(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023062950
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】車両情報管理装置、車両情報管理システム及び空調装置の異常判定方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20230427BHJP
B61D 27/00 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61D27/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173158
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】北井 瑳佳
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM03
5H161NN10
5H161NN20
5H161PP11
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の空調装置の故障予兆や異常を高精度で検出すること。
【解決手段】車両情報管理装置は、車両に設置される空調装置に関する空調センサ情報と、車両のドアのドア開頻度に関するドア開情報とを少なくとも含む車上データを取得するセンサ群と、車上データを解析することで、所定の検査区間について、車両に関する温度特徴量及びドア開頻度に関するドア開頻度特徴量を含む特徴量群を前記車上データから抽出する特徴抽出部と、特徴量群と、空調装置の正常時の運転特性を示す正常モデルとに基づいて、空調装置に関する異常又は異常予兆の有無を示す異常判定結果を生成し、出力する異常判定部とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両情報管理装置であって、
車両に設置される空調装置に関する空調センサ情報と、前記車両のドアのドア開頻度に関するドア開情報とを少なくとも含む車上データを取得するセンサ群と、
前記車上データを解析することで、所定の検査区間について、前記車両に関する温度特徴量及びドア開頻度に関するドア開頻度特徴量を含む特徴量群を前記車上データから抽出する特徴抽出部と、
前記特徴量群と、前記空調装置の正常時の運転特性を示す正常モデルとに基づいて、前記空調装置に関する異常又は異常予兆の有無を示す異常判定結果を生成し、出力する異常判定部と、
を含むことを特徴とする車両情報管理装置。
【請求項2】
前記ドア開情報は、
特定の区間における前記車両の走行時間の長さに対する、前記車両のドア開時間の割合を示す情報である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両情報管理装置。
【請求項3】
前記特徴抽出部は、
前記車両のドア開時間が所定の閾値以上である第1の駅でドアが閉まった時刻から、ドア開時間が閾値以上である第2の駅でドアが開く直前の時刻までを前記検査区間として設定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両情報管理装置。
【請求項4】
前記特徴抽出部は、
前記検査区間を、
前記車両内の温度変化率が所定の値より大きい追従区間と、
前記車両内の温度変化率が所定の値以下である安定区間とに分割し、
前記温度変化率は、
前記車両内の瞬時温度変化率の移動中央値である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の車両情報管理装置。
【請求項5】
前記車両情報管理装置は、
前記車両に設置され、前記車両の車内の様子を示す第1の映像データを取得する第1の撮像部と、
前記第1の撮像部から取得した前記第1の映像データに対する映像処理手法を用いることで、前記車両の窓の開口率を示す窓開口率情報を判定する窓開口率推定部とを更に含み、
前記特徴抽出部は、
前記車両に関する窓開口率特徴量を前記窓開口率情報から抽出し、前記特徴量群に含める、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両情報管理装置。
【請求項6】
前記車両情報管理装置は、
前記車両の上空を示す第2の映像データを取得する第2の撮像部と、
前記第2の撮像部から取得した前記第2の映像データに対する映像処理手法を用いることで、日照度時間履歴を判定する第1の日照度推定部とを更に含み、
前記特徴抽出部は、
日照度に関する日照度特徴量を前記日照度時間履歴から抽出し、前記特徴量群に含める、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両情報管理装置。
【請求項7】
前記車両情報管理装置は、
区間毎に、特定の区間が地上の区間か地下の区間かを示す走行区間種別対応表と、前記車両の在線区間とに基づいて、前記車両の前記在線区間の走行区間種別を特定し、
前記走行区間種別と、前記在線区間に関する天候情報とに基づいて、日照度時間履歴を判定する第2の日照度推定部とを更に含み、
前記特徴抽出部は、
日照度に関する日照度特徴量を前記日照度時間履歴から抽出し、前記特徴量群に含める、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両情報管理装置。
【請求項8】
車両情報管理システムであって、
車両に設置される空調装置に関する空調センサ情報と、前記車両の車内温度に影響を与える温度変動要因に関する温度変動要因情報とを少なくとも含む車上データを取得するセンサ群と、
前記車両に設置され、前記センサ群によって取得される前記車上データを集約し、外部に送信する車両情報管理装置と、
通信ネットワークを介して、前記車上データを前記車両情報管理装置から受信し、前記空調装置に関する異常の有無を判定する異常判定装置と、
を含み、
前記異常判定装置は、
前記車上データを解析することで、所定の検査区間について、前記車両に関する温度特徴量及び温度変動要因に関する温度変動特徴量を含む特徴量群を前記車上データから抽出する特徴抽出部と、
前記特徴量群と、前記空調装置の正常時の運転特性を示す正常モデルとに基づいて、前記空調装置に関する異常又は異常予兆の有無を示す異常判定結果を生成し、出力する異常判定部と、
を含むことを特徴とする車両情報管理システム。
【請求項9】
前記温度変動要因情報は、
前記車両のドアのドア開頻度の情報、前記車両の窓の窓開口率の情報、及び前記車両の在線区間の内、少なくとも一方を含む、
ことを特徴とする、請求項8に記載の車両情報管理システム。
【請求項10】
