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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063365
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】抗老化剤及び化粧品
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20230427BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230427BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230427BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20230427BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20230427BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
A61K8/19
A61Q19/08
A61Q19/10
A61K33/24
A61P17/00
A61P17/16
A61P39/06
A61P17/18
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035122
(22)【出願日】2023-03-08
(62)【分割の表示】P 2021153913の分割
【原出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】513055698
【氏名又は名称】VBジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(74)【代理人】
【識別番号】100174012
【弁理士】
【氏名又は名称】小前 陽一
(72)【発明者】
【氏名】団 克昭
(72)【発明者】
【氏名】藤波 克之
(57)【要約】
【課題】 ポリ酸化合物を用いた抗老化剤を提供する。
【解決手段】 K11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗酸化作用を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗酸化作用を有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項2】
11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33
]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗糖化作用を有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項3】
FEEL-1、FEEL-2、CD36、AGE-R1およびAGE-R3のうちの少なくとも1種の発現を促進させる請求項2記載の抗老化剤。
【請求項4】
Hsp104、gp96、Hsp90、Hsp70、Hsp60およびHsp32のうちの少なくとも1種の発現を促進させる請求項2記載の抗老化剤。
【請求項5】
皮膚の保湿作用を有する請求項1記載の抗老化剤。
【請求項6】
AQP-1の発現、AQP-3の発現、ヒアルロン酸の分泌、およびElastinの生成のうちの少なくとも1つにより前記皮膚の保湿作用を有する請求項5記載の抗老化剤。
【請求項7】
11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗酸化及び抗糖化作用を有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の抗老化剤を配合させた抗老化用化粧品(ただし、養毛・育毛料を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗老化剤及び化粧品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の三大老化反応として、糖化反応、酸化反応、慢性炎症反応が指摘される中、これらの反応の結果生じる活性酸素種(ROS)の蓄積が種々の老化作用の原因物質として知られている。それは肌細胞も同様で、酸化、糖化の抑制によりシワ、シミ、くすみ、たるみなどの発生の抑制に功奏すると考えられている。
【0003】
