(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062822
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】摺動部材の製造方法、緩衝器の製造方法、摺動部材、緩衝器および乗り心地性調整方法
(51)【国際特許分類】
B24B 21/00 20060101AFI20230427BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20230427BHJP
B24B 21/02 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
B24B21/00 D
F16F9/32 N
B24B21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172940
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎治
【テーマコード(参考)】
3C158
3J069
【Fターム(参考)】
3C158AA05
3C158AA12
3C158AA14
3C158AB01
3C158BA02
3C158BA04
3C158BA09
3C158BB02
3C158BC01
3C158BC02
3C158CA01
3C158CB01
3C158CB10
3J069CC15
3J069DD47
(57)【要約】 (修正有)
【課題】作動性を高めながらも、摺動部材間における潤滑油の保持を良好にすることができ、摺動部材の円滑な摺動を持続させることができる、摺動部材の製造方法、緩衝器の製造方法、摺動部材、緩衝器および乗り心地性調整方法を提供する。
【解決手段】潤滑油の存在下で摺動動作を行う摺動部材の製造方法であって、摺動部材の表面を、第1の砥石を有する研磨テープを用いて、摺動部材の周方向に研磨し、摺動部材に周方向に周回する複数の溝を形成する第1研磨工程と、第1研磨工程後の前記摺動部材を研磨して、前記摺動部材の長手方向における表面断面をプラトー状に形成する第2研磨工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油の存在下で摺動動作を行う摺動部材の製造方法であって、
摺動部材の表面を、第1の砥石を有する研磨テープを用いて、前記摺動部材を周方向に研磨し、前記摺動部材に周方向に周回する複数の溝を形成する第1研磨工程と、
前記第1研磨工程後の前記摺動部材を研磨して、前記摺動部材の長手方向における表面断面をプラトー状に形成する第2研磨工程と、を有する摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の砥石の平均粒径は15~100μmである、請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2研磨工程は、前記第1の砥石よりも平均粒径の小さい第2の砥石を有する研磨テープを用いて、前記摺動部材を周方向に研磨する、請求項1または2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
前記第2の砥石の平均粒径は0.1~12μmである、請求項3に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1研磨工程では、前記摺動部材を旋盤で旋回させながら、前記研磨テープを送り出し、前記研磨テープを前記摺動部材に当接させて研磨しており、
前記摺動部材の旋回速度に対する、前記研磨テープの送り出し速度が1/10以下である、請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1研磨工程では、前記摺動部材を旋盤で旋回させながら、前記研磨テープを送り出し、前記研磨テープを前記摺動部材に当接させて研磨しており、前記摺動部材の旋回速度に対する、前記摺動部材の長手方向への前記摺動部材と前記研磨テープとの相対移動速度が1/100以下である、請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項7】
前記第1研磨工程において、前記研磨テープを前記摺動部材の長手方向に往復移動させるオシレーションを行わない、請求項1ないし6のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の摺動部材の製造方法を用いて緩衝器の摺動部材を製造することを特徴とする、緩衝器の製造方法。
