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特開2023-62179肺および血管の健康状態を検査し評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062179
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】肺および血管の健康状態を検査し評価する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20230425BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
A61B6/03 360D
A61B6/03 360J
A61B5/055 380
【審査請求】有
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026992
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2019547118の分割
【原出願日】2018-02-27
(31)【優先権主張番号】62/464,540
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.SMALLTALK
2.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】516308799
【氏名又は名称】4ディーメディカル リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ-サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】サマラージュ、チャミンダ ラジーブ
(72)【発明者】
【氏名】フォウラス、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、ヘザー
(72)【発明者】
【氏名】タプソン、ヴィクター
(57)【要約】      (修正有)
【課題】疾病状態その他の不調の検査において、血管を分析する非侵襲的な方法を与える。
【解決手段】本発明は、生体内スキャンからのデータセットを用いて病気をスキャンする方法に関する。この方法は、(1)スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、(2)抽出された血管位置データ内の領域を選択するステップと、当該選択された領域内の血管サイズデータを、対応する基準データセットの領域内の血管サイズデータと比較するために、コンピュータを用いて血管サイズの分析を実行するステップと、を含む。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内スキャンからのデータセットを用いて病気をスキャンする方法であって、
-当該スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-当該選択された領域内の血管サイズデータを、対応する基準データセットの領域内の血管サイズデータと比較するために、コンピュータを用いて血管サイズの分析を実行するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基準データセットは、複数の健康な人のスキャンの平均であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択された領域は、3次元体積を持つ領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
選択された領域は、所定の点までの血管構造の末端の全体を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記血管サイズの分析を実行するステップは、選択された領域内の血管の血管直径の分布を評価するステップを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記血管サイズの分析を実行するステップは、
血管世代値または経路長に対する血管直径の線プロットを生成するステップと、
当該線プロットを、対応する基準データセットの線プロットと比較するステップと、を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
造影剤を用いずに取得された生体内スキャンからのデータセットを用いて肺の病気をスキャンする方法であって、
-前記生体内スキャンからのデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された前記血管位置データ内の第1領域および第2領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、前記第1領域内の血管サイズデータと、前記第2領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記第1領域および前記第2領域は、3次元体積を持つ領域を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1領域および前記第2領域は、所定の点までの血管構造の末端の全体を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
データセットが導出される前記生体内スキャンは、3次元(3D)生体内スキャンであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
治療前の生体内スキャンからのデータセットと、治療後の生体内スキャンからのデータセットとを用いて肺の病気の治療効果を評価する方法であって、
-前記治療前の生体内スキャンからのデータセットおよび前記治療後の生体内スキャンからのデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-前記治療前の生体内スキャンからのデータセットまたは前記治療後の生体内スキャンからのデータセットのいずれかから抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-当該選択された領域内の血管サイズデータを、対応する基準データセットの領域内の血管サイズデータと比較するために、コンピュータを用いて血管サイズの分析を実行するステップと、を含み、
前記治療前の生体内スキャンおよび前記治療後の生体内スキャンは、造影剤を用いずに得られることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記データセットは、3次元(3D)生体内スキャンから得られることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
選択された領域は、3次元体積を持つ領域を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項14】
選択された領域は、所定の点までの血管構造の末端の全体を含むことを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記血管サイズの分析を実行するステップは、選択された領域内の血管の血管直径の分布を評価するステップを含むことを特徴とする請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記血管サイズの分析を実行するステップは、
血管世代値または経路長に対する血管直径の線プロットを生成するステップと、
当該線プロットを、対応する基準データセットの線プロットと比較するステップと、を含むことを特徴とする請求項11から15のいずれかに記載の方法。
法。
【請求項17】
生体内スキャンは、X線コンピュータトモグラフィスキャンであることを特徴とする請求項11から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
スキャンデータセットから血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップは、確率フィールドおよびスケールフィールドを与えるために、スキャンデータにフィルタを適用するステップを含むことを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記確率フィールドから血管構造木を抽出するために、前記確率フィールド上で血管のセグメント化を行うステップを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記血管構造木のジオメトリを定量化するために、前記スケールフィールドを、セグメント化された血管構造木にマッピングするステップを含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法を実行するコンピュータプログラムが記録された非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記コンピュータプログラムはコンピュータのプロセッサにより実行されたとき当該コンピュータに以下のステップを実行させ、
当該ステップは、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、当該選択された領域内の血管サイズデータと、基準データセットの対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を備えることを特徴とする記録媒体。
【請求項22】
請求項7に記載の方法を実行するコンピュータプログラムが記録された非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記コンピュータプログラムはコンピュータのプロセッサにより実行されたとき当該コンピュータに以下のステップを実行させ、
