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特開2023-63027流体取扱装置およびこれを含む流体取扱システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063027
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】流体取扱装置およびこれを含む流体取扱システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20230427BHJP
   F16K 11/076 20060101ALI20230427BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230427BHJP
   B01J 19/00 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
G01N35/08 A
F16K11/076 Z
G01N37/00 101
B01J19/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173270
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】砂永 伸也
【テーマコード(参考)】
2G058
3H067
4G075
【Fターム(参考)】
2G058EA14
2G058EB17
2G058EC02
2G058EC03
2G058GA01
3H067AA12
3H067CC32
3H067CC33
3H067CC45
3H067DD03
3H067DD12
3H067DD32
3H067EC07
3H067FF11
3H067GG26
4G075AA65
4G075BB10
4G075DA02
4G075EB50
4G075ED01
4G075FA05
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB12
4G075FC17
(57)【要約】
【課題】より簡便に作製可能であり、小さい力で容易にバルブの開閉が可能な流体取扱装置を提供すること。
【解決手段】流体取扱装置は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域および前記第2領域の間に配置されたバルブと、を有し、前記バルブは、基板に配置された溝状弁座と、前記溝状弁座を覆う可撓性層と、を含み、前記可撓性層の前記溝状弁座に対向する面は平面であり、前記可撓性層の前記溝状弁座の反対側、かつ前記溝状弁座に対応する位置には凸部が配置されており、前記バルブは、前記可撓性層と前記溝状弁座の内壁とが離れているときに前記第1領域および前記第2領域を連通し、前記凸部が前記溝状弁座側に押されて前記可撓性層と前記溝状弁座の内壁とが接しているときに前記第1領域および前記第2領域の間を遮断する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1領域と、第2領域と、前記第1領域および前記第2領域の間に配置されたバルブと、を有し、
前記バルブは、基板に配置された溝状弁座と、前記溝状弁座を覆う可撓性層と、を含み、
前記可撓性層の前記溝状弁座に対向する面は平面であり、
前記可撓性層の前記溝状弁座の反対側、かつ前記溝状弁座に対応する位置には凸部が配置されており、
前記バルブは、前記可撓性層と前記溝状弁座の内壁とが離れているときに前記第1領域および前記第2領域を連通し、前記凸部が前記溝状弁座側に押されて前記可撓性層と前記溝状弁座の内壁とが接しているときに前記第1領域および前記第2領域の間を遮断する、
流体取扱装置。
【請求項2】
前記凸部の頂部は、シボ加工されている、
請求項1に記載の流体取扱装置。
【請求項3】
前記凸部は、頂部側にフッ素系樹脂を含む層を有する、
請求項1または2に記載の流体取扱装置。
【請求項4】
前記溝状弁座の深さが、前記第1領域の深さおよび前記第2領域の深さより浅い、
請求項1~3のいずれか一項に記載の流体取扱装置。
【請求項5】
前記溝状弁座の長さ方向に垂直な断面の形状が、円弧または楕円弧と弦とで囲まれた形状である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の流体取扱装置。
【請求項6】
前記第2領域に接続されたポンプをさらに有し、
前記ポンプは、前記基板に配置されたポンプ溝と、前記ポンプ溝を覆う可撓性層と、を含み、
前記ポンプは、前記可撓性層と前記ポンプ溝の内壁との接触位置が順次移動することで、前記第1領域および/または前記第2領域内の流体を移動させる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の流体取扱装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の流体取扱装置と、
前記バルブの前記可撓性層の前記凸部を押圧可能なバルブ用摺動部材と、
を有する、
流体取扱システム。
【請求項8】
前記バルブ用摺動部材は、回転可能なロータリー部材である、
請求項7に記載の流体取扱システム。
【請求項9】
請求項6に記載の流体取扱装置と、
前記バルブの前記可撓性層の前記凸部を押圧可能なバルブ用摺動部材と、
前記ポンプの前記可撓性層を押圧可能なポンプ用摺動部材と、
を有する、流体取扱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体取扱装置およびこれを含む流体取扱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質や核酸等の微量な物質の分析を高精度かつ高速に行うために、流体取扱装置が使用されている。流体取扱装置は、分析に必要な試薬および試料の量が少なくてもよいという利点を有しており、臨床検査や食物検査、環境検査などの様々な用途での使用が期待されている。流体取扱装置には通常、複数の流路が配置されており、所望の流路に、所望の試薬や試料等を選択的に流動させることが求められる。そこで、複数の流路の間に、開閉可能なバルブが配置されることが一般的である。
【0003】
ここで、複数の流路の間に配置するバルブとして、ダイヤフラムバルブが知られている(例えば特許文献1等)。従来のダイヤフラムバルブは、例えば、2つの流路の間に配置された隔壁(弁座)と、当該隔壁を覆うように、かつ隔壁と間隙をあけて配置されたドーム状のダイヤフラム部(弁体)とを有する。当該ダイヤフラムバルブの開状態では、ダイヤフラム部と隔壁との間を流体が流動可能である。一方、当該ダイヤフラムの閉状態では、ダイヤフラム部が隔壁に押し付けられ、流体が隔壁によって堰き止められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-23962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、ダイヤフラムバルブでは、ダイヤフラム部(弁体)をドーム状に成形する必要があり、当該ダイヤフラム部に、熱をかけると変形してしまうことがある。したがって、ダイヤフラム部を形成した部材を他の部材と高温で貼り合わせることが難しい。また近年、小さい力で、確実に流路の開閉を行うことも求められている。
