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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062614
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】光導波路素子および光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/065 20060101AFI20230426BHJP
   G02F 1/07 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
G02F1/065
G02F1/07 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172686
(22)【出願日】2021-10-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】赤司 保
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA00
2K102DA04
2K102DB04
2K102DB05
2K102DC08
2K102DD01
2K102EA02
2K102EB11
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】スロット溝外部への電気光学型ポリマ材料の拡散を防止できること。
【解決手段】基板のSiO2層100にはスロット溝101が溝形成される。スロット溝101には一対の電極110が配置され、スロット溝101には、EOポリマ材料410が充填される。SiO2層100の表面100aには、スロット溝101の外側に,スロット溝101の長さ方向に沿って段差部102が形成される。段差部102は、スロット溝101に充填されたEOポリマ材料410が表面張力によりスロット溝101から側壁を這い上がりSiO2層100の表面100aで拡散することを防止する。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成されたスロット溝と、
前記スロット溝に配置された一対の電極と、
前記スロット溝に充填される電気光学型ポリマ材料と、
前記スロット溝の外側に、前記スロット溝の長さ方向に沿って形成された段差部と、を有することを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記段差部は、前記基板の前記スロット溝の幅方向上に形成されたへこみ部により、前記スロット溝と前記へこみ部との間に形成されることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記段差部は、前記基板の前記スロット溝の幅方向上で、前記スロット溝から所定幅離れた位置に突出形成された壁部であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記スロット溝の底部に、前記一対の電極の両側部に形成された一対の突部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記突部は、前記スロット溝の底部の位置における前記電気光学型ポリマ材料の必要な厚み以上の高さを有することを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記突部は、前記一対の電極の両側部にそれぞれ複数設けられることを特徴とする請求項4または5に記載の光導波路素子。
【請求項7】
前記突部は、前記一対の電極に長さ方向に沿った板状、あるいは複数の柱状の突起からなることを特徴とする請求項4~6のいずれか一つに記載の光導波路素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載の光導波路素子をマッハツェンダー型干渉計に用いたことを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子および光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信ネットワークの伝送容量の増大に対応するため、光変調器が高速化されている。超高速な光通信を実現可能な光変調器として、従来のLiNbO3(ニオブ酸リチウム)よりも高い電気光学効果を有し、かつ広帯域性を有する電気光学型ポリマ材料(Electro-Optic、EOポリマ材料と称する)を用いた光変調器が提案されている。近接する2本の導電性電極間にEOポリマ材料を設けた光変調器は、低駆動電圧および耐熱性を有する。