糖化反応は、種々のタンパク質中のアミノ酸残基の非酵素的化学反応であり、高度な糖化最終産物(AGE)を生成する。AGEは、生物体全体の老化において重要な役割を果たし、広範な種々の疾患に関与する。例えば、皮膚コラーゲン中のAGE濃度は加齢とともに増加し、同年齢の健常人よりも糖尿病患者で高い。さらに、細胞内のAGEの形成および蓄積は、皮膚老化、アルツハイマー病、高血圧、動脈硬化および骨粗鬆症に関与することが知られている。
【0004】
AGEの受容体としては、細胞内シグナル経路を活性化し、特に炎症に結びつき、ROSの蓄積に関わるものと、AGEの分解・除去に関わるものがある。細胞老化を防ぐ、または遅らせるためには、前者の働きを抑え、後者の働きを促進することが求められる。前者のAGE受容体としては、RAGE、AGE-R2等が挙げられ、後者のAGE受容体としては、FEEL-1、FEEL-2、AGE-R1、AGE-R3、CD36等が挙げられる。
【0005】
酸化ストレスとして過酸化水素暴露などで生成されるROSによるDNA, タンパク質、脂質の損傷は、老化の促進や老年疾患の発症、重篤化において重要な役割を果たしている(例えば、非特許文献1および2)。ROSの蓄積を抑制しSuperoxide dismutase (SOD)などの抗酸化物質を活性化することが老化を抑制するためには重要である。
【0006】
皮膚の保湿や抗老化において、線維芽細胞の活性化に伴うヒアルロン酸分泌の上昇、Elastinの生成や細胞膜表面に存在する水分子透過タンパク、アクアポリン(AQP)-1,-3が関係していることが示されており、酸化ストレスによってAQP-1,-3が減少することも明らかとなった(例えば、非特許文献3)。
Elastinは、弾性繊維のコアタンパク質であり、しわ形成の原因とされ、皮膚の再生に深く関わっている。
【0007】
また、近年、細胞が熱や紫外線、活性酸素等からストレスを受けた際に発現し、細胞を保護するタンパク質であるヒートショックプロテイン(Hsp)が注目され、ヒートショックプロテインの発現誘導剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、金属酸化物の一種で、多彩な構造体を形成するポリ酸化合物(Polyoxometalates; PM化合物)は、これまでに数百種類が合成されており、抗腫瘍活性や、抗ウイルス活性、あるいは抗菌活性を有するものが見出されている。しかし、ポリ酸化合物のROS等に対する有用性や、その他の物質に対する汎用性についての知見は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/043808号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kawanishi S, Hiraku Y, and Oikawa S. Mechanism of guanine-specific DNA damage by oxidative stress and its role in carcinogenesis and aging. Mutat Res, 488:65-76, 2001
【非特許文献2】Saxena S, Vekaria H, Sullivan PG, and Seifert AW. Connective tissue fibroblasts from highly regenerative mammals are refractory to ROS-induced cellular senescence. Nat Commun. 27;10(1):4400, 2019
【非特許文献3】Xu Y, Yao H, Wang Q, Xu W, Liu K, Zhang J, Zhao H, Hou G. Aquaporin-3 Attenuates Oxidative Stress-Induced Nucleus Pulposus Cell Apoptosis Through Regulating the P38 MAPK Pathway. Cell Physiol Biochem. 50(5):1687-1697, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ポリ酸化合物を用いた抗老化剤およびこの抗老化剤を含む化粧品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定のポリ酸化合物を用いることにより上記目的が達成されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明によれば、
(1) K11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗酸化作用を有することを特徴とする抗老化剤、
