(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062794
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】金属空気発電機及びそのユニット
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20230427BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20230427BHJP
H01M 50/253 20210101ALI20230427BHJP
【FI】
H01M12/06 A
H01M50/204 401Z
H01M50/253
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172899
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】508346505
【氏名又は名称】日本協能電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002882
【氏名又は名称】弁理士法人白浜国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 忠
【テーマコード(参考)】
5H032
5H040
【Fターム(参考)】
5H032AA01
5H032CC01
5H032CC11
5H040AA12
5H040AS01
5H040AT04
5H040AY06
(57)【要約】
【課題】負極パネル集合体の交換を素早く行うことのできる金属空気発電機の提供。
【解決手段】発電槽40は、カソード体61を有する正極ハウジング60と、正極ハウジング60に挿入されるアノード体51を有する負極パネル集合体50とを含み、負極パネル集合体50は、取手を有する中蓋70と、中蓋70に着脱可能に取り付けられた、アノード体51を有する複数の負極パネル53とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向、幅方向及び前後方向を有し、ケース本体と前記ケース本体に収容された発電槽とを含む金属空気発電機において、
前記発電槽は、カソード体を有する正極ハウジングと、前記正極ハウジングに挿入されるアノード体を有する負極パネル集合体とを含み、
前記負極パネル集合体は、取手を有する中蓋と、前記中蓋に着脱可能に取り付けられた、前記アノード体を有する複数の負極パネルとを含むことを特徴とする金属空気発電機。
【請求項2】
前記ケース本体に開閉可能に取付けられた蓋体をさらに有し、前記蓋体と前記ケース本体とは、それぞれ、前記上下方向へ延びる凹部を有し、前記凹部が前記上下方向において連続して形成された誘導凹部を有する請求項1に記載の金属空気発電機。
【請求項3】
前記ケース本体の下方には引き出しが位置していて、前記引き出しは、前記取手が位置する前面部と、前記正極ハウジングの下方スペース内に収容されるスラブ受容部とを有する請求項1又は2に記載の金属空気発電機。
【請求項4】
前記ケース本体の後面の下方には、排水機構が位置し、前記排水機構は、排水口を被覆する排水キャップと、前記排水キャップが着脱可能に取り付けられるキャップ取付部とを含み、前記排水キャップを回転操作することによって前記排水口の開閉を行うことができる請求項3に記載の金属空気発電機。
【請求項5】
前記引き出しと前記排水機構とは、前記前後方向において対向して位置していて、前記引き出しの前記スラブ受容部は後方壁部を有し、前記排水キャップは底面の内面から延びるストッパーを有し、前記ストッパーの先端に位置する係止部が前記後方壁部に係脱可能に係止される請求項4に記載の金属空気発電機。
【請求項6】
前記請求項1-4に記載された発電機を複数含み、前記複数の発電機が前記上下方向及び前記幅方向において並べられていて、前記上下方向及び前記幅方向において並べられた前記発電機どうしが、連結部材を介して互いに分離可能に連結されている発電機ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気や水等の自然燃料を利用して発電する金属空気発電機及び複数の金属空気発電機から構成されたユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気や水等の自然燃料を利用して発電する金属空気発電機は、公知である。例えば、特許文献1には、ケース本体内に複数の発電セルが内部に配置された金属空気発電機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の金属空気発電機によれば、ケース本体内に、カソード体とアノード体を有する負極パネルとを備えた複数の発電セルを幅方向に並べて電気的に直列接続することで、比較的に高い起電力を出力することができる。
