(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006277
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵物含有組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20230111BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230111BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230111BHJP
A61K 36/31 20060101ALI20230111BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20230111BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P1/02
A61P29/00
A61K36/31
A61K35/744
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108799
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】浦川 李花
(72)【発明者】
【氏名】井上 友規
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD53
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF07
4B018MF13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087BC59
4C087CA10
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA67
4C087ZB11
4C088AB15
4C088CA25
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA67
4C088ZB11
(57)【要約】
【課題】乳酸菌発酵物による新規な効果及び用途の提供。
【解決手段】乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する歯肉改善又は維持用経口組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する歯肉改善又は維持用経口組成物。
【請求項2】
乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する、歯肉における炎症性サイトカイン発現を抑制するための、経口組成物。
【請求項3】
食品組成物である、請求項1又は2に記載の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乳酸菌発酵物を含有する組成物及びその用途等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌発酵物により、種々の効果が奏されることが検討されてきている。例えば腸バリアが改善される(特許文献1)、あるいは肌が改善される(特許文献2)等の効果が奏されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開第2019-011315号公報
【特許文献2】特開第2019-011316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、乳酸菌発酵物の新規な効果及び用途を探索した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、乳酸菌発酵物の中でも、乳酸菌によって発酵させたブロッコリー(乳酸菌発酵ブロッコリー)を経口摂取することで、歯肉を改善または維持し得ること、を見出し、さらに改良を重ねた。
【0006】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する歯肉改善又は維持用経口組成物。
項2.
乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する、歯肉における炎症性サイトカイン発現を抑制するための、経口組成物。
項3.
食品組成物である、項1又は2に記載の経口組成物。
【発明の効果】
【0007】
乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する歯肉改善または維持用の経口組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1a】通常の飼料、高脂肪食飼料、あるいは、高脂肪食飼料及び乳酸菌発酵ブロッコリー、を経口摂取させたマウスの歯周組織におけるTNF-α遺伝子の発現測定結果を示す。
【
図1b】通常の飼料、高脂肪食飼料、あるいは、高脂肪食飼料及び乳酸菌発酵ブロッコリー、を経口摂取させたマウスの歯周組織におけるIL-1β遺伝子の発現測定結果を示す。
【
図1c】通常の飼料、高脂肪食飼料、あるいは、高脂肪食飼料及び乳酸菌発酵ブロッコリー、を経口摂取させたマウスの歯周組織におけるPAI-1遺伝子の発現測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、乳酸菌発酵ブロッコリー含有組成物及びその用途等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0010】
本開示に包含される組成物は乳酸菌発酵ブロッコリーを含有する経口組成物である。以下、本開示に包含される当該組成物を「本開示の組成物」ということがある。本開示の組成物は、歯肉改善又は維持効果を奏し得る。このため、歯肉改善又は維持のために、好ましく用いられる。
【0011】
上記の通り、乳酸菌発酵ブロッコリーは、ブロッコリーを乳酸菌によって発酵させて得られる。
【0012】
用いる乳酸菌としては、上記効果を奏する乳酸菌発酵ブロッコリーが得られるのであれば特に限定されず、公知の経口摂取可能な乳酸菌を用いることができる。例えば、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属の乳酸菌を挙げることができ、より具体的には、例えばラクトバチルス・ペントーサス、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・クレモリス等を挙げることができる。中でも、ラクトバチルス・ペントーサスが好ましい。乳酸菌は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