【請求項9】
潤滑油の存在下で摺動動作を行う円筒形状の摺動部材であって、
前記摺動部材の表面に周方向に周回する複数の溝を有し、
前記摺動部材の長手方向における表面断面がプラトー状に形成されていることを特徴とする、摺動部材。
【請求項10】
長手方向における負荷長さ率(tp)が50%以上である、請求項9に記載の摺動部材。
【請求項11】
請求項9または10に記載の摺動部材を有する、緩衝器。
【請求項12】
移動体の緩衝器に用いられる摺動部材を研磨する際に、
長手方向における表面断面がプラトー形状となるように研磨するとともに、
長手方向における負荷長さ率(tp)を調整することで、前記緩衝器を用いた移動体の乗り心地性を調整する、乗り心地性調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材の製造方法、緩衝器の製造方法、摺動部材、緩衝器および乗り心地性調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器の作動性を高めるため、緩衝器のピストンロッドの外周面を機械研磨する技術が知られている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、緩衝器においてピストンロッドを円滑に摺動させるために、ピストンロッドの外周面を鏡面加工した場合に、ピストンロッドやシール部材などの摺動部材間に存在すべき潤滑油が摺動部材間から漏れ出てしまい、摺動部材間(あるいは油だまり)において潤滑油を保持できないスクイーズアウトが発生してしまう場合があった。そのため、作動性を高めながらも、摺動部材間における潤滑油の保持を良好にするで、摺動部材の円滑な摺動を持続させることが可能な摺動部材や緩衝器が希求されていた。
【0005】
本発明は、作動性を高めながらも、摺動部材間における潤滑油の保持を良好にすることができ、摺動部材の円滑な摺動を持続させることができる、摺動部材の製造方法、緩衝器の製造方法、摺動部材、緩衝器および乗り心地性調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記(1)ないし(7)の摺動部材の製造方法を要旨とする。
(1)潤滑油の存在下で摺動動作を行う摺動部材の製造方法であって、摺動部材の表面を、第1の砥石を有する研磨テープを用いて、前記摺動部材を周方向に研磨し、前記摺動部材に周方向に周回する複数の溝を形成する第1研磨工程と、前記第1研磨工程後の前記摺動部材を研磨して、前記摺動部材の長手方向における表面断面をプラトー状に形成する第2研磨工程と、を有する、摺動部材の製造方法。
(2)前記第1の砥石の平均粒径は15~100μmである、上記(1)に記載の摺動部材の製造方法。
(3)前記第2研磨工程は、前記第1の砥石よりも平均粒径の小さい第2の砥石を有する研磨テープを用いて、前記摺動部材の周方向に研磨する、上記(1)または(2)に記載の摺動部材の製造方法。
(4)前記第2の砥石の平均粒径は0.1~12μmである、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(5)前記第1研磨工程では、前記摺動部材を旋盤で旋回させながら、前記研磨テープを送り出し、前記研磨テープを前記摺動部材に当接させて研磨しており、前記摺動部材の旋回速度に対する、前記研磨テープの送り出し速度が1/10以下である、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(6)前記第1研磨工程では、前記摺動部材を旋盤で旋回させながら、前記研磨テープを送り出し、前記研磨テープを前記摺動部材に当接させて研磨しており、前記摺動部材の旋回速度に対する、前記摺動部材の長手方向への前記摺動部材と前記研磨テープとの相対移動速度が1/100以下である、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(7)前記第1研磨工程において、前記研磨テープを前記摺動部材の長手方向に往復移動させるオシレーションを行わない、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【0007】
本発明は下記(8)の緩衝器の製造方法を要旨とする。
