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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062445
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】電波吸収体およびアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 17/00 20060101AFI20230426BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20230426BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
H01Q17/00
H01Q13/08
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172433
(22)【出願日】2021-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】小畑 輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 文緒
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄太
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J020EA04
5J020EA07
5J020EA09
5J021AA09
5J021AB06
5J021BA01
5J021HA04
5J021HA08
5J021HA09
5J045AA05
5J045AA27
5J045AB05
5J045DA10
5J045NA07
(57)【要約】
【課題】入射した電波が反射波になることを簡素な構成で抑制する電波吸収体およびアンテナを提供する。
【解決手段】複数の金属パッチ11を所定の配列間隔を設けて備える導体層10と、導体層10の下側に積層される誘電体層12と、複数のスロット15を備え、誘電体層12の下側に積層されるスロット層13とを有し、誘電体層12を介して重なる金属パッチ11およびスロット15が、同様な整合周波数を有するように形成されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパッチ導体を所定の配列間隔を設けて備える導体層と、
前記導体層の下側に積層される誘電体層と、
複数のスロットを備え、前記誘電体層の下側に積層されるスロット層と、
を有し、
前記誘電体層を介して重なる前記パッチ導体および前記スロットが、同様な整合周波数を有するように形成されている、
ことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記パッチ導体は、円形状に形成され、
前記スロットは、矩形状またはリング形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記パッチ導体は、矩形状に形成され、
前記スロットは、矩形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記複数のパッチ導体は、円形状に形成された第1パッチ導体および矩形状に形成された第2パッチ導体からなり、
前記複数のスロットのうち、前記第1パッチ導体と重なる第1スロットは、矩形状またはリング形状に形成され、
前記複数のスロットのうち、前記第2パッチ導体と重なる第2スロットは、矩形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項5】
単一の前記スロット層に前記導体層と前記誘電体層とを複数積層させた、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電波吸収体。
【請求項6】
複数のパッチ導体を所定の配列間隔を設けて備える導体層と、
前記導体層の下側に積層される第1誘電体層と、
複数のスロットを備え、前記第1誘電体層の下側に積層されるスロット層と、
前記スロット層の下側に配置される導波路と、
を有し、
前記第1誘電体層を介して重なる前記パッチ導体および前記スロットが、同様な整合周波数を有するように形成されている、
ことを特徴とするアンテナ。
【請求項7】
前記パッチ導体は、円形状に形成され、
前記スロットは、矩形状またはリング形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記パッチ導体は、矩形状に形成され、
前記スロットは、矩形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記複数のパッチ導体は、円形状に形成された第1パッチ導体および矩形状に形成された第2パッチ導体からなり、
前記複数のスロットのうち、前記第1パッチ導体と重なる第1スロットは、矩形状またはリング形状に形成され、
前記複数のスロットのうち、前記第2パッチ導体と重なる第2スロットは、矩形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のアンテナ。
【請求項10】
単一の前記スロット層に前記導体層と前記第1誘電体層とを複数積層させた、
ことを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項11】
前記スロット層と前記導波路との間に前記第1誘電体層よりも低い比誘電率を有する第2誘電体層を備え、
前記導波路は、
マイクロストリップ線路またはポスト壁導波路である、
ことを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項12】
前記導波路は、導波管である、
ことを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか1項に記載のアンテナ。
【請求項13】
単一の前記スロット層に前記導体層と前記第1誘電体層とを複数積層させた、
ことを特徴とする請求項6から請求項12のいずれか1項に記載のアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導体層、誘電体層およびスロット層を積層して構成された電波吸収体、および、この電波吸収体に導波路を備えて構成されたアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を用いて無線電力伝送(Wireless Power Transmission:WPT)を行う場合、人体や他の無線システムに影響を与えないことが求められる。
