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特開2023-62089摺動部、搬送装置、延伸装置及び/又は延伸装置用搬送装置
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  • 特開-摺動部、搬送装置、延伸装置及び/又は延伸装置用搬送装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062089
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】摺動部、搬送装置、延伸装置及び/又は延伸装置用搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/20 20060101AFI20230425BHJP
   B29K 71/00 20060101ALN20230425BHJP
   B29L 31/12 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
B29C55/20
B29K71:00
B29L31:12
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023076
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2019572434の分割
【原出願日】2018-05-15
(31)【優先権主張番号】102017115175.3
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】510331593
【氏名又は名称】ブリュックナー・マシーネンバウ・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100082049
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敬一
(72)【発明者】
【氏名】スウォボダ・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ホイスル・トビアス
(72)【発明者】
【氏名】クリニャック・エメリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ムルナー・ゲオルグ
(72)【発明者】
【氏名】ウンターライナー・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】バムベルガー・ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ジアポウリス・アンティモス
(72)【発明者】
【氏名】バウマイスター・ミヒャエル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、従来の摺動部、延伸装置又は搬送チェーンに比べて、必要な潤滑剤消費量を明白により低減できる摺動部、特に、延伸装置及び/又は搬送チェーン用の摺動片及び摺動片を装備する搬送装置又は延伸装置用搬送装置を提供することを目的とする。
【解決手段】繊維強化熱可塑性樹脂で構成され又は該材料を主成分とする特に延伸装置用及び/又は搬送チェーン用の摺動部21は、U型凹部を形成するU型断面を有し、摺動部21のU型凹部内に摺動片24が配置又は嵌着され、案内レールに沿って移動する摺動片24と案内レールとは、滑動接触対を形成する。摺動片24は、7.5容量%と20容量%との間の気孔率を有する多孔性の黒鉛又は電気黒鉛を含み、摺動片24の出発材料として構成される黒鉛粒子は、3μm~15μmの間の粒径を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化熱可塑性樹脂で構成され又は該材料を主成分とする特に延伸装置用及び/又は搬送チェーン用の摺動部において、
摺動部は、U型凹部を形成するU型断面を有し、
摺動部のU型凹部内に摺動片が配置又は嵌着され、案内レールに沿って移動する摺動片と案内レールとは、滑動接触対を形成し、
摺動片は、7.5容量%と20容量%との間の気孔率を有する多孔性の黒鉛又は電気黒鉛を含み、摺動片の出発材料として構成される黒鉛粒子は、3μm~15μmの間の粒径を有することを特徴とする摺動部。
【請求項2】
繊維強化熱可塑性樹脂は、繊維強化ポリエーテルエーテルケトンである請求項1に記載の摺動部。
【請求項3】
摺動片は、溝又は蟻継ぎ状の溝に嵌合され、取付けられ又は固定される請求項1又は2に記載の摺動部。
【請求項4】
摺動片は、無機塩を含浸しかつ/又は無機塩を埋設した微細な多孔を有する請求項1~3の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項5】
摺動片の気孔率は、8容量%又はそれ以上でありかつ20容量%又はそれ以下である請求項1に記載の摺動部。
【請求項6】
摺動片の出発材料を構成する黒鉛粒子の50%粒径d(50)の粒径分布は、14μm~18μmと、10%粒径d(10)の粒径分布は、2μm~4μmと、90%粒径d(90)の粒径分布は、42μm~50μmとの3種の粒径分布を含む請求項1~5の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項7】
摺動片に形成される60%~100%の気孔は、油で含浸される請求項1~6の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項8】
