IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

特開2023-63609生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法
<>
  • 特開-生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法 図1
  • 特開-生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法 図2
  • 特開-生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063609
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/28 20060101AFI20230427BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C12Q1/28
C12Q1/26
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043295
(22)【出願日】2023-03-17
(62)【分割の表示】P 2020518354の分割
【原出願日】2019-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018091301
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 研吾
(72)【発明者】
【氏名】木全 伸介
(57)【要約】
【課題】 生体成分測定試薬キットにおいて、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供すること。
【解決手段】 本発明は、酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含有することを特徴とする、生体成分の測定感度低下抑制剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(e)の要件を満たす生体成分測定試薬キットであって、(d)及び(e)要件を満たす試薬については2つの要件を同時に満たす一つの試薬としてなり、該一つの試薬は3日間以上保管後に使用されることを特徴とする、生体成分測定試薬キット。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
(e)ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
【請求項2】
前記(d)及び(e)の2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、製造後少なくとも1か月間を経過していることを特徴とする、請求項1に記載の生体成分測定試薬キット。
【請求項3】
前記(d)及び(e)の2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、(e)の緩衝剤を20~2000mM濃度で含有する、請求項1又は2に記載の生体成分測定試薬キット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の生体成分測定キットを用いることを特徴とする生体成分測定方法。
【請求項5】
以下の(a)~(e)の要件を満たす、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下が抑制された生体成分測定試薬キットの製造方法であって、(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬として製造し、該一つの試薬は3日間以上保管されることを特徴とする、生体成分測定試薬キットの製造方法。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
(e)ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
【請求項6】
前記(d)及び(e)の2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、(e)の緩衝剤を20~2000mM濃度で含有する、請求項5に記載の生体成分測定試薬キットの製造方法。
【請求項7】
前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、生体成分測定試薬キットの製造プロセスでの中間試薬であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の生体成分測定試薬キットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床診断で用いられる生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法に関する。より詳細には、酸化還元反応を利用して生体成分から発生させた過酸化水素と、酸化還元発色試薬(カップラーとしてのアミノアンチピリン系化合物と水素供与体とを組み合わせたトリンダー試薬等)とを、ペルオキシダーゼ存在下で酸化縮合させて生じる呈色を比色定量して測定する生体成分測定試薬キットにおける、感度の低下を抑制する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床診断においては、酵素法による生体成分の測定が行われており、特に酸化酵素-ペルオキシダーゼ-酸化還元発色試薬(以下、発色剤とも表記する。)系による方法、すなわち検体中の測定対象物質を酵素反応させて過酸化水素を発生させ、これをペルオキシダーゼの存在下、発色剤と反応させて比色定量する方法が広く行われている(非特許文献1)。
【0003】
該酸化還元発色試薬系としては、例えば水素供与体とカップラーを用いた方法があげられる。代表例としては、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法があげられる。本方法で用いるカップラーとしては例えば4-アミノアンチピリン(以下、4AAとも表記する)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】BUNSEKI KAGAKU Vol.45,No.2,pp.111-124(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物および水素供与体を用いた酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験した。
【0006】
測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬組成物のロットによりばらつきがあったため、本発明者らは、測定キットの試薬組成について種々検討した。その結果、意外なことに、4-アミノアンチピリン中に極微量の4-ヒドロキシアンチピリン(以下、4HAとも表記する。)という物質が存在することを見出した。理論に束縛されることは望まないが、4-ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、構造上4-ヒドロキシアンチピリンは水素供与体とカップリング反応しないが、過酸化水素存在下、4-ヒドロキシアンチピリンとペルオキシダーゼが反応し、過酸化水素が消費されると考えられるため、その結果、検体中の測定対象物質に酵素を反応させて発生した過酸化水素が4-ヒドロキシアンチピリンに消費されることとなり、本来の4-アミノアンチピリン-水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられた。
【0007】
そこで、本発明は、これまでに知られていなかった上記課題を解決するために、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、予想外のことに、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)若しくはその塩(以下、「PIPES類」ともいう)、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン若しくはその塩(以下、「Tris類」ともいう)のいずれかの緩衝剤を用いることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0009】
[項1] 酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含有することを特徴とする、生体成分の測定感度低下抑制剤。
[項2] 前記生体成分測定法が以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法であって、(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることを特徴とする、項1に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
[項3] 4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、項1又は2に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。
