(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006360
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20230111BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230111BHJP
B29C 33/64 20060101ALI20230111BHJP
B29C 33/58 20060101ALI20230111BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230111BHJP
B22D 17/20 20060101ALI20230111BHJP
B22C 3/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L83/04
C09K3/00 R
B29C33/64
B29C33/58
C08L71/02
B22D17/20 D
B22C3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108920
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 出
(72)【発明者】
【氏名】本村 ちか
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
【テーマコード(参考)】
4E092
4F202
4J002
【Fターム(参考)】
4E092AA26
4E092AA34
4E092AA36
4E092FA10
4E092GA01
4F202CA30
4F202CM46
4F202CM62
4F202CM64
4F202CM85
4F202CM90
4J002CH02X
4J002CH05Y
4J002CP03W
4J002CP06W
4J002CP07W
4J002DE026
4J002FD31X
4J002FD31Y
4J002GH02
4J002GT00
4J002HA01
(57)【要約】
【課題】
長期保存安定性が高く、噴射ノズルへの目詰まりを起こしにくい、金型付着性の良好な金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物、該シリコーンエマルジョン組成物を含むアルミニウムダイキャスト成形用 離型剤、および該シリコーンエマルジョン組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
(A)シリコーンオイル と、
(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含み、
前記成分(C)の1重量%水溶液の曇点が50℃以上である、
金型成形用離型剤用 シリコーンエマルジョン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリコーンオイルと、
(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含み、
前記成分(C)の1重量%水溶液の曇点が50℃以上である、
金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項2】
(A)シリコーンオイルを含む油滴が水中に分散した、金型成形用離型剤用の水中油型シリコーンエマルジョン組成物であって、
(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含み、
前記成分(C)は1重量%水溶液の曇点が50℃以上であり、
前記成分(C)がミセル状態で、前記成分(A)および前記成分(B)を含む前記油滴表面に配向する凝集体を含む、シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項3】
(A)シリコーンオイル 1~70質量部と、
(B) アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤を、前記成分(A)配合量を100質量部とした場合に、0.1~50質量部と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤を、前記成分(A)配合量を100質量部とした場合に、 0.1~30質量部と、
(D)水とを含む、
請求項1または請求項2に記載のシリコーンエマルジョン組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコーンエマルジョン組成物を含有することを特徴とするアルミニウムダイキャスト成形用離型剤。
【請求項5】
(A)シリコーンオイルと、(D)水とを(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤により乳化する乳化工程と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤を添加して撹拌することにより、前記乳化工程で得られた乳化物の油滴表面をミセル状態の前記成分(C)により被覆させる工程とを含む、
シリコーンエマルジョン組成物の製造方法。
【請求項6】
金型成形用離型剤用のシリコーンエマルジョン組成物の機械安定性を向上させ、かつ、金型への付着性を向上させる方法であって、
(A)シリコーンオイルと、、(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤と、(D)水とを含む混合物を乳化させた後に、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤を添加することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシリコーンエマルジョン組成物を含有する金属成形用離型剤をスプレーノズルから噴射することにより、温度200℃以上400℃以下の金型表面に吹き付けることを特徴とする、金型表面の被覆方法。
【請求項8】
請求項4に記載のアルミニウムダイキャスト成形用離型剤をスプレーノズルから噴射することにより、温度200℃以上400℃以下の金型表面に吹き付けることを特徴とする、金型表面上の被膜の製造方法。
【請求項9】
(A)シリコーンオイルと、
(B)アルキル基の炭素数9以上14以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含む金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物であって、