摺動片の少なくとも表面層は、無機塩の完全含浸から20%以下だけ異なる密度分布で無機塩が含浸される請求項4~7の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項9】
無機塩の含浸量又は埋設量は、1重量%~10重量%である請求項4~8の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項10】
等方圧加圧により形成される請求項1~9の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項11】
摺動片は、5μm未満の高さ偏差の最大粗度摺動面を有する請求項1~10の何れか1項に記載の摺動部。
【請求項12】
支持構造体と、搬送チェーンを有するチェーン装置とを備える搬送装置において、
搬送チェーンは、互いにリンク連接される複数のチェーン環を備え、
チェーン環は、樹脂薄膜を把持する把持装置と、把持装置をチェーン装置に接続する接合体とを備え、
請求項1~11の何れか1項に記載の摺動部を篏合するU型凹部が接合体に形成されることを特徴とする搬送装置。
【請求項13】
把持装置をチェーン装置に接続する接合体は、支持レールの摺動面の対応する頂部に配置される摺動底板を有し、
摺動底板は、7.5容量%と20容量%との間の気孔率を有する多孔性の黒鉛又は電気黒鉛を含み、
摺動底板の出発物質として構成される黒鉛粒子は、3μm~15μmの間の粒径を有する請求項12に記載の搬送装置。
【請求項14】
請求項1~11の何れか1項に記載の摺動部を有する延伸装置又は延伸装置用搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載する摺動部、特に、延伸装置及び/又は延伸装置用搬送装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
複数の延伸装置は、特に複数の薄膜樹脂(プラスチックフィルム)の製造に使用される。
【0003】
例えば、まず長手方向に樹脂薄膜を延伸し、次に横方向(又は逆順序)に薄膜樹脂を延伸する連続2段階延伸法の連続複数延伸装置は、公知である。
【0004】
薄膜樹脂を長手方向と横方向とに同時に延伸する所謂同時延伸装置も公知である。
【0005】
延伸装置に使用する横延伸装置又は横延伸段は、下記特許文献1、特許文献2又は特許文献3に開示される。より早期の公開公報は、延伸すべき帯状材料、通常樹脂薄膜の両側で、循環する複数の案内レールに沿って移動しかつ複数のチェーンに固定されて、延伸すべき帯状材料を把持する複数の把持装置(クリップ)を示す。複数の把持装置は、延伸装置の入口領域(例えば、延伸すべき樹脂薄膜の両側縁を把持する領域)から、延伸領域(複数の案内レールに沿って帯状材料の搬送方向に対し互いに離間する横断方向に対向する複数の把持装置を移動する領域)を経て、出口領域に順次移動し、その後、帰還領域を経て、再び入口領域に移動するが、例えば、出口領域内では、若干の内部応力緩和処理及び/又は熱後処理を樹脂薄膜に施すことができる。横延伸装置は、搬送チェーンの移動を案内する案内レールを備える。
【0006】
搬送チェーン全体に設けられる複数の把持装置(複数のチェーン環に接して搬送チェーンの長手方向に互いに離間して設けられる)は、摺動片又はローラ片を有し、把持装置と共に移動する摺動片又はローラ片は、互いに平行にかつ離間して対向して垂直に配置される案内レールの複数の走行面・摺動面に当接する。複数のチェーン環に取り付けられる支持体は、複数の摺動面が形成される摺動片を有する。同時延伸装置の案内レール材にも制御レール材にも摺動片を装備できる。
【0007】
特許文献3は、複数の搬送装置とその複数の部品の改良された潤滑法、特に、延伸装置の複数の関連部品の潤滑法及び改良された潤滑剤装置を示す。改良した潤滑法の搬送装置では、継続的に微小量潤滑を行い潤滑剤消費量を低減できる。
【0008】
特許文献3及び特許文献4は、黒鉛製摺動片及び/又は黒鉛粒子を含む弾性重合体、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の原理を示す。
【0009】
特許文献5は、長手方向に複数の把持用支持体を固定したほぼU字型チェーン断面のチェーン環を有する帯状材料把持用搬送チェーンを示す。潤滑剤不要の摺動材料、特別に形成された好適な小摩擦係数のポリテトラフルオロエチレン製の広面積摺動板は、特別に形成された複数の各チェーン環のU字型底辺と連結迫台に鋲で固定される。対応して加工される凹部で複数のチェーン環に嵌合する摺動板は、特別に形成される。この構造の実施の形態では、前記目的に対し特別に形成される基礎チェーンの製造に、高価な複数のチェーン環を備える各支持体の製造が必要となる。
【0010】
特許文献2は、薄膜とチェーンの引張力並びにチェーンの重力を受ける摺動片を示す。
【0011】
特許文献6と特許文献7は、合成樹脂で接着し含浸した黒鉛を使用する摺動片を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第5797172A号明細書
【特許文献2】国際公開第2014/94803A1号明細書
【特許文献3】独国特許第19857289C1号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第3925737A1号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0138117A2号明細書
【特許文献6】欧州特許第0471329B1号明細書
