(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062928
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】保護キャップ、電子装置及び保護キャップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/02 20060101AFI20230427BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20230427BHJP
H01L 33/48 20100101ALI20230427BHJP
【FI】
H01L23/02 B
H01L23/02 F
H01L23/00 C
H01L33/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173117
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】間嶌 亮太
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA58
5F142BA02
5F142BA32
5F142CD13
5F142CD18
5F142DB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】枠部と蓋部との間に反射防止膜が介在する場合であっても、枠部と蓋部を好適に接合する保護キャップ、その製造方法及び電子装置を提供する。
【解決手段】電子装置1において、保護キャップ4は、枠部6と、枠部の一端部を覆う蓋部7と、枠部と蓋部とが直接溶着された溶着部11から形成されている接合部8と、を備える。蓋部は、接合部を介して枠部の一端部に接触する第一表面7aを有する。第一表面は、第一反射防止膜9を有する。第一反射防止膜は、枠部に接触する接触部9aを有する。接触部の表面粗さSaは、0.1~1.0nmである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を保護するための保護キャップであって、
枠部と、前記枠部の一端部を覆う蓋部と、前記枠部と前記蓋部とを接合する接合部と、を備え、
前記蓋部は、前記接合部を介して前記枠部の前記一端部に接触する第一表面を有し、
前記第一表面は、第一反射防止膜を有し、
前記第一反射防止膜は、前記枠部に接触する接触部を有し、
前記接触部の表面粗さSaは、0.1~1.0nmであることを特徴とする保護キャップ。
【請求項2】
前記蓋部は、前記第一表面の反対側に位置する第二表面を有し、
前記第二表面は、第二反射防止膜を有する請求項1に記載の保護キャップ。
【請求項3】
電子部品と、前記電子部品が搭載された基材と、前記電子部品を内部に収容するように、前記基材に接合された請求項1又は2に記載の保護キャップと、を備えることを特徴とする電子装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の保護キャップを製造する方法であって、
物理蒸着法を行う成膜装置によって前記蓋部の前記第一表面に前記第一反射防止膜を形成する成膜工程と、前記蓋部の前記第一表面と前記枠部の前記一端部とを接合する接合工程と、を備え、
前記成膜装置は、前記蓋部を保持するとともに所定の方向に移動可能な保持具と、前記第一反射防止膜の材料となる粒子を飛散させるターゲットと、前記ターゲットから飛散した前記粒子の飛散方向を規制するシールド部材と、を備え、
前記成膜工程では、前記ターゲットから飛散した前記粒子の一部を前記シールド部材によって遮蔽しつつ、前記シールド部材に接触することなく飛散する粒子を、前記保持具に保持された状態で移動する前記蓋部の前記第一表面に付着させることを特徴とする保護キャップの製造方法。
【請求項5】
前記ターゲットは、並設される第一ターゲット及び第二ターゲットを含み、
前記シールド部材は、前記第一ターゲットと前記第二ターゲットとの間に配置される請求項4に記載の保護キャップの製造方法。
【請求項6】
前記シールド部材は、前記保持具に設けられる請求項4に記載の保護キャップの製造方法。
【請求項7】
前記接合工程では、前記蓋部の前記第一表面と前記枠部の前記一端部とを接触させ、その接触部分にレーザを照射することにより、前記蓋部の前記第一表面と前記枠部の前記一端部とを直接接合する請求項4から6のいずれか一項に記載の保護キャップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護キャップ、電子装置及び保護キャップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDなどの電子部品を備えた電子装置は、長寿命や省エネルギーなどの理由から、照明や通信などの種々の分野で利用されるに至っている。
