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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062425
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】構造物の床版取替方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20230426BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172398
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川森 泰一郎
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG39
(57)【要約】
【課題】構造物の床版取替方法において、車両等の交通への影響をより低減で、かつ、橋梁などの構造物全体の強度保持と、橋桁などの構造部材の応力やたわみの変化抑制のための構造部材の補強や支保工設置を不要にできることである。
【解決手段】構造物の床版取替方法は、構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさの既設床版片を撤去する既設床版片撤去工程(S10)と、既設床版片を撤去した後の撤去部にコンクリートを充填して、新設床版片を設置する新設床版片設置工程(S12)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の床版取替方法であって、
前記構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさの既設床版片を撤去する既設床版片撤去工程と、
前記既設床版片を撤去した後の撤去部にコンクリートを充填して、新設床版片を設置する新設床版片設置工程と、
を備える、構造物の床版取替方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさは、前記既設床版の撤去に伴う前記構造物全体の強度や、前記構造物の構造部材の応力およびたわみが有意に変化しない大きさである、構造物の床版取替方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、前記既設床版片のみを撤去する、構造物の床版取替方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、前記新設床版片に、撤去した前記既設床版片に作用していた圧縮応力を導入する、構造物の床版取替方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、前記新設床版片を側面逆台形に形成して前記撤去部に楔止めする、構造物の床版取替方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
隣接する前記新設床版片同士が重なっている、構造物の床版取替方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記構造物の主桁上に位置する既設床版片は取り替えない、構造物の床版取替方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程と、前記新設床版片設置工程とを繰り返して、前記既設床版を取り替える、構造物の床版取替方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、所定間隔を設けて前記既設床版片を撤去する、構造物の床版取替方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、所定間隔を設けて前記新設床版片を設置する、構造物の床版取替方法。
【請求項11】
請求項9に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、複数の前記既設床版片を並行して撤去する、構造物の床版取替方法。
【請求項12】
請求項10に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、複数の前記新設床版片を並行して設置する、構造物の床版取替方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程と、前記新設床版片設置工程とを並行して行う、構造物の床版取替方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、隣接する前記新設床版片の一部と重なるようにして前記既設床版片を撤去し、
前記新設床版片設置工程は、隣接する前記新設床版片の一部と重なるようにして前記新設床版片を設置する、構造物の床版取替方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記構造物は、橋梁である、構造物の床版取替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物の床版取替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般道や高速道路等の橋梁などの構造物において、床版が老朽化した場合には、既設床版を撤去して新たな床版を架設する床版取替施工が行われている。このような構造物の床版取替方法としては、一般的に全断面一括施工や断面分割施工による床版取替方法が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-1536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで全断面一括施工や断面分割施工による橋梁などの構造物の床版取替方法では、床版取替施工中に車両等の通行止めや、長期間の車線規制を行う必要があるので、車両等の交通への影響が大きくなる。
【0005】
