(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006339
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20230111BHJP
C10M 119/24 20060101ALI20230111BHJP
C10M 137/04 20060101ALI20230111BHJP
C10M 137/06 20060101ALI20230111BHJP
C10M 143/02 20060101ALI20230111BHJP
C10M 143/18 20060101ALI20230111BHJP
C10M 159/06 20060101ALI20230111BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20230111BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20230111BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230111BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M119/24
C10M137/04
C10M137/06
C10M143/02
C10M143/18
C10M159/06
C10M107/02
C10N40:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108889
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】相馬 実波
(72)【発明者】
【氏名】河内 健
(72)【発明者】
【氏名】小森谷 智延
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE13B
4H104BH03C
4H104BH04C
4H104CA02C
4H104CA04A
4H104CA16C
4H104CB14A
4H104CD02A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA05C
4H104JA13
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA02
(57)【要約】
【課題】良好な耐摩耗性を示すグリース組成物を提供すること。
【解決手段】式(I)のジウレア化合物又は複合Li石けん増ちょう剤、40℃の動粘度が4~100mm2/sである基油、ワックス、及び酸性リン酸エステル及びそのアミン塩の少なくとも1種を含有し、過塩基性Caスルホネートを含まない、混和ちょう度が265~385である、グリース組成物。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I)
(R1およびR3は同一又は異なる、C8~20直鎖アルキル基、C6又は7アリール基、又はシクロヘキシル基であり、R2はC6~15の芳香族炭化水素基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤と、基油と、ワックスと、リン酸エステルとを含有し、過塩基性Caスルホネートを含まない、グリース組成物であって、
前記増ちょう剤が、下記式(I)で示されるジウレア化合物または複合Li石けんであり、
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I)
(式中、R1およびR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数8~20の直鎖アルキル基、炭素数6または7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)
前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、
前記リン酸エステルが酸性リン酸エステル及び酸性リン酸エステルのアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
組成物の混和ちょう度が265~385である、前記グリース組成物。
【請求項2】
前記ワックスが、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス及びモンタンワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種のワックスを含む請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記リン酸エステルが、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェートである、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記基油が、ポリαオレフィンを含有する、請求項1~3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記ポリαオレフィンの40℃における動粘度が15~70mm2/sである、請求項4に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記増ちょう剤が、R1およびR3のいずれかが炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である式(I)のジウレア化合物、及び/又はR1およびR3のいずれも炭素数8の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物である、請求項1~5のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項7】
ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用である、請求項1~6のいずれか1項記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部に用いることができるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の運転快適性の向上として、操舵時の応答性や静粛性へのニーズから、電動パワーステアリングが広く適用されている。電動パワーステアリングには、コラムアシスト式、ピニオンアシスト式、ラックアシスト式といったタイプに分かれるが、ラックアシスト式は、その応答性や出力が高いことから、今後、電動パワーステアリング市場での需要拡大が予想されている。それに伴い、ラックアシスト式電動パワーステアリング装置内のボールねじ部に使用されるグリースにも、長寿命化や、広い速度域に亘る低トルク化、更には、音や振動の低減といった様々な要求への対応が求められている。
