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特開2023-6364C/Cコンポジット及びSi単結晶引き上げ炉用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006364
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】C/Cコンポジット及びSi単結晶引き上げ炉用部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/83 20060101AFI20230111BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20230111BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230111BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20230111BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20230111BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C04B35/83
D01F9/12
C01B32/05
C01B33/02 Z
C04B35/52
C30B29/06 502B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108925
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平賀 俊作
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 信吾
(72)【発明者】
【氏名】町野 洋
【テーマコード(参考)】
4G072
4G077
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB11
4G072GG04
4G072HH01
4G072NN03
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG02
4G077HA12
4G077PD01
4G146AA19
4G146AB05
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC11A
4G146AC11B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD11
4G146AD36
4G146BA01
4G146BA18
4G146BA22
4G146BA23
4G146BA40
4G146BA42
4G146BA46
4G146BB04
4G146BB05
4G146BB06
4G146BB10
4G146BB16
4G146BB18
4G146BC03
4G146BC07
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BC34B
4G146CA08
4G146CA09
4G146CA10
4G146CA17
4G146CB07
4L037CS03
4L037FA02
4L037FA12
(57)【要約】
【課題】SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減することができる、C/Cコンポジットを提供する。
【解決手段】炭素繊維を含む、C/Cコンポジットであって、X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下であり、かさ密度が、1.70g/cm以上、2.00g/cm以下である、C/Cコンポジット。
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を含む、C/Cコンポジットであって、
X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下であり、
かさ密度が、1.70g/cm以上、2.00g/cm以下である、C/Cコンポジット。
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)
【請求項2】
真密度が、2.05g/cm以上、2.20g/cm以下である、請求項1に記載のC/Cコンポジット。
【請求項3】
開気孔率が、16.5%以下である、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット。
【請求項4】
前記炭素繊維の真密度が、2.00g/cm以上、2.20g/cm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項5】
前記炭素繊維が、長さ1mm以上、50mm以下の短繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項6】
フィラメントワインディング成形法により成形された成形体により構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のC/Cコンポジットを含む、Si単結晶引き上げ炉用部材。