【0006】
本発明の目的は、より簡便に作製可能であり、小さい力で容易にバルブの開閉が可能な流体取扱装置およびこれを用いた流体取扱システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の流体取扱装置を提供する。
第1領域と、第2領域と、前記第1領域および前記第2領域の間に配置されたバルブと、を有し、前記バルブは、基板に配置された溝状弁座と、前記溝状弁座を覆う可撓性層と、を含み、前記可撓性層の前記溝状弁座に対向する面は平面であり、前記可撓性層の前記溝状弁座の反対側、かつ前記溝状弁座に対応する位置には凸部が配置されており、前記バルブは、前記可撓性層と前記溝状弁座の内壁とが離れているときに前記第1領域および前記第2領域を連通し、前記凸部が前記溝状弁座側に押されて前記可撓性層と前記溝状弁座の内壁とが接しているときに前記第1領域および前記第2領域の間を遮断する、流体取扱装置。
【0008】
本発明は、以下の流体取扱システムを提供する。
上記流体取扱装置と、前記バルブの前記可撓性層の前記凸部を押圧可能なバルブ用摺動部材と、を有する、流体取扱システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流体取扱装置は、簡便に作製可能であり、小さい力でバルブの開閉が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る流体取扱システムの斜視図である。
図2図2は、使用状態の流体取扱システムの一例を示す斜視図である。
図3図3Aは、流体取扱装置の斜視図である。図3Bは、流体取扱装置とスペーサーとを重ねる様子を示す斜視図である。図3Cは、流体取扱装置およびスペーサーの積層体を流体取扱システムのチップホルダーに収容する様子を示す斜視図である。
図4図4は、流体取扱システムの構成を示す断面模式図である。
図5図5は、実施の形態に係る流体取扱装置の底面図である。
図6図6Aは、実施の形態に係る流体取扱装置の平面図であり、図6Bは、底面図であり、図6Cは、基板の底面図である。
図7図7A、Bは、実施の形態に係る流体取扱装置のバルブの、溝状弁座の長さ方向に垂直な断面の拡大図である。
図8図8は、図6Cの破線部の部分拡大斜視図である。
図9図9Aは、バルブ用摺動部材の平面図である。図9Bは、図9AのB-B線の断面図である。
図10図10Aは、ポンプ用摺動部材の平面図である。図10Bは、図10AのB-B線の断面図である。
図11図11A、Bは、流体取扱システムを用いて流体を取り扱う様子を示す模式図である。
図12図12A、Bは、流体取扱システムを用いて流体を取り扱う様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係る流体取扱装置および流体取扱システムについて説明する。図1は、一実施の形態に係る流体取扱システム300の斜視図である。図2は、使用状態の流体取扱システム300の一例を示す斜視図である。流体取扱システム300は、流路を流れる流体を制御するための装置である。流体取扱システム300で流動させる流体の種類は特に制限されず、試薬や液体試料、洗浄液、気体、粉体等、種々の流体とすることができる。
【0012】
本実施の形態の流体取扱システム300は、図2に示すように、ACアダプター410を介して商用電源に接続された状態で使用される。流体取扱システム300が内部電源を有する場合は、流体取扱システム300は、商用電源に接続されていない状態でも使用されうる。
【0013】
また、流体取扱システム300は、USBケーブル420等を介して、流体取扱システム300の動作を制御する動作設定システム(図示省略)に接続されてもよい。一方で、流体取扱システム300は、動作手順をコードされたプログラムを記憶する記憶部370と、記憶部370に記憶されたプログラムに基づいてバルブ250を制御するバルブ制御部320(バルブ用摺動部材321および第1駆動部324)や、ポンプ260を制御するポンプ制御部330(ポンプ用摺動部材331および第2駆動部334)等の動作を制御する制御部360を有していてもよい(図4参照)。この場合、流体取扱システム300は、動作設定システムに接続されていない状態でも単独で動作することができる。一方、流体取扱システム300が、記憶部370および制御部360を有さない場合には、流体取扱システム300が、USBケーブル420等を介して接続された動作設定システム(図示省略)からの指示に従って動作する。
【0014】
当該流体取扱システム300は、図4に示すように、流路231、240やウェル230、バルブ250、ポンプ260等を備える流体取扱装置200を内部に収容した状態で使用される。また、当該流体取扱装置200は、着脱可能に構成されている。なお、図4では、一部の構成を省略している。以下、流体取扱装置200および流体取扱システム300の構成について詳しく説明する。
【0015】
(流体取扱装置の構成)
図3Aは、本実施の形態の流体取扱装置200の斜視図である。当該流体取扱装置200は、基板210および可撓性層220を有する。本実施の形態では、流体取扱装置200は透明材料で構成されており、図3Aでは、流体取扱装置200の内部構造および裏側の構造も破線で示している。流体取扱装置200は、図3Bに示すようにスペーサー312に重ねられた状態で、図3C図4に示すように流体取扱システム300のチップホルダー310内に収容される。スペーサー312には、流体取扱装置200の複数のウェル230に対応する位置にウェル230を収容可能な貫通孔が形成されている。なお、図4は、図3AのA-A線に沿って流体取り扱い装置200を切断したときの断面図である。
【0016】
流体取扱装置200は、後述の流体取扱システム300のチップホルダー310内で、可撓性層220の凸部221、または可撓性層220の凸部221以外の平板状の領域が流体取扱システム300のバルブ制御部320(バルブ用摺動部材321)およびポンプ制御部330(ポンプ用摺動部材331)に押圧されるように固定される。なお、本実施形態では、可撓性層220の凸部221がバルブ250側のみに配置されている。したがって、バルブ250側では、可撓性層220の凸部221がバルブ用摺動部材321に押圧されるように固定される。一方、ポンプ260側では、可撓性層220の平板状の領域がポンプ用摺動部材331に押圧されるように固定される。また、図4では、流体取扱システム300の構成をわかりやすくするために、流体取扱装置200とバルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331とを離して図示している。
【0017】
