(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062404
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20230426BHJP
B60C 15/024 20060101ALI20230426BHJP
B60C 15/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B60C15/00 K
B60C15/024 B
B60C15/02 D
B60C15/024 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172359
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】荒川 幸司
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA18
3D131BC13
3D131BC25
3D131BC31
3D131HA01
3D131HA03
3D131HA14
3D131HA15
3D131HA23
3D131LA28
(57)【要約】
【課題】リムフィッティング性を向上させつつ操安性を向上させることができる、空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ1は、トレッド10とサイドウォール20とビード部30とを備える。ビード部30は、子午線断面において、外表面にビード部30のタイヤ径方向内端においてタイヤ軸方向外側に向かってタイヤ径方向外側に傾斜した第1直線L1上に沿って延びるビードベース面34と、ビード部30のタイヤ軸方向外端においてタイヤ径方向外側に延びておりタイヤ径方向内端がタイヤ径方向に沿った第2直線L2上に沿って延びるビード背面35と、ビードベース面34のタイヤ軸方向外端とビード背面35のタイヤ径方向内端との間においてタイヤ軸方向外側に向かって第1直線L1よりもさらにタイヤ径方向外側に傾斜した第3直線L3上に沿って延びるビードヒール面36とを有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドと、前記トレッドのタイヤ軸方向端からタイヤ径方向内側に延びるサイドウォールと、前記サイドウォールのタイヤ径方向内側に連続するビード部とを備え、
前記ビード部は、子午線断面において、外表面に
前記ビード部のタイヤ径方向内端において、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ径方向外側に傾斜した第1直線上に沿って延びるビードベース面と、
前記ビード部のタイヤ軸方向外端においてタイヤ径方向外側に延びており、タイヤ径方向内端がタイヤ径方向に沿った第2直線上に沿って延びるビード背面と、
前記ビードベース面のタイヤ軸方向外端と前記ビード背面のタイヤ径方向内端との間において、タイヤ軸方向外側に向かって前記第1直線よりもさらにタイヤ径方向外側に傾斜した第3直線上に沿って延びるビードヒール面と
を有している、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1直線のタイヤ軸方向に対する傾斜角度は、5°以上15°以下である、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
子午線断面において、
前記第1直線と前記第2直線との交点を第1交点とし、
前記第1直線と前記第3直線との交点を第2交点とし、
前記第2直線と前記第3直線との交点を第3交点としたとき、
前記ビードヒール面は、前記第1交点と前記第3交点との間のタイヤ径方向における寸法である径方向寸法が前記第1交点と前記第2交点との間のタイヤ軸方向における寸法である軸方向寸法以上であり且つ前記軸方向寸法の2倍未満である、
請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビード部にはビードコアが埋設されており、
子午線断面において、前記ビードヒール面は、前記ビードコアのタイヤ軸方向外端に対してタイヤ軸方向内側へ所定長さ離れた位置においてタイヤ径方向に延びる第4直線よりもタイヤ軸方向外側に位置しており、
前記所定長さは、2mmである、
請求項1~3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビード部にはビードコアが埋設されており、
子午線断面において、前記ビードヒール面は、前記ビードコアのタイヤ軸方向外端に対してタイヤ軸方向内側へ所定長さ離れた位置においてタイヤ径方向に延びる第4直線よりもタイヤ軸方向外側に位置しており、
前記ビードコアのタイヤ軸方向寸法の30%である、
請求項1~3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ビード部を一対に備えており、
前記一対のビード部は、非リム組み状態において、タイヤ軸方向の外面間の幅が対応する正規リムのリム幅よりも幅広となるように間隔を空けて位置しており、
前記一対のビード部はそれぞれ、非リム組み状態で、前記ビード背面には、前記ビードヒール面のタイヤ軸方向外端よりもタイヤ軸方向内側に窪んだ凹みが形成されており、
リム組み状態で、前記ビード背面が、前記正規リムのリムフランジのうちタイヤ径方向に平行に延びる径方向部分の略全面に密着する、
請求項1~5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記凹みは、タイヤ軸方向における深さが1.0mm未満である、
請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記第3直線は、子午線断面において、前記第1直線と前記第2直線とを3mm超8mm未満の曲率半径でそれぞれに対して接線連続状に接続する仮想円弧の両端点を接続する直線として幾何学的に画定される、
請求項1~7のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記ビードヒール面は、少なくとも一部がリムストリップゴムによって形成されており、ベントホール痕を有している、
請求項1~8のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビード部のヒールに断面直線状に面取り加工されたヒールカット部を形成する一方で、ビード部のベース面をタイヤ軸方向に対する角度の異なるヒール側部分とトウ側部分とからなる二段テーパで構成し、トウ側部分のタイヤ軸方向に対する傾斜角度をヒール側部分の傾斜角度よりも大きくした、空気入りタイヤが開示されている(特許文献2も同様)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-209032号公報
【特許文献2】国際公開2014/126098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2の空気入りタイヤでは、ビードベース面がトウ側部分の傾斜角度がヒール側部分に比して大きな二段テーパにより構成されており、ビード部のタイヤ軸方向外側且つ内径側部分であるビードヒールに面取りが形成されていることと相まって、リム組み状態において、ビード部がタイヤ軸方向外側に倒れやすい。この結果、ビードベース面の嵌合圧が低下する一方でビード背面の嵌合圧が増大しやすく、リムフィッティング性に向上の余地がある。
【0005】
本発明は、リムフィッティング性を向上させつつ操安性を向上させることができる、空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
トレッドと、前記トレッドのタイヤ軸方向端からタイヤ径方向内側に延びるサイドウォールと、前記サイドウォールのタイヤ径方向内側に連続するビード部とを備え、
前記ビード部は、子午線断面において、外表面に
