(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062344
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】工具本体及び切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/00 20060101AFI20230426BHJP
B23B 29/02 20060101ALI20230426BHJP
B23B 27/16 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23B29/02 A
B23B27/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172248
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】尾上 太一
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 翔太
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA05
3C046BB02
3C046EE01
3C046KK02
(57)【要約】
【課題】本発明は、コストを抑えつつ、びびり振動を効果的に抑制可能な、工具本体及び切削工具を提供する。
【解決手段】本発明の工具本体は、先端に切削インサートが着脱可能に取り付けられ、回転軸の軸回りに回転可能な工具本体であって、回転軸に沿って延びる軸状のシャンク部と、シャンク部の軸方向の先端側に位置するヘッド部と、を有して回転軸の軸回りに回転可能とされ、ヘッド部は、外周面から内側に凹むチップポケットと、チップポケットの内側に形成されるインサート取付座と、少なくとも一部が、インサート取付座よりも軸方向でシャンク側に位置する空洞部と、を有し、空洞部の先端は、インサート取付座と軸方向で重なる位置まで延びている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に切削インサートが着脱可能に取り付けられ、回転軸の軸回りに回転可能な工具本体であって、
前記回転軸に沿って延びる軸状のシャンク部と、
前記シャンク部の軸方向の先端側に位置するヘッド部と、を有し、
前記ヘッド部は、外周面から内側に凹むチップポケットと、
前記チップポケットの内側に形成されるインサート取付座と、
少なくとも一部が、前記インサート取付座よりも軸方向で前記シャンク側に位置する空洞部と、を有し、
前記空洞部の先端は、前記インサート取付座と前記軸方向で重なる位置まで延びている、
工具本体。
【請求項2】
前記空洞部は、前記ヘッド部の外周面に形成された開口に連通する、
請求項1に記載の工具本体。
【請求項3】
前記開口は、前記回転軸を挟んで前記インサート取付座の径方向反対側に形成されている、
請求項2に記載の工具本体。
【請求項4】
前記開口及び前記空洞部のうちの少なくとも一部にラティス構造が形成されている、
請求項2または3に記載の工具本体。
【請求項5】
前記空洞部は、前記回転軸に沿って延びており、
前記ヘッド部の軸方向先端側へ向かって拡径するテーパ形状の孔部を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項6】
前記空洞部は、前記回転軸に沿って延びており、
前記ヘッド部の軸方向先端側へ向かって直線形状をなす孔部を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項7】
前記空洞部の基端側は中実形状の前記シャンク部によって閉塞されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項8】
前記空洞部は、前記シャンク部の軸方向先端側に前記ヘッド部が積層造形される際に形成される、
請求項1から7のいずれか1項に記載の工具本体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の前記工具本体と、
前記工具本体の先端に着脱可能に取り付けられる前記切削インサートと、を備える、
切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中ぐり加工等の旋削加工に用いられる工具本体及び切削工具(ボーリングバー)に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下穴が形成されたワークに内周加工を施すための中ぐり用の切削工具としてボーリングバーが知られている。このボーリングバーは、略円柱状をなす工具本体のヘッド部先端に、例えば、超硬合金製のチップを着脱可能に装着している。このボーリングバーは、工作機械の主軸に支持されて高速回転するワークの下穴に挿入され、チップに形成された切刃によって、ワークの下穴の内周面を切削していくものである。ボーリングバーは、工具本体のシャンク部を工作機械に把持されて軸状の工具本体を長く突き出した状態で切削を行うものである。そのため、切削加工時にびびり振動が発生しやすい。びびり振動が発生すると、被削材の加工面精度が低下したり、工具寿命が短くなったりして、生産性に影響する。
