(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063249
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】表面処理装置及び膜保護部材
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20230427BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D21/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163403
(22)【出願日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021173369
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391020665
【氏名又は名称】ミカドテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】寺山 孝男
(57)【要約】
【課題】イオン伝導膜の破損を防止可能な表面処理装置及び膜保護部材。
【解決手段】被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記液室と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記被処理物と前記イオン伝導膜との間に配された第1膜保護部材と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部とを備え、前記第1膜保護部材は、前記イオン伝導膜を支持する第1膜支持部を含み、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜及び前記第1膜支持部を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、
前記ハウジング内に配された電極と、
前記液室と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、
前記被処理物と前記イオン伝導膜との間に配された第1膜保護部材と、
前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部と
を備え、
前記第1膜保護部材は、前記イオン伝導膜を支持する第1膜支持部を含み、
前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜及び前記第1膜支持部を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記第1膜支持部は、多孔部材である
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記イオン伝導膜と前記第1膜保護部材は、前記ハウジングに取り付けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記第1膜保護部材は、前記被処理物の非処理部分を被覆するための被覆部を更に含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記第1膜保護部材は、前記被覆部の前記被処理物側に通電部が更に設けられており、
前記通電部は、前記電源部と前記被処理物の前記表面とを導通するように、該被処理物の該表面の一部に接触可能に配置される
ことを特徴とする請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記被覆部は、撥水性を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記第1膜支持部は、表面が絶縁処理されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記第1膜支持部は、前記イオン伝導膜の前記被処理物との対向面に接着されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記イオン伝導膜の前記液室側に配された第2膜保護部材を更に備え、
前記第2膜保護部材は、前記イオン伝導膜と対向して設けられ、前記液室内の溶液を通過可能な第2膜支持部を含み、
前記イオン伝導膜は、前記第1膜支持部と前記第2膜支持部の間に挟まれている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項10】
前記第2膜支持部は、前記イオン伝導膜の前記液室側の面に接着されている
ことを特徴とする請求項9に記載の表面処理装置。
【請求項11】
被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記液室と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部とを備え、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する表面処理装置に用いられる膜保護部材であって、
前記イオン伝導膜を支持する膜支持部を備え、前記被処理物と前記イオン伝導膜との間に配置可能に構成されている
ことを特徴とする膜保護部材。
【請求項12】
前記被処理物の非処理部分を被覆するための被覆部を備える
ことを特徴とする請求項11に記載の膜保護部材。
【請求項13】
前記被覆部の前記被処理物側に通電部が更に設けられており、
前記通電部は、前記電源部と前記被処理物の前記表面とを導通するように、該被処理物の該表面の一部に接触可能に構成されている
