(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062674
(43)【公開日】2023-05-08
(54)【発明の名称】猪侵入防止システム
(51)【国際特許分類】
A01M 29/24 20110101AFI20230426BHJP
【FI】
A01M29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156116
(22)【出願日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021172382
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518402026
【氏名又は名称】溝口 芳雄
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】溝口 芳雄
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121DA04
2B121DA61
2B121DA62
2B121DA63
2B121EA21
2B121FA13
(57)【要約】
【課題】猪が保護エリアに侵入するのを効果的に防止することができ、従来よりも安価に構成できる猪侵入防止システムを提供することを目的とする。
【解決手段】内外通行道路NDを通すための通行口14を設けた電気柵12と、通行口14に設置された電撃装置16と備える。電撃装置16は、通行口14を幅方向に横切るように裸電線22を張架する電線架設装置24と、裸電線22に高電圧を印加する高電圧発生装置26とで構成される。電線架設装置24は、通常時、前記裸電線が地面から30~200mmの高さに架け渡されるように裸電線22の両端部を支持固定する。そして、裸電線22に外力が加わった時、裸電線22の張力が一定値を超えないように裸電線22の張力を緩和して裸電線22の断線を阻止する。その後、当該外力が無くなると、通常時の状態に復帰させる動作を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
猪生息エリアと保護エリアとを区画し、前記猪生息エリアにいる猪が前記保護エリアに侵入するのを阻止する電気柵と、前記保護エリアの内外を結ぶ内外通行道路を通すため前記電気柵の途中を開放して設けられた通行口と、前記通行口に設置された電撃装置とを備え、
前記電撃装置は、前記通行口を幅方向に横切るように裸電線を張架する電線架設装置と、前記裸電線に高電圧を印加する高電圧発生装置とで構成され、
前記電線架設装置は、通常時、前記裸電線が地面から離間して略200mm以下の高さに架け渡されるように前記裸電線の両端部を支持固定し、前記裸電線に外力が加わった時、前記裸電線の張力が一定値を超えないように前記裸電線の張力を緩和して前記裸電線の断線を阻止し、当該外力が無くなると、通常時の状態に復帰させる動作を行うこと特徴とする猪侵入防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農作物に被害を与える猪の侵入を防止する猪侵入防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、本願出願人による特許文献1に開示されているように、複数の田畑等を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵で囲んで保護する有害獣侵入防止システムがあった。この有害獣侵入防止システムは、猪や鹿等の有害獣を対象としたシステムで、電気柵の途中に内外通行道路を通すための通行口を有し、通行口にゲート装置が設置され、歩行者や自動車等が通行口を通る時、ゲート装置が通行口を自動的に開閉する構成になっている。
【0003】
ゲート装置は、閉状態で有害獣及び人間の通行を阻止する開閉部材と、開閉部材に接触した有害獣に電気衝撃を与える電撃手段と、開閉部材を開閉駆動する駆動機構と、有害獣や人間を検出する通行者検出装置を有し、通行者検出装置の検出結果に基づいて開閉部材の状態を自動的に切り替える動作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の猪侵入防止システムは、猪や鹿等の複数の有害獣を対象にしているので、どうしても大掛かりなゲート装置が必要になり、比較的高価な構成になってしまう。
【0006】
発明者は、対象を猪に絞り込めば、猪の習性を利用してもっと安価な構成にできるのではないかと考えた。また、有害獣の被害に困っている地域の方々に話を聞くと、問題になる有害獣は主に猪で、猪の侵入が防止できれば十分にメリットがあるとの声が多く聞かれた。