当該ステップは、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された前記血管位置データ内の第1領域および第2領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、前記第1領域内の血管サイズデータと、前記第2領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を備えることを特徴とする記録媒体。
【請求項23】
請求項11に記載の方法を実行するコンピュータプログラムが記録された非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記コンピュータプログラムはコンピュータのプロセッサにより実行されたとき当該コンピュータに以下のステップを実行させ、
当該ステップは、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-治療前スキャンデータセットまたは治療後スキャンデータセットのいずれかから抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-治療効果を評価するために、当該選択された領域内の血管サイズデータと、他方のスキャンデータセット内の対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を備えることを特徴とする記録媒体。
【請求項24】
非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、生体内スキャンからのデータセットを用いて病気をスキャンするように適合されたアプリケーションであって、以下の方法を実行するための所定の命令セットを備え、
当該方法は、
-当該スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、当該選択された領域内の血管サイズデータと、基準データセットの対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を備えることを特徴とするアプリケーション。
【請求項25】
非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、生体内スキャンからのデータセットを用いて病気をスキャンするように適合されたアプリケーションであって、以下の方法を実行するための所定の命令セットを備え、
当該方法は、
-当該スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された前記血管位置データ内の第1領域および第2領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、前記第1領域内の血管サイズデータと、前記第2領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を備えることを特徴とするアプリケーション。
【請求項26】
非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、治療前の生体内スキャンからのデータセットと、治療後の生体内スキャンからのデータセットとを用いて肺の病気の治療効果を評価するように適合されたアプリケーションであって、以下の方法を実行するための所定の命令セットを備え、
当該方法は、
-当該スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-治療前スキャンデータセットまたは治療後スキャンデータセットのいずれかから抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-治療効果を評価するために、当該選択された領域内の血管サイズデータと、他方のスキャンデータセット内の対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を備えることを特徴とするアプリケーション。
【請求項27】
患者に治療を行う前に実行された生体内肺スキャンからの第1のデータセットと、患者に治療を行った後に実行された生体内肺スキャンからの第2のデータセットと、を用いて肺の病気の治療効果を評価する方法であって、
-前記第1のデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-前記第1のデータセットまたは前記第2のデータセットのいずれかから抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-当該選択された領域内の血管サイズデータを、対応する基準データセットの領域内の血管サイズデータと比較するために、コンピュータを用いて血管サイズの分析を実行するステップと、を含み、
前記第1のデータセットおよび前記第2のデータセットは、造影剤を用いずに得られることを特徴とする方法。
【請求項28】
前記治療は、患者に治療薬または免疫療法薬を投与することを含むことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
第1の生体内肺スキャンからの第1データセットと、治療計画を行った後に実行された 第2の生体内肺スキャンからの第2データセットと、を用いて肺疾患の患者を治療する方法であって、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-第1スキャンデータセットまたは第2スキャンデータセットのいずれかから抽出された前記血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-当該選択された領域内の血管サイズデータを、対応する基準データセットの領域内の血管サイズデータと比較するために、コンピュータを用いて血管サイズの分析を実行するステップと、を含み、
前記第1データセットおよび前記第2データセットは、造影剤を用いずに得られることを特徴とする方法。
【請求項30】
前記肺疾患は、肺高血圧、肺塞栓症、鬱血性心不全、急性肺傷害または肺がんのいずれかから選択されることを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
各データセットは、3次元(3D)生体内スキャンから導出されることを特徴とする請求項27から30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
選択された領域は、3次元体積を持つ領域であることを特徴とする請求項27から30のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
選択された領域は、所定の点までの血管構造の末端の全体を含むことを特徴とする請求項27から31のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記血管サイズの分析を実行するステップは、選択された領域内の血管の血管直径の分布を評価するステップを含むことを特徴とする請求項27から33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記血管サイズの分析を実行するステップは、
血管世代値または経路長に対する血管直径の線プロットを生成するステップを含むことを特徴とする請求項27から34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記患者に治療を行う前に実行された生体内肺スキャンおよび前記患者に治療を行った後に実行された生体内肺スキャンは、X線コンピュータトモグラフィスキャンであることを特徴とする請求項27から35のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国立衛生研究所により付与された許可番号HL125806に基づき、政府の援助により作成された。政府は、本発明に関し一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、造影剤を用いない医療画像化技術に関する。
【0003】
ある実施の形態では、本発明は、体内の管、特に肺血管系などの血管の画像化の分野に関する。
【0004】
ある特定の態様では、本発明は、肺および血管の健康状態を検査する技術として使うのに好適である。
【0005】
以下本発明を、肺動脈高血圧症(PAH)または肺塞栓症(PE)に関係する肺血管系の異常の検出と関連させて説明すると便利だろう。しかしながら本発明はそのようには限定されず、器官組織とその内部の水分との間に十分なコントラストがあれば、身体の他の部位(脳、心臓、肝臓、腎臓など)の血管系におけるその他の異常の検出にも適用可能であると理解すべきである。さらに本発明は人間への応用に限定されず、広範囲の獣医学への応用にも好適である。
【0006】
さらに以下本発明を、X線CTを使ったスキャンと関連させて説明すると便利だろう。本発明はそうしたスキャン技術に限定されず、例えば、X線コンピュータトモグラフィ(CT)、特に4D-CT、MRI、超音波その他のスキャン技術を含む他の形式のスキャンにも使うことができると理解されるべきである。
【背景技術】
【0007】
本明細書におけるいかなる文書、装置、動作または知見の議論も、本発明の文脈を説明するために含まれると理解されるべきである。さらに、本明細書のすべての議論は、本発明者によるある種の技術課題の特定および/またはその解決に基づく。さらに、本明細書における文書、装置、動作または知見などのいかなる素材の議論も、本発明者の知見および経験を用いて本発明の文脈を説明するために含まれる。従ってこうした議論が、任意の素材が本開示および請求項の優先日以前の先行技術基盤や豪州における関連技術の一般共通知識その他の一部を形成することを許諾するものであると解釈してはならない。
【0008】
