(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062870
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230427BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230427BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230427BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173022
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 海志
(72)【発明者】
【氏名】小川 止
(72)【発明者】
【氏名】小野 義隆
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 智裕
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 正浩
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK05
5H029AK16
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ00
5H029HJ12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】容量の低下を抑制可能な全固体電池を提供する。
【解決手段】全固体電池1は、負極層33、固体電解質層32、及び、正極層31が順に積層される発電要素30と、発電要素30の外周を覆う弾性体40と、負極層33に接する負極集電体20と、正極層31に接する正極集電体10と、を備え、固体電解質層32は、正極集電体10に形成されている正極層31の表面を覆っており、断面視において、弾性体40の固体電解質層32の負極層33側の外周部との接点のうち最も内側に位置する第1の接点P
1は、正極集電体10と正極層31との接点のうち最も外側に位置する第2の接点P
2より内側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極層、固体電解質層、及び、正極層が順に積層される発電要素と、
前記発電要素の外周を覆う弾性体と、
前記負極層に接する負極集電体と、
前記正極層に接する正極集電体と、を備え、
前記固体電解質層は、前記正極集電体に形成されている前記正極層の表面を覆っており、
断面視において、前記固体電解質層の前記負極層側の外周部と前記弾性体との接点のうち最も内側に位置する第1の接点は、前記正極集電体と前記正極層との接点のうち最も外側に位置する第2の接点より内側に位置する全固体電池。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池であって、
前記弾性体の弾性率は、1GPa未満である全固体電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、
前記固体電解質層と前記正極集電体とが接触している全固体電池。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池であって、
第1の仮想線と、第2の仮想線と、のなす角ψが90°~180°であり、
前記第1の仮想線は、前記断面視において、前記第1の接点と、前記固体電解質層の前記正極集電体と対向する面において最も外側に位置する点と、を結ぶ仮想上の線分であり、
前記第2の仮想線は、前記断面視において、前記正極集電体の前記固体電解質層に覆われていない主面に略平行な仮想上の線分である全固体電池。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体電池であって、
満充電状態における前記負極層は、アルカリ金属を主成分とするアルカリ金属層を含む全固体電池。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体電池であって、
前記アルカリ金属層は、リチウム金属を主成分とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極集電体と、正極粉体層と、固体電解質層と、負極粉体層と、負極集電体と、が順に積層されている全固体電池が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
充電時において負極にリチウム等のアルカリ金属が析出する全固体電池では、負極において、正極活物質層と対向する対向領域よりも外側にアルカリ金属が析出してしまうことがあるため、全固体電池の容量が低下してしまう、という問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、容量の低下を抑制可能な全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、弾性体により発電要素の外周を覆うと共に、断面視において、弾性体の固体電解質の負極層側の外周部との接点のうち最も内側に位置する第1の接点を、正極集電体と正極層との接点のうち最も外側に位置する第2の接点より内側に位置させることにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記の対向領域より外側へのアルカリ金属の析出を抑制することができるので、全固体電池の容量の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は本発明の第1実施形態における全固体電池の完全放電された状態の一例を示す断面図であり、
