(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063069
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】フィルムモールド
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20230427BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
B29C59/02 B
B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173337
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平郡 かおり
(72)【発明者】
【氏名】市原 輝久
【テーマコード(参考)】
4F202
4F209
【Fターム(参考)】
4F202AA12
4F202AA19
4F202AA21
4F202AA24
4F202AA25
4F202AA29
4F202AA34
4F202AF01
4F202AG05
4F202AH73
4F202AR13
4F202CA19
4F202CB02
4F202CC02
4F202CC10
4F202CD02
4F209AA12
4F209AA19
4F209AA21
4F209AA24
4F209AA25
4F209AA29
4F209AA34
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH73
4F209AR13
4F209PA02
4F209PA08
4F209PB01
4F209PC05
4F209PQ09
4F209PQ11
(57)【要約】
【課題】硬化性の樹脂材料に対し、良好な濡れ性および剥離性を示し、硬化性の樹脂材料の表面に、凹凸形状を良好に形成可能なフィルムモールドを提供すること。
【解決手段】硬化性の樹脂材料の表面に凹凸形状を転写するための、凹凸表面を備える樹脂フィルムからなるフィルムモールドであって、前記凹凸表面の表面自由エネルギーSE[単位:mN/m]と、陽電子消滅法で測定される、前記凹凸表面の自由体積SV[単位:nm3]とが、下記式(1)~(3)を満たすフィルムモールドを提供する。
SE>35.7 (1)
SV>0 (2)
SE<-296.77×SV+77.371 (3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性の樹脂材料の表面に凹凸形状を転写するための、凹凸表面を備える樹脂フィルムからなるフィルムモールドであって、
前記凹凸表面の表面自由エネルギーSE[単位:mN/m]と、陽電子消滅法で測定される、前記凹凸表面の自由体積SV[単位:nm3]とが、下記式(1)~(3)を満たすフィルムモールド。
SE>35.7 (1)
SV>0 (2)
SE<-296.77×SV+77.371 (3)
【請求項2】
溶融押出法により形成される樹脂フィルムに対し、連続的または断続的に表面に凹凸形状が付与されてなる長尺状のフィルムである請求項1に記載のフィルムモールド。
【請求項3】
基材フィルムの表面に対し、連続的または断続的に、紫外線硬化樹脂を塗布し、硬化することによって、表面に凹凸形状が付与されてなる長尺状のフィルムである請求項1に記載のフィルムモールド。
【請求項4】
平均厚みが、10~200μmである請求項1~3のいずれかに記載のフィルムモールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性の樹脂材料の表面に凹凸形状を転写するための、フィルムモールドに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の表示装置として、液晶表示装置が多く用いられている。このような電子機器においては、近年、小型化がますます進んでおり、液晶表示装置にも、小型化・軽量化が求められている。
【0003】
このような液晶表示装置には、主として反射、屈折、散乱等の作用を活用した光機能シートやこれらを複合したシートが用いられている。このような光機能シートとしては、樹脂フィルム表面に、所定の凹凸形状を付与してなる賦形フィルムが知られている。このような賦形フィルムは、通常、所望の凹凸形状をもった型付け板を用いてプレス成形するか、射出成形することによって製造される。
【0004】
樹脂フィルム表面に、所定の凹凸形状を付与する別の方法として、たとえば、特許文献1では、フィルムモールド(モールド成形用離型フィルム)を用いる方法が提案されている。この特許文献1の技術においては、凹凸形状の形成の対象となるフィルム材料に対する離型性の観点より、フィルムモールドの、凹凸形状を構成する材料として、シリコーン化合物やフッ素化合物などの離型性の化合物が使用されている。一方、特許文献2の技術においては、その具体的な実施例において、熱可塑性樹脂の離型性シートとして、ポリ4-メチルペンテン-1を用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-73022号公報
