(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062338
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】がんワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/385 20060101AFI20230426BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230426BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230426BHJP
A61K 47/58 20170101ALI20230426BHJP
C07K 14/82 20060101ALN20230426BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230426BHJP
C07K 14/005 20060101ALN20230426BHJP
【FI】
A61K39/385
A61P35/00
A61K39/00 H
A61K47/58
C07K14/82 ZNA
C07K14/705
C07K14/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172241
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 利朗
(72)【発明者】
【氏名】北川 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 信至
(72)【発明者】
【氏名】伴野 拓巳
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB21
4C076BB25
4C076CC06
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA06
4C085BB01
4C085CC31
4C085EE01
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA20
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
【課題】腫瘍抗原エピトープによる抗腫瘍効果を向上させる技術の提供。
【解決手段】腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチド、及び
下記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物を含む、がんワクチン。
(式中、X
1は、膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を示し、X
2は、水酸基、アミノ基、炭素数1~4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチド、及び
下記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物を含む、がんワクチン。
【化1】
(式中、X
1は、膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を示し、X
2は、水酸基、アミノ基、炭素数1~4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を示す。)
【請求項2】
経粘膜がんワクチンである、請求項1に記載のがんワクチン。
【請求項3】
経鼻がんワクチンである、請求項1又は2に記載のがんワクチン。
【請求項4】
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドを構成するアミノ酸の数が、15~100個である、請求項1~3のいずれ一項に記載のがんワクチン。
【請求項5】
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が、
VYDFAFRDL(配列番号1)、
DKKQRFHNI(配列番号2)、
YRDGNPYAV(配列番号3)、
LCIVYRDGNPYAVCD(配列番号4)、
KLPQLCTEL(配列番号5)、
KLPQLCTEV(配列番号6)、
KISEYRHYC(配列番号7)、
ISEYRHYV(配列番号8)、
QQYNKPLCDL(配列番号9)、
QLYNKPLCDV(配列番号10)、
QLLRREVYDFAFRDL(配列番号11)、
VYDFAFRDLC(配列番号12)、
RAHYNIVTF(配列番号13)、
LCVQSTHVD(配列番号14)、
AEPDRAHYNIVTFCC(配列番号15)、
YMLDLQPET(配列番号16)、
YMLDLQPEV(配列番号17)、
TLHEYMLDL(配列番号18)、
TLHEYMLDV(配列番号19)、
RTLEDLLMGT(配列番号20)、
RTLEDLLMGV(配列番号21)、及び
QAEPDRAHVYNIVTFCCKCD(配列番号22)
からなる群より選択される少なくとも1種
である、請求項1~4のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【請求項6】
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が、
RMFPNAPYL(配列番号23)、
CMTWNQMNL(配列番号24)、
SENHTAPI(配列番号25)、
KRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号26)、
SLGEQQYSV(配列番号27)、
YMFPNAPYL(配列番号28)、
CYTWNQMNL(配列番号29)、
RWPSCQKKF(配列番号30)、
RSDELVRHHNMHQRNMTKL(配列番号31)、
ALLPAVPSL(配列番号32)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号33)、
EQCLSAFTLHFSGQFTG(配列番号34)、
FRGIQDVRRVSGVAPTLVR(配列番号35)、
RVPGVAPTL(配列番号36)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号37)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES(配列番号38)、及び
SGQAYMFPNAPYLPSCLES(配列番号39)
からなる群より選択される少なくとも1種
である、請求項1~4のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【請求項7】
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドが、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上直接又はリンカーを介して連結してなるペプチドである、請求項1~6のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【請求項8】
前記膜透過性ペプチドが、
2~30個のアルギニンがペプチド結合したアルギニンオリゴマーを有するペプチド、
GRKKRRQRRRPPQなるアミノ酸配列を有するペプチド、
TRQARRNRRRRWRERQRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
RRRRNRTRRNRRRVRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
TRRQRTRRARRNRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
KLTRAQRRAAARKNKRNTRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
KMTRAQRRAAARRNRWTARなるアミノ酸配列を有するペプチド、
RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド、
NAKTRRHERRRKLAIERなるアミノ酸配列を有するペプチド、
DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPDDPVDなるアミノ酸配列を有するペプチド、
GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド、及び
AGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチドからなる群より選択される少なくとも1種の膜透過性ペプチドである、請求項1~7のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【請求項9】
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドが、
VYDFAFRDLRRDKKQRFHNIRRRAHYNIVTFRRLCVQSTHVD(配列番号40)、又は
RMFPNAPYLRRCMTWNQMNLRRSENHTAPIRRKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号41)のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1~8のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【請求項10】
前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の幹高分子が、ビニル系親水性高分子又は多糖である、請求項1~9のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【請求項11】
前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物が、
下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1~10のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【化2】
(式中a、x及びyは、1以上の整数を示し、且つ、a:(x+y)=10:1~10を満たす整数を示す。但し、aのユニット、xのユニット、及びyのユニットはランダム重合している。式中、X
1及びX
2は、前記に同じである。)
【請求項12】
xとyが、x:y=0~40:10を満たす整数である、請求項11に記載のがんワクチン。
【請求項13】
前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物が、重量平均分子量10kDa~30000kDaの高分子化合物である、請求項1~12のいずれかに記載のがんワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、がんワクチン等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、がんペプチドワクチンとしては、10前後のアミノ酸からなるショートペプチドワクチンが主流であった。しかし、ショートペプチドは樹状細胞や、T細胞、B細胞の表層に発現するMHC class Iと直接結合してしまうため、強力な細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte;CTL)を誘導することができない点が課題とされていた。
【0003】
強力なCTLを誘導するには、腫瘍抗原が抗原提示細胞である樹状細胞の内部に取り込まれて処理され、その断片であるエピトープがMHC Class Iと共に表層に発現される必要があることから、近年は、複数の腫瘍抗原エピトープを合わせた30アミノ酸程度のロングペプチドワクチンが注目されている。しかし、ロングペプチドワクチンにおいては、抗原タンパクを如何に効率よく樹状細胞に取り込ませるかが課題とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/157692号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Vaccine. 2017 May 2; 35 (19):2605-2611.
【非特許文献2】Vaccine. 2009 Jan 14;27(3):431-40.
【非特許文献3】Vaccine. 2007 April 30; 25(17): 3302-3310.
【非特許文献4】Curr Opin Immunol. 2008 Apr;20 (2):211-20.