【特許文献7】欧州特許第1652877B1号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第19749785A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来の摺動部、延伸装置又は搬送チェーンに比べて、必要な潤滑剤消費量を明白により低減できる摺動部、特に、延伸装置及び/又は搬送チェーン用の摺動片及び摺動片を装備する搬送装置又は延伸装置用搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、請求項1の特徴手段により摺動部の課題を解決し、請求項12の特徴手段により搬送装置の課題を解決する。本発明の有利な実施の態様を従属請求項に記載する。
【0015】
本発明の複数の摺動部を使用して、[搬送チェーンを支持する案内レール(縦横同時延伸装置では制御レール)に沿って移動する]搬送チェーンの作動、特に延伸装置の作動により、従来必要な潤滑剤量を劇的に低減できる驚愕に値する顕著な効果が得られる。
【0016】
黒鉛製摺動片の採用は、従来公知であった。特許文献6及び特許文献8からも、黒鉛製の又は黒鉛を含む複数の摺動片は、公知であったことが認められる。早期に公知の摺動片は、無機塩及び重合体を含浸した無機塩である。
【0017】
搬送チェーン、特に延伸装置の搬送チェーンに対し、公知の黒鉛製摺動片、特に前記黒鉛製摺動片を良好には適用できないことが本発明の研究で判明した。
【0018】
本発明の研究では、単一又は複数の好適な下記変形実施の形態を実施しかつ/又は下記条件を満たすと、特に良好な結果を達成できることが判明した。
・好適には、特に、リン酸塩(オルトリン酸の塩又はエステル)形態で無機塩を含浸した複数の摺動片、
・特に、リン酸アルミニウム(AlPO4)形態の金属塩を含浸した複数の摺動片、
・特に、リン酸塩、特に好適にはリン酸アルミニウム形態の無機塩を、1重量%~20重量%の割合で埋設した摺動片又は黒鉛体、
・d50=30μm、d90=100μm~d50=5μm、d90=15μmの好適な粒径範囲内であり、特に好適にはd50=7μm、d50=30μmのリン酸塩、特に、金属リン酸塩、
・表面領域又は表面層1mm又は2mm内のみならず、好適には完全に無機縁を含浸した複数の摺動片、
・複数の摺動片に必要な複数の製造出発材料を、例えば、等方圧加圧等の適切な方法で「焼成」して最終的に生成する複数の摺動片、
・複数の摺動片の製造出発材料に用いる特定の粒径範囲と粒子分布範囲内の黒鉛粉末、
製造出発材料に用いる最大粒径(平均粒径、期待値)分布の黒鉛粉末及び圧縮(等方圧加圧、射出成形、圧密化)で製造する最大粒径(平均粒径、期待値)分布の摺動片は、何れも、例えば、曲げ強度等、所望の機械値に対し、平均粒径3~15μmである。7~10μmの平均粒径が好適で適切なことが判明した。14~18μmの中位粒子径d(50)、24μmの10%粒径d(10)、42~50μmの90%粒径d(90)を粒度範囲として計測した(粒径値d10、d50とd90で粒径分布を特徴付ける。平均粒径分布[ドイツ工業規格(DIN)13320]により中位粒子径をd50値とする。10%粒径d10値と90%粒径d90値で粒径分布の幅(width)を説明すると、幅dwidthは、式:dwidth=d90-d10に従う)。
・複数の摺動片の気孔率及び/又は気孔分布は、少なくとも≧8容量%又は好ましくは≧9容量%、10容量%、11容量%、12容量%、13容量%、14容量%又は≧15容量%である。複数の摺動片の対応気孔率は、更に≦20容量%、特に≦18容量%、16容量%、15容量%、14容量%、13容量%、12容量%又は特に≦11容量%である。
・例えば、空気湿度≧5(好適には8~20)[g/m3]の通常作動条件下で、摺動片は、例えば、油含浸孔又は通常、流体充填孔を有する場合である。
【0019】
例えば、軸受材の組立数時間前に、摺動片を油浴中に浸漬して、極力完全に油含浸した複数の微細な気孔を有する複数の摺動片は、特に有利であることが試験で判明した。多孔性の摺動片を潤滑油で含浸する一次油飽和により、摩耗を顕著に低減できる。
【0020】
例えば、摺動片に本質的な機械特性を付与する黒鉛粒径と粒子分布は、摩耗特性のみならず、例えば、材料の曲げ強度にも影響を与える。(出発材料形態及び摺動片の製造後の最終圧縮形態でも)黒鉛粉末の粒径と粒子分布は、熱特性と化学的特性にも影響を与える。
【0021】
無機塩、無機塩の粒度(粒径)と粒度(粒径)分布は、摩擦特性と摩耗特性に影響を与える。
【0022】
本発明の利点を生ずる重要な条件は、最小気孔率を備える摺動片にある。無機塩(特に、リン酸塩)の使用下で、複数の摺動片の適切な含浸状態かつ/又は等方圧加圧により更なる改良を達成できる。
【0023】
多孔性、無機塩含浸及び等方厚加圧の全3条件を実現すると、本発明は、最大の利点を達成する。
【0024】
複数の摺動片又は黒鉛製の摺動片を重合体で被覆しかつ/又は複数の気孔(特に、複数の摺動手段の表面に形成される複数の気孔)を重合体で充填(特許文献6)すると、本発明の摺動作用とは逆に摩擦が増大して、より多量の潤滑物質又は潤滑剤を必要とする欠点さえ生じる。これにより、特に延伸装置では、潤滑剤中、特に潤滑剤液滴中の汚染物・不純物が延伸すべき樹脂薄膜に含まれる危険が生じる。
【0025】
搬送チェーン又は案内レールと本発明の複数の摺動片との接触対を構成する複数の摺動片を採用する特に延伸装置では、潤滑剤又は潤滑油の消費量を劇的に減少できる。従来の摺動片又は黒鉛製の摺動片では、特に強い負荷を受ける湾曲部、特に延伸装置の延伸領域で、摩耗が増大するため、本発明の摺動片は、従来の黒鉛製摺動片より遥かに優れる。
【0026】
特定の粒度範囲の黒鉛粒子を含む本発明の摺動片から複数の本質的利点が得られる。
【0027】
本発明の特徴により、約1~2時間の始動時摩耗は、顕著に減少する。