肺動脈高血圧症(PAH)は深刻な病気である。この病気では、肺の血管系が、血流に対する抵抗を増加させる。これは右心室に緊張をもたらす。このため右心室は、心拍出量を維持するために、一層高い圧力を生成しなければならない。PAHの結果、深刻な低酸素症が進行し、右心不全を発症し、最終的に死に至る。現行のPAHのスクリーニングおよび診断様式は理想的ではない。なぜなら、他にも限定がある中で、心エコー図のような非侵襲的なスクリーニング方法は、初期疾患を検知しないからである。さらに、肺動脈(PA)血圧の心エコー図評価は、実際の血圧を過小または過大評価する可能性がある。
【0009】
肺動脈血圧の正確な測定は、侵襲的な右心カテーテルを必要とする。これは、肺高血圧症評価のゴールドスタンダードである。この目的のために、圧力トランスデューサを備える大型のカテーテルが、頚静脈から心臓の右側を通って肺動脈内に挿入される。侵襲の持つ特質、専門の技術スタッフと設備の必要性、費用などが理由で、右心臓のカテーテルは、個々の患者の薬物への反応検査や日常の検査には使われない。従って、PAHを診断するための追加的な非侵襲プロトコル、特に肺血管血圧の正確な検査が強く望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
過去20年以上、PAHに含まれる不連続で独立した経路をターゲットとする多くの薬品が開発されてきた。その結果、生存率が上がり、肺移植を必要とする患者が減った。PAHの病因に含まれる原因的分子経路は関連する条件(膠原血管病、HIV感染など)によって異なるだろうから、与えられた治療薬の効果を患者ごとに予測することは不可能である。
【0011】
残念ながら、高感度で正確な臨床エンドポイントがないため、広範囲のPAH治療薬に対する臨床反応の検査は極めて限定される。死亡率、臨床悪化時間(TTCW)および6分歩行検査の距離は、新たなPAH治療薬の研究に使われる主要な治療効果基準だが、理想的なものではない。死亡率エンドポイントは、大規模で広範囲の試験を必要とする。TTCWは複合エンドポイントであり、研究ごとに異なる。治療開始後の6分歩行検査における変化は、肺高血圧症の治療効果を予測するものではないと考えられる。
【0012】
従って、PAH薬治療に反応して生じる臨床効果は、PAH研究の大黒柱である6分歩行検査では正確に測れない。これは、エンドポイントが高感度でないため、薬が市場に出るメリットを奪っていることを示唆する。言い換えれば、臨床試験で得られる効果の限定された読み取りによって、新規な期待されるPAH治療薬の効果を直接調べることのできる可能性は厳しく切り詰められている。
【0013】
神経学、心臓学および腫瘍学の分野ではX線コンピュータトモグラフィ(CT)などの非侵襲的方法が発展している。しかしながら、血管系を明確に視認できる画像を得ることが困難なことから、肺治療での進展は止まっている。医療造影剤は視認性を向上させるが、ある種の患者のスキャニングには使うことができない。さらに、造影剤を使ったとしても、疾病状態やその他の不調に起因する血管系の変化を検知することは依然として困難である。例えば、現在のところ、PAHの影響を受けた血管系を視覚化する方法はない。
【0014】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的の1つは、疾病状態その他の不調の検査において、血管を分析する非侵襲的な方法を与えることにある。
【0016】
本発明の別の目的は、血管系の効果的な機能的画像化を進展させることにある。
【0017】
本発明のさらなる目的は、関連技術に関係する少なくとも1つの欠点を軽減することにある。
【0018】
本明細書に記載される実施の形態の目的は、関連するシステムにおける前述の少なくとも1つの欠点を克服または軽減すること、あるいは少なくとも関連する技術システムに対する有用な代替システムを与えることにある。
【0019】
本明細書に記載される実施の形態の第1態様では、生体内スキャンからのデータセットを用いて病気をスキャンする方法が与えられる。この方法は、
-当該スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、当該選択された領域内の血管サイズデータと、基準データセット内の対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を含む。
【0020】
データセットは、二次元(2D)または三次元(3D)スキャンから得られたものであってよい。データセットは3Dスキャンから得られることが好ましいが、蛍光透視のような2Dスキャンも好適である。データセットは、X線コンピュータトモグラフィ(CT)スキャンのようなX線を用いて得られることが好ましい。CTは、単一の回転軸周りでスキャンすることにより生成された一連のレントゲン写真のデータセットを撮影する。データセットは、3Dスキャンを生成するために、コンピュータによりデジタルジオメトリ処理される。本明細書で「生体内」という用語を使うときは、生体画像や生体スキャンに関し、対象物が生きている状況を表すことが理解される。例えば生体内肺画像(例えばX線画像)は、対象から摘出された肺画像ではなく、生きている対象内にある肺画像であることを意味する。
【0021】
典型的には、本発明の方法は完全に自動化される。データセットは、選択的に1つ以上の画像に変換されてよい。これは、関係する血管または関連する領域が視覚的に選択されていれば有用だろう。本発明のユーザは、どの血管あるいはどこの血管が検査されているかを理解しようとするとき、画像の世代があれば便利だろう。しかしながら、本発明の方法のステップを実行するには、一般にコンピュータを使用することが望ましい。なぜなら、コンピュータはデータセットを客観的かつ効率的に利用するからである。
【0022】
スキャンは造影剤を用いずに得られることが望ましいが、必須ではない。ヨードのような造影剤は、スキャンから得られた画像を鮮明に視覚化するのを助ける目的で使われ、特に2Dスキャンでは望ましい。造影剤は、医療画像における身体内の構造や流体のコントラストを改善し、視認性を高める。しかしながら、造影剤の服用による医学的副作用の可能性もある。副作用の範囲は、小さなものから深刻なものにまで及ぶ。深刻な副作用のリスク因子は、強いアレルギー、気管支喘息、心臓病、薬の使用を含む。造影剤腎症(CIN))は、院内急性腎不全の3番目の原因である。従っていくつかのアプリケーションでは、造影剤を用いずに生体スキャンを実行することに関し、本発明の方法を使うことが望ましい。
【0023】
基準データセットは、複数の健康な人のスキャンの平均を含むことが望ましい。基準データセットを形成する健康なスキャンは、現存する(または歴史的な)スキャン(例えば過去のデータセット)のみから構成されてもよく、あるいはこれらを含んでもよい。
【0024】
本明細書に記載される実施の形態の第2態様では、生体内スキャンからのデータセットを用いて肺の病気をスキャンする方法が与えられる。この方法は、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-抽出された血管位置データ内の第1領域および第2領域を選択するステップと、
-血管の健康状態を判断するために、第1領域内の血管サイズデータと、第2領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を含む。
【0025】
本明細書に記載される実施の形態の第3態様では、治療前の生体内スキャンからのデータセットと、治療後の生体内スキャンからのデータセットとを用いて肺の病気の治療効果を評価する方法が与えられる。この方法は、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-治療前スキャンデータセットまたは治療後スキャンデータセットのいずれかから抽出された血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-治療効果を評価するために、選択された領域内の血管サイズデータと、他方のスキャンデータセット内の対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を含む。
【0026】
従って本発明の方法は、肺の病気の治療効果の直接視覚化と、新薬および新治療計画の研究における効果を測定する方法を与える。特に本方法は、肺高血圧症のための血管拡張剤その他の療法の効果や、肺高血圧症の新薬の効能を直接視覚化するのに有用だろう。
【0027】
続いて、本明細書に記載される実施の形態の第4態様では、患者に治療を行う前に実行された生体内肺スキャンからのデータセットと、患者に治療を行った後に実行された生体内肺スキャンからのデータセットと、を用いて肺の病気の治療効果を評価する方法が与えられる。この方法は、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-治療前スキャンデータセットまたは治療後スキャンデータセットのいずれかから抽出された血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-治療効果を評価するために、選択された領域内の血管サイズデータと、他方のスキャンデータセット内の対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、を含む。
【0028】
好ましい実施の形態では、治療は、患者に治療薬または免疫療法薬を投与することを含む。
【0029】
データセットは、2Dまたは3Dスキャンから得られてよい。データセットは3Dスキャン(3D画像のような)から得られることが好ましいが、蛍光透視のような2Dスキャンも好適である。
【0030】
スキャンは画像に変換されてよいことが理解される。これは、関連する血管または関連する領域を選択するのに有用だろう。
【0031】
