(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062318
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20230426BHJP
H05H 1/26 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
H05H1/24
H05H1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172214
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙介
(72)【発明者】
【氏名】平岡 尊宏
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084BB05
2G084BB07
2G084BB12
2G084BB23
2G084BB32
2G084BB35
2G084BB37
2G084CC03
2G084CC19
2G084DD14
2G084DD15
2G084DD22
2G084DD63
2G084DD66
2G084GG04
(57)【要約】
【課題】効率的に吹出口の全領域からプラズマを均質に噴射することのできる、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、第一方向に延在する板形状を呈した誘電体基板と、誘電体基板の面に接触して配置された第一電極と、第一方向に直交する第二方向に関して誘電体基板から第一電極が配置されている側とは反対側に離間した状態で配置された第二電極と、誘電体基板と第二電極との間の空隙によって形成され第一方向及び第二方向に直交する第三方向にガスが通流するガス流路と、ガス流路の端部に設けられ第一方向に延在する吹出口とを備える。誘電体基板と第二電極のうちのいずれか一方は、誘電体基板と第二電極のうちのいずれか他方を、空隙を介して第二方向に挟み込むように配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に延在する板形状を呈した誘電体基板と、
前記誘電体基板の面に接触して配置された第一電極と、
前記第一方向に直交する第二方向に関して、前記誘電体基板から、前記第一電極が配置されている側とは反対側に離間した状態で、前記第一方向に延在して配置された第二電極と、
前記誘電体基板と前記第二電極との前記第二方向に係る間の空隙によって形成され、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向にガスが通流するガス流路と、
前記ガス流路の前記第三方向に係る一方の端部に設けられ、前記第一方向に延在する吹出口とを備え、
前記第一方向に見たときに、前記誘電体基板、前記第一電極、及び前記第二電極の少なくともいずれか一つは、前記第三方向に関して所定箇所から前記吹出口までの間の領域に傾斜面を有し、
前記誘電体基板と前記第二電極のうちの一方は、前記誘電体基板と前記第二電極のうちの他方を、前記空隙を介して前記第二方向に挟み込むように配置されていることを特徴とする、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項2】
前記ガス流路は、前記第二方向に離間した2箇所に形成されており、
前記吹出口は、それぞれのガス流路に対応して配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項3】
前記誘電体基板は、主面に平行に延在して形成されたスリット状の孔部を有し、
前記第一電極は、板形状を呈し、前記孔部に埋め込まれることで前記誘電体基板と接触し、
前記第二電極が、前記誘電体基板を前記第一方向に係る両側から離間して挟み込むように配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項4】
前記第一電極は、高電圧側の電極であり、
前記第二電極は、低電圧側の電極であることを特徴とする、請求項3に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項5】
一対の前記第二電極に対して、外側から周縁部において当接されたガスバッファ基板と、
前記ガスバッファ基板と前記第二電極とで挟まれた空隙に対して前記ガスを導入するガス送出装置と、
前記第一方向の異なる複数の箇所において、前記第二方向に関して前記第二電極を貫通する連絡孔とを備えることを特徴とする、請求項3に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項6】
前記誘電体基板は、主たる材料が酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムであることを特徴とする、請求項3に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項7】
一対の前記誘電体基板が、前記第二方向に離間して配置されており、
一対の前記第一電極が、一対の前記誘電体基板のそれぞれの外側の面上に配置され、
前記第二電極は、一対の前記誘電体基板のそれぞれの内側の面から、前記第二方向に離間した位置に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項8】
前記第一電極は、高電圧側の電極であり、
前記第二電極は、低電圧側の電極であることを特徴とする、請求項7に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項9】
前記誘電体基板の面上の、前記第三方向に係る前記第一電極と前記吹出口との間の箇所に配置された、絶縁性の突起を備えることを特徴とする、請求項7に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【請求項10】
前記誘電体基板は、主たる材料が酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムであることを特徴とする、請求項7に記載の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生装置は、プラスチック、紙、繊維、半導体、液晶、又はフィルム等の製造工程で用いられている。例えば、プラズマ発生装置からのプラズマを被処理物に照射することにより、被処理物の表面に対する親水性、接着性、若しくは印刷密着性等を向上させるための表面処理、被処理物の表面に存在する有機物の除去及び洗浄、又は被処理物の表面に対する酸化膜の形成が行われる。
【0003】
図16は、従来のプラズマ発生装置を模式的に示す断面図である。特許文献1には、
図16に示すように、対向する一対の電極(201,201)を備え、それぞれの電極の対向面(202,202)を、被処理物240に近づくに連れて相互の離間距離が狭くなるように傾斜させたプラズマ発生装置200が開示されている。すなわち、下面開口226に近づくに連れて、一対の対向面(202,202)の間隔が狭まるように配置されている。
【0004】
プラズマ発生装置200は、上面開口223からプラズマ源ガスGcを導入しながら一対の電極(201、201)間に電圧を印加することで、一対の対向面(202,202)に挟まれる領域(放電領域207)に多数本のストリーマ放電Sdを発生させる。プラズマ源ガスGcは上面開口223から噴射板224のオリフィス225を通じて、放電領域207に導入される。このため、プラズマ源ガスGcは、オリフィス225により加速されることで高速で放電領域207に噴射される。この噴射によりプラズマ源ガスGcの乱流が生じ、ストリーマ放電Sdが放電領域207内で分散する。
【0005】
この後、分散したストリーマ放電Sdにより、放電領域207の全体にわたってほぼ均一にプラズマPcが生成される。生成されたプラズマPcは、放電領域207の下面開口226を通じて処理空間205にプラズマジェットとして噴射し、被処理物240に吹き付けられる。特許文献1には、上記構成を採用することにより、均一なプラズマを生成することができると記載されている。
【0006】
電極(201,201)の上面と対向面(202,202)は、誘電体203により被覆されている。誘電体203の被膜の厚みは全体にわたって一定であり、例えば、0.5mm~5mmである。
【0007】
また、別の方法として、マイクロストリップ線路とアース導体の間にマイクロ波を入力することでプラズマを発生させる装置が知られている(特許文献2参照)。この装置によれば、誘電体層に傾斜を持たせて厚みを調整することで、インピーダンスマッチングが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-009890号公報