【0003】
EOポリマ材料を用いた光変調器としては、例えば、Si(シリコン)基板のSiO2(シリカ)層にスロット溝を形成し、スロット溝の底面に一対の電極を対向して設け、スロット溝にEOポリマ材料を充填してなるものがある(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-43263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光変調器では、スロット溝内だけにEOポリマ材料を留まらせることが難しく、スロット溝外部に拡散してしまう。例えば、スロット溝の幅は光変調の特性を確保するため、数十ミクロン程度が望ましいが、スロット溝の幅がEOポリマのディスペンサノズルの内径よりも狭い場合や、EOポリマ材料の溶液が低濃度の場合、ディスペンサノズルから吐出したEOポリマ材料がスロット溝外部のSiO2層上に流れ出して拡散する。Si基板の表面に搭載された他の素子や電極等にEOポリマ材料が付着すると、次工程での組み立てや信頼性に影響を与える。
【0006】
一つの側面では、本発明は、スロット溝外部への電気光学型ポリマ材料の拡散を防止できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施態様によれば、基板に形成されたスロット溝と、前記スロット溝に配置された一対の電極と、前記スロット溝に充填される電気光学型ポリマ材料と、前記スロット溝の外側に、前記スロット溝の長さ方向に沿って形成された段差部と、が形成された光導波路素子および光変調器が提案される。
【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、スロット溝外部への電気光学型ポリマ材料の拡散を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分断面図である。
図2図2は、実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分平面図である。
図3図3は、マッハツェンダー型干渉計部分を示す平面図である。
図4A図4Aは、光導波路素子にEOポリマ材料を充填した状態を示す図である。(その1)
図4B図4Bは、光導波路素子にEOポリマ材料を充填した状態を示す図である。(その2)
図5図5は、マッハツェンダー型干渉計部分の光強度分布を示す図である。
図6図6は、スロット溝の部分拡大図である。
図7図7は、光変調器の構成例を示す図である。
図8図8は、他の実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分断面図である。
図9A図9Aは、他の実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分平面図である。(その1)
図9B図9Bは、他の実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分平面図である。(その2)
図10図10は、実施の形態と対比用の従来の光導波路素子の構成例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明にかかる光導波路素子および光変調器の実施の形態を詳細に説明する。実施の形態では、光導波路素子としてEOポリマ材料を用いた光変調器を例に説明する。光変調器は、光伝送の光送信部に設けられ、入力される電気信号を光信号に変換して光送信する。
【0011】
(光導波路素子の構成例)
図1は、実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分断面図、図2は、実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分平面図である。基板の表面のSiO2層100には、幅方向Xに所定幅を有し、長さ方向Yに所定長さを有するスロット溝101が形成されている。
【0012】
基板は、例えば、Si基板と、Si基板の表面に形成されたSiO2層100と、を含む。図1には、基板の最も表面側に位置するSiO2層100を示している。スロット溝101は、例えば、光変調器のマッハツェンダー型干渉計の構成の一部である。以下、先ず、スロット溝101周囲の構造について説明し、光変調器の各部の構成については後述する。
【0013】