(2) K11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33
]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗糖化作用を有することを特徴とする抗老化剤、
(3) FEEL-1、FEEL-2、CD36、AGE-R1およびAGE-R3のうちの少なくとも1種の発現を促進させる(2)記載の抗老化剤、
(4) Hsp104、gp96、Hsp90、Hsp70、Hsp60およびHsp32のうちの少なくとも1種の発現を促進させる(2)記載の抗老化剤、
(5) 皮膚の保湿作用を有する(1)記載の抗老化剤、
(6) AQP-1の発現、AQP-3の発現、ヒアルロン酸の分泌、およびElastinの生成のうちの少なくとも1つにより前記皮膚の保湿作用を有する(5)記載の抗老化剤、
(7) K11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33]を含む抗老化剤(ただし、神経成長因子を含むものを除き、また、養毛・育毛用途を除く)であって、抗酸化及び抗糖化作用を有することを特徴とする抗老化剤、
(8) (1)~(7)の何れか一項に記載の抗老化剤を配合させた抗老化用化粧品(ただし、養毛・育毛料を除く)、
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリ酸化合物を用いた抗老化剤およびこの抗老化剤を含む化粧品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例の抗糖化作用の検討におけるAGE受容体の発現を示すグラフである。
図2】実施例の抗糖化作用の検討におけるヒートショックプロテインの発現を示すグラフである。
図3】実施例の抗糖化作用の検討におけるROSの測定結果を示すグラフである。
図4】実施例の抗糖化作用の検討におけるSODの測定結果を示すグラフである。
図5】実施例の抗酸化作用の検討における細胞生存率の測定結果を示すグラフである。
図6】実施例の抗酸化作用の検討におけるROSの測定結果を示すグラフである。
図7】実施例の抗酸化作用の検討におけるSODの測定結果を示すグラフである。
図8】実施例の抗酸化作用の検討におけるAQP-1のmRNAレベルを示すグラフである。
図9】実施例の抗酸化作用の検討におけるAQP-3のmRNAレベルを示すグラフである。
図10】実施例の抗酸化作用の検討におけるヒアルロン酸の生成量を示すグラフである。
図11】実施例の抗酸化作用の検討におけるElastinの生成量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の抗老化剤について説明する。本発明の抗老化剤は、K11H[(VO)(SbW33]および/またはNa[SbW33]を含む。
【0017】
11H[(VO)(SbW33](以下、VB2ということがある。)およびNa[SbW33](以下、VB3ということがある。)は、polyoxometalates(PM化合物、ポリ酸化合物)と呼ばれる金属酸化物クラスターに属する化合物である。ここで、PM化合物は、ポリ酸イオンを有する金属酸化物クラスター化合物であり、PM化合物に属する各化合物は、Journal of Materials Chemistry、15巻、4773-4782ページ、2005年、英国王立化学会に記載されているように抗菌活性や抗ウイルス活性など、それぞれに特有の生物活性を有する。なお、ポリ酸化合物とは、遷移金属元素(W(VI)、V(V)など)によって構成される金属酸化物クラスター化合物をいい、金属原子などに酸素原子が、通常4又は6配位した四面体又は八面体を基本単位として、この基本単位が稜又は頂点を介して結合した構造を有するものである。
【0018】
ここで、本発明において用いるポリ酸化合物は、K11H[(VO)(SbW33]、Na[SbW33]であり、これらは単独で用いてもよいし、2種類を所定の割合で処方したものを用いてもよい。2種類を所定の割合で処方する場合の配合比は、特に制限されないが、K11H[(VO)(SbW33] 1モルに対し、Na[SbW33]は好ましくは0.1~30モル、より好ましくは10~20モルである。また、K11H[(VO)(SbW33] 1モルに対し、Na[SbW33]を17.3モル用いることが特に好ましい。
【0019】
また、本発明において、金属酸化物として、K11H[(VO)(SbW33]およびNa[SbW33]に加えて、VOSOを用いてもよい。VOSOは、二原子イオンVO2+を特徴とするバナジウム化合物である。なお、生理活性としては、国際公開第99/17782号等に血糖値降下作用を有する旨が記載されている。ここで、VOSOを用いる場合には、K11H[(VO)(SbW33] 1モルに対し、VOSOを0.1~20モル用いることが好ましく、4~8モル用いることがより好ましい。また、K11H[(VO)(SbW33] 1モルに対し、VOSOを5.5モル用いることが特に好ましい。