また、発酵条件も特に限定はされない。例えば、ブロッコリーを破砕、加熱した後、裏ごししたブロッコリーピューレに1×109個程度の乳酸菌を接種し、30℃で20時間程度静置することで、ブロッコリーを発酵させることができる。なお、ブロッコリーピューレへの乳酸菌を接種は、例えばブロッコリーピューレの重量の4~5質量%程度の乳酸菌液を添加することで行うことが好ましい。
【0014】
本開示の組成物における乳酸菌発酵ブロッコリーの含有量は、特に限定はされず、例えば0.1~100質量%程度が好ましく、1~99質量%程度、2~90質量%、又は5~50質量%程度がより好ましい。
【0015】
摂取される発酵ブロッコリーの量も特に制限はされない。また、発酵ブロッコリーの形状も特に限定はされない。例えば、発酵ブロッコリーは乾燥物(乾燥粉末が好ましく、凍結乾燥粉末がより好ましい)であってもよいし、またあるいは例えば発酵ブロッコリーピューレであってもよい。乾燥物換算の場合、発酵ブロッコリーは、例えば一日当たり(特に成人一日当たり)100~1000mg程度摂取されることが好ましい。本開示の組成物に含有される乳酸菌発酵ブロッコリー量についても、当該一日当たりの乳酸菌発酵ブロッコリー摂取量を参考として設定することもできる。組成物に含まれる乳酸菌発酵ブロッコリー量を上記一日当たりの乳酸菌発酵ブロッコリー摂取量の例えば1/2若しくは1/3として、当該組成物の摂取を一日数回(2回若しくは3回)とすることもできる。
【0016】
本開示の組成物を歯肉の改善又は維持用として用いる場合には、歯肉の改善が望ましい対象はもちろんのこと、歯肉に大きな異常は見られない対象であっても歯肉の維持のために予防的に用いることもできる。歯肉の改善が望ましい対象としては、歯肉が炎症を起こしている対象、歯肉が退縮した対象等が好ましく挙げられ、より具体的には例えば歯肉炎及び/又は歯周炎である対象が挙げられる。また、歯周病患者も当該対象として好ましく挙げられる。
【0017】
理論に拘束されることを望むものではないが、本開示の組成物を経口摂取することにより、特に歯肉における特定のサイトカイン(特に炎症性サイトカイン)の発現が抑制され得、これによって歯肉の改善または維持効果が奏される。サイトカインとしては、より具体的には、例えばTNF-α(tumor necrosis factor-α、腫瘍壊死因子)やIL-1β(Interleukin-1β、インターロイキン)、PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1、プラスミノゲンアクチベータインヒビタ-1)が挙げられる。
【0018】
例えば上述したサイトカインが過剰に産生されると、歯肉線維芽細胞や破骨細胞を活性化させ、活性化された歯肉繊維芽細胞はコラゲナーゼを産生し、歯肉組織を破壊する。また活性化された破骨細胞は歯槽骨吸収を促し、歯肉退縮(ハグキ下がり)の原因にもなり、健康な歯肉の維持ができなくなる。このために、サイトカインの発現抑制は重要であるといえる。なお、PAI-Iは、肥満細胞が産生するサイトカインの一種であり、血栓症への進展に関与することがわかっている。また、血中のPAI-1量と歯周状態に相関があるとの報告もあり、歯周組織への血流が減少することによって、歯周疾患の進行が促進される可能性が考えられている。このために、PAI-1の発現抑制は重要であるといえる。
【0019】
なお、以上のことから、本開示の組成物は、サイトカインの発現を抑制するためにも、好ましく用いることができる。
【0020】
本開示の組成物には、効果を損なわない範囲で、乳酸菌発酵ブロッコリー以外の成分が含まれていても良い。例えば、薬理学上若しくは食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤等が含まれていてもよい。また、本発明の組成物の形態も特に限定はされないが、例えば経口医薬品組成物又は食品組成物であってもよい。食品組成物である場合には、例えば加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等であってもよい。
【0021】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0022】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0023】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0024】
使用動物
3週齢のマウス(C57BL/6J(SPF))雄を日本チャールス・リバー(株)から購入して使用した。入荷から群分け日までを馴化期間とした。また、入荷日を0日として7日まで検疫期間とした。飼料はケージの蓋上に検疫・馴化期間中及びA群の試験期間中はD12450J(ノーマル飼料(飼料1)、RESEARCH DIETS, INC., ロット番号:20080303)を,B~C群の試験期間中はD12492(高脂肪食(HFD;飼料2),RESEARCH DIETS, INC., ロット番号:20090202, 20110303)置き、絶食中を除き自由に与えた。飲料水は,ポリサルフォン製給水器(先管ステンレス製)により試験期間中を通じ自由に与えた。
【0025】
群分け
検疫・馴化期間終了日に測定して得られた体重を指標に、次表に従い層別連続無作為化法により群分けを行った。
【0026】
【0027】
被験物質としては、ラクトバチルス・ペントーサスにより発酵したブロッコリーを用いた。発酵は次の様にして行った。ブロッコリーを破砕、加熱した後、裏ごししたブロッコリーピューレに1×109個程度の乳酸菌を接種し、30℃で20時間程度静置し発酵させた。なお、ブロッコリーピューレへの乳酸菌を接種は、ブロッコリーピューレの重量の4質量%の乳酸菌液を添加することで行った。
【0028】
また、得られた発酵ブロッコリーを凍結乾燥し粉末として、被験物質として用いた。
【0029】
被験物質を含ませた蒸留水を、ゾンデによりマウスに投与した。被験物質を投与しない群のマウスには、蒸留水をゾンデにより投与した。投与期間は77日間とした。投与期間後、一晩絶食させて麻酔をして解剖を行った。そして、歯周組織(上顎骨側左右,下顎骨側右)を回収した。歯肉組織については、メスにて凍結状態で切断した後、Total RNA Mini Kit(Bio-Rad社)を用いて、総RNAを回収、逆転写を経て、cDNAを作成した。そして、リアルタイムPCRにより、次の各遺伝子発現の変動を見た。結果を
図1a~1cに、ノーマル飼料を与えた群(A群:コントロール)における遺伝子発現量を1としたときの相対値で示す。
・TNF-α(tumor necrosis factor-α、腫瘍壊死因子)
・IL-1β(Interleukin-1β、インターロイキン)
・PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1、プラスミノゲンアクチベータインヒビタ-1)
【0030】
なお、各図において、+は<0.1を、*はp<0.05を、**はp<0.01を、それぞれ示す。また、FBは乳酸菌発酵ブロッコリーを示す。