スロット溝101の底面101bの中央部分には、X方向に所定間隔を有し、Y方向に連続する一対の電極110が設けられる。また、SiO2層100の表面100aには、スロット溝101の両側部にそれぞれ、スロット溝101の長さ方向(Y方向)に連続する段差部102が形成されている。
【0014】
図1に示す例では、基板の表面において、スロット溝101の幅方向(X方向)の両側部に、スロット溝101から所定距離離れてスロット溝101の長さ方向(Y方向)に連続するへこみ部103が設けられる。へこみ部103を設けることにより、スロット溝101とへこみ部103との間には、スロット溝101の長さ方向(Y方向)に連続する段差部102が形成される。
【0015】
図3は、マッハツェンダー型干渉計部分を示す平面図である。図3は、光変調器のうち、図1図2に部分構造を示した光導波路素子を用いたマッハツェンダー型干渉計300の部分を示す。マッハツェンダー型干渉計300のスロット溝101内の電極110(図1参照)に電圧を印加することで、光導波路301内を伝搬する光を変調する。
【0016】
光導波路301は、2本のアームの光導波路に分岐された後、再び光導波路に結合して光出力される。図1の部分断面図は、図3に示す分岐された一方の光導波路部分のA-A線断面に相当する。
【0017】
これら図1図3において、例えば、スロット溝101の幅Wは30μm程度であり、深さDは10μm以下程度であり、長さLは数mm程度である。また、例えば、電極110の高さhは0.3μm程度である。また、例えば、へこみ部103の深さは数nm~数μm程度である。
【0018】
図4A図4Bは、光導波路素子にEOポリマ材料を充填した状態を示す図である。図4A図4Bは、段差部102の異なる構成例を示す。図4Aにおいて、図1に示したスロット溝101の上部にディスペンサを位置させ、スロット溝101の長さ(Y方向)に沿ってディスペンサを移動させながらディスペンサノズル401からスロット溝101内部にEOポリマ材料410を充填していく。
【0019】
図4Aに示すように、ディスペンサノズル401のノズル内径W1は40μm程度であり、現状、スロット溝101の幅Wよりも広い。ディスペンサノズル401から液体の状態で吐出させたEOポリマ材料410は、スロット溝101内の電極110の間、および電極110上に充填される。EOポリマ材料410は、スロット溝101内部において断面がメニスカス形状を有して形成され、その後溶液が揮発して硬化する。ここで、EOポリマ材料410は、スロット溝101の底面101bから所定の高さ(厚み)h1を有して形成する必要がある。
【0020】
図5は、マッハツェンダー型干渉計部分の光強度分布を示す図である。EOポリマ材料410を用いた光導波路301は、一対の電極110を中央として、電極110の高さhの2倍程度の楕円形の光強度分布を有する。
【0021】
このため、図4Aに示すEOポリマ材料410の底面101bからの必要な厚みh1は、電極110の高さhの2倍程度とすることが好ましい。例えば、電極110の高さhが0.3μmの場合、EOポリマ材料410の底面101bからの必要な厚みh1は0.6μm程度とする。
【0022】
スロット溝101内でのEOポリマ材料410の厚みh1が薄いと、伝搬する光が散乱して伝搬損失が生じる。伝搬損失を低減するためには、EOポリマ材料の厚みh1が0.6μm程度必要である。ここで、EOポリマ材料410の厚みh1が厚い場合、乾燥収縮時の応力により界面からの剥がれや割れが発生する。光導波路301内に剥がれや割れが発生すると伝搬損失が生ずる。例えば、EOポリマ材料410の界面からの剥離等を抑えるには、EOポリマ材料410を低濃度の溶液とし、1回の膜厚を薄く塗ることが考えられる。
【0023】
ここで、単に、スロット溝101内部に低濃度のEOポリマ材料410を塗布した場合、表面張力の影響によりスロット溝101の側壁へのEOポリマ材料410の這い上がりが生じる。EOポリマ材料410は、溶液が低濃度(低粘度)になるほど、スロット溝101の側壁への這い上がりが増える。この際、スロット溝101内でEOポリマ材料410の厚みh1を確保するためには塗布回数が増加し、また、スロット溝101の側壁でのEOポリマ材料410の厚みが増えた部分からEOポリマ材料410のひび割れが発生しやすくなる。
【0024】
また、EOポリマ材料410の拡散により、スロット溝101内部のEOポリマ材料410の液量が減る。この場合、光導波路301(スロット溝101)内でのEOポリマ材料410の厚みh1を確保することが難しくなり、光学特性を劣化させる。
【0025】