【0020】
また、本発明の抗老化剤の用途は特に限定されないが、例えば、化粧品に配合することができる。化粧品としては、化粧水、乳液、洗顔料、クレンジング、美容液、クリーム、ファンデーション、アイブロー、マスカラ、アイシャドウ、アイライン、口紅、グロス、チーク、白粉、マニキュア等が挙げられる。また、化粧品の形態としては、液体、クリーム、固体、スティック、粉末等の形態を採用することができる。
【0021】
化粧品の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリ酸の水溶液に水、アルコール類、油剤、保湿剤、美白剤、紫外線防止剤、抗しわ剤、ピーリング剤、香料、着色料、界面活性剤、キレート剤、酸化防止剤、増粘剤、pH調整剤等の化粧品原料から選ばれる任意の成分を混合・撹拌することにより化粧品を製造することができる。
【0022】
保湿剤としてはフルボ酸、ヒアルロン酸、ローヤルゼリー、グリセリン、ダイズエキス等が挙げられる。また、香料としては、特に限定されないが、たとえば、シトラス、ペパーミント、ラベンダー、クロモジ、ニオイコブシ、ヒノキ、スギ、モミ等の香りを有する香料成分が挙げることができ、これらの香りを有するアロマオイル等を用いることができる。
【0023】
上記化粧品中に配合される抗老化剤の割合は、使用目的に応じて適宜調整することができるが、上記化粧品中に配合される抗老化剤の割合は、好ましくは0.0001~80重量%、より好ましくは0.003~50重量%、さらに好ましくは0.005~30重量%である。
【0024】
また、上記の化粧品を紙製おしぼり、不織布製おしぼりおよび布製おしぼりなど公知のおしぼりに含有させてもよい。布製おしぼりとしては、たとえば、タオルを用いることができ、タオルの素材としては、綿等が用いられる。また、ハンドソープや手指洗浄液等の衛生用品に含有させてもよい。
【実施例0025】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り重量基準である。また、測定結果の統計的有意性はt検定により判断し、P<0.05である場合に、2群の差に統計学的な有意性があると判断した。
【0026】
(ポリ酸化合物の準備)
11H[(VO)(SbW33](以下、VB2ということがある。)およびNa[SbW33](以下、VB3ということがある。)の原末をそれぞれ合成した。得られた原末を乳鉢ですりつぶし、超純水に溶解し、フィルター(ポアサイズ0.45μm)を通過させ、VB2およびVB3の水溶液をそれぞれ得た。ここで、得られた水溶液の濃度は、VB2水溶液が115μg/mLであり、VB3水溶液が1000μg/mLであった。
【0027】
(試薬)
DL-グリセルアルデヒドおよび過酸化水素は、和光純薬工業株式会社より購入し、ウシ血清由来アルブミン(フラクションV)は、シグマアルドリッチ社から購入した。
【0028】
(AGEの準備)
ウシ血清由来アルブミン(25mg/mL)をDL-グリセルアルデヒドに溶解させ0.1Mとしたリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4;以下、「PBS」ということがある。)中で37℃、1週間培養することによりAGEを得た。
【0029】
(細胞の培養)
ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts (NHDF), juvenile foreskin (C-12300, PromoCell)は、専用培地、Fibroblast Growth Medium(C-23010, PromoCell)を用いて37℃、5%COインキュベーターで培養した。
【0030】
<抗糖化作用の検討>
(AGE受容体およびヒートショックプロテインの発現の測定)
まず、VBとAGEの共存群として、ヒト皮膚線維芽細胞をAGE(100μg/mL)で処理し、正確に1/1000量に希釈した上記のVB2(希釈後の濃度:115ng/mL)およびVB3(希釈後の濃度:1000ng/mL)をそれぞれ添加して37℃にて4時間保持した。
【0031】
また、VB単独刺激群として、ヒト皮膚線維芽細胞に対してAGEによる処理を行わず、正確に1/1000量に希釈した上記のVB2およびVB3をそれぞれ添加して37℃にて4時間保持した。さらに、AGE単独刺激群として、ヒト皮膚線維芽細胞をAGEで処理し、VB2もVB3も添加せずに37℃にて4時間保持した。また、無処置群として、ヒト皮膚線維芽細胞に対してAGEによる処理を行わず、VB2もVB3も添加せずに、37℃にて4時間保持した。
