(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063077
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】血液循環機能評価装置及び血液循環機能トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/22 20060101AFI20230427BHJP
A63B 22/00 20060101ALI20230427BHJP
A63B 24/00 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
A61B5/22
A63B22/00
A63B24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173356
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川野 健二
(72)【発明者】
【氏名】川越 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 志信
(72)【発明者】
【氏名】坂本 二郎
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇徳
(57)【要約】
【課題】利用者の身体能力に応じた機能改善運動を提案できる血液循環機能評価装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、第1姿勢と、第1姿勢よりも利用者の腰部の位置が高い第2姿勢との間で、利用者の姿勢を受動的に変化させるように構成されたシートと、利用者の少なくとも心拍を含む生体情報を測定するように構成された測定器と、シートによる利用者の第1姿勢から第2姿勢への上昇遷移の間、及びシートによる利用者の第2姿勢から第1姿勢への下降遷移の間の少なくとも一方における生体情報の測定結果に基づき、利用者の血液循環機能を評価するように構成された制御機器と、を備える血液循環機能評価装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1姿勢と、前記第1姿勢よりも利用者の腰部の位置が高い第2姿勢との間で、前記利用者の姿勢を受動的に変化させるように構成されたシートと、
前記利用者の少なくとも心拍を含む生体情報を測定するように構成された測定器と、
前記シートによる前記利用者の前記第1姿勢から前記第2姿勢への上昇遷移の間、及び前記シートによる前記利用者の前記第2姿勢から前記第1姿勢への下降遷移の間の少なくとも一方における前記生体情報の測定結果に基づき、前記利用者の血液循環機能を評価するように構成された制御機器と、
を備える、血液循環機能評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血液循環機能評価装置であって、
前記制御機器は、前記上昇遷移の間及び前記下降遷移の間の双方における前記生体情報の測定結果に基づき、前記利用者の血液循環機能を評価するように構成される、血液循環機能評価装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の血液循環機能評価装置であって、
前記制御機器は、前記上昇遷移時又は前記下降遷移時に、前記利用者の身体能力に合わせた負担が前記利用者に発生するように、前記シートを動作させるように構成される、血液循環機能評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の血液循環機能評価装置であって、
前記制御機器は、前記上昇遷移時又は前記下降遷移時に、前記シートの座面角度が40°以上70°以下となる中間角度領域の維持時間の設定により、前記利用者に発生する負担の大きさを調整するように構成される、血液循環機能評価装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の血液循環機能評価装置であって、
前記測定器は、前記利用者の血圧を測定するように構成された血圧計を有し、
前記シートは、前記利用者の姿勢変化に合わせて前記血圧計の高さを変化させるように構成された支持部を有する、血液循環機能評価装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の血液循環機能評価装置であって、
前記制御機器は、前記利用者の身長又は脚長に合わせて、前記利用者が前記第1姿勢にあるときの前記シートの姿勢と、前記上昇遷移における前記シートの変形軌跡とを調整するように構成される、血液循環機能評価装置。
【請求項7】