【0005】
しかし、使用後に、再度使用可能とするために、使用後の発電セルをそれぞれ新しい発電セルと個別に新しく交換することは手間であった。
【0006】
本発明は、従来の金属空気発電機の改良であって、負極パネル集合体の交換を素早く行うことのできる金属空気発電機の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上下方向、幅方向及び前後方向を有し、ケース本体とケース本体に収容された発電槽とを含む金属空気発電地に関する。
【0008】
本発明に係る金属空気発電機は、、発電槽は、カソード体を有する正極ハウジングと、正極ハウジングに挿入されるアノード体を有する負極パネル集合体とを含み、負極パネル集合体は、取手を有する中蓋と、中蓋に着脱可能に取り付けられた、アノード体を有する複数の負極パネルとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施の形態に係る金属空気発電機においては、負極パネル集合体において、アノード体を有する複数の負極パネルが取り付けられた中蓋に取手が設けられていることによって、負極パネル集合体の収納及び取り出し操作を素早く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面は、本発明の特定の実施の形態を示し、発明の不可欠な構成ばかりでなく、選択的及び好ましい実施の形態を含む。
【
図1】本発明に係る金属空気発電機を正面から視た斜視図。
【
図2】本発明に係る金属空気発電機を背面から視た斜視図。
【
図3】金属空気発電機から負極パネル集合体を取り出した状態における斜視図。
【
図6】(a)負極パネルの斜視図。(b)中蓋と負極パネルとが分離した状態を示す斜視図。
【
図12】(a)~(c)背面排水部の排水の様子を示す図。
【
図15】発電機ユニットが接続ボックスを介して蓄電装置に接続された様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記の各実施の形態は、
図1~
図15に示す金属空気発電機10に関し、発明の不可欠な構成ばかりではなく、選択的及び好ましい構成を含む。
【0012】
図1~
図4を参照すると、可搬用の金属空気発電機(水電池、電源装置、発電装置。以下、単に発電機という)10は、上下方向Y、幅方向X及び前後方向Zを有する。発電機10は、略円筒状であって、前面(正面)10aと、後面(背面)10bと、上面10cと、底面10dと、幅方向Xにおいて互いに対向する第1及び第2側面(両側面)10e,10fとを有し、ケース本体20と、開閉可能に取り付けられた蓋体30とを備える。ケース本体20及び蓋体30は、非導電性の材料、例えば、硬質プラスチック材料から形成することができる。
【0013】
ケース本体20の内部空間には、発電槽40が収容される。発電槽40は、複数のプレート状のアノード体を備えた負極パネルを有する負極パネル集合体50と、複数の小収容室(セル)を有する正極ハウジング60とを有する。
【0014】
正極ハウジング60では、前後面60a,60b及び各セル62を形成する内壁60cのそれぞれに薄板状のカソード体(空気極)61が配置されている。正極ハウジング60の前後面部60a,60b及び内壁60cは、格子状のフレームを有し、カソード体61は格子状のフレームに固定されている。発電槽40において、複数のカソード体61とアノード体51とが前後方向Zに交互に配置される。カソード体61に空気が供給されるとともに、内部空間に注入された反応液が酸化触媒として作用してカソード体61とアノード体51との間にイオン化反応が生じることによって、所定の起電力が発生する。反応液には、水のほかに、塩水などの各種反応液を好適に使用することができる。
【0015】
蓋体30は、背面側に位置するヒンジ部を介してケース本体20に開閉可能に取り付けられている。ケース本体20の前面10aには、先端に係止爪(不図示)を有する係止部12が位置し、係止部12の係止爪を蓋体30の係止受部(不図示)に係止させることによって、蓋体30はケース本体20に閉蓋される。
【0016】
閉蓋状態において、係止部12を押圧して係止爪と係止受部との係止を解除することによって、蓋体30を開蓋することができる。蓋体30の上面には、カソード体61とアノード体51との電気化学反応によって発電機10内に発生した反応ガスを外部に排出するための一対の排気口32aと、それを被覆する排気カバー32とが配置されている。排気カバー32は、下面に複数の支持突起を有し、該複数の支持突起を排気口32aの周辺に配置された複数の開口に挿入することで、蓋体30の上面から着脱可能及び起立可能に配置される。また、排気口32aには、PETシールからなる透水性シールと不織布シートとを貼り合せ形成された、通気透液性を有する逆止弁シート32bが配置されている。
