IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人福井大学の特許一覧

特開2023-62888熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法
<>
  • 特開-熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法 図1
  • 特開-熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法 図2
  • 特開-熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法 図3
  • 特開-熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法 図4
  • 特開-熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062888
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20230427BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230427BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20230427BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20230427BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
H01L23/36 M
C08L101/00
C08K7/04
C09K5/14 E
D01F9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173051
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 幸治
【テーマコード(参考)】
4J002
4L037
5F136
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002DE096
4J002DE146
4J002DF016
4J002DK006
4J002DM006
4J002FA046
4J002GQ00
4J002GT00
4L037CS16
4L037FA01
4L037UA01
4L037UA06
5F136BB01
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA17
5F136FA18
5F136FA51
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】熱伝導性材料において、厚さ方向および厚さ方向と垂直な方向の双方において、高い熱伝導性を確保する。
【解決手段】熱伝導性材料は、セラミックス繊維と、樹脂とを含み、絶縁性を有する。熱伝導性材料は、厚さ方向における熱伝導度が2W/m・K以上であり、前記厚さ方向に垂直な方向における熱伝導度が2W/m・K以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス繊維と、樹脂とを含み、
絶縁性を有し、
厚さ方向における熱伝導度が2W/m・K以上であり、
前記厚さ方向と垂直な方向における熱伝導度が2W/m・K以上である、熱伝導性材料。
【請求項2】
セラミックス繊維は、三次元構造を有する、請求項1に記載の熱伝導性材料。
【請求項3】
三次元構造を有するセラミックス繊維と、樹脂とを含み、
絶縁性である、熱伝導性材料。
【請求項4】
前記セラミックス繊維は、綿状のセラミックス繊維集合体の圧縮物である、請求項2または3に記載の熱伝導性材料。
【請求項5】
前記セラミックス繊維は、少なくとも金属酸化物繊維を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性材料。
【請求項6】
セラミックス繊維の平均繊維径は、1μm未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性材料。
【請求項7】
前記セラミックス繊維の含有率は、20体積%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導性材料。
【請求項8】
セラミックス繊維に含まれる金属元素を含む金属材料と親水性樹脂とを含む綿状の前駆体繊維を圧縮して圧縮物を得る工程と、
前記圧縮物を、1000℃以上1600℃以下の温度で焼成して焼成物である前記セラミックス繊維を得る工程と、
前記セラミックス繊維に樹脂を付与して、絶縁性の熱伝導性材料を形成する工程と、を含む熱伝導性材料の製造方法。
【請求項9】
150℃以下の温度で、前記前駆体繊維を圧縮する、請求項8に記載の熱伝導性材料の製造方法。
【請求項10】
1MPa以上20MPa以下の圧力で、前記前駆体繊維を圧縮する、請求項8または9に記載の熱伝導性材料の製造方法。
【請求項11】
さらに、
前記金属材料で形成された粒子と、前記親水性樹脂と、を含む水性分散液を、凍結乾燥することによって前記前駆体繊維を形成する工程を含む、請求項8~10のいずれか1項に記載の熱伝導性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性材料および熱伝導性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性材料は、その熱伝導性を生かして、自動車などの車両、機械、電子機器、電気機器など、様々な用途に使用されている。近年では、車両または機械なども電子制御されており、電子機器または電気機器が搭載されることもある。電子機器または電気機器などでは、高性能化に伴い多量の熱が発生し、発生した熱が機器の不具合の要因となることがある。そのため、機器内の熱を放熱するための放熱材料として熱伝導性材料が注目されている。
【0003】
熱伝導性材料は、一般に、樹脂と、樹脂中に分散した熱伝導性のフィラーとを含む。金属製フィラーは、高い熱伝導性を有しており、優れた放熱性および機械的強度を示すものの、高い導電性を有する。電子機器または電気機器などの用途では、放熱材料に絶縁性が求められることが多いため、金属製フィラーの使用を避けることが望ましい。そこで、絶縁性の無機フィラーなどを用いることが提案されている。
【0004】
特許文献1は、絶縁性樹脂中に絶縁性無機粉末を分散させた樹脂組成物であって、前記絶縁性無機粉末は、平均粒径0.1μm以上で1μm未満の超微粒子粉末が5~20質量%、平均粒径1~2μmの微粒子粉末が5~35質量%、平均粒径30~60μmの粗粒子粉末が45~90質量%の範囲にあって全体で100質量%となるように配合されている高熱伝導性樹脂組成物を提案している。
【0005】
特許文献2は、有機樹脂中に繊維状アルミナフィラーが分散したフィラー分散有機樹脂複合体であって、フィラー分散有機樹脂複合体は厚さ0.3mmでの熱伝導率が3W/m・K以上である、フィラー分散有機樹脂複合体を提案している。
【0006】
特許文献3は、アルミナファイバーシート及び樹脂を含む高熱伝導性材料であって、(1)高熱伝導性材料の熱伝導率が、5W/m・K以上であり、(2)前記アルミナファイバーが、一定方向に配向しており、(3)高熱伝導性材料の熱伝導率に異方性があり、アルミナファイバーと直交方向の熱伝導率に対するアルミナファイバーと平行方向の熱伝導率の比が、1.4以上である高熱伝導性材料を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-153969号公報
【特許文献2】特開2015-86270号公報