第1姿勢と、前記第1姿勢よりも利用者の腰部の位置が高い第2姿勢との間で、前記利用者の姿勢を受動的に変化させるように構成されたシートと、
前記シートによる前記利用者の前記第1姿勢から前記第2姿勢への上昇遷移時、又は前記シートによる前記利用者の前記第2姿勢から前記第1姿勢への下降遷移時に、前記利用者の身体能力に合わせた負担が前記利用者に発生するように、前記シートを動作させるように構成された制御機器と、
を備える、血液循環機能トレーニング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の血液循環機能トレーニング装置であって、
前記制御機器は、前記上昇遷移時又は前記下降遷移時に、前記シートの座面角度が40°以上70°以下となる中間角度領域の維持時間の設定により、前記利用者に発生する負担の大きさを調整するように構成される、血液循環機能トレーニング装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の血液循環機能トレーニング装置であって、
前記利用者の少なくとも心拍を含む生体情報を測定するように構成された測定器をさらに備える、血液循環機能トレーニング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の血液循環機能トレーニング装置であって、
前記測定器は、前記利用者の血圧を測定するように構成された血圧計を有し、
前記シートは、前記利用者の姿勢変化に合わせて前記血圧計の高さを変化させるように構成された支持部を有する、血液循環機能トレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液循環機能評価装置及び血液循環機能トレーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心疾患を経た患者の血液循環機能の改善を目的とした、リハビリテーション支援装置が知られている(特許文献1参照)。この装置は、患者の意思にしたがって負担を発生させる随意制御と、ペダル漕ぎ動作をアシストする自律制御との比率を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のリハビリテーション支援装置は、患者自身によるペダル漕ぎ運動を利用するため、ペダル漕ぎ運動が十分にできない下肢能力の低下した患者(例えば高齢者や片麻痺患者)には適用が難しい。
【0005】
本開示の一局面は、利用者の身体能力に応じた機能改善運動を提案できる血液循環機能評価装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、第1姿勢と、第1姿勢よりも利用者の腰部の位置が高い第2姿勢との間で、利用者の姿勢を受動的に変化させるように構成されたシート(11)と、利用者の少なくとも心拍を含む生体情報を測定するように構成された測定器(12)と、シート(11)による利用者の第1姿勢から第2姿勢への上昇遷移の間、及びシート(11)による利用者の第2姿勢から第1姿勢への下降遷移の間の少なくとも一方における生体情報の測定結果に基づき、利用者の血液循環機能を評価するように構成された制御機器(13)と、を備える血液循環機能評価装置(1)である。
【0007】
このような構成によれば、シート(11)の動作による受動的な姿勢遷移によって、利用者の筋負担の変化を抑制しつつ心臓の高さを変化させることができる。そのため、血液循環機能を精度よく評価することができる。さらにこの評価結果を用いることで、利用者の健康状態や年齢によらず、利用者の血液循環機能を含む身体能力に応じた適切な機能改善運動を提案することができる。
【0008】
本開示の一態様では、制御機器(13)は、上昇遷移の間及び下降遷移の間の双方における生体情報の測定結果に基づき、利用者の血液循環機能を評価するように構成されてもよい。このような構成によれば、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0009】
本開示の一態様では、制御機器(13)は、上昇遷移時又は下降遷移時に、利用者の身体能力に合わせた負担が利用者に発生するように、シート(11)を動作させるように構成されてもよい。このような構成によれば、利用者の血液循環機能、筋活動能力等に合わせて、生体情報の変化を検出可能な負担量として設定することができる。その結果、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0010】