前記ビード部のタイヤ径方向内端において、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ径方向外側に傾斜した第1直線上に沿って延びるビードベース面と、
前記ビード部のタイヤ軸方向外端においてタイヤ径方向外側に延びており、タイヤ径方向内端がタイヤ径方向に沿った第2直線上に沿って延びるビード背面と、
前記ビードベース面のタイヤ軸方向外端と前記ビード背面のタイヤ径方向内端との間において、タイヤ軸方向外側に向かって前記第1直線よりもさらにタイヤ径方向外側に傾斜した第3直線上に沿って延びるビードヒール面と
を有している、空気入りタイヤを提供する。
【0007】
本発明によれば、ビードベース面は単一の傾斜面(1段テーパと称する場合がある)で構成されているので、タイヤ軸方向内側に向かってさらにタイヤ径方向内側への傾斜角度が大きくなる更なる傾斜面を有する場合(2段テーパと称する場合がある)に比して、リム組み時のビード部のタイヤ軸方向外側への倒れが抑制される。その結果、リム組み時において、ビードベース面が2段テーパである場合に比して、ビード背面における嵌合圧が低減される一方で、ビードベース面における嵌合圧が増大する。
【0008】
さらに、ビードヒール面は、ビードベース面とビード背面とを直線状に接続する面取りとして構成されているので、リム組み時にビードヒール面が正規リムのリムヒールに干渉することが抑制される。その結果、ビード部を正規リムのリムシートに対して適正なタイヤ軸方向位置で嵌合させることができるので、嵌合不足によるビード部のタイヤ軸方向外側への倒れが抑制されると共に、ビード背面における嵌合圧の増大が抑制される。
【0009】
したがって、荷重負荷時において、嵌合圧が高められたビードベース面により正規リムのリムシートとの嵌合を維持しやすくリムフィッティング性が向上する一方で、嵌合圧が低減されたビード背面によってサイドウォールの撓み変形を容易にしやすく操安性が向上する。
【0010】
前記第1直線のタイヤ軸方向に対する傾斜角度は、5°以上15°以下であってもよい。
【0011】
本構成によれば、ビードベース面は適度に傾斜しているので、ビードベース面での嵌合圧を高めつつ、ビード背面での嵌合圧の増大を抑制できる。第1直線の傾斜角度が5°より小さい場合、ビード背面における嵌合圧の不足に起因してサイドウォールが過度に変形するため、操安性の低下に至りやすい。一方、第1直線の傾斜角度が15°より大きい場合、ビード背面における過大な嵌合圧に起因してサイドウォールの撓み変形が阻害されるため、サイドウォールにおける荷重支持性能の低下に至りやすい。
【0012】
子午線断面において、
前記第1直線と前記第2直線との交点を第1交点とし、
前記第1直線と前記第3直線との交点を第2交点とし、
前記第2直線と前記第3直線との交点を第3交点としたとき、
前記ビードヒール面は、前記第1交点と前記第3交点との間のタイヤ径方向における寸法である径方向寸法が前記第1交点と前記第2交点との間のタイヤ軸方向における寸法である軸方向寸法以上であり且つ前記軸方向寸法の2倍未満であってもよい。
【0013】
本構成によれば、ビードヒール面はタイヤ径方向に長く構成されるので、ビードベース面を確保しやすく、ビード部のタイヤ軸方向外側への倒れを抑制しやすい。ビードヒール面の径方向寸法が軸方向寸法未満である場合、リム組み時におけるビードヒールの正規リムのリムシートに対する干渉の抑制に不十分になりやすい。一方、ビードヒール面の径方向寸法が軸方向寸法の2倍以上である場合、ビード背面が過度に小さくなりビード背面に局部的に嵌合圧が集中することに起因してサイドウォールの撓み変形が阻害される。
【0014】
前記ビード部にはビードコアが埋設されており、
子午線断面において、前記ビードヒール面は、前記ビードコアのタイヤ軸方向外端に対してタイヤ軸方向内側へ所定長さ離れた位置においてタイヤ径方向に延びる第4直線よりもタイヤ軸方向外側に位置しており、
前記所定長さは、2mmであってもよく、又は前記ビードコアのタイヤ軸方向寸法の30%であってもよい。
【0015】
本構成によれば、ビードヒール面の、ビードコアのタイヤ径方向内側の領域におけるタイヤ軸方向内側への入り込み量が過大となることが抑制される。その結果、ビード部のタイヤ径方向内側にビードベース面を確保しやすく、ビード部のタイヤ軸方向外側へ倒れが抑制される。
【0016】
前記ビード部を一対に備えており、
前記一対のビード部は、非リム組み状態において、タイヤ軸方向の外面間の幅が対応する正規リムのリム幅よりも幅広となるように間隔を空けて位置しており、
前記一対のビード部はそれぞれ、非リム組み状態で、前記ビード背面には、前記ビードヒール面のタイヤ軸方向外端よりもタイヤ軸方向内側に窪んだ凹みが形成されており、
リム組み状態で、前記ビード背面が、前記正規リムのリムフランジのうちタイヤ径方向に平行に延びる径方向部分の略全面に密着してもよい。
【0017】
本構成によれば、ビード背面には凹みが形成されているので、非リム組み状態において、ビード背面のうち凹みの最深部から内径側に位置する内径側部分はタイヤ径方向内側に向かってタイヤ軸方向外側へ傾斜している。上記内径側部分は、一対のビード部を正規リムのリム幅に近接させたリム組み状態において、凹みの最深部の周辺を起点としてタイヤ軸方向内側に折れ曲がりタイヤ径方向に概ね沿いやすい。すなわち、リム組み状態において、ビード背面を、凹みを消失させつつ、リムフランジの径方向部分の略全面にわたって密着させやすく、接触面積を拡大することができる。
【0018】
このように、リム組みされた無負荷状態において、リムフランジの径方向部分に密着するビード背面の略全面にわたって面圧が作用するので、ビード背面の一部にのみ面圧が作用する場合に比して、ビード背面全体として受け持つ荷重が分散される。すなわち、ビード背面に局所的に高い面圧が作用する場合に比して、ビード背面が弾性変形するための圧縮代に余裕を持たせることができる。
【0019】
したがって、荷重入力時及び横力入力時において、余裕圧縮代の分、ビード背面はさらに圧縮され得る。この場合、サイドウォールは、ビード背面のさらなる圧縮に伴ってビード部に近接した部分も変形し得るので、サイドウォールはビード部側からトレッド側にわたって全体的に撓むように変形し得る。よって、サイドウォールにおける荷重支持が効率化されるので、操縦安定性が向上する。
【0020】
前記凹みは、タイヤ軸方向における深さが1.0mm未満であってもよい。
【0021】
本構成によれば、上記内径側部分は、非リム組み状態でタイヤ軸方向外側に適度に傾斜しているので、リム組み状態でタイヤ軸方向内側に折り曲げられてタイヤ軸方向外側への傾斜が解消しやすく、リムフランジの径方向部分に丁度沿い易い。凹みの深さが1.0mm以上であると、上記内径側部分は、非リム組み状態でタイヤ軸方向外側に過度に傾斜しやすいため、リム組み状態でタイヤ軸方向内側に折り曲げられてもタイヤ軸方向外側への傾斜が解消しにくい。この場合、リム組み状態で、凹みが消失しにくく、ビード背面をリムフランジの径方向部分の略全面にわたって当接させにくい。
【0022】
前記第3直線は、子午線断面において、前記第1直線と前記第2直線とを3mm超8mm未満の曲率半径でそれぞれに対して接線連続状に接続する仮想円弧の両端点を接続する直線として幾何学的に画定されてもよい。
【0023】
本構成によれば、ビードヒール面が適度な大きさで形成されるので、空気入りタイヤを正規リムにリム組みして規定内圧を充填した状態で、ビードヒール面を正規リムのリムヒールに当接させやすく、リムフィッティング性を確保できる。仮想円弧の曲率半径が3mm以下である場合、リム組み時にビードヒール面がリムヒールに干渉して適切なタイヤ軸方向位置まで嵌合させにくい。一方、仮想円弧の曲率半径が8mm以上である場合、リム組み時のインフレート後であってもビードヒール面をリムヒールに当接させにくく、リムフィッティング性が悪化しやすい。
【0024】
前記ビードヒール面は、少なくとも一部がリムストリップゴムによって形成されており、ベントホール痕を有していてもよい。
【0025】