ことを特徴とする請求項12に記載の膜保護部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置、膜保護部材及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に配置された固体電解質膜と、陽極と陰極との間に電圧を印加する電源部とを備え、陽極と陰極との間に電圧を印加して、固体電解質膜の内部に含有された金属イオンを陰極側に析出させることにより、金属被膜を基板の表面に成膜する成膜装置が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
この成膜装置は、陽極と固体電解質膜との間に金属イオンを含む溶液を収容する溶液収容部を備えている。溶液収容部の底部には、開口が形成されており、開口を覆うように固体電解質膜が配置されている。また、溶液収容部の蓋部には、移動部が連結されている。移動部は、溶液収容部と共に固体電解質膜を基板に向かって移動させることにより、固体電解質膜を基板の成膜領域に加圧するものである。さらに、移動部は、金属被膜の固体電解質膜と基板との距離を増加させるように、固体電解質膜と基板とを相対的に移動させる機能を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の成膜装置では、固体電解質膜が基板に接触していない状態では、溶液収容部に収容された溶液の自重が固体電解質膜に作用し、固体電解質膜が変形して破損することがある。そのため、固体電解質膜が基板に接触している状態で、溶液収容部に溶液を供給し、溶液排出後に固体電解質膜を基板から離間する必要がある。また、固体電解質膜が直接基材と接触するため、固体電解質膜を基板から離間する際に、固体電解質膜が破れやすいという問題がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、イオン伝導膜の破損を防止可能な表面処理装置、膜保護部材及び表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る表面処理装置は、被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記液室と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記被処理物と前記イオン伝導膜との間に配された第1膜保護部材と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部とを備え、前記第1膜保護部材は、前記イオン伝導膜を支持する第1膜支持部を含み、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜及び前記第1膜支持部を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る表面処理装置において、前記第1膜支持部は、多孔部材であってもよい。
【0009】
本発明に係る表面処理装置において、前記イオン伝導膜と前記第1膜保護部材は、前記ハウジングに取り付けられてもよい。
【0010】
本発明に係る表面処理装置において、前記第1膜保護部材は、前記被処理物の非処理部分を被覆するための被覆部を更に含んでもよい。
【0011】
本発明に係る表面処理装置において、前記第1膜保護部材は、前記被覆部の前記被処理物側に通電部が更に設けられており、前記通電部は、前記電源部と前記被処理物の前記表面とを導通するように、該被処理物の該表面の一部に接触可能に配置されてもよい。
【0012】
本発明に係る表面処理装置において、前記被覆部は、撥水性を有してもよい。
【0013】
本発明に係る表面処理装置において、前記第1膜支持部は、表面が絶縁処理されてもよい。
【0014】
本発明に係る表面処理装置において、前記第1膜支持部は、前記イオン伝導膜の前記被処理物との対向面に接着されていてもよい。
【0015】
本発明に係る表面処理装置は、前記イオン伝導膜の前記液室側に配された第2膜保護部材を更に備え、前記第2膜保護部材は、前記イオン伝導膜と対向して設けられ、前記液室内の溶液を通過可能な第2膜支持部を含み、前記イオン伝導膜は、前記第1膜支持部と前記第2膜支持部の間に挟まれていてもよい。
【0016】
本発明に係る表面処理装置において、前記第2膜支持部は、前記イオン伝導膜の前記液室側の面に接着されてもよい。
【0017】
本発明に係る膜保護部材は、被処理物と対向して配置され、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、前記液室と前記被処理物との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電源部とを備え、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記被処理物の表面を処理する表面処理装置に用いられる膜保護部材であって、前記イオン伝導膜を支持する膜支持部を備え、前記被処理物と前記イオン伝導膜との間に配置可能に構成されている。
【0018】
本発明に係る膜保護部材は、前記被処理物の非処理部分を被覆するための被覆部を備えてもよい。
【0019】
本発明に係る膜保護部材は、前記被覆部の前記被処理物側に通電部が更に設けられており、前記通電部は、前記電源部と前記被処理物の前記表面とを導通するように、該被処理物の該表面の一部に接触可能に構成されてもよい。
【0020】
本発明に係る表面処理方法は、電極と被処理物との間にイオン伝導膜を配置し、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加することで、前記イオン伝導膜を介した液室内の溶液の電気分解により被処理物の表面を処理する表面処理方法であって、膜保護部材により前記イオン伝導膜の前記被処理物との対向面を支持した状態で表面処理を行うことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る表面処理方法は、前記膜保護部材により前記イオン伝導膜の前記被処理物との前記対向面を支持した状態で前記液室に前記溶液を収容し、該液室に該溶液を収容した状態で前記イオン伝導膜を前記被処理物に対し接近及び離間させてもよい。