【0003】
そこで、従来は、工具本体を超硬合金製とすることで剛性を高めたり、工具本体内に防振構造を組み込んだり、工具本体の表面に溝を形成することで軽量化を図ることで、びびり振動の発生を抑制しようとしていた(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3847139号
【特許文献2】特開2001-105204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の特許文献1に記載のボーリングバーでは、部品点数の増加に伴いコストが増大することが懸念される。また、特許文献2に記載のボーリングバーでは、エンドミルを用いて工具本体の外周面の一部に溝を形成しているが、溝形成による工具本体の軽量化には限界があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、コストを抑えつつ、びびり振動を効果的に抑制可能な、工具本体及び切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態における工具本体は、先端に切削インサートが着脱可能に取り付けられ、回転軸の軸回りに回転可能な工具本体であって、前記回転軸に沿って延びる軸状のシャンク部と、前記シャンク部の軸方向の先端側に位置するヘッド部と、を有し、前記ヘッド部は、外周面から内側に凹むチップポケットと、前記チップポケットの内側に形成されるインサート取付座と、少なくとも一部が、前記インサート取付座よりも軸方向で前記シャンク側に位置する空洞部と、を有し、前記空洞部の先端は、前記インサート取付座と前記軸方向で重なる位置まで延びている。
【0008】
この構成によれば、工具本体の先端側に位置するヘッド部の内部に空洞を設けることによって、工具先端側を軽量化することができるので、切削インサートを取り付けた状態で加工を行った際に生じやすいびびり振動が発生しにくくなる。工具本体の先端側を軽量化することで、切削加工時における工具本体の固有振動数の増大を図り、切削による振動数との乖離を大きくしてびびりによる切削面との共振を抑制できる。これにより、被削材の加工面精度を高めることができるとともに、工具寿命を長くすることができる。さらに、空洞部の先端がインサート取付座と軸方向で重なる位置まで延びていることから、より工具先端側の軽量化を図ることができる。
【0009】
本発明の一形態の工具本体において、前記空洞部は、前記ヘッド部の外周面に形成された開口に連通する構成としてもよい。
この構成によれば、空洞部に連通する開口を設けることにより、ヘッド部における肉厚を部分的になくすことができてさらなる軽量化を図ることができる。これにより、びびり振動をより一層抑制することが可能である。
【0010】
本発明の一形態の工具本体において、前記開口は、前記回転軸を挟んで前記インサート取付座の径方向反対側に形成されている構成としてもよい。
この構成によれば、インサート取付座の径方向反対側に開口を設けることによって、切削負荷が大きくなる切削インサート側の剛性が確保され、びびり振動をより抑制することができる。
【0011】
本発明の一形態の工具本体において、前記開口及び前記空洞部のうちの少なくとも一部にラティス構造が形成されている構成としてもよい。
この構成によれば、空洞部内に切り屑等が入り込むのを防ぐことができる。
【0012】
本発明の一形態の工具本体において、前記空洞部は、前記回転軸に沿って延びており、前記ヘッド部の軸方向先端側へ向かって拡径するテーパ形状の孔部を有する構成としてもよい。
この構成によれば、孔部のテーパ形状によって軸方向先端側の肉厚を漸次減らすことができるので、基端側の剛性を確保しつつ、工具先端側の軽量化を図ることができる。
【0013】
本発明の一形態の工具本体において、前記空洞部は、前記回転軸に沿って延びており、前記ヘッド部の軸方向先端側へ向かって直線形状をなす孔部を有する構成としてもよい。
この構成によれば、ヘッド部の軸方向全体の軽量化を図ることができるので、切削時のびびり振動を抑えて加工精度を高めることができる。また、簡単な孔形状のため製造が容易であるとともに、最低限の工具剛性を確保できる孔寸法とすることで肉厚を最小限にすることができ、材料費が抑えられる。
【0014】