血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップは、確率フィールドおよびスケールフィールドを与えるために、スキャンデータセットに(例えば、三次元生体内画像に)フィルタを適用するステップを含むことが望ましい。確率フィールドから血管構造木を抽出するために、確率フィールド上で血管のセグメント化を行ってもよい。1つの好適な血管のセグメント化の方法が、例えば、出願中の豪州特許出願2016900817「肺画像化方法およびシステム」およびこれに対応する国際特許出願PCT/AU2013/000390に開示されている。
【0032】
血管構造木のジオメトリを定量化するために、スケールフィールドを、セグメント化された血管構造木にマッピングすることは、さらに望ましい。
【0033】
サイズデータの分析は、例えば以下のパラメータを比較することを含んでもよい。
・当該領域における平均直径
・当該領域における血管サイズ/直径の分布
・メジャーなピークの高さ
・メジャーおよびマイナーなピークの高さ
・メジャーなピークとマイナーなピークの高さの差/比
・すべての血管の中央値(すなわち、すべての血管の50%の値)
・世代番号に対する血管サイズ(例えば、直径、断面積等)のヒストグラム/線プロット
・経路長に対する血管サイズ(例えば、直径、断面積等)のヒストグラム/線プロット
・血管サイズ(例えば、直径、断面積等)に対する血管長
【0034】
本発明は、血管世代のような他のタイプのサイズ/測定、例えば、与えられた血管世代に関する血管直径、健康な肺と病気の肺での血管直径の違い、ある世代から次の世代への血管直径の変化、特定の血管セグメントにおける先細り具合(すなわち、そのセグメントに関する、近くの血管直径と遠くの血管直径との比)、などとともに利用することができる。さらに、肺の体積当たりの血管数といったパラメータは、「つぶれた」または「活動を停止した」血管に関し、ある種の疾患、回復および悪化を示すだろう。
【0035】
以上のことから、本発明の方法が幅広い病気や疾病状態に適用可能であることは、当業者にとって明らかだろう。本発明の方法は、PAHおよびPEの診断に加えて、鬱血性心不全、急性肺傷害、肺がんなどの疾病状態を検知するのにも好適であることを当業者は理解するだろう。
【0036】
例えば患者が心不全であるとき、肺静脈血圧は上昇する(右心カテーテルで測定された左動脈血圧の上昇の反映として。肺動脈楔入圧でも知られる)。患者が息切れを示したとき医師はしばしば、それが心臓疾患(心不全)なのか、肺疾患(肺塞栓症、喘息またはPOCDなどの他の病気)なのかを判断する必要がある。肺静脈(これは肺から心臓の左側に向けて通り、心不全では充血する)のサイズと、肺動脈(これは心臓の右側から出る)のサイズとを比較できれば、息切れの他の原因と比べたときに、心不全に特有なパターンを生成できるだろう。
【0037】
本発明の方法は、患者(特に先天性心臓疾患のある子供、こうした子供は肺高血圧症が進行する)において刻々と進行する血管の変化を特徴付けることにも有用だろう。心臓病を持った子供の血管形態を時間的にフォローすることは、将来のどの時点で心臓病の治療または手術を開始する必要があるかを決定することに使える。
【0038】
本発明の方法は、急性肺傷害における肺血管の反応が異常なものであって(障害部位の血管が縮小するのではなく拡張している)、この異常に対応するための治療が必要であるかを判断することにも有用だろう。
【0039】
本発明の方法は、肺気腫などの疾病状態において、おそらくは血中酸素飽和分析や血液ガス分析などの既存の方法と組み合わせて、状態の深刻さを判断するための手段としても有用だろう。
【0040】
本発明の方法は、肺がんを検知すること、またはその肺がんが本来的に高度に血液性のものである場合、肺部位における血管のパターンに基づき化学療法に対する反応を検知することにも有用だろう。例えば、肺がん患者はCTスキャンを受け、その結果がんの存在する部位で、多くの異常な血管が発見されるだろう。化学療法後に患者が繰り返し受けるCTスキャンは、すべての異常血管が減少/凝固したことを示す。これは、先行技術による現時点の「腫瘍サイズの縮小」の読み出しに比べて、より正確/高感度な化学療法に対する反応のマーカとなる。
【0041】
代替的に、患者の肺がんが切除された場合は、血管パターンのベースラインを得るために、がんの切除後すみやかにCTスキャンがとられるだろう。仮説上は、患者は4月から6月ごとにスキャンを繰り返し受けるだろう。なぜなら、過去にがんがあった位置に隣接した領域における血管密度の増大は、すべての可視的な腫瘤に先行するからである(血管の増大を示す腫瘍からの信号が、腫瘤が可視的になる前に起きれば)。本発明の方法の使用は、がん再発の早期発見を促進し、さらなる化学療法、手術その他の適切な治療をより早期に開始することが可能となる。
【0042】
このように、本発明の方法は、肺の健康状態の診断だけでなく、個々の患者の治療の一部として使用することができる。
【0043】
本明細書に記載される実施の形態の第5態様では、第1の生体内肺スキャンからの第1データセットと、治療計画を行った後に実行された第2の生体内肺スキャンからの第2データセットと、を用いて肺疾患の患者を治療する方法が与えられる。この方法は、
-スキャンデータセットから、血管位置データおよび血管サイズデータを抽出するステップと、
-第1スキャンデータセットまたは第2スキャンデータセットのいずれかから抽出された血管位置データ内の領域を選択するステップと、
-選択された領域内の血管サイズデータと、他方のスキャンデータセット内の対応する領域内の血管サイズデータとを比較するステップと、
-治療効果を評価するステップと、
-患者に対する新たな治療計画を決定するステップと、を含む。
【0044】
このようにして、本発明の方法を用いて患者をモニタすることができ、肺の反応に基づいて治療計画を適切に調整することができる。計画における治療の各ラウンドは、反応に合わせて調整することができる。
【0045】
その他の態様および好ましい形態が明細書に開示され、および/または、添付の請求項(本発明の明細書の一部を形成する)で定義される。
【0046】
本質的に本発明の実施形態は、肺血管構造を直接可視化する(好ましくは三次元で)ためにスキャン(好ましくは造影剤を用いないスキャン)が使えること、肺血管の直径を正確に測定することができること、さらなる分析においてPAHのような疾病状態を正確に診断し深刻さを段階付けるためにCTスキャンが使えることなどに由来する。しかしながら、本方法(および方法ステップ)の特定の組み合わせは、過去に使われたことはない。
【0047】
本発明によって与えられる利点は、以下を含む。
・肺および血管の健康状態を評価するための非侵襲的診断
・肺高血圧症治療などの治療に対する、肺血管基盤の反応を視覚化するための検査
・新薬および新たな治療計画の研究における効果測定の実現
・侵襲的処置を必要としない、肺高血圧症などの疾病の正確な診断と深刻さの段階付けの実現
・血管疾患治療の促進と最適化の実現
・肺の反応に基づく、治療計画のモニタと的確な調整の実現
・肺高血圧症などの疾病管理の、右心カテーテルなどの侵襲的測定から非侵襲的測定への置き換え
【0048】
以下の詳細な説明により、本発明の実施形態の応用のさらなる範囲が明らかとなるだろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものの、これらは例示のみにより与えられることを理解されたい。なぜなら当業者には、以下の詳細な説明から、本開示の思想および範囲内での様々な変形や改良が可能であることが明らかだからである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本出願の好ましい実施形態や他の実施形態のさらなる開示、対象、利点および態様は、添付の図面と関連付けて、以下の実施形態の説明を参照することにより、当業者によりよく理解されるだろう。しかしながら、これらは例示のみを用いて与えられるものであって、本開示を限定するものではない。
図1】本発明の血管の健康状態を判断する第1実施の形態のフロー図である。
図2】本発明の血管の健康状態を判断する代替的な実施の形態のフロー図である。
図3】本発明の治療効果を評価する代替的な実施の形態のフロー図である。
図4図1から3に示される、血管位置データおよび血管サイズデータの抽出のフロー図である。
図5A】実験室X線源を用いた肺の世代の典型的な2D投影画像である。
図5B】肺血管構造におけるヨード造影剤とともに、実験室X線源を用いた肺の世代の典型的な2D投影画像である。
図5C】マルチスケール形状フィルタを用いて抽出した確率フィールドの等角図である。
図5D】セグメント化された血管構造の等角図である(図5Cの確率フィールドから得られた)。各枝の各点の中心線でのスケール値で色付けされている。
図6A】2つの関心領域を伴う、図5Cに示される確率フィールドの等角図である。
図6B】領域を決定する代替的な方法を伴う、図5Cに示される確率フィールドの等角図である。
図6C】領域を決定するさらに代替的な方法を伴う、図5Cに示される確率フィールドの等角図である。
図7A】比較ステップの例を示す図であり、特に4人の患者(n=2の管理、n=2のPAH)における血管構造分布の線プロットである。
図7B】比較ステップの別の例を示す図であり、特に図7Aのデータから得られる血管密度変化インデックスのヒストグラムプロットである。
図8A】世代番号に対する血管直径の線プロットである。
図8B】血管直径に対する体積(血管の全体積)の線プロットである。
図8C】血管断面積に対する長さ(血管の全長)の模式的な線プロットである。
図8D】血管断面積に対する体積(血管の全体積)の模式的な線プロットである。
図8E】健康な人に関し、血管構造内の点からの経路長に対する直径のヒートマップである。
図8F】PAH患者に関し、血管構造内の点からの経路長に対する直径のヒートマップである。