【請求項8】
前記C/Cコンポジットにより構成されている、ルツボである、請求項7に記載のSi単結晶引き上げ炉用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/Cコンポジットに関する。また、本発明は、上記C/Cコンポジットを用いたSi単結晶引き上げ炉用部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造には、シリコン(Si)をその内部で溶融するための石英ルツボと、これを収容して外部から支持するためのカーボン製ルツボが用いられている。石英ルツボは、使用中にシリコンの溶融熱を受けて軟化し、その外表面がルツボ内面に密着した状態となる。この状態のまま冷却すると、石英ルツボより熱膨張係数が大きなカーボン製ルツボには、大きな応力が発生する。
【0003】
そこで、このような応力に耐え得る機械的強度を有し、しかも大型化に対応しやすい炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)でSi単結晶引き上げ炉用ルツボを製造することが提案されている。C/Cコンポジットは、ハンドリング性がよく、軽量であり、割れ欠けも起こりにくい。特に、C/Cコンポジット製Si単結晶引き上げ炉用部材は、ロングライフ、安全操業、軽量、省エネルギー等の特徴を有するため、注目を集めている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、熱分解炭素が表面部に形成されたC/Cコンポジット製の単結晶引き上げ用ルツボが開示されている。また、下記の特許文献2には、シリンダ状の胴部だけでなく、ボウル状の底部もフィラメントワインディング法で強化されたC/Cコンポジット製の単結晶引き上げ用ルツボが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-219592号公報
【特許文献2】特開2007-297276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、Si単結晶引き上げ炉内は、約1500℃もの高温であり、しかもSi蒸気やSiOガスを含む雰囲気であることから、Si単結晶引き上げ炉用部材として用いられるカーボンには、非常に過酷な環境である。このような環境下で、カーボン部材が使用さると、SiOガスによりカーボンがガス化して減肉したり、SiC化により体積変化して機械的強度が低下したりすることがある。
【0007】
このようなSiOガスによる劣化を低減するために、特許文献1や特許文献2では、C/Cコンポジットの表面部に熱分解炭素を被覆させている。しかしながら、特許文献1や特許文献2のC/Cコンポジットのように、表面部に熱分解炭素を被覆させるだけでは、十分にSiOガスのようなガスとの反応性を低減させることが難しいという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減することができる、C/Cコンポジット及び該C/Cコンポジットを用いたSi単結晶引き上げ炉用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るC/Cコンポジットは、炭素繊維を含む、C/Cコンポジットであって、X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下であり、かさ密度が、1.70g/cm以上、2.00g/cm以下であることを特徴としている。
【0010】
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)
【0011】
本発明においては、前記C/Cコンポジットの真密度が、2.05g/cm以上、2.20g/cm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記C/Cコンポジットの開気孔率が、16.5%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記炭素繊維の真密度が、2.00g/cm以上、2.20g/cm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記炭素繊維が、長さ1mm以上、50mm以下の短繊維であってもよい。
【0015】
本発明においては、前記C/Cコンポジットが、フィラメントワインディング成形法により成形された成形体より得られるC/Cコンポジットによって構成されていてもよい。
【0016】
本発明に係るSi単結晶引き上げ炉用部材は、本発明に従って構成されるC/Cコンポジットを含む。
【0017】
本発明においては、前記Si単結晶引き上げ炉用部材が、前記C/Cコンポジットにより構成されている、ルツボであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減することができる、C/Cコンポジット及び該C/Cコンポジットを用いたSi単結晶引き上げ炉用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、C/CコンポジットのX線回折スペクトルにおける002面の回折ピークの一例を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るSi単結晶引き上げ炉用部材を示す模式的正面断面図である。