【非特許文献5】Blood. 2010 Jul 15; 116 (2):171-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
腫瘍抗原エピトープによる抗腫瘍効果を向上させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が複数連結したペプチドと膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物とを併用することによって、効率的に抗腫瘍免疫を誘導しうることを見出し、さらに改良を重ねた。
【0008】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチド、及び
下記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物を含む、がんワクチン。
【化1】
(式中、X
1は、膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を示し、X
2は、水酸基、アミノ基、炭素数1~4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を示す。)
項2.
経粘膜がんワクチンである、項1に記載のがんワクチン。
項3.
経鼻がんワクチンである、項1又は2に記載のがんワクチン。
項4.
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドを構成するアミノ酸の数が、15~100個である、項1~3のいずれか一項に記載のがんワクチン。
項5.
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が、
VYDFAFRDL(配列番号1)、
DKKQRFHNI(配列番号2)、
YRDGNPYAV(配列番号3)、
LCIVYRDGNPYAVCD(配列番号4)、
KLPQLCTEL(配列番号5)、
KLPQLCTEV(配列番号6)、
KISEYRHYC(配列番号7)、
ISEYRHYV(配列番号8)、
QQYNKPLCDL(配列番号9)、
QLYNKPLCDV(配列番号10)、
QLLRREVYDFAFRDL(配列番号11)、
VYDFAFRDLC(配列番号12)、
RAHYNIVTF(配列番号13)、
LCVQSTHVD(配列番号14)、
AEPDRAHYNIVTFCC(配列番号15)、
YMLDLQPET(配列番号16)、
YMLDLQPEV(配列番号17)、
TLHEYMLDL(配列番号18)、
TLHEYMLDV(配列番号19)、
RTLEDLLMGT(配列番号20)、
RTLEDLLMGV(配列番号21)、及び
QAEPDRAHVYNIVTFCCKCD(配列番号22)
からなる群より選択される少なくとも1種
である、項1~4のいずれか一項に記載のがんワクチン。
項6.
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が、
RMFPNAPYL(配列番号23)、
CMTWNQMNL(配列番号24)、
SENHTAPI(配列番号25)、
KRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号26)、
SLGEQQYSV(配列番号27)、
YMFPNAPYL(配列番号28)、
CYTWNQMNL(配列番号29)、
RWPSCQKKF(配列番号30)、
RSDELVRHHNMHQRNMTKL(配列番号31)、
ALLPAVPSL(配列番号32)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号33)、
EQCLSAFTLHFSGQFTG(配列番号34)、
FRGIQDVRRVSGVAPTLVR(配列番号35)、
RVPGVAPTL(配列番号36)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号37)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES(配列番号38)、及び
SGQAYMFPNAPYLPSCLES(配列番号39)
からなる群より選択される少なくとも1種
である、項1~4のいずれかに記載のがんワクチン。
項7.
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドが、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上直接又はリンカーを介して連結してなるペプチドである、項1~6のいずれか一項に記載のがんワクチン。
項8.
前記膜透過性ペプチドが、
2~30個のアルギニンがペプチド結合したアルギニンオリゴマーを有するペプチド、GRKKRRQRRRPPQなるアミノ酸配列を有するペプチド、
TRQARRNRRRRWRERQRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
RRRRNRTRRNRRRVRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
TRRQRTRRARRNRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
KLTRAQRRAAARKNKRNTRなるアミノ酸配列を有するペプチド、
KMTRAQRRAAARRNRWTARなるアミノ酸配列を有するペプチド、
RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド、
NAKTRRHERRRKLAIERなるアミノ酸配列を有するペプチド、
DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPDDPVDなるアミノ酸配列を有するペプチド、
GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド、及び
AGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチドからなる群より選択される少なくとも1種の膜透過性ペプチドである、項1~7のいずれか一項に記載のがんワクチン。
項9.
前記腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドが、
VYDFAFRDLRRDKKQRFHNIRRRAHYNIVTFRRLCVQSTHVD(配列番号40)、又は
RMFPNAPYLRRCMTWNQMNLRRSENHTAPIRRKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号41)のアミノ酸配列からなるペプチドである、項1~8のいずれか一項に記載のがんワクチン。
項10.
前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の幹高分子が、ビニル系親水性高分子又は多糖である、項1~9のいずれか一項に記載のがんワクチン。
項11.
前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物が、
下記一般式(2)で表される化合物である、項1~10のいずれか一項に記載のがんワクチン。
【化2】
(式中a、x及びyは、1以上の整数を示し、且つ、a:(x+y)=10:1~10を満たす整数を示す。但し、aのユニット、xのユニット、及びyのユニットはランダム重合している。式中、X
1及びX
2は、前記に同じである。)
項12.
xとyが、x:y=0~40:10を満たす整数である、項11に記載のがんワクチン。
項13.
