(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063187
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】ゾルゲル複合体圧電センサ作成方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/078 20230101AFI20230427BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20230427BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20230427BHJP
H10N 30/045 20230101ALI20230427BHJP
C04B 35/624 20060101ALI20230427BHJP
C04B 35/475 20060101ALI20230427BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
H01L41/318
H01L41/113
H01L41/187
H01L41/257
C04B35/624
C04B35/475
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173549
(22)【出願日】2021-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】520479629
【氏名又は名称】株式会社CAST
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】小林 牧子
(72)【発明者】
【氏名】中妻 啓
(57)【要約】
【課題】 本願発明は、ゾルゲル複合体圧電センサを容易に作成することができるゾルゲル複合体圧電センサ作成方法を提案する。
【解決手段】 ゾルゲル溶液及びセラミック粉体を利用してゾルゲル複合体圧電センサを作成するときに、アモルファス状(amorphous)のゾルゲル溶液を利用する。例えば鉛を含まないゾルゲル溶液及びセラミック粉体で、0℃以上100℃以下(例えば室温)のような温度で分極処理を行っても低温から高温まで動作する非鉛ゾルゲル複合体圧電センサを作成することができる。例えばTiO
2-Srゾルゲル溶液を用いることにより、分極温度が高いニオブ酸リチウム粉体などとの混合圧電膜においても常温、100℃以下、300℃以下などでの分極を実現できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルゲル複合体圧電センサを作成するゾルゲル複合体圧電センサ作成方法であって、
ゾルゲル溶液とセラミック粉体の混合物により形成された圧電セラミック膜を用いて前記ゾルゲル複合体圧電センサを作成するステップを含み、
前記ゾルゲル溶液は、アモルファス状のものである、ゾルゲル複合体圧電センサ作成方法。
【請求項2】
前記ゾルゲル溶液及び前記セラミック粉体は、共に鉛を含まない、請求項1記載のゾルゲル複合体圧電センサ作成方法。
【請求項3】
前記圧電セラミック膜に対して分極処理は300℃以下において行われる、請求項1又は2に記載のゾルゲル複合体圧電センサ作成方法。
【請求項4】
前記セラミック粉体は、ニオブ酸リチウム粉体及び/又はチタン酸ビスマス粉体を含む、請求項1から3のいずれかに記載のゾルゲル複合体圧電センサ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ゾルゲル複合体圧電センサ作成方法に関し、特に、ゾルゲル複合体圧電センサを作成するゾルゲル複合体圧電センサ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、鉛を含まないゾルゲル複合体圧電センサを提案している。発明者らは、例えば、粉体にチタン酸ビスマスやニオブ酸リチウム、ゾルゲル溶液にチタン酸ビスマスベースあるいはCaBi2Ta2O9のものを用いてきた。例えば特許文献1では、CaBi2Ta2O9粉体とBi4Ti3O12ゾルゲル溶液の混合物による圧電膜形成を提案した。
【0003】
特許文献2において、発明者らは、ゾルゲル複合体圧電センサの配線に適したセンサ装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6829851号公報
【特許文献2】特願2020-202072
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のゾルゲル複合体圧電センサは、作成する作業が難しい点が存在した。
【0006】
そこで、本願発明は、ゾルゲル複合体圧電センサを容易に作成することに適したゾルゲル複合体圧電センサ作成方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の側面は、ゾルゲル複合体圧電センサを作成するゾルゲル複合体圧電センサ作成方法であって、ゾルゲル溶液とセラミック粉体の混合物により形成された圧電セラミック膜を用いて前記ゾルゲル複合体圧電センサを作成するステップを含み、前記ゾルゲル溶液は、アモルファス状のものである。
