(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062653
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/14 20060101AFI20230426BHJP
【FI】
C08J9/14 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049085
(22)【出願日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021172174
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】金鹿 渉
(72)【発明者】
【氏名】中村 文香
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊二
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AA33
4F074AA98
4F074AB05
4F074AC02
4F074AC32
4F074AD10
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4F074AG10
4F074BA34
4F074BA38
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4F074BA53
4F074BA75
4F074BA95
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA07
4F074DA12
4F074DA18
4F074DA32
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、優れた断熱性と厚み出し性を有するスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることにある。
【解決手段】 スチレン系樹脂および発泡剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、スチレン系樹脂100重量%においてスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体が20~80重量%含まれ、発泡剤としてハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルが含まれる、スチレン系樹脂押出発泡体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂、および発泡剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、
前記スチレン系樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体を含み、
前記スチレン系樹脂100重量%における前記スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の含有量が20~80重量%であり、
前記発泡剤は、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルを含む、
スチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
前記スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の全ての構成単位100重量%に対して(メタ)アクリル酸由来の構成単位が5~20重量%である、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項3】
前記ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの含有量が、前記スチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して、0.10~1.0molである、請求項1~2のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
前記塩化アルキルの含有量が、前記スチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して、0.10~1.0molである、請求項1~3のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂押出発泡体は、グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上、5.0重量部以下含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項6】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率が0.0224W/mK以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項7】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度が20~60kg/m3である、請求項1~6のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10mm以上150mm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項9】
スチレン系樹脂および発泡剤を溶融混錬してなる発泡性スチレン系樹脂組成物を押出発泡させてスチレン系樹脂押出発泡体を製造する方法であって、次の(a)~(c)を満たすスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法:
(a)前記スチレン系樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体を含み、
(b)前記スチレン系樹脂100重量%における前記スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の含有量が20~80重量%であり、
(c)前記発泡剤は、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィン、塩化アルキルおよび水を含む。
【請求項10】
前記発泡剤は、スチレン系樹脂100重量部に対し、
(c1)前記ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量が3~10重量部であり、
(c2)前記塩化アルキルの添加量が2~6重量部であり、
(c3)前記水の添加量が0.3~1.5重量部である、
請求項9に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡体は、一般に、押出機などを用いてスチレン系樹脂組成物を加熱溶融し、ついで発泡剤を高圧条件下にて添加し、所定の樹脂温度に冷却した後、これを低圧域に押し出すことにより連続的に製造される。
【0003】
スチレン系樹脂押出発泡体は、良好な施工性や断熱性から、例えば構造物の断熱材として用いられる。近年、住宅、建築物などの省エネルギー化の要求が高まり、従来以上の高断熱性発泡体の技術開発が望まれている。
【0004】
高断熱性発泡体を製造する手法としては、熱線輻射抑制剤として、グラファイトや酸化チタンを所定の範囲で添加する製造方法(例えば、特許文献1参照。)や、発泡剤として、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さい環境に優しいフッ素化されたオレフィン(ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィン)や、塩化メチル・塩化エチル等の塩化アルキルを使用するスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-221110号公報
【特許文献2】特表2008-546892号公報
【特許文献3】特開2019-189811号公報
【特許文献4】特開2019-108416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献に記載のスチレン系樹脂押出発泡体において、グラファイトのような熱線輻射抑制剤や、ハイドロフルオロオレフィンのような発泡剤は、発泡体に優れた断熱性を付与できる一方で、強い造核作用によって気泡を微細化し、発泡体に十分な厚みを出させることが難しい課題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、優れた断熱性と厚み出し性とを有するスチレン系樹脂押出発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、特定のスチレン系樹脂および特定の発泡剤を組合せることによって、従来技術では達成できなかった優れた断熱性と、優れた厚み出し性とを両立することを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