【0017】
蓋体30の内部には、発電機10の制御回路(図示せず)が設けられていて、その前面には、USBデバイスに電流を供給するための複数のUSBポートが幅方向Xに並んで配置されたUSB電源部33aが位置する。USBポートの下方には、発電機10の残電池容量を示す複数のLEDランプ(インジケータ)34が配置されている。発電機10の使用者は、LEDランプ34の点灯数によって残電池容量を確認することができ、発電槽40及び/又はその構成部品の交換時期を容易に識別することができる。
【0018】
USB電源部33aとLEDランプ34とは、それらを保護するための周壁33bに囲まれている。USB電源部33aが周壁33bに囲まれた領域に配置されていることによって、仮に反応液が前面10a側へ垂れ流れたとしても、直接USBポートに反応液が入り込むのを抑制することができる。また、USB電源部33aの側方には、直列接続を並列接続として出力するためのポート37が配置されている。
【0019】
蓋体30は、上面10cにおいて中央部分から後方へ延び、かつ、背面10bにおいて上下方向Yへ延びる凹部35を有する。凹部35の前端には、内部空間Sに反応液を注入するための注入口と、それを封止するための注入口キャップ36とが配置されている。ケース本体20は、背面において上下方向Yへ延びる凹部22を有する。蓋体30の凹部35とケース本体20の凹部22とはほぼ同じ幅寸法及び深さを有し、発電機10の後面10bにおいて凹部35と凹部22とが上下方向Yへ連続して延びて、誘導凹部13を形成している。
【0020】
注入口が上面10cに位置する場合、反応液が入った容器等から発電機10内に注水する際に、前面10a側に反応液が垂れてUSB電源部33aが濡れてしまい、USB電源部33aの金属の腐食化の原因となるおそれがある。本実施形態においては、注水口が蓋体30の凹部35に位置することから、反応液を注入するときに注水口から外れ出てしまった場合であっても、凹部35が障壁となって前面10aに反応液が垂れ流れるのを防止することができる。また、蓋体30の凹部35に流れ出た反応液は、ケース本体20の凹部22によって下方へ誘導される。
【0021】
ケース本体の前面には、発電機の電源スイッチ14が位置している。ケース本体20の第1及び第2側面10e,10f側には、ベルト(ショルダーベルト)15の取付金具を係止するためのフック24が配置されている。フック24の耐荷重は少なくとも15kg以上、好ましくは30kg以上であって、ケース本体20に十分な量の反応液(例えば、1.5~5.0L)を注入して加重されたとしても、発電機10を吊持した状態で安全に持ち運ぶことができる。
【0022】
また、ケース本体20の第1及び第2側面10e,10fのうちの第1側面10eには、外部の空気をケース本体20の内部に取り込むための吸気口25Aが設けられていて、第2側面10fには、ケース本体20内の空気を外部に排出するための排気口25Bが設けられている。図示していないが、発電機10は、その内部において、吸気口25Aから取り入れた酸素をカソード体61に供給するための吸気ファンと、内部の空気を排気口25Bから外部に排出するための排気ファンとを含む、制御回路によって制御された換気機構を備えている。
【0023】
ケース本体20の第1及び第2側面10e,10f側には、外方へ突出する一対の上方連結部26と、外方へ突出する一対の下方連結部27とを有する。上下方連結部26,27は、上下方向Yに貫通する貫通孔を有する。上方連結部26は複数の発電機10からなる発電機ユニット100を構成する際に連結部材110a,110bを取り付けるためのものであって、下方連結部27には、キャスター28が回転可能に取り付けられている。
【0024】
キャスター28は、下方連結部27の貫通孔に篏挿された挿入部分をボルト28aとナット28bとを介して固定することによって、下方連結部27に着脱可能に取り付けられている。ケース本体20がキャスター28を有することによって、発電機10は自由自在に向きを変えながら移動することができる。キャスター28は、ストッパー機能を有し、また、衝撃を吸収するためのダンパー機能を有するものであってもよい。
【0025】
発電機10の第1側面10eの上方(蓋体30の側面の上方)には、Wifiルータ(図示せず)を設置するためのサイドスペース19が設けられている。サイドスペース19は、開閉可能に取り付けられたサイドカバー19aによって被覆されている。発電機10は、デバイス端末に対する電源供給機能に加えて、モバイルWifiルータとしての機能をも備えることによって、災害時等においてダメージを受けた電源供給システムの代替のみならず、ダメージを受けた通信システムに代替する通信ネットワークを提供することができる。
