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特開2023-62737組織状態計測装置、組織状態計測方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062737
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】組織状態計測装置、組織状態計測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230427BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20230427BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20230427BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/00 101A
A61B5/107 800
G01N21/27 A
G01N21/49 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172799
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟根 司
(72)【発明者】
【氏名】木口 雅史
(72)【発明者】
【氏名】敦森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】西村 彩子
(72)【発明者】
【氏名】神鳥 明彦
【テーマコード(参考)】
2G059
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB08
2G059BB12
2G059CC18
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF04
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM09
2G059MM10
2G059PP04
4C038VA04
4C038VB03
4C038VB22
4C038VC01
4C038VC05
4C117XB13
4C117XD05
4C117XE14
4C117XE43
4C117XK09
(57)【要約】
【課題】生体組織の状態を適切に計測する組織状態計測装置等を提供する。
【解決手段】組織状態計測装置100は、複数の波長帯の光に感度を有する撮像手段21から、生体組織の時系列的な画像データが入力される入力部2と、画像データを用いて、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数を最大化するように、光路長比変数を算出する演算部3と、光路長比変数を表示手段24に表示させる表示制御部4と、を備え、光路長比変数は、複数の波長帯のうち少なくとも一対の波長帯間の光路長比、又は、光路長比に比例する値である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長帯の光に感度を有する撮像手段から、生体組織の時系列的な画像データが入力される入力部と、
前記画像データを用いて、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数を最大化するように、光路長比変数を算出する演算部と、
前記光路長比変数を表示手段に表示させる表示制御部と、を備え、
前記光路長比変数は、複数の前記波長帯のうち少なくとも一対の波長帯間の光路長比、又は、前記光路長比に比例する値であること
を特徴とする組織状態計測装置。
【請求項2】
前記評価関数は、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づいて算出される脈拍の振幅、若しくは前記振幅の逆数、又は、脈拍のパワー、若しくは前記パワーの逆数であること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項3】
前記評価関数は、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化の振幅、若しくは前記振幅の逆数、又は、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化のパワー、若しくは前記パワーの逆数であること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、脈拍の周波数の範囲の設定画面を前記表示手段に表示させ、
前記演算部は、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく脈拍のスペクトルのうち、脈拍の周波数が前記範囲に入っているものに基づいて、脈拍の振幅又はパワーを算出すること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項5】
前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化には、酸素化ヘモグロビン濃度の変化及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化が含まれ、
前記評価関数は、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数であること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、複数の前記光路長比変数の候補のうち、前記評価関数が最大になるものを前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記撮像手段の感度波長の設定、前記生体組織が撮像される際の光の環境波長の設定、前記撮像手段の型式の設定、及び前記生体組織におけるヘモグロビンのモル吸光係数の設定のうち少なくとも一つの設定画面を前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記画像データのピクセルごと、又は、複数のピクセルを含む領域ごとに前記光路長比変数を算出し、
前記表示制御部は、前記光路長比変数のマップを前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項9】
前記表示制御部は、前記生体組織の元画像と前記マップとを前記表示手段の1つ画面に並べて表示させること
を特徴とする請求項8に記載の組織状態計測装置。
【請求項10】
前記演算部は、波長の範囲の異なる少なくとも3つの前記波長帯のうち、2対の波長帯に基づいて、2種類の前記光路長比変数を算出し、
前記表示制御部は、2種類の前記光路長比変数のそれぞれの前記マップを前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項8に記載の組織状態計測装置。
【請求項11】
前記表示制御部は、前記表示手段に前記マップを3次元的に表示させ、前記マップにおいて、前記画像データの各ピクセルの位置に対応する高さの値が前記光路長比変数となるよう表示させること
を特徴とする請求項8に記載の組織状態計測装置。
【請求項12】
前記演算部は、時系列的な前記画像データを用いて、時間帯が異なる複数の期間のそれぞれについて、前記光路長比変数を算出し、
前記表示制御部は、それぞれの前記期間に対応する複数の前記マップを前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項8に記載の組織状態計測装置。
【請求項13】
前記表示制御部は、前記光路長比変数を算出する際の条件の設定を行うための設定画面を前記表示手段に表示させ、
前記条件の設定には、前記評価関数の種類の選択が含まれていること
を特徴とする請求項1に記載の組織状態計測装置。
【請求項14】
複数の波長帯の光に感度を有する撮像手段から、生体組織の時系列的な画像データの入力を受け付ける入力処理と、
前記画像データを用いて、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数を最大化するように、光路長比変数を算出する演算処理と、
前記光路長比変数を表示手段に表示させる表示処理と、を含み、
前記光路長比変数は、複数の前記波長帯のうち少なくとも一対の波長帯間の光路長比、又は、前記光路長比に比例する値であること
を特徴とする組織状態計測方法。
【請求項15】
