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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063638
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】センサ素子及び撮像素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/22 20060101AFI20230428BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
G01N27/22 C
G01N27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173584
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】安部 隆
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 洋輔
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA14
2G060AC01
2G060AF08
2G060AF11
2G060AG03
2G060AG10
2G060GA01
2G060HC10
2G060JA03
2G060JA07
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】検出に不要なフリンジ電界を抑制することができるセンサ素子及び撮像素子を提供する。
【解決手段】センサ素子10は、コンデンサ30及び浮遊導体50を備える。コンデンサ30は、同一面上において互いに間隔を空けて設けられた第1電極31及び第2電極32を有する。浮遊導体50は、コンデンサ30の厚さ方向においてコンデンサ30と間隔を空けて位置する。浮遊導体50には、コンデンサ30と対応した位置に開口部51が設けられる。コンデンサ30は、電圧の印加に応じて発振する振動子61と電気的に接続される。検出の対象物9の誘電率及び導電率の少なくともいずれかの変化に応じて、振動子61の発振周波数が変化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一面上において互いに間隔を空けて設けられた第1電極及び第2電極を有するコンデンサと、
前記コンデンサの厚さ方向において前記コンデンサと間隔を空けて位置する浮遊導体と、を備え、
前記浮遊導体には、前記コンデンサと対応した位置に開口部が設けられ、
前記コンデンサは、電圧の印加に応じて発振する振動子と電気的に接続され、
検出の対象物の誘電率及び導電率の少なくともいずれかの変化に応じて、前記振動子の発振周波数が変化する、
センサ素子。
【請求項2】
前記コンデンサと前記浮遊導体の間に位置する誘電体をさらに備える、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記コンデンサは、前記振動子と直列接続の関係にあり、
前記第2電極は、前記第1電極の周囲に設けられ、
前記第1電極は、前記振動子と接続される、
請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記開口部の中に位置する複数の微小浮遊導体をさらに備える、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
複数の配列された、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子を備える、
撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子及びこれを備える撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載のように、水晶振動子等の振動子と直列に接続されたコンデンサを用い、振動子の発振周波数の変化に基づいて対象物の導電率などを検出するセンサが知られている。特許文献1に記載のセンサは、振動子と直列に接続される第1コンデンサと、第1コンデンサと並列に接続され、電極間に対象物である液体が配置される第2コンデンサとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6624431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように、コンデンサの対向電極間に対象物を配置する構成は、電界が対向電極間に閉じ込められるため、対象物を非接触で検出する用途には向いていない。