【0028】
潤滑剤消費量の劇的な低減により、凝縮物沈殿及び微小滴による製造すべき薄膜の汚染を低減し又は回避できる。
【0029】
本発明の複数の摺動片では、案内レールとの接触対を構成する摺動部に係る複数の材料温度を上昇することができる。
【0030】
新しい前記材料を利用して、異なる種々の構造のチェーン搬送装置に基本的な規格品を使用でき、結合解決法(アダプタソリューション)により、把持装置と案内レール(及び制御レール)とを組み立てる構造のみが必要となる。
【0031】
新規な前記材料を利用して、摺動接触対間の中間層として高性能油とは異なる他の流体を採用することができる。
【0032】
本発明の複数の黒鉛製摺動片を採用して、特に摺動軌道とチェーン軸を潤滑できる。
【0033】
重合体母材に埋設する黒鉛は、Tecasint及びSintimit(エンズィンガー(Ensinger)社及びデュポン(DuPont SCP)の登録商標)により市販される複数の「純粋な」黒鉛材等と類似の特性を示す。
【0034】
本発明の摺動片の使用時のみならず、例えば、特定の材料特性又は表面特性を有する案内レール又は制御レールとの摺動接触対となる本発明の摺動片を使用するときにも、前記利点を実現できる本発明の更に驚愕すべき結果が明らかになった。
【0035】
搬送装置又はその複数の部品の潤滑時に、本発明は、潤滑剤量及び特に潤滑油量を減少する方法並びに特殊な摺動片又は黒鉛体の使用のみならず、特に案内レール(及び制御レール)に対向する摺動片又は黒鉛体の潤滑法にも関する。従って、本発明では、必要な潤滑剤の投入量を低減する特定の摺動接触対を提案する。
【0036】
摺動接触対
複数の摺動接触対とは、(搬送チェーン用の)案内レール又は制御レール、特に延伸装置の案内レール及び/又は制御レールと、チェーン又は把持装置チェーン又は菱形収縮機構に設けられ又は形成される複数の摺動片との組合せと理解される。従来では、摺動片は、多くの場合、炭素繊維、アラミド繊維又はガラス繊維であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の材料混合物で強化された樹脂で構成される。
【0037】
黒鉛部材を含む複数の摺動接触対を提案する従来技術(例えば、特許文献6又は特許文献7の各出願公開公報)は、延伸装置での使用も特別な使用条件も明示しない。
【0038】
複数の摺動片と、摺動片に対向するレール装置(特に、延伸装置の複数の摺動片と同一又は近似の熱膨張係数材料で形成される案内レール又は制御レール)とで構成される摺動接触対が特に本発明に適することが判明した。例えば、鋳鉄、硬質金属、酸化アルミニウム、炭化シリコン、ガラス、ダイアモンドライクカーボン(DLC)被覆材料(ダイアモンド類似非結晶質炭素)及び特に、延伸装置の案内レール及び制御レール用の硬質合金鋼等の(多黒鉛含有割合の)硬質材料が、本発明の摺動片に良好な接触対材であることが判明した。
【0039】
本発明の実施の形態を詳細に以下説明する。各添付図面は、下記内容を示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】連続延伸装置の一部を構成する横延伸装置の略示平面図
図2】帯状薄膜の前進方向に進行する複数の把持装置を支持装置の片側に設け、帰還行程で入口領域に戻される複数の把持装置を支持装置の反対側に設けた複数の把持装置を備える搬送チェーンを備える支持装置の断面図
図3a】樹脂薄膜の延伸装置の樹脂薄膜を把持する把持装置と、把持装置と共に移動する搬送チェーンとの一部とを示す分解斜視図
図3b図3aに示す搬送チェーンのチェーン軸を貫通する断面を示す部分断面図
図4】対向するU字型内側断面を有する本発明の摺動片又は黒鉛体の斜視図
図5】支持レールの支持面に対向して搬送チェーン及び/又は把持装置本体の下面に配置される摺動底板の斜視図
図6】搬送チェーン及び/又は把持装置本体に好適には解除可能又は交換可能に直接挿入され固定される摺動片の図3aの変形実施の形態を示す斜視図
図7】薄膜樹脂厚及び負荷の変動に対する潤滑油消費量を示すグラフ
図8】従来の摺動片と本発明との摺動片との4種のチェーン装置の異なる潤滑油消費量を示すグラフ
図9】温度変化に対する本発明の摺動片の摩擦係数の変動を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0041】
横延伸装置の基本構造
下記薄膜幅延伸装置又は薄膜横延伸装置(TD(Traverse Direction)延伸装置とも略称する)は、対称的に形成される2つの公知の駆動装置を有する。図1は、図面平面に対して垂直な対称平面SEに対称的に配置される一対の駆動装置を示し、延伸すべき樹脂薄膜F形態の帯状材料は、循環式軌道2上を移動する一対の駆動装置間に配置されかつ駆動装置により搬送されて、引出方向1(機械方向MD)に移動する。TD延伸装置は、縦横連続延伸装置の一部でもよいが、連続延伸装置は、通常横延伸装置(横方向延伸枠)に前置される縦延伸段を備える(疑義の際には、縦延伸段を後置してもよい)。複数の搬送チェーンは、複数の案内レールに沿って進行する把持装置を備え、複数の搬送チェーンは、延伸領域では、偏向装置を介して複数の制御レールに沿い延伸装置の横方向に互いに離間して進みかつ隣合う把持装置は、延伸装置の長手方向に間隔を空けるため、長手方向と横方向の同時延伸を行う菱形収縮装置、即ち同時延伸装置に本発明を基本的に採用できる。
【0042】
図1に示す延伸装置は、循環する一対の軌道2上で循環方向に駆動される2つのチェーン搬送装置3を備える。
【0043】