【特許文献3】国際公開第2018/135517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2または特許文献3のように、アルミナ繊維などの繊維状の熱伝導性のフィラーを用いると、繊維を伝って放熱されるため、粒子状のフィラーよりも熱伝導の効率が高いと考えられる。しかし、繊維は、各繊維が延びる方向(以下、繊維の長軸方向と称することがある)では高い熱伝導性が得られるものの、長軸方向と交差する方向では高い熱伝導性を得ることは困難である。例えば、シート状の熱伝導性材料では、繊維は二次元的に配置されるため、面方向における繊維の長軸方向に沿う方向では、ある程度高い熱伝導性を確保することができる。しかし、繊維の長軸方向を熱伝導性材料の厚さ方向に沿わせて配列することは難しいため、厚さ方向における高い熱伝導性を確保することは困難である。仮に、繊維の長軸方向を熱伝導性材料の厚さ方向に沿わせて配列させたとしても、この場合、繊維は面方向には延びていない状態である。そのため、繊維状の熱伝導性のフィラーを用いた場合、熱伝導性材料において、厚さ方向と厚さ方向に垂直な方向(例えば、面方向)との双方で高い熱伝導性を確保することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1側面は、セラミックス繊維と、樹脂とを含み、
絶縁性を有し、
厚さ方向における熱伝導度が2W/m・K以上であり、
前記厚さ方向と垂直な方向における熱伝導度が2W/m・K以上である、熱伝導性材料に関する。
【0010】
本発明の第2側面は、三次元構造を有するセラミックス繊維と、樹脂とを含み、
絶縁性である、熱伝導性材料に関する。
【0011】
本発明の第3側面は、セラミックス繊維に含まれる金属元素を含む金属材料と親水性樹脂とを含む綿状の前駆体繊維を圧縮して圧縮物を得る工程と、
前記圧縮物を、1000℃以上1600℃以下の温度で焼成して焼成物である前記セラミックス繊維を得る工程と、
前記セラミックス繊維に樹脂を付与して、絶縁性の熱伝導性材料を形成する工程と、を含む熱伝導性材料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
厚さ方向および厚さ方向と垂直な方向の双方において高い熱伝導性を確保することができる熱伝導性材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例4のシート状の熱伝導性材料の上面の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例4のシート状の熱伝導性材料の厚さ方向に平行な断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例4の樹脂を付与する前のセラミックス繊維の圧縮物の上面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例4の樹脂を付与する前のセラミックス繊維の圧縮物の厚さ方向に平行な断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】本開示の一実施形態に係る熱伝導性材料の製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
セラミックス繊維は、金属繊維とは異なり、絶縁性であるため、熱伝導性材料のフィラーとして用いるのに有用である。特許文献3では、電界紡糸などを利用して、アルミナ繊維の不織布を作製し、不織布に樹脂を含浸させることによって、シート状の複合体が形成されている。電界紡糸では、繊維が堆積されることで不織布が形成されるため、得られる不織布は、繊維の積層構造を有している。そのため、不織布の面方向において、繊維の長軸方向には高い熱伝導性を示すが、繊維の配列方向(繊維が並ぶ方向)の熱伝導性は低くなる。また、電界紡糸では、通常、繊維の長軸を厚さ方向に沿うように堆積させて不織布を形成することは困難であるため、不織布の厚さ方向では、熱伝導性が低くなる。
【0015】
放熱材料として熱伝導性材料を用いる場合には、使用される環境または目的にもよるが、厚さ方向における高い熱伝導性が得られると、外部に効率よく放熱することができる。例えば、シート状の熱伝導性材料では、厚さ方向の熱伝導性が高いと、熱が伝わる距離はおおよそシートの厚さ程度であるため、熱の高い伝播速度が得られるとともに、シートの外側の主面全体から放熱することができる。そのため、放熱の観点からは、厚さ方向の熱伝導性を高めることが極めて重要である。
【0016】
上記に鑑み、本発明の第1側面に係る熱伝導性材料は、セラミックス繊維と、樹脂とを含む。熱伝導性材料は、絶縁性を有する。そして、熱伝導性材料は、厚さ方向における熱伝導度が2W/m・K以上であり、厚さ方向と垂直な方向における熱伝導度が2W/m・K以上である。例えば、熱伝導性材料がシート状である場合、厚さ方向に垂直な方向とはシートの面方向である。
【0017】
セラミックス繊維を用いた従来のシート状の熱伝導性材料は、面方向における熱伝導度は高いが、厚さ方向における熱伝導度は低く、2W/m・K未満であることが多い。本発明の第1側面の熱伝導性材料では、厚さ方向および厚さ方向と垂直な方向(面方向など)の双方において、高い熱伝導性を確保することができる。このような熱伝導性材料では、セラミックス繊維は厚さ方向において繊維が延びるように配置されているとともに、厚さ方向と垂直な方向においても繊維が延びるように配置されていると言える。セラミックス繊維は、熱伝導性材料内で三次元的に広がるように配置されていてもよい。例えば、セラミックス繊維は三次元構造を有していてもよい。
【0018】
本発明の第2側面に係る熱伝導性材料は、三次元構造を有するセラミックス繊維と、樹脂とを含み、絶縁性である。セラミックス繊維には、窒化アルミニウムは含まれなくてもよい。セラミックス繊維は、少なくとも金属酸化物繊維を含んでもよい。
【0019】
熱伝導性材料が、三次元構造を有するセラミックス繊維を含むことで、熱伝導性材料において、熱を伝播するセラミックス繊維により形成される熱伝導パスが三次元的に広がった状態となっている。よって、熱伝導性材料の厚さ方向および厚さ方向と垂直な方向の双方において、高い熱伝導性を確保することができる。例えば、熱伝導性材料では、厚さ方向および厚さ方向と垂直な方向の双方において2W/m・K以上の高い熱伝導度を得ることができる。本開示の熱伝導性材料は、セラミックス繊維と樹脂とを含む複合材料とも言える。
【0020】
以下に、本発明の第1側面および第2側面の熱伝導性材料およびその製造方法についてより具体的に説明する。
【0021】
[熱伝導性材料]
第1側面および第2側面の熱伝導性材料において、三次元構造を有するセラミックス繊維が含まれる場合、セラミックス繊維のネットワークが三次元的に広がった状態を取り得る。このようなセラミックス繊維の三次元ネットワークを通じて、熱が効率よく伝播されるため、厚さ方向および厚さ方向に垂直な方向の双方において高い熱伝導度が得られる。熱伝導性材料の厚さ方向をz軸方向とし、z軸方向と垂直な一方向をx軸方向とし、z軸方向およびx軸方向に垂直な方向をy軸方向とする。例えば、シート状の熱伝導性材料では、厚さ方向がz軸方向であり、シートの面方向において、ある一方向がx軸方向であり、面方向内においてx軸方向と直交する方向がy軸方向である。熱伝導性材料において、セラミックス繊維の三次元ネットワークが広がった状態である場合には、例えば、z軸方向において、2W/m・K以上の高い熱伝導度を確保することができる。また、x軸方向およびy軸方向の双方においても高い熱伝導性を確保することができる。例えば、x軸方向およびy軸方向の双方において、熱伝導度が2W/m・K以上であってもよい。このように、本発明の上記側面に係る熱伝導性材料では、x軸方向、y軸方向およびz軸方向の全てで高い熱伝導度が得られるため、熱伝導性材料は、等方性の熱伝導性を示す材料であると言うことができる。また、熱伝導性材料において、セラミックス繊維の三次元ネットワークを最適化することで、少なくともz軸方向において、5W/m・K以上、7W/m・K以上、または9W/m・K以上の高い熱伝導度を得ることもでき、10W/m・K以上または15W/m・K以上の高い熱伝導度を得ることもできる。x軸方向およびy軸方向のそれぞれでは、熱伝導性材料の熱伝導度は、5W/m・K以上または7W/m・K以上であってもよく、8W/m・K以上または9W/m・K以上であってもよく、10W/m・K以上であってもよい。本明細書において、等方性の熱伝導性材料とは、x軸方向、y軸方向およびz軸方向の全てにおいて、2W/m・K以上の熱伝導度が得られる材料である。シート状の熱伝導性材料では、例えば、シートの縦方向および横方向(または長さ方向および幅方向)の一方をx軸方向、他方をy軸方向としてもよい。
