(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063513
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】シートパッド及びその製造方法及びシート状ヒーター
(51)【国際特許分類】
H05B 3/20 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
H05B3/20 347
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041594
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2019050077の分割
【原出願日】2019-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 靖尋
(57)【要約】
【課題】クッション体の表面形状へのシート状ヒーターの追従性を向上し、使用時におけるシート状ヒーターのズレの発生を抑えること。
【解決手段】本開示のシートパッド10は、ポリウレタンフォームからなるパッド本体11にシート状ヒーター30が固定されている。シート状ヒーター30は、非通気性である基材シート31に、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層33と、発熱層34と、が積層されてなり、基材シート31、電極層33及び発熱層34は、伸縮性を有する材料で構成されている。そして、シート状ヒーター30は、パッド本体11の表面に一体的に固着されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームからなるパッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドにおいて、
前記シート状ヒーターは、非通気性である基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されてなり、
前記基材シート、前記電極層及び前記発熱層は、伸縮性を有する材料で構成されていて、
前記シート状ヒーターは、前記パッド本体の表面に一体的に固着されている、シートパッド。
【請求項2】
ポリウレタンフォームからなるパッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドにおいて、
前記シート状ヒーターは、非通気性である基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、自己温度調整機能を有する発熱層と、が積層されてなり、
前記基材シート、前記電極層及び前記発熱層は、伸縮性を有する材料で構成されていて、
前記シート状ヒーターは、前記パッド本体の表面に一体的に固着されている、シートパッド。
【請求項3】
前記パッド本体の表面には、溝が形成されていて、
前記シート状ヒーターは、前記溝の内面に固着された溝内進入部を有し、
前記配線パターンには、前記溝内進入部において前記溝を横切るように配置された溝横断部が備えられている、請求項1又は2に記載のシートパッド。
【請求項4】
前記溝横断部を前記配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積は、前記配線パターンのうち前記溝横断部を除いた部分を前記配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積の0.8倍以上1.2倍以下である、請求項3に記載のシートパッド。
【請求項5】
ポリウレタンフォームからなるパッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドの製造方法において、
前記シート状ヒーターとして、非通気性である基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されたものを用いると共に、前記基材シート、前記電極層及び前記発熱層を、伸縮性を有する材料で構成しておき、
真空成形又は圧空成形によって前記シート状ヒーターを発泡成形金型の内面形状に賦形してから、前記発泡成形金型にポリウレタン原料を注入して発泡硬化させることにより、前記パッド本体と前記シート状ヒーターを一体に成形する、シートパッドの製造方法。
【請求項6】
シートパッド用のシート状ヒーターであって、
非通気性である基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されてなり、