本発明の一形態の工具本体において、前記空洞部の基端側は中実形状の前記シャンク部によって閉塞されている構成としてもよい。
この構成によれば、中実形状のシャンクによって工具基端側の剛性が確保されている。
【0015】
本発明の一形態の工具本体において、前記空洞部は、前記シャンク部の軸方向先端側に前記ヘッド部が積層造形される際に形成される構成としてもよい。
この構成によれば、空洞部を有するヘッド部をシャンク部と一体構造とすることができるので、工具剛性の向上とコスト削減を図ることができる。
【0016】
本発明の一形態の切削工具は、上記の工具本体と、前記工具本体の先端に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、を備える。
この構成によれば、びびり振動を抑制可能な上記工具本体を備えることにより、被削材の加工面精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の工具本体及び切削工具によれば、コストを抑えつつ、びびり振動を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、第一実施形態のボーリングバーを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第一実施形態のボーリングバーのヘッド部を拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、第一実施形態のボーリングバーのヘッド部を拡大して示す側面図である。
【
図4】
図4は、第一実施形態のボーリングバーのヘッド部を拡大して示す側面図であって、
図3中の矢印F方向から見た図である。
【
図5】
図5は、第一実施形態のボーリングバーの軸方向先端側から見た図である。
【
図6】
図6は、変形例1における空孔を示す断面図である。
【
図7】
図7は、変形例2の空孔を示す断面図である。
【
図8】
図8は、変形例3の空孔を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第二実施形態のボーリングバー(切削工具)を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第三実施形態のボーリングバーを示す断面図である。
【
図11A】
図11Aは、本発明の第一実施形態のボーリングバーを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るボーリングバー(中ぐりバイト)1について、図面を参照して説明する。
本実施形態のボーリングバー(切削工具)1は、回転軸線回りに回転させられる金属材料等の被削材に対して、中ぐり加工等の旋削加工を施すものである。このボーリングバー1は、例えば深穴の精密中ぐり加工など、高精度が要求される旋削加工に特に適している。
【0020】
<第一実施形態>
〔ボーリングバーの概略構成〕
図1は、第一実施形態のボーリングバー1を示す斜視図である。
本実施形態のボーリングバー1は、
図1に示すように、超硬合金からなる切削インサート4と、鋼材からなる工具本体2と、を備えた刃先交換式ボーリングバーである。ボーリングバー1は、工作機械の主軸に支持されて、回転軸COの軸回りに回転するワークの内径を加工する。
【0021】
工具本体2は、全体的に略棒状をなす。工具本体2は、回転軸COに沿って延びる円柱軸状のシャンク部21と、シャンク部21の軸方向の先端側に位置するヘッド部22とからなる。本実施形態では、シャンク部21の一端側にヘッド部22が積層造形により作製されている。工具本体2は、鋼材等の金属材料により形成されていてもよいし、超硬合金等の硬質材料により形成されていてもよい。
【0022】
図1に示すように、切削インサート4は、工具本体2のヘッド部22の先端側に配置されている。切削インサート4は、工具本体2の回転軸COに直交する径方向の外側へ向けて突出する切刃3を有する。切削インサート4は、超硬合金等の硬質材料により形成されている。
【0023】
以下、各構成要素について図面を参照して詳述する。
【0024】
図2は、第一実施形態のボーリングバー1のヘッド部22を拡大して示す斜視図である。
図3及び
図4は、第一実施形態のボーリングバー1のヘッド部22を拡大して示す側面図である。
図4は、
図3中の矢印F方向から見た図である。
図5は、第一実施形態のボーリングバー1の軸方向先端側から見た図である。
【0025】
(切削インサート)
図2及び
