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<図1>
  • -パラジウム皮膜 図1
  • -パラジウム皮膜 図2
  • -パラジウム皮膜 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063215
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】パラジウム皮膜
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/50 20060101AFI20230427BHJP
   C25D 7/12 20060101ALI20230427BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230427BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C25D3/50 102
C25D7/12
C25D7/00 H
C25D7/00 J
H05K1/09 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080491
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2021173512の分割
【原出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末野 伸治
(72)【発明者】
【氏名】水橋 正英
【テーマコード(参考)】
4E351
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4E351BB01
4E351BB33
4E351CC06
4E351DD20
4E351GG02
4E351GG09
4E351GG14
4K023AA28
4K023DA03
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA12
4K024AB01
4K024BA09
4K024BA11
4K024BB10
4K024BB11
4K024BB12
4K024CA01
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】NiやCo等を共析させることなく、厚膜であっても、クラックが生じることがない、パラジウム単独のめっき皮膜を提供することを課題とする。
【解決手段】膜厚が25μm以上130μm以下であるパラジウムめっき皮膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が25μm以上130μm以下であるパラジウムめっき皮膜。
【請求項2】
パラジウム純度が99wt%以上である請求項1に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項3】
荷重5gfで測定した接触抵抗が10mΩ以下である請求項1又は2に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項4】
260℃、10分間、大気中で加熱後、荷重5gfで測定した接触抵抗が10mΩ以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項5】
ビッカース硬度が300Hv以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項6】
260℃、10分間、大気中で加熱後、ビッカース硬度が300Hv以下である請求項1~5のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項7】
(111)面が優先配向する請求項1~6のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項8】
結晶子サイズが200Å以上である請求項1~7のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項9】
260℃、10分間、大気中で加熱後、結晶子サイズが200Å以上である請求項1~8のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項10】
内部応力が250MPa以下である請求項1~9のいずれか一項に記載のパラジウムめっき皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム皮膜に関する。特には半導体基板上の回路パターン形成用として好適なパラジウム皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム(Pd)は、耐摩耗性、耐食性、及び電気特性に優れていることから、そのめっき皮膜は、電気接点、コネクタ、回路基板、触媒材料等に使用されている。例えば、回路基板においては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等を共析させたパラジウム合金めっき皮膜が使用されている。例えば、特許文献1には、パラジウム-コバルト合金を形成するためのめっき液が開示されている。
【0003】
パラジウム単独からなるめっき皮膜の場合、析出物(めっき皮膜)の内部応力が増加するため、膜厚を厚くすることが困難ということがある(特許文献2、3)。そのため、パラジウムに、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等を共析させることが行われている。一方で、NiやCoを共析させた場合、パラジウム単独のめっき膜よりも高抵抗で、高硬度になるということがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-1886号公報
【特許文献2】特開平7-11476号公報