この課題に対し、実施の形態では、EOポリマ材料410の厚みh1を必要量確保し、かつ均一化させ、SiO2層100の表面100aでの拡散を防止する構造を提供する。例えば、EOポリマ材料410を低濃度の溶液とし、1回の膜厚を薄く塗った場合であっても、スロット溝101の側壁への這い上がり後のSiO2層100の表面100aでの拡散を防止する。
【0026】
図4Aに示すように、スロット溝101部分にEOポリマ材料410を充填した際、スロット溝101内に入ったEOポリマ材料410は、表面張力によりスロット溝101の両側壁を擦り上がるように移動して断面がメニスカス形状となる。その結果、スロット溝101内のEOポリマ材料410が表面張力によりスロット溝101の側壁へ這い上がりが生じる。
【0027】
ここで、実施の形態では、基板の表面において、スロット溝101の両側部にそれぞれ、スロット溝101の長さ方向(Y方向)に沿って段差部102が設けられている。図4Aに示す段差部102は、基板の表面、例えば、SiO2層100の表面100aに形成したへこみ部103により、スロット溝101とへこみ部103との間に形成されている。
【0028】
例えば、へこみ部103は、SiO2層100上にへこみ部103以外の箇所にマスクを配置し、エッチングすることで形成できる。そして、へこみ部103の形成により、スロット溝101とへこみ部103との間には所定幅Waを有する段差部102が形成される。段差部102の表面の高さ位置は、SiO2層100の表面100aと同じ高さ位置である。
【0029】
段差部102を設けることにより、スロット溝101の両側壁を擦り上がったEOポリマ材料410は、幅方向(X方向)で見て、段差部102の部分に留まる。EOポリマ材料410は、段差部102の外側端部102a(へこみ部103の内側端部)でいわゆるピン止め効果により塗れ性が悪くなり、表面張力により段差部102部分で盛り上がった形で留まる(符号410a)。
【0030】
段差部102(へこみ部103)を設けることで、段差部102は、SiO2層100の表面100aでのEOポリマ材料410の拡散を防止する。段差部102は、スロット溝101の長さ方向(Y方向)全域において、スロット溝101の幅方向(X方向)の両側部において外部(SiO2層100の表面100a)へのEOポリマ材料410の拡散を防止する。
【0031】
図4Bには、段差部102の他の構成例を示す。図4Bに示す段差部102は、基板の表面、例えば、SiO2層100の表面100aに形成した壁部403を含む。図4Bでは、ディスペンサノズル401の記載を省略している。
【0032】
壁部403は、SiO2層100の表面100aのスロット溝101の幅方向上で、スロット溝101から所定幅Wa離れた位置に形成される。例えば、壁部403は、SiO2層100上の壁部403の箇所にマスクを配置し、エッチングすることで形成できる。そして、壁部403の表面の高さ位置は、SiO2層100の表面100aより高い位置となる。
【0033】
段差部102(壁部403)を設けることにより、スロット溝101の両側壁を擦り上がったEOポリマ材料410は、幅方向(X方向)で見て、段差部102(壁部403)の部分に留まる。
【0034】
図4B(a)に示すように、EOポリマ材料410は、擦り上がったEOポリマ材料の量が少ない場合は、壁部403のスロット溝側の壁部403aで留まる(符号410b)。一方、図4B(b)に示すように、EOポリマ材料410は、擦り上がったEOポリマ材料の量が多い場合は、壁部403の外側端部403bでいわゆるピン止め効果により塗れ性が悪くなり、表面張力により壁部403部分で盛り上がった形で留まる(符号410c)。
【0035】
段差部102(壁部403)を設けることで、SiO2層100の表面100aでのEOポリマ材料410の拡散を防止する。段差部102は、スロット溝101の長さ方向(Y方向)全域において、スロット溝101の幅方向(X方向)の両側部において外部(SiO2層100の表面100a)へのEOポリマ材料410の拡散を防止する。
【0036】
図4A図4Bに示した例では、段差部102の表面は、平坦な形状とした。図4Aに示す例の段差部102は、へこみ部103の底面が平坦であり、図4Bに示す例の段差部102は、壁部403の上面が平坦とした。これに限らず、段差部102は、ピン止め効果が得られる各種形状としてもよく、例えば、段差部102は、三角(△)等の頂点を有し側壁が傾斜する形状や、側壁が円弧状あるいは複数段の階段状に形成してもよい。例えば、図4Aに示す例の段差部102は、へこみ部103を逆三角(▽)形状としてもよい。また、図4Bに示す例の段差部102は、壁部403を三角(△)形状としてもよい。