本構成によれば、加硫成形時におけるビードヒール面周辺のゴム流れ性が向上するので、ビード部の外表面に直線状のビードヒール面を形成しつつも、加硫成形時によるゴム流れ不良に起因した例えばベア等の不具合が抑制される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、リムフィッティング性を向上させつつ操安性を向上させることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
【
図2】リム組み前の空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【
図4】
図3のA矢視によるビードヒール面の正面図。
【
図5】リム組状態の空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【
図6】インフレート時のビード部の外表面における嵌合圧を示すグラフ。
【
図7】リム組状態の比較例1に係る空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【
図8】リム組状態の比較例2に係る空気入りタイヤのビード部周辺の子午線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ1の子午線方向における断面図であり、タイヤ赤道線CLに対して一方側のみ示されている。空気入りタイヤ1は、トレッド10と、トレッド10のタイヤ軸方向両端からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20それぞれのタイヤ径方向内側にそれぞれ連続する一対のビード部30とを備えている。
【0030】
ビード部30には、ビードコア31とこのタイヤ径方向外側に連接されたビードフィラー32とが埋設されている。ビードコア31は、鋼線からなるビードワイヤが複数周巻回されてなる環状の集束体をゴムで被覆して構成されている。ビードコア31の断面形状は、タイヤ径方向外側の端部にタイヤ軸方向に延びるビードコア径方向外端面31aを有するように多角形状に形成されている。ビードコア径方向外端面31aの公称リム径(JIS4102で規定される)NR(基準リム径ともいう)を基準としたタイヤ径方向における高さHbは本実施形態では6.7mmである。
【0031】
ビードフィラー32は、ビードコア径方向外端面31aに沿って環状に延びる硬質ゴムで構成されており、子午線方向における断面形状がタイヤ径方向外側に向かってタイヤ軸方向に幅狭となる三角形状に形成されている。
【0032】
一対のビードコア31の間に、トレッド10およびサイドウォール20にわたってカーカスプライ2が掛け渡されている。カーカスプライ2は、ビードコア31の周りでタイヤ内面側からタイヤ外面側へ折り返されている。カーカスプライ2のタイヤ内面側には、空気圧を保持するためのインナーライナ3が設けられている。
【0033】
トレッド10において、カーカスプライ2のタイヤ径方向外側に、ベルト層11およびベルト補強層12が順に積層されている。本実施形態では、ベルト層11は2層から構成されている。ベルト補強層12のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム13が積層されている。トレッドゴム13によって、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向における外表面が構成されている。
【0034】
カーカスプライ2のタイヤ軸方向外側には、サイドウォール20およびビード部30にわたってタイヤサイドゴム21が配置されている。タイヤサイドゴム21は、トレッドゴム13のタイヤ軸方向端部からタイヤ径方向内側に延びるサイドウォールゴム21aと、この内径側端部に連接されておりタイヤ径方向内側にさらに延びるリムストリップゴム21bとを有している。タイヤサイドゴム21によって、空気入りタイヤ1のタイヤ軸方向における外表面が構成されている。
【0035】
サイドウォールゴム21aは、サイドウォール20の大部分を構成している。リムストリップゴム21bは、対応する正規リム50(
図2参照)に組み込まれた状態(リム組み状態と称する)で、タイヤサイドゴム21のうちリムフランジ53に当接する部分に少なくとも対応して設けられている。リムストリップゴム21bは、サイドウォールゴム21aに比して耐摩滅性に優れたゴムが採用される。
【0036】
タイヤサイドゴム21には、タイヤ軸方向外側に突出するリムプロテクタ4が形成されている。リムプロテクタ4は、タイヤ最大幅位置Zよりもタイヤ径方向内側に位置している。最大幅位置Zは、サイドウォール20における外表面のプロファイルラインが、タイヤ赤道線CLからタイヤ軸方向に最も離れた位置である。すなわち、タイヤサイドゴム21は、最大幅位置Zからリムプロテクタ4に向かって厚みが漸増しており、リムプロテクタ4からタイヤ径方向内側に向かって厚みが漸減している。
【0037】
リムプロテクタ4は、最大幅位置Zからタイヤ径方向内側に向かって延びた端部からタイヤ軸方向内側に屈曲しており、最も厚みが大きい頂点4aを有する。頂点4aは、公称リム径NRからタイヤ径方向外側にH3の高さに位置している。頂点4aの高さH3は、リム組み状態における対応する正規リム50のリムフランジ53よりもタイヤ径方向外側に位置している。
【0038】
なお、本明細書では、タイヤ径方向において、ビードフィラー32の先端32aより外径側に位置する部分をサイドウォール20と称し、内径側に位置する部分をビード部30と称している。リムプロテクタ4は、ビード部30に位置している。また、本明細書において、タイヤサイドゴム21の厚みとは、カーカスプライ2の外表面に面直な方向として定義されている。
【0039】
図2には、正規リム50に組み込まれていない状態(非リム組み状態と称する)のビード部30周辺が拡大して示されており、対応する正規リム50のリムフランジ53の周辺が併せて示されている。正規リム50は、タイヤ軸方向外側に延びるリムシート51と、このタイヤ軸方向外端からタイヤ径方向外側に円弧状に湾曲したリムヒール52と、このタイヤ径方向外端からタイヤ径方向外側に延びるリムフランジ53とを有している。
【0040】
リムシート51は、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ径方向外側に傾斜しており、タイヤ軸線に平行な直線に対する傾斜角度はA0である。リムフランジ53は、リムヒール52からタイヤ径方向に対して平行にタイヤ径方向外側へ延びるフランジ径方向部分53aと、このタイヤ径方向外端に連続してタイヤ軸方向外側に円弧状に湾曲したフランジ湾曲部分53bとを有している。
【0041】
リムヒール52のうち空気入りタイヤ1が嵌合される側に位置する外表面は、該外表面よりも空気入りタイヤ1側に位置する曲率中心O11を中心として曲率半径がR11である円弧状に延びている。タイヤ軸方向に一対のフランジ径方向部分53aは、リム幅W0を空けて配置されている。フランジ径方向部分53aは、公称リム径NRからタイヤ径方向外側へH11の高さまで延びている。フランジ湾曲部分53bのうち空気入りタイヤ1が嵌合される側に位置する外表面は、タイヤ外面側に位置する曲率中心O12を中心として曲率半径がR12である円弧状に延びている。
【0042】
なお、正規リム50は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば「標準リム」、TRAおよびETRTOであれば「Measuring Rim」である。
【0043】
本実施形態に係る正規リム50は、JATMAに規定される5°深底リムのフランジ記号Jに準拠しており、リムシート51の傾斜角度A0は5°、リムヒール52の曲率半径R11は6.5mm、フランジ径方向部分53aの高さH11は8mm、フランジ湾曲部分53bの曲率半径R12は9.5mmである。また、本実施形態に係る正規リム50のリムシート51とフランジ径方向部分53aとの間の角度は95°である。
【0044】