図5は、本実施の形態に係る流体取扱装置200の底面図である。図5では、流体取扱装置200の内部構造も破線で示している。図6Aは、流体取扱装置200の平面図である。図6Bは、流体取扱装置200の底面図である。図6Cは、基板210の底面図(可撓性層220を取り外した状態の基板210の底面図)である。
【0018】
図5に示すように、流体取扱装置200は、複数のウェル230と、当該ウェル230にそれぞれ接続された複数の第1流路(第1領域)231と、第2流路(第2領域)240と、第1流路231および第2流路240の間にそれぞれ配置された複数のバルブ250と、第2流路240に接続されたポンプ260と、を有する。本実施の形態における流体取扱装置200は、通気孔として機能するウェル230とポンプ260とを接続している通気流路232をさらに有する。
【0019】
ここで、図6Cに示すように、流体取扱装置200の基板210は、第1流路231の一部を構成する溝(以下、「第1溝」とも称する)231aと、第2流路240の一部を構成する溝(以下、「第2溝」とも称する)240aと、通気流路232の一部を構成する溝(以下、「通気溝」とも称する)232aと、バルブ用の溝(以下、「溝状弁座」とも称する)250aと、ポンプ用の溝(以下、「ポンプ溝」とも称する)260aと、流体の導入口もしくは取出口(ウェル230)となるための貫通孔230aや通気孔(ウェル230)となるための貫通孔230aと、を有する。第1溝231aや第2溝240a等を有する面が基板210の裏面、すなわち可撓性層220と貼り合わせられる面である。
【0020】
基板210に含まれる材料は、例えば、公知の樹脂およびガラスから適宜選択されうる。基板210に含まれる材料の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリスチレン、シクロオレフィン系樹脂、シリコーン樹脂およびエラストマーが含まれる。基板210の大きさや厚みは、流体取扱装置200の用途や、基板210が有する溝の深さや幅等に合わせて適宜選択される。基板210の厚みは、例えば、1mm以上10mm以下である。また、基板210に含まれる材料も、特に限定されない。
【0021】
一方、可撓性層220は、図4および図6Bに示すように、基板210側、すなわち溝状弁座250a側が平板状であり、基板210と反対側には凸部221を有する板状の部材である。凸部221は、基板210の溝状弁座250aに対応する位置に配置される。ここで、本実施の形態では、当該可撓性層220が、基板210の溝や貫通孔を覆う部材としてだけでなく、バルブ250のバルブの弁体やポンプ260の一部としても機能する。そこで、当該可撓性層220の少なくとも一部は、弾性を有する材料で構成される。図7Aおよび図7Bに、本実施の形態のバルブ250の溝状弁座250aの長さ方向に垂直な断面の拡大図を示す。図7Aがバルブ250の開状態であり、図7Bがバルブ250の閉状態である。図7Aに示すように、可撓性層220は、後述の流体取扱システム300のバルブ用摺動部材321やポンプ用摺動部材331(図7Aでは図示省略)に押圧されていないとき、溝状弁座250aやポンプ溝260a(図7Aでは溝状弁座250a)の内壁と十分な間隙をあけて配置される。一方で、図7Bに示すように、当該可撓性層220は、後述の流体取扱システム300のバルブ用摺動部材321やポンプ用摺動部材331(図7Bでは図示省略)に押圧されたときに変形し、溝状弁座250aやポンプ溝260a(図7Bでは溝状弁座250a)の内壁に隙間なく密着する。本明細書において、溝状弁座250aやポンプ溝260aの内壁とは、溝状弁座250aやポンプ溝260aの側壁および底面をいう。また、凸部221が配置されているバルブ250側では、バルブ用摺動部材321によって凸部221がバルブ溝状弁座250a側に押圧される。また、ポンプ260側では、可撓性層220の平板状の領域が、ポンプ用摺動部材331によってポンプ溝260a側に押圧される。
【0022】
ここで、可撓性層220が有する凸部221は、溝状弁座250aの深さより、高さが高いことが好ましい。凸部221の高さが、溝状弁座250aの深さより高いと、バルブ用摺動部材321によって凸部221を溝状弁座250a側に押し込みやすい。また、バルブ用摺動部材321が、可撓性層220の平板状の領域に接触し難く、後述のように小さい力でバルブ250の開閉を行うことが可能となる。一方で、凸部221の高さが高すぎると、バルブ用摺動部材321の摺動時に引っかかったりすることがある。そこで、凸部221の高さは、溝状弁座250aの深さ(バルブ用の溝の深さ)の1.5~2.0倍程度が好ましい。
【0023】
また、凸部221を平面視したときの幅、すなわち溝状弁座250aの幅方向と平行方向の凸部221の長さは、溝状弁座250aの幅より広いことが好ましい。凸部221の幅が、溝状弁座250aの幅より広いと、バルブ用摺動部材321による凸部221の押圧によって、確実に可撓性層220と溝状弁座250aとを密着させやすくなる。ただし、凸部221の幅が広すぎると、凸部221の押圧時に必要な力が大きくなるため、凸部221の幅は、溝状弁座250aの幅の1.2~2.0倍程度が好ましい。
【0024】
凸部221を平面視したときの長さ、すなわち溝状弁座250aの長さ方向と平行方向の凸部221の長さは、特に制限されず、溝状弁座250aの長さより長くてもよく、短くてもよい。
【0025】
また、凸部221の形状は特に制限されず、例えば円柱状や角柱状、角錐台状、円錐台状等であってもよい。また、凸部221が柱状や錐台状である場合、側面と頂面との接続部が曲面になるように面取りされてもよい。
【0026】
また、凸部221の頂部(頂面)は、シボ加工されていてもよい。凸部221の頂部がシボ加工されていると、凸部221上をバルブ用摺動部材321が摺動しやすくなる。また、凸部221の頂部側に、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂を含む層等が配置されていてもよい。凸部221の頂部が、このような層を有する場合にも、凸部221上をバルブ用摺動部材321が摺動しやすくなる。凸部221の頂部にフッ素系樹脂を含む層を形成する方法としては、フッ素系樹脂を含むシートを貼り付ける方法等が挙げられる。
【0027】
ここで、可撓性層220は、単層から構成されていてもよく、複数層から構成されていてもよい。可撓性層220が単層からなる場合は、可撓性層220全体が弾性を有する材料(例えばエラストマー)で構成されることが好ましい。一方で、バルブ用摺動部材321やポンプ用摺動部材331の摺動性を鑑みて、可撓性層220が複数層から構成されてもよい。具体的には、可撓性層220を構成する複数の層のうち、凸部221を含む層(図示せず)は、バルブ用摺動部材321やポンプ用摺動部材331の摺動性が良好な層であることが好ましく、溝状弁座250aやポンプ溝260aと接する層(図示せず)は、弾性を有する層であることが好ましい。
【0028】
なお、本実施形態では、凸部221とその他の領域が同一の材料、かつ一体に成形されているが、凸部221と、その他の領域とが、異なる材料から構成されていてもよい。ただし、凸部221と他の領域とが同一の材料からなり、かつ一体に成形されていると、凸部221の強度が高まりやすい。
