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特開2023-62821緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法
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  • 特開-緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062821
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230427BHJP
   C10M 129/74 20060101ALI20230427BHJP
   C10M 137/10 20060101ALI20230427BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20230427BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230427BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20230427BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M129/74
C10M137/10 A
F16F9/32 R
C10N30:00 Z
C10N40:06
C10N10:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172939
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎治
【テーマコード(参考)】
3J069
4H104
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC15
3J069DD06
4H104BB34C
4H104BH07C
4H104EA02A
4H104FA02
4H104LA20
4H104PA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物、潤滑油添加剤、および緩衝器用潤滑油組成物の摩擦特性の調整方法を提供する。
【解決手段】基油と、摩擦調整剤と、を含有し、摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルを含有し、基油は、エステル油を主成分とすることを特徴とする、緩衝器用潤滑油組成物。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、摩擦調整剤と、を含有し、
前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルを含有し、
前記基油は、エステル油を主成分とすることを特徴とする、緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記エステル油は、モノエステル油である、請求項1に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記基油は、前記エステル油を基油全体の50重量%以上含有すること、または、前記基油中で前記エステル油の割合が最も多い、請求項1または2に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記基油は、前記基油中において前記エステル油を90重量%以上含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを主成分として含有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記ペンタエリスリトールエステルは、中鎖脂肪酸を有するペンタエリスリトールエステルである、請求項1ないし5のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記基油は、粘度指数が60以下であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項8】
前記摩擦調整剤は、ジチオリン酸亜鉛をさらに含有することを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物を含有する緩衝器。
【請求項10】
エステル油を主成分とする基油に、ペンタエリスリトールエステルを含有する摩擦調整剤を添加することで、緩衝器用潤滑油組成物の摩擦特性を調整する、調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器の制振力は、バルブで発生する油圧減衰力と、ピストンロッドとオイルシールまたはピストンとシリンダの摺動部で発生する摩擦力とを合わせた力となることが知られている。また、緩衝器の制振力が大きい場合には操作安定性は増すが乗り心地が悪化し、反対に、緩衝器の制振力が小さい場合には操作安定性は悪化するが乗り心地が良好となることが知られている。そのため、近年では、乗り心地性に着目し、緩衝器用潤滑油に添加する摩擦調整剤を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦力を小さくし、緩衝器の制振力を小さくする研究が行われてきた(たとえば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ショックアブソーバの技術動向とトライボロジー(中西 博、トライボロジスト 2009年(Vol.54)9号 598頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緩衝器は往復運動により制振力を発揮するが、油圧減衰力が立ち上がるまでは一定時間がかかる一方、摩擦力は応答性が高いため、静止状態から滑り状態に移行する際や、微振幅時には、摩擦力が緩衝器の制振力の重要なファクターとなる。