲のCD31およびCD45の発現量を有する細胞集団を選ぶことである。
【0191】
なお、CD31およびCD45の発現量の測定については、上記I-1に記載のとおりである。
【0192】
Stabilin、ならびにCD31およびCD45の発現量の測定に抗体を用いる場合、標識された抗体を用いることができる。抗体を標識する方法は、細胞集団の選別に用いる2種の抗体をそれぞれ区別することができる限り、特定の方法に限定さず、当該分野において一般的に用いられている方法を採用することができる。抗体を標識する方法としては、蛍光標識する方法、抗体のビオチン標識、ペプチド性のタグによる標識(His tag、FLAG tag、HA tagなど)、金コロイドによる標識、磁気ビーズによる標識、RI(Radio Isotope; 放射性同位元素)標識、酵素標識(HRP(Horse Radish Peroxydase)やAP(Alkaline Phosphatase)など、が挙げられる。一般的に用いられる蛍光標識としては、Rhodamin、VioBlue、DyLight 405、DY-405、Alexa Fluor 405、AMCA、AMCA-X、Pacific Blue、DY-415、Royal Blue、ATTO 425、Cy2、ATTO 465、DY-475XL、NorthernLights 493、DY-490、DyLight 488、Alexa Fluor 488、5-FITC、5-FAM、DY-495-X5、DY-495、Fluorescein、FITC、ATTO 488、HiLyte Flour 488、MFP488、ATTO 495、Oyster 500などが挙げられる。励起された標識が、異なる蛍光スペクトラムを有する限り、任意の組み合わせを用いることができる。
【0193】
特定のマーカーについて、細胞が「陽性」または「陰性」と呼ぶのは当技術分野では一般的であるが、実際の発現レベルは定量的な形質である。細胞表面の分子数に数桁の差があっても、やはり「陽性」として特徴づけられる。また、陰性の細胞、すなわち対照との差が検出できないような細胞も、少量のマーカーを発現しうるのは、当技術分野で周知である。発現レベルを解析することで、細胞集団の間の細かい選別が可能になる。
【0194】
好ましい態様において、Stabilin、ならびにCD31およびCD45の発現量は蛍光標識された抗体を用いて測定される。
【0195】
蛍光試薬を用いる場合、細胞の染色強度(すなわちStabilin、CD31およびCD45の発現量)は、レーザーが蛍光色素の定量的なレベル(例えば抗体のような特定の試薬が結合した細胞表面マーカーの量に比例する)を検出するフローサイトメトリーによってモニターできる。フローサイトメトリーすなわちFACSは、特定の試薬への結合強度、ならびに細胞のサイズおよび光散乱のような他のパラメータに基づいた細胞集団の分離にも使用できる。染色の絶対レベルは特定の蛍光色素および試薬の調製によって異なる可能性はあるが、データは対照に対して標準化できる。
【0196】
対照に対して分布を標準化するためには、各細胞を特定の強度の染色を持つデータポイントとして記録する。これらのデータポイントは、測定ユニットは任意の染色強度で、対数目盛を用いて表示できる。1つの例では、試料中の最も明るく染色される細胞は、陰性細胞と比較して3桁強い。このように表示すると、染色強度が最も高い桁にある細胞は明るく、最も低い強度の細胞は陰性であるのが明らかである。「低い」陽性に染色される細胞は、同一アイソタイプの対照の明るさを超える染色レベルを持つが、細胞集団で通常に見られる最も明るく染色される細胞ほどは強く染色されない。低い陽性の細胞は、試料中の陰性および明るく染色される陽性の細胞とは異なる独特の性質を持つ可能性がある。
【0197】
なお、本明細書中、「1桁」の違いは、概ね同程度~10倍の違いを表し、「2桁」の違いは、概ね10~100倍の違いを表し、「3桁」の違いは、概ね100~1000倍の違いを表し、「4桁」の違いは、概ね1000~10000倍の違いを表す。
【0198】
本発明の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31high CD45low細胞集団またはCD31low CD45high集団を選別する。
【0199】
この態様において、CD31high CD45low細胞集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「high」であり、CD45の発現量が「low」である細胞集団を意味する。CD31low CD45high集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「low」であり、CD45の発現量が「high」である細胞集団を意味する。ここで、CD31について、染色強度が「high」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して3桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して2~3桁強いことをいう。また染色強度が「low」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して1桁以上、2桁未満強いことをいう。
【0200】
また、CD45について、染色強度が「high」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して3桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して2~3桁強いことをいう。また染色強度が「low」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して1以上、2桁未満強いことをいう。
【0201】
ここで、陰性細胞とは、最も低い蛍光強度を示す細胞集団であり、例えば図8においては左下側に現れる細胞集団である。
【0202】