請求項14に記載の組織状態計測方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織状態計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の状態を計測する装置として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。すなわち、特許文献1には、「皮膚表面の「しみ」「そばかす」を形成するメラニン顆粒の存在する深さとその分布及び「しみ」「そばかす」の色の濃さの分布等を決定することの可能な表面状態解析システム」について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-19839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、生体組織の撮像で得られる画像を2値化し、その2値画像に基づいて、生体組織の表面付近における色素の分布を計測するようにしているが、生体組織の状態をさらに適切に計測する余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、生体組織の状態を適切に計測する組織状態計測装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明に係る組織状態計測装置は、複数の波長帯の光に感度を有する撮像手段から、生体組織の時系列的な画像データが入力される入力部と、前記画像データを用いて、前記生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数を最大化するように、光路長比変数を算出する演算部と、前記光路長比変数を表示手段に表示させる表示制御部と、を備え、前記光路長比変数は、複数の前記波長帯のうち少なくとも一対の波長帯間の光路長比、又は、前記光路長比に比例する値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体組織の状態を適切に計測する組織状態計測装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る組織状態計測装置が使用されている様子を示す説明図である。
図2】第1実施形態に係る組織状態計測装置を含む機能ブロック図である。
図3】第1実施形態に係る組織状態計測装置が実行する処理のフローチャートである。
図4】第1実施形態に係る組織状態計測装置において、撮像手段の感度波長等の設定に用いられる設定画面の説明図である。
図5】第1実施形態に係る組織状態計測装置において、被検者の手の元画像と、被検者の手の光路長比マップと、が表示された状態の画面表示例である。
図6】第2実施形態に係る組織状態計測装置を含む機能ブロック図である。
図7】第2実施形態に係る組織状態計測装置が実行する処理のフローチャートである。
図8】第3実施形態に係る組織状態計測装置が実行する処理のフローチャートである。
図9】第4実施形態に係る組織状態計測装置において、光路長比を3次元的に表示した場合の光路長比マップの画面表示例である。
図10】第5実施形態に係る組織状態計測装置において、経時的な複数の光路長比マップ等が表示された状態の画面表示例である。
図11】変形例に係る組織状態計測装置の計測対象である細胞を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係る組織状態計測装置100が使用されている様子を示す説明図である。
図1に示す組織状態計測装置100は、生体組織の状態を計測する装置である。なお、組織状態計測装置100の計測対象は、例えば、人であってもよいし、また、動物であってもよい。以下の例では、組織状態計測装置100によって、人(図1では、被検者N1)の顔や手といった生体組織の状態を計測する場合について説明する。
【0010】
図1に示すように、組織状態計測装置100には、信号線31を介して撮像手段21が接続されるとともに、別の信号線32を介して生体信号検出手段22が接続されている。撮像手段21は、被検者N1の顔等の動画像データ(時系列的な画像データ)を取得するものである。このような撮像手段21として、例えば、赤(R)・緑(G)・青(B)の3つの波長帯の光に感度を有するRGBカメラが用いられる。
【0011】
なお、撮像手段21として、携帯電話やスマートフォン、タブレットといった携帯端末(図示せず)のカメラが用いられてもよい。撮像手段21によって取得された動画像データは、信号線31を介して、組織状態計測装置100に出力される。
【0012】
生体信号検出手段22は、被検者N1の脈拍等の生体信号を検出するものである。このような生体信号検出手段22として、例えば、パルスオキシメータやレーザドップラ血流計、血圧計といったバイタルモニタが用いられる。生体信号検出手段22の検出結果は、信号線32を介して、組織状態計測装置100に出力される。
【0013】
<生体組織の計測について>
例えば、人の皮膚は、その表面から内側に向かって順に、表皮・真皮・皮下組織の3層構造になっている。また、皮膚等の生体組織には、毛細血管やリンパ管、神経等が通っている。このような生体組織の内部構造が、生体組織からの検出光(動画像データ)に基づく光路長比に反映されることを発明者らは見出した。そこで、第1実施形態では、撮像手段21からの動画像データに基づいて、組織状態計測装置100が、被検者N1の顔や手といった所定部位の光路長比マップを作成するようにしている。光路長比マップは、例えば、生体組織の状態の把握の他、シミや腫瘍、皮膚がんといった異常(又は異常の予兆)の有無の判断材料として用いられる。
光を用いて組織の構造や分布を観測するには、これまで、その組織の光吸収や光散乱を分光手法を用いて計測していた。しかし、これらの絶対値を計測することは非常に困難であり、修正Beer-Lambert則を用いれば変化量は計測できるが、必ずしも組織の状態が観測時間で変化するとも限らない。本実施形態は、脈拍に伴うヘモグロビン変化量もしくは酸素化―脱酸素化ヘモグロビン変化量の関係性の変化を計測することにより、この課題を解決するものである。修正Beer-Lambert則を用いて得られた観測量は光路長に比例する。光路長は血管およびその周辺組織の影響を受けるため、ヘモグロビンを計測することにより、算出される光路長比から血管周辺組織の構造や分布を観測することができる。
【0014】
なお、前記した「光路長比」とは、波長の異なる2つの波長帯における光路長の比である。第1実施形態では、「光路長比」として、光が生体組織を伝播するときの実効光路長の比を用いるようにしている。また、高散乱媒質を光が伝播し検出される際に、実際にはその光に含まれる光子が散乱・吸収を繰り返しさまざまな経路を伝播しており、検出されるまでの経路及び時間が光子毎に異なっている。前記した実効光路長(光路長)とは、それらの光子が伝播する平均的な距離として定義されるものである。
【0015】
<組織状態計測装置の構成>
図2は、組織状態計測装置100を含む機能ブロック図である。
組織状態計測装置100は、そのハードウェア構成として、図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するようになっている。
なお、組織状態計測装置100が1つの装置で構成されている必要は特になく、信号線を介して接続された複数の装置で構成されていてもよいし、また、ネットワークを介して接続された複数のサーバを含む構成であってもよい。
【0016】
図2に示すように、組織状態計測装置100は、記憶部1と、入力部2と、演算部3と、表示制御部4と、を備えている。記憶部1には、所定のプログラムが予め格納されている他、撮像手段21から入力される動画像データや、生体信号検出手段22から入力される脈拍の信号、端末機器23から入力される所定の設定情報等が格納される。
【0017】
入力部2は、撮像手段21、生体信号検出手段22、及び端末機器23からデータの入力を受け付ける機能を有している。演算部3は、入力部2を介して入力されたデータに基づいて、前記した光路長比マップを生成するための所定の演算処理を実行する。表示制御部4は、光路長比マップ等を表示手段24に表示させる。なお、表示手段24は、例えば、端末機器23のディスプレイであってもよい。
【0018】
図2に示すように、入力部2は、設定受付部11と、動画像受付部12と、参照信号受付部13と、を備えている。設定受付部11は、撮像手段21の感度波長等の設定を端末機器23から受け付ける。なお、端末機器23は、マウス(図示せず)やキーボード(図示せず)が接続されたコンピュータであってもよいし、また、携帯電話やスマートフォン、タブレットといった携帯端末であってもよい。
【0019】
動画像受付部12には、複数の波長帯の光に感度を有する撮像手段21から、生体組織の動画像データ(時系列的な画像データ)が入力される。例えば、動画像データに赤(R)・緑(G)・青(B)の3つの波長帯の信号が含まれている場合、動画像受付部12は、赤の波長帯のR信号と、緑の波長帯のG信号と、を少なくとも抽出する。これらのR信号・G信号は、光路長比の算出に用いられる。なお、撮像手段21から動画像受付部12にR信号・G信号が別々に入力されるようにしてもよい。
参照信号受付部13は、生体信号検出手段22から入力される脈拍等の生体信号を、図2に示す脈拍振幅算出部16によって参照される参照信号として受け付ける。
【0020】