【0009】
<1>スチレン系樹脂、および発泡剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、
前記スチレン系樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含み、
前記スチレン系樹脂100重量%における前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の含有量が20~80重量%であり、
前記発泡剤は、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルを含む、
スチレン系樹脂押出発泡体。
<2>前記スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の全ての構成単位100重量%に対して(メタ)アクリル酸由来の構成単位が5~20重量%である、<1>に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<3>前記ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの含有量が、前記スチレン系樹脂押出発泡体 1kgに対して、0.10~1.0molである、<1>~<2>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<4>前記塩化アルキルの含有量が、前記スチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して、0.10~1.0molである、<1>~<3>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<5>前記スチレン系樹脂押出発泡体は、グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上、5.0重量部以下含む、<1>~<4>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<6>前記スチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率が0.0224W/mK以下である、<1>~<5>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<7>前記スチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度が20~60kg/m3である、<1>~<6>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<8>前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10mm以上150mm以下である、<1>~<7>のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
<9>スチレン系樹脂および発泡剤を溶融混錬してなる発泡性スチレン系樹脂組成物を押出発泡させてスチレン系樹脂押出発泡体を製造する方法であって、次の(a)~(c)を満たすスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法:
(a)前記スチレン系樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体を含み、
(b)前記スチレン系樹脂100重量%における前記スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の含有量が20~80重量%であり、
(c)前記発泡剤は、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィン、塩化アルキルおよび水を含む。
<10>前記発泡剤は、スチレン系樹脂100重量部に対し、
(c1)前記ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量が3~10重量部であり、
(c2)前記塩化アルキルの添加量が2~6重量部であり、
(c3)前記水の添加量が0.3~1.5重量部である、
<9>に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた断熱性と厚み出し性とを両立するスチレン系樹脂押出発泡体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献、及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0012】
スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体は、耐熱性および耐薬品性がポリスチレンより優れているため一般的に耐熱性や耐薬品性を付与させる目的で使用されるが、ポリスチレンに類似した性質をベースとして有するため、厚み出し性を向上させる作用が特に優れるとは想定しがたい。ポリスチレン系樹脂に対して発泡剤としてハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンが使用される場合、スチレン系樹脂押出発泡体の気泡が微細化し易くなり、スチレン系樹脂押出発泡体の厚み出し性が損なわれる傾向にある。しかしながら、スチレン系樹脂が少なくとも2種からなり、その1種としてスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体が含有され、かつ、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルを含有する発泡剤が使用されることによって、優れた断熱性を達成できるとともに、優れた厚み出し性も達成できる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「メタクリルおよび/またはアクリル」を意味する。
【0013】
以下に本発明の実施形態について説明する。
【0014】
〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体を特定量含み、発泡剤としてハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルを含むことを特徴とする。
【0015】
(1-1.スチレン系樹脂)
本発明の一実施形態におけるスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂を含み、当該スチレン系樹脂は少なくとも種のブレンドからなり、その一種としてスチレン-(メタ)アクリル共重合体を含む。すなわち、スチレン系樹脂は(i)スチレン-(メタ)クリル酸系共重合体と、(ii)当該(i)以外のスチレン系重合体(以下、「その他のスチレン系重合体」と称する。)を含む。ここで、(ii)その他のスチレン系重合体は、例えば、スチレン系単量体の単独重合体(ポリスチレン)、2種以上のスチレン系単量体の共重合体、又はスチレン系単量体と他の単量体との共重合体が挙げられる。
【0016】
(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体、及び(ii)その他のスチレン系重合体を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が挙げられる。
【0017】
スチレン系単量体や(メタ)アクリル酸以外の単量体としては、ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;アクリロニトリル;ブタジエン等のジエン系化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2)-クロロフェニルマレイミド、N-(4)-ブロモフェニルマレイミド、N-(1)-ナフチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物等があげられる。なお、(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体も、構成単位として当該他の単量体を含んでもよい。
【0018】
その他のスチレン系重合体が含有するスチレン系単量体の量は、その他のスチレン系重合体の構成単位100重量%に対して、80~100重量%が好ましく、90~100重量%がさらに好ましい。
【0019】
スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体が含有するスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸の合計量は、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の構成単位100重量%に対して、80~100重量%が好ましく、90~100重量%がさらに好ましい。
【0020】
(i)スチレン-(メタ)クリル酸共重合体、および、(ii)その他のスチレン系重合体は、各々、1種であってもよいし、2種以上の重合体を組み合わせてもよい。
【0021】
本発明の一実施形態で用いるスチレン系樹脂のMFR、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体、及び/又は(ii)その他のスチレン系重合体は分岐構造を有するものであってもよい。これらは単独で使用してもよく、また、共重合成分、分子量や分子量分布、分岐構造、及び/又はMFRなどの異なる2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
本発明の一実施形態において、(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の含有量はスチレン系樹脂100重量%のうち、20重量%以上80重量%である。スチレン系樹脂押出発泡体の厚み出し性効果を向上させやすい観点から、22重量%以上78重量%以下が好ましく、25重量%以上75重量%以下がより好ましく、30重量%以上70重量%以下がさらにより好ましく、35重量%以上65重量%以下が特に好ましく、40重量%以上60重量%以下がより特に好ましく、45重量%以上55重量%以下が最も好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態において、(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体中に含まれる(メタ)アクリル酸由来の構成単位は、(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体100重量%において5~20重量%が好ましく、5~17重量%がより好ましく、5~15重量%が更に好ましい。(i)スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体中に含まれる(メタ)アクリル酸成分が5重量%未満では、(メタ)アクリル酸成分が少なすぎるため、厚み出し性効果が出にくい場合がある。一方、(メタ)アクリル酸成分が20重量%より多い場合には、(メタ)アクリル酸成分が多すぎるために発泡時の伸びが悪くなり、発泡を阻害する虞がある。
【0024】
本発明の一実施形態において、スチレン系樹脂のMFRが0.1~50g/10分であることが、(i)押出発泡成形する際の成形加工性に優れる点、(ii)成形加工時の吐出量、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の厚み、幅、見掛け密度、及び独立気泡率を所望の値に調整しやすい点、(iii)発泡性(発泡体の厚み、幅、見掛け密度、独立気泡率、及び、表面性などを所望の状況に調整しやすいこと)に優れる点、(iv)外観などに優れたスチレン系樹脂押出発泡体が得られる点、並びに、(v)特性(例えば、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や、靱性など)のバランスがとれた、スチレン系樹脂押出発泡体が得られる点から、好ましい。更に、スチレン系樹脂のMFRは、成形加工性および発泡性と、機械的強度及び靱性とのバランスの点から、0.3~30g/10分が更に好ましく、0.5~25g/10分が特に好ましい。なお、本発明の一実施形態において、MFRは、JIS K7210-1(2014年)のA法、及び、試験条件H(試験温度200℃、荷重5kg)により測定される。
【0025】
(1-2.発泡剤)
本発明の一実施形態におけるスチレン系樹脂押出発泡体は、発泡剤として、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルを含有する。これによりスチレン系樹脂押出発泡体の断熱性が向上する。なお、「ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィン」は、「ハイドロフルオロオレフィン及び/又はハイドロクロロフルオロオレフィン」を意味する。
【0026】
本発明の一実施形態で用いるハイドロフルオロオレフィンとしては、特に制限はないが、テトラフルオロプロペンやヘキサフルオロブテンが、低い気体の熱伝導率及び安全性の観点から好ましい。具体的にはトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(シス-HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234yf)、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(シス-HFO-1336mzz)などが挙げられる。また、本発明の一実施形態で用いるハイドロクロロフルオロオレフィンとしては、特に制限はないが、ハイドロクロロトリフルオロプロペンが、低い気体の熱伝導率や安全性の観点から好ましい。具体的にはトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-HCFO-1233zd)やなどが挙げられる。これらのハイドロフルオロオレフィンおよびハイドロクロロフルオロオレフィンは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明の一実施形態として、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して0.10~1.0molであることが好ましく、0.15~0.8molがより好ましく、0.2~0.6molがさらに好ましい。ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの含有量がスチレン系樹脂1kgに対して0.10molより少ない場合には、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンによる断熱性の向上効果があまり期待できない傾向にある。一方、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの含有量がスチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して1.0molを超える場合には、押出発泡時にハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンが樹脂溶融物から分離して、押出発泡体の表面にスポット孔(ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの局所的塊が、押出発泡体表面を突き破って外気へ放出された痕)が発生したり、独立気泡率が低下して断熱性を損なうおそれがある。
【0028】
本発明の一実施形態で用いる塩化アルキルとしては、炭素数1~3の塩化アルキルが好ましく、例えば、塩化エチルや塩化メチルが挙げられる。1種であってもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0029】
本発明の一実施形態として、塩化アルキルの含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して0.10~1.0molであることが好ましく、0.15~0.8molがより好ましく、0.2~0.7molがさらに好ましい。塩化アルキルの含有量がスチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して0.10molより少ない場合には、塩化アルキルによる断熱性の向上効果があまり期待できない。一方、塩化アルキルの添加量がスチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して1.0molを超える場合には、塩化アルキルがスチレン系樹脂を大きく可塑化するため、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の耐熱性が悪化する場合がある。
【0030】
本発明の一実施形態のスチレン系樹脂押出発泡体には、発泡体製造時の可塑化効果及び/又は助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる観点から、他の発泡剤が含有されてもよい。例えば、炭素数3~5の飽和炭化水素、エーテル類、ケトン類、炭素数1~4の飽和アルコール類、カルボン酸エステル類、水、二酸化炭素が挙げられる。
【0031】