図3に示すように、切削インサート4は、板状をなしており、図示の例では、中心線Oに沿う平面視正三角形板状に形成されている。切削インサート4は、工具本体2に取り付けられ、工具本体2と共に切削工具として用いられる。切削インサート4は、工具本体2のインサート取付座11に対して、クランプネジ12により着脱可能に取り付けられる。クランプネジ12は、切削インサート4の取付孔(不図示)に挿入される。切削インサート4は、工具本体2に取り付けられたときに、工具本体2のインサート取付座11に拘束される。
【0026】
切削インサート4は、中心線Oに軸方向で対向する一方の面を構成するすくい面4aと、他方の面を構成する着座面4bと、すくい面4aと着座面4bとを繋ぐ側面4cと、すくい面4aと側面4cとの交差稜線に形成される切刃3と、中心線Oと同軸に設けられた取付孔(不図示)と、有する。取付孔は、切削インサート4の厚さ方向に形成され、すくい面4a及び着座面4bの双方に開口する貫通孔である。着座面4bは、すくい面4aの厚さ方向への投影領域の内側に内包される大きさである。
【0027】
(工具本体)
図2及び
図3に示すように、工具本体2は、シャンク部21の軸方向先端側にヘッド部22が積層造形により一体的に形成された構成をなす。工具本体2のヘッド部22には、軸方向の中途部から先端側にかけて、外周面22bを切り欠いて凹状のチップポケット6が形成されている。さらに、工具本体2のチップポケット6に隣接する外周面22bをチップポケット6まで切り欠いた第一凹部7が形成されている。第一凹部7の軸方向長さは、ヘッド部22の軸方向長さの1/2以下程度とされている。第一凹部7に周方向で隣接する外周面22bを周方向に一部切り欠いて第二凹部8が形成されている。また、ヘッド部22には、第一凹部7、第二凹部8、及びチップポケット6に周方向で隣接する第三凹部9が形成されている。第三凹部9は、軸方向の中途部から先端側にかけて、外周面22bを先端部まで切り欠いて形成されている。
【0028】
チップポケット6には、略三角形板状の凹部をなすインサート取付座11が形成されている。インサート取付座11は、切削インサート4が取り付けられる台座である。上記切削インサート4は、工具本体2に取り付けられたときに、工具本体2のインサート取付座11に拘束される。
【0029】
インサート取付座11は、
図3及び
図5に示すように、底部拘束面11aと、底部拘束面11aに対して略垂直をなす第1側方拘束面11b及び第2側方拘束面11cとを有する。底部拘束面11a、第1側方拘束面11b及び第2側方拘束面11cはいずれも平滑な面である。
【0030】
底部拘束面11aは、周方向一方側を向く面である。底部拘束面11aは、切削インサート4の着座面4bと対向する面であって、周方向一方側から見たとき略三角形状をなす。切削インサート4の着座面4b側は、底部拘束面11aに当接することで拘束される。底部拘束面11aの略中央には、クランプネジ12が挿入されるネジ孔(不図示)が形成されている。
【0031】
第1側方拘束面11bは、切削インサート4の3つの側面のうち、インサート取付座11に取り付けられた状態のときに、径方向内側を向く側面4c2に対向する。切削インサート4の側面4c2側は、第1側方拘束面11bに当接することで拘束される。
【0032】
第2側方拘束面11cは、切削インサート4がインサート取付座11に取り付けられた状態のときに径方向外側を向く側面4c3に対向する。切削インサート4の側面4c3は、第2側方拘束面11cに当接することで拘束される。
【0033】
なお、
図3に示すように、切削インサート4がインサート取付座11に取り付けられた状態のとき、側面4c1が軸方向先端側を向く。切削インサート4は、側面4c1が回転軸COに対して所定の角度θとなるように取り付けられる。これにより、切削インサート4は、工具本体2の径方向外側へ行くにしたがって、軸方向先端側へ漸次突出するように傾斜した状態となる。切削インサート4の側面4c1と側面4c3とが交差する角部は、ヘッド部22の外周面よりも径方向外側へ突出している。この角部が、被削材に対する切削点Qとなる。
【0034】
図4及び
図5に示すように、インサート取付座11の裏側には、インサート取付座11側へと凹む凹溝14が形成されている。凹溝14は、周方向一方側とは反対側に開口する溝である。凹溝14を設けることによって、工具本体2の先端側の軽量化を図っている。
【0035】
本実施形態の工具本体2は、
図3及び
図4に示すように、ヘッド部22の内部に空孔(空洞部)13を有する。空孔13は、非直線形状をなし、工具本体2の軸方向に沿って延びておいる。空孔13は、シャンク部21側の基端からヘッド部22の軸方向中央付近に向かって漸次縮径するテーパ形状の第1孔部(孔部)13aと、第1孔部13aから工具本体2の先端側にかけて漸次拡径するテーパ形状の第2孔部(孔部)13bと、ヘッド部22の外周面に形成された凹溝開口部15に連通する第3孔部13cを有する。第1孔部13aと第2孔部13bとは、互いの縮径側が接続されており、軸方向で互いに相反する方向へ拡径したテーパ形状をなす。
