(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063178
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】漁具
(51)【国際特許分類】
A01K 75/06 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
A01K75/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173527
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000110882
【氏名又は名称】ニチモウ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 泰生
(72)【発明者】
【氏名】平山 完
(72)【発明者】
【氏名】河原 一也
【テーマコード(参考)】
2B106
【Fターム(参考)】
2B106AA08
2B106EA02
2B106EA04
2B106EA09
2B106EA16
2B106EH01
(57)【要約】
【課題】簡単な構成によって漁具の水中における稼働姿勢を適正に保持することができ、漁具による漁獲量の向上を図ることの漁具を提供すること。
【解決手段】漁具1、11、21、31、41の少なくとも一部分に水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁具の少なくとも一部分に水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする漁具。
【請求項2】
水中において、前記漁具が水と相対移動する際の外力を受けて当該漁具の標準稼働姿勢から変形する部分に前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の漁具。
【請求項3】
前記水中稼働姿勢維持部材はPTFE含有素材により形成されており、当該PTFE含有素材は前記漁具の他の部位を形成する素材より比重が大きい素材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の漁具。
【請求項4】
前記漁具は漁網であり、前記水中稼働姿勢維持部材はPTFE含有網糸により形成されており、当該PTFE含有網糸は前記漁網の他の部位を形成する網糸より比重が大きい網糸であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の漁具。
【請求項5】
前記漁網はまき網であり、水中に投網されて沈降する稼働時に、水中において底部となる網の下方口部の上方近傍の大目網領域および、当該大目網領域の長手方向の両端部における網の上部から底部に亘る長手方向所定幅の帯網領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の漁具。
【請求項6】
前記漁網はトロール網であり、水中において曳網される稼働時に、水中において底部となる底面領域に前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の漁具。
【請求項7】
前記漁網は定置網であり、水中に展開設置されている稼働時に、垣網の水中において底部となる下部領域並びに角錐形の漏斗網の側面領域および底面領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の漁具。
【請求項8】
前記漁網は生簀網であり、水中に展開設置されている稼働時に、水中において底部となる底網領域および側面網領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の漁具。
【請求項9】
前記漁具は延縄であり、水中に投入されて沈降する際および水中に展開設置されている際の稼働時に、幹縄領域および浮縄領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の漁具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は漁具に係り、特に、魚の漁獲量を向上させることに好適な漁具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚の漁獲用、養殖用の漁具としては、網や綱が多用されており、漁法等に応じて多種類の漁具が用いられている。
【0003】
例えば、まき網、トロール網、定置網、生簀網、延縄等が用いられている。
【0004】
これらの漁具は、海水および淡水の双方並びに双方が混在する汽水が存在する領域に設置して用いられる。本明細書においては、海水、淡水および汽水を水と称し、海水中、淡水中および汽水中を水中と称する。
【0005】
これらの漁具はそれぞれの漁業目的に応じて水中の所定位置に適正な稼働姿勢状態に保持されることにより漁獲に供されるものであるが、それぞれの漁具に対しては適正な稼働姿勢状態を変動させる外力が作用してしまい、その外力を阻止することが不可能な状態にある。
【0006】
例えば、定置網、生簀網等の固定状態で使用される漁具に対しては、設置されている環境において水流が変動したり、気候が変動したりすることにより、網が変形させられる外力が作用する。
【0007】
また、まき網、トロール網、延縄等に対しては、漁船から水中に投入されて可能な限り短時間内に適正な稼働姿勢状態に展開変形させて、早期に漁獲を開始させる必要があるが、水が展開変形を阻害する抵抗力(外力)として作用する。
【0008】
