(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063031
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】構造部材の製造方法及び構造物
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20230427BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230427BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230427BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173276
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】井戸硲 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 楓子
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 智仁
(72)【発明者】
【氏名】中島 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】高尾 全
(72)【発明者】
【氏名】高津 比呂人
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DB12
4G052DB14
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】三次元成形される積層構造体の成形精度を向上する。
【解決手段】3Dプリンタのノズルから湿式硬化材(モルタルM)を吐出して積層し、積層構造体20を形成する工程と、湿式硬化材の硬化前に、積層構造体20を複数の構造部材20Aに区画する、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材30を配置する工程と、シート材30への含水により積層構造体20を分割し複数の構造部材20Aを形成する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタのノズルから湿式硬化材を吐出して積層し、積層構造体を形成する工程と、
前記湿式硬化材の硬化前に、前記積層構造体を複数の構造部材に区画する、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材を配置する工程と、
前記シート材への含水により前記積層構造体を分割し複数の前記構造部材を形成する工程と、
を備えた構造部材の製造方法。
【請求項2】
前記積層構造体は壁状に形成され、
前記シート材は、
前記湿式硬化材を所定の層数積層する毎に前記湿式硬化材の上面に敷設されて前記積層構造体を上下方向に区画するフィルム、及び、平面視で所定の間隔毎に前記湿式硬化材の上方から下方へ差し込まれて前記積層構造体を横方向に区画するプレート、の少なくとも一方である、
請求項1に記載の構造部材の製造方法。
【請求項3】
湿式硬化材を積層して形成された積層構造体と、
前記積層構造体を複数の部分に区画すると共に、区画された箇所を境に分割して複数の構造部材を形成可能な、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材と、
を備えた構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材の製造方法及び構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、インクジェットヘッドから吐出されたインクによって形成されるインク層を積層して三次元造形物を製造する三次元造形物の製造方法が記載されている。
【0003】
この三次元造形物の製造方法においては、まず、三次元造形物と、三次元造形物を支持する支持部材と、を有する造形物を形成する。そして、造形物形成工程後に、三次元造形物と支持部材とを分離する。この分離される部分には、分離部材が配置されている。三次元造形物、支持部材及び分離部材のそれぞれは、インクジェットヘッドから吐出されたインクによって層状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の三次元造形物の製造方法によると、三次元造形物及び支持部材は、紫外線硬化型のインクで形成され、紫外線を照射することでこれらのインクを硬化させる。一方、分離部材は水溶性のインクで形成され、このインクを水に溶かして除去することにより、三次元造形物と支持部材とが分離される。
【0006】
ここで、例えば建築等の大型の構造物を3Dプリンタで製造する場合、セメントやモルタルなどの湿式材料を用いることがある。そして、工場に設置した3Dプリンタで構造物(積層構造体)を製作し、運搬できる大きさに分割したうえで、建設現場で組み立てて成形することがある。
【0007】