(8)上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の摺動部材の製造方法を用いて緩衝器の摺動部材を製造することを特徴とする、緩衝器の製造方法。
【0008】
本発明は下記(9)または(10)の摺動部材を要旨とする。
(9)潤滑油の存在下で摺動動作を行う円筒形状の摺動部材であって、前記摺動部材の表面に周方向に周回する複数の溝を有し、前記摺動部材の長手方向における表面断面がプラトー状に形成されていることを特徴とする、摺動部材。
(10)長手方向における負荷長さ率(tp)が50%以上である、上記(9)に記載の摺動部材。
【0009】
本発明は下記(11)の緩衝器を要旨とする。
(11)上記(9)または(10)に記載の摺動部材を有する緩衝器。
【0010】
本発明は下記(12)の乗り心地性調整方法を要旨とする。
(12)移動体の緩衝器に用いられる摺動部材を研磨する際に、長手方向における表面断面がプラトー形状となるように研磨するとともに、長手方向における負荷長さ率(tp)を調整することで、前記緩衝器を用いた移動体の乗り心地性を調整する、乗り心地性調整方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作動性を高めながらも、摺動部材間における潤滑油の保持を良好にすることができ、摺動部材の円滑な摺動を持続させることができる摺動部材の製造方法、緩衝器の製造方法、摺動部材、緩衝器および乗り心地性調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るテープ研磨装置を説明するための図である。
【
図2】本実施形態に係る研磨方法で研磨したピストンロッドをレーザ式の表面粗さ測定器を用いて測定し、測定結果を可視化した図である。
【
図3】本実施形態に係る摺動部材に形成される溝を説明するための概念図である。
【
図4】本実施形態に係る摺動部材の長手方向における表面断面を説明するための概要図である。
【
図5】緩衝器のピストンロッドを、本実施形態に係る研磨方法でテープ研磨し、レーザ式の表面粗さ測定器を用いて、表面粗さを測定した結果を示す図である。
【
図6】表面をクロムめっきしたバウデン試験片を、所定の研磨条件により研磨テープで研磨し、レーザ式の表面粗さ測定器を用いて、表面粗さを測定した結果を示す図である。
【
図7】試験例(B),(D)~(G)の負荷長さ率(tp)と1点到達回数との関係をプロットしたグラフである。
【
図8】プラトー形状と乗り心地性との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、車両の緩衝器に使用されるピストンロッドなど、潤滑油の存在下において、摺動動作(特に往復方向の摺動動作)を繰り返す摺動部材の製造方法に関するものである。従来、摺動部材を製造する際に、摺動部材の摺動動作を円滑にするために、摺動部材の表面に機械研磨が行われていた。しかしながら、摺動部材の表面を鏡面加工した場合には、摺動部材と相手部材との間に介在する潤滑油が摺動動作により外部へと漏れ出してしまうスクイーズアウトが発生する場合があった。本実施形態では、摺動部材の摺動動作を円滑にすることができるとともに、スクイーズアウトの発生を抑制することができる摺動部材の製造方法を、摺動部材として、緩衝器のピストンロッドを例示して説明する。
【0014】
本実施形態に係るピストンロッドの製造方法では、筒状形状のピストンロッドの外周面を機械研磨する際に、2段階研磨を行うことを特徴とし、それ以外は、公知の方法でピストンロッドを製造することができる。具体的には、
図1に示すテープ研磨装置1により、ピストンロッドの周方向に、異なる種類の研磨テープで2段階に分けてピストンロッドを研磨することで、
図2に示すように、ピストンロッドの周方向に周回する溝を有し、かつ、長手方向における表面断面がプラトー状に形成されたピストンロッドを製造することを特徴とする。なお、
図1は、本実施形態に係るテープ研磨装置1を示す構成図である。また、
図2は、本実施形態に係る研磨方法で研磨したピストンロッドをレーザ式の表面粗さ測定器を用いて測定し、ピストンロッドの表面粗さを可視化した図である。
【0015】
まず、本実施形態に係るテープ研磨装置1について説明する。本実施形態に係るテープ研磨装置1は、
図1に示すように、研磨テープTを送り出すための送り出しモーター11と、研磨テープTの送り出し口12と、研磨テープTをピストンロッドOに押し当てるためのローラー13と、研磨テープTの巻き取り口14と、研磨テープを巻き取るための巻き取りモーター15と、を有する。