また、従来の床版取替方法では、既設床版の撤去によって橋梁などの構造物全体の強度が変化したり、橋桁などの構造部材の応力やたわみの状態が変化したりするので、それらの変化を許容値内に収めるために構造部材の補強や支保工の設置が必要になっていた。
【0006】
そこで本開示の目的は、車両等の交通への影響をより低減可能で、かつ、橋梁などの構造物全体の強度保持と、橋桁などの構造部材の応力やたわみの変化抑制のための構造部材の補強や支保工設置を不要にできる構造物の床版取替方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る構造物の床版取替方法は、前記構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさの既設床版片を撤去する既設床版片撤去工程と、前記既設床版片を撤去した後の撤去部にコンクリートを充填して、新設床版片を設置する新設床版片設置工程と、を備える。
【0008】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさは、前記既設床版の撤去に伴う構造物全体の強度や、前記構造物の構造部材の応力およびたわみが有意に変化しない大きさとしてもよい。
【0009】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記既設床版片撤去工程は、前記既設床版片のみを撤去してもよい。
【0010】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記新設床版片設置工程は、前記新設床版片に、撤去した前記既設床版片に作用していた圧縮応力を導入してもよい。
【0011】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記新設床版片設置工程は、前記新設床版片を側面逆台形に形成して前記撤去部に楔止めしてもよい。
【0012】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、隣接する前記新設床版片同士が重なっていてもよい。
【0013】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記構造物の主桁上に位置する既設床版片は取り替えなくてもよい。
【0014】
本開示に係る構造物の床版取替方法は、前記既設床版片撤去工程と、前記新設床版片設置工程とを繰り返して、前記既設床版を取り替えてもよい。
【0015】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記既設床版片撤去工程は、所定間隔を設けて前記既設床版片を撤去してもよい。
【0016】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記新設床版片設置工程は、所定間隔を設けて前記新設床版片を設置してもよい。
【0017】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記既設床版片撤去工程は、複数の前記既設床版片を並行して撤去してもよい。
【0018】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記新設床版片設置工程は、複数の前記新設床版片を並行して設置してもよい。
【0019】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記既設床版片撤去工程と、前記新設床版片設置工程とを並行して行ってもよい。
【0020】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記既設床版片撤去工程は、隣接する前記新設床版片の一部と重なるようにして前記既設床版片を撤去し、前記新設床版片設置工程は、隣接する前記新設床版片の一部と重なるようにして前記新設床版片を設置してもよい。
【0021】
本開示に係る構造物の床版取替方法において、前記構造物は、橋梁としてもよい。
【発明の効果】
【0022】
上記構成の構造物の床版取替方法によれば、車両等の交通への影響をより低減することができ、かつ、橋梁などの構造物全体の強度保持と、橋桁などの構造部材の応力やたわみの変化抑制のための構造部材の補強や支保工設置を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の実施形態において、構造物の床版取替方法の構成を示すフローチャートである。
図2】本開示の実施形態において、既設床版片撤去工程を説明するための図である。
図3】本開示の実施形態において、新設床版片設置工程を説明するための図である。
図4】本開示の実施形態において、新設床版片を側面逆台形に形成した構成を示す図である。
図5A】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。
図5B】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。
図5C】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。
図5D】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。
図5E】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。
図5F】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。
図6】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域が新設床版片に取替えられた状態を示す図である。
図7A】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。
図7B】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。
