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特開2023-62936需給調整支援装置、需給調整支援方法及び需給調整支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062936
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】需給調整支援装置、需給調整支援方法及び需給調整支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173132
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀岳
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】将来における調整力必要量を正確に予測する給調整支援装置、需給調整支援方法及び需給調整支援プログラムを提供する。
【解決手段】需給調整支援装置1は、電力系統の過去の計測値を複数のパタンに分類する実績分類部21と、電力系統の調整力調達実績及び周波数変動実績に基づいて調整力過不足率を算出する調整力調達実績過不足算出部22と、電力系統の将来の予測値を複数のパタンに分類し、過去の計測値が分類された複数のパタンのうちから、将来の予測値が分類されたパタンを取得し、取得したパタンに分類された過去の計測値から過去の残余需要実績を算出し、算出した残余需要実績及び算出した調整力過不足率に基づいて電力系統の将来の調整力必要量を算出する調整力必要量算出部23と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の過去の計測値を複数のパタンに分類する実績分類部と、
前記電力系統の調整力調達実績及び周波数変動実績に基づいて調整力過不足率を算出する調整力調達実績過不足算出部と、
前記電力系統の将来の予測値を複数のパタンに分類し、
前記過去の計測値が分類された複数のパタンのうちから、前記将来の予測値が分類されたパタンを取得し、
前記取得したパタンに分類された過去の計測値から過去の残余需要実績を算出し、
前記算出した残余需要実績及び前記算出した調整力過不足率に基づいて前記電力系統の将来の調整力必要量を算出する調整力必要量算出部と、
を備えることを特徴とする需給調整支援装置。
【請求項2】
前記過去の計測値は、
需要実績、再生可能エネルギー出力実績、及び、発電機起動台数実績の組合せであり、
前記残余需要実績は、
前記需要実績から前記再生可能エネルギー出力実績を控除したものであり、
前記将来の予測値は、
需要予測、再生可能エネルギー出力予測、及び、発電機起動台数予測の組合せであること、
を特徴とする請求項1に記載の需給調整支援装置。
【請求項3】
前記実績分類部は、
クラスタ分析の手法を使用して前記過去の計測値及び前記将来の予測値を複数のパタンに分類すること、
を特徴とする請求項2記載の需給調整支援装置。
【請求項4】
前記電力系統の系統容量の変化又は再生可能エネルギー発電設備容量の変化に基づいて前記残余需要実績を補正する残余需要実績補正部を備えること、
を特徴とする請求項3に記載の需給調整支援装置。
【請求項5】
前記調整力必要量算出部は、
前記過去の残余需要実績の最大値に対して当該最大値に対応する前記調整力過不足率を乗算した結果を前記調整力必要量とし、
前記調整力過不足率は、
過去における調整力の過不足を将来において反対方向に修正するものであること、
を特徴とする請求項4に記載の需給調整支援装置。
【請求項6】
需給調整支援装置の実績分類部は、
電力系統の過去の計測値を複数のパタンに分類し、
前記需給調整支援装置の調整力調達実績過不足算出部は、
前記電力系統の調整力調達実績及び周波数変動実績に基づいて調整力過不足率を算出し、
前記需給調整支援装置の調整力必要量算出部は、
前記電力系統の将来の予測値を複数のパタンに分類し、
前記過去の計測値が分類された複数のパタンのうちから、前記将来の予測値が分類されたパタンを取得し、
前記取得したパタンに分類された過去の計測値から過去の残余需要実績を算出し、
前記算出した残余需要実績及び前記算出した調整力過不足率に基づいて前記電力系統の将来の調整力必要量を算出すること、
を特徴とする需給調整支援装置の需給調整支援方法。
【請求項7】
コンピュータを、
電力系統の過去の計測値を複数のパタンに分類する実績分類部と、