【0003】
この種の電子装置では、電子部品を保護するために、電子部品が搭載された基材に、電子部品が内部に収容されるように保護キャップを被せる場合がある。例えば特許文献1に開示されているように、保護キャップは、電子部品の周囲を取り囲む枠部(第2の部材)と、枠部の一端開口を覆う蓋部(カバー部材)とを備えている。
【0004】
保護キャップは、枠部と蓋部とを接合することにより一体に構成される。枠部と蓋部とを接合する方法として、例えば枠部と蓋部との接触部分にレーザを照射することにより、枠部の一部と蓋部の一部とを溶着させる方法が挙げられる。二つの部材をレーザによって接合する技術として、例えば特許文献2には、第1の基板と第2の基板とを重ね合わせ、これらの界面領域にレーザの照射による溶着部(融着部)を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/190242号公報
【特許文献2】特開2021-88468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電子部品がLED等の発光素子である場合、光の取り出し効率を向上させるために、蓋部に反射防止膜を形成することが考えられる。例えば蓋部の表裏全面に反射防止膜を形成した場合には、枠部と蓋部とを接合のために重ね合わせると、反射防止膜の一部が枠部に接触することになる。
【0007】
この状態で、レーザによる接合を行うと、枠部と蓋部との間に反射防止膜が介在することで、枠部と蓋部との溶着が不十分となるおそれがあった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、枠部と蓋部との間に反射防止膜が介在する場合であっても、枠部と蓋部を好適に接合することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、電子部品を保護するための保護キャップであって、枠部と、前記枠部の一端部を覆う蓋部と、前記枠部と前記蓋部とを接合する接合部と、を備え、前記蓋部は、前記接合部を介して前記枠部の前記一端部に接触する第一表面を有し、前記第一表面は、第一反射防止膜を有し、前記第一反射防止膜は、前記枠部に接触する接触部を有し、前記接触部の表面粗さSaは、0.1~1.0nmであることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、第一反射防止膜の接触部の表面粗さSaを0.1~1.0nmとすることで、接触部と枠部との接触部分の密着性を向上させることができる。したがって、レーザをこの接触部分に照射することで、十分な接合強度を有する接合部を形成することが可能となる。また、保護キャップに気密性が要求される場合であっても、接合部の十分な気密性を確保することができる。
【0011】
前記蓋部は、前記第一表面の反対側に位置する第二表面を有し、前記第二表面は、第二反射防止膜を有してもよい。これにより、保護キャップを用いて光を出射する電子装置を作製した場合に、光の取り出し効率をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明に係る電子装置は、電子部品と、前記電子部品が搭載された基材と、前記電子部品を内部に収容するように、前記基材に接合された上記の保護キャップと、を備えることを特徴とする。このようにすれば、既に説明した保護キャップの対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【0013】
本発明は、上記の保護キャップを製造する方法であって、物理蒸着法を行う成膜装置によって前記蓋部の前記第一表面に前記第一反射防止膜を形成する成膜工程と、前記蓋部の前記第一表面と前記枠部の前記一端部とを接合する接合工程と、を備え、前記成膜装置は、前記蓋部を保持するとともに所定の方向に移動可能な保持具と、前記第一反射防止膜の材料となる粒子を飛散させるターゲットと、前記ターゲットから飛散した前記粒子の飛散方向を規制するシールド部材と、を備え、前記成膜工程では、前記ターゲットから飛散した前記粒子の一部を前記シールド部材によって遮蔽しつつ、前記シールド部材に接触することなく飛散する粒子を、前記保持具に保持された状態で移動する前記蓋部の前記第一表面に付着させることを特徴とする。
