(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062718
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接の溶接終了制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/00 20060101AFI20230427BHJP
B23K 9/09 20060101ALI20230427BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
B23K9/00 330Z
B23K9/09
B23K9/173 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172767
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001DD02
4E001DD04
4E001DE04
4E082AA03
4E082AA04
4E082BA04
4E082CA01
4E082DA01
4E082EA11
4E082EB21
4E082EB22
4E082EF07
(57)【要約】
【課題】パルスアーク溶接において、溶接終了部に発生するブローホールを低減すること。
【解決手段】溶接電源に溶接終了信号Onが入力されると、送給モータは駆動を停止し、送給モータが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間Ta中は溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを制御して溶接を終了するパルスアーク溶接の溶接終了制御方法において、溶接終了信号Onが入力されると、アーク長ヲ高低方向に揺動させるアーク長揺動期間Tsに移行し、その後にアンチスティック期間Taに移行する。アーク長揺動期間Tsは、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成されるパルス電流を通電し、パルス電流の波形パラメータを周期的に切り換えることによってアーク長を揺動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電源に溶接終了信号が入力されると、送給モータは駆動を停止し、前記送給モータが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間中は溶接電流及び溶接電圧を制御して溶接を終了するパルスアーク溶接の溶接終了制御方法において、
前記溶接終了信号が入力されると、アーク長ヲ高低方向に揺動させるアーク長揺動期間に移行し、その後に前記アンチスティック期間に移行する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の溶接終了制御方法。
【請求項2】
前記アーク長揺動期間は、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成されるパルス電流を通電し、前記パルス電流の波形パラメータを周期的に切り換えることによってアーク長を揺動させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接の溶接終了制御方法。
【請求項3】
前記波形パラメータは、前記ピーク期間及び/又は前記ピーク電流である、
ことを特徴とする請求項2に記載のパルスアーク溶接の溶接終了制御方法。
【請求項4】
前記アンチスティック期間の前にクレータ期間が設けられているときは、前記クレータ期間を前記アーク長揺動期間とする、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパルスアーク溶接の溶接終了制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接終了部に発生するブローホールを低減するためのパルスアーク溶接の溶接終了制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤを送給すると共に、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を交互に繰り返して通電し、揺動周波数で前記ピーク期間及び/又はピーク電流を変化させることによってアーク長を周期的に高低方向に揺動させて溶接を行うアーク長揺動パルスアーク溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。この溶接方法では、揺動周波数を低周波(20~50Hz程度)に設定すると、アーク長の揺動に伴うアーク力の変化によって溶融池が撹拌されて、ブローホール及びピット(以下、合わせてブローホールという)の発生を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄鋼のアーク長揺動パルスアーク溶接において、溶接速度を早くすると、アンダーカット等のビード外観不良を防止するために平均アーク長を短く設定する必要がある。平均アーク長を短くすると、低アーク長期間中に短絡が発生して、スパッタが多く発生するという問題がある。このために、溶接速度が80cm/min程度よりも早くなる場合には、アーク長揺動パルスアーク溶接は適用されない場合が多い。他方、通常のパルスアーク溶接を使用した場合は、溶接終了部にブローホールが発生しやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、溶接速度が速くなっても、定常溶接期間中のスパッタ発生を少なくし、かつ、溶接終了部に発生するブローホールを低減することができるパルスアーク溶接の溶接終了制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接電源に溶接終了信号が入力されると、送給モータは駆動を停止し、前記送給モータが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間中は溶接電流及び溶接電圧を制御して溶接を終了するパルスアーク溶接の溶接終了制御方法において、
前記溶接終了信号が入力されると、アーク長ヲ高低方向に揺動させるアーク長揺動期間に移行し、その後に前記アンチスティック期間に移行する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の溶接終了制御方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記アーク長揺動期間は、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成されるパルス電流を通電し、前記パルス電流の波形パラメータを周期的に切り換えることによってアーク長を揺動させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接の溶接終了制御方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記波形パラメータは、前記ピーク期間及び/又は前記ピーク電流である、
