(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062384
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】車載用吸音材固定用超音波ホーン、車載用吸音材の固定構造を生産する方法、及び車載用吸音材の固定構造
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20230426BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20230426BHJP
D04H 1/555 20120101ALI20230426BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B29C65/08
D04H1/4374
D04H1/555
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172322
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】509069892
【氏名又は名称】株式会社HOWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 裕也
【テーマコード(参考)】
3D023
4F211
4L047
【Fターム(参考)】
3D023BA03
3D023BB29
4F211AD16
4F211AD19
4F211AD20
4F211AE06
4F211AG03
4F211AG20
4F211AH17
4F211TA01
4F211TC03
4F211TD11
4F211TN23
4F211TQ05
4L047BA08
4L047CA02
4L047CA05
4L047CB03
4L047CC09
(57)【要約】
【課題】繊維系基材の深い位置で超音波振動により車載用吸音材を固着すると共に、固着箇所において安定した固着強度が維持される、車載用吸音材固定用超音波ホーン、車載用吸音材の固定構造を生産する方法、及び車載用吸音材の固定構造を提供する。
【解決手段】車載用吸音材固定用超音波ホーン5は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材2上に重ねられた車載用吸音材3の固着部14が、基材2に固着されてなる車載用吸音材3の固定構造を生産する用に供されるものである。超音波ホーン5は、車載用吸音材3の固定構造の生産にあたり、固着部14を基材2に押し込む押圧力を固着部14に作用させる押圧面23と、押圧面23から固着部14に向かう超音波振動の伝達を実現させる伝達部21とを有し、押圧面23は、その周縁部に、固着部14の基材2への押し込み深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位エリア26が設定された形状を呈する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材上に重ねられた車載用吸音材の固着部が、前記基材に固着されてなる車載用吸音材の固定構造を生産する用に供される車載用吸音材固定用超音波ホーンであって、
前記車載用吸音材の固定構造の生産にあたり、前記固着部を前記基材に押し込む押圧力を前記固着部に作用させる押圧面と、
前記押圧面から前記固着部に向かう超音波振動の伝達を実現させる伝達部と、を有し、
前記押圧面は、その周縁部に、前記固着部の前記基材への押し込み深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位エリアが設定された形状を呈する、車載用吸音材固定用超音波ホーン。
【請求項2】
請求項1に記載された車載用吸音材固定用超音波ホーンであって、
前記変位エリアは、前記押圧力を作用させる際に前記基材とは反対側に向かって凹となる凹曲面形状を呈する、車載用吸音材固定用超音波ホーン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車載用吸音材固定用超音波ホーンを使用する、車載用吸音材の固定構造を生産する方法であって、
前記基材上に重ねられた状態の前記車載用吸音材の前記固着部に前記超音波ホーンの前記押圧面から前記押圧力を作用させ、もって前記固着部を前記基材に押し込む押圧工程と、