【0008】
本願発明の第2の側面は、第1の側面のゾルゲル複合体圧電センサ作成方法であって、前記ゾルゲル溶液及び前記セラミック粉体は、共に鉛を含まない。
【0009】
本願発明の第3の側面は、第1又は第2の側面のゾルゲル複合体圧電センサ作成方法であって、前記圧電セラミック膜に対して分極処理は300℃以下において行われる。
【0010】
本願発明の第4の側面は、第1から第3のいずれかの側面のゾルゲル複合体圧電センサ作成方法であって、前記セラミック粉体は、ニオブ酸リチウム粉体及び/又はチタン酸ビスマス粉体を含む。
【発明の効果】
【0011】
従来のゾルゲル複合体圧電センサを作成するときには、例えば、分極温度は、例えば特許文献1では400℃において実施しているように、高い温度であることが必要であった。
【0012】
本願発明の各側面によれば、アモルファス状(amorphous)のゾルゲル溶液を利用することにより、例えば鉛を含まないゾルゲル溶液及び圧電セラミック粉体を利用して鉛を含まないゾルゲル複合体圧電センサを作成するときでも、0℃以上300℃以下(例えば室温)のような温度で分極処理を行っても、作成されたゾルゲル複合体圧電センサは、例えば、0℃から300℃(例えば室温)、さらに600℃、1000℃のような高温まで動作するものとすることができる。
【0013】
さらに、発明者らは、TiO2-Srゾルゲル溶液を用いることで分極温度が高いニオブ酸リチウム粉体などとの混合圧電膜においても常温、100℃以下、300℃以下などでの分極を実現できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明の実施の形態に係るセンサ装置1の構成の一例を示す図である。
【
図2】(a)センサ部3の構成の概要と、(b)接合部5においてセンサ部3と耐熱配線部9との接合状態を示す図である。
【
図3】試作したセンサによる超音波パルスエコー波形の取得結果を示す。
【
図4】アモルファスに関するデータを示す図である。
【
図5】ニオブ酸リチウム粉体と、ゾルゲル液を混合・攪拌してスプレー法により作成した圧電膜デバイスによる実験結果を示す第1図である。
【
図6】ニオブ酸リチウム粉体と、ゾルゲル液を混合・攪拌してスプレー法により作成した圧電膜デバイスによる実験結果を示す第2図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例0016】
図1は、本願発明の実施の形態に係るセンサ装置1の構成の一例を示す図である。
【0017】
センサ装置1は、ゾルゲル複合体圧電センサである(特許文献2参照)。センサ装置1は、センサ部3と、接合部5と、圧着部7と、耐熱配線部9と、配線コネクタ部11を備える。
【0018】
センサ部3は、圧電膜層を利用して実現される。
【0019】
接合部5は、圧着部7により、センサ部3と耐熱配線部9を接合する。
【0020】
配線コネクタ部11は、耐熱配線部9と、図示を省略する外部配線とを接続するためのものである。
【0021】
図2(a)は、センサ部3の構成の概要を示す図である。センサ部3において、基材層27には、グラウンド線取り付け部29が設けられている。基材層27には、グラウンド線取り付け部29とは異なる場所に、基材層27に近い順に圧電膜層25と電極層23が形成される。圧電膜層25及び電極層23は、電極層23に設けられた信号線取り付け部22を除き、保護層21により覆われている。
【0022】
図2(b)は、接合部5において、センサ部3と耐熱配線部9との接合状態を示す図である。接合部5
1及び5
2は、それぞれ、接合部5の上側の部分と下側の部分である。
【0023】
耐熱配線部9は、グラウンド線31と、信号線33を備える。グラウンド線31は、基材層27に設けられたグラウンド線取り付け部29に取り付けられる(図のグラウンド線接合部35参照)。信号線33の先端には圧着チップ37が設けられている。圧着チップ37は、電極層23の上部に設けられた信号線取り付け部22にある。圧着部7は、絶縁層39を介して圧着チップ37に力を加えて、圧着チップ37を電極層23に圧着する。
【0024】
本願発明は、圧電膜層25に関するものである。アモルファス構造を示すゾルゲル溶液と、セラミック粉体の混合物をスプレー塗布・焼結して得られる圧電セラミック膜を、分極処理して、実用的な性能を持つゾルゲル複合体圧電デバイスを効率的に作製することができる。これは、例えば、超音波探触子(産業用・医療/生体用)、感圧・振動センサ等の用途で用いることができ、600℃以上の耐熱性(1000℃までの動作実績)、曲率半径10mm程度のフレキシブル性、1mm以下の薄さ、などの特徴がある。ここで、分極処理は、例えば0℃以上300℃以下のプロセス温度(例えば、室温など)で実現することができる。
【0025】
ゾルゲル複合体圧電センサは、フレキシブル性・耐熱(耐熱衝撃)性を有した圧電セラミックデバイスである。例えば、管厚モニタリング、配管詰まり検出・圧力/振動モニタリング、AE(Acoustic Emission)センサなどとして構造物に生じる破壊のモニタリングなどの用途で利用ができ、工場のIoT化に必要なエッジセンサーのうち、特に高温部や狭所など従来センサの適用が困難な箇所への適用が期待されている。