【0016】
本実施形態では、旋盤2にピストンロッドOをセットし、ピストンロッドOの側方にテープ研磨装置1を配置する。そして、旋盤2にてピストンロッドOを周方向に旋回させながら、ローラー13をピストンロッドO側に移動させることで、ローラー13に巻き付いている研磨テープTをピストンロッドOの側面に当てて、研磨テープTでピストンロッドOを周方向に研磨することができる。なお、ローラー13は、たとえば、ウレタンゴムなどの弾性樹脂を素材としたローラーであることが好ましい。ローラー13を弾力のある弾性樹脂とすることで、研磨テープTとピストンロッドOとを広範囲で当接させることができるためである。なお、ローラー13の硬度は特に限定されないが、本実施形態では、ショアA硬度で90またはHS90のローラーを用いるものとする。ただし、ローラー13の硬度はこれに限定されず、たとえばショアA硬度で30~70のローラーまたはHS30~HS70のローラーを用いる構成とすることもできる。また、第1研磨工程と、第2研磨工程とで、ローラー13を変更する構成とすることができ、この場合、第2研磨工程よりも第1研磨工程で使用するローラー13の硬度を高くする構成とすることができる。
【0017】
また、本実施形態では、後述するように、研磨テープTをピストンロッドOの長手方向にゆっくりと移動させながら、研磨テープTによりピストンロッドOを研磨するが、研磨テープTの研磨面の摩耗によりピストンロッドOの研磨の度合いが不均一とならないように、随時、送り出しモーター11により研磨テープTを送り出し口12から送り出しながら、巻き取りモーター15により研磨テープTを巻き取り口14から巻き取ることで、ピストンロッドOを均一に研磨することが可能となっている。特に、ピストンロッドOの長手方向における研磨テープTの移動速度よりも、研磨テープTの送り出し速度を速くすることで、ピストンロッドOを均一に研磨することができる。
【0018】
また、本実施形態では、2種類の研磨テープT1,T2を用いてピストンロッドOを2段階に分けて研磨する。具体的には、1段階目の研磨では、2段階目の研磨で使用する第2研磨テープT2よりも平均粒径の大きい砥石を有する第1研磨テープT1を用いて、ピストンロッドOを研磨する第1研磨工程が行われる。第1研磨テープT1としては、第2研磨テープT2よりも砥石の平均粒径が大きいものであれば特に限定されず、たとえば平均粒径が15μm~100μmの砥石、より好ましくは平均粒径が30μm~80μmの砥石、さらに好ましくは平均粒径が60μm~80μmの砥石を有する研磨テープを用いることができる。また、砥石の「平均粒径」に代えて「粒度」で砥石の大きさを定義してもよい。この場合、第1研磨テープT1は、第2研磨テープT2よりも粒度の小さい砥石を有するテープとすることができ、たとえば、粒度が1000~120の砥石、より好ましくは粒度が400~150の砥石を有するテープを用いることができる。
【0019】
第1研磨工程では、第1研磨テープT1を用いてピストンロッドOを周方向に研磨することで、
図2に示すように、ピストンロッドOに、周方向に周回する溝を形成する。なお、第1研磨工程において、ピストンロッドOの旋回速度は、特に限定されないが、たとえば1000~3000rpmの回転速度とすることができる。一方、第1研磨テープT1の送り出し速度は、ピストンロッドOの旋回速度より遅い速度に設定され、ピストンロッドOの旋回速度の1/10以下の速度とすることが好ましく、ピストンロッドOの旋回速度の1/100以下の速度することがより好ましい。第1研磨テープT1の送り出し速度を、ピストンロッドOの旋回速度と同程度としてしまうと、ピストンロッドOが1回転する前に砥石の位置(長手方向における位置)が変わってしまい、
図2に示すようなピストンロッドOの周方向に周回する溝を形成することができない場合があるためである。よって、第1研磨テープT1の送り出し速度を、ピストンロッドOの旋回速度よりも遅い速度とすることで、
図2に示すように、ピストンロッドOを周方向に周回する溝を形成することが可能となる。
【0020】
さらに、第1研磨工程において、ピストンロッドOの長手方向に、第1研磨テープT1を移動させる速度は、ピストンロッドOの旋回速度の1/100以下、より好ましくは1/1000以下に設定される。また、第1研磨工程においては、研磨面を平滑化させるためにピストンロッドOの長手方向に第1研磨テープ1Tを往復移動させるオシレーション(揺動)も行われない。このように、第1研磨工程を行うことで、ピストンロッドOに、