図1(b)は本発明の第1実施形態における全固体電池の充電された状態の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は
図1(a)のII-A部の拡大断面図であり、
図2(b)は
図1(b)のII-B部の拡大断面図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は、本発明の実施形態における固体電解質層の第1~第3変形例の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は本発明の第2実施形態における全固体電池の完全放電された状態の一例を示す断面図であり、
図4(b)は本発明の第2実施形態における全固体電池の充電された状態一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
本発明に係る全固体電池1の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は本発明の第1実施形態における全固体電池の完全放電された状態の一例を示す断面図であり、
図1(b)は本発明の第1実施形態における全固体電池の充電された状態の一例を示す断面図である。
図2(a)は
図1(a)のII-A部の拡大断面図であり、
図2(b)は
図1(b)のII-B部の拡大断面図である。
【0010】
なお、完全放電された状態とは、全固体電池1のSOC(State of Charge)が0%である状態を意味し、充電された状態とは、当該SOCが0%より大きい状態を意味する。また、
図1(a)及び
図1(b)では、全固体電池1を積層方向に沿って切断した断面を図示している。
【0011】
図1(a)に示すように、完全放電された状態の全固体電池1は、正極集電体10と、負極集電体20と、これらの間に介在する発電要素30と、当該発電要素30を覆う弾性体40と、を備えている。なお、
図1(a)及び
図1(b)では、1組の正負極集電体10,20及び発電要素30の近傍を抽出して図示しているが、全固体電池1は、発電要素30を挟み込んだ正負極集電体10,20を複数備えていてもよい。
【0012】
正極集電体10は、導電性を有する板状(又は箔状)の部材であり、特に限定されないが、例えば、金属や、導電性を有する樹脂から構成されている。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、又は、銅等を用いることができる。或いは、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、又は、銅とアルミニウムとのクラッド材等が用いられてもよい。また、導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。
【0013】
負極集電体20は、正極集電体10と同様に、導電性を有する板状(又は箔状)の部材であり、特に限定されないが、例えば、金属や、導電性を有する樹脂から構成されている。金属及び導電性を有する樹脂としては、上述の正極集電体10を構成する材料と同様の材料を用いることができる。
【0014】
正極集電体10と負極集電体20との間には、発電要素30が介在している。
図1(a)に示すように、この発電要素30は、全固体電池1が完全放電された状態において、正極層31と、固体電解質層32と、を有している。
【0015】
正極層31は、正極集電体10の主面に形成されている。この正極層31は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、又は、カリウム(K)等のアルカリ金属を放出及び吸蔵可能な正極活物質を少なくとも含有しており、特に限定されないが、硫黄を含む正極活物質を含有することが好ましい。硫黄を含む正極活物質は、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオン等のアルカリ金属イオンを放出し、放電時に当該アルカリ金属イオンを吸蔵することができる物質であればよい。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)、有機硫黄化合物、又は、無機硫黄化合物の粒子或いは薄膜を使用することができる。
【0016】
有機硫黄化合物としては、特に限定されないが、ジスルフィド化合物、硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等を用いることができる。無機硫黄化合物としては、特に限定されないが、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、Li2S、MoS2、MoS3等が挙げられる。なお、正極活物質として、硫黄を含まないものを使用してもよい。
【0017】
図1(a)に示すように、正極層31は、台形形状を有している。この正極層31は、第1の主面311と、当該第1の主面と対向する第2の主面312と、第1及び第2の主面311,312との間に介在する第1の側面313と、を有している。
【0018】
第1の主面311は、正極集電体10と接触しており、一方で、第2の主面312及び第1の側面313は、固体電解質層32と接触している。つまり、本実施形態において、正極集電体10上に形成された正極層31は、固体電解質層32に埋設されており、第2の主面312及び第1の側面313が固体電解質層32に覆われている。
【0019】