図7C】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。
図7D】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。
図7E】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。
図7F】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。
図8】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域が新設床版片に取替えられた状態を示す図である。
図9A】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える別な床版取替方法を説明するための図である。
図9B】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える別な床版取替方法を説明するための図である。
図9C】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える別な床版取替方法を説明するための図である。
図9D】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える別な床版取替方法を説明するための図である。
図9E】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える別な床版取替方法を説明するための図である。
図9F】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域を取り替える別な床版取替方法を説明するための図である。
図10】本開示の実施形態において、既設床版の所定領域が新設床版片に取替えられた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、構造物の床版取替方法の構成を示すフローチャートである。構造物の床版取替方法は、既設床版片撤去工程(S10)と、新設床版片設置工程(S12)と、を備えている。
【0025】
まず構造物について説明する。構造物は、床版を用いている構造物であればよく、特に、限定されない。構造物は、例えば、一般道や高速道路の橋梁や立体駐車場等である。以下では、構造物を橋梁として説明するが、構造物は、橋梁に限定されない。
【0026】
既設床版片撤去工程(S10)は、構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさの既設床版片を撤去する工程である。図2は、既設床版片撤去工程(S10)を説明するための図であり、図2(a)は、既設床版片10の撤去前を示す図であり、図2(b)は、既設床版片10の撤去後を示す図である。
【0027】
構造物である橋梁Aの形式は、既設床版Bと主桁Cとが一体となって荷重伝達する合成桁であってもよく、主桁Cのみで荷重伝達する非合成桁であってもよい。既設床版Bは、自動車等の車両や人等の物体の荷重を受ける床部材である。既設床版Bは、物体の荷重を受けたときに物体の走行性に支障を与えるような変形を抑制して、物体の荷重を主桁Cに伝達する機能を有している。既設床版Bは、コンクリートにより形成されている。既設床版Bは、例えば、鉄筋コンクリートを用いたRC床版等で形成されている。
【0028】
既設床版片10は、既設床版Bの断面欠損を無視できる大きさで構成されている。既設床版片10は、既設床版Bの断面欠損を無視できる微小な大きさなので、床版取替施工のための桁補強が不要になる。既設床版片10は、既設床版Bの断面欠損を無視できる微小な大きさなので、橋梁A全体への応力の影響が無視できるレベルに収めることができる。これにより合成桁、非合成桁を問わず、床版取替を行うことができる。また、合成桁に適用する場合でも、主桁Cへのプレストレス導入やベント設置を不要にすることができる。
【0029】
既設床版Bの断面欠損を無視できる大きさとは、既設床版Bの撤去に伴う構造物全体である橋梁全体の強度や、構造物の構造部材である橋桁の応力およびたわみが有意に変化しない大きさのことである。すなわち既設床版Bの断面欠損を無視できる大きさとは、既設床版片10を撤去したときに、残存した既設床版Bの許容応力を超えない大きさのことである。既設床版Bから既設床版片10を撤去した後には、孔状の撤去部12が形成される。撤去部12は、例えば、円筒状や角筒状等の撤去孔で形成することができる。撤去部12の周りには応力集中が生じるが、既設床版片10を既設床版Bの断面欠損を無視できる大きさとすることにより、撤去部12の周りに生じる応力集中を許容応力を超えないようにすることができる。既設床版片10のサイズは、例えば、一般的な構造設計や有限要素法等で設定することが可能である。
【0030】
既設床版片10の形状は、特に限定されず、例えば、円柱体であってもよく、四角柱体等の角柱体であってもよい。既設床版片10が円柱体である場合には、撤去部12の周りに生じる応力集中を更に抑制することができる。既設床版片10が角柱体である場合には、床版取替の施工性を向上させることができる。既設床版片10は、例えば、直径が10cmの円柱体や、縦10cm×横10cmの四角柱体で構成することが可能である。
【0031】
既設床版片10の撤去は、一般的なコンクリートの撤去作業方法を用いることができる。既設床版片10の撤去は、例えば、コア抜き、ウォータージェットによる斫り、カッター、ワイヤーソーによる切断、コンクリートブレーカ、ハンマ等で行うことが可能である。
【0032】
既設床版片10の撤去は、既設床版片10のみを撤去してもよいし、既設床版片10と鉄筋(図示せず)とを合わせて撤去してもよい。鉄筋が健全である場合には、既設床版片10のみを撤去することにより、鉄筋を再利用することができる。既設床版片10のみを撤去する場合には、例えば、ウォータージェットによりコンクリートのみを斫ればよい。
【0033】