しかしながら、従来のように、乗り心地性に着目し、緩衝器用潤滑油の摩擦力を小さくしてしまうと、制振力も小さくなり、操作安定性が悪化してしまうという問題があった。特に、近年は、整備された道路が多く、通常振幅よりも微振幅の振動が発生することが多いため、静止状態から滑り状態に移行する際や微振幅時において、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物が希求されていた。
【0005】
本発明は、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記(1)ないし(8)の緩衝器用潤滑油組成物を要旨とする。
(1)基油と、摩擦調整剤と、を含有し、前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルを含有し、前記基油は、エステル油を主成分とすることを特徴とする、緩衝器用潤滑油組成物。
(2)前記エステル油は、モノエステル油である、上記(1)に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(3)前記基油は、前記エステル油を基油全体の50重量%以上含有すること、または、前記基油中で前記エステル油の割合が最も多い、上記(1)または(2)に記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(4)前記基油は、前記基油中において前記エステル油を90重量%以上含有することを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(5)前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを主成分として含有することを特徴とする、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(6)前記ペンタエリスリトールエステルは、中鎖脂肪酸を有するペンタエリスリトールエステルである、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(7)前記基油は、粘度指数が60以下であることを特徴とする、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(8)前記摩擦調整剤は、ジチオリン酸亜鉛をさらに含有することを特徴とする、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【0007】
また、本発明は下記(9)の緩衝器を要旨とする。
(9)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物を含有する緩衝器。
また、本発明は下記(10)の緩衝器用潤滑油組成物の摩擦特性の調整方法を要旨とする。
(10)エステル油を主成分とする基油に、ペンタエリスリトールエステルを含有する摩擦調整剤を添加することで、緩衝器用潤滑油組成物の摩擦特性を調整する、調整方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る緩衝器用潤滑油の摩擦試験に用いた摩擦試験装置を説明するための図である。
図2】本発明に係る緩衝器用潤滑油の摩擦特性の測定方法を説明するための図である。
図3】(A),(B)は比較例に係る緩衝器用潤滑油の摩擦特性を循環図形で示し、(C)は本実施例に係る緩衝器用潤滑油の摩擦特性を循環図形で示した図である。
図4】循環図形を説明するための図である。
図5】各種緩衝器用潤滑油の摩擦特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦特性の調整方法を、図に基づいて説明する。なお、以下においては、本発明を、緩衝器用潤滑油を例示して説明する。
【0011】
本実施形態に係る潤滑油は、(A)基油と、(B)摩擦調整剤と、を有し、(B)摩擦調整剤は、(B1)ジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPともいう)と、(B2)ペンタエリスリトールとを含有する。
【0012】
(A)基油
本発明に係る緩衝器用潤滑油は、基油が、エステル油を主成分とすることを特徴とする。具体的には、基油として、エステル油を基油全体の50重量%以上含み、または、エステル油を最も多い割合で含有することを特徴とする。なお、本発明に係る緩衝器用潤滑油は、基油として、エステル油を主成分とすればよく、エステル油と鉱油とが混合された基油を有する構成とすることができる。また、基油として、エステル油を基油全体の90重量%以上含有する構成とすることが好ましく、エステル油だけを含有することがさらに好ましい。本実施形態では、市販されているエステル油だけで基油を構成する。
【0013】
