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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062407
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20230426BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230426BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C08L33/06
C08L9/06
C08K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172362
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 貴大
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC083
4J002BG031
4J002BG032
4J002EP016
4J002FD206
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】ブリードの発生を抑制することができ、耐衝撃性及び耐摩耗性に優れた樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂と、スチレン系エラストマーと、脂肪酸アミドと、を含む樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂と、
スチレン系エラストマーと、
脂肪酸アミドと、を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
相溶化剤を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
マレイミド系共重合体を含む、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系樹脂と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、
前記スチレン系エラストマーの配合量は、5.0質量部以上50質量部未満である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系樹脂と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、
前記脂肪酸アミドの配合量は、4.0質量部未満である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形した成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂は、高光沢性、透明性に優れており、自動車の部品等に好適に用いられている。特許文献1は、このようなアクリル系樹脂を含む組成物及び成形体を開示している。
【0003】
アクリル系樹脂は耐衝撃性にやや劣るという問題がある。これに対し、特許文献2は、アクリル系樹脂にASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体)を加えて、耐衝撃性の改善を図った組成物を開示している。特許文献2の組成物は、さらにポリジメチルシロキサン等のシリコーンからなるスクラッチ補強剤を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-131948号公報
【特許文献2】特表2016-540847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2において、スクラッチ補強剤として用いられるシリコーンは、アクリル系樹脂との相溶性が十分ではなく、成形体の表面にブリードアウトする懸念があった。仮に、シリコーンが成形体の表面にブリードアウトすると、耐スクラッチ性(耐摩耗性)も低下するという問題があった。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ブリードの発生を抑制することができ、耐衝撃性及び耐摩耗性に優れた樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1](メタ)アクリル系樹脂と、スチレン系エラストマーと、脂肪酸アミドと、を含む、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、ブリードの発生を抑制することができ、耐衝撃性及び耐摩耗性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
[2]相溶化剤を含む、樹脂組成物。
[3]マレイミド系共重合体を含む、樹脂組成物。
[4]前記(メタ)アクリル系樹脂と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、前記スチレン系エラストマーの配合量は、5.0質量部以上50質量部未満である、樹脂組成物。
[5]前記(メタ)アクリル系樹脂と前記スチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、前記脂肪酸アミドの配合量は、4.0質量部未満である、樹脂組成物。
[6]上記樹脂組成物を成形した成形体。
【0010】
以下、本開示の実施形態を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0011】
本開示の樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂と、スチレン系エラストマーと、脂肪酸アミドと、を含む。また、樹脂組成物は、任意的成分として、相溶化剤とマレイミド系共重合体の少なくとも一方を含むことができる。
【0012】
<(メタ)アクリル系樹脂>
(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル系樹脂とメタクリル系樹脂の少なくとも一方を意味する。アクリル系樹脂とメタクリル系樹脂は、それぞれ単独で用いられても併用されても良い。(メタ)アクリルとは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち一方又は両方)を意味する。