ことを特徴とする請求項2に記載のパルスアーク溶接の溶接終了制御方法である。
【0009】
請求項4の発明は、
前記アンチスティック期間の前にクレータ期間が設けられているときは、前記クレータ期間を前記アーク長揺動期間とする、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパルスアーク溶接の溶接終了制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るパルスアーク溶接の溶接終了制御方法によれば、溶接速度が速くなっても、定常溶接期間中のスパッタ発生を少なくし、かつ、溶接終了部に発生するブローホールを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の溶接終了制御方法を実施するための溶接電源PSのブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の溶接終了制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の溶接終了制御方法を実施するための溶接電源PSのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、アーク溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波トランス、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流回路、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0015】
溶接ワイヤ1は、送給モータMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、ワーク2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1とワーク2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出される。シールドガスは、アルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス、アルゴンガスと酸素との混合ガス等である。シールドガスは、パルス電流の通電によって溶滴を移行させるために、少なくとも不活性ガスを含むガスである。
【0016】
溶接開始・終了回路ONは、溶接を開始するときにHighレベル(溶接開始信号)となり、溶接を終了するときにLowレベル(溶接終了信号)となる溶接開始・終了信号Onを出力する。この回路は、溶接トーチ4に取り付けられたスイッチである。また、この回路は、ロボット溶接の場合はロボット制御装置に内蔵されている。
【0017】
溶接電流設定回路IRは、予め定めた溶接電流設定信号Irを出力する。
【0018】
送給速度設定回路FRは、上記の溶接電流設定信号Irを入力として、予め定めた電流・送給速度変換関数によって算出された送給速度設定信号Frを出力する。
【0019】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Fr及び後述する切換制御信号Scを入力として、切換制御信号Sc=1(定常溶接期間Tc)又は2(アーク長揺動期間Ts)のときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって設定された送給速度Fwで送給し、切換制御信号Sc=3(アンチスティック期間Ta)に変化すると送給モータMを停止させるための送給制御信号Fcを出力する。アンチスティック期間Taになると、送給速度Fwは慣性によって次第に減速して停止する。
【0020】
送給モータMは、上記の送給制御信号Fcによって回転速度が制御されて、溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。
【0021】
アーク長揺動期間設定回路TSRは、予め定めたアーク長揺動期間設定信号Tsrを出力する。
【0022】
切換制御回路SCは、上記の溶接開始・終了信号On及び上記のアーク長揺動期間設定信号Tsrを入力として、以下の処理を行い、切換制御信号Scを出力する。
1)溶接開始・終了信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは定常溶接期間Tcとなり、切換制御信号Sc=1を出力する。
2)溶接開始・終了信号OnがLowレベル(溶接終了)に変化すると、アーク長揺動期間設定信号Tsrによって設定されるアーク長揺動期間Tsに移行し、切換制御信号Sc=2を出力する。
3)アーク長揺動期間Tsが終了するとアンチスティック期間Taに移行し、切換制御信号Sc=3を出力する。
【0023】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均値算出回路VAVは、この電圧検出信号Vdの平均値(平滑値)を算出して、電圧平均値信号Vavを出力する。電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと上記の電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0024】
電圧・周波数変換回路VFは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、この信号の値に比例した周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。すなわち、このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間Highレベルになる信号である。
【0025】
ピーク期間設定回路TPRは、上記の切換制御信号Scを入力として、以下の処理を行い、ピーク期間設定信号Tprを出力する。
1)切換制御信号Sc=1(定常溶接期間Tc)のときは、予め定めた定常ピーク期間となるピーク期間設定信号Tprを出力する。
2)切換制御信号Sc=2(アーク長揺動期間Ts)のときは、予め定めた高ピーク期間と予め定めた低ピーク期間とを予め定めた揺動周期で繰り返すピーク期間設定信号Tprを出力する。
【0026】