図9】セグメント化された血管構造を可視化した図であり、領域運動情報を3つのスライス位置でオーバーレイしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1から3は、本発明の3つの異なる実施態様を示す。最初に図1を参照すると、例えば肺高血圧症や肺動脈の血圧上昇などの血管の病気を、造影剤を用いずに得られた10三次元生体内画像110からスキャニングする方法が与えられる。血管位置データ120および血管サイズデータ121が、三次元画像110から抽出される20。血管位置データ120および血管サイズデータ121が抽出されると20、分析のために、抽出された血管位置データ120における領域130が選択される30。その後、選択された領域130内の血管サイズデータ121が、基準データ50の対応する領域内の血管サイズデータと比較される40。この比較40を実行することによって、肺動脈のような血管が健康領域(すなわち、標準データセットに近い)にあるか、非健康領域(すなわち、標準データセットから著しく離れている)にあるかを決定することができる。これにより血管の健康状態を判断することができる。特にPAHでは、血管の直径が減少しまたは縮み、血管はより細くなる。
【0051】
造影剤を用いない3D生体内画像110を取得するステップ10は、任意の好適な医療画像化方法を用いて実行することができる。例えば、X線コンピュータトモグラフィ(CT)スキャンが、「息を止めて」実行されてよい。このとき患者は、スキャン中に息を止める。心臓が移動すること(これによりぶれが発生し、肺や血管の位置が物理的に影響される)を防ぐため、息を止めたCTスキャンは心周期で「ゲート」されてよい。これにより、CT解像度が上がる。代替的に本方法は、現行の(あるいは歴史的な)造影剤を使用しない画像データ(例えば、過去のスキャンから得られた患者のデータ)に適用することもできる。
【0052】
運動する器官(例えば呼吸する肺)を画像化する4DCTのような4D画像化技術も、造影剤を用いない3D生体内画像110を取得することに用いることができる。4DCTは本質的に3D画像の時系列を取得する。これにより、4Dのフルデータの組から、所望の1枚の3D画像(肺血管系と肺自身との間の信号帯雑音比が最大になる、最も息を吸い込んだときの3D画像)を抽出することができる。
【0053】
代替的に、複数の観測角度から一連の2D画像を取得し、これを再構成して3D画像を形成してもよい(例えば、円錐ビームコンピュータトモグラフィ再構成(CBCT)を用いた一連の2D画像)。造影剤を用いない3D生体内画像110を取得10するために、任意のCT、4DCT、CBCT、MRIその他の医療画像化技術を用いてよいことが理解される。肺血管系の検査を目的とした肺のスキャン(例えば胸部X線)というときは、これらの技術は、造影剤を用いない肺血管造影検査(CFPA)技術といってもよい。造影剤を用いずに画像を取得することの利点は、造影剤を服用することによる既知の副作用(例えば皮膚病変、めまい、吐き気、生命の危険のある不整脈、脳卒中、造影剤腎症(CIN))を避けることができることにある。
【0054】
次に図4および5を参照して、血管位置データ120および血管サイズデータ121を抽出するステップ20を説明する。こうした血管位置データおよび血管サイズデータを抽出する方法は複数存在するが、以下好ましい方法を議論する。最初に、3D生体内画像10上で、マルチスケール形状フィルタ22として示される形状ベースフィルタが実行される。「与えられたスケールで画像10内のボクセルが特定の形状の一部である」確率を決定するために、形状ベースフィルタは3D画像10内のすべてのボクセルに適用される。これにより、当該スケールの確率フィールド(確率画像とも呼ばれる)が生成される。形状ベースフィルタは、複数のスケールで適用されてもよい(例えばマルチスケール形状フィルタ22)。この場合、各スケールに1つずつ、複数の確率フィールドが生成される。こうして、問い合わせ可能な確率データとスケールデータとが生成される。3D生体内画像をビニングしてもよいことが理解されるだろう(例えば、3D画像を元の画像の1/8のサイズに縮小するために、2×2×2画像ビニングを用いることができる)。ビニングは、画像からのアーティファクトを除去する、および/または、形状ベースフィルタを実行中に発生するアーティファクトを防止するのに役立つ。
【0055】
確率フィールド23(または確率画像)全体は、複数の単一スケールの確率フィールドを結合することにより形成されてもよい(図5C参照)。これは、各確率フィールド内の第1のボクセルの確率を比較して最も高い確率を選び、各確率フィールド内の第2のボクセルの確率を比較して最も高い確率を選び、といったことをすべてのボクセルについて実行することにより実現される。最も高い確率が発生するスケールもまた、すべてのボクセルについて記録される。これによって、対応するスケールフィールド24(またはスケール画像)が生成される。本明細書では、「確率フィールド」および「スケールフィールド」というときは、「フィールド」および「画像」という用語を交換可能であるとして用いる。なぜなら、確率フィールドおよびスケールフィールドは、望めば、画像として視覚的に表示できるからである。必然的に確率フィールドは、「三次元生体内画像内のボクセルが関心形状の一部である」確率を表す。そして、スケールフィールドは、ボクセルが関心形状に属する確率が最も大きいときのサイズを表す。
【0056】
平面状構造、チューブ構造、小塊構造といった形状を検知するために、マルチスケール形状フィルタ22、好ましくはFrangi他に基づくヘシアンベースのマルチスケールフィルタ(Frangi et al, Medical Image Computing and Computer-Assisted Interventation - MICCAI’98 (eds. Wells, W. M., Colchester, A. & Delp, S.) 130-137 (Springer, 1998)。http://link.springer.com/chapter/10.1007/BFb0056195からアクセス可能)を用いてもよい。例えば、肺の血管系を調べるとき、形状ベースフィルタ22は、チューブ形状またはチューブ構造の3D画像10を調べるだろう。さらに、肺内の血管の直径は一律でないため、複数の直径のチューブ構造をキャプチャするために、形状ベースフィルタは複数のスケールで動作する。チューブ形状をサーチするとき、フィルタはしばしば「ベッセルネスフィルタ」と呼ばれる。これは、確率フィールドがベッセルネスを表すことによる。マルチスケール形状フィルタ22の実行を簡単化するため、フィルタが3D画像に適用される前に、画像が反転されてもよい。代替的に、フィルタは、フィルタの適用時に画像を効果的に反転するようにデザインされてもよい(すなわち、反転は、フィルタリングプロセスの一部として実行されてもよい)。
【0057】
確率フィールド23全体が構成されると、血管系木を、3D画像10からセグメント化26することができる。これは、肺血管系のバイナリ画像(またはデータフィールド)を与えるために、確率フィールド23上で領域成長操作を実行することによって達成される。この技術を用いて、動脈と静脈の両方を抽出することができる。あるいは関心対象の血管系に応じて、ユーザは、動脈か静脈のいずれかを抽出することを選択してもよい。例えば、塞栓は肺を除いて一般に静脈に起こるが、肺の場合は動脈にのみ起こる。以下、本明細書では、肺動脈のみを考察する。
【0058】
領域成長操作は、フラッドフィル操作やフォームフィリング操作のような任意の好適な領域成長操作であってよい。このステップは、血管構造木内の枝同士を接続する領域成長操作を用いて、確率フィールド23内の肺血管系の認識可能な部分を選択することによって実行される。一例として、領域成長操作は、Avizo(FEI VSG社、フランス)を用いたフルードフィルセグメンテーションであってよい。このプロセスは、単一のフルードフィルセクションを持つバイナリ画像を生む。これにより血管系は、オリジナルの3DCT再構成からセグメント化される。このようにして確率フィールドは、1回のステップでバイナリ化されるとともにセグメント化される。望めば、これは2回の個別のステップでも実行可能であることは理解できるだろう。
【0059】
血管系がセグメント化されると、セグメント化された血管系の各枝における中心線を決定するために、スケルトン化プロセス28が使われる。例えば、スケルトン化プロセスは、Sato他(Sato, M. et al, TEASAR: tree-structure extraction algorithm for accurate and robust skeletons, 8th Pacific Conference on Computer Graphics and Applications, 2000. Proceedings 281-449 (2000). doi:10.1109/PCCGA.2000.883951)で使われているものと同じ技術であってもよい。これにより、スケルトン化された血管構造木(中心線木とも呼ばれる)が与えられる。
【0060】
血管の中心におけるスケール値は、血管の径の測定値を与える。従って確率フィールド23からスケルトン化された血管構造木28が抽出されると、スケールフィールド24はスケルトン化された血管構造木28上にマッピングされる29。これにより、血管構造木のジオメトリが定量化される。言い換えれば、スケルトン化された血管構造木の各箇所について、対応するスケール値がスケールフィールド24の全体から抽出される。これによって、位置情報(確率フィールド23から抽出された、スケルトン化された血管構造木28から)を含むジオメトリ情報および相対サイズ情報(スケールフィールド24から)を備える、結合された単一の3Dデータセット29(または画像)が与えられる。スケールは、ボクセル内の血管の直径または径の測定値に関係する。ボクセルサイズが既知である場合、スケールは、ミリメートル単位の(または所望の任意の単位の)測定値に変換される。ボクセルサイズを決定するために、直径が既知のチューブをスキャンすることにより、システムを較正することができる。スケルトン化された血管構造木28がスケールフィールド24にマッピングされる前に、スケルトン化された血管構造木28かスケールフィールドのいずれか、またはその両方が、平滑化されてもよい。これは、血管構造木のジオメトリの品質を向上することを目的とする。