そこで、これらの漁具においては、水中において所定の稼働姿勢を維持するために、漁具の底部に金属製の沈子を設けたり、漁具の上部に主として樹脂製の浮子を設けたりしている(例えば、特許文献1のまき網参照)。
【0009】
また、定置網においては、更にアンカに取り付けたロープを網と水底部との間に多数張って所定形状を維持するようにしている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6-303877公報
【特許文献2】特開2018-000098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記の従来の漁具の水中における稼働姿勢を適正に保持する各種の手段は、漁具に対して後付けで取り付けられるものであるために、漁具を理想とされる稼働姿勢に保持することが不可能なことが多かった。
【0012】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成によって漁具の水中における稼働姿勢を適正に保持することができ、漁具による漁獲量の向上を図ることの漁具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため本発明の第1の態様の漁具は、漁具の少なくとも一部分に水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0014】
この第1の態様の本発明によれば、水中稼働姿勢維持部材が漁具自身の一部に備えられているので、従来の漁具と別体の沈子や浮子と異なり、構成が簡単であるとともに漁具の水中における稼働姿勢を適正に保持することができ、当該漁具による漁獲量の向上を図ることができる。
【0015】
また、本発明の第2の態様の漁具は、第1の態様において、前記漁具が水中において、水と相対移動する際の外力を受けて当該漁具の標準稼働姿勢から変形する部分に前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0016】
この第2の態様の本発明によれば、水中稼働姿勢維持部材が水と相対移動する際の外力を受けて当該漁具の標準稼働姿勢から変形する部分に備えられているので、漁具は水中において外力を受けても変形しないで標準稼働姿勢という適正な稼働姿勢を保持することができ、更に漁獲量の向上を図ることができる。
【0017】
また、本発明の第3の態様の漁具は、第1または第2の態様において、前記水中稼働姿勢維持部材はPTFE含有素材により形成されており、当該PTFE含有素材は前記漁具の他の部位を形成する素材より比重が大きい素材であることを特徴とする。
【0018】
この第3の態様の本発明によれば、水中稼働姿勢維持部材が他の素材より比重の大きいPTFE含有素材によって形成されることにより、漁具の他の部位の素材より確実に比重が大きく形成されるので、比重の大きい当該水中稼働姿勢維持部材の重量をもって漁具の標準稼働姿勢という適正な稼働姿勢を保持することができ、より一層漁獲量の向上を図ることができる。
【0019】
また、本発明の第4の態様の漁具は、第1から第3の各態様において、漁具が漁網であり、前記水中稼働姿勢維持部材はPTFE含有網糸により形成されており、当該PTFE含有網糸は前記漁網の他の部位を形成する網糸より比重が大きい網糸であることを特徴とする。
【0020】
この第4の態様の本発明によれば、漁具の1態様である漁網の一部の水中稼働姿勢維持部材が、PTFE含有網糸により形成されており、当該PTFE含有網糸は漁網の他の部位を形成する網糸より比重が大きい網糸であるので、比重の大きい当該水中稼働姿勢維持部材であるPTFE含有網糸の重量をもって漁具の標準稼働姿勢という適正な稼働姿勢を保持することができ、漁網による漁獲量の向上を図ることができる。
【0021】
本発明の第5の態様の漁具は、第4の態様の漁網がまき網であり、水中に投網されて沈降する稼働時に、水中において底部となる網の下方口部の上方近傍の大目網領域および、当該大目網領域の長手方向の両端部における網の上部から底部に亘る長手方向所定幅の帯網領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0022】
この第5の態様の本発明によれば、まき網が水中に投網された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている大目網領域および帯網領域が比重の小さい網糸部分より先に沈降するために、まき網が稼働時の理想的な形状である標準稼働姿勢を維持して早期に水中に展開されるために、魚をまき網の下部より逃避させることなくまき網内に捕獲し、まき網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0023】
本発明の第6の態様の漁具は、第4の態様の漁網がトロール網であり、水中において曳網される稼働時に、水中において底部となる底面領域に前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0024】
この第6の態様の本発明によれば、トロール網が水中に投網された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている水中において底部となる底面領域が比重の小さい網糸部分より先に沈降するために、トロール網の網口が上下方向に十分に開口されるとともに、トロール網全体の形状が稼働時の理想的な形状である標準稼働姿勢を維持して早期に水中に展開されるために、魚をトロール網より逃避させることなくトロール網内に捕獲し、トロール網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0025】