【0007】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、猪が保護エリアに侵入するのを効果的に防止することができ、従来よりも安価に構成できる猪侵入防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、猪生息エリアと保護エリアとを区画し、前記猪生息エリアにいる猪が前記保護エリアに侵入するのを阻止する電気柵と、前記保護エリアの内外を結ぶ内外通行道路を通すため前記電気柵の途中を開放して設けられた通行口と、前記通行口に設置された電撃装置とを備え、
前記電撃装置は、前記通行口を幅方向に横切るように裸電線を張架する電線架設装置と、前記裸電線に高電圧を印加する高電圧発生装置とで構成され、
前記電線架設装置は、通常時、前記裸電線が地面から離間した、例えば30~200mmの高さに架け渡されるように前記裸電線の両端部を支持固定し、前記裸電線に外力が加わった時、前記裸電線の張力が一定値を超えないように前記裸電線の張力を緩和して前記裸電線の断線を阻止し、当該外力が無くなると、通常時の状態に復帰させる動作を行う猪侵入防止システムである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の猪侵入防止システムは、複数の田畑等を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵で囲んで保護する大型のシステムなので、個々の住民が個別に小型のシステムを設置するよりも、トータルコストを大幅に削減することができる。また、電気柵の途中に内外通行道路を通すための通行口が設けているが、通行口に、猪の習性を利用した独特なる電撃装置が設置されているので、猪が通行口から保護エリアに侵入するのを効果的に阻止することができ、歩行者や自動車は通行口を支障なく通行することができる。また、電撃装置は構成がシンプルなので、非常に安価に設置することができる
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の猪侵入防止システムの一実施形態の全体像を示す平面図である。
【
図2】この実施形態の猪侵入防止システムの通行口に設置された電撃装置を示す斜視図である。
【
図3】
図2の電撃装置の裸電線に複数の絶縁チューブ材が装着された様子を示す斜視図(a)、絶縁チューブ材の拡大断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の猪侵入防止システムの一実施形態について、図面に基づいて説明する。この実施形態の猪侵入防止システム10は、山間にある集落等を猪から保護するために設置されるシステムである。例えば
図1に示す集落は、猪が生息する猪生息エリアIAに囲まれた内側にあり、複数の田畑T、住宅J、生活道路SD等を含む集落のほぼ全域が保護エリアHAとなる。また、この集落には、保護エリアHAの内側と外側を結ぶ内外通行道路NDが横断している。内外通行道路NDは、隣接する他の集落に通じる道路であり、歩行者、自転車、自動車(二輪、四輪)等が通行する。
【0012】
猪侵入防止システム10は、猪生息エリアIAと保護エリアHAとを区画し、猪が保護エリアHAに侵入するのを阻止する電気柵12を備えている。そして、内外通行道路NDを通すため、
図2に示すように、電気柵12の途中の2箇所を開放して通行口14が設けられ、各通行口14に独特な電撃装置16が設置されている。
【0013】
電気柵12は、猪等を対象とした一般的な電気柵で、2本の裸電線12aが多数の支柱に架設されている。そして、太陽光発電装置20aで発電した電気エネルギーを基に、高圧発生装置20が高電圧を発生させ、2本の裸電線18に印加する構成になっている。裸電線18が2本の場合、例えば約20cmと約40cmの高さに架設される。この高さにすれば、猪が飛び越えたり通り抜けたりすることができず、しかも、猪が接触すると的確に電気刺激を与えることができる。裸電線18の数は3本以上に増やしてもよい。
【0014】
電撃装置16は、猪を対象とした電撃装置で、通行口14を幅方向に横切るように裸電線22を張架する電線架設装置24と、裸電線22に高電圧を印加する高電圧発生装置26とで構成される。なお、高電圧発生装置26は、上記の電気柵12用の高電圧発生装置20で兼用することができる。
【0015】
電線架設装置24は、通常時、複数本の裸電線22が地面から離間した位置であって、30~200mmの高さ、好ましくは100mm以下の低い位置に架け渡されるように、各裸電線22の両端部を支持固定する。そして、裸電線22に外力が加わった時に、裸電線22の張力が一定値を超えないように、裸電線22が弾性的に変位し又は裸電線22の一端部又は両端部が弾性的に変位して固定を緩め、裸電線22の張力を緩和して断線を阻止可能な構成にする。その後、当該外力が無くなると、通常時の状態に復帰させる動作を行う。電線架設装置24の構造の具体例として、裸電線22の一端部又は両端部を、所定の弾性率のバネ部材を介して支持する構造等が考えられる。
【0016】
猪が歩行する時は、常に鼻を低くして餌を探すような動作を行う性質があり、保護エリアHAへの侵入口(通行口14)を探している時も同じである。したがって、猪が通行口14を通過しようとすると、猪の敏感な鼻先が、地面から30~200mmの低い位置に張架された裸電線22にほぼ確実に接触し、猪に対して効果的に電気衝撃を与えることができ、猪生息エリアIAの方向に確実に追い払うことができる。