ヒト肝臓非実質細胞集団について、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出しCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットすると、これら分子が発現していない細胞、自家蛍光、およびデブリによる非特異的な蛍光と考えられるシグナル以外に、細胞密度の濃い2つの互いに区別される細胞集団(領域)が現れる。これら2つの領域は、細胞密度に基づく等高線表示においては、他の領域とはつながらない等高線によって囲まれた領域として示すことができる。上記CD31high CD45low細胞集団は、それらのうちの一方、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより高い細胞集団であり、またCD45の発現量がより低い細胞集団である。また上記CD31low CD45high集団は、それらのうちの他方、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量がより低い細胞集団であり、またCD45の発現量がより高い細胞集団である。
【0203】
上記CD31high CD45low細胞集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を7程度、CD45の平均蛍光強度を70程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を7000程度、CD45の蛍光強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が400~7000であり、CD45の蛍光強度が100~4000である細胞集団である。また上記CD31low CD45high集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を7程度、CD45の平均蛍光強度を70程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を7000程度、CD45の蛍光強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が30~1000であり、CD45の蛍光強度が5000~70000である細胞集団である。
【0204】
本発明のより好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図8のP1またはP2で示される細胞集団を選別する。
【0205】
本発明の好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、CD31low CD45high細胞集団、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団、またはCD31high CD45low細胞集団を選別する。
【0206】
この態様において、CD31low CD45high細胞集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「low」であり、CD45の発現量が「high」である細胞集団を意味する。CD31intermediate CD45intermediate細胞集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「intermediate」であり、CD45の発現量が「intermediate」である細胞集団を意味する。CD31high CD45low細胞集団とは、CD31の染色強度(発現量)が「high」であり、CD45の発現量が「low」である細胞集団を意味する。
【0207】
ここで、CD31について染色強度が「intermediate」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して3桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して同程度~1桁強いことをいう。染色強度が「high」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して1桁~3桁強いことをいう。染色強度が「low」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して同程度~1桁強いことをいう。
【0208】
またCD45について染色強度が「intermediate」であるとは、最も明るく染色される細胞の染色強度が陰性細胞と比較して2桁強い場合に、染色強度が陰性細胞と比較して1~2桁強いことをいう。染色強度が「high」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して1桁~2桁強いことをいう。染色強度が「low」であるとは、染色強度が陰性細胞と比較して同程度~1桁強いことをいう。
【0209】
ここで、陰性細胞とは、最も低い蛍光強度を示す細胞集団であり、例えば図2においては左下側に現れる細胞集団である。
【0210】
なお、図2において、P1はCD31low CD45high細胞集団であり、P2はCD31intermediate CD45intermediate細胞集団であるが、P2におけるCD31の蛍光強度はP1よりも強く、P2におけるCD45の蛍光強度はP1よりも弱い、という関係にあり、図2に示すとおり両者は互いに区別される。
【0211】
サル肝臓非実質細胞集団について、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出しCD31およびCD45の発現量をそれぞれX軸およびY軸にプロットすると、これら分子が発現していない細胞、自家蛍光、およびデブリによる非特異的な蛍光と考えられるシグナル以外に、細胞密度の濃い3つの互いに区別される細胞集団(領域)が現れる。これら3つの領域は、細胞密度に基づく等高線表示においては、他の領域とはつながらない等高線によって囲まれた領域として示すことができる。上記CD31low CD45high細胞集団は、3つの領域のうちの1つ、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が最も低い細胞集団であり、またCD45の発現量が最も高い細胞集団である。上記CD31intermediate CD45intermediate細胞集団は、3つの領域のうちの1つ、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が2番目に高い細胞集団であり、またCD45の発現量が2番目に高い細胞集団である。上記CD31high CD45low細胞集団は、3つの領域のうちの1つ、すなわち、各細胞集団の細胞密度が最も高い点で比較した場合にCD31の発現量が最も高い細胞集団であり、またCD45の発現量が最も低い細胞集団である。
【0212】