【0013】
(メタ)アクリル系樹脂は、主たる単量体成分として、(メタ)アクリル系単量体を使用する重合体である。(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、オキソ基含有(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、カルボニル基含有(メタ)アクリレート、ハロゲン基含有(メタ)アクリレート、窒素含有(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アラルキル(メタ)アクリレート、アジリジニル基含有(メタ)アクリレート、ジエン構造含有(メタ)アクリル酸化合物等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル系単量体は、単独で用いられても2種以上併用されても良い。
【0014】
本開示においては、(メタ)アクリル系単量体に、アルキル(メタ)アクリレートを用いるのが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、(メタ)アクリル系単量体の成分全量に対して50重量%以上であると良く、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系単量体の成分全量に対して最大限100重量%含まれていても良い。
【0015】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート等を挙げることができる。これらのアルキル(メタ)アクリレートは、単独で用いられても2種以上併用されても良い。
【0016】
本開示においては、樹脂の透明性、耐候性に優れている観点から、(メタ)アクリル系樹脂として、メチル(メタ)アクリレートを主たる単量体としたポリメチル(メタ)アクリレート(PMMA)を用いるのが好ましい。
【0017】
ポリメチル(メタ)アクリレートは、メチル(メタ)アクリレートの単独重合体であっても良いが、メチル(メタ)アクリレートを50重量%以上含む共重合体であっても良い。共重合可能な成分としては、例えば、メタクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸等を挙げることができ、さらに、マレイミド類、スチレン等の(メタ)アクリル系単量体以外の単量体であっても良く、これらの中から1種以上を選択して共重合させることができる。
【0018】
ポリメチル(メタ)アクリレートをISO 1133に準拠し、230℃、3.8kgf荷重下で測定したメルトインデックス(MFI)は、0.5ml/10min~20ml/10minであることが好ましい。ポリメチル(メタ)アクリレートのメルトインデックス(MFI)が0.5ml/10minよりも低いと、成形体の加工性が悪化する懸念がある。ポリメチル(メタ)アクリレートのメルトインデックスが20ml/10minを超えると、成形体の耐衝撃性が低下する懸念がある。
【0019】
ポリメチル(メタ)アクリレートは、メルトインデックスが異なる複数種によって構成されることが好ましい。メルトインデックスが異なる複数種を併用することにより、耐衝撃性を調整することができ、加工性の向上を図ることもできる。例えば、メルトインデックスが1.0ml/10min~3.0ml/10minである第1のポリメチル(メタ)アクリレートと、メルトインデックスが6.0ml/10min~10ml/10minである第2のポリメチル(メタ)アクリレートと、を併用することができる。
【0020】
<スチレン系エラストマー>
スチレン系エラストマーは、スチレンを単量体単位として有するエラストマーである。スチレン系エラストマーは、熱可塑性のエラストマーであって、ゴム弾性を有することができる。このため、スチレン系エラストマーを含む樹脂組成物は、耐衝撃性の向上を図ることができる。
【0021】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート)樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン)樹脂、SB(スチレン-ブタジエン)樹脂、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン)樹脂、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)樹脂、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン)樹脂、SEEPS(スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン)樹脂、SIS(スチレン-イソプレン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂、MABS(メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MAS(メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン)樹脂、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム-スチレン樹脂等を挙げることができる。これらのスチレン系エラストマーは、単独で用いられても2種以上併用されても良い。
【0022】
上記スチレン系エラストマーの中でも、ASA樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂等のアクリロニトリルを含有する樹脂がより好ましい。アクリロニトリルを含有するスチレン系エラストマーは、極性基を有する重合体との相溶性を良好にすることでき、耐衝撃性等の物性の改善にも寄与することができる。特に、ASA樹脂は、耐候性に優れており、屋外や太陽光を浴びる屋内での使用に好適である。
【0023】
スチレン系エラストマーをISO 1133に準拠し、220℃、10kgf荷重下で測定したメルトボリュームフローレイト(MVR)は、成形性の観点から、1cm/10min~20cm/10minであると良く、好ましくは2cm/10min~18cm/10minであり、より好ましくは3cm/10min~15cm/10minである。