前記基材シート、前記電極層及び前記発熱層は、伸縮性を有する材料で構成されている、シート状ヒーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シート状ヒーターを備えたシートパッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、不織布に電熱線が縫着されてなるシート状ヒーターがパッド本体の表面に固定されたシートパッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-347016号公報([0033]~[0034]、
図1,2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシートパッドでは、パッド本体の表面に凹凸が存在すると、その凹凸に追従させ難いという問題があった。また、シート状ヒーターが両面テープやタックピンによってパッド本体の一部に固定されていると、使用時にシート状ヒーターがズレやすいという問題もあった。このため、パッド本体の表面形状へのシート状ヒーターの追従性を向上し、使用時におけるシート状ヒーターのズレを抑えることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、ポリウレタンフォームからなるパッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドにおいて、前記シート状ヒーターは、非通気性である基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されてなり、前記基材シート、前記電極層及び前記発熱層は、伸縮性を有する材料で構成されていて、前記シート状ヒーターは、前記パッド本体の表面に一体的に固着されている、シートパッドである。
【0006】
発明の第2態様は、前記パッド本体の表面には、溝が形成されていて、前記シート状ヒーターは、前記溝の内面に固着された溝内進入部を有し、前記配線パターンには、前記溝内進入部において前記溝を横切るように配置された溝横断部が備えられている、第1態様に記載のシートパッドである。
【0007】
発明の第3態様は、前記溝横断部を前記配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積は、前記配線パターンのうち前記溝横断部を除いた部分を前記配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積の0.8倍以上1.2倍以下である、第2態様に記載のシートパッドである。
【0008】
発明の第4態様は、ポリウレタンフォームからなるパッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドの製造方法において、前記シート状ヒーターとして、非通気性である基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されたものを用いると共に、前記基材シート、前記電極層及び前記発熱層を、伸縮性を有する材料で構成しておき、真空成形又は圧空成形によって前記シート状ヒーターを発泡成形金型の内面形状に賦形してから、前記発泡成形金型にポリウレタン原料を注入して発泡硬化させることにより、前記パッド本体と前記シート状シートを一体に成形する、シートパッドの製造方法である。
【0009】
発明の第5態様は、前記発泡成形金型の内面のうち前記シート状ヒーターを賦形する部分には、凹凸形状が設けられ、前記シート状ヒーターを賦形するにあたり、前記配線パターンを伸長させて前記凹凸形状に追従させる、第4態様に記載のシートパッドの製造方法である。
【0010】
発明の第6態様は、前記シート状ヒーターを賦形する前に、前記配線パターンのうち前記シート状ヒーターの賦形に伴って伸長する部位を前記配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積を、当該部位より伸長が小さい部位を前記配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積よりも大きくしておく、第5態様に記載のシートパッドの製造方法である。
【0011】