【0036】
第1孔部13aの軸方向における長さは、第2孔部13bの軸方向における長さよりも短く、ヘッド部22の軸方向長さの半分以下の長さとされている。なお、ヘッド部22の軸方向長さにおける各孔部13a、13bの長さの比率はこれに限定されず、適宜変更が可能である。
本実施形態のヘッド部22には、軸方向長さのうち先端から2/3程度の位置に段差16が形成されている。段差16を境にして、段差16よりも基端側はシャンク部21の直径と略一致する。段差16よりも先端側は、基端側よりもわずかに縮径している。空孔13の第1孔部13aと第2孔部13bとの境目は、軸方向で段差16と略一致する。
【0037】
図4に示すように、空孔13の先端(第3孔部13c)は、ヘッド部22の第三凹部9に開口している。空孔13に連通する凹溝開口部(開口)15は、軸方向における第三凹部9の基端側に位置する。
図3に示すように、空孔13は、軸方向においてインサート取付座11と重なる位置まで延びている。空孔13(凹溝開口部15)の先端は、インサート取付座11と軸方向で重なる位置まで延びている。つまり、空孔13(凹溝開口部15)の先端は、インサート取付座11の基端部11dよりも工具本体2の先端側に位置する。また、
図4に示すように、空孔13(凹溝開口部15)の先端は、インサート取付座11の背面側に形成された凹溝14とも軸方向で重なっている。
【0038】
ヘッド部22内に形成された空孔13は、工具本体2の回転軸COと略同軸に形成される。これにより、切削加工時に工具本体2の回転の重心が偏ることが防止される。空孔13は、シャンク部21の軸方向先端側にヘッド部22を積層造形で形成する際に形成される。そのため、空孔13の基端側は、シャンク部21によって閉塞されている。すなわち、シャンク部21の内部には空孔13は形成されておらず中実形状とされているため、工具基端側の剛性が確保されている。シャンク部21の軸方向先端側にヘッド部22を積層造形で形成する際に空孔13を形成するため、シャンク部21とヘッド部22とを一体構造とすることができる。これにより、工具剛性をさらに高めることができるとともに、部品点数が増大することもないためコストを抑えることが可能である。
【0039】
図5に示すように、空孔13の凹溝開口部15とインサート取付座11とは、工具本体2の径方向において隣接する。凹溝開口部15は、工具本体2の回転軸COを挟んで切削インサート4の切削点Qと径方向反対側に形成されている。また、インサート取付座11の底部拘束面11aは周方向一方側へ向いているのに対して、空孔13の凹溝開口部15は径方向外側を向いている。凹溝開口部15の大きさは、図示した大きさに限られず、適宜変更が可能である。
【0040】
本実施形態の構成によれば、工具本体2のヘッド部22の内部に空孔13を設けることにより、工具本体2の先端側(ヘッド部22)を大幅に軽量化することができる。また、空孔13を軸方向でインサート取付座11の一部と重なる位置まで形成することによって、より先端側を軽量化することができる。従来の工具に比べて軽量化された工具本体2を備えるボーリングバー1であれば、工具本体2を長く突き出した状態で切削を行う加工時に生じやすいびびり振動が発生しにくくなり、びびり振動による切削面との共振を抑制できる。
また、中実形状のシャンク部21とともに工具の剛性を維持しつつ、工具先端側を軽量化することで、切削加工時におけるボーリングバー1の固有振動数の増大を図り、切削による振動数との乖離を大きくしてびびり振動による切削面との共振を抑制できる。
このように、加工時における共振の発生を防止することでびびり振動を起きにくくしているため、被削材の加工面精度を高めることができる。
【0041】
また、ヘッド部22の軸方向に延びる空孔13の先端が、インサート取付座11と軸方向で重なる位置まで延びていることから、より工具先端側の軽量化を図ることができる。さらに、空孔13の先端側に連通する凹溝開口部15をヘッド部22の外周面に形成することにより、ヘッド部22における肉厚を部分的に無くすことができ、ヘッド部22のさらなる軽量化を図ることができる。これにより、びびり振動をより一層抑制することが可能である。
【0042】
また、空孔13は、第2孔部13bのテーパ形状によって、軸方向先端側の肉厚を漸次減らすことができるので、基端側の剛性を確保しつつ工具先端側の軽量化を図ることができる。
【0043】
さらに、びびり振動を抑えることで、ボーリングバー1の突き出し量を大きくとることができるようになるため、より深い下孔の内周面を高精度に仕上げ加工することが可能になる。また、工具寿命を長くすることができる。
【0044】