【0022】
熱伝導性材料において、z軸方向の熱伝導度:Tzのx軸方向の熱伝導度:Txに対する比(Tz/Tx)は、例えば、0.3/1~3/1であり、0.4/1~2.7/1であってもよい。z軸方向の熱伝導度:Tzのy軸方向の熱伝導度:Tyに対する比(Tz/Ty)は、例えば、0.3/1~3/1であり、0.4/1~2.7/1であってもよい。Tz/TxおよびTz/Tyのいずれか一方が上記の範囲であってもよいが、双方が上記の範囲を満たす場合には、熱伝導性材料において、等方的に高い熱伝導性が得られる。
【0023】
三次元構造を有するセラミックス繊維とは、厚さ方向(z軸方向)および厚さ方向に垂直な方向(面方向など)に沿う方向に延びたセラミックス繊維を含むセラミックス繊維集合体である。本明細書中、厚さ方向に垂直な方向を面方向と称することがある。面方向とは、厚さ方向(z軸方向)に垂直なx軸方向とx軸方向およびz軸方向に垂直なy軸方向とを含む面内における方向である。本明細書中、「x軸方向」および「y軸方向」の少なくとも一方を面方向の典型例として用いることがある。熱伝導性材料の厚さ方向に沿う方向とは厚さ方向(z軸方向)に平行な方向だけでなく、厚さ方向と成す鋭角の角度が0°以上45°以下である方向も含む。熱伝導性材料の面方向に沿う方向とは、面方向に平行な方向だけでなく、面方向と成す鋭角の角度が0°以上45°未満である方向も含む。セラミックス繊維集合体は、面方向においては、x軸方向に沿って延びる繊維のみを含んでいてもよいが、x軸方向に沿う方向に延びる繊維とおよびy軸方向に沿う方向に延びる繊維との双方を含むことが好ましい。x軸方向に沿う方向とは、x軸に平行な方向だけでなく、x軸と成す鋭角の角度が0°以上45°以下である方向も含む。y軸方向に沿う方向とは、y軸と成す鋭角の角度が0°以上45°未満である方向も含む。
【0024】
三次元構造を有するセラミックス繊維(またはセラミックス繊維集合体)には、例えば、三次元樹枝状、三次元ネット状、綿状の形状が含まれるが、これらに限定されない。各形状には、各形状のセラミックス繊維集合体の圧縮物も包含される。三次元構造を有するセラミックス繊維は、例えば、綿状のセラミックス繊維集合体の圧縮物であってもよい。なお、セラミックス繊維集合体には、複数のセラミックス繊維の集合体だけでなく、1つのセラミックス繊維で構成されるが三次元構造を有することで繊維集合体のような形状を示す態様も包含される。
【0025】
熱伝導性材料では、繊維が延びる方向とは、熱伝導性材料において、平面画像または断面画像で1本の繊維が確認できる場合には、繊維の両端部を結ぶ方向である。樹枝のように枝分かれしたような状態またはネット状の場合には、繊維の枝または幹のような部分の両端またはネットを形作る繊維の両端部を結ぶ方向を繊維が延びる方向とする。綿状などのような場合には、連続する繊維の画像で確認できる部分の両端部を結ぶ方向を繊維が延びる方向とする。
【0026】
本明細書中、熱伝導性材料の熱伝導度は、熱伝導性材料の熱拡散率、密度および比熱容量から下記式により求められる熱伝導率kである。
k=α×ρ×Cp
αは、熱伝導性材料のサンプルから測定される熱拡散率(単位:m/s)である。ρは、サンプルから求められる熱伝導性材料の密度(単位:kg/m)である。Cpは、サンプルから求められる熱伝導性材料の比熱容量(単位:J/kg・K)である。
【0027】
熱拡散率は、熱拡散性測定装置によって測定できる。熱拡散性測定装置としては、例えば、株式会社ベテル製、サーモウェーブアナライザーTA-35が使用される。この装置によれば、熱伝導性材料のサンプルについて、周期加熱法により、熱伝導性材料の厚さ方向(鉛直方向)と、厚さ方向に垂直な方向(面方向(水平方向))との熱拡散性が非接触で測定される。測定は、レーザーによる加熱面積:直径約150μm、放射測温部:直径約500μmの条件で行う。
【0028】
密度ρを測定するためのサンプルは、熱伝導性材料を縦×横の面積が約100mmとなるようなサイズ(例えば、縦1cm×横1cm)にカットすることによって作製される。この縦および横のサイズは、熱伝導性材料の厚さ方向に垂直な方向(面方向)に沿うような方向において決定される。熱伝導性材料が湾曲した形状を有する場合でも、このようなサイズにカットすることで、ほぼシート状のサンプルが得られる。サンプルの質量および厚さを求め、サンプルの質量を、サンプルの見かけの体積(縦×横×厚さ)で除することによって密度が求められる。そして、複数個のサンプルについて密度を求め、平均化することによって、密度ρが求められる。平均値を算出するためのサンプル数は、熱伝導性材料のサイズにもよるが、多い方が好ましく、例えば、6個であってもよく、可能であれば、10個または20個であってもよい。サンプルの厚さは、40μm以上300μm以下が好ましい。熱伝導性材料の厚さが大きい場合には、厚さが薄くなるようにカットして、サンプルの厚さを好ましい範囲に調節してもよい。
【0029】
次いで、上記サンプルの表面全体を覆う程度に微粒子コロイド状合成黒鉛を含むスプレーを塗布し、カーボン層を形成することによって、熱拡散率の測定用サンプルが作製される。カーボン層を形成したサンプルを、熱拡散性測定装置に設置し、25℃にて、サンプルの水平方向(対向する一対の側面間)の熱拡散率を測定するとともに、鉛直方向(上面および底面間)の熱拡散率を測定する。測定は、水平方向につき、複数回(例えば、4回)、鉛直方向につき、複数回(例えば、6回)行い、それぞれ平均化することによって、水平方向(面方向)の熱拡散率および鉛直方向(z軸方向(厚さ方向))のそれぞれについて、熱拡散率を求める。同様の手順で複数個のサンプルについて熱拡散率を求め、平均化することによって、熱拡散率αが求められる。上記一対の側面間の熱拡散率をx軸方向の熱拡散率とする場合、残る一対の対向する側面間についても同様に熱拡散率を測定し、y軸方向の熱拡散率を求めてもよい。平均値を算出するためのサンプル数は、熱伝導性材料のサイズにもよるが、多い方が好ましく、例えば、6個であってもよく、可能であれば、10個または20個であってもよい。
【0030】
比熱容量は、熱伝導性材料の任意の箇所を適当なサイズにカットしたサンプルを用いて次の手順で求められる。まず、カットしたサンプルの質量を測定する。有機溶剤を用いて、サンプルに含まれる樹脂を溶解して回収し、残る繊維を有機溶剤で洗浄し、洗浄により得られた液状物も合わせて回収する。回収した液体を必要に応じて濃縮し、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー質量分析法、またはガスクロマトグラフィー質量分析法、核磁気共鳴法、またはその他の光学的分析法などによって、あるいはこれらから選択される方法を適宜組み合わせて、熱伝導性材料に含まれる樹脂等の可溶性成分を同定し、濃度と、サンプルの質量とから、サンプルに含まれる可溶性成分の質量を求める。液体を回収した後の繊維を、熱重量分析(Thermogravimetric analysis:TGA)によって、室温から600℃まで上昇させ、600℃で残存した無機成分の質量を測定し、セラミックス繊維の質量とする。得られた無機成分をセラミックス分析用の分析方法(例えば、蛍光X線分析、広角X線回折、およびX線光電子分光法などから選択される少なくとも1つ)によって分析することで、セラミックスの繊維の成分を同定する。可溶性成分の質量と繊維の質量との比と、各成分の比重および比熱の文献値とから熱伝導性材料の比熱容量が求められる。同様の手順で複数個のサンプルについて比熱容量を求め、平均化することによって、熱伝導性材料の比熱容量Cpが求められる。例えば、アルミナの比重としては、3,890kg/mを、アルミナの比熱としては、750J/kg・Kをそれぞれ用いる。また、ポリウレタンの比重としては1,200kg/mを、ポリウレタンの比熱としては、1900J/kg・Kをそれぞれ用いる。平均値を算出するためのサンプルのサイズは大きい方が成分の同定が容易である。平均値を算出するためのサンプル数は、例えば、3個であってもよく、5個または6個であってもよい。