鉄筋が腐食等している場合には、既設床版片10と鉄筋とを合わせて撤去するとよい。既設床版片10は、既設床版Bの断面欠損を無視できる微小な大きさなので、既設床版片10と合わせて鉄筋を撤去した場合でも、撤去後の既設床版Bで車両等の物体の荷重を受けることができる。既設床版片10と鉄筋とを合わせて撤去した場合には、鉄筋の断面欠損が補修される。鉄筋の断面欠損の補修は、溶接等により行うことが可能である。鉄筋の断面欠損の補修は、エンクローズ溶接等の鉄筋継手や、肉盛溶接による補強で行うことができる。また鉄筋の断面欠損の補修は、炭素繊維の巻回による補強等で行うことが可能である。
【0034】
新設床版片設置工程(S12)は、既設床版片10を撤去した後の撤去部12にコンクリートを充填して、新設床版片14を設置する工程である。図3は、新設床版片設置工程(S12)を説明するための図である。
【0035】
既設床版片10を撤去した後の撤去部12に、コンクリートを充填して新設床版片14を設置する。コンクリートには、床版で用いられている一般的なコンクリートを用いることが可能である。コンクリートには、例えば、早強コンクリート、ジェットコンクリート、速硬コンクリート、3Dプリンタで充填可能なコンクリート相当品を用いることができる。コンクリートの充填方法は、一般的なコンクリートの打設方法を用いることが可能である。
【0036】
新設床版片14には、撤去した既設床版片10に作用していた圧縮応力を導入してもよい。新設床版片14への圧縮応力の導入方法は、ケミカルプレストレス等により行うことが可能である。ケミカルプレストレスにより行う場合には、コンクリートに膨張材を添加すればよい。これにより新設床版片14に圧縮応力を導入させることができる。膨張材には、膨張コンクリート等に用いられる一般的な膨張材を適用可能である。
【0037】
新設床版片14と既設床版Bとの接合は、撤去部12のコンクリート目荒らしで行うことができる。より詳細には、撤去部12の内周面のコンクリート表面に凹凸を設けて粗く仕上げることにより、新設床版片14と既設床版Bとの接合強度を高めることができる。
【0038】
新設床版片14と既設床版Bとの接合は、撤去部12の内周面にコンクリート接着剤を塗布して行ってもよい。コンクリート接着剤には、コンクリートの接着に用いられる一般的な接着剤を使用可能である。また新設床版片14と既設床版Bとの接合は、コンクリート目荒らしと、コンクリート接着剤とを組み合わせてもよい。
【0039】
また、図4は、新設床版片16を側面逆台形にした構成を示す図である。新設床版片16と既設床版Bとの接合は、新設床版片16を側面逆台形に形成して設置することにより、新設床版片16を既設床版Bに楔止めしてもよい。これにより新設床版片16を既設床版Bから抜け難くすることができる。新設床版片16を側面逆台形に形成するためには、例えば、新設床版片16が側面逆台形に形成されるように撤去部12を円錐状や角錐状のテーパ状に形成すればよい。以上のようにして既設床版片10を新設床版片14、16に取替えることができる。
【0040】
次に、既設床版Bの所定領域を上記の床版取替方法で取り替える場合について説明する。図5Aから図5Fは、既設床版Bの所定領域を取り替える床版取替方法を説明するための図である。まず、図5Aに示すように、既設床版片20を撤去する。図5Bに示すように、既設床版片20を撤去した後の撤去部にコンクリートを充填して新設床版片22を設置する。そして新設床版片22の設置後、新設床版片22に隣接する既設床版片24を撤去する。既設床版片24の撤去は、隣接する新設床版片22の一部と重なるようにして行うとよい。これより隣接する新設床版片同士の一部が重なるようにして設置されるので、隙間なく床版取替をすることができる。図5Cに示すように、既設床版片24を撤去した後の撤去部に新設床版片26を設置する。そして新設床版片26の設置後、新設床版片26に隣接する既設床版片28を撤去する。既設床版片28の撤去は、隣接する新設床版片26の一部と重なるようにして行うとよい。
【0041】
図5Dから図5Fに示すように、同様にして既設床版片32、36の撤去と、新設床版片34、38の設置とが繰り返し行われる。新設床版片22,26、30、34、38は、各々隣接する新設床版片と一部が重なって設置されている。
【0042】
床版取替は、橋梁Aの橋軸方向に沿って行われるだけでなく、橋梁Aの橋軸直角方向に沿って行われてもよい。床版取替は、橋梁Aの橋軸方向と橋軸直角方向とに沿って並行して行われてもよい。図6は、既設床版Bの所定領域が新設床版片22,26、30、34、38に取替えられた状態を示す図であり、図6(a)は、新設床版片22,26、30、34、38が円柱状に形成されている場合であり、図6(b)は、新設床版片22,26、30、34、38が角柱状に形成されている場合である。このようにして既設床版Bの所定領域を新設床版片に取り替えることができる。
【0043】
次に、既設床版Bの所定領域を取り替える他の床版取替方法について説明する。図7Aから図7Fは、既設床版Bの所定領域を取り替える他の床版取替方法を説明するための図である。まず、図7Aに示すように、既設床版片40を撤去する。図7Bに示すように、既設床版片40を撤去した後の撤去部に新設床版片42を設置する。また、新設床版片42と所定間隔を設けて既設床版片44を撤去する。所定間隔は、既設床版片40、44の大きさより大きい間隔を設けるとよい。新設床版片42の設置と、既設床版片44の撤去とは、別々に行われてもよいが、並行して行われるとよい。新設床版片42の設置位置と、既設床版片44の撤去位置とが離間しているので、新設床版片42を形成するコンクリートの硬化を待つことなく、既設床版片44の撤去作業を行うことができる。このように新設床版片42の設置と、既設床版片44の撤去とを並行作業することにより、床版取替の施工期間を短縮することができる。
【0044】