空調装置の異常判定方法であって、
車両に設置される空調装置に関する空調センサ情報と、前記車両のドアのドア開頻度に関するドア開情報とを少なくとも含む車上データを取得する工程と、
前記車両のドア開時間が所定の閾値以上である第1の駅でドアが閉まった時刻から、ドア開時間が閾値以上である第2の駅でドアが開く直前の時刻までを検査区間として設定する工程と、
前記車上データを解析することで、前記検査区間について、前記車両に関する温度特徴量及びドア開頻度に関するドア開頻度特徴量を含む特徴量群を前記車上データから抽出する工程と、
前記特徴量群と、前記空調装置の正常時の運転特性を示す正常モデルとに基づいて、前記空調装置に関する異常又は異常予兆の有無を示す異常判定結果を生成し、出力する工程と、
を含むことを特徴とする異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両情報管理装置、車両情報管理システム及び空調装置の異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に搭載される空調装置を効率的かつ費用効果の高い運転状態に維持するためには、保守作業の実施が重要であり、この保守作業について様々な方式が提案されている。
一例として、故障の有無に関わらず、空調装置の保守を一定周期で行うTBM(Time Based Maintenance)方式が知られている。また、近年では、保守の時期を待たずに、空調の故障予兆が見られる場合に保守作業を行うCBM(Condition Based Maintenance)方式が提案されている。
【0003】
CBMでは、TBMにおいて発生する、故障が無いにもかかわらず保守を行う、という工程の発生を抑制することができるため、保守を行う頻度を低減することができ、鉄道車両空調装置の保守コスト低減が期待される。
【0004】
鉄道車両空調装置においてCBMを実現するには、空調装置の状態を監視する温度センサなどからのデータを用い、空調装置の故障予兆を判定する手段が必要である。故障予兆の判定は、車内温度や、冷房の負荷要因である外気温といったセンサ情報を適切な特徴量に変換し、故障予兆判定手法に入力することで実施される。特徴量の抽出方法や故障予兆の判定手法について、例えば特許文献1において提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、「エネルギー面で無駄な運転状態であったとしても早期把握ができず、その状態の度合いが極端に悪化するまで報知されず問題であった。空調機5から出力される運転データを所定のサンプリングタイムで取得するデータ取得部6と、データ取得部6で取得した運転データに基づいて空調機5の運転状態が正常か否かを推定する運転状態推定部7とを備え、運転状態推定部7は、複数種類の運転データを対象とし、各運転データ毎に所定時間内に含まれる複数サンプリングデータを処理して得られるデータを特徴量データとし、これらの特徴量データを纏めて1データセットとすると共に、順次取得した複数データセットから基準空間を構築し、その後取得したデータセットが基準空間に対し正常であるか否かをマハラノビスの距離を用いて判定することを特徴とする」技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、空調機が出力するデータを用い、空調起動直後の区間と安定稼働区間に分け、空調起動直後の区間では温度回帰直線傾き等、安定稼働区間では時間帯ごとの温度平均等を特徴量として用いる手段が開示されている。また、故障予兆の判定手法については、空調装置の保守後に一定期間、空調装置データを処理して得られる特徴量のデータセットを複数蓄積することで基準空間を構築し、その後に取得した特徴量データセットが基準空間に対して正常であるか否かをマハラノビス距離によって判定する方法が開示されている。
【0008】
一般に、鉄道車両は駅に到着するとドアが開き、外気が流入するため、車内温度が外気温度に接近する。ある時間区間においてドアが開いている時間が長い、即ちドア開の頻度が大きいほど、外気の流入量が多いため、車内温度の目標温度への追従性が悪化する。そのため、ドア開頻度は、鉄道空調における車内温度が目標温度から乖離する温度変動要因である。
【0009】
しかし、ドア開頻度が大きいことが主たる原因で空調装置の追従性が悪化している場合、空調装置自体は正常であることから、故障判定手法においても正常と判定しなければならない。そのため、鉄道空調装置における故障判定手法は、ドア開頻度による空調性能の影響に拠らず、正しく正常、異常を判定することが重要である。
【0010】
特許文献1に記載の異常検出手段では、異常判定に用いる特徴量として室内温度などを使用しているが、ドア開の頻度等の温度変動要因は特徴量に含まれておらず、ドア開の頻度等による温度変動が考慮されていない。そのため、鉄道運用時において、車内温度が高く、基準空間に対するマハラノビス距離が大きい場合に、空調の故障予兆が原因か、ドア開頻度が高いことが原因かを判別することが難しく、ドア開頻度が原因であった場合は誤判定に繋がる可能性がある。このため、特許文献1に記載の異常検出手段では、異常の判定制度が限定されてしまう。
【0011】
このように、鉄道空調装置に故障予兆判定手法を適用する場合、鉄道車両の様々な温度変動要因を考慮することが重要であり、ドア開頻度はその一例である。したがって、ドア開頻度などの温度変動要因を特徴量として用いて、鉄道車両の空調装置の故障予兆や異常を高精度で検出する手段が求められている。
【0012】
そこで、本開示は、ドア開頻度などの温度変動要因を特徴量として用いることで、鉄道車両の空調装置の故障予兆や異常を高精度で検出する車両情報管理手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の車内情報装置の一つは、車両に設置される空調装置に関する空調センサ情報と、前記車両のドアのドア開頻度に関するドア開情報とを少なくとも含む車上データを取得するセンサ群と、前記車上データを解析することで、所定の検査区間について、前記車両に関する温度特徴量及びドア開頻度に関するドア開頻度特徴量を含む特徴量群を前記車上データから抽出する特徴抽出部と、前記特徴量群と、前記空調装置の正常時の運転特性を示す正常モデルとに基づいて、前記空調装置に関する異常又は異常予兆の有無を示す異常判定結果を生成し、出力する異常判定部とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ドア開頻度などの温度変動要因を特徴量として用いることで、鉄道車両の空調装置の故障予兆や異常を高精度で検出する車両情報管理手段を提供することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の発明を実施するための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の実施例1に関わる車両情報管理システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例1に係る特徴量抽出に用いるデータの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例1に係る追従区間及び安定区間の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例1に係る特徴量抽出方法の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本開示の実施例1に係る追従間一時保存データベースの構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例1に係る安定区間一時保存データベースの構成の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施例1に係る追従区間保存データベースの構成の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施例1に係る安定区間保存データベースの構成の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施例2に係る車両情報管理システムの構成の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施例2に係る特徴量抽出に用いるデータの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施例3に係る車両情報管理システムの構成の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施例3に係る特徴量抽出に用いるデータの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本開示の実施例4に係る車両情報管理システムの構成の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施例4に係る走行区間種別対応表の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、本開示の実施例4に係る特徴量抽出に用いるデータの一例を示す図である。
【
図16】
図16は、本開示の実施例4に係る特徴量抽出に用いるデータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例0017】
まず、
図1~8を参照して、鉄道車両のドア開頻度を特徴量として用いることで、空調装置の異常判定を行う本開示の実施例1に関わる車両情報管理システム1について説明する。
(車両情報管理システム1の構成)
【0018】
図1は、本開示の実施例1に関わる車両情報管理システム1の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、本開示の実施例1に関わる車両情報管理システム1は、車両10と、車両10において設置される空調装置101と、空調装置101における空調センサ102と、各種データの管理を行う車両情報管理装置103と、異常の判定を行う異常判定装置30とから主に構成される。
【0019】
車両10は、空調装置101、空調センサ102、車両情報管理装置103等を搭載した筐体であり、例えば鉄道を走行する列車編成に含まれる鉄道車両であってもよい。ただし、本開示に関わる車両10は、鉄道車両に限定されず、例えば建設機械、自動車、エレベータ、モノレール等であってもよい。
【0020】
空調装置101は、車両10に搭載される空気調和装置であり、例えば冷房、除湿、暖房、及び/又は送風等の機能を備えてもよい。
【0021】
空調センサ102は、空調装置101に設置されるセンサであり、例えば空調装置101の車内温度(リターン温度時間履歴や吐出口温度時間履歴)、湿度、気圧等に関する時系列の空調センサ情報を取得することができる。空調センサ102は、例えば空調装置101のリターン口や吐出口、冷媒配管等に設置されてもよい。
【0022】
車両情報管理装置103は、車両10に設置される各種装置に関する情報や、車両10に設置される各種センサのセンサ情報を収集し、車上データ20として管理する装置である。後述する異常判定装置30は、通信ネットワークを介して車両情報管理装置103からアクセス可能な遠隔サーバやクラウドサーバとして実装される場合、車両情報管理装置103は、収集した車上データ20を無線通信を介して異常判定装置30に送信してもよい。一方、異常判定装置30は、車両10において実装される場合、車両情報管理装置103はLAN等のローカル通信を介して車上データ20を異常判定装置30に転送してもよい。
【0023】
車両情報管理装置103に管理される車上データ20は、上述した空調センサ102によって取得される空調センサ情報と、例えば車両の乗車率やドア開閉、冷房設定温度、暖房設定温度、外気温度等、車両10に設置される他のセンサによって取得される追加情報とを含む。
なお、後述するように、この車上データ20は、空調装置101が正常に作動している期間において取得され、正常モデルの作成に用いられる正常時車上データ201や、空調装置101が正常か否かが不明な期間において取得され、異常判定の対象となる実運用時車上データ202のいずれか一方であってもよい。
【0024】
異常判定装置30は、車上データ20を用いて正常モデルの作成や、空調装置の異常判定を行う装置である。異常判定装置30は、例えば車両10から通信ネットワークを介してアクセス可能な地上設備として実装されてもよく、車両10において車両情報管理装置103と一体に構成されてもよい。また、ある実施例では、異常判定装置30の機能は、インターネット等のネットワークを介して車両10と通信可能に接続されているクラウドによって実施されてもよい。
図1に示すように、異常判定装置30は、車上データ20から特徴量を抽出するための特徴量抽出部301と、正常モデルを作成するためのモデル作成部303と、正常モデルを保存するためのモデル保存部304と、異常判定を行うための異常判定部305とを含む。
【0025】