前記電力系統の調整力調達実績及び周波数変動実績に基づいて調整力過不足率を算出する調整力調達実績過不足算出部と、
前記電力系統の将来の予測値を複数のパタンに分類し、
前記過去の計測値が分類された複数のパタンのうちから、前記将来の予測値が分類されたパタンを取得し、
前記取得したパタンに分類された過去の計測値から過去の残余需要実績を算出し、
前記算出した残余需要実績及び前記算出した調整力過不足率に基づいて前記電力系統の将来の調整力必要量を算出する調整力必要量算出部と、
して機能させるための需給調整支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需給調整支援装置、需給調整支援方法及び需給調整支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーは貯めておくことができないという特性を有する。送配電事業者は、電力の需要量と供給量との差分を一定範囲に維持する“同時同量”の原則を遵守し電力系統を運用する必要がある。発電、送電及び小売の一体体制(垂直一貫)では、送配電事業者は、“同時同量”を達成するために、自社が所有する発電機の出力を柔軟に制御し、電力の需給調整を行ってきた。
【0003】
電力自由化に伴う発送電分離により、電力事業者が発電事業者及び送配電授業者に分離した場合、送配電事業者は、需給調整市場において、発電機出力を制御する権利である“調整力”を発電事業者から購入し、これを運用することによって電力の需給調整を行う。この場合、調整力の調達に要する費用は、託送料金として最終的には需要者の負担となる。そこで、電力料金を抑制するためには、調整力調達を適切に計画することが重要となる。
【0004】
特許文献1の需給制御システムは、発電機ごとに発電機の制御方法を決定する。制御方法とは、負荷周波数制御(LFC:Load Frequency Control)又は、経済負荷配分制御(ELD:Economic Load Dispatch)である。具体的には、当該システムは、電力系統における周波数変化量、連系線潮流変化量及び自然エネルギーに基づき地域要求電力を算出し、地域要求電力を平滑化したうえで各発電機に配分する。当該システムは、次に、配分された地域要求電力及びELDスケジュールから目標指令値を算出する。当該システムは、さらに、各発電機に対して目標指令値を発するとともに、前記いずれかの制御方法に切り替える指令を発する。
【0005】
非特許文献1は、需給調整市場で送配電事業者が調達する調整力のうち、一次調整力から三次調整力(1)までの必要量の算定方法を記載している。具体的には、非特許文献1は、過去の残余需要実績から変動成分を控除した値の“3σ相当量”が、各調整力の必要量であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-204577号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】需給調整市場検討小委員会事務局、“一次調整力から三次調整力(1)の必要量の考え方について”、第14回需給調整市場検討小委員会資料2、2019年11月5日、28ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の需給制御システムは、地域要求電力を算出しているが、それに対し、需給調整市場から調整力を調達することを前提としていない。非特許文献1は、過去の実績に基づいて調整力必要量を算出する方法を記載しているが、将来の予測に基づいて調整力必要量を算出することには言及していない。いずれにしても、調整力の過剰確保を抑制し、需給調整の経済性を向上するには、さらなる工夫が必要であった。
そこで、本発明は、将来における調整力必要量を正確に予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の需給調整支援装置は、電力系統の過去の計測値を複数のパタンに分類する実績分類部と、前記電力系統の調整力調達実績及び周波数変動実績に基づいて調整力過不足率を算出する調整力調達実績過不足算出部と、前記電力系統の将来の予測値を複数のパタンに分類し、前記過去の計測値が分類された複数のパタンのうちから、前記将来の予測値が分類されたパタンを取得し、前記取得したパタンに分類された過去の計測値から過去の残余需要実績を算出し、前記算出した残余需要実績及び前記算出した調整力過不足率に基づいて前記電力系統の将来の調整力必要量を算出する調整力必要量算出部と、を備えることを特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、将来における調整力必要量を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】需給調整支援装置の構成等を説明する図である。
