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特開2023-62948バルブシート、及びバルブシートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062948
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】バルブシート、及びバルブシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/07 20060101AFI20230427BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20230427BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230427BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230427BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20230427BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230427BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20230427BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20230427BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
C22C19/07 F
C22C27/04 102
C22C38/00 304
B22F1/00 M
B22F1/00 P
B22F1/12
B22F1/14 500
C22C33/02 D
B22F9/08 A
B22F9/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173156
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴨 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 石根
(72)【発明者】
【氏名】中村 竹志
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕作
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017BA03
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB12
4K017BB13
4K017BB16
4K017CA07
4K017EA03
4K017EB00
4K017FA15
4K017FA17
4K018AA24
4K018AB01
4K018AB03
4K018AB05
4K018AB07
4K018AB10
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA11
4K018DA11
4K018DA21
4K018DA32
4K018DA33
4K018FA06
4K018KA10
4K018KA62
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性、焼結性、及び被削性に優れたバルブシート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】バルブシートは、前記バルブシートの総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛を含み、残部が鉄及び不可避不純物からなり、第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0.01~0.5質量%のREM、1~5質量%のCr、30~50質量%のMo、10~35質量%のNi、及び0質量%超、2質量%未満のCを含み、残部がCo及び不可避不純物からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブシートであって、
前記バルブシートの総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛を含み、残部が鉄及び不可避不純物からなり、
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0.01~0.5質量%のREM、1~5質量%のCr、30~50質量%のMo、10~35質量%のNi、及び0質量%超、2質量%未満のCを含み、残部がCo及び不可避不純物からなる、バルブシート。
【請求項2】
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0質量%超、10質量%以下のMnをさらに含む、請求項1に記載のバルブシート。
【請求項3】
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0質量%超、1.5質量%以下のSiをさらに含む、請求項1又は2に記載のバルブシート。
【請求項4】
前記バルブシートが、前記バルブシートの総質量を基準として、0質量%超、10質量%以下の第2硬質粒子をさらに含み、
第2硬質粒子がFe-Mo合金を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のバルブシート。
【請求項5】