【0061】
この血管位置データおよび血管サイズデータを抽出する方法(特にセグメント化)に関するさらなる情報は、出願中の豪州特許出願2016900817「肺画像化方法およびシステム」およびこれに対応する国際特許出願PCT/AU2013/000390に開示されている。
【0062】
好ましくは血管は、左右の肺動脈から始めてBoyden法による第6世代まで特定される(他の方法や、単なる世代の番号付けでもよいが)。さらに、血管は世代により特定される。血管木をこのように特徴化することにより、セグメント化された血管構造木からの異なる測定の領域の抽出が可能となる。Boyden法および世代に従って血管を特定することにより、異なる肺間で同じ血管同士の血管サイズデータを比較することができる。
【0063】
次に図6Aから6Cを参照して、領域を選択するステップを説明する。明確に図示するため、図6Aから6Cは、セグメント化された血管構造としてではなく、背景画像として確率領域120を使用する。確率領域120とセグメント化された血管構造は、実際には肺血管構造の表現では同じように見えることが理解されるだろう。最初に図6Aを参照すると、領域130は、セグメント化された血管構造内でハイライトされる。領域130は、三次元体積として示され、肺血管構造の任意の所望の領域内に配置可能である。領域130は立方体として示されるが、直方体その他の興味のある立体であってもよい(例えばピラミッド、円錐など)。領域はまた、肺の副葉や全葉、肺全体(すなわち肺の対の1つ)、全肺(すなわち両肺)などの解剖学的領域として定義される。代替的に図6Bを参照すると、領域130は、肺血管の特定の世代(例えば、第1、第2、第3世代など)によって定義されてもよいし、血管構造内の出発点131からの血管経路の距離(すなわち経路長)または範囲によって定義されてもよい(特定の世代による選択のためのサロゲートとして)。代替的に図6Cを参照すると、領域130は、動脈内の点131までの血管構造の末端の全体として定義されてもよい。比較40は、例えばコンピュータを用いて自動的に実行されてもよい。
【0064】
領域130が選択されると、血管の健康状態を判断するために、選択された領域130内の血管サイズデータ121が、基準データセット内の血管サイズデータ121と比較される40。基準データセットは、一般的な基準データを生成するために、既知の健康なデータ(例えば、肺血管に問題のある肺疾患のない人の肺のCTスキャンからのデータ)のセットの組み合わせから形成されることが理解される。言い換えれば、基準データセットは、複数の健康なスキャンの平均である。基準データセットは、非連続な値であることに代えて、データセット内の各点(すなわち場所)について範囲を持ってよいことも理解される。その後この比較により、患者が基準となる範囲から逸脱しているか否かが決定される。
【0065】
基準データセットは、領域が選択され分析される三次元画像である必要はないこと、および、対応する領域から血管サイズデータが抽出されるデータテーブルであってよいことが理解されるだろう。例えば、血管構造はBoyden法と血管世代によって特定されるため、すでに生成された基準データセットの各世代に関する血管サイズデータを持つことが可能である。従って、セグメント化された血管構造内の特定の世代が選ばれれば、基準データセットに問い合わせることなく、直接比較することできる。
【0066】
比較40は、セグメント化された血管構造内の領域130から抽出された血管サイズデータ121を、基準データセットからの血管サイズデータ121と比較することを含む。例えば、比較は血管サイズデータの統計的分析を含んでよい。例えば、選択された領域130内のデータは、領域130内の血管の平均スケール(または直径)を決定するために、分析されることができる。その後この平均スケール(または直径)は、基準データセット内の対応する領域内の血管の平均スケール(または直径)と比較される。肺動脈高血圧症(PAH)患者は、肺動脈が細くなることを経験する。従って、平均血管スケール(または直径)の変化(例えば減少)の検知はPAHを表す。言い換えれば、選択された領域130内の血管サイズデータを、基準データセット内の対応する領域内のサイズと比較することにより、血管の健康状態を判断することができる。このデータは、PAHの存在だけでなく、PAHの程度の検知にも使うことができる。代替的に、同じ血管を特定することができれば(例えばBoyden法を用いて)、PAHスキャンと基準データセットとの間で、2つの同じ血管を直接比較することができる。
【0067】
図7Aを参照して、統計的比較40の他の例が示される。特に図7Aは、4人の患者(n=2の管理または基準データセット、n=2のPAH)血管直径の分布を示す。ここで、x軸は血管直径を示し、y軸は確率(数値についてのサロゲート)を示す。図7で使われる領域は肺全体である。2人の管理された患者は、2つの顕著なピークを持った分布を示す。すなわち直径約7mmにおける1番目のピークと、直径約10mmにおける2番目のピークである(すなわち健康な人は、血管直径に関し2つのモードを示す)。これとは対照的に、2人のPAH患者の各々は、直径約8mmにおける遥かに強い1番目のピークと、直径約10mmにおける遥かに弱い2番目のピークを持つ。これは、PAHが血管の直径を変化させ、従って血管の健康状態の判断に利用することができることを示す。言い換えれば、選択された領域130における血管直径の分布を、基準データセットの対応する領域における血管直径の分布と比較することにより、血管の健康状態を検知することができる。
【0068】
次に図7Bを参照して、各患者について、血管密度変化インデックス(1番目のピークの2番目のピークに対する比)がプロットされる。図示されるように、管理された患者の血管密度変化インデックスは1以上1.5以下であるのに対し、PAH患者の血管密度変化インデックスは2以上3.5以下である。従ってこれは、血管分布のデータから得られた比が、血管の健康状態を判断するのに使えることを表す。代替的に、ピークの血管直径は基準データセットによって設定されてもよく、その後比較のためにPAHの確率のデータが読み出されてもよい。例えばPAHのセットがピークを1つだけ持つ場合、この方法は有効である。さらにピークを探す代わりに、血管直径であって、PAHおよび基準データセットの各々に関し、血管の50%がそれより小さいものを探す方がより簡単だろう。代替的に、基準データセットにおける50%の直径を決めておき、基準直径である50%より小さい血管が何%あるかを決定することに用いてもよい(すなわち、PAH患者ではこのパーセンテージが上がることが理解される)。
【0069】
次に図8Aを参照して、比較のための血管サイズデータの代替的な形式を示す。特に図8Aは、肺全体基準およびPAHスキャンに関し、血管世代値(x軸)に対する直径(y軸)の線プロットである。図示される直径は、最頻度直径、平均直径その他の好適な測定値であってよい(図8Aは最頻度直径を示す)。図示される通り、管理およびPAHスキャンの世代が低いほど両者の最頻度直径は非常に類似するが、世代値が増えるに従い、PAHスキャンの最頻度直径と管理スキャンの最頻度直径との違いが顕著となる(すなわち、世代値が高いほど、PAHスキャンの最頻度直径は小さい)。従って、これをPAHの検知に使うことができる。これは、1つ以上の特定の血管世代での血管サイズデータの統計の比較を、血管の健康状態の判断に使えることを示す。代替的に、肺血管構造の分類に血管世代を使う(これは難しい)ことに代えて、血管構造内で選択したある点からの経路長(すなわち距離)を使ってもよい(血管の中央線データは、すでにセグメント化された血管構造から抽出されているからである)。
【0070】
図8Bから8Dを参照して、比較のための血管サイズデータの代替的な形式を示す。図8は、肺のある領域に関し、直径に対する体積のプロットである。言い換えれば図8Bは、与えられた直径に関し、血管の全体積を示す。模式的ではあるが、このようなプロット(または確率分布関数-PDF)は、PAH患者と基準データセットとの違いを示すことを予測させる。代替的に、長さ(または全長)が血管直径に対してプロットされてもよく、あるいは数(すなわち血管の数)が血管直径に対してプロットされてもよい。図8Cは、肺のある領域に関し、断面積に対する長さ(すなわち血管の全長)のプロットである。このグラフで、曲線の下の領域は、体積に対応する。図8Dは、肺のある領域に関し、断面積に対する体積のプロットである。比較のための血管サイズデータの他の形式のプロットが可能であることが理解されるだろう。さらに、望めば、血管サイズデータは正規化できることが理解できるだろう。
【0071】
次に図8Eから8Fを参照して、比較のための血管サイズデータの他の形式を示す。図8Eは、健康な人に関し、経路長に対する直径の、理論化されたヒートマップである。ヒートマップ内の各カラムは、血管構造内の点131からの与えられた経路長における、直径サイズの分布を示す。図8Fは、PAH患者に関し、対応する理論化された血管サイズデータである。血管のサイズは減少し、これによりヒートマップは垂直方向に圧縮されると考えられる。図では、直径が5mmより小さくならないことが示されている。これはシステムの最小測定値の例としての理論的なプロットで与えられる。
【0072】
次に図2を参照して、本発明の別の実施の形態を示す。ここでの方法は、造影剤を用いずに取得された10三次元生体内画像110から肺の病状をスキャンするプロセスを含む。しかしながら、基準データセットとの比較は不要である。血管位置データ120および血管サイズデータ121は、三次元生体内画像110から抽出される20。血管位置データ120および血管サイズデータ121が抽出されると、抽出された血管位置データ120内で第1領域130が選択され、抽出された血管位置データ120内で第2領域135が選択される。その後第1領域130内の血管サイズデータ121は、第2領域135内の血管サイズデータ121と比較される。単一の対象(例えば人間の患者)のスキャンの複数の領域を比較することにより、比較された肺の領域が同質か異質かを判断することができる。異質性は肺の不健康さを示すことが知られており、この情報から血管の健康状態が推察される。