【0029】
可撓性層220に含まれる材料は特に制限されず、公知の樹脂から適宜選択される。可撓性層220が一層からなる場合には、可撓性層220は、エラストマー等を含む。一方、可撓性層220が複数層からなる場合、可撓性層220のバルブ用摺動部材321やポンプ用摺動部材331と対向する層には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリスチレン、シクロオレフィン系樹脂、シリコーン樹脂等が含まれる。一方、可撓性層220の溝状弁座250aやポンプ溝260aと接する層には、エラストマー等が含まれる。本実施の形態では、可撓性層220が1層から構成されている。
【0030】
ここで、可撓性層220の凸部221が形成されていない領域の厚さ、すなわち平板状の領域の厚さは、可撓性層220の材料等に応じて適宜選択され、例えば、30μm以上600μm以下である。なお、可撓性層220が1層からなる場合には、当該可撓性層220自体の平板状の領域の厚さ、可撓性220が2層以上からなる場合には、溝状弁座250aやポンプ溝260aに接する層(弾性を有する層)の厚さが、基板210の溝状弁座250aやポンプ溝260aの深さより厚いことが好ましく、その厚さは例えば25μm以上500μm以下である。
【0031】
当該可撓性層220は、基板210の溝や貫通孔の開口部を塞ぐように基板210の裏面に接合される。接合方法は特に制限されず、熱溶着やレーザー溶着、接着剤等を適用可能である。また、可撓性層220は可視光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。可撓性層220の可視光透過性は、流体取扱装置200の用途に応じて適宜選択される。さらに、本実施の形態では、基板210全体(第1溝231aや第2溝240a、通気溝232a、溝状弁座250a、ポンプ溝260a等)を覆うように、1枚の可撓性層220が配置されているが、当該可撓性層220は複数に分割されていてもよい。
【0032】
ここで、本実施の形態に係る流体取扱装置200では、上記基板210が有する各貫通孔230aと上記可撓性層220に囲まれた領域がウェル230となる。各ウェル230は、流体取扱装置200の流路に流体を導入するための導入部や、流体取扱装置200の流路内の流体を取り出すための取出部、流体を混合したり反応させたりする処理部、流体取扱装置200の流路内で流体を移動させるときの通気孔等として機能する、表側に開口を有する有底の凹部である。また、ウェル230は、流体として液体を使用するときは、液体を収容できる。
【0033】
ウェル230の形状および大きさは、上記機能を発揮することができれば特に限定されない。ウェル230の内部空間の形状は、例えば、略円錐台状や略円柱状である。本実施の形態では、ウェル230の内部空間の形状は、円錐台形状である。本実施の形態では、流体取扱装置200の表側において、ウェル230の内部空間を取り囲む外壁が基板210の表面から突出している。この突起は、ウェル230の外壁として機能する。ウェル230の数は、特に限定されず、流体取扱装置200の用途に応じて適宜選択される。
【0034】
本実施の形態では、複数のウェル230のうち10個のウェル230(図6Aにおいて上の列の左側の5個のウェル230および下の列の左側の5個のウェル230)は、第1流路231を介してバルブ250に接続されており、流体の導入部や取出部、処理部などとして機能する。また、複数のウェル230のうち1個のウェル230(図6Aにおいて下の列の右から5番目のウェル230)は、通気流路232を介してポンプ260に接続されており、通気孔として機能する。本実施の形態に係る流体取扱装置200では、他のウェル230は使用されない。
【0035】
一方、可撓性層220と第1溝231aとに囲まれた領域が第1流路231となり、可撓性層220と第2溝240aとに囲まれた領域が第2流路240となり、可撓性層220と通気溝232aとに囲まれた領域が通気流路232となる。
【0036】
第1流路231は、複数のウェル230とバルブ250とをつなぐ流路である。第1流路231の断面の面積および断面の形状は、特に限定されない。第1流路231の断面形状は、特に限定されず、例えば、一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形状である。本明細書において、「流路の断面」とは、流体が流れる方向に直交する流路の断面を意味する。本実施の形態では、第1流路231の幅は、溝状弁座250aおよび第2溝240aの幅よりも大きい。
【0037】
第2流路240は、バルブ250とポンプ260との間に配置された流路である。第2流路240の断面積および断面形状は、特に限定されない。第2流路240の断面形状は、特に限定されず、例えば、一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形状である。第2流路240の断面積は、流体の流れ方向において、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
【0038】
第2流路240の数および形状は、特に限定されず、流体取扱装置200の用途に応じて適宜選択される。本実施の形態では、図6Cに示されるように、流体取扱装置200が、分岐を含む1つの第2流路240を有する。すなわち、第2流路240は、2つの分岐流路241、242と、1つの共通流路243と、を含む。2つの分岐流路241、242のそれぞれの一方の端部は、共通流路243の一方の端部に接続されている。2つの分岐流路241、242は、円周方向に延在している。2つの分岐流路241、242と複数の第1流路231との間には、それぞれバルブ250が配置されている。共通流路243の他方の端部は、ポンプ260に接続されている。
【0039】
通気流路232は、通気孔となるウェル230とポンプ260とをつなぐ流路であり、主に気体を流動させる流路である。通気流路232の断面積および断面形状は、特に限定されない。通気流路232の断面形状は、特に限定されず、例えば、一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形状である。
【0040】
一方、溝状弁座250aおよび可撓性層220によってバルブ250が構成される。本実施の形態の流体取扱装置200は、複数のバルブ(メンブレンバルブ)250を有する。これらのバルブ250は、複数のウェル230(複数の第1流路231)と第2流路240との間にそれぞれ配置され、第1流路231側から第2流路240側に向かう流体の流れ、または第2流路240側から第1流路231側に向かう流体の流れを制御する。バルブ250の開状態では、バルブ250が、第1流路231および第2流路240を連通する流路となる。一方、バルブ250の閉状態では、バルブ250が、第1流路231と第2流路240との間を遮断する。
【0041】