前記成分(C)は、炭素数16以上20以下の直鎖アルキル基を有し、1重量%水溶液を用いて測定した曇点が50℃以上であり、
前記成分(B)により、前記成分(A)を含む油滴が水中に分散され、
前記油滴の表面がミセル状態の前記成分(C)により被覆された凝集体を形成することにより、
前記シリコーンエマルジョン組成物の機械安定性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(A)シリコーンオイルと、(B)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、(C)ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、(D)水と、を含む金型成形用離型剤用 シリコーンエマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンは、従来、離型性などの優れた効果を発揮することから、離型剤用途で広く用いられている。
シリコーン離型剤には、オイル型、エマルジョン型、溶剤型などの形態がある。
特にエマルジョン型は、水で希釈して使用可能であり、作業性、経済性に優れ、溶剤を使用しないことから安全上も好ましい。そのため金属、ゴム、プラスチック等の製品を成形する際の金型用離型剤として、種々のシリコーンエマルジョン組成物が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1ではシリコーンオイルとポリオキシアルキレンユニットを有するノニオン系界面活性剤を含むシリコーンエマルジョン組成物が提案されている。
また、特許文献2では、高濃度の界面活性剤(ポリエチレンアルキルエーテル等)を含むシリコーンオイルに特定のアルキレンオキシド誘導体を配合することにより、高濃度においても流動性や安定性に優れる離型剤用途に好適なシリコーンエマルジョン組成物が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002-129016号公報
【特許文献2】特開2006-182883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、保存中にエマルジョンが分離したり油浮きが発生したりする場合があり、長期保存した場合のさらなる安定性の向上が求められている。また、保存中の安定性が良好な場合であっても、機械安定性が低いと金型に吹き付ける際に噴射ノズル内で目詰まりを起こすという問題があった。
【0006】
エマルジョンの保存安定性・機械安定性を高めるため、乳化力の高いアニオン系界面活性剤を配合することも考えられる。しかしアニオン系界面活性剤を含むエマルジョンでは、金型へ吹き付けられた際にライデンフロスト効果により、エマルジョン中の油滴が金型表面を横滑りする現象が生じやすいことが分かった。その結果、離型剤の有効成分であるシリコーン成分が十分に金型に付着せず、離型剤の性能を十分に発揮することができないという問題がある。
付着性を高めるには、エマルジョンを崩壊させやすくして、エマルジョン中のシリコーン成分と金型との接触を促進することにが有効であるが、これは保存安定性・機械安定性を低下させることになる。
すなわち、付着性の高さと、保存安定性・機械安定性は二律背反の関係にあるといえる。
【0007】
そのため、長期保存時の安定性が十分に高く、噴射時にノズルで目詰まりを起こしにくく、かつ、金型への付着性が高い離型剤が求められていた。
そこで、本発明は長期保存安定性が高く、噴射ノズルへの目詰まりを起こしにくい、金型付着性の良好なシリコーンエマルジョン組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、(A)シリコーンオイルと、(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、(D)水と、を含み、成分(C)として、1重量%水溶液の曇点が50℃以上である界面活性剤を使用することにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)シリコーンオイルと、
(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含み、
前記成分(C)は、1重量%水溶液を用いて測定した曇点が50℃以上である、
金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物は、長期保存安定性が高く、金型成形用離型剤として使用する場合に、噴射ノズルへの目詰まりを起こしにくく、金型付着性が良好であるため、金型成形用離型剤用途のエマルジョンとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明に係る、金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物、該組成物の製造方法、および該組成物によるアルミニウム等の金型表面の被覆方法の詳細を説明する。
【0012】
本発明に係る金型成形用離型剤用シリコーンエマルジョン組成物は、
(A)シリコーンオイルと、
(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含む。
【0013】
本発明に係るシリコーンエマルジョン組成物は、金属やゴム・プラスチックなどの製品を成形する際の金型用離型剤に用いられる。例えばアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、錫合金、鉛合金、銅、銅合金、金、銀、鉄、鉄合金等にも好適に用いられ、特にアルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムダイキャスト成形用の離型剤としてしようする場合には、高温下においても金型表面への付着性が良好であるという性能を発揮する。また、機械安定性が高いことから、シリコーンエマルジョン組成物を噴射するノズルの閉塞が少なく、均一な噴射を継続することが可能である。
離型剤用途以外にも、シリコーンエマルジョン組成物を噴射塗布したのちに熱処理される用途(例えば、剥離コーティング用途)にも適用可能である。
以下に各成分の詳細を述べる。
【0014】
(成分(A))
本発明で用いる(A)シリコーンオイルは、ポリオルガノシロキサンであり、その変性品、分岐品、部分架橋品、他の分子との共重合体も用いることができる。特にアルキル変性シリコーンおよびアルキルアラルキル変性シリコーンは、ペインタブル性に優れるため好適である。
