IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • -繊維布を製造する方法および装置 図1
  • -繊維布を製造する方法および装置 図2
  • -繊維布を製造する方法および装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062714
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】繊維布を製造する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 67/00 20170101AFI20230427BHJP
【FI】
B29C67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172762
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】520289567
【氏名又は名称】株式会社beero
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越島 悠介
(72)【発明者】
【氏名】戸沢 忠蔵
(72)【発明者】
【氏名】金丸 悠
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA42
4F213AD16
4F213WA41
4F213WA74
(57)【要約】
【課題】強度が高く且つ意匠性の高い繊維布を回収繊維品から製造する方法および装置を提供することを目的のひとつとする。
【解決手段】回収繊維品を煮熟および叩解して繊維質を取り出す工程と、取り出した繊維質にバインダを混ぜて漉くことにより繊維布を作る工程と、繊維布を乾燥する工程と、乾燥した繊維布を樹脂で固めて研磨する工程とを備えた繊維布を製造する方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収繊維品を煮熟および叩解して、繊維質を取り出す工程と、
取り出した繊維質にバインダを混ぜて漉くことにより、繊維布を作る工程と、
繊維布を乾燥する工程と、
乾燥した繊維布を樹脂で固めて研磨する工程と、
を備えたことを特徴とする繊維布を製造する方法。
【請求項2】
前記回収繊維品は、デニムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バインダは、植物繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記回収繊維品を煮熟および叩解する工程の前に、前記回収繊維品を反毛化する工程を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項の方法を実行することを特徴とする製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布を製造する方法および装置に関するものであるであり、詳述すると、廃棄される予定の繊維製品を再利用して、繊維布を製造する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用制服など様々な衣類が大量に生産され大量に廃棄されているが、有効に再利用する方法が確立されていない。また、制服などを製造する際には、繊維布の切れ端などが発生するが、そのような切れ端を有効に再利用する方法も確立されていない。
【0003】
衣服等の布帛廃棄物(ボロ)は、従来、ウエス、パイルに利用する他は、焼却処分されていたが、織布をほぐして得られる反毛は、元の繊維と比べて汚れていて、切断により繊維長が短くなっているということを除けば、繊維としての特性を残している。よって、リサイクルという観点から、一般廃棄物に含まれる布帛の反毛を再利用することが好ましい。
【0004】
特許文献1には、繊維板の製造方法が開示されており、具体的には、廃棄される予定の繊維製品や繊維布(以下、回収繊維品)を再利用して、繊維板を製造する方法が開示されている。ただ、繊維板を使用する用途が限られているため、必ずしも有効に活用できているとは言い難い。そうすると、幅広い用途で使用できるようにするためには、板状ではなく、薄くて加工しやすい布状のほうがよい。
【0005】
一方で、加工しやすいだけでは問題があり、ある程度の強度を有した布であることが望ましい。この点について、布に関しては先行技術が存在しないが、布以外の技術について調査すると、特許文献2に若干の示唆がある。ただし、布は汎用性が高く競合品も多いので、幅広い用途で多くの製品に採用してもらうためには、高い意匠性を有していることも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-254695号公報
【特許文献2】特開2004-25857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一態様によると、強度が高く且つ意匠性の高い繊維布を回収繊維品から製造する方法および装置を提供することを目的のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によると、回収繊維品を煮熟および叩解して、繊維質を取り出す工程と、取り出した繊維質にバインダを混ぜて漉くことにより繊維布を作る工程と、繊維布を乾燥する工程と、乾燥した繊維布を樹脂で固めて研磨する工程とを備えたことを特徴とする繊維布を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によると、廃棄されるはずだった洋服などであっても回収して新たな製品を製造することができるので、回収繊維品を有効に再利用することができる。