対象物を非接触で検出するには、同一面上に展開した一対の電極からなるコンデンサ(以下、同一面展開型コンデンサと言う。)を用いることで、コンデンサに生じるフリンジ電界を面外に広げる手法が考えられる。しかしながら、同一面展開型コンデンサを単に用いただけでは、フリンジ電界が広がりすぎて、所望の対象物以外の状態変化を捉えてしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、検出に不要なフリンジ電界を抑制することができるセンサ素子及び撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るセンサ素子は、
同一面上において互いに間隔を空けて設けられた第1電極及び第2電極を有するコンデンサと、
前記コンデンサの厚さ方向において前記コンデンサと間隔を空けて位置する浮遊導体と、を備え、
前記浮遊導体には、前記コンデンサと対応した位置に開口部が設けられ、
前記コンデンサは、電圧の印加に応じて発振する振動子と電気的に接続され、
検出の対象物の誘電率及び導電率の少なくともいずれかの変化に応じて、前記振動子の発振周波数が変化する。
【0007】
前記センサ素子は、前記コンデンサと前記浮遊導体の間に位置する誘電体をさらに備えていてもよい。
【0008】
前記コンデンサは、前記振動子と直列接続の関係にあり、
前記第2電極は、前記第1電極の周囲に設けられ、
前記第1電極は、前記振動子と接続されてもよい。
【0009】
前記センサ素子は、前記開口部の中に位置する複数の微小浮遊導体をさらに備えていてもよい。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る撮像素子は、
複数の配列された、前記センサ素子を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検出に不要なフリンジ電界を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る非接触検出装置の構成を示す図である。
図2】同上実施形態に係るコンデンサが形成された基板の平面図である。
図3】同上実施形態に係る振動子及びコンデンサの等価回路図である。
図4】セメント硬化プロセスにおける周波数応答の経時変化例を示し、(a)は誘電率の変化に起因する図であり、(b)は導電率の変化に起因する図である。
図5】土壌の種類による水の浸透速度の違いに応じた周波数の経時変化例を示す図である。
図6】実施例1に係るセンサモデルを説明するための図であり、(a)は浮遊導体の平面図であり、(b)はコンデンサが形成された基板の平面図である。
図7】実施例1に係るセンサモデルを説明するための図であり、(a)はセンサモデルの概略断面図であり、(b)はセンサモデルの概略平面図である。
図8】(a)は比較例1に係るセンサモデルの周波数変化量を示し、(b)は実施例1に係るセンサモデルの周波数変化量を示す図である。
図9】周波数変化量を百分率で表した図であり、(a)は図8(a)に対応し、(b)は図8(b)に対応する図である。
図10】(a)は比較例2に係るセンサモデルの周波数変化量を示し、(b)は実施例2に係るセンサモデルの周波数変化量を示す図である。
図11】周波数変化量を百分率で表した図であり、(a)は図10(a)に対応し、(b)は図10(b)に対応する図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る非接触モニタリング装置の構成を示す図である。
図13】複数の微小浮遊導体を備える変形例に係るセンサ素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る非接触検出装置100は、図1に示すように、非接触センサ110及び制御部70を備える。非接触検出装置100は、例えば、土壌、セメント等の対象物9の状態を、非接触且つ非破壊で検出する。ここで、対象物9の状態とは、対象物9の誘電率及び導電率の少なくともいずれかに基づき特定可能な種々の状態を言い、誘電率及び導電率そのものを含むことは勿論、誘電率に応じて特定される水分量、密度及び多孔質化度、導電率に応じて特定されるイオン放出度及び腐食度などを含む。
【0015】
非接触センサ110は、センサ素子10と、振動子61を含む発振回路60とを備える。非接触センサ110は、いわゆる複素容量センサであり、フリンジ電界中に位置する対象物9の複素容量の変化に応じた振動子61の発振周波数の変化を出力する。