エステル油は、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、リン酸エステルなどを用いることができるが、特に、モノエステルであることが好ましい。また、モノエステルとしては、たとえば、オレイン酸、アジピン酸、ペラルゴン酸、ヤシ油脂肪酸、パルミチン酸、牛脂脂肪酸、ペラルゴン酸など炭素数6~22の脂肪酸と、2エチルヘキサノール、イソオクチルアルコール、イソデシルアルコール、ネオペンチルグリコールなどのアルコールとの組み合わせた脂肪酸モノエステルが例示される。なお、本発明に係る緩衝器用潤滑油は、エステル油として、モノエステルと他のエステル油とを混合して用いることができるが、モノエステルをエステル油全体の50重量%以上、あるいは、モノエステルを最も高い割合で含むことが好ましい。
【0014】
また、基油は、40℃における動粘度が10mm/s以下、または、100℃における動粘度が2mm/s以下であることがより好ましい。基油の粘度を低くすることで、増粘剤を添加することができ、これにより、緩衝器用潤滑油の摩擦特性をさらに調整することが可能となる。たとえば、2エチルヘキサノールとヤシ油脂肪酸とのモノエステルは、40℃における動粘度が6mm/s、また、100℃における動粘度が1.8mm/sと低く、増粘剤を添加して、緩衝器用潤滑油の摩擦特性を調整することが可能となる。
【0015】
(B)摩擦調整剤
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は摩擦調整剤を含有する。摩擦調整剤は、特に限定されないが、リン系、アミン系、またはエステル系などの種々の摩擦調整剤を含有することができる。摩擦調整剤の添加量を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することができる。また、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、摩擦調整剤として、(B1)ジチオリン酸亜鉛と(B2)ペンタエリスリトールエステルとを含有する。
【0016】
(B1)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)
ZnDTPは、一般に、下記化1で表される化合物であり、摩擦調整剤による摩擦係数の調整を補助する機能を有する。
【化1】
[上記化1において、Rはそれぞれ個別の炭化水素基を示し、直鎖状の一級アルキル基、分枝状の二級アルキル基、またはアリール基が挙げられる。]
【0017】
このように、ZnDTPとしては、一級アルキル基、二級アルキル基、またはアリール基を有するものなど複数の種類(構造)が知られているが、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、以下に説明する2種類のZnDTPを含有する。
【0018】
すなわち、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、第1のZnDTPとして、下記化2で示すZnDTPを含有する。
【化2】
[式1中、R11~R14はアルキル基であり、当該アルキル基は第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する。すなわち、R11~R14のうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、R11~R14のうち残りは第二級アルキル基である。]
【0019】
第1のZnDTPにおいて、第一級アルキル基は、特に限定されず、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソアミル基、イソブチル基、2-メチルブチル基、2-エチルヘキシル基、2,3-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基などが挙げられるが、炭素数4~12のアルキル基(たとえばイソブチル基(炭素数4)や2-エチルヘキシル基(炭素数8)であることが好ましい。
【0020】
また、第1のZnDTPにおいて、第二級アルキル基は、特に限定されず、たとえばイソプロピル基、sec-ブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、4-メチル-2-ペンチル基などが挙げられるが、炭素数3~6のアルキル基(たとえばイソプロピル基(炭素数3))であることが好ましい。
【0021】
また、第1のZnDTPにおいて、第一級アルキル基と第二級アルキル基の割合は、特に限定されないが、第二級アルキル基に対して、第一級アルキル基の割合が高い方が好ましい。
【0022】
第1のZnDTPの含有量は、特に限定されないが、緩衝器用潤滑油において0.1質量%以上含有することが好ましく、0.4質量%以上含有することがより好ましい。また、第1のZnDTPの含有量は、緩衝器用潤滑油において4.0質量%以下とすることが好ましく、2.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0023】
このように、本発明に係る緩衝器用潤滑油では、第一級アルキル基および第二級アルキル基の両方を有する第1のZnDTPを含むことにより、摩擦調整剤を添加した場合に乗り心地性および操縦安定性に適した摩擦係数に容易に調整することができることに加えて、第一級アルキル基のみを有するZnDTP、および/または、第二級アルキル基のみを有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油と比べて、摩擦係数のバラツキを抑えることができ、乗り心地性をより向上することができる。
【0024】
さらに、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、摩擦調整剤として、第1のZnDTPとは異なる構造の、第2のZnDTPを有する。第2のZnDTPは、下記化3で表される。