水を添加して乳化する場合の、シリコーンエマルジョン組成物全体に対する(A)シリコーンオイルの配合量は1~70重量%であり、さらに好ましくは10~65%であり、さらにより好ましくは30~60%とすることができる。シリコーンエマルジョン組成物は、使用に際し、使用条件等に応じてさらに水で希釈することができる。
【0015】
(A)シリコーンオイルとしては、平均重合度が5~1200、好ましくは30~700、さらにより好ましくは300~500のものを使用することができる。平均重合度が5未満では離型剤としての効果が十分ではなく、平均重合度が1200を超えると粘度が大きすぎて乳化が困難になる。
【0016】
(A)シリコーンオイルの具体例をM単位、D単位、T単位、Q単位により化学式で表すと、下記一般式(1)のようになる。
(R1R2SiO2/2)D・(R3R4R5SiO1/2)M・(R6SiO3/2)T・(SiO4/2)Q ・・・(1)
式(1)中のD、M、T、QはD/(M+D+T+Q)=0~1、M/(M+D+T+Q)=0~0.5、T/(M+D+T+Q)=0~1、Q/(M+D+T+Q)=0~1、M+D+T+Q>0である。より好ましくはD/(M+D+T+Q)=0.5~1、M/(M+D+T+Q)=0~0.1、T/(M+D+T+Q)=0~0.4、Q/(M+D+T+Q)=0~1である。
これらは基本的に直鎖状のシロキサン骨格を有するものである。若干の分岐を有していてもよいが、分子全体が直鎖状の構造からなるものが好ましい。
【0017】
R1~R6は、それぞれ単独で同一または異なった次に挙げるもののなから選択される。
その選択に当たっては、同一単位、例えば(R1R2SiO2/2)D単位の中で、R1としてメチル基を選択し、R2として同時に異なるもの、すなわちメチル基とフェニル基と水素の3種類の基を同時に選択する事ができる。また、各単位をつなぐ為の構造が各単位と異なる形態を取っていても構わない。
【0018】
R1~R6の例を挙げれば、直鎖状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基又はアルケニル基及びそのハロゲン置換体、炭素数5~25のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基及びそのハロゲン置換体、炭素数6~25のアラルキル基又はアリール基及びそのハロゲン置換体、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基、酸無水物基、カルボニル基、糖類、シアノ基、オキサゾリン基、イソシアナート基、等およびまたはこれらの基の炭化水素置換体があげられる。
【0019】
好ましい例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖又は分岐状のアルキル基及びそれらのハロゲン置換体、ビニル基、アリル基、ホモアリル基などのアルケニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、ジシクロペンチル基、デカヒドロナフチル基などのシクロアルキル基及びそのハロゲン置換体、シクロペンテニル基(1-及び2-、3-)、シクロヘキセニル基(1-及び2-、3-)等のシクロアルケニル基、フェニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、トリル基、エチルフェニル基等のアラルキル基及びアリール基及びそれらのハロゲン置換体、
【0020】
水素、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ターシャリーブトキシ基、ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基、2-ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、イソオクチロキシ基、2-オクチロキシ基、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基、アセトキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、アミノ基、ヒドロキシアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ホルムアミド基、アセトアミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、グリシジル基、
【0021】
エチレングリコキシ基、ジエチレングリコキシ基、ポリエチレングリコキシ基、プロピレングリコキシ基、ジプロピレングリコキシ基、ポリプロピレングリコキシ基、メトキシエチレングリコキシ基、エトキシエチレングリコキシ基、メトキシジエチレングリコキシ基、エトキシジエチレングリコキシ基、メトキシプロピレングリコキシ基、メトキシジプロピレングリコキシ基、エトキシジプロピレングリコキシ基等を挙げることができる。
【0022】
本発明で用いるシリコーンは、SILICONES&INDUSTRYに開示されている業界公知の方法で製造することができる。
好ましいシリコーンの具体例としては、ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーン、メチルハイドロジェンシロキサン、アルキルアラルキル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、各種末端反応性シリコーン、シリコーンワックス、シリコーンレジン、シリコーンレジンオイル、シリコーンエラストマー、ステアロキシメチルポリシロキサン、アミノメチルアミノプロピルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等を挙げる事ができる。
金型成形用離型剤として本発明のシリコ―ンエマルジョン組成物を使用する場合、1分子中のケイ素原子に結合する R1~R6のうち少なくとも40モル%がメチル基であれば、離型性の点でより好ましい。
これらのシリコーンの好ましい粘度は25℃において5~100,000mPa・sであり、好ましくは100~10,000mPa・sである。又これらのシリコーンは単独でまたは数種類組み合せて用いる事ができる。
【0023】
(成分(B))