単軸延伸又は一軸延伸薄膜樹脂F(図示の横延伸装置に縦延伸装置を前置する場合)又は未延伸薄膜樹脂F(薄膜樹脂Fと称する帯状処理材を相応に処理して通常横延伸する実施の形態の延伸装置では、本発明は、帯状薄膜樹脂に限定されない)は、入口領域Eから延伸装置に導入され、図2に示す把持装置は、例えば、入口領域Eでは、操作者側OS(operator side)と駆動側DS(drive side)で薄膜樹脂Fの両縁8を同時に把持して搬送する。その後、薄膜樹脂Fは、後続の予熱領域PHで加熱され、次に横方向TDに薄膜樹脂Fを伸張する延伸領域Rに導入される。続いて、伸張した薄膜薄膜Fは、種々の加熱処理領域HTを通過し、薄膜樹脂の内部応力を緩和することもできる。延伸装置の最終段の出口領域Aでは、薄膜樹脂は、適切な手段により把持装置から外されて、横延伸機、即ち横延伸装置TDから離れる。
【0044】
把持チェーン装置KKとも称する把持搬送装置KTについて説明する(図2)。把持搬送装置KT、即ち把持チェーン装置KKを様々な実施の形態/変形例に適用できる。本明細書では、単一の変形例を一例として説明するが、当業者には更なる変形例は、自明であろう。把持搬送装置KT、把持チェーン装置KKは、搬送装置3又はチェーン装置7に連結される把持装置6を備える。本実施の形態では、好適には把持チェーン装置KKの一部のチェーン装置7を意味する搬送チェーン13を採用する。
【0045】
図2に断面で示す公知の把持装置6とチェーン装置7を備える把持チェーン装置KKは、循環して移動する搬送装置3に設けられ、搬送装置3は、支柱構造即ち支持構造体11と、循環する搬送チェーン13とを具備し、把持装置6は、搬送チェーン13に固定又は形成されて共に移動する。支持構造体11は、案内レール15を具備する。案内レール15の他に、チェーン装置7と把持装置6との重量を支える支持レール17又は支持走行レール17が設けられる。後続のように、搬送チェーン13に接合されかつ搬送チェーン13と共に移動する把持装置6と、本発明を適用する摺動片(「黒鉛体」ともいう)GKとを使用して、搬送チェーン13を案内レール15上に支持しかつ案内するが、搬送チェーン13の背後に接合される摺動片GKは、特に、把持装置6又はその本体に接合され又は組立てられて一体に移動する。
【0046】
搬送チェーン13、把持装置6及び摺動片GKを接合する搬送装置3用の共通の支持構造体11を、延伸側又は処理側RSでも帰還側RLでも使用することができる(図1及び図2)。案内レール又は制御レール15で支持構造体11を構成する図示の支持構造体以外の変形例も当業者には従来公知である。
【0047】
図2は、ほぼ中央に垂直に配置される支柱19と、支柱19の頂部に支持される横梁21とを有する延伸側RSと帰還側RLで共通の支持構造体11を備える搬送装置3の断面を示し、横梁21の互いに離間する対向端にほぼ長方形断面のレール15が垂直に取り付けられる。共通の支持構造体11の一対の搬送装置3は、例えば、共に加熱炉O内に配置される。加熱炉Oは、予熱領域PH、延伸領域R、後加熱領域又は内部応力緩和領域HTも包囲するため、入口側と出口側に設けられる方向転換装置と駆動装置のみが加熱炉Oの外側に配置される。
【0048】
前記のように、搬送チェーン13は、出口側の複数の排出駆動輪AR、入口側の複数の送込駆動輪ERにより駆動されかつ方向転換される。
【0049】
図3aは、リンク連接される公知の複数のチェーン環13.1を備える搬送チェーン13の一例の細部を示す。
【0050】
図3bは、チェーン軸の中心で複数のチェーン環を貫通する断面図及び図3aに対応する把持装置6を除去した搬送チェーン13の斜視図を示す。図3bは、把持搬送装置に形成されて案内レール15を嵌合する摺動片24(滑動部21のU型凹部23内に嵌着する)と、把持搬送装置の摺動底板25とを示し、搬送チェーン13は、摺動底板25上に載置され、摺動片24は、案内レール15の摺動面に対向する摺動面を有する。図4は、摺動片24を有する滑動部21を示し、図5は、摺動底板25の斜視図を示す。
【0051】
繊維強化熱可塑性樹脂、好ましくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)形態の繊維強化熱可塑性樹脂で構成され又は該材料を主成分とする滑動部21の対向する側面には、対向する複数の摺動片又は摺動板24が装着され、摺動片又は摺動板24は、案内レール15の複数の案内面に対向して、通常垂直位置が調整される。本発明の摺動片24と一体に組立てられる図5の摺動底材又は摺動底板25は、案内レール15の上向案内面と通常対向する。
【0052】
把持搬送装置は、例えば、把持装置6(本来のクリップ5)と、チェーン装置7(本来の搬送チェーン13)と、把持装置6とチェーン装置7との間に設けられるU型凹部26と、U型凹部26の底部に固定される接合体B(把持装置6とチェーン装置7とを連結する)とを備え、U型凹部26に嵌着される摺動片24に摺動軸受21’(滑動部21とも称する)が形成され、摺動軸受21’内に対向する案内レール15が嵌合される。
【0053】
案内レール・摺動軸受21’は、案内レール15方向に対応する幅又は長さを有し、把持搬送装置への牽引力を支持するU型断面の摺動片又は滑動部21を備える。U型には限定されず、勿論任意形状で各摺動片を形成できる。
【0054】
図3a及び図3bとは異なり、図6は、搬送チェーン13、特に把持装置6本体の対応する凹部内に、好適には除去可能、交換可能に直接装着される摺動片24を示す。複数の摺動片24を嵌合し、取付け又は固定する蟻継ぎ状の複数の溝31を摺動片又は滑動部21に設けることができる。また、把持装置6の下面に摺動底板25を固定できる。固定法と変形例には、基本的に制限はない。本実施の形態では、全ての変更が可能である。
【0055】