人体等の障害物を避けてWPTを行う技術として、マイクロ波をビーム放射するものがある。この技術は、受電系から発信されたパイロット信号を用いてビームの到来方向を推定し、人体等の障害物のない経路を設定して電力を伝送させる。
マイクロ波を受けた側で再放射を抑制する技術として、レーダー反射断面積(Radar Cross Section:RCS)を低減させる技術がある。
【0003】
例えば、上記のRCSを低減させるために、平面アンテナと反射構造(EBG構造)を有するアンテナ装置がある(特許文献1)。この装置は、上記の反射構造に備えたパッチ反射面が、平面アンテナのボアサイト方向(最大利得方向)へ向くように配置されており、平面アンテナの反射波と反射構造の反射波が互いに相殺し、RCSを低減させている。
また、アレーアンテナのアンテナ開口面と、アンテナ開口面の周囲に位置するフレーム部との間に、所定の波長に基づく段差を設け、アンテナ開口面で発生する反射波とフレーム部で発生する反射波とを重ね合わせて、これらの反射波が打ち消し合うように構成されたアンテナ装置がある(特許文献2)。
【0004】
また、レーダー波をアンテナ素子が受信し、この受信信号に対応させてサーキュレータが振幅と位相を調整した再放射波を生成し、この再放射波を外部に放射するアンテナ装置がある(特許文献3)。この装置は、アンテナ装置全体の反射波の複素電界値が、所望の目標反射波の複素電界値と一致するように、振幅利得と移相量を算出するもので、例えば、目標反射波の複素電界値をゼロと設定すると、アンテナ装置全体のRCSを低減させることができる。
【0005】
また、複数のパッチアンテナ、誘電体基板、地導体を重ね合わせ、さらにパッチアンテナが配置されている部分をくり抜いたプレートを備えたアンテナ装置がある(特許文献4)。上記のプレートは、パッチアンテナを備えるアンテナ基板に接する第1の面と、第1の面に対して背中合わせとなる第2の面を有し、第1の面に対して第2の面が傾斜面となるように形成されている。
この装置は、アンテナ基板にプレートを装着することにより、アンテナ基板に対して垂直に電波が入射されると、同じ方向に反射される電波が小さくなり、装置正面においてRCSが小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-252172号公報
【特許文献2】特開2014-195232号公報
【特許文献3】特開2015-68688号公報
【特許文献4】特開2020-161867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のビーム放射を用いた技術では、ビーム波のエネルギーは、普通の電波に比べて強くなるため、受電系において再放射を防ぐ、もしくは、強い反射波を効果的に抑えることが難しくなる。
特許文献1に開示された技術は、平面アンテナと反射構造が平面上に並べて配置されているため、設置する場所(設置面積)が、アンテナ単体の設置面積に比べて2倍以上になる。
特許文献2に開示された技術は、波長に対応する段差が必要になるため、電波吸収体またはアンテナの厚みが大きくなる。例えば、6[GHz]の周波数に対応させると、12.5[mm]の段差を設ける必要があり、電波吸収体またはアンテナ全体の厚みが相当に大きくなり、このようなものを実際に製造することは困難であり、また、使用することも難しくなる。
【0008】
特許文献3に開示された技術は、予め、アンテナ装置全体、アンテナ装置の周囲に存在する構造物等に対応した基準調整量等のデータを準備することが必要であり、また、これらのデータを記憶する装置、これらのデータを用いて演算する装置等を備える必要がある。即ち、反射波を抑える特性をパッシブな特性として電波吸収体やアンテナ装置等に備えることができず、製造コストや稼働コストも高額になり、このような装置等を実際に製造することや使用することは難しくなる。
特許文献4に開示された技術は、プレートの傾斜によってプレート正面の反射波を抑えているので、プレート正面以外の場所(空間)においては、反射波の強さを抑えることが困難である。また、プレート(アンテナ基板)に斜めに入射する電波に対しては、反射波を確実に抑制することが難しい。
【0009】
なお、上記の特許文献1~特許文献4に開示された技術は、例えば、航空機や船舶に搭載されているレーダーアンテナが、他のレーダーに検知されないように電波反射を抑える(調整する)ものである。そのため、有人環境において、人体等に悪影響を与えないようにすることは考慮されていない。
このように、従来のアンテナ(電波を入射させる装置)等に用いられている技術は、入射した電波が反射波になることを抑制するためには複雑な構成等が必要になり、簡素に構成することが難しいものであった。
【0010】
本開示は、上記のような問題を解決するために行われたもので、入射した電波が反射波になることを簡素な構成で抑制する電波吸収体およびアンテナを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る電波吸収体は、複数のパッチ導体を所定の配列間隔を設けて備える導体層と、前記導体層の下側に積層される誘電体層と、複数のスロットを備え、前記誘電体層の下側に積層されるスロット層と、を有し、前記誘電体層を介して重なる前記パッチ導体および前記スロットが、同様な整合周波数を有するように形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記パッチ導体は、円形状に形成され、前記スロットは、矩形状またはリング形状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記パッチ導体は、矩形状に形成され、前記スロットは、矩形状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、前記複数のパッチ導体は、円形状に形成された第1パッチ導体および矩形状に形成された第2パッチ導体からなり、前記複数のスロットのうち、前記第1パッチ導体と重なる第1スロットは、矩形状またはリング形状に形成され、前記複数のスロットのうち、前記第2パッチ導体と重なる第2スロットは、矩形状に形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、単一の前記スロット層に前記導体層と前記誘電体層とを複数積層させたことを特徴とする。