【特許文献2】特開2001-225376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、凹凸形状の形成の対象となるフィルム材料に対する、フィルムモールドの剥離性が十分であるものの、濡れ性が十分でなく、そのため、凹凸形状の転写性が必ずしも十分ではないという課題があり、特に、凹凸形状の形成の対象となるフィルム材料として、硬化性の樹脂材料を用いた場合に、このような問題が顕著であった。特許文献2の技術では、熱可塑性樹脂の離型性シートとしてポリ4-メチルペンテン-1を使用した態様が開示されているのみであり、適切な材料を選択するための指標は不明であった。
【0007】
本発明は、硬化性の樹脂材料に対し、良好な濡れ性および剥離性を示し、硬化性の樹脂材料の表面に、凹凸形状を良好に形成可能なフィルムモールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、硬化性の樹脂材料の表面に凹凸形状を転写するための、凹凸表面を備える樹脂フィルムからなるフィルムモールドについて、凹凸表面の表面自由エネルギーSEと、陽電子消滅法で測定される、前記凹凸表面の自由体積SVとを所定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、硬化性の樹脂材料の表面に凹凸形状を転写するための、凹凸表面を備える樹脂フィルムからなるフィルムモールドであって、
前記凹凸表面の表面自由エネルギーSE[単位:mN/m]と、陽電子消滅法で測定される、前記凹凸表面の自由体積SV[単位:nm3]とが、下記式(1)~(3)を満たすフィルムモールドが提供される。
SE>35.7 (1)
SV>0 (2)
SE<-296.77×SV+77.371 (3)
【0010】
本発明のフィルムモールドは、溶融押出法により形成される樹脂フィルムに対し、連続的または断続的に表面に凹凸形状が付与されてなる長尺状のフィルムであることが好ましい。
あるいは、本発明のフィルムモールドは、基材フィルムの表面に対し、連続的または断続的に、紫外線硬化樹脂を塗布し、硬化することによって、表面に凹凸形状が付与されてなる長尺状のフィルムであることが好ましい。
本発明のフィルムモールドは、平均厚みが、10~200μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬化性の樹脂材料に対し、良好な濡れ性および剥離性を示し、硬化性の樹脂材料の表面に、凹凸形状を良好に形成可能なフィルムモールドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るフィルムモールドを用いた、賦形フィルムの製造装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例、比較例に係る樹脂フィルムの表面自由エネルギーS
Eと、自由体積S
Vとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るフィルムモールドを用いた、賦形フィルムの製造装置の一例を示す図である。なお、以下においては、主として、
図1に示す製造装置を例示して、説明を行うが本発明は、
図1に示す態様に特に限定されるものではない。
【0014】
図1に示す製造装置においては、まず、基材用繰り出しロール10から、基材フィルム40が連続的に繰り出され、基材フィルム40は、ガイドロール11を経て、Tダイ20にて、その表面に、硬化性樹脂材料が塗布されることにより、その表面に、硬化性樹脂材料層50が形成される。なお、硬化性樹脂材料層50は、Tダイ20と、ニップロール12とにより形成されるクリアランスや、繰り出し速度を調整することによって、その厚みが制御される。
【0015】
また、
図1に示す製造装置においては、フィルムモールド用繰り出しロール13から、フィルムモールド60が連続的に繰り出されるように構成されている。そして、硬化性樹脂材料層50が形成された基材フィルム40と、フィルムモールド60とは、ラミネートロール15と、上流側バックアップロール16とにより重ね合わされる。ここで、フィルムモールド60は、硬化性樹脂材料層50と対向する面側に、所定の凹凸形状を有しており、所定の凹凸形状を有する面が、硬化性樹脂材料層50と接触するような状態で、基材フィルム40、硬化性樹脂材料層50、およびフィルムモールド60の順で重ね合わされた積層体とされる。
【0016】