本発明で用いる(B)ノニオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、アルキル基の炭素数が9以上14以下であり、-CH2CH2O-ユニットを1~100含み、-CHRCH2O-ユニット(Rはアルキル基)を1~100含む構造を持ち、-CH2CH2O-ユニット数が-CHRCH2O-ユニット数以上の非イオン系界面活性剤である。各ユニットの数は親水性基のバランスを取る上で重要であり、-CHRCH2O-ユニットは-CH2CH2O-ユニットと比較してより疎水性であり、これが多くなると親水性基としての役割を果たさなくなる為、-CH2CH2O-ユニット数は-CHRCH2O-ユニット数以上である必要がある。また、各ユニット数が多くても良いが経済性の点から100以下である事が望ましい。
【0024】
これらの条件を持った界面活性剤であれば良く、その有機基の結合状態は特に限定されないが、好ましい界面活性剤としては、以下に例示する一般式を有するものが挙げられる。
Ra-Y-(CHRXCH2O)n-(CH2CH2O)m-H
【0025】
式中、Raは炭素数9以上14以下の分岐、または直鎖のアルキル基を表わし、Yは、-O-または-COO-を表わす。mおよびnは1~100であり、m、m’、m’’>n、n’、n’’である。RXはアルキル基を表わし、例えば、メチル基、エチル基等であり、又CHRXCH2全体でシクロアルキレン基も含まれる。
【0026】
なお、これらの一般式および本発明の明細書中に示す化学式においては、共重合体の各成分の量比とオキシエチレン鎖およびオキシアルキレン鎖がランダムあるいはブロックで結合している事を示している。また式の上では便宜状、上記のように表すが、例えば最初に例示した化学式すなわちRa-O-(CH2CH2O)m-(CHRXCH2O)n-Hにおいては、Ra-O-に必ず直接オキシエチレン基が結合していることを示しているのではない。同様に末端がオキシアルキレン基に基づくOHである事を示しているのでもない。
【0027】
さらに-(CHRXCH2O)n-において、-(CH2CHRXO)n-も含む。
これらのより具体的な一般式を例示すれば、以下のようになる。Ra-O-(CHRXCH2O)n-(CH2CH2O)m-H、RaCOO-(CHRXCH2O)n-(CH2CH2O)m-H、RaN-[(CHRXCH2O)n’-(CH2CH2O)m’-H][(CHRXCH2O)n’’-(CH2CH2O)m’’-H]、RaCON-[(CHRXCH2O)n’-(CH2CH2O)m’-H][(CHRXCH2O)n’’-(CH2CH2O)m’’-H]、上記例示の一般式で、特に好ましいのはRa-O-(CHRXCH2O)n-(CH2CH2O)m-Hである。
【0028】
好ましい界面活性剤の具体例として、高級アルコールに対してオキシエチレン鎖およびオキシアルキレン鎖がランダム重合またはブロック重合したものを以下に例示する。
一般式;Ra-O-(CH2CH2O)m-(CHRXCH2O)n-Hの具体例としては、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)1-(CH2CH2O)8-H、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)1-(CH2CH2O)9-H、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)2-(CH2CH2O)8-H、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)3-(CH2CH2O)7-H、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)4-(CH2CH2O)6-H、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)4-(CH2CH2O)10-H、
C10H21-O-(CH(CH3)CH2O)12-(CH2CH2O)16-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)1-(CH2CH2O)8-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)1-(CH2CH2O)9-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)2-(CH2CH2O)8-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)3-(CH2CH2O)7-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)4-(CH2CH2O)6-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)4-(CH2CH2O)10-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)12-(CH2CH2O)16-H、
C12H25-O-(CH(CH3)CH2O)6-(CH2CH2O)8-H、
C13H27-O-(CH(CH3)CH2O)6-(CH2CH2O)8-H、
C13H27-O-(CH(CH3)CH2O)2-(CH2CH2O)10-H、
等を挙げる事ができる。
【0029】
なお、上記の各式は異性体も含んでおり、さらにこれらの混合物であっても良い。またRa-O-(CH2CH2O)m-(CHRXCH2O)n-HのRa部分は平均の炭素数が上記に示した式で表される各炭素数の化合物の混合物であっても良い。
【0030】
一般式;RaCOO-CH2CH2O)m-(CHRXCH2O)n-Hの具体例としては、C10H23-COO-(CH2CH2O)8-(CH(CH3)CH2O)1-H、C10H23-COO-(CH2CH2O)9-(CH(CH3)CH2O)1-H、C10H23-COO-(CH2CH2O)8-(CH(CH3)CH2O)2-H、C10H23-COO-(CH2CH2O)7-(CH(CH3)CH2O)3-H、C10H23-COO-(CH2CH2O)6-(CH(CH3)CH2O)4-H、C10H23-COO-(CH2CH2O)16-(CH(CH3)CH2O)12-H、等
が挙げられる。
【0031】
本発明における(B)ノニオン性界面活性剤は、成分(A)を100質量部に対して好ましい添加量は、0.1~50質量部、好ましくは1~30質量部、より好ましくは3~15質量部である。当該範囲を下回ると乳化が困難になり、上回るとシリコーンオイルの性能が十分に発揮されず、離型性が低下する恐れがある。
【0032】
(成分(C))
本発明で用いる(C)脂肪酸エステルまたはエーテルである界面活性剤は、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルであって、炭素数16以上20以下の直鎖アルキル基を有し、成分(C)の1重量%水溶液を用いて測定した曇点が50℃以上である。該界面活性剤は、分解すると高融点の直鎖アルキル基を有するアルコールを与える。