[項4] 酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を用いることを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法。
[項5] 以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法における測定感度低下の抑制方法であって、(d)の要件を満たす試薬中に、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を添加することを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
[項6] 4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、項4又は5に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。
[項7] 前記(d)の要件を満たす試薬中に共存させたピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤の濃度が20~2000mMであることを特徴とする、項5又は6に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。
[項8] 前記生体成分が、クレアチニン又は糖化ヘモグロビンのいずれかであることを特徴とする、項4乃至は7のいずれかに記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。
[項9] 酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定試薬キットであって、項1に記載の測定感度低下抑制剤を含むことを特徴とする、生体成分測定試薬キット。
[項10] 以下の(a)~(e)の要件を満たす生体成分測定試薬キットであって、(d)及び(e)要件を満たす試薬については2つの要件を同時に満たす一つの試薬としてなることを特徴とする、生体成分測定試薬キット。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
(e)ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
[項11] 前記(d)及び(e)の2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、製造後少なくとも1か月間を経過していることを特徴とする、項10に記載の生体成分測定試薬キット。
[項12] 項9乃至は11のいずれかに記載の生体成分測定キットを用いることを特徴とする生体成分測定方法。
[項13] 以下の(a)~(e)の要件を満たす、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下が抑制された生体成分測定試薬キットの製造方法であって、(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬として製造することを特徴とする、生体成分測定試薬キットの製造方法。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
(e)ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
[項14] 前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、生体成分測定試薬キットの製造プロセスでの中間試薬であることを特徴とする、項13に記載の生体成分測定試薬キットの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系による酵素法での生体成分測定において、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制することが可能となる。従って、本発明により、良好な生体成分の測定が可能となる。とりわけ、生体成分の含有量が極微量であるなど高感度を要する生体成分の測定において安定した測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】4-アミノアンチピリン原薬を分析した結果のHPLCフラクションを示す図である。
図2】4-ヒドロキシアンチピリンの構造式を示す図である。
図3】4-ヒドロキシアンチピリンの第二試薬中濃度と試料測定感度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について詳細に説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
また、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「および/または」は、いずれか一方または両方を意味する。また本明細書において、単数形の表現は、他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0013】
(生体成分の測定感度低下抑制剤)
本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤は、酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤(以下、これらを総称して「PIPES類及び/又はTris類」ということがある)を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤が適用される生体成分測定法は以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法であることが好ましい。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
【0015】
本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤において、PIPES類及び/又はTris類を前記(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることが好ましい。
前記(d)の要件を満たす試薬中に含まれるアミノアンチピリン系の化合物は、その製造中の副産物として極微量の4-ヒドロキシアンチピリンが混入することがあり、本発明において、本発明者らはかかる4-ヒドロキシアンチピリンが生体成分の測定感度低下を生じることを見出した。さらに、本発明者らは4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を共存させることによりかかる感度低下を抑制することが可能であること見出し本発明を完成した。
つまり、本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤は、前記(d)の要件を満たす試薬中にPIPES類及び/又はTris類を添加して用いることが好ましく、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを目的とするものである。
【0016】
ここで、試薬又は試薬セットとは、(a)~(d)の要件を満たす1つの試薬として調製されたものであってもよいし、試薬が分包されて2乃至3以上で構成された試薬セットであってもよい。また試薬又は試薬セットは、1つの包装容器にパッケージングされたキット等のような態様であってもよいし、各試薬を別々に用意して使用時にセットで用いる態様であってもよい。
【0017】
(生体成分の測定感度低下の抑制方法)
一つの実施態様において、本発明の生体成分の測定感度低下の抑制方法は、酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法であって、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を用いることを特徴とする。
更なる実施態様において、本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、以下の(a)~(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法における測定感度低下の抑制方法であって、(d)の要件を満たす試薬中にピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を添加することを特徴とする。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
【0018】
本発明者らは、測定感度低下は、4-ヒドロキシアンチピリンがペルオキシダーゼと反応することにより過酸化水素が消費された結果生じるものと推察しているが、本発明において、この4-ヒドロキシアンチピリンの反応性をPIPES類及び/又はTris類を共存させることにより抑制できることを見出し本発明を完成した。
つまり、本発明の生体成分の測定感度低抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中にPIPES類及び/又はTris類を添加することにより、前記(d)の要件を満たす試薬中に混入する4-ヒドロキシアンチピリンPIPES類及び/又はTris類とを共存させて両者を反応させ、4-ヒドロキシアンチピリンの前記反応性を抑制することにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする。