本開示の一態様では、制御機器(13)は、上昇遷移時又は下降遷移時に、シート(11)の座面角度が40°以上70°以下となる中間角度領域の維持時間の設定により、利用者に発生する負担の大きさを調整するように構成されてもよい。このような構成によれば、身体能力の充分な利用者に対し、血液循環機能以外の身体活動の誘発を抑制しつつ、血液循環機能の評価に適した生体情報の状態変化を誘発させることができる。
【0011】
本開示の一態様では、測定器(12)は、利用者の血圧を測定するように構成された血圧計(121)を有してもよい。シート(11)は、利用者の姿勢変化に合わせて血圧計(121)の高さを変化させるように構成された支持部(114)を有してもよい。このような構成によれば、利用者の姿勢変化時に、血圧の測定位置と、心臓の位置との高低差の変動を抑制することができる。その結果、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0012】
本開示の一態様では、制御機器(13)は、利用者の身長又は脚長に合わせて、利用者が第1姿勢にあるときのシート(11)の姿勢と、上昇遷移におけるシート(11)の変形軌跡とを調整するように構成されてもよい。このような構成よれば、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0013】
本開示の別の態様は、第1姿勢と、第1姿勢よりも利用者の腰部の位置が高い第2姿勢との間で、利用者の姿勢を受動的に変化させるように構成されたシート(11)と、シート(11)による利用者の第1姿勢から第2姿勢への上昇遷移時、又はシート(11)による利用者の第2姿勢から第1姿勢への下降遷移時に、利用者の身体能力に合わせた負担が利用者に発生するように、シート(11)を動作させるように構成された制御機器(13)とを備える血液循環機能トレーニング装置(1)である。
【0014】
このような構成によれば、下肢能力等の運動機能の低下した利用者に対し、血液循環機能の改善トレーニングを提供することができる。また、身体能力に合わせた負担の調整によって、血液循環機能の改善に合わせて筋負担を増加させることができる。つまり、利用者の身体能力に応じた機能改善運動を提供できる。
【0015】
本開示の一態様では、制御機器(13)は、上昇遷移時又は下降遷移時に、シート(11)の座面角度が40°以上70°以下となる中間角度領域の維持時間の設定により、利用者に発生する負担の大きさを調整するように構成されてもよい。このような構成によれば、身体能力に合わせた負担の調整をシート(11)によって容易に実現することができる。
【0016】
本開示の一態様は、利用者の少なくとも心拍を含む生体情報を測定するように構成された測定器(12)をさらに備えてもよい。このような構成によれば、血液循環機能の改善効果を確認しながら、トレーニングを実施することができる。
【0017】
本開示の一態様では、測定器(12)は、利用者の血圧を測定するように構成された血圧計(121)を有してもよい。シート(11)は、利用者の姿勢変化に合わせて血圧計(121)の高さを変化させるように構成された支持部(114)を有してもよい。このような構成によれば、利用者の姿勢変化時に、血圧の測定位置と、心臓の位置との高低差の変動を抑制することができる。その結果、トレーニング効果の評価精度を高めることができる。
【0018】
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態における血液循環機能改善装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の血液循環機能改善装置におけるシートが第2ポジションにある状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態における血液循環機能評価装置におけるシートの変形と座面角度との関係を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4は、座面角度と大腿部筋負担との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図1の血液循環機能改善装置における制御機器が実行する処理を概略的に示すフロー図である。
【
図6】
図6は、実施形態における血液循環機能トレーニング装置におけるシートの変形と座面角度との関係を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す血液循環機能改善装置1は、利用者Uの血液循環機能を評価するための血液循環機能評価装置として使用される。
【0021】
「血液循環機能」とは、姿勢の変化に伴う心臓の高さ変化に対応して、自律神経系によって循環変動を抑制制御する機能である。血液循環機能改善装置1は、シート11と、測定器12と、制御機器13とを備える。
【0022】
<シート>