しかしながら、湿式材料で形成した積層構造体を、上記特許文献1のように水溶性のインクで分割しようとすると、積層構造体の構築中に、湿式材料の水分によってインクが溶ける虞がある。この場合、積層構造体が崩れたり、変形したりしてしまう虞があるため、積層構造体は全体形状をまとめて構築することが難しい。したがって、積層構造体を精度よく成形することが難しい。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮して、三次元成形される積層構造体の成形精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の構造部材の製造方法は、3Dプリンタのノズルから湿式硬化材を吐出して積層し、積層構造体を形成する工程と、前記湿式硬化材の硬化前に、前記積層構造体を複数の構造部材に区画する、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材を配置する工程と、前記シート材への含水により前記積層構造体を分割し複数の前記構造部材を形成する工程と、を備えている。
【0010】
請求項1に記載の構造部材の製造方法では、積層構造体が複数の部分に区画及び分割されて、構造部材が形成される。このため、積層構造体を細分化できる。これにより、積層構造体を工場で製作し、運搬車両の大きさに応じた大きさの構造部材に細分化して、運搬できる。
【0011】
また、積層構造体は、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材を含水させて分割される。時間依存性水溶性材料は、所定時間水分に晒されても溶解しない一方、所定時間以上水分に晒されると溶解する。
【0012】
このため、湿式硬化材が所定の硬度以上に硬化するまでの時間に、湿式硬化材に含まれる水分によってシート材が溶解しないようにできる。
【0013】
これにより、湿式硬化材が所定の硬度以上に硬化した後、散水などによりシート材を含水させれば、シート材を溶解させて除去することができる。あるいは、湿式硬化剤が所定の硬度に硬化した後に、湿式硬化剤に含まれる水分によってシート材を溶解させることもできる。
【0014】
このように、シート材が溶解するタイミングを調整することにより、積層構造体をシート材で区画しつつ構築し、全体形状を構築したあとで分割することができる。積層構造体の全体形状を一旦構築することができれば、分割後、シート材がない状態で構造部材を組み付けた際、精度よく積層構造体の全体形状を成形できる。
【0015】
これに対して、例えば水溶性のインク等で積層構造体を区画する場合、湿式硬化剤の水分によりインクが溶解すると、構造部材同士の接合力がなくなるため、その都度分割する必要がある。このため、積層構造体は全体形状をまとめて構築することが難しい。この場合、分割後、シート材がない状態で構造部材を組み付けた際、精度よく積層構造体の全体形状を成形することが難しい。
【0016】
このように、請求項1に記載の構造部材の製造方法では、時間依存性ではない水溶性のインク等で積層構造体を区画する場合と比較して、積層構造体の成形精度を向上することができる。また、積層構造体をコンクリートカッターなどによって切断して分割する場合と比較しても、構造部材に欠けや隙間が生じ難く、積層構造体の成形精度を向上することができる。さらに、粉塵等が発生し難く、作業性がよい。
【0017】
請求項2の構造部材の製造方法は、請求項1に記載の積層構造体の製造方法において、前記積層構造体は壁状に形成され、前記シート材は、前記湿式硬化材を所定の層数積層する毎に前記湿式硬化材の上面に敷設されて前記積層構造体を上下方向に区画するフィルム、及び、平面視で所定の間隔毎に前記湿式硬化材の上方から下方へ差し込まれて前記積層構造体を横方向に区画するプレート、の少なくとも一方である。
【0018】
請求項2の構造部材の製造方法では、シート材が、フィルム及びプレートの少なくとも一方とされている。
【0019】
シート材としてのフィルムは、湿式硬化材を所定の層数積層する毎に湿式材の上面に敷設される。これにより、高さが高い積層構造体を上下方向に区画できる。
【0020】
一方、シート材としてのプレートは、平面視で所定の間隔毎に湿式材の上方から下方へ差し込まれる。これにより、幅が大きい積層構造体を横方向に区画できる。
【0021】
請求項3の構造物は、湿式硬化材を積層して形成された積層構造体と、前記積層構造体を複数の部分に区画すると共に、区画された箇所を境に分割して複数の構造部材を形成可能な、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材と、を備える。
【0022】
請求項3の構造物は、積層構造体とシート材とによって形成されている。積層構造体は、シート材によって複数の部分に区画され、複数の構造部材に分割可能とされている。すなわち、積層構造体は細分化できる。これにより、積層構造体を工場で製作し、運搬車両の大きさに応じた大きさの構造部材に細分化して、運搬できる。
【0023】
また、シート材は、時間依存性水溶性材料で形成されている。時間依存性水溶性材料は、所定時間水分に晒されても溶解しない一方、所定時間以上水分に晒されると溶解する。
【0024】
このため、湿式硬化材が所定の硬度以上に硬化するまでの時間に、湿式硬化材に含まれる水分によってシート材が溶解しないようにできる。