図3図3は、実施例1のC/Cコンポジットにおける002面のX線回折スペクトルである。
図4図4は、実施例4のC/Cコンポジットにおける002面のX線回折スペクトルである。
図5図5は、比較例1のC/Cコンポジットにおける002面のX線回折スペクトルである。
図6図6は、比較例2のC/Cコンポジットにおける002面のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
(C/Cコンポジット)
本発明のC/Cコンポジットは、炭素繊維強化炭素複合材料である。上記C/Cコンポジットは、炭素繊維を含む。上記C/CコンポジットのX線回折スペクトルにおける002面の回折ピークにおいて、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下である。また、上記C/Cコンポジットのかさ密度が、1.70g/cm以上、2.00g/cm以下である。
【0022】
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)
【0023】
なお、上記式(1)におけるd0、d1、及びd2は、図1を参照して、以下のように説明することができる。
【0024】
図1は、C/CコンポジットのX線回折スペクトルにおける002面の回折ピークの一例を示す図である。
【0025】
図1に示すように、C/CコンポジットのX線回折スペクトルにおけるグラファイト002面(以下、グラファイト省略)の回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θが、d0である。ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側のピーク位置の2θが、d1である。また、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側のピーク位置の2θが、d2である。
【0026】
本発明のC/Cコンポジットは、上記非対称性パラメータP及びかさ密度が、上記範囲内にあるので、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減することができる。以下、この点について、詳細に説明する。
【0027】
単結晶引き上げ炉用部材に炭素製部材を使用する際には、耐SiOガス性が重要な特性となる。その際、反応性を低減させるには部材の表面積を低減させることが重要であり、そのためには、気孔率を低下させることが有効である。
【0028】
また、真密度の高い炭素製部材は、黒鉛化度が高い傾向があり、結晶構造的に反応の開始点となる黒鉛結晶のエッジ部分が少ないため、SiOガスとの反応性を低下させることができる。
【0029】
炭素製部材であるC/Cコンポジットは、樹脂やピッチなどを出発原料とする炭素マトリクスと、炭素繊維とにより構成されている。このようなC/Cコンポジットの黒鉛化度を測定するためには、X線回折法(XRD)を用いることができ、回折線の位置、半値幅などから格子定数C0や結晶子の大きさLcを算出し、黒鉛化度を定量的に評価することができる。特に、002回折線を用いたC0(002)やLc(002)は、黒鉛化度の低いサンプルにおいても測定が可能であり、C/Cコンポジットの測定には、特に適している。
【0030】
X線回折法(XRD)によりC/Cコンポジットの分析を行うと、樹脂やピッチなどを出発原料とする炭素マトリクスと、炭素繊維との複合プロファイルを示すことになる。
【0031】
炭素繊維は、炭素マトリクスより黒鉛化度が低いことが多いため、XRDにおいて炭素繊維のピークは、炭素マトリクスのピークより低角度側に位置することが多い。このことから、複合プロファイルは、低角度側にテーリングした非対称のピークとなることが多い。
【0032】
例えば、学振法により規定された方法によって得られた複合プロファイルからC0(002)やLc(002)を求める場合、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク幅の中央の角度や、ピーク高さの1/2の高さにおけるピーク幅(半値幅)をもとにC0(002)やLc(002)が算出される。従って、低角度側に大きくテーリングしたピークを示すサンプルの場合、炭素マトリクスの影響を強く受けた値が算出されることがあり、この値は、炭素繊維と炭素マトリクス全体の平均的な黒鉛化度の尺度としては、不適当なものとなってしまうことがある。
【0033】
本発明者らは、鋭意検討の結果、大きく低角度側にテーリングした複合プロファイルをもつC/Cコンポジットにおいても、炭素繊維及び炭素マトリクスの平均的な黒鉛化度と相関性の高い非対称性パラメータPが得られることを見出した。なお、非対称性パラメータPは、上述したように、ピーク高さの2/3の高さにおいて幅方向中心の2θをピーク中心位置としたとき、プロファイルのピーク高さの1/3の位置の高さにおいて、ピーク中心位置の角度から低角度側のピーク幅と高角度側のピーク幅との比から求められるものである。
