(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006258
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】封止テープ、マスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/66 20120101AFI20230111BHJP
B65D 85/30 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G03F1/66
B65D85/30 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108771
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 隆晶
(72)【発明者】
【氏名】野口 鳩徳
(72)【発明者】
【氏名】細谷 守男
【テーマコード(参考)】
2H195
3E096
【Fターム(参考)】
2H195BE12
3E096AA06
3E096AA13
3E096BA15
3E096BA16
3E096BB03
3E096CA02
3E096CB03
3E096DA05
3E096DA17
3E096DC02
3E096EA02X
3E096EA02Y
3E096FA09
3E096GA09
(57)【要約】
【課題】マスクブランクスの欠陥品質の低下の要因となるパーティクル源の発生を抑制できる封止テープ、この封止テープを用いたマスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法を提供する。
【解決手段】マスクブランクスケースを封止するための封止テープ20であって、基材21と、前記基材21の一方の面に設けられた粘着剤層23と、基材21内部に融着防止剤25と、を含み、前記粘着剤層23が設けられた面21aとは反対側の前記基材21の面21bにおいて、基材21表面の単位面積当たりの前記融着防止剤25の個数が1000~2500個/cm
2であることを特徴とする封止テープ20を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクブランクスケースを封止するための封止テープであって、
基材と、
前記基材の一方の面に設けられた粘着剤層と、
基材内部に融着防止剤と、を含み、
前記粘着剤層が設けられた面とは反対側の前記基材の面において、基材表面の単位面積当たりの前記融着防止剤の個数が1000~2500個/cm2である
ことを特徴とする封止テープ。
【請求項2】
マスクブランクスケースを封止するための封止テープであって、
基材と、
前記基材の一方の面に設けられた粘着剤層と、
基材内部に融着防止剤と、を含み、
前記粘着剤層が設けられた面とは反対側の前記基材の面において、基材表面の面積に対する基材表面に露出する前記融着防止剤の面積の割合が0.30~1.00%である
ことを特徴とする封止テープ。
【請求項3】
前記基材が、PETおよびPEからなる群から選択される少なくとも一種からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の封止テープ。
【請求項4】
前記粘着剤層が、アクリル系樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の封止テープ。
【請求項5】
前記融着防止剤が、酸化ケイ素、酸化チタンおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種からなる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の封止テープ。
【請求項6】
前記封止テープ使用時の、前記粘着剤層表面に付着している前記融着防止剤の個数が1000個以下である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の封止テープ。
【請求項7】
マスクブランクスを収納するマスクブランクスケースであって、
前記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、
前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、を有し、
請求項1から6のいずれか一項に記載の封止テープによって前記開口が封止されている
ことを特徴とするマスクブランクスケース。
【請求項8】
マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、前記ケース本体に被せられて前記開口を塞ぐ上蓋と、を有するマスクブランクスケース内にマスクブランクスを収納し、
請求項1から6のいずれか一項に記載の封止テープによって前記開口を封止する