【特許文献3】特開平9-235691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイス製造工程における品質管理では、コンタクトプローブを用いた導通検査が行われている。コンタクトプローブピンは、その最外層をAuCo合金とするのが一般的であるが、AuCo合金は皮膜の硬度が180~220Hv程度と柔らかい。したがって、硬度が高い対象に対し何度もプローブピンを接触させると、物理的負荷によってプローブピンの摩耗が激しくなり、低寿命化に繋がる。
【0006】
半導体基板上の回路パターンの一部としてPdNiやPdCo等の硬度が高い合金皮膜(300Hv以上)が用いられている。このPdNiやPdCo等は、導通時に発生するジュール熱によって、皮膜の硬度がさらに高硬度化する。このような硬度の高い皮膜に対してプローブピンを何度も接触させるとプローブピンの寿命は短くなり、その交換頻度は一層多くなる。
【0007】
一方、NiやCo等を共析させずに、Pd単独でめっき皮膜を形成し、その膜厚を厚くしていくと、水素吸蔵等により内部応力が増加して、めっき皮膜にクラックが発生するという問題がある。したがって、従来技術ではPd単独で膜厚の厚いめっき皮膜を形成することは困難であった。このような事情に鑑みて、本発明は、NiやCo等を共析させることなく、厚膜であってもクラックが生じることがない、パラジウム単体のめっき皮膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決することができる本発明の一態様は、膜厚が25μm以上130μm以下であることを特徴とするパラジウムめっき皮膜である。
【0009】
本発明によれば、NiやCo等を共析させることなく、膜厚が厚い、パラジウムめっき皮膜を提供することができるという優れた効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2のパラジウム皮膜の電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。
図2】比較例4のパラジウム皮膜の電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。
図3】比較例5のパラジウム皮膜の電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の一実施形態は、膜厚が25μm以上130μm以下であることを特徴とするパラジウムめっき皮膜である。パラジウム皮膜の膜厚が25μm以上であれば、半導体基板上における回路パターン形成用皮膜としての使用に耐え得ることができる。また、膜厚が130μm以下であれば、クラックの発生がないパラジウム皮膜を再現性よく形成することができる。好ましい膜厚の下限値は30μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。好ましい膜厚の上限値は120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは90μm以下である。
【0013】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、パラジウム純度が99wt%以上であることが好ましい。純度は、各不純物の含有量を測定し、その合計含有量を100wt%から差し引くことで求める。各不純物は、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP-OES)により、その含有量を分析することができる。パラジウム純度が99wt%以上であれば、パラジウムが有する物性を維持することが容易になる。より好ましいパラジウム純度は99.9wt%以上である。
本開示における不純物は、Ag、Al、As、Au、B、Ba、Be、Bi、Ca、Cd、Ce、Ni、Co、Cr、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Hg、Ho、In、Ir、K、La、K、Li、Lu、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Ni、Os、P、Pb、Pd、Pr、Pt、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Te、Ti、Tl、Tm、V、W、Y、Yb、Zn、Zr、である。
【0014】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、荷重5gfで測定した接触抵抗が10mΩ以下であることが好ましい。本発明の好ましい態様では、接触抵抗が10mΩ以下であると、大気中の酸素と反応することによって生じる酸化皮膜が形成され難い状態にあると考えられ、より安定的な導通を維持することが可能となる。より好ましい接触抵抗は5mΩ以下である。
【0015】
また、本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、260℃、10分間、大気中で加熱後、荷重5gfで測定した接触抵抗が10mΩ以下であることが好ましい。本発明の好ましい態様では、加熱後の接触抵抗が10mΩ以下であると、ジュール熱の加熱によって生じる酸化皮膜が形成され難くい状態にあると考えられ、より安定的な導通を維持することが可能となる。より好ましい接触抵抗は5mΩ以下である。
【0016】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、ビッカース硬度が300Hv以下であることが好ましい。本発明の好ましい態様では、ビッカース硬度が300Hv以下であることにより、プローブピンの摩耗をより効果的に抑制することができる。より好まし
いビッカース硬度は250Hv以下であり、さらに好ましいビッカース硬度は200Hv以下である。
【0017】
また、本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、260℃、10分間、大気中で加熱後、ビッカース硬度が300Hv以下であることが好ましい。本発明の好ましい態様では、加熱後のビッカース硬度が300Hv以下であると、ジュール熱の加熱による皮膜の状態変化がほとんど生じていないと考えられ、非加熱時と同等の物性を維持することが可能となる。より好ましいビッカース硬度は250Hv以下であり、さらに好ましいビッカース硬度は200Hv以下である。