【0010】
また、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))の観点からも地球環境や地域コミュニティなどの社会に対して良いインパクトを与える製品(いわゆる、ソーシャルグッド(Social Good))を提供することができる。
【0011】
本発明の他の目的、特徴及び利点は添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施例による繊維布の製造工程をフローチャートで示す。
図2図2は、本発明の一実施例による繊維布の製造装置のブロック図を示す。
図3図3は、本発明の一実施例による繊維布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施例による繊維布の製造工程をフローチャートで示す。
【0014】
S1010では、廃棄予定であった制服(以下、回収繊維品)を反毛化する。ここで、回収繊維とは、一般家庭で使用済の被服やタオル、風呂敷、カーテン等を構成している織布、編布、不織布等の布帛の繊維二次加工製品の回収品、いわゆるボロをほぐして繊維状にしたものをいう。また、ボロに限らず、紡績工程、編織工程、不織布製造工程、縫製加工工程で発生する裁断くず、繊維くず(屑繊維)も、回収繊維として用いることができる。
【0015】
ここで、本実施例で使用される繊維の例としては、天然繊維や化学繊維がある。天然繊維とは、例えば、綿や麻などの食物繊維や羊毛や絹などの動物繊維である。また、化学繊維とは、例えば、ナイロンなどの合成繊維やレーヨンなどの再生繊維である。なお、本実施例の好ましい態様では、デニムを回収繊維品として使用する。
【0016】
また、反毛とは、ウールや綿など不要になった製品や裁断くずを回収し、解毛機や反毛機にかけて、わた状に戻した繊維を指す。
【0017】
反毛化した回収繊維は、後述するS1020からS1050で説明するような和紙を製造する手法を取り入れた工程により、本実施例の繊維布の原型を製造することができる。
【0018】
S1020では、回収繊維を煮熟する。例えば、回収繊維を、沸騰したアルカリ液の中に入れ(およそ100度)15分ほど煮る。アルカリ液の一例は、石灰(水酸化カルシウム )、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)又は苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などである。煮る時間を調節することにより、繊維に含まれている非繊維質の残量が変わるので、繊維布の質及び風合いを適切にすることができる。煮熟の工程により、回収繊維から油分を抜くと共に繊維を膨らませることによって、より繊維質(柔らかな繊維)にすることができる。
【0019】
S1030では、回収繊維を打解または叩解によりさらなる処理を行なう。「打解」とは、回収繊維をこん棒、ハンマー、またはその他の打解機で打ち込み、水中で1本の単繊維に分散しやすいように回収繊維をほぐす処理を意味する。「叩解」とは、回収繊維を構成している単繊維を、水を介してビーターやリファイナーなどの叩解機で刃同士(リファイナーの場合は回転刃同士、ビーターは回転刃と固定刃の組み合わせ)の間で磨り潰す処理を意味する。
【0020】
なお、本実施例では、回収繊維を煮熟し、その後打解または叩解したが、別の実施例として、煮熟、打解、および叩解以外に他の処理を行なってもよく、たとえば必要に応じて漂白および塵取りを行なってもよい。
【0021】
S1040では、反毛化した繊維品にバインダを混ぜて漉いて布状にすることにより、繊維布が形作られる。バインダを混ぜる量は、経験的に、全体容量に対して5~15%程度である。バインダが少ないと繊維布の強度が弱くなり、バインダが多すぎると意匠性が損なわるからである。ここで、バインダとなる材料は、例えば、牛乳パックの紙繊維の部分のみを抽出した紙パルプ(フィルムの方ではない)である。紙パルプやマニラ麻などの植物由来の繊維を混入させることで、デニム繊維のつなぎ合わせの強化と、和紙の風合いを作り出することができるからである。
【0022】
また、別の好ましい例は、PLA(Poly-Lactic Acid)樹脂(ポリ乳酸)である。PLA樹脂は、トウモロコシやジャガイモなどに含まれるデンプンなどの植物由来のプラスチック素材である。
【0023】
本実施例の漉く工程により、繊維布の上表側方向にバインダが相対的に多く集まる。これは、細かい繊維(回収繊維)が水面で揺らされているうちに下に落ちる一方で、模様作りに寄与する大きめの繊維(バインダ)が表層に残ることが理由のひとつである。また、漉く工程の際の熱温度により、バインダの形状が若干変形する。このようなバインダがつくる模様により、繊維布の意匠性を高めることができる。和紙の風合いを繊維布に入れ込むことができるからである。
【0024】
また、本実施例のような漉く工程により、繊維布の上表面は、非平坦状になる一方で、下表面は、平坦状になる。繊維布の上表面は、非平坦状なので、綿のような柔らかい感じの風合いになる。繊維布の下表面は、家具などに貼り付けられる場合の接触面になるので、平坦状であることが都合がよいことになる。
【0025】