前記基材に押し込まれた状態の前記固着部に前記超音波ホーンの前記伝達部から超音波振動を伝達し、前記基材と前記固着部の少なくとも一部を超音波振動によって変性させて固着させる固着工程と、を有する、車載用吸音材の固定構造を生産する方法。
【請求項4】
車載用吸音材の固定構造であって、
熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材と、
熱可塑性合成繊維を含んだ面状の繊維ウェブと不織布の積層体である車載用吸音材と、を有し、
前記基材は、車両内外の騒音を吸音する吸音面と、前記吸音面よりも相対的に厚さ方向に圧縮された圧着部とを有し、
前記車載用吸音材は、前記基材の前記吸音面に前記車載用吸音材が重ねられた状態で固着される固着部を有し、
前記固着部は、前記車載用吸音材が前記基材に押し込まれてなる凹部を有し、
前記凹部は、前記基材と前記固着部の少なくとも一部が超音波振動によって変性することによって固着されており、前記凹部の周縁部に、前記凹部の深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位部を有している、車載用吸音材の固定構造。
【請求項5】
請求項4に記載された車載用吸音材の固定構造であって、
前記変位部は、前記基材とは反対側に向かって凸となる凸曲面形状を呈する、車載用吸音材の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用吸音材固定用超音波ホーン、車載用吸音材の固定構造を生産する方法、及び車載用吸音材の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の外部から車内への騒音を吸収するための吸音材が固定された、種々の車両用内外装材が知られている。吸音材の固定方法の一つとして、超音波溶着がある。例えば特許文献1には、車両用天井材の基材に繊維素材からなるフェルトを、棒状の超音波ホーンを用いて固定したものが開示されている。この超音波溶着において、振動エネルギーに起因する熱により基材を構成する積層体の一部が溶融され、溶融樹脂が発生する。この溶融樹脂がフェルトを構成する繊維に絡みついて固化することにより、基材にフェルトが固着される。なお、フェルトの上面に超音波ホーンが押しつけられた状態で、基材の所定の深さまで押し込まれるため、超音波ホーンの真下及び近傍に位置するフェルトは弾性的に大きく圧縮変形されている。
【0003】
ところで昨今、基材の吸音性能を高めるため、繊維系基材の板厚を厚くし、この厚い板厚の部分に超音波溶着を施して吸音材を取り付けるものが多くなっている。この場合、繊維ウェブ層の厚さが厚い部分において、超音波ホーンの振動エネルギーを十分に伝えるためには、基材のより深い位置まで超音波ホーンを押し込む必要がある。また、アンダーカバー等の車両用外装材は、車両用内装材に比べて外部からの影響を受け易く、吸音材の安定した固定強度が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸音材を固定するために繊維系基材の深い位置まで超音波ホーンを押し込むと、吸音材が押し込まれる方向に向かって引っ張られる力が大きくなり、固着部分の周縁に破れが発生し易くなる。そして破れが発生した状態で吸音材の固着部分に外部から負荷が加わった場合、この破れを起点に吸音材が引き裂かれてしまう。さらに、この破れの発生箇所や程度にはばらつきがあるため、基材との固着強度が不安定になり、吸音材の脱落につながり易いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、繊維系基材の深い位置で超音波振動により車載用吸音材を固着すると共に、固着箇所において安定した固着強度が維持される、車載用吸音材固定用超音波ホーン、車載用吸音材の固定構造を生産する方法、及び車載用吸音材の固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する車載用吸音材固定用超音波ホーンの一つの特徴は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材上に重ねられた車載用吸音材の固着部が、前記基材に固着されてなる車載用吸音材の固定構造を生産する用に供される車載用吸音材固定用超音波ホーンであって、前記車載用吸音材の固定構造の生産にあたり、前記固着部を前記基材に押し込む押圧力を前記固着部に作用させる押圧面と、前記押圧面から前記固着部に向かう超音波振動の伝達を実現させる伝達部とを有し、前記押圧面は、その周縁部に、前記固着部の前記基材への押し込み深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位エリアが設定された形状を呈する。