【0073】
単一スキャンにおける複数の領域は、肺全体がこれらの領域で覆われるようなものであってもよいことが理解される。従って比較は肺の各領域をその他のすべての領域と比較することであり、同質なエリア(または領域)のマップおよび異質なエリア(または領域)のマップを与えることが理解される。2つの領域130、135を比較するために、上述と同様の技術を使うことができる。
【0074】
図3を参照して、本発明の別の実施の形態を示す。ここでの方法は、造影剤を用いずに得られた治療前の三次元生体内画像60と、造影剤を用いずに得られた治療後の三次元生体内画像70とから、肺疾患治療の効果を評価するステップを含む。血管位置データ120および血管サイズデータ121は、治療前112と治療後114の両方の画像から抽出される20。血管位置データ120および血管サイズデータ121が抽出される20と、治療前112か治療後114のいずれかの画像内で、領域130が選択される30。この例では、領域は治療前112の画像内で選択される65。その後選択された画像130内の血管サイズデータ121は、他方の画像内の対応する領域(この例では、治療後の画像114内で選択された75領域である)の血管サイズデータ121と比較される40。この比較40を実行することにより、肺疾患治療の効果を評価することができる。比較のための領域は、正確に同じ場所にあることが好ましい。再び、2つの領域を比較するために、上述と同様の技術を使うことができる。
【0075】
図3に示される方法の利点は、肺血管治療薬の効果を評価するために非侵襲ツールによる臨床試験を与えることができることにある。これにより、病気のメカニズムおよび新しい治療法に対する血管構造の反応に関する理解が得られる。
【0076】
上述の3つの方法(図1から3に関する)は、組み合わせることもできることが理解される。例えば、上述の3番目の方法(すなわち図3に関するもの)は、領域を基準データセットと比較すること(すなわち図1から)か、領域を同じスキャンにおける第2領域と比較すること(図2から)のいずれかを含んでもよいし、これらの3つのステップをすべて含んでもよい。
【0077】
比較40が完了すると、その結果がユーザ(例えば医師)に示されてよい。結果は、コンピュータスクリーン(例えば2Dまたは3Dビジュアル化)上に視覚的に表示されてもよく、あるいはレポート(例えばハードまたはソフトのコピーレポート)その他の任意の好適な方法で提示されてもよい。結果が血管系のオリジナルの三次元画像10の上にオーバーレイして表示されてよいことも理解される。例えば、PAHが特定された領域は、これらの領域が医師の注意を引くようにハイライトされてもよい。代替的に結果は、例えば図7から8Fに示されるように、グラフで表示されてもよい。
【0078】
生体内の三次元画像は、医療技術者などのユーザによって取得されてよく、分析会社など別のユーザによって分析(すわなち、フィルタを適用し分析を実行するステップ)されてよいことが理解される。換言すれば、第1のユーザにとっての方法は、造影剤を使うことなく生体内の三次元画像10を取得することである(これは、ヘリカルCTまたはスパイラルCTのような単純な標準的CTであってよい)。そして第2のユーザにとっての方法は、血管位置データと血管サイズデータを抽出し20、比較を実施する40ことである。
【0079】
図9を参照すると、換気/潅流(V/Q)の比のサロゲート(以後、簡単にV/Qまたは換気潅流と呼ぶ)を計算するために、本明細書に記載された方法で得られた詳細なジオメトリ情報を、局所的(または局部的)運動の測定と結び付けることが可能であることが理解される。特に、換気/潅流の測定値を得るために、肺の部位の運動を、当該部位における肺血管系のスケールと比較することができる。図9は、3つのスライス102、104、106(すなわち、肺の複数部位)にオーバーレイされた運動情報を用いてセグメント化された血管系を示す。血管の径の情報は、特定の部位への血流(潅流を示す)の評価値として使うことができ、局所的運動の測定(換気を示す)と結び付けることができる。このような測定は、生体内の三次元肺画像(血管構造木の情報のため)と、肺画像の時間連続(運動測定のため)と、の両方を必要とする。生体内の三次元肺画像は、前述の方法(例えば、造影剤を用いないCTスキャン)で取得することができる。肺画像の時間連続は2枚の画像のみであってよい。この場合この2枚の画像から、呼吸サイクルの中の該当する時点における肺の運動が決定される。あるいは肺画像の時間連続は完全な呼吸サイクルを含んでもよい。この場合、呼吸サイクル全体にわたって肺の運動を測定することができる。繰り返すが、血管系測定のための撮像は、呼吸、心周期、またはその両方にゲートされてもよい。
【0080】
肺の部位のある運動は、任意の好適な技術を用いて計算することができる。しかしながらこれは、米国特許9、036、887B2(発明の名称「Particle image velocimetry suitable for X-ray projection imaging」)に記載されるようなコンピュータトモグラフィX線速度測定(CTXV)を用いて測定することが望ましい。この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。CTXVは、対象物(この場合は肺)の局所的な三次元運動を測定するために、複数の投影角度から取得されたX線撮像を利用する。CTXVにおける運動追跡は、粒子画像速度測定(PIV)と呼ばれる既知の技術に基づく。PIVでは局所の変位は、ある時間連続内の第1の画像の領域を選択し、該選択した領域を、時間連続内の第2の画像と相関させることにより計算される。従って運動測定は、変位、速度、拡張(または換気)その他の任意の好適な運動測定に関する2Dまたは3Dの測定であってよい。こうした運動測定から、気道の流れが計算されてもよい。
【0081】
一般にCTXVは、画像内の複数の領域に対して実行される。これにより、画像を用いて局所的運動を測定することが可能となる。特に肺画像を参照すると、CTXVにより、肺部位の複数の領域の運動測定が可能となる。これにより、局所的な肺の運動および拡張の測定が可能となる。CTXVは、高い空間解像度で実行することができる。これは、比較のために選択された肺部位130内の複数の運動測定が存在してよいことを意味する。もしそうであれば複数の運動測定は平均化することができる。換気/潅流はまた、肺の複数部位で算出されることが理解される(すなわち、複数の肺部位がある)。
【0082】
換気が潅流と比較できるようになる前に、2つのスキャンから得られたデータは、互いに関連付けられる(例えば、異なる解像度のスキャンが補償される)。この2つのデータセットはまた、回転調整される。
【0083】
運動または運動(特に拡張、またはしばしば「換気」と呼ばれる)から抽出されたパラメータを、肺の複数部位(例えば、図9に示される部位102、104、106)における局所的スケール情報と比較することにより、肺全体にわたる換気/潅流の測定値が得られる。これにより、換気/潅流の局所的な比較が可能となる。従ってこの方法により、不健康な肺の徴候として知られる異質換気/潅流の検出が可能となる。
【0084】
V/Qを評価する方法の1つは、フィーダベースの方法、あるいはツリーベースまたは生体構造ベースの方法である。肺内部の領域には、気道の対および動脈を用いて、空気および血液が供給される(静脈もまた存在する)。このようにして、動脈または気道(すなわち、関心対象部位)の点131までの肺の末梢部の領域全体は、主にその点から供給がされる。その箇所での気道および動脈の換気および潅流の測定値を選択することにより、その箇所までの末梢部全体に関するV/Qの優れた測定が可能となる。本明細書で説明した局所的な血管の径は、潅流のための優れたサロゲートである。
そして、前述の運動測定により、同じ箇所での気道内の流れの優れた測定が可能となる。
【0085】
代替的に、V/Qを評価するための別の方法は、領域に基づく方法である。肺の任意の領域に関し(ツリーベースまたは生体構造ベースの領域でなくてもよく、組織のキューブであってもよい)、換気および潅流のサロゲートとして、(前述のような)統計学的アプローチを取ることができる。選択された領域における潅流の測定値を与えるための、いくつかの方法がある。例えば、領域内のすべてのボクセルにわたって総和された拡張の合計値や、当該領域における拡張の最頻度値または平均値を計算することができる。
【0086】
前述では、造影剤を使わずに取得された画像を利用するものとして、本発明を説明した(これにより、患者に健康的利益がもたらされる)。しかしながら本技術は、造影剤を使った撮像にも適用可能であることが理解される。さらに、本発明を肺と関連付けて議論したが、本方法は身体の他の部位の血管にも適用できることが理解される。例えば本法は、身体の他の器官、例えば脳、心臓、肝臓および腎臓などにも適用することができる。
【0087】
本発明の方法は、肺内のPAHの深刻さに関するサロゲート測定に使えることが理解される。血管の狭窄が右心カテーテルによって測定された動脈血圧値と相関していることが示されれば、本方法は肺動脈を予測することに使えることも理解される。これにより、肺動脈血圧の測定(これは通常右心カテーテルを必要とする)を非侵襲的に行うことが可能となり、潜在的に、PAH患者の診断と管理における侵襲的血圧測定を不要なものとする。さらに、本発明を人間の身体の画像化に関連して議論したが、同じ方法を例えば動物の診療前検査に適用することも可能であることが理解される。
【0088】