なお、当該バルブ250では、後述の流体取扱システム300のバルブ用摺動部材321の第1凸部322が、可撓性層220の凸部221を十分に溝状弁座250a内に押し込んでおらず、可撓性層220と溝状弁座250aとの間に隙間があるときが、バルブ250の開状態である(図7A参照)。一方、バルブ用摺動部材321の凸部が、可撓性層220の凸部221を溝状弁座250a内に押し込み、可撓性層220と溝状弁座250aの内壁(側面および底面)とが接するときが、バルブ250の閉状態である(図7B参照)。つまり、当該バルブ250では、溝状弁座250aが弁座として機能し、可撓性層220が弁体として機能する。
【0042】
ここで、溝状弁座250aの形状は、バルブ用摺動部材321の第1凸部322によって可撓性層220の凸部221を溝状弁座250a側に押圧した際、溝状弁座250の内壁(底部および側面)と、可撓性層220表面とが密着する形状であれば特に制限されない。図8に、図6Cの破線部の部分拡大斜視図を示す。図8に示すように、本実施の形態では、溝状弁座250aの幅は、第1溝231a(第1流路231)の幅や第2溝240a(第2流路240)の幅より狭く設計されている。また、溝状弁座250aの深さは、第1流路231(第1溝231a)の深さや第2流路240(第2溝240a)の深さより浅く、かつT*(F/A)/E以下となるように設計されている。ここで、Tは凸部221が配置された領域の可撓性層220の厚み、Fは後述の流体取扱システム300のバルブ用摺動部材321の第1凸部322の押圧力、Aは第1凸部322の押圧面積(本実施の形態では、第1凸部322の天面の面積)、Eは可撓性層220のヤング率である。当該深さは、例えば5~100μm程度である。さらに、溝状弁座250aの長さ方向に垂直な断面は、円弧または楕円弧とその弦とで囲まれた形状、例えば弓形が好ましい。溝状弁座250aの側面および底面が滑らかに連続していると、図7Bに示すように、バルブ250の閉状態において、可撓性層220と溝状弁座250aの内壁とが隙間なく密着しやすい。ただし、当該形状に限定されない。また、溝状弁座250aの長さも特に制限されず、バルブ用摺動部材321の第1凸部322によって可撓性層220を溝状弁座250a側に押圧した際、溝状弁座250aの内壁と接する可撓性層220によって十分に流体を堰き止められることが可能な長さであればよい。当該長さは、例えば50~1mm程度である。
【0043】
バルブ250の数は、特に限定されず、流体取扱装置200の用途に応じて適宜選択される。本実施の形態では、流体取扱装置200は、第1流路231の数に応じて10個のバルブ250を有する。また、本実施の形態では、複数のバルブ250は、1つの円の円周上に配置されている。流体取扱装置200をチップホルダー310内に収容すると、この円の中心は、バルブ用摺動部材321(ロータリー部材)の回転軸となる第1中心軸CA1上に位置する(図4および図5参照)。したがって、複数のバルブ250は、バルブ用摺動部材321の回転により、開閉が制御されるロータリーバルブとして機能することができる。
【0044】
一方、ポンプ溝260aおよび可撓性層220によってポンプ(メンブレンポンプ)260が構成される。ポンプ260は第1流路231や第2流路240内の流体の流動を制御するための部材であり、ポンプ260の一方の端部は、第2流路240に接続されている。他方の端部は、通気流路232を介して、通気孔として機能するウェル230に接続されている。ポンプ260は、ポンプ制御部330により押圧されることで蠕動ポンプのように駆動する。ポンプ260の平面視形状は、特に限定されないが、本実施の形態では略円弧状(「C」の字形状)である。
【0045】
本実施の形態のポンプ260では、後述のポンプ用摺動部材331の第2凸部332が可撓性層220上を摺動しながら押圧すると、可撓性層220とポンプ溝260aの内壁との接触位置が順次移動する。これにより、第1流路231や第2流路240内の流体が流動する。例えば、ポンプ用摺動部材331の第2凸部332(後述)がポンプ260と第2流路240との接続部から通気流路232側に向けて(図5において反時計回りに)可撓性層220上を摺動しながら押圧したとき、第2流路240内の流体がポンプ260に向けて移動して第2流路240内が陰圧になる。一方で、ポンプ260内の流体が通気流路232に向けて移動して通気流路232内が陽圧になる。また、第2凸部332がポンプ260と通気流路232との接続部から第2流路240側に向けて(図5において時計回りに)可撓性層220上を摺動しながら押圧したとき、通気流路232内の流体がポンプ260に向けて移動して通気流路232内が陰圧になる。一方で、ポンプ260内の流体が第2流路240に向けて移動して第2流路240内が陽圧になる。このように、当該ポンプ260によれば、第1流路231内および/または第2流路240内の流体を所望の方向に流動させることが可能である。
【0046】
ここで、本実施の形態では、図6に示すように、ポンプ溝260aの幅は、第2溝240a(第2流路240)の幅より狭く設計されている。また、ポンプ溝260aの深さは、第2溝240a(第2流路240)の深さより浅く設計されている。当該深さは、例えば5~100μm程度である。さらに、本実施の形態では、上記円周に直交するポンプ溝260aの断面形状は、ポンプ溝260aの内壁(底部および側面)と、可撓性層220表面とが密着する形状であれば特に制限されず、円弧または楕円弧とその弦とで囲まれた形状、例えば弓形が好ましい。ポンプ溝260aの側面および底面が滑らかに連続していると、ポンプ260を駆動させるときに、可撓性層220とポンプ溝260aの内壁とが隙間なく密着しやすい。ただし、当該形状に限定されない。
【0047】
なお、本実施の形態では、ポンプ260(ポンプ溝260a)が、1つの円の円周上に配置されている。流体取扱装置200をチップホルダー310内に収容すると、この円の中心は、ポンプ用摺動部材331(ロータリー部材)の回転軸となる第2中心軸CA2上に位置する。したがって、ポンプ260は、ポンプ用摺動部材331の回転により、動作が制御されるロータリーポンプとして機能することができる。
【0048】
(流体取扱システムの構成)
流体取扱システム300は、上記流体取扱装置(流路チップ)200を保持するためのチップホルダー310と、チップホルダー310に保持された流体取扱装置200のバルブ250の開閉を制御するためのバルブ制御部320と、チップホルダー310に保持された流体取扱装置200のポンプ260の動作を制御するポンプ制御部330と、を有する。また、本実施の形態の流体取扱システム300は、チップホルダー310内に配置された制御部360と、記憶部370と、筐体380と、をさらに有する。
【0049】
チップホルダー310は、流体取扱装置200を収容するための収容部311を含み、流体取扱システム300の本体に固定される。収容部311の形状は、流体取扱装置200を適切に収容し、固定することができれば特に限定されない。本実施の形態では、収容部311は、流体取扱システム300の背面側(図1では図面の上側)、天面側および底面側に開口部を有する略直方体状の中空体である。当該収容部311では、背面側の開口部から流体取扱装置200の出し入れが行われる(図3C参照)。開口部の位置はこの位置に限定されない。また、開口部の形状も、流体取扱装置200を出し入れ可能であれば任意の形状とすることができる。