【特許文献2】特開2008-282784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているプラズマ発生装置200は、乱流を発生させることにより放電領域207の全体にわたってほぼ均一にプラズマPcを生成することを目指している。しかしながら、例えば、放電領域207内のうち、下面開口226から遠い位置で生成したプラズマPcは、下面開口226に向かって移動する間に消失してしまう。このため、
図16に示すような態様で電極(201,201)を配置した場合、下面開口226から吹き出されるプラズマPcは、下面開口226の全領域からプラズマPcが均一に照射されているとはいえない。このことは、被処理物240の表面における処理の程度にムラを生じさせる原因となる。
【0010】
特許文献2に開示されているプラズマ発生装置は、マイクロ波を利用する技術である。マイクロ波によるプラズマは、電界強度が強い定在波の腹の部分において高い密度で発生する。定在波は、マイクロ波の入力方向だけではなく、入力方向と直交する方向にも発生するため、吹出口を正面から見たときに、プラズマの密度の高い箇所と低い箇所とが交互に発生することになる。そのため、マイクロ波によるプラズマでは、吹出口の全領域から、プラズマを均一に噴射させることは容易ではない。
【0011】
更に、定在波を発生させる観点から、そもそも装置自体を長尺化することができない。このため、例えば、被処理物の表面処理の用途で用いようとしても、極めて処理能力が低く、適用が事実上困難である。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑み、効率的に吹出口の全領域からプラズマを均質に噴射することのできる、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、
第一方向に延在する板形状を呈した誘電体基板と、
前記誘電体基板の面に接触して配置された第一電極と、
前記第一方向に直交する第二方向に関して、前記誘電体基板から前記第一電極が配置されている側とは反対側に離間した状態で、前記第一方向に延在して配置された第二電極と、
前記誘電体基板と前記第二電極との間の空隙によって形成され、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向にガスが通流するガス流路と、
前記ガス流路の前記第三方向に係る一方の端部に設けられ、前記第一方向に延在する吹出口とを備え、
前記第一方向に見たときに、前記誘電体基板、前記第一電極、及び前記第二電極の少なくともいずれか一つは、前記第三方向に関して所定箇所から前記吹出口までの間の領域に傾斜面を有し、
前記誘電体基板と前記第二電極のうちの一方は、前記誘電体基板と前記第二電極のうちの他方を、前記空隙を介して前記第二方向に挟み込むように配置されていることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、第二方向に関する誘電体基板と第二電極との間に設けられた空隙によって形成されたガス流路内を、ガスが吹出口に向かって第三方向に通流する。誘電体基板と第二電極は、共に第一方向に延在することから、この空隙すなわちガス流路も第一方向に延在する。よって、第一方向に延在するガス流路内を、吹出口に向かって第三方向にガスが移動し、吹出口からスリット状のガスが排出される。
【0015】
ガス流路は、誘電体基板と第二電極に挟み込まれた空隙で形成される。そして、第一方向に見たときに、誘電体基板、第一電極、及び第二電極の少なくともいずれか一つは、第三方向に関して所定箇所から前記吹出口までの間の領域に傾斜面を有している。この結果、第一電極と第二電極との間に電圧が印加されると、空隙内、すなわちガス流路内では、吹出口に近づくに連れて電界が単調的に変化する。このような構成は、例えば、第三方向に関して、吹出口に近づくに連れて誘電体基板の厚み、第一電極の厚み、又は第二電極の厚みを変化させることで実現できる。典型的な一例として、第三方向に関して、吹出口に近づくに連れてガス流路の流路幅(第二方向の長さ)が狭くなるようにすることで、吹出口に近づくにつれてガス流路内を通流するガスに印加される電界が高められる。
【0016】
上記構成によれば、吹出口に近い箇所においては極めて高い強度の電界が形成され、この領域で集中的にプラズマが発生する。この結果、第一方向に係る吹出口の全域から、プラズマ含有ガスを排出できる。従って、吹出口から被処理物に対して効率的にプラズマ含有ガスを吹き付けることができ、被処理物を効率的に処理することが可能となる。
【0017】
吹出口からプラズマ含有ガスを排出させるためには、特に吹出口近傍において極めて高い電界を発生させる必要がある。このため、ガス流路の流路幅(第二方向の長さ)は自ずと狭く設計せざるを得ない。よって、第一方向に延在する吹出口から吹き出されるプラズマ含有ガスは、極めて薄いシート形状を呈する。
【0018】
被処理物に対して表面処理を行うべく、このようなシート形状のプラズマ含有ガスを被処理物に対して吹き付けた場合、単位時間あたりに処理される被処理物の表面の面積は限定的となる。しかし、上述したように、処理効率を高めるためにガス流路の流路幅を広げることはできない。プラズマの発生効率を低下させたり、そもそもプラズマが発生されなくなるおそれがあるためである。
【0019】
単位時間あたりに処理できる被処理物の面積を高める方法として、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を第二方向に複数並べる方法が考えられる。しかし、この場合、隣接する誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の吹出口同士の間隔が広がってしまい、吹出口に対向する箇所と、吹出口同士に挟まれた箇所とで、被処理物の処理の程度に差が生まれる。また、吹出口同士に挟まれた箇所には外気が流入しやすくなる。このような事情から、被処理物に対して所望の程度に表面処理を行うためには、ある程度の処理時間を掛ける必要がある。
【0020】
これに対し、上記の構成によれば、誘電体基板と第二電極のうちの一方は、誘電体基板と第二電極のうちの他方を、空隙を介して第二方向に挟み込むように配置されている。この結果、空隙によって形成されるガス流路は、第二方向に関して離間した複数の位置に形成される。つまり、この装置の場合、単一の装置でありながらも、複数のガス流路内をガスが吹出口に向かって通流することで、吹出口からは複数のガス流路からプラズマ含有ガスが排出される。そして、これらのガス流路の間隔は、単に複数の装置を並べる場合と比べて極めて狭くなる。
【0021】
被処理物の表面処理を行うためにプラズマ含有ガスを被処理物に吹き付ける場合、被処理物は吹出口の極めて近くに配置される。このため、複数のガス流路から吹き出されたプラズマ含有ガスは被処理物の表面に吹き付けられると共に、両方のガス流路から吹き出される流速の差や、被処理物の表面で反射した気流に由来して、両方のガス流路に挟まれた空間内にも気流が生じる。前述したように、隣接するガス流路の第二方向の間隔は、複数の装置を第二方向に並べて配置した場合の隣接する吹出口同士の間隔より大幅に狭い。この結果、隣接するガス流路同士に挟まれた空間内においても、プラズマ含有ガスが流れ込み、結果的に、吹出口の幅よりも幅広のプラズマ含有ガスを吹き出すことができる。よって、従来よりも、被処理物の表面処理速度が高められる。
【0022】
更に、上記の装置は、誘電体バリア放電を利用してプラズマを発生させるため、マイクロ波を用いない。よって、マイクロ波の伝送のためのインピーダンス整合等を行う必要がないため、誘電体基板、電極、吹出口の形状は特に制限を受けない。加えて、上記の装置ではマイクロ波を用いないため、電磁波の漏洩対策を必要としない。
【0023】
吹出口は、ガス流路ごとに設けられていても構わないし、各ガス流路に連絡された共通の吹出口が設けられていても構わない。前者の場合は、各ガス流路を通流したプラズマ含有ガスが、それぞれの吹出口から吹き出される。後者の場合は、各ガス流路の第三方向に係る末端が、吹出口よりも第三方向に微小距離だけ後退した位置であり、各ガス流路を通流したガスが共通の吹出口から吹き出される。ここでいう微小距離とは、例えば誘電体基板の厚みの0.5倍~2倍程度の距離である。
【0024】
前記ガス流路は、前記第二方向に離間した2箇所に形成されており、
前記吹出口は、それぞれのガス流路に対応して配置されているものとしても構わない。
【0025】
前記ガス流路は、前記第二方向に離間した2箇所に形成されると共に、前記吹出口側の端部において相互に連絡されているものとしても構わない。
【0026】
前記誘電体基板は、主たる材料が酸化アルミニウム(Al2O3)又は窒化アルミニウム(AlN)であるものとしても構わない。ここで「主たる材料」とは、構成材料を成分分析した場合に、80%以上を占める成分を指す。
【0027】
酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムは、比誘電率が比較的低く、且つ、物理的な強度や硬度が比較的高い。従って、前記誘電体基板の主たる材料を酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムとすることで、単位電力当たりのプラズマの生成量をより多くできると共に、誘電体基板をより薄くしても破損のおそれを低減できる。
【0028】
この中でも、窒化アルミニウムは熱伝導性がよく、誘電体基板の熱を効率よく放熱することができる。これにより、第一電極及び第二電極のうち、高電圧が印加される側の電極(高電圧側電極)の温度上昇を抑制できるため、窒化アルミニウムと高電圧側電極の熱膨張による界面のストレスを低減できる。この結果、誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の長寿命化が図られる。
【0029】
前記誘電体基板は、主面に平行に延在して形成されたスリット状の孔部を有し、
前記第一電極は、板形状を呈し、前記孔部に埋め込まれることで前記誘電体基板と接触し、
前記第二電極が、前記誘電体基板を前記第一方向に係る両側から離間して挟み込むように配置されているものとしても構わない。
【0030】
この場合において、好適には、前記第一電極は高電圧側の電極であり、前記第二電極は低電圧側の電極である。かかる構成とすることで、装置の外側に位置する電極が低電圧側の電極となるため、作業者の安全性に資する。
【0031】
前記誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、更に、
一対の前記第二電極に対して、外側から周縁部において当接されたガスバッファ基板と、
前記ガスバッファ基板と前記第二電極とで挟まれた空隙に対して前記ガスを導入するガス送出装置と、
前記第一方向の異なる複数の箇所において、前記第二方向に関して前記第二電極を貫通する連絡孔とを備えるものとしても構わない。
【0032】
上記構成によれば、ガス送出装置から導入されたガスは、ガスバッファ基板と第二電極とで挟まれた空隙内に貯留された後、複数の連絡孔を通じてガス流路に流入する。これにより、ガス流路に流入したガスを、その流れを乱すことなく吹出口から均質に流出させることができる。
【0033】
特に、連絡孔が第一方向の複数の箇所に設けられることで、第一方向の異なる複数の位置からガス流路に対してガスが導入される。これにより、ガス流路を流れるガスを層流化しやすい。
【0034】
一対の前記誘電体基板が、前記第二方向に離間して配置されており、
一対の前記第一電極が、一対の前記誘電体基板のそれぞれの外側の面上に配置され、
前記第二電極は、一対の前記誘電体基板のそれぞれの内側の面から、前記第二方向に離間した位置に配置されているものとしても構わない。
【0035】
この場合において、前記第一電極は、箔状の金属であっても構わない。金属材料は限定されないが、導電性が高い材料が好ましく、典型的な例としては、銅、銀、アルミニウム、及び金からなる群に属する一種以上の材料又は前記材料の化合物である。
【0036】
前記第一電極は、金属を含有した焼結体であっても構わない。金属を含有した焼結体は、金属ペーストを印刷して電極を形成できるため、第一電極を誘電体基板上に形成する際に接着剤を用いる必要がない。
【0037】
前記第一電極は、メッキ、蒸着、又は、スパッタリング、溶射により形成されていても構わない。この構成の場合も同様に、前記第一電極を誘電体基板上に形成する際に接着剤を用いる必要がない。
【0038】
前記第一電極の前記吹出口側の端部は、吹出口から第三方向に関して後退して配置されているのが好ましい。
【0039】
仮に、第一電極が第三方向に関して吹出口の位置まで延在していると、誘電体基板を介さずに、第一電極と第二電極との間で直接放電するおそれがある。このような放電が生じると、第一電極、誘電体基板、又は第二電極を損傷させ、これらの部材を構成する材料が不純物として、プラズマ含有ガス内に混入してしまう。
【0040】
放電効率の観点に立てば、第三方向に関して、第一電極の端部が吹出口の端部に一致するように配置した方が有利である。しかしながら、このような配置態様の場合、上記の事情により、誘電体基板上で沿面放電を引き起こすおそれがある。この沿面放電がひとたび発生すると、誘電体バリア放電ではなく直接放電が支配的となり、過剰な放電電流が流れ、電極の破損ひいては電源装置への破損に至る。
【0041】
これに対し、上記のような構成を採用することで、第一電極と第二電極との間での直接放電が抑制されるため、電極や誘電体基板の損傷が抑制され、プラズマガスへの不純物の混入を防止できる。
【0042】
前記誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、前記第一電極に接続された電源装置を備えるものとしても構わない。電源装置は、好適には、電圧が3kV~20kV、周波数が20kHz~150kHzの電圧信号を第一電極に供給可能な構成である。
【0043】
上記のような電源装置を備えると、誘電体バリア放電方式にてプラズマを好適に発生させることができる。上限を150kHzとした理由は、その波長はプラズマ照射長を考慮したこと、また、EMC規格での雑音端子電圧で検出される周波数が150kHzより高周波であることによる。
【0044】
前記吹出口の前記第三方向に係る外側に遮光部材が設けられていても構わない。吹出口に遮光部材が設けられることで、放電により生じた光が被処理物に照射されるのを抑制できる。
【0045】
前記誘電体バリア放電式プラズマ発生装置は、更に、誘電体基板の、ガス流路側の面上に配置された始動補助部材を備えても構わない。始動補助部材は、吹出口の極めて近傍に配置されるのが好ましい。ただし、第一方向に見たときに始動補助部材の位置と吹出口の位置が揃うように配置されると、吹出口からのプラズマ含有ガスの一部が始動補助部材に衝突することで、始動補助部材が損耗・除去されるおそれがある。一方で、第三方向に関して、始動補助部材が吹出口から離れすぎていると、そもそも始動補助としての機能を実現しない。この観点から、始動補助部材は、吹出口の近傍であって、且つ第三方向に関して吹出口から少しだけ後退した位置に配置されるのが好ましい。この後退距離は10mm未満とするのが好ましい。
【0046】
誘電体バリア放電は、始動時(放電開始時)には高い電力が必要である一方、ひとたび放電が生じると、その後は入力電力を低下させても放電を維持することができる。かかる事情により、好適には始動時に高い電力が投入される。しかしながら、このような方法では、高電力に対応した大型の電源装置や、放電空間の近傍に配置されたトリガ電極が必要となり、装置全体の規模の拡大を招く懸念がある。
【0047】
プラズマ放電の開始時には、プラズマを発生させる箇所に初期電子の存在が必要である。そこで、上記構成のように始動補助部材を配置すれば、始動初期に初期電子が吹出口近傍のガス流路内に供給される。これにより、大型の電源装置やトリガ電極等が不要となり、小型で安価なプラズマ発生装置を提供できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置によれば、効率的に吹出口の全領域からプラズマを均質に噴射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す前記プラズマ発生装置をII-II線で切断した模式的な断面図である。
【
図3】
図1に示す前記プラズマ発生装置をIII-III線で切断した模式的な断面図である。
【
図4】
図2から誘電体基板のみを抽出して表示した模式的な断面図である。
【
図5】
図2から第一電極のみを抽出して表示した模式的な断面図である。
【
図6】誘電体基板の-Z側の面とZ方向に対向する第二電極を+Z側から見たときの模式的な平面図である。
【
図7】
図2から、第一電極、第二電極、及び誘電体基板を抽出し、第一端の近傍を拡大して表示した断面図である。
【
図9A】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9B】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9C】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9D】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9E】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9F】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9G】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9H】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9I】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9J】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図9K】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図10】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図11】