ことを特徴とするマスクブランクスケースの封止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止テープ、マスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや、FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の製造等におけるフォトリソグラフィ工程で用いられるフォトマスクを形成するため、フォトマスクブランクスが利用されている。フォトマスクブランクスは、例えば、ガラス基板の一方の主面にマスク層やレジスト層を形成したものからなる。このようなマスクブランクス(マスクブランクス基板とも称する)またはマスクを収納保管し運搬するためのケースとして、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたマスクブランクス基板収納容器(ケース)は、上方にマスクブランクスを収容する開口を備えた合成樹脂製のケース本体と、これに被せて該開口を塞ぐ合成樹脂製の上蓋を有し、密閉した内部にマスクブランクスを収容するとともに、ケース本体と上蓋との接合部を封止するように封止テープを貼り付けている。
【0004】
特許文献1には、収納容器から発生する種々の揮発性成分が、フォトマスクブランクス基板を保管及び輸送中に、フォトマスクブランクス基板上に塗布されたフォトレジスト材料の触媒作用、その可溶化作用あるいは不溶化作用に何らかの影響を及ぼし、光あるいは電子線照射及び熱処理、現像によって形成したフォトマスクブランクス基板上のレジストパターンに、例えば、線幅の拡大・縮小などの寸法変化を生じ、その結果、設計通りのパターンが得られないという不具合を生じることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなマスクブランクスケースを封かんするための封止テープには、一般的に下記の性能が求められる。
(1)マスクブランクスのレジスト感度に影響を与えない低アウトガス性を有すること。
(2)ケース本体から蓋が外れないための保持力を有すること。
(3)封止テープの粘着剤がマスクブランクスケースに転写しない(のり残りしない)こと。
(4)外気がマスクブランクスケースに流入しないこと。
【0007】
上記の封止テープは、一般的に、帯状の基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層とを有する。このような封止テープは長尺であるため、基材と粘着剤層が交互に重ね合わされるように、巻かれた状態で保管される。このため、保管中に、基材と重ね合わされた粘着剤層とが融着してしまわないように、粘着剤層には融着防止剤が添加されていることがある。
【0008】
本発明者らは、このような融着防止剤を含む封止テープのさらなる性能向上を鋭意検討した結果、この融着防止剤が、マスクブランクスケースに収納されるマスクブランクスの欠陥品質を落とす要因になることを見出した。具体的には、従来の封止テープをマスクブランクスケースに貼り付けたりマスクブランクスケースから剥がしたりする際に、粘着剤層に含まれる融着防止剤が脱離したり、粘着剤層から基材の面に転着した融着防止剤が脱離したりすることで、取扱者の手袋やマスクブランクスケースなどに融着防止剤が付着し、パーティクル源となることを、本発明者らは発見した。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、マスクブランクスの欠陥品質の低下の要因となるパーティクル源の発生を抑制できる封止テープを提供することを課題とする。また本発明は、この封止テープを用いた、マスクブランクスの欠陥品質の低下を抑制可能とする、マスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一態様に係る封止テープは、
マスクブランクスケースを封止するための封止テープであって、
基材と、
上記基材の一方の面に設けられた粘着剤層と、
基材内部に融着防止剤と、を含み、
上記粘着剤層が設けられた面とは反対側の上記基材の面において、基材表面の単位面積当たりの上記融着防止剤の個数が1000~2500個/cm2である
ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成からなる封止テープは、マスクブランクスの欠陥品質の低下の要因となるパーティクル源の発生を抑制できる。
【0012】
(2)本発明の一態様に係る封止テープは、
マスクブランクスケースを封止するための封止テープであって、
基材と、
上記基材の一方の面に設けられた粘着剤層と、
基材内部に融着防止剤と、を含み、
上記粘着剤層が設けられた面とは反対側の上記基材の面において、基材表面の面積に対する基材表面に露出する上記融着防止剤の面積の割合が0.30~1.00%である
ことを特徴とする。
【0013】
上記の構成からなる封止テープは、マスクブランクスの欠陥品質の低下の要因となるパーティクル源の発生を抑制できる。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載の封止テープは、
上記基材が、PETおよびPEからなる群から選択される少なくとも一種からなってもよい。
(4)上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の封止テープは、