シート11は、利用者Uの姿勢を受動的に変化させるように構成されている。具体的には、シート11は、
図1に示す第1ポジションと、
図2に示す第2ポジションとの間で変形可能である。
【0023】
図1の第1ポジションでは、利用者Uがシート11に着席可能である。つまり、シート11が第1ポジションにあるとき、利用者Uは座位姿勢となる。
第1ポジションでは、シート11に支持された利用者Uの腰部が最も低くなる。また、第1ポジションでは、シート11の座面の水平面に対する傾斜角度(以下、「座面角度A」ともいう。)は、0°である。
【0024】
図2の第2ポジションでは、利用者Uはシート11に着席することはできない。つまり、シート11が第2ポジションにあるとき、利用者Uは立位姿勢となる。第2ポジションでは、利用者Uの腰部はシート11によって支持されない。第2ポジションでは、利用者Uの腰部が最も高くなる。また、第2ポジションでは、座面角度Aは、90°である。
【0025】
シート11は、シートクッション111と、シートバック112と、フレーム113と、支持部114とを有する。
【0026】
シートクッション111は、利用者Uの腰部及び臀部を支持する。シートクッション111は、フレーム113の第1アーム113Bに取り付けられている。シートクッション111は、第1アーム113Bによって、上下方向及び前後方向(つまり水平方向)の位置、並びに座面の向きが連続的に変更される。
【0027】
シートバック112は、利用者Uの背部を支持する。シートバック112は、フレーム113の第2アーム113Cに取り付けられている。シートバック112は、第2アーム113Cによって、上下方向及び前後方向の位置が連続的に変更される。
【0028】
フレーム113は、シートクッション111及びシートバック112を支持すると共に、シートクッション111及びシートバック112の位置及び姿勢を変化させるように構成されている。フレーム113は、ベース113Aと、第1アーム113Bと、第2アーム113Cとを有する。
【0029】
ベース113Aは、第1アーム113B及び第2アーム113Cを上下方向に移動可能に保持している。第1アーム113B及び第2アーム113Cは、例えば電力を動力源とするアクチュエータによって稼働する。
【0030】
第1アーム113Bは、シートクッション111を保持している。第1アーム113Bは、ベース113Aに対して上下方向に移動することで、シートクッション111の高さを変化させる。
【0031】
また、第1アーム113Bは、シートクッション111が取り付けられた保持部の回転によって、シートクッション111の座面の向きを変化させる。さらに、第1アーム113Bは、ベース113Aに対して水平方向に移動することで、シートクッション111の前後方向の位置を変化させる。したがって、第1アーム113Bは、シートクッション111に載っている利用者Uの腰部を、シートクッション111によって前上方に押し上げることができる。
【0032】
第2アーム113Cは、第1アーム113Bよりも上方において、シートバック112を保持している。第2アーム113Cは、ベース113Aに対して上下方向に移動することで、シートバック112の高さを変化させる。
【0033】
また、第2アーム113Cは、ベース113Aに対して水平方向に移動することで、シートバック112の前後方向の位置を変化させる。したがって、第2アーム113Cは、シートバック112にもたれかかっている利用者Uの背部を、シートバック112によって前方に押し出すことができる。
【0034】
第1アーム113B及び第2アーム113Cは、制御機器13からの指令に基づいて、互いに同期して稼働する。具体的には、第1アーム113B及び第2アーム113Cは、制御機器13からの指令に基づいて、
図1の第1ポジションを構成する位置から、
図2の第2ポジションを構成する位置まで同時に移動する。
【0035】
支持部114は、利用者Uの腕を支持している。支持部114は、利用者Uの姿勢変化に合わせて利用者Uの腕の高さ(つまり血圧計121の高さ)を変化させるように構成されている。
【0036】
支持部114は、載置台114Aと、連結部材114Bとを有する。載置台114Aは、利用者Uの腕を支持する平坦な上面(つまり載置面)を有する。連結部材114Bは、載置台114Aを第2アーム113Cに連結している。
【0037】
載置台114Aは、第2アーム113Cの上下方向及び水平方向の移動と同期して、上下方向及び水平方向に移動する。つまり、第2アーム113Cが前上方に移動するときに載置台114Aも前上方に移動し、第2アーム113Cが後下方に移動するときに載置台114Aは後下方に移動する。これにより、載置台114Aの載置面と、利用者Uの心臓Hとの高低差Dの変動が抑制される。