【0026】
発電機10の第2側面10fの上方(蓋体の側面の上方)には、発電機10内の反応液の水位を視認するための窓8が位置している。窓8は、透明又は半透明であって、反応液の水位を視認することによって、反応液の注入時における注入量を容易に把握することができ、多量に注入して注入口から反応液が溢れ出るのを抑制することができる。
【0027】
図5を参照すると、発電機10の内部において、発電槽40の前面とケース本体20の前面側部分との間には、前方内部空間S1が形成され、発電槽40の後面とケース本体20の後面部分との間には、後方内部空間S2が形成されている。すなわち、発電機10の内部において、発電槽40とケース本体20とが離間して位置していることから、電気化学反応によって発生した反応ガスが内部において流動しやすくなり、内圧が上昇するのを抑制するとともに、発電による発熱によってケース本体20が熱くなるのを抑制することができる。
【0028】
特に、ケース本体20の前面10aにはUSB電源部33aが位置することから、発電槽40がケース本体20に接触又は近接している場合にはケース本体20が熱くなり易くなるところ、前方内部空間S1を設けることで、かかる事態を抑制することができる。本実施形態において、ケース本体20は、前方へ凸曲した形状となっていることから、前方内部空間S1が後方内部空間S2よりも大きく形成することができ、より前方内部空間S1によってケース本体20の前方部分側が熱を帯びるのを効果的に抑制することができる。かかる効果を奏するために、発電槽40の前面とケース本体20の前面部分との離間寸法、すなわち、前方内部空間S1の前後方向Zにおける寸法Rは、発電機10の前後方向Zの寸法が20~40cmの場合、少なくとも5cm以上、好ましくは、5~15cmである。
【0029】
このように、ケース本体20に前後方内部空間S1,S2を設けることのほかに、ケース本体20が熱くなるのを抑制するために、前後面10a、10bに透孔を形成してもよいし、冷却ファンを配置してもよい。
【0030】
<発電槽>
既述のとおり、発電槽40は、負極パネル集合体50と、絶縁材料、例えば、硬質プラスチック材料から形成された正極ハウジング60を有する。負極パネル集合体50と正極ハウジング60とは、中蓋70を正極ハウジング60の上面から上方へ突出する複数の螺旋凸部19bに締結ナット19aを締結することで互いに固定される。
【0031】
図7,8を参照すると、負極パネル集合体50は、中蓋70と、それに着脱可能に取り付けられた複数の負極パネル53とを有する。負極パネル53は、基部54と、基部から下方へ延出するアノード体51とを有する。アノード体51は、薄板状であって、イオン化傾向の比較的に大きな電極活物質、例えば、金属マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等を用いることができる。
【0032】
負極パネル53の基部54は、上面側から下面側へ凹となり、かつ、幅方向Xへ延びる配置凹部55と、下面からさらに下方へ延びる一対の固定部56とを有する。固定部56は、下方へ開口して上下方向Yに延びる挿通孔を有し、該挿通孔にはアノード体51のうちの上方へ延びる突出部分51aが嵌挿されている。基部54の配置凹部55には、幅方向Xへ延びる、銅、銀等の優れた導電性を有する材料から形成された薄板帯状の負極端子板57が配置されている。負極端子板57には、一対の透孔57aが位置し、該透孔57aを貫通するねじ(締結手段)58が固定部56に嵌挿されたアノード体51の突出部分にまで延びて、負極端子板57とアノード体51とが互いに締結している。
【0033】
負極端子板57は、ねじ58の幅方向Xの外側であって、上方へ屈曲した部分の先端に位置する負極端子16をさらに有する。負極端子16は透孔16a,16bを有し、基部54の両端壁に形成された開口を通過して基部54からさらに幅方向Xの外側へ延出している。負極端子16の透孔16aには、基部54から上方へ延びる突起54aが貫通される。
【0034】
図6(a),(b)を参照すると、負極パネル集合体50の中蓋70は、中央部71と、中央部71の両側において上方へ起立した周壁フレームを有する両側部72とを有する。両側部の周壁フレーム内には前後方向に並ぶ複数の透孔が位置していて、負極パネル53の突起54aが透孔を貫通し、突起54aはプッシュナット74を介して中蓋70に固定されている。
【0035】