図10に示す前記プラズマ発生装置をXI-XI線で切断した模式的な断面図である。
【
図12】
図10に示す前記プラズマ発生装置をXII-XII線で切断した模式的な断面図である。
【
図13】
図11から、第一電極、第二電極、及び誘電体基板を抽出し、第一端の近傍を拡大して表示した断面図である。
【
図15A】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15B】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15C】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15D】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15E】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15F】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15G】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図15H】誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態の変形例を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図16】従来の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明に係る誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0051】
[第一実施形態]
誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の誘電体バリア放電式プラズマ発生装置1(以下、「プラズマ発生装置1」と略記する。)を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1におけるプラズマ発生装置1を、II-II線で切断したときの模式的な断面図である。また、
図3は、
図1におけるプラズマ発生装置1を、III-III線で切断したときの模式的な断面図である。なお、
図2では、説明の都合上、
図1では図示を省略しているガス送出装置61についても図示されている。
【0052】
プラズマ発生装置1は、第一電極10(
図2参照)と、第二電極20と、誘電体基板30とを備える。なお、
図1~
図3に示すプラズマ発生装置1においては、更にガスバッファ基板40を備えているが、プラズマ発生装置1がガスバッファ基板40を備えるか否かは任意である。
【0053】
プラズマ発生装置1は、内部においてプラズマを含有するガス(以下、「プラズマガスG1」と称する。)を発生する装置である。プラズマ発生装置1は、プラズマガスG1を吹き出す吹出口5を備える。吹出口5は、
図1に示すように、Y方向に延在しており、X方向に見てほぼ矩形状を呈している。なお、X方向とY方向に直交する方向をZ方向とする。以下の説明では、適宜、
図1に付されたX-Y-Z座標系が参照される。
【0054】
なお、以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0055】
本明細書では、Y方向が「第一方向」に対応し、Z方向が「第二方向」に対応し、X方向が「第三方向」に対応する。
【0056】
本実施形態のプラズマ発生装置1は、
図1に示すように、Z方向に離間して近接した2箇所に吹出口5を備えている。つまり、これらの吹出口5からプラズマガスG1が吹き出される。それぞれの吹出口5は、Z方向に関して誘電体基板30と第二電極20との離間部分で形成されている。
【0057】
(誘電体基板30)
図1~
図3に示すように、誘電体基板30はY方向に延在する板状部材である。本実施形態では、誘電体基板30の内部に第一電極10の少なくとも一部が埋め込まれるように配置されており、これによって、誘電体基板30と第一電極10とが接触している。
【0058】
図4は、
図2から誘電体基板30のみを抽出して表示した模式的な断面図である。
図5は、
図2から第一電極10のみを抽出して表示した模式的な断面図である。
【0059】
図4に示すように、誘電体基板30は、X方向に延伸する孔部38を有する。この孔部38は、Y方向に延在して形成されている。つまり、誘電体基板30はスリット状の孔部38を備える。このスリット状の孔部38内に、
図5に模式的に示される第一電極10が埋設されている。
図2の例では、第一電極10が孔部38内に完全に収容されている場合が図示されているが、-X方向に関してその一部が孔部38から突出してもいてもよい。ただし、後述するように、本実施形態において第一電極10は高電圧側の電極を構成するため、安全上の観点からは、第一電極10の-X側の端部(端面)は、誘電体基板30の-X側の端部(端面)よりも、+X側に位置しているのが好ましい。
【0060】
図2及び
図4に示す例では、誘電体基板30のZ方向に係る長さ(以下、「厚み」という。)が、X方向に関して吹出口5に近づくに連れて薄くなる構造が採用されているが、この構造はあくまで一例である。
【0061】
誘電体基板30は、単位電力当たりのプラズマの生成量をより多くする観点から、比誘電率の低い材料で構成されていることが好ましい。前記材料の比誘電率の値は、10以下であるのが好ましい。なお、前記材料の比誘電率は低いほど好ましいが、典型的には4~10とすることができる。
【0062】
誘電体基板30の材料は、特に限定されないが、上述したように可能な限り比誘電率の低い材料であるのが好適である。更に、耐久性の観点から、前記材料はセラミックスが好ましい。セラミックスとしては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、又はステアタイト等が挙げられる。これらの材料は、比誘電率が比較的低く、且つ比較的高い強度を有して耐久性に優れる。従って、誘電体基板30を酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、又はステアタイトで構成すれば、単位電力当たりのプラズマの生成量をより多くできる。また、耐久性に優れるため、誘電体基板30の厚みを薄くしても破損のおそれが少ない。
【0063】
図2に示す形状のプラズマ発生装置1を実現するに際しては、例えば、矩形板状の誘電体基板30を切削してスリット状の孔部38を形成した後、孔部38内に導電性の接着ペーストを付した状態で第一電極10を嵌合させ、両者を密着固定する方法を採用できる。
【0064】
誘電体基板30は、前述した材料を母材として、電子生成を補助する物質を含有したものであってもよい。前記電子生成を補助する物質としては、銀、白金、銅、炭素(カーボン)、又は遷移金属化合物等が挙げられる。前記電子生成を補助する物質に電界が印加されることにより初期電子が生成され、放電空間(後述するガス流路3)に放出される。このため、誘電体基板30を上記の構成とすることで、始動性を有利に働かせることができる。
【0065】
前記電子生成を補助する物質の含有量は、誘電体基板30全体に対して(誘電体基板30を100質量部としたときに)、好適には1質量部以下である。この物質の含有量があまりに多いと、放電に伴って当該物質が蒸発・飛散してプラズマガスG1に混入し、プラズマガスG1を照射する対象である被処理物に吹き付けられる懸念がある。なお、始動性を向上させる効果を充分に発現させる観点からは、前記物質の含有量は実験的に0.05質量部以上とすることが好ましい。
【0066】
(第一電極10)
図2を参照して上述したように、本実施形態のプラズマ発生装置1において、第一電極10は、少なくともその一部が誘電体基板30内に密着した状態で埋め込まれている。すなわち、第一電極10は誘電体基板30の面に接触して配置されている。なお、
図2には、第一電極10の全てが誘電体基板30内に埋設された例が示されている。
【0067】