【0025】
これにより、湿式硬化材が所定の硬度以上に硬化した後、シート材を含水させれば、シート材を溶解させて除去することができる。あるいは、湿式硬化剤が所定の硬度に硬化した後に、湿式硬化剤に含まれる水分によってシート材を溶解させることもできる。
【0026】
このように、シート材が溶解するタイミングを調整することにより、積層構造体をシート材で区画しつつ構築し、全体形状を構築したあとで分割することができる。積層構造体の全体形状を一旦構築することができれば、分割後、シート材がない状態で構造部材を組み付けた際、精度よく積層構造体の全体形状を成形できる。
【0027】
これに対して、例えば水溶性のインク等で積層構造体を区画する場合、湿式硬化剤の水分によりインクが溶解すると、構造部材同士の接合力がなくなるため、その都度分割する必要がある。このため、積層構造体は全体形状をまとめて構築することが難しい。この場合、分割後、シート材がない状態で構造部材を組み付けた際、精度よく積層構造体の全体形状を成形することが難しい。
【0028】
このように、請求項3に記載の構造物は、時間依存性でない水溶性のインク等で区画された積層構造体が分割されて形成される構造物と比較して、積層構造体の成形精度を向上することができる。また、積層構造体をコンクリートカッターなどによって切断して分割する場合と比較しても、構造部材に欠けや隙間が生じ難く、積層構造体の成形精度を向上することができる。さらに、粉塵等が発生し難く、作業性がよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、積層構造体の成形精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(A)は本発明の実施形態に係る構造物を示す立面図であり、(B)は(A)のB-B線断面図であり、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る積層構造体を製造する方法の一例を示した立面図である。
【
図3】(A)は本発明の実施形態に係る積層構造体を形成する湿式硬化剤を積層している状態を示す斜視図であり、(B)は湿式硬化剤をプレートで区画している状態を示す斜視図であり、(C)は湿式硬化剤をフィルムで区画している状態を示す斜視図であり、(D)はフィルムの上方に湿式硬化剤を積層している状態を示す斜視図である。
【
図4】(A)は本発明の実施形態に係る積層構造体を、複数の構造部材に分割している状態を示す立面図であり、(B)は(A)のB-B線断面図である。
【
図5】(A)は本発明の実施形態に係る構造物を用いて形成された壁体を示す立面図であり、(B)は(A)のB-B線断面図であり、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示の実施形態に係る構造物及び構造部材の製造方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0032】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0033】
各図において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0034】
<構造物>
図1(A)~(C)には、本発明の実施形態に係る構造物10が示されている。構造物10は、積層構造体20と、シート材30と、を備えて形成されている。構造物10は、
図5に示す壁体12を製造する過程で製造される、中間成果物である。
【0035】
(積層構造体)
積層構造体20は、後述するように、湿式硬化材であるモルタルMを積層して形成される。積層構造体20は、
図5に示す壁体12の一部となる捨て型枠部材であり、
図1(A)に示すように、壁状(版状)に形成され、かつ、
図1(B)に示すように、内部に空洞を備えて形成されている。
【0036】
積層構造体20は、壁体12を構成するコンクリート40(
図5参照)を打設する際の捨て型枠となる枠状の外縁部材22と、外縁部材22間にトラス状に架け渡されて外縁部材22を補強する補強部材24と、を備えて形成されている。
【0037】
(シート材)
シート材30は、
図1(A)に示すように、積層構造体20を複数の部分に区画すると共に、区画された箇所を境に積層構造体20を分割して複数の構造部材20Aを形成する仕切り材である。換言すると、積層構造体20は、シート材30によって、複数の構造部材20Aに区画されており、また、シート材30を境に、分割可能とされている。
【0038】
なお、「区画」とは、積層構造体20を複数の部分に仕切って、互いに隣り合う複数の構造部材20Aを形成することを指す。一方、「分割」とは、区画された状態の複数の構造部材20Aを、それぞれ分離することを指す。
【0039】
シート材30は、積層構造体20を横方向に区画するプレート32及び積層構造体20を上下方向に区画するフィルム34の総称である。プレート32及びフィルム34は、時間依存性水溶性材料で形成されている。プレート32及びフィルム34の具体的な構成の違いについては後述する。
【0040】