【0032】
そして、細胞からTrizol reagent (Ambion)を用いてtotal RNAを抽出し、qRT-PCR(one-step quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction)法にてAGE受容体(FEEL-1、FEEL-2、CD-36、AGE-R1、AGE-R2、AGE-R3およびRAGE)およびヒートショックプロテイン(Hsp104、gp96、Hsp90、Hsp70、Hsp60およびHsp32)のmRNAレベルを測定した。
qRT-PCR法について、具体的には、後述の「qRT-PCR法」にて記載する。
【0033】
AGE受容体についての測定結果を図1に、ヒートショックプロテインについての測定結果を図2にそれぞれ示す。図1および図2においては、AGEとVBの共存群について、VB2およびVB3を添加したサンプルをVB2(+)AGEおよびVB3(+)AGEとしてそれぞれ示し、これらはAGE単独刺激群との比較で値を示した。また、VB単独刺激群について、VB2およびVB3を添加したサンプルをVB2 aloneおよびVB3 aloneとしてそれぞれ示し、これらは無処置群との比較で値を示した。
【0034】
図1に示すように、VB単独刺激群では、AGE受容体のmRNAレベルに有意な変動はなかった。一方、AGEとVBの共存群では、AGE単独刺激群におけるAGE受容体のmRNAレベルと比較して、VB2 (+)AGE、VB3(+)AGEはともにFEEL-1, FEEL-2, RAGEのmRNAレベルを有意に上昇させた。
【0035】
また、皮膚線維芽細胞にVB2、VB3をそれぞれ添加した場合に、ストレス応答としてのヒートショックプロテイン(以下、Hspということがある。)のmRNAの誘導能を検討したところ、図2に示すようにVB単独刺激群では、各種HspのmRNAレベルの変動はなかった。一方、AGEとVBの共存群では、AGE単独刺激群と比較して、検討したHspの中でHsp90以外の全てのHspのmRNAレベルが有意に上昇した。
【0036】
(AGEに対する細胞内活性酸素(ROS)およびSuperoxide(SOD)の測定)
ヒト皮膚線維芽細胞をAGE(100μg/mL)で処理し、VB2およびVB3をそれぞれ添加して37℃にて4時間保持した。ここで、VB2およびVB3は、1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLおよび300μg/mLの濃度のものをそれぞれ添加した。結果を示すグラフである図3および図4において、VB2を添加したものは「VB2-AGE」、VB3を添加したものは「VB3-AGE」と表記した。
【0037】
なお、Controlとして、ヒト皮膚線維芽細胞に対してAGEに処理を行わず、VB2もVB3も添加せずに37℃にて4時間保持したものについても測定を行い、また、AGE単独刺激群として、ヒト皮膚線維芽細胞をAGE(100μg/mL)で処理し、VB2もVB3も添加せずに37℃にて4時間保持したもの(図3および図4において「AGE」と表記した。)についても、測定を行った。
【0038】
細胞内ROSの測定は、fluorescence using dichlorofluorescin diacetate (DCF-DA; Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を用いて行った。具体的には、細胞をPBSで洗浄したのち、10μM DCF-DAを37℃で20分間インキュベーションした。細胞内ROSレベルはfluorescence intensity using the micro plate reader (SYNERGY/HT, BioTek, Japan)を用いて525nmの励起波長を計測した。結果を図3に示す。図3においては、Controlを100%としたときの各サンプルの結果を示した。
【0039】
また、Superoxide(SOD)の測定は、SOD Assay Kit (Cayman Chemical, Ann arbor, MI, USA)を用いて測定した。各種の処理を終えた細胞を24時間培養した後、Lysis bufferを添加し、ホモジナイズして遠心した。そして、10μLの各サンプルをそれぞれ200μLのxanthine oxidaseと室温で混合した。30分後、450nmの吸光度を測定した。結果を図4に示す。
図4においては、Controlを100%としたときの各サンプルの結果を示した。
【0040】
<抗酸化作用の検討>
(細胞生存率の測定)