炭素数3~5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタン等が挙げられる。これらの炭素数3~5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の観点から、プロパン、n-ブタン、i-ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましい。また、スチレン系樹脂押出発泡体の断熱性の観点から、n-ブタン、i-ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi-ブタンである。i-ブタンは、以下、「イソブタン」とも称する。
【0032】
本発明の一実施形態として、炭素数3~5の飽和炭化水素の含有量は、スチレン系樹脂押出発泡体1kgに対して、0~0.5molであることが好ましく、0~0.3molがより好ましく、0~0.2molがさらに好ましい。
【0033】
その他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、エチル-n-プロピルケトン、エチル-n-ブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等の炭素数1~4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステル等のカルボン酸エステル類;の有機発泡剤が挙げられる。また、水、二酸化炭素等の無機発泡剤等も用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
他の発泡剤の中では、発泡性及び発泡体成形性等の観点からは、炭素数3~5の飽和炭化水素、炭素数1~4の飽和アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等が好ましい。また、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性あるいは断熱性等の観点からは、二酸化炭素が好ましい。これらの中では、可塑化効果の観点からはジメチルエーテルが特に好ましい。
【0035】
(1-3.難燃剤)
本発明の一実施形態では、スチレン系樹脂押出発泡体において、難燃剤を添加することにより、得られるスチレン系樹脂押出発泡体に難燃性を付与することができる。
【0036】
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく用いられる。本発明の一実施形態における臭素系難燃剤の具体的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及び臭素化スチレン-ブタジエンブロックコポリマーのような脂肪族臭素含有ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0037】
これらのうち、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤、臭素化スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、及びヘキサブロモシクロドデカンが、押出運転が良好であり、発泡体の耐熱性に悪影響を及ぼさない等の理由から、望ましく用いられる。これらの物質はそれ単体で用いても、または混合物として用いても良い。
【0038】
本発明の一実施形態におけるスチレン系樹脂押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上8.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上7.0重量部以下がより好ましく、2.0重量部以上6.0重量部以下が更に好ましい。臭素系難燃剤の含有量が1.0重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、一方、8.0重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。但し、難燃剤の含有量は、JIS A 9521 測定方法Aに規定される難燃性が得られるように、発泡剤添加量、発泡体の見掛け密度、難燃相乗効果を有する添加剤などの種類あるいは含有量などに応じて、適宜調整されることがより好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態においては、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃性能を向上させる目的で、ラジカル発生剤を併用することができる。前記ラジカル発生剤は、具体的には、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等が挙げられる。ジクミルパーオキサイドの様な過酸化物も用いられる。その中でも、樹脂加工温度条件にて、安定なものが好ましく、具体的には2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、及びポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼンが好ましく、前記ラジカル発生剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.05~0.5重量部である。
【0040】
更に、難燃性能を向上させる目的で、言い換えれば難燃助剤として、熱安定性能を損なわない範囲で、リン酸エステル及びホスフィンオキシドのようなリン系難燃剤を併用することができる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、または縮合リン酸エステル等が挙げられ、特にトリフェニルホフェート、又はトリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェートが好ましい。又、ホスフィンオキシド型のリン系難燃剤としては、トリフェニルホスフィンオキシドが好ましい。これらリン酸エステル及びホスフィンオキシドは単独または2種以上併用しても良い。リン系難燃剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1~2重量部である。
【0041】
(1-4.安定剤)
本発明の一実施形態においては、難燃剤の安定剤を使用することが出来る。特に限定されるものでは無いが、安定剤の具体的な例としては、(i)ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のようなエポキシ化合物、(ii)ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等の多価アルコールと、酢酸、プロピオン酸等の一価のカルボン酸、又は、アジピン酸、グルタミン酸等の二価のカルボン酸との反応物であるエステルであって、その分子中に一個以上の水酸基を持つエステルの混合物であり、原料の多価アルコールを少量含有することもある、多価アルコールエステル、(iii)トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及びオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートのようなフェノール系安定剤、(iv)3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、及びテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト)のようなホスファイト系安定剤、などが発泡体の難燃性能を低下させることなく、かつ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好適に用いられる。これら安定剤は単独または2種以上併用しても良い。安定剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1~2重量部である。
【0042】
(1-5.熱線輻射抑制剤)
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、断熱性向上のため、熱線輻射抑制剤を添加してもよい。本発明の一実施形態としては、熱線輻射抑制剤としてグラファイト、カーボンブラックを使用できる。グラファイトとしては、例えば、鱗(片)状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。これらの中でも、熱線輻射抑制効果が高い点から、主成分が鱗(片)状黒鉛のものを用いることが好ましい。グラファイトは、固定炭素分が80%以上のものが好ましく、85%以上のものがより好ましい。固定炭素分を上記範囲とすることで高い断熱性を有する発泡体が得られる。
【0043】
グラファイトの平均粒径は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均粒径を上記範囲とすることで、グラファイトの比表面積が大きくなり、熱線輻射との衝突確率が高くなるため、熱線輻射抑制効果が高くなる。前記平均粒径は、ISO13320:2009,JIS Z8825:2013に準拠したMie理論に基づくレーザー回折散乱法により粒度分布を測定・解析し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒径(レーザー回折散乱法による体積平均粒径)を意味する。
