(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063011
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化に関する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20230427BHJP
【FI】
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173238
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】山根 萌奈実
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】間葉系細胞及び/又は毛包原基の効果的な活性化に関する方法及びキットを提供する。
【解決手段】活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基の製造方法は、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させる活性化処理を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させる活性化処理を含む、
活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基の製造方法。
【請求項2】
前記Akt活性化剤は、SC79、DCP-LA、Leu-Ile及びこれらの化学修飾体からなる群より選択される1以上である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Akt活性化剤は、SC79及びその化学修飾体からなる群より選択される1以上である、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記活性化処理において、前記Akt活性化剤を含む溶液中で前記間葉系細胞を前記Akt活性化剤と接触させる、
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記活性化処理において、前記Akt活性化剤を含む溶液中で前記毛包原基を前記Akt活性化剤と接触させる、
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記活性化処理を行って、生体に移植するための活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることを含む、
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記毛包原基は、前記間葉系細胞と上皮系細胞とを含む、
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記間葉系細胞は、毛包間葉系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上である、
請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させることにより、前記間葉系細胞及び/又は前記毛包原基を活性化することを含む、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化方法。
【請求項10】
合成化合物であるAkt活性化剤の、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化のための使用。
【請求項11】
合成化合物であるAkt活性化剤を含み、
間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化処理に使用される、
間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化キット。
【請求項12】
合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させる活性化処理を行って、活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることと、
前記活性化間葉系細胞及び/又は前記活性化毛包原基を生体に移植することと、
を含む、
毛髪再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化に関する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウシラクトフェリン又はウシラクトフェリンから調製したラクトフェリシンをマウスの皮膚に塗布することにより、発毛が促進されたことが記載されている。
【0003】
非特許文献1には、ウシラクトフェリンを含む培地中でラット毛乳頭細胞を培養することにより、当該毛乳頭細胞の増殖が促進され、また、当該毛乳頭細胞におけるErk及びAktのリン酸化が増幅されたこと、及び、ウシラクトフェリンをマウスの皮膚に塗布することにより、発毛が促進されたことが記載されている。
【0004】
非特許文献2には、SC79がHeLa細胞、HEK293細胞、HL60細胞、NB4細胞及びHsSulton細胞の細胞質内におけるAktを活性化すること、及び、皮質ニューロンをSC79の存在下で培養することでAktリン酸化が増幅され、興奮毒性による神経細胞死が低減されることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル]-オクタン酸を有効成分として含有するAkt活性化剤が記載されている。また、特許文献3には、8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル]-オクタン酸を含むリン脂質化合物を有効成分として含有するAkt活性化剤が記載されている。
【0006】
特許文献4には、(a)Leu(ロイシン)及びIle(イソロイシン)からなるペプチド;(b)Leu及びIleからなるペプチドの修飾体;、及び(c)薬学的に許容可能な、(a)又は(b)の塩;のいずれかの化合物を有効成分として含有するAkt活性化剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-031418号公報
【特許文献2】国際公開第2014/129598号
【特許文献3】国際公開第2014/126191号
【特許文献4】国際公開第2006/090555号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hsiu-Chin Huang et al., Lactoferrin promotes hair growth in mice and increases dermal papilla cell proliferation through Erk/Akt and Wnt signaling pathways, Archives of Dermatological Research (2019) 311: 411-420
【非特許文献2】Hakryul Jo et al., Small molecule-induced cytosolic activation of protein kinase Akt rescues ischemia-elicited neuronal death, PNAS (2012) vol.109, No.26, 10581-10586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、本発明の発明者らは、毛乳頭細胞を活性化するための技術的手段について検討を行ってきた。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、間葉系細胞及び/又は毛包原基の効果的な活性化に関する方法及びキットを提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態の一側面は、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させる活性化処理を含む、活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基の製造方法である。本発明によれば、活性化毛乳頭細胞及び/又は活性化毛包原基の効果的な製造方法が提供される。
【0012】