第1の主面311の幅は、第2の主面312の幅に対して大きくなっており、これにより、
図2(a)に示すように、第1の側面313は、第2の主面312に近づくに従って、正極層31の中心に近づくように傾斜している。すなわち、正極層31は、負極集電体20に近づくに従って、徐々に幅狭となる形状を有している。
【0020】
この正極層31と負極集電体20との間に、固体電解質層32が介在している。
図1(a)に示すように、全固体電池1が完全放電された状態において、この固体電解質層32は負極集電体20に接触している。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質又は酸化物固体電解質等を用いることができるが、硫化物固体電解質を用いることが好ましい。
【0021】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、又はInのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P2S5」という記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味しており、上記の他の記載についても同様である。或いは、硫化物固体電解質として硫化物ガラス等を用いてもよい。
【0022】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等を用いることができる。NASICON型構造を有する化合物としては、例えば、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等を用いることができる。また、他の酸化物固体電解質としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等を用いることができる。
【0023】
この固体電解質層32は、正極集電体10と、正極層31の第2の主面312及び第1の側面313と、に沿って配置されている。固体電解質層32は、正極集電体10と、第2の主面312と、第1の側面313と、に接触する第3の主面321を有している。また、固体電解質層32は、負極集電体20と接触している第4の主面322と、第3及び第4の主面321,322の間に介在する第2の側面323と、を有している。
【0024】
固体電解質層32の第3の主面321は、負極集電体20側に向かって凹む凹部を含んでおり、この凹部に正極層31が収容されている。この第3の主面321の幅は、第4の主面322の幅に対して大きくなっており、これにより、
図2(a)に示すように、第2の側面323は、第4の主面322に近づくに従って、固体電解質層32の中心に近づくように傾斜している。すなわち、固体電解質層32は、負極集電体20に近づくに従って、徐々に幅狭となる形状を有している。
【0025】
図1(b)及び
図2(b)に示すように、本実施形態における発電要素30は、全固体電池1が充電された状態において、上記の正極層31及び固体電解質層32に加えて、負極層33をさらに有している。この負極層33は、全固体電池1の充電に伴って、正極層31から放出され固体電解質層32を介して負極集電体20の主面に到達し析出したアルカリ金属を主成分とするアルカリ金属層33aである。このアルカリ金属層33aの体積は、全固体電池1の充電に伴ってアルカリ金属が析出して増加していく一方で、放電に伴ってアルカリ金属が消失(正極層31側へ移動)して減少していく。
【0026】
このようなアルカリ金属層33aを有することで、全固体電池1の電池容量を確保することができる。また、アルカリ金属層33aの主成分がリチウム金属であってもよく、この場合も、全固体電池1の電池容量を確保することができる。
【0027】
本実施形態のアルカリ金属層33aは、全固体電池1が充電された状態において、固体電解質層32と負極集電体20との間に介在しており、一方で、
図1(a)に示すように、このアルカリ金属層33aは、全固体電池1が完全放電された状態において、発電要素30内に存在していない。
【0028】
このような発電要素30の外周を、弾性体40が覆っている。この弾性体40は、正極集電体10と負極集電体20との間に介在しており、弾性体40の上下端は、負極集電体20と正極集電体10とに固定されている。この弾性体40としては、特に限定されないが、弾性を有し、かつ、電子伝導性及びイオン伝導性を有していない材料を用いることができる。
【0029】
この弾性体40として、例えば、ゴム材料を用いることができ、ゴム材料としては、例えば、天然ゴム、又は、ウレタンゴム等を用いることができる。弾性体40は、特に限定されないが、正極集電体10と、発電要素30と、負極集電体20と、を積層した後に、発電要素30の外周に粘着層を介してゴム材料を貼り付けるか、或いは、ペースト状のゴム材料を塗布・乾燥させることで形成することができる。
【0030】
図1(a)及び
図2(a)に示すように、本実施形態の弾性体40は、全固体電池1が完全放電された状態において、発電要素30の固体電解質層32の第2の側面323の全体を覆っている。そして、
図1(b)及び
図2(b)に示すように、弾性体40は、全固体電池1が充電された状態において、固体電解質層32の第2の側面323と、アルカリ金属層33aの外周(側面)と、を覆っている。つまり、弾性体40は、アルカリ金属層33aの析出に伴う発電要素30の膨張に追従して積層方向に伸長することで、充放電時の両方において発電要素30の外周全体を覆っている。このような発電要素30の膨張・収縮への追従性の観点から、弾性体40の弾性率は1GPa未満であることが好ましい。
【0031】