【0019】
4-ヒドロキシアンチピリンが混入するアミノアンチピリン系化合物を含有する試薬において、PIPES類及び/又はTris類を反応させる時間は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。例えば、前記(d)の要件を満たす試薬中にPIPES類及び/又はTris類を添加した時点から、前記(d)の要件を満たす試薬中にPIPES類及び/又はTris類を共存させた状態で、1℃~10℃で少なくとも2週間、11℃~25℃で少なくとも1週間、26℃~40℃で少なくとも2日間、41℃~60℃で少なくとも5時間、61℃~80℃で少なくとも1時間にわたり反応させれば十分な効果を得ることができる。従って、厳密な温度制御をしない場合であっても、約1か月以上保管してPIPES類及び/又はTris類を反応させれば、本発明の効果を得ることが可能である。本発明では、上記のような期間にわたり4-ヒドロキシアンチピリンとPIPES類及び/又はTris類とを共存させて反応させた後に、前記(d)の要件を満たす試薬を使用することが好ましい。なお、上記の反応は製造後、在庫保管や流通段階の間に行われてもよい。
保管温度は、下限温度は試薬が凍結しない温度が好ましく、上限温度は試薬中の各種成分が変質や変性など品質劣化を生じない温度が好ましい。
【0020】
本発明の具体的な実施態様としては、例えば、前記(d)の要件を満たす試薬が製品試薬(例えば、酵素などのタンパク質を含む試薬)の場合には、当該製品試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加した後、PIPES類及び/又はTris類を共存させた状態で、冷蔵乃至は室温付近で在庫保管、流通、使用前保管することにより前記反応は進行するので、使用までに、前記(d)の要件を満たす試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加して製造した生体成分測定試薬キットの製造日から少なくとも2週間経過した後に、使用に供すればよい。
本発明の別の具体的な実施態様として、(d)の要件を満たす試薬が中間試薬(例えば、製品試薬に比し数倍乃至は数10倍濃度のアミノアンチピリン系化合物を緩衝液成分などで調整した試薬)の場合には、当該中間試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加した後、例えば30℃以上の温度条件では数日間、45℃以上の温度条件では数時間保管し、保管後所定濃度に希釈して製品試薬を調製すればよい。
なお、中間試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加する場合、製品試薬を調製する段階で、(d)の要件を満たす試薬中に共存するPIPES類及び/又はTris類を除いて製品試薬としてもよい。
【0021】
本発明者らは、このような4-ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、予め4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を共存させることにより抑えられることを見出した。PIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンによる感度低下を抑制するメカニズムは明らかではないが、本発明者らはPIPES類及び/又はTris類により4-ヒドロキシアンチピリンが何らかの構造変化を生じペルオキシダーゼと反応せず過酸化水素を消費しなくなると推察する。
なお、この点に関して、4-ヒドロキシアンチピリンの構造変化は、不可逆的な変化と推測され、PIPES類及び/又はTris類により抑制された4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度低下は、その後、当該共存試薬中からPIPES類及び/又はTris類を除いても、4-ヒドロキシアンチピリンとペルオキシダーゼとの反応が復活することはないと、本発明者らは推測する。
【0022】
本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法において、前記(d)の要件を満たす試薬中に共存させたPIPES類及び/又はTris類の濃度は20~2000mMであることが好ましく、50~1000mMであればより好ましく、100~1000mMであればさらに好ましく、200~800mMであれば特に好ましい。後述の試験例の結果に示されるように、前記(d)の要件を満たす試薬中に共存させるPIPES類及び/又はTris類の濃度は高くなるにつれて、より効果的に生体成分の測定感度低下を抑制することができる。従って、上記のような範囲でPIPES類及び/又はTris類を用いることで、コストや測定誤差発生の恐れを抑えつつ、十分に高い抑制効果を得ることが可能となる。
PIPES類及び/又はTris類の濃度が20mM未満では抑制効果が小さく、PIPES類及び/又はTris類の濃度が2000mMより多い場合では生体成分測定反応において測定誤差を生じる恐れがある。
なお、前記(d)の要件を満たす試薬中に共存させたPIPES類及び/又はTris類の好ましい濃度範囲は、前記(d)の要件を満たす試薬中に混入している4-ヒドロキシアンチピリン濃度に依存し、4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が低ければPIPES類及び/又はTris類の濃度が低くても生体成分の測定感度低下を抑制でき、4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が高ければより高濃度のPIPES類及び/又はTris類を用いることが効果的であることから、本発明の生体成分測定感度低下抑制方法において、PIPES類及び/又はTris類の濃度は混入している4-ヒドロキシアンチピリンの濃度に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0023】
本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が、PIPES類及び/又はTris類を添加する前の濃度で、0.1~50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。
前記PIPES類及び/又はTris類を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.1μg/ml未満の場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下が1%以下であり、PIPES類及び/又はTris類を共存させることにより測定感度低下を抑制する必要性が少ない。
前記イオンを添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度のPIPES類及び/又はTris類を必要とし、そのためPIPES類及び/又はTris類による副反応により測定誤差を生じやすい傾向がある。
本発明者らの検討により、一般的なアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)原薬には、0.005~0.30w/w%程度の4-ヒドロキシアンチピリンが混入していることが判明している。従って、本発明は、一例として0.01~100g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、好ましくは0.01~10g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、より好ましくは0.01~5g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬に用いられるのが効果的である。
なお、4-ヒドロキシアンチピリンの混入量が多い場合には、後述する4-ヒドロキシアンチピリンの除去方法などによって、予めアミノアンチピリン系化合物から4-ヒドロキシアンチピリンを除去してから生体成分測定に供することが好ましい。
【0024】
(生体成分)
本発明の生体成分測定試薬キットが測定対象とする生体成分は特に限定されず、各種の生体成分の測定に用いることができる。例えば、本発明の生体成分測定に用いられる生体成分は、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、トリグリセライド(TG)、コレステロール(CHO)、AST(GOT)、ALT(GPT)、LDH(乳酸脱水素酵素)とアイソザイム、ALP(アルカリ性フォスファターゼ)とアイソザイム、CK(クレアチンキナーゼ)とアイソザイム、アミラーゼ(Amy)とアイソザイム、リパーゼ、γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)、コリンエステラーゼ(ChE)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、リン(P)〔無機リン(IP)〕、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、総蛋白(TP)、血清蛋白分画(PF)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)、尿酸(UA)、ビリルビン(Bil)、アンモニア、コレステロール、HDLコレステロール(HDL-C、高密度リポタンパクコレステロール)、LDLコレステロール(LDL-C、低密度リポタンパクコレステロール)、中性脂肪(トリグリセリド)(TG)、コレステロール(CHO)、BTR(BTR、総分岐鎖アミノ酸/チロシン比)、チロシン測定試薬(TYR)、血糖(BS、GLU)、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG)、糖化アルブミン(GA)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