【化3】
[式2中、R21~R24は第二級アルキル基である。すなわち、第2のZnDTPは第一級アルキル基を有さず、第二級アルキル基のみを有する。]
【0025】
第2のZnDTPが有する第二級アルキル基の炭素数は、特に限定されず、たとえばイソプロピル基、sec-ブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、4-メチル-2-ペンチル基などが挙げられるが、第二級アルキル基として、炭素数3~8のアルキル基(たとえばイソプロピル基(炭素数3)、2-エチルヘキシル基(炭素数8)、または、イソブチル基(炭素数4)など)が好ましい。
【0026】
また、第2のZnDTPの含有量は、特に限定されないが、第1のZnDTPよりも少ない方が好ましく、ZnDTPの添加量(第1のZnDTPおよび第2のZnDTPの合計量)に対して20重量%以下となることが好ましい。
【0027】
なお、ZnDTPがどのようなアルキル基を含有しているかは、公知の測定方法により測定することができる。たとえば、C13-NMRを用いてZnDTPの構造を決定することもできるし、FT-IRの指紋領域を用いてP-O-Cの吸収帯、P=S P-Sの吸収帯の特徴から、アルキル基が第一級アルキル基または第二級アルキル基であるかを分析することでZnDTPの構造を決定することもできる。
【0028】
(B1)ジチオリン酸として、第二級アルキル基のみを有する第2のZnDTPを含有することで、第1のZnDTPのみを含有する場合と比べて、乗り心地をより向上させることができる。具体的には、走行時における微振動を、第1のZnDTPのみを含有する場合と比べて、より低減することができる。また、第2のZnDTPを炭素数3~8の第二級アルキル基を有するZnDTPとすることで、微振幅(低速度)と通常振幅(高速度)における摩擦係数の差を小さくすることができ、乗り心地性を向上させることができる。
【0029】
(B2)ペンタエリスリトールエステル
ペンタエリスリトールエステルは、4価の糖アルコールであり、ペンタエリスリトールが有する末端置換基である水酸基が脂肪酸残基とエステル結合している化合物である。ペンタエリスリトールエステルは、4つ全ての末端置換基が脂肪酸残基とエステル結合したペンタエリスリトールテトラエステルと、いずれかの末端置換基が脂肪酸残基とエステル結合した部分エステルであるペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステルおよびペンタエリスリトールトリエステルとがある。以下においては、ペンタエリスリトールテトラエステルをPE4E、ペンタエリスリトールトリエステルをPE3E、ペンタエリスリトールジエステルをPE2E、ペンタエリスリトールモノエステルをPE1Eと略称して説明する。
【0030】
本発明に係るペンタエリスリトールエステルにおいて、脂肪酸残基は、特に限定されず、たとえば、ステアリン酸残基やオレイン酸残基などのC6~C22の脂肪酸残基とすることができる。また、脂肪酸残基として、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アジピン酸、ペラルゴン酸、トール脂肪酸、ヤシ脂肪酸、ココナツ脂肪酸、牛脂脂肪酸を例示することもできる。
【0031】
なお、PE4Eを製造する場合、PE4Eだけを製造することは技術的に困難であり、PE4EにPE1E、PE2E、PE3Eが混在してしまう場合がある。そのため、「ペンタエリスリトールテトラエステル」として市販されているものであっても、PE4Eのみで構成されているのではなく、PE4Eを主に含むが、PE4Eの他に、PE3E、PE2E、あるいはPE1Eなども含まれる。そのため、本発明に係る「ペンタエリスリトールテトラエステル」は、「ペンタエリスリトールテトラエステル」として市販されているペンタエリスリトールエステルの混合物としてもよいし、「ペンタエリスリトールテトラエステル」を80%以上含むペンタエリスリトールエステルの混合物とすることもできる。同様の理由から、本発明に係る「ペンタエリスリトールジエステル」は、「ペンタエリスリトールジエステル」として市販されているペンタエリスリトールエステルの混合物としてもよいし、「ペンタエリスリトールジエステル」を80%以上含むペンタエリスリトールエステルの混合物とすることができる。なお、PE1EおよびPE3Eについても同様である。
【0032】
(本発明に係る緩衝器用潤滑油の摩擦特性)
次に、本発明に係る緩衝器用潤滑油の摩擦特性について説明する。本発明では、図1に示す構成の摩擦試験装置10を用いて、緩衝器用潤滑油の摩擦特性を分析した。なお、摩擦試験装置10は、図1に示すように、ピン・オン・ディスク型の摩擦試験装置であり、スライドベアリング1上に固定したディスク試験片2を電磁加振機3により往復運動させ、これにピン試験片4を押し当てて摺動させて生じた摩擦力を、ピン試験片4の固定軸5に取り付けたひずみゲージ6を用いて計測するものである。また、緩衝器の摩擦特性に影響する要素として緩衝器用潤滑油とオイルシールとの組み合わせがあるため、図1に示す摩擦試験装置10では、緩衝器においてオイルシールとして使用されるアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)をピン試験片4に用い、オイルリップ形状を模してピン試験片4の先端を140°の角度となるようにカットした。また、ディスク試験片2には、ピストンロッド表面に使用する硬質クロムめっき膜を用いた。なお、図1に示す例では、NBRのピン試験片4とクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定しているが、銅ボールとクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定してもよい。