中蓋70の中央部71の上面には、幅方向Xへ延びる取手75が位置している。取手75は、薄板帯状を有し、絶縁かつ軟質の材料、例えば、シリコン、軟質ゴム、軟質合成樹脂等から形成されたものであって、中央に位置する二股状の把持部75aと鉤状の両端部75bとを有する。取手75は中蓋70の上面に位置する一対のループ状の挿通部76に挿通されていて、使用者が把持部75aを把持して上方へ引張っることによって両端部75bが挿通部76に係止され、把持部75aを湾曲状に変形させて引き上げることで、負極パネル集合体50を容易に持ち運ぶことができる。また、中蓋70の中央部71の上面には、取手75を把持するときに操作者の手が位置するための凹部71aが位置している。
【0036】
このように、1枚の中蓋に複数の負極パネル53が固定されていることから、正極ハウジング60に負極パネル集合体50を配置する際に一度の挿入操作で行うことができ、さらに、使用後に正極ハウジング60から負極パネル集合体50を取り出す際に、片手で取り出し操作を行うことができる。したがって、負極パネル53に取手75が付けられている場合に比べて、挿入操作及び取り出し操作を容易に行うことができる。また、使用後に負極パネル集合体50を新しいものと交換してもよいし、プッシュナット74を取り外して、中蓋70及び基部54を再利用して、アノード体51のみを交換してもよい。
【0037】
硬質合成樹脂製の中蓋70の一方側部には、中蓋70の上面から上方へ突出する押し当て部77が位置する。押し当て部77の底面には軟質合成樹脂製の接触部材(図示せず)が配置されていて、接触部材は負極パネル53において外部に露出した負極端子16の部分よりも僅かに大きな略円形状を有する。発電機10の組立工程において、中蓋70を正極ハウジング60の上面から上方へ突出する複数の螺旋凸部19bに締結ナット19aを締結する際に、押し当て部77の底面に位置する接触部材が負極端子16に押し当てられて負極端子16が後記の接続端子に圧接される。押し当て部77の弾性反撥性を利用して負極端子16と接続端子とをより強く圧接させることができることから、負極パネル53の負極端子16の浮き上りを確実に防止することができる。
【0038】
負極パネル53のアノード体51は、オプションである被覆カバー18によって全体的に被覆されている。被覆カバー18は、網目(メッシュ)状であって、プラスチックフィルム、天然繊維、合成樹脂繊維等を使用した繊維不織布シート、フィルムと不織布との積層シート等から形成することができる。被覆カバー18の網目は、注液域内の反応液をアノード体51に供給することができるとともに、水酸化マグネシウム等の析出物が網目を通過して外部に露出せずに被覆カバー18内に沈殿させることができる程度の大きさを有する。また、析出物が通過しやすいように、被覆カバー18の下方部分の網目が上方部分の網目よりも大きくなっていてもよい。
【0039】
正極ハウジング60は、前面部60aと、後面部60bと、両側部と、前後面部間において前後方向Zに並ぶ内壁60cと、それらによって隔離された複数の発電セル62と、一方側部の上方に位置する連結板63と、他方側部に位置するサイド壁部64とを有する。サイド壁部64は、幅方向Xの外側へ延びて、さらに上方へ屈曲した形状を有する。発電セル62には、それぞれ、負極パネル53が配置される。
【0040】
サイド壁部64には、締結ナット19aを操作するための操作具(ソケットレンチ等)69を収納するためのスペースが設けられている。具体的には、サイド壁部64の底面には、前後方向へ延びる一対の支持突起が位置していて、操作具65を支持突起間に挟圧した状態で配置することによって、ケース本体20内に安定的に操作具65を収納することができる。
【0041】
図9を参照すると、正極ハウジング60の前後面部60a,60b及び内壁60cとには、格子状の複数の窓を有する窓枠65が設けられていて、窓枠65の内側または外側には、それを覆うように薄膜状のカソード体(空気極)61が取り付けられている。
【0042】
複数の発電セル62は、互いに分離可能な正極パネル62aによって形成されている。発電セル62を形成する複数の正極パネル62aは、それらの取付孔を貫通する連結部66によって互いに着脱可能に連結されている。また、窓枠65は、正極パネル62aのフレーム状の面との間にカソード体51を介在させた状態で、その取付孔65aに挿通されたピンを介して着脱可能に正極パネル62aに固定されている。また、正極ハウジング60の下方には、各正極パネル62aを連通する下方スペース67が位置している。下方スペース67は、各正極パネル62aの窓枠65の下方に位置する開口が互い連通して形成されている。
【0043】
カソード体61は、電気伝導率の良好な金属、例えば、金、銀、銅合金や活性炭、塩化銀、ステンレス等を用いることができる。カソード体61は、単層から形成することのほかに、起電力及び集電性能を向上させるために、例えば、カーボン材等の導電性材料から形成された第1層(電極層)と、第1層の一方面に取り付けられた活性炭等の正極活物質から形成された第2層(活性層)と、第1層の他方面に取り付けられた、導電性金属から形成された板状の第3層(集電層)とから構成された複数層から形成することもできる。また、空気を取り入れ易くするために、カソード体61の第1層または/及び第3層はメッシュ状であってもよい。