S1050では、布状の繊維品を乾燥する。乾燥させる方法の一例として、繊維布を一枚ずつ干し板に張りつけ天日で乾燥させてもよく、扇風機の風を当てて乾燥させてもよい。
【0026】
S1060では、乾燥した布状の繊維品に樹脂を施して固めてから、研磨する。ここで、樹脂固めの際には、水性ウレタンやバイオ系ウレタンなどの塗料などを用いる。樹脂固めする面は、繊維布の上表側の面である。そして、塗装された上表面を研磨することにより、繊維布の表面に濡れを作ることができ、光沢を出すことができる。また、繊維布を樹脂で固めることにより、樹脂の強度を強化しつつ、加工性を向上させることもできる。また、本実施例の好ましい態様として、インディゴ(藍色)の染料で染めたデニムの回収繊維品で繊維布を製造した場合には、デニムの風合いや質感に加えて、デニムの糸が有する強度を生かした繊維布とすることができる。
【0027】
S1060の代替的または追加的な工程について説明する。
(a)積層した表面のデニムをセレクティボンドなどの接着剤で接着する。ここで、本実施例で使用可能な接着剤の主要成分は、塗工性の良さと、耐水、耐熱性に優れた性質を有するエポキシ樹脂硬化剤(ポリアミドアミン)を含むものであるが、同様の効果が期待できる成分を有する接着剤を使用してもよい。
(b)木固めの塗料を塗布して、12時間程度を目安に自然乾燥する。木固めの塗料を塗布することにより、自然乾燥後に繊維布が硬くなり耐久性を向上させるだけでなく、気温や湿度の変化による割れや反り等を抑制して寸法安定性を保つことができる。なお、自然乾燥する時間は、塗布の材料や、乾燥の環境(温度、湿度、季節など)などによって変化するが、本実施例における工程において塗料が乾くまでの経験則的な時間を示したに過ぎない。
(c)自然乾燥により硬化した表面を研磨する。
(d)1回目水性ウレタンサンディング(シーラー)などの中塗りの塗料を塗布して乾燥させたのちに、再度、水性ウレタンサンディングを塗布して乾燥する。この工程を2回繰り返す。すなわち、水性ウレタンサンディングを塗布して乾燥をする工程を複数回行うことによって、厚い塗膜を形成することができるだけでなく、乾燥後の研磨が容易にすることができる。
(e)しっかり乾燥させてから研磨する。
(f)水性ウレタン5分艶消しを塗布し乾燥させたのちに、再度、水性ウレタン5分艶消しを塗布して乾燥させる。なお、本実施例では、艶を抑えすぎることなく、デニムの色合いや風合いを活かすことができるという点で、水性ウレタン5分艶消しを使用したに過ぎず、同様の効果が期待できる代替品を使用してもよい。
上述した(a)から(f)までの一連の工程若しくは任意の工程をS1060に組み合わせることで、繊維布を仕上げることができる。
【0028】
図2は、本発明の一実施例による繊維布の製造装置2000のブロック図を示す。本実施例の製造装置2000は、反毛手段2010、煮熟手段2020、打解手段2030、バインダ投入手段および漉く手段2040、乾燥手段2050、樹脂固め手段および研磨手段2060からなる。本実施例の製造装置2000の機能は、反毛手段2010は図1のS1010の工程を実行し、煮熟手段2020は図1のS1020の工程を実行し、打解手段2030は図1のS1030の工程を実行し、バインダ混入手段および漉く手段2040は図1のS1040の工程を実行し、乾燥手段2050は図1のS1050の工程を実行し、樹脂固め手段および研磨手段2060は図1のS1060の工程を実行する。
【0029】
図3は、本実施例で製造した繊維布の斜視図および側面図を示す。繊維布310の上表面が非平坦状であり、下表面が平坦状であることを示している。また、S1040の漉く工程でも説明したが、繊維布310の上表側方向にバインダ320が相対的に多く集まっていることも示している。繊維布310において、回収繊維330の中に、バインダ320を一部(全体の5~15容量%程度)含めることにより、繊維布310の意匠性と強度を向上させている。
【0030】
本実施例で製造した繊維布は、家具の装飾などに使用することができる。
【0031】
また、茶筒の装飾にも使用することができる。一般の茶筒の場合には、繊維布を巻きつけることにより装飾をすることができるが、繋ぎ目が装飾の美観を損なうことがある。この点について、本実施例の繊維布は加工性が高いので、本実施例の繊維布を繋ぎ目に沿って、本実施例の繊維布の切れ端などを更に上から貼り付けることにより、繋ぎ目が無いように見せることができる。これは、本実施例で製造された繊維布は、ひとつひとつの回収繊維が様々模様を作っているので、別々の繊維布の切れ端を組み合わせても、見た目はひとつの模様として見えるからである。よって、本実施例の繊維布を使用することにより、家具などの意匠性を向上させることができる。
【0032】
以上のように本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正又は変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正又は変形を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法で製造した繊維布は、木材などに貼り付けることにより、意匠性の高い家具などを製造することができる。
【符号の説明】
【0034】
製造装置2000、反毛手段2010、煮熟手段2020、打解手段2030、バインダ投入手段および漉く手段2040、乾燥手段2050、樹脂固め手段および研磨手段2060、繊維布310、バインダ320、回収繊維330
図1
図2
図3