別法として、(好適には取外し可能に)嵌合される複数の摺動片24を備える完全な滑動部21をクリップ5本体のU型凹部内に嵌合し、例えば、クリップ5の本体の対応する凹部35内に図3bの突起部33を嵌合できる(図4)。
【0056】
図1の平面図に略示する横延伸装置(例えば、逐次式横延伸装置の第1段又は第2段でもよい)に異なる複数の摺動片を使用して、実際の油消費量試験を行うことができる。
【0057】
従来の繊維強化ポリエーテルエーテルケトン製の複数の摺動片から試験を開始し、異なる複数の摺動片を用いて試験を行った。特に、搬送チェーンの各クリップに摺動片を取り付けて、複数の案内レール及び/又は支持レールの複数の摺動面に複数の摺動片を相互に接触させた。その後、本発明の複数の摺動片の接触対応試験を実施して計測を行ったが、試験結果を試験片表示:B21と略称することもある。実際の延伸装置による生産条件下で、試験により実際の潤滑油消費値を計測した。延伸装置の入口と出口での複数の駆動モータトルク値は、基準としてかつ間接的な媒介変数として役立つ。媒介変数を介して、対応する複数の摺動接触対の摩擦係数を間接的に導き出すことができる。
【0058】
図1に示す駆動装置により、実際の下記試験結果を得た。
・複数の入口モータトルクは、例えば全トルクの55%(本例では、4.400[Nm])であった。
・駆動側出口トルクは、例えば全トルクの31%(本例では、18.400[Nm])であった。
・操作者側出口トルクは、例えば全トルクの28%(本例では、18.400[Nm])であった。
【0059】
延伸領域、加熱処理/冷却領域の各領域での複数の案内レール/支持レールの上面温度と下面温度を図1に示す。
【0060】
図1に示す延伸装置で行った試験では、例えば、延伸装置の入口部、中央駆動領域、中央操作者側及び出口部の4箇所で潤滑剤を用いた。
【0061】
4箇所に潤滑剤を供給した下表1(表中のlはリットル)は、特定の速度係数(1.2)、特定の厚さ係数(1.0)を含む各箇所に対応する1日当たりの潤滑剤消費量の一例を示す。右から2番目の列は、理論的算出値:0.483/日を示す。
【0062】
4箇所に潤滑剤を供給して実際に計測した潤滑剤特性値及び1日当たりの全潤滑剤量を表す実際の潤滑油消費量を末列に示す。
【表1】
【0063】
本発明の摺動片又は黒鉛体
黒鉛製又は実質的割合の黒鉛を含む摺動片又は黒鉛体が従来提案された。また、重合体を使用して含浸する黒鉛製の摺動片の採用も従来では提案された。
【0064】
本発明では、含浸用の重合体を使用して、黒鉛製摺動片の多孔性を利用可能な限り、摺動片の気孔を完全に充填し又は含浸する注入手段のみを本明細書に示す。注入手段により、最終的に摺動片の気孔率が低下して、例えば、摺動片の気孔内への油等の潤滑剤の更なる充填又は浸入が阻止される。
【0065】
本発明は、特定最小気孔率を有する黒鉛製、特に電気黒鉛製の摺動片の使用法を提供する。
【0066】
最小気孔率とは、約8%又は8%を超えるべきである。少なくとも9%又は10%以上が、良好な気孔率値である。25%未満の気孔率値は、十分に可及び良である。
【0067】
例えば、潤滑油等の潤滑剤が、気孔率値の気孔内に浸入するので、黒鉛製摺動片の気孔率は、従来の解決法より明らかに長期間改善される。毛管力により摺動片の気孔に浸入する潤滑剤及び潤滑油は、必要な全潤滑剤量の低減に役立つ。例えば、複数の軸受材を複数の摺動片に組立てる前に、潤滑油浴中に数時間摺動片を浸漬する試験により、複数の摺動片の複数の気孔内に極力完全に潤滑油を浸入させることが、特に有利であることが判明した。摺動片の気孔内への潤滑油の一次飽和により、作動時の摺動片の摩耗が顕著に減少することも判明した。
【0068】
最小割合の無機塩、特に金属塩を気孔内に含浸した黒鉛製摺動片を使用して、本発明の作用・効果を更に改善することができる。特に、リン酸塩(例えば、三級オルトリン酸塩)形態の金属塩を含浸すると、特に良好な結果を得ることができる。特に、リン酸アルミニウム(AlPO)が好適である。摺動片の製造工程時に用いる黒鉛粉末に等方圧加圧を施すと、更なる改良を達成できる。含浸する金属塩の粒径範囲は、3μm以上、好ましくは150μm未満の金属塩化合物、特に金属リン酸塩を採用すべきである。
【0069】
要約すると、本発明の摺動片の単一又は複数の下記特徴、特に組合わせ特徴が重要であることが判明した。
・好ましくは、無機塩、特にリン酸塩(オルトリン酸の塩又はエステル)形態の金属塩を含侵した複数の摺動片
・金属塩、特にリン酸アルミニウム(AlPO)形態の金属塩を含浸した複数の摺動片
・無機塩、特にリン酸塩、更に好適にはリン酸アルミニウム形態の無機塩1重量%~20重量%を埋設した摺動片又は黒鉛体
・粒径d50=30μm、d90=100μm及びd50=5μm、d90=15μmの範囲内、特に好適にはd50=7μm、d50=30μmのリン酸塩及び特に金属リン酸塩
・深度1mm又は2mmの表面領域又は表面層外に金属塩を完全に含浸した複数の摺動片
・複数の摺動片の製造に必要な複数の出発材料を、例えば、等方圧加圧等の適切な処理法で「接合」して、最終的に生成した複数の摺動片
・複数の摺動片の製造出発材料となる特定の粒径範囲かつ粒子分布の黒鉛粉末製造出発材料となる黒鉛粉末の粒径分布の最大値(平均粒径、期待値)及び圧縮製造される摺動片の粒径分布の最大値(平均粒径、期待値)は、所望の機械値、例えば、曲げ強度に対応する粒径分布は、3~15μmであり、好適な平均粒径7~10μmが判明した。中位粒子径d(50)は、14~18μm、10%粒径d(10)は、24μm、90%粒径d(90)は、42~50μmの各粒径寸法を計測した(粒径分布は、粒径値d10、d50及びd90で特徴付けられる。中位粒子径d50は、平均粒径分布を定義する[ドイツ工業規格(DIN)13320]。10%粒径d10と90%粒径d90は、粒径分布の幅dwidthを表す式:dwidth=d90-d10)。