【0044】
本発明の一実施形態におけるグラファイトの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5.0重量部以下が好ましく、1.0重量部以上3.0重量部以下がさらに好ましい。含有量が0.5重量部未満では、十分な熱線輻射抑制効果が得られない。含有量が5.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られずコストメリットが無い。
【0045】
前記熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域の光を反射、散乱、及び吸収する特性を有する物質をいう。熱線輻射抑制剤を含有することにより、高い断熱性を有する発泡体となり得る。本発明で使用することができる熱線輻射抑制剤としては、グラファイトの他に、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどの白色系粒子を使用することができる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。白色系粒子の中でも、線輻射抑制効果が大きい点から、酸化チタン又は硫酸バリウムが好ましく、酸化チタンがより好ましい。白色系粒子の平均粒径については、特に限定されるものではないが、効果的に赤外線を反射し、また樹脂への発色性を考慮すれば、例えば、酸化チタンでは0.1μm~10μmが好ましく、0.15μm~5μmがより好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態における白色系粒子の含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上3.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上2.5重量部以下がより好ましい。白色系粒子は、グラファイトと比較して熱線輻射抑制効果が小さく、白色系粒子の含有量が1.0重量部未満では、上記白色系粒子を含有しても熱線輻射抑制効果は殆どない。白色系粒子の含有量が3.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られない、一方で、発泡体の難燃性が悪化する傾向がある。
【0047】
本発明の一実施形態における熱線輻射抑制剤の合計含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上6.0重量部以下が好ましく、2.0重量部以上5.0重量部以下がより好ましい。熱線輻射抑制剤の合計含有量が1.0重量部未満では、断熱性が得られがたく、一方、熱線輻射抑制剤のような固体添加剤の含有量が増すほど、造核点が増えるために発泡体の気泡が微細化したり、樹脂自体の伸びが悪化したりすることで、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向にあるが、熱線輻射抑制剤の合計含有量が6.0重量部超では、特に、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すこと、が劣る傾向があり、更に、押出安定性を損なう傾向、及び難燃性が損なわれる傾向がある。
【0048】
(1-6.その他添加剤)
本発明の一実施形態においては、さらに、必要に応じて、本発明の一実施形態に係る効果を阻害しない範囲で、例えば、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、炭酸カルシウムなどの無機化合物、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物などの加工助剤、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤、タルクなどの気泡径調整剤、前記以外の難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤、可塑剤などの添加剤がスチレン系樹脂に含有されてもよい。また、必要に応じ、本発明の一実施形態に係る効果を阻害しない範囲で、その他の樹脂(例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂などの熱可塑性樹脂)や、エラストマーやゴム成分(例えばジエン系ゴム強化ポリスチレン、アクリル系ゴム強化ポリスチレン等)をスチレン系樹脂と併用してもよい。その他添加剤の好ましい添加量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0~2重量部である。
【0049】
(1-7.物性)
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率は特に限定はないが、例えば建築用断熱材、又は、保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性の観点から、平均温度23℃で測定した製造1週間後の熱伝導率が0.0284W/mK以下であることが好ましく、0.0244W/mK以下であることがより好ましく、0.0224W/mK以下であることが特に好ましい。
【0050】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度は、例えば建築用断熱材、又は、保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性および、軽量性の観点から、20kg/m3以上60kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは25kg/m3以上40kg/m3以下である。
【0051】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。独立気泡率が90%未満の場合には、発泡剤が押出発泡体から早期に散逸し、断熱性が低下する。
【0052】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径は、0.05mm以上0.5mm以下が好ましく、0.05mm以上0.4mm以下がより好ましく、0.05mm以上0.3mm以下が特に好ましい。一般に、平均気泡径が小さいほど、発泡体の気泡壁間距離が短くなるために、押出発泡の際に押出発泡体に形状付与する際の押出発泡体の気泡の可動域が狭く、変形が困難であり、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向にある。スチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.05mmより小さいと、特に、押出発泡体に美麗な表面を付与すること、及び押出発泡体の厚みを出すことが難しくなる傾向が顕著なものとなる。一方、スチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径が0.5mm超えの場合、十分な断熱性が得られないおそれがある。
【0053】
尚、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の平均気泡径は、マイクロスコープ[(株)KEYENCE製、DIGITAL MICROSCOPE VHX-900]を用いて、次に記載の通り評価することができる。
【0054】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の幅方向垂直断面を押出方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。同様に、幅方向3箇所の厚み方向中央部の押出方向垂直断面を幅方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の厚み方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所、各観察方向につき3本。)、その直線に接する気泡の個数aを測定した。測定した気泡の個数aから、次式(1)により観察箇所毎の厚み方向の平均気泡径Aを求めた。3箇所(各箇所2方向ずつ)の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向の平均気泡径A(平均値)とした。
【0055】
観察箇所毎の厚み方向の平均気泡径A(mm)=2×3/気泡の個数a
・・・(1)。