この構造、曇点を有する成分(C)を用いると、水中に(A)シリコーンオイルと、(B)ノニオン性界面活性剤を含む油滴が分散している水中油型シリコーンエマルジョンにおいて、成分(C)がミセル形態で油滴表面に付着してカプセル状態を形成する。この現象により、成分(A)および成分(B)を含む油滴の機械的強度と安定性が高まる。その結果、長期保存しても分離や油浮きを起こさない安定性の高いシリコーンエマルジョン組成物が得られるだけでなく、スプレーノズルから噴射されるときに局所的に圧力やシェアがかかっても油滴が崩壊せず機械的強度の高い組成物が得られる。
【0033】
分岐構造のアルキル基を有する界面活性剤や、アルキル基の炭素数が上記範囲外の場合は、水を添加していくと会合数の多い液晶状態(ラメラ構造ともいう)を形成する。これをさらに希釈すると、液晶状態が徐々にほぐれ、会合数の少ないミセル状態となる。従って、濃度が濃い状態ではミセル状態をとることができない。
一方、本発明に使用される成分(C)は分解すると高融点の直鎖アルキル基を有するアルコールを与える界面活性剤であるため、水を添加していくと液晶状態を経由することなくミセル状態を形成する。すなわち、本発明に係るエステル系界面活性剤は、濃度の濃いミセルを形成可能である。そのため、成分(A)と成分(B)を含む油滴表面(水相と油相の界面)にミセル状態で強固に、かつ、密に吸着し、被覆することによりカプセル状態を示す凝集体を形成することが可能である。
成分(C)がポリオキシエチレン脂肪酸エステルであれば、特に機械安定性が高い凝集体が得られる。
【0034】
成分(C)の曇点が50℃未満であると、析出しやすくなり、カプセル状態を形成して機械的安定性を高める特性が発現しにくくなる。
なお、成分(C)の曇点は50℃以上であればよいが、曇点測定時の溶液の温度が沸点以上では曇点測定が不可能である。従って曇点の上限値は当該溶液の沸点値であり、溶液の組成に応じて、例えば100℃である。
【0035】
成分(C)が有するアルキル基は、炭素数が15以下であると、油滴のカプセル化が不十分となり、炭素数が21以上の場合には乳化が困難になる。
分岐または環状のアルキル基を有する脂肪酸エステルと比較し、直鎖のアルキル基を有するポリオキシエチレン脂肪酸エステルは油滴表面に好適に付着し、より強固なカプセル状態を形成する。該アルキル基は直鎖状であれば、飽和アルキル基であっても、1つまたは複数の不飽和基を有する不飽和アルキル基であってもよい。
【0036】
(C)ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤の具体例を化学式で表せば、下記一般式(2)、(3)のようになる。
Rb-(C=O)O(CH2CH2O)p-H ・・・(2)
Rb-(O)(CH2CH2O)p-H ・・・(3)
式(2)、式(3)において、pは1~100であり、より好ましくは5~50である。Rbは炭素数16以上20以下の直鎖アルキル基である。
【0037】
成分(C)の具体例としては、Rbが炭素数17の飽和アルキル基であるステアリン酸エステル、炭素数が17の不飽和アルキル基であるオレイン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、Rbが炭素数19の飽和アルキル基であるアラキジン酸エステル、Rbが炭素数19の不飽和アルキル基であるアラキドン酸エステル、エイコサペンタエン酸エステル等がある。
【0038】
成分(C)がステアリン酸エステルである場合の具体例としては、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(2EO)(例えば、商品名:MYS-2、ニッコール製、商品名:EMALEX DEG-M-S、日本エマルジョン製)、
モノステアリン酸ポリエチレングリコール(5EO)(例えば、商品名:EMALEX 805、日本エマルジョン製)、
モノステアリン酸ポリエチレングリコール(10EO)(例えば、商品名:MYS-10、ニッコール製、商品名:EMALEX 810、日本エマルジョン製)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(20EO)(例えば、商品名:EMALEX 820、日本エマルジョン製)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(30EO)(例えば、商品名:EMALEX 830、日本エマルジョン製)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40EO)(例えば、商品名:MYS-40、ニッコール製、商品名:EMALEX 840、日本エマルジョン製)等があげられる。
【0039】
成分(C)がオレイン酸エステルである場合の具体例としては、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(2EO)(例えば、商品名:MYO-2、ニッコール製))、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(6EO)(例えば、商品名:EMALEX OE-6、日本エマルジョン製))、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(10EO)(例えば、商品名:EMALEX OE-10、日本エマルジョン製))、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(14EO)(例えば、商品名:ペグノール14-O、東邦化学製))等があげられる。
【0040】
本発明における成分(C)の好ましい添加量は、成分(A)を100質量部に対して0.1~30質量部、好ましくは1.0~20質量部、より好ましくは2.0~10質量部である。
【0041】
(成分(D))
本発明で用いる(D)水は特に限定されないが、イオン交換水を用いる事が好ましく、そのpHは、好ましくはpH2~12、特に好ましくはpH4~10、最も好ましくはpH5~9である。鉱水を用いる事は推奨されないが、用いる時は金属不活性化剤等と合わせて用いる事が好ましい。
【0042】
水の添加量は特に限定されないが、好ましくはエマルジョン組成物の場合は1~98.8重量%、より好ましくは10~95重量%、さらに好ましくは50~90重量%用いられる。