【0050】
一方、収容部311の内部の構造は、流体取扱装置200をバルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331に押し当てたり、バルブ用摺動部材321またはポンプ用摺動部材331を回転させたりしたときに、流体取扱装置200の位置がずれないように流体取扱装置200を保持できれば特に制限されない。本実施の形態では、収容部311の内部は、流体取扱装置200およびスペーサー312の積層体の高さ、幅、および奥行と略同等の高さ、幅、および奥行きを有する略直方体状の空間である。前述のとおり、流体取扱装置200では、ウェル230を取り囲む壁が基板210の表面から突出している。このため、本実施の形態では、この壁の高さ以上の厚みのスペーサー312を、流体取扱装置200のウェル230が存在しない領域の上に配置した状態で、流体取扱装置200およびスペーサー312を収容部311内に収容する。なお、収容部311の内部には、流体取扱装置200を所定の位置に固定するための溝や、流体取扱装置200を固定するためのストッパ等が形成されていてもよい。また、収容部311の内部には、流体取扱装置200をバルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331に押し当てたときに、流体取扱装置200の傾きを調整したり、流体取扱装置200の位置ずれを抑制したりするための弾性部材(図示せず)が、配置されていてもよい。
【0051】
収容部311の底板には、収容部311に収容された流体取扱装置200と、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331とを接触させるための貫通孔が形成されている。この貫通孔の形状は、流体取扱装置200のバルブ250の可撓性層220とバルブ用摺動部材321の第1凸部322との接触、およびポンプ260の可撓性層220とポンプ用摺動部材331の第2凸部332との接触を妨げない形状であれば特に制限されない。
【0052】
一方、収容部311の天板には、流体取扱装置200の収容および取り出しを容易にするための略矩形状の切り欠きや、流体取扱装置200内に流体を導入したり流体取扱装置200内から流体を取り出したりするための貫通孔、流体取扱装置200内の流体を観察するための貫通孔、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331の動作を観察するための貫通孔等が形成されている。バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331を流体取扱装置200に押し当てたとき、収容部311の天板が流体取扱装置200を支持する。このため、本実施の形態では、収容部311の天板の厚みは底板の厚みよりも大きい。
【0053】
バルブ制御部320は、チップホルダー310に保持された流体取扱装置200のバルブ250の開閉を制御する。バルブ制御部320の構成は、複数のバルブ250の開閉を制御することができれば特に限定されず、例えば複数のソレノイドアクチュエーターなどであってもよい。本実施の形態では、バルブ制御部320は、バルブ用摺動部材321(ロータリー部材)と、バルブ用摺動部材321を、第1中心軸CA1を中心に回転させる第1駆動部324と、を含む。
【0054】
図9Aは、バルブ用摺動部材321の平面図であり、図9Bは、図9AのB-B線の断面図である。図9Aでは、見やすくするために、第1凸部322の天面にハッチングを付している。
【0055】
図9Aおよび図9Bに示すように、バルブ用摺動部材321は、円柱形状の本体の天面に配置された第1凸部322および第1凹部323を有する。バルブ用摺動部材321は、第1中心軸CA1を中心として回転可能である。バルブ用摺動部材321は、第1駆動部324により回転させられる。
【0056】
第1凸部322は、溝状弁座250a上の可撓性層220の凸部221を押圧してバルブ250を閉じさせる。第1凹部323は、可撓性層220の凸部221を押圧せずにバルブ250を開かせる。第1凸部322および第1凹部323は、第1中心軸CA1を中心とする円の円周上に配置されている。本実施の形態では、第1凸部322の平面視形状は、第1中心軸CA1を中心とする円の一部に対応する円弧状(「C」の字形状)である。この円周上において第1凸部322が存在しない領域が、第1凹部323である。
【0057】
なお、第1凸部322は、第1凹部323に対して相対的に突出しており、所望の位置の可撓性層220の凸部221を押圧して、流体取扱装置200の可撓性層220と溝状弁座250aとを密着させることが可能であればよい。なお、バルブ用摺動部材321が回転したとき、第1凸323が、可撓性層220の凸部221上を滑らかに摺動できるように、第1凸部322の天面と側面との接続部は、必要に応じて曲面状に形成されていてもよい。
【0058】
一方、第1凹部323は、第1凸部322に対して相対的に凹んでおり、可撓性層220の凸部221を溝状弁座250a内に押し込まないような形状であればよい。すなわち、第1凸部322は、押圧部として機能できればよく、第1凹部323は、非押圧部として機能できればよい。たとえば、図9Bに示す例では、第1凸部322は、本体の天面(基準面)から突出しており、第1凹部323の底面は、本体の天面(基準面)と同じ高さの面である。逆に、第1凸部322の天面は、本体の天面(基準面)と同じ高さの面であってもよく、この場合は、第1凹部323は、本体の天面(基準面)から凹んでいる。
【0059】
第1駆動部324は、制御部360の指示に従ってバルブ用摺動部材321を任意の方向に任意の角度だけ回転させる。第1駆動部324の構成は、特に限定されず、例えばバルブ用摺動部材321に直接接続された、または歯車などの動力伝達部を介して接続されたモーターなどである。
【0060】
ポンプ制御部330は、チップホルダー310に保持された流体取扱装置200のポンプ260の動作を制御する。ポンプ制御部330の構成は、ポンプ260の動作を制御することができれば特に限定されず、例えばポンプ260(ポンプ溝260a)の延在方向に沿って移動可能な押圧ローラー等であってもよい。本実施の形態では、ポンプ制御部330は、ポンプ用摺動部材331(ロータリー部材)と、ポンプ用摺動部材331を、第2中心軸CA2を中心に回転させる第2駆動部334と、を含む。
【0061】
図10Aは、ポンプ用摺動部材331の平面図であり、図10Bは、図10AのB-B線の断面図である。図10Aでは、見やすくするために、第2凸部332の天面にハッチングを付している。
【0062】
ポンプ用摺動部材331は、円柱形状の本体の天面に配置された第2凸部332および第2凹部333を有する。ポンプ用摺動部材331は、第2中心軸CA2を中心として回転可能である。ポンプ用摺動部材331は、第2駆動部334により回転させられる。