プラズマ発生装置1は、第一電極10と後述する第二電極20との間で、誘電体基板30及びガス流路3を介して電圧が印加されることで、ガス流路3内を通流するガスをプラズマ化して、プラズマガスG1を生成する。このため、第一電極10と第二電極20のうち、いずれか一方が高電圧側の電極であり、他方が低電圧側の電極を構成する。以下の実施形態では、第一電極10が高電圧側の電極であり、第二電極20が低電圧側の電極であるものとして説明するが、両者が逆転しても構わない。ただし、本実施形態のプラズマ発生装置1においては、安全性の観点から、外側に露出するため作業者の近くに位置することになる第二電極20を低電圧側の電極とし、内部に埋設されている第一電極10を高電圧側の電極とするのが好適である。
【0068】
図1及び
図3に示すように、本実施形態において、第一電極10は、Y方向に係る長さ(以下、「幅」という。)が誘電体基板30の幅と完全には一致しないものの、ほぼ同等の長さである。吹出口5から幅広に(Y方向に関して長い領域に)プラズマガスG1を噴射させる観点からは、第一電極10をなるべく幅広に形成することが好ましい。ただし、本発明は、第一電極10の幅には限定されない。
【0069】
本実施形態において、第一電極10は、X方向に関して吹出口5よりも-X側に少し後退している(
図2参照)。
図2を参照すると、第一電極10の+X側の端部10aは、プラズマ発生装置1の吹出口5側(+X側)に係る端部から、-X側に少し後退している。なお、便宜上、プラズマ発生装置1の吹出口5側(+X側)に係る端部を「第一端71」と称し、吹出口5とは反対側(-X側)に係る端部を「第二端72」と称することがある。
【0070】
吹出口5の近傍では、誘電体基板30を介さずに、第一電極10と第二電極20との間で直接放電するおそれがある。このような放電が生じると、電極(10,20)又は誘電体基板30を損傷し、これらの構成材料が不純物としてプラズマガスG1に混入する。
【0071】
放電効率の観点では、第一電極10の+X側の端部10aを可能な限り吹出口5に接近させる、すなわち第一端71とほぼ一致させるのが好ましい。しかし、そのような構成を採用すると、第一電極10と第二電極20との間で沿面放電が生じるリスクが高まり、誘電体バリア放電ではなく直接放電が支配的になってしまう。そこで、上記のように、第一電極10の+X側の端部10aを第一端71から-X側(第二端72側)に少し後退させた構成を採用している。この後退距離、すなわち、第一電極10の+X側の端部10aと第一端71との間の距離は、典型的な一例として1mm~5mmである。
【0072】
第一電極10の材料としては、特に限定されないが、導電性の高いものが好ましく、典型的な例としては、銅、銀、アルミニウム、及び金からなる群に属する一種以上の材料又は前記材料の化合物である。
【0073】
第一電極10と誘電体基板30とは、極力密着されており、両者の界面には空気の層がないことが好ましい。空気の層があると、その空間の内部で放電が生じ、発生したラジカルによって第一電極10が劣化する可能性があるためである。かかる理由により、第一電極10と誘電体基板30とは両者の離間距離がμmオーダーの範囲内で密着しているのが好ましい。両者の密着性を高める観点から、アンカー効果を狙って誘電体基板30の表面を荒らして微小な凹凸を形成しても構わない。特に、孔部38を形成する際に誘電体基板30が切削されることで、孔部38の内側の面は微小な凹凸が形成されやすい。このため、その後に第一電極10を孔部38内に嵌合させることで、第一電極10と誘電体基板30との密着性が高められる。
【0074】
典型的には、第一電極10の厚み(Z方向に係る長さ)は、誘電体基板30の厚みと比べて薄い。特に、第一電極10を高電圧側の電極とすることで、高電圧の印加に伴って第一電極10の材料が膨張しても、第一電極10の厚みが薄いことから、膨張の影響が誘電体基板30にとって軽微なものとなる。
【0075】
第一電極10が高電圧側の電極である場合、第一電極10の一部箇所において電源装置63に接続される。電源装置63と第一電極10との接続方法は、電気的に接続され、印加される電圧に耐え得る方法であれば特に制限されない。例えば、半田による接続や、各種のコネクタ(例えば、同軸コネクタ等)を用いた接続が挙げられる。なお、本実施形態のプラズマ発生装置1では、プラズマ発生に際してマイクロ波を用いないため、所定の特性インピーダンスを有する同軸コネクタ又は同軸ケーブルを用いる必要はない。
【0076】
電源装置63から第一電極10に印加される電圧及び周波数は、プラズマ発生装置1において誘電体バリア放電の発生が可能な範囲であればよい。典型的には、印加電圧は3kV~20kVであり、3kV~10kVであるのが好ましい。また、電圧信号の周波数は、典型的には20kHz~1000kHzであり、50kHz~150kHzであるのがより好ましい。上限が150kHzであることが好ましいとした理由は、その波長はプラズマ照射長を考慮したこと、また、EMC規格での雑音端子電圧で検出される周波数が150kHzよりも高周波であることによる。
【0077】
(第二電極20,ガス流路3)
第二電極20は、Y方向に延在する板形状を呈する。より詳細には、
図2及び
図3に示すように、第二電極20は、誘電体基板30を+Z側及び-Z側の双方から離間して挟み込むように配置されている。つまり、第二電極20は、Z方向に関して、誘電体基板30から、第一電極10が配置されている側とは反対側に離間して配置されている。
【0078】
第二電極20を低電圧側の電極とする場合、直接又は抵抗を介して接地電位に接続されていてもよく、電源装置63の低電圧側の出力に接続されていてもよい。
【0079】
図2及び
図3に示すように、第二電極20の誘電体基板30側の面には、一部箇所に凹部27が形成されている。この凹部27は、Y方向に延在して形成されている。
【0080】
図6は、誘電体基板30の-Z側の面とZ方向に対向する第二電極20を、+Z側から見たときの模式的な平面図である。なお、誘電体基板30の+Z側の面とZ方向に対向する第二電極20を、-Z側から見た場合も、実質的に同様の形状を示すものとして構わない。以下では、説明の簡略化のために、誘電体基板30よりも-Z側に位置する第二電極20についてのみ説明を行い、+Z側に位置する第二電極20についての説明は割愛する。
【0081】
図2、
図3、及び
図6によれば、第二電極20は+Y側、-Y側及び-X側の外縁部26において高さが高く、外縁部26よりも内側において、前述した凹部27が形成されていることが分かる。
図2に示すように、第二電極20の外縁部26は誘電体基板30の面と当接される。つまり、第二電極20の外縁部26と誘電体基板30とが当接されると、第二電極20のZ側において形成された凹部27は空隙を構成する。より詳細には、誘電体基板30よりも-Z側に位置する第二電極20については、この第二電極20の+Z側に形成された凹部27が空隙を構成し、誘電体基板30よりも+Z側に位置する第二電極20については、この第二電極20の-Z側に形成された凹部27が空隙を構成する。これらの凹部27によって形成される空隙が、「ガス流路3」を構成する。
【0082】
図6に示す例では、凹部27の底面において、Y方向に離間した複数の位置に連絡孔53が形成されている。連絡孔53の数は特に制限されないが、本実施形態のように2以上であることが好ましい。連絡孔53は、後述するようにガス送出装置61からのガスG0(
図2参照)を、ガス流路3に導くために設けられている。連絡孔53をY方向の異なる位置に複数設けることで、ガス流路3内を流れるガス流を層流としやすくなる。また、ガス流路3に導入される時点で、Y方向の広い範囲にガスを行き渡らせる観点から、Y方向の広い範囲に連絡孔53が形成されているのが好ましい。
【0083】
なお、
図6では、独立した複数の連絡孔53が形成されている例が示されているが、Y方向に長い、例えば矩形筒状の連絡孔53が単一で形成されていても構わない。ただし、ここでいう「単一」とは、それぞれの凹部27に対して単一という意味である。より詳細には、誘電体基板30よりも-Z側に位置する第二電極20の凹部27において単一の連絡孔53が形成され、誘電体基板30よりも+Z側に位置する第二電極20の凹部27において別の単一の連絡孔53が形成されていてもよい、という意味である。
【0084】
(ガスバッファ基板40)
図1~
図3に示すように、プラズマ発生装置1は、第二電極20に対して、誘電体基板30とは反対側から、すなわち±Z方向に係る外側から、当接されたガスバッファ基板40を備える。本実施形態では、ガスバッファ基板40は周縁部において第二電極20と当接されている。このため、当該周縁部の内側において、第二電極20とガスバッファ基板40との間には空隙51が形成される。
【0085】
前記空隙51には、ガス送出装置61(
図2参照)が連絡される。ガス送出装置61から送出されたガスG0は、空隙51内でバッファされた後、連絡孔53を通じてガス流路3に導かれる。なお、