前記方法において、前記Akt活性化剤は、SC79、DCP-LA、Leu-Ile及びこれらの化学修飾体からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。この場合、前記Akt活性化剤は、SC79及びその化学修飾体からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0013】
また、前記活性化処理において、前記Akt活性化剤を含む溶液中で前記間葉系細胞を前記Akt活性化剤と接触させることとしてもよい。また、前記活性化処理において、前記Akt活性化剤を含む溶液中で前記毛包原基を前記Akt活性化剤と接触させることとしてもよい。
【0014】
また、前記方法は、前記活性化処理を行って、生体に移植するための活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることを含むこととしてもよい。また、前記方法において、前記毛包原基は、前記間葉系細胞と上皮系細胞とを含むこととしてもよい。また、前記方法において、前記間葉系細胞は、毛包間葉系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態の他の側面は、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させることにより、前記間葉系細胞及び/又は前記毛包原基を活性化することを含む、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化方法である。本発明によれば、毛乳頭細胞及び/又は毛包原基の効果的な活性化方法が提供される。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態のさらに他の側面は、合成化合物であるAkt活性化剤の、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化のための使用である。本発明によれば、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化というAkt活性化剤の新たな用途が提供される。
【0017】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態のさらに他の側面は、合成化合物であるAkt活性化剤を含み、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化処理に使用される、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化キットである。本発明によれば、毛乳頭細胞及び/又は毛包原基を効果的に活性化するためのキットが提供される。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態のさらに他の側面は、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、前記Akt活性化剤と接触させる活性化処理を行って、活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることと、前記活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を生体に移植することと、を含む、毛髪再生方法である。本発明によれば、毛乳頭細胞及び/又は毛包原基を用いた効果的な毛髪再生方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、間葉系細胞及び/又は毛包原基の効果的な活性化に関する方法及びキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る実施例1において、毛乳頭細胞のVersican遺伝子発現量を評価した結果を示す説明図である。
【
図2】本実施形態に係る実施例1において、毛乳頭細胞のタンパク質リン酸化レベルを解析した結果を示す説明図である。
【
図3】本実施形態に係る実施例1において、毛乳頭細胞のVersican遺伝子、ALP遺伝子、LEF1遺伝子、及びWNT5A遺伝子の発現量を評価した結果を示す説明図である。
【
図4】本実施形態に係る実施例2において毛包原基を移植した部位の写真を示す説明図である。
【
図5】本実施形態に係る実施例2において毛包原基を移植した部位で再生された毛髪の本数をカウントした結果を示す説明図である。
【
図6】本実施形態に係る実施例3において毛包原基を移植した部位の写真を示す説明図である。
【
図7】本実施形態に係る実施例3において毛包原基を移植した部位で再生された毛髪の本数をカウントした結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0022】
本実施形態は、その一側面として、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、当該Akt活性化剤と接触させる活性化処理を含む、活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基の製造方法を包含する。
【0023】
すなわち、本発明の発明者らは、毛乳頭細胞を活性化するための技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、意外にも、in vitroにおいて毛乳頭細胞、又は毛乳頭細胞を含む毛包原基を、合成化合物であるAkt活性化剤と接触させるという簡便な操作により、当該毛乳頭細胞及び毛包原基を効果的に活性化できることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
このため、本実施形態は、他の側面として、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、当該Akt活性化剤と接触させることにより、当該間葉系細胞及び/又は当該毛包原基を活性化することを含む、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化方法を包含する。
【0025】
また、本実施形態は、さらに他の側面として、合成化合物であるAkt活性化剤の、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化のための使用を包含する。
【0026】
また、本実施形態は、さらに他の側面として、合成化合物であるAkt活性化剤を含み、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化処理に使用される、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化キットを包含する。
【0027】
また、本実施形態は、さらに他の側面として、合成化合物であるAkt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、当該Akt活性化剤と接触させる活性化処理を行って、活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることと、当該活性化間葉系細胞及び/又は当該活性化毛包原基を生体に移植することと、を含む、毛髪再生方法を包含する。
【0028】
Akt活性化剤は、細胞内においてAkt(プロテインキナーゼB(PKB)とも呼ばれるセリン/スレオニンキナーゼ)の構造変化を引き起こし、当該Aktのリン酸化を促進することより、当該Aktを活性化する化合物である。ここで、本発明においては、合成化合物であるAkt活性化剤を用いる。すなわち、人為的な合成により生成された化合物(人工化合物)であるAkt活性化剤を用いる。
【0029】
この点、上述した特許文献1及び非特許文献1で用いられるウシラクトフェリンは、ヒト以外の動物に由来する天然化合物であるため、例えば、ヒト患者に移植するための細胞又は細胞凝集塊の調製に用いる場合、安全性を確保しにくい。これに対し、合成化合物であるAkt活性化剤は、ヒト患者に移植するための細胞又は細胞凝集塊の調製に用いる場合においても、安全性を確保しやすい。
【0030】
合成化合物であるAkt活性化剤(以下、単に「Akt活性化剤」という。)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、SC79、DCP-LA、Leu-Ile及びこれらの化学修飾体からなる群より選択される1以上であることが好ましく、SC79及びその化学修飾体からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。
【0031】