本発明の第7の態様の漁具は、第4の態様の漁網が定置網であり、水中に展開設置されている稼働時に、垣網の水中において底部となる下部領域並びに角錐形の漏斗網の側面領域および底面領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0026】
この第7の態様の本発明によれば、定置網が水中に固定設置された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている垣網の水中において底部となる下部領域並びに角錐形の漏斗網の側面領域および底面領域が、自身の重量をもって水流や潮流という外力が作用しても理想的な形状である標準稼働姿勢を維持することができ、垣網や漏斗網から魚が逃避することを防止して、定置網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0027】
本発明の第8の態様の漁具は、第4の態様の漁網が生簀網であり、水中に展開設置されている稼働時に、水中において底部となる底網領域および側面網領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0028】
この第8の態様の本発明によれば、生簀網が水中に固定設置された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている底網領域および側面網領域が、自身の重量をもって水流や潮流という外力が作用しても理想的な形状である標準稼働姿勢を維持することができ、生簀網の形状を常に理想的な標準稼働姿勢に維持することができ、生簀網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0029】
本発明の第9の態様の漁具は、第1から第3の各態様において、漁具が延縄であり、水中に投入されて沈降する際および水中に展開設置されている際の稼働時に、幹縄領域および浮縄領域にそれぞれ前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0030】
この第9の態様の本発明によれば、延縄が水中に投入された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている幹縄領域および浮縄領域が比重の小さい網糸部分より先に沈降するために、延縄全体が稼働時の理想的な形状である標準稼働姿勢を維持しながら早期に水中に展開されるために、投入後早期に魚を漁獲することができ、延縄漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、簡単な構成によって漁具の水中における稼働姿勢を適正に保持することができ、漁獲量の向上を図ることの漁具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る漁具の一実施形態を示すまき網の展開図
【
図2】
図1のまき網を水中に投入した状態を示す概略斜視図
【
図3】本発明に係る漁具の他の実施形態を示すトロール網の概略斜視図
【
図4】本発明に係る漁具の更に他の実施形態を示す定置網の概略斜視図
【
図5】本発明に係る漁具の更に他の実施形態を示す生簀網の概略斜視図
【
図6】本発明に係る漁具の更に他の実施形態を示す延縄の概略斜視図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0034】
<本発明の基本構成>
本発明の漁具は、水中に設置された稼働姿勢において、水流等の外力を受けると変形する部分を備えている漁具を対象としており、特に、変形し易い網や綱を備えている漁具を対象としている。このような特徴を備えている漁具の例としては、まき網、トロール網、定置網、生簀網、延縄等が挙げられる。
【0035】
そして、本発明の漁具としては、漁具の少なくとも一部分に水中稼働姿勢維持部材を備えていることを肝要とする。この水中稼働姿勢維持部材は、水流等の外力を受けた場合に、漁具の水中に設置された稼働姿勢を変形しないように維持させる機能を発揮する部材であって、漁具と一体に設けられているものをいう。具体例としては、自重をもって漁具の変形を防止することが挙げられる。
【0036】
このような態様の本発明の漁具によれば、水中稼働姿勢維持部材が漁具自身の一部に備えられているので、従来の漁具と別体の沈子や浮子と異なり、構成が簡単であるとともに、漁具の水中における稼働姿勢を適正に保持することができ、当該漁具による漁獲量の向上を図ることができる。
【0037】
また、本発明の漁具にあっては、前記漁具が水中において、水と相対移動する際の外力(例えば、水流や潮流からの押圧力)を受けて当該漁具の標準稼働姿勢(変形前の適正形状の姿勢)から変形する部分に前記水中稼働姿勢維持部材を備えていることを特徴とする。
【0038】
このような態様の本発明によれば、水中稼働姿勢維持部材が水と相対移動する際の外力を受けて当該漁具の標準稼働姿勢から変形する部分に備えられているので、漁具は水中において外力を受けても変形しないで標準稼働姿勢という適正な稼働姿勢を保持することができ、更に漁獲量の向上を図ることができる。
【0039】
また、本発明の漁具にあっては、前記水中稼働姿勢維持部材はPTFE含有素材により形成されており、当該PTFE含有素材は前記漁具の他の部位を形成する素材より比重が大きい素材であることを特徴とする。
【0040】
このような態様の本発明によれば、水中稼働姿勢維持部材が他の素材より比重の大きいPTFE含有素材によって形成されることにより、漁具の他の部位の素材より確実に比重が大きく形成されるので、比重の大きい当該水中稼働姿勢維持部材の重量(自重)をもって漁具の標準稼働姿勢という適正な稼働姿勢を保持することができ、より一層漁獲量の向上を図ることができる。