【0038】
<測定器>
測定器12は、利用者Uの少なくとも心拍を含む生体情報を測定するように構成されている。
【0039】
利用者Uの心拍は、例えばシート11のシートバック112に設置された心拍センサによって連続的に測定される。測定器12によって測定される利用者Uの生体情報としては、心拍の他に、血圧、呼吸、心電図、脈拍、体温等の循環系能力に関連する測定値が挙げられる。
【0040】
本実施形態では、測定器12は、利用者Uの血圧を測定する血圧計121を有する。血圧計121は、利用者Uの腕又は指に装着される。血圧計121は、例えば無線又は有線による通信によって、利用者Uの血圧の連続値を制御機器13に送信する。
【0041】
上述したように、シート11の支持部114によって、姿勢変化時の利用者Uの腕と心臓Hとの高低差Dの変動が抑制されるため、血圧計121と心臓Hとの高低差の変動に伴う外乱(つまり血圧の変化)が抑制される。
【0042】
<制御機器>
図1に示す制御機器13は、例えばプロセッサと、RAM、ROM等の記憶媒体と、入出力部と、ネットワーク通信部とを備えるコンピュータである。
【0043】
制御機器13は、記憶媒体に記憶されたプログラムによって、測定器12から利用者Uの生体情報の測定結果(つまり出力データ)を受信し、この測定結果に基づいて利用者Uの血液循環機能を評価するように構成されている。
【0044】
具体的には、制御機器13は、
図3に示すシート11による利用者Uの上昇遷移T1の間、及びシート11による利用者Uの下降遷移T2の間の双方における生体情報の測定結果に基づき、利用者Uの血液循環機能を評価する。
【0045】
上昇遷移T1は、シート11の変形により、利用者Uが第1姿勢から第2姿勢に受動的に体勢を変える動きである。第2姿勢は、第1姿勢よりも利用者Uの腰部及び心臓Hの位置が高い姿勢である。
【0046】
上昇遷移T1では、利用者Uの心臓Hの高さが徐々に上昇していく。また、上昇遷移T1では、座面角度Aが第1ポジションの0°から第2ポジションの90°に向かって増加していく。
【0047】
下降遷移T2は、シート11の変形により、利用者Uが第2姿勢から第1姿勢に受動的に体勢を変える動きである。下降遷移T2では、利用者Uの心臓Hの高さが徐々に下降していく。また、下降遷移T2では、シート11の座面角度Aが第2ポジションの90°から第1ポジションの0°に向かって減少していく。
【0048】
制御機器13は、上昇遷移T1及び下降遷移T2それぞれにおける心臓Hの高さ及び座面角度Aの変化と、心拍、血圧等の生体情報の変化(つまり連続データ)とを組み合わせて、利用者Uの血液循環機能を評価する。
【0049】
例えば、制御機器13は、上昇遷移T1の間における心拍及び血圧の低下量の大きさ又は変化に基づいて血液循環機能を評価する。例えば、制御機器13は、これらの低下量が小さいほど血液循環機能が優れていると評価する。
【0050】
具体的には、制御機器13は、測定器12が測定した心拍情報から、心拍数(HR)、心拍変動、及び心拍間隔(RRI)を算出し、予め用意されたアルゴリズムを用いて、血液循環機能の評価値である心臓年齢を推定する。また、制御機器13は、心臓年齢の他に、立ち座り状態における心負担、疲労状態、フレイル状況等を推定してもよい。
【0051】
同様に、制御機器13は、下降遷移T2の間における心拍及び血圧の上昇量の大きさ又は変化に基づいて血液循環機能を評価する。例えば、制御機器13は、これらの上昇量が小さいほど血液循環機能が優れていると評価される。
【0052】
制御機器13は、上昇遷移T1時及び下降遷移T2時に、利用者Uの身体能力に合わせた負担が利用者Uに発生するように、シート11を動作させる。ここで、「利用者の身体能力」は、利用者の血液循環機能に加えて、筋活動能力等の運動能力を含む概念である。
【0053】
例えば、利用者Uが身体能力の充分な健常者の場合、制御機器13は、
図3に示す通常負担モードM11によってシート11を動作させる。通常負担モードM11では、制御機器13は、評価開始後、まずは座面角度Aが0°となる利用者Uの第1姿勢P1を5分間維持する。その後、制御機器13は、利用者Uを第2姿勢P2とするために、座面角度Aが60°となるまでシート11を2秒間で変形させる。これにより、利用者Uの上昇遷移T1が行われる。
【0054】
さらに制御機器13は、第2姿勢P2を2分間維持した後、利用者Uを第1姿勢P1に戻すために、座面角度Aが0°となるまでシート11を2秒間で変形させる。これにより、利用者Uの下降遷移T2が行われる。制御機器13は、第1姿勢P1を再び5分間維持した後、評価を終了する。
【0055】