図2には、ガス送出装置61が複数設けられている場合が図示されているが、共通のガス送出装置61から、それぞれの空隙51内に向かってガスG0が送出されるものとしても構わない。
【0086】
本実施形態のプラズマ発生装置1において、ガスバッファ基板40は、金属等の導電性部材で構成される。
【0087】
(吹出口5)
プラズマ発生装置1は、ガス流路3の+X側の端部、すなわち第一端71に吹出口5を備える。この吹出口5は、ガス流路3内を+X方向に沿って通流中に生成されたプラズマを、ガス流と共に外部に吹き付ける(プラズマガスG1)。プラズマ発生装置1は、一例として、ガス流路3及び吹出口5の幅(Y方向に係る長さ)が、X座標によらず均一である。これにより、ガス流路3に流入したガスG0の流れが乱れることなく、吹出口5から均質にプラズマガスG1を噴射できる。
【0088】
ただし、本発明においてはこの例に限定されず、吹出口5の幅は、必要に応じて調整してもよい。例えば、ガス流路3の-X側(第二端72側)の幅と比較して吹出口5の幅を狭くすることで、プラズマガスG1の強度が高められる。逆に、ガス流路3の-X側(第二端72側)の幅と比較して吹出口5の幅を広くすることで、プラズマガスG1の噴射幅を広げられ、被処理物に対して同一タイミングで吹き付けることのできる範囲が広げられる。
【0089】
ガス送出装置61から送出されるガスは、プラズマ発生装置1の始動時のガスとしては、He、Ne、及びArからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。また、プラズマが発生した後のガスとしては、所望の活性種を生成できるガス、具体的には、水素、酸素、水、窒素などからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0090】
本実施形態では、ガス流路3を流れるガス流が層流であることが好ましい。ガス流が層流であると、プラズマをより均質に噴射させることができる。ここで、層流と乱流とを区別するパラメータとして、レイノルズ数がある。
レイノルズ数Reは、流体の密度をρ(kg/m3)、流速をU(m/s)、特性長さをL(m)、流体の粘性係数をμ(Pa・s)として、
Re=ρ・U・L/μ
であらわされる無次元量である。
【0091】
層流と乱流との境目となるレイノルズ数は、限界レイノルズ数と呼ばれ、その値は2,000~4,000とされている。
【0092】
プラズマ発生装置1の大きさは特に制限されない。
一例として、外観の寸法は、幅(Y方向の長さ)が750mmであり、長さ(X方向の長さ)が40mmであり、厚み(Z方向の長さ、最も厚い箇所)が20mmである。
誘電体基板30の外形寸法は、幅が750mm、長さが40mm、第一端71における厚みが0.1mmである。
第一電極10の外径寸法は、幅が690mm、長さが20mmである。
第二電極20の外形寸法は、幅が750mm、長さが20mmである。また、第二電極20の第一端71における厚みは、+Z側及び-Z側に位置するそれぞれについて、0.1mmである。
ガス流路3の外形寸法は、+Z側及び-Z側に位置するそれぞれについて、幅が700mm、長さが35mmである。
吹出口5の寸法は、+Z側及び-Z側に位置するそれぞれについて、開口幅が700mm、開口高さが0.2mmである。+Z側に位置する吹出口5と-Z側に位置する吹出口5とは、誘電体基板30の第一端71における厚み相当分だけ離間している。
【0093】
図7は、
図2に示すプラズマ発生装置1から、第一電極10、第二電極20、及び誘電体基板30のみを抽出し、第一端71の近傍を拡大して表示した断面図である。
【0094】
本実施形態のプラズマ発生装置1において、誘電体基板30の一部の面は、ガス流路3の内側面を構成しており、ガス流路3の内側面を構成する面には、第一端71よりも-X方向に離れた位置においてXY平面にほぼ平行な平坦面31と、この平坦面31よりも+X側(第一端71側)に位置する傾斜面32とが含まれる。
【0095】
誘電体基板30内に埋め込まれている第一電極10は、第一端71よりも-X方向に離れた位置においてXY平面にほぼ平行な平坦面11と、この平坦面11よりも+X側(第一端71側)に位置する傾斜面12とを有する。
【0096】
誘電体基板30よりも外側(±Z側)に配置された第二電極20の一部の面は、ガス流路3の内側面を構成しており、ガス流路3の内側面を構成する面には、第一端71よりも-X方向に離れた位置においてXY平面にほぼ平行な平坦面21と、この平坦面21よりも+X側(第一端71側)に位置する傾斜面22とを有する。
【0097】
このように、誘電体基板30、第一電極10、及び第二電極20の少なくともいずれか一つの面が、X方向に関して第一端71に近い位置、すなわち吹出口5に近い位置に傾斜面を有することで、ガスがガス流路3内を通流して吹出口5に近づくに連れて、ガスに印加される電界強度が高められ、吹出口5近傍においてプラズマ化される(プラズマガスG1)。
【0098】
図8は、
図7の一部拡大図である。
図8では、説明の都合上、プラズマガスG1が吹き付けられる対象である被処理物Wが併記されている。
図8の例では、被処理物WがZ方向に移動しながらプラズマガスG1が吹き付けられる。
【0099】
本実施形態のプラズマ発生装置1によれば、Z方向に離間した複数の箇所にガス流路3が形成されている。そして、これらのガス流路3内を+X方向に通流したガスが、第一端71の近傍でプラズマ化されることで、吹出口5からプラズマガスG1として被処理物Wに吹き付けられる。
【0100】
本実施形態において、X方向に関して第一端71に近接した位置におけるガス流路3同士のZ方向の離間距離は、X方向に関して第一端71に近接した位置における誘電体基板30の厚み(Z方向の長さ)、すなわち誘電体基板30の端部39の厚みに依存する。通流するガスをプラズマ化するためには、ガスに対して高い電界を印加する必要があり、かかる観点から誘電体基板30の厚みには上限がある。上述した数値例では誘電体基板30の端部39の厚みが0.1mmであったが、端部39の厚みの上限値は1.0mmである。なお、端部39の厚みの下限値は、加工精度によって左右されるが、現実的には0.01mmである。
【0101】
つまり、本実施形態のプラズマ発生装置1によれば、Z方向に1.0mm未満の距離だけ離間した複数の位置(複数の吹出口5)から、それぞれプラズマガスG1が被処理物Wに吹き付けられる。被処理物Wは、通常、表面を処理する目的で、プラズマガスG1が吹き付けられる。この目的のためには、被処理物Wは、なるべく吹出口5の近くに配置される。現実的には、被処理物Wと吹出口5との間の離間距離(
図8内の距離d0)は、1.0mm~5.0mmである。よって、Z方向に極めて近接した状態で配置された複数の吹出口5から噴射されたプラズマガスG1は、被処理物Wの面に衝突するとその一部が反射することによって生じる乱流や、各プラズマガスG1の流速の微小な差異によって両者の間にプラズマガスG1の流れが生まれる。この結果、各吹出口5の開口幅よりも広い領域にプラズマガスG1で満たされたガス空間PAが形成される。よって、被処理物Wに対する表面処理能力が向上する。
【0102】
なお、
図2を参照して上述したように、ガス流路3別にガス送出装置61を備える場合には、それぞれのガス送出装置61から送出されるガスの流量や流速を微小に異ならせるように制御するのが好ましい。また、ガス送出装置61が複数のガス流路3に対して共通化されている場合には、ガス流路3の流路幅を相互に少し異ならせる等により、各ガス流路3を流れるガスの流速が相互に異なるように設計するのが好ましい。
【0103】
本実施形態のプラズマ発生装置1において、誘電体基板30、第一電極10、及び第二電極20の少なくともいずれか一の面は、上述したように傾斜した面であり、Z方向に離間して設けられたそれぞれのガス流路3内における電界強度は、前記傾斜面の角度等に依存する。製造時の切削等の処理において、Z方向に関して完全な対称性を有するような形状とすることは、加工精度の観点からは難しい。つまり、
図2に示すプラズマ発生装置1を製造した場合には、Z方向に離間して配置されている各ガス流路3の流路幅、傾き、切削時にガス流路3の内側面上に設けられた微差な凹凸の形状等が、相互に異なることが想定される。この結果、ガス送出装置61が各ガス流路3に対して共通化されている場合であっても、各ガス流路3を流れるガスの流速は相互に微妙に異なりやすい。
【0104】
(変形例)
上述したプラズマ発生装置1の構成はあくまで一例であり、本実施形態のプラズマ発生装置1は、種々のバリエーションの採用が可能である。以下、各バリエーションの構造について、
図7にならって表示した
図9A~
図9Jを参照しながら説明する。
【0105】
〈1〉
図7に示す構成の場合、第一電極10は+X方向に進行するに連れて厚み(Z方向の長さ)が薄くなる形状を呈していた。これに対し、