そして、基材フィルム40、硬化性樹脂材料層50、およびフィルムモールド60の順で重ね合わされた積層体に対し、紫外線照射装置30により紫外線を照射することで、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料が、フィルムモールド60表面に形成された所定の凹凸形状が転写された状態にて、硬化し、これにより、表面に所望の凹凸形状を備えた硬化樹脂層50aとなる。次いで、紫外線照射による硬化反応を経た後、ラミネートロール15と、下流側バックアップロール17との間を通り、硬化樹脂層50aを備える基材フィルム40から、フィルムモールド60が剥離された後、フィルムモールド60については、フィルムモールド用巻き取りロール14に巻き取られ、硬化樹脂層50aを備える基材フィルム40は、ガイドロール18を介して、基材用巻き取りロール19により巻き取られる。
【0017】
図1に示す製造装置によれば、以上のようにして、硬化樹脂層50aを備える基材フィルム40が連続的に生産される。そして、このようにして、製造される硬化樹脂層50aを備える基材フィルム40は、フィルムモールド60に形成せれた所定の凹凸形状が転写されることにより、その表面に所望の凹凸形状を備えるものであるため、賦形フィルムとして用いられ、たとえば、反射、屈折、散乱等の作用を活用した光機能シートとして、各種光学用途に好適に用いられるものである。
【0018】
本実施形態においては、フィルムモールド60として、凹凸表面を備える樹脂フィルムであって、凹凸表面の表面自由エネルギーSE[単位:mN/m]と、陽電子消滅法で測定される、凹凸表面の自由体積SV[単位:nm3]とが、下記式(1)~(3)を満たす樹脂フィルムを用いる。
SE>35.7 (1)
SV>0 (2)
SE<-296.77×SV+77.371 (3)
【0019】
フィルムモールド60は、少なくとも一方の表面に、表面自由エネルギーSEおよび自由体積SVが上記式(1)~(3)を満たす凹凸形状が形成されていればよく、両方の面に、このような凹凸形状が形成されていてもよい。
【0020】
そして、本実施形態においては、フィルムモールド60を、硬化性樹脂材料層50が形成された基材フィルム40に対し、フィルムモールド60の凹凸形状が、硬化性樹脂材料層50の表面に押し付けられた状態で積層し、この状態を保ったまま、紫外線照射により、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料を硬化することで、フィルムモールド60の凹凸形状が転写されてなる、硬化樹脂層50aを形成できるものである。
【0021】
本実施形態によれば、フィルムモールド60として、凹凸表面の表面自由エネルギーSEと、凹凸表面の自由体積SVとが、上記式(1)~(3)を満たす樹脂フィルムを用いることで、フィルムモールド60を、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対し、良好な濡れ性を示し、かつ、優れた剥離性を示すものとすることができるものであり、これにより、所望の凹凸形状を有する硬化樹脂層50aを良好に形成できるものである。
【0022】
特に、フィルムモールド60を構成する樹脂材料について、本発明者等が検討を行ったところ、以下のような知見を得たものである。すなわち、フィルムモールド60を構成する樹脂材料として、離型性に優れた樹脂材料を使用すると、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対する濡れ性が悪化し、均一に濡れないこととなり、フィルムモールド60と硬化性樹脂材料層50との間に、気泡を噛み込みやすくなり、このような気泡が欠点となり、所望の凹凸形状を有する硬化樹脂層50aが形成できないという問題があった。一方で、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対する濡れ性に優れた樹脂材料を選択すると、硬化性樹脂材料に対する密着力が強くなり過ぎてしまい、離型性が悪化してしまい、剥離時に、硬化樹脂層50aの形状が破損してしまう等の不具合が発生してしまうという問題があった。
【0023】
これに対し、本発明者等がさらなる検討を行ったところ、凹凸表面の表面自由エネルギーSEと、凹凸表面の自由体積SVとを上記式(1)~(3)を満たす範囲とすることにより、フィルムモールド60を、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対し、良好な濡れ性を示し、かつ、優れた剥離性を示すものとすることができること、そして、これにより、所望の凹凸形状を有する硬化樹脂層50aを良好に形成できることを見出したものである。
【0024】
フィルムモールド60において、凹凸表面の表面自由エネルギーSEと、凹凸表面の自由体積SVとは、上記式(1)~(3)を満たすものであればよいが、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対する、濡れ性と剥離性とをより高度にバランスさせることができるという点より、下記式(4)~(6)のいずれか一つ、あるいは、全てを満たすことが好ましく、下記式(7)~(9)のいずれか一つ、あるいは、全てを満たすことがより好ましい。