前記一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物が、重量平均分子量10kDa~30000kDaの高分子化合物である、項1~12のいずれかに記載のがんワクチン。
【発明の効果】
【0009】
優れた抗腫瘍効果を示すがんワクチンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図6】IFN-γ産生CD8T細胞の割合を測定した結果を示す。
【
図7】HPV E7 RAHYNIVTF
49-57特異的CD8T細胞の割合を測定した結果を示す。
【
図8】TC-1細胞に対する細胞傷害活性を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
本開示に包含されるがんワクチンは、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチド、及び後述する一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物を含む。本明細書において、当該がんワクチンを「本開示のがんワクチン」と表記することがある。なお、本明細書において、「がんワクチン」とは、がん患者に投与されるワクチンを意味し、がんの治療に利用できる。つまり、本明細書において、がんワクチンは、がん治療剤と言うこともできる。
【0012】
腫瘍抗原エピトープは、抗腫瘍免疫を誘導し得るものである限り、特に限定されない。例えば、公知の腫瘍抗原エピトープ等が挙げられる。
【0013】
腫瘍抗原エピトープは、例えば、CD8エピトープ(CD8陽性細胞傷害性T細胞認識エピトープ)であってもよく、CD4エピトープ(CD4陽性ヘルパーT細胞認識エピトープ)であってもよい。
【0014】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸の数は、例えば、8~20個程度とすることができる。腫瘍抗原エピトープが、MHC ClassI分子に提示される場合、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸の数は、例えば、8~10個程度であってもよい。また、腫瘍抗原エピトープが、MHC ClassII分子に提示される場合、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸の数は、例えば、15~20個程度であってもよい。
【0015】
対象とする腫瘍抗原としては、特に限定されないが、例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV 16型)E6タンパク質、E7タンパク質;Wilms Tumor 1(WT1)タンパク質;MUC1;LMP2;EGFRvIII;HER-2/neu;Idiotype;MAGE A3;p53 nonmutant;NY-ESO-1;PSMA;GD2;CEA;MelanA/MART1;ネオアンチゲン等が挙げられる。
【0016】
対象とする腫瘍抗原がヒトパピローマウイルス(HPV 16型)のE6タンパク質である場合、公知の腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列としては、
VYDFAFRDL49-57(CD8エピトープ配列:配列番号1)、
DKKQRFHNI127-135(CD8エピトープ配列:配列番号2)、
YRDGNPYAV61-69(CD8エピトープ:配列番号3)、
LCIVYRDGNPYAVCD57-71(CD8エピトープ:配列番号4)、
KLPQLCTEL11-19(CD8エピトープ:配列番号5)、
KLPQLCTEV11-19(CD8エピトープ:配列番号6)、
KISEYRHYC72-80(CD8エピトープ:配列番号7)、
ISEYRHYV72-80(CD8エピトープ:配列番号8)、
QQYNKPLCDL90-99(CD8エピトープ:配列番号9)、
QLYNKPLCDV90-99(CD8エピトープ:配列番号10)、
QLLRREVYDFAFRDL43-57(CD8エピトープ:配列番号11)、
VYDFAFRDLC49-58(CD8エピトープ:配列番号12)
等が例示される(非特許文献1~3)。なお、本明細書において、E6タンパク質の腫瘍抗原エピトープを示すアミノ酸配列において、アミノ酸配列と共に記載する数字は、ヒトE6タンパク質のアミノ酸配列における位置を示す。
中でも、腫瘍抗原(E6タンパク質)エピトープを構成するアミノ酸配列としては、VYDFAFRDL(配列番号1)、又は
DKKQRFHNI(配列番号2)が好ましい。
対象とする腫瘍抗原がヒトパピローマウイルス(HPV 16型)のE7タンパク質である場合、公知の腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列としては、
RAHYNIVTF49-57(CD8エピトープ配列:配列番号13)、
LCVQSTHVD67-75(CD8エピトープ配列:配列番号14)、
AEPDRAHYNIVTFCC45-59(CD8エピトープ:配列番号15)、
YMLDLQPET11-19(CD8エピトープ:配列番号16)、
YMLDLQPEV11-19(CD8エピトープ:配列番号17)、
TLHEYMLDL7-15(CD8エピトープ:配列番号18)、
TLHEYMLDV7-15(CD8エピトープ:配列番号19)、
RTLEDLLMGT77-86(CD8エピトープ:配列番号20)、
RTLEDLLMGV77-86(CD8エピトープ:配列番号21)、
QAEPDRAHVYNIVTFCCKCD44-62(CD8エピトープ配列:配列番号22)
等が例示される(非特許文献1~3)。なお、本明細書において、E7タンパク質の腫瘍抗原エピトープを示すアミノ酸配列において、アミノ酸配列と共に記載する数字は、ヒトE7タンパク質のアミノ酸配列における位置を示す。
中でも、腫瘍抗原(E7タンパク質)エピトープを構成するアミノ酸配列としては、RAHYNIVTF(配列番号13)、又は
LCVQSTHVD(配列番号14)が好ましい。
例えば、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドは、
VYDFAFRDL(配列番号1)、
DKKQRFHNI(配列番号2)、
RAHYNIVTF(配列番号13)、及び
LCVQSTHVD(配列番号14)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも2種を含むことがより好ましく、少なくとも3種を含むことがさらにより好ましく、4種全てを含むことを特に好ましい。
【0017】
対象とする腫瘍抗原がWT1タンパク質である場合、公知の腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列としては、
RMFPNAPYL126-134(CD8エピトープ:配列番号23)、
CMTWNQMNL235-243(CD8エピトープ:配列番号24)、
SENHTAPI273-280(CD8エピトープ:配列番号25)、
KRYFKLSHLQMHSRKH332-337(CD4エピトープ:配列番号26)、
SLGEQQYSV187-195(CD8エピトープ:配列番号27)、
YMFPNAPYL126-134(CD8エピトープ:配列番号28)、
CYTWNQMNL235-243(CD8エピトープ:配列番号29)、
RWPSCQKKF417-425(CD8エピトープ:配列番号30)、
RSDELVRHHNMHQRNMTKL427-445(CD4エピトープ:配列番号31)、
ALLPAVPSL10-18(CD8エピトープ:配列番号32)、
WAPVLDFAPPGASAYGSL35-52(CD4エピトープ:配列番号33)、
EQCLSAFTLHFSGQFTG86-102(CD4エピトープ:配列番号34)、
FRGIQDVRRVSGVAPTLVR294-312(CD4エピトープ:配列番号35)、
RVPGVAPTL302-310(CD8エピトープ:配列番号36)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG328-349(CD4エピトープ:配列番号37)、
SGQARMFPNAPYLPSCLES122-140(CD4エピトープ:配列番号38)、
SGQAYMFPNAPYLPSCLES122-140(CD4エピトープ:配列番号39)
等が例示される(特許文献1、非特許文献4及び5)。なお、本明細書において、WT1の腫瘍抗原エピトープを示すアミノ酸配列において、アミノ酸配列と共に記載する数字は、ヒトWT1のアミノ酸配列における位置を示す。
中でも、腫瘍抗原(WT1タンパク質)エピトープを構成するアミノ酸配列としては、RMFPNAPYL(配列番号23)、
CMTWNQMNL(配列番号24)、
SENHTAPI(配列番号25)、又は
KRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号26)が好ましい。
例えば、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドは、
RMFPNAPYL(配列番号23)、
CMTWNQMNL(配列番号24)、
SENHTAPI(配列番号25)、及び
KRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号26)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも2種を含むことがより好ましく、少なくとも3種を含むことがさらにより好ましく、4種全てを含むことを特に好ましい。
【0018】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列は、抗腫瘍免疫を誘導し得るものである限り、上述した公知の腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列において、1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。欠失、置換、又は付加されたアミノ酸の個数は、例えば、1~3個程度であってもよく、1~2個程度であってもよい。
【0019】
アミノ酸の欠失、置換、又は付加などの変異を特定のアミノ酸配列に加える技術は当該技術分野において公知であり、任意の手法を用いて行うことができる。例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法、ランダム突然変異導入法等を利用して行うことができる。
【0020】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、連結される腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列の数は、2個以上であることが好ましい。連結される腫瘍抗原エピトープの数の下限値は、例えば、3個以上であってもよく、4個以上であってもよい。連結される腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列の数の上限値は、特に限定されず、例えば、10個以下、8個以下、6個以下、又は4個以下等とすることができる。
【0021】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。例えば、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、それぞれの腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列はすべて異なっていてもよい。
【0022】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、腫瘍抗原エピトープは、CD8エピトープであってもよく、CD4エピトープであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。例えば、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドが、CD8エピトープ及びCD4エピトープを含む場合、CD8エピトープとCD4エピトープとの比率は、例えば、4:1~1:4程度であってもよく、3:1~1:3程度であってもよい。
【0023】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、腫瘍抗原エピトープの由来となる腫瘍抗原は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0024】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列の連結される順序は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0025】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドにおいて、それぞれの腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列は、直接又はリンカーを介して連結することができる。
【0026】
リンカーとしては、例えば、2個以上のアミノ酸からなるリンカー等が例示される。
リンカーを構成するアミノ酸としては、アルギニン、リジン、ヒスチジン等の塩基性側鎖を有するアミノ酸;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、及びシステイン等の非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸等が例示される。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。リンカーを構成するアミノ酸としては、塩基性側鎖を有するアミノ酸が好ましく、アルギニンがより好ましい。
リンカーを構成するアミノ酸の数は、例えば、1~5個程度であってもよく、1~3個程度であってもよく、1~2個程度であってもよい。
中でも、リンカーとしては、アルギニンオリゴマーが好ましい。アルギニンオリゴマーとしては、アルギニンの繰り返し数が2~5のアルギニンオリゴマーが好ましく、アルギニンダイマー(RR)がより好ましい。
【0027】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドを構成するアミノ酸の数は、例えば、15~100個程度とすることができる。例えば、30~90個程度であってもよい。
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドは、例えば、腫瘍抗原タンパク質そのものであってもよい。
【0028】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドとしては、具体的には、
VYDFAFRDLRRDKKQRFHNIRRRAHYNIVTFRRLCVQSTHVD(配列番号40:HPV E6E7)、
RMFPNAPYLRRCMTWNQMNLRRSENHTAPIRRKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号41:WT1)等が例示される。
【0029】
本開示のがんワクチンに含まれる、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドの含有濃度は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、0.05~50μg/μl程度とすることができる。
【0030】
腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドは、上述した公知のアミノ酸配列の情報に基づいて、一般的なペプチドの化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することができる。また、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドは、当該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを利用して、遺伝子工学的な手法で製造することができる。
【0031】
本開示に用いられる高分子化合物は、下記一般式(1)で表される基を側鎖に有する。
【0032】
【0033】
一般式(1)中、X1は、膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を示す。
【0034】
膜透過性ペプチド残基を構成するアミノ酸の少なくとも1つは塩基性アミノ酸であることが好ましい。また、塩基性アミノ酸は、L体又はD体のいずれであってもよい。
【0035】
塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン、オルニチン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン等が挙げられ、中でも、グアニジノ基含有アミノ酸が好ましく、アルギニンが更に好ましい。膜透過性ペプチド残基を構成する全アミノ酸に対する塩基性アミノ酸の割合は、モル基準で、50%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましい。膜透過性ペプチド残基を構成するアミノ酸のうち、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸は、中性アミノ酸であることが好ましい。なお、本明細書中、アミノ酸と記載する場合、特に断らない限り、α-アミノ酸を意味する。
【0036】
膜透過性ペプチド残基を構成するアミノ酸の数は、例えば、2~40個程度とすることができる。当該範囲の上限若しくは下限は、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、又は39個であってもよい。より具体的には、例えば、3~39個であってもよい。
【0037】
