(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062415
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】光学用具の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20230426BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
G02B5/18
C03C15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172376
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】300075751
【氏名又は名称】株式会社オプトラン
(74)【代理人】
【識別番号】100115613
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寧司
(72)【発明者】
【氏名】味上 俊一
【テーマコード(参考)】
2H249
4G059
【Fターム(参考)】
2H249AA13
2H249AA37
2H249AA45
2H249AA60
4G059AA01
4G059AC01
4G059AC09
4G059BB01
(57)【要約】
【課題】光学用具への斜め溝加工の寸法変換差を小さくし、寸法精度の高い光学用具を製造すること。
【解決手段】傾斜凸部を有する光学用具の製造方法について、基材表面から斜めに立ち上がる傾斜面を有するマスク16に対し、エッチングソースを前記傾斜面の傾斜角度で前記基材11に当ててエッチングし、前記基材11の内部から前記表面に向けて前記傾斜角度に沿った傾斜凸部20を形成する光学用具10の製造方法とした。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜凸部を有する光学用具の製造方法であって、
基材表面から斜めに立ち上がる傾斜面を有するマスクに対し、エッチングソースを前記傾斜面の傾斜角度で前記基材に当ててエッチングし、前記基材の内部から前記表面に向けて前記傾斜角度に沿った傾斜凸部を形成する光学用具の製造方法。
【請求項2】
前記マスクは、前記基材側を底面に有する略円錐台形状である請求項1記載の光学用具の製造方法。
【請求項3】
前記マスクを、前記基材にパターニングした芯材を覆う被覆材に異方性エッチングを施して形成する工程を含む請求項1又は請求項2記載の光学用具の製造方法。
【請求項4】
前記傾斜角度は、前記被覆材の成膜量と、前記芯材の高さとで調整する請求項3記載の光学用具の製造方法。
【請求項5】
前記基材はガラス基材である請求項1~請求項4何れか1項記載の光学用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングによる斜め溝加工の寸法変換差を最小化するパターニング方法によって光学用具を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学素子や光学フィルターは、入射光とは異なる方向に光を照射させたり、所定の波長幅にある入射光だけを透過させたりする性質を有し、カメラの焦点合わせや、Virtual Reality(VR)用のヘッドセット、カラーフィルター等に利用される。一部の回折光学素子や光学フィルターの表面は凹凸に形成され、凹部と凸部の材料の屈折率の違いによって光を回折する。例えば特開2012-098548号公報(特許文献1)には、屈折率が異なる材料を用いた回折光学素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした回折光学素子や光学フィルター等の光学用具について、広い波長範囲に光を反射させたり、透過光を制限したりするなど、その用途に応じて様々な要請に添う光学用具が求められるようになり、その表面形状、特に凹凸の大きさや形状等についても厳しく制御された回折光学素子が求められている。そこで本発明は、こうした要請に応えるために開発されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、傾斜凸部を有する光学用具の製造方法であって、基材表面から斜めに立ち上がる傾斜面を有するマスクに対し、エッチングソースを前記傾斜面の傾斜角度で前記基材に当ててエッチングし、前記基材の内部から前記表面に向けて前記傾斜角度に沿った傾斜凸部を形成する光学用具の製造方法を提供する。
【0006】
傾斜凸部を有する光学用具の製造方法について、基材表面から斜めに立ち上がる傾斜面を有するマスクに対し、エッチングソースを前記傾斜面の傾斜角度で前記基材に当ててエッチングすることとしたため、マスクが影となり実際に生じる溝寸法が所望の溝寸法との間で差が生じる寸法変換差を少なくすることができる。よって寸法制御の精度が高まり、歩留まり低下を防ぐことができる。
そして、前記基材の内部から前記表面に向けて前記傾斜角度に沿った傾斜凸部を形成する光学用具を得ることができるため、基材表面に傾斜面を有する凹凸の存在が要求されるVR用途などに得られた光学用具を用いることができる。
【0007】
また、本開示の一態様によれば、前記マスクは、前記基材側を底面に有する略円錐台形状である光学用具の製造方法とすることができる。
前記マスクの形状を前記基材側を底面に有する略円錐台形状としたため、エッチングソースの照射角度をマスクの傾斜角度に合わせることでができ、所望の溝を刻むことができる。
【0008】
また、本開示の一態様によれば、前記マスクを、前記基材にパターニングした芯材を覆う被覆材に異方性エッチングを施して形成する工程を含む光学用具の製造方法である。