【0014】
かかる構成によれば、シールド部材によってターゲットから飛散する粒子の一部を遮蔽することで、蓋部の第一表面に対して、粒子を均一に付着させることができる。これにより、第一反射防止膜の表面粗さを可及的に小さくすることが可能となる。
【0015】
本方法において、前記ターゲットは、並設される第一ターゲット及び第二ターゲットを含み、前記シールド部材は、前記第一ターゲットと前記第二ターゲットとの間に配置されてもよい。
【0016】
かかる構成によれば、第一ターゲットから飛散する粒子と、第二ターゲットから飛散する粒子の飛散方向をシールド部材によって規制することで、第一反射防止膜の表面粗さを可及的に小さくすることが可能となる。
【0017】
本方法において、前記シールド部材は、前記保持具に設けられてもよい。保持具に設けられたシールド部材によって、ターゲットから飛散する粒子の一部を遮蔽することで、第一反射防止膜の表面粗さを可及的に小さくすることが可能となる。
【0018】
本方法における前記接合工程では、前記蓋部の前記第一表面と前記枠部の前記一端部とを接触させ、その接触部分にレーザを照射することにより、前記蓋部の前記第一表面と前記枠部の前記一端部とを直接接合してもよい。これにより、気密性に優れ、接合強度の高い保護キャップを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、枠部と蓋部との間に反射防止膜が介在する場合であっても、枠部と蓋部を好適に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】
図1におけるII-II矢視線に係る断面図である。
【
図4】保護キャップの製造方法における一工程を示す断面図である。
【
図5】保護キャップの製造方法における一工程を示す断面図である。
【
図6】保護キャップの製造方法における一工程を示す平面図である。
【
図7】電子装置の製造方法における一工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図8は、本発明に係る保護キャップ、電子装置及び保護キャップの製造方法の一実施形態を示す。
【0022】
図1及び
図2に示すように、電子装置1は、電子部品2と、電子部品2が搭載された基材3と、電子部品2を内部に収容するように基材3に配置された保護キャップ4と、基材3及び保護キャップ4を封着する封着部5と、を備える。
【0023】
図1に示すように、電子部品2は、基材3に固定されるとともに、保護キャップ4の内側の空間に収容されている。電子部品2の例としては、レーザモジュール、LED光源、光センサ、撮像素子、光スイッチ等の光学デバイスが挙げられる。本実施形態では、電子部品2が紫外線照射用LEDである場合を一例として説明する。
【0024】
基材3は、電子部品2及び保護キャップ4を支持する第一表面3aと、第一表面3aの反対側に位置する第二表面3bとを有する。本実施形態では、基材3は、第一表面3a及び第二表面3bがともに平面から構成される板状体である。この形状に限らず、基材3は、第一表面3aのうち、電子部品2が搭載される部分に凹部を備えてもよい。
【0025】
基材3は、例えば、金属、金属酸化物セラミックス、LTCC又は金属窒化物セラミックスから構成される。金属としては、例えば銅、金属シリコンなどが挙げられる。金属酸化物セラミックスとしては、例えば酸化アルミニウムなどが挙げられる。LTCCとしては、例えば結晶性ガラスと耐火性フィラーを含む複合粉末を焼結させたものなどが挙げられる。
【0026】
金属窒化物セラミックスとしては、例えば窒化アルミニウムなどが挙げられる。本実施形態において、基材3は、窒化アルミニウムから構成されている。窒化アルミニウムの30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、例えば46×10-7/℃である。
【0027】
図1に示すように、保護キャップ4は、枠部6と、枠部6の一端部を覆う蓋部7と、枠部6と蓋部7とを接合する接合部8と、を備える。
【0028】
枠部6は、その中心に貫通部(孔)Hを有する筒状体である。枠部6は、貫通部(孔)Hに対応する空間に収容された電子部品2の周囲を取り囲む。枠部6は、四角筒で構成されているが、円筒などの他の形状であってもよい。
【0029】