図2】第1の実施形態の情報の流れ及び処理の流れの概要を説明する図である。
図3】実績分類部の処理を説明する図である。
図4】調整力必要量算出部の処理を説明する図である。
図5】第1の実施形態の処理手順のフローチャートである。
図6】調整力必要量表示画面の一例である。
図7】第2の実施形態の情報の流れ及び処理の流れの概要を説明する図である。
図8】第2の実施形態の処理手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以降、本発明を実施するための形態(“本実施形態”という)を、図等を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、電力系統における需給調節を行うための調整力必要量を将来的に予測する例である。本実施形態は、基本的な“第1の実施形態”及び追加機能を有する“第2の実施形態”からなる。なお、以下に記載する“再エネ”は、“再生可能エネルギー”を略したものである。
【0013】
(需給調整支援装置の構成等)
図1は、需給調整支援装置1の構成等を説明する図である。需給調整支援装置1は、一般的なコンピュータであり、中央制御装置11、マウス、キーボード等の入力装置12、ディスプレイ等の出力装置13、主記憶装置14、補助記憶装置15及び通信装置16を備える。これらは、バスで相互に接続されている。補助記憶装置15は、需要実績DB(Data Base)31、再エネ出力実績DB32、発電機起動台数実績DB33、調整力調達実績DB34、周波数変動実績DB35、需要予測DB36、再エネ出力予測DB37、発電機起動台数予測DB38、調整力必要量DB39及び系統情報DB40を格納している(詳細後記)。
【0014】
主記憶装置14における実績分類部21、調整力調達実績過不足算出部22、調整力必要量算出部23及び残余需要実績補正部24は、プログラムである。中央制御装置11は、これらのプログラムを補助記憶装置15から読み出し主記憶装置14にロードすることによって、それぞれのプログラムの機能(詳細後記)を実現する。補助記憶装置15は、需給調整支援装置1から独立した構成となっていてもよい。前記した構成のうち、残余需要実績補正部24及び系統情報DB40は、第2の実施形態で使用される。その他の構成は、第1の実施形態及び第2の実施形態で使用される(詳細後記)。
【0015】
発電機5が発電した電力は、ノード(母線)9a、変圧器8a、ノード10a及びブランチ(線路)41a経て電力系統3に入る。さらに電力は電力系統3を出ると、ブランチ41b、ノード10b、変圧器8b及びノード9bを経て負荷6に達する。電力系統3内の各所には、計測装置4が設置されている。需給調整支援装置1は、ネットワーク7を介して、需給調整市場2(より正確には調整力取引用のサーバ)、計測装置4、発電機5及び負荷6と接続されている。
【0016】
計測装置4、発電機5及び負荷6が計測した電力系統3の各種状態量は、ネットワーク7を介して需給調整支援装置1に送信される。なお、図1では発電機5及び負荷6は電力系統3の外側に記載されているが、これらは電力系統3に近接しており、発電機5及び負荷6が計測した各種状態量は、電力系統3の状態を示していると言える。
【0017】
より一般的に、電力系統3の状態量とは、以下の値を含む概念である。
・計測装置4、発電機5及び負荷6から直接取得された状態量
・直接取得された状態量を使用した推定処理により二次的に得られた状態量
・需給調整支援装置1の処理による中間生成物又は最終生成物としての状態量
【0018】
需給調整支援装置1が算出した調整力必要量もまた、ネットワーク7を介して需給調整市場2に調整力入札値として送信される。
【0019】
〈第1の実施形態〉
図2は、第1の実施形態の情報の流れ及び処理の流れの概要を説明する図である。実線の矢印は処理の流れを示し、破線の矢印は、情報の流れを示す。
需要実績DB31は、需要実績を時系列で格納している。需要実績とは、電力系統3における過去の電力需要である。