【0043】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物の粒径は、平均粒径100~500nmが好ましく、150nm~300nmがより好ましい。100nm未満のものは製造が困難であり、増粘が生じる。また500nmを超えると安定性がやや低下する傾向にある。
【0044】
本発明はまた、(A)シリコーンオイルを含む油滴が水中に分散した、金型成形用離型剤用の水中油型シリコーンエマルジョン組成物であって、
(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるノニオン性界面活性剤と、
(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤と、
(D)水と、を含み、
前記成分(C)は1重量%水溶液の曇点が50℃以上であり、
前記成分(C)がミセル状態で、前記成分(A)および前記成分(B)を含む前記油滴表面に配向する凝集体を含む、シリコーンエマルジョン組成物である。
【0045】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物は、(B)ノニオン性界面活性剤により、(D)水中に(A)シリコーンオイルを含む油滴が分散されており、その表面に成分(C)である界面活性剤が付着する形態を有する。油滴内部(中央近く)の主成分は成分(A)であり成分(B)も含まれる状態である。水相と油相との界面である油滴の表面付近には成分(B)が配向し、そこに成分(C)が吸着することにより油滴のコーティング層を形成する。成分(C)はミセル状態で吸着すると考えられ、油滴の全表面を被覆していてもよいが、その一部を被覆するものであってもよい。
エマルジョンの平均粒径が100~300nmの場合において、成分(A)に対する成分(C)の量が、重量比で100:0.14~100:100、好ましくは100:0.1~100:10の範囲であれば、該コーティング層により油滴が好適にカプセル化され、機械的安定性および保存安定性に優れたシリコーンエマルジョン組成物が得られる。
成分(C)の配合量が前記範囲を下回ると、カプセル化が不十分となり、機械的安定性が低下する要因となる。前記範囲を上回ると粘度が増加して取り扱いが困難になる。
成分(B)に対する成分(C)の配合量は特に限定されないが、エマルジョン組成物の機械安定性は、成分(B)と成分(C)の重量比が1:0.02~1:1の範囲であればより高くなり、1:0.1~1:0.5の範囲であればさらに高くなる。
【0046】
成分(C)を含まない場合には、油滴表面を成分(C)のミセルにより被覆することができないため、油滴の機械的強度が向上されず、離型剤をスプレーノズルから噴射する際の圧力や、ノズルの細孔を通過する際にかかるシェアによりエマルジョンの一部が崩壊し、ノズル内で油相と水相に分離する現象が発生する。分離した油分はスプレーノズル内部で凝集、固化して細孔の閉塞を生じさせる原因となる。
本願発明のシリコーンエマルジョン組成物は圧力やシェアがかかる環境下においても、油滴がミセルにより被覆され、いわばカプセル化されている状態となることによりエマルジョンの崩壊が起こりにくい。そのため均一なエマルジョン状態のままで金型表面へ噴射可能であり、ノズルの閉塞も抑制される。
【0047】
金型成形用離型剤は、スプレーノズルから高温の気相へと(気相温度は例えば30℃~300℃である)噴射され、その後、さらに高温(例えば200℃~400℃)である金型表面に到達する。金型の材質は一般にアルミニウムダイキャスト成形用等の用途に用いられるものであれば特に限定されず、例えば鉄である。
本発明に係るシリコーンエマルジョン組成物は、ノズルから噴射後に気相で加熱され、1重量%水溶液の曇点が50℃以上である成分(C)は溶解する。この時、成分(B)とともに形成していたコーティング層は破壊され、内部の(A)シリコーンオイルが露出する。このシリコーンオイルは、エマルジョン組成物中に含まれる水とは分離した状態で金型表面に到達する。金型表面は高温であるため、シリコーンオイルの被膜が形成される(金型表面に焼き付く状態)。シリコーンオイルのみが金型表面で被膜形成されることから、高い付着性が得られ、離型剤として良好な性能を発揮する。
【0048】
一方、成分(C)を含まずカプセル化されていないエマルジョンであっても、例えばアニオン性界面活性剤の配合等によりエマルジョンの機械安定性を向上させることは可能である。しかし、その場合にはノズル内で崩壊しなかった安定性の高いエマルジョンは、エマルジョン状態を維持したまま金型表面へと噴射される。すると金型表面でエマルジョンに含まれる水分が急激に蒸発し、油滴と金型の間に蒸気の層が発生する。その結果、離型剤の有効成分であるシリコーンオイルを含む油滴は横滑りし、油滴内部のシリコーンオイルが金型表面に付着・被膜形成することができなくなる(ライデンフロスト効果)。そのため付着性が低下し、離型剤としての性能が不十分なものとなる。
【0049】
本発明はまた、(A)シリコーンオイルと、(D)水とを(B)アルキル基の炭素数が9以上14以下であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤により乳化する乳化工程と、(C)炭素数16以上20以下 の直鎖アルキル基を有するポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤を添加して撹拌することにより、前記乳化工程で得られた乳化物の油滴表面をミセル状態の前記成分(C)により被覆させる工程とを含む、シリコーンエマルジョン組成物の製造方法である。
【0050】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物の製造方法について、好ましい例を次に示す。
(1)(A)シリコーンオイルと(B)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤を混合しておき相転換させるための水、例えば成分(B)と同量程度、を加えホモミキサーで強制攪拌を行なう。ここで少量の水を加えてさらにホモミキサーで攪拌することにより相転換させ、さらに水で任意の濃度に希釈する。
その後、(C)ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルまたはアルキルエーテルである界面活性剤を添加してさらに撹拌する。任意で防腐剤等のその他の添加物を配合してもよい。
【0051】