図2に示す演算部3は、吸光係数設定部14と、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15と、脈拍振幅算出部16と、評価部17と、を備えている。吸光係数設定部14は、所定の波長・吸光係数スペクトル対応表(図示せず)を参照し、光の波長(赤・緑の各波長帯を代表する波長(中心、重心、ピークなど))に対応する酸素化ヘモグロビンのモル吸光係数を特定するとともに、脱酸素化ヘモグロビンのモル吸光係数を特定する。
【0021】
なお、「モル吸光係数」とは、光がある媒質に入射したとき、媒質1モル当たりでどれだけの光を吸収するかを示す数値である。また、「酸素化ヘモグロビン」とは、酸素と結合した状態のヘモグロビンである。「脱酸素化ヘモグロビン」とは、酸素と結合していない状態のヘモグロビンである。ヘモグロビンは、赤血球の中に存在し、肺から全身に酸素を運搬する役割を担っている。
【0022】
例えば、被検者に光が照射された場合、波長が短い緑波長帯の光は、生体組織における散乱係数及び吸収係数が大きいため、皮膚の表皮等での散乱及び吸収が大きい。一方、波長が長い赤波長帯の光は、散乱係数及び吸収係数が比較的小さい。両波長帯の光は、ヘモグロビンによる吸収を受けながら組織内を伝播し、体表面に向かうが、組織特性によって、散乱及び吸収の両方の効果により、両波長帯の光の実効光路長が定まることになる。
【0023】
また、心臓の拍動に伴って、血液は絶えず循環している。したがって、被検者の顔や手の各位置(例えば、撮像画像の各ピクセルに対応する位置)におけるヘモグロビンの濃度も、心臓の拍動に伴って時々刻々と変化する。その結果、緑波長帯に対する赤波長帯の光の光路長比も時々刻々と変化する。このようなことを考慮して、第1実施形態では、組織状態計測装置100が光路長比マップを生成する際、ヘモグロビン濃度の変化や脈拍のデータを用いるようにしている。なお、生体組織のヘモグロビン濃度の変化には、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、が含まれている。
【0024】
図2に示す光路長比設定・ヘモグロビン算出部15は、候補となる複数の光路長比を設定(仮定)し、それぞれの光路長比における酸素化ヘモグロビン濃度及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化を算出する。詳細については後記するが、これらの酸素化ヘモグロビン濃度や脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化の各値は、脈拍振幅算出部16が脈拍の振幅を算出する際に用いられる。そして、評価部17が、複数の光路長比の候補のうち、脈拍の振幅が最大となるような光路長比を特定するようにしている。このような処理が撮像画像の各ピクセルについて行われることで、光路長比マップが生成される。
【0025】
生体組織を伝播する波長λの光の強度I(λ)は、入射光の強度I0(λ)等を用いて、以下の修正Beer-Lambert則で記述される。なお、式(1)に含まれるεi(λ)は、波長λの光が伝播する場合の光吸収体i(例えば、可視光帯の光に対して強い吸収を持つもの)のモル吸光係数である。また、Ciは、光吸収体iのモル濃度である。Li(λ)は、波長λの光が伝播する場合の光吸収体iの部分光路長である。aother(λ)は、他の光吸収体による光損失である。S(λ)は、生体組織の散乱による光損失(散乱状態)であり、被検者の体動等の影響も含んでいる。
【0026】
【数1】
【0027】
なお、式(1)のεi(λ)等に付した下付きのiは、それぞれの光吸収体を区別するためのインデックスである。このような光吸収体として、メラニンの他、血液中の酸素化ヘモグロビンや脱酸素化ヘモグロビンが挙げられる。なお、メラニンの濃度が短期間(例えば、数十秒間)で変化したり、ヘモグロビン以外の生体組織で光の吸収に変化が生じたりすることはほとんどない。
【0028】
したがって、撮像手段21に入射する光(検出光)の強度が、被検者の状態の変化(血流等)に伴って、値I1から値I2に変化した場合、光吸収体iのモル濃度の変化ΔCiは、ヘモグロビン濃度の変化によるものとみなすことができる。より詳しく説明すると、撮像手段21に入射する光の強度が、値I1から値I2に変化した場合、光吸収体iのモル濃度の変化ΔCiは、酸素化ヘモグロビン濃度の変化ΔCoxy及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化ΔCdeoxyによるものとみなすことができる。
【0029】
式(1)に含まれる光損失aother(λ)に変化がなく、さらに、散乱状態S(λ)に波長依存性がないものとして近似する。そうすると、波長λの光が生体組織を伝播した場合の赤波長帯における吸光度変化ΔARは、以下の式(2)で表される。また、緑波長帯における吸光度変化ΔAGは、以下の式(3)で表される。ここで、「吸光度変化」とは、所定の時点(例えば、動画像データの1フレーム目)を基準とする吸光度の変化量である。また、「吸光度」とは、媒体の光吸収の強さを表す数値である。
【0030】
【数2】
【0031】
【数3】
【0032】
なお、式(2)に含まれる波長λRは、赤波長帯の光の波長である。また、光路長LRは、赤波長帯の光の実効光路長である。式(2)に含まれるΔCoxyは、生体組織における酸素化ヘモグロビンのモル濃度の変化量である。式(2)では、例えば、「ε」の上付き文字に「R」を付し、さらに、下付文字に「oxy」を付することで、赤波長帯(R)の光における酸素化ヘモグロビンのモル吸光係数を表すようにしている。なお、緑波長帯の光に関する式(3)についても同様である。
【0033】
また、緑波長帯(G)に対する赤波長帯(R)の光の光路長比をKR/G(=LR/LG)とし、さらに、被検者の体動等による散乱状態の変化量ΔSをゼロに近似すると、以下の式(4)が導かれる。
【0034】
【数4】
【0035】
以下では、式(4)に含まれる(ΔCoxy×LG)と、ΔCoxyと、を特に区別することなく、酸素化ヘモグロビン濃度の変化(又は、酸素化ヘモグロビン変化)という。同様に、(ΔCdeoxy×LG)と、ΔCdeoxyと、を特に区別することなく、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化(又は、脱酸素化ヘモグロビン変化)という。また、((ΔCoxy+ΔCdeoxy)×LG)と、(ΔCoxy+ΔCdeoxy)と、を特に区別することなく、総ヘモグロビン濃度の変化(又は、総ヘモグロビン変化)という。
【0036】
式(4)に示すように、酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCoxy×LG)や、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCdeoxy×LG)は、計測で得られる吸光度変化ΔAR,ΔAGの他、モル吸光係数や光路長比KR/Gにも依存する。モル吸光係数は、設定受付部11で設定される波長と、予め記憶されている波長・吸光係数スペクトル対応表(図示せず)と、に基づいて、吸光係数設定部14によって設定される。したがって、式(4)を用いて、酸素化ヘモグロビン濃度の変化、もしくは脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化を算出するには、未知数である光路長比KR/Gを設定もしくは仮定する必要がある。
【0037】
なお、ヘモグロビンのモル吸光係数εについては、例えば、文献(Willem G. Zijlstra, Anneke Buursma, Onno W. van Assendelft,Visible and Near Infrared Absorption Spectra of Human and Animal Haemoglobin : Determination and Application,VSP, 2000)等を参照してもよい。
【0038】
例えば、光路長比KR/Gを1と仮定した場合、赤波長帯・緑波長帯の光の実効光路長が等しいと仮定していることに相当する。
【0039】
しかしながら、実際には、光は検出されるまでに生体内を伝播し、当該伝播域において、ヘモグロビンによる散乱・吸収の寄与の分布が空間的に不均一になることが多い。この場合には、光路長比KR/Gは1にはならず、生体組織の構造に依存した値になる。そこで、第1実施形態では、組織状態計測装置100が、光路長比KR/Gの候補となる複数の値の中から適切な値を選択することで、光路長比マップを生成するようにしている。
【0040】
図2に示す脈拍振幅算出部16は、参照信号受付部13から入力される脈拍の信号に基づいて、脈拍の周波数の範囲を設定する。そして、脈拍振幅算出部16は、総ヘモグロビン濃度の変化に基づいて、脈拍の振幅のスペクトルを算出し、このスペクトルの中から、前記した周波数の範囲に含まれるものを特定する。
【0041】
図2に示す評価部17は、光路長比KR/Gの複数の候補のそれぞれについて、脈拍振幅算出部16によって算出された脈拍の振幅(ヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数)の大きさを比較する。そして、評価部17は、光路長比KR/Gの複数の候補のうち、脈拍の振幅を最大とするものを特定する。このような処理が、撮像画像の各ピクセルについて行われる。