前記マスクを、前記基材にパターニングした芯材を覆う被覆材に異方性エッチングを施して形成する工程を含むこととしたため、基材に対して傾斜面を有するマスクを形成することができる。
【0009】
本開示の一態様では、前記傾斜角度は、前記被覆材の成膜量と、前記芯材の高さとで調整する光学用具の製造方法とすることができる。
前記傾斜角度を前記被覆材の成膜量と前記芯材の高さとで調整することとしたため、傾斜角度の制御が可能で、所望の傾斜角を有する傾斜溝、又は傾斜凸部を有する光学用具を得ることができる。
【0010】
そして本開示の一態様によれば、前記基材はガラス基材である光学用具の製造方法とすることができる。
前記基材はガラス基材であるため、ガラスの透明性を生かした光学用具の製造方法として好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学用具への斜め溝加工の寸法変換差を小さくし、寸法精度の高い光学用具を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の光学用具の製造方法の製造過程のうち、レジストを形成した状態を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の光学用具の製造方法の製造過程のうち、被覆材で被覆した状態を示す模式断面図である。
【
図3】本発明の光学用具の製造方法の製造過程のうち、所望形状のマスクを形成した状態を示す模式断面図である。
【
図4】マスクの幅と高さの関係を、底角が60度の例で説明する説明図であり、分
図4(A)はその模式断面図、分
図4(B)はその模式平面図である。
【
図5】マスクの幅と高さの関係を、底角が30度の例で説明する説明図であり、
図4における分
図4(A)相当の模式断面図である。
【
図6】マスクとマスク間の間隔について説明する一の説明図である。
【
図7】マスクとマスク間の間隔をについて説明する別の説明図である。
【
図8】本発明の光学用具の製造方法の製造過程のうち、マスクの傾斜に沿ってエッチングソースを照射する状態を示す模式断面図である。
【
図9】本発明の光学用具の製造方法の製造過程のうち、得られた光学用具の形状を説明する模式断面図である。
【
図11】本発明の別の光学用具であり、分
図11(A)はその模式平面図であり、分
図11(B)はその模式断面図である。
【
図12】本発明の光学用具の別の製造方法で用いるマスクの
図4相当図である。
【
図13】従来のマスクを用いた方法では寸法変換差が大きいことを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、表面に凹凸を備える回折光学素子、光学フィルター等の光学用具について、最表面から凹んだ部分の形状を、その最表面から斜めに深掘りされた傾斜溝として得るための技術に関するものである。以下詳しく説明する。
【0014】
一般に、傾斜溝を形成するためには、プラズマ、イオンビーム、又はGCIB等のエッチング加工のソースを、被エッチング物である基板に対して角度を付けて斜めに入射させて加工する。しかしながら、実際に加工される溝の幅寸法が所望する溝と異なる寸法変換差という潜在的な問題がある。即ち、
図13の模式断面図で示すように、マスク材1に対してエッチングソース2を斜めから当てると、パターニングのマスク材1が影となり、所望の溝と実際に加工される溝との間で幅寸法に差が生じることから、寸法制御性の悪化による歩留まり低下の影響が課題とされてきた。本発明は寸法変換差の少ない傾斜溝の作製方法を提供する。
【0015】
<第1実施形態>:
本実施形態の光学用具及びその製造方法について説明する。
図1~
図3、
図8、及び
図9には、この光学用具10の製造工程を説明する模式断面図である。
まず、ガラス基板等の基材11の上に
図1で示すように、フォトリソグラフィ、RIE等の手法によりレジスト12をパターニングする(ステップ1)。レジスト12には、合成樹脂等の有機系の材料を用いることが好ましい。パターニングが容易で被覆材14との密着性に優れるからである。レジスト12の高さについては後述する。
【0016】
次にマスク材を成膜する。
図2で示すように、レジスト12を芯材13として、無電解めっきや蒸着等の手法でNi膜等を芯材13の上面及び側面を覆って、被覆材14を形成する(ステップ2)。この被覆材14は、Ni膜とすると、ガラス基板11との選択比及びレジスト12との選択比が大きく好ましい。しかしNi以外であっても、ガラス基板11やレジスト12との関係で選択比が大きい素材を適用できる。
【0017】
そして、
図3で示すような所望の形状にマスク表皮材15を成形する(ステップ3)。マスク表皮材15の形成は、被覆材14に対してRIE等により、基材11の表面に対して垂直方向の異方性エッチングを行う。この異方性エッチングにより、被覆材14が傾斜面を有するように削られて生じたマスク表皮材15と、芯材13とで所望の形状のマスク16を得ることができる。
【0018】
図4には、断面が略台形形状となるマスク16の傾斜角度(底角)を60度に設計した場合を示し、
図5には、マスク16の傾斜角度(底角)を30度に設計した場合をそれぞれ示す。傾斜角度が60度となるマスク16の場合は、マスク16の底面における芯材13からの横幅の長さLを“1”とした場合に、理想のマスク16の高さは“√3”である。そこで、上記ステップ1において、芯材13となるレジスト12の高さは“√3”となるように形成する。また、上記ステップ2において、マスク16におけるマスク表皮材15の幅が“1”となるようにNi膜を成膜する。そしてステップ3において、基材11が表れるまで被覆材14をエッチングすることで、芯材13の上面に付着した被覆材14は剥がされ、芯材13の側面に付着した被覆材14も角が取れた形状となる。この場合、芯材13の上面及びマスク表皮材15の上面はオーバーエッチングのため、高さは“√3”よりは若干後退する。こうして、芯材13の側面をマスク表皮材15が覆い、傾斜角度が60度で断面が台形状となる略円錐台形状のマスク16が得られる。