枠部6は、蓋部7に固定される第一端面6aと、基材3に固定される第二端面6bとを有する。第一端面6aの表面粗さSa(算術平均表面高さ)は、0.1~1.0nmとされることが好ましい。第二端面6bの表面粗さSaは、0.1~1.0nmとされることが好ましい。なお、表面粗さSaは、ISO25178に準拠して測定される(以下同じ)。
【0030】
枠部6は、光透過性を有する材料、例えば30~380℃の温度範囲における熱膨張係数が30×10-7~100×10-7/℃であるガラス材から構成されている。枠部6のガラス材は、紫外線透過ガラスであることが好ましい。
【0031】
枠部6の厚みは、電子部品2よりも大きいことが好ましく、電子部品2よりも0.01~1mm大きいことが好ましく、0.05~0.5mm大きいことがより好ましく、0.1~0.2mm大きいことが最も好ましい。
【0032】
蓋部7は、光透過性を有する基板により構成される。具体的には、蓋部7は、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、その他の各種ガラスを含むガラス基板、サファイア基板、樹脂基板等により構成される。
【0033】
本実施形態では、高い紫外線透過性を有する石英ガラス基板が蓋部7に用いられる場合について説明する。石英ガラスには、溶融石英と合成石英とが含まれる。溶融石英ガラスの30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は例えば6.3×10-7/℃であり、合成石英ガラスの30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は例えば4.0×10-7/℃である。
【0034】
蓋部7の厚みは、0.1~1.0mmであることが好ましく、0.2~0.8mmであることがより好ましく、0.3~0.6mmであることが最も好ましい。
【0035】
蓋部7は、枠部6に固定される第一表面7aと、第一表面7aの反対側に位置する第二表面7bとを有する。
【0036】
第一表面7aは、機能性膜として反射防止膜(以下「第一反射防止膜」という)9を有する。第一反射防止膜9は、例えば低屈折率層としての酸化シリコン膜(SiO2)と、高屈折率層としての酸化ハフニウム膜(HfO2)とが交互に積層されてなる多層膜構造を有するが、反射防止膜の材質は、本実施形態に限定されない。
【0037】
第一表面7aは、接合部8及び第一反射防止膜9を介して枠部6の一端部(第一端面6a)と接触している。第一反射防止膜9は、枠部6に接触する接触部9aを有する。接触部9aの表面粗さは、0.1~1.0nm、より好ましくは0.1~0.8nm、さらに好ましくは0.2~0.5nmである。接触部9aの表面粗さSaを1.0nm以下にすることにより、蓋部7と枠部6との溶着性が向上し、接合部8の十分な気密性を確保することができる。また、接触部9aの表面粗さSaを0.1nm以上にすることにより、反射防止膜の効果を担保することができる。なお、接触部9aを除く第一反射防止膜9の表面粗さSaも、同じく0.1~1.0nmであることが好ましい。
【0038】
第二表面7bは、保護キャップ4の外面の一部を構成する面である。第二表面7bは、機能性膜として反射防止膜(以下「第二反射防止膜」という)10を有する。第二反射防止膜10は、例えば低屈折率層としての酸化シリコン膜(SiO2)と、高屈折率層としての酸化ハフニウム膜(HfO2)とが交互に積層されてなる多層膜構造を有するが、第二反射防止膜10の材質は、本実施形態に限定されない。
【0039】
枠部6及び蓋部7を接合する接合部8は、枠部6と蓋部7とが直接溶着された溶着部11から形成されている。溶着部11は、レーザ接合により形成される。詳細には、溶着部11は、レーザの照射領域において、枠部6及び蓋部7の少なくとも一方を溶融した後に、その溶融部を固化させることにより形成される。つまり、溶着部11は、例えば、枠部6及び蓋部7の少なくとも一方の材料から構成され、枠部6及び蓋部7以外の材料を実質的に含まないことが好ましい。
【0040】
図2に示すように、溶着部11は、貫通部(孔)Hに沿って同心環状に複数(図例では二つ)形成されるが、一つであってもよい。複数の溶着部11は、互いに離間しているが、重なっていてもよい。各溶着部11は、平面視で四角環状に構成されるが、これに限らず、円環状その他の環形状に構成され得る。
【0041】
溶着部11は、厚み方向において、枠部6と蓋部7とに連続して跨って形成されている。なお、本実施形態では、溶着部11の内部において、枠部6と蓋部7との間には界面がない。もちろん、溶着部11の内部において、枠部6と蓋部7との間に界面が残っていてもよい。