【0022】
本発明に係る表面処理方法は、前記液室内を加圧する加圧工程と、加圧工程後に、前記電極と前記被処理物との間に電圧を印加する電圧印加工程とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、イオン伝導膜の破損を防止可能な表面処理装置、膜保護部材及び表面処理方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明の本実施形態に係る表面処理装置の型開き状態を示す概略図である。
【
図1B】本実施形態に係る表面処理装置の型閉じ状態を示す概略図である。
【
図1C】本実施形態に係る表面処理装置の型閉じ状態を示す概略図である。
【
図2】本実施形態に係る第1膜保護部材を示す分解図である。
【
図3】本実施形態に係る第1膜保護部材を示す組立図である。
【
図4】本実施形態に係る第1膜保護部材を示す断面図である。
【
図5】本実施形態に係る表面処理方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の変形例に係るイオン伝導膜を示す概略図である。
【
図7】本発明の変形例に係る第1膜保護部材及び第2膜保護部材を示す概略図である。
【
図8】本実施形態に係る第1膜保護部材の変形例を示す断面図である。
【
図9】本実施形態に係る第1膜保護部材の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0026】
[本実施形態に係る表面処理装置の全体構成]
まず、
図1を参照して、本発明の本実施形態に係る表面処理装置1を概説する。
図1A~
図1Cに示すように、本実施形態に係る表面処理装置1は、例えば、金属イオンを還元することで金属を析出させて、金属からなる被膜を被処理物Cの表面Eに形成するめっき処理装置として用いられ得る。ただし、表面処理装置1は、これに限定されるものではなく、被処理物Cの表面Eを処理することができる装置であれば、種々のものに適用可能である。
【0027】
なお、本実施形態において、被処理物Cは、金属材料などの導体であるものとして説明するが、これに限定されない。例えば、被処理物Cが、樹脂基材や、ガラス基板、シリコンウエハー、セラミックス基板等の上に導体層が形成されている材料の場合、表面処理装置1は、導体層の表面を処理することもできる。また、本実施形態において、溶液は、電解液であるものとして説明するがこれに限定されない。
【0028】
表面処理装置1は、被処理物Cと対向して配置され、内部に液室(閉鎖空間、密閉空間)3を形成可能なハウジング4と、ハウジング4内に配された電極20と、液室3と被処理物Cとの間に配置されたイオン伝導膜6と、被処理物Cとイオン伝導膜6との間に配された第1膜保護部材60と、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電源部7とを備えている。イオン伝導膜6と第1膜保護部材60は、ハウジング4に取り付けられている。
【0029】
また、表面処理装置1は、被処理物Cを載置可能な載置基台2と、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる移動機構5と、液室3内に電解液を供給又は排出する溶液供給部(図示せず)と、イオン伝導膜6を保持する保持治具35とを更に備えている。保持治具35は、内枠膜治具36と、内枠膜治具36に係合する外枠膜治具37とを含む。
【0030】
本実施形態において、電解液は、例えば、被処理物Cの表面Eに析出される金属をイオンの状態で含有している液体であり、含有される金属は、例えば、銅、金、銀、ニッケル等が挙げられる。電解液は、これらの金属をイオン化したものであり、公知の各種の電解液を用いることができる。なお、電解液は、ここに例示したものに限定されるものではない。
【0031】
載置基台2は、支持基台8とハウジング4との間に配置されており、被処理物Cをその表面に載置可能に構成されている。本実施形態では、表面処理装置1が、被処理物Cを嵌め込むことが可能なトレイ9を有すると共に、載置基台2がトレイ9を嵌め込むことが可能な凹部を有しているが、トレイ9を介さずに被処理物Cを載置基台2に嵌め込む構成や、被処理物Cを単に載置基台2上に載置させる構成であってもよい。
【0032】
載置基台2及びトレイ9は、被処理物Cを載置した際に、被処理物Cに接続する電極部(図示せず)を有する。載置基台2及びトレイ9の電極部、ひいては、被処理物Cは、電源部7の負極(-極)に接続されている。これにより、被処理物Cは、表面処理装置1における陰極を構成する。
【0033】
ハウジング4は、載置基台2の鉛直方向の上方に配置されており、内部上面と内部側面とを有する液室3を構成する有底筒状(有底円筒状、有底角筒状等)に形成されている。有底筒状の開口部には、矩形状のイオン伝導膜6及び第1膜保護部材60が取り付けられている。ハウジング4は、ハウジング4の壁面を貫通して形成され、液室3内の気体を排出可能な排出流路31と、液室3に対して電解液を供給可能な供給流路41と、ハウジング4を載置基台2に嵌合させるためのクランプ部39とを含む。
【0034】
また、ハウジング4は、排出流路31の外壁面にハウジング4の側面から突出するように加圧機構30が設けられている。さらに、ハウジング4には、供給流路41を開閉させる流路開閉弁40が設けられている。流路開閉弁40は、給排ポートを有する。ハウジング4は、上記のように載置基台2と対向配置されると共に、例えば、移動機構5によって載置基台2側へ移動された状態のときに、載置基台2との間に閉鎖空間となる液室3を形成可能に構成されている。
【0035】
なお、本実施形態では、ハウジング4の上部の上面全体に上ヒータ55及び絶縁部材55aを設け、載置基台2の内部に下ヒータ56を設けてあるが、被処理物Cへの表面処理の種類によっては設けなくてもよい。
【0036】