【0008】
上記構成の一つの特徴及び利点は、超音波ホーンの押圧面によって、吸音材の固着部を基材に押し込む押圧力が、固着部に作用する。固着部は、超音波振動の振動エネルギーにより基材と吸音材が変性することによって固着される。押圧面の周縁部は、固着部の基材への押し込み深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位エリアが設定されている。超音波ホーンに押し込まれた固着部は、押圧面の形状に合わせて凹むため、押圧面の変位エリアに接する部位は相対的に押圧力が小さくなり、吸音材が引っ張られる力を緩やかにできる。また、押圧面によって、固着部はその周縁の浅い部位においても超音波振動が伝わり、固着される。これにより、繊維成形体である基材に超音波振動を十分に伝えられる深さ位置まで吸音材を押し込み、吸音材を固着すると共に、超音波ホーンによって固着された固着部の周縁に、破れが発生することを抑制できる。
【0009】
上記車載用吸音材固定用超音波ホーンについて、前記変位エリアは、前記押圧力を作用させる際に前記基材とは反対側に向かって凹となる凹曲面形状を呈する構成であっても良い。
【0010】
上記構成の一つの特徴及び利点は、押圧面の変位エリアは、基材に対して反対側に凹となる凹曲面形状を呈する。これにより、押圧面によって吸音材の固着部に押圧力が作用した際に、吸音材が固着部の周縁において引っ張られる力をより緩やかにすることができる。
【0011】
上記車載用吸音材固定用超音波ホーンを使用する、車載用吸音材の固定構造を生産する方法の一つの特徴は、前記基材上に重ねられた状態の前記車載用吸音材の前記固着部に前記超音波ホーンの前記押圧面から前記押圧力を作用させ、もって前記固着部を前記基材に押し込む押圧工程と、前記基材に押し込まれた状態の前記固着部に前記超音波ホーンの前記伝達部から超音波振動を伝達し、前記基材と前記固着部の少なくとも一部を超音波振動によって変性させて固着させる固着工程とを有する。
【0012】
上記生産方法の一つの特徴及び利点は、押圧面に変位エリアを有する超音波ホーンを用いて、繊維成形体である基材に車載用吸音材を固定する。押圧工程において、押圧面に押し込まれた吸音材の固着部は、変位エリアに接触する部位において受ける押圧力が相対的に緩やかになる。これにより、固着部が引っ張られる力も緩やかになり、固着部の周縁に破れが発生することを抑制できる。また、固着工程において、超音波振動が押圧面を介して基材と固着部に伝達され、基材と固着部の少なくとも一部が超音波振動の振動エネルギーにより変性する。これにより、固着部はその周縁の浅い部位においても固着されるため、外部からの負荷に対し安定した固着強度を維持し得る。
【0013】
車載用吸音材の固定構造の一つの特徴は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材と、熱可塑性合成繊維を含んだ面状の繊維ウェブと不織布の積層体である車載用吸音材と、を有し、前記基材は、車両内外の騒音を吸音する吸音面と、前記吸音面よりも相対的に厚さ方向に圧縮された圧着部とを有し、前記車載用吸音材は、前記基材の前記吸音面に前記車載用吸音材が重ねられた状態で固着される固着部を有し、前記固着部は、前記車載用吸音材が前記基材に押し込まれてなる凹部を有し、前記凹部は、前記基材と前記固着部の少なくとも一部が超音波振動によって変性することによって固着されており、前記凹部の周縁部に、前記凹部の深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位部を有している。
【0014】