ビード部30は、子午線方向における外表面に、タイヤ径方向内端においてタイヤ軸方向に延びるビードベース面34と、タイヤ軸方向外端においてタイヤ径方向外側に延びてリムプロテクタ4に連続するビード背面35と、ビードベース面34のタイヤ軸方向外端とビード背面35のタイヤ径方向内端との間を面取り状に接続するビードヒール面36とを有している。
【0045】
ビードベース面34は、非リム組み状態において、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ径方向外側に傾斜した第1直線L1上に沿って延びている。第1直線L1のタイヤ軸線に平行な直線に対する傾斜角度はA1である。すなわち、ビードベース面34は単一の直線部により構成されている。具体的には、傾斜角度A1は、リムシート51の傾斜角度A0よりも大きい。好ましくは、傾斜角度A1は、5°以上15°以下である。より好ましくは、傾斜角度A1と傾斜角度A0との差は8°以下である。本実施形態では、傾斜角度A1は、12°であり、傾斜角度A0よりも7°大きい。
【0046】
ビード背面35は、タイヤ径方向における内端にタイヤ径方向に沿った第2直線L2上に沿って延びる直線部61と、直線部61に連続してタイヤ径方向外側に延びており後述する凹み70の少なくとも一部を構成する第1湾曲部62凹みと、タイヤ径方向の外側に位置しておりリムプロテクタ4の頂点4aに至る第2湾曲部63とを少なくとも有している。
【0047】
第1湾曲部62は、直線部61のタイヤ径方向外端点である第1点P1から、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ軸方向内側に傾斜した方向に延びると共にタイヤ軸方向外側に湾曲して延びて第2点P2に至っている。第2点P2は、第1点P1よりもタイヤ軸方向外側に位置している。第1湾曲部62は、ビード部30の外表面よりもタイヤ外面側に位置する曲率中心O1を中心として曲率半径がR1である円弧状部により構成されている。
【0048】
公称リム径NRを基準とした曲率中心O1のタイヤ径方向における高さH1は、対応する正規リム50のフランジ径方向部分53aの高さH11以上である。また、好ましくは、曲率中心O1の高さH1は、フランジ径方向部分53aの高さH11の1.5倍以下である。本実施形態では、フランジ径方向部分53aの高さH11は8mmであるので、曲率中心O1の高さH1は8mm以上12mm以下に設定されている。また、好ましくは、曲率中心O1の高さH1は、リムプロテクタ4の頂点4aの高さH3の0.2倍以上0.6倍以下である。
【0049】
また、曲率中心O1は、タイヤ径方向において、ビードコア径方向外端面31aを基準としてタイヤ径方向内側に2mmの径位置V1とタイヤ径方向外側に9mmの径位置V2との間の径方向範囲Wに位置している。
【0050】
さらにまた、曲率中心O1の高さH1は、タイヤ断面高さH0(
図1参照)の0.25倍未満に設定されている。タイヤ断面高さH0は、空気入りタイヤ1の外径から公称リム径を除いたものを2で除したものとして算出される。
【0051】
曲率半径R1は、対応する正規リム50のフランジ湾曲部分53bの曲率半径R12よりも大きい。好ましくは、曲率半径R1は、曲率半径R12の1.4倍以上であり、より好ましくは曲率半径R12の1.6倍以上2.4倍以下である。本実施形態では、フランジ湾曲部分53bの曲率半径R12は9.5mmであるので、曲率半径R1は、14mm以上、より好ましくは16mm以上22mm以下に設定されている。
【0052】
第2湾曲部63は、リムプロテクタ4の頂点4aに位置する第3点P3から、タイヤ軸方向内側に向かってタイヤ径方向内側に湾曲して延びて第4点P4に至っている。第2湾曲部63は、ビード部30の外表面よりもタイヤ外面側に位置する曲率中心O2を中心として曲率半径がR2である円弧状部により構成されている。曲率半径R2は、第1湾曲部62の曲率半径R1以上の大きさに設定されている。好ましくは、曲率半径R2は、曲率半径R1の1.2倍以上である。
【0053】
図2の拡大図に示すように、第1湾曲部62をタイヤ径方向外側に延長した仮想曲線62aと第2湾曲部63をタイヤ軸方向内側に延長した仮想曲線63aとは仮想交点P5においてタイヤ内面側に凸となるように交差している。
【0054】
公称リム径NRを基準とした仮想交点P5のタイヤ径方向における高さH5は、第1湾曲部62の曲率中心O1の高さH1の1.5倍より大きく3.0倍未満である。より好ましくは、仮想交点P5の高さH5は、曲率中心O1の高さH1の2倍より大きく2.5倍未満である。また、仮想交点P5の高さH5は、リムプロテクタ4の頂点4aの高さH3の0.7倍以上である。仮想交点P5の高さH5は、例えば15mm以上25mm以下であり、好ましくは20mm以上24mm以下である。
【0055】
また、仮想交点P5の高さH5は、公称リム径NRを基準としたビードフィラー32の先端32aの高さH9より小さい。具体的には、仮想交点P5の高さH5に対して、ビードフィラー32の先端32aの高さH9は、1.1倍以上が好ましく、さらに1.3倍以上がより好ましい。
【0056】
仮想曲線62aと仮想曲線63aとの間の交差角A3、すなわち仮想交点P5から延びる第1湾曲部62(仮想曲線62a)に対する接線62bと、仮想交点P5から延びる第2湾曲部63(仮想曲線63a)に対する接線63bとの間の角度は、0°より大きく45°以下である。交差角A3が45°を超えると、第1湾曲部62と第2湾曲部63との間に歪が集中しやすくビード耐久性が悪化しやすい。好ましくは、交差角A3は30°以下である。交差角A3は、仮想交点P5からタイヤ軸方向外側に延びる接線62bおよび接線63b間の角度として画定されている。
【0057】
また、ビード背面35は、第2点P2と第4点P4とを円弧状に接続する第3湾曲部64をさらに有している。
【0058】
直線部61は、第1湾曲部62に接線連続状に連続している。換言すれば、第1点P1は第1湾曲部62における直線部61に対する接点を構成している。直線部61は、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ軸方向内側に傾斜した第2直線L2に平行に延びており、タイヤ径方向に平行な直線に対する傾斜角度はA2である。傾斜角度A2は、ビードベース面34の傾斜角度A1よりも小さくなるように設定されている。本実施形態では、傾斜角度A2は10°以下である。さらに、傾斜角度A2は、直線部61とビードベース面34との間の角度A4が95°以上105°以下となるように設定されている。また、傾斜角度A2は、ビードベース面34の傾斜角度A1からリムシート51の傾斜角度A0を引いた値よりも小さく設定されている(A2<A1-A0)。
【0059】
第3湾曲部64は、第1湾曲部62と第2湾曲部63とを接線連続状に接続しており、ビード部30のタイヤ外面側に位置する曲率中心O3を中心として曲率半径がR3である円弧状部により構成されている。換言すれば、第2点P2は第1湾曲部62における第3湾曲部64に対する接点を構成し、第4点P4は第2湾曲部63における第3湾曲部64に対する接点を構成している。
【0060】
第3湾曲部64の曲率半径R3は、第1湾曲部62および第2湾曲部63の曲率半径R1,R2よりも小さい。
【0061】
図3は、
図2のビードヒール面36の周辺の拡大図である。
図3に示すように、ビードヒール面36は、ビードコア31に対してタイヤ径方向内側かつタイヤ軸方向外側に対応して位置している。ビードヒール面36は、ビードベース面34のタイヤ軸方向外端とビード背面35のタイヤ径方向内端との間において、タイヤ軸方向外側に向かって第1直線L1よりもさらにタイヤ径方向外側に傾斜した第3直線L3上に沿って延びている。
【0062】
具体的に説明すると、第1直線L1と第2直線L2との交点を第1交点X1とし、第1直線L1と第3直線L3との交点を第2交点X2とし、第2直線L2と第3直線L3との交点をX3としたとき、ビードヒール面36は、第1交点X1と第3交点X3との間のタイヤ径方向における寸法である径方向寸法Kが、第1交点X1と第2交点X2との間のタイヤ軸方向における寸法である軸方向寸法G以上であり且つ軸方向寸法Gの2倍未満である。