プレート32及びフィルム34を形成する時間依存性水溶性材料としては、例えばポリビニルアルコールを原料とした水溶性材料を用いることができる。プレート32及びフィルム34は、これらを形成する有機物の組成を調整することで、溶解性を調整することができる。
【0041】
ここで「溶解性」とは、所定の環境温度下において、プレート32及びフィルム34を含水させてからの経過時間と、プレート32及びフィルム34の残存率(または溶解率)との関係である。
【0042】
本実施形態において、プレート32及びフィルム34は、後述する「積層構造体の製造方法」において、所定時間、モルタルMの水分によって溶解しないように、溶解性が調整されている。
【0043】
ここで「所定時間」とは、モルタルMと接することにより含水を開始してから、構造物10が組み上がり、かつ、モルタルMが所定の硬度以上になるまでの時間である。
【0044】
また、プレート32及びフィルム34は、溶解するまでの間、構造部材20Aに貼り付いている。これにより、互いに隣り合う構造部材20A同士は、未溶解のプレート32及びフィルム34を境に分割され難い。
【0045】
<壁体の構築方法>
図5に示す壁体12を構築する方法について説明する。なお、本発明における「構造部材の製造方法」とは、この壁体12を構築する過程で実行される。
【0046】
(構造部材の製造方法)
上述したように、積層構造体20は、湿式硬化材であるモルタルMを積層して形成される。
図2に示すように、モルタルMは、造形装置(例えば3Dプリンタ)のノズル100からペースト状で吐出され、ノズル100を横方向へ移動させることに伴って、長尺の層状に形成される。この層を鉛直方向に積層することにより、モルタルMによる版状の捨て型枠が形成される。
【0047】
図3には、
図1(B)に示す領域E1の部分拡大斜視図が示されている。
図3(A)に示すように、モルタルMを1層積層する毎に、かつ、モルタルMの硬化前に、
図3(B)に示すように、プレート32をモルタルMの上方から下方へ差し込んで、モルタルMを横方向に区画する。プレート32は、モルタルMに差し込んで区画できる程度の剛性を有している。プレート32によって横方向に区画されたモルタルM同士は、互いに付着しない。
【0048】
プレート32の上下方向(Z方向)の寸法H1は、モルタルMの厚み(Z方向)と略同一とされ、プレート32の幅方向(Y方向)の寸法W1は、モルタルMの幅(Y方向)と同一以上とされている。
【0049】
なお、
図1(B)の領域E2に示す外縁部材22と補強部材24との連結部においては、プレート32の幅方向(Y方向)の寸法W1は、これらの連結部の幅(Y方向)に対応した寸法とする。
【0050】
また、プレート32は、下層のプレート32と平面上の位置を揃えて、所定の間隔毎に配置する。所定の間隔とは、
図1(A)に示す構造部材20Aの横方向の寸法W2である。
【0051】
そして、
図3(C)に示すように、モルタルMを所定の層数積層する毎に、かつ、モルタルMの硬化前に、モルタルMの上面にフィルム34を敷設する。所定の層数とは、
図1(A)に示す構造部材20Aの上下方向の寸法H2を形成する層数である。寸法W2及びH2は、運搬し易い大きさ並びに分解及び組み立て易い大きさに適宜設定することができる。
【0052】
フィルム34の幅方向(Y方向)の寸法は、プレート32の幅方向の寸法W1と略同一である。フィルムの長さ(X方向)は任意であるが、モルタルMの上面に切れ目なく敷設することが好ましい。フィルム34は、プレート32のようにモルタルMに差し込む必要はないので、プレート32のような剛性を備えていなくてもよい。
【0053】
そして、
図3(D)に示すように、フィルム34の上面に、モルタルMを積層する。以上の作業を繰り返すことにより、
図1に示す、積層構造体20がプレート32によって横方向に区画され、かつ、フィルム34によって上下方向に区画された構造物10が形成される。
【0054】
フィルム34によって上下方向に区画されたモルタルM同士は、互いに付着しない。一方、フィルム34がない部分では、上下に隣り合うモルタルM同士は、互いに付着して一体化される。
【0055】
そして、構造物10におけるモルタルMが所定の硬度以上に硬化した後、構造物10に散水する。これにより、プレート32及びフィルム34には、積層構造体20の外側に露出した部分から水分が浸透する。
【0056】
上述したように、プレート32及びフィルム34は、モルタルMが所定の硬度以上になるまで溶解しないように溶解度が調整されている。一方、モルタルMが所定の硬度以上に硬化した後で含水させることにより、プレート32及びフィルム34は溶解する。
【0057】
なお、モルタルMが所定の硬度以上に硬化した段階でモルタルMに含まれる水分によってプレート32及びフィルム34が溶解可能であれば、必ずしも構造物10に散水しなくてもよい。
【0058】
これにより、
図4に示すように、積層構造体20は分割されて、複数の構造部材20Aに細分化される。以上の工程は、例えば工場で実施され、各構造部材20Aはトラックなどに積み込まれて
図5に示す壁体12の設置現場へ搬送される。
【0059】
(壁体の構築)
壁体12の設置現場において構造部材20Aが組付けられ、
図5(B)に示すように、外縁部材22の内側にコンクリート40が打設される。これにより、壁体12が製造される。