以上、本発明の第一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、空孔13の形状は、第一実施形態の態様に限定されない。以下に、変形例1~3について述べる。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0045】
(変形例1)
上記実施形態の空孔(空洞部)13は、軸方向で相反する方向に拡径(縮径)するテーパ形状をなす2つの第1孔部13a、第2孔部13bを有するが、空孔13の形状はこれに限定されない。
図6は、変形例1における空孔13Aを示す断面図である。第1実施形態の変形例1について、
図6を参照して説明する。
【0046】
図6に示すように、変形例1における空孔13Aは、軸方向の一部が一定の穴径を有する。空孔13Aのうち、最もシャンク部21側に位置する第1孔部13aが軸方向で一定の径をなす孔から構成されている。第1孔部13aの先端側は、先端から基端側にかけて漸次縮径するテーパ形状の第2孔部13bの基端側に接続されている。第1孔部13aの直径は、第2孔部13bの最小直径と略一致する。
【0047】
この構成によれば、先端に向かって拡径するテーパ形状の第2孔部13bによりヘッド部22の先端側の肉厚を薄くすることでヘッド部22の先端側の軽量化を図りつつ、第2孔部13bよりも小径の第1孔部13aを設けることにより、ヘッド部22の基端側の剛性を高めることができる。これにより、上記実施形態と同様に、切削時のびびり振動を抑えて加工精度を高めることができる。
【0048】
(変形例2)
図7は、変形例2の空孔13Bを示す断面図である。
図7に示すように、変形例2の空孔(空洞部)13Bは、軸方向に同一径をなす孔部13dと、第3孔部13cとを有する。孔部13dは、工具本体2の回転軸COに略同軸をなす直線形状の孔である。孔部13dの直径は、ヘッド部22の剛性を確保しつつ軽量化を図ることのできる寸法とする。
【0049】
この構成によれば、ヘッド部22の軸方向全体の軽量化を図ることができるので、上記実施形態と同様に、切削時のびびり振動を抑えて加工精度を高めることができる。また、簡単な孔形状のため製造が容易であるとともに、最低限の工具剛性を確保できる孔寸法とすることで肉厚を最小限にすることができ、材料費が抑えられる。
【0050】
(変形例3)
図8は、変形例3の空孔13Cを示す断面図である。
図8に示すように、変形例3の空孔(空洞部)13Cは、半球形状をなす孔部13eと、第3孔部13cとを有する。空孔13Cは、工具本体2のうち、ヘッド部22の軸方向中央よりも先端側に形成されている。ヘッド部22の基端側は中実形状とされている。
【0051】
この構成によれば、ヘッド部22の基端側の剛性を高めた状態で、工具本体2の先端側のみの軽量化を図ることができる。ヘッド部22の全体が中実形状とされている場合よりも、加工時におけるびびり振動を抑えることが可能である。
【0052】
また、図示は省略するが、ヘッド部22の先端側から基端側にかけて漸次縮径する形状をなす空孔としてもよい。これにより、ヘッド部22の先端側の肉厚を減らして軽量化を図るとともに、基端側の肉厚を確保して剛性を高めることが可能である。
【0053】
以上、本発明の第一実施形態および変形例1~3について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態および変形例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の第一実施形態および変形例1~3において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0054】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態のボーリングバー20について
図9を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0055】
図9は、第二実施形態のボーリングバー(切削工具)20を示す断面図である。
本実施形態のボーリングバー20は、部分的にラティス構造が形成された工具本体2Aを有する。
図9に示すように、工具本体2Aの空孔(空洞部)13内には、格子状構造体23が形成されている。格子状構造体(ラティス構造)23は、空孔13の略全体に形成されている。格子状構造体23は、ヘッド部22をシャンク部21対して積層造形する際に、空孔13とともに形成される。格子状構造体23の線幅や隙間の寸法は、ヘッド部22の剛性及び軽量化を考慮して適宜設定される。
【0056】
本実施形態の構成によれば、ヘッド部22の空孔13の内側全体に格子状構造体23を設けることで、工具本体2Aにおける軸方向全体の強度確保と軽量化の両方を実現させることができる。また、空孔13の内部にラティス構造を形成することで凹溝開口部15から空孔13内に切屑等が入り込むのを防ぐことができる。