本発明を特定の実施形態を結び付けて説明した。しなしながら、さらなる変形が可能である点に注意されたい。本出願は、一般に本発明の原理に従う本発明の任意の変形使用および適用をカバーするとともに、本発明の属する関連技術における既知のまたは慣例の実行中に想起され、前述の本質的特徴に適用される、本開示からの発展を含むことを意図している。
【0089】
本発明は、本発明の範囲および本質的特徴から逸脱することなく、いくつかの形態で実行されてよい。特段の断りのない限り、前述の実施形態は、本発明を限定するものではなく、むしろ添付の請求項で定義される本発明の思想および範囲の中で広く解釈されるべきものである点を理解されたい。あらゆる点において、前述の実施形態は単に説明であって限定ではない。
【0090】
本発明の思想および範囲ならびに添付の請求項の中には、種々の変形や等価なアレンジが含まれることが意図される。従って、特定の実施形態は、本発明の原理を実行するための多数の方法を説明するものであると理解されたい。以下の請求項では、ミーンズプラスファンクションクレームは、定義された機能を実行する構造をカバーし、構造的な等価物のみならず等価な構造をもカバーすることを意図する。
【0091】
特段の断りのない限り、本明細書で「サーバ」または「セキュアなサーバ」あるいは同様の用語が使われる場面では、ある通信システムで使われる通信デバイスが説明されるのであって、本発明を任意の特定の通信デバイスのタイプに限定するように解釈してはならないことを理解されたい。従って通信デバイスは限定されることなく、セキュアかセキュアでないかを問わずに、ブリッジ、ルータ、ブリッジ-ルータ(ルータ)、スイッチ、ノードその他の通信デバイスを含んでよい。
【0092】
本明細書で本発明の種々の態様を説明するためにフロー図が使われる場面では、本発明を任意の特定の論理フローまたは論理実行に限定するように解釈してはならないこともまた理解されたい。記述される論理は、全体結果を変えることなく、さもなければ本発明の真の範囲を逸脱することなく、異なる論理ブロック(例えばプログラム、モジュール、関数またはサブルーチン)にパーティション化されてよい。論理要素はしばしば、全体結果を変えることなく、さもなければ本発明の真の範囲を逸脱することなく、追加され、変形され、割愛され、異なる順序で実行され、あるいは異なる論理構造(例えば、論理ゲート、ループ基本要素、条件論理その他の論理構造)を用いて実行されてよい。
【0093】
本発明の種々の実施形態は、多数の異なる形式に実装されてよい。これらの形式は、プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサその他の汎用目的コンピュータ、さらには本発明の実施形態を実行するためのシングルプロセッサ、システム内プロセッサのシリアルまたはパラレルのセットとしての任意の商用プロセッサ、例えば限定されないが、Merced(登録商標)、Pentium(登録商標)、Pentium II(登録商標)、Xeon(登録商標)、Celeron(登録商標)、Pentium Pro(登録商標)、 Efficeon(登録商標)、Athlon(登録商標)、AMD(登録商標)等が使われてもよい)で使うためのコンピュータプログラム、プログラマブルロジックデバイス(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)その他のPLD)で使うためのプログラマブルロジック、離散的部品、集積回路(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC))、これらの任意の組み合わせを含むその他の任意の手段を含む。本発明の例示的な実施形態では、主にすべてのユーザとサーバとの間の通信は、コンピュータに実行可能な形式に変換され、コンピュータ読み取り可能な媒体などに記憶され、オペレーティングシステムの制御の下でマイクロプセッサによって実行される、コンピュータプログラム命令のセットとして実現される。
【0094】
本明細書に記載されるすべてまたは一部の機能を実行するコンピュータプログラム論理は、ソースコード形式、コンピュータ実行可能形式、および種々の中間的形式(例えば、アセンブラ、コンパイラ、リンカ、またはロケータによって生成される形式)を含む様々な形式で埋め込まれてよい。ソースコードは、種々のオペレーティングシステムまたはオペレーティング環境で使われる任意の様々なプログラム言語(例えば、オブジェクトコード、アセンブリ言語、または、Fortran、C、C++、JAVA(登録商標)もしくはHTMLなどの高級言語。さらに、より一般的な、Ada;Algol;APL;awk;Basic;C;C++;Conol;Delphi;Eiffel;Euphoria;Forth;Fortran;HTML;Icon;Java(登録商標);Javascript(登録商標);Lisp;Logo;Mathematica(登録商標);MatLab(登録商標);Miranda(登録商標);Modula-2(登録商標);Oberon(登録商標);Pascal;Perl;PL/I;Prolog;Python;Rexx;SAS;Scheme;sed;Simula;Smalltalk;Snobol;SQL;Visual Basic(登録商標);Visual C++(登録商標);Linux(登録商標)およびXML(登録商標)などの中に、本発明の実施形態を実施するために利用可能な数百の入手可能なコンピュータ言語が存在する)を用いて実行される、一連のコンピュータプログラム命令を含んでよい。ソースコードは、様々なデータ構造および通信メッセージを定義し、使用してよい。ソースコードは、コンピュータ実行可能(例えば、インタープリタにより)形式を取ってよい。あるいはソースコードは、(トランスレータ、アセンブラまたはコンパイラなどにより)コンピュータ実行可能形式に変換されてよい。
【0095】
コンピュータプログラムは、永久にまたは一時的に、任意の形式(例えば、ソースコード形式、コンピュータ実行可能形式または中間形式)で、半導体メモリデバイス(例えば、RAM、ROM、PROM、EEPROMまたはFlash-Programmable RAM)、磁気メモリデバイス(例えば、ディスケットまたは固定ディスク)、光メモリデバイス(例えば、CD-ROMまたはDVD-ROM)、PCカード(例えば、PCMCIA card)その他のメモリデバイス等の、触知可能な記憶媒体に固定されてよい。コンピュータプログラムは、アナログ技術、デジタル技術、光技術、無線技術(例えば、Bluetooth(登録商標))、ネットワーク技術およびネットワーク間技術等を含むが限定さない、任意の様々な通信技術を用いて、コンピュータに送信可能な信号内の任意の形式で固定されてよい。コンピュータプログラムは、印刷された電子的ドキュメント(例えば、市販ソフトウェア)、コンピュータシステムにプレロードされたもの(例えば、システムROMや固定ディスク上に)、通信システム(例えば、インターネットWorld Wide Web)を経由してサーバや電子掲示板から配布されたものなどを伴って、消去可能な記憶媒体としての任意の形式で配布されてよい。
【0096】
本明細書に記載されるすべてのまたは一部の機能を実行するハードウェア論理(プログラマブルロジックデバイスで使われるプログラマブルロジックを含む)は、従来の人手による方法を用いてデザインされてもよく、コンピュータ支援設計(CAD)、ハードウェア記述言語(例えば、VHDLやAHDL)またはPLDプログラミング言語(例えば、PALASM(登録商標)、ABEL(登録商標)またはCUPL(登録商標))などの種々のツールを用いて、デザインされ、キャプチャされ、シミュレートされ、電子的にドキュメント化されてもよい。ハードウェア論理はまた、本発明の実施形態を実施するための表示スクリーン内に含まれてもよく、こうした表示スクリーンは、セグメント化された表示スクリーン、アナログ表示スクリーン、デジタル表示スクリーン、CRT、LEDスクリーン、プラズマスクリーン、液晶ダイオードスクリーン等であってよい。
【0097】
プログラマブルロジックは、永久にまたは一時的に、半導体メモリデバイス(例えば、例えば、RAM、ROM、PROM、EEPROMまたはFlash-Programmable RAM等)、磁気メモリデバイス(例えば、ディスケットまたは固定ディスク)、光メモリデバイス(例えば、CD-ROMまたはDVD-ROM)その他のメモリデバイス等の、触知可能な記憶媒体に固定されてよい。プログラマブルロジックは、アナログ技術、デジタル技術、光技術、無線技術(例えば、Bluetooth(登録商標))、ネットワーク技術およびネットワーク間技術等を含むが限定さない、任意の様々な通信技術を用いて、単一のまたは送信可能なコンピュータに固定されてよい。プログラマブルロジックは、印刷された電子的ドキュメント(例えば、市販ソフトウェア)、コンピュータシステムにプレロードされたもの(例えば、システムROMや固定ディスク上に)、通信システム(例えば、インターネットWorld Wide Web)を経由してサーバや電子掲示板から配布されたものなどを伴って、消去可能な記憶媒体としての任意の形式で配布されてよい。
【0098】
本明細書で用いられる「備える/備えている」および「含む/含んでいる」という用語は、記載された特徴、整数、ステップまたは部品を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、部品またはそれらの群の追加または存在を除外するものではないものと解釈される。従って、特段の断りのない限り、本明細書および請求項の全体を通して、「備える」「備えている」「含む」「含んでいる」等の用語は、包括的な意味を持ち、排他的または除外的意味を持たないと、すなわち「含むが、それに限定されない」ことを意味すると解釈される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
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図8F
図9