【0016】
本開示に係るアンテナは、複数のパッチ導体を所定の配列間隔を設けて備える導体層と、前記導体層の下側に積層される第1誘電体層と、複数のスロットを備え、前記第1誘電体層の下側に積層されるスロット層と、前記スロット層の下側に配置される導波路と、を有し、前記第1誘電体層を介して重なる前記パッチ導体および前記スロットが、同様な整合周波数を有するように形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、前記パッチ導体は、円形状に形成され、前記スロットは、矩形状またはリング形状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、前記パッチ導体は、矩形状に形成され、前記スロットは、矩形状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
また、前記複数のパッチ導体は、円形状に形成された第1パッチ導体および矩形状に形成された第2パッチ導体からなり、前記複数のスロットのうち、前記第1パッチ導体と重なる第1スロットは、矩形状またはリング形状に形成され、前記複数のスロットのうち前記第2パッチ導体と重なる第2スロットは、矩形状に形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、単一の前記スロット層に前記導体層と前記第1誘電体層とを複数積層させたことを特徴とする。
【0021】
また、前記スロット層と前記導波路との間に前記第1誘電体層よりも低い比誘電率を有する第2誘電体層を備え、前記導波路は、マイクロストリップ線路またはポスト壁導波路であることを特徴とする。
【0022】
また、前記導波路は、導波管であることを特徴とする。
【0023】
また、単一の前記スロット層に前記導体層と前記第1誘電体層とを複数積層させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、導体層の下層に設けられたスロット層のスロットが、導体層に入射した電波に共振するようにしたので、導体層に入射した電波が反射波になることを簡素な構成で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の実施の形態1による電波吸収体の構成を示す説明図である。
図2図1の電波吸収体の一部分を示す説明図である。
図3図2の金属パッチが設けられている部分の構成を示す説明図である。
図4】プリントスロットアンテナの構成例を示す説明図である。
図5】本開示の実施の形態2による電波吸収体の構成を示す説明図である。
図6】本開示の実施の形態3による電波吸収体の構成を示す説明図である。
図7】本開示の実施の形態4による電波吸収体の構成を示す説明図である。
図8】本開示の実施の形態5によるアンテナの構成を示す説明図である。
図9】本開示の実施の形態6によるアンテナの構成を示す説明図である。
図10】本開示の実施の形態7によるアンテナに備える導波路の構成を示す説明図である。
図11】電波吸収体から放射される反射波を測定するための測定系の概略構成を示す説明図である。
図12図11の測定系によって測定された反射波を示す説明図である。
図13】アンテナの受信特性を測定するための測定系の概略構成を示す説明図である。
図14図13の測定系によって測定されたアンテナの受信特性を示す説明図である。
図15】測定に用いた電波吸収体の各部の大きさ、および、測定に用いたアンテナの各部の大きさを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1による電波吸収体1の構成を示す説明図である。この図は、図中上側に電波吸収体1を上方から見た場合の構成を示し、図中下側に電波吸収体1の厚み部分(積層部分)を見た場合の構成を示している。
電波吸収体1は、複数の金属パッチ11(パッチ導体)を有する導体層10、導体層10の下側に積層配置された誘電体層12、誘電体層12の下側に積層配置され、複数のスロット15を有するスロット層13によって構成されている。
換言すると、誘電体層12は、電波吸収体1の基板であり、この基板の表面に複数の金属パッチ11が配置され、基板の裏面にスロット15が配置されている。
【0027】
図2は、図1の電波吸収体1の一部分を示す説明図である。この図は、電波吸収体1のうち、1個の金属パッチ11が設けられている部分の構成を示している。
ここで、電波吸収体1において、1個の金属パッチ11が設けられている部分(基板となる部分)の幅および奥行きをそれぞれW、厚さをhとする。即ち、金属パッチ11は、配列周期Wによって(配列間隔Wをあけて)複数配置され、導体層10を形成している。
【0028】
導体層10の金属パッチ11は、例えば、銅箔を用いて直径dの円形状に形成されたものである。
導体層10の下側に積層される誘電体層12は、例えば、ガラスエポキシ材である誘電体12aを用いて形成されている。
誘電体層12の下側に積層されるスロット層13は、例えば、銅箔である金属箔14にスロット15を形成させたものである。
【0029】
図3は、図2の金属パッチ11が設けられている部分の構成を示す説明図である。この図は、図中上側に、1個の金属パッチ11が設けられている部分を上方から見た場合の(表面の)構成を示し、図中下側に、当該金属パッチ11が設けられている部分の厚み部分を見た場合の構成(積層構成)を示している。
以下、電波吸収体1において、1個の金属パッチ11が設けられている部分をパッチセルと記載する。
【0030】
スロット15は、金属箔14に設けられた長方形(矩形)の孔で、長手方向の長さ(スロット長)がSl、短手方向の長さ(スロット幅)がSwの大きさを有し、上方に積層されている1個の金属パッチ11と(電波吸収体1もしくは導体層10を上方から見たとき)重なるように配置されている。
また、スロット15は、金属パッチ11の円形中心0から所定長さ(スロットシフト長Ssf)を空けた(ずれた)位置に配置されている。
なお、上記の金属パッチ11、スロット15等を有するパッチセルには、電波が入射する空間であるポート100が生じる。
【0031】
金属パッチ11、スロット15等は、所定の電波を吸収するように(任意の周波数で共振するように)、次に説明する各設計式によって大きさ等が設定される。