再エネ出力実績DB32は、再エネ出力実績を時系列で格納している。再エネ出力実績とは、電力系統3における過去の再エネ発電機(風力発電機、太陽光発電機等)の発電量である。図1の発電機5は、再エネ発電機及びその他の火力発電機等を含む概念である。
【0020】
発電機起動台数実績DB33は、発電機起動台数実績を時系列で格納している。発電機起動台数実績とは、電力系統3における過去の発電機起動台数である。ここでの発電機は、再エネ発電機に限定されてもよいし、他の発電機を含んでもよい。
実績分類部21は、過去の各時間帯における需要実績、再エネ出力実績及び発電機起動台数実績の組合せを、複数のパタンのうちのいずれかに分類する。この組合せは、“分類対象実績”と呼ばれる(詳細後記)。分類対象実績は、電力系統3の過去の計測値でもある。
【0021】
調整力調達実績DB34は、調整力調達実績を時系列で格納している。調整力調達実績とは、需給調整市場2における過去の調整力調達量である。
周波数変動実績DB35は、周波数変動実績を時系列で格納している。周波数変動実績とは、電力系統3における過去の周波数変動量(調整力発動後の周波数から調整力発動前の周波数を控除した差分)である。一般的に、事後的に周波数変動量が正値であったということは、調整力が過大であったことを示す。周波数変動量が負値であったということは、調整力が不足していたことを示す。
【0022】
調整力調達実績過不足算出部22は、調整力調達実績及び周波数変動実績に基づいて、調整力過不足率を算出する。調整力過不足率は、過去の調達力が過大であった場合“1.0”より小さくなり、残余需要実績にその1.0より小さな調整力過不足率が乗算されると、乗算結果としての調整力必要量は、残余需要実績よりも小さくなる。逆に、調整力過不足率は、過去の調達力が不足していた場合“1.0”より大きくなり、残余需要実績にその1.0より大きな調整力過不足率が乗算されると、乗算結果としての調整力必要量は、残余需要実績よりも大きくなる。つまり、調整力過不足率は、過去における調整力の過不足を、将来において反対方向に調整する(詳細後記)。
【0023】
需要予測DB36は、需要予測を時系列で格納している。需要予測とは、電力系統3における将来の電力需要の予測値である。
再エネ出力予測DB37は、再エネ出力予測を時系列で格納している。再エネ出力予測とは、電力系統3における将来の再エネ発電機の発電量の予測値である。
発電機起動台数予測DB38は、発電機起動台数予測を時系列で格納している。発電機起動台数予測とは、電力系統3における将来の発電機起動台数の予測値である。ここでの発電機は、再エネ発電機に限定されてもよいし、他の発電機を含んでもよい。
【0024】
調整力必要量算出部23は、将来の各時間帯における需要予測、再エネ出力予測及び発電機起動台数予測の組合せを、前記した複数のパタンのうちのいずれかに分類する。この組合せは、“分類対象予測”と呼ばれる(詳細後記)。分類対象予測は、電力系統3の将来の予測値でもある。そして、調整力必要量算出部23は、分類対象予測と同じパタンに分類された分類対象実績を特定し、その分類対象実績に含まれる需要実績から再エネ出力実績を控除した差分を残余需要実績とする。さらに、調整力必要量算出部23は、残余需要実績に調整力過不足率を乗算した結果を調整力必要量とする(詳細後記)。調整力必要量DB39は、算出された調整力必要量を時系列で格納する。
【0025】
前記した、需要実績、再エネ出力実績、発電機起動台数実績、調整力調達実績、周波数変動実績、及び、後記する系統情報は、電力系統の状態量の過去の計測値である。前記した、需要予測、再エネ出力予測、及び、発電機起動台数予測需要予測は、電力系統の状態量の将来の予測値である。
【0026】
図3は、実績分類部21の処理を説明する図である。実績分類部21は、時系列実績情報61、実績分類情報62及び分類空間63をこの順に作成する。
【0027】
時系列実績情報61においては、過去日付(欄101)、時間帯(欄102)、需要実績(欄103)、再エネ出力実績(欄104)、発電機起動台数実績(欄105)及び残余需要実績(欄106)が相互に関連付けて記憶されている。“MW”(メガワット)及び“台”は、数値の単位である。実績分類部21は、需要実績DB31、再エネ出力実績DB32及び発電機起動台数実績DB33のデータを、時系列実績情報61の需要実績、再エネ出力実績及び発電機起動台数実績として、過去日付ごとかつ時間帯ごとに転記する。実績分類部21又は調整力必要量算出部23は、需要実績から再エネ出力実績を控除した差分を残余需要実績として記憶する。