【0037】
図4A図4Bに示した段差部102を設けることで、EOポリマ材料410がSiO2層100の表面100a上で段差部102を超えて幅方向(X方向)に拡散することを防止する。これにより、SiO2層100の表面100a上に搭載された他の素子の汚染を防ぐことができる。
【0038】
同時に、スロット溝101に充填したEOポリマ材料410をスロット溝101の外部に流れ出すことを抑えることができた分、スロット溝101内部にEOポリマ材料410を留まらせることができる。そして、スロット溝101内部でEOポリマ材料410に必要な厚みh1を確保できるようになる。また、EOポリマ材料410の塗布回数を削減でき、その分EOポリマ材料410の使用量を削減でき、製造の工数も削減できるようになる。
【0039】
図6は、スロット溝の部分拡大図である。図6の構成例では、基板は、Si基板601の表面に形成されたSiO2層602と、SiO2層602の表面に形成されたSi層603と、Si層603の表面に形成された上記のSiO2層100とを含む。SiO2層100上にマスクを配置し、エッチングすることでスロット溝101を形成できる。なお、SiO2層の上にさらにSiNなどの表面層を設けても良い。
【0040】
スロット溝101の幅方向(X方向)中央部には、一対の電極110が形成され、一対の電極110により光導波路301が形成される。一対の電極110間には、SiO2層100部分まで溝610が掘り込み形成される。溝610の幅は、例えば、100nm程度である。
【0041】
スロット溝101内部には、2本の電極110の間の小さな溝610、および電極110上に、EOポリマ材料410が充填される。スロット溝101内部にEOポリマ材料410が充填された状態で、2本の導電性の電極110に電圧を加えることで、EOポリマ材料410の屈折率nが変化し、光学的な光路長ndが変化する。
【0042】
図3に示したマッハツェンダー型干渉計300の2本のアームで適切な電圧差を与えることで干渉計の干渉条件が変化し、光変調を行うことができる。なお、EOポリマ材料410がスロット溝101に充填された状態で、光導波路301の光伝搬損失が小さくなるように2本の電極110の形状が設計される。
【0043】
図7は、光変調器の構成例を示す図である。図7には、上記の光導波路素子(光導波路301)を有する集積型の光変調器700として、シンボルレート96Gbaud/secのDP-QPSK用のEOポリマ光変調器の例を示す。
【0044】
光変調器700は、光送信部700Aと、光受信部700Bの機能を有する。光変調器700は、マッハツェンダー型干渉計300、Geドープ型の受光素子702、90度ハイブリッド素子703、偏波スプリッタ704、偏波コンバイナ705、偏波ローテータ706、等の素子を集積して設けられる。
【0045】
光送信部700Aは、マッハツェンダー型干渉計300、偏波コンバイナ705、偏波ローテータ706、不図示のドライバ等を含む。ドライバは、マッハツェンダー型干渉計300に対し送信データを出力し、変調方式に応じて電極110の電圧を変化させることで、干渉条件を変化させる。
【0046】
光受信部700Bは、Geドープ型の受光素子702、90度ハイブリッド素子703、偏波スプリッタ704、偏波ローテータ706等を含む。これらの素子300,702~706は、Si基板601上に形成され、シリコンフォトニクス素子とも言われる。また、これらの素子間は、光が伝搬する光導波路で接続されている。
【0047】
光送信部700A側において、図7に示す例のマッハツェンダー型干渉計300は、8本の光導波路301からなる。8本の光導波路301は、2つの親マッハツェンダー型干渉計300a,300bと、親マッハツェンダー型干渉計300a,300bそれぞれに設けられる4つの子マッハツェンダー型干渉計と、を含む。
【0048】
Si基板601の光導波路端面710には、不図示の波長可変レーザ光源からの光(CW光)が入射され、入射された光の一部が分岐されてマッハツェンダー型干渉計300で所望の光変調がなされる。マッハツェンダー型干渉計300のうち他方の親マッハツェンダー型干渉計300bの変調信号光は、偏波ローテータ706aにより偏波が90度回転され、偏波コンバイナ705に出射される。
【0049】
偏波コンバイナ705は、一方の親マッハツェンダー型干渉計300aの変調信号光と、他方の親マッハツェンダー型干渉計300bの変調信号光とを偏波合成し、光導波路端面711から変調信号光(送信信号光Tx)として出射する。
【0050】