【0034】
そして、本発明者らは、非対称性パラメータPとC/Cコンポジットの特性の相関を検討したこところ、非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下と非対称性が小さいC/Cコンポジットは、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減し得ることを見出した。
【0035】
また、本発明者らは、C/Cコンポジットのかさ密度に着目し、C/Cコンポジットのかさ密度を、1.70g/cm以上、2.00g/cm以下とすることにより、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減し得ることを見出した。
【0036】
本発明のC/Cコンポジットは、Si単結晶引き上げ炉内におけるSiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減することができるので、Si単結晶引き上げ炉用部材に好適に用いることができ、Si単結晶引き上げ炉用ルツボに特に好適に用いることができる。
【0037】
本発明においては、C/Cコンポジットの上記非対称性パラメータPが、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.2以上、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下である。C/Cコンポジットの上記非対称性パラメータPが、上記範囲内にある場合、SiOガスのようなガスとの反応性をより一層効果的に低減することができる。
【0038】
なお、C/Cコンポジットの上記非対称性パラメータPは、炭素繊維としてメソフェーズピッチ系炭素繊維を用いたり、あらかじめ高温で処理した炭素繊維を用いたりすることにより小さくすることができる。
【0039】
緻密化物質としては、特に限定されず、CVI処理由来の炭素、ピッチ、熱硬化性樹脂由来の炭素質物質、金属ケイ素や炭化ケイ素などを用いることができる。なお、これらは、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
なお、C/CコンポジットのX線回折法による測定は、広角X線回折法によりCuKα線(波長1.541Å)を用いて測定することができる。X線回折測定装置としては、例えば、リガク社製、品番「SmartLab」を用いることができる。
【0041】
本発明において、C/Cコンポジットのかさ密度は、好ましくは1.70g/cm以上、より好ましくは1.80g/cm以上、好ましくは2.00g/cm以下、より好ましくは1.90g/cm以下である。C/Cコンポジットのかさ密度が、上記範囲内にある場合、SiOガスのようなガスとの反応性をより一層効果的に低減することができる。
【0042】
なお、C/Cコンポジットのかさ密度は、例えば、測定対象となるC/Cコンポジットを直方体に機械的に加工した後、寸法と質量を測定することにより算出することができる。
【0043】
また、C/Cコンポジットのかさ密度は、炭素繊維としてメソフェーズピッチ系炭素繊維を用いたり、後述の製造方法において、緻密化工程を行ったり、熱処理温度を高くしたり、熱処理時間を長くしたりして高めることができる。
【0044】
本発明において、C/Cコンポジットの真密度は、好ましくは2.05g/cm以上、より好ましくは2.07g/cm以上であり、好ましくは2.20g/cm以下、より好ましくは2.18g/cm以下である。C/Cコンポジットの真密度が上記範囲内にある場合、SiOガスのようなガスとの反応性をより一層効果的に低減することができる。
【0045】
なお、C/Cコンポジットの真密度は、例えば、測定対象となるC/Cコンポジットを粉砕した後に、ブタノールを用いた液相浸漬法により測定することができる。
【0046】
本発明において、C/Cコンポジットの開気孔率は、好ましくは16.5%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは14.0%以下である。C/Cコンポジットの開気孔率が、上記上限値以下である場合、SiOガスのようなガスとの反応性をより一層効果的に低減することができる。なお、C/Cコンポジットの開気孔率の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1%とすることができる。
【0047】
なお、C/Cコンポジットの開気孔率は、例えば、以下のようにして求めることができる。まず、測定対象となるC/Cコンポジットを5mm角に切断し、水銀ポロシメトリー用サンプルを得る。得られたサンプルを、水銀ポロシメーターにより累積細孔容積を測定し、細孔半径68.7μm~0.0074μmの累積細孔容積より全開気孔容積を得、それとかさ密度より開気孔率を算出する。
【0048】