図3(A)に示すような螺旋状(斜め方向)の溝ではなく、
図2または
図3(B)に示すように、周方向に周回した溝を形成することができ、スクイーズアウトの発生を抑制することができる。すなわち、
図3(A)に示すように、ピストンロッドに螺旋状の溝を形成した場合や、ピストンロッドを鏡面化した場合は、潤滑油が螺旋状の溝を伝って、あるいは、鏡面加工された面を移動して、摺動部材の間(あるいは油だまり)の外部へと漏れ出てしまう場合がある。一方、
図2または
図3(B)に示すように、ピストンロッドOに周方向に周回する溝を形成することで、潤滑油をピストンロッドOの周方向に周回する溝内に滞留させることができ、潤滑油を摺動部材間(あるいは油だまり)において保持することができる。なお、上述した例では、ピストンロッドOの長手方向に第1研磨テープT1を移動させる構成を例示したが、これに限定されず、第1研磨テープT1の位置は固定したまま、ピストンロッドOの長手方向に、ピストンロッドOを移動させる構成としてもよい。この場合も、ピストンロッドOの長手方向への第1研磨テープT1とピストンロッドOとの相対移動速度は、ピストンロッドOの旋回速度の1/100以下、より好ましくは1/1000以下に設定することが好ましい。
【0021】
また、2段階目の研磨では、第2研磨テープT2を用いてピストンロッドOを研磨する第2研磨工程が行われる。第2研磨テープT2は、第1研磨テープT1よりも平均粒径の小さい砥石を有する研磨テープである。第2研磨テープT2も、第1研磨テープT1よりも砥石の平均粒径が小さいものであれば特に限定されず、たとえば平均粒径が0.1μm~12μmの砥石を有する研磨テープを用いることができる。また、第1研磨テープT1と同様に、第2研磨テープT2の砥石の大きさを粒度で定義することもできる。この場合、第2研磨テープT2は、第1研磨テープT1よりも粒度の大きい砥石を有するテープとすることができ、たとえば、粒度が20000~1500の砥石を有するテープ用いることができる。なお、本発明において、第1研磨テープT1や第2研磨テープT2の「平均粒径」や「粒度」は、市販の研磨テープにおいて規定されている「平均粒径」や「粒度」を用いることができる。
【0022】
第2研磨工程では、第1研磨テープT1よりも平均粒径の小さい砥石を有する第2研磨テープT2を用いてピストンロッドOを研磨することで、
図4(B)に示すように、ピストンロッドOの長手方向における表面断面をプラトー状(台形状)に形成することができる。ここで、
図4は、本実施形態に係るピストンロッドの長手方向における表面断面を説明するための概要図であり、
図4(A)は、第1研磨テープT1で研磨した第1研磨工程後のピストンロッドの長手方向における表面断面を示す概要図であり、
図4(B)は、第2研磨テープT2で研磨した第2研磨工程後のピストンロッドの長手方向における表面断面を示す概要図である。
図4(A)に示すように、第1研磨工程では、平均粒径の大きい砥石を有する第1研磨テープT1を用いて、ピストンロッドOの周方向に研磨することで、ピストンロッドOの長手方向において山形の凹凸(先端部分が鋭くなっている凹凸)が形成されることとなる。そして、第2研磨工程において、第2研磨テープT2でピストンロッドを研磨することで、第2研磨テープT2の砥石の平均粒径が第1研磨テープT1よりも小さいため、第1研磨工程後のピストンロッドOの表面の山部Sを研磨することができ、その結果、
図4(B)に示すように、ピストンロッド表面の山部Sが削れ、長手方向における表面断面が、プラトー状(台形状)に形成される。なお、
図4(A)におけるR1は第1研磨工程前のピストンロッドの部分であり、
図4(B)におけるR2は、第1研磨工程後であり、かつ、第2研磨工程前のピストンロッドの部分を示す。
【0023】
なお、第2研磨工程では、第1研磨工程のように周方向に周回する溝を形成するものではないため、第1研磨工程のようにピストンロッドOの周方向に第2研磨テープT2を研磨せず、たとえば、ピストンロッドOの長手方向にオシレーションを行い、ピストンロッドの長手方向に研磨を行う構成とすることができる。反対に、第2研磨工程においても、第1研磨工程と同様に、第2研磨テープT2を用いてピストンロッドOの周方向に、ピストンロッドOを研磨する構成とすることもできる。また、第2研磨工程においても、ピストンロッドOの長手方向に第2研磨テープT2を移動させる構成としてもよいし、第2研磨テープT2の位置は固定したまま、ピストンロッドOの長手方向に、ピストンロッドOを移動させる構成としてもよい。この場合も、ピストンロッドOの長手方向への第2研磨テープT2とピストンロッドOとの相対移動速度は、ピストンロッドOの旋回速度の1/100以下、より好ましくは1/1000以下に設定することが好ましい。