【0056】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の押出方向垂直断面を幅方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の押出方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所につき3本。)、その直線に接する気泡の個数bを測定した。測定した気泡の個数bから、次式(2)により観察箇所毎の押出方向の平均気泡径Bを求めた。3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の押出方向の平均気泡径B(平均値)とした。
【0057】
観察箇所毎の押出方向の平均気泡径B(mm)=2×3/気泡の個数b
・・・(2)。
【0058】
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の計3箇所の厚み方向中央部の幅方向垂直断面を押出方向から前記マイクロスコープにて観察し、100倍の拡大写真を撮影した。前記拡大写真の幅方向に任意に2mmの直線を3本引き(各観察箇所につき3本。)、その直線に接する気泡の個数cを測定した。測定した気泡の個数cから、次式(3)により観察箇所毎の幅方向の平均気泡径Cを求めた。3箇所の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向の平均気泡径C(平均値)とした。
【0059】
観察箇所毎の幅方向の平均気泡径C(mm)=2×3/気泡の個数c
・・・(3)。
【0060】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の気泡変形率は、0.7以上2.0以下が好ましく、0.8以上1.5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下が更に好ましい。気泡変形率が0.7よりも小さい場合、圧縮強度が低くなり、押出発泡体において、用途に適した強度を確保できないおそれがある。また、気泡が球状に戻ろうとするため、押出発泡体の寸法(形状)維持性に劣る傾向がある。一方、気泡変形率が2.0超えの場合、押出発泡体の厚み方向における気泡数が少なくなるため、気泡形状による断熱性向上効果が小さくなる。
【0061】
尚、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体の気泡変形率は、前記した平均気泡径から、次式(4)により求めることができる。
【0062】
気泡変形率(単位なし)=A(平均値)/{〔B(平均値)+C(平均値)〕/2}・・・(4)。
【0063】
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みは、例えば建築用断熱材、又は保冷庫用若しくは保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性、曲げ強度及び圧縮強度の観点から、10mm以上150mm以下であることが好ましく、より好ましくは15mm以上130mm以下であり、更に好ましくは20mm以上130mm以下であり、なおさら好ましくは20mm以上120mm以下であり、特に好ましくは30mm以上120mm以下である。
【0064】
尚、スチレン系樹脂押出発泡体では、本発明の実施例、及び比較例に記載したように、押出発泡成形して形状を付与した後に、厚み方向と垂直な平面の両表面を厚み方向に片側5mm程度の深さでカットして製品厚みとする場合があるが、別途記載がない限り、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みとは押出発泡成形して形状を付与したままのカットしていない厚みのことである。
【0065】
かくして、本発明の一実施形態により、優れた断熱性及び難燃性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることができる。これらの観点から、本発明のスチレン系樹脂押出発泡体は、特に建築用断熱材や保冷車架装部用断熱材の用途に有用である。
【0066】
〔2.スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法〕
〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕にて既に説明した各構成については援用し、ここではその説明を省略する。
【0067】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法の一実施態様として、以下の方法が挙げられる。
【0068】
スチレン系樹脂および発泡剤を溶融混錬してなる発泡性スチレン系樹脂組成物を押出発泡させてスチレン系樹脂押出発泡体を製造する方法であって、次の(a)~(c)を満たすスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法:
(a)前記スチレン系樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体を含み、
(b)前記スチレン系樹脂100重量%における前記スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体の含有量が20~80重量%であり、
(c)前記発泡剤は、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィン、塩化アルキルおよび水を含む。
【0069】
スチレン系樹脂に添加される発泡剤として、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルにさらに水を併用することによって、スチレン系樹脂の厚み出し性を向上させやくなり、安定的に断熱性と厚み出し性とを両立したスチレン系樹脂押出発泡体を製造できる。
【0070】
本発明にかかる製法に係る一実施形態として、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンおよび塩化アルキルの添加量は、スチレン系樹脂押出発泡体中における上述の含有量を満たすように適宜調整できる。
【0071】
特に限定されないが、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部~14.0重量部が好ましく、2.0重量部~12.0重量部がより好ましく、3.0重量部~10.0重量部が特に好ましい。ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部より少ない場合には、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンによる断熱性の向上効果があまり期待できない傾向にある。一方、ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して14.0重量部を超える場合には、押出発泡時にハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンが樹脂溶融物から分離して、押出発泡体の表面にスポット孔(ハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンの局所的塊が、押出発泡体表面を突き破って外気へ放出された痕)が発生したり、独立気泡率が低下して断熱性を損なうおそれがある。
【0072】
特に限定されないが、塩化アルキルの添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部~8.0重量部が好ましく、1.5重量部~7.0重量部がより好ましく、2.0重量部~6.0重量部が特に好ましい。塩化アルキルの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部より少ない場合には、塩化アルキルによる断熱性の向上効果があまり期待できない傾向にある。一方、塩化アルキルの添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して8.0重量部を超える場合には、塩化アルキルがスチレン系樹脂を大きく可塑化するため、得られたスチレン系樹脂押出発泡体の耐熱性が悪化する場合がある。
【0073】
本発明にかかる製法の一実施形態として、水の添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1~1.5重量部が好ましく、0.2~1.5重量部がより好ましく、0.3~1.5重量部が特に好ましい。水の添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して0.1重量部より少ない場合には、水による厚み出し性の向上効果があまり期待できない。一方、水の添加量がスチレン系樹脂100重量部に対して1.5重量部を超える場合には、押出発泡体の表面にスポット孔が発生する等、発泡体の美観性が悪化する虞がある。
【0074】
本発明にかかる製法の一実施形態として、発泡剤としては、他の発泡剤を添加してもよく、前述〔1.スチレン系樹脂押出発泡体〕に記載した他の発泡剤が同様に好ましく使用されうる。また、アゾ化合物、テトラゾール等の化学発泡剤を使用してもよい。