上記CD31low CD45high細胞集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を200程度、CD45の平均蛍光強度を200程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を150000程度、CD45の染色強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が50~1500であり、CD45の蛍光強度が8000~70000である細胞集団である。
【0213】
上記CD31intermediate CD45intermediate細胞集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を200程度、CD45の平均蛍光強度を200程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を150000程度、CD45の染色強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が500~3000であり、CD45の蛍光強度が4000~20000である細胞集団である。
【0214】
上記CD31high CD45low細胞集団は、フローサイトメトリーでCD31およびCD45の発現を検出した場合に、陰性細胞のCD31の平均蛍光強度を200程度、CD45の平均蛍光強度を200程度とし、最も明るく染色される細胞のCD31の染色強度を150000程度、CD45の染色強度を70000程度として、CD31の蛍光強度が9000~150000であり、CD45の蛍光強度が50~3000である細胞集団である。
【0215】
なお、基準とする陰性細胞の平均蛍光強度が変われば、上記の蛍光強度の範囲も変わり得る。
【0216】
本発明のより好ましい態様において、臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、工程(ii)において、図2のP1、P2、およびP3のいずれかで示される細胞集団を選別する。
【0217】
工程(iii)では、工程(i)および(ii)を経た細胞集団について、核酸の取り込み量を測定する。
【0218】
核酸の取り込み量は、核酸を標識し、当該標識のシグナル強度を検出することにより定量することができる。そのような標識としては、上記の抗体の標識に用いられるものが挙げられる。核酸を標識する方法については、当該技術分野で一般的な方法を用いることができる。核酸の標識は、Stabilin、ならびにCD31およびCD45を標識するために用いた標識とは、区別することのできるものが用いられる。
【0219】
好ましい態様において核酸の取り込み量は、蛍光標識により核酸を標識し、フローサイトメーターにより測定される。
【0220】
II-2.核酸取り込みアッセイ用の組成物
本発明の第二の態様は、核酸取り込みアッセイ用の組成物に関する(以下、本発明の組成物IIとも称する)。核酸取り込みアッセイとは、細胞への核酸の取り込みを評価するための試験であり、好ましい態様において、当該アッセイは、本発明の測定方法IIによって行われる。
【0221】
本発明の組成物IIは、Stabilinを発現する、単離された、臓器由来の細胞集団を含む。本発明において、単離されたとは、臓器から分離された状態をいう。一態様において、細胞集団は、粗精製された細胞集団である。
【0222】
本発明における「臓器」としては、細胞集団を含む生体内の器官が挙げられ、血液および骨髄も含まれる。一態様において、臓器は、肝臓、腸間膜リンパ、血液、骨髄、胃、肺、または脾臓であり、好ましくは肝臓である。
【0223】
細胞集団は、当該分野において一般的に用いられる方法(例えば上記II-1に記載したStabilinを検出する方法)でStabilinの発現が検出されればよい。
【0224】
一態様において、CD31およびCD45の発現量に基づいて臓器由来の細胞集団を選別することにより、Stabilinを発現する細胞集団を特定する。
【0225】
好ましい態様において、本発明の組成物IIに含まれる臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、CD31high CD45low細胞集団またはCD31low CD45high集団である。より好ましい態様において、本発明の組成物IIに含まれる臓器由来の細胞集団は、ヒト肝臓非実質細胞集団であり、図8のP1またはP2で示される細胞集団からなる。
【0226】
また別の好ましい態様において、本発明の組成物IIに含まれる臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、CD31low CD45high細胞集団、CD31intermediate CD45intermediate細胞集団、またはCD31high CD45low細胞集団である。より好ましい態様において、本発明の組成物IIに含まれる臓器由来の細胞集団は、サル肝臓非実質細胞集団であり、図2のP1、P2、およびP3のいずれかで示される細胞集団からなる。
【0227】
これらの細胞集団は、Stabilinを発現しており、核酸の取り込みを評価するために好適である。
【0228】
本発明の組成物IIには、細胞集団の他に、培地を含んでもよい。培地は、臓器の種類および動物種に応じて適宜選択することができる。例えば、ヒトの肝臓由来の細胞集団の場合の培地としては、OptiThaw Kupffer Cell Thaw/Culture Media (Sekisui XenoTech)などが挙げられる。またサルの肝臓由来の細胞集団の場合の培地としては、HCM(LONZA)などが挙げられる。
【0229】
また本発明の組成物IIは、(i) 生体から摘出した臓器から、臓器由来の細胞を調製する工程、および(ii)Stabilinを発現する臓器由来の細胞集団を選別する工程、を含む方法により製造することができる。
【0230】
工程(i)および(ii)は、上記II-1の記載に従って行うことができる。
【0231】
II-3.核酸のスクリーニング方法
本発明の第三の態様は、抗原除去作用を有する抗体のスクリーニング方法に関する(以下、本発明のスクリーニング方法IIとも称する)。
【0232】
本発明のスクリーニング方法IIは、以下の工程を含む。
(i) 同一のヌクレオチド配列を有し、互いに異なる化学修飾を有する2以上の核酸を準備する工程、
(ii) 上記 (i) で準備した2以上の核酸それぞれについて、本発明の測定方法IIを用いて、細胞への取り込み量を測定する工程、および
(iii) 上記(ii) で測定した核酸の細胞への取り込み量を相互に比較し、所望の取り込み量を示した核酸を選択する工程。
【0233】