これらの生体成分に任意の酸化酵素及び必要に応じて他の酵素(例えば、加水分解酵素)類を作用させて過酸化水素を発生させることができる。例えば、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、トリグリセライド(TG)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)について、以下、生体成分測定の具体的な態様を説明する。
【0026】
尿酸(UA)を測定する場合は、尿酸(UA)を基質とするウリカーゼ(酸化酵素)の反応により生成した過酸化水素をペルオキシダーゼ-発色剤系により定量することができる。
【0027】
クレアチニン(CRE)を測定する場合は、クレアチニン(CRE)を基質とするクレアチニンアミジノヒドロラーゼの反応においては過酸化水素を直接生じないので、クレアチニンアミジノヒドロラーゼの反応で生じたクレアチンを予め試薬に添加したクレアチンアミドヒドロラーゼと反応させてサルコシンを生じさせ、さらに、サルコシンを予め試薬に添加したサルコシンオキシダーゼ(酸化酵素)を用いて過酸化水素を生じさせる、いわゆる共役反応を設計することにより、ペルオキシダーゼ-発色剤系によるクレアチニン(CRE)濃度の定量が可能になる。
【0028】
トリグリセライド(TG)を測定する場合は、トリグリセライド(TG)を基質とするリポプロテインリパーゼ、および、共役酵素としてグリセロールキナーゼ、グリセロール3リン酸オキシダーゼ(酸化酵素)を用いて過酸化水素を生じさせることにより、ペルオキシダーゼ-発色剤系によるトリグリセライド(TG)濃度の定量が可能になる。
【0029】
糖化ヘモグロビン(HbA1c)を測定する場合は、糖化ヘモグロビンを基質とする糖化ヘモグロビンオキシダーゼ(例えば、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ)の反応により生成した過酸化水素をペルオキシダーゼ-発色剤系において定量することができる。
【0030】
このように、測定対象を直接酸化して過酸化水素を発生させる反応を触媒する適当な酵素がなくても、酸化水素を発生することができる酸化酵素の基質に測定対象を変化させうる反応を触媒する酵素(何段階かの酵素反応を繋げてもよい。)と、前記酸化酵素とを組み合わせた共役反応を適宜設計することにより、上記以外の生体成分の濃度又は量を測定することも可能である。その他の生体成分を測定する場合であっても、上記と同様にして、当該分野で周知の方法により過酸化水素を発生させることができる。
【0031】
上記で挙げた生体成分の中でも、クレアチニン(CRE)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)は、生体成分の含有量が極めて少ないため、とりわけ高感度の測定が求められている。本発明によれば、酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の反応を阻害する4-ヒドロキシアンチピリンの影響を抑えて、生体成分測定の感度低下を抑制できるので、このように高感度の測定が求められる生体成分の測定に有益である。従って、本発明はクレアチニン、糖化ヘモグロビンの測定に好適であり、なかでも、クレアチニンの測定に好適に用いられる。
【0032】
(生体成分測定キット)
一つの実施態様において、本発明の生体成分測定キットは、前述のようなピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含有する測定感度低下抑制剤を含む。
更なる実施態様において、本発明の生体成分測定キットは、以下の(a)~(e)の要件を満たし、以下の(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬としてなることを特徴とする。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
(e)ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
【0033】
前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬は、先述のように、(d)の要件を満たす試薬中にPIPES類及び/又はTris類を添加することによって製造することができる。
【0034】
本発明の生体成分測定キットは、(d)及び(e)の2つの要件を満たす一つの試薬が、製造後少なくとも1か月間を経過していることが好ましい。
本発明者らは、4-ヒドロキシアンチピリンがペルオキシダーゼと反応し、その結果過酸化水素が消費されると推測しているが、この4-ヒドロキシアンチピリンの反応性を4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を添加することにより抑制できることを本発明において見出した。
この抑制反応の反応速度は、反応温度と反応時間が影響し得るが、当該生体成分測定キットの通常の保管条件では保管期間が数週間から1か月以上で抑制効果を生じることから、本発明の生体成分測定キットは製造後少なくとも1か月を経過していることが好ましい。
なお、通常、かかる測定キットは製造後、在庫・流通のプロセスを経て使用されるまでには1カ月乃至は数カ月を要すると考えられ、その間に抑制反応は進行し本発明の効果は奏されることとなる。
【0035】
(生体成分測定方法)
本発明の生体成分測定方法は、先述の生体成分測定キットを用いて生体成分を測定することを特徴とする。
【0036】
(生体成分測定キットの製造方法)
本発明の生体成分測定キットの製造方法は、以下の(a)~(e)の要件を満たす、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下が抑制された生体成分測定試薬キットの製造方法であって、(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬として製造することを特徴とする。
(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。
(b)ペルオキシダーゼを含む。
(c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。
(d)該酸化還元発色試薬のカップラーとしてアミノアンチピリン系化合物を含む。
(e)ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝剤を含む。
ここで、前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬について2つの要件を同時に満たす一つの試薬として製造されることが好ましいこと、及び当該試薬が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制するに十分な期間(例えば、約1か月以上)を経過したものとすることが好ましい理由については、先述の通りである。
【0037】
本発明の生体成分測定キットの製造方法において、前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬については2つの要件を同時に満たす一つの試薬が、生体成分測定試薬キットの製造プロセスでの中間試薬であって、当該中間試薬を用いて製品試薬を調製してもよい。
【0038】
上記の通り、本発明の生体成分測定キットは、4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を添加して4-ヒドロキシアンチピリンの反応性を抑制する必要があるが、この抑制反応は製品試薬として前記(d)の要件を満たす試薬中に混入する4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を共存させることのよって行なってもよいが、この抑制反応は必ずしも製品試薬中で行う必要はなく、例えばアミノアンチピリン系化合物を含有する試薬の調製過程において中間試薬などの状態でPIPES類及び/又はTris類を添加し、その後抑制反応を行った後に、中間試薬を用いて製品試薬を製造して生体成分測定キットとして提供してもよい。
上記でアミノアンチピリン系化合物を含有する試薬中間体とは、例えば、アミノアンチピリン系化合物を配合した試薬を製造する工程でアミノアンチピリン系化合物の原体を緩衝液などにより希釈し、アミノアンチピリン系化合物濃度として製品試薬の数倍乃至は数十倍程度の濃度に調整した中間試薬などを意味する。
【0039】
本発明の生体成分の測定キットは、アミノアンチピリン系化合物を含有する中間試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加して抑制反応を行う場合には、中間試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加した後製品製造日までの期間と製品製造日から製品使用日までの期間の合計が、少なくとも1か月間であることが好ましい。