初めに、金属パッチ11の大きさを算出する手法を説明する。
円形状の金属パッチ11は、円形マイクロストリップアンテナと同様に設計することができる。金属パッチ11を有するパッチセルにおいて、誘電体層12、もしくは誘電体12aの厚みをh、誘電体層12もしくは誘電体12aの比誘電率をεrとすると、金属パッチ11の大きさと、吸収する電波の周波数(整合周波数もしくは共振周波数)との関係は、次の式(1)、式(2)によって表される。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
ここで、式(1)および式(2)において、fは整合周波数、cは光速、εrは上記のように誘電体12aの比誘電率、rは金属パッチ11の半径、reffは金属パッチ11の実効半径である。換言すると、fは吸収する電波の周波数、rはd/2である。
使用する基板(誘電体層12に相当するもの)、詳しくは、適当な比誘電率εrを有する誘電体基板を決定し、吸収する電波の周波数fを決定した後、上記の比誘電率εr、周波数fの各値を用いて、式(1)、式(2)から金属パッチ11の径(rもしくはd)を算出する。
このようにして、任意の周波数の電波を吸収する(任意の周波数に共振する)金属パッチ11の大きさを求める。
【0035】
次に、スロット15の大きさをプリントスロットアンテナの設計式を用いて算出する手法を説明する。
スロット15のスロット幅Swは、Sw=0.01λ~0.1λの範囲内で設定する。上記のλは、スロット15に設定する任意の共振周波数(整合周波数)の自由空間波長である。
【0036】
スロット15のスロット長Slは、次のように求める。
図4は、プリントスロットアンテナの構成例を示す説明図である。図4に例示したプリントスロットアンテナは、長さLs、幅Wsのスロットが、誘電体基板(比誘電率εr、厚さh)の裏面に配置された幅Wfのマイクロストリップ線路に電磁結合して給電されるように構成されている。このプリントスロットアンテナは、プリントダイポールアンテナと等価である。
自由空間に配置された場合の共振長がL0のダイポールアンテナを、比誘電率εrの基板上に配置したときの共振長Lsを求める式を用いて、任意の周波数に共振するスロット15のスロット長Slを求めることができる。スロット長Slを求める式は、次の式(3)のように表される。
【0037】
【数3】
【0038】
式(3)のL0は、次の式(4)によって算出する。
【0039】
【数4】
【0040】
なお、式(4)のλは、前述の整合周波数の自由空間波長である。式(3)のεreは、次の式(5)のように表される。
【0041】
【数5】
【0042】
ただし、上記の各式においてλ<hである。
εreは、誘電体基板(誘電体層12)の波長短縮効果を表す実効比誘電率である。
なお、式(5)は、実効比誘電率の相加平均を求める近似式である。
上記の各式から、高い比誘電率εrの誘電体12aを用いると波長短縮効果が向上し、金属パッチ11の小型化および各金属パッチ11の配列周期(配列間隔)Wを小さくすることが可能になり、電波吸収体1の小型化が可能になることがわかる。
【0043】
上記の式(1)~式(5)を用いて、所望の周波数に共振する金属パッチ11の径(大きさ)、スロット15の大きさ等を算出し、上記の任意の周波数の電波を吸収する電波吸収体1を構成する。
また、上記の各算出値に基づいて構成した電波吸収体1の電磁界解析を行い、任意の電波吸収特性等が得られるように、各部分の大きさ形状、配置等を最適化して電波吸収体1を構成する。
【0044】
円形状の金属パッチ11に矩形状のスロット15を重ねて配置する場合、金属パッチ11に対してスロット15を、どのように配置するかによって、反射波を抑制する反射波抑制特性(周波数特性)、電波の透過特性に大きく影響する。
上記のように最適化を行う場合、所望の周波数特性が得られるように、また、透過特性が良好になるように、電波吸収体1もしくは導体層10を上方から見たとき、円形状の金属パッチ11の外周縁部分とスロット15が重なるように、これらを積層配置することが好ましい。
【0045】
なお、ここで説明した金属パッチ11、スロット15は、設計式を用いて大きさ等を決定することができるが、このような設計式が既知となっていない形状の金属パッチやスロットを用いる場合には、電磁界解析を実施することによって適当な大きさ等を決定し(最適化して)、電波吸収体を構成する。
【0046】
金属パッチ11の整合周波数(共振周波数)と、誘電体層12を介してこの金属パッチ11に重なるスロット15の整合周波数(共振周波数)が同様となるように、これらの大きさ等を上記の設計式を用いて算出し、また、上記のように電磁界解析を行い、これらの大きさ等を最適化して電波吸収体1を構成すると、例えば、図2のポート100を通過した電波が金属パッチ11に入射し、当該金属パッチ11が共振した周波数の電波が誘電体層12に吸収される。
誘電体層12に吸収された電波は熱エネルギーになり、当該熱エネルギーに変化しなかったものは、金属パッチ11と同様な整合周波数を有するスロット15(スロット層13)に引き寄せられる。
即ち、電波吸収体1は、金属パッチ11に入射した電波(エネルギー)が、反射波となって当該電波吸収体1の外部に放出されることを抑制することができる。
【0047】
電波吸収体1は、複数の金属パッチ11およびスロット15を備えている。そこで、電波吸収体1に、整合周波数が異なる複数の金属パッチ11を備え、また、各金属パッチ11と同じ整合周波数を有するスロット15を、それぞれの金属パッチ11と対になるように重ねて配置(誘電体層12を介して積層配置)して、所定周波数範囲の電波を吸収する(複数の周波数特性を有する)ように構成することも可能である。
【0048】
(実施の形態2)
図5は、本開示の実施の形態2による電波吸収体1aの構成を示す説明図である。この図は、図中上側に電波吸収体1aを上方から見た場合の構成を示し、図中下側に電波吸収体1aの厚み部分(積層部分)を見た場合の構成を示している。
電波吸収体1aは、前述の電波吸収体1の導体層10と同様に構成された導体層10aを備えている。
即ち、導体層10aは、導体層10に備えられた金属パッチ11と同様な円形の金属パッチ11aを備えている。
また、電波吸収体1aは、電波吸収体1と同様な誘電体層12を備え、当該誘電体層12を導体層10aの下側に積層させている。
【0049】
電波吸収体1aは、誘電体層12の下側にスロット層13aを積層させている。