上記構成の一つの特徴及び利点は、基材の板厚が相対的に厚い吸音面に、車載用吸音材が固着されている。固着部は、基材の設定された深さまで押し込まれて形成された凹部を有している。凹部は、その周縁部に、凹部の深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位部を有している。この凹部の形状によって、周縁部において吸音材が引っ張られる力が緩やかに抑えられており、吸音材の固着部の周縁における破れの発生が抑制されている。また、固着部は、変位部を含んだ凹部全体に亘って超音波振動が伝わり、基材と固着部が超音波振動の振動エネルギーによって変性し固着されている。これにより、繊維成形体である基材に超音波振動を十分に伝えられる深さ位置において吸音材が固着されると共に、外部からの負荷に対し安定した吸音材の固着強度が維持される。
【0015】
上記車載用吸音材の固定構造について、前記変位部は、前記基材とは反対側に向かって凸となる凸曲面形状を呈する構成であっても良い。
【0016】
上記構成の一つの特徴及び利点は、固着部の凹部における変位部は、基材に対して反対側に凸となる凸曲面形状を呈する。これにより、基材の設定された深さまで押し込まれた吸音材が固着部の周縁において引っ張られる力を、より緩やかにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記構成または生産方法をとることにより、繊維系基材の深い位置で超音波振動により車載用吸音材を固着すると共に、固着箇所において安定した固着強度が維持される車載用吸音材固定用超音波ホーン、車載用吸音材の固定構造を生産する方法、及び車載用吸音材の固定構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る車両用外装材を構成する基材と吸音材の全体斜視図である。
【
図2】車両用外装材の固着部を模式的に示す側面図である。
【
図5】工具ホーンの軸方向からみた押圧面を示す図である。
【
図6】基材に吸音材を重ねる工程を模式的に示す図である。
【
図7】吸音材が工具ホーンによって基材に押し込まれた状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、
図1から
図7を用いて説明する。
【0020】
<車載用吸音材の固定構造>
本実施形態に係る車載用吸音材の固定構造として、車両用外装材1の構造を例に挙げて説明する。車両用外装材1としては、ボディアンダーカバーやエンジンアンダーカバー等が挙げられる。例えばボディアンダーカバーは、車両の下方を流通する気流の空気抵抗を抑制するために車両下面を覆うように車両の下部に装着される。
図1に示すように、車両用外装材1は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材2と、熱可塑性合成繊維を含んだ面状の繊維ウェブと不織布の積層体である吸音材3(車載用吸音材)を有する。吸音材3は、車両下面と基材2の間に位置するように、基材2に固定される。
【0021】
基材2は、熱可塑性合成樹脂と繊維補強材を有する繊維層を含んで、三次元の面形状に成形された繊維成形体である。繊維層の一方面又は両面に適宜、熱可塑性合成樹脂等による不織布が積層されていてもよい。繊維層は、クロスレイヤー、エアレイ等に代表される乾式法、または抄紙法に代表される湿式法のいずれの製法を選択しても形成できる。上記乾式法における熱可塑性合成樹脂は、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維等の熱可塑性合成繊維が選択され得る。湿式法(抄紙法)を用いる場合の熱可塑性合成樹脂は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等の粉末が選択され得る。繊維補強材は、ガラス繊維、バサルト繊維、カーボン繊維のほか、ケナフ(洋麻)、竹等の天然繊維が適宜選択され得る。
【0022】
吸音材3は、熱可塑性合成繊維を含んだ面状の繊維ウェブの両面に、カバー層として熱可塑性合成繊維を含んだ面状の不織布が積層されている。吸音材3は、固着される基材2に対応した形状に成形されており、その周縁に沿って全周に亘って繊維ウェブが厚さ方向に圧縮されている。熱可塑性合成繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ポリエステル繊維等、及びそれらの混合物からなる群から選択できる。カバー層の不織布は、撥水加工が施されていてもよい。
【0023】