【0024】
スチレン系エラストマーの配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、5.0質量部以上50質量部未満であると良い。スチレン系エラストマーの配合量が5.0質量部未満であると、耐衝撃性に劣る懸念がある。スチレン系エラストマーの配合量が50質量部以上であると、共連続構造をとって白濁化し、良好な海島構造又は完全相溶構造をとることができず、高光沢性を得ることが困難になる。
【0025】
樹脂組成物の高光沢性と耐衝撃性の向上を図れる観点から、スチレン系エラストマーの配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、7質量部~45質量部であるのが好ましく、9質量部~40質量部であるのがより好ましく、13質量部~27質量部であるのが更に好ましい。
【0026】
<脂肪酸アミド>
脂肪酸アミドは、耐擦傷性が高く、耐擦傷性改良剤として機能し得る。このため、脂肪酸アミドを含む樹脂組成物から傷の付きにくい成形体を成形することができると期待される。特に、脂肪酸アミドは、(メタ)アクリル系樹脂に対してシリコーン等よりも相溶性が高いので、成形体表面へのブリードアウトを抑えることができると考えられる。
【0027】
脂肪酸アミドは、低級脂肪酸アミドであっても良いが、(メタ)アクリル系樹脂との相溶性に優れる観点から、脂肪酸の炭素数が10~25、好ましくは12~22の高級脂肪酸アミドであることが好ましい。
【0028】
脂肪酸アミドとしては、例えば、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のビス脂肪酸アミドを挙げることができる。これらの脂肪酸アミドは、単独で用いられても2種以上併用されても良い。
【0029】
上記脂肪酸アミドの中でも、耐擦傷性に優れる観点から、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、が好ましく、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドがより好ましい。
【0030】
脂肪酸アミドの配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、4.0質量部未満であると良い。脂肪酸アミドの配合量が4.0質量部以上であると、配合バランスが悪化し、成形体表面へのブリードアウトを抑えることが困難になる。
脂肪酸アミドとしては、単品でも良いが、樹脂その他の成分とのマスターバッチ品を使用しても良い。マスターバッチ品を使用する場合、脂肪酸アミドの配合量は、脂肪酸アミドの正味の配合量を意味する。
【0031】
ブリードの発生を抑制でき、良好な耐擦傷性を得ることができる観点から、脂肪酸アミドの配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、0.2質量部~3.6質量部であるのが好ましく、0.4質量部~3.0質量部であるのがより好ましい。
【0032】
<相溶化剤>
本開示の樹脂組成物には、相溶化剤を含有させることができる。相溶化剤としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーとの相溶性を向上できる観点から、ビニル系樹脂、特にスチレン系樹脂が好ましく、例えば、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリα-メチルスチレン等を挙げることができる。相溶化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組合わせて使用されても良い。
【0033】
相溶化剤の配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、1質量部~20質量部であると良く、好ましくは2質量部~18質量部であり、より好ましくは3質量部~15質量部である。相溶化剤の配合量を上記範囲とすることにより、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーとの相溶性を向上させることができる。
【0034】
<マレイミド系共重合体>
本開示の樹脂組成物には、マレイミド系共重合体を含有させることができる。マレイミド系共重合体は、単量体成分としてスチレン系単量体とマレイミド系単量体を含む共重合体である。
【0035】
マレイミド系共重合体としては、特に制限されないが、耐熱性の観点から、スチレンとN-フェニルマレイミドに由来する構造単位を含むスチレン-N-フェニルマレイミド系共重合体が好ましい。スチレン-N-フェニルマレイミド系共重合体としては、例えば、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-アクリロニトリル共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-メタクリル酸メチル共重合体等を挙げることができる。マレイミド系共重合体は、1種を単独で、又は2種以上を組合わせて使用されても良い。
【0036】
特に、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体は、マレイミド基(マレイミド由来の構造単位)に基づく剛直な骨格と、アクリル基等の官能基と反応し得る無水マレイン酸基(無水マレイン酸由来の構造単位)と、を含有することから、スチレン系エラストマーの耐衝撃性を維持しつつも、硬度および剛性を高めることが期待できるので、好ましい。スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体と反応し得るスチレン系エラストマーとしては、アクリル基を有するアクリル系ゴムを配合したASA樹脂を挙げることができる。
【0037】
マレイミド系共重合体の配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部未満であると良い。マレイミド系共重合体の配合量が10質量部以上になると、成形体が共連続構造をとって白濁化し、高光沢性を得ることが困難になる。