工程(i)における同一のヌクレオチド配列を有し、互いに異なる化学修飾を有する2以上の核酸は、それぞれ上記II-1に記載された修飾体である。
【0234】
工程(ii)は、2以上の核酸それぞれについて、上記II-1の記載に従って行うことができる。
【0235】
工程(iii)で、所望の細胞への取り込み量を示した核酸を選択することにより、その特徴に応じた用途(核酸医薬など)に用いることができる。
【0236】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0237】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【実施例0238】
[実施例1]サル肝臓非実質細胞の調製
サル肝臓非実質細胞は、下記に示す方法で取得されたものを購入し(イナリサーチ)、FcγRIIBの発現量の定量、ならびに抗体抗原複合体の細胞結合および取り込み評価に用いた。
【0239】
具体的には、カニクイザル(Macaca fascicularis)にヘパリンナトリウム(持田製薬)を330 unit/kgで静脈内投与し、チオペンタールナトリウム(田辺三菱製薬)で麻酔下、放血致死させた。その後、開腹して肝臓全葉を取り出し、保冷したWilliam's E Medium(Thermo Fisher Scientific)中に保存した。
【0240】
肝臓を1葉ずつ切り分け、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)を含有したHanks-HEPES bufferを6~10分灌流して脱血させた。さらに0.05%コラゲナーゼ溶液(Sigma Aldrich)を6~8分灌流し、培養皿に肝臓を移して肝臓細胞を分散させ、ガーゼを用いて濾過した。
【0241】
この細胞懸濁液を50 x g、1分、4℃で遠心分離し、実質細胞を沈殿させた。上清を回収し、再び遠心し、上清を回収後、1000 x gで遠心分離し非実質細胞を沈殿させた。さらに、上清を除去し、沈殿にHBSS(+)(GIBCO)を加え懸濁し、その上に39%OptiPrep(Alere Technologies)を重層した。これを400 x g、4℃で15分遠心分離し、回収した上清を3000 rpm、4℃で5分遠心分離した。沈殿にHCM(LONZA)を加えて懸濁し、これをサル肝臓非実質細胞とした。
【0242】
[実施例2]抗サルFcγRIIB抗体およびサルミオスタチンのAlexa488標識
Alexa flour 488 labeling kit(Thermo Fisher Scientific)を用い、添付のプロトコルにしたがって各タンパク質をAlexa488で標識した。各タンパク質の濃度、および蛍光物質の標識効率は、吸光度をNanodrop(Thermo Fisher Scientific)で測定し、添付のプロトコルに記載の計算式にしたがって計算することで算出した。
【0243】
[実施例3]サル肝臓非実質細胞におけるFcγRIIB高発現細胞の同定
2x105個のサル肝臓非実質細胞にPacific blue標識抗CD31抗体(BioLegend)、APC標識抗CD45抗体(Miltenyi)、およびAlexa488標識抗サルFcγRIIB抗体(Sino Biological)を加えて100μLとし、氷冷下30分反応させた。その後3000rpm、4℃で5分遠心分離し、上清を除去してPBS(-)で洗浄した。2% FBS含有PBS(-)に再懸濁して、この細胞溶液の蛍光をFACS Canto II (Becton, Dickinson and Company)で測定し、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)でドットプロットを展開した(図1)。FSCおよびSSCで展開した全細胞について、さらにPacific blue(CD31)およびAPC(CD45)で展開した(図2)。
【0244】
肝臓非実質細胞は、血管内皮細胞やクッパー細胞、星細胞など様々な細胞集団の混合物であるが、ヒトにおいてLSECの細胞マーカーとしても知られるCD31およびCD45という2つの細胞マーカーを使うことで、3つの集団に分離させることができた。現れた3つの細胞集団をそれぞれP1(CD31LowCD45High)、P2(CD31IntermediateCD45Intermediate)、P3(CD31HighCD45Low)とした。なお、それ以外の領域に見られるドットは、これらのマーカーが発現していない細胞の自家蛍光やデブリによる非特異的な蛍光であると考えられるため、これらは除いて解析を行った。サルFcγRIIBの発現評価は、これら細胞集団におけるAlexa488の蛍光強度を検出する(FITCフィルター検出)ことで評価した。
【0245】
これらの細胞集団におけるサルFcγRIIBの発現を評価した。図3に示すようにP1およびP3ではAlexa488で標識されたネガティブコントロール抗体と比べて、抗サルFcγRIIB抗体添加によるピークのシフトは見られなかったが(図3A図3C)、P2においては抗サルFcγRIIB抗体により高強度側へ明確なピークのシフトが見られ、P2においてのみFcγRIIBが発現していることが明らかとなった。
【0246】
全細胞に対するFcγRIIB発現細胞の割合は非常に小さいため、細胞マーカーによる分離をしない状態でFcγRIIB発現細胞を同定することは難しい。しかしながら、CD31およびCD45という細胞マーカーで染色し、各細胞集団に分離することで、FcγRIIB発現細胞を同定することが可能となった。
【0247】
また、この方法は細胞集団のゲーティングに抗FcγRIIB抗体を用いない方法であるため、目的の細胞集団におけるFcγRIIBの発現量を定量できる。QuantumTM MESF(Bangs Laboratories)を用い、添付のプロトコルにしたがって、サルFcγRIIBの発現を定量した結果、1細胞あたり、1.8x104分子の発現が確認された。
【0248】
[実施例4]サル肝臓非実質細胞中の細胞集団P2における抗体抗原複合体の細胞取り込み評価
(4-1)抗体抗原複合体の取り込み評価に用いた抗体のFcの特性について
WO 2016/117346 A1(特許文献4)およびWO 2016/098357 A1(特許文献5)に記載のFcを持つ抗ミオスタチン抗体である、SG1、SG141、SG143(FS154とも表記される)、およびSG145(FS156とも表記される)を用いた。
【0249】