図9Aに示すように、第一電極10は、X座標の位置によらず厚みが均一な形状であっても構わない。つまり、第一電極10は、第一端71に近い位置においても平坦面11を有するものとしても構わない。
【0106】
〈2〉
図7に示す構成の場合、誘電体基板30は+X方向に進行するに連れて厚み(Z方向の長さ)が薄くなる形状を呈していた。これに対し、
図9Bに示すように、誘電体基板30は、X座標の位置によらず厚みが均一な形状であっても構わない。つまり、誘電体基板30は、第一端71に近い位置においても平坦面31を有するものとしても構わない。
【0107】
〈3〉
図7に示す構成の場合、第二電極20は、+X方向に進行するに連れて厚み(Z方向の長さ)が厚くなるように傾斜面22が設けられていた。つまり、X方向に関して第一端71に最も近い位置において、第二電極20の厚みが最も厚くなるような形状であった。これに対し、
図9Cに示すように、第二電極20は、X方向に関して第一端71に最も近い位置において、厚みが微小に減少するように傾斜面22の傾きが設定されていても構わない。より具体的には、
図9Cに示す領域81において、第二電極20はZ方向に関して誘電体基板30から遠ざかるように傾斜している。
【0108】
〈4〉
図7に示す構成の場合、第一電極10は+X方向に進行するに連れて厚み(Z方向の長さ)が薄くなる形状を呈していた。また、
図9Aに示す構成の場合、第一電極10は、X座標の位置によらず厚みが均一であった。これに対し、
図9Dに示すように、第一電極10は+X方向に進行するに連れて厚みが厚くなる形状を呈していても構わない。つまり、第一電極10は、第一端71に近い位置において、Z方向に関して第二電極20に近づくような傾斜面12を備えていても構わない。
【0109】
〈5〉
図7に示す構成の場合、第一電極10の+X側の端部は誘電体基板30によって覆われていた。これに対し、
図9Eに示すように、第一電極10の+X側の端部が、誘電体基板30とは別の材料からなる絶縁部材82で覆われていても構わない。第一電極10の+X側の端部を絶縁部材82で覆うことにより、誘電体基板30で覆う場合と同様に、コロナ放電等の不要な放電の発生を抑制できる。絶縁部材82の材料としては、ガラス、ガラスを含む焼結体、シリコーン又はエポキシ等の樹脂素材が挙げられる。
【0110】
〈6〉
図7に示す構成の場合、第一電極10の+X側の端部は誘電体基板30によって覆われていた。これに対し、
図9F~
図9Gに示すように、第一電極10の+X側の端部については誘電体基板30で覆わない一方、第一電極10よりもZ方向に係る外側の位置における誘電体基板30の+X側の端部を、第一電極10の+X側の端部よりも+X側に突出させても構わない。
【0111】
この場合において、第一電極10の+X側の端部は、
図9Fに示すように第一端71よりも-X側に位置していても構わないし、
図9Gに示すように第一端71よりも+X側に位置していても構わない。また、図示は省略しているが、第一電極10の+X側の端部が、第一端71と同じX座標に位置していても構わない。
【0112】
図9F~
図9Gに示すように、第一電極10の+X側の端部が誘電体基板30で覆われていない構造であっても、その周囲の誘電体基板30が+X側に突出することで、第一電極10と第二電極20との間の電気的な距離が確保され、直接放電が抑制される。
【0113】
〈7〉
図9Hに示すように、第二電極20の吹出口5の近傍の面上に、保護膜85が形成されていても構わない。この保護膜85は、第二電極20を構成する材料が飛散することを防止する目的で設けられる。
図9Hの例では、第二電極20が傾斜面22を有しており、この傾斜面22上に保護膜85が形成されている。保護膜85の材質としては、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、又はステアタイトが利用可能であり、誘電体基板30と同一の材質であるのが好ましい。
【0114】
第二電極20の面上に保護膜85を形成する方法は特に制限されないが、方法の容易性の観点からは、保護膜85を構成する材料を第二電極20の面上に溶射して塗布する方法が好適に挙げられる。保護膜85の厚さは、第二電極20の材料の飛散を抑制する機能を奏する限り適宜設定できるが、例えば10μm~100μmである。
【0115】
〈8〉
図9Iに示すように、誘電体基板30の吹出口5の近傍の面上に、始動補助部材86が形成されていても構わない。始動補助部材86の材料としては、炭素(カーボン)、又は遷移金属化合物等が挙げられる。始動補助部材86の材料として誘電体基板30よりも比誘電率の高い物質が挙げられる。このとき、誘電損失により、始動補助部材86の構成物質が加熱されて初期電子がガス流路3内に供給される。始動補助部材86の材料としては、カーボンが特に好ましい。カーボンは熱安定性が高いため、温度が上昇しても始動補助部材86の蒸発が生じにくく、プラズマ発生装置1としての信頼性が高められる。
【0116】
なお、始動補助部材86の材料として、より少ない印加電圧で電子放出作用が認められるよう、仕事関数の低い材料でもよい。
【0117】
図9Iに示すプラズマ発生装置1によれば、吹出口5の近傍に始動補助部材86を備えるため、初期電子をガス流路3内に供給することができ、始動性が向上する。これにより、電源容量の大きいマイクロ波発振装置やスタータ回路装置が不要となり、プラズマ発生装置1を小型且つ安価で製造することができる。
【0118】
〈9〉
図9Jに示すように、プラズマ発生装置1は、吹出口5に対して+X側に隣接した位置に遮光部材87を備えていても構わない。遮光部材87は、内部にガスの通流が可能な管体88を有しており、この管体88はガス流路3に連絡されている。
図9Jに示す例では、管体88により、プラズマガスG1の吹出方向が-Z方向に変更されている。かかる構成により、ガス流路3内の放電由来の光が被処理物に照射されることが防止される。
【0119】
〈10〉
図9Kに示すように、誘電体基板30の+X側の端部が、第一端71よりも-X側に微小距離だけ後退していても構わない。この場合、+Z側のガス流路3を通流するプラズマガスG1と、-Z側のガス流路3を通流するプラズマガスG1とは、共通の吹出口5から吹き出される。
【0120】
〈11〉上述した各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0121】
[第二実施形態]
誘電体バリア放電式プラズマ発生装置の第二実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下において、第一実施形態と共通の要素については、共通の符号を付すことで説明が適宜簡略化又は割愛される。
【0122】
図10は、本実施形態のプラズマ発生装置1を、模式的に示した斜視図である。
図11は、
図10におけるプラズマ発生装置1をXI-XI線で切断したときの模式的な断面図である。
図12は、
図10におけるプラズマ発生装置1を、XII-XII線で切断したときの模式的な断面図である。
図10~
図12は、それぞれ
図1~
図3にならって図示されている。
【0123】
本実施形態のプラズマ発生装置1は、第二電極20をY方向に挟み込むように配置された筐体45を備える。この筐体45の材質は任意であり、金属等の導電性部材で構成されていても構わないし、セラミック又は樹脂等の絶縁性部材で構成されていても構わない。
【0124】
(誘電体基板30)
図10~
図12に示すように、誘電体基板30はY方向に延在する板状部材である。ただし、本実施形態のプラズマ発生装置1の場合、第一実施形態とは異なり、
図11に示すように、一対の誘電体基板30がZ方向に離間した状態で配置されている。
【0125】
誘電体基板30は、第一実施形態と同様の材料を用いることができる。
【0126】
(第一電極10)
図11に示すように、本実施形態のプラズマ発生装置1では、Z方向に離間した状態で一対の第一電極10が配置されている。より詳細には、それぞれの第一電極10は、誘電体基板30の外側の面、すなわちガス流路3の内側面を構成しない面上に配置されている。第一電極10の材料は、第一実施形態と共通である。
【0127】
なお、本実施形態の場合には、第一電極10は、誘電体基板30の外側の面上に形成されることから、箔状の金属を採用することが可能である。一例として、片面に粘着加工が施されている銅箔、アルミニウム箔などの金属箔が挙げられる。
【0128】
また、別の例として、第一電極10は、導電性の金属を含有した焼結体であっても構わない。前記金属を含有した焼結体は、誘電体基板30の面上に、金属ペーストを印刷して形成できるため、製造時に接着剤を用いる必要がない。なお、接着剤を用いない観点からは、第一電極10は、メッキ、蒸着、又は、スパッタリング、又は溶射により形成することも可能である。
【0129】
本実施形態においても、第一実施形態と同様に、第一電極10と誘電体基板30とは、極力密着されており、両者の界面には空気の層がないことが好ましい。