SC79は、CAS番号「305834-79-1」により特定される合成化合物(2-アミノ-6-クロロ-α-シアノ-3-(エトキシカルボニル)-4H-1-ベンゾピラン-4-酢酸エチルエステル:2-amino-6-chloro-α-cyano-3-(ethoxycarbonyl)-4H-1-benzopyran-4-acetic acid ethyl ester)である。SC79は、下記の構造式(I)で示される。SC79の化学修飾体は、そのAkt活性化機能を損なうことなく当該SC79に化学的修飾を施して得られる化合物である。
【化1】
【0032】
DCP-LAは、CAS番号「28399-31-7」により特定される合成化合物(8-[2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル]-オクタン酸:8-[2-(2-pentyl-cyclopropylmethyl)-cyclopropyl]-octanoic acid)である。DCP-LAは、その薬学的に許容可能な塩であってもよい。DCP-LAの化学修飾体は、そのAkt活性化機能を損なうことなく当該DCP-LAに化学的修飾を施して得られる化合物である。具体的に、DCP-LAの化学修飾体は、例えば、当該DCP-LAのリン脂質修飾体(例えば、1,2-o-bis-[8-{2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル}-オクタノイル]-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン、1,2-o-bis-[8-{2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル}-オクタノイル]-sn-グリセロ-3-ホスファチジル-L-セリン、1,2-o-bis-[8-{2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル}-オクタノイル]-sn-3-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、1,2-o-bis-[8-{2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル}-オクタノイル]-sn-グリセロ-3-ホスファチジル-D-l-イノシトール、及び1,2-o-bis-[8-{2-(2-ペンチル-シクロプロピルメチル)-シクロプロピル}-オクタノイル]-sn-グリセロ-3-ホスファチジル-L-l-イノシトールからなる群より選択される1以上)であってもよい。DCP-LAの化学修飾体は、その薬学的に許容可能な塩であってもよい。
【0033】
Leu-Ileは、ロイシン(Leu)及びイソロイシン(Ile)から構成されるジペプチドである。Leu-Ileの化学修飾体は、そのAkt活性化機能を損なうことなく当該Leu-Ileに化学的修飾を施して得られる化合物である。
【0034】
本実施形態における間葉系細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、毛包間葉系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。毛包間葉系細胞は、発毛に寄与する間葉系細胞(より具体的には、例えば、毛包上皮系細胞と協調して発毛に寄与する間葉系細胞)である。
【0035】
毛包間葉系細胞は、生体の毛包から単離されたものであってもよいし、in vitroで未分化細胞から分化誘導されたものであってもよい。in vitroにおける毛包間葉系細胞の分化誘導に用いられる未分化細胞は、in vitroで当該毛包間葉系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS(induced Pluripotent Stem)細胞、ES(Embryonic Stem)細胞、Muse(Multilineage-differentiating stress-enduring)細胞又はEG(Embryonic Germ)細胞)、及び、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞、及び、間葉系幹細胞(例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞)からなる群より選択される1以上)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0036】
具体的に、毛包間葉系細胞は、毛乳頭(dermal papilla)細胞、及び真皮毛根鞘(dermal sheath cup)細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましく、毛乳頭細胞であることが特に好ましい。
【0037】
毛包間葉系細胞の前駆細胞は、in vitroで当該毛包間葉系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、胎児又は新生児の皮膚間葉系細胞(例えば、胎児又は新生児の皮膚の真皮層に由来する間葉系細胞)、及び、in vitroで当該毛包間葉系細胞に分化する能力を有する、多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。脂肪組織由来間葉系幹細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、生体の脂肪組織(皮下脂肪組織、及び/又は、他の脂肪組織)から単離される。
【0038】
また、間葉系細胞は、発毛関連遺伝子を発現していることが好ましい。間葉系細胞が発現する発毛関連遺伝子は、生体における発毛に関連する遺伝子であれば特に限られないが、例えば、Versican遺伝子、アルカリフォスファターゼ(ALP)遺伝子、LEF1遺伝子及びWNT5A遺伝子からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0039】
本実施形態における上皮系細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、毛包上皮系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。毛包上皮系細胞は、発毛に寄与する上皮系細胞(より具体的には、例えば、毛包間葉系細胞と協調して発毛に寄与する上皮系細胞)である。
【0040】
毛包上皮系細胞は、生体の毛包から単離されたものであってもよいし、in vitroで未分化細胞から分化誘導されたものであってもよい。in vitroにおける毛包上皮系細胞の分化誘導に用いられる未分化細胞は、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)、及び、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0041】
具体的に、毛包上皮系細胞は、毛包上皮幹細胞、毛母(hair matrix)細胞、外毛根鞘(outer root sheath)細胞、及び内毛根鞘(inner root sheath)細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましく、毛包上皮幹細胞、毛母細胞、及び外毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。
【0042】
毛包上皮系細胞の前駆細胞は、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、胎児又は新生児の皮膚上皮系細胞(例えば、胎児又は新生児の皮膚の表皮層に由来する上皮系細胞)、及び、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する、多能性幹細胞以外の幹細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0043】
本実施形態で用いる細胞の由来は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、毛包を有する動物に由来することが好ましい。すなわち、本実施形態で用いる細胞は、ヒトの細胞であってもよいし、ヒト以外の哺乳動物(例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット又はウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ又はヒツジ))の細胞であってもよい。ただし、ヒトへの移植を目的とする場合には、ヒトの細胞を用いる。
【0044】