なお、ここで、発明の第1,4態様において、「非通気性」は、真空成形可能な通気量であればよく、例えば、JIS L1096 A法(フラジール法):2010に基づく、試験片を通過する空気量(cm3/cm2・s)が、測定限界値以下であることが好ましい。また、「伸縮性を有する材料」は、パッド本体の表面形状に追従できる伸縮性を有する材料であればよい。例えば、基材シートの場合、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂シート、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPC)や熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等の熱可塑性エラストマーシート等が挙げられる。電極層及び発熱層の場合、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等の熱可塑性エラストマー、ゴム系樹脂等の伸縮性を有するバインダーを含む樹脂組成物から構成されていればよい。
【発明の効果】
【0012】
[発明の第1態様]
発明の第1態様では、別々に形成された電極層及び発熱層が積層されているので、電極層を流れる電流の安定化を図って発熱層を均一に加熱することができ、発熱層の発熱量の均一化が図られる。また、シート状ヒーターを構成する基材シート、電極層及び発熱層が全て伸縮性を有する材料で構成されているので、シート状ヒーターをパッド本体の表面形状に追従させ易くなる。さらに、シート状ヒーターは、パッド本体の表面に一体的に固着されているので、使用時におけるシート状ヒーターのズレが抑えられる。
【0013】
[発明の第2態様]
発明の第2態様では、電極層の溝横断部がパッド本体の表面に形成された溝を横断しているので、パッド本体の表面において溝を挟む2つの領域に跨って配線パターンを取り回すことが可能となる。その結果、1つのシート状ヒーターで発熱できるエリアを拡げることができる。
【0014】
[発明の第3態様]
発明の第3態様では、配線パターンにおいて、溝横断部を配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積が、溝横断部を除いた部分位を配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積の0.8倍以上1.2倍以下となっているので、配線パターンが溝を横切るように配置されても配線パターンの抵抗のバラつきが抑えられる。これにより、シート状ヒーターの発熱温度のバラつきが抑えられる。
【0015】
[発明の第4態様]
発明の第4態様では、シート状ヒーターを構成する基材シート、電極層及び発熱層が全て伸縮性を有する材料で構成されるので、シート状ヒーターを発泡成形金型の内面形状に追従させ易くなる。その結果、シート状ヒーターがパッド本体の表面形状に追従したシートパッドを得ることができる。また、真空成形又は圧空成形によってシート状ヒーターを発泡成形金型の内面形状に賦形してから、発泡成形金型にポリウレタン原料を注入して発泡硬化させるので、パッド本体の表面にシート状ヒーターが一体的に固着したシートパッドを得ることができ、使用時におけるシート状ヒーターのズレが抑えられる。
【0016】
[発明の第5態様]
発明の第5態様によれば、シート状ヒーターを賦形するときに電極層の配線パターンを伸長させることで、発泡成形金型の内面の凹凸形状に配線パターンを追従させるので、パッド本体の表面の凹凸に関係なく配線パターンを取り回すことが可能となる。その結果、1つのシート状ヒーターで発熱できるエリアを拡げることができる。
【0017】
[発明の第6態様]
発明の第6態様によれば、シート状ヒーターの賦形に伴って配線パターンが伸長しても、伸長後の配線パターンをその延在方向と直交する方向に切断したときの断面積のバラつきが抑えられる。これにより、配線パターンの抵抗のバラつきが抑えられ、シート状ヒーターの発熱温度のバラつきが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)本開示の一実施形態に係るシートパッドが用いられる車両用シートの斜視図、(B)シートパッドの斜視図
【
図5】シート状ヒーターの(A)断面図、(B)平面図
【
図6】シートパッドの横溝周辺を前後方向に切断した断面図
【
図7】シートパッドの縦溝周辺を左右方向に切断した断面図
【
図11】賦形前のシート状ヒーターの(A)断面図、(B)平面図
【
図12】賦形後のシート状ヒーターの(A)断面図、(B)平面図
【
図13】(A)他の実施形態に係るシートパッドの断面図、(B)シートパッドの製造工程を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1(A)には、本実施形態のシートパッド10が用いられる車両用シート90が示されている。車両用シート90は、着座部となるシートクッション91と、背凭れ部となるシートバック92と、を備えている。本実施形態では、シートパッド10がシートクッション91に用いられる例を示すが、シートバック92に用いられてもよい。
【0020】
シートクッション91は、
図1(B)に示されるシートパッド10をクッションカバー20(