ラックアシスト式電動パワーステアリング装置内のボールねじ部に適用できるグリース組成物の先行技術として、特許文献1が挙げられる。
特許文献1には、増ちょう剤として、脂肪族部分が不飽和成分を有するジウレア化合物を、脂肪酸金属塩及びアミド化合物と所定の割合で併用し、基油として、流動点が-25℃以下の、合成炭化水素油を主成分とする潤滑基油を用い、所定の添加剤を所定量含有することを特徴とするグリース組成物が記載されており、このグリースは、不整な摩擦変動を大幅に縮減でき、広い温度範囲で低く安定したトルク特性を示し、高温でも十分な油膜を維持できる長寿命のグリースであると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、良好な耐摩耗性を示すグリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の種類の添加剤を用いることにより、耐摩耗性を向上させることができることを見出した。すなわち、本発明により、以下のグリース組成物を提供する。
1.増ちょう剤と、基油と、ワックスと、リン酸エステルとを含有し、過塩基性Caスルホネートを含まないグリース組成物であって、
前記増ちょう剤が、下記式(I)で示されるジウレア化合物または複合Li石けんであり、
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I)
(式中、R1およびR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数8~20の直鎖アルキル基、炭素数6または7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基である。)
前記基油の40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、
前記リン酸エステルが酸性リン酸エステル及び酸性リン酸エステルのアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
組成物の混和ちょう度が265~385である、前記グリース組成物。
2.前記ワックスが、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス及びモンタンワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種のワックスを含む前記1記載のグリース組成物。
3.前記リン酸エステルが、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェートである、前記1又は2記載のグリース組成物。
4.前記基油が、ポリαオレフィンを含有する、前記1~3のいずれかに記載のグリース組成物。
5.前記ポリαオレフィンの40℃における動粘度が15~70mm2/sである、前記4に記載のグリース組成物。
6.前記増ちょう剤が、R1およびR3のいずれかが炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である式(I)のジウレア化合物、及び/又はR1およびR3のいずれも炭素数8の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物である、前記1~5のいずれかに記載のグリース組成物。
7.ラックアシストタイプ電動パワーステアリングのボールねじ部用である、前記1~6のいずれかに記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な耐摩耗性により、音や振動を低減させることができるグリース組成物を提供することができる。本発明によればまた、寿命が延びたグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
○増ちょう剤
本発明に用いることのできる増ちょう剤は式(I)で示されるジウレア化合物及び/又は複合Li石けんである。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3 (I)
式中、R1およびR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数8~20の直鎖アルキル基、炭素数6または7のアリール基、又はシクロヘキシル基であり、好ましくは、炭素数8~18の直鎖アルキル基である。R2は、炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基であり、トリレンジイソシアネート又はジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基が好ましく、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基がより好ましい。式(I)のジウレアとしては、トルクとトルク変動の観点から、R1およびR3のいずれかが炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物を含むのが最も好ましい。式(I)中、R1およびR3のいずれも炭素数8の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物を含むのもまた最も好ましい。
【0008】
複合Li石けんとしては、1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸のリチウム塩と、炭素数2~12の脂肪酸ジカルボン酸のリチウム塩とから構成されるものが好ましい。前記ヒドロキシ脂肪酸としては、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシラウリン酸、16-ヒドロキシパルミチン酸等が挙げられる。このうち、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。前記脂肪族ジカルボン酸としては、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸が挙げられる。アゼライン酸が最も好ましい。複合Li石けんとしては、せん断安定性の観点から、12-ヒドロキシステアリン酸のリチウム塩と、アゼライン酸のリチウム塩とから構成されるものが最も好ましい。
トルクとトルク変動の観点から、本発明の増ちょう剤としては、とりわけ、R1およびR3のいずれかが炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である式(I)のジウレア化合物を含む増ちょう剤であるか、又はR1およびR3のいずれも炭素数8の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物を含む増ちょう剤が好ましい。
本発明の組成物における増ちょう剤の含有量は、本発明のグリース組成物の混和ちょう度を265~385の範囲に調整できる量であり、通常、組成物の全質量を基準として、4~13質量%であり、好ましくは5~12質量%であり、より好ましくは6~10質量%である。