【0075】
本発明に係る製法の一実施形態として、発泡剤全体の添加量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、2~20重量部が好ましく、2~15重量部がより好ましい。発泡剤の添加量が2重量部以上であれば、発泡倍率を十分に高めることができるため、樹脂発泡体としての軽量性及び断熱性等の特性が発揮されやすい。発泡剤の添加量が20重量部以下であれば、発泡体中においてボイド等の不良の発生を防ぐことができる。
【0076】
本発明にかかる製法の一実施態様としては、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。本発明の一実施形態において用いられる吸水性物質の具体例としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉-アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール-アクリル酸塩系共重合体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸メチル-ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土、ベントナイトなどの多孔性物質等があげられる。吸水性物質の添加量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.1~3重量部がより好ましい。
【0077】
まず、スチレン系樹脂と、必要に応じて上述の各種添加剤とを、ダイスリット部を有する押出機の加熱溶融部に供給する(換言すれば、樹脂組成物を押出機の加熱溶融部に供給する)。このとき、任意の段階(例えば、樹脂組成物を加熱融解している途中、又は、樹脂組成物を加熱融解した後)で高圧条件下にて発泡剤を樹脂組成物に配合することができる。以上が溶融工程となる。
【0078】
その後、溶融工程にて得られた発泡性溶融物を、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイスリット部を通して該流動ゲルを低圧領域(例えば、大気圧の領域)に押出発泡することにより、スチレン系樹脂押出発泡体を形成する。以上が発泡工程となる。
【0079】
溶融工程において、スチレン系樹脂に各種添加剤を配合する方法としては、例えば、スチレン系樹脂に対して各種添加剤を添加してドライブレンドにより混合する方法;押出機の途中に設けた供給部より溶融したスチレン系樹脂に各種添加剤を添加する方法;あらかじめ押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いてスチレン系樹脂へ高濃度の各種添加剤を含有させたマスターバッチを作製し、当該マスターバッチとスチレン系樹脂とをドライブレンドにより混合する方法;スチレン系樹脂とは別の供給設備により各種添加剤を押出機に供給する方法等が挙げられる。
【0080】
上記加熱溶融部における加熱温度は、使用されるスチレン系樹脂が溶融する温度以上である。加熱温度は、添加剤等の影響による樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度(例えば150℃~260℃程度)が好ましい。加熱溶融部における溶融混練時間は、単位時間当たりのスチレン系樹脂の押出量、及び/又は、溶融混練部として用いられる押出機の種類により異なるので一義的に規定することはできず、スチレン系樹脂と発泡剤及び添加剤とが均一に分散混合されるに要する時間として適宜設定され得る。
【0081】
溶融混練部としては、通常の押出発泡に用いられる機構を特に制限されずに用いることができ、例えばスクリュー型の押出機等が挙げられる。
【0082】
発泡剤を添加又は注入する際の圧力は、特に制限されず、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0083】
発泡工程において、押出発泡する方法としては、例えば、押出成形用に使用される開口部が直線のスリット形状を有するダイスリット部を通じて、上述の流動ゲルを高圧領域から低圧領域へ開放する方法が挙げられる。このようにして押出発泡体が得られる。なお、ダイスリット部の形状については特に限定されず、本技術分野における種々のダイスリット部を使用できる。
【0084】
スチレン系樹脂押出発泡体は、板状発泡体、即ち押出発泡板として成形されてもよい。例えば、上述のように得られた押出発泡体をスリットダイと密着又は接して設置された成形金型、及び、該成形金型の下流側に隣接して設置された成形ロール等を用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形することができる。成形金型の流動面形状調整、及び金型温度調整によって、所望の発泡体の断面形状、発泡体の表面性、発泡体品質が得られる。
【実施例0085】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
〔原料〕
実施例及び比較例において使用した原料は、次の通りである。
【0087】
○スチレン系樹脂
・ポリスチレンA [PSジャパン(株)製、680;MFR7.0g/10分]
・ポリスチレンB [PSジャパン(株)製、G9401;MFR2.1g/10分]
・スチレン-メタクリル酸系共重合体 [PSジャパン(株)製、G9001;MFR1.5g/10分、メタクリル酸含有量=8重量%]
【0088】
○熱線輻射抑制剤
・グラファイト [(株)丸豊鋳材製作所製、M-885;鱗片状黒鉛、平均粒径5.5μm、固定炭素分89%]
【0089】
○難燃剤
・テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルの混合臭素系難燃剤[第一工業製薬(株)製、GR-125P]
【0090】
○難燃助剤
・トリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]
【0091】
○安定剤
・ビスフェノール-A-グリシジルエーテル [(株)ADEKA製、EP-13]
・ジペンタエリスリトール-アジピン酸反応混合物 [味の素ファインテクノ(株)製、プレンライザーST210]
・トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート [Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]
【0092】
○その他添加剤
・タルク [林化成(株)製、タルカンパウダーPK-Z]
・ステアリン酸カルシウム [堺化学工業(株)製、SC-P]
・ベントナイト [(株)ホージュン製、ベンゲルブライト11K]
・シリカ [エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS-304F]
・ステアリン酸モノグリセリド [理研ビタミン(株)製、リケマールS-100P]
【0093】
○発泡剤
・HFO-1234ze [ハネウェルジャパン(株)製]
・HCFO-1233zd [ハネウェルジャパン(株)製]
・ジメチルエーテル [岩谷産業(株)製]
・塩化エチル [日本特殊化学工業(株)製]
・イソブタン [三井化学(株)製]
・水 [大阪府摂津市水道水]。
【0094】
〔測定方法〕
実施例及び比較例では、下記の測定方法にしたがって、各種パラメータを、測定及び評価した。
【0095】
(1)スチレン系樹脂押出発泡体の厚み(カット前)
後述する[押出発泡体の作製]にて得られた厚み60mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板において、ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて、幅方向中央部、及び幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所(幅方向両端について同じ場所)の厚み、計3点を測定した。3点の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の厚みとした。
【0096】
(2)発泡体1kgあたりのHFO-1234ze残存量、HCFO-1233zd残存量、イソブタン残存量、塩化エチル残存量
得られたスチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後のHFO-1234ze残存量、HCFO-1233zd残存量、イソブタン残存量、及び塩化エチル残存量を以下の設備、手順にて評価した。
a)使用機器;ガスクロマトグラフ GC-2014 [(株)島津製作所製]
b)使用カラム;G-Column G-950 25UM [化学物質評価研究機構製]
【0097】
c)測定条件;
・注入口温度:65℃
・カラム温度:80℃
・検出器温度:100℃
・キャリーガス:高純度ヘリウム
・キャリーガス流量:30mL/分
・検出器:TCD