上記粘着剤層が、アクリル系樹脂からなってもよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の封止テープは、
上記融着防止剤が、酸化ケイ素、酸化チタンおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種からなってもよい。
(6)上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の封止テープは、
上記封止テープ使用時の、上記粘着剤層表面に付着している上記融着防止剤の個数が1000個以下であってもよい。
【0015】
(7)本発明の一態様に係るマスクブランクスケースは、
マスクブランクスを収納するマスクブランクスケースであって、
上記マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、
上記ケース本体に被せられて上記開口を塞ぐ上蓋と、を有し、
上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の封止テープによって上記開口が封止されている
ことを特徴とする。
【0016】
上記の構成からなるマスクブランクスケースは、マスクブランクスケースに収納されたマスクブランクスの欠陥品質の低下を抑制できる。
【0017】
(8)本発明の一態様に係るマスクブランクスケースの封止方法は、
マスクブランクスを開口から収容可能なケース本体と、上記ケース本体に被せられて上記開口を塞ぐ上蓋と、を有するマスクブランクスケース内にマスクブランクスを収納し、
上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の封止テープによって上記開口を封止する
ことを特徴とする。
【0018】
上記の構成からなるマスクブランクスケースの封止方法では、マスクブランクスケースに収納されたマスクブランクスの欠陥品質の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マスクブランクスの欠陥品質の低下の要因となるパーティクル源の発生を抑制できる封止テープを提供できる。また本発明によれば、この封止テープを用いた、マスクブランクスの欠陥品質の低下を抑制可能とする、マスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマスクブランクスケースの開放状態を示す概略的な斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るマスクブランクスケースの閉塞状態を示す概略的な斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るマスクブランクスケースの封止状態を示す概略的な斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る封止テープの構成を説明するための図であって、封止テープの主面に直交する平面における概略的な断面図である。
【
図5】本発明に係る封止テープの変形例を説明するための図であって、封止テープの主面に直交する平面における概略的な断面図である。
【
図6】実施例の封止テープAの基材表面のSEM画像である。
【
図7】実施例の封止テープAの粘着剤層表面のSEM画像である。
【
図8】実施例の封止テープBの基材表面のSEM画像である。
【
図9】実施例の封止テープBの粘着剤層表面のSEM画像である。
【
図10】実施例2の結果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。
【0022】
以下、本発明に係る封止テープ、マスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0023】
[マスクブランクスケース]
図1は、本実施形態に係るマスクブランクスケースの開放状態を示す斜視図である。
図2は、本実施形態に係るマスクブランクスケースの閉塞状態を示す斜視図である。
図3は、本実施形態に係るマスクブランクスケースの封止状態を示す斜視図である。図において、符号100は、マスクブランクスケースである。
【0024】
本実施形態に係るマスクブランクスケース100は、
図1~
図3に示すように、ケース本体1と、上蓋3とを有する。ケース本体1は、樹脂性とされて、上方に開口2を備える。上蓋3は、樹脂性とされて、開口2に被せることで開口2を閉塞する。ケース本体1には、開口2からキャリア4に整列して収容したフォトマスクやマスクブランクス5が収められる。
【0025】
マスクブランクスケース100では、ケース本体1の開口縁6に続く外周面11と、上蓋3の下縁7に続く外周面13と、が同一面に形成される。外周面11と外周面13とは、
図2に示すように、上蓋3を閉じてロックしたときに、同一面になるように形成される。ロックした後、ケース本体1と上蓋3の接合部には、