0.2mMの過酸化水素を添加した培養液で、ヒト皮膚線維芽細胞を2時間インキュベーションしたのち、PBSで洗浄除去し、通常の培地に入れ替えて培養を継続した。VB2およびVB3は、それぞれ過酸化水素を添加する前後のいずれかのタイミングで添加し、4時間共培養した。そののち、細胞または培養液を回収した。
【0041】
結果を示すグラフである図5において、過酸化水素を添加した後にVB2またはVB3を加えたサンプルを「H2O2-VB2」、「H2O2-VB3」とそれぞれ表記し、VB2またはVB3を加えた後に過酸化水素を添加したサンプルを「VB2-H2O2」、「VB3-H2O2」とそれぞれ表記した。 ここで、VB2およびVB3は、1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLおよび300μg/mLの濃度のものをそれぞれ添加した。
【0042】
なお、ヒト皮膚線維芽細胞に過酸化水素もVB2もVB3も加えないものについて、上記と同様に処理を行い、Controlとして測定を行った。また、VB2またはVB3を添加しないサンプル(図5において「H2O2」と表記した。)についても上記と同様に処理を行い、測定を行った。
【0043】
ヒト皮膚線維芽細胞における細胞生存数の測定は、Cell counting-8 kit (DOJINDO:, Japan)を用いて行った。Controlの細胞との比色(450nm)により、生存比率(% of Control)として表示した。結果を図5に示した。
【0044】
図5に示すようにヒト皮膚線維芽細胞に0.2mMの過酸化水素による酸化ストレスを与えた際の細胞生存率は59%であった。同様の酸化ストレスを与えた後にVB2またはVB3を添加した際の細胞生存率は濃度依存的に上昇し、最大生存率はVB2、300μg/mLの76%、VB3、300μg/mLの78%であった。一方あらかじめVB2またはVB3を添加した細胞に同様の酸化ストレスを後から与えた場合の細胞生存率は、濃度依存的に有意な上昇を示した。具体的には、酸化ストレス付与後にVB2またはVB3を添加したサンプルと比較しても、酸化ストレス付与前にVB2またはVB3を添加した場合には、10μg/mL以上で有意な差が認められるほどの上昇を示した。
【0045】
(過酸化水素に対する細胞内活性酸素(ROS)産生およびSuperoxide(SOD)の測定)
上記「細胞生存率の測定」に記載した手順により、ヒト皮膚線維芽細胞の処理、培養(共培養)を行い、細胞または培養液を回収した。用いたVB2、VB3の濃度、および、結果を示すグラフである図6および図7におけるサンプルの表記も上記「細胞生存率の測定」と同様である。
【0046】
細胞内ROSの測定およびSuperoxide(SOD)の測定は、上記「AGEに対する細胞内活性酸素(ROS)産生およびSuperoxide(SOD)の測定」に記載の方法とそれぞれ同様の方法により行った。
【0047】
細胞内ROSおよびSuperoxide(SOD)の測定結果をそれぞれ図6および図7に示す。図6および図7においては、Controlを100%としたときの各サンプルの結果を示した。
【0048】
酸化ストレスで生成されたROSに対する抑制効果を検討したところ、図6に示すように、細胞内の蛍光量は酸化ストレスによって正常細胞の370%に上昇した。その酸化ストレスの前後においてVB2またはVB3を添加した場合、VB2およびVB3の両方でROSの産生が濃度依存的に抑制された。特に、酸化ストレスを付与する前に予めVB2で処理した場合において、よりROSの産生は抑制された。
【0049】
また、図7に示すように、SOD量は、VB2もVB3も添加しない場合には酸化ストレスによってControlの56%に抑制された。その酸化ストレスの前後にVB2またはVB3を添加した場合、SOD量を濃度依存的に回復させる傾向にあった。またVB2またはVB3を酸化ストレスを付与する前に加えた場合と、後で加えた場合との差も、VB2とVB3を用いた場合の差も明確ではなかった。
【0050】
(アクアポリンの分泌刺激効果の検討)
上記「細胞生存率の測定」に記載した手順により、ヒト皮膚線維芽細胞の処理、培養(共培養)を行い、細胞または培養液を回収した。結果を示すグラフである図8および図9におけるサンプルの表記も上記「細胞生存率の測定」と同様である。
【0051】
アクアポリンの測定は、AQP-1およびAQP-3についてqRT-PCR法により行い、測定結果は、ΔΔCt法により求めた。AQP-1についての結果を図8、AQP-3についての結果を図9にそれぞれ示す。qRT-PCR法について、具体的には、後述の「qRT-PCR法」にて記載する。
【0052】