基材2は、車両内外の騒音を吸音する吸音面10と、吸音面10よりも相対的に厚さ方向に圧縮された圧着部12を有している。圧着部12は、吸音面10と比べて強度が強く、繊維成形体の剛性を保持する。圧着部12は、基材2の車両下面に沿った面上のほか、基材2の外周縁から車両側に屈曲して延出し、車両下面と連結されるフランジ部分に設けられている。繊維成形体である基材2に板厚の異なる吸音面10と圧着部12を設けることにより、基材2の吸音機能と形状保持の両立を図ることができる。なお、基材2の形状、吸音面10と圧着部12の配置は、車両下面の形状に応じて適宜設定される。吸音面10には、吸音材3が基材2の車両下面と対向する面に重ねられた状態で固定されている。吸音材3は、その外周縁に沿って複数の固着部14を有しており、固着部14において吸音面10に固着されている。
【0024】
固着部14は、
図2、
図3に示すように、吸音材3が基材2に押し込まれてなる凹部15を有している。凹部15は、平面視において円形状を呈し、底面部17と変位部18を有している。底面部17は、凹部15の深さが最も深い部位であり、円形平面状を呈する。変位部18は、凹部15の周縁部において、凹部15の深さが外周に向かうにつれて浅くなる部位であり、基材2とは反対側に向かって凸となる凸曲面形状を呈する。なお、変位部18の形状は、例えば丸面、R面、さじ面(フィレット)、角面、C面等、適宜選択できる。
【0025】
凹部15は、基材2と固着部14の少なくとも一部が超音波振動によって変性することによって固着されている。具体的には、基材2に含まれる熱可塑性合成樹脂と、吸音材3に含まれる熱可塑性合成繊維が、超音波振動の振動エネルギーによって熱溶融し、固化することにより溶着されている。ここで、基材2と固着部14が超音波振動によって変性した部位を変性部15aとする。変性部15aは、底面部17と変位部18に亘って形成されている。
【0026】
<車載用吸音材固定用超音波ホーンの構成>
次に、本実施形態に係る車載用吸音材固定用超音波ホーンとして、超音波溶着を施す工具ホーン5を例に挙げて説明する。工具ホーン5は、熱可塑性合成樹脂を含んだ繊維成形体である基材2上に重ねられた吸音材3の固着部14が、基材2に固着されてなる車載用吸音材の固定構造を生産する用に供されるものである。
【0027】
工具ホーン5は、金属材料からなり、軸方向に長い棒状に成形されている。
図4、
図5に示すように、工具ホーン5は、超音波振動子から入力された超音波振動を軸方向に伝達する伝達部21を有している。伝達部21は、超音波振動子に接続される円柱状の大径部21aと、大径部21aから先端21bに向かって大径部21aより外径が小さくなるように延出した小径部21cを有している。工具ホーン5は、伝達部21の先端21bに押圧面23を有している。押圧面23は、吸音材3(車載用吸音材)の固定構造の生産にあたり、吸音材3の表面に対向する面であり、固着部14を基材2に押し込む押圧力を固着部14に作用させる。伝達部21は、押圧面23から固着部14に向かう超音波振動の伝達を実現させる。
【0028】
押圧面23は、端面部25と変位エリア26を有している。端面部25は、工具ホーン5の軸方向からみて円形平面状を呈し、固着部14の基材2への押し込み深さが最も深くなる部位である。変位エリア26は、押圧面23の周縁部、すなわち端面部25の外周側に設定されており、固着部14の基材2への押し込み深さが外周に向かうにつれて浅くなる形状を呈している。本実施形態においては、固着部14に押圧力を作用させる際に基材2とは反対側に向かって凹となる凹曲面形状を呈している。なお、変位エリア26の形状は、例えばさじ面(フィレット)、丸面、R面、角面、C面等、適宜選択できる。
【0029】
工具ホーン5の押圧面23に変位エリア26を設けることにより、固着部14の凹部15は、底面部17から外周に向かうにつれて深さが浅くなるように展開した形状に形成される。よって、工具ホーン5によって吸音材3が基材2に押し込まれた際に、吸音材3が引っ張られる力が緩やかになり、凹部15の周縁部における破れの発生を抑制できる。また、底面部17だけでなく、凹部15の周縁部すなわち変位部18においても超音波溶着により変性部15aが形成される。したがって、変位部18に破れが発生した場合であっても、固着部14は変位部18を含んだ凹部15全体に亘って溶着されるため、固着強度を維持できる。このように、押圧面23は、固着部14における破れの発生部位が凹部15の内側に収まるように、形状設定されている。