【0063】
また、ビードヒール面36は、ビードコア31のタイヤ軸方向の外端面であるビードコア軸方向外端面31bに対してタイヤ軸方向内側へ所定長さJ離れた位置においてタイヤ径方向に延びる第4直線L4よりもタイヤ軸方向内側に位置している。換言すれば、第3交点X3からビードコア軸方向外端面31bまでのタイヤ軸方向における寸法Qに所定長さJを加えた値は、第3交点X3と第2交点X2との間のタイヤ軸方向における寸法Tよりも長い。例えば、所定長さJは2mmである。また所定長さJは、ビードコア31のタイヤ軸方向寸法Mの30%としてもよい。
【0064】
第2交点X2及び第3交点X3は、子午線断面において、第1直線L1と第2直線L2とを3mm超8mm未満の曲率半径Raでそれぞれに対して接線連続状に接続する仮想円弧38の両端点として幾何学的に設定されている。換言すれば、第3直線L3は、第1直線L1と第2直線L2とを3mm超8mm未満の曲率半径Raでそれぞれに対して接線連続状に接続する仮想円弧38の両端点X2及びX3を直線状に接続する直線として画定されている。
【0065】
ビードヒール面36は、第3直線L3上に沿って直線状に延びるビードヒール直線部36aと、ビードヒール直線部36aとビードベース面34とを接線連続状に接続するビードヒール第1R面取部36bと、ビードヒール直線部36aとビード背面35とを接線連続状に接続するビードヒール第2R面取部36cとを有している。ビードヒール第1R面取部36b及びビードヒール第2R面取部36cの曲率半径は、2mm以上且つ仮想円弧38の曲率半径Ra以下である。
【0066】
ビードヒール面36は、リムストリップゴム21bによって少なくとも一部が形成されている。
図4は、
図3のA矢視によるビードヒール面36の正面図である。
図4に示されるように、ビードヒール面36はリムストリップゴム21bで形成されており、該空気入りタイヤ1を加硫成型するタイヤ金型(不図示)に設けられたガス抜き用ベントの痕跡であるベントホール痕36zが形成されている。ベントホール痕36zは、ベントホールによる形成されるベントスピューであり得、若しくはスプリングベントにより形成されるバリ又は凹凸であり得る。
【0067】
図2に戻って、ここで、非リム組み状態において、ビード部30のうちタイヤ径方向の内側には、ビードヒール面36およびビード背面35にわたって、タイヤ軸方向内側に窪む凹み70が形成されている。凹み70は、ビードヒール面36およびビード背面35のうち、ビードヒール第2R面取部36cに対するタイヤ径方向に平行に延びる接線である第5直線L5に対してタイヤ軸方向内側に位置する部分を意味している。すなわち、凹み70は、ビードヒール第2R面取部36cのうちタイヤ径方向外側に位置する部分と、直線部61と、第1湾曲部62のうちタイヤ径方向内側に位置する部分とによって構成されている。
【0068】
凹み70はタイヤ軸方向内側に最も窪んだ最深部71を有している。最深部71は、第1湾曲部62上に位置している。最深部71は、直線部61よりも径方向外側に位置する。換言すると、直線部61は、最深部71よりもタイヤ径方向内側に設けられている。最深部71の深さDは、第5直線L5を基準として1.0mm未満、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは、0.3mm以上0.5mm以下に設定されている。
【0069】
公称リム径NRを基準とした最深部71の高さH10は、対応する正規リム50のフランジ径方向部分53aの高さH11以上である。また、好ましくは、最深部71の高さH10は、フランジ径方向部分53aの高さH11の1.5倍以下である。本実施形態では、フランジ径方向部分53aの高さH11は8mmであるので、最深部71の高さH11は8mm以上12mm以下に設定されている。
【0070】
なお、本実施形態では、最深部71は、円弧状に延びる第1湾曲部62のうち曲率中心O1からタイヤ軸方向に平行に延びる第6直線L6上に位置しているので、最深部71の高さH10は、第1湾曲部62の曲率中心O1の高さH1と等しい。
【0071】
ここで、空気入りタイヤ1では、非リム組み状態で、一対のビード部30は、リム幅W0よりも幅広に間隔を空けて配置されている。具体的には、一対のビードヒール面36(具体的にはビードヒール第2R面取部36c)間のタイヤ軸方向における外幅W1(すなわち第5直線間の距離)は、リム幅W0よりも大きい。例えば、外幅W1とリム幅W0の差は、1.5インチ以下であり、好ましくは1インチ以下である。
【0072】
図5は、空気入りタイヤ1を対応する正規リム50にリム組みしつつ規定の内圧を充填してインフレートさせる前の、ビード部30の周辺が示されており、仮想線でリム組み前の空気入りタイヤ1、および破線でインフレート後の荷重入力時の空気入りタイヤ1が併せて示されている。空気入りタイヤ1は、一対のビード部30間の外幅W1が、対応する正規リム50のリム幅W0よりも幅広に形成されているので、空気入りタイヤ1をリム組みする場合、一対のビード部30をタイヤ軸方向内側に互いに近接させることを要する。このとき、空気入りタイヤ1は、サイドウォール20およびビード部30にわたってタイヤ径方向内側に向かってタイヤ軸方向内側に傾斜するように変形させられる(図中矢印Y1)。
【0073】
さらに、ビードベース面34の傾斜角度A1はリムシート51の傾斜角度A0よりも大きいので、ビードベース面34をリムシート51に対してタイヤ径方向に嵌合させる際に、傾斜角度A0およびA1の角度差から、ビードベース面34が圧縮される分を除いた角度だけ、ビードベース面34は、
図3における時計回りに回転する(図中矢印Y2)。ビードベース面34は、傾斜角度A1が小さくなるように回転して、リムシート51に対して径方向に嵌合される。
【0074】
ここで、ビード部30には、直線状のビードヒール面36が形成されているので、ビードヒール面36が正規リム50のリムヒール52に乗り上げたり干渉したりする等閊えることなく、ビードヒール面36をリムシート51及びリムヒール52に対してタイヤ軸方向内側から外側へ移動させて適正なタイヤ軸方向位置に組付けることができる。
【0075】
その結果、ビード部30においては、凹み70の最深部71の周辺を起点として、最深部71よりタイヤ径方向内側に位置する部分が、非リム組み状態に比して、タイヤ軸方向内側に
図3における時計廻り方向に回転するように傾斜する(図中矢印Y3)。ビードベース面34の回転に伴って、ビード背面35は、傾斜角度A2がゼロになるように、すなわち、直線部61がタイヤ径方向に沿って延びるように、最深部71の周辺を起点としてタイヤ軸方向内側に向かって回転する。本実施形態では、傾斜角度A1は、傾斜角度A0よりも7°大きいので、最深部71よりタイヤ径方向内側に位置する部分が、7°以下の角度で回転する。
【0076】
この結果、空気入りタイヤ1は、リム組みされた状態で、凹み70が消失してビード背面35のうち最深部71よりタイヤ径方向の内側に位置する部分が概ねタイヤ径方向に沿うように延びるように変形する。よって、ビード部30は、ビードベース面34、およびビード背面35のうち最深部71より内径側に位置する部分が、リムシート51、およびリムフランジ53の径方向部分53aに対してそれぞれ略全面にわたって密着している。
【0077】
一方、リム組みされた状態では、ビードヒール面36は、リムヒール52に対して離間している。次いで、リム組みされた状態から規定内圧を充填して空気入りタイヤ1をインフレートさせると、ビード部30のビードヒール面36は変形してリムヒール52に略当接する。
【0078】
この非リム組状態からインフレート状態にかけてビードコア31は、ビードベース面34と同様に