【0040】
本発明のPIPES類及び/又はTris類は、アミノアンチピリン系化合物の不純物として混入する4-ヒドロキシアンチピリンと共存させることにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度低下を抑制するものと推測する。
本発明のPIPES類及び/又はTris類を4-ヒドロキシアンチピリンと共存させることにより生体成分測定の感度低下が抑制される理由に関しては定かではないが、PIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに直接的に乃至は間接的に作用することにより、4-ヒドロキシアンチピリンに何らかの変化を生じ、その結果、4-ヒドロキシアンチピリンがペルオキシダーゼと反応することによる過酸化水素の消費が減少し、感度低下が抑制されるものと考えられる。ここにおいて、前記4-ヒドロキシアンチピリンの変化は不可逆的であることが予想され、一旦変性して無害化された4-ヒドロキシアンチピリンは通常の生体成分測定キットの保管条件では、感度低下を引き起こすことはないと推測される。
このため、前記中間試薬にPIPES類及び/又はTris類を添加した場合などには、その後製品試薬を製造する段階においてPIPES類及び/又はTris類を除いて製品試薬を製造することが可能と考えられるが、このような製品試薬を用いて製造した生体成分の測定試薬キットやその製造方法も本発明の範囲内である。
【0041】
本発明に用いるピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)及びその塩は、PIPESとも呼ばれるいわゆるグッド緩衝剤の一つである。PIPESの塩の形態としては、本発明の効果を奏する限り限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。PIPESの塩の形態として好ましくは、ナトリウム塩(例えば、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)二ナトリウム等)である。
【0042】
また、本発明に用いるトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びその塩は、Tris(トリス)とも呼ばれる、周知の緩衝剤の一つである。Trisの塩の形態としては、本発明の効果を奏する限り限定されず、例えば、塩酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。Trisの塩の形態として好ましくは塩酸塩(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、「Tris-HCl」ともいう)である。Tris-HClは、トリスの水溶液(pH 10.5程度)にHClを滴下して望みのpHに調整して用いることができる。
【0043】
本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類の使用量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。
なお、前記した通り、本発明ではPIPES類及び/又はTris類は、アミノアンチピリン系化合物の中間試薬やアミノアンチピリン系化合物と共に配合された製品試薬として用いることが好ましく、一例として、前記中間試薬や製品試薬中のPIPES類及び/又はTris類濃度が20~2000mMとなるように調製して用いればよく、好ましくは前記試薬中間体や試薬中のPIPES類及び/又はTris類濃度が50~1000mM、より好ましくは100~1000mM、さらに好ましくは200~800mMとなるように配合量を調製して用いればよい。後述の試験例の結果に示されるように、より高濃度のPIPES類及び/又はTris類を用いることで、生体成分の測定感度低下が高められることが確認されている。従って、このような量でPIPES類及び/又はTris類を用いることにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定試薬キットの感度低下を効果的に抑制することができる。
【0044】
本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類は、アミノアンチピリン系化合物と共に配合した後に、アミノアンチピリン系化合物の不純物として含有される4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、配合した後に一定時間の経過させることが好ましい。
本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃~10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃~25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃~40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃~60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃~80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。
なお、経過時間の上限を超えても、生体成分測定キットに用いる試薬品質の劣化を生じない限り、本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果は維持される。
【0045】
上記において、一般的な生体成分測定キットの製品ライフサイクルにおいては、生産工程において試薬配合され、品質試験、出荷、流通、保管、使用されるまでに約数週間乃至は1カ月以上を要するため、本発明のPIPES類及び/又はTris類をアミノアンチピリン系化合物と共存させた試薬を含む測定キットは、使用される段階においては、本発明に用いるPIPES類及び/又はTris類による感度低下抑制効果が発現され維持された状態になるが、製品ライフサイクルが短くなった場合などは、製造のプロセス管理や出荷時の製品管理等により調製することが可能である。
【0046】
前記(d)及び(e)の要件を満たす試薬については2つの要件を同時に満たす一つの試薬のpHは、本発明の効果を奏する限り限定されず、例えばpH6~12とすることができる。特定の実施態様では、この試薬のpHを8未満とすることもでき、例えば、pH6~8、好ましくはpH7~8とすることができる。
【0047】
(酸化酵素)
本発明に用いる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、ウリカーゼ、サルコシンオキシダーゼ、グリセロール3リン酸オキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ等を用いることができるが、これらに限定されない。市販品としては、UAO-211(東洋紡製)、SAO-351(東洋紡製)、G3O-311(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。
【0048】
(ペルオキシダーゼ)
本発明に用いるペルオキシダーゼとしては、過酸化水素と酸化還元系発色試薬との反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよく、例えば植物由来、細菌由来、担子菌由来のペルオキシダーゼが挙げられる。これらの中でも、純度、入手の容易性、価格等の理由から、西洋ワサビ、イネ、大豆由来のペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼがより好ましい。市販品としては、PEO-131(東洋紡製)、PEO-301(東洋紡製)、PEO-302(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。
【0049】
ペルオキシダーゼ活性は、以下の方法で定義する。
蒸留水14mL、5%(W/V)ピロガロール水溶液2mL、0.147M過酸化水素水1mL及び100mM リン酸緩衝液(pH6.0)2mLを順次混合した後、20℃にて5分間予備温調し、サンプル溶液1mLを加え、酵素反応を開始する。
20秒間反応を行った後、2N 硫酸水溶液1mLを加えることにより反応を停止し、生成したプルプロガリンをエーテル15mLにて5回抽出する。
抽出液を合わせた後、全量100mLとし、波長420nmにおける吸光度を測定する(ΔODtest)。
一方、盲検は蒸留水14mL、5% ピロガロール水溶液2mL、0.147M 過酸化水素水1mL及び100mMリン酸緩衝液(pH6.0)2mLを順次混合した後、2N 硫酸水溶液1mLを加えて混和し、次いでサンプル溶液1mLを加えて調製する。
この液につき、上記と同様にエーテル抽出を行って吸光度を測定する(ΔODblank)。
ΔODtest及びΔODblankの吸光度の差より生成するプルプロガリン量を算出し、ペルオキシダーゼ活性を算出する。
上記条件で20秒間に1.0mgのプルプロガリンを生成する酵素量を1プルプロガリン単位(U)とする。計算式は、以下に示す通りである。
ペルオキシダーゼ活性(U/mL)={ΔOD(ODtest-ODblank)×希釈倍率}/{0.117×1(mL))=ΔOD×8.547×希釈倍率