この弾性体40は、内周面401と、外周面402と、を有している。内周面401は、発電要素30と接触しており、発電要素30に固定されている。この内周面401は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、発電要素30と接触する第1の接点P
1を含んでいる。ここで、第1の接点P
1は、弾性体40の内周面401と、固体電解質層32の負極層33側の外周部と、の接点のうち、最も内側に位置する接点であり、本実施形態においては、固体電解質層32の第4の主面322の最外周端でもある。
【0032】
そして、この第1の接点P1は、第2の接点P2よりも全固体電池1の内側に位置している。換言すれば、断面視において、第1の接点P1を正極集電体10の主面と垂直な方向に沿って当該主面上に投影した場合、第1の接点P1は第2の接点P2よりも正極集電体10の中心に近い点に位置している。なお、第2の接点P2は、正極集電体10と正極層31との接点のうち、最も外側に位置する接点である。この第1の接点P1と第2の接点P2との相対的な位置関係は少なくとも1つの断面で成立していればよい。また、発電要素30の全周において、上記の位置関係が成立していることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態では、第1の仮想線L1と、第2の仮想線L2と、のなす角ψが90°~180°であることが好ましい(90°<ψ<180°)。ここで、第1の仮想線L1は、断面視において、第1の接点P1と、最外周端点P3と、を結ぶ仮想上の線分である。最外周端点P3とは、固体電解質層32の正極集電体10と対向する第3の主面321において最も外側に位置する点である。また、第2の仮想線L2は、断面視において、正極集電体10の固体電解質層32に覆われていない主面に略平行な仮想上の線分である。
【0034】
角ψが上記のような関係を満たしていることで、固体電解質層32の第2の側面323と、負極集電体20との間に弾性体40を配置可能な空間が形成できるため、本実施形態の弾性体40を容易に形成することが可能となる。また、本実施形態では、固体電解質層32が正極集電体10と接触しているため、角ψが上記のような関係を満たし、弾性体40を配置可能な空間が形成できる。
【0035】
なお、本実施形態において、弾性体40は、発電要素30の全体を覆っているがこれに限定されない。発電要素30の負極集電体20との接触部分近傍を少なくとも覆っていればよい。ただし、製造性の向上の観点から弾性体40は、発電要素30の全体を覆っていることが好ましい。
【0036】
同様に、本実施形態のように、製造性の向上の観点から、弾性体40の最大幅(最大外形)Wpは、固体電解質層32の最大幅Wcsよりも大きいことが好ましい(Wp>Wcs)が、弾性体40の最大幅(最大外形)Wpは、固体電解質層32の最大幅Wcs以下であってもよい(Wp≦Wcs)。
【0037】
また、本実施形態では、固体電解質層32の端部が、連続的に傾斜する第2の側面323を有する場合を例に説明をしているが、これに限定されることはない。固体電解質層32は、
図3(a)~
図3(c)に示すような端部形状を有していてもよい。
図3(a)~
図3(c)は、本発明の実施形態における固体電解質層の第1~第3変形例の一例を示す断面図である。
【0038】
図3(a)は第1変形例を示す断面図である。この第1変形例では、第2の側面323が正極集電体10の主面に対して略垂直な面を有している。第1変形例のような端部形状は、例えば、発電要素30の幅を調整するために、固体電解質層32の端部を打ち抜き切断した場合等に形成することができる。
【0039】
図3(b)は第2変形例を示す断面図である。この第2変形例では、第2の側面323の下部から突出する突出部がさらに形成されている。第2変形例のような端部形状は、例えば、シート状の固体電解質層32を正極層31上に載置し、その後、固体電解質層32を正極層32側に向かってプレスした場合等に形成することができる。
【0040】
図3(c)は第3変形例を示す断面図である。この第3変形例では、固体電解質層32の第3の主面321の外周部が正極集電体10の主面と接触していない。第3変形例のような端部形状は、例えば、シート状の固体電解質層32をプレスした後に、当該固体電解質層32の端部が正極集電体10から僅かに剥離する場合等に形成される。この場合、最外周端点P
3は、固体電解質層32の正極集電体10の主面と接触していないが対向している外周部の最外端点となる。
【0041】
上記のような第1~第3変形例においても、第1の仮想線L1と、第2の仮想線L2と、のなす角ψを90°~180°に設定することが可能であり、固体電解質層32の第2の側面323と、負極集電体20との間に弾性体40を配置可能な空間が形成できるため、弾性体40を容易に形成することができる。
【0042】
固体電解質層中を移動するアルカリ金属イオンが負極集電体の正極層と対向する対向領域よりも外側の領域(非対向領域)に析出してしまうと、非対向領域に析出したアルカリ金属は、対向領域に析出したアルカリ金属と比較して、正極層との距離が長くなってしまうため、放電時に正極層へと移動し難くなってしまう。これに対して、本実施形態における全固体電池1であれば、上記の第1の接点P1が、第2の接点P2よりも内側に位置していることで、固体電解質層32中を移動するアルカリ金属イオンが対向領域に到達し易くなる。また、このような第1及び第2の接点P1,P2の位置関係を満たす弾性体40は、その内周面401により、アルカリ金属イオンの非対向領域への移動を制限できる。そして、この弾性体40は、アルカリ金属層33aの体積の変化に伴う発電要素30の膨張・収縮に追従できるため、当該発電要素30が膨張・収縮したとしてもアルカリ金属イオンの移動制限効果を維持することができる。従って、本実施形態の全固体電池1であれば、アルカリ金属層33aが対向領域に析出し易くなるので、容量の低下を抑制できる(サイクル特性を向上できる)。