【0042】
溶着部11の幅S1は、10~200μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましく、10~50μmであることが最も好ましい。溶着部11の厚みS2は、10~200μmであることが好ましく、10~150μmであることがより好ましく、10~100μmであることが最も好ましい。
【0043】
基材3及び保護キャップ4の枠部6を封着する封着部5は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、枠部6の第二端面6b側から順に、メタライズ層12と、はんだ層13とを備えている。
【0044】
メタライズ層12は、例えば物理蒸着法などにより、保護キャップ4の枠部6の第二端面6bに形成された金属膜である。メタライズ層12は、はんだ層13との密着性を向上させる役割を有する。メタライズ層12としては、例えばCr、Ti、Ni、Pt、Au、Co及びこれらを含む合金層、或いはこれら金属、合金の多層膜等が使用できる。
【0045】
はんだ層(ろう材)11としては、例えばAu、Sn、Ag、Pb、及びこれら金属を含む合金、すなわち、Au-Sn系はんだ、Sn-Ag系はんだ、Pb系はんだ等の層が使用できる。Au-Sn系はんだの30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、例えば175×10-7/℃である。
【0046】
以下、上記構成の電子装置1を製造する方法について説明する。なお、この電子装置1の製造方法は、保護キャップ4の製造方法を含む。
【0047】
電子装置1の製造方法は、保護キャップ4を用意する準備工程と、保護キャップ4を基材3に固定する封着工程とを備える。
【0048】
準備工程は、保護キャップ4を製造する工程(方法)である。準備工程は、蓋部7に各反射防止膜9,10を形成する成膜工程と、成膜工程後に枠部6と蓋部7とを接合する接合工程と、を備える。
【0049】
成膜工程では、物理蒸着法を行う成膜装置によって蓋部7の第一表面7a及び第二表面7bに各反射防止膜9,10を形成する。以下、
図3を参照しながら、成膜装置14により第一表面7aに第一反射防止膜9を形成する場合について説明する。
【0050】
本実施形態では、成膜装置14として、例えばマグネトロンスパッタ装置等のスパッタ装置を例示するが、本発明はこの構成に限定されず、真空蒸着法等の他の物理蒸着法を行う成膜装置を使用してもよい。
【0051】
成膜装置14は、真空チャンバ15と、蓋部7を保持する保持具16と、保持具16を支持する回転体17(回転ドラム)と、第一反射防止膜9の材料となる粒子を飛散させるターゲット18a,18bと、ターゲット18a,18bから飛散した粒子の飛散方向を規制するシールド部材19と、を備える。
【0052】
真空チャンバ15は、保持具16、回転体17及びターゲット18a,18bをその内部に収容する。真空チャンバ15の内部空間は、真空ポンプにより所定の真空度に設定される。真空チャンバ15内には、アルゴンガス等の不活性ガスが供給され得る。
【0053】
保持具16は、蓋部7の第一表面7aを露出させた状態で、この蓋部7を着脱自在に保持する。保持具16は、金属製であるが、保持具16の材質は本実施形態に限定されない。
【0054】
回転体17は、円形状に構成されており、その外周面において複数の保持具16を着脱自在に保持する。回転体17は、その中心の回転軸17aまわりに回転することで、保持具16をその円周方向に移動させる。
【0055】
ターゲット18a,18bは、真空チャンバ15内で並設される第一ターゲット18a及び第二ターゲット18bを含む。第一ターゲット18a及び第二ターゲット18bは、第一反射防止膜9を形成するための材料により構成される。
【0056】
シールド部材19は、金属製の板状部材により構成されるが、この材質及び形状に限定されない。シールド部材19は、回転体17と、各ターゲット18a,18bとの間に配置される。また、シールド部材19は、並設されている第一ターゲット18aと第二ターゲット18bとの間に配置される。
【0057】
成膜工程では、回転体17を回転させながら、ターゲット18a,18bから飛散した粒子の一部をシールド部材19によって遮蔽しつつ、シールド部材19に接触することなく飛散する粒子を、保持具16に保持された状態で移動する蓋部7の第一表面7aに付着させる。
【0058】
具体的には、