【0042】
図2に示す表示制御部4は、撮像画像の各ピクセルに対応付けられた光路長比KR/Gに基づいて、光路長比マップを生成する。そして、表示制御部4は、光路長比マップを表示手段24に表示させる。なお、表示手段24は、コンピュータ(図示せず)のディスプレイであってもよいし、また、携帯電話やスマートフォン、タブレットといった携帯端末のディスプレイであってもよい。
【0043】
<組織状態計測装置の処理>
図3は、組織状態計測装置が実行する処理のフローチャートである(適宜、図2を参照)。
なお、図3の「START」時には、被検者の所定の部位(例えば、顔や手)を撮像するように撮像手段21が配置され、さらに、パルスオキシメータ等の生体信号検出手段22が被検者に取り付けられているものとする(図1参照)。
ステップS101において組織状態計測装置100は、設定受付部11によって、撮像手段21の感度波長等の設定を受け付ける。このような感度波長等の設定について、図4を用いて説明する。
【0044】
図4は、撮像手段の感度波長等の設定に用いられる設定画面R1の説明図である(適宜、図2も参照)。
例えば、撮像手段21の種類や型式によって、その感度波長が異なった値になる。そこで、撮像手段21が受光する光の波長に対応したモル吸光係数として適切な値が設定されるように、表示制御部4が、図4に示す設定画面R1を表示させるようにしている。
【0045】
図4に示す「カメラ感度波長設定」では、赤(R)、緑(G)、青(B)の各波長帯の光について、撮像手段21であるカメラの感度波長が、端末機器23の操作で設定される。「環境波長設定」では、被検者に実際に照射される光の波長(環境波長)が、端末機器23の操作で設定される。「カメラ感度波長設定」や「環境波長設定」のそれぞれには、「デフォルト設定」が設けられている。ユーザの操作によって、「デフォルト」が選択された場合には、カメラの感度波長や環境波長について、所定の既定値が用いられる。
【0046】
なお、図4では、赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの波長帯の光について、カメラの感度波長や環境波長が設定される例を示しているが、例えば、青(B)の設定を省略し、赤(R)と緑(G)のみとしてもよい。第1実施形態では、組織状態計測装置100が、赤(R)・緑(G)の2つの波長帯の光の光路長比KR/Gに基づいて、光路長比マップを作成するからである。
【0047】
図4に示す「カメラ型式選択」では、ユーザによる端末機器23の操作によって、撮像手段21であるカメラの型式を選択できるようになっている。なお、カメラの型式と、感度波長と、の対応関係を示すテーブルが記憶部1に予め記憶されている。そして、カメラの型式が選択された場合、その型式のカメラに対応する感度波長が記憶部1から読み出され、「カメラ感度波長設定」に表示されるようになっている。図4に示す「フレームレート」では、撮像手段21が被検者を撮像する際の1秒間当たりのフレーム数が設定される。これらの設定が行われた後、「OK」のボタンが押された場合、組織状態計測装置100は、所定の設定情報を記憶部1に格納する。
【0048】
このように、図3のステップS101で撮像手段21の感度波長等の設定を受け付けた後、ステップS102において組織状態計測装置100は、吸光係数設定部14によって、波長に対応するモル吸光係数を設定する。すなわち、組織状態計測装置100は、波長・吸光係数スペクトル対応表(図示せず)を参照し、赤・緑のそれぞれの波長帯の光について、その波長に対応する酸素化ヘモグロビンのモル吸光係数を特定するとともに、脱酸素化ヘモグロビンのモル吸光係数を特定する。なお、ステップS102で用いられる波長は、撮像手段21の感度波長や環境波長に基づいて、適宜に設定される。また、波長・吸光係数スペクトル対応表(図示せず)は、記憶部1に予め格納されている。
【0049】
次に、ステップS103において組織状態計測装置100は、動画像受付部12によって、動画像データから赤波長帯のR信号、及び緑波長帯のG信号を取得する(入力処理)。組織状態計測装置100は、1枚の光路長比マップを生成するために、例えば、10秒間の動画像データを取得する。この動画像データは、被検者の脈拍の周波数解析(S107)を行う際に用いられる。
【0050】
ステップS104において組織状態計測装置100は、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15によって、R・Gの光路長比KR/Gの候補を複数設定する。すなわち、組織状態計測装置100は、緑波長帯(G)に対する赤波長帯(R)の光の光路長比KR/Gの候補を複数設定する。組織状態計測装置100は、例えば、0.0~5.0といった所定範囲内で、光路長比KR/Gの候補を複数(例えば、10個)設定する。なお、光路長比KR/Gの複数の候補が、記憶部1に予め格納されていてもよい。
【0051】
ステップS105において組織状態計測装置100は、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15によって、総ヘモグロビン濃度の変化等を撮像画像のピクセル(画素)ごとに算出する。さらに詳しく説明すると、組織状態計測装置100は、前記した式(4)に光路長比KR/Gの候補のうち一つを代入することで、酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCoxy×LG)、及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCdeoxy×LG)を算出する。そして、組織状態計測装置100は、総ヘモグロビン濃度の変化(ΔCoxy+ΔCdeoxy)×LG)を算出する。このようにして算出された総ヘモグロビン濃度の変化の値は、撮像画像のピクセルの位置及び光路長比KR/Gに対応付けて、記憶部1に格納される。
【0052】
次に、ステップS106において組織状態計測装置100は、参照信号受付部13によって、生体信号検出手段22から脈拍の参照信号を取得する。この参照信号は、ステップS103の動画像データが取得された期間(例えば、所定の10秒間)における生体信号である。例えば、参照信号受付部13は、パルスオキシメータ等の信号を用いて、心拍数又は脈拍数(毛細血管における脈拍の数)を特定し、中心周波数±0.3[Hz]といった周波数範囲を脈拍数の範囲として設定する。なお、参照信号の取得に代えて、ユーザによる端末機器23の操作で、脈拍の周波数範囲が設定されるようにしてもよい。
【0053】
ステップS107において組織状態計測装置100は、脈拍振幅算出部16によって、脈拍の周波数範囲における振幅を抽出する。例えば、組織状態計測装置100は、所定の1つのピクセルにおいて、候補となる光路長比KR/Gのうちの一つを用いた場合の10秒間の総ヘモグロビン濃度の変化に対してフーリエ変換を行い、周波数解析を実行する。そして、組織状態計測装置100は、脈拍の振幅のスペクトルにおいて、脈拍の参照信号に基づいて設定した周波数範囲に含まれているスペクトルを特定する。このような処理が、光路長比KR/Gの候補のそれぞれについて、ピクセルごとに行われる。
【0054】
ステップS108において組織状態計測装置100は、評価部17によって、候補となる複数の光路長比KR/Gの中から、脈拍の振幅が最大になる光路長比KR/Gを選択する(演算処理)。このような処理が、撮像画像のひとつひとつのピクセルについて行われる。このように、組織状態計測装置100の演算部3(特に図2の評価部17)は、動画像データ(時系列的な画像データ)を用いて、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく所定の評価関数を最大化するように、光路長比KR/G(光路長比変数)を算出する。
【0055】
第1実施形態では、前記した「評価関数」として、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づいて算出される脈拍の振幅を用いている。また、「光路長比変数」として、3つの波長帯(赤・緑・青)のうち一対の波長帯(赤・緑)間の光路長比KR/Gを用いている。そして、総ヘモグロビン濃度の変化の周波数解析に基づく脈拍の振幅が最大になるような光路長比KR/Gを、撮像画像上のピクセルごとに特定するようにしている。
【0056】
これは、被検者の心臓の拍動に伴って、各ピクセルに対応する各位置の総ヘモグロビン濃度が大きく変化するからである。なお、ステップS108における「最大」とは、候補となる複数の光路長比KR/Gに対応する脈拍の振幅の中で最も大きいという意味であり、脈拍の振幅の厳密な意味での最大値に一致している必要は特にない。
【0057】