膜透過性ペプチドとしては、例えば、2~30個のアルギニンがペプチド結合したアルギニンオリゴマーを有するペプチド、GRKKRRQRRRPPQなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、HIV-1 Tat:配列番号42)、TRQARRNRRRRWRERQRなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、HIV-1 Rev:配列番号43)、RRRRNRTRRNRRRVRなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、FHV Coat:配列番号44)、TRRQRTRRARRNRなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、HTLV-II Rex:配列番号45)、KLTRAQRRAAARKNKRNTRなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、CCMV Gag:配列番号46)等の親水性の塩基性ペプチド;KMTRAQRRAAARRNRWTARなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、BMW Gag:配列番号47)、RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、ペネトラチン:配列番号48)、NAKTRRHERRRKLAIERなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、P22N:配列番号49)、DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPDDPVDなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、VP22:配列番号50)等の両親媒性の塩基性ペプチド;GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、トランスポータン:配列番号51)、AGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、TP-10:配列番号52)等の疎水性の塩基性ペプチド等が挙げられる。膜透過性ペプチドは、上述したアルギニンオリゴマー又は配列番号42~52に示すアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。
中でも、膜透過性ペプチドとしては、親水性の塩基性ペプチドが好ましく、アルギニンオリゴマーを有するペプチドがより好ましく、アルギニンオリゴマーからなるペプチドがさらにより好ましい。アルギニンオリゴマーにおけるアルギニンの繰り返し数は、2~20が好ましく、2~15がより好ましく、4~10が好ましい。例えば、6~10であってもよい。
【0038】
一般式(1)中、X2は、水酸基、アミノ基、炭素数1~4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を示す。
炭素数1~4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、1-メチルプロポキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。X2としては、水酸基、アミノ基、t-ブトキシ基、ベンジルオキシ基が好ましく、水酸基、アミノ基が更に好ましく、アミノ基が最も好ましい。
一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物中、一般式(1)で表される基が複数存在する場合、それぞれの一般式(1)で表される基の、X1及びX2は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
本明細書において、一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の主鎖部分を幹高分子という。
【0040】
幹高分子は、特に限定されないが、親水性高分子であることが好ましい。ここで、親水性高分子とは、水溶性高分子、または水中で膨潤する高分子を意味する。本明細書において、水溶性高分子とは、常圧下で25℃の水に0.1質量%以上の量で均一に溶解する高分子をいう。
【0041】
親水性高分子としては、例えば、グアーガム、アガロース、マンナン、グルコマンナン、ポリデキストロース、リグニン、キチン、キトサン、カラギーナン、プルラン、コンドロイチン硫酸、セルロース、ヘミセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、カチオンデンプン、デキストリン、ヒアルロン酸等の多糖;アルブミン、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、ポリリジン等の水溶性タンパク質又は水溶性ポリペプチド;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(アクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(2-アミノエチル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド共重合物、(メタ)アクリル酸/N-イソプロピルアクリルアミド共重合物、(メタ)アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合物、(メタ)アクリル酸/マレイン酸共重合物、(メタ)アクリル酸/フマル酸共重合物、エチレン/マレイン酸共重合物、イソブチレン/マレイン酸共重合物、スチレン/マレイン酸共重合物、アルキルビニルエーテル/マレイン酸共重合物、アルキルビニルエーテル/フマル酸共重合物等のビニル系親水性高分子;水溶性ポリウレタン等が挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリル酸とはアクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0042】
幹高分子への膜透過性ペプチド基のグラフト化が容易になることから、幹高分子としては、カルボキシル基を有する高分子が好ましく、カルボキシル基を有する親水性高分子がより好ましく、カルボキシル基を有するモノマーとカルボキシル基を有しないモノマーとの共重合物が更に好ましく、(メタ)アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合物が最も好ましい。
【0043】
例えば、一般式(1)で表される基は、リンカーを介して、幹高分子に結合していてもよい。一般式(1)で表される基がリンカーを介して、幹高分子に結合する場合、幹高分子としては、例えば、ヒアルロン酸が好ましい。
リンカーとしては、例えば、2個以上のアミノ酸からなるリンカー等が例示される。
リンカーを構成するアミノ酸としては、特に限定されないが、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン等が例示される。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。リンカーを構成するアミノ酸としては、グリシン、アラニンが好ましく、グリシンがより好ましい。
リンカーを構成するアミノ酸の数は、例えば、2~4個程度であってもよく、2~3個程度であってもよい。
中でも、リンカーとしては、グリシンオリゴマーが好ましい。グリシンオリゴマーとしては、グリシンの繰り返し数が2~4のグリシンオリゴマーが好ましい。
【0044】
幹高分子を構成するモノマー単位の数に対するカルボキシル基を有するモノマー単位の数の割合は、例えば、10~50%程度が好ましく、10~40%程度がより好ましい。
【0045】
一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物における膜透過性ペプチド残基の数は、幹高分子を構成するモノマー単位(多糖類の場合は単糖単位、水溶性タンパク質又は水溶性ポリペプチドの場合はアミノ酸単位)の数に対して、0.001~0.9程度であることが好ましく、0.005~0.8程度であることが更に好ましく、0.01~0.7程度であることが最も好ましい。例えば、0.05~0.5程度であってもよい。
【0046】
幹高分子の重量平均分子量は、例えば、10kDa~10000kDaが好ましく、10kDa~5000kDaが更に好ましく、10kDa~3000kDaが最も好ましい。幹高分子の重量平均分子量は、例えば、100kDa~3000kDaであってもよく、200kDa~3000kDaであってもよい。なお、本明細書において重量平均分子量とは、水系溶媒を用いてGPC分析を行った場合の重量平均分子量であって、幹高分子が多糖類、又は水溶性タンパク質の場合には、プルラン換算の重量平均分子量、幹高分子がビニル系親水性高分子の場合には、ポリエチレングリコール(PEG)若しくはポリエチレンオキシド(PEO)換算の重量平均分子量をいう。
【0047】
一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の重量平均分子量は、例えば、10kDa~30000kDaが好ましく、10kDa~20000kDaが更に好ましく、10kDa~10000kDaが最も好ましい。また、例えば、一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物が、後述する一般式(2)で表される化合物である場合、重量平均分子量は、例えば、10kDa~10000kDaが好ましく、10kDa~1000kDaが更に好ましい。一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物が、後述する一般式(2)で表される化合物である場合、重量平均分子量は、例えば、500kDa~1000kDaであってもよい。