【0031】
(セラミックス繊維)
セラミックス繊維を構成するセラミックスとしては、例えば、金属酸化物(アルミナ、ジルコニアなど)、窒化物(窒化ケイ素、窒化アルミニウムなど)、炭化物(炭化ケイ素など)が挙げられる。セラミックスは、これらのセラミックスを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。三次元構造を有するセラミックス繊維を形成し易く、厚さ方向および面方向に(特に等方的に)高い熱伝導性が得られる観点からは、セラミックス繊維は少なくとも金属酸化物繊維を含むことが好ましく、中でも、少なくともアルミナ繊維を含むことが好ましい。熱伝導性材料は、例えば、アルミナ繊維とアルミナ繊維以外のセラミックス繊維の一種または二種以上とを含んでもよい。セラミックス繊維は窒化アルミニウムを含まなくてもよい。
【0032】
熱伝導性材料に含まれるセラミックス繊維全体に占めるアルミナ繊維の比率は、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上または90質量%以上であってもよい。セラミックス繊維全体に占めるアルミナ繊維の比率は、100質量%以下である。熱伝導性材料に含まれるセラミックス繊維をアルミナ繊維のみで構成してもよい。
【0033】
より高い熱伝導性を確保し易い観点からは、アルミナ繊維は、αアルミナを含むことが好ましい。アルミナ繊維中のαアルミナの含有率は、50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。アルミナ繊維に含まれるαアルミナ以外のアルミナとしては、例えば、γアルミナ、δアルミナ、θアルミナ、非晶質アルミナが挙げられる。
【0034】
セラミックス繊維の平均繊維径は、例えば、2μm以下である。セラミックス繊維の平均繊維径は、1μm未満が好ましく、50nm以上950nmであってもよく、100nm以上900nm以下であってもよい。熱伝導性材料が、このように小さい平均繊維径を有するセラミックス繊維を含む場合、繊維の割合が比較的少量でも、高い熱伝導性が得られるとともに、熱伝導性材料の高い柔軟性を確保し易い。また、熱伝導性材料中のセラミックス繊維の比率(充填率)をある程度高めても、比較的高い柔軟性を確保することができる。それに対し、従来の熱伝導性材料では、熱伝導性フィラーの充填率が低いと高い熱伝導性を確保することは難しく、充填率を高めると、材料自体が脆くなり、柔軟性を確保することが難しい。
【0035】
セラミックス繊維の平均繊維径は、例えば、熱伝導性材料の厚さ方向に平行な方向の断面を露出させ、断面のセラミックス繊維に、イオンコーターによって金を蒸着した状態で測定される。平均繊維径は、Adobe Photoshop(登録商標) CS3 拡張プログラムを用いて、100点の測定値の平均値から決定される。熱伝導性材料の断面画像は、例えば、熱伝導性材料の断面(例えば、厚さ方向に平行な断面)を露出させ、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)によって撮影できる。SEMとしては、例えば、株式会社キーエンス製のVE-9800が用いられる。
【0036】
熱伝導性材料中のセラミックス繊維の含有率は、例えば、20体積%以上であり、25体積%以上であってもよく、30体積%以上または35質量%以上であってもよい。また、40体積%以上または50体積%以上の高いセラミックス繊維の含有率を得ることもできる。セラミックス繊維の比率が多くなると、より高い熱伝導性が得られ易い。セラミックス繊維の平均繊維径が1μm未満と小さい場合には、セラミックス繊維の含有率が30体積%以上(または35体積%以上)、あるいは40体積%以上(または50体積%以上)と高い場合でも、熱伝導性材料の高い柔軟性を確保し易い。セラミックス繊維の含有率は、例えば、80体積%以下であってもよい。
【0037】
熱伝導性材料では、一般に、熱伝導体の体積比率は多いほど、高い熱伝導性が得られ易いと言われている。それに対し、本開示では、三次元構造を有するセラミックス繊維を用いる場合、熱伝導性材料中のセラミックス繊維の含有率が比較的低くても、厚さ方向および面方向の双方において高い熱伝導性を確保することができる。例えば、セラミックス繊維の含有率が、20体積%以上50体積%以下、25体積%以上50体積%以下、または25体積%以上40体積%以下といった比較的低い範囲である場合にも、厚さ方向および面方向の双方において高い熱伝導性を確保することができる。三次元構造を有するセミラックス繊維は、例えば、後述するように、三次元構造を有する前駆体繊維の集合体の圧縮物を焼成することによって得られる。このときの圧縮温度および圧縮圧力の少なくとも一方を調節することで、セラミックス繊維同士の接触点を増加させることができ、セラミックス繊維の含有率が比較的低い場合でも高い熱伝導性を確保し易くなると考えられる。なお、樹脂を付与する前のセラミックス繊維は、圧縮された状態であるため、空孔率が低く、圧縮物中に占めるセラミックス繊維の体積比率はかなり高い。しかし、セラミックス繊維に樹脂を付与すると、樹脂が入り込んでセラミックス繊維間の距離が大きくなるため、熱伝導性材料中のセラミックス繊維の含有率は、樹脂を付与する前の体積比率よりも小さくなることがある。本開示では、セラミックス繊維が三次元構造を有するとともに圧縮によって接触点を多く形成できる。そのため、樹脂がセラミックス繊維間に浸透することによって隣接するセラミックス繊維間の距離が大きくなり、セラミックス繊維が占める体積比率(含有率)が低下しても、熱伝導性材料の厚さ方向および面方向の高い熱伝導性を確保できる。
【0038】
セラミックス繊維の含有率は、例えば、次のような手順で求められる。熱伝導性材料を縦×横の面積が約100mmとなるようなサイズ(例えば、縦1cm×横1cm)にカットする。この縦および横のサイズは、熱伝導性材料の厚さ方向に垂直な方向(面方向)に沿うような方向において決定される。サンプルの厚さを求め、サンプルの見かけの体積(縦×横×厚さ)を求める。サンプルを、TGAによって室温から600℃まで加熱し、600℃で残存した無機成分の質量を測定し、セラミックス繊維の質量とする。比熱容量の場合と同様の手順でセラミックスの繊維の成分を同定し、比重を求める。セラミックス繊維の質量および比重、サンプルの見かけの体積から、セラミックス繊維の含有率(体積%)が求められる。
【0039】
(樹脂)
熱伝導性材料に含まれる樹脂は、絶縁性の樹脂である。樹脂は、熱可塑性樹脂および硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂など)のいずれであってもよい。熱伝導性材料は、セラミックス繊維に樹脂を付与することによって形成される。セラミックス繊維は脆いため、熱伝導性材料は、例えば、セラミックス繊維に樹脂を、含浸または被覆させることによって形成してもよい。例えば、セラミックス繊維に、樹脂(あるいはその溶液)を、滴下したり、注いだりしりすることなどによって、樹脂を含浸させてもよい。また、例えば、塗布(スプレー塗布など)によって、樹脂でセラミックス繊維を被覆してもよい。セラミックス繊維への樹脂の付与は、熱可塑性樹脂を溶融させたり溶媒に溶解させたりした状態で行ってもよい。また、比較的粘度の低い硬化性樹脂(または硬化性樹脂組成物)を用いてもよい。セラミックス繊維間への浸透性が高いことに加え、溶媒の気化に伴う空隙の発生を抑制できるためである。特に、熱可塑性樹脂のエマルションまたは液体の硬化性樹脂(または硬化性樹脂組成物)を用いるとセラミックス繊維間にスムーズに浸透して、空隙が形成されにくく、高品質の熱伝導性材料が得られる。