本発明において、C/Cコンポジットを構成する炭素繊維としては、特に限定されず、ピッチ系炭素繊維や、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)を用いることができる。PAN系炭素繊維を用いた場合、機械的強度をより一層高めることができる。もっとも、炭素網面の配向性に優れ、真密度をより一層高め得る観点から、メソフェーズピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。メソフェーズピッチ系炭素繊維は、反応の起点となるエッジ部の露出が少ないため、化学的安定性により一層優れている。そのため、SiOガスのようなガスとの反応性をより一層効果的に低減することができる。また、メソフェーズピッチ系炭素繊維を用いた場合、熱伝導性をより一層高めることもできる。
【0049】
本発明において、C/Cコンポジットを構成する炭素繊維は、短繊維であってもよい。この場合、成形の手段として、短繊維に樹脂を含浸し、シート状のプリプレグ(シートモールディングコンパウンド、以下SMCと略)を得て、該SMCをメスの金型内に敷設し、その後オスの金型を挿入、加圧、加温する方法を用いても良い。炭素繊維の長さは、好ましくは1mm以上、より好ましくは6mm以上であり、さらに好ましくは13mm以上であり、好ましくは50mm以下、より好ましくは25mm以下である。また、炭素繊維の繊維径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは12μm以下である。炭素繊維がこのような短繊維である場合、繊維の流動を伴った成形性と機械的特性により優れたC/Cコンポジットを得ることができる。
【0050】
なお、炭素繊維の長さや繊維径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した20個の炭素繊維の平均値より求めることができる。
【0051】
本発明において、C/Cコンポジットを構成する炭素繊維の真密度は、好ましくは2.00g/cm以上、より好ましくは2.07g/cm以上、好ましくは2.20g/cm以下、より好ましくは2.18g/cm以下である。炭素繊維の真密度が上記範囲内にある場合、SiOガスのようなガスとの反応性をより一層効果的に低減することができる。
【0052】
(C/Cコンポジットの製造方法)
本発明のC/Cコンポジットは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0053】
まず、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ、成形することにより、成形体を得る。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等を用いることができる。
【0054】
成形体の形成方法としては、特に限定されないが、フィラメントワインディング成形法により、熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維をマンドレルに巻き付けて成形する方法が挙げられる。例えば、後述するSi単結晶引き上げ炉用ルツボを製造する場合は、ルツボ状のマンドレルに熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維を巻き付けて成形することにより、成形体を形成することができる。
【0055】
また、炭素繊維を所定の長さに切断し、熱硬化性樹脂を含浸させることにより得られたSMCを金型成形することにより、ルツボ状等の形状を有する成形体を得てもよい。
【0056】
次に、成形体を焼成することにより、熱硬化性樹脂を炭化させ、C/Cコンポジットを得ることができる。
【0057】
焼成工程は、通常製造中のC/Cコンポジットの酸化を防ぐために窒素ガス雰囲気下などの非酸化雰囲気下で行うことが望ましい。
【0058】
焼成温度は、特に限定されないが、例えば、700℃以上、1300℃以下とすることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、最高温度保持時間を30分以上、600分以下とすることができる。
【0059】
また、さらに高密度のC/Cコンポジットを得るためにピッチ含浸/焼成を繰り返し行ってもよい。ピッチ含浸/焼成工程は、例えば、1回以上、10回以下の回数を繰り返し行うことができる。
【0060】
本発明においては、C/Cコンポジットにおける開気孔の少なくとも一部を緻密化する、緻密化工程をさらに備えていてもよい。この場合、C/Cコンポジットの開気孔率をより一層小さくすることができ、密度をより一層高めることができる。
【0061】
緻密化工程としては、例えば、C/Cコンポジットの開気孔にピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸させ、炭素化する工程を用いることができる。
【0062】
緻密化工程は、CVI処理を施す工程であってもよい。
【0063】
緻密化工程は、C/Cコンポジットの開気孔に溶融シリコンを含浸させ、炭化ケイ素化する工程であってもよい。
【0064】
これらの緻密化工程は、単独で用いてもよく、複数の工程を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
(Si単結晶引き上げ炉用部材)
図2は、本発明の一実施形態に係るSi単結晶引き上げ炉用部材を示す模式的正面断面図である。
【0066】