ピーク期間タイマ回路TPは、上記のピーク期間設定信号Tpr及び上記のパルス周期信号Tfを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化した時点からピーク期間設定信号Tprによって定まる期間Highレベルになり、それ以外の期間はLowレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。したがって、このピーク期間信号Tpは、ピーク期間中はHighレベルになり、ベース期間中はLowレベルになる信号である。
【0027】
ピーク電流設定回路IPRは、上記の切換制御信号Scを入力として、以下の処理を行い、ピーク電流設定信号Iprを出力する。
1)切換制御信号Sc=1(定常溶接期間Tc)のときは、予め定めた定常ピーク電流となるピーク電流設定信号Iprを出力する。
2)切換制御信号Sc=2(アーク長揺動期間Ts)のときは、予め定めた高ピーク電流と予め定めた低ピーク電流とを予め定めた揺動周期で繰り返すピーク電流設定信号Iprを出力する。
【0028】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0029】
アンチスティック電流設定回路IARは、上記の切換制御信号Scを入力として、切換制御信号Sc=3に変化してアンチスティック期間Taに移行すると、予め定めたアンチスティックピーク期間中の予め定めたアンチスティックピーク電流及び予め定めたアンチスティックベース期間中の予め定めたアンチスティックベース電流を1周期として所定回数だけ繰り返すアンチスティック電流設定信号Iarを出力すると共に、繰り返しが終了すると短時間Highレベルとなる停止信号Offを出力する。
【0030】
電流制御設定回路ICRは、上記のピーク期間信号Tp、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のベース電流設定信号Ibr、上記のアンチスティック電流設定信号Iar及び上記の切換制御信号Scを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)切換制御信号Sc=1(定常溶接期間Tc)又は2(アーク長揺動期間Ts)のときは、ピーク期間信号TpがHighレベルになるとピーク電流設定信号Iprとなり、Lowレベルになるとベース電流設定信号Ibrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)切換制御信号Sc=3(アンチスティック期間Ta)のときは、アンチスティック電流設定信号Iarを電流制御設定信号Icrとして出力する。
【0031】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icrと溶接電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0032】
駆動回路DVは、上記の溶接開始・終了信号On、上記の停止信号Off及び上記の電流誤差増幅信号Eiを入力として、溶接開始・終了信号OnがHighレベルに変化した時点から停止信号Offが短時間Highレベルに変化するまでの期間中は、電流誤差増幅信号Eiに基づいてPWM変調制御を行い、駆動信号Dvを出力する。したがって、溶接電源PSは、定常溶接期間Tc、アーク長揺動期間Ts及びアンチスティック期間Taの期間中は溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の溶接終了制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始・終了信号Onの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は切換制御信号Scの時間変化を示し、同図(F)は停止信号Offの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0034】
同図(E)に示すように、時刻t1以前の期間は切換制御信号Sc=1となり定常溶接期間Tcとなり、時刻t1~t2の期間は切換制御信号Sc=2となりアーク長揺動期間Tsとなり、時刻t2~t3の期間は切換制御信号Sc=3となりアンチスティック期間Taとなる。
【0035】
(1)時刻t1以前の定常溶接期間Tcの動作
同図(A)に示すように、溶接開始・終了信号OnはHighレベル(溶接開始)であり、同図(E)に示すように、切換制御信号Sc=1となり、定常溶接期間Tcとなる。同図(B)に示すように、送給速度Fwは、
図1の送給速度設定信号Frによって設定された一定値となる。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成されるパルス電流が通電する。ピーク期間は
図1のピーク期間設定信号Tprによって設定された定常ピーク期間となり、ピーク電流は
図1のピーク電流設定信号Iprによって設定された定常ピーク電流となる。ベース電流は
図1のベース電流設定信号Ibrによって設定される。定常ピーク期間及び定常ピーク電流は1パルス周期1溶滴移行状態になるように設定される。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは、ピーク期間中はアーク長に比例したピーク電圧となり、ベース期間中はアーク長に比例したベース電圧となる。溶接電圧Vwの平均値が
図1の電圧設定信号Vrの値と等しくなるように、パルス周期がフィードバック制御されて、アーク長を適正値に維持する。同図(F)に示すように、停止信号OffはLowレベルのままである。例えば、定常ピーク期間=1.2ms、定常ピーク電流=450A、ベース電流=50A、パルス周期=5ms程度である。
【0036】
(2)時刻t1~t2のアーク長揺動期間Tsの動作
同図(A)に示すように、溶接開始・終了信号OnがLowレベル(溶接終了)になると、同図(E)に示すように、切換制御信号Sc=2となり、アーク長揺動期間Tsとなる。アーク長揺動期間Tsは、
図1のアーク長揺動期間設定信号Tsrによって設定される。同図(B)に示すように、送給速度Fwは、
図1の送給速度設定信号Frによって設定された一定値となる。この値を定常溶接期間Tcとは異なる値に設定しても良い。また、この値を、揺動周期に動機して高送給速度と低送給速度とに切り換えるようにしても良い。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、予め定めた高アーク長期間と予め定めた低アーク長期間から形成される予め定めた揺動周期でパルス電流の波形パラメータが切り換えられる。高アーク長期間中は、予め定めた高ピーク期間中の予め定めた高ピーク電流及びベース期間中の予め定めたベース電流から形成されるパルス電流が複数周期通電する。低アーク長期間中は、予め定めた低ピーク期間中の予め定めた低ピーク電流及びベース期間中の予め定めたベース電流から形成されるパルス電流が複数周期通電する。高ピーク期間及び低ピーク期間は