本実施例に関わる車両情報管理は、正常モデル作成と、運用時異常判定という、2つの処理から構成される。正常モデル作成とは、空調装置101が正常に作動している期間においてデータを蓄積し、異常判定に用いる正常モデルを作成する処理であり、運用時異常判定とは、運用時に取得した空調センサデータと上述した正常モデルを用い、空調装置101の異常判定を行う処理である。
(正常モデル作成)
【0026】
以下、
図1に示す異常判定装置30に含まれる機能部を参照し、本開示の実施例に関わる異常判定に用いられる正常モデルの作成について説明する。上述したように、正常モデルとは、空調装置101が正常に作動している期間において取得される正常時車上データ201によって作成され、空調装置101の正常時の運転特性を示す統計モデルであり、異常の有無を判定するために実運用時車上データ202が比較される基準となる。
【0027】
まず、空調装置101が正常に作動している期間に、車両10内の車両情報管理装置103は、空調センサ102から空調センサ情報を取得する。その後、車両情報管理装置103は、取得した空調センサ情報を含む正常時車上データ201を、異常判定装置30に送信する。
【0028】
次に、空調装置101が正常に作動している期間において取得される正常時車上データ201が異常判定装置30の特徴量抽出部301に入力される。特徴量抽出部301は、車上データ20(正常時車上データ201及び実運用時車上データ202)から、特徴量群を抽出する機能部である。
ここでの特徴量群とは、ある時刻又は時間帯に対応する複数種類の特徴量を含むデータ集合である。また、ここでの特徴量とは、例えば車内温度や外気温度等のデータから算出される、平均値や中央値等の代表値である。一例として、ある時間帯に対応する車内温度平均値及び外気温度平均値を異常判定に用いる特徴量とした場合、特徴量群は車内温度平均値及び外気温度平均値の集合である。
【0029】
次に、特徴量抽出部301は、正常時車上データ201を処理し、適切な特徴量の組み合わせを正常時特徴量群として抽出し、正常時蓄積特徴量群302へ蓄積する。ここでの正常時蓄積特徴量群302は、特徴量抽出部301によって正常時車上データ201から抽出された正常時特徴量群が、複数の時間や環境条件にわたって蓄積されたものである。
【0030】
次に、モデル作成部303は、所定の量の正常時特徴量群が正常時蓄積特徴量群302へ蓄積された後、これらの正常時蓄積特徴量群302を用いて、正常時の空調装置の運転特性を示す正常モデルを作成する。ここでの正常モデルの形態は、後述する異常判定部において用いられる異常判定手法に依存する。例えば、異常判定をクラスタリング手法によって行う場合、正常モデルは、特徴量空間において正常時蓄積特徴量群302が存在するクラスタの代表点であってもよい。また、異常判定を深層学習によって行う場合、正常モデルは、外気温度等の情報から車内代表温度を推定する学習モデルの構造や重み付けであってもよい。ここでの車内代表温度とは、車両10の代表温度であり、例えばリターン温度の時間平均値であってもよい。
【0031】
次に、モデル作成部303は、作成した正常モデルをモデル保存部304に保存する。このモデル保存部304は、モデル作成部303によって作成された正常モデルを保存するための記憶部である。
(運用時異常判定)
【0032】
以下、
図1に示す異常判定装置30に含まれる機能部を参照し、本開示の実施例に関わる運用時異常判定について説明する。上述したように、運用時異常判定とは、運用時に取得した空調センサデータと上述した正常モデルを用い、空調装置101の異常判定を行う処理である。
【0033】
まず、正常時モデル作成に用いられる正常時車上データ201とは異なる期間(例えば、空調装置101が正常に作動しているか否かを検証する車両10の運用時に対応する期間)において取得される実運用時車上データ202が異常判定装置30の特徴量抽出部301に入力される。特徴量抽出部301は、この実運用時車上データ202から、運用時特徴量群312を抽出する。
ここでの運用時特徴量群312は、特徴量抽出部301によって実運用時車上データ202から抽出された特徴量群であり、上述した正常時蓄積特徴量群302と実質的に同様の種類の特徴量を含む。
【0034】
次に、異常判定部305は、上述したモデル作成部303によって作成された正常時モデルと、運用時特徴量群312とを用いて、空調装置101の異常判定を行い、異常判定結果306を出力する。
より具体的には、異常判定部305は、モデル保存部304に保存した正常モデル及び運用時特徴量群312を入力とし、所定の異常判定手法を用いることで、異常予兆の有無又は異常の有無を示す異常判定結果306を生成する。異常判定部305が用いる異常判定手法は特に限定されず、クラスタリング手法や深層学習等であってもよい。
【0035】
一例として、異常判定をクラスタリング手法によって行う場合、異常判定部305は、特徴量空間において、正常クラスタの代表点と運用時特徴量群を表す点との距離を算出し、当該距離に応じて異常を判定してもよい。算出した距離が所定の閾値以上の場合には、異常判定部305は、空調装置101において異常予兆が発生していると判定し、異常予兆が発生している旨を示す異常判定結果306を出力する。一方、算出した距離が所定の閾値未満の場合、異常判定部305は、空調装置101において異常予兆が発生していないと判定し、異常予兆が発生していない旨を示す異常判定結果306を出力する。
【0036】
別の一例として、異常判定を深層学習によって行う場合、異常判定部305は、例えば車内代表温度以外の運用時特徴量群312を学習モデルに入力して第1の車内代表温度を推定し、運用時特徴量群312における第2の車内代表温度と第1の車内温度の差分の値に応じて異常判定を行ってもよい。この差分が所定の閾値以上の場合には、異常判定部305は、空調装置101において異常予兆が発生していると判定し、異常予兆が発生している旨を示す異常判定結果306を出力する。一方、この差分が所定の閾値未満の場合、異常判定部305は、空調装置101において異常予兆が発生していないと判定し、異常予兆が発生していない旨を示す異常判定結果306を出力する。
【0037】
上述したように、異常判定結果306は、異常判定部305より出力される異常予兆があるか否か、又は、異常が発生しているか否かを示す情報である。異常判定結果306は、例えば「0:異常予兆無し」、「1:異常予兆発生」、「2:異常発生」等の整数で表現してもよい。
【0038】
以上説明した車両情報管理システム1によれば、ドア開頻度などの温度変動要因を特徴量として用いることで、鉄道車両の空調装置の故障予兆や異常を高精度で判定することが可能となる。
【0039】
次に、
図2を参照して、本開示の実施例1に関わる特徴量抽出に用いるデータ及び特徴量抽出方法について説明する。