【0033】
図2は、上記摩擦試験装置10を用いて、振幅±2.0mm、周波数1.5Hz、荷重20Nおよび温度30℃で、ピン試験片4とディスク試験片2とを往復させて、緩衝器用潤滑油の摩擦力を測定した結果の一例を示す図である。図2においては、π/2および3π/2の位相において、ピン試験片4とディスク試験片2との動作方向が反転していることを示す。図2に示す例では、ピン試験片4とディスク試験片2の動作方向を反転するため、π/2および3π/2のタイミングで一時的に静止状態となり、その直後に、静止状態から滑り状態へと移行する。本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、摩擦特性として、図2に示すように、滑り状態から静止状態へと移行する際、または、静止状態から滑り状態へと移行する際に摩擦力のピークを有する。このように、摩擦試験装置10を用いることで、滑り状態から静止状態へと移行する際、または、静止状態から滑り状態へと移行する際の摩擦力のピーク値Fsaと、微振動時における滑り状態の平均摩擦力Faveとを測定することができる。
【0034】
図3は、図2に示すように測定した緩衝器用潤滑油の摩擦特性を循環図形で表した図である。具体的には、(A)は、GIII鉱油を基油とし、ペンタエリスリトールエステルおよびZnDTPを含有しない緩衝器用潤滑油(比較例1)の摩擦特性の循環図形を示している。(B)は、GIII鉱油を基油とし、エナント酸残基を有するペンタエリスリトールテトラエステルと、ZnDTPとを摩擦調整剤として添加した緩衝器用潤滑油(比較例2)の摩擦特性の循環図形を示している。(C)は、イソデシルアルコールとペラルゴン酸とのエステル油を基油とし、エナント酸残基を有するペンタエリスリトールテトラエステルと、ZnDTPとを摩擦調整剤として添加した緩衝器用潤滑油(実施例)の摩擦特性の循環図形を示している。
【0035】
ここでまず、図4を参照して、図3に示す循環図形について説明する。図4は、緩衝器用潤滑油の摩擦特性の循環図形を説明するための図である。図4において、P1は、ピン試験片4を加速させながら往方向に摺動させている滑り状態の緩衝器用潤滑油の摩擦力(たとえば図2の3π/4~πの位相の摩擦力)を表し、P2は、ピン試験片4を減速しながら往方向に摺動させている滑り状態の緩衝器用潤滑油の摩擦力(たとえば図2のπ~5π/4の位相の摩擦力)を表す。同様に、P3は、ピン試験片4を復方向に加速しながら摺動させている滑り状態の緩衝器用潤滑油の摩擦力(たとえば図2の7π/4~2πの位相の摩擦力)を表し、P4は、ピン試験片4を復方向に加速しながら摺動させている滑り状態の緩衝器用潤滑油の摩擦力(たとえば図2の2π~π/4の位相の摩擦力)を表す。また、P5は、緩衝器を往方向に摺動させ静止させる直前の緩衝器用潤滑油の摩擦力を表し、P6は、緩衝器を復方向に摺動させた直後の緩衝器用潤滑油の摩擦力を表し、P7は、緩衝器を復方向に摺動させ静止させる直前の緩衝器用潤滑油の摩擦力を表し、P8は、緩衝器を往方向に摺動させた直後の緩衝器用潤滑油の摩擦力を表す。
【0036】
図3においては、緩衝器の振幅を±2.0mmの微振幅としており、比較的道路の状態が良好な道路などで発生する振動に対する摩擦特性を表す。ペンタエリスリトールエステルを含有していない(A)に示す比較例1の緩衝器用潤滑油では、ペンタエリスリトールエステルを含有する(B)に示す比較例2の緩衝器用潤滑油や(C)に示す実施例の緩衝器用潤滑油と比べて、緩衝器を静止する直前または摺動させた直後の摩擦力が低いままであることがわかる。このことから、(A)に示す比較例1の緩衝器用潤滑油では、ペンタエリスリトールエステルを含有しないため、(B)に示す比較例2の緩衝器用潤滑油や(C)に示す実施例の緩衝器用潤滑油と比べて、特に、緩衝器の微振幅時の振動に対して摩擦力が強く働かず、比較的道路状態の良好な道路における操作性(トランクションやタイヤの接地性、加速性能、ブレーキング性能、車体のロール・ピッチングなどの挙動性能など)が低くなる傾向にあることがわかる。
【0037】
一方、ペンタエリスリトールエステルを含有する(B)に示すGIII鉱油を基油とした比較例2の緩衝器用潤滑油では、緩衝器を静止する直前または摺動させた直後の摩擦力は高くなり、ペンタエリスリトールエステルを含有しない(A)に示す比較例1の緩衝器用潤滑油と比べて、緩衝器の微振幅時の振動に対して摩擦力が強く働き、緩衝器の微振幅時における操作性は良好となる。しかしながら、ペンタエリスリトールエステルを含有する(B)に示すGIII鉱油を基油とした緩衝器用潤滑油では、同じくペンタエリスリトールエステルを含有する(C)に示すエステル油を基油とした実施例の緩衝器用潤滑油と比べて、滑り状態における摩擦力が高く摩擦係数が高くなり、微振幅時における乗り心地性が低下してしまうことがわかる。
【0038】
これに対して、(C)に示すエステル油を基油とした実施例の緩衝器用潤滑油では、緩衝器を静止する直前または摺動させた直後の摩擦力も高いため、ペンタエリスリトールエステルを含有する(B)に示す比較例2の緩衝器用潤滑油と同様に、緩衝器の微振幅時の振動に対して摩擦力が強く働き、緩衝器の微振幅時における操作性は良好となる。さらに、ペンタエリスリトールエステルを含有する(C)に示すエステル油を基油とした実施例の緩衝器用潤滑油では、同じくペンタエリスリトールエステルを含有する(B)に示すGIII鉱油を基油とした比較例1の緩衝器用潤滑油と比べて、滑り状態における摩擦力も低く抑えることができ、微振幅時における乗り心地性も良好となることがわかる。このように、(C)に示すエステル油を基油とした実施例の緩衝器用潤滑油では、(B)に示すGIII鉱油を基油とした比較例1の緩衝器用潤滑油よりも、微振幅時における操作性と乗り心地性とを両立することができる。