制御機器13は、評価開始から評価終了までの時間における生体情報を用いて、利用者Uの血液循環機能を評価する。つまり、制御機器13は、上昇遷移T1の間及び下降遷移T2の間に加えて、第1姿勢P1及び第2姿勢P2を維持している間(つまり姿勢を保っている間)の生体情報も評価の対象とする。
【0056】
通常負担モードM11における利用者Uの第2姿勢P2では、座面角度Aが60°とされ、利用者Uがいわゆる「立座り」の状態にある。この状態は、座位姿勢と立位姿勢との間で、大腿部筋負担が最も大きくなる。
【0057】
具体的には、
図4に示すように、座面角度が0°から60°に向かうに連れて、大腿部筋負担は増加していき、60°を超えると、大腿部筋負担は減少していく。つまり、座面角度が40°以上70°以下の範囲で、大腿部筋負担は最大(つまりピーク)となる。
【0058】
そこで、制御機器13は、上昇遷移T1時及び下降遷移T2時に、シート11の座面角度Aが40°以上70°以下となる中間角度領域の維持時間の設定により、利用者Uに発生する負担の大きさを調整する。
【0059】
通常負担モードM11の例では、中間角度領域の維持時間が2秒に設定されている。これにより、利用者Uに発生する負担を大きくすることができ、健常者に対する血液循環機能の評価に適した生体情報の変化量を検出することができる。
【0060】
また例えば、利用者Uが身体能力の低い疾患者、高齢者等の場合、制御機器13は、
図3に示す低負担モードM12によってシート11を動作させる。低負担モードM12では、制御機器13は、評価開始後、まずは座面角度Aが0°となる利用者Uの第1姿勢P1を5分間維持する。
【0061】
その後、制御機器13は、利用者Uを第3姿勢P3とするために、座面角度Aが40°となるまでシート11を2秒間で変形させる。これにより、利用者Uの1回目の上昇遷移T1が行われる。第3姿勢P3は、第1姿勢P1と第2姿勢P2との間の中間的な姿勢である。つまり、第3姿勢P3では、利用者Uの腰部の位置は第1姿勢P1よりも高く、第2姿勢P2よりも低い。
【0062】
1回目の上昇遷移T1の後、制御機器13は、第3姿勢P3を30秒間維持した後、利用者Uを第2姿勢P2とするために、座面角度Aが80°となるまでシート11を2秒間で変形させる。これにより、利用者Uの2回目の上昇遷移T1が行われる。
【0063】
さらに制御機器13は、第2姿勢P2を30秒間維持した後、利用者Uを第1姿勢P1に戻すために、座面角度Aが0°となるまでシート11を2秒間で変形させる。これにより、利用者Uの下降遷移T2が行われる。制御機器13は、第1姿勢P1を再び5分間維持した後、評価を終了する。
【0064】
低負担モードM12では、上述の中間角度領域における利用者Uの姿勢維持が行われない。そのため、低負担モードM12では、通常負担モードM11に比べて、利用者Uに発生する負担の大きさが低減される。
【0065】
また、低負担モードM12では、姿勢遷移の中継点として第3姿勢P3が存在する点、及び第2姿勢P2における維持時間が通常負担モードM11より低減されている点によっても、利用者Uに発生する負担の大きさが低減される。これにより、筋活動を最小化、又は安定化することができるため、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0066】
なお、低負担モードM12において、利用者Uに発生する負担を小さくするために、シート11の変形速度(つまり、利用者Uの姿勢の変化速度)が通常負担モードM11よりも小さくされてもよい。
【0067】
制御機器13は、評価した利用者Uの血液循環機能に基づいて、利用者Uの血液循環機能を高めるのに最適なトレーニングプログラムを提案してもよい。例えば、血液循環機能に基づいて、血液循環機能の改善トレーニングと、筋負担による筋力トレーニングとの割合を決定することができる。
【0068】
制御機器13は、初期設定として、利用者Uの身長又は脚長に合わせて、利用者Uが第1姿勢P1にあるときのシート11の姿勢と、上昇遷移におけるシート11の変形軌跡とを調整する。
【0069】
具体的には、制御機器13は、利用者Uの身長又は脚長に合わせて、第1姿勢P1におけるシート11のシートクッション111の座面及びシートバック112の高さの調整と、第1ポジションから第2ポジションへのシート11の変形軌跡の調整とを行う。
【0070】
<制御機器の処理>
以下、
図5のフロー図を参照しつつ、制御機器13が実行する評価処理の一例について説明する。
【0071】
本処理では、制御機器13は、シート11によって利用者Uに与えられる負担の大きさの設定の入力を受け付ける(ステップS110)。負担の設定後、制御機器13は、設定された負担に基づいたシート作動プログラムに沿って、利用者Uが着席したシート11を変形させながら、生体情報の取得を開始する(ステップS120)。