【0019】
同様にして、
図5で示す、傾斜角度が30度となるマスク16も形成できる。この場合は、マスク16の底面における芯材13からの横幅の長さLを“1”とした場合に、理想的なマスク16の高さは“1/√3”になる。そこで、上記ステップ1において、芯材13となるレジスト12の高さは“1/√3”に形成する。また、上記ステップ2において、マスク表皮材15の幅が“1”となるようにNi膜からなる被覆材14を成膜する。そしてステップ3において、基材11が表れるまで被覆材14をエッチングすることで、
図5で示すような傾斜角度が30度で断面が台形状となる略円錐台形状のマスク16が得られる。
【0020】
以上から、マスクパターン17を構成する複数のマスク16とその間隔18は以下のように設計する。即ち
図6で示すように、マスク16における“B”の長さは、芯材13の幅で調整し、“A”及び“C”の長さは、マスク表皮材15となる被覆材14の成膜量で調整する。そして、マスク16どうしの間隔18である“D”の長さは、芯材13のピッチで調整する。こうした調整を行って上記ステップ1~3を実行することにより所望のマスクパターン17が得られる。よって、例えば
図7で示すような1つのマスク16の幅が“1”、間隔18が“1”であるマスクパターン17を形成しようとする場合は、
図6におけるA+B+C=Dとなるように各部の寸法を調整すれば良い。
【0021】
次に、こうして得たマスクパターン17を利用して基材11をエッチングする。即ち、エッチングソース(エッチャント)をマスク16の傾斜面の傾斜角度で基材11表面に対して斜めに照射する(ステップ4)と、
図8で示すように、所望の角度、開口幅に形成された傾斜溝19を得ることができる。ここで、溝の深さや溝の幅などの大きさはエッチングにおける処理時間や、エッチングソースの種類等を適宜選択することで調整することができるが、好適な一態様としては、溝の幅は50~500nm、溝深さは50~500nmとすることができる。
【0022】
最後に、ウエットエッチング又はドライエッチングでマスク16の除去をする(ステップ5)ことで、
図9で示すように、斜めに傾斜した凹部を有する光学用具10が得られる。なお、
図10は
図9の光学用具10の模式平面図であり、この図で示すように、光学用具10は、エッチングされた基材11の表面11aに対して斜円柱状の傾斜凸部20(特に
図10の部分拡大模式
図R参照)が複数個突出した形状として得られる。換言すれば、基材11の最表面11bから斜めに凹んだ傾斜溝19を有する光学用具10である。
【0023】
図10で示す傾斜凸部20の配置は一例であり、レジスト12を調整して芯材13を形成することで、傾斜凸部20がランダムに配置した、あるいはまたそれ以外の配置とした光学用具10を形成することができる。
あるいはまた、マスク16が略円錐台形状に形成する例を示したが、例えば
図3の奥行き方向でも
図3と同じ断面が生じるような角材状にマスクを形成することができる。こうしたマスクを形成すれば、
図11で示すような光学用具10aが得られる。この光学用具10aでは、傾斜凸部20は基材の平面方向に平行に伸長する柱状に形成され、傾斜凸部20に挟まれた凹部もまた柱状に形成される。
【0024】
<第2実施形態>:
本実施形態の光学用具及びその製造方法では、マスク16の形成に際してエッチングではなく、熱溶融により形成する。
前記実施形態では、被覆材14を無電解めっき又は蒸着等による金属被膜(Ni被膜)により形成していたが、これに代えて塗布やスプレーにより熱可塑性樹脂皮膜を形成する。これを樹脂のガラス転移点(Tg)よりも高い温風をマスク16の頂部側から吹き付けることでマスクの頂部を溶融させ所望の傾斜面を有するマスクを製造する。
こうした方法によっても、傾斜凸部20を有する光学用具10を得ることができる。
【0025】
<第3実施形態>:
本実施形態の光学用具及びその製造方法では、作成するマスク16の形状及び形成方法がこれまでの例とは異なる。
前記実施形態では、マスク16の頂部形状は四方から面取りされたテーパー状としていたが、本実施形態でのマスクは、被覆材14の被覆後に、芯材12の斜め上方向等の一方向かAr等のスパッタエッチングによりエッチングを行う。こうすることにより、マスク16の上部が斜め平面で切断されたような形状が得られる。なお、被覆材14には有機系の材料を用いると削られ易く好ましい。
【0026】
本実施形態の方法では、これまでの実施形態でマスク16を形成するために基材11の表面に垂直な異方性エッチングを行ったのに対して、基材11の表面に対して斜め方向からの異方性エッチングを行うため、
図12で示したような形状のマスク16aとなる。
【0027】
上記実施形態は本発明の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、実施形態の変更又は公知技術の付加や、組合せ等を行い得るものであり、それらの技術もまた本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0028】
10,10a 光学用具
11 基材(ガラス基板等)
11a 基材のエッチングされた表面
11b 基材の最表面
12 レジスト
13 芯材
14 被覆材
15 マスク表皮材
16,16a マスク
17 マスクパターン
18 間隔
19 傾斜溝
20 傾斜凸部
R 部分拡大模式図