本実施形態において生体への移植を目的として用いる細胞は、当該細胞を移植する個体に由来するものであることが好ましいが、当該細胞を移植する個体以外の個体に由来するものであってもよい。例えば、ヒトへの移植のために用いられるヒト細胞は、当該ヒト細胞を移植するヒト患者に由来する細胞であることが好ましいが、当該患者以外のヒトに由来する細胞(例えば、当該患者以外のヒトに由来する多能性幹細胞(例えば、セルバンクに保存されているiPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)からin vitroで分化誘導されたヒト細胞)であってもよい。
【0045】
本実施形態における毛包原基は、間葉系細胞を含み、毛髪再生能を有する細胞凝集塊である。毛包原基の毛髪再生能は、当該毛包原基を生体に移植した場合に、当該毛包原基が移植された部位において発毛を生じさせる能力である。
【0046】
間葉系細胞を含む毛包原基は、さらに他の細胞を含んでもよい。すなわち、毛包原基は、例えば、間葉系細胞と上皮系細胞とを含んでもよい。また、毛包原基は、間葉系細胞及び上皮系細胞以外の細胞をさらに含んでもよい。間葉系細胞及び上皮系細胞以外の細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、色素細胞、色素前駆細胞、及び色素幹細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0047】
毛包原基は、当該毛包原基を構成すべき細胞をin vitroで凝集させることにより形成する。すなわち、本方法は、間葉系細胞を含む細胞をin vitroで凝集させて、当該間葉系細胞を含む毛包原基(より具体的には、当該間葉系細胞の凝集塊を含む毛包原基)を形成することを含んでもよい。
【0048】
この場合、本方法は、間葉系細胞及び上皮系細胞を含む細胞をin vitroで凝集させて、当該間葉系細胞及び上皮系細胞を含む毛包原基(より具体的には、当該間葉系細胞の凝集塊と当該上皮系細胞の凝集塊とを含む毛包原基)を形成することを含んでもよい。
【0049】
間葉系細胞を含む細胞をin vitroで凝集させて毛包原基を形成する方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該間葉系細胞を含む細胞を培養して当該毛包原基を形成してもよい。
【0050】
毛包原基を形成するための細胞培養は、当該毛包原基を構成すべき細胞を播種することにより開始する。細胞の播種は、当該細胞を培養容器(例えば、細胞培養用のウェル)に入れることにより行う。培養容器は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、培養表面及び/又は容量が比較的小さい培養容器を用いて、1つの培養容器内において、当該培養容器に播種された細胞から1つの毛包原基を形成することが好ましい。
【0051】
具体的に、培養容器の底面(例えば、1つのウェルの底面)の面積は、例えば、1000mm2以下であってもよく、500mm2以下であることが好ましく、100mm2以下であることがより好ましく、50mm2以下であることがより一層好ましく、20mm2以下であることが特に好ましい。
【0052】
また、培養容器の底面の面積は、例えば、0.01mm2以上であってもよく、0.10mm2以上であることが好ましく、0.30mm2以上であることがより好ましく、0.50mm2以上であることがより一層好ましく、0.70mm2以上であることが特に好ましい。培養容器の底面の面積は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0053】
間葉系細胞及び上皮系細胞を播種する場合には、当該間葉系細胞と上皮系細胞とを同時に播種することが好ましいが、当該間葉系細胞及び上皮系細胞のうち一方をまず播種し、その後、他方をさらに播種してもよい。
【0054】
細胞の播種においては、分散された細胞を播種することが好ましい。すなわち、間葉系細胞及び上皮系細胞を同時に播種する場合には、当該間葉系細胞及び上皮系細胞が分散された細胞懸濁液を培養容器に入れる。また、間葉系細胞及び上皮系細胞の一方をまず播種し、その後、他方をさらに播種する場合には、まず当該一方の細胞が分散された細胞懸濁液を培養容器に入れ、その後、当該他方の細胞が分散された細胞懸濁液を当該培養容器に追加的に入れる。
【0055】
細胞懸濁液を用いて播種された細胞は、培養容器内の培養液中で分散され、混合される。培養液中に分散された個々の細胞は、実質的に他の細胞と結合しておらず、又は、他の細胞に付着しているがピペッティング等の操作により当該培養液を流動させることで当該他の細胞から容易に分離される。
【0056】
細胞の播種密度(培養容器の底面1cm2あたりに播種する細胞の総数)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、0.1×104個/cm2以上であってもよく、0.5×104個/cm2以上であることが好ましく、1.0×104個/cm2以上であることがより好ましく、2.5×104個/cm2以上であることがより一層好ましく、5.0×104個/cm2以上であることが特に好ましい。
【0057】
また、細胞の播種密度は、例えば、1000×104個/cm2以下であってもよく、700×104個/cm2以下であることが好ましく、500×104個/cm2以下であることがより好ましく、400×104個/cm2以下であることがより一層好ましく、300×104個/cm2以下であることが特に好ましい。細胞の播種密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0058】
主に間葉系細胞を含む毛包原基を形成する場合、播種される細胞の総数に対する、間葉系細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0059】
同様に、主に間葉系細胞から構成される毛包原基に含まれる細胞の総数に対する、間葉系細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0060】
また、主に間葉系細胞及び上皮系細胞を含む毛包原基を形成する場合、播種される細胞の総数に対する、間葉系細胞の数と上皮系細胞の数との合計の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0061】
同様に、主に間葉系細胞及び上皮系細胞から構成される毛包原基に含まれる細胞の総数に対する、間葉系細胞の数と上皮系細胞の数との合計の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0062】
間葉系細胞及び上皮系細胞を含む毛包原基を形成する場合、播種される間葉系細胞の数と、播種される上皮系細胞の数との比率(間葉:上皮播種比)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1:10~10:1の範囲内であることとしてもよく、1:9~9:1の範囲内であることが好ましく、1:8~8:1の範囲内であることがより好ましく、1:7~7:1の範囲内であることがより一層好ましく、1:6~6:1の範囲内であることが特に好ましい。
【0063】
さらに、間葉:上皮播種比は、例えば、1:5~5:1の範囲内であることが好ましく、1:4~4:1の範囲内であることがより好ましく、1:3~3:1の範囲内であることがより一層好ましく、1:2~2:1の範囲内であることが特に好ましい。
【0064】
主に間葉系細胞から構成される毛包原基を形成するための培養方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、培養液中で当該間葉系細胞を浮遊状態(非接着状態)で培養することにより、当該間葉系細胞を凝集させて、当該間葉系細胞の凝集塊を含む浮遊状態(非接着状態)の毛包原基を形成することが好ましい。
【0065】
主に間葉系細胞及び上皮系細胞から構成される毛包原基を形成するための培養方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、培養液中で間葉系細胞と上皮系細胞とを混合して浮遊状態(非接着状態)で共培養することにより、当該間葉系細胞及び当該上皮系細胞を凝集させて、当該間葉系細胞の凝集塊及び当該上皮系細胞の凝集塊を含む浮遊状態(非接着状態)の当該毛包原基を形成することが好ましい。
【0066】
より具体的に、間葉系細胞及び上皮系細胞の浮遊培養においては、培養時間の経過に伴って、当該間葉系細胞同士が凝集して間葉系細胞凝集部を形成するとともに、当該上皮系細胞同士が凝集して上皮系細胞凝集部分を形成し、さらに、当該間葉系細胞凝集部の一部と当該上皮系細胞凝集部の一部とが結合を形成する。その結果、間葉系細胞凝集部、及び、当該間葉系細胞凝集部と結合した上皮系細胞凝集部を含む毛包原基が形成される。