【0041】
前記の本発明の基本構成を設計コンセプトに基づいて、漁具に対して適用するとよく、例えば、漁網の必要箇所に適用して、漁獲量の積極的な向上を図るとよい。
【0042】
例えば、前記PTFE含有素材は比重が2.2と高比重である。これに対して、通常の漁具用の樹脂材料であるナイロン素材は比重が1.14、テトロン素材は比重が1.38と低比重である。
【0043】
更に、これらの比重に基づいてPTFE含有素材とテトロン素材の水中重量を海水(比重約1.025)および淡水(比重約1.0)の場合においてそれぞれ比較する。本発明のPTFE含有素材の水中重量は、海水に対しては1.175(=2.2-1.025)となり、淡水に対しては1.2(=2.2-1.0)となる。他方のテトロン素材の水中重量は、海水に対しては0.355(=1.38-1.025)となり、淡水に対しては0.38(=1.38-1.0)となる。この比較結果に基づくと、PTFE含有素材はテトロン素材と比較して、海水中において3.31倍(≒1.175/0.355)の水中重量となり、淡水中において3.16倍(≒1.2/0.38)の水中重量となる。これにより、例えば、従来の網素材のテトロン素材を用いて形成されている漁網に対して、外力を受けて当該漁網の標準稼働姿勢から変形する部分にPTFE含有素材の網素材を用いると、テトロン素材に対して海水中において3.31倍および淡水中において3.16倍の水中重量を有しているPTFE含有素材の自重が作用して、テトロン素材によって形成されている網部分およびPTFE含有素材によって形成されている網部分の変形を防止することができ、漁獲量の向上に寄与することができる。
【0044】
<実施の形態>
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図6について説明する。
【0045】
<まき網>(
図1、
図2)
図1および
図2は、本発明をまき網1に適用した実施形態を示し、
図1は展開図、
図2は水中に投網した稼働状態を示している。
【0046】
本発明の漁具の実施形態としての漁網の1種であるまき網1は、全体を通常のテトロン素材網糸をもって形成されている網素材2に対して、水中に投網されて沈降する稼働時に、水中において底部となる網素材2の下方口部の上方近傍の大目網領域3、当該大目網領域3の長手方向の両端部におけるまき網1の上部から底部に亘る長手方向所定幅の帯網領域4および大目網領域3より上方の中間水平網領域5をそれぞれ水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸(図中の斜線部参照)をもって形成されている。
【0047】
このまき網1が水中に投網された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている大目網領域3、帯網領域4および中間水平網領域5が比重の小さい網糸部分より先に沈降するために、まき網1が稼働時の理想的な形状である標準稼働姿勢(
図2参照)を維持して早期に水中に展開されるために、魚を迅速に展開されているまき網1内に入網させることができ、更に魚をまき網1の下部より逃避させることなくまき網1内に捕獲し、まき網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。更に、従来のまき網のような沈子を取付ける必要がなく、まき網1の構成が簡素となり、まき網1の水中への投網および揚網の作業において沈子の捌き作業が不要となり、作業効率を大きく向上させることができる。
【0048】
<トロール網>(
図3)
図3は、本発明をトロール網11に適用した実施形態を示し、
図3は水中に投網した稼働状態を示している。
【0049】
本発明の漁具の実施形態としての漁網の1種であるトロール網11は、前方に開口部13を備えた身網部12と、身網部12の後端部に連結されているコッド網部14とを備えている。本実施形態においては、トロール網11の水中において曳網される稼働時に、水中において身網部12の底部となる底面領域15(
図3の斜線部参照)が水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸をもって形成されている。
【0050】
このトロール網11が水中に投網された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている水中において底部となる底面領域15が比重の小さい網糸部分、特に身網部12の天面部より先に沈降するために、トロール網11の網口部13が上下方向に十分に開口されるとともに、身網部12が絡み合うこともなくなり、トロール網11全体の形状が稼働時の理想的な形状である標準稼働姿勢を維持して早期に水中に展開されるために、魚をトロール網11より逃避させることなくトロール網11内に捕獲し、トロール網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0051】
<定置網>(
図4)
図4は、本発明を定置網21に適用した実施形態を示している。
【0052】
本発明の漁具の実施形態としての漁網の1種である定置網21は、水中に立設されている垣網22によって魚を運動場23に誘導し、運動場23より角錐形状の中溜返しとなる漏斗網24を通して中溜25に誘導し、中留25より角錐形状の溜返しとなる漏斗網26を通して溜27に魚を誘導して漁獲するように形成されている。
【0053】
本実施形態の定置網21においては、水中に展開設置されている稼働時に、垣網22の水中において底部となる下部領域22a並びに角錐形の漏斗網24、26の側面領域24a、26aおよび底面領域24b、26b(