図1のピーク期間設定信号Tprによって設定される。高ピーク電流及び低ピーク電流は
図1のピーク電流設定信号Iprによって設定される。ベース電流は
図1のベース電流設定信号Ibrによって設定される。高ピーク期間及び高ピーク電流、低ピーク期間及び低ピーク電流は1パルス周期1溶滴移行状態になるように設定される。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwと相似したアーク長に比例した波形となる。定常溶接期間と同様に、溶接電圧Vwの平均値が
図1の電圧設定信号Vrの値と等しくなるように、パルス周期がフィードバック制御されて、アーク長を適正値に維持する。同図(F)に示すように、停止信号OffはLowレベルのままである。アーク長揺動期間Tsは、アーク長の揺動に伴って溶融池が攪拌されてガスを外部に放出させる期間であるので、1~5秒程度であり、揺動周期は20~50ms(20~50Hz)程度である。例えば、高アーク長期間及び低アーク長期間の比率=50%である。ここで、パルス周期は5ms程度であるので、高アーク長期間及び低アーク長期間には2~5周期が含まれることになる。また、高ピーク期間=2.0ms、高ピーク電流=500A、低ピーク期間=1.2ms、低ピーク電流=450Aである。上記では、アーク長を揺動させるために波形パラメータとしてピーク期間及びピーク電流を変化させる場合である。これ以外にも、ピーク期間、ピーク電流又はパルス周期の少なくとも一つを変化させるようにしても良い。
【0037】
(3)時刻t2~t3のアンチスティック期間Taの動作
時刻t2においてアーク長揺動期間Tsが終了すると、同図(E)に示すように、切換制御信号Sc=3となり、アンチスティック期間Taとなる。これに応動して、
図1の送給モータMは停止動作に移行し、同図(B)に示すように、送給速度Fwは慣性によって次第に減速して時刻t4で0となる。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、予め定めたアンチスティックピーク期間中の予め定めたアンチスティックピーク電流及び予め定めたアンチスティックベース期間中の予め定めたアンチスティックベース電流から形成されるパルス電流を1周期として所定回数繰り返す。これらの各波形パラメータは、
図1のアンチスティック電流設定信号Iarによって設定される。同図(D)に示すように、溶接電圧Iwは、溶接電流Iwと相似したアーク長に比例した波形となる。アンチスティック期間Ta中は、溶接電圧平均値によるフィードバック制御は行っていないが、フィードバック制御しても良い。例えば、アンチスティック期間=100ms、アンチスティックピーク期間=1.2ms、アンチスティックピーク電流=450A、アンチスティックベース期間=8ms、アンチスティックベース電流=40A、所定回数=10回に設定される。
【0038】
時刻t3において、所定回数のパルス電流の通電が終了すると、同図(F)に示すように、停止信号Offが短時間Highレベルとなる。これに応動して、溶接電源は出力を停止するので、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなる。同図では、時刻t3は、送給速度Fwの慣性期間が終了する時刻t4の直前となっているが、直後となる場合もある。時刻t3は、時刻t4の近傍の時刻となる。
【0039】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
上述した本実施の形態によれば、溶接終了信号が入力されると、アーク長ヲ高低方向に揺動させるアーク長揺動期間に移行し、その後にアンチスティック期間に移行する。アーク長揺動期間は、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成されるパルス電流を通電し、パルス電流の波形パラメータを予め定めた揺動周期で周期的に切り換えることによってアーク長を揺動させる。波形パラメータは、ピーク期間及び/又はピーク電流である。従来技術のアーク長揺動パルスアーク溶接によって鉄鋼を溶接する場合において、溶接速度が80cm/min以上の早い速度になると、スパッタ発生量が増加してビード外観が悪くなりやすいという問題がある。一方、通常のパルスアーク溶接では、スパッタ発生量は少なくビード外観も良好であるが、溶接終了部にブローホールが発生しやすいという問題がある。上記の問題は、亜鉛メッキ鋼板の溶接の場合は顕著となる。これに対して、本実施の形態では、アンチスティック期間に入る前にアーク長揺動期間を設けている。アーク長揺動期間中は、アーク長が揺動されるので、溶融池が攪拌される。この作用によって、溶融池内部のガスが外部に放出されるので、ブローホールの発生を抑制することができる。この結果、溶接終了部の溶接品質を良好にすることができる。
【0040】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、アンチスティック期間の前にクレータ期間が設けられているときは、クレータ期間をアーク長揺動期間とする。このようにすれば、クレータ期間において、クレータ処理及びアーク長揺動作用を同時に行うことができる。この結果、溶接終了部のブローホールの発生を抑制すると共に、タクトタイムを短くすることができる。
【0041】
上述した実施の形態においては、定常溶接期間中はパルスアーク溶接をおこなっているが、直流の消耗電極アーク溶接を行うようにしても良い。この場合も、アンチスティック期間の前にアーク長揺動期間を設ければ良い。
【符号の説明】
【0042】
1 溶接ワイヤ
2 ワーク
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
IAR アンチスティック電流設定回路
Iar アンチスティック電流設定信号
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
IR 溶接電流設定回路
Ir 溶接電流設定信号
Iw 溶接電流
M 送給モータ
Off 停止信号
ON 溶接開始・終了回路
On 溶接開始・終了信号
PM 電源主回路
PS 溶接電源
SC 切換制御回路
Sc 切換制御信号
Ta アンチスティック期間
Tc 定常溶接期間
Tf パルス周期信号
TP ピーク期間タイマ回路
Tp ピーク期間信号
TPR ピーク期間設定回路
Tpr ピーク期間設定信号
Ts アーク長揺動期間
TSR アーク長揺動期間設定回路
Tsr アーク長揺動期間設定信号
VAV 電圧平均値算出回路
Vav 電圧平均値信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VF 電圧・周波数変換回路
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