【0016】
センサ素子10は、基板20と、コンデンサ(キャパシタ)30と、誘電体40と、浮遊導体(非接地導体)50とを備える。基板20は、絶縁性を有し、例えばガラス基板などから構成される。センサ素子10は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスで作製される。なお、図1に示すセンサ素子10の概略断面図においては、見易さを考慮して基板20及び誘電体40の断面を示すハッチングを省略した。
【0017】
コンデンサ30は、基板20の主面21(図1では上方に向く面)上に設けられた第1電極31及び第2電極32を有する。図2に示すように、第1電極31及び第2電極32は、主面21上(つまり、同一平面上)において互いに間隔を空けて設けられる。このように、コンデンサ30を構成することで、第1電極31と第2電極32の間に生じる電界を面外方向、つまり、対象物9が位置する方向に広げることができる。なお、図2では、後述の開口部51の位置を仮想線で表した。
【0018】
この実施形態では、フリンジ電界を用いて局所的な検出が可能なように、第1電極31及び第2電極32を同心円状に形成した。具体的に、第1電極31は、円状に形成されている。第1電極31は、第1配線31aを介して振動子61と接続される。第2電極32は、第1電極31の周囲に設けられ、第1配線31aが通る箇所が切り欠かれた略リング状に形成されている。第2電極32は、第2配線32aを介して接地側と接続される。なお、第2電極32が接地側と接続されるとは、第2配線32aが接地端子に直接接続される態様だけでなく、第2電極32及び第2配線32aが予め定めた基準電位点と導通する任意の態様も含む。第1電極31、第1配線31a、第2電極32及び第2配線32aは、例えば、銅箔などの導電体を主面21にプリントすることで形成される。
【0019】
なお、図2の例では、第2電極32を一部が切り欠かれた略リング状に形成したが、第1配線31aを基板20に設けたスルーホールを通して主面21の裏面に至るように構成することで、第2電極32を完全なリング状に形成してもよい。
【0020】
図1に示す誘電体40は、プラスチック、セラミックス等の周知の誘電体からなり、板状に形成される。誘電体40は、コンデンサ30と浮遊導体50の間に位置する。誘電体40は、コンデンサ30で生じる電界を対象物9に誘導する。
【0021】
浮遊導体50は、コンデンサ30の厚さ方向(図1の上下方向)においてコンデンサ30と間隔を空けて位置する。コンデンサ30の厚さ方向とは、第1電極31及び第2電極32の厚さ方向であり、主面21の法線方向に相当する。浮遊導体50は、例えば、誘導体40の主面41(図1では上方に向く面)上に形成される。浮遊導体50は、例えば、銅箔などの導電体を主面41にプリントすることで形成される。
【0022】
浮遊導体50には、コンデンサ30と対応した位置に開口部(アパーチャ)51が設けられている。この実施形態の開口部51は、コンデンサ30の中心線30aを中心として円状に形成された貫通孔である。開口部51の孔径は、コンデンサ30を構成する第2電極32の外径よりも若干大きい。例えば、開口部51の孔径は、0.1~100mmの間で目的に応じて設定される。中心線30aは、円状の第1電極31の中心を通り、コンデンサ30の厚さ方向に延びる線である。
【0023】
浮遊導体50は、コンデンサ30から発生する電界を制御するために設けられる。浮遊導体50を設けない場合、電界が広がりすぎるが、浮遊導体50により、コンデンサ30との間に電界を集中させることができる。さらに、浮遊導体50に適切な形状及びサイズの開口部51を設けることで、対象物9における所望の測定範囲以外に電界が漏れ出ることを遮断できる。この効果の実証については後述する。
【0024】
発振回路60は、例えば、水晶振動子である振動子61を発振させる周知の構成である。発振回路60は、制御部70の制御により振動子61に電圧を印加し、振動子61を発振させる。また、発振回路60は、振動子61の発振周波数の変化を制御部70へ出力する。発振回路60は、例えば、コルピッツ型トランジスタ発振回路、クラップ型トランジスタ発振回路、ピアース型トランジスタ発振回路、ハートレー型トランジスタ発振回路、バトラー型トランジスタ発振回路、ゲート型インバーター発振回路などから構成することができる。
【0025】