【0024】
また、第2研磨工程では、第1研磨工程と同様に、研磨テープを用いて研磨を行うことで、次のような効果を奏することができる。すなわち、第1研磨工程においてピストンロッドOの研磨面において「うねり」が生じた場合でも、第2研磨工程において、第2研磨テープT2を、ゴムローラーであるローラー13で、第1研磨工程で研磨されたピストンロッドOに押し当てることで、第2研磨テープT2が「うねり」に合った形状に変化してピストンロッドOを研磨することができるため、第2研磨テープT2でピストンロッドOを均一に研磨することが可能となる。
【0025】
また、第2研磨工程は、
図4(A)に示す山形の凹凸を、
図4(B)に示すプラトー型の凹凸に変化させることができる方法であれば、研磨テープを用いずに、研磨を行う構成とすることもできる。この場合、ゴムやスポンジなどの弾性砥石を用いた研磨や、研磨布などを用いてバフ研磨を行う構成とすることができる。
【0026】
なお、本実施形態では、第1研磨工程が終了した後に、第1研磨テープT1をテープ研磨装置10から取り外し、第2研磨テープT2をテープ研磨装置10に取り付けることで、第2研磨工程を実行する。ただし、上記方法に限定されず、たとえば、第1研磨テープT1を取り付けたテープ研磨装置10と、第2研磨テープT2を取り付けたテープ研磨装置10の2台のテープ研磨装置10を並べて配置し、ピストンロッドOを、第1研磨テープT1を取り付けたテープ研磨装置10で研磨した後に、連続して、第2研磨テープT2を取り付けたテープ研磨装置10で研磨する構成とすることもできる。
【0027】
次に、本発明の実施例について説明する。
図5は、緩衝器のピストンロッドを、本実施形態に係る研磨方法でテープ研磨し、レーザ式の表面粗さ測定器を用いて、表面粗さを測定した結果を示す。たとえば、
図5(a)に示す例では、平均粒径60μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程を行い、その後、平均粒径3μmの第2研磨テープT2を用いて、研磨速度4.4mm/sおよび研磨圧力0.26Mpaで第2研磨工程を行った。なお、上記「研磨速度」とは、ピストンロッドの長手方向に第2研磨テープT2を移動させる速度であり、研磨速度が速いほど、ピストンロッドの研磨位置が速く変わることとなり、ピストンロッドOの同じ位置での研磨回数は少なくなることとなる。同様に、
図5(b)~(e)に示す例においても、平均粒径60μmまたは平均粒径30μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程を行い、その後、平均粒径3μmの第2研磨テープT2を用いて、研磨速度を4.4mm/sまたは8.8mm/sとし、また、研磨圧力を0.26Mpaまたは0.15Mpaとしてテープ研磨を行った。
図5に示す表面粗さの測定結果から、第1研磨テープT1を用いた第1研磨工程の後に、第2研磨テープT2を用いた第2研磨工程を行うことで、
図4(B)に示すように、長手方向における表面断面をプラトー状に形成することができることがわかった。また、第1研磨テープT1の砥石の大きさや、第2研磨工程における研磨速度および研磨圧力を変更することで、摺動部材の研磨面のプラトー形状(たとえば、溝の深さや平面部の大きさ、負荷長さ率(tp)など)を変更することができることもわかった。
【0028】
さらに、
図6に、表面をクロムめっきしたバウデン試験片を、下記に示す研磨条件により研磨テープで研磨し、レーザ式の表面粗さ測定器を用いて、表面粗さを測定した結果を示す。すなわち、
図6(A)に示す例は、平均粒径60μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程のみを行った例であり、
図6(B)に示す例は、平均粒径60μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程を行い、その後、平均粒径3μmの第2研磨テープT2を用いて第2研磨工程を行った例である。また、