ステップS109において組織状態計測装置100は、表示制御部4によって、光路長比マップを生成する。すなわち、組織状態計測装置100は、撮像画像における被検者の所定の部位(例えば、顔や手)の各ピクセルの画素値として、ステップS108で選択した光路長比KR/Gを用いることで、光路長比マップを生成する。
【0058】
ステップS110において組織状態計測装置100は、表示制御部4によって、光路長比マップを表示手段24に表示させる(表示処理)。すなわち、表示制御部4は、「光路長比変数」として、各ピクセルの光路長比KR/Gを表示手段24に表示させる。例えば、光路長比KR/Gの大きさに対応する所定の色で、光路長比マップが表示されるようにしてもよい。このような光路長比マップを見ることで、被検者や医師等は、生体組織の内部の状態を把握できる。ステップS110の処理を行った後、組織状態計測装置100は一連の処理を終了する(END)。
【0059】
なお、図3のフローチャートには示していないが、組織状態計測装置100が、撮像画像上の各ピクセルの光路長比KR/Gに基づいて、各ピクセルの総ヘモグロビン濃度の変化を示すヘモグロビンマップを表示手段24に表示させるようにしてもよい。所定の光路長比KR/Gに対応する総ヘモグロビン濃度の変化の値は、前記した式(4)に基づいて算出される。被検者や医師等は、ヘモグロビンマップを見ることで、生体組織における血流の変化を知ることができる。
【0060】
また、ヘモグロビンマップを生成する際、前記した総ヘモグロビン濃度の変化に代えて、各ピクセルの酸素化ヘモグロビン濃度の変化を算出してもよいし、また、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化を算出するようにしてもよい。このような処理でも、総ヘモグロビン濃度の変化に基づくヘモグロビンマップの場合と同様の効果が奏される。
【0061】
図5は、被検者の手の元画像M1と、被検者の手の光路長比マップM2と、が表示された状態の画面表示例である。
なお、図5に示す「光路長比」は、光路長比マップにおける色と、光路長比の大きさと、の対応関係を示している。図5に示す光路長比マップは、緑波長帯(G)に対する赤波長帯(R)の光の光路長比KR/Gをピクセルごとに色分けで表示したマップである。光路長比KR/Gの分布は、総ヘモグロビン濃度の変化に基づくものであるため、血管周囲の状況が反映され、生体組織の内部状態の不均一性(血管の分布等)を可視化できる。例えば、生体組織において血管が存在している部分は、光路長比KR/Gが周囲と異なる傾向がある。
【0062】
また、図5の例では、表示制御部4が、被検者の右手(生体組織)の元画像M1と光路長比マップM2とを表示手段24の1つ画面に並べて表示させている。これによって、医師等が、元画像M1と光路長比マップM2とを見比べつつ、シミや腫瘍、皮膚がんといった異常の有無の判断を行いやすくなる。
【0063】
<効果>
第1実施形態によれば、組織状態計測装置100の表示制御部4は、複数の光路長比KR/G(光路長比変数)の候補のうち、脈拍の振幅(評価関数)が最大になるものを表示手段24に表示させる。これによって、生体組織の状態を適切に計測し、血液の流れに関連する生体組織の空間的な不均一性(血管の分布等)を可視化できる。また、光路長比マップには、光路長比KR/Gと密接に関連している屈折率・散乱係数・吸収係数等も反映される。このような光路長比マップは、例えば、生体組織におけるシミや腫瘍、皮膚がんといった異常の有無を判断する際の判断材料として用いることができる。また、光路長比マップによって、生体組織の状態を非接触で容易に把握できるため、判断の負担を軽減し、ひいては、社会貢献に寄与できる。
【0064】
また、第1実施形態によれば、毛細血管の周囲の皮膚組織の構造(表皮・真皮)の他、光吸収体や散乱体の分布を可視化できる。これによって、皮下組織の異常やシミの予兆の有無を判断することが可能になる。また、新生血管の増殖が盛んな腫瘍の予兆の検出に用いることも可能である。その他にも、眼底(網膜像)の写真(RGB顕微鏡動画像)に適用すれば、沈着物質であるAβの蓄積計測に加えて、血管情報(光路長比マップ)という新たなデータを付加できるため、生体情報の把握の精度が高められる。
【0065】
また、皮膚表面の状態について、腸内の細菌叢との関連も指摘されている。例えば、腸内の微生物叢のバランスが崩れた状態、又は、いわゆるディスバイオシス(Dysbiosis)の状態では、免疫系の偏りが生じることが多い。その結果、皮膚の微生物叢のバランスが崩れて、皮膚炎症の他、皮膚の組織構造に変化が生じることが報告されている(De Pessemier, B. et al. Gut-Skin Axis: Current Knowledge of the Interrelationship between Microbial Dysbiosis and Skin Conditions. Microorganisms 9, 353 (2021))。第1実施形態では、組織状態計測装置100が光路長比マップを表示させることで、このような腸内環境の変調と関連した皮膚の炎症や生体組織の構造変化を捉えることが可能になる。
【0066】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の正の相関が最大になるように光路長比KR/Gが選択される点が、第1実施形態とは異なっている。また、第2実施形態は、組織状態計測装置100A(図6参照)が、相関係数算出部18(図6参照)を備える一方、第1実施形態で説明した参照信号受付部13(図2参照)や脈拍振幅算出部16(図2参照)を特に備えない点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0067】
図6は、第2実施形態に係る組織状態計測装置100Aを含む機能ブロック図である。
図6に示すように、組織状態計測装置100Aの入力部2Aは、設定受付部11と、動画像受付部12と、を備えている。また、組織状態計測装置100Aの演算部3Aは、吸光係数設定部14と、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15と、評価部17と、相関係数算出部18と、を備えている。
【0068】
相関係数算出部18は、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数を撮像画像上のピクセルごとに算出する。
評価部17は、候補となる複数の光路長比KR/Gの中から、相関係数算出部18によって算出された、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数を最大化する、つまり正の相関を最大化するような光路長比KR/Gを撮像画像上のピクセルごとに選択する。なお、残りの各構成については第1実施形態と同様であるから、説明を省略する。
【0069】
例えば、ストレス反応等で被検者の顔面の皮膚血流に現れる変化は、血液量の変化が支配的であり、酸素化率はほとんど変化しないと仮定する。その場合、皮膚の表層付近で血流量が変化した場合でも、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとが同じように変化する。その結果、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数が比較的高い状態が維持される。したがって、第2実施形態では、組織状態計測装置100Aが、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数が最も高くなるように光路長比を選択することで、光路長比マップを生成するようにしている。
【0070】
図7は、第2実施形態に係る組織状態計測装置が実行する処理のフローチャートである(適宜、図6を参照)。
なお、図7のステップS201~S204については、第1実施形態のステップS101~S104(図3参照)と同様であるから、説明を省略する。
ステップS205において組織状態計測装置100Aは、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15によって、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、を撮像画像上のピクセルごとに算出する。さらに詳しく説明すると、組織状態計測装置100Aは、前記した式(4)に光路長比KR/Gの候補のうち一つを代入することで、酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCoxy×LG)、及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCdeoxy×LG)を算出する。このようにして算出された酸素化ヘモグロビン濃度の変化、及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化の各値は、撮像画像上のピクセルの位置及び光路長比KR/Gに対応付けて、記憶部1に格納される。
【0071】