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン樹脂、芳香族ビニル樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体など)、ビニル樹脂(ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、またはこれらのケン化物(ポリビニルアルコールなど)、シアン化ビニル樹脂(ポリアクリロニトリルなど)など)、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリアセタール樹脂、ポリアルキレンオキサイド(ポリエチレンオキサイドなど)、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエステル樹脂(芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸など)など)、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シリコーン樹脂、ゴム状高分子(ゴム、エラストマーなど)、セルロース誘導体(例えば、セルロースエーテル、セルロースエステルなどのセルロース化合物)などが挙げられる。また、変性でんぷん、キチン、キトサン、リグニンなどを用いてもよい。これらの樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性シリコーン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂は、硬化性樹脂を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。硬化性樹脂組成物は、例えば、硬化性樹脂と、硬化剤、重合開始剤、架橋剤、硬化促進剤、および触媒などから選択される少なくとも一種を含む。熱伝導性材料において、硬化性樹脂(または硬化性樹脂組成物)は、通常、半硬化または硬化した状態であってもよい。
【0042】
樹脂の種類は、用途または目的などに応じて選択してよい。熱可塑性樹脂(熱可塑性ポリウレタンなど)のエマルション、ポリビニルアルコール樹脂(ポリ酢酸ビニルの部分または完全ケン化物、エチレン-ビニルアルコール共重合体など)、ポリビニルアセタール樹脂(アセチル化したポリビニルブチラールなど)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体(例えば、セルロースエーテル、セルロースエステル(酢酸セルロースなど)などのセルロース化合物)、生分解性樹脂(ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート系樹脂など)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性シリコーン樹脂などが好ましい。
【0043】
熱伝導性材料は、必要に応じて、公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、靱性付与剤、可塑剤、カップリング剤、着色剤、濡れ性調整剤、湿潤剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、セラミックス繊維以外のフィラー(無機粒子、樹脂粒子など)が挙げられる。他のフィラー(特に無機フィラー)の含有率は低い方が好ましい。熱伝導性材料中の他のフィラーの含有率は、例えば、5体積%以下であり、1体積%以下であることが好ましい。
【0044】
(その他)
熱伝導性材料は、絶縁性であるため、電子機器または電気機器などへの使用に特に適している。熱伝導性材料の体積抵抗率は、例えば、1×10Ω・cm以上であり、1×1010Ω・cm以上であってもよい。熱伝導性材料の体積抵抗率の上限は特に制限されず、例えば、1×1016Ω・cm以下であってもよい。熱伝導性材料の体積抵抗率は、例えば、市販の抵抗率計を用いて測定することができる。
【0045】
熱伝導性材料の形状は、シート状であってもよく、シート状以外の形状(カップ状、ボウル状、円盤状、箱状、筒状、有底筒状、またはこれらを分割した形状(筒を軸方向に平行に分割した形状など)など)であってもよい。金型などを用いれば、所望の形状の熱伝導性材料を得ることもできる。
【0046】
熱伝導性材料の厚さは、例えば、10μm以上20mm以下(または10mm以下)であり、10μm以上5mm以下(または2mm以下)であり、20μm以上1mm以下であってもよい。熱伝導性材料の厚さは、複数箇所(例えば、5箇所)の厚さを平均化することによって求められる。
【0047】
[熱伝導性材料の製造方法]
熱伝導性材料は、例えば、セラミックス繊維の前駆体繊維を圧縮する工程と、得られた圧縮物を焼成する工程と、得られたセラミックス繊維に樹脂を付与して熱伝導性材料を得る工程と、を含む製造方法によって得ることができる。熱伝導性材料の製造方法は、前駆体繊維を準備する工程を含んでもよい。
【0048】
(前駆体繊維を準備する工程)
前駆体繊維は、圧縮工程に先立って準備される。市販の前駆体繊維を購入することで準備してもよく、公知の方法またはそれに準じる方法で前駆体繊維を合成することによって準備してもよい。前駆体繊維は、セラミックス繊維に含まれる元素(例えば、アルミニウム、ジルコニウム、およびケイ素からなる群より選択される少なくとも一種)を含む。前駆体繊維は、セラミックス繊維に含まれる金属元素(アルミニウム、ジルコニウムなど)を含むことが好ましい。
【0049】
前駆体繊維は、次工程で焼成することによってセラミックス繊維に変換される。そのため、本工程で、三次元構造を有する前駆体繊維を準備することが好ましい。三次元構造を有する前駆体繊維の製造方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。
【0050】
例えば、セラミックスに含まれる元素を含む材料(金属元素を含む金属材料など)で形成された粒子と、バインダと、を含む水性分散液を、凍結乾燥することによって前駆体繊維を形成してもよい。このような工程では、水性分散液を凍結した固形物を乾燥することによって、水分が除去され、前駆体繊維が得られる。前駆体繊維は、バインダで結着した状態の粒子が三次元的に連なった状態の構造体である。このような構造体を次工程で焼成することによって、バインダで固定された状態の粒子が焼成され、繊維状に連なった状態のセラミックス繊維が形成される。粒子は三次元的に連なった状態で焼成されるため、繊維が三次元的に広がった状態のセラミックス繊維の繊維集合体が形成される。このような方法で前駆体繊維を形成すると、綿状の前駆体繊維が得られ易い。また、繊維径が細い繊維が得られ易い。そのため、熱伝導性材料の厚さ方向および面方向において(好ましくは等方性の)高い熱伝導性を確保する上で有利である。
【0051】
粒子を構成する材料としては、例えば、セラミックス繊維に含まれる元素を含む化合物が挙げられる。アルミナまたはジルコニアなどの金属元素を含むセラミックス繊維の原料としては、金属源として、金属元素を含む金属材料(金属化合物など)が挙げられる。このような化合物としては、金属酸化物(水酸化物、酸化物の水和物も含む)、金属塩(硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩などの有機酸塩など)、金属ハロゲン化物(塩化物など)などが挙げられる。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
例えば、アルミナ繊維を形成する場合には、アルミニウムを含む材料で形成された粒子が用いられる。このような材料としては、アルミナ、アルミナ水和物(アルミナ一水和物など)、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。また、ベーマイト粒子、アルミナゾルなどを、上記の粒子として用いてもよい。これらのアルミニウム化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
セラミックス繊維が、炭化ケイ素を含む場合、ケイ素源となるケイ素含有材料しては、例えば、珪砂、珪石粉、結晶質シリカ、非晶質シリカ(シリカフューム、シリカゲルなど)が挙げられる。セラミックス繊維が、窒化ケイ素を含む場合、ケイ素含有材料としては、ケイ素窒化物(Si粉末など)、金属Si粉末などが挙げられる。ただし、ケイ素源はこれらに限定されない。ケイ素含有材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