【0048】
一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。
【化4】
式中a、x及びyは、1以上の整数を示し、且つ、a:(x+y)=10:1~10を満たす整数を示す。但し、aのユニット、xのユニット、及びyのユニットはランダム重合している。式中、X
1及びX
2は、前記に同じである。
なお、本明細書において、下記の構造をaのユニットと表記することがある。
【化5】
また、本明細書において、下記の構造をxのユニットと表記することがある。
【化6】
また、本明細書において、下記の構造をyのユニットと表記することがある。
【化7】
一般式(2)において、a:(x+y)は、例えば、10:1~10が好ましく、10:2~8がより好ましく、10:3~6がさらに好ましい。
【0049】
一般式(2)において、xとyは、x:y=0~40:10を満たす整数であることが好ましい。例えば、x:y=0~20:10が好ましく、0~10:10がより好ましい。例えば、x:y=1~10:10であってもよい。
【0050】
一般式(2)において、y/(a+x+y)は、0.001~0.9程度であることが好ましく、0.005~0.8程度であることが更に好ましく、0.01~0.7程度であることが最も好ましい。例えば、0.05~0.5程度であってもよい。
【0051】
特に好ましい一例としては、一般式(2)において、a:x:y=70:10~20:10~20等が例示される。
【0052】
一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の製造方法は特に限定されず、当業者に広く知られている各種の方法を適用できる。例えば、一般式(1)で表される基を有する重合性モノマーを重合して製造してもよく、幹高分子に一般式(1)で表される基を導入して製造してもよい。例えば、幹高分子のカルボキシル基に、膜透過性ペプチドのアミノ基をペプチド反応させることにより得ることができる。カルボキシル基とアミノ基との反応は、公知の方法を用いればよく、例えば、カルボキル基をN-ヒドロキシコハク酸イミドによりスクシイミドエステル化した後、アミノ基を反応させる方法等が挙げられる。より具体的には、例えば、特許第5808082号公報、特許第5281358号公報、特許第6692051号公報、特許第6880526号公報等に記載の方法にならって、製造することができる。
【0053】
本開示のがんワクチンに含まれる、一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の含有濃度は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、0.1~100μg/μl程度とすることができる。
【0054】
本開示のがんワクチンに含まれる、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチドと一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物との含有質量比率は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、1:0.1~1:1000程度とすることができる。
【0055】
本開示のがんワクチンは、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、薬学的に許容される各種担体(例えば、溶剤、分散剤、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、保存剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等)等が例示される。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本開示のがんワクチンは、アジュバントを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0056】
本開示のがんワクチンの製剤形態は、特に限定されず、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤、ゼリー剤、フィルム剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、軟膏剤、パップ剤、貼付剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤等の非経口投与剤等を挙げられる。中でも、点鼻剤が好ましい。
【0057】
本開示のがんワクチンの製造方法は特に限定されず、当該技術分野において、公知の手法により製造することができる。例えば、腫瘍抗原エピトープを構成するアミノ酸配列が2個以上連結してなるペプチド、一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物、及び必要に応じて他の成分を混合することにより製造することができる。
【0058】
本開示のがんワクチンの投与方法としては、例えば、経粘膜投与、経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与等により、投与することができる。中でも、経粘膜投与(例えば、経鼻、経肺、経口腔(例えば、経舌下等)、経消化管(例えば、経直腸等)、経膣、経眼など)が好ましく、経鼻、経肺、経口腔投与がより好ましく、経鼻投与がさらにより好ましい。
つまり、本開示のがんワクチンは、経粘膜がんワクチンとして好適に用いることができ、経鼻がんワクチンとしてより好適に用いることができる。従来のワクチンはほとんどが皮下注射剤であるため、特に、経鼻がんワクチンは投与法として患者の苦痛、負担を軽減できる。
【0059】
本開示のがんワクチンの投与対象としては、例えば、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、ヒト;ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サル等の非ヒト哺乳動物などが例示される。
【0060】
本開示のがんワクチンの投与(摂取)量は、特に限定されず、投与する対象の年齢、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。
【0061】
本開示のがんワクチンによれば、例えば、腫瘍抗原特異的な細胞傷害性T細胞の誘導等の細胞性免疫応答の誘導等により、抗腫瘍効果が発揮される。つまり、本開示のがんワクチンは、液性免疫を誘導する従来の予防ワクチンとは異なり、がんの治療に好適に用いることができる。また、本開示のがんワクチンは、がん(腫瘍)の増大を抑制する又はがん(腫瘍)を縮小するために好適に用いることができる。
本開示のがんワクチンが対象とするがん(腫瘍)は、特に限定されず、用いる腫瘍抗原エピトープにより決定される。例えば、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肛門がん、膵臓がん、舌がん、咽頭がん、甲状腺がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、小児がん、脳腫瘍、骨肉腫、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん等が挙げられる。
本開示のがんワクチンが投与される対象としては、特に限定されないが、例えば、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肛門がん、膵臓がん、舌がん、咽頭がん、甲状腺がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、小児がん、脳腫瘍、骨肉腫、腎がん、尿路上皮がん、前立腺がん患者等が挙げられる。
【0062】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0063】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0064】
本開示の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。
【0065】
HPVを用いた検討
精製ロングペプチドの作製
精製HPV E6E7ロングペプチド(アミノ酸配列(配列番号40):VYDFAFRDLRRDKKQRFHNIRRRAHYNIVTFRRLCVQSTHVD)をEurofins Genomicsにて合成した。当該ロングペプチドはHPV 16型のE6、E7タンパク中の以下のH2-Db and H2-Kb 拘束性CD8エピトープ配列[E6(VYDFAFRDL49-57(配列番号1);DKKQRFHNI127-135(配列番号2))およびE7(RAHYNIVTF49-57(配列番号13);LCVQSTHVD67-75(配列番号14))]を2残基のアルギニン(R)で連結したペプチド配列を有する。当該ロングペプチドについて、ジメチルスルホキシド(DMSO)にて100mg/mlのストック溶液を作成した。
上記HPV E7 RAHYNIVTF49-57(配列番号13)についても同様にEurofins Genomicsにて合成し、ジメチルスルホキシド(DMSO)にて10mg/mlのストック溶液を作成した。
【0066】
膜透過ペプチド固定化高分子VP-R8