図1(A)参照)で覆ってなる。なお、クッションカバー20は、複数の表皮片21を縫合してなる(
図2及び
図3参照)。
【0021】
図2及び
図3に示されるように、シートパッド10では、ポリウレタンフォームからなるパッド本体11の表側面11Mにシート状ヒーター30が固定されている。なお、パッド本体11には、クッションカバー20を固定するためのパッド内ワイヤ12が埋設されている。
【0022】
図4に示されるように、パッド本体11は、着座者の臀部及び大腿部を受け止めるメイン部11Aと、メイン部11Aの両側でメイン部11Aに対して隆起したサイド部11B,11Bを備えている。また、パッド本体11の表側面11Mには、吊り込み溝14が形成されている。
【0023】
パッド本体11内のパッド内ワイヤ12は、吊込み溝14に沿って配置されていて(
図2及び
図3参照)、吊込み溝14の底面14Mには、パッド内ワイヤ12を露出させるワイヤ露出孔15が複数形成されている。詳細には、吊込み溝14は、パッド11本体のメイン部11Aとサイド部11B,11Bとの境界部分で前後方向に延びる1対(2条)の縦溝14A,14Aと、それら1対(2条)の縦溝14A,14Aを連絡する複数の横溝14Bと、を備えている。
【0024】
クッションカバー20は、例えば、以下のようにして、シートパッド10に固定される。即ち、
図2及び
図3に示されるように、クッションカバー20における表皮片21どうしの縫合部分22には、連結部材23(例えば、吊り綿布)の一端部が接合されている。そして、縫合部分22が吊込み溝14内に引き込まれた状態で、連結部材23の他端部とシートパッド11に埋設されたパッド内ワイヤ12とがホグリング(図示略)によって連結されることで、クッションカバー20はパッド本体11に固定されている。
【0025】
図5(A)及び
図5(B)には、シート状ヒーター30の詳細が示されている。
図5(A)に示されるように、シート状ヒーター30は、基材シート31と面状発熱体32とを積層して備え、面状発熱体32がパッド本体11に臨むように配置されている(
図6及び
図7参照)。面状発熱体32は、別々に形成された電極層33と発熱層34とが積層されてなる。電極層33は、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる。なお、
図5(B)に示されるように、基材シート31のサイズは、面状発熱体32よりも大きくなっていて、基材シート31の端縁部は、面状発熱体32の外側にはみ出るようになっている。また、発熱層34は、電熱層33と重なる部分を有していれば、その平面形状は特に限定されない。
【0026】
基材シート31は、非通気性であり、伸縮性を有する樹脂シートであって、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、ポリエチレン(PE)系樹脂等で構成されている。本実施形態の基材シート31は伸縮性、柔軟性、パッド本体11を構成するポリウレタン原料との密着性等から、TPUからなる樹脂シートであることが好ましい。なお、基材シート31がPE系樹脂で構成される場合には、必要に応じてコロナ処理等の表面処理を施しておけば、ポリウレタン原料との密着性を向上させることができる。
【0027】
電極層33は、導電性粒子と熱可塑性樹脂からなるバインダーとを含む樹脂組成物によって形成されている。導電性粒子としては、例えば、銀、金、銅、ニッケル等の金属フィラーを少なくとも1つ含むことが好ましく、これらの金属フィラーを含むことで電気抵抗の低い配線を形成することができる。特に、導電性粒子は、電気伝導率が高い銀を含むことが好ましい。バインダーとしては、例えば、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPC)や熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等の熱可塑性樹脂エラストマーやゴム系樹脂を含むことが好ましく、伸縮性や柔軟性に優れるTPUを含むことがより好ましい。
【0028】
電極層33を形成する樹脂組成物は、伸縮性を有すると共に温度上昇によって抵抗値が上昇し、ある温度に達すると抵抗値が増加する抵抗温度特性(PTC特性)を有している。これにより、電極層33は、伸縮性、導電性、PTC特性を有する配線を形成することができる。
図5(B)に示される例では、電極層33の配線パターンが櫛形に形成されている。なお、同図では、配線パターンの認識を容易にするために、電極層33が灰色で示されている。
【0029】