【0028】
実績分類情報62においては、過去日付(欄111)、最大需要実績(欄112)、再エネ出力実績平均(欄113)、最大発電機稼働台数実績(欄114)及びパタン(欄115)が相互に関連付けて記憶されている。
【0029】
実績分類部21は、ある過去日付のすべての時間帯の需要実績の最大値を当該過去日付の最大需要実績として記憶する。実績分類部21は、ある過去日付のすべての時間帯の再エネ出力実績の平均値を当該過去日付の再エネ出力実績平均として記憶する。実績分類部21は、ある過去日付のすべての時間帯の発電機起動台数実績の最大値を当該過去日付の最大発電機起動台数実績として記憶する。実績分類部21は、後記する分類空間63において分類対象実績を分類した結果であるパタンを記憶する。なお、最大需要実績(欄112)、再エネ出力実績平均(欄113)及び最大発電機稼働台数実績(欄114)の組合せは、前記した分類対象実績の一種であるから、実績分類情報62は、分類対象実績をパタンに分類しているともいえる。
【0030】
分類空間63は、一般的には多次元空間である。ただし、前記した分類対象実績が3次元(最大需要実績、再エネ出力実績平均及び最大発電機起動台数実績)であることに起因し、ここでの分類空間は、これらを各軸に有する3次元空間となっている。実績分類部21は、過去日付ごとの分類対象実績を示す●を分類空間63に描画し、任意の方法(k平均法等)で●を複数のクラスタに分類する。説明の都合上、ここでは3つのクラスタ51~53しか描画されていないが、実績分類部21は、実際にはこれよりも多数のクラスタを生成する。
【0031】
図3においては、実績分類部21は、暦月ごとに時系列実績情報61、実績分類情報62及び分類空間63を作成している。なぜならば、分類空間63の各軸の状態量は、暦月ごとに特徴が出やすいからである。しかしながら、これは一例に過ぎない。
【0032】
図4は、調整力必要量算出部23の処理を説明する図である。調整力必要量算出部23は、時系列予測情報71、予測分類情報72及び調整力必要量決定情報73をこの順に作成する。
【0033】
時系列予測情報71においては、将来日付(欄121)、時間帯(欄122)、需要予測(欄123)、再エネ出力予測(欄124)及び発電機起動台数予測(欄125)が相互に関連付けて記憶されている。調整力必要量算出部23は、需要予測DB36、再エネ出力予測DB37及び発電機起動台数予測DB38のデータを、時系列予測情報71の需要予測、再エネ出力予測及び発電機起動台数予測として、過去日付ごとかつ時間帯ごとに転記する。
【0034】
予測分類情報72においては、将来日付(欄131)、最大需要予測(欄132)、再エネ出力予測平均(欄133)、最大発電機稼働台数予測(欄134)及びパタン(欄135)が相互に関連付けて記憶されている。
【0035】
調整力必要量算出部23は、ある将来日付のすべての時間帯の需要予測の最大値を当該将来日付の最大需要予測として記憶する。調整力必要量算出部23は、ある将来日付のすべての時間帯の再エネ出力予測の平均値を当該将来日付の再エネ出力予測平均として記憶する。調整力必要量算出部23は、ある将来日付のすべての時間帯の発電機起動台数予測の最大値を当該将来日付の最大発電機起動台数予測として記憶する。なお、最大需要予測(欄132)、再エネ出力予測平均(欄133)及び最大発電機稼働台数予測(欄134)の組合せは、前記した分類対象予測の一種であるから、予測分類情報72は、分類対象予測をパタンに分類しているともいえる。
【0036】
調整力必要量算出部23は、将来日付ごとの分類対象予測を示す○(図示せず)を、分類空間63(図3)に描画する。分類空間63には、既にクラスタ51~53が描画されている。当該クラスタ51~53は、過去日付ごとの●を分類しているが、新たに描画された○もまた、これらのクラスタの何れかに分類されることになる。調整力必要量算出部23は、分類対象予測を分類した結果であるパタンを欄135に記憶する。このように、分類対象予測は、分類対象実績と同じ基準(同じ軸の状態量)で分類される。
【0037】
調整力必要量決定情報73においては、時間帯(欄141)、残余需要実績及び調整力不足率(欄142)及び調整率必要量(欄143)が相互に関連付けて記憶されている。