制御部70は、例えば、マイクロコントローラを含んで構成され、内蔵のメモリに記憶しているプログラムを実行して発振回路60の動作を制御する。また、制御部70は、非接触センサ110からの出力に基づき、振動子61の発振周波数の変化を測定し、発振周波数の変化に基づき、対象物9の状態を評価する。
【0026】
ここで、対象物9の誘電率及び導電率の少なくともいずれかが変化すると、コンデンサ30上にある対象物9の複素容量が変化する。複素容量が変化すると、振動子61の発振周波数が変化する。この特性を用い、非接触検出装置100は、振動子61の発振周波数を測定することで、対象物9の状態を検出する。この検出原理について以下に説明する。
【0027】
複素容量は、フリンジ電界中に存在する対象物9の複素誘電率εの関数であり、下記(1)式で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、ε’は比誘電率、σは導電率、Fは周波数、εは真空の導電率である。これらの変化によって複素容量が変化すると、図3に示す、コンデンサ30及び振動子61から構成される回路の共振周波数が変化する。振動子61は、同図に示す等価回路として扱うことができる。図中、Rは等価直列抵抗、Lは等価直列インダクタンス、Cは等価直列容量、Cは等価並列容量、Cはコンデンサ30の複素容量である。共振周波数Fは、下記(2)式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
このとき、振動子61の等価回路中の成分C、Cは振動子61の固有値であり、一定である。Lは変数成分であるが、Cと比較して変化が微小なので、固有値と見做せる。これにより、共振周波数の変化量ΔFは、下記(3)式で表される。
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、CL1、CL2は、対象物9の測定前後の複素容量であり、ΔCは、ΔC=CL2-CL1である。
【0034】
対象物9の複素誘電率εを表す、上記(1)式のうち、実部である第1項は対象物9の比誘電率、つまり誘電性に関わり、高周波数側で支配的になる。一方、虚部である第2項は対象物9の誘電損失、つまり導電性に関わり、低周波数側で支配的になる。ここで、セメント硬化プロセスにおける周波数応答(共振周波数の変化)の経時変化例を図4(a)、(b)に示す。
図4(a)は、基本周波数(標準周波数)16MHzの振動子61を発振させた場合であり、約2時間経過後から、誘電率の低下に伴って周波数応答が変化する様子を表す。つまり、セメントの硬化に伴う、セメントの乾燥、多孔質化の状態の変化が周波数応答として表されていることが分かる。
図4(b)は、基本周波数2MHzの振動子61を発振させた場合であり、約2時間経過後から、導電率の増加に伴って周波数応答が変化する様子を表す。つまり、セメントの硬化に伴う、セメントの水和の進展の変化が周波数応答として表されていることが分かる。
【0035】
また、土壌の種類による水の浸透速度の違いを示す周波数の経時変化例を図5に示す。図中、αは腐葉土、βは黄土、γは黒土であり、約900秒の時点で各土壌に霧吹きで水を与えた。α、β、γの周波数変化量が急峻な箇所(α及びβでは約900秒直後、γでは約2700秒付近)は、マイクロな間隙に水が浸透していく状態(つまり、重力水の影響)に相当する。α、β、γの周波数変化量が緩やかな箇所(αでは約900秒経過後、βではαよりも若干の期間経過後、γでは約2700秒経過後)は、ミクロな間隙に水が浸透していく状態(つまり、毛細管水の影響)に相当する。
【0036】
図4図5に例示したように、対象物9の誘電率及び導電率の少なくともいずれかに応じて共振周波数が変化することが分かる。この特性を利用して、制御部70は、共振周波数の変化量に基づき、対象物9の状態を検出する。なお、共振周波数の変化に応じて、振動子61の発振周波数も変化する。したがって、共振周波数の変化を検出することと、振動子61の発振周波数の変化を検出することは同義である。制御部70は、例えば、予めメモリに格納された上記数式を示すデータを用い、共振周波数の変化から、誘電率及び導電率の少なくともいずれかを算出する。また、制御部70は、共振周波数の変化から、誘電率に応じて特定される対象物9の水分量、密度、多孔質化度などを検出してもよいし、導電率に応じて特定される対象物9のイオン放出度、腐食度などを検出してもよい。例えば、これら対象物9の状態と共振周波数の変化量とが対応付けられたテーブルデータ、数式のデータなどを予めメモリに格納しておき、制御部70は、測定した共振周波数の変化量と当該データに基づき、対象物9の状態を検出する。また、発振回路60に互いに基本周波数が異なる振動子61を複数設け、制御部70は、発振させる振動子61を切り替えることにより、対象物9の誘電率及び導電率のいずれかを測定するかを選択することが可能である。また、制御部70は、振動子61の発振を、基本周波数での発振と、オーバートーンでの発振とを切り替え、対象物9の誘電率及び導電率のいずれかを測定するかを選択してもよい。非接触検出装置100の説明は以上である。