【0067】
なお、浮遊培養は、全体として流動性を有する培養液中で行う。また、浮遊培養には、非細胞接着性の底面を有する培養容器が好ましく用いられる。この場合、播種された細胞は、非細胞接着性の底面上で、当該底面に実質的に接着することなく、非接着状態で培養される。具体的に、例えば、非細胞接着性の底面上に沈降した細胞は、培養液中、当該底面に接着せず、又は、ピペッティング等の操作で当該培養液を流動させることにより当該底面から容易に脱離する程度に弱く当該底面に付着する。非細胞接着性の底面上で培養される細胞の形状は、ほぼ球形に維持される。
【0068】
また、毛包原基は、非細胞接着性の底面上で、当該底面に実質的に接着することなく、培養液中で浮遊した状態(すなわち、非接着状態)で形成される。具体的に、例えば、非接着性の底面上で形成された毛包原基は、培養液中、当該底面に接着せず、又は、ピペッティング等の操作で当該培養液を流動させることにより当該底面から容易に脱離する程度に弱く当該底面に付着する。
【0069】
本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)は、上述のとおり、Akt活性化剤を含む溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基を、当該Akt活性化剤と接触させる活性化処理を含む。
【0070】
すなわち、本方法は、Akt活性化剤を含む溶液中で間葉系細胞を当該Akt活性化剤と接触させる活性化処理、及び、Akt活性化剤を含む溶液中で毛包原基を当該Akt活性化剤と接触させる活性化処理の一方又は両方を含む。
【0071】
活性化処理に用いられるAkt活性化剤を含む溶液(以下、「処理溶液」という。)は、当該溶液中で間葉系細胞及び毛包原基の生存を維持でき、且つ、当該Akt活性化剤により当該間葉系細胞及び毛包原基を活性化できれば特に限られないが、例えば、当該Akt活性化剤が添加された生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))又は培養液(細胞の培養に適した組成を有する溶液)であることが好ましい。
【0072】
処理溶液の調製方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、当該処理溶液は、基礎溶液にAkt活性化剤を外的に添加して調製される。すなわち、処理溶液は、例えば、商業的に入手可能なAkt活性化剤を基礎溶液に添加することにより調製される。
【0073】
基礎溶液は、当該溶液中で間葉系細胞及び毛包原基の生存を維持できれば特に限られないが、例えば、生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))又は培養液(細胞の培養に適した組成を有する溶液)であることが好ましい。
【0074】
処理溶液の調製においては、本実施形態に係る間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化キットが好ましく用いられる。すなわち、この活性化キットは、上述のとおり、Akt活性化剤を含み、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化処理に使用される。そして、活性化キットに含まれるAkt活性化剤は、活性化処理のための処理溶液の調製に用いられる。
【0075】
活性化キットは、基礎溶液の成分(例えば、無機塩類、糖類、アミノ酸等)をさらに含んでもよい。この場合、例えば、活性化キットに含まれる基礎溶液の成分を用いて基礎溶液を調製するとともに、当該基礎溶液に、当該活性化キットに含まれるAkt活性化剤を添加して、処理溶液を調製する。なお、処理溶液は、活性化キットに含まれていない他の成分をさらに添加して調製してもよい。
【0076】
活性化キットに含まれるAkt活性化剤の形態は、本発明の効果が得られれば特に限られず、当該活性化キットは、Akt活性化剤を含む固体組成物(例えば、粉末)を含んでもよいし、Akt活性化剤を含む液体組成物を含んでもよい。
【0077】
活性化キットが基礎溶液の成分を含む場合、当該基礎溶液の成分の形態は、本発明の効果が得られれば特に限られず、当該活性化キットは、基礎溶液の成分を含む固体組成物(例えば、粉末)を含んでもよいし、基礎溶液の成分を含む液体組成物を含んでもよい。
【0078】
また、活性化キットは、当該活性化キットが間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化処理に用いられることが記載された取扱説明書をさらに含んでもよい。
【0079】
活性化処理の条件は、本発明の効果が得られれば特に限られない。すなわち、活性化処理の開始時点(処理溶液中において間葉系細胞及び/又は毛包原基とAkt活性化剤との接触を開始する時点)における処理溶液中のAkt活性化剤の濃度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1.0μg/mL以上であることとしてもよい。すなわち、活性化処理は、1.0μg/mL以上の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することとしてもよい。
【0080】
また、活性化処理は、1.5μg/mL以上の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することが好ましく、2.0μg/mL以上の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することがより好ましく、2.5μg/mL以上の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することがより一層好ましく、3.0μg/mL以上の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することが特に好ましい。
【0081】
また、活性化処理は、例えば、11.0μg/mL以下の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することとしてもよく、10.0μg/mL以下の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することが好ましく、9.0μg/mL以下の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することがより好ましく、8.5μg/mL以下の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することがより一層好ましく、8.0μg/mL以下の濃度でAkt活性化剤を含む処理溶液中で開始することが特に好ましい。活性化処理の開始時点における処理溶液中のAkt活性化剤の濃度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0082】
活性化処理において、処理溶液中で間葉系細胞及び/又は毛包原基をAkt活性化剤と接触させる時間(例えば、処理溶液中で間葉系細胞及び/又は毛包原基を継続的に保持する時間)(活性化処理時間)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10分以上であってもよく、30分以上であることが好ましく、40分以上であることがより好ましく、50分以上であることがより一層好ましく、60分以上であることが特に好ましい。
【0083】
また、活性化処理時間は、例えば、168時間以下であってもよく、144時間以下であってもよく、120時間以下であってもよく、96時間以下であってもよく、72時間以下であってもよく、60時間以下であってもよく、48時間以下であってもよく、36時間以下であってもよく、24時間以下であってもよく、18時間以下であってもよく、12時間以下であってもよく、9時間以下であってもよく、6時間以下であってもよく、4時間以下であってもよく、3時間以下であってもよく、2時間以下であってもよい。活性化処理時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0084】