ペルオキシダーゼ活性(U/mg)=ペルオキシダーゼ活性(U/mL)×1/C
0.117 :1mg% プルプロガリンエーテル溶液の420nmにおける吸光度
C :溶解時の酵素濃度(c mg/mL)
(1プロプルガリン単位は13.5国際単位(o-dianisidineを基質とし、25℃の反応条件下)に相当する。)
【0050】
なお、上記測定において、サンプル溶液は、予め氷冷した0.1Mリン酸緩衝液pH6.0で溶解し、同緩衝液で3.0~6.0プルプロガリン単位(U)/mLになるよう希釈して測定に供することが好ましい。
【0051】
(酸化還元発色試薬)
本発明の生体成分測定に用いられる酸化還元発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0052】
水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。
【0053】
(水素供与体)
本発明の生体成分測定法においては、トリンダー法などに用いる水素供与体として、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体などが用いられる。
【0054】
たとえば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-スルホプロピルアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-2,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0055】
(カップラー)
これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。
【0056】
カップラーとしては、4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物;バニリンジアミンスルホン酸等のバニリンジアミンスルホン酸系化合物;メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等のメチルベンズチアゾリノンヒドラゾン系化合物などを挙げることができる。
【0057】
本発明は、アミノアンチピリン系化合物に含まれる極微量の4-ヒドロキシアンチピリンにより引き起こされる生体成分測定試薬キットの感度低下を抑制することができるので、アミノアンチピリン系化合物をカップラーとして用いる場合に効果的である。とりわけ、本発明は、4-アミノアンチピリンをカップラーとして用いる場合に有益である。
本発明に用いるカップラーは、2種以上のアミノアンチピリン系化合物であってもよいし、アミノアンチピリン系化合物に加えて他のカップラーを組み合わせて用いてもよいが、好ましくは1種のアミノアンチピリン系化合物を用いるのがよく、より好ましくは4-アミノアンチピリンを用いるのがよい。
【0058】
本発明に用いるアミノアンチピリン系化合物の使用量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。アミノアンチピリン系化合物には、感度低下を生じさせる4-ヒドロキシアンチピリンが極微量に含まれる場合があり、4-ヒドロキシアンチピリンの量を低減させることが望まれるが、本発明によれば、PIPES類及び/又はTris類を共存させることで、4-ヒドロキシアンチピリンを多少含んでいても感度低下を抑制できる。このような観点から、一例として、PIPES類及び/又はTris類と共存させる前のアミノアンチピリン系化合物を含有する試薬中に混入する4-ヒドロキシアンチピリンの濃度を、好ましくは0.1~50μg/ml、より好ましくは0.3~20μg/ml、特に好ましくは1~10μg/mlとなるように生体成分測定に用いるアミノアンチピリン系化合物の使用量を調製して用いるのが効果的である。
4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が上記範囲を下回る場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下の影響が少なく、PIPES類及び/又はTris類を共存させることによる測定感度低下の抑制する必要性が少ない。
4-ヒドロキシアンチピリンの濃度が上記範囲を上回る場合は、4-ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度のPIPES類及び/又はTris類を必要とし、そのためPIPES類及び/又はTris類による発色副反応を生じ、生体成分の測定精度が低下しやすい傾向がある。
なお、4-ヒドロキシアンチピリンの混入量が多い場合には、後述する4-ヒドロキシアンチピリンの除去方法などによって、予めアミノアンチピリン系化合物に混入する4-ヒドロキシアンチピリンを除去してから生体成分測定に供することが好ましい。
一般的なアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)における4-ヒドロキシアンチピリン混入量を考慮すると、本発明は、一例として0.01~100g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、好ましくは0.01~10g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬、より好ましくは0.01~5g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4-アミノアンチピリン)を含む試薬に用いることが効果的である。
このような範囲でアミノアンチピリン系化合物を用いることにより、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0059】
(4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法)
アミノアンチピリン系化合物中の4-ヒドロキシアンチピリンの含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフ法(以下、HPLC法ともいう)、ガスクロマトグラフ法(以下、GC法ともいう)、質量分析法(以下、MS法ともいう)、核磁気共鳴法(以下、NMR法ともいう)などの定量方法を単独で、又は任意に組み合わせて行うことにより測定することができる。特に制限されるものではないが、操作の簡便性やシステム・設備などの経済性の観点から、HPLC法が好ましく用いられる。HPLC法のカラムとしては、逆相カラムが好ましく、逆相カラムがシリカベースの多孔質カラムであればより好ましい。
【0060】
以下、HPLC法の具体的な態様例を説明する。本明細書では、4-ヒドロキシアンチピリンは以下のHPLC法の条件により定量した。
(1)カラム ImtaktCadenza CD-C18 2.0×150mm
(2)移動相 A:0.1%ギ酸、B:メタノール
(3)グラジエント条件
0min(A95%、B5%)-(この間リニアグラジエント)-15min(A2%、B98%)-25min(A2%、B98%)
(4)流速 0.2mL/min
(5)カラム温度 40℃
(6)試料注入量 5μL
(7)検出波長 UV250nm
濃度既知の4HA(シグマ社)のものを標準品として使用し、測定試料とのHPLCのフラクションピークの検出位置の一致を確認した。また、測定試料とのフラクションピークの面積を比較して定量を行った。シグマ社の4HA(4-Hydroxyantipyrine)としてはCas.NO.1672-63-5、製品番号109428-5G、純度99%の製品を用いた。
本発明では、4-ヒドロキシアンチピリンの定量方法として上記の方法を用いることが好ましい。
【0061】
(4-ヒドロキシアンチピリン)
4-ヒドロキシアンチピリンは、4-アミノアンチピリンの4位のアミノ基が水酸基に変換された構造であり、4-アミノアンチピリンの製造工程で生成混入した副産物と考えられる。
【0062】
4-ヒドロキシアンチピリンは、混入量が極僅かであっても、生体成分測定法での発色反応において呈色反応に多大な影響を及ぼすことが、本発明者らの検討により明らかとなっている。この現象は、本来カップラーとして反応させることを意図していたアミノアンチピリン系化合物(例えば、4-アミノアンチピリン)よりも、4-ヒドロキシアンチピリンの反応速度が早く過酸化水素を消費させることが原因であると推察される。
【0063】
本発明の生体成分測定試薬キットでは、4-ヒドロキシアンチピリンを含み得るアミノアンチピリン系化合物の原薬をそのまま用いてもよいし、アミノアンチピリン系化合物の原薬の中から4-ヒドロキシアンチピリン含量が低いものを定量して選別したものを用いてもよいし、アミノアンチピリン系化合物の原薬において4-ヒドロキシアンチピリンを除去するなどして4-ヒドロキシアンチピリン含量を低減させたものを選別して用いてもよい。
【0064】
アミノアンチピリン系化合物から4-ヒドロキシアンチピリン含量を低減させる方法には特に制限がない。例えば、生体成分測定試薬からHPLCなどのクロマトグラフィーを用いる方法、水や溶媒に溶解した後、樹脂などの吸着材に4-ヒドロキシアンチピリンを吸着させて除去する方法などの当該分野で周知の任意の手段を用いて分離・除去を行えばよい。
アミノアンチピリン系化合物から4-ヒドロキシアンチピリンを除去する手段として、クロマトグラフィーを用いる場合、その分離の物理化学的原理は特に限定されない。例えば、分配(順相・逆相)、吸着、分子排斥、イオン交換などの諸原理が挙げられる。リガンドを結合させた樹脂や吸着材に吸着させる方法などにより分離を行えばよい。