図2は、上述した車上データ20から、本実施例における特徴量を抽出するために用いるデータを抜粋した模式図である。
図2に示すように、車内温度G102の時系列データと、車内温度の変動要因として、外気温度G103、設定温度G104、乗車率G105、ドア開信号G106の時系列データを含んでもよい。
図2に示す上記のデータから、本開示の実施例に関わる特徴量が抽出され、抽出された特徴量が特徴量群として集合される。
【0040】
これらの特徴量は、所定の検査区間G101について抽出される。この検査区間G101とは、特徴量が抽出されるデータに対応する時間区間である。一例として、所定の第1の時刻から所定の第2の時刻までを検査区間G101として設定してもよい。検査区間G101の長さは、異常判定を実施する周期や車上データ20の特徴によって定められてもよい。
【0041】
例えば、1日毎に異常判定を実施する場合には、検査区間G101の長さは1日であり、運用開始時刻を5:00、運用終了時刻を23:00とした場合、検査区間G101は5:00~23:00となる。また、例えば日照による車内温度の上昇等の理由から、車内温度が時間帯によって異なるという知見がある場合は、検査区間G101を時間帯で区切り、検査区間G101の長さを1時間としてもよい。
(特徴量抽出方法)
【0042】
このように設定した検査区間G101について、検査区間G101に対応する車上データ20を代表する値(例えば、平均値、中央値等)を算出し、特徴量として抽出する。例えば、検査区間G101について取得された車上データ20は、外気温度、車内温度、設定温度(温度特徴量)、及び乗車率を含む場合、当該検査区間G101における車内温度平均値、外気温度平均値、設定温度平均値、及び乗車率平均値が特徴量として抽出されてもよい。
【0043】
更に、上記の特徴に加えて、ドア開信号G106のデータから、検査区間G101に対応するドア開頻度が特徴量(ドア開頻度特徴量)として抽出される。ここでのドア開信号G106は、0、1で構成される二進数データであり、0はドア閉を示し、1はドア開を示す。また、ここでのドア開頻度とは、検査区間G101において、車両10のドアが開く頻度を示す値であり、例えば、(検査区間におけるドア開時間合計値)/(検査区間時間長さ)より算出されてもよい。
これにより、検査区間における車内温度平均値、外気温度平均値、設定温度平均値、乗車率平均値、及びドア開頻度等の特徴量が抽出され、特徴量群(第1の特徴量群)として集合される。
【0044】
以上説明した特徴量抽出方法によれば、車内温度、設定温度、外気温度、及び乗車率等の情報に加えて、ドア開頻度を特徴量として抽出することが可能となる。このように、ドア開頻度を含む特徴量群(第1の特徴量群)を用いて異常判定を行うことにより、ドア開による車内温度の変動を考慮する、高精度の空調装置異常判定を実現させることができる。
【0045】
一例として、検査区間G101における車内温度平均値、設定温度平均値、外気温度平均値、及び乗車率平均値のみを含む特徴量群を用いて異常判定を行う場合を検討する。ここで、設定温度平均値が24℃付近、外気温度平均値が35℃付近、乗車率平均値が50%付近の場合、運用時特徴量における車内温度平均値と26℃との差分が3℃以下であれば空調装置が正常であると判定する異常判定手段を用いることとする。
このとき、運用時特徴量として設定温度平均値が24℃、外気温度平均値が35℃、乗車率平均値が50%、車内温度平均値が30℃であった場合は異常と判定することになる。しかし、実際には、空調装置は正常であり、ドア開頻度が大きく、空気流入量が多かったため車内温度平均値が上昇した、ということがあり得るため、異常の誤判定が発生する可能性がある。
【0046】
一方、本開示で説明するように、温度変動要因であるドア開頻度を特徴量として更に含む特徴量群(第1の特徴量群)を用いることで、異常の誤判定を低減させることができる。
例えば、設定温度平均値24℃が付近、外気温度平均値が35℃付近、乗車率平均値が50%付近、ドア開頻度が0.10付近の場合は、車内温度平均値が26±3℃に収まれば空調装置が正常であり、設定温度平均値が24℃付近、外気温度平均値が35℃付近、乗車率平均値が50%付近、ドア開頻度が0.20付近の場合は、車内温度平均値が28±3℃に収まれば空調装置が正常であると判定する異常判定手段を用いることとする。
この場合、設定温度平均値が24℃、外気温度平均値が35℃、乗車率平均値が50%、車内温度平均値が30℃であった場合、ドア開頻度が0.10であれば空調装置は異常が発生しており、0.20であれば空調装置は異常が発生していないと判定される。このため、ドア開頻度が高い(例えば0.20)場合における異常の誤判定を解消することができる。
【0047】
以上では、
図2を参照して、本開示の実施例1に関わる特徴量抽出に用いるデータ及び特徴量抽出方法について説明した。しかし、実際には、例えば車両が駅で長時間停車する場合等には、車両のドアが長時間開くことがある。このような場合、高精度の異常判定を実現するためには、上述した検査区間をドア開時間に基づいて設定し、特徴抽出を行うことが望ましい。
したがって、次に、
図3を参照して、異常判定精度を更に向上させるための特徴量抽出する方法について説明する。
【0048】
図3は、本開示の実施例1に係る追従区間及び安定区間の一例を示す図である。より具体的には、
図3は、ドアが長時間開く駅がある場合における車内温度G205や外気温度G204等の車上データ20の推移と、検査区間の設定方法を示す図である。
【0049】
端末駅や他の運用種別通過、接続といった理由で第1の駅G211に長時間停車する場合、車両のドアが停車中開いていることにより、車内温度G205が設定温度G206から大きく離れる現象が発生する。例えば、車両のドアが10分程度開く場合、外気温によっては第1の駅G211停車直後から発車直前にかけて、車内温度G205が5℃程度上昇することもある。このような場合、第1の駅G211発車後、次にドアが長時間開く第2の駅G212に到着するまで、車内温度G205は設定温度G206へと徐々に収束し、収束後は設定温度G206付近で安定するという挙動を示す傾向にある。
【0050】
車両のドアが長時間開くことに伴う車内温度の変動や、それによる空調装置の異常判定への影響を抑制するためには、本開示では、車両のドアが長時間開いている期間を含まないように検査区間を設定することが望ましい。例えば、
図3に示すように、ドアが長時間開く第1の駅G211と第2の駅G212の間を検査区間G201としてもよい。これにより、車両が第1の駅G211及び第2の駅G212に停車し、ドアが長時間開いている期間が検査区間G201に含まれないため、車両のドアが長時間開くことによる空調装置の異常判定への影響を抑制することができる。