加圧機構30は、排出流路31に接続されており、排出流路31を開閉する開閉弁を有する。加圧機構30は、排出流路31を開閉可能に構成されると共に、液室3内に供給された電解液を加圧可能に構成されている。加圧機構30は、載置基台2とハウジング4との間において開閉弁が閉じられたときに形成される液室3の閉鎖空間の容積を減少させ、閉鎖空間内ひいては電解液を加圧する。
【0037】
クランプ部39は、クランプ部39と載置基台2とが嵌合した状態において、載置基台2とイオン伝導膜6との間の下方空間の空気を排気(好適には真空排気)するための排気手段が設けられている。排気手段は、上記の下方空間を減圧するために開閉される開閉弁47を有する。開閉弁47は、上記の下方空間に開口すると共にクランプ部39の下方に連通する減圧流路48の外側に配置されるように設けられている。また、クランプ部39は、第1膜保護部材60を取り付け可能に構成されている。
【0038】
減圧流路48は、液室3(イオン伝導膜6の上方空間)に連通する減圧流路、流路開閉弁及びバイパス流路(いずれも図示せず)を介して接続されている。バイパス流路は、減圧用の真空ポンプ等を有する減圧ユニット(図示せず)が接続されている。このような減圧系の回路は、加圧機構30や流路開閉弁40等の溶液供給系の回路とは別回路で設けられている。
【0039】
電極20は、金属板であり、任意の金属材料(例えば、銅等)で構成されている。電極20は、ハウジング4の内部上面から吊り下げられており、電極20底部23がイオン伝導膜6の直上に位置するように液室3内に配置されている。
【0040】
電極20は、ハウジング4を介して、電源部7の正極(+極)に接続されている。このような構成を備えることにより、電極20は、表面処理装置1における陽極を構成する。なお、電極20は、金属板に限定されず、液室3内の電解液に浸かる位置に配置され得るものであれば、種々の構成(例えば、任意形状の金属が入っている籠状部材等)、配置態様を採用可能である。
【0041】
電源部7は、陽極となる電極20と陰極となる被処理物Cとの間に電圧を印加する。
【0042】
移動機構5は、
図1Cに示すように、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を他方に対して接近又は離間する方向に相対移動させる。具体的には、移動機構5は、直動ロッド51を有し、直動ロッド51によってハウジング4を昇降させることにより、ハウジング4を載置基台2に対して接近又は離間させるように構成されている。
【0043】
また、移動機構5は、ハウジング4が載置基台2に対して最も離間された上昇端位置(原位置:
図1A参照)と、ハウジング4及び載置基台2の間に液室3を形成すると共に、該液室3及びイオン伝導膜6の下部に載置基台2とクランプ部39とが嵌合して形成される下方空間の減圧を実行する減圧位置と、該減圧位置よりも更にハウジング4を載置基台2に接近させて表面処理を実行する処理位置(
図1B参照)との少なくとも3か所において、ハウジング4を停止させることが可能に構成されている。
【0044】
なお、本実施形態において、移動機構5は、ハウジング4を載置基台2に対して接近又は離間させるが、これに限定されない。また、移動機構5は、上述した直動ロッド51を備える構成に限定されず、ハウジング4を載置基台2に対して接近又は離間させることが可能な構成であれば、任意の構成を採用することが可能である。
【0045】
第1膜保護部材60は、
図2に示すように、イオン伝導膜6を支持する第1膜支持部63と、第1膜支持部63を支持する第1枠部61とを含む。また、第1膜保護部材60は、被処理物Cの非処理部分を被覆するための被覆部64を更に含む。第1膜保護部材60は、
図1Aに示すように、ハウジング4の下部(クランプ部39)に取り付けられている。
【0046】
第1枠部61は、
図2に示すように、矩形状の平板であり、中央に被処理物Cの表面Eよりも大きい開口62が設けられている。本実施形態において、第1枠部61は、ステンレス鋼で構成されているが、これに限定されず、耐薬品性があり、変形しづらいものであれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0047】
第1膜支持部63は、多孔部材であり、開口部から、イオン伝導膜6を通過した金属イオンが通過できる。具体的には、第1膜支持部63は、矩形状かつ網状のメッシュ材料であり、第1枠部61と同形同大に形成されている。第1膜支持部63の開口部大きさは、開口部上に配されるイオン伝導膜6が、電解液の圧力により過大な変形をしない程度であることが好ましいがこれに限定されない。第1膜支持部63としては、例えば、ステンレスメッシュ等の金属メッシュや、ポリエステルメッシュ等の合成繊維メッシュを採用可能である。
【0048】
金属メッシュを採用する場合、合成繊維メッシュよりもメッシュの粗さを細かくできるため、イオン伝導膜6にかかる力をより分散可能であり、また、後述する被覆部64のパターンを微細化できる。さらに、金属メッシュは、合成繊維メッシュと比較して高剛性であるため、加圧時の変形が小さく、後述する被覆部64で覆われていないメッシュ部分が被処理物Cの表面Eと接触しにくい。なお、金属メッシュを採用する場合、第1膜支持部63の表面がめっき処理されることを防ぐために、表面が絶縁処理されていることが好ましい。
【0049】
一方で、合成繊維メッシュを採用する場合、絶縁体のため、第1膜支持部63の表面がめっき処理されないという利点がある。また、耐薬品性を有する合成繊維であれば、金属メッシュでは化学反応を起こす電解液であっても使用可能である。
【0050】
なお、第1膜支持部63は、メッシュ(網状)に限定されず、他の多孔部材であってもよい。例えば、第1膜支持部63は、格子状や、ドット状の開口を有する部材であってもよいし、多孔質フィルムや、多孔質板等の無秩序な細孔を有する形状であってもよい。
【0051】
第1膜支持部63は、
図4に示すように、第1枠部61の上面(ハウジング4側)に取り付けられており、第1膜支持部63の第1枠部61の周縁部と重なる部分(第1膜支持部63の周縁部)は、第1枠部61の周縁部に接着されている。また、第1膜支持部63は、被覆部64によって表面が絶縁処理されている。