【0044】
絶縁材料から形成された連結板63には、複数の接続端子63aが前後方向Zへ並んで配置されている。接続端子63aは連結板63を貫通した状態で配置されていて、各接続端子63aの上面に負極パネル53の負極端子16が接触されるとともに、接続端子63aの下面に負極パネル53の位置する発電セル62に隣接するカソード体61の正極端子61aが接続されることによって、複数の発電セル62は電気的に直列接続される。なお、本実施形態において、発電セル62は電気的に直列接続されているが、並列接続されていてもよいし、直列接続と並列接続とが併用されていてもよい。
【0045】
<析出物取出部>
再び、
図1,4及び
図10を参照すると、ケース本体20の前面の電源スイッチ14の下方には、ケース本体20に開閉可能かつ着脱可能に取り付けられた前面カバー15が位置する。前面カバー15は、引き出し90を被覆しており、引き出し90は、取手91aを有する前面部91と、前面部91から後方へ延びるトレー状のスラブ受容部92とを有する。前面カバー15を開けることで、引き出し90の前面部91が露出する。前面カバー15の外面形状は、ケース本体20の外形に沿うものであって、引き出し90の前面部91が前面カバー15に被覆されて外部に露出してないことから、発電機10は正面視においてすっきりとした印象を与えることができる。
【0046】
引き出し90は、ケース本体20の下方開口20aからケース本体20に挿入されている。下方開口20aは、正極ハウジング60の下方スペース67と連通されていて、引き出し90のスラブ受容部92は下方スペース67内に位置している。スラブ受容部92は、前後方向へ延びる凹状であって、各発電セル62の電気化学反応によって発生した析出物が受容される。析出物がスラブ受容部92に受容されることによって、発電槽の底に析出物が堆積するのを防止することができる。
【0047】
図10を参照すると、引き出し90の前面部91及びスラブ受容部92には、環状のパッキン93が配置されている。また、拡大図を参照すると、析出取出部と排水構造とは前後方向Zにおいて対向して位置している。すなわち、引き出し90と排水キャップ81とは前後方向において対向して配置されており、スラブ受容部92の後方壁部95が後記の排水キャップ81のストッパー85の係止部85aに係止されている。このように、引き出し90がストッパー85の係止部85aに係止されていることで、引き出し90は排水キャップ81が開蓋方向に回転されて排水が行われ、反応液が排出した後でなければ引き出すことができない。これによって、排水前に引き出し90を開けてしまい、反応液がケース本体20の前面から排出されるのを防止することができる。
【0048】
再び、
図1~
図4を参照すると、かかる構成を有する発電機10を使用する場合には、まず、上面の注水口キャップ36を取り外した状態において、注入口から反応液を注入する。注入された反応液は、注入口から内部空間Sに延びる通液チューブ4を介して発電槽40内に移動する。所要量(例えば、約3.0L)の反応液が注入されることによって発電槽40内には注液域が形成され、正極ハウジング60に位置するカソード体61と、各発電セル62内に挿入された負極パネル53のアノード体51とが注液域内において前後方向Zに対向して位置する。
【0049】
反応液の注入後、電源スイッチをONにすることによって、金属空気発電機の回路が閉じて、換気機構が作動してケース本体20内に通気口から空気が取り込まれてカソード体61に空気が供給されるとともに、注液域の反応液が酸化触媒として作用してカソード体61とアノード体51との間にイオン化反応が生じる。すなわち、イオン化したアノード体51から発生した電子がカソード体61で酸素と反応液中の水と反応して放電反応が生じ、カソード体61とアノード体51との間に電位差が生じて所定の起電力が発生する。発電槽40内で発生した水素等の反応ガスは、排気チューブ5を介して蓋体30の排気カバー32に被覆された排気口から外部に放出される。
【0050】
発電槽40によって発生した電力は制御回路(図示せず)によって制御され、DC-DCコンバータを介して安定的に10.0~15.0V程度の電圧が供給される。また、制御回路によって換気機構が制御されて吸気ファンと排気ファンとが作動するとともに、3~8V程度に制御された電圧がUSBポートに供給される。
【0051】
<排水機構>