バルブシートの製造方法であって、
混合粉末を圧粉成形して、成形体を得るステップと、
前記成形体を焼結するステップと、を含み、
前記混合粉末が、前記混合粉末の総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛粒子を含み、残部が鉄粒子及び不可避不純物からなり、
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0.01~0.5質量%のREM、1~5質量%のCr、30~50質量%のMo、及び10~35質量%のNiを含み、残部がCo及び不可避不純物からなる、方法。
【請求項6】
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0質量%超、10質量%以下のMnをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0質量%超、2質量%未満のCをさらに含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0質量%超、1.5質量%以下のSiをさらに含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合粉末が、前記混合粉末の総質量を基準として、0質量%超、10質量%以下の第2硬質粒子をさらに含み、
第2硬質粒子がFe-Mo合金を含む、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブシート、及びバルブシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる各種エンジンのバルブシートは、高い耐摩耗性を有することが求められる。
【0003】
特許文献1には、2質量%≦Si≦3.5質量%、6質量%≦Cr≦10質量%、20質量%≦Mo≦35質量%、及び、0.01質量%≦REM≦0.5質量%を含有し、残部がCo及び不可避不純物からなることを特徴とする焼結体用硬質粒子粉末が記載されている。また、この焼結体用硬質粒子粉末と純鉄粉及び黒鉛粉末とを混合して混合粉末とする混合工程と、混合粉末を圧粉成形して圧粉体とする成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを経て得られる焼結体をバルブシートとして用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-155681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルブシートは、通常、原料の混合物を焼結し、得られた焼結体を所望の形状に切削加工することにより製造される。そのため、バルブシートの原料が良好な焼結性を有するとともに、その焼結体が良好な被削性を有することが望まれる。
【0006】
そこで、耐摩耗性、焼結性、及び被削性に優れたバルブシート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に従えば、バルブシートであって、
前記バルブシートの総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛を含み、残部が鉄及び不可避不純物からなり、
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0.01~0.5質量%のREM、1~5質量%のCr、30~50質量%のMo、10~35質量%のNi、及び0質量%超、2質量%未満のCを含み、残部がCo及び不可避不純物からなる、バルブシートが提供される。
【0008】
本発明の別の態様に従えば、バルブシートの製造方法であって、
混合粉末を圧粉成形して、成形体を得るステップと、
前記成形体を焼結するステップと、を含み、
前記混合粉末が、前記混合粉末の総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛粒子を含み、残部が鉄粒子及び不可避不純物からなり、
第1硬質粒子が、第1硬質粒子の質量を基準として、0.01~0.5質量%のREM、1~5質量%のCr、30~50質量%のMo、及び10~35質量%のNiを含み、残部がCo及び不可避不純物からなる、方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示のバルブシートは、優れた耐摩耗性、焼結性、及び被削性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、バルブシートの摺動面近傍の組織を模式的に示す図である。
図2図2は、バルブシートの摺動面近傍における第1硬質粒子の組織を模式的に示す図である。
図3図3は、実施例1の試験体の断面SEM像である。
図4図4は、比較例1の試験体の断面SEM像である。
図5図5は、実施例で使用した摩耗試験機を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照して実施形態を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。なお、以下の説明で参照する図面において、同一の部材又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、繰り返しの説明を省略する場合がある。また、図面の寸法比率が説明の都合上実際の比率とは異なったり、部材の一部が図面から省略されたりする場合がある。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0012】
(1)バルブシート