【0009】
○基油
本発明のグリース組成物の基油の種類は、特に限定されない。鉱油でもよく、合成油でもよい。基油は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、これらの混合物を使用することができる。
合成油としては、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリブテンに代表される合成炭化水素油;アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油;シリコーン油、フッ素化油など各種合成油が使用できる。
基油がポリ-α-オレフィンを含有するのが好ましい。基油がポリ-α-オレフィン以外の基油を含む場合、基油の全質量を基準にして、ポリ-α-オレフィンを50質量%以上含有するのが好ましく、80質量%以上含有するのがより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%含有するのが最も好ましい。基油中のポリ-α-オレフィンの割合が既述のとおりであると、低温性に優れるので好ましい。
本発明における基油の動粘度は、低温性の観点及びおよび高速域のトルクを低く抑制する観点から、40℃における動粘度が4~100mm2/sであり、10~80mm2/sであるのが好ましく、15~70mm2/sであるのがさらに好ましい。なお、本明細書において、40℃における動粘度は、JIS K 2283に従って測定される値である。
本発明の基油としては、とりわけ、40℃における動粘度が15~70mm2/s、特に20~40mm2/sであるPAOが好ましい。
本発明のグリース組成物中の基油の含有量は、グリースを製造するのに通常用いられる量であり、例えば50~95.5質量%であり、ちょう度の観点から、60~94質量%が好ましく、80~90.5質量%がより好ましい。
【0010】
○必須添加剤
本発明のグリース組成物は、ワックスと、リン酸エステルとして、酸性リン酸エステルまたは酸性リン酸エステルアミン塩とを含有する。
本明細書において、ワックスとは、常温で固体であり、常温の基油には溶解しない有機物をいう。すなわち、ワックスは、基油中で加熱すると基油に溶解するが、冷却して室温に戻すと再び固体となる。したがって、ワックスは、グリース中でも固体である。
ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、モンタンワックス及びこれらの混合物が挙げられる。ワックスは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
ポリエチレンワックスとしては、重量平均分子量が1,000~20,000程度、好ましくは4,000~20,000であり、密度が0.96以上の高密度タイプ、密度が0.94~0.95の中密度タイプ、密度が0.93以下の低密度タイプがあげられる。高密度タイプは融点や軟化点、結晶化度が高く、硬度が大きい。一方、低密度タイプは、融点や軟化点が低く、軟質であるという特徴がある。耐熱性の観点から、滴点は120℃以上であるのが好ましく、130℃以上であるのがより好ましい。基油への溶解性の観点からは、滴点は150℃以下であるのが好ましく、140℃以下であるのがより好ましい。
ポリエチレンワックスの市販品としては、三井化学(株)のハイワックス200Pや210PやNL200、クラリアントジャパン株式会社製 Licowax PE520やPE190、PE130等が挙げられる。
【0011】
酸化ポリエチレンワックスとしては、ポリエチレンワックスを酸化処理したものや、高密度のポリエチレン樹脂を酸化処理したものが挙げられ、これらの重量平均分子量は3,000~12,000程度である。耐熱性の観点から、滴点は90℃以上であるのが好ましく、100℃以上であるのがより好ましい。基油への溶解性の観点からは、滴点は125℃以下であるのが好ましい。酸価は、60mgKOH/g以下であるのが好ましく、30mgKOH/g以下であるのがより好ましく、また、15mgKOH/g以上であるのが好ましく、20mgKOH/g以上であるのがより好ましい。酸価がこのような範囲にあると、酸成分によるグリースへの酸化劣化の影響が少ないので好ましい。
市販品としては、三井化学(株)のハイワックス210MP、4051E、1105A、クラリアントジャパン株式会社製 Licowax PED522等が挙げられる。
モンタンワックスは、鉱油系ワックスに分類され、長鎖エステルが主で、遊離の高級アルコール、樹脂、硫黄化合物などを含む。その中で、例えば酸価が110~160mgKOH/gの酸ワックス、非極性部と極性部分を併せ持つエステルワックス、モンタン酸のエステル化物及び水酸化カルシウムとのケン化物との混合である部分ケン化エステルワックス、モンタン酸のナトリウム塩及びカルシウム塩のケン化ワックス、エチレンオキサイドを付加したモンタンワックスなどが挙げられる。耐熱性の観点から、滴点は75℃以上であるのが好ましく、80℃以上であるのがより好ましい。基油への溶解性の観点からは、滴点は105℃以下であるのが好ましい。酸価は、0~160mgKOH/gであるのが好ましく、0~40mgKOH/gであるのがより好ましい。酸価がこのような範囲にあると、酸成分によるグリースへの酸化劣化の影響が少ないので好ましい。
【0012】
市販品としては、クラリアントジャパン株式会社製のLicowax OP、Licowax S、Licolub WE40等が挙げられる。
なお、本明細書において、滴点は、DIN51801により測定した値である。酸価は、DIN53402により測定した値である。
本発明で用いるワックスとしては、ポリエチレンワックスが特に好ましい。なかでも、滴点が130~140℃であるポリエチレンワックスが好ましい。
ワックスの含有量は、本発明のグリース組成物中、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~7質量%であり、さらに好ましくは3~6質量%である。このような範囲で含まれると、効果的に摩耗が抑制できるので好ましい。
【0013】
本発明において用いるリン酸エステルは、酸性リン酸エステル及びそのアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
酸性リン酸エステルとしては、式(1)により表される化合物が好ましい。
R15OAPO(OH)3-A (1)
(式中、R15は炭素数1~30の直鎖又は分岐アルキル基を示し、好ましくは炭素数1~18の直鎖又は分岐アルキル基を示し、更に好ましくは炭素数1~8のアルキル基を示し、特に好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。Aは1又は2、好ましくは2を示す。)