スロット層13aは、前述のスロット層13と同様に金属箔14によって形成されたもので、当該金属箔14にリング形状(円環状)のスロット15aが複数設けられている。
スロット15aは、1個の金属パッチ11aに対して1個積層される(誘電体層12を介して重なる)ように配置され、金属パッチ11aと同様な整合周波数(共振周波数)を有する大きさに形成されている。なお、リング形状のスロット15aは、既知の設計式によって、所望の整合周波数を有する大きさ等が決定される。また、円形状の金属パッチ11aは、前述の金属パッチ11と同様な設計式によって、任意の整合周波数を有する大きさ等が決定される。
【0050】
また、上記の設計式によって算出した各値に基づいて構成した電波吸収体1aについて電磁界解析を行い、任意の電波吸収特性等が得られるように、各部分の大きさ、形状、配置等を最適化して電波吸収体1aを構成する。
このように構成された電波吸収体1aは、前述の電波吸収体1と同様に、金属パッチ11aに入射した電波が、反射波となって電波吸収体1aから放出されることを抑制することができる。
【0051】
電波吸収体1aは、前述の電波吸収体1のように、整合周波数が異なる複数の金属パッチ11aを備え、また、金属パッチ11aと同じ整合周波数を有するスロット15aを、それぞれの金属パッチ11aと対になるように備えて、所定周波数範囲の電波を吸収する(複数の周波数特性を有する)ように構成することも可能である。
【0052】
(実施の形態3)
図6は、本開示の実施の形態3による電波吸収体1bの構成を示す説明図である。この図は、図中上側に電波吸収体1bを上方から見た場合の構成を示し、図中下側に電波吸収体1bの厚み部分(積層部分)を見た場合の構成を示している。
電波吸収体1bは、後述する矩形に形成された金属パッチ11bを有する導体層10bを備えている。
また、電波吸収体1bは、前述の電波吸収体1等と同様な誘電体層12を備え、当該誘電体層12を導体層10bの下側に積層させている。
また、電波吸収体1bは、例えば、前述の電波吸収体1のスロット層13と同様に構成されたスロット層13bを備えている。即ち、スロット層13bは、金属箔14に前述のスロット15と同様な矩形のスロット15bが設けられたものである。
【0053】
矩形の金属パッチ11bは、任意の整合周波数を有するように、次に説明する設計式を用いて各部分の大きさが決定される。
ここで、金属パッチ11bの幅をW、長さをLとする。また、金属パッチ11bに積層される誘電体12aの比誘電率をεr、当該誘電体12aもしくは誘電体層12の厚さをh、光速をc、当該金属パッチ11bの整合周波数をfrとする。
このとき、金属パッチ11bの幅Wは式(6)によって表され、長さLは式(7)によって表される。また、式(7)に含まれるΔLは、式(8)のように表される。
【0054】
【数6】
【0055】
上記の式(7)に含まれるx1、x3、x4、x5、およびx3を表す式に含まれるx2は、次の各式のように表される。
【0056】
【数7】
【0057】
式(7)にx1、x3、x4、x5を代入すると、整合周波数frの金属パッチ11bは、W=Lとなることがわかる。
即ち、所望の整合周波数(共振周波数)を有する金属パッチ11bの1辺の長さは、式(6)によって決定することができる。
上記のようにして所望の整合周波数frを有する金属パッチ11bの大きさ等を決定する。
【0058】
電波吸収体1bに備えるスロット15bは、前述のように矩形に形成されている。スロット15bは、電波吸収体1に備えるスロット15の大きさを求めた場合と同様な設計式を用いて、誘電体層12を介して重なる金属パッチ11bと同じ整合周波数frを有する大きさ等が決定される。
【0059】
また、上記の設計式によって算出した各値に基づいて構成した電波吸収体1bの電磁界解析を行い、任意の電波吸収特性等が得られるように、各部分の大きさ、形状、配置等を最適化して電波吸収体1bを構成する。
このように構成された電波吸収体1bは、前述の電波吸収体1等と同様に、金属パッチ11bに入射した電波が、反射波となって電波吸収体1bから放出されることを抑制することができる。
【0060】
電波吸収体1bは、前述の電波吸収体1等のように、整合周波数が異なる複数の金属パッチ11bを備え、また、金属パッチ11bと同じ整合周波数を有するスロット15bを、それぞれの金属パッチ11bと対になるように備えて、所定周波数範囲の電波を吸収する(複数の周波数特性を有する)ように構成することも可能である。
【0061】
前述の電波吸収体1、電波吸収体1a、電波吸収体1bは、いずれも、単一の導体層10等に同一形状の金属パッチ11等を設けているが、単一の導体層に異なる形状の(複数形状の)金属パッチを設けることも可能である。
また、金属パッチ毎に異なる形状(複数の形状)のスロットを積層させて(金属パッチとスロットとを1対1で積層させて)構成することも可能である。なお、このように複数の形状の金属パッチならびにスロットを設ける場合でも、積層される金属パッチおよびスロットの各整合周波数が同様となるように、それぞれの大きさ等を決定する。
【0062】
具体的には、円形状の金属パッチ11,11aと矩形状の金属パッチ11bとを同じ導体層に備え、円形状の金属パッチ11,11aと重なるようにスロット15またはスロット15aを配置し、矩形状の金属パッチ11bと重なるようにスロット15bを配置する。このとき、スロット15、スロット15a、スロット15bは、例えば、同じスロット層に設ける。
【0063】
(実施の形態4)
図7は、本開示の実施の形態4による電波吸収体1cの構成を示す説明図である。この図は、電波吸収体1cの厚み部分(積層部分)を見た場合の構成を示している。
前述の電波吸収体1、電波吸収体1a、電波吸収体1bは、単一の導体層10等および単一の誘電体層12を備えているが、電波吸収体1cは、導体層10cと誘電体層12とをそれぞれ複数備えて積層させたものである。
【0064】
電波吸収体1cは、例えば、最上層に第1の導体層10cが配置され、第1の導体層10cの下側に第1の誘電体層12が積層配置されている。
また、第1の誘電体層12の下側に第2の導体層10cが積層配置され、第2の導体層10cの下側に第2の誘電体層12が積層配置されている。
このように、導体層10cと誘電体層12が交互に積層され、第nの導体層10cの下側に第nの誘電体層12が積層配置され、第nの誘電体層12の下側にスロット層13cが積層配置されている。
【0065】