図5における時計回りに回転する(図中矢印Y2)。ビードコア31の回転角度A6は、タイヤ径方向に平行な直線に対する傾斜角度A2とほぼ一致している。本実施形態においては、ビードコア31の回転角度A6は、非リム組状態におけるビードコア径方向外端面31aの延長線L8と、インフレート状態におけるビードコア径方向外端面31aの延長線L9とのなす角で画定されている。
【0079】
このリム組み状態において、ビード背面35は、フランジ湾曲部分53bに対してタイヤ径方向に十分に離間するように形成されている。具体的には、フランジ湾曲部分53bのうちタイヤ径方向において最もタイヤ径方向外側に位置する頂点P10と、頂点P10を通りタイヤ径方向に延びる径方向直線L7とビード背面35との交点P11との間のタイヤ径方向における距離は4mm以上となるように、ビード背面35は形成されている。
【0080】
図5の破線で示すように、ビード背面35は、空気入りタイヤ1に設定されたロードインデックスに対応する荷重の入力状態においても、フランジ湾曲部分53bに対してタイヤ径方向に十分に離間するように形成されている。具体的には、頂点P10と、径方向直線L7と荷重入力状態のビード背面35との交点P12との間のタイヤ径方向における距離は3mm以上となるように、ビード背面35は形成されている。
【0081】
図6は、空気入りタイヤ1を正規リム50にリム組みしてインフレートした状態の、ビード部30と正規リム50のとの間の嵌合部における嵌合圧を示すグラフである。嵌合圧は、ビード部30と正規リム50との間に挟み込んだシート型圧力センサにより計測した。このグラフは、横軸にビード部30の外表面に沿ったビードベース面34のタイヤ軸方向内側の端部からビード背面35までの各位置をとり、縦軸に嵌合圧をとっている。
【0082】
また、
図6には、比較例1,2に係る空気入りタイヤにおけるビード部の嵌合圧が併せて示されている。
図7に示されるように、比較例1に係る空気入りタイヤ100は、ビードヒール面136がリムヒール52に略一致する円弧上に形成されると共に凹みを備えていない点で、空気入りタイヤ1に対して異なっている。
図8に示されるように、比較例2に係る空気入りタイヤ200は、ビードヒール面236がリムヒール52に略一致する円弧上に形成されている点で空気入りタイヤ1に対して異なっており、比較例1に係る空気入りタイヤ100に対しては凹み270を備えている点で異なっている。
図6において、空気入りタイヤ1の場合の嵌合圧を太実線で示し、空気入りタイヤ100の場合の嵌合圧を破線で示し、空気入りタイヤ200の場合の嵌合圧を細実線で示している。
【0083】
図6及び
図7に示されるように、比較例1に係る空気入りタイヤでは、ビードベース面134と、ビード背面135のうちタイヤ径方向外側に位置する当接部135aとの2点において局所的に嵌合圧が生じている。ビードベース面134におけるピークは概ね嵌合圧Aであり、当接部135aにおけるピークは、嵌合圧Aより低く、嵌合圧Aより小さい嵌合圧Bを若干超える程度である。すなわち、ビードベース面134とビード背面135の間に位置しており、正規リム50に当接していない未当接部135bでは、嵌合圧が生じていない。
【0084】
したがって、空気入りタイヤ100は、ビードベース面134と当接部135aの2箇所において局所的に強く嵌合しており、ビード部130は、これら2箇所において強く圧縮されている。
【0085】
比較例2に係る空気入りタイヤ200では、ビードベース面234からビードヒール面236およびビード背面235にわたって、正規リム50との間で嵌合圧が生じている。すなわち、空気入りタイヤ100とは異なり、ビードヒール面236およびビード背面235の内径側部分235bについても正規リム50に当接している。
【0086】
具体的には、空気入りタイヤ200は、空気入りタイヤ100のうち局所的に強く嵌合する部分に対応する部分の嵌合圧が、空気入りタイヤ100に比して低くなっている。すなわち、ビードベース面234におけるピークは概ね嵌合圧Bであり、ビード背面235におけるピークは、嵌合圧Bより小さい嵌合圧Cを若干下回る程度である。一方、空気入りタイヤ200は、空気入りタイヤ100のうち未嵌合部に対応する部分において、嵌合圧が生じている。すなわち、空気入りタイヤ200は、ビードベース面234からビード背面235にわたって嵌合圧を有して正規リム50に密着しており、局所的な圧縮が抑制されている。
【0087】
一方、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、ビードベース面34と、ビード背面35と、ビードヒール面36のうちビードベース面34側及びビード背面35側の領域において、正規リム50との間で嵌合圧が生じている。
【0088】
具体的には、空気入りタイヤ1は、ビードベース面34における嵌合圧のピークが空気入りタイヤ100及び200のいずれよりも高くなる一方で、ビード背面35における嵌合圧のピークが空気入りタイヤ100及び200のいずれよりも低くなっている。これは、空気入りタイヤ1は、空気入りタイヤ100,200とは異なり、ビードヒール面36が直線状の面取りに形成されているため、リム組み時にリムヒール52に閊えることなく適正なタイヤ軸方向位置において嵌合させやすいためと考えられる。
【0089】
例えば、
図7に破線で示されるように、空気入りタイヤ100においてビードヒール面136の曲率半径がリムヒール52の曲率半径よりも過度に小さい場合等、ビードヒール面136がリムヒール52に閊えるために適正なタイヤ軸方向位置に対してタイヤ軸方向内側で篏合するとき、ビード背面135とリムフランジ53との間の隙間に起因して、インフレート時には、ビード部130はタイヤ軸方向外側により大きく倒れやすく、ビード背面135において局所的にリムフランジ53に当接しやすい。
【0090】
すなわち、空気入りタイヤ100,200は、それぞれのビードヒール面136,236が直線状の面取りではないため、ビードヒール面136,236それぞれの曲率の大きさによっては空気入りタイヤ1に比してリムヒール52に閊えやすく、ビード部130,230のタイヤ軸方向外側への倒れが増大しやすい。この結果、空気入りタイヤ100,200では、ビードベース面134,234におけるリムシート51との嵌合圧が減少する一方で、ビード背面135,235におけるリムフランジ53との嵌合圧が増大している。
【0091】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1によれば、次の効果を奏する。
【0092】
(1)ビードベース面34は単一の傾斜面(一段テーパ)で構成されているので、タイヤ軸方向内側に向かってさらにタイヤ径方向内側への傾斜角度が大きくなる更なる傾斜面を有する場合(2段テーパ)に比して、リム組み時のビード部30のタイヤ軸方向外側への倒れが抑制される。その結果、リム組み時において、ビードベース面34が2段テーパである場合に比して、ビード背面35における嵌合圧が低減される一方で、ビードベース面34における嵌合圧が増大する。
【0093】
さらに、ビードヒール面36は、ビードベース面34とビード背面35とを直線で接続する面取りとして構成されているので、リム組み時にビードヒール面36が正規リム50のリムヒール52に干渉することが抑制される。その結果、ビード部30を正規リム50に対して適正なタイヤ軸方向位置で嵌合させることができるので、タイヤ軸方向内側よりに位置する不十分な嵌合位置に起因したビード部30のタイヤ軸方向外側への倒れが抑制されると共に、ビード背面35における嵌合圧の増大が抑制される。
【0094】
したがって、荷重負荷時において、嵌合圧が高められたビードベース面34により正規リム50のリムシート51との嵌合を維持しやすくリムフィッティング性が向上する一方で、嵌合圧が低減されたビード背面35によってサイドウォール20の撓み変形を容易にしやすく操安性が向上する。
【0095】