【0039】
このように、本発明に係る緩衝器用潤滑油は、摩擦調整剤としてペンタエリスリトールエステルを含有するとともに、基油としてエステル油を主成分とすることで、微振幅時における乗り心地性を高めながらも、微振幅時における操作性を確保することができる。本発明では、緩衝器の微振幅時における操作性(トランクションやタイヤの接地性、加速性能、ブレーキング性能、車体のロール・ピッチングなどの挙動性能など)の指標となる、緩衝器を静止する直前の緩衝器用潤滑油の摩擦力、または、緩衝器を摺動させた直後の緩衝器用潤滑油の摩擦力に基づく摩擦特性を、応答性RIとして定義する。具体的には、下記式(1)に示すように、緩衝器を静止する直前の緩衝器用潤滑油の摩擦力、または、緩衝器を摺動させた直後の緩衝器用潤滑油の摩擦力すなわち、静止状態から滑り状態、または、滑り状態から静止状態に移行する際の緩衝器用潤滑油の摩擦力のピーク値Fsaと、滑り状態における緩衝器用潤滑油の摩擦力の平均値Faveとの差と、滑り状態における平均摩擦力Faveとの比を、応答性RIとして定義する。
応答性RI=(Fsa-Fave)/Fave ・・・(1)
【0040】
本実施例では、図1に示す摩擦試験装置10を用いて、各種緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数および応答性RIを測定し、図5にその結果をプロットした。なお、図5に示す例では、振幅±2.5mm、速度4.0mm/秒、荷重20Nおよび温度30℃で、ピン試験片4とディスク試験片2とを往復させて、各種緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数および応答性RIを測定した。また、以下に示す緩衝器用潤滑油は、特に言及する場合以外は、摩擦調整剤としてZnDTPおよびFM剤を含有する。
【0041】
図5に示す□は、基油が鉱油(GIII鉱油以外の鉱油)であり、一般的な摩擦調整剤(ただし、ZnDTP、FM剤およびペンタエリスリトールエステルを含まない)を添加した緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数μと応答性RIとの測定結果をプロットしたものである。また、図5に示す◇は、基油がGIII鉱油であり、一般的な摩擦調整剤(ただし、ZnDTP、FM剤およびペンタエリスリトールエステルを含まない)を添加した緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数μと応答性RIとの測定結果をプロットしたものである。なお、図5においては、□および◇で示す緩衝器用潤滑油が多い領域を円Cで示している。基油である鉱油に一般的な摩擦調整剤を添加しただけの緩衝器用潤滑油では、図5に円Cに示すエリアに点在し、応答性RIは0.4を超えず、応答性RIを高くすることができなかった。
【0042】
また、図5に示す●は、ナフテン系基油に、異なる複数の種類のペンタエリスリトールエステルを添加した緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数μと応答性RIとの測定結果をプロットしたものである。具体的には、N1は、ナフテン系基油にオレイン酸残基を有するPE2Eを全体の2重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、N2は、ナフテン系基油にオレイン酸残基を有するPE3Eを全体の30重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、N3は、ナフテン系基油に、オレイン酸残基を有するPE4Eを全体の25重量%、エナント酸残基を有するPE3Eを全体の5重量%添加した緩衝器用潤滑油である。また、N4は、ナフテン系基油にオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、N5は、ナフテン系基油に、オレイン酸残基を有するPE4Eを全体の29重量%、エナント酸残基を有するPE3Eを全体の1重量%添加した緩衝器用潤滑油である。また、図5では、ナフテン系基油の緩衝器用潤滑油N1~N5の近似曲線をLNとして表示している。
【0043】
図5に示すように、ナフテン系基油の緩衝器用潤滑油N1~N5では、ペンエリスリトールエステルのエステル基の数が多いほど、平均摩擦係数μおよび応答性RIが高くなる傾向にあることがわかった。また、ナフテン系基油の緩衝器用潤滑油N1~N5の近似曲線LNは、後述するPAOを基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LP、GIII鉱油を基油としペンタエリスリトールエステルを含有する緩衝器用潤滑油G1~G4の近似曲線LG、エステル基油を基油とする緩衝器用潤滑油EA1~EA2,EB1~EB9,EC1~EC6の近似曲線LEと比べて、近似曲線LPの傾きが小さく、応答性RIが大きくなるほど平均摩擦係数μの増加の度合いが高くることがわかった。このことから、ナフテン系基油を基油とする場合は、ペンタエリスリトールエステルにより、微振幅時における操作性を高めた場合に、乗り心地性が低下してしまうおそれがあることがわかった。
【0044】