次に、ステップS206において組織状態計測装置100Aは、相関係数算出部18によって、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数を算出する。例えば、組織状態計測装置100Aは、所定の10秒間の動画像データを用いて、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数を算出する。このような処理が、撮像画像のひとつひとつのピクセルについて行われる。このように、第2実施形態では、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく「評価関数」として、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数を用いるようにしている。
【0072】
ステップS207において組織状態計測装置100Aは、評価部17によって、候補となる複数の光路長比KR/Gの中から、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数が最大になる光路長比KR/Gを選択する。このような処理が、撮像画像におけるひとつひとつのピクセルについて行われる。
【0073】
ステップS208において組織状態計測装置100Aは、表示制御部4によって、光路長比マップを生成する。そして、ステップS209において組織状態計測装置100Aは、表示制御部4によって、光路長比マップを表示手段24に表示させる。ステップS209の処理を行った後、組織状態計測装置100Aは、一連の処理を終了する(END)。
【0074】
<効果>
第2実施形態によれば、組織状態計測装置100Aは、候補となる複数の光路長比KR/Gの中から、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数が最大になる光路長比KR/Gを選択して、光路長比マップを生成する。このような構成によれば、被検者の脈拍等の生体信号を取得する必要が特にないため、第1実施形態よりも低コストで容易に光路長比マップを生成できる。
【0075】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、赤波長帯(R)や緑波長帯(G)の他、青波長帯(B)を含む3つの波長帯に基づいて、2種類の光路長比KR/G,KB/Gが算出される点が、第2実施形態とは異なっている。なお、その他(組織状態計測装置100Aの構成等:図6参照)については、第2実施形態と同様である。したがって、第2実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0076】
図6に示す光路長比設定・ヘモグロビン算出部15は、候補となる複数の光路長比を設定(仮定)し、それぞれの光路長比における酸素化ヘモグロビン濃度の変化や脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化を算出する。以下の式(5)は、赤波長帯(R)、緑波長帯(G)、及び青波長帯(B)の3つの波長帯に基づいて、酸素化ヘモグロビン濃度の変化や脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化を算出するための式である。
【0077】
なお、式(5)に含まれるΔABは、青波長帯の光における吸光度変化である。また、式(5)では、例えば、「ε」の上付き文字に「B」を付し、さらに、下付文字に「oxy」を付することで、青波長帯の光における酸素化ヘモグロビンのモル吸光係数を表すようにしている。また、緑波長帯(G)に対する青波長帯(B)の光の光路長比をKB/G(=L/LG)としている。式(5)に含まれるΔSは、被検者の体動等による散乱状態の変化量である。なお、式(5)では、被検者の体動による輝度変化が波長依存性を持たないものとして近似している。
【0078】
【数5】
【0079】
第1実施形態で説明した式(4)と同様に、演算部3Aが式(5)の行列演算を行うことで、酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCoxy×LG)や、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCdeoxy×LG)の他、散乱状態の変化量ΔSが算出される。この式(5)では、光路長比KR/G,KB/Gが未知数となるため、光路長比KR/G,KB/Gを仮定もしくは設定する必要がある。これらの光路長比KR/G,KB/Gは、候補となる複数の光路長比KR/G,KB/Gの中から、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数に基づいて、ピクセルごとに適宜に選択される。
【0080】
図8は、第3実施形態に係る組織状態計測装置が実行する処理のフローチャートである(適宜、図6を参照)。
なお、図8のステップS301、S302については、第2実施形態のステップS201、S202(図7参照)と同様であるから、説明を省略する。
ステップS303において組織状態計測装置100Aは、動画像受付部12によって、動画像データから赤波長帯のR信号、緑波長帯のG信号、及び青波長帯のB信号を取得する。
【0081】
ステップS304において組織状態計測装置100Aは、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15によって、緑波長帯(G)に対する赤波長帯(R)の光の光路長比KR/Gの候補と、緑波長帯(G)に対する青波長帯(B)の光の光路長比KB/Gの候補と、を複数設定する。例えば、光路長比KR/Gの候補が10個であり、別の光路長比KB/Gの候補も10個である場合、光路長比KR/G,KR/Gの候補の組は、10×10=100個になる。
【0082】
ステップS305において組織状態計測装置100Aは、光路長比設定・ヘモグロビン算出部15によって、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、外乱成分と、をピクセルごとに算出する。さらに詳しく説明すると、ステップS305において組織状態計測装置100Aは、前記した式(5)に光路長比KR/G,KR/Gの候補の組のうち一つを代入することで、酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCoxy×LG)、及び脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化(ΔCdeoxy×LG)を算出する他、外乱成分である散乱状態の変化量ΔSを算出する。このようにして算出された各値は、撮像画像上のピクセルの位置及び光路長比KR/G,KR/Gの組に対応付けて、記憶部1に格納される。
【0083】
ステップS306において組織状態計測装置100Aは、相関係数算出部18によって、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化と、の間の相関係数を算出する。
次に、ステップS307において組織状態計測装置100Aは、評価部17によって、候補となる複数の光路長比KR/G,KR/Gの組の中から、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数が最大になるものを選択する。つまり、組織状態計測装置100Aの演算部3Aは、波長の範囲の異なる3つの波長帯(R・G・B)のうち、2対の波長帯(R・Gの対、B・Gの対)に基づいて、光路長比KR/G,KR/G(2種類の光路長比変数)を算出する。このような処理が、撮像画像におけるひとつひとつのピクセルについて行われる。
【0084】
ステップS308において組織状態計測装置100Aは、表示制御部4によって、R・Gの光路長比マップ、及びB・Gの光路長比マップを生成する。すなわち、組織状態計測装置100Aは、緑波長帯(G)に対する赤波長帯(R)の光の光路長比KR/Gに基づいて、R・Gの光路長比マップを生成する。また、組織状態計測装置100Aは、緑波長帯(G)に対する青波長帯(B)の光の光路長比KB/Gに基づいて、B・Gの光路長比マップを生成する。
【0085】
ステップS309において組織状態計測装置100Aは、表示制御部4によって、R・Gの光路長比マップ、及びB・Gの光路長比マップを表示手段24に表示させる。すなわち、表示制御部4は、光路長比KR/G,KR/G(2種類の光路長比変数)のそれぞれのマップを表示手段24に表示させる。例えば、表示制御部4が、R・Gの光路長比マップと、B・Gの光路長比マップと、を1つの画面で横並び又は縦並びで表示させてもよい。
なお、赤波長帯(R)の光は、青波長帯(B)の光とは波長が異なることから、生体内における散乱・吸収特性が異なる。したがって、B・Gの光路長比マップと、R・Gの光路長比マップと、の両方を見比べることで、医師等が生体組織の状態を把握しやすくなる。
【0086】