図3に示すように、各ターゲット18a,18bから飛散する粒子の一部は、矢印D1で示すように、シールド部材19に接触することなく、回転体17に向かって飛散する。また、各ターゲット18a,18bから飛散する粒子の他の一部は、矢印D2で示すように、シールド部材19に接触するように飛散する。
【0059】
このように、シールド部材19によって各ターゲット18a,18bから飛散する粒子の一部を遮蔽することで、保持具16に保持されている蓋部7の第一表面7aに対する粒子の入射角を規制する。これにより、蓋部7の第一表面7aに対して粒子を均一に付着させることができる。
【0060】
回転体17の複数回に及ぶ回転により、各ターゲット18a,18bから飛散した粒子を第一表面7aに堆積させることで、所定の厚さを有する膜が形成される。第一反射防止膜9が多層膜構造を有する場合には、各層を構成する材料に対応するターゲットを用意し、上記の成膜工程を複数回繰り返し実行する。これにより、蓋部7の第一表面7aに第一反射防止膜9が形成される。
【0061】
成膜工程では、成膜装置14によって、第一反射防止膜9の成膜と同様に、蓋部7の第二表面7bに第二反射防止膜10を形成することができる。第一反射防止膜9と第二反射防止膜10の成膜順序は、特定に限定されず、第一反射防止膜9よりも先に第二反射防止膜10が形成されてもよい。
【0062】
枠部6と蓋部7とを接合する接合工程では、蓋部7の第一表面7aと枠部6の一端部である第一端面6aとを接合する。すなわち、接合工程では、蓋部7の第一表面7aと枠部6の第一端面6aとを接触させ、その接触部分にレーザを照射することにより、蓋部7の第一表面7aと枠部6の第一端面6aとを直接溶着する。
【0063】
具体的には、まず、
図4に示すように、蓋部7と、メタライズ層12及びはんだ層13が形成された枠部6とを準備する。次に、蓋部7の第一表面7aと枠部6の第一端面6aとを接触させる。この場合において、蓋部7の第一表面7aに形成された第一反射防止膜9の接触部9aが枠部6の第一端面6aに接触する。
【0064】
この状態で、
図5に示すように、レーザ照射装置20により、枠部6と蓋部7との接触部分に対してレーザLを集光して照射する。レーザLは、枠部6及び蓋部7の少なくとも一方側から照射される。本実施形態では、レーザLは、蓋部7側から照射される。これにより、枠部6と蓋部7との接触部分を溶着して溶着部11を形成するとともに、この溶着部11により枠部6と蓋部7とを接合する。
【0065】
レーザLとしては、ピコ秒オーダーやフェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短パルスレーザが好適に使用される。
【0066】
レーザLの波長は、ガラス部材を透過する波長であれば特に限定されるものではないが、例えば、400~1600nmであることが好ましく、500~1300nmであることがより好ましい。レーザLのパルス幅は、10ps以下であることが好ましく、5ps以下であることがより好ましく、200fs~3psであることが最も好ましい。レーザLの集光径は、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが好ましい。
【0067】
レーザLの繰り返し周波数は、連続的な熱蓄積を生じさせる程度であることが必要であり、具体的には100kHz以上であることが好ましく、200kHz以上であることがより好ましく、500kHz以上であることが更に好ましい。
【0068】
また、1パルスを複数に分配させ、パルス間隔を更に短くして照射する手法(バーストモード)を利用することが好ましい。これにより、熱蓄積が生じやすくなり、接合部8を安定して形成することができる。
【0069】
図6に示すように、レーザLは、貫通部(孔)Hの外側で、貫通部(孔)Hに沿った環状軌道Tを描くように走査される。この場合において、レーザLは、その照射領域Rが環状軌道T上で重なりながら環状軌道Tを一周するように走査される。あるいは、レーザLは、その環状軌道Tを複数回にわたって周回するように走査される。なお、溶着部11を同心環状に複数形成する場合には、レーザLを走査する環状軌道Tも同心環状に複数設定される。
【0070】
所定数の溶着部11が形成されることで、枠部6と蓋部7とが接合部8によって接合されてなる保護キャップ4が製造される。
【0071】
保護キャップ4を基材3に固定する封着工程では、まず、