40≦SE≦60 (4)
0.06≦SV≦0.1 (5)
-296.77×SV+67≦SE≦-296.77×SV+77 (6)
【0025】
凹凸表面の表面自由エネルギーSEが、35.7N/m未満であると、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対する濡れ性が悪化してしまい、フィルムモールド60と硬化性樹脂材料層50との間に気泡を噛み込みやすくなり、所望の凹凸形状を有する硬化樹脂層50aが形成できなくなってしまう。
【0026】
凹凸表面の自由体積SVが、好ましくは0.06nm3以上であると、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料のフィルムモールド60に対する浸透性を高めることができ、これにより、成形に必要となる密着性を充分なものとすることができる。なお、剥離性をより高めるという観点からは、0.06≦SV≦0.08であることがより好ましい。
【0027】
また、SE>-296.77×SV+77.371であると、硬化性樹脂材料に対する密着力が強くなり過ぎてしまい、剥離性が悪化してしまい、剥離時に、硬化樹脂層50aの形状が破損してしまい、所望の凹凸形状を有する硬化樹脂層50aが形成できなくなってしまう。
【0028】
なお、フィルムモールド60の凹凸表面の表面自由エネルギーSEは、フィルムモールド60の凹凸表面の、水、ジヨードメタン、エチレングリコールの接触角を測定し、測定された接触角データから、北崎・畑の解析理論によって算出することができる。また、凹凸表面の自由体積SVは、フィルムモールド60の凹凸表面について、陽電子消滅法による測定を行うことで求めることができる。陽電子消滅法とは、陽電子消滅寿命測定法の一種であり、陽電子が試料に入射してから消滅するまでの時間を測定し、その消滅寿命から空孔の自由体積を算出する方法である。
【0029】
フィルムモールド60の平均厚みは、特に限定されないが、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは20~100μm、さらに好ましくは30~60μmである。フィルムモールド60の平均厚みを上記範囲とすることにより、所望の凹凸形状を有する硬化樹脂層50aを、より高い生産性にて製造することができる。フィルムモールドにより製造できる凹凸形状としては、例えば、高さ1~30μm、アスペクト比0.5~1.0で、間隔が高さの0~20倍の連続的もしくは断続的な形状を挙げることができる。
【0030】
フィルムモールド60の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、溶融押出法により樹脂フィルムを得て、得られた樹脂フィルムを加熱し、所定の凹凸形状が表面に形成された賦形ロールを押し付けることにより、連続的または断続的に、その表面に凹凸形状を形成することで、長尺状のフィルムとして得る方法などが挙げられる。なお、所定の凹凸形状が表面に形成された賦形ロールに押し付ける際における、樹脂フィルムの加熱温度としては、特に限定されないが、樹脂フィルムを構成する樹脂材料のガラス転移温度以上に加熱する方法などが挙げられる。
【0031】
あるいは、フィルムモールド60の製造方法としては、基材フィルムとなる樹脂フィルムに対し、その表面に、連続的または断続的に、紫外線硬化樹脂を塗布し、これを硬化することによって、紫外線硬化樹脂による凹凸形状を形成し、これにより、表面に凹凸形状が付与されてなる長尺状のフィルムとして得る方法を採用することもできる。
【0032】
フィルムモールド60を形成する樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、特に限定されないが、熱可塑性の樹脂であることが好ましく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)などのカーボネート樹脂、ナイロン6などのアミド樹脂、環状オレフィン樹脂(COP)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。また、これらは2種以上を積層して用いてもよいし、あるいは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
また、紫外線硬化樹脂による凹凸形状を形成する方法を採用する場合には、紫外線硬化樹脂として、ラジカル硬化系であるアクリル系モノマーや、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートのようなアクリル系オリゴマー、不飽和ポリエステル、もしくはカチオン硬化系であるエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテルなどを用いることができる。なお、この際に用いる基材フィルムとしては、上記した樹脂材料からなるものなどが挙げられる。