皮膚の保湿に関わる因子として、AQP-1およびAQP-3について各mRNAレベルを定量PCRで測定したところ、図8および図9に示すように、ヒト皮膚線維芽細胞に酸化ストレスを与えると細胞表面に発現するAQP-1およびAQP-3のmRNAレベルが低下することが明らかとなった。この低下に対して、酸化ストレスを付与する前または後においてVB2またはVB3をそれぞれ加えると修復する現象、すなわちAQP-1およびAQP-3のmRNAレベルが増加する現象が確認された。その修復能力はVB2またはVB3の添加が酸化ストレスの付与の前後に関わらずVB2またはVB3で認められた。このうち、酸化ストレスを付与する前に予めVB2またはVB3を加えた群の方が、酸化ストレスを付与した後にVB2またはVB3を加えた群よりも修復能力が強い傾向にあった。また、VB2とVB3との間に有意差は認められなかった。
【0053】
(皮膚の保湿効果に関わるヒアルロン酸およびElastinの生成量)
上記「細胞生存率の測定」に記載した手順により、ヒト皮膚線維芽細胞の処理、培養(共培養)を行い、細胞または培養液を回収した。用いたVB2、VB3の濃度、および、結果を示すグラフである図10および図11におけるサンプルの表記も上記「細胞生存率の測定」と同様である。
【0054】
ヒアルロン酸及びElastinの生成量の測定は、ELISA法により行った。ヒト皮膚線維芽細胞から培養上清中に分泌されるヒアルロン酸量をELISA法により測定した結果を図10に、細胞内Elastin生成量をELISA法により測定した結果を図11にそれぞれ示した。なお、図10においてはヒアルロン酸濃度にて、また、図11においてはControlの値に対する比率にて結果を示した。
【0055】
図10に示すように、ヒアルロン酸の量は、酸化ストレスの付与によりControlの約半分に減少するが、VB2またはVB3を添加することによりヒアルロン酸の量が回復する傾向にあった。その中でも、酸化ストレスを付与する前に予めVB2またはVB3を添加した群の方が、酸化ストレスを付与した後にVB2またはVB3を添加した群よりも修復能力が強い傾向にあった。VB2とVB3とを用いた場合において、有意差は認められなかった。
【0056】
また、図11に示すように、Elastin生成量は酸化ストレスの付与によりControlの56%に抑制された。VB2またはVB3を酸化ストレス付与後に添加しても、抑制されたElastin生成量を回復することはできなかった。しかし、酸化ストレスを付与する前に予めVB2またはVB3を添加することによって、著しいElastin生成量の回復が示された。特にVB2、100μg/mL以上、およびVB3、300μg/mLではControl以上の有意に高い生成量を示した。
【0057】
(qRT-PCR法)
上記のAGE受容体、ヒートショックプロテイン、アクアポリン、ヒアルロン酸およびElastinの測定に用いるqRT-PCR法について、説明する。qRT-PCR法は、得られたTotal RNA 500 ngをPCRのテンプレートとし、逆転写反応(Reverse Transcriptase;RT反応)によるcDNA合成と、定量PCRを1つの試験管内で行うことができるOne step RT-PCRをLuna Universal One-Step qRT-PCR Kitを用いて行った。
【0058】
PCR装置は、Takara製、Thermal Cycler Dice Real Time System IIを用いた。1つの反応系として、Luna Universal One-Step Reaction Mix (2x) 10μL、 Luna WarmStart RT Enzyme Mix (20x) 1μL、Forward primer (10μM) 0.8μL、Reverse primer, 0.8μLおよび上記PCRのテンプレートとしてのTotal RNAを用い、Nuclease-free Waterで20μLになるように調整した。
【0059】
反応は95℃にて30秒を1サイクル、さらに95℃にて5秒および60℃にて30秒のサイクルを50サイクルの条件にて行った。mRNAの発現として4倍以上変動したもの(PCR反応として2サイクル)を有意な差と判定した。
【0060】
本発明では、抗菌・抗ウイルス活性を有することが報告されている2種類のPM化合物(VB2およびVB3)の汎用性を追求するため、皮膚における抗老化作用に着目してAGE刺激に対する反応及び過酸化水素を用いた酸化ストレスの付与に対する数種抗酸化作用について検討を行った。
【0061】
これによれば、VB2またはVB3を単独で正常な皮膚線維芽細胞に添加しても細胞内に大きな変化は与えないが、AGE刺激や、酸化ストレスが負荷された際に抑制的な働きが発現する可能性が示唆された。
ヒト皮膚線維芽細胞は皮膚真皮に存在しながら表皮の角化細胞と並んで表皮の状態を左