【0026】
発明者らは、ゾルゲルスプレー法として、ゾルゲル複合体圧電センサ作製プロセスを提案している。
膜塗布:圧電材料の前駆体であるゾルゲル溶液とセラミック粉体の混合物をスプレー塗布及び熱処理して圧電セラミック膜を形成する。
熱処理:上記塗布膜を200~600℃台に加熱し、乾燥及びゾルゲル液の結晶化を行う。
分極:コロナ放電下での強電界印可又は圧電膜に高電圧を印加することで分極処理を行う。
【0027】
ゾルゲル複合体圧電センサ及びゾルゲルスプレー法は、例えば次のような特長が知られている。粉体混合塗液のスプレー塗布により生み出される多孔性により、耐熱衝撃性やフレキシブル性を獲得することができる。スプレー塗布プロセス(=塗装プロセス)の採用により、配管などの3次元的形状を持つ被測定物表面に直接、センサデバイス(圧電デバイス)を塗布生成することができる。一般に高温条件下の超音波非破壊検査では被測定物とセンサ間の超音波透過を保証するカプラント(整合剤、一般的にグリセリンやシリコーンオイルを使用)の選定に課題があるが、ゾルゲルスプレー法によりセンサを被測定物に直接形成すればカプラントは不要でありこの問題が発生しない。
【0028】
圧電材料は鉛を含有することで特性が向上するため、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などが広く使用されている。鉛を含まず有鉛材料と同等性能を持つ材料は現在のところ実用に至っておらず、RoHS指令でも圧電材料は鉛除外規定の例外となっている。鉛を含有せず実用的な性能を有する圧電デバイスを作製する材料・プロセスは、環境負荷の軽減だけでなく従来規制対象外となってきた圧電デバイス市場へ極めて大きなインパクトを与える技術である。
【0029】
発明者らは非鉛材料のゾルゲルスプレー法に取り組んできているが、一般に高温でも使用可能(圧電性を失う温度=キュリー温度が高温)の材料を分極する際にはプロセス温度も800℃程度の高温にする必要があり、実用的な量産工程を実現する際の課題となっていた。
【0030】
本願発明によれば、アモルファス状のゾルゲル溶液(例えば、チタン酸-ストロンチウム(TiO
2-Srゾルゲル溶液)など)を用いることで、分極可能温度を室温あるいは100℃、300℃程度まで低減させ、また室温領域~高温領域までで実用的な性能を有する圧電センサを作製するプロセスの実現に成功している。
図3は、試作したセンサによる超音波パルスエコー波形の取得結果を示す。
【0031】
図4は、ゾルゲル溶液をX線回析(XRD:X-ray Diffraction)により分析したデータを示す。横軸はX線ビームの角度を示し、縦軸は強度を示す。結晶状態は、原子などが規則正しく配列している固体である。アモルファス状は、結晶構造を持たない物質の状態である。XRDによる分析では、結晶状態では、顕著なピークが表れる。アモルファス状態では、結晶化がなされていないので、ピークがなだらかなものとなる。
図4は、ゾルゲル溶液においてストロンチウムを分析した例である。XRDにより得られたデータは、ピークがブロード化して広くなっており、アモルファス状態になっていることが分かる。
【0032】
発明者らが具体的に作成したところ、TiO2-Srゾルゲル溶液とニオブ酸リチウム粉体を混合しチタン板上に塗布・焼成した圧電セラミック膜は、常温下における分極でも圧電性を示し、チタン板内のパルスエコー波形を良好に取得できている。この際、高温動作限界温度は300℃であった。
【0033】
また、100℃の温度下で分極を行った同様の圧電セラミック膜も圧電性を示し、チタン板内のパルスエコー波形を良好に取得できている。この際、高温動作限界温度は600℃であった。
【0034】
また、TiO2-Srゾルゲル溶液とチタン酸ビスマス粉体を混合しチタン板上に塗布・焼成した圧電セラミック膜は常温下における分極でも圧電性を示し、チタン板内のパルスエコー波形を良好に取得できている。この際、高温動作限界温度は670℃であった。
【0035】
図5及び
図6は、ニオブ酸リチウム粉体と、ゾルゲル液を混合・攪拌してスプレー法により作成した圧電膜デバイスによる実験結果を示す。塗布基材は、チタン板である。電極を取り付け、超音波パルスエコー試験による高温動作評価を実施した。膜厚は約50μmであった。
【0036】
図5は、温度特性を示すグラフである。横軸は温度(℃)であり、縦軸は感度(dB)を示す。0℃以上でエコー波形を確認することができる。室温にて、エコー波形の存在を確認した。さらに温度を上げて、600℃までエコー波形を確認した。
図6(a)及び(b)は、それぞれ、室温及び532℃において確認されたエコー波形を示す。600℃を超えると感度が減少した。
【0037】
分極は、0℃以上300℃以下(例えば、室温など)で可能であった。
1 センサ装置、3 センサ部、5 接合部、7 圧着部、9 耐熱配線部、11 配線コネクタ部、21 保護層、22 信号線取り付け部、23 電極層、25 圧電膜層、27 基材層、29 グラウンド線取り付け部、31 グラウンド線、33 信号線、35 グラウンド線接合部、37 圧着チップ、39 絶縁層