【0060】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る構造部材20Aの製造方法では、
図1に示す積層構造体20が複数の部分に区画及び分割されて、
図4に示すように構造部材20Aが形成される。このため、積層構造体20を細分化できる。これにより、積層構造体20を工場で製作し、運搬車両の大きさに応じた大きさの構造部材20Aに細分化して、運搬できる。
【0061】
また、積層構造体20は、時間依存性水溶性材料で形成されたシート材30(すなわちプレート32及びフィルム34)を含水させて分割される。時間依存性水溶性材料は、所定時間水分に晒されても溶解しない一方、所定時間以上水分に晒されると溶解する。
【0062】
このため、湿式硬化材が所定の硬度以上に硬化するまでの時間に、湿式硬化材としてのモルタルMに含まれる水分によってシート材30が溶解しないようにできる。
【0063】
これにより、モルタルMが所定の硬度以上に硬化した後、シート材30を含水させれば、シート材30を溶解させて除去することができる。本実施形態においては、構造物10に散水することで、シート材30を含水させている。あるいは、モルタルMが所定の硬度に硬化した後に、モルタルMに含まれる水分によってシート材30を溶解させることもできる。この場合、散水する手間を省略できる。
【0064】
このように、シート材30が溶解するタイミングを調整することにより、積層構造体20をシート材30で区画しつつ構築し、
図1及び
図4に示すように、全体形状を構築したあとで分割することができる。
【0065】
積層構造体20の全体形状を一旦構築することができれば、分割後、
図5で示すように、シート材30がない状態で構造部材20Aを組み付けた際、精度よく積層構造体20の全体形状を成形できる。
【0066】
これに対して、例えば水溶性のインク等で積層構造体20を区画する場合、モルタルMの水分によりインクが溶解すると、構造部材20A同士の接合力がなくなるため、その都度分割する必要がある。
【0067】
このため、積層構造体20は全体形状をまとめて構築することが難しい。この場合、分割後、シート材30がない状態で構造部材20Aを組み付けた際、精度よく積層構造体20の全体形状を成形することが難しい。
【0068】
このように、本発明の実施形態に係る構造部材20Aの製造方法では、水溶性のインク等で積層構造体20を区画する場合と比較して、積層構造体20の成形精度を向上することができる。
【0069】
また、積層構造体20をコンクリートカッターなどによって切断して分割する場合と比較しても、構造部材20Aに欠けや隙間が生じ難く、積層構造体20の成形精度を向上することができる。さらに、粉塵等が発生し難く、作業性がよい。
【0070】
また、本発明の実施形態に係る積層構造体20の製造方法では、シート材30としてのフィルム34及びプレート32を用いている。
【0071】
シート材30としてのフィルム34は、
図3(C)に示すように、モルタルMを所定の層数積層する毎に、モルタルMの上面に敷設される。これにより、
図1に示すように、高さが高い積層構造体20を上下方向に区画できる。
【0072】
一方、シート材30としてのプレート32は、平面視で所定の間隔毎に、モルタルMの上方から下方へ差し込まれる。これにより、
図1に示すように、幅が大きい積層構造体20を横方向に区画できる。
【0073】
なお、本実施形態においては、シート材30としてフィルム34及びプレート32の双方を用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。シート材30としては、積層構造体20を上下方向又は横方向の少なくとも一方を区画できるものであればよい。つまり、シート材30としてフィルム34及びプレート32の少なくとも一方を用いればよい。
【0074】
また、本実施形態においては、フィルム34を用いて積層構造体20を上下方向に区画し、プレート32を用いて積層構造体20を横方向に区画している。すなわち、フィルム34とプレート32とを使い分けているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えばフィルム34に代えてプレート32を使用してもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、積層構造体20は、
図5に示す壁体12の一部となる捨て型枠部材としているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば積層構造体は、柱や梁の一部となる捨て型枠としてもよい。
【0076】
あるいは、積層構造体20は、捨て型枠ではなく、壁体、柱及び梁の本体部分としてもよい。積層構造体20を、壁体、柱及び梁の本体部分とする場合は、
図1(B)に示したように内部に空洞を備えた構造としてもよいし、3DプリンタからモルタルMから吐出されたモルタルによって内部が充填された構造としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 構造物
20 積層構造体
20A 構造部材
30 シート材
32 プレート
34 フィルム