【0018】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、めっき膜の最表層において、(111)面が優先配向していることが好ましい。本発明の好ましい態様において、(111)面が優先配向していることにより、面指数に対する粒子数が多く、密度が高いことから、軽元素の侵入型固溶体が生じ難く、応力低下に繋がる。また、結晶歪の低下にもつながり、厚付けが可能になる。パラジウムめっき皮膜は、主に(111)、(200)、(220)、(311)から構成される。本開示において、これらの結晶面の中、X線回折により測定した積分強度(規格化)が最も大きな結晶面を、優先配向している結晶面とする。
【0019】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、結晶子サイズが200Å以上であることが好ましい。本発明の好ましい態様において、結晶子サイズが200Å以上であることにより、結晶粒界が大きくなって結晶歪みや空孔度が低くなり、クラックが生じ難くなる。より好ましくは、結晶子サイズが250Å以上である。
【0020】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、260℃、10分間、大気中で加熱後、結晶子サイズが200Å以上であることが好ましい。本実施形態において、加熱後の結晶子サイズが200Å以上であれば、ジュール熱が加わっても、加熱前と比べて結晶内部の構造が変化しておらず、劣化しないことが予想される。より好ましくは、加熱後の結晶子サイズが250Å以上である。
【0021】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、内部応力が250MPa以下であることが好ましい。内部応力が250MPa以下であれば、膜厚を厚くした場合でもめっき皮膜にクラックが生じ難い。
【0022】
本実施形態に係るパラジウムめっき皮膜の製造方法の一例を示す。但し、本実施形態に係るパラジウムめっき皮膜は、以下の製造方法によって得られるものに限定されない。また、製造方法が不必要に不明瞭になることを避けるため、公知事項についての詳細な説明は省略する。
【0023】
例えば、以下の市販されている薬液を用いて、パラジウムめっき液を建浴する。
パラジウム塩: パラアシスト(松田産業株式会社製)
電導塩、緩衝剤等:パラシグマNI-BR建浴液(松田産業株式会社製)
皮膜光沢剤等: パラシグマNI-BR光沢液(松田産業株式会社製)
【0024】
母材(めっき対象物)を用意し、上記パラジウムめっき液を用いて、電解めっきを行い、パラジウムめっき皮膜を形成する。電解めっき条件は、以下の通りとすることができる。
陰極電流密度: 0.1~2A/dm
pH: 7.0~8.0
液温: 30~60℃
パラジウム濃度: 5~15g/L
【実施例0025】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例は、代表的な例を示しているもので、本発明は、これらの実施例によって制限される必要はなく、明細書の記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0026】
まず、めっき皮膜の各種物性の評価方法等を以下に示す。
(めっき皮膜の膜厚測定)
膜厚が30μm以下の試料については、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の蛍光X線膜厚計160hを用いて、試料中央部を測定径0.1mm、管電圧45V、管電流1000μA、1次フィルターとしてA1000を用い、薄膜FP法の条件で測定を行った。膜厚が30μm超の試料は、重量から算出した。
パラジウム単独のめっき皮膜では、標準試料として、Calmetrics社のPd板(厚さ26μm)を用い、セイコーインスツルメンツ社のCu板(バルク)を使用した。パラジウム-ニッケル皮膜では、標準試料として、Calmetrics社のPdNi板(Ni共析量20wt%、膜厚5.08μmとNi共析量17.3wt%、膜厚11.0μm)を用いた。
【0027】
(不純物含有量の測定)
めっき皮膜を0.2g分取し、5mLの王水で溶解した後、純水で10mLにメスアップした試料を10倍で希釈し、これを株式会社島津製作所製のICP-OES装置ICPE-3000を用いて、不純物含有量を測定した。検出限界以下の不純物の含有量をゼロと見做した。
【0028】
(接触抵抗の測定)
株式会社山崎精機研究所製の電気接点シミュレーターCRS-113-AU型(Auワイヤー、φ0.5mm)を用い、試料中央部を荷重5gf、操作荷重1mm、操作速度1mm/min、600点測定の条件で試料の接触抵抗を1回測定し、各測定点結果の平均値を算出した。
【0029】
(ビッカース硬度の測定)
株式会社ミツトヨの微小硬さ試験機HM-221を用いて、ビッカース圧子により試料中央部を0.015gf、0.02gf、0.025gfの荷重で各3回測定し、その平均値を算出した。
【0030】
(結晶配向、結晶子サイズの測定)
株式会社リガク製のX線回折装置(SmartLabII)を用いて、試料中央部をスキャンステップ0.02°、スキャン範囲10~150°、スキャンスピード40°/min、入射スリット1.00mm、受光スリット「open」、検出器をHypix-3000にて測定し、算出した。結晶子サイズは結晶配向面強度からシェラー式K=0.94で測定を行った。(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度については、積分強度を規格化して算出した。計算式は、以下の通りである。
規格化強度=(各面指数の積分強度/各面指数中の最大積分強度)×100
【0031】
(内部応力の測定)
藤化成株式会社製のテストストリップをアルカリ浸漬脱脂、酸洗浄を行った後、パラジウムめっき皮膜の試料を作製した。この試料を藤化成株式会社のストリップ式電着応力試験機を用いて、開脚幅のスケール目盛り(開脚度)を測定することで皮膜の内部応力を測定した。内部応力の値は、3試料の応力値の平均値とした。なお、応力の計算手法は以下