図4のクロス線部参照)が水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸をもって形成されている。
【0054】
この定置網21が水中に固定設置された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている垣網22の水中において底部となる下部領域22a並びに角錐形の漏斗網24、26の側面領域24a、26aおよび底面領域24b、26bが、自身の重量をもって水流や潮流という外力が作用しても垣網22および漏斗網24、26を理想的な形状である標準稼働姿勢状態に維持することができ、垣網22および漏斗網24、26から魚が逃避することを防止して、定置網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0055】
更に、水中に固定的に設置されている定置網21においては、水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸が非粘着性および低摩擦性を有することにより、藻類および生物が付着しにくく、付着したとしても水流や潮流によって脱落しやすい効果を発揮する。これによりPTFE含有網糸に対する防藻剤の塗布や再塗布が不要となり、水流や潮流から受ける力の増加を抑制することができる。
【0056】
<生簀網>(
図5)
図5は、本発明を生簀網31に適用した実施形態を示している。
【0057】
本発明の漁具の実施形態としての漁網の1種である生簀網31は、水面部に定置される円環状の浮体部32に対して、円筒状の側面網部33を吊下するように固定し、側網部33に円形の底網部34を連結して形成されている。
【0058】
本実施形態の生簀網31においては、水中に展開設置されている稼働時に、水中において底部となる底網部34および側面網部33の全体がそれぞれ水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸をもって形成されている(
図5のクロス線部参照)。
【0059】
この生簀網31が水中に固定設置された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている底網部34および側面網部33が、自身の重量をもって水流や潮流という外力が作用しても理想的な形状である標準稼働姿勢を維持することができ、生簀網31の形状を常に理想的な標準稼働姿勢に維持することができ、生簀網漁を円滑に実行して漁獲量の向上を図ることができる。
【0060】
更に説明すると、本実施形態の生簀網31はその形状を常に理想的な標準稼働姿勢に維持することができるので、次のような優れた作用効果を発揮することができる。第1に、外力となる水流や潮流による網形状の変形を確実に抑制することができ、生簀網31内の容積を広く維持することができ、従来のような容積減少に伴って養殖魚が過密化して斃死することを確実に防止することができる。第2に、赤潮発生時に生簀網31を逃避曳航移動させる場合においても、生簀網31が変形しにくいので、曳航速度を従来よりも高速にすることができ、養殖魚の健康を良好に保持しながら迅速な逃避を実行して、漁獲量を向上させることができる。第3に、高波下や激しい波浪下においても、生簀網31が変形しにくいので、生簀網31の揺動を小さく抑えることができ、生簀網31を含む施設全体の耐用年数を延長することができる。第4に、水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸が非粘着性および低摩擦性を有することにより、藻類および生物が付着しにくく、付着したとしても水流や潮流によって脱落しやすい効果を発揮する。これによりPTFE含有網糸に対する防藻剤の塗布や再塗布が不要となり、水圏環境の保全、生簀網31のメンテナンスコストの低減、養殖魚への防藻剤の影響を低減させて、健康で良質な養殖魚を提供することができる。
【0061】
<延縄>(
図6)
図6は、本発明を延縄41に適用した実施形態を示している。
【0062】
本発明の漁具の実施形態としての延縄41は、長手方向の途中に設けた浮縄42をもって水面部分に浮かぶ浮子43より幹縄44を吊下して水中に投入して設置され、幹縄44に取り付けられた多数の針45によって漁獲するように形成されている。
【0063】
本実施形態の延縄41においては、浮縄42と幹縄44の全体がそれぞれ水中稼働姿勢維持部材としてのPTFE含有網糸をもって形成されている。
【0064】
この延縄41が水中に投入された際に、比重の大きいPTFE含有網糸をもって形成されている浮縄42および幹縄44が、自身の重量をもって水流や潮流という外力が作用しても理想的な形状である標準稼働姿勢を維持することができる。これにより、延縄41の投入から所定深度に到達するまでの時間を短縮することができ、漁獲機会を逃すことがなくなる。更に、非常に長い幹縄44を含む漁具全体の水面からの深度を漁獲目的の魚種に対応した目標深度に近づけて維持することができ、従来のような目的外の魚種を混獲することを防止して、漁獲目的の魚種のみを効率よく漁獲することができる。更に、延縄41の構成を漁獲目的の魚種に対応して適正に変更することができ、漁具の選択性が高くなり、結果として漁獲量を向上させることができる。
【0065】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 まき網
2 網素材
3 大目網領域
4 帯網領域
11 トロール網
12 身網部
15 底面領域
21 定置網
22 垣網
24、26 漏斗網
31 生簀網
33 側面網部
34 底面網部
41 延縄
42 浮縄
44 幹縄