【0065】
前記の4-ヒドロキシアンチピリン除去手段として、一般的な逆相クロマトグラフィーを用いることが出来る。逆相クロマトグラフィーの担体は特に限定されない。例えばシリカゲルが好適であるがポリマー系の担体でも良い。シリカゲルを担体として使用する場合はエンドキャップ処理をしたもの、及びしないものも選択できる。また、クロマトグラフィー装置は、低圧、中圧、高圧のいずれのクロマトグラフィーシステムであっても条件を目的に合わせて適正に調製することにより使用可能である。
クロマトグラフィー担体に結合するリガンドの種類も特に限定されない。リガンドは汎用されているオクタデシル基(ODS)の他、フェニル基、オクチル基も条件を適正化することで選択することが出来る。リガンドの結合は、モノメリックでもポリメリックでも良い。いずれの充填剤であっても分離条件を適正化することで使用可能である。
クロマトグラフィーの移動相は水と、メタノールまたはアセトニトリルのような水溶性の溶剤を使用すれば良く、シリカゲルのシラノール基とのイオン的相互作用を回避するため常法に従いクロマトグラフィー移動相のpHを酸性側に調製、またはイオンペア試薬を微量添加しても良い。
移動相の流速は、使用するシステムの能力によって最適化すればよい。また、リニアグラジエントではなく、ステップワイズで溶出させ分離してもよい。
【0066】
(その他の成分等)
本発明の生体成分測定試薬キットには、緩衝液成分を含有する試薬を含むことが好ましい。また、本発明の生体成分測定試薬キットに含まれる試薬には、アスコルビン酸オキシダーゼ、防腐剤、塩類、酵素安定化剤、色原体安定化剤などを反応に影響を及ぼさない範囲で添加してもよい。
【0067】
本発明の生体成分測定試薬に含有させることができる緩衝液成分としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、GOOD緩衝液などが挙げられる。その使用量や設定pH、添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0068】
GOOD緩衝液としては、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノメタンスルホン酸(TES)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、3-〔N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸(EPPS)、2-ヒドロキシ-3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸(HEPPSO)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N-(2-アセトアミド)イミノニ酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、などが例示される。
【0069】
本発明の生体成分測定試薬において、アスコルビン酸オキシダーゼ、防腐剤、塩類、酵素安定化剤、色原体安定化剤などの使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0070】
防腐剤としては、プロクリン150、プロクリン200、プロクリン300、プロクリン950、アジ化物、キレート剤、抗生物質、抗菌剤などが挙げられる。
【0071】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等が挙げられる。
【0072】
抗生物質としては、ゲンタマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール等が挙げられる。
【0073】
抗菌剤としては、メチルイソチアゾリノン、イミダゾリジニルウレア等が挙げられる。
【0074】
塩類としては塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。
【0075】
酵素安定化剤としては、シュークロース、トレハロース、シクロデキストリン、グルコン酸塩、アミノ酸類等が挙げられる。
【0076】
色原体安定化剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等のキレート剤、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0077】
本発明の生体成分測定試薬キットに含まれる試薬は任意の溶媒(例えば、精製水、有機溶媒等)に溶解された液状試薬であってもよいし、使用前に上記と同様の溶媒で溶解して用いられる乾燥粉末状試薬(例えば、凍結乾燥粉末)等であってもよい。
【0078】
(生体成分測定試薬キットを用いた測定方法)
本発明の生体成分測定キットを用いて生体成分を測定する場合、汎用の自動分析機(例えば、日立7180形自動分析機)を用いることができる。本発明の生体成分測定キットは、このような自動分析機に適用できるよう構成されたものであってもよい。その態様は特に限定されず、例えば、液状試薬で構成されたキット、凍結乾燥などの手段により製造された乾燥試薬と溶解液の組み合わせで構成されたキット、適当な担体に酵素などを担持させた形態のいわゆるドライシステムなどと呼ばれるキットやセンサを用いる形態のキットなど種々の形態が例示できる。
【0079】
本発明の生体成分測定キットの構成として、試薬が1つで構成されたキット、また試薬が分包されて2乃至3以上で構成されたキットが用いられる。試薬を分包して2以上の試薬で構成されたキットとする場合、例えば、(a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素及び(c)酸化還元発色試薬のうちの水素供与体を含む試薬と、(b)ペルオキシダーゼ及び(d)酸化還元発色色素のうちのカップラーとしての4-アミノアンチピリンを含む試薬に分包してキットを構成させてもよい。
【0080】
以下、試薬を2つに分包した液状試薬(以下、2試薬系の液状試薬とも記載する)で構成されたキットの形態を例について説明する。
【0081】
この形態の試薬を用いて自動分析機で分析する方法では、試料にまず1種類目の試薬(以下、第一試薬またはR1とも記載する。)を添加して一定時間反応させ、次いで2種類目の試薬(以下、第二試薬またはR2とも記載する)をさらに添加して反応させ、この間の吸光度の変化を測定することにより目的成分を定量することができる。
【0082】
なお、本発明の生体成分測定試薬を、例えば前記のように自動分析機への適用を考慮して2つ以上に分包して供給する場合、各分包試薬中のPIPES類及び/又はTris類濃度やその他の成分の濃度が、前記の各成分の好ましい濃度の範囲内であるか否かが判定される。
【0083】
(生体成分測定方法)
本発明が対象とする生体成分測定方法は、以下の(1)~(3)の工程を含む。
(1)生体成分に酸化酵素を作用させ、過酸化水素を発生させる工程、
(2)工程(1)で発生させた過酸化水素が、ペルオキシダーゼを共存させることによりペルオキシダーゼが作用することにより、4-アミノアンチピリンと酸化還元発色試薬を酸化縮合することにより反応液を呈色させる工程、
(3)工程(2)で呈色した反応産物を比色定量する工程。
【0084】
本発明の生体成分測定方法は、酵素法による生体成分測定方法であって、特に酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系による方法であり、すなわち検体中の生体成分を酵素反応させることにより生体成分の量に応じた過酸化水素を発生させ、これをペルオキシダーゼの存在下で発色剤と反応させて生じた発色を比色定量することを測定原理とするものである。
この原理を用いる生体成分測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、その知見を本発明に適用して、各種試料中の生体成分の量または濃度を測定することができ、その態様は特に制限されるものではない。
【0085】
本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物(特に、4-アミノアンチピリン)の原薬中に極微量に含まれる4-ヒドロキシアンチピリンが、この酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系の反応を阻害し、感度低下を招くことを初めて見出した。4-ヒドロキシアンチピリンが上記反応を阻害するメカニズムは必ずしも明らかではないが、その構造から、ペルオキシダーゼの作用により過酸化水素存在下、酸化還元発色試薬と4-ヒドロキシアンチピリンが縮合反応を起こし、過酸化水素を消費してしまうことが推察される。そして、本発明者らは、このような4-ヒドロキシアンチピリンに起因する反応阻害が、予め4-ヒドロキシアンチピリンにPIPES類及び/又はTris類を共存させて反応させることにより抑えられ、感度低下を抑制できることを見出した。PIPES類及び/又はTris類が4-ヒドロキシアンチピリンによる感度低下を抑制するメカニズムも明らかではないが、PIPES類及び/又はTris類により4-ヒドロキシアンチピリンが何らかの構造変化を生じ、ペルオキシダーゼと反応しにくくなり過酸化水素を消費しなくなることが推察される。
【0086】
(検体)