図7に示すように、準備工程で得られた保護キャップ4と、電子部品2が搭載された基材3とを準備する。次に、枠部6の第二端面6bと基材3の第一表面3aとを、メタライズ層12及びはんだ層13を介して接触させる。この状態で加熱することにより、はんだ層13を軟化流動(リフロー)させ、はんだ層13により枠部6と基材3とを接合する。なお、はんだ層13は、加熱炉を用いて加熱してもよいし、レーザを用いて加熱してもよい。これにより、基材3と保護キャップ4とを封着する封着部5が形成される。
【0072】
図8は、成膜装置14の他の例を示す。この例において、成膜装置14のシールド部材19a,19bは、保持具16に設けられている。シールド部材19a,19bは、保持具16に保持される蓋部7を挟むように配置される第一シールド部材19a及び第二シールド部材19bを含む。各シールド部材19a,19bは、金属製の板状部材であり、保持具16に対して着脱自在に取り付けられている。各シールド部材19a,19bは、保持具16の進行方向(回転体17の回転方向)に面するように配されている。
【0073】
この例では、成膜工程において、保持具16に設けられた各シールド部材19a,19bによって、各ターゲット18a,18bから飛散する粒子の一部を遮蔽することができる。
【0074】
以上説明した本実施形態に係る保護キャップ4及び電子装置1の製造方法(保護キャップ4の製造方法)によれば、成膜工程において、シールド部材19,19a,19bによって各ターゲット18a,18bから飛散する粒子の飛散方向を規制することで、蓋部7の第一表面7aに対して粒子を均一に堆積させることができる。
【0075】
これにより、第一反射防止膜9の接触部9aの表面粗さSaを0.1~1.0nmとすることができる。したがって、第一反射防止膜9の接触部9aと、枠部6の第一端面6aとを接触させたときに、これらの密着性を向上させることができる。この状態において、レーザLをこの接触部分に照射することで、十分な接合強度を有する接合部8を形成することができる。この接合部8により、保護キャップ4の十分な気密性を確保することも可能になる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0077】
上記の実施形態では、保護キャップ4の枠部6に予めメタライズ層12及びはんだ層13を形成し、基材3と保護キャップ4とを封着させる例を示したが、本発明はこの構成に限定されない。例えば基材3の第一表面3aに予めメタライズ層及びはんだ層を形成しておき、保護キャップ4の枠部6の第二端面6bを基材3の第一表面3aに封着してもよい。
【0078】
また、上記のメタライズ層及びはんだ層を使用することなく、枠部6の第二端面6bと、基材3の第一表面3aを直接接触させ、レーザの照射によってこの接触部分を直接溶着してもよい。
【実施例0079】
以下に、本発明による実施例と比較例を説明する。実施例と比較例ともに、蓋部として基板状の合成石英を用い、枠部として四角筒形状の合成石英を用いた。
【0080】
実施例1~3では、上記製造方法(成膜工程)に係るスパッタ法により、蓋部の表面に、酸化シリコン膜(SiO2)と酸化ハフニウム膜(HfO2)が交互に2層積層される反射防止膜を形成した。なお、この際、第一反射防止膜の材料となる粒子を飛散させるターゲットから飛散する粒子の飛散方向を規制するシールド部材の長さを調整することで、接触部の表面粗さSaを調整した。一方、比較例1では、上記製造方法によるスパッタ法を用いることなく、即ち、前記シールド部材を備えない成膜装置により、蓋部の表面に、酸化シリコン膜(SiO2)と酸化ハフニウム膜(HfO2)が交互に2層積層される反射防止膜を形成した。これにより、接触部における反射防止膜の表面粗さが異なる実施例1~3と比較例1の蓋部のサンプルを得た。なお、各サンプルの接触部以外の部分にも、同様の表面粗さの反射防止膜が形成された。
【0081】
その後、蓋部の接触部が枠部の一端部に重なり合うように、蓋部を枠部に載せ、さらにこの重なり合う箇所に、超短パルスレーザを照射して枠部と蓋部を接合し、保護キャップのサンプルを作製した。
【0082】
その後、得られた保護キャップのサンプルの蓋部と枠部の接合性を、PCT(Pressure Cooker Test)による加速劣化試験で評価した。具体的には、上記のように作製した保護キャップのサンプルを、121℃、2気圧、相対湿度80%の環境下で12時間保持し、その後、蓋部と枠部との接合が維持できていたものを良品「〇」、維持できなかったものを不良品「×」と判定した。その結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1から、接触部の表面粗さSaが1.1以上になると、蓋部と枠部の接合性が悪化することがわかる。