・複数の摺動片の気孔率及び/又は孔分布は、少なくとも≧8容量%又は好ましくは≧9容量%、10容量%、11容量%、12容量%、13容量%、14容量%若しくは≧15容量%である。複数の摺動片の対応気孔率は、更に≦20容量%、特に≦18容量%、16容量%、15容量%、14容量%、13容量%、12容量%又は特に≦11容量%である。
・例えば、空気湿度≧5(好適には8~20)[g/m3]の通常作動条件下で、例えば、潤滑油飽和孔又は通常流体充填孔を有する摺動片である。
【0070】
注釈すると、例えば、理想的にはガウス分曲線布を粒子測定時に基本的に適用できる。
【0071】
試験
公知の複数の繊維強化摺動片を使用すると共に、単一又は複数の本発明の好適な特徴を有する複数の黒鉛製摺動片を使用して、一連の延伸装置の試験を行った。
【0072】
本明細書末尾に添付する表4は、従来の繊維強化黒鉛製摺動片と本発明の黒鉛製摺動片との種々のデータ値を示す。
【0073】
表4は、試料a、b、c、d、e、f、P、SFU及びSRの各データにより公知の黒鉛製摺動片の複数値を示す。
【0074】
本発明の黒鉛体のデータを表4の試料B21で示す。
【0075】
従来のPEEK製繊維強化摺動片と、好適な2又は3特徴を有する本発明の黒鉛体を延伸装置に使用して、複数の繊維強化摺動片と黒鉛製摺動片の一連の試験を行い、得られた必要潤滑剤量を表2に示す。最大送り速度(制限速度)525m/分で、延伸装置を通過して延伸すべき帯状薄膜樹脂を移動するチェーン装置Cを採用した。使用した摺動片を下記に示す。
C1:重合体で含浸した従来のPEEK製繊維強化摺動片。
C2:摺動片C1を変更して一連の試験を行った例えば気孔率10%の黒鉛製摺動片。
C3:摺動片C2をリン酸アルミニウムで完全に含浸して試験に追加した摺動片。
C4:リン酸アルミニウムを含浸して等方圧加圧を施した気孔率10%の黒鉛製摺動片。
【0076】
操業1000時間と、操業1000時間以上の摺動片を備える搬送チェーンを投入して、一連の試験を行った。
【0077】
樹脂薄膜搬送速度525m/分未満、薄膜厚≦20μm、基本係数Bfで、複数の摺動片C1、C2、C3及びC4の分毎/日毎潤滑剤消費量[l=リットル]を下表2に示す。
【表2】
【0078】
速度と薄膜負荷に対する潤滑油消費量を表3に示す。
【表3】
【0079】
制限速度525m/分、チェーン長350[m]で、末行に潤滑油消費値を示す。
【0080】
明確な理解のため、チェーン長KL=350mの標準的なPEEK製摺動装置を備えるチェーン装置C1の計算一例を示す。1000時間を超える操業時間に投入する基本消費量は、下式の通りである。
消費量=KL×Bf=14×350m×10-3=4.9
【0081】
摺動片C4に示す本発明の好適なチェーン摺動装置の潤滑油消費量は、明らかに低減し、僅か0.9[l/24時間]の結果である。
【0082】
本発明の黒鉛製摺動片の好適な特性値
本発明の黒鉛体の好適な特性値を表4に示す。
【0083】
少なくとも好適な気孔率の本発明の黒鉛体の利用が潤滑油低減成功に決定的に重要である。
【0084】
また、無機塩、特に、金属塩、好ましくは金属リン酸塩、特にリン酸アルミニウムを含浸した本発明の黒鉛体は、潤滑剤消費量を更に低減できる。含浸に代えてかつ好適には追加して等方圧加圧を黒鉛体に施すと、潤滑剤消費量の更なる改良が得られる。
【0085】
表面層内に十分な量の無機塩を含浸した摺動片又は黒鉛体は、基本的に十分である。無機塩で完全に含浸した摺動片を用いることが好適である。
【0086】
好適な摺動接触対
前記利点を生ずる本発明の摺動片以外に、特に延伸装置に採用する搬送チェーンの摺動片に接触しかつ同様の固有特性を有する支持材の摩擦成分も良好に低減し、必要な潤滑剤量をより減少できることも判明した。
【0087】
特に、案内レール、支持レール及び/又は場合により、制御レールは、搬送チェーン及び/又は把持装置と協働する延伸装置の支持体になる。好適には搬送チェーン又は把持装置に設けられる本発明の摺動片は、案内レール及び/又は搬送レール(制御レールも可)の対向する摺動面で相互に接触する。均等又は類似の熱膨張係数を有する材料対から良好な物理的併用可能性(両立性、適合性)が生じる。使用目的に応じて組成成分を選択して、複数の摺動片及び相互に作用する複数のレールの熱膨張係数も設定できる。
【0088】
延伸装置に採用する本発明の複数の摺動片は、特に利点を有する。現在までこの利点の特別の試験が従来一度も行われなかった。
【0089】
均等又は類似の熱膨張係数を有する材料の接触対には、物理的に良好な併用可能性が得られる。本発明の摺動片を備える搬送チェーン/把持装置に適する組合せ接触対は、例えば、鋳鉄、硬質金属、酸化アルミニウム、炭化シリコン、ガラス、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)被覆材料、特に、硬合金鋼等の硬質材料で形成されるレールである。これは、延伸装置のレール、案内レール及び支持レールに用いられる材料である。
【0090】
試験に使用する案内レール形態の組合せ材料特性の一例は、下記の通りである:
金属材料記号:1.7225=42CrMo4V(調質鋼)
表面粗度:Rz5(研磨済)
硬度: 表面 >600-650 HV 0.5
深部 0.2>400 HV 0.5
中心硬度0.3>300+50 HV 0.5
熱膨張係数(20℃~200℃): 12.1×10-6K-1
【0091】
特性係数の変化に対する必要潤滑剤量の変更
潤滑剤消費量の変化に影響する他の特性係数を基本的に挙げることができる。