水性分散液中に分散させ易く、粒子を分散した状態で結着させ易い観点からは、バインダとしては、親水性樹脂を用いることが好ましい。親水性樹脂としては、ポリ酢酸ビニルのケン化物(ポリビニルアルコールなど)、セルロース誘導体(例えば、セルロースエーテルなどのセルロース化合物)、ポリオキシC2-3アルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、オキシエチレン-オキシプロピレン共重合体など)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、またはこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩など)などが挙げられる。セルロースエーテルとしては、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。親水性樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
水性分散液は、少なくとも水を上記粒子の分散媒として含む。分散媒は、必要に応じて、水に加えて、有機分散媒を含んでもよい。親水性樹脂などのバインダは、通常、分散媒に溶解した状態である。有機分散媒としては、水と混和する有機分散媒が好ましい。有機分散媒としては、ケトン(アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなど)、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなど)、グリコールモノアルキルエーテル(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなど)、ニトリル(アセトニトリルなど)、エーテル(テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテルなど)、アミド(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなど)、エステル(乳酸エチルなどの鎖状エステル、γ-ブチロラクトンなどの環状エステルなど)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸など)などが挙げられる。分散液は、これらの有機分散媒を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。ただし、これらは単なる例示であり、分散媒はこれらに限定されない。
【0056】
水性分散液中の親水性樹脂の濃度は、例えば、0.001質量%以上1質量%以下であり、0.01質量%以上0.2質量%以下であってもよい。親水性樹脂の濃度がこのような範囲である場合、粒子および親水性樹脂の分散性を高めることができ、繊維の三次元構造を形成し易い。
【0057】
水性分散液中の上記粒子の濃度は、例えば、0.001質量%以上3質量%以下であり、0.01質量%以上0.5質量%以下であってもよい。粒子の分散性を高めることができ、繊維の三次元構造を形成し易い。
【0058】
上記粒子と親水性樹脂との総量に占める親水性樹脂の割合は、例えば、25体積%以上75体積%以下であり、30体積%以上70体積%以下であってもよく、35体積%以上65体積%以下であってもよい。この場合、水性分散液中に粒子および親水性樹脂の分散性を高めることができ、繊維の三次元構造を形成し易い。特に、熱伝導性材料の厚さ方向における熱伝導性を高める上で有利である。
【0059】
水性分散液は、分散媒と親水性樹脂と上記粒子とを混合することによって調製してもよい。また、親水性樹脂を上記の分散媒に溶解させた溶液に、上記粒子を分散させてもよい。上記の溶液と上記粒子を上記の分散媒に分散させた分散液とを混合してもよい。必要に応じて、水性分散液の濃度を水の添加によって調整してもよい。
【0060】
得られた水性分散液は、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥される。凍結乾燥に先立って、水性分散液を凍結させてもよい。この場合に急速に凍結することが好ましい。急速凍結は、例えば、液体窒素などを用いて比較的短時間で行われる。より具体的には、例えば、容器内に収容した液体分散液を、容器ごと、液体窒素中に浸漬することによって凍結させることができる。液体窒素中への浸漬時間は、例えば、10秒以上60分以下であり、30秒以上(または1分以上)30分以下であってもよい。
【0061】
凍結乾燥の温度は、例えば、-60℃以上-30℃以下であり、-60℃以上-40℃以下であってもよい。
【0062】
凍結乾燥は、通常減圧下で行われる。凍結乾燥は、例えば、5Pa以上50Pa以下の減圧下で行ってもよく、10Pa以上30Pa以下の減圧下で行ってもよい。
【0063】
凍結乾燥の期間は、条件によるが、例えば、1日以上20日以下であり、3日以上10日以下であってもよい。
【0064】
凍結乾燥によって綿状の前駆体繊維が得られる方法については、例えば、Ceramics International 45(2019)p.16731-16739を参照できる。
【0065】
圧縮前の前駆体繊維(より具体的には、前駆体繊維の集合体(例えば、凍結乾燥物))において、空孔率P0は、例えば、60体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、80体積%以上または90体積%以上の高い値を確保することもできる。また、空孔率P0は、99.5体積%以下であってもよく、99体積%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせられる。空孔率P0は、例えば、60体積%以上(または70体積%以上)99.5体積%以下であってもよく、80体積%以上(または90体積%以上)99.5体積%以下であってもよい。
【0066】
空孔率は、前駆体繊維の集合体の断面画像(SEM画像など)を利用して求められる。より具体的には、断面画像の所定の面積の領域において、繊維と繊維以外の領域とを二値化処理し、繊維以外の領域の面積比率(面積%)を求め、この面積比率を体積基準の空孔率(体積%)とする。ただし、断面画像において、繊維以外の領域の面積比率を求める領域の面積は、50μm以上300μm以下とする。
【0067】
(前駆体繊維を圧縮する工程)
本工程では、セラミックスに含まれる元素(金属元素など)を含む材料(金属材料など)とバインダ(親水性樹脂など)とを含む前駆体繊維を圧縮して圧縮物を得る。このような圧縮工程によって、繊維の密度を高めることができるとともに、前駆体繊維同士の接触点を増加させることができるため、熱伝導パスを広げることができる。よって、厚さ方向および面方向の双方において、熱伝導性材料の高い熱伝導性を確保することができる。前駆体繊維が綿状などの三次元構造を有する場合には、三次元構造を維持した状態で前駆体繊維が圧縮されて密度が高まることに加え、前駆体繊維同士の接触点が厚さ方向にも面方向(x軸方向およびy軸方向の双方)にも多く形成されることになる。そのため、熱伝導性材料の厚さ方向および面方向における熱伝導性をさらに高めることができる。なお、熱伝導性材料の厚さ方向(z軸方向)は、前駆体繊維の圧縮方向(加圧の方向)と平行な方向(または圧縮方向に沿う方向)である。
【0068】
前駆体繊維を圧縮する際の圧力は、例えば、1MPa以上であり、4MPa以上が好ましく、5MPa以上であってもよい。圧力がこのような範囲である場合、前駆体繊維の密度を高めることができるとともに、前駆体繊維同士の接触点が多く形成され易い。圧力は、例えば、30MPa以下であり、20MPa以下が好ましく、10MPa以下であってもよい。圧力がこのような範囲である場合、繊維の形状を維持した状態で圧縮物が得られるため、高い熱伝導性を確保し易い。また、樹脂を繊維間に浸透させ易く、高熱伝導性と、柔軟性とのバランスを取りやすい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせられる。前駆体繊維を圧縮する際の圧力は、例えば、1MPa以上30MPa以下(または20MPa以下)であってもよく、4MPa以上(または5MPa以上)20MPa以下であってもよい。