サルFcγRIIBに対するSG1のアフィニティを1.0としたとき、SG143は5~10倍、SG145は1~2倍程度の結合活性増強を示す(WO 2016/117346 A1)。また、SG141はpIを高めて正電荷を帯びさせたFcを持つ抗体であり、Biacoreを用いたサルFcγRIIBに対するICの結合試験でSG1に比べ1.64倍高い結合能を示す(WO 2016/098357 A1)。
【0250】
(4-2)抗体抗原複合体の細胞取り込み評価について
2x105個の細胞を含む細胞溶液50μLに、Alexa488標識サルミオスタチン、および各抗体を終濃度で0.3μg/mL、0~40μg/mLになるように添加し、100μLの反応溶液とした。この溶液を撹拌しながら37℃で15分間反応させた。その後氷冷し、冷2% FBS含有PBSを加え、細胞を洗浄した。その後、遠心(3000 rpm, 5min)により溶液を除いた。さらに、抗CD31抗体、抗CD45抗体で染色し、洗浄後、P1、P2、P3それぞれにおけるAlexa488の蛍光強度をFACS Canto IIで測定した。
【0251】
その結果、P1およびP3においては、抗体非添加の条件と比べて抗体添加の条件においてもAlexa488標識したミオスタチンの蛍光ピークは大きくシフトしなかった。一方、P2においては、いずれの抗体濃度においても、抗体非添加、SG1、SG145、SG141、SG143、の順にAlexa488標識したミオスタチンの蛍光ピークは高強度側にシフトした(図4)。そのため抗体抗原複合体が細胞表面のFcγRIIBに結合し、細胞内にそれぞれのFc特性にしたがって取り込まれることが示唆された。
【0252】
(4-3)抗原取り込みの定量
QuantumTM MESF(Bangs Laboratories)を用い、添付のプロトコルにしたがって蛍光標識された標品ビーズの蛍光強度を測定した。添付のプロトコルにしたがって、各標品の幾何平均蛍光強度から検量線を描き、サルミオスタチン取り込みサンプルの幾何平均蛍光強度から、各抗体および各濃度におけるサルミオスタチンの取り込み量を算出した。
【0253】
その結果を図5に示す。評価した全濃度において、SG143を用いた場合に取り込みが最も多く、次いでSG141、SG145、SG1の順で取り込み量は減少した。また、各抗体で、抗体添加濃度が0.5μg/mLの条件に比べて、高濃度における取り込みは同程度もしくはそれよりも高い値を示した。
【0254】
[実施例5]In vitroサル肝臓非実質細胞のサルミオスタチン取り込みとIn vivo抗原減少率との相関
(5-1)In vivoサルにおける抗原減少率の評価
サルにおいて、サルミオスタチンに対する抗体であるSG1、SG141、SG143、またはSG145を投与すると、サルミオスタチンと抗体は免疫複合体を形成する。免疫複合体は、FcγRIIBが強く発現している細胞に取り込まれ、血中から除去されると考えられる。既報の方法(WO 2016/098357 A1)で、抗体投与後14日後におけるサルミオスタチンの血中濃度を測定し、SG1投与時のミオスタチン濃度を1として各抗体投与時の減少率を算出した。具体的な方法は、以下のとおりである。
【0255】
カンボジア由来の2~4歳のMacaca fascicularis(カニクイザル)(Shin Nippon Biomedical Laboratories Ltd., 日本)における、抗潜在型ミオスタチン抗体を投与した際の内因性ミオスタチンの蓄積をインビボで評価した。30 mg/kgの用量レベルを、使い捨てシリンジ、延長チューブ、留置針、および注入ポンプを使用して、前腕の橈側皮静脈に注入した。投与スピードは1頭につき30分とした。投与開始前、ならびに投与終了の5分後、7時間後、および1、2、3、7、14、21、28、35、42、49、56日後、または投与終了の5分後、2、4、7時間後、および1、2、3、7、14、21、28、35、42、49、56日後のいずれかで血液を採取した。血液はヘパリンナトリウムを含むシリンジで大腿静脈から採取した。血液は直ちに氷上で冷却し、4℃、1700×gで10分間の遠心分離により血漿を得た。血漿サンプルは測定まで超低温フリーザー内(許容範囲:-70℃以下)で保存した。血漿サンプル中のミオスタチン濃度を、エレクトロケミルミネッセンス(ECL)により測定した。
【0256】
(5-2)In vivoサルミオスタチン減少率と、In vitro細胞取り込みクリアランスの相関
上述したIn vitroにおけるサルミオスタチンの細胞取り込み量から取り込みクリアランスに変換した値と、In vivoにおける血漿中からのサルミオスタチン減少率を各抗体についてプロットした(図6)。その結果、in vivoにおけるSG1に対する各検体の血漿中サルミオスタチンの減少率とin vitroサル肝臓非実質細胞のサルミオスタチン取り込み量に正の相関が見られた。最も細胞取り込みが高かったSG143は、in vivo血漿中から最もミオスタチンを減少させることができた一方、SG1は細胞取り込み量も血漿中からの減少率も最も小さかった。抗体間における細胞取り込みランキングは、血漿中ミオスタチン減少率とよく相関した。さらに、FcγRIIBに対するアフィニティが増強されたFcを持つ抗体、および正電荷を帯びたFcを持つ抗体など、異なるメカニズムでミオスタチンの減少率を高めている抗体であっても、細胞取り込みランキングはin vivoの減少率の結果を反映したものとなっていた。
【0257】
この結果は、FcγRIIBに対するアフィニティを増強したFcを持つ抗体や、抗体の等電点(pI)を改変したFc持つ抗体など、異なるメカニズムでサル血漿中からのミオスタチン減少率を高めた様々な抗体によるin vivoサルにおける抗原減少率を、本発明によるサル肝臓非実質細胞を用いた細胞取り込み評価系により、予測可能であることを示す。
【0258】
[実施例6]ヒト肝臓非実質細胞の調製
ヒト肝臓非実質細胞は、Sekisui Xenotech社より購入したものを用いた
調製手順は以下に示すとおりである。ヒトの肝臓をコラゲナーゼ溶液で灌流し、組織消化した。その後、フィルター濾過を行い、細胞懸濁液をDMEMで希釈した。希釈された細胞懸濁液を100 x gで5分間遠心分離して実質細胞を沈澱させ、上清を回収した。その上清をさらに350 x gで10分間遠心分離し、非実質細胞を沈澱させた。その後、上清を除き、OptiThaw Kupffer Cell Thaw/Culture Media (Sekisui XenoTech)で再懸濁した。
【0259】
[実施例7]抗ヒトFcγRIIB抗体、およびヒトミオスタチンのAlexa647、もしくはAlexa488標識