【0052】
さらに、第1膜支持部63の周縁部及び第1枠部61の周縁部は、液室3内の電解液による腐食を防ぐと共に、電圧印加時に通電することを防ぐために絶縁処理が施されている。具体的には、
図3及び
図4に示すように、第1膜支持部63の周縁部及び第1枠部61の周縁部は、耐薬品性及び絶縁性を有する保護フィルム66で覆われている。
【0053】
被覆部64は、
図4に示すように、第1膜支持部63の被処理物Cとの対向面に設けられている。具体的には、被覆部64は、感光性の樹脂材料(乳剤)であり、第1膜支持部63の被処理物C側の面に薄膜上に塗布されている。また、被覆部64は、撥水加工が施されており、これにより撥水性を有する。被覆部64の厚みは、第1膜支持部63が直接被処理物Cの表面Eに触れない程度の厚みが好ましい。本実施形態において、被覆部64は、表面処理により被処理物Cの表面Eに形成される金属被膜よりも厚いが、これに限定されない。被覆部64が金属被膜よりも厚い場合、形成される金属被膜に第1膜支持部63が干渉し、金属被膜に第1膜時支部の網目模様が入ることを防止できる。
【0054】
また、被覆部64は、
図2に示すように、露光・現像処理により、被処理物Cの表面Eの処理部分を選択的に表面処理するためのパターンが形成されている。そのため、第1膜支持部63の被覆部64のパターンと重なる部分は、被覆部64により被覆されていない。このような構成を備えることにより、表面処理装置1は、被処理物Cの表面Eの被覆部64により被覆されていない処理部分だけを選択的に表面処理することができる。
【0055】
なお、第1膜保護部材60は、被覆部64の被処理物C側に通電部65が更に設けられてもよい。通電部65は、銅、金、銀、ステンレス鋼、チタン等の導電性を有する金属材料により構成されており、電源部7と被処理物Cの表面Eとを導通するように、被処理物Cの表面Eの一部に接触可能に配置される。本実施形態において、通電部65は、載置基台2及びトレイ9の電極部と、被処理物Cの非処理部分とに接続するように配置されている。
【0056】
なお、通電部65は、
図8に示すように、被覆部64の被処理物C側の表面上に配置されてもよいし、
図9に示すように、被覆部64の被処理物C側の面に埋め込まれてもよい。さらに、本実施形態において、通電部65は箔状部材であり、被覆部64に接着剤を介して取り付けられるが、これに限定されない。例えば、被覆部64に金属粒子を塗布することで通電部65を形成してもよい。
【0057】
イオン伝導膜6は、数μm~数百μm(例えば、5~450μm)の膜厚で形成された枚葉状の薄膜部材である。イオン伝導膜6は、例えば、多孔質膜、固体電解質膜等が挙げられ、ポリエチレンや、ポリプロピレン、炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂を用いることができる。なお、イオン伝導膜6は、液室3内に供給された電解液に接触することで、電解液中の金属イオンを含浸し、電源部7により電圧を印加した際に金属イオン由来の金属を被処理物Cの表面Eに析出可能なものであれば、これらに限定されない。
【0058】
イオン伝導膜6は、保持治具35の内枠膜治具36及び外枠膜治具37の間に挟持されている。イオン伝導膜6は、内枠膜治具36及び外枠膜治具37で挟持することにより、均一に張られた状態で保持されている。内枠膜治具36及び外枠膜治具37は、ハウジング4の下部に取り付けられており、イオン伝導膜6は、液室3内に配置された電極20の直下に配置されている。
【0059】
なお、イオン伝導膜6の取付は、イオン伝導膜6を弛みなく張ることができる構成であれば、上述した構成に限定されない。例えば、
図6に示すように、第1膜保護部材60の第1膜支持部63が、イオン伝導膜6の被処理物Cとの対向面に接着されている構成等が挙げられる。このような構成を備えることにより、保持治具35を使用せずにイオン伝導膜6を保持することができるため、装置の小型化が可能である。また、電解液の自重や、イオン伝導膜6の膨潤により、イオン伝導膜6が弛むことを防止できる。
【0060】
また、表面処理装置1は、
図7に示すように、イオン伝導膜6の液室3側に配された第2膜保護部材70を更に備えてもよい。具体的には、第2膜保護部材70は、イオン伝導膜6と対向して設けられ、液室3内の電解液を通過可能な第2膜支持部73と、第2膜支持部73を支持する第2枠部71とを含んでいる。第2膜保護部材70は、保持治具35の内枠膜治具36を介してイオン伝導膜6の上方に取り付けられている。この場合、第1膜保護部材60は、保持治具35の外枠膜治具37を介してハウジング4の下部に取り付けられてもよいし、クランプ部39に取り付けられてもよい。
【0061】
第2枠部71は、第1膜保護部材60の第1枠部61と同様に開口が設けられている。第2膜支持部73は、第1膜支持部63と同様に多孔部材であるが、これに限定されず、電解液が第2膜支持部73の液室3側からイオン伝導膜6側に通過可能な構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0062】
第2膜保護部材70を更に備える場合、イオン伝導膜6は、第1膜保護部材60の第1膜支持部63と第2膜保護部材70の第2膜支持部73との間に挟まれている。このような構成を備えることにより、イオン伝導膜6が両面から支持され、イオン伝導膜6の破損をより防ぐことができる。また、第2膜支持部73は、イオン伝導膜6の液室側の面に接着されてもよい。
【0063】
以上の構成を備える表面処理装置1は、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加することで、イオン伝導膜6及び第1膜支持部63を介した電気分解により被処理物Cの表面Eを処理する。
【0064】
[表面処理方法の説明]
本実施形態に係る表面処理装置1を用いた表面処理方法について