【0034】
フィルムモールド60の凹凸表面の表面自由エネルギーSE、および凹凸表面の自由体積SVを上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、フィルムモールド60を形成する樹脂フィルムを構成する樹脂材料を選択する方法や、コロナ処理によって表面を改質する方法、表面改質剤によって濡れ性を調整する方法、無機微粒子添加によって自由体積を調整する方法、樹脂材料が結晶性の樹脂である場合に、結晶化度を調整する方法などが挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性の樹脂の場合には、加熱条件やフィルム化する際の延伸条件などを制御することで、結晶化度を高くすることで、分子配列の密な部分を多くすることにより、表面自由エネルギーSEを変化せずに、自由体積SVを小さくすることができる。
【0035】
また、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂、紫外線硬化線樹脂のいずれでもよいが、生産効率に優れているという観点より、紫外線硬化線樹脂が好ましい。紫外線硬化線樹脂としては、フィルムモールドの凹凸形状を紫外線硬化樹脂で形成する場合として例示したものと同様の樹脂を用いることができ、特に限定されないが、光機能性付与の観点から透過性の良いアクリル系樹脂が好ましく、さらに、
図1に示す製造装置においてTダイ20にて、その表面に、硬化性樹脂材料を塗布する場合、無溶剤系の紫外線硬化樹脂(無溶剤でも、塗布可能な粘度を有する樹脂)であることがより好ましい。なお、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料として、熱硬化性樹脂を使用する場合には、
図1に示す紫外線照射装置30に代えて、ヒータ等の加熱装置を使用し、加熱により硬化させるような態様とすればよい。
【0036】
硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料としては、フィルムモールド60による凹凸形状の転写をより良好に行うという観点より、硬化前における、温度25℃における粘度(B型粘度)が、好ましくは10~600cps、より好ましくは20~100cps、さらに好ましくは20~70cpsであり、硬化性樹脂材料としては、溶剤を実質的に含有しない状態における粘度がこの範囲にあることが好ましい。また、無溶剤系の紫外線硬化樹脂を用いる場合には、溶剤を実質的に含有しない状態における粘度がこの範囲にあることにより、
図1に示す製造装置においてTダイ20にて塗布する際における、塗布性にも優れたものとすることができる。
【0037】
硬化前の硬化性樹脂材料層50の平均厚み、硬化後の硬化樹脂層50aの平均厚みは、特に限定されず、得られる賦形フィルムの特性や用途に応じて適宜選択さすればよいが、好ましくは1~100μm、より好ましくは5~20μmである。
【0038】
また、基材フィルム40としては、特に限定されないが、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料として、紫外線硬化線樹脂を用いる場合や、最終的に得られる硬化樹脂層50aを備える基材フィルム40を光学用途に用いる場合には、光透過性の樹脂フィルムが好ましく、このような樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、たとえば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル変性ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン樹脂などが挙げられる。
【0039】
基材フィルム40の平均厚みは、特に限定されず、得られる賦形フィルムの特性や用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~40μmである。
【0040】
本実施形態によれば、フィルムモールド60として、凹凸表面の表面自由エネルギーSEと、凹凸表面の自由体積SVとが、上記式(1)~(3)を満たす樹脂フィルムを用いるものであり、このようなフィルムモールド60によれば、硬化性樹脂材料層50を構成する硬化性樹脂材料に対し、良好な濡れ性および剥離性を示すため、表面に所望の凹凸形状を備えた硬化樹脂層50aを良好に形成することができる。
【実施例0041】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0042】