図10を参照すると、ケース本体20の背面側の下方には、発電終了後に反応液を外部に排出するための排水機構80が位置する。排水機構80は、排水キャップ81と、排水キャップ81が回転可能に取り付けられるキャップ取付部82とを備える。キャップ取付部82は、後方へ突出する円筒状であって、ケース本体20内の反応液を外部に排出するための排水口83を有し、排水キャップ81を取り外した状態において反応液は排水口83から外部に排出される。キャップ取付部82の外面には、周方向において離間して位置する複数の篏合凹部84が位置する。
【0052】
排水キャップ81は、中空のキャップ本体81aと、キャップ本体81aの中空の内部と連通する排水孔81bと、「OPEN」と「CLOSE」の文字と矢印の表示とが外面に配置された底面81cとを有する。キャップ本体の内面には、周方向において離間する複数の篏合突起81dが位置する。また、排水キャップ81は、底面81cの内面から延びる棒状のストッパー85を有する。ストッパー85の先端には、引き出し90の後方壁部95に係止される屈曲された係止部(フック)85aが位置する。
【0053】
キャップ取付部82の篏合凹部84は、前後方向に延びる第1溝84aと第1溝84aとつながって周方向へ延びる第2溝84bとからなるL字状を有する。排水キャップ81をキャップ取付部82に被着した状態において、篏合突起を第1溝84aに篏挿してそのまま前方へ移動させ、排水キャップ81を回転させて篏合突起81dを第2溝84bに篏挿させることによって、排水キャップ81はキャップ取付部82に回転可能に取り付けられる。
【0054】
図12(a)を参照すると、排水キャップ81の篏合突起81dが篏合凹部84の第2溝84bに篏挿された状態では、排水キャップ81の底面81cがキャップ取付部82の開口端に当接されており、排水口83が完全に封止されていて、反応液が外部に漏れ出ることはない。
【0055】
図12(b)を参照すると、排水口83が封止された状態から、排水キャップ81を「OPEN」の方向へ回転させることで篏合突起81dが第1溝84aと第2溝84bとの交点84cまで移動して、排水キャップ81の蓋止状態が解除される。
図12(c)を参照すると、
図12(b)の状態からそのまま排水キャップ81を後方へ引っ張ると、篏合突起81dが第1溝84aに摺接しながら後方へスライドし、排水キャップ81が後方へ移動してその底面81cがキャップ取付部82の開口端から離間する。
【0056】
排水キャップ81の底面81cがキャップ取付部82の開口端から離間することによって、排水キャップ81の排水孔81bからケース本体20内の反応液が外部に排出される。かかる排水機構80によれば、排水キャップ81の回転操作のみで排水を容易に行うことができることから排水作業を容易に行うことができる。また、排水時において、排水キャップ81の排水孔81bが下方に向くように設計されていることから、自重によって速やかな排水を行うことができる。
【0057】
また、排水キャップ81を回転可能に取り付ける手段として、篏合凹部84と篏合突起81dとを複数(図示例では、3つ)設けることで、排水キャップ81の回転操作を安定して行うことができ、また、発電中に排水キャップ81が外部衝撃を受けても不意にキャップ取付部82から外れてしまうのを抑制することができる。
【0058】
また、
図12(a)を参照すると、排水キャップ81の閉蓋状態において、排水キャップ81のストッパー85の係止部85aが引き出し90の後方壁部95に係止されている。
図12(b)及び(c)に示すとおり、排水キャップ81を開蓋方向へ回転させて前方へ移動させることで、係止が解除されて、引き出し90を前方へ移動させることができる。
【0059】
<発電機ユニット>
図13~
図15を参照すると、複数の発電機10A,10Bを上下方向Y又は幅方向Xに並べた状態で連結することで発電機ユニット100を形成することができる。発電機ユニット100では、上段に位置する発電機10Aの下方連結部27の透孔と下段に位置する発電機10Bの上方連結部26の透孔とを貫通する連結部材110a,110bがナット111とボルト112を介して固定されている。上段の発電機10Aどうしでは下方連結部27が互いに重ねられた状態で連結部材110aが貫通されていて、下段の発電機10Bどうしでは上方連結部26が互いに重ねられた状態で連結部材110aが貫通されている。
【0060】
このように、連結部材110aによる連結部分では上下方連結部26,27が互いに重なり合っているのに対し、連結部材110bによる連結部分では上下方連結部26,27が互いに重なり合っていないことから、これらの連結部分110a,110bでは互いに上下方向Yの長さが異なるので、連結部材110bの内部にスペーサを設けてそれらの上下方向Yの長さが同じになるように調整されている。また、連結部材110bにスペーサを設けずに、予め連結部材110bを連結部材110aよりも長く形成してもよい。