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、上記式(1)により表される化合物のアミン塩が好ましい。酸性リン酸エステルのアミン塩としては、特に、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェートが好ましい。
本発明で用いるリン酸エステルとしては、式(1)により表される酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましく、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェートが特に好ましい。
酸性リン酸エステル及び酸性リン酸エステルのアミン塩の含有量は、グリース組成物中、好ましくは0.01~7質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%であり、さらに好ましくは0.1~2質量%である。このような範囲で含まれると、効果的に摩耗が抑制できるので好ましい。
【0014】
〇混和ちょう度
本明細書において、用語「混和ちょう度」は60回混和ちょう度を指し、JIS K2220 7.に従って測定することができる。本発明の混和ちょう度は265~385であり、285~340が好ましい。混和ちょう度が265以上であると、トルクの点で優れる。混和ちょう度が385以下であると、耐飛散性・耐垂れ落ち性の点で優れる。
【0015】
本発明のとりわけ好ましい態様は、
増ちょう剤として、R1およびR3のいずれかが炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である式(I)のジウレア化合物、及び/又はR1およびR3のいずれも炭素数8の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物を含み、
基油として、40℃における動粘度が20~40mm2/sであるPAOを含み、
ワックスとして、滴点が130~140℃のポリエチレンワックスを含み、
リン酸エステルとして、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェートを含み、
組成物の混和ちょう度が285~340である、グリース組成物である。
【0016】
本発明のさらにとりわけ好ましい態様は、
増ちょう剤として、R1およびR3のいずれかが炭素数8の直鎖アルキル基であり、他方が炭素数18の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である式(I)のジウレア化合物、及び/又はR1およびR3のいずれも炭素数8の直鎖アルキル基であり、R2がジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の基である化合物を、組成物の全質量を基準として6~10質量%含み、
基油として、40℃における動粘度が20~40mm2/sであるPAOを、組成物の全質量を基準として80~90.5質量%含み、
ワックスとして、滴点が130~140℃のポリエチレンワックスを、組成物の全質量を基準として3~6質量%含み、
リン酸エステルとして、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェートを、組成物の全質量を基準として0.1~2質量%含み、
組成物の混和ちょう度が285~340である、グリース組成物である。
【0017】
本発明のグリース組成物は、グリースに通常使用される添加剤を必要に応じて含むことができる。これらの添加剤の含有量は、グリース組成物の全量を基準として、通常0.5~35質量%、好ましくは5~25質量%である。このような添加剤としては、上記ワックス及び上記リン酸エステル以外の添加剤、例えば、酸化防止剤、無機不働態化剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤があげられる。耐酸化性、防錆性、境界潤滑性、耐久性の観点から、酸化防止剤、防錆剤、油性剤、及び極圧剤の少なくとも1種を含むのが好ましい。ただし、本発明のグリース組成物は、過塩基性Caスルホネートを含まない。過塩基性Caスルホネートを含むと耐摩耗性を損なう。なお、本明細書において、過塩基性Caスルホネートとは、JIS K2501に従って測定される塩基価が50mgKOH/g以上のものを指す。
【0018】
本発明のグリース組成物は、例えば、ラックアシスト式電動パワーステアリングのボールねじ部に適用することができる。ボールねじを構成する要素はいずれも鋼であるのが好ましい。
【実施例0019】
<試験グリース>
ポリαオレフィン(PAO)中で、4’,4-ジフェニルメタンジイソシアネート1モルと、オクチルアミン1モル及びステアリルアミンのアミン1モルとを反応させ、昇温、冷却した後、表1又は表2に示す割合で添加剤を配合し、3本ロールミルで混練し、実施例1~4及び比較例1~5のグリース組成物を得た。
オクチルアミン1モル及びステアリルアミンのアミン1モルに代えてオクチルアミン2モルを使用したこと以外は同様にして、実施例5のグリース組成物を得た。
なお、表1及び表2中の質量%は、グリース組成物の全質量を基準とする。
【0020】
<試験方法>
〔摩耗の評価〕
TE77試験機を用いて摩耗を観察した。測定条件の詳細は下記に示す。
荷重:150N
周波数:2Hz
ストローク:1.1mm
速度:4.4mm/s
温度:80℃
試験時間:20min
上部試験片:鋼球(φ17.5)
下部試験片:鋼板(Rz:0.8~1.2μm)
【0021】
[判定基準]
◎:摩耗痕が薄く、面荒れがほぼ無い。
○:摩耗痕がやや薄く、面荒れがやや認められる。
△:摩耗痕がやや濃く、面荒れが認められる。
×:摩耗痕が濃く、面荒れが大きく認められる。
【0022】
【0023】
【0024】
・PAO:40℃における動粘度=30mm2/s
・ワックス1:ポリエチレンワックス(商品名:Licowax PE190、クラリアントジャパン株式会社製、滴点132~138℃、酸価0mgKOH/g、重量平均分子量17,500)
・ワックス2:酸化ポリエチレンワックス(商品名:Licowax PED522、クラリアントジャパン株式会社製、滴点98~104℃、酸価22~28mgKOH/g、重量平均分子量3,100)
・ワックス3:モンタンワックス(商品名:Licowax OP、クラリアントジャパン株式会社製、滴点96~102℃、酸価9~14mgKOH/g)
・ワックス4:モンタンワックス(商品名:Licolub WE40、クラリアントジャパン株式会社製、滴点73~79℃、酸価13~26mgKOH/g)
・リン酸エステル1:酸性リン酸エステルのアミン塩(商品名:VANLUBE 672、Vanderbilt Chemicals,LLC社製、ターシャリーアルキルアミン-ジメチルホスフェート)
・リン酸エステル2(比較用):亜リン酸エステル(商品名:JP-260、城北化学工業株式会社製)
・過塩基性Caスルホネート(商品名:Bryton C-400CKY、兼松株式会社製)