【0037】
続いて、実施例1として、上記センサ素子10に浮遊導体50を設けたことによる効果を実証した実験を説明する。第1実施形態と同様の機能を有する構成については、第1実施形態と同じ符号を用いて説明する。
【0038】
(実施例1)
本願発明者らは、図6図7を用いて説明するセンサモデルを作成し実験を行った。図6(a)に示すように、センサモデルにおける浮遊導体50及び開口部51は、共に正方形状である。浮遊導体50の辺の長さ(図示m)は50mm、開口部51の辺の長さ(図示n)は16mmである。また、センサモデルのコンデンサ30を構成する第1電極31及び第2電極32を、図6(b)に示すように作成した。第1電極31をその1辺が7mmの正方形状とした。つまり、第1電極31のサイズは7×7mmである。第2電極32を、その外周が正方形状をなす枠状に形成した。第2電極32の外周を構成する辺の長さ(図示f)は14mmである。つまり、開口部51は、第2電極32の外形よりも若干大きい。また、開口部51の中心と、コンデンサ30の中心(つまり、第1電極31の中心)とが一致するようにセンサモデルを作成した。第2電極32の幅(図示h)は1.5mmである。
【0039】
図7(a)に示すように、センサモデルにおいて、コンデンサ30が形成された基板20と、浮遊導体50との間に位置する誘電体40の厚さ(図示t)は1mmである。そして、シリコーンにより形成した、複数のセル8を備える構造体(以下、シリコーン部)を浮遊導体50の上部に配置した。図7(b)に示すように、シリコーン部は、行列状に配列された9個のセル8を備える。なお、各セル8の面積は14×14mm、高さは1mm、底面の厚さは0.5mmである。また、シリコーン部における各セル8を、図7(b)に示すように、x~yの行と、1~3の列でナンバリングした。
【0040】
この実験では、上記実施形態と同様に、第1電極31に、基本周波数16MHzの水晶振動子である振動子61を配線で接続し、第2電極32を配線で接地側に接続した。これら配線は、図7(b)に模式的に示すように、x行2列目である(x,2)のセル8の下方を通るように設けた。また、比較例1として、実施例1に係るセンサモデルから、開口部51を設けた浮遊導体50を排除したモデルについても、同様の条件で実験を行った。Keysight Technologies社製の周波数カウンタを用いて、実施例1及び比較例1の各モデルからの周波数応答を測定した。
【0041】
実験手順は以下である。
(1)任意の1つのセル8に純水(0.5ml)を滴下する。
(2)純水滴下前後の周波数変化量を測定する。
(3)全てのセル8について測定が終わるまで、上記(1)、(2)を繰り返す。
【0042】
実験結果として、図8(a)に比較例1のセンサモデルの周波数変化量を示し、図8(b)に実施例1のセンサモデルの周波数変化量を示す。それぞれ、各セル8に純水を滴下した場合の周波数変化量を示している。また、図9(a)は図8(a)に対応し、図9(b)は図8(b)に対応する図であり、それぞれ、最大値を基準に周波数応答を百分率で示した図である。当然ながら、実施例1及び比較例1ともに、コンデンサ30が形成された位置に相当する(y,2)の箇所が最大値を示している。
【0043】
比較例1は、図9(a)に示すように、配線を設けた箇所に相当する(x,2)の箇所では、配線の影響により9.76%の応答が生じてしまっていることが分かる。なお、比較例1の周波数変化量の最大値は337Hzであった。
【0044】
一方、実施例1は、図9(b)に示すように、配線を設けた箇所に相当する(x,2)の箇所であっても、周波数の応答が0.14%である。このように、実施例1によれば、配線による影響を比較例1の数十分の一に、飛躍的に低減できることが分かる。さらに、実施例1によれば、(y,2)の箇所以外、つまり、開口部51以外の箇所での周波数応答を、開口部51の形成箇所に相当する(y,2)の箇所の応答の1000分の1以下に低減できていることが分かる。これにより、開口部51の箇所で、フリンジ電界が漏れ出ることをほぼ遮断できていることが分かる。なお、実施例1の周波数変化量の最大値は331Hzと、比較例1の最大値に比べて若干の低下が生じるものの、この低下は無視できるほど微小である。