図3に示すように、封止テープ20が巻き付け貼着される。このとき、外周面11と外周面13が同一面にあるので、外部に連なる隙間のないように封止テープ20を貼着することができる。したがって、マスクブランクスケース100内を外部からの汚染物質が浸入しないように密閉できる。
【0026】
マスクブランクスケース100は、クリーンルーム内などの清浄な雰囲気に於いてキャリア4と共にマスクブランクス5を開放状態のケース本体1内に収納する。その後、上蓋3をケース本体1に被せて開口2を塞いだ閉塞状態とする。さらに、マスクブランクスケース100は、開口2の周囲を封止テープ20で密封した封止状態で保管・運搬される。
【0027】
封止状態において、封止テープ20は、外周面11と外周面13とが同一面であり、貼り付けた際に浮き上がることがないため、マスクブランクスケース100内を密封する貼着を行うことができ、保管中又は運搬中にケース内へ埃が浸入することがなくなる。マスクブランクスケース100は、保管終了あるいは運搬先におけるクリーンルーム内で、封止テープ20を剥がして開封される。
【0028】
マスクブランクスケース100は、特に限定されないが、例えば高分子系材料から構成されてもよい。マスクブランクスケース100に用いられる高分子系材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、アクリロニトリルブタジエンスチレンが挙げられる。この中でも特に、低アウトガス性を有するという理由から、マスクブランクスケース100の構成材料としては、ポリカーボネートがより好ましい。
【0029】
なお、本実施形態においては、ケース本体1と上蓋3とを上記の構成としたが、この構成に限定されず、ケース本体1と上蓋3とはヒンジなどで接続されていてもよい。また、本実施形態に係るマスクブランクスケースは、1枚のマスクブランクスを収納する枚葉平置きケースとすることもできる。また、本実施形態に係るマスクブランクスケースは、マスクブランクス以外の物品も収納してもよい。また、上記のマスクブランクスケース100は、一例に過ぎず、マスクブランクスを収納できるものであれば、マスクブランクスケースの形状および材質は特に限定されない。
【0030】
[封止テープ]
次に、本実施形態に係る封止テープ20について詳細に説明する。
図4に、本実施形態に係る封止テープ20の主面に直交する平面における概略的な断面図を示す。本実施形態に係る封止テープ20は、
図4に示すように、基材21と粘着剤層23と融着防止剤25とを含む。
【0031】
基材21の一方の面21a上には、粘着剤層23が形成されている。粘着剤層23の一方の面23aは基材の面21aと向き合う。基材21の一方の面21aと粘着剤層23の一方の面23aとは封止テープ20の厚さ方向内側として外部に露出せず、分離されることはない。粘着剤層23の他方の面23bは、封止テープ20の外部に露出している。基材21の面のうちで、粘着剤層23が形成されていない方の面21bは封止テープ20の外部に露出している。
【0032】
基材21には粒状の融着防止剤25が練り込まれている。基材21の面21bには、基材21に含まれる粒状の融着防止剤25の一部が露出している。封止テープ20の主面は、基材21の面21bおよび粘着剤層23の面23bとも換言できる。
【0033】
封止テープ20は、マスクブランクスケース100表面に貼り付けられた際に、粘着剤層23の他方の面23bが、ケース本体1と上蓋3とを密閉するようにマスクブランクスケース100表面に貼り付けられる。この際、封止テープ20は、基材の一方の面21aがマスクブランクスケース100表面とは密着しない。なお、封止テープ20がマスクブランクスケース100に巻回された際に、封止テープ20の一部では、直接ケース本体1と上蓋3とに密着せず、マスクブランクスケース100に貼り着けられた封止テープ20にさらに貼り着けられる。この場合、基材21の面21bの上から粘着剤層23の面23bが貼り着けられる。
【0034】
また、後述するように保管用に巻回されている封止テープ20においては、外周側の基材21の面21bに対して粘着剤層23の面23bが貼り着けられている。従って、巻回された封止テープ20をマスクブランクスケース100に貼り着けようとする場合には、内周側の基材21の面21bから、外周側の粘着剤層23の面23bを剥離する。また、マスクブランクスケース100に貼り着けられてマスクブランクスケース100を密閉している封止テープ20を剥がす場合には、内周側の基材21の面21bから、外周側の粘着剤層23の面23bを剥離する。
【0035】
封止テープ20は、ケース本体1内部への外気流入を防ぐため、密着性能が高いものが望ましい。さらに、マスクブランクスケース100の密封及び開封を容易とするため、封止テープ20は全体として伸縮率が高いものが望ましい。
【0036】
(基材)
封止テープ20の基材21としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、などが好ましく用いられる。この中でも、低アウトガス性を有するという理由から、基材21としてはポリエチレンテレフタラート樹脂(PET)又はポリエチレン樹脂(PE)がより好ましい。
【0037】