<表面自由エネルギーSE>
全自動接触角計(商品名「DM-701」、協和界面科学社製)にて、以下の条件にて、樹脂フィルム表面の、水、ジヨードメタン、エチレングリコールの接触角を測定し、北崎・畑の方法で表面自由エネルギーSE[単位:mN/m]を求めた。
測定温度:25±2℃
測定湿度:50±10%RH
液適量 :3μL
着液後保持時間 :10sec
【0043】
<自由体積SV>
樹脂フィルムを15mm×15mmのシリコンウェハに貼り付けて、25℃で真空脱気した試料を用い、下記の条件により、陽電子消滅寿命を測定した。
測定装置:フジ・インバック製小型陽電子消滅発生装置PALS-200A
陽電子線源:22Naベースの陽電子消滅
γ線検出器:BaF2製シンチレータと光電子増倍管
ビーム強度:5keV
測定温度:25℃
測定雰囲気:真空
総カウント数:約5,000,000カウント
そして、得られた陽電子消滅寿命曲線に対して、非線形最小二乗プログラムPOSITRONFITで3成分解析を行って、消滅寿命の小さいものからτ1、τ2、τ3とした。最も長い平均消滅寿命τ3から、下記式を用いて自由体積半径R3を算出し、求めた自由体積半径R3から、フィルム表面の自由体積SV[単位:nm3]を算出した。
τ3=(1/2)[1-{R3/(R3+0.166)}+(1/2π)sin{2πR3/(R3+0.166)}]-1
SV=(4/3)π(R3)3
【0044】
<ピール強度>
基材40としての樹脂フィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとの積層体を用いて、幅25mm×長さ150mmのサンプルを作製し、引張試験機(商品名「テンシロン万能材料試験機 RTC-1210A」、ORIENTEC社製により、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとの密着面について、90°ピール試験を行い、90°ピール強度[単位:N/25mm]を測定した。フィルムモールドとして用いた際に、良好に剥離できるという観点より、90°ピール強度が2N/25mm以下である場合に合格とした。
【0045】
<気泡の有無>
基材40としての樹脂フィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとの積層体について、これらの界面における気泡の有無を目視にて観察した。
【0046】
<実施例1>
無延伸のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(IV=1.0、260℃にて、溶融押出法により、厚み40μmでフィルム化)の表面について、上記方法により、表面自由エネルギーSEおよび自由体積SVの測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0047】
次いで、基材40としての易接着層付きポリエステルフィルム(商品名「コスモシャイン A4300」、東洋紡株式会社製、厚み38μm)の表面に、アクリル系樹脂(商品名「PAK-02」、東洋合成工業株式会社製、25℃におけるB型粘度:70cps以下)を、バーコーターを用いて塗工し、硬化性樹脂材料層50としての、厚さ10μmのアクリル系樹脂層を形成した。そして、このようにして得られた基材40としての易接着層付きポリエステルフィルムの表面に、硬化性樹脂材料層50としてのアクリル系樹脂層を形成した積層体の、アクリル系樹脂層側の表面に、フィルムモールド60となるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを積層させ、次いで、基材40としての易接着層付きポリエステルフィルム側から、UV照射装置を用いて、UV照射量971mJ/cm2にて硬化させることで、基材40としての易接着層付きポリエステルフィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムとの積層体を得て、上記した方法にしたがって、ピール強度および気泡の有無の測定を行った。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例2~10>
フィルムモールド60となる樹脂フィルムとして、表1に示すものを、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、表面自由エネルギーSEおよび自由体積SVの測定を行い、実施例1と同様にして、基材40としての易接着層付きポリエステルフィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとの積層体を得て、同様にピール強度および気泡の有無の測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
なお、実施例2~10において使用した樹脂フィルムは以下の通りである。