【0072】
シート作動プログラムの終了後、制御機器13は、生体情報の取得を終了する(ステップS130)。その後、制御機器13は、取得した生体情報に基づいて、利用者Uの血液循環機能を評価する(ステップS140)。
【0073】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)シート11の動作による受動的な姿勢遷移によって、利用者Uの筋負担の変化を抑制しつつ心臓Hの高さを変化させることができる。そのため、血液循環機能を精度よく評価することができる。さらにこの評価結果を用いることで、利用者Uの健康状態や年齢によらず、利用者Uの血液循環機能を含む身体能力に応じた適切な機能改善運動を提案することができる。
【0074】
(1b)血液循環機能の評価に上昇遷移の間及び下降遷移の間の双方における生体情報の測定結果を用いることで、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0075】
(1c)利用者Uの身体能力に合わせた負担が利用者Uに発生するようにシート11が動作することで、利用者Uの血液循環機能、筋活動能力等に合わせて、生体情報の変化を検出可能な負担量として設定することができる。その結果、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0076】
(1d)中間角度領域の維持時間の設定によって利用者Uに発生する負担の大きさが調整されることで、身体能力の充分な利用者Uに対し、血液循環機能以外の身体活動の誘発を抑制しつつ、血液循環機能の評価に適した生体情報の状態変化を誘発させることができる。
【0077】
(1e)利用者Uの姿勢変化に合わせて血圧計121の高さを変化させる支持部114によって、利用者Uの姿勢変化時に、血圧の測定位置と、心臓の位置との高低差の変動を抑制することができる。その結果、血液循環機能の評価精度を高めることができる。
【0078】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
図1に示す血液循環機能改善装置1は、利用者Uの血液循環機能を改善するための血液循環機能トレーニング装置としても使用可能である。
【0079】
血液循環機能トレーニング装置として用いられる血液循環機能改善装置1では、制御機器13は、トレーニングプログラムに基づいて、利用者Uの身体能力に合わせた負担が利用者Uに発生するように、シート11を動作させる。トレーニングプログラムは、例えば、第1実施形態の血液循環機能評価装置で得られた評価に基づいて作成される。
【0080】
利用者Uの筋力及び心機能の双方が極めて低い場合、制御機器13は、
図6に示す第1負担モードM21によってシート11を動作させる。第1負担モードM21では、制御機器13は、プログラム開始後、座面角度Aが0°となる利用者Uの第1姿勢P1を2分間維持する。その後、制御機器13は、利用者Uを第2姿勢P2とするために、座面角度Aが20°となるまでシート11を10秒間で変形させる。これにより、利用者Uの上昇遷移が行われる。
【0081】
制御機器13は、第2姿勢P2を1分間維持した後、利用者Uを第1姿勢P1に戻すために、座面角度Aが0°となるまでシート11を10秒間で変形させる。これにより、利用者Uの下降遷移が行われる。制御機器13は、利用者Uが第1姿勢P1と第2姿勢P2との間で遷移を繰り返すようにシート11を一定時間又は一定回数、動作させる。
【0082】
第1負担モードM21によって、利用者Uの筋力への負担を抑えつつ、利用者Uの心機能を改善することができる。心機能が改善された利用者Uに対して、制御機器13は、第2負担モードM22によってシート11を動作させる。
【0083】
第2負担モードM22では、制御機器13は、プログラム開始後、座面角度Aが0°となる利用者Uの第1姿勢P1を1分間維持する。その後、制御機器13は、利用者Uを第3姿勢P3とするために、座面角度Aが20°となるまでシート11を5秒間(つまり第1負担モードM21よりも短い時間)で変形させる。
【0084】
制御機器13は、第3姿勢P3を1分間維持した後、利用者Uを第1姿勢P1に戻すために、座面角度Aが0°となるまでシート11を5秒間で変形させる。又は、制御機器13は、第3姿勢P3を1分間維持した後、利用者Uを第2姿勢P2とするために、座面角度Aが40°となるまでシート11を5秒間で変形させる。制御機器13は、第2姿勢P2を1分間維持した後、利用者Uを第3姿勢P3に戻すために、座面角度Aが20°となるまでシート11を5秒間で変形させる。
【0085】