【0045】
以上の実験結果により、上記実施形態に係るセンサ素子10は、検出に不要なフリンジ電界を効果的に抑制できることが分かる。つまり、浮遊導体50の開口部51を対象物9に向ければ、開口部51に応じた測定範囲で対象物9の状態を良好に測定できる。センサ素子10によれば、開口部51及びコンデンサ30のサイズ及び形状を調整することで測定対象が小さくても測定でき、電波帯の特徴である誘電性、導電性の両方の情報の可視化が可能となる。このセンサ素子10は、非破壊検査の対象となるほぼ全ての産業分野(セメント系材料、土壌、液体を扱う素材など)での利用が可能である。
【0046】
また、センサ素子10において、浮遊導体50及び誘電体40からなるユニットは、カメラに例えれば、交換可能なレンズのように機能し、開口部51が絞りのように機能する。したがって、浮遊導体50及び誘電体40からなるユニットを、開口部51の形状及びサイズなどが調整された他のユニットに交換することで、用途に応じた測定範囲のセンサ素子10を用意することができる。
【0047】
(実施例2)
続いて、コンデンサ30の極性の影響を調べるために、本願発明者らは、第1電極31を振動子61に接続し、第2電極32を接地側に接続した実施例2と、第1電極31を接地側に接続し、第2電極32を振動子61に接続した比較例2とを用いた実験を行った。この実験では、実施例2及び比較例2ともに浮遊導体50を設けないセンサモデルを用い、極性の違い以外は同一の条件で、上記実施例1と同様の手順により実験を行った。
【0048】
実験結果として、図10(a)に比較例2のセンサモデルの周波数変化量を示し、図10(b)に実施例2のセンサモデルの周波数変化量を示す。また、図11(a)は図10(a)に対応し、図11(b)は図10(b)に対応する図であり、それぞれ、中心にあるセル8(つまり、(y,2)の位置にあるセル8)に純水を滴下した場合に測定した応答を100%とした場合の、周波数応答を百分率で示した図である。これらの図から、比較例2では中心以外のセル8においても顕著な応答が生じている一方で、実施例2では、ほぼ中心のセル8においてのみ応答が生じていることが分かる。つまり、実施例1と同様に、開口部51を設けた浮遊導体50を、コンデンサ30の上方に配置した場合には、その開口部51に相当する箇所における応答を発生させることができる実施例2(つまり、第1電極31に振動子61を接続する態様)が優れていることが分かる。
【0049】
以上の実験結果により、第1電極31が振動子61と導通接続されたセンサ素子10によれば、開口部51の形成範囲に相当する箇所で十分な周波数の応答を得て、それ以外の箇所での周波数の応答をほぼ無くすことができることが分かる。
【0050】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る非接触モニタリング装置200は、図12に示すように、発振回路60と、制御部70と、撮像素子80と、表示部90とを備える。なお、第1実施形態と同様の機能を有する構成については、第1実施形態と同じ符号を用いて説明し、第1実施形態と異なる点を主に説明する。非接触モニタリング装置200は、対象物9の状態を、非接触且つ非破壊でモニタリングする装置である。
【0051】
撮像素子80は、複数の配列されたセンサ素子10を備えるセンサアレイであり、例えばセンサ素子10が行列状に配列されたものである。なお、「複数の配列されたセンサ素子10を備える」とは、各センサ素子10に対応してコンデンサ30及び開口部51が少なくとも設けられていることを示し、基板20、誘電体40及び浮遊導体50が各センサ素子10で別体であることに限定されない。基板20、誘電体40及び浮遊導体50は、センサアレイに共用の構成であってもよいことは勿論である。
【0052】
制御部70は、発振回路60を制御して、例えば、振動子61の導通先を各センサ素子10に選択的に切り替え、時分割で各センサ素子10に応じた周波数応答を取得する。そして、制御部70は、各センサ素子10に応じた周波数応答に基づき、センサ素子10毎に対象物9の状態(前述の水分量、密度、多孔質化度など)を特定する。当該特定手法は、第1実施形態と同様である。そして、制御部70は、対象物9の状態を示す値に応じた濃淡を有する画素からなる画像データを出力する。なお、各センサ素子10が画素に相当する。画像データは、対象物9の状態を示す状態画像9aを表示するためのデータである。前述の通り、対象物9の状態とは、対象物9の誘電率及び導電率の少なくともいずれかに基づき特定可能な種々の状態を示す。表示部90は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等から構成され、制御部70の制御の下で状態画像9aを表示する。