所定の硬度に調整できる観点から、マレイミド系共重合体の配合量は、(メタ)アクリル系樹脂とスチレン系エラストマーの合計100質量部に対して、0.5質量部~9質量部であるのが好ましく、1質量部~7質量部であるのがより好ましい。
【0038】
<その他の任意的成分>
樹脂組成物は、相溶化剤及びマレイミド共重合体以外の任意的成分として、必要に応じて、顔料、染料、酸化防止剤、耐侯剤、耐候性改良剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、加工助剤、熱安定剤、離型剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等を含めることができる。これらは、単独で用いられても2種以上併用されても良い。例えば、耐侯剤としては、N-アルコキシ(NOR型)ヒンダードアミン系化合物を好適に用いることができる。
【0039】
<樹脂組成物の製造方法>
本開示の樹脂組成物は、例えば、上記成分の混合物を溶融混練することにより製造される。その他、樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することにより製造されても良い。溶融混練の手段としては、特に制限されず、例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を挙げることができる。
【0040】
<成形体>
本開示の樹脂組成物は、各種成形体の成形材料として、使用され得る。樹脂組成物を成形体に成形する方法としては、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、真空成形、トランスファ成形等を挙げることができる。
【0041】
成形体としては、特に制限されず、例えば、電気・電子機器、OA機器、家電製品、建築部材、各種容器、日曜雑貨類、照明機器等を挙げることができる。特に、本開示においては、耐候性に優れた成形体となり得ることから、自動車用部品、特に自動車の外装・内装部品に有用である。
【0042】
自動車の外装・内装部品としては、例えば、バンパー、フェンダー、ドアパネル、トランクリッド、フロントパネル、リアパネル、ルーフパネル、ボンネット、ピラー、サイドモール、ホイールキャップ、フードバルジ、フューエルリッド、スポイラー、トリム、モーターバイクのカウル、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、ラゲッジフロアボード、スピーカボックス等を挙げることができる。
【0043】
<成形体の物性>
(1)引張弾性率
上記成形体をISO 527-1及び527-2に準拠し、チャック間距離115mm、標線間距離50mm、クロスヘッド移動距離1mm/minの条件下で測定した引張弾性率は、2500Mpa以上であることが好ましく、3000Mpa以上であることがより好ましい。上限は特にないが、4000MPa以下であることが実際的である。
【0044】
(2)シャルピー衝撃強さ
上記成形体をISO 179-1(ノッチ付)に準拠し、シャルピー衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製 DG-CB型)を用いて23℃で測定したシャルピー衝撃強さは、1.5kJ/m以上であることが好ましく、2.8kJ/m以上であることがより好ましい。上限は特にないが、6.0kJ/m以下であることが実際的である。
【0045】
(3)ロックウェル硬さ
上記成形体をISO 2039-2に準拠し、ロックウェル硬度計(株式会社東洋精機製作所製 TYPE E)を用いてMスケールにて測定したロックウェル硬さは、78以上であることが好ましく、85以上であることがより好ましい。上限は特にないが、100以下であることが実際的である。
【0046】
(4)荷重たわみ温度(熱変形温度、HDT)
ISO 75-2に準拠して、上記成形体の試験片(長さ80mm、幅10mm、厚さ4mm)を切り出し、試験片に加える曲げ応力 0.45MPa、標準たわみ量0.34mmの条件下でヒートデステーションテスターを用いて測定した荷重たわみ温度は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。上限は特にないが、100℃以下であることが実際的である。
【0047】
(5)耐擦傷性(耐傷付き性)
引掻き硬度計(エリクセン社製ペンシル型引掻き硬度計 318、先端径:0.75mm)を用いて、上記成形体の表面を、荷重5N、50mm/sの速度で50mmの直線上に引掻き、目視にて白化の有無を確認した場合に、白化がみられないものが好ましい。荷重10Nでも白化がみられないものがより好ましく、荷重15Nでも白化がみられないものが更に好ましい。
【0048】
(6)耐摩耗性
以下の条件下で測定した摩耗試験において、上記成形体の表面に摩耗が無いことが好ましい。
(摩擦試験の条件)
・試験装置名:学振形摩擦試験機
・試験方法:「JIS K 6404-4 ゴム引布及びプラスチック引布試験方法 第4部:耐久試験 8.3 学振形摩擦試験」を参考
・試験片:幅40mm、長さ250mm
・負荷荷重:4.9N
・摩擦子:直径10mm
・摩擦ストローク:60mm
・摩擦速度:60回/分
・摩擦回数:5000回
・実施方法:幅50mm、長さ50mmの乾布を重ねた上で、摩擦試験を実施し、測定後の試験片の外観に著しい傷が有るかどうかを目視により確認した。
【0049】
(7)光沢度(グロス)
上記成形体の試験片(長さ60mm、幅60mm、厚さ2mm)を、JIS Z8741に準拠し、グロスメータ(日本電色工業株式会社製:VG7000)を用いて、入射角60°で測定した光沢度は、80%以上であることが好ましい。光沢度は、95%以上であることがより好ましく、100%以上であることが更に好ましい。なお、光沢度は屈折率1.567のガラス表面の鏡面光沢度を100%とした光沢度である。このため、成形体の光沢度が100%を超えることもある。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例を具体的に説明するが、以下の実施例に限定されるわけではない。実施例及び比較例で使用された成分(材料)の詳細は以下のとおりである。
【0051】
<成分(材料)>
・(メタ)アクリル系樹脂1:メチルメタクリル樹脂(ポリメチル(メタ)アクリレート)、Chimei Corporation製「PMMA ACRYREX(登録商標)CM-205」、MFI(230℃、3.8kgf)1.9ml/10min