図6(C)に示す例は、平均粒径30μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程のみを行った例であり、
図6(D)に示す例は、平均粒径30μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程を行い、その後、平均粒径3μmの第2研磨テープT2を用いて第2研磨工程を行った例である。さらに、
図6(E)は、平均粒径1μmの研磨テープで鏡面加工を行った例であり、
図6(F)は、周方向のみではなく長手方向や斜め方向にもランダムに研磨を行った例を示すものである。なお、
図6(A)~(F)に示す例では、研磨速度および研磨圧力は同条件で行った。
図6に示す例でも、
図5に示す例と同様に、第1研磨テープT1を用いた第1研磨工程のみでは、
図4(A)に示すように、長手方向において山形の表面断面となるのに対して、第1研磨工程の後に第2研磨テープT2を用いた第2研磨工程を行うことで、
図4(B)に示すように、長手方向における表面断面をプラトー状に形成することができることがわかった。また、
図6(A)~(D)では、周方向に周回する溝が形成されている点が把握できるが、
図6(F)では、斜め方向(螺旋状)に溝が形成されていることがわかる。
【0029】
さらに、
図6(B),(D)~(F)に示す試験例、および、平均粒径80μmの第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程を行った後に平均粒径3μmの第2研磨テープT2を用いて第2研磨工程を行った試験例(G)について、JIS B0601:1994において定義されている負荷長さ率(tp)と、1点到達回数とを測定した。
図7は、試験例(B),(D)~(F),(G)の負荷長さ率(tp)(単位:%)と1点到達回数(単位:万回)との関係をプロットしたグラフである。なお、1点到達回数は、摺動動作を何万回行った場合に潤滑油が摺動部材間の外部に漏出したかを示すものである。
図7に示すように、鏡面加工した(E)の試験例では、負荷長さ率(tp)が最も低い約0%となり、1点到達回数も約100万回程度と低くなった。また、平均粒径30μmの砥石を有する第1研磨テープT1を用いて第1研磨工程を行った後に3μmの砥石を有する第2研磨テープT2で第2研磨工程を行った試験例(D)では、負荷長さ率(tp)が20%弱となったが、1点到達回数は鏡面加工を行った試験例(E)と同様に、約100万回程度と低くなった。
【0030】
一方で、80μmの砥石を有する第1研磨テープT1で第1研磨工程を行った後に3μmの砥石を有する第2研磨テープT2で第2研磨工程を行った試験例(G)では、負荷長さ率(tp)は60%程度となり、1点到達回数は約1000万回程度と高くなった。同様に、60μmの砥石を有する第1研磨テープT1で第1研磨工程を行った後に3μmの砥石を有する第2研磨テープT2で第2研磨工程を行った試験例(B)では、負荷長さ率(tp)が70%程度となり、1点到達回数も約1000万回程度と高くなった。このように、摺動部材の負荷長さ率(tp)と1点到達回数には一定の相関関係があることが見出され、負荷長さ率(tp)が大きいほど1点到達回数は大きくなる傾向にあることがわかった。なお、長手方向および斜め方向にも研磨を行った試験例(F)では、負荷長さ率(tp)が100%近く高くなったが、1点到達回数は試験例(G),(B)と同程度となった。これは、試験例(F)では、長手方向および斜め方向にも溝が形成されているため、負荷長さ率(tp)が高くても、溝を伝って潤滑油が漏れやすいためと考えられる。
【0031】
さらに、本実施形態に係る研磨方法により、車両用の緩衝器のピストンロッドを研磨することで、車両の乗り心地性にどのような影響を与えるかを検討した。具体的には、
図8(A)~(C)に示すように、本実施形態に係る研磨方法において、第1研磨テープT1が有する砥石の平均粒径の大きさや、第2研磨テープT2の砥石の平均粒径、第1研磨工程や第2研磨工程の研磨速度、研磨圧力、研磨時間などの研磨条件を変え、負荷長さ率(tp)などのピストンロッドの表面断面のプラトー形状を変更した場合の、乗り心地性の変化を測定した。なお、本実施例では、
図9に示すように、微振幅時における摩擦係数をμ2とし、通常振幅時における摩擦係数μ1とした場合に、通常振幅時の摩擦係数μ1と微振幅時の摩擦係数μ2の比(μ2/μ1)である振幅依存指標を、乗り心地性を示す指標として用いた。その結果、第1研磨テープT1の砥石の平均粒径や第2研磨テープT2の砥石の平均粒径、第1研磨工程や第2研磨工程の研磨速度、研磨圧力、研磨時間などを変更し、