発熱層34は、発熱体と熱可塑性樹脂からなるバインダーとを含む樹脂組成物によって形成されている。発熱体としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン等の炭素系フィラーが挙げられ、これらの炭素系フィラーを含むことで発熱性を高めることができる。バインダーとしては、例えば、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPC)や熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)等の熱可塑性樹脂エラストマーやゴム系樹脂を含むことが好ましく、伸縮性や柔軟性に優れるTPUがより好ましい。
【0030】
発熱層34を形成する樹脂組成物は、伸縮性を有すると共に温度上昇によって抵抗値が上昇し、ある温度に達すると抵抗値が増加する抵抗温度特性(PTC特性)を有している。このため、本実施形態の発熱層34は、伸縮性、発熱性、PTC特性を有する発熱層を形成することができる。なお、発熱層34を形成する樹脂組成物は、抵抗温度特性を有さない材料であってもよい。
【0031】
本実施形態では、電極層33及び発熱層34を構成するバインダーを同じ材料とすることで、電極層33と発熱層34の密着性の向上が図られると共に、伸縮性を同程度にすることが可能となる。その結果、電極層33及び発熱層34の伸縮性の違いによる両者の剥離等を防止することができる。また、電極層33及び発熱層34を構成するバインダーが熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)を含む構成すれば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)からなる樹脂シートである基材シート31及びパッド本体11を構成するポリウレタン原料との密着性も良好とすることができる。
【0032】
また、本実施形態では、別々に形成された電極層33及び発熱層34が積層されているので、電極層と発熱層が一体に形成される場合と比較して、面状発熱体32(シート状ヒーター30)の発熱量の均一化が図られる。その理由は以下のとおりである。即ち、電極層と発熱層が一体に形成される場合、電極層に含まれる導電性粒子と発熱層に含まれる発熱体とを均一に分散させることが困難となり、面状発熱体32の発熱量が不均一となる。一方、別々に形成した電極層33と発熱層34が積層される場合、電極層33に導電性粒子が均一に分散することで電極層33を流れる電流の安定化が図られ、発熱層34を均一に加熱することが可能となる。また、発熱層34に発熱体が均一に分散することで、発熱層34の発熱量の均一化が図られる。
【0033】
図5(B)に示されるように、電極層33は、発熱層34より外側にはみ出ている。そして、電極層33のはみ出し部分には、導線36との接続部35が形成されている。なお、導線36は、図示しない固定テープ(例えば、不織布テープ)によって接続部35に固定されている。
【0034】
図2及び
図3に示されるように、シート状ヒーター30は、パッド本体11の表側面11Mの凹凸に追従して、シート状ヒーター30の全体がパッド本体11の表側面11Mに一体的に固着されている。具体的には、
図3に示されるように、シート状ヒーター30は、メイン部11Aと、メイン部11Aに対して隆起するサイド部11Bとに跨って配置され、表側面11Mにおいてサイド部11Bにより構成された隆起部分にも追従している。
【0035】
また、
図6及び
図7に示されるように、シート状ヒーター30は、吊り込み溝14の内面にも追従し、吊り込み溝14内に入り込んだ溝内進入部40を有している。詳細には、溝内進入部40は、吊り込み溝14の内側面に固着した1対のサイド部40A,40Aと、吊り込み溝14の底面14Mに固着したボトム部40Bと、からなる。
【0036】
電極層33の配線パターンには、溝内進入部40において吊り込み溝14を横断するように配置された溝横断部43が設けられている。詳細には、溝横断部43は、溝内進入部40のサイド部40Aに沿って延在するサイド延在部43Aと、ボトム部40Bに沿って延在するボトム延在部43Bと、からなる。
【0037】
溝横断部43を配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積S1と、それ以外の部位(以下、「非進入部位」という。)を配線パターンの延在方向と直交する方向に切断したときの断面積S2は略同じになっていて、溝横断部43における抵抗と、電極層33の配線パターンのうち溝横断部43を除く部分における抵抗は、略同じになっている。具体的には、溝横断部43の断面積S1は、非進入部位の断面積S2の0.8倍以上1.2倍以下であって、好ましくは、0.9倍以上1.1倍以下である。
【0038】