右する重要な細胞である。
【0062】
図1および図2に示すようにヒト皮膚線維芽細胞に対してVB2、VB3は単独でAGE受容体及びHspのmRNA発現に影響を及ぼすようなことは無かった。
【0063】
しかし、図1に示すようにヒト皮膚線維芽細胞にAGEを添加した際にVB2、VB3はほぼ同じようにAGE受容体、特にFEEL-1、FEEL-2およびRAGEのmRNAレベルを上昇させた。FEEL-1、FEEL-2は、細胞外のAGEをEndocytosisによって細胞内へ取り込み、Lysosomeでの分解処理を手助けする。RAGEも上昇したが、図3で検証したROSの上昇を抑制する反応が認められた。この矛盾はRAGEのスプライス変異体の産生を刺激するという仮定によって説明できる。すなわち、RAGEの全長型(full length RAGE: F-RAGE)に加えて、細胞内でRAGEタンパク質の2種類のスプライシングバリアントが産生されることが知られている。一つは細胞膜から放出される可溶性RAGEタンパク質であるRAGEの細胞内ドメイン欠損型(C末端切断型RAGE: C-RAGE)であり、もう一つは細胞外Vドメイン欠損型(N末端切断型RAGE: N-RAGE)である。
【0064】
また、細胞が熱や紫外線、活性酸素等からストレスを受けた際に発現し、細胞を保護す
るHspについて検討した(図2)。
Hsp104は凝集したタンパク質を元に戻す機能が示され、gp96は細胞内抗原提示に関与し、Hsp90は厳選されたタンパク質だけを対象に成熟を助け、Hsp70はタンパク質のフォールディングや輸送や分解を制御することで品質を管理する。また、Hsp60はミトコンドリアにおけるタンパク質をフォールディング維持、ミトコンドリア等へのタンパク質の膜透過に関与し、Hsp32はヘム分解に関与しヘム分解生成物は抗酸化作用を有する。VB2、VB3は共にAGEストレスを受けた細胞において、細胞内タンパク質の品質を保持するようなHspを誘導することが示された。
【0065】
また、図5に示すように細胞生存率が約40%低下するような過酸化水素による酸化ストレスを与える実験系において、酸化ストレスを付与する前後のそれぞれにおいて、VB2またはVB3を添加したが、酸化ストレスを付与する前にVB2またはVB3を添加した方が細胞生存率は高く、より強い細胞保護作用が認められた。
【0066】
また、図6に示すように、酸化ストレスの付与によって細胞内のROSは上昇したが、VB2、VB3共に抑制効果が濃度依存的に認められ、やはり酸化ストレスを付与する前にVB2またはVB3を添加した方が効果は強いものであった。また、図7に示すように、それらと連動するように抗酸化物質の1つであるSODが、酸化ストレスによる消失を回復させる傾向が認められた。しかし、SODなどの抗酸化物質の存在だけではROSの消失は説明することはできないと考えられる。
【0067】
線維芽細胞は表皮の保湿の役割があることは知られており、細胞内への水分子流入に関わる受容体、アクアポリンの存在が注目されている。特に線維芽細胞ではAQP-1、AQP-3の発現が認められる。また細胞から分泌されるヒアルロン酸が皮膚の保湿に効果的であることもすでに報告されている。図8図10に示すように実際に酸化ストレスによってAQP-1およびAQP-3のmRNA発現も、ヒアルロン酸の分泌量も減少していた。そこにVB2またはVB3を添加することで、AQP-1およびAQP-3のmRNAレベルも、ヒアルロン酸の分泌量も改善がされた。改善作用は、酸化ストレスを付与する前からVB2またはVB3が予め存在していた方が強かった。
【0068】
ヒトではヒアルロン酸の半分は皮膚に存在する。老化によって表皮からヒアルロン酸が減少する一方、真皮ではまだヒアルロン酸は残っていて、このことが、加齢による皮膚の水分低下、弾力性の低下や萎縮につながる。VB2またはVB3を用いるによって、減少したヒアルロン酸を回復させることが示された。
【0069】
また、酸化ストレスの付与によってコラーゲンやElastinの減少をもたらし、続いてwrinklesの形成と皮膚再生の減少をもたらすことが報告されており、図11に示すように、Elastinの増強効果は皮膚の再生に有効な作用となる。
【0070】
以上より、抗菌・抗ウイルス活性を有することが報告されているポリ酸化合物であるVB2およびVB3が、AGEや過酸化水素による皮膚線維芽細胞へのストレスに対して多面的に、またどちらもほぼ同様に抗糖化、抗酸化作用を示した。VB2またはVB3を単独で細胞に添加しても、様々なパラメーターに変動は見られなかった。このことから、VB2またはVB3は共に皮膚の抗老化作用物質として有用であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11