実施形態に係るバルブシートは、バルブシートの総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛を含み、残部が鉄及び不可避不純物からなる。図1に示すように、バルブシート20は、第1硬質粒子40と、鉄及び炭素を含む鉄系合金の基地(マトリクス)60を有してよい。バルブシート20は、バルブシートの総質量を基準として0質量%超、10質量%以下の割合で、フェロモリブデン(Fe-Mo合金)を含む第2硬質粒子80をさらに含んでよいが、第2硬質粒子80は必須ではない。バルブシート20は、相手材(バルブ)の表面(バルブフェース)に対して相対的に摺動する摺動面20aを有する。
【0013】
第1硬質粒子40は、バルブシート20の基地60よりも高い硬度を有する。第1硬質粒子40は、第1硬質粒子40の質量を基準として、0.01~0.5質量%のREM(Rare Earth Metal、希土類金属)、1~5質量%のクロム(Cr)、30~50質量%のモリブデン(Mo)、10~35質量%のニッケル(Ni)、及び0質量%超、2質量%未満のカーボン(C)を含み、残部がコバルト(Co)及び不可避不純物からなる。
【0014】
REMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、及びランタノイドの総称である。REMとして、希土類金属の混合物であるミッシュメタルを用いてよい。第1硬質粒子40が0.01質量%以上のREMを含有することにより、バルブシート20が高い耐摩耗性を有する。第1硬質粒子40のREM含有量が0.5質量%以下であることにより、第1硬質粒子40がバルブシート20の基地60と良好に焼結されて、第1硬質粒子40と基地60が十分な強度で密着する。
【0015】
第1硬質粒子40がMoを30質量%以上含有することにより、バルブシート20が高い耐摩耗性を有することができる。第1硬質粒子40のMo含有量が50質量%以下であることにより、第1硬質粒子40をアトマイズ法により容易に製造することができるとともに、バルブシート20が良好な被削性を有することができる。第1硬質粒子40が適量のMoを含有することにより、第1硬質粒子40の表面に高い潤滑性を有する酸化モリブデン膜が形成され、その結果高い耐摩耗性がもたらされると発明者らは考えている。
【0016】
第1硬質粒子40が1質量%以上のCrを含有することにより、バルブシート20が高い耐摩耗性を有する。第1硬質粒子40のCr含有量が5質量%以下であることにより、バルブシート20が良好な被削性を有する。
【0017】
第1硬質粒子40が10質量%以上のNiを含有することにより、第1硬質粒子40がバルブシート20の基地60と良好に焼結されて、第1硬質粒子40と基地60が十分に密着する。第1硬質粒子40のNi含有量が35質量%以下であることにより、バルブシート20が高い耐摩耗性を有する。
【0018】
第1硬質粒子40がCを含むことにより、バルブシート20が高い耐摩耗性を有する。第1硬質粒子40のC含有量が2質量%未満であることにより、バルブシート20が良好な被削性を有することができる。
【0019】
第1硬質粒子40は、第1硬質粒子40の質量を基準として、0質量%超、10質量%以下のマンガン(Mn)をさらに含んでもよい。第1硬質粒子40のMn含有量が10質量%以下であることにより、第1硬質粒子40をアトマイズ法により容易に製造することができる。
【0020】
第1硬質粒子40は、第1硬質粒子40の質量を基準として、0質量%超、1.5質量%以下のケイ素(Si)をさらに含んでもよい。第1硬質粒子40のSi含有量が1.5質量%以下であることにより、第1硬質粒子40と基地60が十分に密着するとともに、バルブシート20が良好な被削性を有することができる。
【0021】
第1硬質粒子40は、上記成分の残部として、コバルト(Co)及び不可避不純物を含む。
【0022】
第1硬質粒子40の粒径は、例えば44~250μmの範囲内であってよいが、これに限定されない。ここで、所望の粒径を有する第1硬質粒子40は、JIS Z 8801-1:2019に準拠したふるいを用いて得ることができる。第1硬質粒子40の粒径が上記範囲内であることにより、第1硬質粒子40が良好な流動性を有する。
【0023】
第1硬質粒子40は、上記の質量割合で各元素を含有する溶湯を噴霧するアトマイズ法により製造することができる。特に、不活性ガスを噴霧媒体として用いるガスアトマイズ法により製造してよい。
【0024】
図2に、バルブシート20の摺動面20aで露出している第1硬質粒子40の、摺動面20a近傍における組織を、模式的に示す。第1硬質粒子40は、マトリクス42と、マトリクス42中に分散した硬質相44と、を含む。マトリクス42は、Co並びにCo中に固溶したMo及びREMを含む。硬質相44は、Cr炭化物及びMo炭化物を含む。バルブシート20を高温環境に曝すと、マトリクス42の表面には酸化膜46が形成される。酸化膜46は、バルブシート20が相手材(バルブ)に対して相対的に摺動するときに、第1硬質粒子40が相手材の表面(バルブフェース)に凝着することを抑制し、それによりバルブシート20の摺動面20aの摩耗を抑制する。酸化膜46は酸化モリブデンを含んでよく、さらに酸化クロムを含んでもよい。酸化モリブデンは、高い潤滑性を有するため、バルブシート20に優れた耐摩耗性をもたらす。また、CrはMoよりも炭化物を形成しやすいため、第1硬質粒子40に含まれる適量のCrが、マトリクス42へのMoの固溶量を増加させる。その結果、酸化膜46が十分な酸化モリブデンを含有し、バルブシート20の耐摩耗性が向上すると発明者らは考えている。
【0025】