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係る表面処理装置1を用いた表面処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る表面処理方法は、概略的には、電極20と被処理物Cとの間にイオン伝導膜6を配置し、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加することで、イオン伝導膜6を介した液室3内の電解液の電気分解により被処理物Cの表面Eを処理する表面処理方法であって、膜保護部材によりイオン伝導膜6の被処理物Cとの対向面を支持した状態で表面処理を行う。
【0065】
また、本実施形態に係る表面処理方法は、膜保護部材によりイオン伝導膜6の被処理物Cとの対向面を支持した状態で液室3に電解液を収容し、該液室3に該電解液を収容した状態でイオン伝導膜6を被処理物Cに対し接近及び離間させる。
【0066】
本実施形態に係る表面処理方法は、ハウジング4を載置基台2に接近させる接近工程と、イオン伝導膜6と被処理物Cの間の空間を減圧する減圧工程と、第1膜保護部材60の被覆部64と被処理物Cの表面Eを接触させる当接工程と、液室3内を加圧する加圧工程と、加圧工程後に、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電圧印加工程と、ハウジング4を載置基台2から離間させる離間工程とを備える。
【0067】
また、表面処理方法は、液室3内に電解液を注入する給液工程と、液室3内の電解液を排出する排液工程とを更に備える。以下この方法について詳述する。
【0068】
まず、表面処理の前段階として、ハウジング4が載置基台2と離間した状態(原位置:
図1A参照)において、ユーザによってハウジング4に、イオン伝導膜6と、表面処理のパターンに合わせた被覆部64を有する第1膜保護部材60とがセットされる。その後、移動機構5によって、ハウジング4を下降させると共に、ハウジング4のクランプ部39と、載置基台2とを嵌合させる。
【0069】
次に、イオン伝導膜6を第1膜保護部材60の第1膜支持部63により支持した状態で、外部の溶液供給部から供給流路41を介して電解液を液室3内に注入する(
図5のS1:給液工程)。液室3の内部を電解液で満たしていくと、液室3の内部に残留している空気は、加圧機構30の接続流路である排出流路31から、溶液供給部に排気される。電解液の注入をさらに続けると、液室3の内部は常圧の電解液で完全に満たされる。
【0070】
液室3内が電解液で満たされた後、移動機構5によって、ハウジング4を原位置まで上昇させることで、ハウジング4を載置基台2から離間する。ハウジング4が原位置に戻った後に、載置基台2上に、被処理物Cを載置したトレイがセットされる。これにより表面処理の準備が完了する。
【0071】
準備完了後、再び移動機構5によって、ハウジング4を上記の減圧位置まで下降させ、ハウジング4のクランプ部39と、被処理物Cを載置した載置基台2とを嵌合する(
図5のS2:接近工程)。このとき、クランプ部39と載置基台2との嵌合位置は、第1膜支持部63が被処理物Cの表面Eと可能な限り近づいた状態となる位置に設定される。被処理物Cは、載置基台2とイオン伝導膜6との間に形成される下方空間内に密閉され、液室3とは隔てられている。
【0072】
次に、ハウジング4のクランプ部39と、被処理物Cを載置した載置基台2とを嵌合させた状態で、クランプ部39に設けられた開閉弁47を開状態にすると共に、上述した減圧系の流路開閉弁を開状態にして、減圧流路48と図示しない減圧流路をバイパス流路を介して連通させ、下方空間を減圧する(
図5のS3:減圧工程)。
【0073】
そして、減圧状態を継続したまま、ハウジング4のクランプ部39を載置基台2に完全嵌合させるべく、移動機構5によってハウジング4を上述の処理位置まで下降させ、第1膜保護部材60の被覆部64を被処理物Cの表面Eに接触させる(
図5のS4:当接工程)。
【0074】
次に、ハウジング4の外部側面に設けられた加圧機構30によって、液室3内の電解液を加圧する(
図5のS5:加圧工程)。この加圧工程により、被覆部64と、被処理物Cの表面Eとが密着し、被腹部64が、被覆機能を発揮する。そして、液室3内の電解液が加圧されている状態で、電源部7によって、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する(
図5のS6:電圧印加工程)。これにより、被処理物Cの表面Eの処理部分に、金属イオンを析出させて金属の被膜を形成する表面処理を実行する。
【0075】
本実施形態において、イオン伝導膜6と被処理物Cの表面Eとは直接接触しないが、イオン伝導膜6の上方空間と下方空間の差圧により、イオン伝導膜6から電解液が染み出し、被処理物Cの表面E上を満たすと共に、被処理物Cの処理部分に金属被膜が形成される。
【0076】
なお、ハウジング4に液室3の内部の圧力を計測可能な圧力センサを設置し、この計測値を基に、加圧機構30による作動空気圧力を制御すれば、電解液を所望の圧力に加圧制御することが可能である。この状態を所定の時間保持し、所定の電圧印加時間が経過すれば、表面処理が完了する。
【0077】
表面処理完了後、移動機構5によって、ハウジング4を原位置まで上昇させることで、ハウジング4を載置基台2から離間する(
図5のS7:離間工程)。ハウジング4が原位置に移動した後、被処理物Cが載置されたトレイ9を載置基台2から取り出す。
【0078】
複数の被処理物Cに同一パターンの表面処理を連続して実施する場合(
図5のS8にてYES)、新たな被処理物Cをセットし、再び接近工程から離間工程までを繰り返す。表面処理を繰り返し行い、電解液の交換が必要となった場合、当接工程(
図5のS4)の後、ハウジング4のクランプ部39と、載置基台2とを嵌合させた状態において、液室3内の電解液を循環させる。
【0079】
表面処理を連続して実施しない場合(