光受信部700B側において、Si基板601の光導波路端面720からは、敷設された不図示の光伝送ファイバから受信信号光(Rx)が入射され、入射された受信信号光は、偏波スプリッタ704で2つの偏波に分離され、分離された2つの偏波が分岐出力される。
【0051】
偏波スプリッタ704で分離された2つの偏波の受信信号光は、2つの90度ハイブリッド素子703a,703bに入射される。2つの偏波の受信信号光のうち一方は、偏波ローテータ706bで偏波が90度回転され、90度ハイブリッド素子703aに入射される。
【0052】
上記の光導波路端面710から入射された波長可変レーザ光源からの光は、その一部が分岐されて、2つの90度ハイブリッド素子703a,703bに入射される。90度ハイブリッド素子703a,703bは、波長可変レーザ光源からの光をローカル光として用い、ローカル光を参照光として受信信号光の位相状態を光強度に変換する。90度ハイブリッド素子703a,703bの光出力は、Geドープ型の受光素子702で受信される。受光素子702は、受信信号光の偏波の同相成分および直交成分の光強度を検出する。
【0053】
(他の実施の形態)
図8は、他の実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分断面図である。図8に示す光導波路素子において、図1と同様の構成部には同一の符号を付してある。他の実施の形態では、スロット溝101内部でEOポリマ材料410に必要な厚み(高さ)h1を確保する構成例について説明する。
【0054】
他の実施の形態では、基板の表面のスロット溝101の内部に凸部801を設ける。図8に示す例では、スロット溝101の底面101b上で、電極110の両側部に所定高さh2の突部801を設ける。突部801の高さh2は、EOポリマ材料410で必要な厚み(高さ)h1と同じあるいはh1より高い位置とする。例えば、EOポリマ材料410で必要な厚み(高さ)h1が0.6μmの場合、突部801の高さh2は0.6μm以上、例えば0.8μmとする。
【0055】
突部801は、スロット溝101の底面101bを形成する際、マスクおよびエッチングにより形成することができる。また、図8に示すように、電極110の一方および他方の側部にそれぞれ突部801を複数(2個以上)設けてもよい。
【0056】
電極110の側部に突部801を設けることにより、スロット溝101部分に充填した際、EOポリマ材料410は、突部801の表面への表面(界面)張力が生じる。これにより、EOポリマ材料410で必要な厚み(高さ)h1を確保することができる。
【0057】
ここで、突部801の高さh2をEOポリマ材料410で必要な厚み(高さ)h1以上の高さに設定することにより、図8に示すように、電極110部分におけるEOポリマ材料410で必要な厚み(高さ)h1を確保できる。また、突部801の表面へのEOポリマ材料410の界面張力は、EOポリマ材料410のスロット溝101側壁への這い上がりを抑制する。
【0058】
このように、突部801を設けることで、スロット溝101内部の光導波路領域のEOポリマ材料410に必要な厚みh1を確保できるようになる。また、スロット溝101内の中央部(電極110)付近において、EOポリマ材料410の膜厚を厚みh1~h2程度の範囲で均一にできるようになる。例えば、EOポリマ材料410を低濃度の溶液で1回塗った場合であっても、EOポリマ材料410の厚みh1を必要量確保でき、EOポリマ材料410の膜厚を均一にできることで、EOポリマ材料410の割れや剥離を抑制できるようになる。
【0059】
また、EOポリマ材料410の塗布回数を削減でき、その分EOポリマ材料410の使用量を削減でき、製造の工数も削減できるようになる。
【0060】
図9A図9Bは、他の実施の形態にかかる光導波路素子を示す部分平面図である。図9Aに示す例では、突部801aを電極110の長さ方向(Y方向)に沿って連続する形状(例えば板状)とし、この突部801aを電極110の片側あたり2本(2列)設けている。突部801aの配列数は3列以上の複数列としてもよい。
【0061】
また、図9Bに示す例では、電極110の長さ方向(Y方向)に沿って複数の柱状の突部801bを設けている。突部801bは、図9Bのように平面円形状で片側あたり2列の千鳥状に設けている。突部801bの平面形状は円形状に限らず多角形状であってもよいし、配置についても千鳥状の配置に限らず、3列以上の複数列をマトリクス状に整列配置してもよい。
【0062】
(従来技術との対比)