【0069】
前駆体繊維の圧縮は、室温(20℃以上35℃以下)程度で行っても比較的高い熱伝導度が得られる。より高い熱伝導度を確保する観点からは、前駆体繊維の圧縮を加熱下で行うことが好ましい。圧縮の温度は、バインダの種類にもよるが、例えば、80℃以上であり、100℃以上であってもよく、110℃以上であってもよい。このような温度で圧縮を行うと、前駆体繊維同士の接触点を増加させ易い。圧縮の温度は、150℃以下が好ましく、130℃以下であってもよい。このような温度で圧縮を行うと、繊維の形状を維持した状態で圧縮物が得られるため、高い熱伝導性を確保し易い。また、樹脂を繊維間に浸透させ易く、高熱伝導性と、柔軟性とのバランスを取りやすい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせられる。圧縮の温度は、例えば、80℃以上(または100℃以上)150℃以下であってもよく、110℃以上150℃以下であってもよく、100℃以上(または100℃以上)130℃以下であってもよい。
【0070】
圧縮工程では、熱伝導性材料の形状に合わせて、前駆体繊維(具体的により前駆体繊維の集合体)を成形してもよい。例えば、シート状の熱伝導性材料を形成する場合には、圧縮工程で、前駆体繊維の集合体を圧縮(例えば、プレス)することによってシート状に成形してもよい。シート状以外の熱伝導性材料を形成する場合には、金型などを用いて圧縮工程を行ってもよい。例えば、所望の形状の金型に前駆体繊維を収容し、必要に応じて加熱しながら、前駆体繊維を圧縮して金型の形状の圧縮物を形成することができる。必要に応じて、金型の中で、前駆体繊維を準備し(例えば、凍結乾燥を行い)、その後、金型を利用して圧縮工程を行ってもよい。
【0071】
圧縮物の厚さは、例えば、前駆体繊維の体積、前駆体繊維を圧縮する際の圧力、および前駆体繊維を圧縮する際の温度からなる群よりの少なくとも1つ(特に、前駆体繊維の体積および前駆体繊維を圧縮する際の圧力の少なくとも一方)を調節することによって調節することができる。熱伝導性材料中の樹脂の含有率にもよるが、熱伝導性材料の厚さは、圧縮物の厚さに大きく影響され、厚さの大きな圧縮物を用いると、厚さの大きな熱伝導性材料が得られ易い。前駆体繊維の体積が小さい場合などには、必要に応じて、前駆体繊維(凍結乾燥物など)を積層して、積層物について圧縮工程を行うことで、厚さの大きな熱伝導性材料を形成してもよい。
【0072】
圧縮物の空孔率P1の、圧縮前の前駆体繊維(より具体的には、前駆体繊維の集合体(例えば、凍結乾燥物))の空孔率P0に対する比=P1/P0は、例えば、0.005以上0.15以下であり、0.01以上0.1以下であってもよい。空孔率の比P1/P0がこのような範囲である場合、細い繊維径を維持しながら、熱伝導性材料におけるセラミックス繊維の充填率を高めることができるとともに、繊維同士の接触点を増加させることができるため、厚さ方向および面方向の双方においてより高い熱伝導性を確保することができる。なお、空孔率P1は、空孔率P0の場合に準じて、圧縮物を用いて測定できる。
【0073】
(焼成工程)
圧縮工程で得られた前駆体繊維の圧縮物を焼成することによって、前駆体繊維の焼成物であるセラミックス繊維が得られる。焼成によってバインダのほとんどは除去される。
【0074】
焼成温度は、セラミックス繊維の種類に応じて、高い熱伝導性が発現するような温度で行われる。焼成温度は、例えば、500℃以上であり、800℃以上であってもよく、1000℃以上であってもよい。アルミナ繊維の場合には、1200℃以上の温度で焼成を行うと、アルミナ内にα晶が形成され易くなるため、高い熱伝導性を確保する上で、より有利である。焼成温度は、例えば、1600℃以下である。焼成は一定の温度で行ってもよく、異なる温度で多段階で行ってもよく、昇温しながら行ってもよく、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0075】
焼成は、セラミックス繊維の種類に応じて、大気中または酸素雰囲気下で行ってもよく、窒素ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下(窒素ガス雰囲気下、アルゴンガス雰囲気下など)などで行ってもよい。セラミックス繊維がアルミナ繊維などの金属酸化物繊維である場合には、通常、大気中または酸素雰囲気下で焼成が行われる。
【0076】
焼成の時間は、例えば、前駆体繊維がセラミックス繊維に変換され、高い熱伝導性が発現するように決定される。焼成の時間は、例えば、2時間以上24時間以下であり、3時間以上12時間以下であってもよい。
【0077】
(樹脂の付与工程)
セラミックス繊維に樹脂を付与することによって、絶縁性の熱伝導性材料を形成する。樹脂の付与は、セラミックス繊維に樹脂を浸透させる方法で行うことができる。例えば、上述のように、含浸または被覆によりセラミックス繊維に樹脂を付与してもよい。樹脂の付与は、セラミックス繊維の繊維構造を維持した状態で行うことが好ましい。これにより、三次元的に広がった熱伝導パスが維持され、熱伝導性材料の厚さ方向および面方向において高い熱伝導度が得られる。
【0078】
セラミックス繊維は圧縮されているため、熱伝導性材料におけるセラミックス繊維の充填率を高めることができる。また、セラミックス繊維の繊維径が比較的小さいため、充填率を高めても、樹脂が繊維間に浸透し易く、高い柔軟性を確保し易い。
【0079】
樹脂については、熱伝導性材料に含まれる樹脂の説明を参照できる。樹脂は、必要に応じて、溶液の形態またはエマルションの形態でセラミックス繊維間に浸透させてもよい。エマルションには、例えば、界面活性剤または乳化剤などが含まれる。溶液またはエマルションに含まれる溶媒は、例えば、樹脂の種類に応じて選択される。溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール、ケトン、ニトリル、エステル、エーテル、アミド、スルホキシド、スルホンなどが挙げられる。樹脂が親水性樹脂または樹脂エマルションの場合には、溶媒として水、または水と水と混和する有機溶媒とを用いてもよい。有機溶媒としては、前駆体繊維を準備する工程について例示した有機分散媒を用いてもよい。溶媒は一種を単独で含んでもよく、二種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0080】
セラミックス繊維への樹脂の付与(少なくとも浸透させる工程)は、必要に応じて、減圧下で行ってもよい。例えば、容器内に収容したセラミックス繊維に、減圧下で、流動性を有する状態の樹脂を注液する。減圧にすることで、空気が抜け、樹脂の浸透性が高まるため、熱伝導性材料中での空隙の発生が抑制される。
【0081】
セラミックス繊維に樹脂を浸透させた後、乾燥または加熱することによって、樹脂を固化させる。これにより、絶縁性の熱伝導性材料が得られる。乾燥は、減圧下で行ってもよく、加熱下で行ってもよい。
【0082】
樹脂として硬化性樹脂(または硬化性樹脂組成物)を用いる場合には、加熱によって、樹脂が硬化し、セラミックス繊維と繊維間に充填された樹脂の硬化物(半硬化物も含む)とを含む熱伝導性材料が得られる。
【0083】
加熱温度は、例えば、樹脂の種類に応じて、乾燥または樹脂の硬化が進行する範囲で決定される。加熱温度は、例えば、100℃以上150℃以下であり、110℃以上140℃以下であってもよい。
【0084】
図5は、本開示の一実施形態に係る熱伝導性材料の製造方法を説明するための工程図である。図5の例では、まず、セラミックス繊維に含まれる元素と親水性樹脂とを含み、三次元構造を有する前駆体繊維(具体的には、前駆体繊維の集合体)を準備する(S1)。次いで、前駆体繊維を厚さ方向に圧縮して圧縮物を得る(S2)。圧縮は加熱下で行ってもよい。そして、圧縮物を焼成して、セラミックス繊維を得る(S3)。焼成によって、前駆体繊維がセラミックス繊維に変換される。得られたセラミックス繊維に樹脂を付与することによって、絶縁性の熱伝導性材料が形成される(S4)。