図5のS8にてNO)、排液工程を経て表面処理を終了する。具体的には、まず、移動機構5によって、再びハウジング4を下降させると共に、ハウジング4のクランプ部39と、載置基台2とを嵌合させる。その後、ハウジング4に開口部を有する供給流路41から液室3内の電解液を排出する(排液工程)。排液工程では、流路開閉弁40と加圧機構30とを開状態にし、加圧機構30から低圧の空気を送気して、流路開閉弁40の給排ポートから電解液を排液する。排液完了後、移動機構5によって、ハウジング4を原位置まで上昇させることで、ハウジング4を載置基台2から離間する。
【0080】
また、表面処理のパターンを変更する場合、排液後にハウジング4に取り付けられている第1膜保護部材60を取り外し、他の表面処理のパターンを有する第1膜保護部材60を新たに取り付ける。その後、電解液を液室3内に注入し、再び接近工程から離間工程までを繰り返す。
【0081】
以上の工程により、本実施形態に係る表面処理装置1による一連の表面処理方法が実行される。
【0082】
[本実施形態に係る表面処理装置、膜保護部材及び表面処理方法の利点]
以上説明したように、本実施形態に係る表面処理装置1は、被処理物Cと対向して配置され、内部に液室3を形成可能なハウジング4と、ハウジング4内に配された電極20と、液室3と被処理物Cとの間に配置されたイオン伝導膜6と、被処理物Cとイオン伝導膜6との間に配された第1膜保護部材60と、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電源部7とを備え、第1膜保護部材60は、イオン伝導膜6を支持する第1膜支持部63を含み、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加することで、イオン伝導膜6及び第1膜支持部63を介した電気分解により被処理物Cの表面Eを処理する。
【0083】
そして、本実施形態に係る表面処理装置1は、このような構成を備えることにより、イオン伝導膜6が被処理物Cに接触していない状態において、第1膜支持部63によりイオン伝導膜6が支持されることで、液室3内の電解液の自重や、減圧する際生じるイオン伝導膜6の上方空間と下方空間の差圧によってイオン伝導膜6が変形せず、また、表面処理時にイオン伝導膜6が直接被処理物Cと接触しないため、イオン伝導膜6の破損を防止できるという利点を有している。さらに、イオン伝導膜6と被処理物Cとの間に第1膜支持部が配置されていることで、減圧工程において、イオン伝導膜6が被処理物Cの表面Eと密着することで発生する残留気泡を抑制できる。
【0084】
また、本実施形態に係る表面処理装置1において、第1膜支持部63は、多孔部材である。このような構成を備えることにより、電解液の自重によってイオン伝導膜6にかかる負荷を均等に分散しつつ、イオン伝導膜6を支持できるという利点を有している。また、電解液が通過可能な開口を有するため、電解液の染み出しを妨げないという利点も有する。
【0085】
さらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、イオン伝導膜6と第1膜保護部材60は、ハウジング4に取り付けられている。このような構成を備えることにより、複数の被処理物Cに対して繰り返し表面処理を実施する場合に、第1膜保護部材60を取り外さなくてよいという利点を有している。
【0086】
またさらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、第1膜保護部材60は、被処理物Cの非処理部分を被覆するための被覆部64を更に含む。このような構成を備えることにより、イオン伝導膜6から染み出た電解液は、被覆部64の厚みによって被処理物上での拡がりが抑制されるため、被処理物Cの処理部分のみを選択的に表面処理できるという利点を有している。また、被覆部64は、第1膜保護部材60に設けられていることで、第1膜保護部材60と別で被覆部を設ける場合と比較して、自由な被覆パターンを実現できる。
【0087】
また、本実施形態に係る表面処理装置1において、第1膜保護部材60は、被覆部64の被処理物C側に通電部65が更に設けられており、通電部65は、電源部7と被処理物Cの表面Eとを導通するように、該被処理物Cの表面Eの一部に接触可能に配置される。このような構成を備えることにより、被処理物Cが、樹脂基材や、ガラス基板、シリコンウエハー、セラミックス基板等の上に導体層が形成されている材料の場合であっても、電源部7と導体層を導通させて表面処理することができるという利点を有している。また、被処理物Cと、載置基台2及びトレイ9の電極部、ひいては電源部7の負極とを容易に接続できるという利点を有している。さらに、被処理物Cの処理部分の近傍で電源部7と被処理物Cの表面Eとを導通することになり、表面処理の精度をより向上することができるという利点を有している。
【0088】
さらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、被覆部64は、撥水性を有する。このような構成を備えることにより、イオン伝導膜6から染み出た電解液が被覆部64に滲入し、被処理物Cの非処理部分に侵入することを防止できるという利点を有している。
【0089】
またさらに、本実施形態に係る表面処理装置1において、第1膜支持部63は、表面が絶縁処理されている。このような構成を備えることにより、電圧印加時に、第1膜支持部63に通電し、第1膜支持部63の表面がめっき処理されることを防止できるという利点を有している。
【0090】
また、本実施形態に係る表面処理方法は、膜保護部材によりイオン伝導膜6の被処理物Cとの対向面を支持した状態で液室3に溶液(電解液)を収容し、該液室3に該溶液(電解液)を収容した状態でイオン伝導膜6を被処理物Cに対し接近及び離間させる。このような構成を備えることにより、1サイクル毎に電解液の注入及び排出をする必要がなくなり、表面処理の1サイクルにかかる時間を短縮できるという利点を有している。
【0091】