(2)(B)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤と相転換させるための水、例えば成分(B)と同量程度の水、を混合しておき、(A)シリコーンオイルを段階的に加えながらホモミキサーで強制攪拌を行なう。そして少量の水を加えてホモミキサーで攪拌することにより相転換させ、さらに水で任意の濃度に希釈する。
その後、成分(C)を添加してさらに撹拌する。任意で防腐剤等のその他の添加物を配合してもよい。
【0052】
(3)(B)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性と全量の水を混ぜておき、ミキサーで攪拌しながら(A)シリコーンオイルを加えていく。
その後、成分(C)である界面活性剤を添加してさらに撹拌する。任意で防腐剤等のその他の添加物を配合してもよい。
【0053】
本発明においては、これらの方法において相転換までに添加する必要のある水を初期水とよび、それ以降にエマルジョン濃度を調整する為に入れる水を希釈水とよぶ。上記発明において、添加する(D)水は、初期水と希釈水の両方を含む。
【0054】
本発明の組成物には本発明の趣旨に反しない限り他の添加物を添加する事ができる。例えば、抗菌剤、防カビ剤、防腐剤、pH調整剤、着色剤、他の界面活性剤、酸化防止剤、消臭剤、架橋剤、各種触媒、乳化安定剤、各種有機溶剤、キレート剤等を添加することができる。
【0055】
上記発明に係るシリコーンエマルジョン組成物は、機械安定性が向上され、かつ、金型への付着性が向上されていることから、金型表面を被覆するためのアルミニウムダイキャスト成形用離型剤として好適に使用可能である。
本発明の金型表面の被覆方法は、上記発明のシリコーンエマルジョン組成物を含有する金属成形用離型剤をスプレーノズルから噴射することにより、温度200℃以上400℃以下の金型表面に吹き付けることを特徴とする。
【0056】
本発明はまた、上記発明のシリコーンエマルジョン組成物を含むアルミニウムダイキャスト成形用離型剤をスプレーノズルから噴射することにより、温度200℃以上400℃以下のアルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムダイキャスト部材表面に吹き付けることを特徴とする被膜の製造方法である。
【0057】
アルミニウム等の鋳造品を成形するには、常温(例えば25℃)の金型に離型剤を塗布し、その後に加熱工程を実施してもよく、鋳造に先立って金型を50℃~250℃程度の温度まで昇温させる予熱工程を実施してもよい。
また、一般的に連続して鋳造を行う場合には、金型は十分に冷却される前に次の鋳造に使用される。鋳造温度は例えば650℃~800℃の範囲であるから、次の鋳造を開始する前の段階の金型表面温度は、インターバル時間、金型形状等に応じて、例えば50℃~800℃であり、200℃~400℃の範囲であることが多い。
アルミニウムダイキャスト成形用離型剤は、予熱工程や、連続鋳造の場合には先の鋳造が終了して金型を取り外してから次の鋳造が開始されるまでの間に、金形型にスプレー塗布される。スプレー噴射位置から金型までの間の気相温度は、通常30℃~300℃程度である。
【0058】
本発明に係るアルミニウムダイキャスト成形用離型剤は、長期間安定に保存可能であり、機械安定性にも優れることからスプレーノズル内で閉塞等を起こすことなく、均一なスプレー塗布が可能である。
エマルジョン状態でスプレーノズルから噴射された後、該離型剤は気相の温度により加熱されてエマルジョン崩壊を起こし、該離型剤に含まれる油相であり有効成分である(A)シリコーンオイルは、水相と分離した状態で金型表面に到着する。金型表面で成分(A)は加熱され、被膜を形成する。金型表面に成分(A)が水相とは分離した状態で、均一に付着することから、付着性が良好であるという効果が得られ、膜厚が均一な被膜が得られる。
【実施例0059】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例中の部は質量部を示し、%は重量%を示す。粘度は25℃におけるせん断速度が1.0s-1のときの粘度である。また、実施例および比較例の結果を表1に示す。
【0060】
(曇点測定方法)
測定対象とする成分の1重量%水溶液を調整し、曇点試験液とした。次いで、加温して一旦曇点試験液を濁らせ、徐々に冷却して濁りが無くなる温度を曇点とした。
加温温度は最大90℃とし、90℃に到達しても濁りが観測されない場合には曇点が90℃以上であると判定した。
曇点試験液を0℃まで冷却しても濁りがなくならない場合には、曇点が0℃以下であると判定した。
【0061】
(保存安定性評価方法)
シリコーンエマルジョン組成物を、ガラススクリュービン(50ml)に入れて密栓し、40℃の恒温槽中で4週間静置した。エマルジョン組成物の変化を目視観察し、エマルションの貯蔵安定性として、次の3段階で評価した。
(評価基準)
A:外観の変化がなく、かつ、粘度の変化が初期値から±30%以内
B:可逆的な不均一化がある
C:オイル浮き、または不可逆的不均一化がある
なお、可逆的な不均一化とは、静置状態で分離やクリーミング等の変化が見られるものの、撹拌すると初期と同等の状態に戻る状態をいう。不可逆的不均一化とは、撹拌しても分離やクリーミング等が持続し、初期の状態に戻らない状態をいう。
上記評価基準のAを満たすことが好ましい。
【0062】
(機械安定性評価方法)
シリコーンエマルジョン組成物を、オルガノポリシロキサン濃度が1 . 0 % になるように水で希釈し、次いで、この希釈液400 g を1 0 0 0 m l のビーカーに入れ、ホモミキサーを用い8000r p m の回転速度で1 0 分間撹拌した。その後、3 時間静置し、ビーカー壁へのオイル状物の付着や、液表面のオイル状物の浮きおよびクリーム状物の有無を観察し、以下の基準により評価した。
( 評価基準)
S: 液表面にオイル状物の浮きおよびクリーム状物が全く認められない。
A:オイル浮きはないが、干渉縞がみられる
B: 液表面に極めて僅かなオイル状物の浮きと極めて僅かなクリーム状物が認められる。
C: 液表面の一部にオイル状物の浮きが認められ、液表面全体にクリーム状物が認められる。
D: 液表面全体にオイル状物の浮きとクリーム状物が認められる。
上記評価基準のSまたはAを満たすことが好ましい。
【0063】
(付着性評価方法)
シリコーンエマルジョン組成物を、オルガノポリシロキサン濃度が0.15% になるように水で希釈した。300℃に加熱した鉄製のプレート上に、希釈したシリコーンエマルジョン組成物を、高さ10cmから圧力0.1MPaGでスプレーノズルにより噴射した。スプレーノズルには直径1.0mmの細孔が配置されている。噴射時の、加熱した鉄板から高さ5cmの位置における気相の温度は50℃であった。スプレーノズルにはアネスト岩田製、型番:W-100-102P(吐出量調節ツマミ開度:1.5回転) を使用した。