・(メタ)アクリル系樹脂2:メチルメタクリル樹脂(ポリメチル(メタ)アクリレート)、Chimei Corporation製「PMMA ACRYREX(登録商標)CM-207」、MFI(230℃、3.8kgf)8.5ml/10min
・スチレン系エラストマー:ASA樹脂(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合体)、MVR(220℃、10kgf)3cm/10min~15cm/10min
・相溶化剤:スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、テクノUMG株式会社製「サンレックス(登録商標)SAN-C」、MFR(220℃、10kgf)25g/10min
・マレイミド系共重合体:スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体、デンカ株式会社製「デンカIP MS-NJ」、MFR(265℃、98N)20g/10min
・脂肪酸アミド:高級脂肪酸アミド(エリカ酸アミド)、脂肪酸アミドを20質量%含むマスターバッチ品である日油株式会社製「ノフアロイ (登録商標)KA832」、MFR(190℃、2.16kgf)20g/10min
・耐侯剤:NOR型ヒンダードアミン誘導体、BASFジャパン株式会社製「Tinuvin(登録商標)XT855FF」
・酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤、株式会社ADEKA製「アデカスタブ(登録商標)AO-60」
・酸化防止剤2:ホスファイト系酸化防止剤、株式会社ADEKA製「アデカスタブ 2112」
【0052】
実施例及び比較例の詳細を以下に示す。なお、以下の記載及び表1中の「脂肪酸アミド」の配合量は、マスターバッチ品の配合量ではなく、脂肪酸アミドの正味の配合量である。
<実施例1>
(メタ)アクリル系樹脂1を40質量部、(メタ)アクリル系樹脂2を40質量部、スチレン系エラストマーを20質量部、相溶化剤を5質量部、脂肪酸アミドを0.6質量部、耐侯剤を0.2質量部、酸化防止剤1を0.1質量部、酸化防止剤2を0.1質量部の配合比で混合し、二軸押出機を用いて、吐出量20kg/h、回転数200rpm、240℃で溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を250℃で射出成形し、成形体を得た。
【0053】
<実施例2>
実施例1において、脂肪酸アミドを1.0質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0054】
<実施例3>
実施例1において、脂肪酸アミドを2.0質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0055】
<実施例4>
実施例1において、(メタ)アクリル系樹脂1を45質量部、(メタ)アクリル系樹脂2を45質量部、スチレン系エラストマーを10質量部、相溶化剤を2.5質量部、脂肪酸アミドを1.0質量部の配合比に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0056】
<実施例5>
実施例1において、(メタ)アクリル系樹脂1を35質量部、(メタ)アクリル系樹脂2を35質量部、スチレン系エラストマーを30質量部、相溶化剤を7.5質量部、脂肪酸アミドを1.0質量部の配合比に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0057】
<実施例6>
実施例1において、脂肪酸アミドを1.0質量部に変更し、マレイミド系共重合体を2質量部追加した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0058】
<実施例7>
実施例1において、脂肪酸アミドを1.0質量部に変更し、マレイミド系共重合体を5質量部追加した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0059】
<比較例1>
実施例1において、相溶化剤及び脂肪酸アミドを無添加とした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
【0060】
<比較例2>
実施例1において、(メタ)アクリル系樹脂1を50質量部、(メタ)アクリル系樹脂2を50質量部に変更し、スチレン系エラストマー、相溶化剤及び脂肪酸アミドを無添加とした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び成形体を得た。
実施例1~7、比較例1、2により得られた成形体(試験片)に対し、上記「成形体の物性」の各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1において、「耐擦傷性 荷重5N、10N、15N」の「B」は、上記耐擦傷性の引掻き試験において、白化がみられなかったことを意味する。「C」は、白化がみられたことを意味する。
「耐摩耗性」の「B」は、上記耐摩耗性の摩耗試験において、著しい傷が無かったことを意味する。「C」は、著しい傷が有ったことを意味する。
「総合評価」の「B」は、総合的な評価で「適」レベルに相当することを意味する。「A」は、総合的な評価で「適」レベルを上回る「好適」レベルに相当することを意味する。「C」は、総合的な評価で「不適」レベルに相当することを意味する。
実施例1~7においては、耐衝撃性の指標となる「シャルピー衝撃強さ」がいずれも1.5kJ/mを上回っていた。また、「耐摩耗性」及び「耐擦傷性」がいずれも「B」評価であった。さらに、実施例1~7は、成形体表面へのブリードアウトが抑えられていた。
【0063】
したがって、本開示によれば、ブリードの発生を抑制することができ、耐衝撃性及び耐摩耗性に優れた樹脂組成物及び成形体を提供することができる。
【0064】
上記実施形態はすべての点で例示であって、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、スチレン系エラストマーは、スチレンを単量体単位として含み、耐衝撃性等の物性の改善に寄与することができれば、上記例示に限定されない。