(2)第1直線L1のタイヤ軸方向に対する傾斜角度A1は5°以上15°以下である。すなわち、ビードベース面34は適度に傾斜しているので、ビードベース面34での嵌合圧を高めつつ、ビード背面35での嵌合圧の増大を抑制できる。第1直線L1の傾斜角度A1が5°より小さい場合、ビード背面35における嵌合圧の不足に起因してサイドウォール20が過度に変形するため、操安性の低下に至りやすい。一方、第1直線L1の傾斜角度A1が15°より大きい場合、ビード背面35における過大な嵌合圧に起因してサイドウォール20の撓み変形が阻害されるため、サイドウォール20における荷重支持性能の低下に至りやすい。
【0096】
(3)ビードヒール面36は、径方向寸法Kが軸方向寸法G以上であり且つ軸方向寸法Gの2倍未満である。その結果、ビードヒール面36はタイヤ径方向に長く構成されるので、ビードベース面34を確保しやすく、ビード部30のタイヤ軸方向外側への倒れを抑制しやすい。ビードヒール面36の径方向寸法Kが軸方向寸法G未満である場合、リム組み時におけるビードヒール面36の正規リム50に対する干渉の抑制に不十分になりやすい。一方、ビードヒール面36の径方向寸法Kが軸方向寸法Gの2倍以上である場合、ビード背面35が過度に小さくなりビード背面35に局部的に嵌合圧が集中することに起因してサイドウォール20の撓み変形が阻害される。
【0097】
(4)ビードヒール面36は、第4直線L4よりもタイヤ軸方向外側に位置している。その結果、ビードヒール面36の、ビードコア31のタイヤ径方向内側の領域におけるタイヤ軸方向内側への入り込み量が過大となることが抑制されるので、ビード部30のタイヤ径方向内側にビードベース面34を確保しやすく、ビード部30のタイヤ軸方向外側へ倒れが抑制される。
【0098】
(5)ビード背面35には凹み70が形成されているので、非リム組み状態において、ビード背面35のうち凹み70の最深部71から内径側に位置する内径側部分はタイヤ径方向内側に向かってタイヤ軸方向外側へ傾斜している。上記内径側部分は、一対のビード部30を正規リム50のリム幅W0に近接させたリム組み状態において、凹み70の最深部71の周辺を起点としてタイヤ軸方向内側に折れ曲がりタイヤ径方向に概ね沿いやすい。すなわち、リム組み状態において、ビード背面35を、凹み70を消失させつつ、リムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって密着させやすく、接触面積を拡大することができる。
【0099】
このように、リム組みされた無負荷状態において、リムフランジ53の径方向部分53aに密着するビード背面35の略全面にわたって面圧が作用するので、ビード背面35の一部にのみ面圧が作用する場合に比して、ビード背面35全体として受け持つ荷重が分散される。すなわち、ビード背面35に局所的に高い面圧が作用する場合に比して、ビード背面35が弾性変形するための圧縮代に余裕を持たせることができる。
【0100】
したがって、荷重入力時及び横力入力時において、余裕圧縮代の分、ビード背面35はさらに圧縮され得る。この場合、サイドウォール20は、ビード背面35のさらなる圧縮に伴ってビード部30に近接した部分も変形し得るので、サイドウォール20はビード部30側からトレッド10側にわたって全体的に撓むように変形し得る。よって、サイドウォール20における荷重支持が効率化されるので、操縦安定性が向上する。
【0101】
(6)凹み70の深さDが1.0mm未満であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ軸方向外側に適度に傾斜しているので、リム組み状態でタイヤ軸方向内側に折り曲げられてタイヤ軸方向外側への傾斜が解消しやすく、リムフランジ53の径方向部分53aに丁度沿い易い。凹みの深さが1.0mm以上であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ軸方向外側に過度に傾斜しやすいため、リム組み状態でタイヤ軸方向内側に折り曲げられてもタイヤ軸方向外側への傾斜が解消しにくい。この場合、リム組み状態で、凹み70が消失しにくく、ビード背面35をリムフランジ53の径方向部分53aの略全面にわたって当接させにくい。なお、凹み70の深さDが0.8mm以下であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ軸方向外側により適度に傾斜しており、リム組み状態でリムフランジ53の径方向部分53aにより沿い易い。さらにまた、凹み70の深さDが0.3mm以上0.5mm以下であると、最深部71より内径側に位置する部分は、非リム組み状態でタイヤ軸方向外側により一層適度に傾斜しており、リム組み状態でリムフランジ53の径方向部分53aにより一層沿い易い。
【0102】
(7)第3直線L3は、第1直線L1と第2直線L2とを3mm超8mm未満の曲率半径Raでそれぞれに対して接線連続状に接続する仮想円弧38の両端点を結ぶ直線として幾何学的に画定されている。その結果、ビードヒール面36が適度な大きさで形成されるので、空気入りタイヤ1を正規リム50にリム組みして規定内圧を充填した状態で、ビードヒール面36をリムヒール52に当接させやすく、リムフィッティング性を確保できる。
【0103】
仮想円弧38の曲率半径Raが3mm以下である場合、リム組み時にビードヒール面36がリムヒール52に干渉して適切なタイヤ軸方向位置まで嵌合させにくい。一方、仮想円弧38の曲率半径Raが8mm以上である場合、リム組み時のインフレート後であってもビードヒール面36をリムヒール52に当接させにくく、リムフィッティング性が悪化しやすい。
【0104】
(8)ビードヒール面36は、少なくとも一部がリムストリップゴム21bによって形成されており、ベントホール痕36zを有する。その結果、加硫成形時におけるビードヒール面36周辺のゴム流れ性が向上するので、ビード部30の外表面に直線状のビードヒール面36を形成しつつも、加硫成形時によるゴム流れ不良に起因した例えばベア等の不具合が抑制される。
【0105】
(9)最深部71は、リムフランジ53の径方向部分53aの外径側端部以上の径方向位置に位置しているので、リム組み状態において、凹み70の最深部71より内径側に位置する部分を、径方向内側から順にリムフランジ53の径方向部分53aの略全面に当接させやすい。凹み70の最深部71が正規リム50のリムフランジ53の径方向部分53aの外径側端部よりも内径側に位置していると、最深部71はリムフランジ53の径方向部分53aのうち外径側端部よりも内径側に対向することになる。この結果、凹み70の最深部71より外径側に位置する部分は、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ軸方向外側に延びているので、リムフランジ53の径方向部分53aに対して局所的に強く当接しやすい。
【0106】
(10)最深部71は、公称リム径NRを基準として、リムフランジ53の径方向部分53aの外径側端部までの高さH11の1.5倍以下のタイヤ径方向位置に位置しているので、リム組み時において、凹み70の最深部71の周辺を起点として、この内径側部分をタイヤ軸方向内側へ屈曲させやすい。すなわち、凹み70の最深部71が公称リム径NRを基準として、径方向部分53aの外径側端部までの長さの1.5倍より外径側に位置していると、ビードベース面34から凹み70の最深部71までの距離が過大になりやすく、リム組み時におけるビード部30の変形の起点が凹み70の最深部71よりも内径側に生じやすい。この場合、凹み70の最深部71から内径側部分を全体的に折り曲げにくく、ビード背面35をリムフランジ53の径方向部分53aの略全面に当接させにくい。
【0107】
(11)第1湾曲部62は、凹み70の最深部71を構成しており、その曲率半径R2が対向するリムフランジ53の湾曲部分53bの曲率半径R12より大きい。その結果、リム組み状態において、凹み70にリムフランジ53の湾曲部分53bが内包されやすく、凹み70が湾曲部分53bに閊えにくいので、最深部71より内径側に位置する部分を、径方向内側から順にリムフランジ53の径方向部分53aの略全面に当接させやすい。第1湾曲部62の曲率半径R2がリムフランジの湾曲部の曲率半径より小さいと、リム組み状態において、凹み70の内側に湾曲部分53bが閊えやすく、凹み70の最深部71から内径側に位置する部分を、径方向内側から順にリムフランジ53の径方向部分53aの略全面に当接させにくい。