【0063】
第2凸部332は、流体取扱装置200の可撓性層220を押圧することで、可撓性層220とポンプ溝260aの内壁とを密着させる。さらに、第2凸部332が可撓性層220上を摺動することで、ポンプ260を駆動させる。第2凹部333は、第2凸部332以外の部分である。第2凸部332は、第2中心軸CA2を中心とする円の円周上に配置されている。第2凸部332の数および形状は、ポンプ260を適切に作動させることができれば特に限定されない。本実施の形態では、ポンプ用摺動部材331は、3個の第2凸部332を有しており、各第2凸部332の平面視形状は、第2中心軸CA2から外側に向けて延在する略長方形状である。
【0064】
なお、第2凸部332は、第2凹部333に対して相対的に突出しており、所望の位置の可撓性層220を押圧して、流体取扱装置200の可撓性層220とポンプ溝260aとを密着させることが可能であればよい。一方、第2凹部333は、第2凸部332に対して相対的に凹んでおり、可撓性層220をポンプ溝260a内に押し込まないような形状であればよい。すなわち、第2凸部332は、押圧部として機能できればよく、第2凹部333は、非押圧部として機能できればよい。たとえば、図10Bに示す例では、第2凸部332は、本体の天面(基準面)から突出しており、第2凹部333の底面は、本体の天面(基準面)と同じ高さの面である。逆に、第2凸部332の天面は、本体の天面(基準面)と同じ高さの面であってもよく、この場合は、第2凹部333は、本体の天面(基準面)から凹んでいる。
【0065】
第2駆動部334は、制御部360の指示に従ってポンプ用摺動部材331を任意の方向に任意の角度だけ回転させる。第2駆動部334の構成は、特に限定されず、例えばポンプ用摺動部材331に直接接続された、または歯車などの動力伝達部を介して接続されたモーター等である。
【0066】
制御部360は、バルブ制御部320(第1駆動部324)や、ポンプ制御部330(第2駆動部334)等を制御する。具体的には、制御部360は、記憶部370に記憶されているプログラム、または動作設定システムの指示に従って、バルブ制御部320(第1駆動部324)や、ポンプ制御部330(第2駆動部334)等を動作させる。記憶部370は、各種プログラム等を記憶する。制御部360および記憶部370は、例えばマイコンである。
【0067】
筐体380は、流体取扱システム300のチップホルダー310以外の構成要素を収容し、チップホルダー310を支持する。筐体380の構成は、上記機能を発揮できれば特に限定されない。本実施の形態では、筐体380の形状は、略直方体であるが、任意の形状であってよい。本実施の形態では、筐体380は、樹脂で構成されているが、金属で構成されていてもよい。筐体380を構成する樹脂材料の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリスチレン、シリコーン樹脂、およびエラストマーが含まれる。また、筐体380は、複数種類の材料で構成されていてもよい。
【0068】
本実施の形態では、流体取扱システム300は、複数のボタンや、ACアダプター410のプラグを挿入されるジャック、USBケーブル420のプラグが挿入されるソケット等も有している(図1および図2参照)。
【0069】
なお、流体取扱システム300は、内部電源や表示部などをさらに有していてもよい。
【0070】
(変形例)
上述の流体取扱装置200やこれを含む流体取扱システム300では、バルブ250およびポンプ260の両方を備えていたが、流体取扱装置やこれを含む流体取扱システムは、これらのうち、いずれか一方のみを有するものであってもよい。
【0071】
また、上記流体取り扱い装置200では、バルブ250が、第1流路(第1領域)231および第2流路(第1領域)240の間に配置されていた。ただし、本願明細書における第1領域および第2領域は、それぞれ流路に限定されず、例えばウェルや流体の導入口等であってもよい。例えば、流体取り扱い装置において、バルブ250が、ウェル(第1領域)と、流路(第2領域)との間に配置されていてもよい。
【0072】
また、上述の流体取扱システム300は、流体の移動を検出したり流体を観察したりするための光源(図示省略)や、光源からの光を検出するための光検出部(図示省略)を有してもよい。例えば、光源および光検出部は、第2流路240を挟んで対向するように配置される。この場合、光源が第2流路240に光を照射し、光検出部で、光源からの光の強度を検出することで、第2流路240内に流体が存在するか否か等を特定できる。光検出部は、制御部360と接続されていることが好ましく、光検出部が検出した信号に基づいて、制御部360がバルブ制御部320やポンプ制御部330を制御してもよい。なお、光源や光検出部を複数配置し、流体が所定の位置に到達したこと等を検出してもよい。光源の種類は特に制限されず、例えば赤外線とすることができる。
【0073】
さらに、上記では、バルブ250を1つの円の円周上に配置し、ロータリーバルブ(バルブ用摺動部)によって制御したが、当該構成に制限されない。例えば、バルブ250を、同心円状の2つ以上の円の円周上に配置し、これを適宜バルブ用摺動部材321によって制御してもよい。
【0074】
また、上記では、1つのバルブ250が有する溝状弁座250aの数が1つであったが、1つのバルブ250が有する溝状弁座250aの数は複数であってもよい。
【0075】
さらに、上記では、ポンプ260のポンプ溝260aを、1つのみ配置したが、ポンプ260内で流動可能な流体の体積を多くするため、ポンプ溝260aを複数配置してもよい。例えば、同心円状の円に沿って複数のポンプ溝260aを配置することも可能である。
【0076】
(流体取扱システムの動作)
以下、流体取扱システム100を用いて流体を取り扱う方法の一例を説明する。ここでは、図11A図12Bの模式図を参照しながら、図中上の列の左から2番目のウェル230(以下「導入ウェル」ともいう)に収容されている液体を図中の下の列の左から2番目のウェル230(以下「取出ウェル」ともいう)に移動させる例を説明する。図11A図12Bでは、流体取扱装置200の複数のバルブ250の近傍の領域を表側から見ている様子を示しており、ウェル230の外壁等は省略している。複数のバルブ250のうち、バルブ用摺動部材321の第1凸部322に押圧されている閉じた状態のバルブ250を黒塗りで示し、バルブ用摺動部材321の第1凹部323と対向している開いた状態のバルブ250を白塗りで示す。
【0077】
まず、チップホルダー310の収容部311に、スペーサー312を重ねた流体取扱装置200を収容する(図3Bおよび図3C参照)。次いで、流体取扱装置200を収容したチップホルダー310を筐体380上の所定の位置に固定する。チップホルダー310内に収容された流体取扱装置200は、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331に所定の力で押し当てられる。