また、動画像データのフレーム間のパターン変化を最小化する「体動補正」として、ステップS305で算出される外乱成分(散乱状態の変化量ΔS)が小さくなるように、組織状態計測装置100Aが所定の画像処理を行うようにしてもよい。これによって、被検者の体動に起因する位置の変化を画像処理で小さくすることができる。その結果、外乱変化に対してロバストに(つまり、外乱の影響を受けにくくするように)、生体組織の情報を取得できる。
【0087】
<効果>
第3実施形態によれば、組織状態計測装置100Aが、ピクセルごとの光路長比KR/Gに基づくR・Gの光路長比マップと、ピクセルごとの光路長比KB/Gに基づくB・Gの光路長比マップの両方を生成できる。これによって、顔や皮膚といった生体組織の状態を医師等が把握しやすくなる。また、外乱成分(散乱状態の変化量ΔS)を最小化するように補正を行うことで、被検者の体動の影響による光路長比KR/G,KR/Gの誤差を小さくして、高精度化を図ることができる。
【0088】
≪第4実施形態≫
第4実施形態は、光路長比KR/Gを3次元的に表示する点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(組織状態計測装置100の構成等:図2参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0089】
図9は、第4実施形態に係る組織状態計測装置100において、光路長比を3次元的に表示した場合の光路長比マップM3の画面表示例である。
なお、図9の例では、被検者の手の撮像結果に基づく光路長比マップM3が3次元的に表示されている。図9に示すx・y方向の各数値は、撮像手段21における各ピクセルの位置を示す目盛である。また、図9に示すz方向は、光路長比の大きさを示している。このように、表示制御部4は、表示手段24に光路長比マップM3(マップ)を3次元的に表示させ、光路長比マップM3において、時系列的な画像データの各ピクセルの位置に対応する高さの値が光路長比KR/G(光路長比変数)となるように表示させる。
【0090】
<効果>
第4実施形態によれば、組織状態計測装置100が光路長比マップM3を3次元的に表示することで、生体組織の空間的な不均一性(血管の分布等)を医師等が直感的に把握できるため、生体組織の状態を把握する際の負担を軽減できる。
【0091】
≪第5実施形態≫
第5実施形態では、経時的な複数の光路長比マップが1つの画面に表示される点が、第1実施形態とは異なっている。また、第5実施形態は、光路長比マップが生成される際の条件がユーザによって選択される点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(組織状態計測装置100の構成等:図2参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0092】
図10は、第5実施形態に係る組織状態計測装置において、経時的な複数の光路長比マップM4,M5,M6等が表示された状態の画面表示例である(適宜、図2を参照)。
図10に横並びで示している3つの光路長比マップM4,M5,M6のうち、紙面左側の光路長比マップM4は、所定時刻を基準とする0~10秒(「t=10s」と記載)の動画像データに基づく光路長比マップである。また、紙面中央の光路長比マップM5は、所定時刻を基準とする10~20秒(「t=20s」と記載)の動画像データに基づく光路長比マップである。また、紙面右側の光路長比マップM6は、所定時刻を基準とする20~30秒(「t=30s」と記載)の動画像データに基づく光路長比マップである。
【0093】
1つの光路長比マップは、例えば、10秒間のタイムフレームの動画像データから生成されるため、タイムフレームを時間的にずらすことで、経時的な3つの光路長比マップを生成するようにしている。具体的には、組織状態計測装置100の演算部3は、動画像データ(時系列的な画像データ)を用いて、時間帯が異なる複数の期間のそれぞれについて、光路長比KR/G(光路長比変数)を算出する。そして、表示制御部4は、それぞれの期間に対応する複数の光路長比マップM4,M5,M6を表示手段24に表示させる。これによって、医師等は、3つの光路長比マップM4,M5,M6を見比べることで、生体組織の経時的な変化を把握できる。
【0094】
図10に示す「計算時間」の欄は、1つの光路長比マップの生成に用いられる動画像データの時間幅を、端末機器23の操作でユーザが設定するためのものである。「脈拍」の欄では、脈拍の周波数の範囲(図10では、0.8~1.6[Hz])が設定される。このように、表示制御部4は、脈拍の周波数の範囲の設定画面R2を表示手段24に表示させる。そして、演算部3は、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく脈拍のスペクトルのうち、脈拍の周波数が、前記した範囲に入っているものに基づいて、脈拍の振幅(又はパワー)を算出する。これによって、脈拍の振幅を適切に算出できる。
【0095】
図10に示す「最適化条件」の欄は、光路長比マップを生成する際の条件として、条件A,B,Cといった複数の候補がプルダウン表示されるようになっている。つまり、表示制御部4は、光路長比KR/G(光路長比変数)を算出する際の条件の設定(図10の「最適化条件」)を行うための設定画面R2を表示手段24に表示させる。この条件の設定には、前記した評価関数の種類の選択が含まれる。
【0096】
例えば、図10に示す「条件A」が選択された場合には、評価関数の種類を脈拍の振幅(又はパワー)にして、第1実施形態と同様の方法で光路長比マップが生成されるようにしてもよい。また、図10に示す「条件B」が選択された場合には、評価関数の種類を酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数にして、第2実施形態と同様の方法で光路長比マップが生成されるようにしてもよい。
【0097】
また、酸素化ヘモグロビン濃度の変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化、又は総ヘモグロビン濃度の変化に基づく脈拍のパワーを最大化する場合、脈拍の周波数帯の範囲を設定するようにしてもよい。その他、組織状態計測装置100が光路長比を算出する際に最適化する所定のパラメータ等を設定できるようにしてもよい。
【0098】
<効果>
第5実施形態によれば、経時的な複数の光路長比マップM4,M5,M6を1つの画面に表示することで、生体組織の状態の変化を医師等が把握しやすくなる。また、ユーザの操作に基づいて、光路長比マップM4,M5,M6を生成する際の条件を設定できるため、組織状態計測装置100の使い勝手をよくすることができる。
【0099】
≪変形例≫
以上、本発明に係る組織状態計測装置100等について各実施形態により説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、各実施形態では、組織状態計測装置100が、人の顔や手といった生体組織の状態を計測し、光路長比マップとして表示する場合について説明したが、これに限らない。例えば、図11に示すように、培養した細胞等の光路長比マップが生成されるようにしてもよい。
【0100】
図11は、変形例に係る組織状態計測装置の計測対象である細胞E1を示す説明図である。
図11に示す培養された細胞E1の動画像データを用いて、組織状態計測装置100が、所定の光路長比マップを生成するようにしてもよい。これによって、細胞E1における血管の走行状態や、新生した血管の発育状態の他、血管の周囲に存在する光吸収体の吸収係数・散乱係数・屈折率の空間的な不均一性を把握しやすくなる。なお、細胞や臓器といった生体組織が血液を含んでいれば、各種のヘモグロビン濃度の時間的変化に基づいて、光路長比マップを生成することもできる。なお、組織状態計測装置100の構成としては、第1~第5実施形態のいずれかを用いることができる。
【0101】
また、各実施形態では、撮像手段21としてRGBカメラが用いられる場合について説明したが、これに限らない。例えば、レンズ(図示せず)を介して入射する光を、プリズム等(図示せず)を用いて、赤・緑・青の3つの波長帯に分光する分光カメラを撮像手段21として用いるようにしてもよい。また、撮像手段21として、CMOSカメラ(Complementary Metal Oxide Semiconductor Camera)やCCDカメラ(Charge Coupled Device Camera)を用いることも可能である。
【0102】
また、第1実施形態では、光路長比変数として、所定の光路長比KR/Gが用いられる場合について説明したが、これに限らない。例えば、光路長比変数は、光路長比KR/Gに比例する値であってもよい。このような光路長比変数として、ヘモグロビンのモル吸光係数と光路長との積の波長間比を用いるようにしてもよい。なお、他の実施形態についても同様のことがいえる。
【0103】
また、第1実施形態では、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数として、脈拍の振幅が用いられる場合について説明したが、これに限らない。例えば、評価関数として、脈拍の振幅の2乗に比例する、脈拍のパワーが用いられてもよい。なお、脈拍のパワースペクトルも、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づいて算出される。