Alexa flour 647 labeling kit(Thermo Fisher Scientific)、もしくはAlexa flour 488 labeling kit(Thermo Fisher Scientific)を用い、添付のプロトコルにしたがって各タンパク質をAlexa647、もしくはAlexa488で標識した。各タンパク質の濃度、および蛍光物質の標識効率は、吸光度をNanodrop(Thermo Fisher Scientific)で測定し、添付のプロトコルに記載の計算式にしたがって計算することで求めた。
【0260】
[実施例8]ヒト肝臓非実質細胞におけるFcγRIIB高発現細胞の同定
5x105個のヒト肝臓非実質細胞にFITC標識抗CD31抗体(Miltenyi)、VioBlue標識抗CD45抗体(Miltenyi)、抗ヒトFcγRIIBヒトIgG抗体(Clone 2B6)、Alexa647標識抗ヒト抗体(Southern Biotech)を加えて100μLとし、氷冷下60分反応させた。その後600 x g、4℃で3分遠心分離し、上清を除去してPBS(-)で洗浄した。2% FBS含有PBS(-)に再懸濁して、この細胞溶液の蛍光をFACS Canto II (Becton, Dickinson and Company)で測定し、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)でドットプロットを展開した(図7)。四角形で示した領域の細胞について、さらにFITC(CD31;FITCフィルター検出)およびVioBlue(CD45;Pacific Blueフィルター検出)で展開した(図8)。
【0261】
肝臓非実質細胞は、血管内皮細胞やクッパー細胞、星細胞など様々な細胞集団の混合物であるが、ヒトにおいてLSECの細胞マーカーとして知られるCD31およびCD45という2つの細胞マーカーを使うことで、2つの集団に分離させることができた。現れた2つの細胞集団をそれぞれP1(CD31LowCD45High)、P2(CD31HighCD45Low)とした。なお、それ以外の領域に見られるドットは、これらのマーカーが発現しない細胞や、自家蛍光またはデブリによる非特異的な蛍光であると考えられるため、これらは除いて解析を行った。
【0262】
これらの細胞集団におけるヒトFcγRIIBの発現を評価した。図9に示すように、P1ではネガティブコントロール抗体と同様、抗ヒトFcγRIIB抗体添加によるピークのシフトは見られなかったが(図9A)、P2においては抗ヒトFcγRIIB抗体により高強度側へ明確なピークのシフトが見られ、P2においてのみFcγRIIBが発現していることが明らかとなった(図9B)。全細胞に対するFcγRIIB発現細胞の割合は非常に小さいため、細胞マーカーによるゲーティングをしない状態でFcγRIIB発現細胞を同定することは難しい。しかしながら、本手法のようにCD31およびCD45という細胞マーカーで染色し、各細胞集団に分離することで、FcγRIIB発現細胞を同定することが可能となった。
【0263】
さらに、この方法は細胞集団のゲーティングに抗FcγRIIB抗体を用いない方法であるため、目的の細胞集団におけるFcγRIIBの発現量を定量できる。QuantumTM MESF(Bangs Laboratories)を用い、添付のプロトコルにしたがって、ヒトFcγRIIBの発現を定量した結果、1細胞あたり、2.0x105分子の発現が確認された。
【0264】
[実施例9]ヒト肝臓非実質細胞中の細胞集団P2における抗体抗原複合体の細胞取り込み評価
(9-1)抗体抗原複合体の取り込み評価に用いた抗体のFcの特性について
WO2016/098357 A1に記載の抗ミオスタチン抗体TT91を用いた。
【0265】
ヒトFcγRIIBに対するSG1のアフィニティを1.0としたとき、TT91は14.7倍の結合活性増強を示す(WO2016/098357 A1)。
【0266】
(9-2)免疫複合体の細胞取り込み評価について
5x105個のヒト肝臓非実質細胞を含む細胞溶液50μLに、Alexa488標識ヒトミオスタチンを終濃度で0.3μg/mL、および各抗体を終濃度で0.1、1、10、100μg/mLになるように添加し、100μLの反応溶液とした。この溶液を撹拌しながら37℃で60分間反応させた。反応後氷冷し、冷2% FBS含有PBSを加え、細胞を洗浄した。その後、遠心(600 x g, 3min)により溶液を除いた。さらに、抗CD31抗体、抗CD45抗体で染色し、洗浄後、P2におけるAlexa488の蛍光強度をFACS Canto IIで測定した。
【0267】
その結果、抗体非添加、TT91抗体0.1、1、10μg/mLの順にAlexa488標識したミオスタチンの蛍光ピークは高強度側にシフトし(図10)、抗体抗原複合体が細胞表面のFcγRIIBに結合し細胞内に抗体濃度依存的に取り込まれることが示唆された。100μg/mLにおいても高強度側へのピークシフトが見られたが、抗体10μg/mLの条件と同程度であった。
【0268】
[実施例10]抗原取り込みの定量
QuantumTM MESF(Bangs Laboratories)を用い、添付のプロトコルにしたがって蛍光標識された標品ビーズの蛍光強度を測定した。添付のプロトコルにしたがって、各標品の幾何平均蛍光強度から検量線を描き、ヒトミオスタチン取り込みサンプルの幾何平均蛍光強度から、各抗体および各濃度におけるヒトミオスタチンの取り込み量を算出した。
【0269】
その結果を図11に示した。抗体非添加に比べて、抗体添加群では、抗体濃度依存的に取り込み量は増加し、10μg/mLで頭打ちとなった。抗体濃度の増加に伴い、Alexa488標識ヒトミオスタチンと結合するTT91抗体の割合が増え、それら細胞に結合し取り込まれたためだと考えられる。一方、100μg/mLでは10μg/mLに比べて取り込み量が減少したのは、高濃度領域でヒトミオスタチン非結合型の抗体が増え、それがFcγRIIBと結合・取り込まれることで、ヒトミオスタチン結合型TT91の取り込み量が見かけ上減少したことが原因だと考えられる。
【0270】
[実施例11]サル肝臓非実質細胞における核酸の取り込み
サルの種類としては、カニクイザル(Macaca fascicularis)を用いた。また、被験物質としては、非特許文献25(J Hepatol., 2006. 44(5):939-46)に記載のFITC標識オリゴデオキシヌクレオチド核酸を、北海道システムサイエンスより購入し使用した。配列は、5'-FITC-T*C*C*-A*TG-ACG-TTC-CTGA*T*G*-C*T-3'である。なお、アスタリスク(*)は、ホスホロチオヌクレオチドであることを示す。