活性化処理を行う温度(活性化処理温度)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、0℃超であってもよく、3℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、25℃以上であることがより一層好ましく、36℃以上であることが特に好ましい。また、活性化処理温度は、例えば、40℃以下であってもよく、39℃以下であることが好ましく、38℃以下であることが特に好ましい。活性化処理温度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0085】
なお、本方法においては、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化処理を1回のみ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。本方法において、断続的に2回以上の活性化処理を行う場合、当該2回以上の活性化処理は、同一の条件で行ってもよいし、その全部又は一部を互いに異なる条件で行ってもよい。
【0086】
間葉系細胞の活性化処理においては、処理溶液中で、基材表面に接着した当該間葉系細胞(例えば、当該基材表面上で単層を形成した間葉系細胞)をAkt活性化剤と接触させてもよい。
【0087】
すなわち、Akt活性化剤を含まない培養液中、基材表面上で間葉系細胞の接着培養を行った後、当該基材表面に接着した当該間葉系細胞を、当該基材表面から脱離させることなく処理溶液中で保持する(例えば、Akt活性化剤を含まない培養液を処理溶液に交換する、又は、当該培養液にAkt活性化剤を添加する)ことにより、当該間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。
【0088】
この場合、活性化処理後、処理溶液をAkt活性化剤を含まない培養液に交換して、当該活性化処理が施された間葉系細胞の接着培養を、当該Akt活性化剤を含まない培養液中で継続してもよい。また、活性化処理後、当該活性化処理が施された間葉系細胞を基材表面から脱離させて、分散された当該間葉系細胞を回収してもよい。
【0089】
また、Akt活性化剤を含む培養液(すなわち、処理溶液)中、基材表面上で間葉系細胞を接着培養することにより、当該間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。この場合、活性化処理後、当該活性化処理が施された間葉系細胞を基材表面から脱離させて、分散された当該間葉系細胞を回収してもよい。
【0090】
なお、間葉系細胞の接着培養は、当該間葉系細胞の数を増加させるために、基材表面上で当該間葉系細胞を増殖させる増殖培養であってもよい。接着培養において間葉系細胞が接着する基材表面は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、市販の接着性細胞用培養容器の底面(例えば、プラスチック(例えば、ポリスチレン)製の底面、又は細胞接着性成分(例えば、コラーゲン)がコーティングされた底面)が好ましく用いられる。
【0091】
接着培養を開始するための間葉系細胞の播種密度(基材表面1cm2あたりに播種する間葉系細胞の数)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、50個/cm2以上であってもよく、5×102個/cm2以上あることが好ましく、5×103個/cm2以上であることが特に好ましい。
【0092】
また、接着培養のための間葉系細胞の播種密度は、例えば、1×106個/cm2以下であってもよく、1×105個/cm2以下であることが好ましく、1×104個/cm2以下であることが特に好ましい。接着培養のための間葉系細胞の播種密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0093】
間葉系細胞の活性化処理においては、処理溶液中に浮遊する当該間葉系細胞をAkt活性化剤と接触させてもよい。すなわち、間葉系細胞の培養開始前に、播種する予定の当該間葉系細胞を処理溶液中に分散して保持することにより、当該間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。
【0094】
この場合、活性化処理後に、活性化処理が施された間葉系細胞を播種して、当該間葉系細胞の接着培養を行ってもよいし、又は、当該間葉系細胞の浮遊培養、又は当該間葉系細胞と上皮系細胞との共培養である浮遊培養を行って毛包原基を形成してもよい。
【0095】
また、間葉系細胞の接着培養を行った後、基材表面から当該間葉系細胞を回収し、当該間葉系細胞を処理溶液中に分散して保持することにより、当該間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。
【0096】
この場合、活性化処理後に、活性化処理が施された間葉系細胞を播種して、当該間葉系細胞の接着培養を行ってもよいし、又は、当該間葉系細胞の浮遊培養、又は当該間葉系細胞と上皮系細胞との共培養である浮遊培養を行って毛包原基を形成してもよい。
【0097】
また、毛包原基を形成するための浮遊培養において、間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。すなわち、まずAkt活性化剤を含まない培養液中で、間葉系細胞の浮遊培養、又は間葉系細胞及び上皮系細胞の共培養である浮遊培養を行い、次いで、毛包原基が形成される前に、処理溶液中で、当該間葉系細胞、又は当該間葉系細胞及び上皮系細胞を保持することにより、当該間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。
【0098】
また、Akt活性化剤を含む培養液(すなわち、処理溶液)中で、間葉系細胞の浮遊培養、又は間葉系細胞及び上皮系細胞の共培養である浮遊培養を開始し、当該処理溶液中で当該浮遊培養を行うことにより、当該間葉系細胞の活性化処理を行ってもよい。
【0099】
これら毛包原基を形成するための浮遊培養においては、活性化処理後、毛包原基が形成される前に、処理溶液を、Akt活性化剤を含まない培養液に交換して、当該活性化処理が施された間葉系細胞の浮遊培養、又は当該活性化処理が施された間葉系細胞と上皮系細胞との共培養である浮遊培養を、当該Akt活性化剤を含まない培養液中で継続してもよい。
【0100】
毛包原基の活性化処理においては、処理溶液中で浮遊する当該毛包原基をAkt活性化剤と接触させてもよい。すなわち、まずAkt活性化剤を含まない培養液中で、間葉系細胞の浮遊培養、又は間葉系細胞及び上皮系細胞の共培養である浮遊培養を行って毛包原基を形成し、次いで、浮遊状態(非接着状態)の当該毛包原基を処理溶液中で保持することにより、当該毛包原基の活性化処理を行ってもよい。
【0101】
また、Akt活性化剤を含む培養液(すなわち、処理溶液)中で、間葉系細胞の浮遊培養、又は間葉系細胞及び上皮系細胞の共培養である浮遊培養を行って毛包原基を形成することにより、当該毛包原基の活性化処理を行ってもよい。
【0102】
なお、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化処理は、当該毛包原基に含まれる間葉系細胞をAkt活性化剤と接触させるため、間葉系細胞の活性化処理であるともいえる。また、毛包原基以外の、間葉系細胞を含む細胞凝集塊の活性化処理も、上述した毛包原基の活性化処理と同様に行うことができる。この点、処理溶液中で、毛包原基以外の、間葉系細胞を含む細胞凝集塊をAkt活性化剤と接触させる活性化処理は、当該細胞凝集塊に含まれる間葉系細胞をAkt活性化剤と接触させるため、間葉系細胞の活性化処理であるともいえる。
【0103】
本方法においては、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化処理を行って、当該間葉系細胞及び/又は毛包原基を活性化する。このため、本方法は、間葉系細胞の活性化方法、又は毛包原基の活性化方法を包含する。なお、間葉系細胞を含む毛包原基の活性化方法は、当該毛包原基に含まれる間葉系細胞の活性化方法でもある。
【0104】
また、本方法においては、間葉系細胞及び/又は毛包原基の活性化処理を行って、活性化された間葉系細胞及び/又は活性化された毛包原基を得る。このため、本方法は、活性化間葉系細胞の製造方法、又は活性化毛包原基の製造方法を包含する。なお、間葉系細胞を含む活性化毛包原基の製造方法は、当該毛包原基に含まれる活性化間葉系細胞の製造方法でもある。
【0105】
本方法は、間葉系細胞の活性化処理を行って得られた活性化間葉系細胞を凝集させて、当該活性化間葉系細胞を含む毛包原基(活性化毛包原基)を形成することを含んでもよい。また、本方法は、間葉系細胞の活性化処理を行って得られた活性化間葉系細胞及び上皮系細胞を凝集させて、当該活性化間葉系細胞及び上皮系細胞を含む毛包原基(活性化毛包原基)を形成することを含んでもよい。