【0051】
更に、検査区間G201では、車内温度G205が設定温度G206に追従する動作と、設定温度G206付近で安定するとの2種類の現象があることから、本開示では、検査区間G201を更に追従区間G202と安定区間G203とに分割することとする。ここで、追従区間G202は、車内温度G205が設定温度G206に接近する区間であり、安定区間G203は、設定温度G206付近で安定する区間である。
【0052】
次に、この追従区間G202及び安定区間G203のそれぞれについて、特徴量を抽出する。
追従区間G202では、車内温度G205が設定温度G206に向けて減少又は増加することから、車内温度G205に対応する特徴量は、車内温度平均値を用いるより、車内温度の時間変化を表す区間温度変化率G207Aを特徴量として用いる方が望ましい。この区間温度変化率G207Aは、第1の駅G211のドア閉直後の車内温度G205と、追従区間G202終端における車内温度G205との差分を、追従区間G202の時間幅で割った値の絶対値を算出することで得ることができる。
【0053】
また、安定区間G203では、ドアが長時間開くことによる車内温度G205上昇の影響が除外されているため、車内温度平均値を特徴量として用いる。
【0054】
車内温度G205以外の車上データ20、即ち外気温度G204、設定温度G206、乗車率G209、ドア開信号G210については、ドアが長時間開くことによる影響はないため、追従区間G202、安定区間G203のそれぞれの区間について、外気温度平均値、設定温度平均値、乗車率平均値、ドア開頻度を算出し、特徴量とする。
【0055】
以上を踏まえ、検査区間G201を追従区間G202と安定区間G203とに分離する場合、追従区間G202については、追従区間G202における外気温度平均値、設定温度平均値、乗車率平均値、ドア開頻度、及び区間温度変化率G207Aの特徴量を特徴量群(第2の特徴量群)とする。また、安定区間G203については、安定区間G203における車内温度平均値、外気温度平均値、設定温度平均値、乗車率平均値、及びドア開頻度の特徴量を特徴量群(第3の特徴量群)とする。
【0056】
また、検査区間G201を追従区間G202と安定区間G203とに分離する場合、異常判定部305は、第2の特徴量群を用いたモデル作成及び異常判定と、第3の特徴量群を用いたモデル作成及び異常判定とを分けて実施し、第2の特徴量群による異常判定結果Aと、第3の特徴量群による異常判定結果Bとを求める。その後、異常判定部305は、異常判定結果Aと異常判定結果Bとの両方を分析し、異常判定結果306を出力する。
ここで、異常判定結果Aと異常判定結果Bが両方とも、異常予兆ありと示す場合、異常判定部305は、異常予兆ありとの異常判定結果306を出力してもよい。また、異常判定結果Aと異常判定結果Bは両方とも、異常なしと示す場合、異常判定部305は、異常なしとの異常判定結果306を出力してもよい。一方、異常判定結果Aと異常判定結果Bとの内、一方は異常予兆ありを示し、もう一方は異常なしを示す場合、異常判定部305は、異常予兆ありとの異常判定結果306を出力してもよい。これにより、異常の見逃しを抑制することができる。
【0057】
以上では、追従区間G202では、車内温度G205が設定温度G206に向けて減少又は増加することから、車内温度G205に対応する特徴量は、車内温度平均値を用いることにより、車内温度の時間変化を表す区間温度変化率G207Aを特徴量として用いる方が望ましいと説明したが、ここで、区間温度変化率G207Aを特徴量とする効果を説明する。空調に異常が発生し、追従区間G202の始端と終端の車内温度G205が変わらないものの、車内温度G205が設定温度G206へ収束するまでの時間が伸びた場合に、追従区間G202における車内温度平均値は変化しないが、温度変化率G207Aが減少する。したがって、区間温度変化率G207Aによって、車内温度G205が設定温度G206へ収束する時間が伸びる、という性能低下を表現することができるため、区間温度変化率G207Aを用いることで、空調の異常判定性能を向上させることができる。
【0058】
また、ドアが長時間開く現象を考慮し、検査区間を決定する方法の効果について説明する。ドアが長時間開く現象を考慮することで、ドアが長時間開く現象を考慮せずに特徴量を抽出する場合と比べ、より適切な特徴量を抽出し、異常判定性能を向上させることができる。
【0059】
例えばドアが長時間開く現象を考慮せず、1時間おきに検査区間を設定して車内温度平均値等の特徴量を抽出した場合、1時間おきの検査区間においてドアが長時間開く駅が存在した場合、車内温度が変動するため、車内温度平均値が変動し、設定温度平均値と乖離する可能性がある。このような場合、車内温度平均値が設定温度平均値より逸脱しているため異常である、と判定するリスクが存在する。一方、本実施例のように、車内温度平均値を安定区間に限定した場合、ドアが長時間開くことによる温度変動効果を除外することができるため、空調が正常であるにも拘らず、車内温度平均値が設定温度平均値より逸脱しているため異常である、とする判断を低減することができる。
【0060】
次に、
図4を参照して、本開示の実施例1に関わる特徴量抽出方法について説明する。
【0061】
図4は、本開示の実施例1に係る特徴量抽出方法の流れを示すフローチャートである。
図4に示す、本開示の実施例1に係る特徴量抽出方法は、ドア開信号G210及び車内温度G205を含む車上データ20を用いて追従区間G202と安定区間G203とを特定し、追従区間G202、安定区間G203における特徴量を抽出する処理であり、
図1に示す異常判定装置30の特徴量抽出部301によって実施される。
以下では、同図に示すステップ番号に沿って、実施例1に係る特徴量抽出方法を説明する。
【0062】
まず、S101では、特徴量抽出部301は、車両情報管理装置103から受信する車上データを時系列順に読み込み、駅到着時にドア開時間を算出することで、初めてドアが長時間開く第1の駅G211と、次にドアが長時間開く第2の駅G212を特定する。車上データの読み込みを第2の駅まで完了したのち、本処理はS102へ移行する。
なお、ドア開時間算出方法について、具体的には、ドア開信号が0から1になることをセンサで検知し、次にドア開信号が1から0になるまでの時間を算出することで、ドア開時間を計算することができる。また、このように計算したドア開時間が所定の閾値Tth以上の場合には、ドアが長時間開いていると見なされる。
【0063】