図10は、実施の形態と対比用の従来の光導波路素子の構成例の断面図である。図10では、便宜上、実施の形態と同様の構成部には同じ符号を付してある。従来の光導波路素子において、光導波路素子のスロット溝101の幅を、光伝送の特性確保のために実施の形態同様に狭くしたとする(例えば、30μm)。ここで、現状のポリマ塗布機材としての精密ディスペンサのディスペンサノズルの直径(内径)は、スロット溝101の幅よりも太い(例えば、40μm)。
【0063】
この場合、スロット溝101に塗布したEOポリマ材料410をスロット溝101内だけに留まらせることは難しい。そして、EOポリマ材料410は、スロット溝101内から外部に流れ出してSiO2層100の表面100aの広範囲(図中X)に拡散してしまう。
【0064】
ここで、上記特許文献1等では、スロット溝内をEOポリマ材料で埋める如く示されている。しかし、実際には、スロット溝が微細な幅であり、スロット溝をEOポリマ材料で埋めることはできず、図10に示すように、EOポリマ材料410は、表面張力によりスロット溝101の底部から側壁を這う形となる。
【0065】
これにより、従来技術では、図7に示した光変調器700でスロット溝101が設けられるマッハツェンダー型干渉計300の周囲の表面100aに配置された他の素子等に対し、拡散したEOポリマ材料410が付着してしまう問題があった。他の素子にEOポリマ材料410が付着してしまうと、次の製造工程での装置の組み立てや信頼性に影響が生じた。
【0066】
この点に対し、実施の形態によれば、図2に示したように、スロット溝101の外部に段差部102を設けることで、EOポリマ材料410がSiO2層100の表面100a上で拡散することを防止できる。これにより、SiO2層100の表面100a上に設けられた他の素子に対するEOポリマ材料410による汚染を防ぐことができる。
【0067】
また、図10に示した従来の光導波路素子において、スロット溝101内に入ったEOポリマ材料410は、表面張力により側壁を擦り上がるように移動し、EOポリマ材料410は断面がいわゆるメニスカス形状となる。その結果、スロット溝101内の液量が減り、スロット溝101の底面101bからのEOポリマ材料410の厚みがhxとなり、EOポリマ材料410に必要な厚みh1を確保できず、光導波路の光学特性を劣化させる問題が生じた。
【0068】
この点に対し、実施の形態によれば、図8に示したように、スロット溝101の内部に電極110に隣接して所定高さの突部801を設けることで、スロット溝101内部におけるEOポリマ材料410に必要な厚みh1を確保できるようになる。そして、EOポリマ材料410を適切な厚みで均一化できるため、光導波路の伝搬損失を抑え、光学特性を向上できるようになる。
【0069】
上述した実施の形態において、スロット溝101の両側部に段差部102を設けた構成(図1図4A図4B等参照)と、スロット溝101の内部に突部801を設けた構成(図8等参照)とを組み合わせた構成としてもよい。これにより、EOポリマ材料410がSiO2層100の表面100a上で拡散することを防止でき、かつ、スロット溝101内部におけるEOポリマ材料410に必要な厚みh1を確保できるようになる。
【0070】
以上説明したように、実施の形態の光導波路素子は、基板に形成されたスロット溝と、スロット溝に配置された一対の電極と、スロット溝に充填される電気光学型ポリマ材料と、スロット溝の外側に、スロット溝の長さ方向に沿って形成された段差部と、を有する。段差部は、表面張力によりスロット溝から側壁を這い上がった電気光学型ポリマ材料が基板の表面上で拡散することを防止する。これにより、基板の表面上に設けられた他の素子を電気光学型ポリマ材料で汚染されることを防ぐことができる。また、スロット溝に充填した電気光学型ポリマ材料をスロット溝の外部に段差部を超えて流れ出すことを抑えることができた分、スロット溝内部に電気光学型ポリマ材料を留まらせることができ、スロット溝内で電気光学型ポリマ材料に必要な厚みを確保できるようになる。また、電気光学型ポリマ材料の塗布回数を削減でき、その分電気光学型ポリマ材料の使用量を削減でき、製造の工数も削減できるようになる。
【0071】
また、光導波路素子は、段差部を、基板のスロット溝の幅方向上に形成されたへこみ部により、スロット溝とへこみ部との間に形成してもよい。また、段差部は、基板のスロット溝の幅方向上で、スロット溝から所定幅離れた位置に突出形成された壁部として形成してもよい。このように、基板の表面に形成したへこみ部あるいは壁部により段差部を形成でき、段差部は、例えば、マスクとエッチング等により簡単に形成できる。
【0072】