図7Cに示すように、既設床版片44を撤去した後の撤去部に新設床版片46を設置する。新設床版片42に隣接すると共に、新設床版片46と所定間隔を設けて既設床版片48を撤去する。既設床版片48の撤去は、隣接する新設床版片42の一部と重なるようにして行う。これより新設床版片同士の一部が重なるようにして設置されるので、隙間なく床版取替が可能となる。また、新設床版片46の設置位置と、既設床版片48の撤去位置とが離間しているので、新設床版片46を形成するコンクリートの硬化を待つことなく、既設床版片48の撤去作業を行うことができる。
【0045】
同様にして図7Dに示すように、既設床版片48を撤去した後の撤去部に新設床版片50を設置する。新設床版片46に隣接すると共に、新設床版片50と所定間隔を設けて既設床版片52を撤去する。既設床版片52の撤去は、隣接する新設床版片46の一部と重なるようにして行う。
【0046】
同様にして図7Eに示すように、既設床版片52を撤去した後の撤去部に新設床版片54を設置する。新設床版片46、50に隣接すると共に、新設床版片54と所定間隔を設けて既設床版片56を撤去する。既設床版片56の撤去は、隣接する新設床版片46、50の一部と重なるようにして行う。そして図7Fに示すように、既設床版片56を撤去した後の撤去部に新設床版片58を設置する。新設床版片42、46、50、54,58は、各々隣接する新設床版片と一部が重なって設置されている。
【0047】
このように既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とが繰り返し行われて、既設床版Bの所定領域の床版取替が行われる。床版取替は、橋軸方向に沿って行われるだけでなく、橋軸直角方向に沿って行うことができる。また床版取替は、橋軸方向と橋軸直角方向とに沿って並行して行われてもよい。図8は、既設床版Bの所定領域が新設床版片に取替えられた状態を示す図であり、図8(a)は、新設床版片42、46、50、54,58が円柱状に形成されている場合であり、図8(b)は、新設床版片42、46、50、54,58が角柱状に形成されている場合である。このようにして既設床版Bの所定領域を新設床版片に取り替えることができる。
【0048】
次に、既設床版Bの所定領域を取り替える別の床版取替方法について説明する。図9Aから図9Fは、既設床版Bの所定領域を取り替える別の床版取替方法を説明するための図である。まず、図9Aに示すように、所定間隔を設けて既設床版片60、62を撤去する。既設床版片60、62の撤去は、並行作業とするとよい。複数の既設床版片60、62の撤去を並行作業とすることにより、床版取替の施工期間を短縮することができる。図9Bに示すように、既設床版片60、62を撤去した後の撤去部に新設床版片64、66を設置する。この新設床版片64、66の設置は、並行作業とするとよい。複数の新設床版片64、66の設置を並行作業とすることにより、床版取替の施工期間を短縮することができる。
【0049】
次に、図9Cに示すように、所定間隔を設けて既設床版片68、70を撤去する。既設床版片68、70の撤去は、各々隣接する新設床版片64、66の一部と重なるようにして行う。既設床版片68、70の撤去は、並行作業とするとよい。図9Dに示すように、既設床版片68、70を撤去した後の撤去部に新設床版片72,74を設置する。この新設床版片72,74の設置は、並行作業とするとよい。次に、図9Eに示すように、既設床版片76を隣接する両側の新設床版片66、72と一部が重なるようにして撤去する。図9Fに示すように、既設床版片76を撤去した後の撤去部に新設床版片78を設置する。新設床版片64、66、72,74,78は、各々隣接する新設床版片と一部が重なって設置されている。
【0050】
このように既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とが繰り返し行われて、既設床版の所定領域の床版取替が行われる。床版取替は、橋軸方向に沿って行われるだけでなく、橋軸直角方向に沿って行うことができる。また床版取替は、橋軸方向と橋軸直角方向とに沿って並行して行われてもよい。図10は、既設床版Bの所定領域が新設床版片64、66、72,74,78に取替えられた状態を示す図であり、図10(a)は、新設床版片64、66、72,74,78が円柱状に形成されている場合であり、図10(b)は、新設床版片64、66、72,74,78が角柱状に形成されている場合である。このようにして既設床版Bの所定領域を新設床版片に取り替えることができる。
【0051】
上記の床版取替方法では、既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを繰り返し行うことにより床版取替施工を行っているが、必ずしも繰り返し行う必要はない。例えば、既設床版Bの損傷領域が既設床版片の大きさより小さい範囲のような軽微な損傷領域の場合には、既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを1回行って補修することができる。
【0052】
上記の床版取替方法では、既設床版Bの所定領域について床版取替施工を行っているが、既設床版Bの一部領域に限定されることなく、既設床版Bの全領域について床版取替施工を行ってもよい。すなわち、既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを繰り返し行うことにより、既設床版Bの全領域について床版取替施工をすることが可能である。
【0053】
通常、主桁C上に位置する床版は、殆ど損傷しないので取り替える必要がないが、従来の床版取替方法では主桁C上に位置する床版だけを残して床版取替施工することが難しく、主桁C上に位置する床版まで取り替えていた。これに対して上記の床版取替方法では、既設床版Bの断面欠損を無視できる微小な大きさの既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを行って床版取替施工をするので、主桁C上に位置する床版を取り替えずに床版取替施工することができる。
【0054】