次に、S102では、特徴量抽出部301は、第1の駅G211のドア閉直後時刻から第2の駅G212のドア開直前時刻までを検査区間とし、車上データ20から、検査区間内のデータを検査区間車上データとして抽出し、S103へ移行する。
【0064】
S103からS106までは、各時刻の検査区間車上データに対して繰り返して実施するループ処理である。
【0065】
次に、S104では、特徴量抽出部301は、各時刻における検査区間車上データが検査区間G201における追従区間G202に存在するか、安定区間G203に存在するかを、特定時刻における温度変化率の閾値athを用いて判定する。特定の時刻における温度変化率が閾値ath以上であれば、特徴量抽出部301は、車内温度G205が設定温度G206に接近しているとして、当該時刻が追従区間G202に存在すると判定し、S105へ移行する。一方、当該時刻における温度変化率が閾値athより小さい場合、特徴量抽出部301は、車内温度G205の変化が小さく、設定温度G206付近で安定しているとして、当該時刻が安定区間G203に存在すると判定し、S115へ移行する。
【0066】
ここで、特定の時刻における温度変化率とは、ある時刻t1における車内温度変化の大きさを示す情報である。この特定の時刻における温度変化率は、例えば、ある時刻における車内温度の温度変化率瞬時値G207B(
図3参照)の移動中央値より求めてもよい。また、温度変化率瞬時値G207Bとは、ある時刻t1における車内温度T1と、車上データにおいて当該時刻の前の時刻t0における車内温度T0とを用いて、|(T1-T0)/(t1-t0)|より求められる値である。
【0067】
温度変化率瞬時値G207Bの移動中央値とは、ある時刻、及び当該時刻に対する前後の複数時刻において算出した時温度変化率瞬時値G207Bの中から、中央値を算出した値である。
【0068】
温度変化率瞬時値G207Bの移動中央値を用いることで、短時間ドア開による温度変化率瞬時値G207Bの変動をノイズとして除去することができ、特定の時刻における温度変化率が一時的に閾値ath以上となったため車上データが安定区間に突入した、という誤判定を防ぐことができる。そのため、温度変化率瞬時値の移動中央値を用いることにより、安定区間に追従区間のデータが混在することを防ぐことができ、安定区間G202、追従区間G203についてそれぞれ抽出した特徴量を用いた異常判定の性能低下を抑制させることができる。
【0069】
本実施例では、具体例として、ある時刻における変化率瞬時値G207Bと、前後6点の時刻に対応する温度変化率瞬時値G207Bに対する中央値を算出し、当該時刻における温度変化率としている。また、ここでは、上述した閾値athは、0.25℃/minであるとしている。ただし、本開示はこれに限定されず、温度変化率の算出に用いるデータ点や閾値athは適宜に設定されてもよい。
【0070】
次に、S105では、特徴量抽出部301は、追従区間内として判定された検査区間車上データを加工し、追従区間一時保存データベースへ記録し、S106へ移行する。ここでの追従区間一時保存データベースは、追従区間と判定された時刻の検査区間車上データを用いて、特徴量抽出に必要なデータへと加工して格納するデータベースであり、特徴量抽出部301内に保存されてもよい。
【0071】
次に、
図5を参照して、本開示の実施例1に係る追従間一時保存データベースについて説明する。
図5に示す表T10は、追従区間一時保存データベースの構成の一例を示すテーブルである。
【0072】
図5に示すように、表T10では、温度変化率瞬時値T107の移動中央値T108が0.25℃/min以下であり、追従区間G203と判定された時刻(13:00.00、13:00.05、…13:15.25)の検査区間車上データから、特徴量抽出に使用する情報として車内温度T102、設定温度T103、外気温度T104、乗車率T105、及びドア開信号T106が格納されている。また、表T10では更に、車内温度T102と時刻T101に基づいて温度変化率瞬時値T107を算出した結果と、温度変化率瞬時値T107に基づいて温度変化率瞬時値移動中央値T108を算出した結果とが格納されている
【0073】
図4の説明に戻ると、S115では、特徴量抽出部301は、安定区間内として判定された検査区間車上データを加工し、安定区間一時保存データベースに記録し、S106へ移行する。ここでの安定区間一時保存データベースとは、安定区間と判定された時刻の検査区間車上データを用いて、特徴量抽出に必要なデータへと加工して格納するデータベースであり、特徴量抽出部301内に保存されてもよい。
【0074】
次に、
図6を参照して、本開示の実施例1に係る安定区間一時保存データベースについて説明する。
図6に示す表T20は、安定区間一時保存データベースの構成の一例を示すテーブルである。
【0075】
図6に示すように、表T20では、温度変化率瞬時値T207の移動中央値T208が0.25℃/minより小さく、安定区間G203と判定された時刻(13:15.30、13:15.35、…)の検査区間車上データから、特徴量抽出に使用する情報として車内温度T202、設定温度T203、外気温度T204、乗車率T205、及びドア開信号T206が格納されている。また、表T20では更に、車内温度T202と時刻T201に基づいて温度変化率瞬時値T207を算出した結果と、温度変化率瞬時値T207に基づいて温度変化率瞬時値移動中央値T208を算出した結果とが格納されている。
【0076】
図4の説明に戻ると、S107では、特徴量抽出部301は、追従区間一時保存データベースの情報を用いて抽出した特徴量を追従区間保存データベースに格納すると共に、安定区間一時保存データベースの情報を用いて抽出した特徴量を安定区間保存データベースに格納する。
【0077】
次に、
図7を参照して、本開示の実施例1に係る追従区間保存データベースについて説明する。
図7に示す表T30は、追従区間保存データベースの構成の一例を示すテーブルである。
【0078】
図7に示すように、例えばNo T301の「1」に対応する行は、
図5の表T10に示す時刻13:00.00~13:15.25の車上データ等を追従区間一時保存データベースに保存し、当該追従区間一時保存データベースの情報に基づいて、第2の特徴量群を算出した結果を格納するテーブルである。
【0079】
より具体的には、表T30において、設定温度平均値T303は設定温度T103の平均値、外気温度平均値T304は外気温度T104の平均値、乗車率平均値T305は乗車率T105の平均値である。
図7に示すように、これらの情報は、時刻T302毎に記録されている。
上述したように、これらの設定温度平均値T303、外気温度平均値T304、及び乗車率平均値T305は、特徴量群(第2の特徴量群)に含まれる特徴量であってもよい。