【0078】
なお、チップホルダー310を設置する前、設置している途中、または設置した後に、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331を回転させて、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331の回転開始位置を調整してもよい。また、チップホルダー310を固定した後、必要に応じて、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331を流体取扱装置200側にさらに移動させて、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331と流体取扱装置200との押圧力を調整してもよい(図4参照)。
【0079】
次いで、流体取扱装置200の所定のウェル230に流体を導入する。この例では、図11Aに示すように、図中上の列の左から2番目の導入ウェル230に所定の液体を導入する。たとえば、ユーザーが、ピペットを用いて、チップホルダー310の天板の貫通孔およびスペーサー312の貫通孔を介して導入ウェル230に液体を導入する。
【0080】
その後、バルブ用摺動部材321の第1凸部322およびポンプ用摺動部材331の第2凸部332が流体取扱装置200の可撓性層220(バルブ250側では凸部221)を十分に押圧するように押圧力をかけながら、バルブ用摺動部材321およびポンプ用摺動部材331を回転させ、バルブ250の開閉およびポンプ260の駆動を行う。バルブ用摺動部材321の回転により、流体取扱装置200のバルブ250の可撓性層220の凸部221がバルブ用摺動部材321の第1凸部322によって溝状弁座250a内に押し込まれると、バルブ250が閉状態となる。一方、バルブ用摺動部材321の回転により、溝状弁座250a上に第1凹部323が配置されると、可撓性層220(凸部221)への押圧が解除され、バルブ250が開状態となる。また、ポンプ用摺動部材331の回転により、流体取扱装置200のポンプ260の可撓性層220がポンプ用摺動部材331の第2凸部332によってポンプ溝260a内に押し込まれ、この状態で第2凸部332が移動すると、流路内の流体が移動する。このようなバルブ250の開閉および流体の移動を利用して、所望の流体の処理や、混合などを行うことができる。
【0081】
この例では、まず、図11Bに示すように、制御部360は、バルブ用摺動部材321を回転させて、導入ウェル230に対応するバルブ250上に第1凹部323を移動させる。これにより、導入ウェル230と共通流路243とが連通する。次いで、制御部360は、ポンプ用摺動部材331を回転させて、導入ウェル230内の液体を共通流路243内に吸引する。共通流路243内の所定の位置に液体が到達したら、制御部360は、ポンプ用摺動部材331の回転を停止させて、共通流路243内への吸引を停止させる。
【0082】
次いで、図12Aに示すように、制御部360は、バルブ用摺動部材321を回転させて、図中下の列の左から2番目の取出ウェル230に対応するバルブ250上に第1凹部323を移動させる。これにより、共通流路243と取出ウェル230とが連通する。次いで、制御部360は、ポンプ用摺動部材331を回転させて、共通流路243内の液体を取出ウェル230内に押し出す。共通流路243内の液体がすべて取出ウェル230内に移動できるまでポンプ用摺動部材331が回転したら、制御部360は、ポンプ用摺動部材331の回転を停止させて、取出ウェル230内への押し出しを停止させる。
【0083】
最後に、図12Bに示すように、制御部360は、バルブ用摺動部材321を回転させて、導入ウェル230に対応するバルブ250上に第1凹部323を再度移動させる。これにより、共通流路243と導入ウェル230とが再度連通する。次いで、制御部360は、ポンプ用摺動部材331を回転させて、分岐流路241内に残存している液体を導入ウェル230内に押し出す。分岐流路241内の液体がすべて導入ウェル230内に移動できるまでポンプ用摺動部材331が回転したら、制御部360は、ポンプ用摺動部材331の回転を停止させて、導入ウェル230内への押し出しを停止させる。
【0084】
以上の手順により、図中上の列の左から2番目の導入ウェル230に収容されている液体から、所定量の液体を計り取り、図中の下の列の左から2番目の取出ウェル230に移動させることができる。
【0085】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る流体取扱装置は、基板および可撓性層で構成されており、簡便な構成を有する。さらに、可撓性層が比較的簡便な構造、すなわち平板状の領域と凸部とから構成される。このような可撓性層は、熱がかかったとしても、変形し難い。したがって、基板および可撓性層を高温で接着することが可能であり、信頼性の高い流体取扱装置や流体取扱システムとすることができる。
【0086】
さらに、可撓性層が凸部を有することから、可撓性層を小さい力で、溝状弁座側に押し込むことができる。例えば、可撓性層が平板状の部材であり、円弧状の第1凸部を有するバルブ用摺動部材によって、溝状弁座と可撓性層とを密着させる場合、第1凸部が、溝状弁座上の可撓性層だけでなく、溝状弁座以外の領域(隣り合う溝状弁座の間の領域)上の可撓性層にも接触することから、当該領域の可撓性層を圧縮する必要がある。そして、バルブどうしの間隔が広かったり、第1凸部の径が大きかったりすると、溝状弁座以外の領域の面積が広く、可撓性層の押圧に、非常に大きな力が必要となる。
【0087】
これに対し、可撓性層が、溝状弁座に対応する領域に凸部を有すると、溝状弁座以外の領域上の可撓性層を圧縮する必要がない。つまり、第1凸部が、所望の凸部のみを押圧することで、バルブの開閉が可能となる。したがって、非常に小さい力で、バルブの開閉を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本実施の形態に係る流体取扱装置、およびこれを用いた流体取扱システムは、例えば、臨床検査や食物検査、環境検査などの様々な用途において有用である。
【符号の説明】
【0089】
200 流体取扱装置
210 基板
220 可撓性層
221 凸部
230 ウェル
231 第1流路
231a 第1溝
232 通気流路
240 第2流路
240a 第2溝
241、242 分岐流路
243 共通流路
250 バルブ
250a 溝状弁座
260 ポンプ
260a ポンプ溝
300 流体取扱システム
310 チップホルダー
312 スペーサー
320 バルブ制御部
321 バルブ用摺動部材
322 第1凸部
324 第1駆動部
330 ポンプ制御部
331 ポンプ用摺動部材
332 第2凸部
334 第2駆動部
360 制御部
370 記憶部
380 筐体
410 ACアダプター
420 USBケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図12