【0057】
本実施形態では、空孔13の全体に格子状構造体23が形成されているが、この構成に限定されない。例えば、空孔13及び凹溝開口部15のうちの少なくとも一部に格子状構造体23が設けられていてもよい。これにより、工具剛性を確保しながら材料費を抑えることが可能である。また、空孔13内には格子状構造体23を設けず、凹溝開口部15だけに格子状構造体23を設けてもよい。これにより、ヘッド部22の軽量化を最大限まで図りつつ、切屑の混入を防止する構造とすることができる。
また、格子状構造体23に代えて、空孔13内に、多数の空孔を有する多孔構造体を形成することによってラティス構造としてもよい。
【0058】
<第三実施形態>
図10は、第三実施形態のボーリングバー30を示す断面図である。
本実施形態のボーリングバー(切削工具)30は、ヘッド部22内に空洞部33が形成された工具本体2Bを有する。
図10に示すように、ヘッド部22の外周面に空洞部33に連通する開口は存在しない。
本実施形態の構成によれば、空洞部33により工具本体2Bの先端(ヘッド部22)側の軽量化を図りつつ、外周面に開口を設けないため切り屑等がヘッド部22内に入り込むのを防ぐことができる。
【0059】
以上、本発明の第二実施形態及び第三実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこれた実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、前述の第一実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
図11Aは、本発明の第一実施形態のボーリングバー1を示す斜視図である。
図11Bは、比較例1のボーリングバー80を示す斜視図である。
図11Cは、比較例2のボーリングバー90を示す斜視図である。
【0061】
図11Aに示す本発明のボーリングバー1は、上述した第一実施形態のボーリングバーであって、中空状をなすヘッド部22内に空孔13を有する。空孔13は、ヘッド部22の外周面に形成された凹溝開口部15に連通する。
【0062】
図11Bに示す比較例1のボーリングバー80は、中実形状をなすヘッド部22の外周面から径方向内側に凹む溝部81を有する。溝部81は、エンドミルを用いてヘッド部22の外周面を切削することによって形成された凹状の溝である。本発明同様に、工具本体2の先端側の軽量化を図った構成とされている。溝部81は、チップポケット6に隣接する外周面をエンドミルによって切削することで形成された溝である。溝部81は、インサート取付座11とは異なる方向に向けて開口し、回転軸COを挟んで切削インサート4の切削点Qから径方向反対側に位置する。
【0063】
図11Cに示す比較例2のボーリングバー90は、標準的なボーリングバーであって、中実円柱形状のヘッド部22のうち、先端側の径方向一方側を切り欠いた溝部91内にインサート取付座11が形成されている。
【0064】
図11A~
図11Cに示す各種のボーリングバー1,80,90を工作機械の主軸に装着して下記の条件での切削加工を想定し、固有振動数を算出した。
【0065】
(切削条件)
切削条件は以下の通りである:
被削材の材質:SCM440(クロモリブデン鋼)
工具本体の材質:鋼
シャンク径:D=16mm
工具送り量:f=0.05mm/rev
切り込み量:ap=1mm
切削速度:vc=150m/min
切削環境:DRY
加工径:直径32mm~38mm
突き出し量とシャンク径との比率:L/D=3
主分力:Fy=188.1N
背分力:Fx=34.1N
送り分力:Fz=12.5N
【0066】
【0067】
ボーリングバー1,80,90の各重量は表1に示す通りである:
本発明のボーリングバー1の重量:36.4g
比較例1のボーリングバー80の重量:52.9g
比較例2のボーリングバー90の重量:70.6g
【0068】
表1に、各種のボーリングバー1,80,90を用いて被削材の切削加工を行った際の固有振動数について示す。
表1に示すように、ボーリングバーの重量が軽いほど固有振動数が増大した。具体的に、比較例2のボーリングバー90に比べて比較例1のボーリングバー80では、重量が25%軽くなり、固有振動数が約25%増大した。さらに、本発明のボーリングバー1は、比較例1のボーリングバー80に比べて重量が15%軽くなり、固有振動数は約18%増大した。本発明のボーリングバー1は、比較例1,2に比べて、固有振動数の増大による耐びびり性の向上が期待できる。
本発明のボーリングバーによれば、たとえ比L/Dが大きく設定された場合であっても、びびり振動の発生を顕著に抑制でき、様々な切削加工形態への要請に対応することができる。従って、産業上の利用可能性を有する。