・電流:120mA
【0098】
約130ccの密閉可能なガラス容器(以下、「密閉容器」と言う)に、発泡体から切り出した見掛け密度により異なるが約1.2gの試験片を入れ、真空ポンプにより密閉容器内の空気抜きを行った。その後、密閉容器を170℃で10分間加熱し、発泡体中の発泡剤を密閉容器内に取り出した。密閉容器が常温に戻った後、密閉容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLのHFO-1234ze、HCFO-1233zd、イソブタン、塩化エチルを含む混合気体を取り出し、上記a)~c)の使用機器、測定条件にて評価した。
【0099】
(3)見掛け密度(kg/m3)
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の重量を測定すると共に、長さ(押出方向)寸法、幅寸法、厚み寸法を測定した。
【0100】
測定された重量及び各寸法から、以下の式に基づいてスチレン系樹脂押出発泡体の見掛け密度を求めた。次いで、見掛け密度の単位を、kg/m3に換算した。
見掛け密度(g/cm3)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm3)。
【0101】
(4)独立気泡率
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部、幅方向の一端から逆端方向に150mmの場所、及び、幅方向の他端から逆端方向に150mmの場所の計3箇所から、厚さ40mm×長さ(押出方向)25mm×幅25mmの試験片を切り出した。当該試験片を用い、ASTM-D2856-70の手順Cに従って測定し、以下の式にて各試験片の独立気泡率を求め、3箇所における独立気泡率の平均値を、スチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(V1-W/ρ)×100/(V2-W/ρ)
【0102】
ここで、V1(cm3)は、空気比較式比重計[東京サイエンス(株)製、空気比較式比重計、型式1000型]を用いて測定した試験片の真の体積(独立気泡でない部分の容積が除かれる。)である。V2(cm3)は、ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて測定した試験片の外側寸法より算出した、見掛けの体積である。W(g)は、試験片の全重量である。また、ρ(g/cm3)は、押出し発泡体を構成するスチレン系樹脂の密度であり、1.05(g/cm3)とした。
【0103】
(5)厚み方向の平均気泡径、及び気泡変形率
得られたスチレン系樹脂押出発泡体について、前述の通りマイクロスコープ[(株)KEYENCE製、DIGITAL MICROSCOPE VHX-900]を用いて、厚み方向の平均気泡径を測定した。さらに、押出方向および幅方向の平均気泡径を測定し、それらから気泡変形率を求めた。
【0104】
(6)熱伝導率
JIS A 9521に準じて、厚さ50mm×長さ(押出方向)300mm×幅300mmにてスチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を用い、熱伝導率測定装置[英弘精機(株)、HC-074]を用いて、平均温度23℃での熱伝導率を測定した。具体的に、スチレン系樹脂押出発泡体の製造後、上記寸法の試験片を切り出し、当該試験片をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置した後、スチレン系樹脂押出発泡体の製造から1週間(7日間経過)後に、熱伝導率の測定を行った。
【0105】
(7)JIS燃焼性
JIS A 9521に準じて、厚さ10mm×長さ(押出方向)200mm×幅25mmの試験片を用い、以下の基準で燃焼性を評価した。製造されたスチレン系樹脂押出発泡体を、前記寸法の試験片に切削し、当該試験片を、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に静置した。スチレン系樹脂押出発泡体を製造してから1週間後(7日間経過後)に、試験片を用いて燃焼性を評価した。
○:「3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しない」との基準を満たす。
×:上記基準を満たさない。
【0106】
(8)発泡体外観
以下(8)-1、(8)-2に記載する、形状、表面性の評価結果から、下記の評価基準によって判定した。
合格:形状、及び表面性の評価結果が両方○である。
不合格:形状、及び表面性の評価結果の少なくとも一方が△、又は×である。
【0107】
(8)-1.形状
成形ロール以降カット以前の押出発泡体を目視し、下記の評価基準によって評価した。
○:押出発泡体の押出方向、幅方向、厚み方向のいずれの方向にも波打ちがなく板状である。
×:押出発泡体の押出方向、幅方向、厚み方向のいずれか一方向以上が波打ちしており板状でない。
【0108】
(8)-2.表面性
カット以前、及びカット以後の押出発泡体を目視し、下記の評価基準によって評価した。尚、表面とは厚み方向と垂直な面を指し、カット以後とはスチレン系樹脂押出発泡体の厚み(3点平均値)を基準として、厚み方向に片側5mmの深さで両表面をカットした状態を指す。
◎:フローマーク、クラック、ムシれなどの表面異常がなく、美麗な表面である。
〇:長さ2mm以下の微細なクラックがあるが、その他のフローマーク、ムシれなどの表面異常はなく、カット以降の表面にはそれらの痕が残らない。
△:フローマーク、長さ2mm以上のクラック、ムシれなどの表面異常があるが、カット以後の表面にはそれらの痕が残らない。
×:フローマーク、クラック、ムシれなどの表面異常があり、カット以後の表面にもそれらの痕が残る。
【0109】
実施例および比較例について、グラファイトは、以下の手法に従って作製したマスターバッチにより添加した。
【0110】
(製造例)
[グラファイトマスターバッチの作製]
バンバリーミキサーに、ポリスチレンA48重量%、並びにグラファイト[(株)丸豊鋳材製作所製、M-885]50重量%、及びステアリン酸モノグリセリド[理研ビタミン(株)製、リケマールS-100P]2.0重量%(ポリスチレンA、グラファイトおよびステアリン酸モノグリセリドの総量100重量%に対して)を投入して、5kgf/cm2の荷重をかけた状態で加熱冷却を行わずに20分間溶融混練した。この際、樹脂温度を測定したところ190℃であった。ルーダーに供給して先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出量250kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してグラファイトマスターバッチを得た。
【0111】
(実施例1)
[樹脂混合物の作製]
表1に示す材料(発泡剤以外の材料)を、表1に示す配合にてドライブレンドして、樹脂混合物を得た。
【0112】
[押出発泡体の作製]
得られた樹脂組成物を、口径150mmの単軸押出機(第一押出機)、口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、約800kg/hrで供給した。
【0113】
第一押出機に供給した樹脂組成物を、250℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、樹脂組成物を得、表1に示す発泡剤を第一押出機の先端付近で樹脂組成物中に圧入した。
【0114】
その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、樹脂組成物の温度を表1に示す樹脂温度に冷却し、冷却機先端に設けた、表1に示す厚さの長方形断面の口金(スリットダイ)より、表1に示す発泡圧力にて大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚み85mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板を得た。得られた発泡体の評価結果を表1に示す。
【0115】
(実施例2~9)
表1に示す配合および製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性を表1に示す。
【0116】
(比較例1~6)
表2に示す配合および製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の物性を表2に示す。
【0117】
【0118】
【表2】
実施例1~9、比較例1~6からわかるように、スチレン系樹脂にスチレンーメタクリル酸系共重合体を特定の範囲で含有し、かつ、特定の発泡剤を含有することで、優れた断熱性を有し、表面が美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みを有しているスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得られることが分かる。