図8(A)~(C)に示すように、ピストンロッドの長手方向における表面断面の形を調整することで(たとえば、プラトー形状における溝の深さや傾斜の角度、断面長さ率などを調整することで)、乗り心地性が変化することがわかった。特に、ピストンロッドの長手方向における負荷長さ率(tp)が乗り心地性に大きく影響を与えることがわかった。具体的には、負荷長さ率(tp)が高いほど、乗り心地性が高くなる傾向にあることがわかった。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るピストンロッド(摺動部材)の製造方法では、ピストンロッドの表面を、第1の砥石を有する第1研磨テープT1を用いてピストンロッドの周方向に研磨する第1研磨工程と、第1研磨工程において研磨されたピストンロッドに対して、第1研磨テープT1よりも平均粒径の小さい第2の砥石を有する第2研磨テープT2を用いて、ピストンロッドの周方向に研磨する第2研磨工程とを行う。これにより、ピストンロッドの表面に周方向に周回する溝を有し、かつ、ピストンロッドの長手方向における表面断面がプラトー状に形成されたピストンロッドを製造することができる。このように、表面に周方向に周回する溝を有し、かつ、長手方向における表面断面がプラトー状に形成されたピストンロッドでは、山形の凹凸が研磨されてプラトー状となっているため、相手部材の凹凸に引っ掛かりにくくなり摺動動作を円滑に行うことができるとともに、ピストンロッドが摺動しても潤滑油が周方向に周回する溝に滞留するため、潤滑油が摺動部材間から漏れ出るスクイーズアウトの発生を抑制することができる。さらに、本実施形態では、第1の砥石の平均粒径を15~100μmとし、第2の砥石の平均粒径を0.1~12μmとすることで、1点到達回数が約1000万回となるまで、潤滑油のスクイーズアウトを抑制することができた。
【0033】
さらに、本実施形態では、第1研磨工程において、ピストンロッドの旋回速度に対して第1研磨テープT1の送り出し速度を1/10以下とし、また、ピストンロッドの旋回速度に対して第1研磨テープT1のピストンロッドの長手方向に対する相対移動速度を1/100以下とし、さらに、第1研磨テープT1をピストンロッドの長手方向に往復移動させるオシレーションを行わないことで、
図2に示すように、ピストンロッドの表面に周方向に周回する溝を適切に形成することができ、また、長手方向における負荷長さ率(tp)を50%以上とすることができた。
【0034】
また、本実施形態に係る研磨方法でピストンロッドを研磨する際に、ピストンロッドの長手方向における負荷長さ率(tp)を調整することで、当該ピストンロッドを有する衝器を用いた移動体の乗り心地性を調整することができることもわかった。そのため、将来的に、緩衝器の乗り心地性を、ピストンロッドの研磨(あるいは、ピストンロッド表面の形状)により、適宜調整することができるようになると期待される。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0036】
たとえば、上述した実施形態では、摺動部材として、緩衝器に用いるピストンロッドを例示したが、本発明に係る摺動部材は、潤滑油の存在下で摺動動作する部材であれば緩衝器のピストンロッドに限定されず、油圧ポンプや油圧モーターのピストンやアクチュエータの部品など、摺動動作を行う各種部品を摺動部材として、本発明を適用することができる。また、本発明に係る「潤滑油」は、摺動部材の摺動動作を潤滑させる機能を有するだけではなく、たとえば油圧機器器の作動油のように動力を伝達する機能を有する油も含むことができる。
【0037】
また、本発明に係る「研磨テープ」は、研磨フィルムとして市販されているものも含むことができる。また、本発明に係る研磨テープは、ラッピングテープおよびフィニッシングテープのいずれも使用することができるが、第1研磨テープT1としてフィニッシングテープ、第2研磨テープとしてラッピングテープを用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1…テープ研磨装置
11…送り出しモーター
12…送り出し口
13…ローラー
14…巻き取り口
15…巻き取りモーター
2…旋盤
T…研磨テープ
T1…第1研磨テープ
T2…第2研磨テープ
O…ピストンロッド