基材21の厚さは、引張強度の観点から、20~50μmが好ましい。また、基材21の幅は、蓋-本体嵌合部の密閉という観点から、50~60mmが好ましい。基材21の厚さは、JIS Z 0237の粘着テープ・粘着シート試験方法に基づき、JIS B 7503に規定するダイヤルゲージで測定する。基材の幅は、JIS Z 0237の粘着テープ・粘着シート試験方法に基づき、JIS B 7507に規定する最小読取値0.05 mmのノギス、JIS B 7512に規定する鋼製巻尺、又はJIS B 7516に規定する金属製直尺で測定する。基材21の厚さとは、基材21の面21aと面21bとの間の距離を意味し、基材21の幅とは、基材21の厚さ方向と直交しかつ、基材21の長尺方向と直交する方向における長さを意味する。
【0038】
(粘着剤層)
封止テープ20の粘着剤層23としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ゴム(ラバー)などが好ましく用いられる。この中でも、材料設計の自由度が高いという理由から、粘着剤層23としてはアクリル系樹脂がより好ましい。
【0039】
粘着剤層23の厚さは、粘着力の観点から、20~30μmが好ましい。粘着剤層23の厚さは、JIS Z 0237の粘着テープ・粘着シート試験方法に基づき、JIS B 7503に規定するダイヤルゲージで測定する。また、粘着剤層23は基材21の面全体に設けられていてもよく、例えば特定のパターンで基材21の面の一部に設けられていてもよい。
【0040】
(融着防止剤)
本実施形態に係る封止テープ20では、粘着剤層23が設けられた面21aとは反対側の基材21の面21bに露出するように、粒状の融着防止剤25が多数埋め込まれている。なお、融着防止剤は表面だけでなく、基材内部にも存在して良い。封止テープ20では、粘着剤層23が設けられていない基材21の面21bにおいて、基材21表面の単位面積当たりの融着防止剤25の個数が1000~2500個である。基材21表面の単位面積当たりの融着防止剤25の個数が1500~2000個であることがより好ましい。ここで、単位面積とは、1cm2を意味する。
【0041】
基材21表面の単位面積当たりの融着防止剤25の個数は、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製 SU-70など)を用いて表面のSEM観察を行い、任意面積の融着防止剤数を目視でカウントし算出する。
【0042】
ここで、融着防止剤25が基材21表面に露出しているとは、巻回された封止テープ20を剥離する、あるいは、マスクブランクスケース100から封止テープ20を剥離するなど、基材21の面21bと貼り合わされた粘着剤層23の面23bとを剥離するなど、封止テープ20に応力を印加した際に、基材21から粒状の融着防止剤25が分離する範囲を含むものであり、基材21の表面付近に融着防止剤25が潜っている状態で目視が可能な状態も含むものである。
【0043】
封止テープ20は長尺であるため、基材21と粘着剤層23が交互に重ね合わされるように、ロール状に巻かれた状態で保管される。融着防止剤25は、封止テープ20の保管中に、基材21と重ね合わされた粘着剤層23とが融着して剥離が難しくならないように機能する。そのため、融着防止剤25は、基材21の面21bの表面の単位面積当たり1000個以上存在していることが好ましい。
【0044】
また、基材21と重ね合わされた粘着剤層23とを剥離した際に、マスクブランクス5の汚染源となる融着防止剤25が粉塵として周囲に放出されてしまう、あるいは、封緘したケース本体1と上蓋3とを開放する際に融着防止剤25が粉塵として周囲に放出されてしまう、さらに、発塵を抑制するため、融着防止剤25は、面21bの表面の単位面積当たり2500個以下であることが好ましい。特に、外部空間に放出される融着防止剤25が多くなると、粉塵として周囲に放出された融着防止剤25が、清浄環境であるクリーンルーム(作業空間)を汚染し、汚染された作業空間でマスクブランクスケース100を開放することで、マスクブランクス5の表面に付着して、欠陥の原因となるため好ましくない。
【0045】
あるいは、粉塵として周囲に放出された融着防止剤25が、マスクブランクスケース100の密閉・開放作業をする作業員に付着して、これがさらに再拡散し、汚染された作業空間でマスクブランクスケース100を開放することで、マスクブランクス5の表面に再付着する、等の不具合が起こる可能性があるため好ましくない。これらの融着防止剤25の飛散は、マスクブランクスケース100の密閉作業、および、密閉後の再開放作業のいずれにおいても発生する可能性がある。
【0046】
基材21の面21b上で観察できる融着防止剤25は、その一部が基材21の内部に埋没し、その一部が基材21の外部に露出している。このような融着防止剤25を基材21の面21b側から見ると、基材21の表面上に融着防止剤25が露出して見える。なお、全体が基材21の内部に埋没し、基材21の表面からは確認できない融着防止剤25も存在する。
【0047】