【0080】
更に、区間温度変化率T306は、
図5の表T10に示す時刻T101の始端に対応する車内温度T102から、時刻T101の終端に対応する車内温度T102を減算した値を、時刻T101の始端から終端の値を減算した値で割り算した値である。
【0081】
また、ドア開頻度累積値T307は、
図5の表T10に示すドア開信号T106が1であった時間の合計値である。区間内時間T308は、追従区間の時間幅である。
図7に示すNo T301の1では、ドア開時間累積値92.8secより区間内時間925.0を割り算することで、ドア開頻度0.10を算出している。
【0082】
また、表T30に記される列の中で、本実施例において異常予兆判定で使用する第2の特徴量群は、設定温度平均T303、外気温度平均値T304、乗車率平均値T305、温度減少率平均値T306、及びドア開頻度T309の特徴量を含む。
【0083】
次に、
図8を参照して、本開示の実施例1に係る安定区間保存データベースについて説明する。
図8に示す表T40は、安定区間保存データベースの一構成の例を示すテーブルである。
【0084】
図8に示すように、例えばNo T401の「1」に対応する行は、
図6の表T20に示す時刻13:15.30~13:40.00の車上データ等を安定区間一時保存データベースに保存し、当該安定区間一時保存データベースの情報に基づいて、特徴量を抽出した結果を含むテーブルである。また、安定区間保存データベースでは、温度減少率瞬時値の中央値の代わりに、
図6の表T20に示す車内温度T202の平均値を算出した結果が記録されている。
【0085】
表T40に示すように、No T401について、設定温度平均値T403、外気温度平均値T404、乗車率平均値T405、車内温度平均値T406、ドア開時間累積値T407(秒)、区間内時間T408、及びドア開頻度T409が時刻T402毎に記録される。
表T40に記される列の中で、本実施例において異常判定で使用する特徴量群は、設定温度平均値T403、外気温度平均値T404、乗車率平均値T405、車内温度平均値T406、ドア開頻度T409の特徴量を含む。
【0086】
図4の説明に戻ると、S108では、特徴量抽出部301は、次の追従区間や安定区間の情報を算出するために、追従区間一時保存データベース及び安定区間一時保存データベースの情報を消去し、S109に移行する。
【0087】
次に、S109では、特徴量抽出部301は、ある日の車両運用が完了したか否かを判定する。運用が完了していない場合には、本処理はS110に移行する。一方、運用が完了した場合には、その日における本フローチャートの動作は完了となる。
【0088】
次に、S110では、特徴量抽出部301は、次の検査区間に対して特徴量抽出を行うために、第2の駅G212を第1の駅G211へと更新し、当該第2の駅の次にドアが長時間開く駅を第2の駅G212へと更新し、S102へ戻る。
【0089】
以上説明したように、本開示の実施例1に関わる特徴量抽出方法では、温度や乗車率に関する特徴量に加えて、ドア開頻度を特徴量群に含めることで、ドア開による車内温度の変動を考慮する空調装置異常検出が可能となる。また、ドアが長時間開く第1の駅と次にドアが長時間開く第2の駅の間を検査区間とすることで、ドアが長時間開く駅と駅の間の温度変化挙動を表現する特徴量を抽出することができ、空調装置の異常判定性能を向上させることができる。
【0090】
更に、追従区間と安定区間との切り替わり判定方法として、温度変化率瞬時値の移動中央値を用いることで、追従区間と安定区間との切り替わり時刻の誤判定を防ぎ、異常判定の性能低下を抑制させることができる。
以上説明した実施例1では、温度や乗車率に関する特徴量に加えて、ドア開頻度を特徴量として用いて空調装置の異常判定を行う構成について説明した。しかし、実際には、車両の車内温度を変動させ、空調装置の異常判定に影響を与える温度変動要因は、ドア開頻度に限定されず、例えば窓開口による空気流入等も考えられる。したがって、本開示の実施例2は、温度、乗車率、及び/又はドア開頻度に加えて、窓開口の評価指標として窓開口率を採用し、実施例1に対し、更に窓開口率を特徴量として用いる構成である。
まず、窓開口率推定部104は、車両10に存在する窓の開口率を推定し、窓開口率を車両情報管理装置103に送信する。車両情報管理装置103は、空調センサ102によって取得された空調センサ情報と、窓開口率推定部104によって推定された窓開口率とを少なくとも含む第2の車上データを生成し、当該第2の車上データを異常判定装置30に送信する。
その後、異常判定装置30は、受信した第2の車上データに含まれる車内温度などを用いて特徴量を抽出することに加えて、各時刻における窓開口率を用いて、検査区間における、窓開口率に対応する特徴量(窓開口率特徴量)を抽出する。
なお、ここでの窓開口率とは、車両10の窓が開いている割合を示す値である。また、この窓開口率は、例えば、車両10に存在する窓の開口面積を、窓が全て開いている場合における窓面積で割り算することで求められる。
窓開口率推定部104は、例えば車両10内に設置されているカメラ等の撮像部(第1の撮像部)を用いて、車内の様子を示す第1の映像データを取得し、当該第1の映像データに対する映像処理手法を適用することで、車両10の窓の開口面積及び窓開口率を推定してもよい。また、ある実施例では、窓開口率推定部104は、車両10の窓を開ける面積を予め定め、定数で入力される窓開口率を、車両情報管理装置へ出力するように構成されてもよい。ただし、本開示における窓開口率の推定手段は特に限定されず、適宜に変更されてもよい。
異常判定装置30における特徴量抽出部301は、車内温度G302、外気温度G303、乗車率G305、及びドア開信号G306を用いて、実施例1と同様に特徴量を抽出すると共に、検査区間において、窓開口率G307の平均値を特徴量として更に抽出する。
特徴量の抽出が完了した後、異常判定装置30における異常判定部305は、検査区間G301における窓開口率G307の平均値を第1の特徴量群に追加した第4の特徴量群に対する異常判定、又は、追従区間における窓開口率G307の平均値を第2の特徴量群に追加した第5の特徴量群と、安定区間における窓開口率G307の平均値を第3の特徴量群に追加した第6の特徴量群とに対する異常判定を行う。
以上説明したように、本開示の実施例2に関わる特徴量抽出方法では、温度、乗車率及びドア開頻度に加えて、窓開口率を特徴量群に含めることで、車内の温度変動は、窓開口率が高いことによって発生したのか、空調故障によって発生したのかを区別することができるため、空調装置の誤判定を更に低減させることができる。