第1の導体層10c~第nの導体層10cに設けられている金属パッチ11cは、例えば、前述の金属パッチ11、金属パッチ11a、金属パッチ11bのいずれかと同様に形成されたもので、それぞれの金属パッチ11cが、積層方向において(電波吸収体1を上方から見たとき)重ならないように配置されている。即ち、各導体層10cの金属パッチ11cは、下方の導体層10cの金属パッチ11cに遮られることなく、最下層のスロット層13cに設けられたスロット(図示省略)と1対1で積層するように配置されている。
【0066】
スロット層13cに設けられた各スロットは、例えば、前述のスロット15、スロット15a、スロット15bのいずれかと同様な形状をしており、積層される(重なる)金属パッチ11cと同様な整合周波数を有する大きさに形成されている。
【0067】
第1の導体層10c~第nの導体層10cに設けられる金属パッチ11cは、同一の整合周波数を有するように構成してもよいが、例えば、導体層10cごとに大きさ等の異なる金属パッチ11cを設け、導体層10cごとに異なる整合周波数を有するように構成することも可能である。
即ち、電波吸収体1cは、複数の導体層10cにそれぞれ異なる整合周波数を設定して、所望の周波数範囲の電波を吸収するように構成してもよい。
【0068】
また、電波吸収体1cは、前述の電波吸収体1、電波吸収体1a、電波吸収体1bと同様に、単一の導体層において複数の形状を有する金属パッチ(円形状の金属パッチ11等および矩形状の金属パッチ11b)を備え、また、これらの金属パッチに対応させて、スロット層13cに複数の形状を有するスロット(矩形状のスロット15等およびリング形状のスロット15a)を備えて構成することも可能である。
【0069】
電波吸収体1cは、スロット層13cの下側に電波の導波路を設けることにより、アンテナを構成することも可能である。また、前述の電波吸収体1、電波吸収体1a、電波吸収体1bについても、最下層のスロット層13等の下側に導波路を設けることにより、アンテナを構成することができる。
【0070】
次に、本開示のアンテナについて説明する。
ここでは、電波吸収体1に導波路を設けたアンテナを例示して説明する。
【0071】
(実施の形態5)
図8は、本開示の実施の形態5によるアンテナ2の構成を示す説明図である。この図は、例えば、実施の形態1で説明した電波吸収体1に導波路16を備えて構成されたアンテナ2の一部分を示したものである。詳しくは、この図は、アンテナ2において、1個の金属パッチ11(および図示されない1個のスロット15)が設けられている単位部分の積層構成を表している。
【0072】
図8のアンテナ2の単位部分は、図2に示した電波吸収体1の単位部分(パッチセル)に導波路16を備えたもので、スロット層13の下側に誘電体層22を積層し、誘電体層22の下側に、例えば、マイクロストリップ線路17を積層して備えている。換言すると、誘電体層22の、図中下側の面(下端面)に、導波路16である金属製のマイクロストリップ線路17が形成されている。
【0073】
即ち、マイクロストリップ線路17は、誘電体層22の下端面に形成され、金属箔14によって形成されたスロット層13と接触しないように(絶縁されて)配置されている。
なお、アンテナ2を構成する導体層10、誘電体層12、スロット層13は、前述の電波吸収体1と同様な材料によって形成され、また、導体層10の金属パッチ11、スロット層13のスロット15等は、電波吸収体1と同様な大きさ、形状を有する。
【0074】
マイクロストリップ線路17は、アンテナ2の単位部分を上方から見たとき、金属パッチ11ならびにスロット15と重なるように配置され、例えば、図8に示した矢印101が示す方向に電波を伝導するように設けられている。
なお、マイクロストリップ線路17(導波路16)が伝導する電波は、図2のポート100を通過して金属パッチ11に入射し、スロット層13に伝わった(スロット15が共振することによって引き寄せられた)電波である。
【0075】
マイクロストリップ線路17は、当該マイクロストリップ線路17に積層されるスロット15の共振周波数と整合するように、既知のスロットアンテナの設計式およびマイクロストリップ線路の設計式によって、幅、長さ、配置等を算出して、例えば、アンテナ2の最下層に設けられる。
即ち、マイクロストリップ線路17は、上記の設計式により、上側に積層されるスロット15との相互関係(配置等)が定められ、マイクロストリップ線路17による電波の伝送方向(矢印101)が、スロット15の長手方向に対して直交するように配置される。
また、マイクロストリップ線路17は、積層されるスロット15ならびに金属パッチ11と同様な整合周波数を有するように形成される。
【0076】
誘電体層22は、波長短縮効果を有している。そのため、誘電体層22に積層されるマイクロストリップ線路17は、上記のように所定の周波数において共振し、この電波を伝導するように形成する場合、例えば、誘電体層22の波長短縮効果に対応させて線路を細く形成することが必要になる。
マイクロストリップ線路17を細線化する場合には、高度の加工技術等が必要になるため、アンテナ2は、例えば、マイクロストリップ線路17を適度に細線化するとともに、誘電体層22の波長短縮効果を低減して構成されている。
具体的には、誘電体層22を、例えば、誘電体層12(誘電体12a)に比べて比誘電率の低い誘電体を用いて形成し、マイクロストリップ線路17が過度に細くならないようにしている。
【0077】
アンテナ2は、所定の周波数(整合周波数)において、金属パッチ11(導体層10)、スロット15(スロット層13)、誘電体層12の小型化(アンテナ2の薄型化)を図るため、高い比誘電率の誘電体材料(誘電体12a)を用いて誘電体層12を形成している。また、アンテナ2は、スロット層13を透過した(スロット15が共振した)電波を低損失でマイクロストリップ線路17へ伝導させるため、低誘電正接材料を用いて誘電体層22を形成させている。
【0078】
アンテナ2は、上記のように比誘電率の異なる2つの誘電体層12および誘電体層22を備えることにより、小型化(薄型化)を可能にするとともに、電波吸収(反射波の抑制)特性およびアンテナ特性を良好にすることを可能にしている。
【0079】
(実施の形態6)
図9は、本開示の実施の形態6によるアンテナ2aの構成を示す説明図である。この図は、実施の形態1で説明した電波吸収体1に導波路16を備えて構成されたアンテナ2aの一部分を示したものである。詳しくは、この図は、アンテナ2aにおいて、1個の金属パッチ11(および図示されない1個のスロット15)が設けられている単位部分の積層構成を表している。