【0030】
工具ホーン5の形状や大きさは、基材2と吸音材3の素材、板厚等により適宜設定される。例えば基材2の吸音面10の板厚に対して、振動エネルギーが十分に伝わり固着部14と基材2が熱溶着されるように、凹部15の径又は幅、深さ等が設定される。この凹部15の大きさに対応して、工具ホーン5の押圧面23の形状や大きさが設定される。また、端面部25の平面形状は円形に限られず、他の形状を任意に選択してもよい。
【0031】
<車載用吸音材の固定構造を生産する工程>
次に、上記実施形態に係る車載用吸音材の固定構造を生産する工程について説明する。車両用外装材1の基材2を構成する繊維成形体は、熱可塑性合成樹脂と繊維補強材を含む繊維層に他の不織布を積層させた積層体を加熱軟化処理する加熱工程と、加熱工程で加熱された積層体をプレス型により両面から挟んで冷却しながら加圧するプレス成形工程を経て、車両下面に沿った三次元の面形状に成形される。プレス成形工程においては、吸音面10と圧着部12が成形される。吸音面10は、車両内外の騒音を吸音する面である。圧着部12は、吸音面10よりも相対的に厚さ方向に圧縮された部位である。圧着部12は、基材2の車両下面に沿った面上のほか、基材2の外周縁から車両側に屈曲して延出し、車両下面と連結されるフランジ部分に設けられる。
【0032】
車両用外装材1の基材2と吸音材3は、上記工具ホーン5を使用することにより、押圧工程と固着工程を経て固着される。具体的には、
図6に示すように、繊維成形体である基材2を基台(不図示)の上に載置し、基材2の吸音面10上に吸音材3を積層させる。吸音材3は、その外周縁に沿って固着部14を有している。押圧工程では、
図7に示すように、基材2上に重ねられた状態の吸音材3の固着部14に対し、厚さ方向に工具ホーン5の押圧面23から押圧力を作用させる。押圧力で固着部14が基材2に押し込まれることにより、固着部14において押圧面23と接する部位に凹部15が形成される。
【0033】
固着工程では、工具ホーン5によって基材2に押し込まれた状態の固着部14に、工具ホーン5の伝達部21から押圧面23を介して超音波振動を伝達する。超音波振動の振動エネルギーによって、凹部15における基材2と固着部14の少なくとも一部を変性させて固着させる。すなわち、基材2に含まれる熱可塑性合成樹脂と、吸音材3に含まれる熱可塑性合成繊維を振動エネルギーによって熱溶融させて固化させる、超音波溶着が施される。
【0034】
超音波溶着が施された固着部14において、押圧面23の端面部25と接する部位に凹部15の深さが最も深い部位である底面部17が形成され、変位エリア26と接する部位に凹部15の深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位部18が形成される。底面部17は、円形平面状を呈する。変位部18は、基材2とは反対側に向かって凸となる凸曲面形状を呈する。
図2を参照として、基材2と固着部14が変性して固着した変性部15aは、底面部17と変位部18に亘って形成されている。
【0035】
上記実施形態に係る構成によれば、工具ホーン5(車載用吸音材固定用超音波ホーン)の押圧面23によって、吸音材3(車載用吸音材)の固着部14を基材2に押し込む押圧力が固着部14に作用する。固着部14は、超音波振動の振動エネルギーにより基材2と吸音材3が変性することによって固着される。押圧面23の周縁部は、固着部14の基材2への押し込み深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位エリア26が設定されている。工具ホーン5に押し込まれた固着部14は、押圧面23の形状に合わせて凹むため、押圧面23の変位エリア26に接する部位は相対的に押圧力が小さくなり、吸音材3が引っ張られる力を緩やかにできる。また、押圧面23によって、固着部14はその周縁の浅い部位においても超音波振動が伝わり、固着される。これにより、繊維成形体である基材2に超音波振動を十分に伝えられる深さ位置まで吸音材3を押し込み、吸音材3を固着すると共に、工具ホーン5によって固着された固着部14の周縁に、破れが発生することを抑制できる。
【0036】