VP-R8の構造式を以下に示す。VP-R8は、特許第5808082号公報の記載にならって、使用するモノマー原料の量等を調製し、製造した。なお、膜透過ペプチド固定化高分子VP-R8の幹高分子(PNVA-co-AA:アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体)の重量平均分子量は、280kDaである。PNVA-co-AAの重量平均分子量、膜透過ペプチドとして用いたD-オクタアルギニンの分子量とその固定化率から算出した膜透過ペプチド固定化高分子VP-R8の重量平均分子量は925kDa(計算値)であった。
【0067】
【化8】
膜透過ペプチド固定化高分子VP-R8(a:x:y=70:15:15)
【0068】
担癌マウスを用いた動物試験
1×105個のTC-1細胞をそれぞれ30匹の6週齢メスC57BL/6マウスにマトリゲル(Corning)とともに皮下移植し、腫瘍を形成させた。TC-1細胞は組換えによりHPV 16 E6およびE7タンパクを安定発現するマウス肺癌細胞株である。TC-1細胞は米国ジョンズ・ホプキンス大学のTC Wu博士より譲渡された。TC-1細胞の培養には1mMピルビン酸ナトリウム、1mM非必須アミノ酸、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび10%ウシ胎児血清を添加したRPMI-1640培地(富士フィルム和光純薬株式会社)を使用した。腫瘍移植から7日後にマウスをランダムに下記の6投与群(n=5)に分類した。
投与群1-1:HPV E6E7ロングペプチド(10μg)+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群1-2:HPV E6E7ロングペプチド(100μg)+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群1-3:HPV E7ショートペプチド(RAHYNIVTF49-57、10μg)+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群1-4:HPV E6E7ロングペプチド(10μg)+生理食塩水 in 20μL(経鼻投与)
投与群1-5:生理食塩水+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群1-6:HPV E6E7ロングペプチド(100μg)+不完全フロイントアジュバント(IFA) in 100μL(腹腔内投与)
【0069】
投与群1-1、投与群1-2についてはHPV E6E7ロングペプチド、投与群1-3についてはHPV E7 RAHYNIVTF49-57ペプチドのストック溶液をそれぞれ60μg、600μg、または60μgを生理食塩水に混和しそれぞれ58μLとした。これらの溶液に対しVP-R8溶液(10mg/mL)をそれぞれ58μL添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群1-4については、60μgのHPV E6E7ロングペプチドのストック溶液を生理食塩水に混和し58μLとした。この溶液に対し58μLの生理食塩水を添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群1-5については、58μLの生理食塩水と58μLのVP-R8溶液(10mg/mL)を添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群1-6についてはHPV E6E7ロングペプチド800μgを生理食塩水に混合して400μLとし、400μLの不完全フロイントアジュバント(IFA,富士フィルム和光純薬株式会社)と混合して、投与液とした。
【0070】
腫瘍移植後7日目にマウスを分類した後、投与群1-1、1-2、1-3、1-4および1-5についてはマイクロピペットを用いて各投与液20μLを麻酔下にマウスの片鼻腔から投与した。投与群1-6については100μLの投与液を麻酔下に腹腔内投与した。投与は腫瘍移植後7日目、14日目、21日目および28日目に行った。経日的に腫瘍径を測定し、以下の計算式から腫瘍体積を算出した;[腫瘍体積(mm
3)=長径×(短径)
2×0.5]。投与群1-1、1-3、1-4及び1-5の平均腫瘍体積を
図1に示す。また、投与群1-2、1-5及び1-6の平均腫瘍体積を
図2に、マウスの生存率を
図3に示す。また、投与後の代表的なマウス腫瘍写真を
図4に示す。
【0071】
図1、及び
図4に示す通り、HPV E6E7ロングペプチドとVP-R8の混合物を経鼻投与した場合(投与群1-1)、それぞれを単独で経鼻投与した場合(投与群1-4、1-5)と比較して、有意に腫瘍体積の増加を抑制することが確認された。腫瘍体積増加抑制効果は、HPV E7 ショートペプチドを経鼻投与した場合(投与群1-3)と比較して高かった。
図2に示す通り、HPV E6E7ロングペプチドとVP-R8の混合物を経鼻投与した場合(投与群1-2)、VP-R8を単独で経鼻投与した場合(投与群1-5)と比較して、有意に腫瘍体積の増加を抑制することが確認された。腫瘍体積増加抑制効果は、HPV E6E7ロングペプチドと不完全フロイントアジュバントの混合物を腹腔内投与した場合(投与群1-6)と比較して高かった。
図3に示す通り、投与群1-2では、投与群1-5及び1-6と比較して、マウスの生存率を有意に改善した。このことから、HPV E6E7ロングペプチドとVP-R8の混合物を投与すると、E6E7タンパク発現腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果を強く示し、また生存率も改善されることが示された。
【0072】
マウスを用いた免疫試験
6週齢のメスC57BL/6マウスを下記の投与群(n=5)に分類した。
投与群2-1:HPV E6E7ロングペプチド(10μg)+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群2-2:HPV E7ショートペプチド(RAHYNIVTF49-57、10μg)+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群2-3:HPV E6E7ロングペプチド(10μg)+生理食塩水 in 20μL(経鼻投与)
投与群2-4:生理食塩水+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
【0073】
投与群2-1についてはHPV E6E7ロングペプチド、投与群2-2についてはHPV E7ショートペプチド(RAHYNIVTF49-57)を、それぞれ60μgを生理食塩水に混和しそれぞれ58μLとした。これらの溶液に対しVP-R8溶液(10mg/mL)をそれぞれ58μL添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群2-3については、60μgのHPV E6E7ロングペプチドを生理食塩水に混和し58μLとした。この溶液に対し58μLの生理食塩水を添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群2-4については、58μLの生理食塩水と58μLのVP-R8溶液(10mg/mL)を添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
【0074】
上記のように分類したマウスに対し、マイクロピペットを用いて各投与液20μLを麻酔下にマウスの片鼻腔から投与した。投与は0日目、7日目、および14日目に行った。
図5に示す通り、体重変化に有意な差は見られなかった。
15日目にマウスを安楽死させ、脾臓を採取した。単離した脾臓細胞を以下の実験に用いた。
【0075】
細胞内サイトカイン染色によるHPV特異的T細胞の検出
投与群2-1~4のマウスから単離した1×10
6個の脾臓細胞を5μg/mLのHPV E6E7ロングペプチドを用いて37℃、5%CO
2条件下で刺激培養した後、脾臓細胞を回収した。培養時間は36時間とし、培養開始24時間から36時間の間はGolgiStop(BD Biosciences)を培養液中に添加した状態で培養した。TC-1細胞については、200μg/mLのマイトマイシンC(ナカライテスク)で処理したものを刺激培養に使用した。脾臓細胞の培養は2mML-グルタミン、10mM HEPES、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1mM非必須アミノ酸、50μM 2-メルカプトエタノール、1mMピルビン酸ナトリウム、10%FBSを添加したRPMI-1640培地を使用した。