また、図5に示す〇は、基油がポリ-α-オレフィン(PAO2C)であり、ペンタエリスリトールエステルを含む摩擦調整剤を添加した緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数μと応答性RIとの測定結果をプロットしたものである。具体的には、P1は、PAO2Cの基油にオレイン酸残基を有するPE3Eを全体の10重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、P2は、PAO2Cの基油にオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%添加した緩衝器用潤滑油である。なお、図5では、PAO2Cを基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線をLPとして表示している。
【0045】
PAO2Cを基油とする緩衝器用潤滑油においても、ペンエリスリトールエステルのエステル基の数が多いほど、平均摩擦係数μおよび応答性RIが高くなる傾向にあることがわかった。また、PAO2Cを基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LPは、ナフテン系基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LPよりも傾きは大きいが、GIII鉱油を基油としペンタエリスリトールエステルを含有する緩衝器用潤滑油G1~G4の近似曲線LG、エステル基油を基油とする緩衝器用潤滑油EA1~EA2,EB1~EB9,EC1~EC6の近似曲線LEと比べて、近似曲線の傾きが小さく、応答性RIが大きくなるほど平均摩擦係数μの増加の度合いが高くることがわかった。このことから、PAO2Cを基油とする場合は、ペンタエリスリトールエステルにより、微振幅時における操作性を高めた場合に、GIII鉱油またはエステル油を基油とした場合と比べて、乗り心地性が低下してしまうおそれがあることがわかった。
【0046】
また、図5に示す▲は、GIII鉱油を基油とし、ペンタエリスリトールエステルを含む摩擦調整剤を添加した緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数μと応答性RIとの測定結果をプロットしたものである。具体的には、G1は、GIII鉱油の基油にオレイン酸残基を有するPE2Eを全体の2重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、G2は、GIII鉱油の基油にオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、G3は、GIII鉱油の基油にオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の26重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、G4は、GIII鉱油の基油にエナント酸残基を有するPE4Eを全体の20重量%添加した緩衝器用潤滑油である。なお、図5では、GIII鉱油を基油としペンタエリスリトールエステルを含有する緩衝器用潤滑油G1~G4の近似曲線をLGとして表示している。
【0047】
GIII鉱油を基油としペンタエリスリトールエステルを含有する緩衝器用潤滑油においても、ペンエリスリトールエステルのエステル基の数が多いほど、平均摩擦係数μおよび応答性RIが高くなる傾向にあることがわかった。また、GIII鉱油を基油としペンタエリスリトールエステルを含有する緩衝器用潤滑油G1~G4の近似曲線LGは、ナフテン系基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LP、および、PAO2Cを基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LPよりも傾きは大きいが、エステル基油を基油とする緩衝器用潤滑油EA1~EA2,EB1~EB9,EC1~EC6の近似曲線LEと比べて、近似曲線の傾きが小さく、応答性RIが大きくなるほど平均摩擦係数μの増加の度合いが高くることがわかった。このことから、GIII鉱油を基油とする場合は、ペンタエリスリトールエステルにより、微振幅時における操作性を高めた場合に、エステル油を基油とした場合と比べて、乗り心地性が低下してしまうおそれがあることがわかった。
【0048】
また、図5において、ハッチングした〇で示すEA1~EA2、黒で塗りつぶした◇で示すEB1~EB9、グレーで塗りつぶした□で示すEC1~EC6は、それぞれエステル油を基油とする緩衝器用潤滑油の平均摩擦係数μと応答性RIとの測定結果をそれぞれプロットしたものである。具体的には、EA1~EA2、EB1~EB9、EC1~EC6は、下記表1に示す組成を有する緩衝器用潤滑油である。
【表1】
【0049】