【0271】
(11-1)サル肝臓非実質細胞におけるStabilin1およびStabilin2発現の評価
2x105個のサル肝臓非実質細胞にPacific blue標識抗CD31抗体(BioLegend)、APC標識抗CD45抗体(Miltenyi)、およびAlexa488標識した抗Stabilin1抗体もしくは抗Stabilin2抗体(Thermo Fisher Scientific)を加えて100μLとし、氷冷下30分反応させた。その後3000rpm、4℃で5分遠心分離し、上清を除去してPBS(-)で洗浄した。2% FBS含有PBS(-)に再懸濁して、この細胞溶液の蛍光をFACS Canto II (Becton, Dickinson and Company)で測定し、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)でドットプロットを展開した。FSCおよびSSCで展開した全細胞について、さらにPacific blue(CD31)およびAPC(CD45)で展開した。
【0272】
現れた3つの細胞集団をそれぞれP1(CD31LowCD45High)、P2(CD31IntermediateCD45Intermediate)、P3(CD31HighCD45Low)とした。なお、それ以外の領域に見られるプロットは、これらマーカーが発現していない細胞、自家蛍光やデブリによる非特異的な蛍光などであると考えられるため、これらは除いて解析を行った。Stabilin1およびStabilin2の発現評価は、これら3つの細胞集団におけるAlexa488の蛍光強度を検出する(FITCフィルター検出)ことで評価した。図12に示すように程度の差はあるものの、P1~P3のすべての細胞集団において、Alexa488で標識されたネガティブコントロール抗体と比べて、抗Stabilin1抗体もしくは抗Stabilin2抗体添加によるピークの高蛍光強度側へのシフトが見られた(図12A~C)。
【0273】
(11-2)サル肝臓非実質細胞における核酸の細胞取り込み評価
2x105個の細胞を含む細胞溶液50μLに、FITC標識核酸を終濃度で0~40μg/mLになるように添加し、100μLの反応溶液とした。この溶液を撹拌しながら37℃で30分間反応させた。その後氷冷し、冷2% FBS含有PBSを加え、細胞を洗浄した。その後、遠心(3000 rpm, 5min)により溶液を除いた。さらに、抗CD31抗体、抗CD45抗体で染色し、洗浄後、P1、P2、P3それぞれにおけるFITCの蛍光強度をFACS Canto IIで測定した。
【0274】
その結果、P1~P3のすべての細胞集団において、核酸非添加の条件と比べて核酸添加時にはいずれの核酸濃度においても高強度側に蛍光ピークが見られた。特に、P2およびP3においては添加濃度依存的なピークシフトが見られた。
【0275】
(11-3)核酸添加濃度と核酸取り込み量の相関
核酸の添加濃度と、図13に示したピークの平均蛍光強度をプロットすることで、添加濃度依存的な細胞取り込みを評価した。その結果、P1~P3のすべての細胞集団において、添加濃度依存的なFITC蛍光強度の増加が見られ、高濃度においては飽和状態に達することが明らかとなった。この飽和性は、核酸が特定の受容体によって取り込まれることを示唆するものだと考えられる。
【0276】
[実施例12]サル肝臓非実質細胞中の細胞集団P2における抗体の細胞取り込み評価
(12-1)取り込み評価に用いた抗体のFcの特性について
WO 2016/117346 A1(特許文献4)およびWO 2016/098357 A1(特許文献5)に記載のFcを持つ抗ミオスタチン抗体である、SG1、SG141、SG143(FS154とも表記される)、およびSG1081を用いた。
【0277】
サルFcγRIIBに対するSG1のアフィニティを1.0としたとき、SG143のアフィニティは5~10倍である(WO 2016/117346 A1)。また、SG141はpIを高めて中性pH条件において正電荷を帯びさせたFcを持つ抗体であり、Biacoreを用いたサルFcγRIIBに対するICの結合試験でSG1に比べ1.64倍高い結合能を示す(WO 2016/098357 A1)。SG1081はSG1に対して5~10倍サルFcγRIIBに対するアフィニティが強い(WO 2016/117346 A1)。
【0278】
(12-2)抗体の細胞取り込み評価について
実施例1と同様に調製した2x105個のサル肝臓非実質細胞を含む細胞溶液50μLに、Alexa488標識抗体を終濃度で10~200μg/mLになるように添加し、100μLの反応溶液とした。この溶液を撹拌しながら37℃で15分間反応させた。その後氷冷し、10mMクエン酸含有Hepatocyte culture medium(pH4.5, LONZA)を加え、細胞を洗浄した。その後、遠心(3000 rpm, 3min)により溶液を除いた。さらに、抗CD31抗体、抗CD45抗体で染色し、洗浄後、P1、P2、P3それぞれにおけるAlexa488の蛍光強度をFACS Canto IIで測定した。
【0279】
その結果、P2の細胞集団において、いずれの抗体濃度においても、SG1、SG141、SG143、およびSG1081の蛍光ピークが確認され、抗体添加濃度が高いほど蛍光ピークは高強度側にシフトした(図15)。また、SG1に比べ、SG141、SG143、およびSG1081はより強い蛍光を示した。そのため抗体が細胞表面のFcγRIIBに結合し、細胞内にそれぞれのFc特性にしたがって取り込まれることが示唆された。
【0280】
(12-3)抗体取り込みの定量
QuantumTM MESF(Bangs Laboratories)を用い、添付のプロトコルにしたがって蛍光標識された標品ビーズの蛍光強度を測定した。添付のプロトコルにしたがって、各標品の幾何平均蛍光強度から検量線を描き、抗体取り込みサンプルの幾何平均蛍光強度から、各抗体および各濃度における抗体の取り込み量を算出した。
【0281】
その結果を図16に示す。10μg/mLにおいては、SG1、SG1081、SG141の取り込み量は同程度であり、SG143はこれらよりも多い取り込み量を示した。30μg/mLにおいては、SG1およびSG1081の取り込み量は同程度であり、次いでSG141、SG143の順に値が高かった。100μg/mLにおいては、SG1の取り込み量が最も少なく、次いでSG1081、SG141、SG143の順で取り込み量が多かった。200μg/mLにおいては、SG1の取り込み量が最も少なく、次いでSG1081、SG143、SG141の順で取り込み量が多かった。