【0053】
以上に説明した撮像素子80によれば、MHz帯の電波を用いることができ、他の周波数帯では得ることが困難な、誘電性、導電性の複合的な情報の可視化技術を提供できる。また、撮像素子80は、検出に不要なフリンジ電界を抑制できるセンサ素子10を備えるため、対象物9の特定の状態に応じた画像の強調、亀裂の内部における進展状況などの時空間的分析に利用可能である。
【0054】
本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0055】
(変形例)
変形例として、センサ素子10は、図13に示すように、浮遊導体50の開口部51の中に位置する複数の微小浮遊導体52をさらに備えていてもよい。微小浮遊導体52は、開口部51の中において、複数配列されている。微小浮遊導体52は、その径がμmオーダー(例えば、数十μm~数百μm)の浮遊導体である。微小浮遊導体52は、例えば、銅箔などの導電体を誘電体40の主面41にプリントすることで形成される。一例として、微小浮遊導体52は、直径が150μmの円状に形成され、隣り合うもの同士が150μmの間隔を空けて配列される。そして、複数の微小浮遊導体52からなる集合は、平面視で(コンデンサ30の厚さ方向から見て)円状をなし、その集合の径は7mm程度に設定される。このように微小浮遊導体52を設けた箇所で面外への電界の広がりを抑制し、局所増感が可能であることは、本願発明者らの研究で明らかになっている。なお、微小浮遊導体52のサイズ、形状は、目的に応じて任意に変更可能である。
【0056】
以上に説明したセンサ素子10を構成する各部のサイズ(厚みも含む)、形状、材質は、上述の原理で対象物9の状態を検出できる限りにおいては、任意に変更可能である。例えば、浮遊導体50において、コンデンサ30と対応した位置に開口部51が設けられるとは、コンデンサ30の厚さ方向から見て、少なくともコンデンサ30の中央部が開口部51の中に位置するように開口部51が設けられることを指す。
【0057】
以上では、第1電極31及び第2電極32を同一平面上に設けた例を示したが、上述の原理で対象物9の状態を検出できる限りにおいては、第1電極31及び第2電極32は同一曲面上に設けられていてもよい。つまり、第1電極31及び第2電極32は、同一面上において互いに間隔を空けて設けられていればよい。また、以上では、コンデンサ30が振動子61と直列接続の関係にある例を示したが、コンデンサ30は振動子61と並列接続の関係で設けられてもよい。つまり、センサ素子10のコンデンサ30は、振動子61と電気的に接続されていればよく、上述の原理で対象物9の状態を検出できる限りにおいては、コンデンサ30と振動子61の接続態様は任意に変更可能である。
【0058】
以上では、誘電体40をコンデンサ30と浮遊導体50の間に設けた例を示したが、誘電体40を設けなくともよい。例えば、センサ素子10において、コンデンサ30と間隔を空けた位置に浮遊導体50が支持され、コンデンサ30と浮遊導体50の間に空気層が生じる構成を採用してもよい。
【0059】
振動子61の種類は限定されない。振動子61として、ATカット水晶振動子、SCカット水晶振動子、SAW(Surface Acoustic Wave)振動子などを目的に応じて採用できる。
【0060】
対象物9は、土壌、セメント等に限定されず、誘電率及び導電率の少なくともいずれかに応じて状態が特定可能な物であれば任意である。
【0061】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【0062】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0063】
100…非接触検出装置、110…非接触センサ
10…センサ素子
20…基板、21…主面
30…コンデンサ、30a…中心線
31…第1電極、31a…第1配線、32…第2電極、32a…第2配線
40…誘電体、41…主面
50…浮遊導体、51…開口部、52…微小浮遊導体
60…発振回路、61…振動子
70…制御部
200…非接触モニタリング装置、80…撮像素子、90…表示部
8…セル、9…対象物、9a…状態画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13