さらに、本実施形態に係る表面処理方法は、液室3内を加圧する加圧工程と、加圧工程後に、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電圧印加工程とを備える。このような構成を備えることにより、被覆部64と、被処理物Cの表面Eとの密着性が向上し、より効果的に被覆できるという利点を有している。
【0092】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上述した実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0093】
例えば、本実施形態において、第1膜支持部63は、多孔部材であるものとして説明したが、これに限定されない。第1膜支持部63は、イオン伝導膜6を通過したイオンが通過可能であり、かつ、イオン伝導膜6を支持可能な構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0094】
本実施形態において、イオン伝導膜6と第1膜保護部材60は、ハウジング4に取り付けられているものとして説明したが、これに限定されない。第1膜保護部材60は、例えば、被処理物Cが載置基台2又はトレイ9に載置された状態において、載置基台2又はトレイ9上に被処理物Cを覆うように取り付けられてもよい。
【0095】
本実施形態において、第1膜保護部材60は、被処理物Cの非処理部分を被覆するための被覆部64を更に含むものとして説明したが、これに限定されず、第1膜保護部材60は、被覆部64を含まなくてもよい。
【0096】
本実施形態において、第1膜保護部材60は、被覆部64の被処理物C側に通電部65が更に設けられており、通電部65は、電源部7と被処理物Cの表面Eとを導通するように、該被処理物Cの表面Eの一部に接触可能に配置されるものとして説明したが、これに限定されず、第1膜保護部材60は、被覆部64の被処理物C側に通電部65が更に設けられていなくてもよい。
【0097】
本実施形態において、被覆部64は、撥水性を有するものとして説明したが、これに限定されず、被覆部64は、撥水性がなくてもよい。
【0098】
本実施形態において、第1膜支持部63は、表面が絶縁処理されているものとして説明したが、これに限定されず、第1膜支持部63は、表面が絶縁処理されていなくてもよい。
【0099】
本実施形態に係る表面処理方法は、膜保護部材によりイオン伝導膜6の被処理物Cとの対向面を支持した状態で液室3に溶液(電解液)を収容し、該液室3に該溶液(電解液)を収容した状態でイオン伝導膜6を被処理物Cに対し接近及び離間させるものとして説明したが、これに限定されない。本実施形態に係る表面処理方法は、液室3に溶液(電解液)を収容しない状態でイオン伝導膜6を被処理物Cに対し接近及び離間させてもよい。
【0100】
本実施形態に係る表面処理方法は、液室3内を加圧する加圧工程と、加圧工程後に、電極20と被処理物Cとの間に電圧を印加する電圧印加工程とを備えるものとして説明したが、これに限定されない。本実施形態に係る表面処理方法は、加圧工程と電圧印加工程を備えなくてもよい。
【0101】
本実施形態において、被覆部64は、乳剤であるものとして説明したが、これに限定されない。例えば、被覆部64は、樹脂フィルム、感光性樹脂(ドライフィルム等)、絶縁処理された金属材料(メタルマスク等)等であってもよい。
【0102】
本実施形態において、イオン伝導膜6は、矩形状であるものとして説明したが、これに限定されず、ハウジング4の開口部を覆う構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。例えば、円形状等であってもよい。また、第1枠部61及び第2枠部71の開口部は、イオン伝導膜6の形状に合わせて、矩形以外の形状であってもよい。
【0103】
本実施形態において、第1膜保護部材60の第1膜支持部63の周縁部及び第1枠部61の周縁部は、耐薬品性及び絶縁性を有する保護フィルム66で覆われているものとして説明したが、これに限定されず、第1膜支持部63の周縁部及び第1枠部61の周縁部は、保護フィルム66で覆われていなくてもよく、第1枠部61が電気的に短絡しない構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0104】
本実施形態において、第1膜支持部63は、第1枠部61と同形同大に形成されているものとして説明したが、これに限定されず、第1膜支持部63は、第1枠部61と同形同大でなくてもよい。
【0105】
本実施形態において、第2膜保護部材70は、保持治具35の内枠膜治具36に取り付けられているものとして説明したが、これに限定されず、第2膜保護部材70は、イオン伝導膜6の上方に配される構成であれば、種々の任意の構成を採用可能である。
【0106】
本実施形態において、表面処理の前段階として、ハウジング4を下降させると共に、ハウジング4のクランプ部39と、載置基台2とを嵌合させ、電解液を液室3内に注入する(給液工程)ものとして説明したが、これに限定されない。例えば、1回目の表面処理において、当接工程後に、電解液を液室3内に注入してもよい。
【0107】
本実施形態に係る表面処理方法は、減圧工程を備えるものとして説明したが、これに限定されず、本実施形態に係る表面処理方法は、減圧工程を備えなくてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 表面処理装置
2 載置基台
3 液室
4 ハウジング
5 移動機構
6 イオン伝導膜
7 電源部
8 支持基台
9 トレイ
20 電極
23 底部
30 加圧機構
31 排出流路
35 保持治具
36 内枠膜治具
37 外枠膜治具
39 クランプ部
40 流路開閉弁
41 供給流路
47 開閉弁
48 減圧流路
51 直動ロッド
55 上ヒータ
55a 絶縁部材
56 下ヒータ
60 第1膜保護部材
61 第1枠部
62 開口
63 第1膜支持部
64 被覆部
65 通電部
66 保護フィルム
70 第2膜保護部材
71 第2枠部
73 第2膜支持部
C 被処理物
E 表面