【0061】
発電機ユニット100において、発電機10A,10Bどうしの連結は、ナット111とナット111を介して固定された連結部材110a,110bによって行われることから、組立が容易であり、また、組み立てられた状態からすぐに個別の発電機10A,10Bごとに分解することができる。また、専用の工具等は必要なく、操作者が手で簡単に操作することができ、組立及び分解の操作を容易に行うことができる。図示例の発電機ユニット100では、上下方向Y及び幅方向Xに2つずつ並べれた状態で構成されているが、2つ以上、例えば、2~100個の発電機を上下方向Y及び幅方向Xに並べて連結させてもよい。
【0062】
発電機ユニット100では、上段の発電機10Aと下段の発電機10Bとの間にスペースが形成されていることから、下段の発電機10Bが上段の発電機10Aによる自重の影響を受けるおそれはない。また、
図14を参照すると、発電機ユニット100の背面側において、上段の発電機10Aの誘導凹部13と下段の発電機10Bの誘導凹部13とが上下方向Yにおいて連なった状態となっていることから、上段の発電機10Aの注水キャップ36を外して反応液を注水する際に、注水口から外れた反応液を発電機ユニット100の下方へ速やかに誘導することができる。また、図示していないが、発電機ユニット100は、上段に位置する発電機10Aの注水口から注水された反応液が、下段に位置する発電機10Bの発電槽40に注入される構造を有していてもよい。
【0063】
図15を参照すると、発電機ユニット100は、接続ボックス210を介して蓄電装置200に接続されている。具体的には、各発電機10A,10Bのポート(出力端子)37に連結された送電コード201を接続ボックス(接続ユニット)210に接続し、各発電機10A,10Bの発電槽40から発生した電力を集める。接続ボックス210で集められた大電量の電力が蓄電装置200に蓄電される。このように、発電ユニット100は、災害時等に蓄電装置200に電力を供給する電力供給システムとしても機能しうる。
【0064】
以上に記載した本発明に関する開示は、少なくとも下記事項に要約することができる。
【0065】
上下方向、幅方向及び前後方向を有し、ケース本体とケース本体に収容された発電槽とを含む金属空気発電地において、発電槽は、カソード体を有する正極ハウジングと、正極ハウジングに挿入されるアノード体を有する負極パネル集合体とを含み、負極パネル集合体は、取手を有する中蓋と、中蓋に着脱可能に取り付けられた、アノード体を有する複数の負極パネルとを含むことを特徴とする金属空気発電機。
【0066】
上記段落0065に開示した本発明は、少なくとも下記の実施の形態を含むことができる。該実施の形態は、分離して又は互いに組み合わせて採択することができる。
(1)ケース本体に開閉可能に取付けられた蓋体をさらに有し、蓋体とケース本体とは、それぞれ、上下方向へ延びる凹部を有し、凹部が上下方向において連続して形成された誘導凹部を有する。
(2)ケース本体の下方には引き出しが位置していて、引き出しは、取手が位置する前面部と、正極ハウジングの下方スペース内に収容されるスラブ受容部とを有する。
(3)ケース本体の後面の下方には、排水機構が位置し、排水機構は、排水口を被覆する排水キャップと、排水キャップが着脱可能に取り付けられるキャップ取付部とを含み、排水キャップを回転操作することによって排水口の開閉を行うことができる。
(4)引き出しと排水機構とは、前後方向において対向して位置していて、引き出しのスラブ受容部は後方壁部を有し、排水キャップは底面の内面から延びるストッパーを有し、ストッパーの先端に位置する係止部が後方壁部に係脱可能に係止される。
(5)複数の発電機が上下方向及び前記幅方向において並べられていて、上下方向及び幅方向において並べられた発電機どうしが、連結部材を介して互いに分離可能に連結されている発電機ユニット。
【0067】
発電機10を構成する各構成部材には、この発明の明細書に記載されている材料のほかに、この種の分野において通常用いられている、各種の公知の材料を制限なく用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 金属空気発電機
10A,10B 金属空気発電機
13 誘導凹部
20 ケース本体
22 凹部
30 蓋体
35 凹部
50 負極パネル集合体
51 アノード体
53 負極パネル
60 正極ハウジング
61 カソード体
67 下方スペース
70 中蓋
80 排水機構
81 排水キャップ
82 キャップ取付部
83 排水口
85 ストッパー
85a 係止部
90 引き出し
91 前面部
91a 取手
92 スラブ受容部
95 後方壁部
100 発電機ユニット
110a,110b 連結部材
X 幅方向
Y 上下方向
Z 前後方向