【0092】
潤滑剤消費量の下記変化は、従来の黒鉛体にも生ずるが、本発明の黒鉛体を使用するときに特に驚くべき対応効果が部分的に生ずる。本発明の黒鉛体、好適には更に処理した本発明の黒鉛体を使用すれば、複数の従来の解決法、特に、複数のPEEK製摺動片を使用する解決法よりも、全試験で必要な潤滑剤消費量は、確実かつ明白に減少する。
【0093】
好適には鋼製の又は母材に鋼を含む案内レール/支持レール(及び/又は制御レール)との接触状態で、本発明の摺動片は、従来と同様に、特に延伸装置に使用される。
【0094】
速度に対する特性係数
前記表に示す基本値に対して、制限速度以降では、線形に上昇する速度に応じて油消費が追加される。
【0095】
試験では、下式の関係が判明した。
Fv=(vE-vG)[m/分]×0.3[%分/m]+1
左辺のFvは、薄膜厚20μmに対する最終速度vEでの潤滑油消費量の補助係数である。制限速度vGは、各チェーン装置に依存する。使用したチェーン装置Cの制限速度vGは、300[m/分]である。制限速度vGまでは一定の油消費値が適用される。
【0096】
負荷に依存する特性係数
20μmを超える薄膜厚では、より大きい薄膜厚による補助力が発生して、薄膜厚thに関する係数FDとして、油消費量は、下式の関係で上昇する:
FD=(th-20)[μm]×1.5[%/μm]+1
【0097】
薄膜厚に対する潤滑量を示す図6(グラフ)を欠如又は誤特徴と認識するかもしれないが、表7は、黒鉛製摺動片(C1、C2、C3又はC4)を使用する際の潤滑剤量を示す。
【0098】
前記補償値を使用して、複数の摺動片と共に案内レールに沿う長手方向に移動する搬送チェーンを使用する対応する延伸装置の潤滑油又は潤滑剤の1日消費量を図7に示す。
【0099】
図7は、摺動片C1、C2、C3、C4に対応する速度補助係数Fv、負荷補助係数FD及び油消費量を示す。摺動片C1~C4に応じて、図7には、速度補助係数Fvを、a1、a2、a3及びa4で示し、負荷補助係数FDを、bl、b2、b3及びb4で示す。
【0100】
本発明の摺動片は、下記の場合に必要な潤滑剤の劇的な減少が図7から明白である。
・所望の最小気孔率(8%以上、好適には20%未満)のみを有する場合、
・摺動片C3では、金属塩、好ましくは金属リン酸塩形態での金属塩、図示の実施の形態では、リン酸アルミニウムを補助的に黒鉛体に含浸した場合、及び、
・前記のように調製した摺動片に補助的に等方圧加圧を加えた場合。
【0101】
図8の左側に、従来の摺動片C1(PEEK製摺動装置)を使用する延伸装置での油剤消費量を示し、右側に本発明の好適な変形例の摺動片をC4で示す。
【0102】
高温度時摺動接触対(案内レール-摺動片)の潤滑剤消費量減少
従来の黒鉛製摺動片も、本発明の黒鉛製摺動片も、使用時の温度が高い程、摺動接触対(案内レール-摺動片)の摩擦係数が減少する点も注目に値する。
【0103】
摺動片の温度特性を図9に示す。
【0104】
摺動接触対Fが、より高い温度に達すると、更に摩擦係数が減少する。
【0105】
図9に示す摩擦係数は、製造者データの第1の摩擦係数R1、試験装置から得られる第2の摩擦係数R2及び第1の摩擦係数R1と第2の摩擦係数R2との線形予測から導出される第3の摩擦係数R3の3区分に分割される。
【0106】
黒鉛製摺動片の研磨表面を備える使用済み黒鉛部材の摩擦減少と、関連する必要潤滑剤量の減少
使用済み黒鉛製摺動片と比較すると、トポグラフィーにより本質的な形態差が明らかである。新しい複数の黒鉛製摺動片は、面材毎の高さ断面に通常約5μmまで差異があるが、使用済み複数の黒鉛製摺動片の高さ断面では、通常約1μmの差異に過ぎない。
【0107】
従って、使用済み摺動片の高さ形態は、均質化され、黒鉛体摺動面の先端は研磨される。トポグラフィーでの均質化は、使用済み摺動片の油消費量の一層の減少に寄与しかつその根拠を示すものである。
【0108】
本発明の複数の摺動片
特性表4を終頁に示す。
【0109】
表4は、種々の試験構造体での摺動片の試験値を示す。
【0110】
類似の試験と類似の試験装置により、試片a、b、c、d、e、f、P、SFU、SR及びB21で示す摺動片の列挙する各特性を得た。試片a~f、P、SFU及びSRは、従来の摺動片である。最左列から2番目の試片B21は、最適化された本発明の摺動片を示す。
【0111】
密度、硬度、曲げ強度、圧縮強度、対応弾性率、熱膨張率、熱伝導率等の該当値等は、従来の摺動片と本発明の摺動片B21に関する表4の特性から理解できよう。
【0112】
最右列Eに示す本発明の摺動片の好適特性値は、例えば、左隣列に示す本発明の摺動片B21の試験値を75%まで下回り、この試験値を25%まで上回れる余地を示す。
【0113】
本発明の摺動片の好適な特性を示す好適な範囲データを最右列Eに示す。
【0114】
例えば、本発明の摺動片B21に示す多孔性10容量%は、7.5容量%~12.5容量%の範囲で変動し得ることが明白である。
【0115】
前記範囲で示す各部分の領域間には特性偏差があり得る。
【0116】
例えば、-≦25%で示す各値は、好ましくは-25%、-24%、-23%、-22%…-5%、-4%、-3%、-2%又は-1%未満、最適値から反れても良い。
【0117】
また、例えば、+≦25%で示す値は、好適には最右の隣列の各値に対して、+25%を超えず、特に+24%、+23%、+22%…+5%、+4%、+3%、+2%又は+1%を超えない。
【0118】
特に多孔性での特性偏差は、重要である。場合により、前記以外の値は、示す範囲限界を下回らず又は上回ることがある。
【表4】
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9