また、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数として、脈拍の振幅やパワーの代わりに、脈拍の振幅の逆数、もしくは脈拍のパワーの逆数を用いてもよい。この場合において、演算部3は、評価関数を最大化する(つまり、脈拍の振幅やパワーを最小化する)ように、光路長比を算出する。これによって、生体構造(被検者の状態)に依存した血液の拍動の影響を受けにくい条件で、ヘモグロビン濃度の変化を算出するための光路長比を設定できる。
また、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数として、生体組織のヘモグロビン濃度の変化の振幅やパワーを用いてもよい。この場合でも、各実施形態と同様の効果が奏される。
また、生体組織のヘモグロビン濃度の変化に基づく評価関数として、生体組織のヘモグロビン濃度の変化の振幅の逆数を用いてもよいし、また、生体組織のヘモグロビン濃度の変化のパワーの逆数を用いてもよい。この場合において、演算部3は、評価関数を最大化する(つまり、ヘモグロビン濃度の変化の振幅やパワーを最小化する)ように、光路長比を算出する。これによって、生体構造(被検者の状態)に依存した血液動態の影響を小さくする条件で、ヘモグロビン濃度の変化を算出するための光路長比を設定できる。
なお、ヘモグロビン濃度の変化の振幅やパワーとして、所定期間のそれぞれの平均を算出することによる平均振幅や平均パワーを用いることができる。
【0104】
また、第1実施形態では、総ヘモグロビン濃度の変化に基づいて、脈拍の振幅が算出される場合について説明したが、これに限らない。例えば、組織状態計測装置100が、酸素化ヘモグロビン濃度の変化に基づいて、脈拍の振幅を算出するようにしてもよい。また、組織状態計測装置100が、脱酸素化ヘモグロビン濃の度変化に基づいて、脈拍の振幅を算出するようにしてもよい。つまり、「評価関数」の一つである脈拍の振幅の算出に用いられる「ヘモグロビン濃度の変化」は、総ヘモグロビン濃度の変化であってもよいし、また、酸素化ヘモグロビン濃度の変化や脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化であってもよい。
【0105】
また、第1実施形態では、撮像手段21が赤・緑・青の光に感度を有する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、撮像手段21が、波長の範囲の異なる複数の波長帯の光に感度を有するものであればよい。この場合において、演算部3は、光路長比変数として、前記した複数の波長帯のうち少なくとも一対の波長帯間の光路長比を算出する。
【0106】
また、第1、第2実施形態では、赤波長帯(R)及び緑波長帯(G)の2つの波長帯の光が用いられる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、波長の範囲の異なる少なくとも3つの波長帯の光に基づいて、1つ又は複数の光路長比マップが生成されるようにしてもよい。なお、第3実施形態等についても同様のことがいえる。また、組織状態計測装置100が、酸素化ヘモグロビン濃度の変化や脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化等を3波長以上の光に基づいて最小二乗法を用いて算出するようにしてもよい。
【0107】
また、第1実施形態では、組織状態計測装置100が光路長比マップを生成する際、候補となる複数の光路長比の中から、脈拍の振幅が最大になるものを選択する場合について説明したが、これに限らない。例えば、評価関数が最大になるような光路長比を特定する際、全数探索や最急降下法、ベイズ最適化等の手法が用いられてもよい。
【0108】
また、第1実施形態の図4では、簡単のために、赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの波長帯の中心波長を、光源の代表波長としてユーザが設定する例を示したが、これに限らない。例えば、ユーザによる端末機器23の操作に基づいて、撮像手段21の感度スペクトルや、環境光のスペクトルが入力されるようにしてもよい。この場合において、組織状態計測装置100が、撮像手段21の感度スペクトルと、環境光のスペクトルとの掛け合わせ等によって、撮像手段21で受光する光の実効波長を特定するようにしてもよい。
【0109】
また、第1実施形態では、表示制御部4が、撮像手段21の感度波長の他、環境波長やカメラ型式等の設定画面R1を表示手段24(例えば、端末機器23のディスプレイ)に表示させる場合について説明したが、これに限らない。例えば、酸素化ヘモグロビンや脱酸素化ヘモグロビンといった「ヘモグロビン」のモル吸光係数を設定画面R1で設定できるようにしてもよい。つまり、表示制御部4が、撮像手段21の感度波長の設定、生体組織が撮像される際の光の環境波長の設定、撮像手段21の型式の設定、及び生体組織におけるヘモグロビンのモル吸光係数の設定のうち少なくとも一つの設定画面を表示手段24に表示させるようにしてもよい。
【0110】
また、第2実施形態では、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関係数を最大化するように、光路長比KR/Gが選択される場合について説明したが、これに限らない。すなわち、酸素化ヘモグロビン濃度の変化と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化との間の相関の強さを示す所定の指標として、共分散など、相関係数以外のものが用いられてもよい。
【0111】
また、各実施形態では、光路長比がピクセルごとに算出される場合について説明したが、これに限らない。例えば、複数のピクセルを含む領域ごとに光路長比が算出されるようにしてもよい。つまり、演算部3が、動画像データ(時系列的な画像データ)のピクセルごと、又は、複数のピクセルを含む領域ごとに光路長比変数を算出し、表示制御部4が、光路長比変数のマップを表示手段24に表示させるようにしてもよい。
【0112】
また、生体組織がヘモグロビンを含まない場合でも、所定物質の特異的な吸光スペクトルを用いて、複数の波長帯の光の吸光度の変化特性(振動周波数)に基づき、演算部3が光路長比を算出するようにしてもよい。このような光路長比をピクセルごとに算出することで、光路長比マップを生成することも可能である。
【0113】
また、例えば、組織状態計測装置100が所定の光路長比マップを表示手段24に表示させ、さらに、マウス等(図示せず)の操作によって、表示手段24の画面上で指定された所定位置における光路長比の数値を表示手段24に表示させるようにしてもよい。
また、第1実施形態(図2参照)の構成から参照信号受付部13を省略し、例えば、設定受付部11で脈拍の周波数の範囲や中心周波数が設定されるようにしてもよい。
【0114】
また、各実施形態を、適宜に組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態と第3実施形態とを組み合わせ、候補となる光路長比KR/G,KR/Gの複数の組のうち(第3実施形態)、脈拍の振幅が最大になるものを選択する(第1実施形態)、という処理を組織状態計測装置100がピクセルごとに行うようにしてもよい。
また、例えば、第3実施形態と第5実施形態とを組み合わせ、組織状態計測装置100が、光路長比KR/G,KR/Gのマップのそれぞれについて(第3実施形態)、経時的な複数の光路長比マップを表示手段24に表示させるようにしてもよい(第5実施形態)。なお、その他にもさまざまな組合せが可能である。
【0115】
また、各実施形態で説明した組織状態計測装置100等の機能(組織状態計測方法)を実現するプログラムの全部又は一部を、サーバ(図示せず)等の一つ又は複数のコンピュータが実行するようにしてもよい。前記したプログラムは、通信回線を介して提供することもできるし、CD-ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0116】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0117】
1 記憶部
2,2A 入力部
3,3A 演算部
4 表示制御部
11 設定受付部
12 動画像受付部
13 参照信号受付部
16 脈拍振幅算出部
14 吸光係数設定部
15 光路長比設定・ヘモグロビン算出部
17 評価部
18 相関係数算出部
21 撮像手段
22 生体信号検出手段
23 端末機器
24 表示手段
24 端末機器
100,100A 組織状態計測装置
E1 細胞(生体組織)
M1 元画像
M2,M3,M4,M5,M6 光路長比マップ(マップ)
N1 被検者
R1,R2 設定画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11