【0108】
(12)空気入りタイヤ1は、第1湾曲部62の曲率中心O1の高さH1が8mm以上12mm以下のタイヤ径方向範囲に位置しており、曲率半径R1が12mm以上であるので、リムフランジ53の径方向部分53aの外径側端部の高さH11が8mm以下であって、リムフランジ53の湾曲部分53bの曲率半径R12が12mm以下の正規リム50、例えばJATMAに規定される5°深底リムのフランジ記号Jの正規リムにリム組みする際に、上記発明の効果が好適に発揮される。
【0109】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0110】
上記実施形態では、凹み70を、ビードヒール第2R面取部36cの一部、直線部61、第1湾曲部62の少なくとも一部によって構成したがこれに限らない。直線部61を用いずに、ビードヒール第2R面取部36cと第1湾曲部62とを直接に接続するように構成してもよい。また、この場合、ビードヒール第2R面取部36cと第1湾曲部62とを接線連続状に接続してもよい。
【0111】
また、本実施形態では、凹み70を円弧状部により構成したがこれに限らならい。すなわち、凹み70を台形状に形成してもよく、三角形状に形成してもよく、種々の構成を採用することができる。なお、本実施形態のように、凹み70を、接線連続状かつ円弧状部により構成することによって、リム組み時にビード背面35をタイヤ径方向に平行に延びるように滑らかに変形させやすくリムフィッティング性に優れる。
【0112】
(参考例)
参考比較例1,2および参考例1~4の空気入りタイヤについて、空気入りタイヤと正規リムとのビード背面での平均嵌合圧、ビード耐久性、および操縦安定性の評価試験を行った。参考比較例1,2及び参考例1~4は、ビードヒール面が直線状の面取りとして形成されておらず、リムヒール52に沿った湾曲部として形成されている。
【0113】
参考比較例1は、凹みが設けられていない。参考比較例2は、凹み70の深さDが2mmであり、1mm以上であり、本発明の上限値である1.0mm未満を超過している。参考例1~4は、凹み70の深さDが上記数値範囲内である。参考例3は、凹み70の深さDが0.9mmであり、上記数値範囲内の上限近傍である。参考例4は、凹み70の深さDが0.8mmであり、上記数値範囲のうちより好ましい範囲である0.8mm以下の上限値である。参考例1,2は、凹み70の深さDが0.4mmであり、上記数値範囲のうちさらにより好ましい範囲である0.3mm以上0.5mm以下の中央値である。凹み70の最深部71の高さH10は、参考比較例2、参考例1,2すべて10mmで共通である。第1湾曲部62の曲率半径R1について、参考比較例1は18mm、参考比較例2は12mm、参考例1,4は18mm、参考例2,3は22mmである。評価に使用される正規リムは、JATMAに規定される5°深底リムのフランジ記号Jに準拠している。
【0114】
ビード背面35での平均嵌合圧は、インフレート時におけるリムフランジ53の径方向部分53aに対するビード背面35の接触領域の平均嵌合圧を計測し、参考比較例1の場合を100として、参考比較例2、参考例1~4の平均嵌合圧を指数で示している。値が大きいほど、より狭い接触領域において強く嵌合していることを示しており、値が低いほど、より広い接触領域に嵌合圧が分散されていることを示している。
【0115】
ビード耐久性の評価は、ビード故障を誘発するドラム耐久試験を行い、故障までの走行距離を測定し、参考比較例1の場合を100として、参考比較例2、参考例1~4の走行距離を指数で示している。値が大きいほどビード耐久性が優れていることを示している。
【0116】
操縦安定性の評価は、実車に装着し実走行をしたときの運転者による官能による相対評価を行った。10点満点で、6.0が中心値であり、値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示している。
【0117】
【0118】
表1から明らかなように、凹み70の最深部71の深さDが1.0mm未満である参考例1~4に係る空気入りタイヤは、参考比較例1,2に比してビード背面35での平均嵌合圧が低く、より広い接触領域において嵌合圧が分散されている。これは、参考例1~4は、凹み70の最深部71の深さDが適度であるため、リム組み状態で凹み70が消失してビード背面35がリムフランジ53の径方向部分53bに沿い易いためと考えられる。
【0119】
参考比較例2は、凹み70の最深部71の深さDが1.0mm以上であるため、リム組みしてインフレートした状態でも、凹み70が消失せず、ビード背面35が局所的に接触するため、接触領域が局所的となるので、参考例1,2よりも平均嵌合圧が高くなっていると考えられる。また、参考比較例2は、最深部71の深さDが2.0mmと過大となるため、リムとの全域での密着性に劣るため充分な効果が得られず、ビード耐久性および操縦安定性は、参考比較例1と同様の結果となった。
【0120】
参考例1~4に関して、上記数値範囲(1.0mm未満)内の上限近傍である参考例3、より好ましい範囲(0.8mm以下)の上限値である参考例4、さらにより好ましい範囲(0.3mm以上0.5mm以下)の中央値である参考例1,2の順にビード背面35での平均嵌合圧が低下しており、この順でビード耐久性および操縦安定性が向上している。具体的には、参考例1は、凹み70の最深部の深さDが0.4mmであり適度であるため、リム組みしてインフレートした状態において、凹み70が消失し、ビード部30がビードベース面34からビード背面35にわたって、リムフランジ53の径方向部分53aに対して概ね全面的に当接している。これによって、ビード背面35での平均嵌合圧が参考比較例1よりも低下し、この結果、ビード耐久性および操縦安定性が参考比較例1よりも優れる結果となった。
【0121】
参考例1と同様に、参考例2も、凹み70の最深部の深さDが0.4mmであり適度であるため、リム組みしてインフレートした状態において、凹み70が消失し、ビード部30がビードベース面34からビード背面35にわたって、リムフランジ53の径方向部分53aに対して概ね全面的に当接している。なお、参考例2は、ビード耐久性および操縦安定性ともに向上代が参考例1に対して小さい。この理由として、参考例2では、参考例1に比して第1湾曲部62の曲率半径R1が過大となっているため、仮想交点P5がタイヤ軸方向内側に位置しやすく、この結果、仮想交点P5における交差角A3が大きくなるので、仮想交点P5近傍における歪の集中が増大することに起因すると推定される。参考例3,4は、参考例1,2に比してビード背面35での平均嵌合圧が高いため、その分だけ参考例1,2に比してビード耐久性および操縦安定性が劣る結果となった。参考例4は、参考例3よりも凹み70の深さDがより好ましい範囲にあるため、参考例3に比して、ビード背面35での平均嵌合圧が低下して、ビード耐久性および操縦安定性が向上している。
【符号の説明】
【0122】
1 空気入りタイヤ
4 リムプロテクタ
10 トレッド
20 サイドウォール
30 ビード部
31 ビードコア
31a ビードコア径方向外端面
31b ビードコア軸方向外端面
32 ビードフィラー
32a ビードフィラー先端
34 ビードベース面
35 ビード背面
36 ビードヒール面
36a ビードヒール直線部
36b ビードヒール第1R面取部
36c ビードヒール第2R面取部
36z ベントホール痕
38 仮想円弧
50 正規リム
51 リムシート
52 リムヒール
53 リムフランジ
53a 径方向部分
53b 湾曲部分
61 直線部
62 第1湾曲部
63 第2湾曲部
64 第3湾曲部
70 凹み
71 最深部
L1 第1直線
L2 第2直線
L3 第3直線
L4 第4直線
L5 第5直線
X1 第1交点
X2 第2交点
X3 第3交点
K リムヒール面の径方向寸法
G リムヒール面の軸方向寸法
J 所定長さ
M ビードコアの軸方向寸法