【0282】
さらに、各抗体のin vivoサルにおける血漿クリアランスと本実施例における各抗体の細胞への取り込み量との相関を調べた。サル血漿中における抗体のクリアランスは、以下の方法により測定した。カンボジア由来の2~4歳のMacaca fascicularis(カニクイザル)(Shin Nippon Biomedical Laboratories Ltd., 日本)に、SG1、SG141、およびSG143については30mg/kgで、SG1081については2mg/kgで各抗体を投与した。投与後56日まで継時的に採血を行い、遠心分離により血漿を得た。血漿中の抗体濃度を、エレクトロケミルミネッセンス(ECL)により測定した。ノンコンパートメントモデル解析により血漿クリアランスを算出した。また、サル肝臓非実質細胞における細胞取り込み量については、抗体を200μg/mLで添加した際のAlexa488標識抗体の蛍光強度より求めた細胞への取り込み量をプロットに用いた。
【0283】
図17に示すとおり、in vivoの抗体の血漿クリアランスとin vitroの抗体の細胞への取り込みとの間には相関が認められた(R2=0.602)。
【0284】
[実施例13]サル肝臓非実質細胞中のFcγRIIB高発現細胞におけるIL-6Rの発現の確認
まず、実施例1と同様に調製した2x105個のサル肝臓非実質細胞を含む細胞溶液50μLを調製した。またAlexa488標識tocilizumab(ヒト化抗IL-6R抗体)またはネガティブコントロールとしてAlexa488標識hIgGを終濃度で3μg/mL含む抗体溶液を調製した。また、特異的な結合であることを確認するため、Alexa488標識tocilizumabに加え、非標識tocilizumabを標識体に対する過剰量として終濃度で1mg/mL含む抗体溶液も調製した。これらの細胞溶液と抗体溶液には、それぞれに、FcγRのブロッキングのため、Fc Receptor Blocking Solution(Human TruStain FcX, Biolegend)を希釈倍率20倍で添加した。このようにして調製した細胞溶液と抗体溶液とを混合し、100μLの反応溶液とした。反応溶液は4℃で120分間反応させた。その後、冷2% FBS含有PBSを加え、遠心(3000 rpm, 3min)し上清を取り除く操作を繰り返すことで、細胞を洗浄した。次に、抗CD31抗体、抗CD45抗体で染色し、洗浄後、Alexa488の蛍光強度をFACS Canto IIで測定した。
【0285】
実施例3と同様に、細胞集団をCD45およびCD31の発現量についてそれぞれY軸、X軸で展開し、発現量パターンから細胞集団を分けて評価した。実施例3と同様に、P1~P3の細胞集団についてFcγRIIBの発現を確認し、P2におけるFcγRIIBの高発現を確認した上で、IL-6Rの発現を評価した。その結果、図18に示すように、P2おいて、ネガティブコントロールに比して、Alexa488標識tocilizumabにより高強度側へ明確なピークのシフトが見られた。また、過剰量の非標識tocilizumabによって、そのピークシフトが阻害された。したがって、P2においてIL-6Rが発現していることが明らかとなった。
【0286】
[実施例14]サル肝臓非実質細胞中の細胞集団P2におけるtocilizumabの取り込み評価
実施例1と同様に調製した2x105個のサル肝臓非実質細胞を含む細胞溶液50μLと、Alexa488標識tocilizumabを終濃度で3μg/mLになるように抗体溶液を調製した。また、特異的な結合であることを確認するため、Alexa488標識tocilizumabに加え、非標識tocilizumabを標識体に対する過剰量として終濃度で1mg/mLになるように加えた抗体溶液も調製した。これらの細胞溶液と抗体溶液には、それぞれに、FcγRのブロッキングのため、Fc Receptor Blocking Solution(Human TruStain FcX, Biolegend)を希釈倍率20倍で添加した。このようにして調製した細胞溶液と抗体溶液とを混合し、100μLの反応溶液とした。この溶液を撹拌しながら37℃で2、5、10、15、または30分間反応させた。その後氷冷し、10mMクエン酸含有Hepatocyte culture medium(pH3.0, LONZA) を加え、遠心(3000 rpm, 3min)し上清を取り除く操作を繰り返すことで、細胞表面に結合する抗体を除いた。続いて、冷2% FBS含有PBSで細胞を洗浄した。その後、遠心(3000 rpm, 5min)により溶液を除き、抗CD31抗体、抗CD45抗体で染色し、洗浄後、P2におけるAlexa488の蛍光強度をFACS Canto IIで測定した。
【0287】
その結果、P2において、反応時間にしたがってAlexa488標識tocilizumabの蛍光ピークは高強度側にシフトした(図19A)。また、過剰量の非標識tocilizumabによって、そのピークシフトが阻害された(図19B)。そのためtocilizumabが細胞表面のIL-6Rに特異的に結合し、細胞内に時間依存的に取り込まれることが示唆された。
【0288】
さらにtocilizumabの細胞への取り込み量を定量した。QuantumTM MESF(Bangs Laboratories)を用い、添付のプロトコルにしたがって蛍光標識された標品ビーズの蛍光強度を測定した。添付のプロトコルにしたがって、各標品の幾何平均蛍光強度から検量線を描き、Alexa488標識tocilizumab取り込みサンプルの幾何平均蛍光強度から、各反応時間におけるAlexa488標識tocilizumabの取り込み量を算出した。その結果を図19Cに示す。取り込み量は時間に従って、ほぼ直線的に上がっており、取り込み速度は2.19x10-6 pmol/min/2x105cellsと計算された。
【産業上の利用可能性】
【0289】
本発明により、医薬品開発候補分子のヒトおよびサルにおけるin vivoでの動態を、in vitro試験により予測することが可能となる。本発明により、医薬品開発候補抗体のヒトおよびサルにおける血中からの抗原除去活性を、in vitro試験により予測することが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0290】
配列番号1:合成オリゴヌクレオチド
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【配列表】
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