以上、上記構成の構造物の床版取替方法によれば、既設床版の断面欠損を無視できる微小な大きさの既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを行って床版取替施工をすることにより、施工ヤード幅を縮小できるので、車両等の交通への影響をより低減することができる。例えば、従来の全断面一括施工による床版取替方法の場合には、通行止めが必要になり、従来の断面分割施工(分割数は、例えば、2から5)による床版取替方法では、車線規制の規制期間が長期間に及ぶことから、従来の床版取替方法では、車両等の交通への影響が大きくなる。これに対して上記構成の構造物の床版取替方法によれば、例えば、路肩スペースを活用した車線シフトで床版取替施工が可能となるので、車両等の交通規制を軽減することができる。
【0055】
上記構成の構造物の床版取替方法によれば、既設床版の断面欠損を無視できる微小な大きさの既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを行って床版取替施工をすることにより、橋梁全体への応力の影響が無視できるレベルに収まるので、橋梁の強度保持と、橋桁の応力やたわみの変化抑制のための橋桁補強や支保工設置を不要にできる。上記構成の構造物の床版取替方法は、合成桁、非合成桁を問わず適用可能である。例えば、従来の全断面一括施工や断面分割施工による床版取替方法では、合成桁に適用する場合、主桁へのプレストレス導入やベント設置などが必要となる。また合成桁へ断面分割施工による床版取替方法を適用する場合には、設計解析が複雑となる。これに対して上記構成の構造物の床版取替方法を合成桁に適用する場合には、既設床版の断面欠損を無視できる微小な大きさの既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを行って床版取替施工をすることにより、主桁へのプレストレス導入やベント設置を不要にすることができる。
【0056】
上記構成の構造物の床版取替方法によれば、床版取替作業の作業負荷を軽減することができる。従来の床版取替方法では、床版仮支持や車線増設のための増設桁や桁補強が必要になる場合があり、床版取替作業の作業負荷が大きくなった。上記構成の構造物の床版取替方法によれば、既設床版の断面欠損を無視できる微小な大きさの既設床版片の撤去と、新設床版片の設置とを行って床版取替施工をすることにより、増設桁や桁補強が不要になるので、床版取替作業の作業負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 既設床版片
12 撤去部
14 新設床版片
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-02-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の床版取替方法であって、
前記構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさの既設床版片を前記既設床版の厚み方向に貫通して撤去する既設床版片撤去工程と、
前記既設床版片を撤去した後の撤去部にコンクリートを充填して、新設床版片を設置する新設床版片設置工程と、
を備え、
前記構造物における既設床版の断面欠損を無視できる大きさは、前記既設床版の撤去に伴う前記構造物全体の強度や、前記構造物の構造部材の応力およびたわみが有意に変化しない大きさである
構造物の床版取替方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、前記既設床版片のみを撤去する、構造物の床版取替方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、前記新設床版片に、撤去した前記既設床版片に作用していた圧縮応力を導入する、構造物の床版取替方法。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、前記新設床版片を側面逆台形に形成して前記撤去部に楔止めする、構造物の床版取替方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
隣接する前記新設床版片同士が重なっている、構造物の床版取替方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記構造物の主桁上に位置する既設床版片は取り替えない、構造物の床版取替方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程と、前記新設床版片設置工程とを繰り返して、前記既設床版を取り替える、構造物の床版取替方法。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、所定間隔を設けて前記既設床版片を撤去する、構造物の床版取替方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、所定間隔を設けて前記新設床版片を設置する、構造物の床版取替方法。
【請求項10】
請求項に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、複数の前記既設床版片を並行して撤去する、構造物の床版取替方法。
【請求項11】
請求項に記載の構造物の床版取替方法であって、
前記新設床版片設置工程は、複数の前記新設床版片を並行して設置する、構造物の床版取替方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程と、前記新設床版片設置工程とを並行して行う、構造物の床版取替方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記既設床版片撤去工程は、隣接する前記新設床版片の一部と重なるようにして前記既設床版片を撤去し、
前記新設床版片設置工程は、隣接する前記新設床版片の一部と重なるようにして前記新設床版片を設置する、構造物の床版取替方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1つに記載の構造物の床版取替方法であって、
前記構造物は、橋梁である、構造物の床版取替方法。