すなわち、EA1は、2エチルヘキサノールとオレイン酸のモノエステルを基油とし、エナント酸残基を有するPE4Eとを30重量%添加した緩衝器用潤滑油であり、EA2は、2エチルヘキサノールとオレイン酸のモノエステルを基油とし、オレイン酸残基を有するPE4Eとを30重量%添加した緩衝器用潤滑油である。また、EB1~EB9は、共通し、イソオクチルアルコールとアジピン酸とのモノエステルを基油とした緩衝器用潤滑油であり、EB1はオレイン酸残基を有するPE2Eを全体の2重量%含有し、EB2はオレイン酸残基を有するPE3Eを全体の30重量%含有し、EB3はオレイン酸残基を有するPE3Eを全体の17.5重量%含有し、EB4はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%含有し、EB5はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の20重量%含有し、EB6はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の5重量%およびエナント酸残基を有するPE4Eを全体の25重量%含有し、EB7はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%含有し、EB8はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の17.5重量%含有し、EB9はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の10重量%含有する。なお、EB4およびEB7は、同じ組成ではあるが、サンプル数および測定日が異なるため、測定結果が異なっている。さらに、EC1~EC6は、共通し、イソデシルアルコールとペラルゴン酸とのモノエステルを基油とした緩衝器用潤滑油であり、EC1はオレイン酸残基を有するPE3Eを全体の30重量%含有し、EC2はオレイン酸残基を有するPE2Eを全体の2重量%含有し、EC3は、オレイン酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%含有し、EC4はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の15重量%およびエナント酸残基を有するPE3Eを全体の15重量%含有し、EC5はオレイン酸残基を有するPE4Eを全体の10重量%およびエナント酸残基を有するPE3Eを全体の20重量%含有し、EC6はエナント酸残基を有するPE4Eを全体の20重量%含有する。なお、図5において、エステル基油を基油とする緩衝器用潤滑油EA1~EA2,EB1~EB9,EC1~EC6の近似曲線をLEとして表す。
【0050】
エステル油を基油とする緩衝器用潤滑油においても、ペンエリスリトールエステルのエステル基の数が多いほど、平均摩擦係数μおよび応答性RIが高くなる傾向にあることがわかった。また、エステル油を基油とする緩衝器用潤滑油EA1~EA2,EB1~EB9,EC1~EC6の近似曲線LEは、ナフテン系基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LP、PAO2Cを基油とする緩衝器用潤滑油P1,P2の近似曲線LP、GIII鉱油を基油としペンタエリスリトールエステルを含有する近似曲線LGと比べて、近似曲線の傾きが大きく(より垂直となっており)、応答性RIが大きくなっても平均摩擦係数μの増加が少ないことがわかった。このことから、エステル油を基油とする場合は、ペンタエリスリトールエステルにより、微振幅時における操作性を高めても、他の基油と比べて、乗り心地性を向上させることができることがわかった。
【0051】
また、2エチルヘキサノールとオレイン酸のモノエステルを基油とするEA1~EA2と比べて、ソデシルアルコールとペラルゴン酸とのモノエステルを基油とするEB1~EB9およびイソデシルアルコールとペラルゴン酸とのモノエステルを基油とするEC1~EC6では、応答性RIが大きくなっても平均摩擦係数μの増加が少なくなる傾向がある。特に、イソデシルアルコールとペラルゴン酸とのモノエステルを基油とし、オレイン酸残基およびエナント酸残基を有するPE4Eを全体の30重量%含有する緩衝器用潤滑油EC6では、応答性RIが0.8を超えながら、平均摩擦係数は0.06未満となり、操作性および乗り心地性が従来と比べて大幅に改善された。
【0052】
さらに、エステル油を基油とした緩衝器用潤滑油の中で、ペンタエリスリトールエステルとしてPE4Eを用いた場合において、PE4Eが、オレイン酸残基などの長鎖脂肪酸残基のみを有する場合よりも、エナント酸残基などの中鎖脂肪酸残基を有する場合に、応答性RIをより高くできる傾向にあることがわかった。
【0053】
以上のように、本発明に係る緩衝器用潤滑油組成物は、ペンタエリスリトールエステルを摩擦調整剤として含有し、基油としてエステル油を主成分とすることを特徴とする。このように、エステル油を基油として用いることで、図5に示すように、平均摩擦係数μを小さく抑えたまま、応答性RIを高めることができ、操作性と乗り心地性とを両立して向上することができる緩衝器用潤滑油組成物を提供することができる。特に、エステル油を基油とする場合は、添加するペンタエリスリトールエステルの種類を変えて応答性RIを高めても、摩擦係数が低いまま抑えることができるため、添加するペンタエリスリトールエステルの種類を変えて、緩衝器用潤滑油を、所望する応答性RIに調整することができる。
【0054】
また、本発明に係る緩衝器用潤滑油では、ペンタエリスリトールエステルとしてPE4Eを添加することで、緩衝器用潤滑油の応答性RIをより高めることができるとともに、ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基として、長鎖脂肪酸残基よりも、中鎖脂肪酸残基を有するペンタエリスリトールエステルを用いることで、緩衝器用潤滑油の応答性RIをより高めることができる。このようにして、緩衝器用潤滑油の応答性RIを高い緩衝器用潤滑油に調整することで、タイヤのグリップ力(接地性能)、加速性能、ブレーキング性能、車体のロール・ピッチングなどの挙動性能をより向上することができ、操縦性・安定性を改善することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5