【0130】
(第二電極20,ガス流路3)
第二電極20は、Y方向に延在する板形状を呈する。
図11~
図12に示すように、本実施形態のプラズマ発生装置1では、Z方向に離間して配置された一対の誘電体基板30に挟まれるように、第二電極20が配置されている。つまり、本実施形態においても、第二電極20は、Z方向に関して、誘電体基板30から第一電極10が配置されている側とは反対側に離間して配置されている。
【0131】
図12に示すように、第二電極20は、Y方向に係る両端の位置において誘電体基板30と接触している。第二電極20は、Y方向に係る中央部において、凹部27を有している。つまり、第二電極20の端部と誘電体基板30とが当接されることで、第一実施形態のプラズマ発生装置1と同様の事情により、第二電極20に形成されていた凹部27は空隙を構成する。この凹部27によって形成される空隙が、「ガス流路3」を構成する。
【0132】
(ガスバッファ基板40)
本実施形態のプラズマ発生装置1は、第二電極20よりも-X側の位置において、誘電体基板30に当接したガスバッファ基板40を備える。ガスバッファ基板40は空隙51を備え、ガス送出装置61からのガスG0が空隙51に導かれる。
【0133】
ガスバッファ基板40は、Y方向の異なる複数の位置に連絡孔53を設けている。ガス送出装置61からガスG0が送出されると、空隙51内にバッファされた後、連絡孔53を通じてガス流路3に導かれる。ただし、連絡孔53は、Y方向に延在する単一の孔部であってもよい。
【0134】
(吹出口5)
プラズマ発生装置1は、ガス流路3の+X側の端部、すなわち第一端71に吹出口5を備える。本実施形態においても、ガス流路3内を+X方向に沿って通流中に生成されたプラズマが、ガス流と共に吹出口5から外部に吹き付けられる(プラズマガスG1)。
【0135】
図13は、
図11に示すプラズマ発生装置1から、第一電極10、第二電極20、及び誘電体基板30のみを抽出し、第一端71の近傍を拡大して表示した断面図である。
【0136】
本実施形態のプラズマ発生装置1において、誘電体基板30は、ガス流路3の内側面を構成する平坦面31を有する。また、誘電体基板30は、平坦面31とは反対側の位置、すなわちガス流路3の外側の位置において、平坦面33と、平坦面33よりも+X側(第一端71側)に位置する傾斜面34とを有する。
【0137】
第一電極10は、少なくとも傾斜面34の上面に配置されている。なお、
図13の例では、第一電極10の一部は平坦面33の上面にも配置されている。
【0138】
第二電極20は、+Z側の面と-Z側の面の双方が、ガス流路3の内側面を構成しており、それぞれが、平坦面21と、この平坦面21よりも+X側(第一端71側)に位置する傾斜面22とを有する。
【0139】
このように、誘電体基板30、第一電極10、及び第二電極20の少なくともいずれか一つの面が、X方向に関して第一端71に近い位置、すなわち吹出口5に近い位置に傾斜面を有することで、ガスがガス流路3内を通流して吹出口5に近づくに連れて、ガスに印加される電界強度が高められ、吹出口5近傍においてプラズマ化される。
【0140】
図14は、
図13の一部拡大図である。なお、
図14においても、
図8と同様に、説明の都合上、プラズマガスG1が吹き付けられる対象である被処理物Wが併記されている。被処理物Wは、Z方向に移動しながらプラズマガスG1が吹き付けられる。
【0141】
本実施形態のプラズマ発生装置1においても、第一実施形態と同様に、Z方向に離間した複数の箇所にガス流路3が形成されている。そして、これらのガス流路3内を+X方向に通流したガスが、第一端71の近傍でプラズマ化されることで、吹出口5からプラズマガスG1として被処理物Wに吹き付けられる。
【0142】
本実施形態において、X方向に関して第一端71に近接した位置におけるガス流路3同士のZ方向の離間距離は、X方向に関して第一端71に近接した位置における第二電極20の厚み(Z方向の長さ)、すなわち、第二電極20の端部29の厚みに依存する。通流するガスをプラズマ化するためには、ガスに対して高い電界を印加する必要があり、かかる観点から第二電極20の厚みには上限がある。第二電極20の端部29の厚みは、1.0mm~10.0mmに設定される。
【0143】
つまり、本実施形態のプラズマ発生装置1によれば、Z方向に10.0mm未満の距離だけ離間した複数の位置(複数の吹出口5)から、それぞれプラズマガスG1が被処理物Wに吹き付けられる。よって、第一実施形態のプラズマ発生装置1と同様の理由により、各吹出口5の開口幅よりも広い領域にプラズマガスG1で満たされたガス空間PAが形成される。よって、被処理物Wに対する表面処理能力が向上する。
【0144】
(変形例)
図10~
図14を参照して上述したプラズマ発生装置1の構成はあくまで一例であり、本実施形態のプラズマ発生装置1は、種々のバリエーションの採用が可能である。以下、各バリエーションの構造について、
図13にならって表示した
図15A~
図15Gを参照しながら説明する。
【0145】
〈1〉
図10に示す構成の場合、誘電体基板30は+X方向に進行するに連れて厚み(Z方向の長さ)が薄くなる形状を呈していた。より詳細には、誘電体基板30の傾斜面34が、+X方向に進むに連れてガス流路3に近づくように傾斜していた。これに対し、
図15Aに示すように、誘電体基板30は+X方向に進行するに連れて厚みが厚くなる形状を呈していても構わない。言い換えれば、誘電体基板30の傾斜面34が、+X方向に進むに連れてガス流路3から遠ざかるように傾斜しても構わない。
【0146】
〈2〉
図10に示す構成の場合、第二電極20は、+X方向に進行するに連れて厚み(Z方向の長さ)が厚くなるように傾斜面22が設けられていた。つまり、X方向に関して第一端71に最も近い位置において、第二電極20の厚みが最も厚くなるような形状であった。これに対し、上述した
図9Cと同様に、第二電極20は、X方向に関して第一端71に最も近い位置において、厚みが微小に減少するように傾斜面22の傾きが設定されていても構わない(
図15B参照)。より具体的には、
図15Bに示す領域81において、第二電極20はZ方向に関して誘電体基板30から遠ざかるように傾斜している。
【0147】
〈3〉
図15Cに示すように、誘電体基板30には、第一電極10の+X側の端部に当接する絶縁部材91が形成されていても構わない。この構成によれば、X方向に関して第一電極10と吹出口5との間に絶縁部材91が設けられることで、吹出口5側における第一電極10と第二電極20との沿面距離が確保される。これにより、第一電極10と第二電極20との間の短絡や沿面放電の発生などの、不要な放電が抑制される。
【0148】
絶縁部材91の材料としては、例えば、誘電体基板30の材質として例示したものが挙げられる。
【0149】
なお、
図15Dに示すように、誘電体基板30には、第一電極10の+X側の端部に離間した位置に絶縁性の突起92を設けても構わない。
図15Dに示す例では、突起92が誘電体基板30と一体的に形成されている場合が図示されているが、誘電体基板30と別の部材で突起92が形成されていても構わない。
【0150】
〈4〉
図9Hを参照して上述したのと同様、本実施形態においても、第二電極20の吹出口5の近傍の面上に、保護膜85が形成されていても構わない(
図15E参照)。
【0151】
図9Iを参照して上述したのと同様、本実施形態においても、誘電体基板30の吹出口5の近傍の面上に、始動補助部材86が形成されていても構わない(
図15F参照)。
【0152】
図9Jを参照して上述したのと同様、本実施形態においても、吹出口5に対して+X側に隣接した位置に遮光部材87が備えられていても構わない(
図15G参照)。
【0153】
〈6〉
図15Hに示すように、第二電極20の+X側の端部が、第一端71よりも-X側に微小距離だけ後退していても構わない。この場合、+Z側のガス流路3を通流するプラズマガスG1と、-Z側のガス流路3を通流するプラズマガスG1とは、共通の吹出口5から吹き出される。
【0154】
〈7〉
図11では、一対の第一電極10に対して、共通の電源装置63が接続される場合が例示されている。しかし、それぞれの第一電極10に対して、個別の電源装置63が接続されていても構わない。
【0155】
〈8〉上述した各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0156】
1 :誘電体バリア放電式プラズマ発生装置
3 :ガス流路
5 :吹出口
10 :第一電極
20 :第二電極
27 :凹部
30 :誘電体基板
40 :ガスバッファ基板
45 :筐体
51 :空隙
53 :連絡孔
61 :ガス送出装置
63 :電源装置
82 :絶縁部材
85 :保護膜
86 :始動補助部材
87 :遮光部材
88 :管体
91 :絶縁部材
92 :突起