【0106】
本方法によれば、間葉系細胞及び/又は毛包原基をin vitroでAkt活性化剤と接触させるという簡便な処理によって、当該間葉系細胞及び/又は毛包原基を効果的に活性化することができる。
【0107】
活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞は、例えば、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞に比べて、高い毛髪再生能を有する。
【0108】
すなわち、例えば、一般に、生体(例えば、ヒト)から単離された毛乳頭細胞は、その数を増加させるためにin vitroで接着培養することにより、その毛髪再生能が著しく低下する。これに対し、本方法においては、間葉系細胞に活性化処理を施すことにより、当該間葉系細胞の毛髪再生能の低下を効果的に抑制し、及び/又は、いったん低下した毛髪再生能を効果的に回復させることができる。
【0109】
すなわち、活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞は、例えば、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞に比べて、1以上の発毛関連遺伝子の発現量が増加している。
【0110】
具体的に、例えば、活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞のVersican遺伝子、ALP遺伝子、LEF1遺伝子及びWNT5A遺伝子からなる群より選択される1以上の発現量は、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞のそれより増加している。
【0111】
より具体的に、活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞のVersican遺伝子の発現量は、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞のそれの1.1倍以上であることとしてもよく、1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることがより一層好ましく、1.8倍以上であることが特に好ましい。
【0112】
また、活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞のALP遺伝子の発現量は、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞のそれの1.1倍以上であることとしてもよく、1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることがより一層好ましく、1.8倍以上であることが特に好ましい。
【0113】
また、活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞のLEF1遺伝子の発現量は、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞のそれの1.1倍以上であることとしてもよく、1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることが特に好ましい。
【0114】
また、活性化処理を含む本方法において得られる活性化間葉系細胞のWNT5A遺伝子の発現量は、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる間葉系細胞のそれの1.1倍以上であることとしてもよく、1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましく、1.4倍以上であることがより一層好ましく、1.6倍以上であることが特に好ましい。
【0115】
なお、本実施形態で達成されるAkt活性化剤による間葉系細胞の活性化のメカニズムは十分に解明されていないが、例えば、当該間葉系細胞におけるPI3K-Aktシグナル伝達経路の活性化が、当該間葉系細胞の活性化に寄与していると推測される。
【0116】
活性化処理を含む本方法において得られる活性化毛包原基は、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる毛包原基に比べて、高い毛髪再生能を有する。すなわち、活性化処理を含む本方法において得られる活性化毛包原基は、例えば、生体に移植された場合に、当該生体の移植部位において、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる毛包原基に比べて、より多い数の毛髪を再生する能力を有する。
【0117】
具体的に、活性化処理を含む本方法において得られる活性化毛包原基は、例えば、生体に移植された場合、当該生体の移植部位において、当該活性化処理を施さない以外は同一の方法で得られる毛包原基のそれの1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.3倍以上、より一層好ましくは1.4倍以上、特に好ましくは1.5倍以上の数の毛髪を再生する能力を有する。
【0118】
本方法において得られる活性化間葉系細胞及び活性化毛包原基の用途は特に限られないが、上述のとおり、当該活性化間葉系細胞及び活性化毛包原基は高い毛髪再生能を有するため、生体への移植片として有用である。
【0119】
このため、本方法は、処理溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基をAkt活性化剤と接触させる活性化処理を行って、生体に移植するための活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることを含んでもよい。
【0120】
この場合、本方法は、生体移植用間葉系細胞の製造方法、又は生体移植用毛包原基の製造方法であってもよい。また、本方法は、生体移植用間葉系細胞の活性化方法、又は生体移植用毛包原基の活性化方法であってもよい。
【0121】
また、本方法は、処理溶液中で、間葉系細胞、及び/又は、間葉系細胞を含む毛包原基をAkt活性化剤と接触させる活性化処理を行って、活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を得ることと、当該活性化間葉系細胞及び/又は活性化毛包原基を生体に移植することと、を含む毛髪再生方法であってもよい。
【0122】
間葉系細胞及び/又は毛包原基を移植する生体は、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物であってもよいが、ヒトであることが好ましい。間葉系細胞及び/又は毛包原基の生体への移植は、当該生体の皮膚への移植であることが好ましく、当該生体の頭皮への移植であることが特に好ましい。
【0123】
間葉系細胞及び/又は毛包原基の生体への移植は、医学的用途であってもよいし、研究用途であってもよい。間葉系細胞及び/又は毛包原基の生体への移植は、脱毛を伴う疾患の治療又は予防のためであることが好ましい。すなわち、間葉系細胞及び/又は毛包原基の生体への移植は、脱毛を伴う疾患を患っているヒト患者、又は脱毛を伴う疾患を患う可能性のあるヒト患者への移植であることが好ましい。したがって、本実施形態に係る毛髪再生方法は、脱毛を伴う疾患の治療又は予防方法であることが好ましい。
【0124】
脱毛を伴う疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0125】
また、本実施形態で得られる間葉系細胞及び/又は毛包原基は、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防に使用され得る物質の探索、当該疾患に関与する物質の探索、当該疾患のメカニズムに関する研究のために用いられることとしてもよい。
【0126】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0127】
[例1-1:活性化処理]
市販のヒト毛乳頭細胞(PromoCell社、継代数P4)を2.5×104cells/mLの密度で培養液に混合し、細胞懸濁液を調製した。培養液としては、毛乳頭細胞増殖培地(PromoCell社)を使用した。この細胞懸濁液を6ウェルプレートの各ウェルに2mLずつ注ぐことで、1ウェルあたり5×104cells(約5.3×103cells/cm2)の密度で毛乳頭細胞を播種した。
【0128】