時間帯(欄141)は、ここでは3時間の時間幅を有するが、前記のように30分の時間幅を有していてもよい。
【0038】
欄142には、パタンごと、かつ、そのパタンに分類された過去日付ごとに、残余需要実績及び調整力過不足量の組合せが記憶されている。紙面の制約上、図4の欄142は簡略化されているが、実際にはパタン1、パタン2、パタン3、・・・が横(行)方向に並び、パタンごとに過去日付が、20200801、20200805、20200810、・・・のように横方向に並ぶ。ここでの残余需要実績は、図3の残余需要実績(欄106)と同じである。ここでの調整力過不足率は、前記のように調整力調達実績過不足算出部22が算出したものである(算出方法を後記する)。
調整力必要量(欄143)は、将来日付における時間帯ごとの調整力必要量である。
【0039】
いま、調整力必要量算出部23は、将来日付“20210801”の調整力必要量を算出しようとしている。調整力必要量算出部23は、“20210801”の分類対象予測を、2020年8月の分類空間63に適用し、“パタン1”に分類したとする。いま、例えば、時間帯“0:00~0:30”に注目する。調整力必要量算出部23は、当該時間帯における残余需要実績をパタン1に分類されたすべての過去日付間で比較し、そのうち最大のもの(“20200801”の“1200”)を取得している。調整力必要量算出部23は、この“1200”に対し“20200801”の調整力過不足率“0.95”を乗算し、その結果である“1140”を“20210801”の時間帯“0:00~0:30”における調整力必要量としている。他の時間帯についても同様である。
【0040】
(処理手順)
図5は、第1の実施形態の処理手順のフローチャートである。
ステップS201において、需給調整支援装置1の実績分類部21は、過去実績をパタンに分類する。具体的には、実績分類部21は、図3の説明で前記したように、時系列実績情報61、実績分類情報62及び分類空間63を作成し、過去日付ごとのパタン(実績分類情報62の欄115)を決定する。当該処理は、過去日付ごとに繰り返される。なお、実績分類部21は、以下の式1を使用して、残余需要実績を算出する。ここで“t”は、各時間帯を示している。
【0041】
残余需要実績(t)=需要実績(t)-再エネ出力実績(t) (式1)
【0042】
ステップS202において、需給調整支援装置1の調整力調達実績過不足算出部22は、調整力過不足率を算出する。具体的には、調整力調達実績過不足算出部22は、以下の式2を使用して、調整力過不足率を算出する。ここでの“係数”は、周波数を電力量に換算するものである。当該処理は、過去日付ごと、かつ、時間帯ごとに繰り返される。
【0043】
調整力過不足率(t)
=[調整力調達実績(t)-周波数変動実績(t)×係数]/調整力調達実績(t)
(式2)
【0044】
ステップS203において、需給調整支援装置1の調整力必要量算出部23は、調整力必要力を算出する。具体的には、第1に、調整力必要量算出部23は、図4の説明で前記したように、時系列予測情報71、予測分類情報72及び調整力必要量決定情報73を作成し、調整力必要量(調整力必要量決定情報73の欄143)を算出する。当該処理は、将来日付ごと、かつ、時間帯ごとに繰り返される。
【0045】
第2に、調整力必要量算出部23は、調整力必要量表示画面81(図6)を出力装置13に表示する。調整力必要量表示画面81には、将来日付ごと、かつ、時間帯ごとに、需要予想、再エネ出力予想及び調整力必要量が表示されている。
第3に、調整力必要量算出部23は、ユーザの指示に応じて、調整力必要量を需給調整市場2に送信する。
【0046】
〈第2の実施形態〉
図7は、第2の実施形態の情報の流れ及び処理の流れの概要を説明する図である一般的に、電力系統3又は再エネ発電機の規模が変化すると、その前後おいて、分類対象実績と分類対象予測を比較する(同じパタンのものを探す)ことの有意性が薄れる。そこで、第2の実施形態においては、この規模の変化を需要実績及び再エネ出力実績に反映する。実線の矢印は処理の流れを示し、破線の矢印は、情報の流れを示す。図7は、以下の点において図2と異なる。以下の点以外については、図7は、図2と同じである。
【0047】
図7には、系統情報40が存在する。系統情報40は、電力系統3の系統容量及び再エネ発電機の設備容量(略して“再エネ設備容量”とも呼ばれる)を時系列で格納している。