シリコーンエマルジョン組成物を噴射後、鉄板を25℃まで降温させると、鉄板上に円形の変色箇所が認められる。この変色部分の面積を測定し、以下の基準により評価した
(評価基準)
付着性++++++:面積9.5cm2以上
付着性+++++ :面積7.0cm2以上9.5cm2未満
付着性++++ :面積4.5cm2以上7.0cm2未満
付着性+++ :面積3.0cm2以上4.5cm2未満
付着性++ :面積1.5cm2以上3.0cm2未満
付着性+ :面積1.5cm2未満
上記評価基準の付着性+++++以上を満たすことが好ましい。
【0064】
(実施例1)
成分(A)として、粘度が1.2×105mPa・sであり長鎖アルキル基およびアラルキル基の両方で変性されたオルガノポリシロキサン1(Wacker Chemie AG社製のWACKER(登録商標)TN SILICONE RELEASE AGENT、表にはA-1と記載する)50質量部、成分(B)として、炭素数12であるアルキル基と、-CH2CH2O-ユニットを8含み、-CHCH3CH2O-ユニットを2含むノニオン性界面活性剤(表にはB-1と記載する)を5質量部と、水とを加え、ウルトラ-ツラックス(Ultra-Turrax)(登録商標)で連続的に撹拌する。その後、成分(C)としてモノオレイン酸ポリエチレングリコール(-CH2CH2O-ユニットを14含むみ、曇点90℃以上である。表にはC-1と記載する)を1.4質量部と、を添加し、撹拌することによりシリコーンエマルジョン組成物1を得た。
なお、各成分の含有量は表1、表2にも記載されている。
【0065】
(実施例2)
成分(B)として素数12であるアルキル基と、-CH2CH2O-ユニットを19含み、-CHCH3CH2O-ユニットを4含むノニオン性界面活性剤(表にはB-2と記載する)を5質量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、シリコーンエマルジョン組成物2を得た。
【0066】
(実施例3)
成分(A)として、粘度が1.0×105mPa・sであり長鎖アルキル基で変性されたオルガノポリシロキサン2(Wacker Chemie AG社製のWACKER(登録商標)23166VP SILICONE RELEASE AGENT、表にはA-2と記載する)50質量部を使用した以外は、実施例2と同様にして、シリコーンエマルジョン組成物3を得た。
【0067】
(実施例4)
成分(A)として、粘度が1.3×105mPa・sであり長鎖アルキル基およびアラルキル基の両方で変性されたオルガノポリシロキサン2(Wacker Chemie AG社製のWACKER(登録商標)GM196 SILICONE RELEASE AGENT、表にはA-3と記載する)50質量部を使用した以外は、実施例2と同様にして、シリコーンエマルジョン組成物4を得た。
【0068】
(実施例5)
成分(C)としてモノステアリン酸ポリエチレングリコール(-CH2CH2O-ユニットを40含み、曇点90℃以上である。表にはC-2と記載する)を1.4質量部使用した以外は、実施例1と同様にして、シリコーンエマルジョン組成物5を得た。
【0069】
(実施例6)
成分(C)としてポリオキシエチレンセチルエーテル(炭素数16の直鎖アルキル基と-CH2CH2O-ユニットを16含み、曇点60℃である。表にはC-3と記載する)を1.4質量部使用した以外は、実施例1と同様にして、シリコーンエマルジョン組成物6を得た。
【0070】
(比較例1)
成分(C)に相当する界面活性剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物1を得た。
【0071】
(比較例2)
成分(C)に相当する界面活性剤を使用しなかった以外は、実施例2と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物2を得た。
【0072】
(比較例3)
成分(C)に相当する界面活性剤を使用しなかった以外は、実施例3と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物3を得た。
【0073】
(比較例4)
成分(C)に相当する界面活性剤を使用しなかった以外は、実施例4と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物4を得た。
【0074】
(比較例5)
成分(C)に相当する界面活性剤を使用せず、アニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムC12H25―(CH2CH2O)3SO3Naを4.25質量部使用し、成分(B)配合量は0.75質量部とした以外は実施例5と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物5を得た。
【0075】
(比較例6)
成分(C)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル界面活性剤であるC18H37(-CH2CH2O-)5H(曇点は0℃以下である。表にはC-4と記載する)を使用した以外は、実施例2と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物6を得た。
【0076】
(比較例7)
成分(C)として分岐アルキル基を有するオクチルドデシルエーテル(曇点0℃以下である。表にはC-5と記載する)を使用した以外は、実施例2と同様にして、比較シリコーンエマルジョン組成物7を得た。
【0077】
上記で得られたシリコーンエマルジョン組成物1~6、比較シリコーンエマルジョン組成物1~7について、保存安定性、機械安定性、付着性を評価した結果を表1、表2に示す。
実施例1~6では保存安定性と機械安定性が高く、かつ、付着性も良好であった。比較例1~5では、成分(C)に相当する成分が配合されておらず、その結果機械安定性は低下した。
また、比較例3では付着した被膜にむらが発生し、比較例5では付着性が低い結果となった。
比較例6は、曇点が40℃のエーテル系界面活性剤が配合されており、カプセル化が不十分であることから機械安定性が低下し、同時に保存安定性も低下したと考えられる。
比較例7では分岐アルキル基を有する界面活性剤を使用した。炭素数が16以上20以下の範囲内であっても、分岐構造のアルキル基を有する場合には油滴表面を被覆するミセルの形成が不十分であることから機械安定性が低下し、同時に保存安定線も低下したと考えられる。
【0078】
【0079】