そして、毛乳頭細胞をインキュベータ内で24時間培養することで、当該毛乳頭細胞をウェルの底面に接着させた。一方、Akt活性化剤として市販のSC79(SC79,Akt activator、Abcam社製)を、溶媒としてのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解することにより、SC79溶液を調製した。
【0129】
そして、SC79の終濃度が0μM、10μM、20μM又は30μM(それぞれ0μg/mL、3.64μg/mL、7.28μg/mL又は10.92μg/mL)となる量のSC79溶液を各ウェルの培養液に添加し、当該添加後の培養液中、37℃で毛乳頭細胞を1時間保持(培養)した。なお、SC79濃度が0μM(0μg/mL)のウェルには、SC79を含まないDMSOのみを添加した。そして、SC79の添加から1時間後、毛乳頭細胞を回収して、その遺伝子発現を解析した。
【0130】
[例1-2:活性化処理]
上述の例1-1と同様にして、6ウェルプレートの各ウェルに5×104cellsの密度で毛乳頭細胞を播種した。そして、毛乳頭細胞をインキュベータ内で24時間培養することで、当該毛乳頭細胞をウェルの底面に接着させた。その後、SC79の終濃度が0μM又は10μM(それぞれ0μg/mL又は3.64μg/mL)となる量のSC79溶液を各ウェルの培養液に添加し、当該添加後の培養液中、37℃で毛乳頭細胞を1時間、6時間、又は24時間保持(培養)した。なお、SC79濃度が0μM(0μg/mL)のウェルには、SC79を含まないDMSOのみを添加した。そして、SC79の添加から0時間後(添加直後)、1時間後、6時間後、及び24時間後のそれぞれの時点で、毛乳頭細胞を回収して、その遺伝子発現及びタンパク質のリン酸化レベルを解析した。
【0131】
[遺伝子発現の解析]
回収した毛乳頭細胞からRNAを抽出し、逆転写を行った後、RT-PCRを用いた遺伝子解析を行った。RT-PCRで用いたプライマーの塩基配列は次のとおりであった:Versicanについて、Forward Primerは「5’-GGCACAAATTCCAAGGGCAG-3’」、Reverse Primerは「5’-TCATGGCCCACACGATTAACA-3’」;、ALPについて、Forward Primerは「5’-ATTGACCACGGGCACCAT-3’」、Reverse Primerは「5’-CTCCACCGCCTCATGCA-3’」;、LEF1について、Forward Primerは「5’-CTTCCTTGGTGAACGAGTCTG-3’」、Reverse Primerは「5’-TCTGGATGCTTTCCGTCAT-3’」;、WNT5Aについて、Forward Primerは「5’-TCCACCTTCCTCTTCACACTGA-3’」、Reverse Primerは「5’-CGTGGCCAGCATCACATC-3’」;及び、コントロールとして用いたGAPDHについて、Forward Primerは「5’-TGGAAGGACTCATGACCACAG-3’」、Reverse Primerは「5’-GGATGATGTTCTGGAGAGCCC-3’」。
【0132】
[Aktタンパク質のリン酸化レベルの解析(Western Blotting)]
回収した毛乳頭細胞からタンパク質を抽出し、当該抽出したタンパク質の溶液を10%ポリアクリルアミドゲルにアプライした。次いで、100Vで15分間、続いて150Vで40分間、電気泳動を行った。そして電気泳動後のポリアクリルアミドゲルを、フィルター/メンブレン/ポリアクリルアミドゲル/フィルターの順となるように当該フィルター及びメンブレンに積層し、15Vで75分間転写した。
【0133】
抗体は次の希釈倍率で用いた:Anti-Phospho-Akt (Ser473) Rabbit mAb (1:2000; Cell Signaling Technology);Anti-Akt (pan) Rabbit mAb (1:1000; Cell Signaling Technology);Anti-GAPDH Rabbit mAb (1:1000; Cell Signaling Technology);Anti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody (1:2000; Cell Signaling Technology)。
【0134】
[結果]
図1には、上述の例1-1で得られた毛乳頭細胞について、培養液中のSC79濃度(μM)と、Versican遺伝子の相対発現量との関係を示す(*p<0.05、n=3)。なお、
図1において、SC79濃度が10μM、20μM及び30μMの場合における遺伝子発現量は、SC79濃度が0μMの場合(SC79を添加しなかった場合)の発現量を「1」とした相対的な値で示している。
【0135】
図1に示すように、培養液中のSC79濃度が10μM及び20μMであった場合には、SC79濃度が0μMであった場合に比べて、毛乳頭細胞のVersicanの遺伝子発現量が有意に増加した。
【0136】
すなわち、10μMの濃度でSC79を含む培養液中で保持した毛乳頭細胞におけるVersican遺伝子の発現量は、SC79を含まない培養液中で保持した毛乳頭細胞のそれの約1.2倍であった。
【0137】
また、20μMの濃度でSC79を含む培養液中で保持した毛乳頭細胞におけるVersican遺伝子の発現量は、SC79を含まない培養液中で保持した毛乳頭細胞のそれの約1.2倍であった。
【0138】
一方、培養中のSC79濃度が30μMであった場合には、SC79濃度が0μMであった場合に比べて、Versicanの遺伝子の発現量が有意に低下した。
【0139】
図2には、上述の例1-2において、10μMの濃度でSC79を含む培養液中で0時間、1時間、6時間、及び24時間培養した毛乳頭細胞におけるAktタンパク質のリン酸化レベルを解析した結果を示す。
【0140】
図2に示すように、SC79を添加した培養液中で1時間培養した毛乳頭細胞におけるAktタンパク質のリン酸化レベルは、SC79添加直後(0h)の毛乳頭細胞のそれに比べて、著しく上昇していた。また、この毛乳頭細胞におけるAktタンパク質のリン酸化レベルは、SC79を添加した培養液中における培養時間が6時間、24時間と経過するにつれて低下した。一方、Aktタンパク質の総量は、SC79の添加前後で大きな変化は見られなかった。
【0141】
図3には、上述の例1-2において、SC79濃度が0μM及び10μMの培養液中で0時間、1時間、6時間、及び24時間培養した毛乳頭細胞におけるVersican遺伝子、ALP遺伝子、LEF1遺伝子、及びWNT5A遺伝子の発現量を評価した結果を示す(*p<0.05、n=3)。なお、
図3において、各遺伝子の発現量は、SC79を培養液に添加してから0時間の時点(添加直後)における遺伝子発現量を「1」とした相対的な量で示している。
【0142】
図3に示すように、10μMの濃度でSC79を含む培養液中で培養した毛乳頭細胞におけるVersican遺伝子、ALP遺伝子、LEF1遺伝子、及びWNT5A遺伝子の発現量はいずれも、SC79を含まない培養液中で培養した毛乳頭細胞のそれと比較して、有意に上昇していた。
【0143】
すなわち、SC79を含む培養液中で保持した毛乳頭細胞におけるVersican遺伝子の発現量は、SC79を含まない培養液中で保持した毛乳頭細胞のそれの約1.3倍~1.9倍であった。
【0144】
また、SC79を含む培養液中で保持した毛乳頭細胞におけるALP遺伝子の発現量は、SC79を含まない培養液中で保持した毛乳頭細胞のそれの約1.3倍~1.9倍であった。
【0145】
また、SC79を含む培養液中で保持した毛乳頭細胞におけるLEF1遺伝子の発現量は、SC79を含まない培養液中で保持した毛乳頭細胞のそれの約1.2倍~1.3倍であった。
【0146】
また、SC79を含む培養液中で保持した毛乳頭細胞におけるWNT5A遺伝子の発現量は、SC79を含まない培養液中で保持した毛乳頭細胞のそれの約1.2倍~1.7倍であった。
例2-1では、DMEM(+)とHuMedia-KG2とを1:1の体積比で混合して調製した基礎培地に、SC79の終濃度が10μMとなる量のSC79溶液を添加して調製した培養液を用いた。例2-2では、SC79を添加せず、DMSOのみを基礎培地に添加して調製した培養液を用いた。
そして毛乳頭細胞と上皮系細胞との共培養である浮遊培養をインキュベータ内で3日間行った。共培養において、毛乳頭細胞及び上皮系細胞は凝集し、各ウェル内で1つの毛包原基を形成した。
すなわち、10μMの濃度でSC79を含む培養液中で形成された毛包原基は、SC79を含まない(0μM)培養液中で形成された毛包原基に比べて、顕著に高い毛髪再生能を有していることが確認された。