【0085】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
《実施例1~12》
下記の手順でシート状の熱伝導性材料を作製した。
(1)前駆体繊維の準備
ポリビニルアルコール(PVA)を0.1質量%濃度で含むPVA水溶液に、ベーマイトナノ粒子を分散させた水性分散液を調製した。水性分散液において、PVAとベーマイトとの質量比は、乾燥固形分でPVA/ベーマイト=30/70とした。PVAとしては、日本合成化学工業株式会社製の重合度1500のPVAを用いた。ベーマイトナノ粒子としては、SASOL株式会社製の一次粒子径25nm、アルミナ含有率72質量%のベーマイト粒子を用いた。
【0087】
得られた水性分散液を下記の手順で、凍結乾燥することによって、前駆体繊維を形成した。
まず、水性分散液を容器内に収容して、液体窒素を用いて急速凍結させた。得られた凍結物を、凍結乾燥機(FDU-1200型,EYELA社製)で、約-50℃で,10Pa~30Paの条件下で約1週間かけて凍結乾燥した。このようにして、シート状の前駆体繊維(より具体的には前駆体繊維の集合体)を得た。
【0088】
(2)圧縮工程
シート状の前駆体繊維を、金属板と離型紙との間に挟み、小型熱プレス機(アズワン株式会社,AH-2003)にセットした。シート状の前駆体繊維の厚さ方向に、表に示す圧縮温度にて、表に示す圧縮圧力を加えて30分間プレスすることによって、前駆体繊維を圧縮した。
【0089】
(3)焼成工程
圧縮したシート状の前駆体繊維を、一対のアルミナ板に挟み、卓上小型電気炉にセットした。空気中、表に示す温度で、5時間焼成した。この焼成によって、PVAなどの有機成分が除去され、シート状のアルミナ繊維(具体的にはアルミナ繊維の集合体)が得られた。
【0090】
(4)樹脂の付与工程
シート状のアルミナ繊維に、ポリウレタンエマルションを蒸留水で希釈した水溶液(ポリウレタン濃度5質量%)を滴下し、アルミナ繊維に水溶液を含浸させた。水溶液の滴下は、アルミナ繊維全体に水溶液が浸透するまで行った。室温にて、10時間真空乾燥することによって、ポリウレタン樹脂を細部まで水溶液を浸透させるとともに、硬化させることによって、シート状の熱伝導性材料を作製した。ポリウレタンエマルションとしては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス150(ポリウレタン濃度30質量%)を用いた。
【0091】
(5)評価
(5-1)熱伝導性材料中のセラミックス繊維の含有率
既述の手順で熱伝導性材料中のセラミックス繊維の含有率(体積%)を求めた。
【0092】
(5-2)セラミックス繊維の平均繊維径
既述の手順で熱伝導性材料中に含まれるセラミックス繊維の平均繊維径を求めたところ、平均繊維径は、290nm~330nm程度であった。
【0093】
(5-3)熱伝導度
得られたシート状の熱伝導性材料を用いて、既述の手順で、x軸方向およびz軸方向における熱伝導度をそれぞれ測定した。
【0094】
(5-4)SEM画像
実施例4で得られた熱伝導性材料の厚さ方向に平行に切断して、厚さ方向に平行な断面を露出させ、SEM(株式会社キーエンス製のVE-9800)を用いて断面の画像を撮影した。実施例4の熱伝導性材料の上面についても、SEMを用いて画像を撮影した。また、参考として、実施例4の(3)の焼成工程後の状態のアルミナ繊維集合体の上面および厚さ方向に平行な方向の断面についても、上記と同様にSEM画像を撮影した。
【0095】
《比較例1および2》
圧縮工程(2)を行わない以外は実施例と同様に熱伝導性材料を作製し、評価を行った。
【0096】
実施例および比較例の結果を表1に示す。比較用に、特許文献3の実施例21のデータを参考例1(R1)として示す。特許文献3の実施例21では、PVAおよびベーマイト粉末を含む水性分散液を用いて、電界紡糸によってファイバーシートを形成し、さらに焼成して得られたアルミナファイバーシートに、PVAを含浸させてシート状の複合体を形成し、この複合体の熱伝導度(熱拡散率)を測定している。表1中のE1~E12は、実施例1~12であり、C1~C2は比較例1~2である。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示されるように、参考例1では、アルミナ繊維は、面方向の一方向に沿って配列されており、繊維が延びる方向には高い熱伝導度が得られる。しかし、厚さ方向の熱伝導度は2W/m・K未満と低くなっている。また、圧縮工程を行わないことで、比較例では、厚さ方向の熱伝導度が極めて低くなっている。
【0099】
それに対して、実施例の熱伝導性材料では、面方向において2W/m・K以上の高い熱伝導度を確保しながら、厚さ方向においても、2W/m・K以上の高い熱伝導度を確保することができる。厚さ方向においては、5W/m・K以上または10W/m・K以上といった高い熱伝導度を確保することもでき、厚さ方向および面方向の双方において、5W/m・K以上または10W/m・K以上といった高い熱伝導度を得ることもできる。
【0100】
実施例において、厚さ方向および面方向の双方において、高い熱伝導度が得られるのは、熱伝導性材料中の熱伝導パスの広がりに起因する。図1および図2は、それぞれ、実施例4のシート状の熱伝導性材料の上面および厚さ方向に平行な方向における断面のSEM画像である。また、図3および図4は、それぞれ、実施例4において、樹脂を付与する前のセラミックス繊維の圧縮物の上面および厚さ方向に平行な方向における断面のSEM画像である。図3および図4に示すように、実施例では、セラミックス繊維が面方向だけでなく、厚さ方向にも延びた状態になっており、三次元構造を有している。そのため、熱伝導パスが三次元的に広がっていることが分かる。図1および図2に示されるように、樹脂を付与した後も、セラミックス繊維の三次元構造は維持されているため、熱伝導パスの三次元的な広がりも維持されていると考えられる。図1および図3から、面方向においては、繊維が入り組んだ状態で接触していることから、x軸方向と、x軸方向と直交するy軸方向とで、熱伝導パスの広がりの差異はほとんど見られない。従って、x軸方向と直交するy軸方向に平行な方向においても、x軸方向と同様のまたはx軸方向に匹敵する高い熱伝導度が得られる。つまり、実施例の熱伝導性材料は、等方的に高い熱伝導性を示す材料であると言える。なお、参考例1のy軸方向に平行な方向における熱伝導度は、7.1W/m・Kであり、x軸方向に平行な方向における熱伝導度の半分以下であった。それに対し、実施例の熱伝導性材料では、参考例1とはセラミックス繊維の配列が全く異なるため、x軸方向とy軸方向とで、参考例1のような大きな差異は見られないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示の熱伝導性材料は、厚さ方向および面方向における高い熱伝導度を有しており、絶縁性である。そのため、熱伝導性材料は、様々な用途で放熱材料として利用するのに適している。熱伝導性材料は、例えば、放熱シート、放熱テープ、放熱回路基板、放熱筐体、放熱封止剤、ヒートシンク、ヒートパイプ等の放熱部材用の放熱材料として利用するのに適している。また、これらの放熱部材は、例えば、LED、パワー半導体、CPU、リチウムイオン電池等のデバイスにも利用できる。更に、これらの放熱デバイスは、例えば、デジタル家電製品(携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、テレビ、ハードディスクレコーダー、タブレットパソコン、ノートパソコン、デスクトップパソコン等)、ハイブリット自動車、次世代自動車(電気自動車、燃料電池自動車等)、家庭用照明、産業用照明、車載用照明等の次世代照明装置、太陽電池、燃料電池、地熱発電等の次世代発電装置、水電解による水素製造等の次世代エネルギーキャリア製造装置等に好適に利用できる。しかし、これらは単なる例示であり、熱伝導性材料の用途はこれらに限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5