本実施形態のシートパッド10では、シート状ヒーター30を構成する基材シート31、電極層33及び発熱層34が全て伸縮性を有する材料で構成されているので、シート状ヒーター30をパッド本体11の表側面11Mの形状に追従させ易くなる。また、シート状ヒーター30は、パッド本体11の表側面11Mに一体的に固着されているので、使用時におけるシート状ヒーター30のズレが抑えられる。
【0039】
また、シートパッド10では、電極層33の溝横断部43がパッド本体11の表側面11Mに形成された吊り込み溝14を横断しているので、パッド本体11の表側面11Mにおいて吊り込み溝14を挟む2つの領域(例えば、縦溝14Aを挟むメイン部11Aとサイド部11B)に跨って電極層33の配線パターンを取り回すことが可能となる。その結果、1つのシート状ヒーター30で発熱できるエリアを拡げることができる。
【0040】
しかも、電極層33の配線パターンにおいて、溝横断部43の断面積S1が、非進入部位の断面積S2の0.8倍以上1.2倍以下となっているので、電極層33の配線パターンが吊り込み溝14を横切るように配置されても配線パターンの抵抗のバラつきが抑えられる。これにより、シート状ヒーター30の発熱温度のバラつきが抑えられる。
【0041】
本実施形態のシートパッド10は以下のようにして製造される。
まず、シート状ヒーター30が準備される(
図8参照)。具体的には、スクリーン印刷によって、基材シート31の上に電極層33、発熱層34を順番に形成する。なお、電極層33及び発熱層34は、電極層33及び発熱層34を形成する樹脂組成物を溶剤に溶解させて液状とし、スクリーン印刷後に溶剤を揮発させて樹脂組成物を硬化させることで形成される。
【0042】
ここで、基材シート31としては、平坦なものが準備され、シート状ヒーター30は略平坦に形成される。また、電極層33の配線パターンのうちパッド本体11のサイド部11Bに重ねられる部位は、メイン部11Aに重ねられる部位に対して、配線の幅を広くするか及び/又は配線の厚み(層厚)を厚くする等して、断面積が大きくなるように形成される。また、電極層33の配線パターンのうちシートパッド30の溝内進入部40となる部位、即ち、溝横断部43となる部位は、溝横断部43以外の部分となる部位に対して、配線の幅を広くするか及び/又は配線の厚み(層厚)を厚くする等して、断面積が大きくなるように形成される(
図11(A)及び
図11(B)参照)。
【0043】
シート状ヒーター30が準備されると、次いで、シート状ヒーター30を、真空成形によって発泡成形金型50の内面形状に賦形する(
図9参照)。具体的には、発泡成形金型50は、パッド本体11の表側を成形する第1型51と、パッド本体11の裏側を成形する第2型52と、を備えていて、シート状ヒーター30は、第1型51の成形面の形状に賦形される。このとき、シート状ヒーター30は、基材シート31が第1型51に臨むように配置されることが好ましい。なお、シート状ヒーター30の基材シート31は非通気性であるので、真空成形を好適に行うことができる。
【0044】
次いで、発泡成形金型50内にポリウレタン原料53(
図9参照)を注入して発泡硬化させる。すると、パッド本体11が形成され、パッド本体11の表側面11Mにシート状ヒーター30が固着した成形品が得られる(
図10参照)。そして、この成形品を発泡成形金型50から取り出すと、パッド本体11とシート状ヒーター30が一体となったシートパッド10が完成する。
【0045】
ところで、第1型51の成形面には、パッド本体11のサイド部11Bを成形するためのサイド成形凹部51Aと、吊り込み溝14を成形するための溝成形突部51Tと、が設けられている。したがって、略平坦に形成されたシート状ヒーター30が第1型51の成形面の形状に賦形されると、シート状ヒーター30は、サイド成形凹部51Aや溝成形突部51Tの形状に追従するように伸ばされる。その結果、電極層33の配線パターンについても、サイド成形凹部51Aや溝成形突部51Tの形状に追従するように伸長される。
【0046】
ここで、上述したように、シート状ヒーター30が賦形される前の電極層33の配線パターンにおいては、サイド部11Bに重ねられる部位が、メイン部11Aに重ねられる部位よりも断面積が大きくなるように形成され、溝横断部43となる部位が、溝横断部43以外の部分となる部位よりも断面積が大きくなるように形成されている。別の見方をすれば、電極層33の配線パターンにおいては、シート状ヒーター30の賦形に伴って伸長される部位の断面積が、当該部位よりも賦形に伴う伸長が小さい部位の断面積よりも大きくなっている。そして、シート状ヒーター30が賦形に伴って電極層33の配線パターンが伸長されると、その伸長された配線パターンにおいて、サイド部11Bに重ねられる部位とメイン部11Aに重ねられる部位の断面積が略同じとなり、溝横断部43となる部位と溝横断部43以外の部分となる部位の断面積が略同じとなる(