第2負担モードM22では、制御機器13は、利用者Uが第1姿勢P1と第3姿勢P3との間、又は第3姿勢P3と第2姿勢P2との間で遷移を繰り返すようにシート11を一定時間又は一定回数、動作させる。
【0086】
第2負担モードM22によって、利用者Uの心機能に対する負担を増やしつつ、利用者Uの筋力を鍛えることができる。筋力が改善された利用者Uに対して、制御機器13は、第3負担モードM23によってシート11を動作させる。
【0087】
第3負担モードM23は、第2負担モードM22において、利用者Uを第3姿勢P3とするための座面角度Aを40°、第2姿勢P2とするための座面角度Aを80°に変更したものである。
【0088】
第3負担モードM23によって、利用者Uの心機能をさらに改善することができる。心機能がさらに改善された利用者Uに対して、制御機器13は、第4負担モードM24によってシート11を動作させる。
【0089】
第4負担モードM24は、第3負担モードM23において、利用者Uを第3姿勢P3とするための座面角度Aを50°とし、さらに、利用者Uの第1姿勢P1と第3姿勢P3との間の遷移時間及び、第3姿勢P3と第2姿勢P2との間の遷移時間をそれぞれ3秒としたものである。
【0090】
第3負担モードM23及び第4負担モードM24では、座面角度Aが40°以上70°以下となる中間角度領域に第3姿勢P3が設定されている。そのため、利用者Uに発生する負担を大きくすることができ、筋力改善効果を高めることができる。
【0091】
つまり、制御機器13は、上昇遷移時及び下降遷移時に、シート11の座面角度Aが40°以上70°以下となる中間角度領域の維持時間の設定により、利用者Uに発生する負担の大きさを調整する。
【0092】
また、制御機器13は、上昇遷移時及び下降遷移時における利用者Uの生体情報(例えば心拍、血圧等)を測定器12から取得し、記憶されている過去の自身の生体情報や、基準値と比較する。利用者Uは、この比較結果によって血液循環機能の改善効果を確認できる。
【0093】
上述のように、シート11の支持部114によって測定器12の血圧計121と心臓Hとの高低差Dの変動が抑制される。そのため、トレーニング時の心臓Hの高さ変動による影響が抑えられた効果が確認できる。
【0094】
[2-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(2a)下肢能力等の運動機能の低下した利用者Uに対し、血液循環機能の改善トレーニングを提供することができる。また、身体能力に合わせた負担の調整によって、血液循環機能の改善に合わせて筋負担を増加させることができる。つまり、利用者Uの身体能力に応じた機能改善運動を提供できる。
【0095】
(2b)中間角度領域の維持時間の設定によって利用者Uに発生する負担の大きさが調整されることで、身体能力に合わせた負担の調整をシート11によって容易に実現することができる。
【0096】
(2c)測定器12による生体情報の測定によって、血液循環機能の改善効果を確認しながら、トレーニングを実施することができる。
【0097】
(2d)利用者Uの姿勢変化に合わせて血圧計121の高さを変化させる支持部114によって、利用者Uの姿勢変化時に、血圧の測定位置と、心臓の位置との高低差の変動を抑制することができる。その結果、トレーニング効果の評価精度を高めることができる。
【0098】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0099】
(3a)上記実施形態の血液循環機能評価装置において、制御機器は、必ずしも上昇遷移の間及び下降遷移の間の双方における生体情報の測定結果に基づいて血液循環機能を評価しなくてもよい。例えば、制御機器は、上昇遷移の間のみの生体情報の測定結果、又は下降遷移の間のみの生体情報の測定結果に基づいて血液循環機能を評価してもよい。
【0100】
(3b)上記実施形態の血液循環機能評価装置及び血液循環機能トレーニング装置において、制御機器は、必ずしもシートの座面角度が40°以上70°以下となる中間角度領域を利用して利用者に発生する負担の大きさを調整しなくてもよい。
【0101】
(3c)上記実施形態の血液循環機能評価装置及び血液循環機能トレーニング装置において、シートは、必ずしも利用者の姿勢変化に合わせて血圧計の高さを変化させる支持部を有しなくてもよい。
【0102】
(3d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0103】
1…血液循環機能改善装置、11…シート、12…測定器、13…制御機器、
111…シートクッション、112…シートバック、113…フレーム、
113A…ベース、113B…第1アーム、113C…第2アーム、114…支持部、
114A…載置台、114B…連結部材、121…血圧計。