【0017】
また、猪は、臆病で賢い動物なので、一度電気衝撃を受けると、それ以降は電気衝撃を受けた場所に近寄らない傾向がある。そこで、例えば電撃装置16及び電気柵12を稼働させる初期の段階で、電撃装置16や電気柵12の付近に餌をまいて猪をわざと呼び寄せ、電気衝撃を経験させるとよい。これによって、電撃装置16を設置した通行口14や電気柵12に近づかないように学習させることができる。
【0018】
歩行者、自転車、自動車(二輪、四輪)が通行口14を通行する時は、裸電線22を靴やタイヤで踏んで通行することになる。裸電線22が踏まれると、裸電線22の張力が一定値を超え、電線架設装置24が裸電線22の固定を緩めるので、裸電線22の断線が阻止される。そして、歩行者等が通過して裸電線22の張力が下がると、自動的に通常時の状態に復帰する。
【0019】
なお、靴やタイヤで踏まれた裸電線22が地面に接触すると、地面に向かって無駄な電流が流れ、高電圧発生装置26の電圧が低下してしまうおそれがあるので、電線架設装置24が裸電線22の固定を緩めた時は、高電圧発生装置26が出力を停止する構成にすることが好ましい。
【0020】
電撃装置16の裸電線22を地面から30mm以上の高さに張架するのは、猪の習性以外に、例えば、強風を受けて裸電線22が揺れた時に地面に接触しないようにすること等を考慮している。また、200mm以下の高さに張架するのは、小型タイヤを付けた自転車や自動車でも裸電線22を乗り越えることができるようにすること等を考慮している。裸電線22を張架する高さは、現場の実情に合わせて好ましい高さに調節するとよい。
【0021】
以上説明したように、猪侵入防止システム10は、複数の田畑等を含む特定の地域や集落等を1つの電気柵12で囲んで保護する大型のシステムなので、個々の住民が個別に小型のシステムを設置するよりも、トータルコストを大幅に削減することができる。また、電気柵12の途中に内外通行道路NDを通すための通行口14を設けているが、通行口14に、猪の習性を利用した独特な電撃装置16が設置されているので、猪が通行口14から保護エリアHAに侵入するのを効果的に阻止することができ、歩行者や自動車は通行口14を支障なく通行することができる。また、電撃装置16は構成がシンプルなので、非常に安価に設置することができる。
【0022】
なお、この発明の猪侵入防止システムは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、
図2に示す電撃装置16は裸電線22を4本としているが、裸電線の数は1本以上であれば何本にしてもよい。また、電撃装置の電線架設装置の構造は特に限定されず、公知な構造の中から自由に選択することができる。
【0023】
また、内外通行道路NDのような道路は、一般的に雨水を排水するため幅方向の中央部が高くなるように勾配が設けられている。このような場合は、
図3(a)に示すように、裸電線22の長さ方向の適宜の位置(1箇所又は複数箇所)に、絶縁チューブ材28を装着することが好ましい。絶縁チューブ材28は、一定の柔軟性と形状復帰性を有した中空のゴム又は樹脂製筒状体で、
図3(b)に示すように、軸中心よりも接地側に対して上方の適宜の2箇所に設けた貫通孔28aの中に、裸電線22を挿通させることによって装着される。絶縁チューブ材28は、下面側が地面に当接した状態で裸電線22を支持し、裸電線22と地面との離間距離を所定の値に保持させる。したがって、地面が平坦でない場合でも、裸電線22と地面との離間距離を所定間隔に維持することが容易になる。また、裸電線22が靴やタイヤで踏まれた時は、絶縁チューブ材28は簡単に潰れるので、上記の絶縁チューブ材28を装着しない時と同様に裸電線22の復帰動作が適切に行われる。
【0024】
猪侵入防止システム10では、電撃装置16用の高電圧発生装置26を電気柵12用の高電圧発生装置20で兼用させコストの低減を図っている。しかし、電撃装置16と電気柵12の電気衝撃を個別に調節したい等の事情がある場合、高電圧発生装置を別々に設けることが好ましい。
【0025】
その他、電気柵の構造は特に限定されず、電気柵12のように支柱に複数本の裸電線を架設した構造以外に、例えば、金網を張り巡らした構造にしてもよい。また、裸電線を地面から離間させて電気的に絶縁する手段は、空間を空ける他、部分的に地面との間に絶縁物が介在するようにしても良い。保護エリアは、電気柵で区画することが可能であれば、広さや形状に制限はない。したがって、本発明の猪侵入防止システムは、山間の集落だけでなく、様々な場所や地域に設置することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 猪侵入防止システム
12 電気柵
14 通行口
16 電撃装置
18,22 裸電線
20,26 高電圧発生装置
24 電線架設装置
HA 保護エリア
IA 猪生息エリア
ND 内外通行道路