また、光導波路素子は、スロット溝の底部に、一対の電極の両側部に形成された一対の突部を有してもよい。これにより、スロット溝内部における電気光学型ポリマ材料に必要な厚みを確保できるようになる。そして、電気光学型ポリマ材料を適切な厚みで均一化できるため、塗布後の電気光学型ポリマ材料の割れや剥離を抑制しつつ、光導波路の伝搬損失を抑え、光学特性を向上できるようになる。
【0073】
また、光導波路素子は、突部を、スロット溝の底部の位置における電気光学型ポリマ材料の必要な厚み以上の高さを有して設ける。これにより、スロット溝内で電気光学型ポリマ材料に必要な厚みを得ることができ、また、電気光学型ポリマ材料を均一化できるようになる。
【0074】
また、光導波路素子は、突部を、一対の電極の両側部にそれぞれ複数設けてもよい。これにより、スロット溝の幅方向上で電気光学型ポリマ材料に必要な厚みを得ることができ、また、電気光学型ポリマ材料を均一化できるようになる。
【0075】
また、光導波路素子は、突部を、一対の電極に長さ方向に沿った直線状、あるいは複数の突起により設けてもよい。このように、突部は、各種形成とすることができ、スロット溝内で電気光学型ポリマ材料に必要な厚みを得ることができ、また、電気光学型ポリマ材料を均一化できるようになる。
【0076】
また、上記の光導波路素子をマッハツェンダー型干渉計に用いた光変調器としてもよい。光変調器は、例えば、マッハツェンダー型干渉計と、光源と、ドライバと、偏波コンバイナと、偏波ローテータと、光送信用の光導波路と、を含み構成される。このような光変調器において、上記の光導波路素子を有することにより、光変調器の光学特性を向上できるようになる。
【0077】
上述した光導波路素子は、光導波路のスロット溝内でEOポリマ材料の厚みを確保し、スロット溝外部へのEOポリマ材料の拡散を防ぐ構成を有している。このため、光導波路素子は、上述した光変調器のマッハツェンダー型干渉計の光導波路への適用に限らず、他の光導波路にも同様に適用することができる。
【0078】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0079】
(付記1)基板に形成されたスロット溝と、
前記スロット溝に配置された一対の電極と、
前記スロット溝に充填される電気光学型ポリマ材料と、
前記スロット溝の外側に、前記スロット溝の長さ方向に沿って形成された段差部と、を有することを特徴とする光導波路素子。
【0080】
(付記2)前記段差部は、前記基板の前記スロット溝の幅方向上に形成されたへこみ部により、前記スロット溝と前記へこみ部との間に形成されることを特徴とする付記1に記載の光導波路素子。
【0081】
(付記3)前記段差部は、前記基板の前記スロット溝の幅方向上で、前記スロット溝から所定幅離れた位置に突出形成された壁部であることを特徴とする付記1に記載の光導波路素子。
【0082】
(付記4)前記スロット溝の底部に、前記一対の電極の両側部に形成された一対の突部を有することを特徴とする付記1~3のいずれか一つに記載の光導波路素子。
【0083】
(付記5)前記突部は、前記スロット溝の底部の位置における前記電気光学型ポリマ材料の必要な厚み以上の高さを有することを特徴とする付記4に記載の光導波路素子。
【0084】
(付記6)前記突部は、前記一対の電極の両側部にそれぞれ複数設けられることを特徴とする付記4または5に記載の光導波路素子。
【0085】
(付記7)前記突部は、前記一対の電極に長さ方向に沿った板状、あるいは複数の柱状の突起からなることを特徴とする付記4~6のいずれか一つに記載の光導波路素子。
【0086】
(付記8)付記1~7のいずれか一つに記載の光導波路素子をマッハツェンダー型干渉計に用いたことを特徴とする光変調器。
【0087】
(付記9)光源と、ドライバと、偏波コンバイナと、偏波ローテータと、光送信用の光導波路と、をさらに含むことを特徴とする付記8に記載の光変調器。
【符号の説明】
【0088】
100 SiO2
101 スロット溝
101b スロット溝の底面
102 段差部
103 へこみ部
110 電極
300 マッハツェンダー型干渉計
301 光導波路
401 ディスペンサノズル
403 壁部
410 EOポリマ材料
601 Si基板
700 光変調器
700A 光送信部
700B 光受信部
702 受光素子
703(703a,703b) 90度ハイブリッド素子
704 偏波スプリッタ
705 偏波コンバイナ
706(706a,706b) 偏波ローテータ
801(801a,801b) 突部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10