回収した脾臓細胞を遠心回収し、10μg/mL 抗マウスCD16/32抗体(BioLegend)を4℃、20分間反応させた。抗体希釈液にはStaining buffer(1%FBS、0.09%アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝食塩水)を使用した。反応後に細胞を遠心洗浄し、それぞれ2μg/mLのFluorescein isothiocyanate(FITC)標識抗マウスCD4抗体、PerCP標識抗マウスCD3抗体およびAllophycocyanin(APC)標識抗マウスCD8抗体(いずれもBD Biosciences)を添加したStaining bufferで脾臓細胞を遮光下、氷冷で30分間染色した。染色後に細胞を洗浄し、BD/Cytofix/Cytoperm Plus Fixation/Permeabilization Kit(BD Biosciences)に付属のFixation/Permeabilization solutionにて氷上、遮光下で20分間処理を行った。細胞を1×Perm/Wash Buffer(BD Biosciences)で遠心洗浄した後、PE標識抗マウスインターフェロン-γ(IFN-γ)抗体で遮光下、氷上で30分間染色した。その後細胞を1×Perm/Wash Bufferで遠心洗浄し、Staining bufferに懸濁した。細胞をGuava easycyteフローサイトメーター(Luminex)で測定し、Guava Incyteソフトウェア(Luminex)で解析を行った。結果を
図6に示す。
【0076】
図6に示す通り、脾臓細胞をHPV E6E7ロングペプチドで刺激した場合に、投与群2-1においてIFN-γ産生CD8T細胞の割合が投与群2-3に対して有意に増加した(p<0.05)。このことから、HPV E6E7ロングペプチドとVP-R8の混合物を投与すると、E6E7ペプチド特異的な細胞性免疫応答を誘導することが示された。
【0077】
MHCテトラマーによるHPV E7 RAHYNIVTF
49-57
特異的CD8T細胞の検出
投与群2-1~4のマウスから単離した1×10
6個の脾臓細胞を5μg/mLのHPV E6E7ロングペプチドを用いて37℃、5% CO
2 条件下で6日間刺激培養した後、脾臓細胞を回収した。培養2日目及び4日目に20IU/mlインターロイキン2(IL-2)を添加した。細胞を回収し、10μg/ml抗マウスCD16/32抗体(BioLegend)で氷上、20分静置した。抗体希釈液にはStaining bufferを使用した。反応後に細胞を遠心洗浄し、4μg/mL T-Select H-2D
b HPV16 E7 Tetramer-RAHYNIVTF-PE(MBL)で遮光下、室温、30分間反応させた。遠心洗浄後、PerCP標識抗マウスCD3抗体およびAllophycocyanin(APC)標識抗マウスCD8抗体で遮光下、4℃で30分間染色した。遠心洗浄後、細胞をStaining bufferに懸濁し、Guava easycyteフローサイトメーターで測定した後、Guava Incyteソフトウェアで解析した。結果を
図7に示す。
【0078】
図7に示す通り、脾臓細胞をHPV E6E7ロングペプチドで刺激した場合に、投与群2-1においてHPV E7 RAHYNIVTF
49-57特異的CD8T細胞の割合が他の投与群に対して有意に増加した(p<0.05)。このことから、HPV E6E7ロングペプチドとVP-R8の混合物を投与すると、HPV E7 RAHYNIVTF
49-57特異的な細胞傷害性T細胞を誘導することが示された。
【0079】
脾臓細胞におけるHPV E6E7特異的細胞傷害活性の検出
投与群2-1~4のマウスから単離した2×10
7個のマウス脾臓細胞を2×10
6 cells/wellのマイトマイシンC処理TC-1細胞と混合し、37℃、5%CO
2条件下で6日間培養した。培養2日目及び4日目に20IU/mL IL-2を添加した。脾臓細胞を回収し、96ウェルプレートにて脾臓細胞と5×10
3個のTC-1細胞を40:1の比率で混合後、37℃、5%CO
2条件下で8時間培養した。培養上清を回収し、Cytotox 96 Non-radioactive Cytotoxicity Assay Kit(プロメガ)を用いて、培養上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定した。測定方法はキットの説明書に従った。吸光度値から細胞傷害活性を算出した。結果を
図8に示す。
【0080】
図8に示す通り、脾臓細胞をTC-1細胞で刺激した場合、投与群2-1においてに対してTC-1細胞に対する細胞傷害活性が有意に増加した(p<0.05)。このことから、HPV E6E7ロングペプチドとVP-R8の混合物を投与すると、HPV E6E7特異的な細胞傷害活性を有する細胞性免疫応答を誘導することが示された。
【0081】
WT1を用いた検討
精製ロングペプチドの作製
精製Wilms’tumor 1(WT1)ロングペプチド(アミノ酸配列(配列番号41):RMFPNAPYLRRCMTWNQMNLRRSENHTAPIRRKRYFKLSHLQMHSRKH)をEurofins Genomicsにて合成した。当該ロングペプチドはWT1タンパク中の以下のエピトープ配列(RMFPNAPYL126-134(配列番号23):H-2Db拘束性CD8エピトープ、CMTWNQMNL235-243(配列番号24):HLA-A*24:02拘束性CD8エピトープ、SENHTAPI273-280(配列番号25):H-2Kk拘束性CD8エピトープ、KRYFKLSHLQMHSRKH332-337(配列番号26):HLA-DRB1*0405拘束性CD4エピトープ)を2残基のアルギニン(R)で連結したペプチド配列を有する。当該ロングペプチドについて、ジメチルスルホキシド(DMSO)にて100mg/mlのストック溶液を作成した。
上記RMFPNAPYL(配列番号23)についても同様にEurofins Genomicsにて合成し、ジメチルスルホキシド(DMSO)にて100mg/mlのストック溶液を作成した。
【0082】
担癌マウスを用いた動物試験
1×105個のC1498-WT1細胞を40匹の6週齢メスC57BL/6マウスにマトリゲルとともに皮下移植し、腫瘍を形成させた。C1498-WT1細胞は組換えによりマウスWT1タンパクを安定発現するマウス白血病細胞株である。C1498-WT1細胞は大阪大学 橋井佳子博士より譲渡された。C1498-WT1細胞の培養には100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、50μM 2-メルカプトエタノール、0.5mg/mL G418、および10%ウシ胎児血清を添加したRPMI-1640培地を使用した。腫瘍移植から7日後にマウスをランダムに下記の8投与群(n=5)に分類した。
投与群3-1:WT1ロングペプチド(100μg)+VP-R8(100μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群3-2:WT1ロングペプチド(100μg)+生理食塩水 in 20μL(経鼻投与)
投与群3-3:生理食塩水+VP-R8(100 μg) in 20μL(経鼻投与)
投与群3-4:WT1ロングペプチド(100μg)+不完全フロイントアジュバント(IFA) in 100μL(腹腔内投与)
投与群3-5:RMFPNAPYL126-134+不完全フロイントアジュバント(IFA) in 100μL(腹腔内投与)
【0083】
投与群3-1についてはWT1ロングペプチドを、600μgを生理食塩水に混和しそれぞれ58μLとした。これらの溶液に対しVP-R8溶液(10mg/mL)をそれぞれ58μL添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群3-2については、600μgのWT1ロングペプチドを生理食塩水に混和し58μLとした。この溶液に対し58μLの生理食塩水を添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群3-3については、58μLの生理食塩水と58μLのVP-R8溶液(10mg/mL)を添加して計116μLとし、よく混和した後室温で15分以上静置して投与液とした。
投与群3-4については800μgのWT1ロングペプチドを生理食塩水に混合して400μLとし、400μLの不完全フロイントアジュバントと混合して、投与液とした。
投与群3-5については800μgのRMFPNAPYL126-134ペプチドを生理食塩水に混合して400μLとし、400μLの不完全フロイントアジュバントと混合して、投与液とした。
【0084】
腫瘍移植後7日目にマウスを分類した後、投与群3-1~3についてはマイクロピペットを用いて各投与液20μLを麻酔下にマウスの片鼻腔から投与した。投与群3-4および投与群3-5については100μLの投与液を麻酔下に腹腔内投与した。投与は腫瘍移植後7日目、14日目、21日目および28日目に行った。経日的に腫瘍径を測定し、以下の計算式から腫瘍体積を算出した;[腫瘍体積(mm
3)=長径×(短径)
2×0.5]。投与群3-1~4の平均腫瘍体積を
図9に、マウスの生存率を
図10に示す。また、投与群3-1及び3-5のマウスの生存率を
図11に示す。
【0085】
図9及び10に示す通り、WT1ロングペプチドとVP-R8の混合物を経鼻投与した場合(投与群3-1)、WT1ロングペプチドと不完全フロイントアジュバントの混合物を腹腔内投与した場合(投与群3-4)と比較して、有意に腫瘍体積の増加を抑制すること、並びに生存率を有意に改善することが確認された。
図11に示す通り、WT1ロングペプチドとVP-R8の混合物を経鼻投与した場合(投与群3-1)、WT1ショートペプチドと不完全フロイントアジュバントの混合物を腹腔内投与した場合(投与群3-5)と比較して、生存率の改善効果が高いことが確認された。
このことから、WT1ロングペプチドとVP-R8の混合物を投与すると、WT1タンパク発現腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果を誘導することが示された。