【0080】
図9のアンテナ2aの単位部分は、図2に示した電波吸収体1の単位部分(パッチセル)に導波路16を備えたもので、スロット層13の下側に配置する導波路16として導波管18を備えている。
なお、アンテナ2aを構成する導体層10、誘電体層12、スロット層13は、前述の電波吸収体1と同様な材料によって形成され、また、導体層10の金属パッチ11、スロット層13のスロット15等は、電波吸収体1と同様な大きさ、形状を有する。
【0081】
導波管18は、当該導波管18に積層される金属パッチ11ならびにスロット15と同様な整合周波数を有するように、既知の設計式によって、幅、長さ、配置等を算出して、また、電磁界解析を行って形状や大きさ等を最適化して、例えば、アンテナ2aの最下部に備えられる。
即ち、導波管18は、既知の設計式によって、積層されるスロット15との相互関係(配置等)が定められ、導波管18による電波の伝送方向(矢印101)が、スロット15の長手方向に対して直交するように配置される。
【0082】
なお、導波管18は、スロット層13と導電しないように、即ち、スロット層13と導波管18が直接接触しないように、例えば、適当な空間を設けて誘電性を有するようにして、スロット層13の下側(スロット層13の近傍)に配置されている。例えば、スロット層13と導波管18との間に、前述の誘電体層22を設けて、アンテナ2aを構成してもよい。
【0083】
導波管18が伝導する電波は、図2のポート100を通過して金属パッチ11に入射し、誘電体層12を介してスロット層13に伝わった(スロット15が共振することによってスロット層13を透過した)電波である。即ち、導波管18には、スロット15が共振した電波が入射される。
【0084】
アンテナ2aは、高い比誘電率の誘電体層12を備えることによって、所定の周波数(整合周波数)において、金属パッチ11ならびにスロット15の小型化を可能にしている。また、アンテナ2aは、上記のようにスロット層13の下側(近傍)に導波管18を備えることにより、スロット層13を透過した電波を低損失で導波管18に伝導させることができ、電波吸収(反射波の抑制)特性およびアンテナ特性を良好にすることを可能にしている。
【0085】
(実施の形態7)
図10は、本開示の実施の形態7によるアンテナに備える導波路16の構成を示す説明図である。図10の導波路16は、図8のマイクロストリップ線路17に替えて、複数の金属ポスト20によって構成されたポスト壁導波路19を設けたものである。
ポスト壁導波路19は、金属等の導体を用いて、筒状もしくは柱状に形成された複数の金属ポスト20を、前述の誘電体層22の内部、または、誘電体層22の下端面に2列に並べて配置したものである。
なお、ポスト壁導波路19に積層される、図示を省略した導体層10、誘電体層12、スロット層13等は、図8に示したものと同様なものである。
【0086】
ポスト壁導波路19は、当該ポスト壁導波路19に積層されるスロット15の整合周波数(ならびに金属パッチ11の整合周波数)と整合するように構成され、既知の設計式によって各金属ポスト20の大きさ、配置等を算出し、また、電磁界解析を行って形状や大きさ等を最適化して、例えば、アンテナ2の最下層に備えられる。また、各金属ポスト20の間隔は、上記のように設計式によって各値を算出するとき、または、上記のように最適化されるとき、伝導させる電波の波長に対応させて決定される。
ポスト壁導波路19をアンテナ2に備えるときには、各金属ポスト20がスロット15と重なる(積層する)ように、当該ポスト壁導波路19を、誘電体層22を介してスロット層13に積層させる。即ち、スロット層13とポスト壁導波路19(金属ポスト20)とは絶縁されている。
【0087】
金属パッチ11(導体層10)に入射し、誘電体層12を介してスロット層13に伝わった(スロット15が共振することによってスロット層13を透過した)電波は、2列に並べられた金属ポスト20の間を通って列の延設方向に、即ち、矢印101が示す方向に伝導される。
【0088】
ポスト壁導波路19を備えたアンテナ2は、実施の形態5で説明したものと同様に、高い比誘電率の誘電体材料(誘電体12a)を用いて誘電体層12を形成している。また、低誘電正接材料を用いて誘電体層22を形成させている。
ポスト壁導波路19を備えたアンテナ2においても、上記のように比誘電率の異なる2つの誘電体層12および誘電体層22を備えることにより、小型化(薄型化)を可能にするとともに、電波吸収(反射波の抑制)特性およびアンテナ特性を良好にすることが可能である。
【0089】
以上のように、本開示の各電波吸収体は、スロット層の下側に導波路を備えることにより、アンテナとして機能することができる。
また、本開示の各電波吸収体ならびに各アンテナは、任意の周波数特性(単一または複数の周波数特性)を備えることが可能である。
また、本開示の各電波吸収体ならびに各アンテナは、薄型化が可能であり、例えば、積層構成された全体の厚さを2[mm]以下に構成することも可能である。
【0090】
(電波吸収体1から放射される反射波の測定)
次に、実施の形態1の電波吸収体1から放射される反射波の測定方法ならびに測定結果を説明する。
図11は、電波吸収体1から放射される反射波を測定するための測定系の概略構成を示す説明図である。
図11の測定系は、電波吸収体1を載置するターンテーブル30、ターンテーブル30に載置された電波吸収体1に向けて電波を送信する送信アンテナ31、ターンテーブル30に載置された電波吸収体1から放射される反射波を受信する受信アンテナ32を備えている。
【0091】
ターンテーブル30は、当該ターンテーブル30が回転することによって電波吸収体1の向きを変化させ、送信アンテナ31から電波吸収体1に入射する電波の入射角度を調整するように構成されている。
【0092】
また、この測定系は、送信アンテナ31から送信する電波の強さおよび周波数を制御する測定器33を備えている。
測定器33は、さらに、受信アンテナ32によって受信された反射波の周波数および強度を解析する機能を有しており、例えば、ネットワークアナライザである。
【0093】
図11の測定系において、電波吸収体1は、最上層の導体層10、即ち、金属パッチ11を有する表面の向きが、ターンテーブル30の回転によって変化するように設置されている。