【0043】
また、一般的に、全固体電池は積層方向に荷重をかけられた状態で使用される。ところが、アルカリ金属層は比較的軟らかいため、荷重により負極集電体上で延伸し、対向領域からはみ出してしまい、容量が低下してしまうことがある。これに対して、本実施形態の全固体電池1であれば、アルカリ金属層33aは、弾性体40によって側面を覆われているため、荷重により延伸し難くなっており、容量の低下を抑制することができる。
【0044】
因みに、第1の接点P1が、第2の接点P2よりも外側に位置している場合、負極集電体の対向領域に析出したアルカリ金属層と、弾性体と、の間に空隙が形成され、対向領域以外の領域にアルカリ金属が析出してしまう。
【0045】
また、そもそも、電池の完全放電時に負極層が存在していない発電要素を用いる場合、全固体電池の製造時に負極層が存在しないため、負極層の周囲を囲むような部材を設けることが困難であった。これに対して、本実施形態では、固体電解質層32の負極層側に、伸縮可能な弾性体40を設けることで、アルカリ金属層33aの析出に追従してアルカリ金属層33aの周囲を覆うことができ、かつ、対向領域以外の領域へのアルカリ金属イオンの移動を制限できる弾性体を配置することで、対向領域以外の領域でのアルカリ金属の析出を抑制することを可能としている。
【0046】
≪第2実施形態≫
次に、第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図4(a)は第2実施形態における全固体電池の完全放電された状態の一例を示す断面図であり、
図4(b)は第2実施形態における全固体電池の充電された状態一例を示す断面図である。
図5は
図4(b)のV部の拡大断面図である。
【0047】
本実施形態では、負極層33Bが中間層33bをさらに備えている点で第1実施形態と相違するが、それ以外の構成は第1実施形態と同様である。以下に、第2実施形態に中間層33bについてのみ説明し、第1実施形態と同様の構成である部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
図4(a)に示すように、中間層33bは、全固体電池1Bが完全放電された状態において、固体電解質層32の第4の主面322と負極集電体20との間に介在している。この中間層33bは、アルカリ金属層33aの析出を補助するための層である。この中間層33bは、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料を含有しており、例えば、電子伝導性を有する材料、イオン伝導性を有する材料、電子伝導性とイオン伝導性を共に有する材料、又は、これらの混合材料を含有していてもよい。
【0049】
電子伝導性を有する材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵可能な銀等の金属の粒子を用いることができる。また、イオン伝導性を有する材料としては、一般的な電解質を用いることができる。また、電子電伝導性とイオン伝導性を共に有する材料としては、グラファイト等の炭素材料を用いることができる。
【0050】
この中間層33bの外周(側面)も弾性体40により覆われている。
図4(b)に示すように、本実施形態のアルカリ金属層33aは、全固体電池1Bが充電された状態において、中間層33bと負極集電体20との間に析出しているが、弾性体40が伸長することによって、第1実施形態と同様に、アルカリ金属層33aは弾性体40に覆われる。
【0051】
図5に示すように、本実施形態においても、第1の接点P
1は、第2の接点P
2よりも全固体電池1の内側に位置しているため、第1実施形態と同様に、対向領域以外の領域にアルカリ金属層33aが析出するのを抑制できる。このため、本実施形態の全固体電池1であれば、容量の低下を抑制できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0053】
例えば、正極層31の断面形状は、台形に限定されることはない。正極層31の断面形状は、負極集電体20に近づくに伴って幅狭となる多角形状であればいずれの形状でもよい。或いは、第2の主面312が負極集電体20側に向かって突出するように湾曲した曲面である半円形状であってもよい。また、この場合、固体電解質層32の形状も、正極層31の第2の主面312の形状に倣った形状となっていてもよい。
【0054】
また、上記実施形態の弾性体40の外周面402は、正極集電体10及び負極集電体20に対して略垂直であるが、これに限定されない。
【0055】
また、第2実施形態では、負極集電体20と中間層33bとの間にアルカリ金属層33bが形成される態様を例示したが、これに限定されず、アルカリ金属層33bが固体電解質層32と中間層33bとの間に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1,1B…全固体電池
10…正極集電体
20…負極集電体
30…発電要素
31…正極層
311,312…第1及び第2の主面
313…第1の側面
32…固体電解質層
321,322…第3及び第4の主面
323…第2の側面
33,33B…負極層
33a…アルカリ金属層
33b…中間層
40…弾性体
401…内周面
402…外周面
P1,P2…第1及び第2の接点
P3…最外周端点