このように、実施形態に係るバルブシート20の摺動面20aに露出した第1硬質粒子40の表面には、酸化膜46、特に酸化モリブデンを含む酸化膜46が容易に形成される。エンジン用のバルブシートは、近年のエンジンの性能向上に伴い、高温且つ低酸化雰囲気中でも高い耐摩耗性を発揮することが要求される。実施形態のバルブシート20が高温且つ低酸化雰囲気中に曝された場合、バルブシート20の摺動面20aに露出した第1硬質粒子40の表面には、十分な酸化膜46(特に酸化モリブデン膜)が形成されるため、バルブシート20は高い耐摩耗性を発揮することができる。
【0026】
第2硬質粒子80は、第1硬質粒子40と同様に、バルブシート20の基地60よりも高い硬度を有する。第2硬質粒子80は、バルブシート20の耐摩耗性を向上させる。
【0027】
第2硬質粒子80は、Fe-Mo合金の粒子である。第2硬質粒子は、鉄(Fe)及びMoを含む。第2硬質粒子は、Fe、Mo、及び不可避不純物からなってもよい。第2硬質粒子の粒径は、例えば45μm以下であってよいが、これに限定されない。
【0028】
第2硬質粒子80は、上記の質量割合で各元素を含有する溶湯を凝固させ、凝固体を機械的粉砕することにより製造してもよいし、ガスアトマイズ法又は水アトマイズ法等で製造してもよい。
【0029】
バルブシート20は、さらに、被削性向上のための成分、例えば、フッ化物(例えばSrF、CaF)、硫化物(例えばMnS)、酸化物(例えばCaCO)、窒化物(例えばBN)、酸硫化物等を含有していてもよい。
【0030】
(2)バルブシートの製造方法
上記のバルブシートは、混合粉末を圧粉成形して成形体を得るステップと、成形体を焼結するステップと、を含む製造方法により製造することができる。
【0031】
混合粉末は、混合粉末の総質量を基準として、5~50質量%の第1硬質粒子、及び0.6~2.0質量%の黒鉛粒子を含み、残部が鉄粒子及び不可避不純物からなる。混合粉末は、任意選択で、混合粉末の総質量を基準として、0質量%超、10質量%以下の第2硬質粒子をさらに含んでもよい。第1硬質粒子、黒鉛粒子、及び鉄粒子、並びに任意選択で第2硬質粒子を上記の質量割合で混合することで混合粉末が得られる。
【0032】
第1硬質粒子と第2硬質粒子については既に詳述したため、ここでは説明を省略する。なお、混合粉末中の第1硬質粒子は、製造されるバルブシート中の第1硬質粒子と同様に、0質量%超、2質量%未満のカーボンを含んでよいが、混合粉末中の第1硬質粒子がカーボンを含むことは必須ではない。混合粉末中の第1硬質粒子がカーボンを含まない場合、混合粉末から作製された成形体を焼結するステップにおいて、黒鉛粒子から第1硬質粒子に少なくとも微量のカーボンが拡散する。そのため、製造されるバルブシート中の第1硬質粒子はカーボンを含む。その結果、バルブシート中の第1硬質粒子はCr炭化物及びMo炭化物を含む硬質相を有することができる。なお、後述の実施例で示すように、カーボンを含む第1硬質粒子を用いて製造されたバルブシートは、カーボンを含まない第1硬質粒子を用いて製造されたバルブシートよりも高い耐摩耗性を有することができる。
【0033】
黒鉛粒子としては、天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、又はこれらの混合物を用いることができる。黒鉛粒子は、1~45μmの範囲内の粒径を有してよいがこれに限定されない。
【0034】
鉄粒子は、Feを主成分とする鉄粒子から構成される。鉄粒子として、Fe-C系粉末等の低合金鋼粉末、純鉄粉等を用いることができる。鉄粒子は、鉄粒子の総質量を基準として、0~5質量%のカーボンを含んでよく、残部が不可避不純物とFeからなってよい。また、鉄粒子は、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、又は還元粉であってよい。鉄粒子は150μm以下の粒径を有してよい。
【0035】
混合粉末に、さらに、他の成分を添加してもよい。例えば、混合粉末は、圧粉成形時の潤滑性を向上させるための潤滑剤(例えばステアリン酸亜鉛)、焼結体の被削性を向上させるための成分(例えば、フッ化物(例えばSrF、CaF)、硫化物(例えばMnS)、酸化物(例えばCaCO)、窒化物(例えばBN)、酸硫化物)を含有し得る。
【0036】
得られた混合粉末を圧粉成形し、成形体を得る。
【0037】
次いで、成形体を焼結し、焼結体を得る。焼結温度及び焼結時間は適宜選択してよい。焼結は、非酸化性雰囲気中、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中、又は真空雰囲気中で行ってよい。次いで、必要に応じて、焼結体をバルブシートの形状に切削加工する。それにより、図1に示すような、第1硬質粒子40と、鉄及び炭素を含む鉄系合金の基地(マトリクス)60と、任意選択で第2硬質粒子80とを有するバルブシート20が得られる。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1~7及び比較例1~8の各々において、表1に記載の組成を有する第1合金粒子を、ガスアトマイズ法により作製した。得られた第1合金粒子を、JIS Z 8801-1:2019に準拠したふるいを用いて分級し、44μm~250μmの範囲内の粒子径を有する第1合金粒子を、第1硬質粒子として得た。
【0040】
実施例1~6及び比較例1~8の各々において、Fe-Mo合金粒子を、粉砕法により作製した。Fe-Mo合金粒子を、JIS Z 8801-1:2019 に準拠したふるいを用いて分級し、45μm以下の範囲内の粒子径を有するFe-Mo合金粒子を、第2硬質粒子として得た。第2硬質粒子の粒径分布をレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。第2硬質粒子の粒子径は10~45μmの範囲内であった。