本発明の生体成分測定に用いられる生体成分を含有する検体としては、例えば、血液(特に、血清や血漿など)、尿、腹水、髄液などの生体の体液や、飲料、食品などの人が摂取するものなどが挙げられる。なかでもヒトの体液(血清、血漿等の血液に由来する試料や、尿に由来する試料等)を測定対象の検体とすることが好ましい。
【0087】
(生体成分測定試薬キットの検出感度)
本発明は、PIPES類及び/又はTris類を用いることにより、PIPES類及び/又はTris類を用いない場合に比べて、酸化酵素-ペルオキシダーゼ-発色剤系による酵素法での生体成分測定において、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する検出感度の低下を抑制することができる。
以下、生体成分としてクレアチニンを一例として、生体成分測定試薬キットの検出感度について説明する。
【0088】
近年、eGFR(推算糸球体濾過量ともいう)の算出には小数点下二桁までのクレアチニンの測定精度が求められており、最少検出感度としてはクレアチニン濃度で0.03mg/dL程度が要求されている。
【0089】
一方、自動分析機の測定精度として、クレアチニン試薬のブランクの変動はσ=0.045~0.114mABS程度であり、一般的に体外診断薬の最小検出感度とされる2.6σ(99.5%正規分布)は0.117~0.296mABS程度となる。
従って、2.6σの最大値の0.296mABS、つまり約0.3mABS以上の吸光度があればシグナルとして検出可能であり、クレアチニンの存否判断やクレアチニンの定量が可能になると考えられる。
【0090】
本発明によれば、PIPES類及び/又はTris類を用いることにより、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定試薬キットの感度低下を抑制し、上記のようなレベルまで検出感度を高めることが可能となる。
【0091】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて又は変更若しくは置き換えて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0092】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)4HAのHPLCによる分離
試薬感度低下度合いは4AAのロット差に起因することを見出したため、4AA中に極微量に含まれる不純物の含有量がロットごとに異なると推測し、前記の4HAの定量法(HPLC法)で不純物の検出を行った。なお、ロット差の検討に使用した4AAの純度はJIS-K8048にて98.0%以上のものを使用した。
【0094】
4AAを分析した場合のHPLCフラクションを図1に示す。図1において、グラフ横軸の溶出時間が7~8分付近に認められる大きなピークが、4-アミノアンチピリンのピークである。今回のHPLCフラクションでは、図1に示されるように、4-アミノアンチピリン以外に、3種類の不純物を確認した。
【0095】
(実施例2)4HAの同定
実施例1の図1で見られた3種類の不純物(a、b、c)について各ロットの含有量を検討したところ、不純物bのみロットごとに含有量が大きく異なることがわかった。そこで、これら3種類の物質について質量分析(MSスペクトル法)にて分子量および構造を解析した。
【0096】
その結果、不純物bは4-ヒドロキシアンチピリン(4HA)であると同定された。図2に4HAの構造式を示す。
【0097】
濃度既知の4HA(シグマ社)を標準品として用い、実施例1と同条件でHPLCを実施したところ、4HAと不純物bのフラクションピークは一致した。
【0098】
(実施例3)クレアチニン測定感度に及ぼす4HAの混入濃度依存性
生体成分としてクレアチニンを用いて、試薬中に混入した4HAに起因する測定感度低下に関して、4HAの混入量依存性を評価した。
下記のクレアチニン測定試薬の第二試薬に、4HAを試薬中終濃度で0.13~8.75μg/mlとなるように添加し各々の測定試薬を調製した。生体成分試料として、5mg/dLクレアチニン水溶液を用いた。
【0099】
[試薬の調製]
下記組成からなるクレアチニン測定試薬をそれぞれ調製した。ここで、4-アミノアンチピリンは、市販の4-アミノアンチピリン原体を精製し、4-ヒドロキシアンチピリンを含まない4-アミノアンチピリンを製造し、用いた。
第一試薬
PIPES-NaOH 50mM pH7.4
アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡製ASO-311) 3U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡製SAO-351) 10U/mL
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製CRH-229) 40U/mL
カタラーゼ(東洋紡製CAO-509) 130U/mL
N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン 0.14g/L
第二試薬
PIPES-NaOH 50mM pH7.4
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製CNH-311) 400U/mL
ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO-302) 10U/mL
4-アミノアンチピリン 0.6g/L
【0100】
[測定法]
日立7180形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試薬 120μL添加し37℃にて5分間インキュベーションし第一反応とした。その後第二試薬を40μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とした。第一反応および第二反応の吸光度を液量補正した各吸光度の差をとる2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度(主波長)および800nmにおける吸光度(副波長)を測定した。主波長から副波長を引いた吸光度を算出して求めた。
なお、本測定条件での4HAの反応中の濃度は0.03~2.14μg/mlとなる。
【0101】
【表1】
【0102】
結果を表1および図3に示す。第2試薬中の4HA濃度が高くなるにしたがって、試料測定感度が低下することを確認した。
【0103】
(実施例4)TrisHCl/PIPESによる感度低下抑制効果
TrisHCl及びPIPESについて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。
実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。
TrisHCl又はPIPESを所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるようにPIPES-NaOHの代わりに添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。また、試験に用いた各第二試薬のpHを実測した。
結果を表2に示す。
【表2】
【0104】
この結果から、TrisHCl又はPIPESを共存させることにより、4HAに起因する感度低下を効果的に抑制できることを確認した。
つまり、4HAを10μg/mlとなるように添加した対照(b)の測定感度が35℃3日間で47%であるのに対して、TrisHCl又はPIPESを用いた結果では、測定感度が35℃3日間で56%~99%であった。ここで、35℃での評価は、冷蔵保存条件の加速試験に相当する。従って、冷蔵条件であっても、長期間にわたってTrisHCl又はPIPESを反応させることで、4-ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることが推察される。また、上記試験結果に示されるように、TrisHClとPIPESのいずれを用いる場合であっても、添加濃度が高くなるにつれて、より高度に感度低下を抑制できることが明らかとなった。
【0105】
(実施例5)PIPESによる感度低下抑制効果
PIPESを用いて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。
実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同一条件にて行った。
PIPESを所定の第二試薬中終濃度となるように、クレアチニン測定試薬の第二試薬に添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。また、試験に用いた各第二試薬のpHを実測した。
結果を表3に示す。
【表3】
【0106】
この結果から、これらの成分を用いた場合であっても、4HAに起因する感度低下を抑制できることが確認された。
つまり、4HAを10μg/mlとなるように添加した対照(b)の測定感度が35℃3日間で45%であるのに対して、PIPESを用いた結果では、測定感度が35℃3日間で54%~90%であった。また、上記実施例4と同様に、PIPESの濃度が高くなるにつれて、感度低下抑制効果がより一層効果的に高められることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
生体成分を酸化還元反応を利用して測定する測定方法、および、該方法に用いる試薬や組成物に適用できる。
図1
図2
図3