図2に示すSi単結晶引き上げ炉用部材1は、上述した本発明のC/Cコンポジットにより構成されている、ルツボである。Si単結晶引き上げ炉用部材1は、直胴部2と、底部3とを備える。直胴部2の形状は、特に限定されないが、本実施形態では、略円筒形状である。底部3の形状は、特に限定されないが、本実施形態では、略半球状である。本実施形態では、直胴部2及び底部3の双方が、C/Cコンポジットにより構成されている。
【0067】
このようなSi単結晶引き上げ炉用部材1は、フィラメントワインディング成形法により、ルツボ状のマンドレルに熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維を巻き付けて成形したルツボ状の成形体を用いてC/Cコンポジットを製造することにより得ることができる。
【0068】
また、Si単結晶引き上げ炉用部材1は、SMCを金型成形したルツボ状の成形体を用いてC/Cコンポジットを製造することにより得てもよい。
【0069】
なお、Si単結晶引き上げ炉用部材1の肉厚は、例えば、5mm以上、30mm以下とすることができる。
【0070】
本実施形態のSi単結晶引き上げ炉用部材1は、上述した本発明のC/Cコンポジットにより構成されているので、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減することができる。そのため、Si単結晶引き上げ炉用部材1は、SiOガスによりカーボンがガス化して減肉したり、SiC化により体積変化して機械的強度が低下したりするという問題が生じ難く、信頼性に優れている。
【0071】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
真密度が2.07g/cm、弾性率が640GPaであるメソフェーズピッチ系炭素繊維を用い、フィラメントワインディング(FW)成形法で成形することにより、ルツボ成形体を得た。具体的には、準備した炭素繊維からなるフィラメント数12,000本のトウを所定本数引き揃え、未硬化のフェノール樹脂を含浸させた後、直径800mmの円筒形状の直胴部と半球状底部とを有するマンドレルに巻き付け、内径800mm、直胴部高さ500mm、直胴部肉厚10mmのルツボ成形体を得た。
【0073】
次に、得られたルツボ成形体を200℃に昇温して、1日間保持し、フェノール樹脂を硬化させた。フェノール樹脂を硬化させたルツボ成形体を、窒素雰囲気中、1000℃の温度で3時間処理して、フェノール樹脂を炭素化し、焼成体を得た。
【0074】
さらに、焼成体に100℃のピッチを含浸させ、窒素雰囲気中1000℃で、1時間保持し焼成する処理を2回行った。続いて、真空炉中で2000℃、3時間保持の熱処理を行い、C/Cコンポジット素材を得た。
【0075】
次に、得られたC/Cコンポジット素材を所定の形状に機械加工し、その後、化学的気相浸透法(CVI法)により、CHガスを原料ガスとし、温度2000℃、圧力3.3kPaの条件で、100時間保持することにより熱分解炭素を沈積せしめた。その後、高純度化するために、塩素ガス気流中、温度2000℃、圧力1.3kPaの条件で、20時間保持することにより不純物を取り除き、C/Cコンポジット製ルツボを得た。
【0076】
得られたルツボのかさ密度は、1.82g/cm、真密度2.10g/cm、開気孔率は12.3%であった。
【0077】
なお、かさ密度は、直方体に機械的に加工した後、寸法と質量を測定することにより算出した。また、真密度は、測定対象となるC/Cコンポジットを粉砕した後に、ブタノールを用いた液相浸漬法により測定した。さらに、開気孔率は、以下のようにして測定した。まず、得られたC/Cコンポジットを5mm角に切断し、水銀ポロシメトリー用サンプルを得た。
【0078】
得られたサンプルを、水銀ポロシメーター(Micromeritics社製、品番:「AutoPore IV 9500」)により累積細孔容積を測定し、細孔半径68.7μm~0.0074μmの累積細孔容積より全開気孔容積を得、それとかさ密度より開気孔率を算出した。
【0079】
(実施例2)
真空炉中での熱処理時の温度を2500℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてC/Cコンポジット製ルツボを得た。得られたC/Cコンポジット製ルツボについて、実施例1と同様にしてかさ密度、真密度及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.82g/cmで、真密度は2.18g/cmであり、開気孔率は、13.6%であった。
【0080】
(実施例3)
ピッチの含浸回数(ピッチを含浸させ、窒素雰囲気中1000℃で、1時間保持し焼成する処理をする回数)を1回としたこと以外は、実施例1と同様にしてC/Cコンポジット製ルツボを得た。また、得られたC/Cコンポジット製ルツボについて、実施例1と同様にしてかさ密度、真密度及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.70g/cm、真密度2.05g/cmであり、開気孔率は、15.3%であった。
【0081】
(実施例4)