ここで、基材21表面(面21b)における融着防止剤25の含有率は、SEM等によって撮影した基材21の面21bにおける、基材21の表面の面積に対する融着防止剤25の面積の割合として規定することもできる。この場合、基材21の表面の面積に対する基材21の表面に露出する融着防止剤25の面積の割合は、0.30~1.00%である。より好ましくは、基材21の表面の面積に対する基材21の表面に露出する融着防止剤25の面積の割合は0.30~0.70%の範囲とすることができる。
【0048】
基材21の表面の面積に対する基材21の表面に露出する融着防止剤25の面積の割合は、任意面積のSEM像より融着防止剤粒径を計測しかつ、融着防止剤の数をカウントし単位面積あたりの面積の割合に換算する。
【0049】
なお、基材21表面に露出している融着防止剤25がこれらの条件を満たしていれば、基材21の厚さ方向の内部に練り込まれている融着防止剤25の個数、面積又は粒径は、特に限定されない。
【0050】
融着防止剤25は、
図4に示すように基材21において粘着剤層23が設けられていない側の面に露出していればよいが、基材21の厚さ方向の中央部にも融着防止剤25が存在してもよい。また、粘着剤層23が設けられている面21a側にも融着防止剤25が存在してもよい。
【0051】
融着防止剤25としては、剥離容易性、作業空間への影響抑制、マスクブランクス5に付着した際の洗浄容易性、さらに、裏面側の基材との融着を防止するという観点から、チタン含有粒子、カルシウム含有粒子、シリコン含有粒子などが好ましく用いられる。融着防止剤25は、酸化ケイ素、酸化チタンおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種からなることが好ましい。
【0052】
なお、基材21は、
図5に示すように、融着防止剤25を含まない層21Aと融着防止剤25を含む層21Bとを有してもよい。
【0053】
なお、本実施形態に係る封止テープ20では、封止テープ20の使用時において、粘着剤層23の表面に付着している融着防止剤25の個数が1000個以下であることがより好ましい。これにより発塵を抑制できるという利点がある。封止テープ20の使用時とは、封止テープ20をロール状に巻かれた状態から展開した状態とする時点を意味する。
【0054】
特に、マスクブランクスケース100を封止するために、マスクブランクスケース100表面等に貼り着ける際には、封止テープ20は、多少なりとも引張される。このため、密閉するために、マスクブランクスケース100表面等に封止テープ20を貼り着けた場合には、封止テープ20に引張応力が作用して、引っ張られた基材21の面21bでも、埋め込まれていた融着防止剤25の観測状態が変化する可能性がある。
【0055】
封止テープ20の製造方法は、特に限定されないが、例えば、溶剤によって流動体となっている基材樹脂に融着防止剤となる粒子を含有させ、練り込み等必要な成形をおこなった後に乾燥させて溶剤を飛ばすことによって融着防止剤25が含まれる基材21を製造する工程を含む。また、さらに、基材の面21aに粘着剤を塗布して成形することによって、基材21の面に粘着剤層23を形成する工程を含む。なお、基材21が融着防止剤を含まない層を有する場合には、融着防止剤を含む層と融着防止剤を含まない層とを積層する工程を含む。粘着剤層23が複数からなる場合には、それぞれの層を積層する工程を含む。なお、封止テープ20の製造方法は上記に限定されない。
【0056】
なお、上記実施形態において、ガラス基板などの透光性基板の全面に遮光性膜などの金属層を形成した段階のもの、透光性基板の全面に金属層およびレジスト層を積層した段階のもののいずれについてもマスクブランクスと称する。
【0057】
上記実施形態に係るマスクブランクスケース内にマスクブランクス基板を収納して、封止テープによってマスクブランクスケースを封止した状態で、マスクブランクスケースを保管・輸送してもよい。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例では、基材に融着防止剤が配合された封止テープAと粘着剤層に融着防止剤が配合された封止テープBについて、テープ使用時(剥がしたとき)の発塵を測定した。
【0059】
具体的には、封止テープAは以下の構成とし、基材を作成する際に、基材の原料となる以下の流動状態の樹脂に融着防止剤の原料となる酸化シリコン粒子を混合し、溶剤を飛ばして乾燥することで基材を作成した。その後、基材の片面に、以下の液状樹脂を塗布・乾燥することにより粘着剤層を形成した。
封止テープBでは、基材の原料となる半硬質塩化ビニルから基材を作成した。その後、基材の片面に、以下の融着防止剤を混ぜた以下の液状樹脂を塗布・乾燥することにより粘着剤層を形成した。すなわち、封止テープAが本発明に係る封止テープであり、封止テープBが従来の封止テープである。
【0060】
封止テープA
基材:ポリエチレンテレフタレート(PET)(厚さ25μm)
粘着剤層:アクリル系樹脂(厚さ20μm)
融着防止剤:酸化シリコン(粒径2.5μm)
【0061】
封止テープB
基材:半硬質塩化ビニル(PVC)
粘着剤層:ラバー系
(基材と粘着剤層の合計厚さ:0.1mm)
融着防止剤:酸化チタンと酸化カルシウムの混合粒子(粒径1~3μm)