図7には、残余需要実績補正部24が存在する。残余需要実績補正部24は、式3及び式4を使用して、需要実績及び再エネ出力実績を補正する。残余需要実績補正部24は、需要実績及び再エネ出力実績を補正することによって、それらの差分である残余需要実績を補正することになる。
【0048】
補正後需要実績=補正前需要実績×(現在の系統容量/過去の系統容量)
(式3)
補正後再エネ出力実績
=補正前再エネ出力実績×(現在の再エネ設備容量/過去の再エネ設備容量)
(式4)
【0049】
(処理手順)
図8は、第1の実施形態の処理手順のフローチャートである。
ステップS201aにおいて、需給調整支援装置1の残余需要実績補正部24は、残余需要実績を補正する。具体的には、残余需要実績補正部24は、前記した方法で、時系列の需要実績及び時系列の再エネ出力実績を補正し、補正後需要実績から補正後再エネ出力実績を控除した差分を補正後の残余需要実績とする。結局、残余需要実績補正部24は、残余需要実績を補正することになる。
ステップS201b~S203の処理は、図5のステップS201~S203の処理と同じである。
【0050】
(分類空間の軸)
前記では、図3の分類空間63において最大需要、再エネ出力平均及び最大発電機稼働台数の3つの計測値について、実績及び予測をパタンに分類する例を説明した。しかしながら、分類空間63の軸として、計測値及び予測値のうちどのような状態量をいくつ選択するかはユーザ次第である。最大需要実績から再エネ出力実績平均を控除した差分は、調整力必要量と結果的に近似する場合が多い。したがって、分類空間の軸は、最大需要実績(予測)及び再エネ出力実績(予測)平均とするのが好ましい。より一般的には、分類空間63の各軸は、過去の日付及び将来の日付における電力系統3の特徴がよく現れる状態量であればなんでもよい。
【0051】
(調整力過不足率を使用しない例)
図4の調整力必要量決定情報73において、調整力必要量算出部23は、パタン1に分類された過去のすべての日付の残余需要実績から算出される任意の統計値を調整力必要量としてもよい。ここでの統計値は、例えば“3σ相当値”(小さい方からカウントして、99.87パーセンタイル値)である。
【0052】
(本実施形態の効果)
本実施形態の需給調整支援装置の効果は以下の通りである。
(1)需給調整支援装置は、過去の残余需要実績、将来の残余需要予測及び過去の調整力過不足率に基づき、将来の調整力必要量を算出することができる。
(2)需給調整支援装置は、需要、再エネ出力及び発電機稼働台数を基準にして、将来の予測値に類似する過去の実績値を取得することができる。
(3)需給調整支援装置は、クラスタ分析の手法を使用することができる。
(4)需給調整支援装置は、系統容量の変化に基づいて残余需要実績を補正することができる。
(5)需給調整支援装置は、過去の調整力の過不足を将来において反対方向に修正することができる。
【0053】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0054】
また、前記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウエアで実現してもよい。また、前記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウエアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆どすべての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 需給調整支援装置
2 需給調整市場
3 電力系統
4 計測装置
5 発電機
6 負荷
7 ネットワーク
8a、8b 変圧器
9a、9b、10a、10b ノード(母線)
11 中央制御装置
12 入力装置
13 出力装置
14 主記憶装置
15 補助記憶装置
16 通信装置
21 実績分類部
22 調整力調達実績過不足算出部
23 調整力必要量算出部
24 残余需要実績補正部
31 需要実績DB
32 再エネ出力実績DB
33 発電機起動台数実績DB
34 調整力調達実績DB
35 周波数変動実績DB
36 需要予測DB
37 再エネ出力予測DB
38 発電機起動台数予測DB
39 調整力必要量DB
40 系統情報DB
41a、41b ブランチ(線路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8