図12(A)及び
図12(B)参照。本図では、幅と厚みが均一になった配線パターンが示されている。)。
【0047】
本実施形態のシートパッド10の製造方法では、シート状ヒーター30を構成する基材シート31、電極層33及び発熱層34が全て伸縮性を有する材料で構成されるので、シート状ヒーター30を発泡成形金型50の内面形状(詳細には、第1型51の成形面の形状)に追従させ易くなる。その結果、シート状ヒーター30がパッド本体11の表側面11Mの形状に追従したシートパッド10を得ることができる。また、真空成形によってシート状ヒーター30を発泡成形金型50の内面形状に賦形してから、発泡成形金型50にポリウレタン原料を注入して発泡硬化させるので、パッド本体11の表側面11Mにシート状ヒーター30が一体的に固着したシートパッド10を得ることができ、使用時におけるシート状ヒーター30のズレが抑えられる。
【0048】
また、本実施形態によれば、シート状ヒーター30を賦形するときに電極層33の配線パターンを伸長させることで、発泡成形金型50の内面の凹凸形状(詳細には、第1型51のサイド成形凹部51Aや溝成形突部51Tの形状)に配線パターンを追従させるので、パッド本体11の表側面11Mの凹凸に関係なく電極層33の配線パターンを取り回すことが可能となる。その結果、1つのシート状ヒーター30で発熱できるエリアを拡げることができる。
【0049】
しかも、シート状ヒーター30が賦形される前の電極層33の配線パターンにおいては、シート状ヒーター30の賦形に伴って伸長される部位の断面積が、当該部位よりも賦形に伴う伸長が小さい部位の断面積よりも大きくしておくので、シート状ヒーター30の賦形に伴って電極層33の配線パターンが伸長しても、伸長後の配線パターンにおける断面積のバラつきが抑えられる。これにより、配線パターンの抵抗のバラつきが抑えられ、シート状ヒーター30の発熱温度のバラつきが抑えられる。
【0050】
なお、本実施形態では、吊り込み溝14(詳細には、縦溝14A、横溝14B)が特許請求の範囲に記載された「溝」に相当し、電極層33のうち溝横断部43以外の部分である非進入部位が特許請求の範囲に記載された「電極層のうち溝横断部を除いた部分」に相当する。
【0051】
[他の実施形態]
(1)
図13(A)に示されるように、シート状ヒーター30は、基材シート31との間に面状発熱体32を挟む保護シート37を備えてもよい。この構成では、基材シート31がパッド本体11に臨むようにシート状ヒーター30を配置しても、面状発熱体32が発泡成形金型50の第1型51に接触することが防がれるので(
図13(B)参照)、電極層33の配線パターンが断線したり、発熱層34が剥がれ落ちたりすることが抑制される。
【0052】
(2)車両用シート90がシートクッション91の前方にオットマンを備える場合には、シートパッド10がオットマンに適用されてもよい。
【0053】
(3)上記実施形態では、シート状ヒーター30の賦形は、真空成形により行われていたが、圧空成形により行われてもよいし、真空成形と圧空成形を組み合わせて行われてもよい。
【0054】
(4)上記実施形態では、基材シート31の上に電熱層33が積層され、電熱層33の上に発熱層34が積層されていたが、基材シート31の上に発熱層34が積層され、発熱層34の上に電熱層33が積層されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 シートパッド
11 パッド本体
14 吊り込み溝
30 シート状ヒーター
31 基材シート
32 面状発熱体
33 電極層
34 発熱層
40 溝内進入部
43 溝横断部
50 発泡成形金型
【手続補正書】
【提出日】2023-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドにおいて、
前記シート状ヒーターは、伸縮性を有する基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されてなるシートパッド。
【請求項2】
パッド本体にシート状ヒーターが固定されたシートパッドにおいて、
前記シート状ヒーターは、伸縮性を有する基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、自己温度調整機能を有する発熱層と、が積層されてなるシートパッド。
【請求項3】
伸縮性を有する基材シートに、自己温度調整機能を有する配線パターンからなる電極層と、発熱層と、が積層されてなるシート状ヒーター。