【0041】
第1硬質粒子、第2硬質粒子、黒鉛粒子(日本黒鉛工業製:CPB-S)、及び還元鉄粉(JEFスチール:JIP255M-90)を、表1に記載の質量割合で混合し、さらに、成形潤滑剤として、第1硬質粒子、第2硬質粒子、黒鉛粒子、還元鉄粉、及びステアリン酸亜鉛の総質量を基準として、0.8質量%のステアリン酸亜鉛を加え、V型混合器を用いて30分間混合した。これにより混合粉末を得た。
【0042】
次に、成形型を用い、得られた混合粉末を784MPaの圧力で圧粉成形してリング状の成形体を得た。この成形体を1100℃の窒素雰囲気中で30分間焼結して、試験体を得た。
【0043】
<焼結性の評価>
作製した試験体の内部組織を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。具体的には、試験体を割断し、割断面をナイタル溶液でエッチングした後、SEMで観察した。実施例1及び比較例1の試験体の断面SEM像を、図3、4にそれぞれ示す。実施例1の試験体においては、第1硬質粒子から鉄系基地への十分な原子拡散の痕跡(SEM像中の第1硬質粒子周辺の白色部分)が見られ、良好に焼結されたことが確認された。第1硬質粒子の質量を基準とするNi含有量が10質量%未満である第1硬質粒子を用いた比較例1の試験体においては、第1硬質粒子から鉄系基地への原子拡散の痕跡が不十分であり、焼結が不十分であったことが確認された。実施例2~7及び比較例2~8の試験体については、実施例1と同様に、良好に焼結されたことを確認した。
【0044】
<被削性の評価>
実施例1~7および比較例2~8の試験体を、後述する摩耗試験に用いるバルブシートの形状に切削加工した。表1に示すように、第1硬質粒子の質量を基準として5質量%を超えるCrを含む第1硬質粒子を用いた比較例5、及び第1硬質粒子の質量を基準として2質量%以上のCを含む第1硬質粒子を用いた比較例8の試験体は、所望の形状に切削されず、被削性が不十分であることが示された。実施例1~7及び比較例2~4、6、7の試験体は所望の形状に切削することができ、良好な被削性を有することが示された。
【0045】
<耐摩耗性の評価>
図5に示す試験機を用いて、実施例1~7及び比較例2~4、6、7の試験体の摩耗試験を行った。図5の試験機は、加熱源であるプロパンガスバーナー10と、バルブシート20と、バルブフェース14を有するバルブ13と、スプリング16とを備える。バルブシート20として、切削加工した試験体を用いた。バルブフェース14は、EV12(SAE規格)を軟窒化処理して作製した。バルブ13の上面13aとバルブシート20の上面である基準面Pが面一になるように、バルブ13とバルブシート20を設置した。次いで、バルブシート20とバルブフェース14の摺動面の周囲をプロパンガス燃焼雰囲気とし、バルブシート20の温度を300℃に制御し、8時間にわたり、2000回/分の頻度で、バルブシート20とバルブフェース14とを接触させた。バルブシート20とバルブフェース14との接触時には、スプリング16により18kgfの荷重を付与した。
【0046】
その後、基準面Pからのバルブ13の上面13aの沈み量、すなわち、基準面Pとバルブ13の上面13aの軸方向位置(図5中のZ方向位置)の差を測定した。この値は、バルブシート20とバルブフェース14の接触によるバルブシート20及びバルブフェース14の摩耗量に相当する。実施例7の試験体(バルブシート20)の沈み量を1.0として、実施例1~6及び比較例2~4、6、7の試験体の相対的な沈み量(摩耗比)をそれぞれ求めた。結果を表1中に示す。
【0047】
第1硬質粒子の質量を基準として10~35質量%の範囲内のNiを含む第1硬質粒子を用いた実施例1~7の試験体は、第1硬質粒子の質量を基準として35質量%を超えるNiを含む第1硬質粒子を用いた比較例2の試験体よりも摩耗量が小さかった。また、実施例1~7の試験体は、第1硬質粒子の質量を基準として35質量%を超えるNi及び30質量%未満のMoを含む第1硬質粒子を用いた比較例3の試験体よりも摩耗量が小さかった。
【0048】
第1硬質粒子の質量を基準として1~5質量%の範囲内のCrを含む第1硬質粒子を用いた実施例1~7の試験体は、Crを含まない第1硬質粒子を用いた比較例4の試験体よりも摩耗量が小さかった。
【0049】
第1硬質粒子の質量を基準として0.01~0.5質量%の範囲内のREMを含む第1硬質粒子を用いた実施例1~7の試験体は、REMを含まない第1硬質粒子を用いた比較例6の試験体よりも摩耗量が小さかった。
【0050】
試験体の総質量を基準として0.6~2.0質量%の範囲内の黒鉛を含む実施例1~7の試験体は、試験体の総質量を基準として0.6質量%未満の黒鉛を含む比較例7の試験体よりも摩耗量が小さかった。
【0051】
第1硬質粒子の質量を基準として0質量%超、2質量%未満の範囲内のCを含む第1硬質粒子を用いた実施例4の試験体は、Cを含まない第1硬質粒子を用いた実施例5の試験体よりも一層摩耗量が小さかった。
【0052】
試験体の総質量を基準として0質量%超、10質量%以下の範囲内の第2硬質粒子を含む実施例1、6の試験体は、第2硬質粒子を含まない実施例7の試験体よりも、一層摩耗量が小さかった。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
13 バルブ
14 バルブフェース
16 スプリング
20 バルブシート
20a 摺動面
40 第1硬質粒子
42 マトリクス
44 硬質相
46 酸化膜
60 基地
80 第2硬質粒子
図1
図2
図3
図4
図5