真空炉中での熱処理時の温度を2800℃としたこと以外は、実施例3と同様にしてC/Cコンポジット製ルツボを得た。また、得られたC/Cコンポジット製ルツボについて、実施例1と同様にしてかさ密度、真密度、及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.75g/cmで、真密度は2.16g/cmであり、開気孔率は、16.5%であった。
【0082】
(実施例5)
実施例1と同様にして準備した炭素繊維を所定の長さに切断し、フェノール樹脂を含浸させることにより、SMCを得て、金型成形することによりルツボ成形体を得た。より具体的には、長さを25mmに切りそろえた炭素繊維をバット内においてランダムな方向に敷き詰め、レゾールタイプのフェノール樹脂を注ぎ、100℃乾燥機内で溶媒を揮発させることにより揮発分を5%に調整し、厚さ1mmのシート状のSMCを得た。得られたSMCを雄型の金型と雌型の金型の間に敷き詰め、160℃に加熱後、30kg/cmの圧力を加え、2時間保持して、冷却した後脱型し、内径800mm、直胴部高さ500mm、直胴部肉厚10mmのルツボ成形体を得た。その他の点は、実施例1と同様にして、C/Cコンポジット製ルツボを得た。また、得られたC/Cコンポジット製ルツボについて、実施例1と同様にして、かさ密度、真密度、及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.80g/cmで、真密度は2.10g/cmであり、開気孔率は、13.0%であった。
【0083】
(比較例1)
真密度が1.74g/cm、弾性率が240GPaであるPAN系炭素繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてC/Cコンポジット製ルツボを得た。また、得られたC/Cコンポジット製ルツボについて、実施例1と同様にしてかさ密度、真密度及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.58g/cmで、真密度は1.93g/cmであり、開気孔率は、17.0%であった。
【0084】
(比較例2)
ピッチ含浸回数を1回とし、真空炉中での熱処理時の温度を2800℃としたこと以外は、比較例1と同様にしてC/Cコンポジット製ルツボを得た。また、得られたC/Cコンポジット製ルツボについて、実施例1と同様にしてかさ密度、真密度及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.46g/cmで、真密度は2.02g/cmであり、開気孔率は、25.6%であった。
【0085】
(参考例)
等方性黒鉛(東洋炭素社製、品番「IG-56」)を高純度化処理し用いた。なお、実施例1と同様にしてかさ密度、真密度及び開気孔率を測定したところ、かさ密度は、1.81g/cm、真密度は2.18g/cmであり、開気孔率は15.0%であった。
【0086】
[評価]
(X線回折)
C/CコンポジットのX線回折法による測定は、広角X線回折法によりCuKα線(波長1.541Å)を用いて測定した。X線回折測定装置としては、リガク社製、品番「SmartLab」を用いた。
【0087】
図3図6は、実施例1、実施例4、比較例1、及び比較例2のC/Cコンポジットにおける002面のX線回折スペクトルである。なお、図3が実施例1の結果であり、図4が実施例4の結果であり、図5が比較例1の結果であり、図6が比較例2の結果である。図3図6より、実施例1,4では、比較例1,2と比較して、非対称性が低められていることがわかる。
【0088】
また、002回折線から得られる格子定数C0(002)及び結晶子サイズLc(002)は改訂学振法(JIS R7651:2007)に準じて測定を行った。なお、本法によれば、ベースラインは2θ=29°を基準とし、ピーク位置はピーク高さの2/3において中心の角度をピーク角度としている。
【0089】
また、実施例1~5及び比較例1~2のC/Cコンポジット、並びに参考例の等方性黒鉛において、ピーク高さの1/3での非対称性を表す非対称性パラメータPについては、ピーク高さの2/3の中央の角度2θをd0、ピーク高さ1/3の低角度側の角度2θをd1、ピーク高さの1/3の高角度側の角度2θをd2としたとき、ピーク高さ1/3での非対称性パラメータPを下記式(1)により算出した。
【0090】
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)
【0091】
結果を下記の表1に示す。
【0092】
(相対SiC化率)
実施例1~5及び比較例1~2のC/Cコンポジット製ルツボ、並びに参考例の等方性黒鉛製ルツボについて、SiC化率を測定した。具体的には、温度1800℃、圧力13kPaにおいて、SiOとカーボンを加熱して、SiOガス発生させ、同条件下で10時間保持することにより試験片とSiOガスとを反応させ、質量変化率より、カーボンのSiC化率を測定した。得られたSiC化率を下記の表1に示した。なお、表1においては、比較例1のSiC化率を100%とした相対SiC化率を示している。
【0093】
【表1】
【符号の説明】
【0094】
1…Si単結晶引き上げ炉用部材
2…直胴部
3…底部
4…中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6