また、工具ホーン5の変位エリア26は、押圧力を作用させる際に基材2とは反対側に向かって凹となる凹曲面形状を呈する。これにより、押圧面23によって吸音材3の固着部14に押圧力が作用した際に、吸音材3が固着部14の周縁において引っ張られる力をより緩やかにすることができる。
【0037】
上記吸音材3の固定構造を生産する工程では、押圧面23に変位エリア26を有する工具ホーン5を用いて、繊維成形体である基材2に吸音材3を固定する。押圧工程において、押圧面23に押し込まれた吸音材3の固着部14は、変位エリア26に接触する部位において受ける押圧力が相対的に緩やかになる。これにより、固着部14が引っ張られる力も緩やかになり、固着部14の周縁に破れが発生することを抑制できる。また、固着工程において、超音波振動が押圧面23を介して基材2と固着部14に伝達され、基材2と固着部14の少なくとも一部が超音波振動の振動エネルギーにより変性する。これにより、固着部14はその周縁の浅い部位においても固着されるため、外部からの負荷に対し安定した固着強度を維持し得る。
【0038】
上記吸音材3の固定構造は、基材2の板厚が相対的に厚い吸音面10に、吸音材3が固着されている。固着部14は、基材2の設定された深さまで押し込まれて形成された凹部15を有している。凹部15は、その周縁部に、凹部15の深さが外周に向かうにつれて浅くなる変位部18を有している。この凹部15の形状によって、周縁部において吸音材3が引っ張られる力が緩やかに抑えられており、吸音材3の固着部14の周縁における破れの発生が抑制されている。また、固着部14は、変位部18を含んだ凹部15の全体に亘って超音波振動が伝わり、基材2と固着部14が超音波振動の振動エネルギーによって変性し固着されている。これにより、繊維成形体である基材2に超音波振動を十分に伝えられる深さ位置において吸音材3を固着すると共に、外部からの負荷に対し安定した吸音材3の固着強度が維持される。
【0039】
また、吸音材3の固定構造について、固着部14の凹部15における変位部18は、基材2に対して反対側に凸となる凸曲面形状を呈する。これにより、基材2の設定された深さまで押し込まれた吸音材3が固着部14の周縁において引っ張られる力を、より緩やかにすることができる。
【0040】
工具ホーン5の押圧面23に設けられた変位エリア26によって、凹部15の周縁部に、変位部18が形成される。変位部18は、底面部17から外周に向かうにつれて凹部15の深さが浅くなるように展開した形状に形成される。これにより、工具ホーン5によって吸音材3が基材2に押し込まれた際、変位部18において吸音材3が急激に引っ張られて破れが発生することを抑制でき、固着部14の固着強度の向上を図ることができる。また、固着部14は、底面部17だけでなく、変位部18も押圧面23を介して超音波振動が伝わり、溶着された変性部15aが形成される。これにより、変位部18に破れが発生した場合であっても、破れの発生部位が凹部15の内側すなわち溶着される範囲内に収まり、安定した固着強度を維持できる。
【0041】
工具ホーン5は、凹部15の深さに対応して変位エリア26の深さ(高さ)が設定されている。これにより、手作業で超音波溶着を施す場合においても基材2に対する押し込みの深さを目視で確認し易く、適切な深さで溶着できる。よって、凹部15の深さのばらつきが抑えられ、固着強度の安定を図ることができる。
【0042】
本発明に係る車載用吸音材固定用超音波ホーン、車載用吸音材の固定構造を生産する方法、及び車載用吸音材の固定構造は、上記実施形態において説明した外観、構成に限られず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除、構成の組み合わせにより、その他各種の形態で実施できるものである。例えば、本実施形態の車載用吸音材の固定構造として、車両用外装材に吸音材を固定した例を示したが、これに限られず、繊維系基材を用いた車両用内装材にも適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 車両用外装材
2 基材
3 吸音材(車載用吸音材)
5 工具ホーン(車載用吸音材固定用超音波ホーン)
10 吸音面
12 圧着部
14 固着部
15 凹部
15a 変性部
17 底面部
18 変位部
21 伝達部
23 押圧面
25 端面部
26 変位エリア