【0062】
また、基材の表面における融着防止剤の個数と面積の割合を算出した。まず、封止テープAと封止テープBとにおいて、粘着剤層表面と基材表面とのSEM画像を撮影した。この画像を、それぞれ
図6~
図9に示す。ここで、
図6は、封止テープAの基材表面のSEM画像であり((A)は倍率が1000倍、(B)は倍率が5000倍)、
図7は、封止テープAの粘着剤層表面のSEM画像である((A)は倍率が1000倍、(B)は倍率が20000倍)。
図8は、封止テープBの基材表面のSEM画像であり((A)は倍率が1000倍、(B)は倍率が5000倍)、
図9は、封止テープBの粘着剤層表面のSEM画像である((A)は倍率が1000倍、(B)は倍率が5000倍)。なお、封止テープは実際の使用時と同様にロール状に巻かれた状態から展開したため、粘着剤層に融着防止剤を有する封止テープBの基材表面においても、粘着剤層に由来する融着防止剤が付着していた。
【0063】
これらのSEM画像から融着防止剤の粒径を計測しかつ、融着防止剤の個数を目視でカウントし、単位面積あたりの融着防止剤の個数および面積に換算した。使用した装置は、株式会社日立ハイテク製 SU-70形走査電子顕微鏡(加速電圧:15kV、W.D. 15.0mm、観察範囲:85umx125um)であった。このような手段で、各封止テープの基材側の表面における、単位面積当たりの上記融着防止剤の個数、ならびに基材表面の面積に対する基材表面に露出する上記融着防止剤の面積の割合を算出した。
【0064】
封止テープAでは、単位面積における融着防止剤の占有率、すなわち基材表面の面積に対する基材表面に露出する融着防止剤の面積の割合が0.457%であった。封止テープBでは、単位面積における融着防止剤の占有率が3.28%であった。基材面の融着防止剤占有率を比較しても、封止テープAの方が融着防止剤量も少ない。このため、封止テープの貼り付け作業時に、ケースや基板、作業者の手袋などに融着防止剤がついてしまうリスクが小さくなる。例えば、
図6と
図8とを比較すると、封止テープBに比べて、封止テープAのほうが、基材表面に露出している融着防止材が少ないことがわかる。また、
図7と
図9とを比較すると、封止テープBに比べて、封止テープAのほうが、粘着剤層表面に付着している融着防止材が少ないことがわかる。
【0065】
封止テープAおよび封止テープB共に、実験用のテープの幅は50mm、長さは1mとした。封止テープAおよび封止テープBのそれぞれについて、実験用のテープを樹脂ケースに対して貼り付け、気中パーティクル測定器(リオン株式会社製 KC-31)を封止テープから10cmの距離に近づけ、封止テープを剥がした際のパーティクル数の確認を行った。
【0066】
ここで、テープ使用時(剥がしたとき)の発塵の測定は、巻回された状態から上記の長さの封止テープを全て剥離して剥がした後、30秒以内に10cmの距離でおこなった。なお、これらの測定は、クラス1,00のクリーンルーム内でおこなった。
この結果を下記の表1に示す。
【0067】
【0068】
表1の結果より、本発明に係る封止テープAの方が、封止テープを剥がした際の発塵が少ないことが理解できる。
【0069】
(実施例2)
本実施例では、マスクブランクスケースに収めたマスクブランクス基板の増加欠陥について検討した。本実施例では、実施例1と同じ封止テープAおよび封止テープBを用いた。
まず、基板を5枚収納したマスクブランクスケースを、封止テープAを用いて封止した。次いで、封止テープAを剥がし、ハンドリング治具を用いて基板を他のケースに移した。そして、他のケースに移した基板を、再度元のケースへ移して、封止テープAで封止した。以上を10回繰り返し、基板の増加欠陥を確認した。
ここで、基板の増加欠陥とは、上記の操作後の欠陥数から操作前の欠陥数を引いたものである。基板の欠陥数は、検査機(レーザーテック株式会社製 MAGICS1320U)を用いて確認した。
【0070】
上記と同様の作業を封止テープBについても実施し、基板の増加欠陥を確認した。その結果を
図10に示す。
図10の縦軸は、基板5枚の平均の増加欠陥(欠陥数/個)を示している。
図10に示すように、封止テープAでは増加欠陥がないのに対して、封止テープBでは、基板への異物増加があることから、上記のようなマスクブランクスケースの封止作業が原因で発塵していることがわかった。
【0071】
(実施例3)
本実施例では、実施例2で用いた封止テープBの各基板について、増加欠陥のSEM/EDX分析を実施した。具体的には、EDX(株式会社堀場製作所製 エネルギー分散形X線分析装置EX-250)を用いた成分分析により、欠陥成分を確認した。この成分分析において、融着防止剤(酸化チタン:TiO)成分を検出したことから、基板への融着防止剤の転着が封止テープに由来するものであることが確認できた。
本発明に係る封止テープによれば、マスクブランクスの欠陥品質の低下の要因となるパーティクル源の発生を抑制できるため、産業上極めて有用である。また本発明に係るマスクブランクスケースおよびマスクブランクスケースの封止方法は、マスクブランクスの欠陥品質の低下を抑制できるため、産業上極めて有用である。