・実施例2(PBT(2)):二軸延伸のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム(商品名「BOBLET BO-PBT」、興人フィルム&ケミカルズ社製、厚み25μm)
・実施例3(PBT(3)):ポリブチレンテレフタレート樹脂(商品名「ジェラネックス 700FP」、ポリプラスチックス社製)を、250℃にて、溶融押出法により、厚み40μmでフィルム化することにより得られたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム
・実施例4(ナイロン6):ナイロン6フィルム(商品名「ハーデン N1100」、東洋紡社製、厚み20μm))
・実施例5(PPS):ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム(商品名「トレリナ」、東レ社製、厚み100μm)
・実施例6(EVOH):エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂フィルム(商品名「エバール」、クラレ社製、厚み20μm)
・実施例7(COP):シクロオレフィン樹脂フィルム(商品名「ZEONOR」、日本ゼオン社製、厚み130μm)
・実施例8(PMMA(1)):ポリメチルメタクリレート樹脂(平均分子量=12万~15万、ガラス転移温度=124℃)を、溶融押出法で成膜したフィルムを二軸延伸し、厚み40μmでフィルム化することにより得られたポリメチルメタクリレート樹脂フィルム
・実施例9(PMMA(2)):ポリメチルメタクリレート樹脂(平均分子量=9万~11万、ガラス転移温度=122℃)を、溶融押出法で成膜したフィルムを二軸延伸し、厚み40μmでフィルム化することにより得られたポリメチルメタクリレート樹脂フィルム
・実施例10(PET(1)):ポリエチレンテレフタレート樹脂(IV=0.9のイソフタル酸15mol変性)を、270℃にて、溶融押出法の方法により、厚み100μmでフィルム化した後、二軸延伸後ヒートセットすることにより得られた高結晶化度のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(ラマン分光法により結晶化度に応じて変化する1730cm-1の半値幅(Δν)から算出した結晶化度が、43.68%(結晶化度=100×((305-Δν)/209-1.335)/(1.455-1.335))
【0050】
<比較例1~9>
フィルムモールド60となる樹脂フィルムとして、表1に示すものを、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、表面自由エネルギーSEおよび自由体積SVの測定を行い、実施例1と同様にして、基材40としての易接着層付きポリエステルフィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとの積層体を得て、同様にピール強度および気泡の有無の測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
なお、比較例1~9において使用した樹脂フィルムは以下の通りである。
・比較例1(PP(1)):無延伸ポリプロピレンフィルム(商品名「RXC22」、三井化学東セロ社製、厚み20μm)
・比較例2(PP(2)):ポリプロピレン樹脂(homo-PP)を溶融押出法にて厚み200μmにフィルム化した無延伸ポリプロピレンフィルム
・比較例3(PP(3)):ポリプロピレン(商品名「サンアロマー」、サンアロマー社製)を、260℃にて、溶融押出法により、厚み100μmでフィルム化することにより得られた無延伸ポリプロピレンフィルム
・比較例4(PE):低密度ポリエチレンフィルム(厚み100μm)
・比較例5(PTFE):ポリテトラフルオロエチレンフィルム(商品名「ナフロン」、ニチアス社製、厚み100μm)
・比較例6(TPX):ポリメチルペンテン樹脂フィルム(商品名「オピュラン X-44B」、三井化学社製、厚み20μm)
・比較例7(PET(2)):ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(商品名「コスモシャイン A4100」、東洋紡社製、厚み38μm)
・比較例8(PET(3)):ポリエチレンテレフタレート樹脂(IV=0.9 イソフタル酸15mol変性)を、270℃にて、溶融押出法の方法により、厚み100μmでフィルム化することにより得られた非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(ラマン分光法により結晶化度に応じて変化する1730cm-1の半値幅(Δν)から算出した結晶化度が、0.88%(結晶化度=100×((305-Δν)/209-1.335)/(1.455-1.335))