また、この測定系は、電波吸収体1の向きが変化することにより、当該電波吸収体1の表面の法線に対して0~60度の入射角度で、送信アンテナ31からの電波が入射するように構成されている。また、この測定系は、反射波の測定時には、上記の入射角度と等しい反射角度の反射波を測定することができる位置に、受信アンテナ32が移動できるように構成されている。
【0094】
この測定系において、送信アンテナ31とターンテーブル30に載置された電波吸収体1との距離、ならびに、受信アンテナ32とターンテーブル30に載置された電波吸収体1との距離は、いずれも1[m]である。
【0095】
図15は、図11の測定系に用いた電波吸収体1の各部の大きさ、および、後述する図13の測定系に用いたアンテナ2の各部の大きさを示す説明図である。
図11の測定系に用いた電波吸収体1は、例えば、共振周波数を5.7[GHz]に設定して各部の大きさ等を算出したもので、図15に示した大きさで形成されている。
【0096】
図12は、図11の測定系によって測定された反射波を示す説明図である。図12は、横軸が反射波の周波数(送信アンテナ31から送信された電波の周波数)を表し、縦軸が、測定された反射量(反射波の強度)を示している。
図11の測定系による反射波の測定は、当該測定系に設置した電波吸収体1に反射した反射波を測定し、また、同じ測定系に、電波吸収体1に替えて設置した全反射構造物(図示省略)に反射した反射波を測定し、これら反射波の差分を求めている。ここでは、全反射構造物として金属板を用いている。図12の縦軸に示した反射量は、電波吸収体1からの反射波の強度と、金属板からの反射波の強度との差分である。
【0097】
図12の反射量は、表面の大きさが200×200[mm]の電波吸収体1および金属板を用いて求めた値である。
詳しくは、各周波数の電波を送信アンテナ31から上記の電波吸収体1に送信し、当該電波吸収体1によって反射された電波(反射波)を受信アンテナ32によって受信して、電波強度を測定している。また、電波吸収体1に替えて上記の金属板を測定系(ターンテーブル30)に設置した場合においても、上記の電波吸収体1の測定と同様に、金属板と、送信アンテナ31ならびに受信アンテナ32との間を1[m]離して測定している。
【0098】
なお、送信アンテナ31から電波吸収体1に送信した電波の入射角が0度の場合のみ、送信アンテナ31を用いて電波吸収体1または金属板からの反射波を受信し、このとき測定された電波強度から求めた反射量を図12のグラフに示している。
【0099】
図12に示した測定結果から、電波吸収体1は、金属パッチ11ならびにスロット15に設定した整合周波数(もしくはその近傍の周波数)において反射量が少なくなり、整合周波数、即ち、金属パッチ11ならびにスロット15の設計周波数近傍において、-20[dB]以下になる反射特性が確認された。
【0100】
次に、アンテナ2から放射される反射波の測定方法ならびに測定結果を説明する。ここでは、実施の形態5のマイクロストリップ線路17を備えたアンテナ2を用いた測定を例示する。
図13は、アンテナ2の受信特性を測定するための測定系の概略構成を示す説明図である。
図13の測定系は、アンテナ2を載置するターンテーブル40、ターンテーブル40に載置されたアンテナ2に向けて電波を送信する送信アンテナ41を備えている。
ターンテーブル40は、当該ターンテーブル40が回転することによってアンテナ2の向きを変化させ、送信アンテナ41からアンテナ2に入射する電波の入射角度を調整するように構成されている。
【0101】
また、この測定系は、送信アンテナ41から送信する電波の強さおよび周波数を制御する測定器42を備えている。
測定器42は、さらに、アンテナ2が受信した電波の周波数および強度(減衰量)を解析する機能を有しており、例えば、ネットワークアナライザである。
【0102】
図13の測定系において、アンテナ2は、最上層の導体層10、即ち、金属パッチ11を有する表面の向きが、ターンテーブル40の回転によって変化するように設置されている。
また、この測定系は、アンテナ2の向きが変化することにより、図11の測定系と同様に、入射角度が0~60度の範囲で、送信アンテナ41からの電波がアンテナ2に入射するように構成されている。
また、この測定系において、送信アンテナ41とターンテーブル40に載置されたアンテナ2との距離は1[m]である。
【0103】
図13の測定系に用いたアンテナ2は、前述のようにマイクロストリップ線路17(図15に示したマイクロストリップライン)を有し、図15に示した大きさで形成されている。即ち、このアンテナ2は、図11の測定系に用いた電波吸収体1と同様な導体層10、誘電体層12、スロット層13を有し、さらに誘電体層22およびマイクロストリップ線路17を備えたものである。
【0104】
図14は、図13の測定系によって測定されたアンテナ2の受信特性を示す説明図である。図14は、横軸が受信周波数(送信アンテナ41から送信された電波の周波数)を表し、縦軸が、後述するアンテナ2の利得を示している。
図13の測定系による受信特性(アンテナ利得)の測定は、次のように行われる。図13の測定系に設置したアンテナ2が受信した電波の強度と、送信アンテナ41から送信した電波の強度との差分、即ち減衰量を求める。また、例えば、当該測定系に、アンテナ2に替えて任意の基準アンテナ(図示省略)を設置し、アンテナ2と同様に減衰量を求める。この後、アンテナ2の減衰量と基準アンテナの減衰量とを比較することにより、アンテナ2の利得を求める。
【0105】
図13の測定系による測定結果から、アンテナ2は、3[dBi]程の利得があることが確認された。なお、図14に例示した測定結果は、基準アンテナの減衰量を使うことなく、遠方界近似におけるフリスの伝達公式を用いて算出したものである。
【符号の説明】
【0106】
1,1a,1b,1c 電波吸収体
2,2a アンテナ
10,10a,10b,10c 導体層
11,11a,11b,11c 金属パッチ
12,22 誘電体層
12a 誘電体
13,13a,13b,13c スロット層
14 金属箔
15,15a,15b スロット
16 導波路
17 マイクロストリップ線路
18 導波管
19 ポスト壁導波路
20 金属ポスト
30,40 ターンテーブル
31,41 送信アンテナ
32 受信アンテナ
33,42 測定器
100 ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15