で行った。
S=58.2×U×K/T
T=1.29×W×10(μm)/D
S:電着応力(MPa)、T:電着膜厚(μm)、U:スケール目盛りの合計値(開脚度)、
K:補正係数、W:析出重量(g)、D:析出物密度(g/cm)
【0032】
(実施例1-3:パラジウム単独のめっき皮膜)
母材として角型銅板(4cm×2cm)を用意し、上記のパラジウムめっき液を用いて、電解めっきを行い、パラジウムめっき皮膜を形成した。電解めっきの条件は、以下の通りとした。実施例1-3においては、陰極電流密度及びめっき時間を変更して、パラジウムめっき皮膜の膜厚を調整した。
陰極電流密度:0.5~2.0A/dm
液温 :50℃
pH :7.5
【0033】
得られたパラジウム皮膜について、膜厚、不純物含有量、接触抵抗、ビッカース硬度、結晶配向、結晶子サイズを測定した。その結果を表1に示す。また、各実施例のパラジウム皮膜をデジタルマイクロHP-1SA(株式会社松浦製作所製)を用いて、大気中260℃、10分間加熱して、加熱後のめっき皮膜について特性評価を行った。表1に示す通り、実施例1-3のいずれにおいても、所望の特性が得られた。
【0034】
次に、電界放出型走査電子顕微鏡(JSM-7000M:日本電子株式会社製)を用いて、めっき皮膜の中央部と端部を観察して、クラックの有無を確認した。図1に、実施例2のめっき皮膜(中央部)の電子顕微鏡画像に示す。実施例1~3のいずれにおいても、クラックがないことを確認した。なお、表中、クラックの評価において、〇で示されたものはクラックがないことを意味し、×で示されたものはクラックが存在したものを意味する。
【0035】
【表1】
【0036】
(比較例1-3:Ni-Pdめっき皮膜)
母材として角型銅板(4cm×2cm)を用意し、実施例で用いたパラジウムめっき液に、松田産業製のニッケル補給液「パラシグマNI-BRニッケル補給液」を加えて電解めっきを行い、ニッケル-パラジウムめっき皮膜を形成した。電解めっきの条件は、以下の通りとした。比較例1-3においては、陰極電流密度及びめっき時間を変更して、ニッケル-パラジウムめっき皮膜の膜厚を調整した。
陰極電流密度:1.0A/dm
液温 :50℃
pH :7.5
【0037】
得られたニッケル-パラジウム皮膜について、膜厚、不純物(ニッケルを含む)含有量、接触抵抗、ビッカース硬度、結晶配向、結晶子サイズを測定した。また、各比較例のニッケル-パラジウム皮膜をデジタルマイクロHP-1SA(株式会社松浦製作所製)を用いて、大気中260℃、10分間加熱して、加熱後のめっき皮膜について特性評価を行った。以上の測定結果をまとめたものを表1に示す。表1に示す通り、比較例1-3においては、ビッカース硬度が高い結果となった。
【0038】
(比較例4、5:パラジウム単独のめっき皮膜)
母材として角型銅板(4cm×2cm)を用意し、下記のパラジウムめっき液を用いて、電解めっきを行い、パラジウムめっき皮膜を形成した。
パラジウム塩: パラアシスト(松田産業株式会社製)
電導塩、緩衝剤等:パラシグマMX建浴液(松田産業株式会社製)
皮膜光沢剤等: パラシグマMX光沢液(松田産業株式会社製)
界面活性液: パラシグマMX界面活性液(松田産業株式会社製)
電解めっきの条件は、以下の通りとした。比較例4、5においては、陰極電流密度及びめっき時間を変更して、パラジウムめっき皮膜の膜厚を調整した。
陰極電流密度:3A/dm
液温 :50℃
pH :7.0
【0039】
得られたパラジウム皮膜はいずれも膜厚が1μm程度でクラックが生じた。図2に比較例4のめっき皮膜(中央部)の電子顕微鏡画像に示す。また、図3に比較例5のめっき皮膜(中央部)の電子顕微鏡画像に示す。比較例4と5のいずれにおいても、クラックを確認した。なお、接触抵抗、ビッカース硬度などについては、比較データとしての信頼性が確保できないことから、測定を行わなかった。
【0040】
(実施例4-6:内部応力の測定)
ビーカーに1Lの上記のパラジウムめっき液を建浴し、攪拌子を用いて100rpmで攪拌した。ビーカー中央部にテストストリップを設置し、ビーカー両端に酸化イリジウム電極を設置し、通電して、めっき処理を行った。電解めっきの条件は、以下の通りとした。実施例4-6では、陰極電流密度及びめっき時間を変更し、パラジウムの膜厚を調整した。
陰極電流密度:0.5~2.0A/dm
液温 :50℃
pH :7.5
【0041】
得られたパラジウム皮膜について、パラジウムの析出量、膜厚、応力を測定した。以上の測定結果をまとめたものを表2に示す。表2に示す通り、実施例4-6においては、応力が低い結果となった。
【0042】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、膜厚が厚い、パラジウム単体からなるめっき皮膜を得ることができるという優れた効果を有する。本発明は、電気接点、コネクタ、回路基板、触媒材料等に使用されているパラジウムめっき皮膜として有用である。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-07-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9wt%以上であるパラジウム(但し、パラジウム合金は除く)からなり、膜厚が50μm超130μm以下であって、ビッカース硬度が300Hv以下であり、荷重5gfで測定した接触抵抗が10mΩ以下であるパラジウムめっき皮膜。
【請求項2】
結晶子サイズが200Å以上である、請求項1に記載のパラジウム皮膜。
【請求項3】
内部応力が250MPa以下である、請求項1又は2に記載のパラジウムめっき皮膜。
【請求項4】
純度99.9wt%以上であるパラジウム(但し、パラジウム合金は除く)からなり、膜厚が50μm超130μm以下であって、260℃、10分間、大気中で加熱後、ビッカース硬度が300Hv以下であり、荷重5gfで測定した接触抵抗が10mΩ以下であるパラジウムめっき皮膜。
【請求項5】
260℃、10分間、大気中で加熱後、結晶子サイズが200Å以上である、請求項4に記載のパラジウム皮膜。