・比較例9(PC(1)):ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロン 7022J」、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を、280℃にて、溶融押出法により、厚み100μmでフィルム化することにより得られたポリカーボネート樹脂フィルム
【0052】
【0053】
表1に示すように、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとして、表面自由エネルギーSEと、自由体積SVとが式(1)~(3)(式(1):SE>35.7、式(2):SV>0、式(3):SE<-296.77×S
V
+77.371)を満たすものを用いた場合には、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂に対するピール強度が低く、剥離性に優れ、また、気泡の発生も抑制され、良好な濡れ性を示すものであった(実施例1~10)。
また、ラマン分光法にて硬化樹脂層とフィルムモールドの界面のスペクトルを測定し、特異的なピークの強度比から硬化樹脂の浸透深さを求めた結果、実施例3の樹脂フィルムに対する硬化樹脂の浸透深さは0μmであった。さらに比較例9の樹脂フィルムに対する硬化樹脂の浸透深さは4μmであり、浸透深さが深いほどピール強度が強い傾向を示した。浸透深さの測定結果を表1に示す。なお、表1中、「N.D.」は、ピーク分離が難しく、浸透深さの測定が困難であったことを示す。
【0054】
<浸透深さ>
浸透深さは、下記の条件にて測定した。
測定装置:レーザーラマン分光光度計(製品名「NRS-5500」、日本分光社製)
レーザー波長:532.31nm
レーザースポット径:2μm
積算回数:1回
具体的な測定方法としては、次の通りとした。すなわち、基材40となる樹脂フィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムと、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとの積層体の断面を、レーザーラマン分光光度計を用いて、硬化樹脂層50aとフィルムモールド60との界面を挟んで厚さ方向に多数点測定を行った。
そして、各厚さ位置で得られた測定スペクトルに対し、フィルムモールド60となる樹脂フィルムに由来する測定ピークのうち、樹脂フィルムの配向状態の影響が少ない測定ピークの中から、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂フィルムに由来する測定ピークと重ならず、かつ、強度が最も大きい測定ピークの強度P1と、それ以外の測定ピークの中で強度が最も大きい測定ピークの強度P2と、の比P1/P2を算出した。比P1/P2が安定して小さい位置を硬化樹脂層50a、比P1/P2が安定して大きい位置をフィルムモールド60とみなし、これらの間の厚さ方向に移動するにつれて比P1/P2の値が変化する範囲を特定し、この範囲を、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂がフィルムモールド60となる樹脂フィルムに浸透した領域とみなして、この範囲の幅を浸透深さとして算出した。
【0055】
また、実施例3の樹脂フィルムについて、表面に凹凸パターンを有する金属製の賦形ロールを用い、表面に凹凸形状(凹凸高さ:8~12μm、凹凸のアスペクト比:0.7~1.0)を形成した樹脂フィルムを得て、表面に凹凸形状を形成した樹脂フィルムを用いたところ、同様の結果を得ることができた。そのため、この結果より、実施例1~10に係る樹脂フィルムによれば、フィルムモールド60として使用した場合に、硬化性の樹脂材料に対し、良好な濡れ性および剥離性を示し、硬化性の樹脂材料の表面に、凹凸形状を良好に形成可能なものとなるといえる。
【0056】
一方、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとして、表面自由エネルギーS
Eが式(1)(式(1):S
E>35.7)を満たさない場合には、フィルムモールド60となる樹脂フィルムと、硬化樹脂層50aとしての硬化アクリル系樹脂からなる層との間に、気泡が発生してしまい、濡れ性に劣る結果となった(比較例1~6)。
また、フィルムモールド60となる樹脂フィルムとして、表面自由エネルギーS
Eと、自由体積S
Vとが式(3)(式(3):S
E<-296.77×S
V+77.371)を満たさない場合には、ピール強度が高くなり過ぎてしまい、硬化樹脂層50aに対する剥離性に劣るものであり(比較例7)、特に、比較例8,9については、剥離時に破材が発生する結果となった。
なお、
図2に、各実施例、比較例に係る樹脂フィルムの表面自由エネルギーS
Eと、自由体積S
Vとの関係をグラフ化して示した。